説明

ロック・アンロック装置

【課題】 慣性や自重によりロックが変位することを防止でき、同一形状のロックで様々なピン軌跡に対応できるロック・アンロック装置の提供。
【解決手段】 (1)(a)係止部21aを備えるハート形状部21と、ハート形状部21との間に係止部21aへの入口側カム通路23と係止部21aからの出口側カム通路24を形成するカム通路形成部22を備えるロック20と、(b)ロック20に係脱可能なピンと、を有し、ロック20の、ハート形状部21とカム通路形成部22は、ロック20の周方向に複数設けられている、ロック・アンロック装置10。(2) 隣接しあうハート形状部21間にピン30のロック20への出入り口25が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カムとピンを備えるロック・アンロック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、従来ロック・アンロック装置1を備えた車両用収納装置を示している。
車両用収納装置は、収納装置本体4と、ドア5と、収納装置本体4に揺動可能に取付けられるロック(ハートカム)2と、ドア5に設けられロック2に係脱可能なピン3を、有する。ロック2は、図7に示すように、ハート形状部に設けられる姿勢制御部2aと、ハート形状部の周囲に設けられる姿勢制御部2bを有する。
図6に示すように、ドア5が閉状態(図6の実線状態)のとき、ピン3はロック2に係合しており、ドア5は、開かない。
閉状態にあるドア5をプッシュすると、ピン3はロック2に対して移動する。プッシュしている荷重を除くと、図示略のドア付勢スプリングの付勢力によりドア5が開方向に回動し、ピン3がロック2から抜ける方向に移動し、ドア5が開く。
開状態(図6の2点鎖線状態)にあるドア5を閉方向に回動させると、ピン3がロック2の奥側に移動する。ドア5を閉方向にプッシュしている荷重を除くと、ドア5がドア付勢スプリングの付勢力により開方向に回動し、ピン3がロック2に係合する。
【0003】
しかし、従来のロック・アンロック装置1には、次の問題点がある。
図7に示すように、ロック2の揺動中心2cと重心2dの位置が異なるため、慣性、あるいはロック2の自重により、ロック2が変位してしまい、誤作動の原因となるおそれがある。
また、次の問題点もある。以下、問題点を、図7〜図10を参照して、説明する。
図7に示すロック2は、ピン3が半径36mmの回転軌跡を描く場合に使用されるものである。このロック2をピン軌跡の違う場合(今回は、直線軌跡、半径18mmの軌跡)にも使用できることが望ましい。
ロック2では、図7に示すロック作動範囲(縦)の部位にピン3が進入してきたとき、2点鎖線で示す軌跡をピン3が動かないと、ロック・アンロック装置1が正常に働かない。そこで、ピン3の軌跡の違う場合でも、ロック作動範囲(縦)内ではR36の軌跡に近い動きをするようにしなければならない。そのために、ロック作動範囲(縦)の中心線または中心線に近い線L上でR36の軌跡と重なる(距離、傾きが等しくなる)ように、違う軌跡(直線あるいはR18の軌跡)を配置する(図8)。図9に示すように、重なり合う点から離れるほど(図9のxの値が大きくなるほど)、R36との間の距離、R36に対する角度がずれる(δ、θの値が大きくなる)。
このように配置した場合、直線軌跡でもR18の軌跡でも、R36の場合のロック2のそのままの形状ではピン3がハート形状部の周囲の姿勢制御部2bに干渉しロック2に係合できない。R36のロック2を直線軌跡、R18の軌跡にも使えるようにするには、姿勢制御部2bの形状を図10のようにしなければならない。図10に示す形状にすることにより、ロック2は、ピン3の軌跡がR18から直線の範囲で使用可能である。
しかし、姿勢制御部2bの形状を変えると、R18の軌跡で使用したときは点Aで、直線軌跡で使用した場合は点Bでピン3のロック2への当り角度が大きくなる。その結果、作動時に大きな抵抗を感じる。これは、点A、Bが線Lから遠いためにおきる。
【特許文献1】特開2002−213135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする第1の問題点は、ロックが慣性や自重により変位してしまうことである。
本発明が解決しようとする第2の問題点は、ロック形状がピンの軌跡に依存し、ロックを他のピン軌跡に用いることが困難なことである。
本発明の第1の目的は、慣性や自重によりロックが変位することを防止できる、ロック・アンロック装置を提供することにある。
本発明の第2の目的は、同一形状のロックで様々なピン軌跡に対応できるロック・アンロック装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明はつぎの通りである。
(1) (a)係止部を備えるハート形状部と、該ハート形状部との間に前記係止部への入口側カム通路と前記係止部からの出口側カム通路を形成するカム通路形成部を備えるロックと、
(b)前記ロックに係脱可能なピンと、
を有し、
前記ロックの、前記ハート形状部と前記カム通路形成部は、前記ロックの周方向に複数設けられている、ロック・アンロック装置。
(2) 隣接しあう前記ハート形状部間に前記ピンの前記ロックへの出入り口が設けられている(1)記載のロック・アンロック装置。
【発明の効果】
【0006】
上記(1)のロック・アンロック装置では、ハート形状部とカム通路形成部が周方向に複数設けられているので、ハート形状部とカム通路形成部をロックの全周にわたって配置することにより、ロックの作動範囲を360°にしてロックの回転中心上にロック重心を配置することができる。したがって、ロック回転中心上にロック重心を配置することにより、慣性や自重でロックが変位することを防止できる。
また、ハート形状部とカム通路形成部が周方向に複数設けられているので、次に正常にロック・アンロック装置が作動するために、隣のハート形状部とカム通路形成部との間の入口側カム通路の入口までピンを戻せばよく、ピンが入ってきた元の入口側カム通路の入口までピンを戻す必要はない。そのため、従来必要であったハート形状部の周囲の姿勢制御部(図7の姿勢制御部2b)は不要になる。その結果、(図10の線LからA点およびB点までの距離が短くなるため)同一形状のロックでさまざまなピン軌跡に対応可能になる。
上記(2)のロック・アンロック装置では、隣接しあうハート形状部間にピンのロックへの出入り口が設けられているので、ロックの出口と次の入口を重ねることができる。そのため、隣のハート形状部とカム通路形成部との間の入口側通路の入口までピンを戻せばよく、ピンが入ってきた元の入口側カム通路の入口までピンを戻す必要はない。そのため、従来に比べて余計な作動負荷をかけないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明実施例のロック・アンロック装置を、図1〜図5を参照して説明する。
本発明実施例のロック・アンロック装置10は、たとえば、車両用収納装置、車両用小物入れ装置、車両用ドア付きカップホルダ装置等に設けられる。ただし、ロック・アンロック装置10は、上記の装置以外の装置に設けられていてもよい。
【0008】
ロック・アンロック装置10は、図1に示すように、係止部21aを備えるハート形状部21と、ハート形状部21との間に係止部21aへの入口側カム通路23と係止部21aからの出口側カム通路24を形成するカム通路形成部22を備えるロック20と、ロック20に係脱可能なピン30と、を有する。
ロック20の回転中心Pは、ロック20の正面視でロック20の中央にある。ロック20は、たとえば樹脂製である。ロック20の重心は、ロック20の正面視で回転中心P上にある。
【0009】
ハート形状部21は、ロック20に複数設けられる。ハート形状部21は、ロック20の周方向に複数設けられる。ロック20に設けられるハート形状部21の数は、2個であってもよく、図1〜図4に示すように、3個であってもよく、図5に示すように、4個であってもよく、5個以上であってもよい。隣接しあうハート形状部21の間にピン30のロック20への出入り口25が設けられており、図2に示すように、ピン30の出口25bと次の入口25aとが重なっている。
ハート形状部21の形状は、正面視でハート形状またはほぼハート形状である.ハート形状部21は、入口側カム通路23と出口側カム通路24に面する第1の面21bと、入口側カム通路23と出口側カム通路24とは面しない第2、第3の面21c、21dを、有する。
【0010】
第1の面21bの中間部に係止部21aは設けられている。
第2の面21cは、ロック20の正面視で、ハート形状部21の下端から右側かつ第1の面21b側に傾く傾斜面である。第2の面21cは、平面であってもよいが、ピン30が第2の面21cのどの位置に当ってもピン30の第2の面21cへの当り角を一定(ほぼ一定を含む)にするために、1または2以上の曲率をもつ曲面であることが望ましい。
第3の面21dは、ロック20の正面視で、ハート形状部21の下端から左側かつ第1の面21b側に傾く傾斜面である。第3の面21dは、平面であってもよいが、ピン30が第3の面21dのどの位置に当ってもピン30の第3の面21dへの当り角を一定(ほぼ一定を含む)にするために、1または2以上の曲率をもつ曲面であることが望ましい。
【0011】
カム通路形成部22は、ロック20に複数設けられる。カム通路形成部22は、ハートカム形状部21の第1の面21bとの間に入口側カム通路23と出口側カム通路24を形成する。カム通路形成部22は、ハートカム形状部21よりもロック20の半径方向中心P側に設けられている。カム通路形成部22は、ロック20の周方向に複数設けられる。ロック20に設けられる数は、ロック20に設けられるハート形状部21の数と同じである。複数のカム通路形成部22は、それぞれが連なって形成されていてもよく、それぞれが離れて設けられていてもよい(図示例では、それぞれが連なって形成されている場合を示している)。
【0012】
入口側カム通路23は、ハートカム形状部21の第1の面21bとカム通路形成部22との間の通路のうち、ロック20の正面視で、係止部21aよりも右側に位置する通路である。入口側カム通路23は、ロック20の入口25aから係止部21aまでの通路である。
出口側カム通路24は、ハートカム形状部21の第1の面21bとカム通路形成部22との間の通路のうち、ロック20の正面視で、係止部21aよりも左側に位置する通路である。出口側カム通路24は、係止部21aからロック20の出口25bまでの通路である。
【0013】
ピン30は、ロック20に係脱可能である。ロック20の入口25aからロック20内に入ったピン30は、入口側カム通路23を通って係止部21aに達し(係合し)、出口側カム通路24を通って出口25bからロック20外に出る(離脱する)。
【0014】
ここで、本発明実施例の作動を、図3、図4を参照して、説明する。
ピン30がロック20に向かって(図では、上方向へ)動くと、ピン30は、ロック20の複数ある入口25aのうちの一つに直接いくか、または複数あるハートカム形状部21のうちの一つの第2の面21cまたは第3の面21dに当る。ピン30が第2の面21cまたは第3の面21dに当ったとき、ピン30の進行方向と第2の面21cまたは第3の面21dには、角度がついているため、ロック20がピン30により押され回転中心Pまわりに回転する。ピン30は、第2の面21cまたは第3の面21dに当ったとき、ロック20を回転させながら(図3(a)に示すように、ピン20が第2の面21cに当ったときにはロック20を正面視で時計方向に回転させ、図3(b)に示すように、ピン20が第3の面21dに当ったときにはロック20を正面視で反時計方向に回転させながら)ロック20の入口25aに達する。
ピン20は、ロック20の入口25aから入口側カム通路23内に進入し、図4(a)に示すように、ロック20を回転させながら進む。
つぎに、ピン30がロック20の中心Pに近づく荷重を取り去り、逆にロック20の中心Pから遠ざかる方向(図では、下方向)へ動くと(通常、ピン30には、ロック20の中心Pから遠ざかる方向へ荷重がかかっており、近づく荷重を取り去れば、ピン30はロック20の回転中心Pから遠ざかる方向に動く)、図4(b)に示すように、ピン30はロック20を回転させながら係止部21aに達し、ロック状態となる。
【0015】
ロック状態からピン30をロック20の回転中心Pに近づく方向に動かすことで、図4(c)に示すように、ピン30はロック20を回転させながら出口側カム通路24を通る。
つぎに、ピン30がロック回転中心Pに近づく荷重を取り去り、逆に、ロック回転中心Pから遠ざかる方向(図では、下方向)へ動くと、図4(d)に示すように、ピン30はロック20を回転させながら出口25bに向かう。
さらにピン30をロック回転中心Pから遠ざけると、ピン30は、図4(e)に示すように出口25bに達し、出口25bからロック20の外に出る。
再びピン30がロック20に向かって動くと、ピン30は、ロック20の複数ある入口25aのうちの一つに直接いくか、または複数あるハートカム形状部21のうちの一つの第2の面21cまたは第3の面21dに当り、以下繰り返しになる。
【0016】
つぎに、本発明実施例の作用を説明する。
ハート形状部21とカム通路形成部22がロック周方向に複数設けられているので、ハート形状部21とカム通路形成部22をロック20の全周にわたって配置することにより、ロック20の作動範囲を360°にしてロック回転中心P上にロック重心を配置することができる。したがって、ロック回転中心P上にロック重心を配置することにより、慣性や自重でロック20が変位することを防止できる。
また、ハート形状部21とカム通路形成部22が周方向に複数設けられているので、次に正常にロック・アンロック装置10が作動するために、隣のハート形状部21とカム通路形成部22との間の入口側カム通路23の入口25aまでピン30を戻せばよく、ピン30が入ってきた元の入口側カム通路23の入口25aまでピン30を戻す必要はない。そのため、従来必要であったハート形状部の周囲の姿勢制御部(図7の姿勢制御部2b)は不要になる。その結果、同一形状のロック20でさまざまなピン30軌跡に対応可能になる。
また、隣接しあうハート形状部21間がピン30のロック20への出入り口25になっているので、ロック20の出口25bと次の入口25aを重ねることができる。そのため、隣のハート形状部21とカム通路形成部22との間の入口側通路23の入口25aまでピン30を戻せばよく、ピン30が入ってきた元の入口側カム通路23の入口25aまでピン30を戻す必要はない。そのため、従来に比べて余計な作動負荷をかけないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明実施例のロック・アンロック装置の、ロックの斜視図である。
【図2】本発明実施例のロック・アンロック装置の、ロックの正面図である。
【図3】(a)は、本発明実施例のロック・アンロック装置の、ピンが第2の面に当ったときのロックの回転方向とピンの入口までの移動通路を示す正面図、(b)は、本発明実施例のロック・アンロック装置の、ピンが第3の面に当ったときのロックの回転方向とピンの入口までの移動通路を示す正面図である。
【図4】(a)は、本発明実施例のロック・アンロック装置の、ピンが入口から入口側通路を通る時の正面図、(b)は、ピンが入口側通路から係止部まで通る時の正面図、(c)は、ピンが係止部から出口側通路を通る時の正面図、(d)は、ピンが出口側通路から出口まで通る時の正面図、(e)は、ピンが出口に位置するときの正面図である。
【図5】本発明実施例のロック・アンロック装置の、ロックにハートカム形状部とカム通路形成部が周方向に4個設けられている場合を示す正面図である。
【図6】従来のロック・アンロック装置が設けられた車両用収納装置の断面図である。
【図7】従来のロック・アンロック装置の、ピン軌跡がR36の場合の正面図である。
【図8】従来のロック・アンロック装置の、ピン軌跡がR36の場合と、R18の場合と、直線の場合を重ね合わせた場合の、拡大部分正面図である。
【図9】従来のロック・アンロック装置の、ピン軌跡がR36の場合とR18の場合と直線の場合の、ピン軌跡を示す図である。
【図10】従来のロック・アンロック装置の、ロックをR18から直線までのピン軌跡に適応可能にした場合の、正面図である。
【符号の説明】
【0018】
10 ロック・アンロック装置
20 ロック
21 ハート形状部
22 カム通路形成部
23 入口側カム通路
24 出口側カム通路
25 出入り口
25a 入口
25b 出口
30 ピン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 係止部を備えるハート形状部と、該ハート形状部との間に前記係止部への入口側カム通路と前記係止部からの出口側カム通路を形成するカム通路形成部を備えるロックと、
(b)前記ロックに係脱可能なピンと、
を有し、
前記ロックの、前記ハート形状部と前記カム通路形成部は、前記ロックの周方向に複数設けられている、ロック・アンロック装置。
【請求項2】
隣接しあう前記ハート形状部間に前記ピンの前記ロックへの出入り口が設けられている請求項1記載のロック・アンロック装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−112133(P2006−112133A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−301003(P2004−301003)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(597035023)明和工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】