説明

ロボットの異常検出機能を有するロボットシステム及びその制御方法

【課題】ロボットに発生した異常を高い感度で検出することが可能なロボットシステム及びその制御方法を提供する。
【解決手段】ロボットシステム11に何らかの異常が発生した場合、位置の相違や応答性の相違によって2つの第1及び第2センサ23、24によって第1及び第2検出値に差が生じる。この差が、予め設定された所定の閾値を超える場合には、制御部13は、ロボットシステム11に何らかの異常が発生したことを検出する。2つの第1及び第2センサ23、24の第1及び第2検出値が相対的に比較されることから、検出値の信頼性が確保され、かつ、第1及び第2検出値の差によって異常状態を判断することができるので、ロボットの動作状態や配置環境の温度変化によるギアや減速機の摩擦力の変動などの不確定要素を排除することができる。検出値の差の閾値を小さく設定することができる。ロボットシステム11は高い感度で異常を検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットを有するロボットシステムに関し、特に、ロボットの異常検出機能を有するロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ロボットアームの駆動を高い精度で制御するロボット制御装置が開示される。このロボット制御装置では、ロボットアームの各軸の駆動部にセンサが組み込まれる。ロボットアームは、このロボットアームに出力される指令トルクに基づいて駆動する。センサは、ロボットアームに実際に伝達される実際の検出トルクを出力する。演算処理部は指令トルクと検出トルクとの差を特定する。特定された差が所定の閾値以上になった場合に、ロボットアームへの電力の供給が遮断される。
【0003】
特許文献2には、ロボットアームの各軸の駆動に組み込まれる2つのセンサと2つの演算処理部とを備えるロボット制御装置が開示される。このロボット制御装置では、2つの演算処理部が、ロボットアームに出力される指令トルクをそれぞれ推測する。推測された2つの指令トルクが一致する場合には、2つのセンサによって検出された2つの検出トルクと2つの指令トルクとの差が特定される。特定された差が所定の閾値以上になった場合、ロボットアームへの電力の供給が遮断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−196030号公報
【特許文献2】特開2007−301691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に開示された技術では、ロボットアームの構成要素であるギアや減速機における摩擦力が、ロボットアームの動作状態や配置環境の温度変化によって変動する。こうした摩擦力の変動によって、前述のロボット制御装置では、例えば摩擦力の増大によって指令トルクと検出トルクとの差は大きくなる。その結果、誤検出を防止するためにも閾値が大きく設定される必要があった。従って、例えばロボットアームに人や物が衝突した場合であっても、高い精度で衝突を検出することはできなかった。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、当該ロボットシステムに発生した異常を高い感度で検出することが可能なロボットシステム及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明によれば、
ロボットと、
前記ロボットに作用する力に基づき所定の第1及び第2検出値をそれぞれ出力する第1及び第2センサと、
前記第1センサから出力された第1検出値と前記第2センサから出力された第2検出値との差を特定し、前記差が所定の閾値を超える場合、前記ロボットに異常が発生したと判断する制御部と、
を備えるロボットシステムが提供される。
【0008】
このロボットシステムでは、前記制御部は、前記差が前記閾値を超えるとともに、前記第1及び第2センサの前記第1及び第2検出値のうちの少なくともいずれか一方が所定の許容値を超える場合、前記ロボットに所定の力以上の力が作用したと判断する。
【0009】
このロボットシステムでは、前記制御部は、前記差が前記閾値を超えるとともに、前記第1及び第2センサの前記第1及び第2検出値のいずれもが所定の許容値を超えない場合、前記第1及び第2センサの少なくともいずれか一方で異常が発生したと判断する。
【0010】
このロボットシステムでは、前記第1センサの応答性は前記第2センサの応答性と異なる。
【0011】
また、本発明によれば、
ロボットに作用する力に基づき第1及び第2センサからそれぞれ出力される第1検出値と第2検出値との差を特定する工程と、
前記差が所定の閾値を超える場合、前記ロボットに異常が発生したと判断する工程と、
を備えるロボットシステムの制御方法が提供される。
【0012】
このロボットシステムの制御方法は、前記差が前記閾値を超えるとともに、前記第1及び第2センサの前記第1及び第2検出値のうちの少なくともいずれか一方で検出された力が所定の許容値を超える場合、前記ロボットに所定の力以上の力が作用したと判断する工程をさらに備える。
【0013】
このロボットシステムの制御方法は、前記差が前記閾値を超えるとともに、前記第1及び第2センサの前記第1及び第2検出値のいずれもが所定の許容値を超えない場合、前記第1及び第2センサの少なくともいずれか一方で異常が発生したと判断する工程をさらに備える。
【0014】
このロボットシステムの制御方法では、前記第1センサの応答性は前記第2センサの応答性と異なる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ロボットに発生した異常を高い感度で検出することが可能なロボットシステム及びその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態に係るロボットシステムの構造を概略的に示す図である。
【図2】本発明に係るロボットシステムの制御方法における処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】一具体例に係る第1及び第2検出値の変動を示すグラフである。
【図4】他の具体例に係る第1及び第2検出値の変動を示すグラフである。
【図5】他の具体例に係る第1及び第2検出値の変動を示すグラフである。
【図6】本発明の第2実施形態に係るロボットシステムの構造を概略的に示す図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係るロボットシステムの構造を概略的に示す図である。
【図8】本発明の第4実施形態に係るロボットシステムの構造を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るロボットシステム11の構造を概略的に示す図である。このロボットシステム11は、例えば6軸の垂直多関節型のロボットを構成する多関節ロボット12と、多関節ロボット12に接続されて多関節ロボット12の動作を制御する制御部13と、を備える。多関節ロボット12と制御部13とは配線14によって接続される。多関節ロボット12は作業ツールすなわちロボットハンド15を備える。ロボットハンド15は例えばワークを把持することができる。この多関節ロボット12は、例えば多関節ロボット12と人間とが協働する空間に配置される。
【0018】
多関節ロボット12は、例えば床面に不動に固定されるベース台16と、例えば床面に直交する回転軸線x1回りに回転自在にベース台16に連結される基端アーム17と、回転軸線x1に直交する回転軸線x2回りに回転自在に基端アーム17に連結される第1手首要素18と、回転軸線x2に直交する回転軸線x3回りに回転自在に第1手首要素18に連結される第1中間アーム19aと、回転軸線x3に直交する回転軸線x4回りに回転自在に第1中間アーム19aに連結される第2手首要素20と、第2手首要素20に連結される第2中間アーム19bと、回転軸線x4に直交する回転軸線x5回りに回転自在に第2中間アーム19bに連結される第3手首要素21と、回転軸線x5に直交する回転軸線x6回りに回転自在に第3手首要素21に連結される先端アーム22と、を備える。
【0019】
先端アーム22の先端には前述のロボットハンド15が例えば着脱自在に装着される。回転軸線x1〜x6回りの回転の実現にあたって多関節ロボット12にはサーボモータ(図示せず)が組み込まれる。サーボモータは、当該サーボモータの回転角度を検出するエンコーダを有する。サーボモータは、制御部13から出力された駆動信号に基づき所定の回転角度で回転する。サーボモータの回転によって各回転軸線x1〜x6回りで多関節ロボット12の動作が引き起こされる。サーボモータの回転角度を示す角度信号はエンコーダから制御部13にフィードバックされる。こうして多関節ロボット12は所定の速度で所定の位置に姿勢を変化させることができる。
【0020】
第1実施形態では、先端アーム22とロボットハンド15との間に回転軸線x6の方向に2つの第1及び第2センサ23、24が相互に隣接して配列される。第1センサ23は、第2センサ24よりもロボットハンド15に近い位置に配置される。第2センサ24は先端アーム22の先端に取り付けられる。第2センサ24に取り付けられる第1センサ23にはロボットハンド15が取り付けられる。第1及び第2センサ23、24には例えばひずみゲージや、光による反射量の大小や物体間の静電容量の変化などから機械ひずみを検出する力センサなどが用いられる。第1及び第2センサ23、24は、ロボットハンド15に作用する力及びロボットハンド15が把持するワークに作用する力を検出することができる。検出値は第1及び第2センサ23、24から制御部13に出力される。検出値には、ロボットハンド15とロボットハンド15で把持されるワークとについて重力補正が実施される。
【0021】
ロボットシステム11の第1及び第2センサ23、24には直交3軸の基準座標系が設定される。Z軸は、回転軸線x6に平行に規定されており、X軸及びY軸に直交する。前述の第1及び第2センサ23、24は、当該第1及び第2センサ23、24に作用するX方向、Y方向及びZ方向の力成分(Fx、Fy、Fz)と、それぞれのX軸、Y軸及びZ軸回りのモーメント成分(Mx、My、Mz)と、を検出することができる。こうして検出された力成分及びモーメント成分の検出値は制御部13に出力される。出力にあたって、第1及び第2センサ23、24は制御部13にそれぞれ接続される配線25a、25bが用いられる。多関節ロボット12の動作中、第1及び第2センサ23、24から制御部13に第1及び第2検出値がそれぞれ出力され続ける。
【0022】
制御部13は、第1センサ23から出力された第1検出値や第2センサ24から出力された第2検出値、ロボットシステム11の異常を検出するための異常検出ソフトウェアプログラムを記憶する記憶装置(図示せず)に接続される。制御部13は、記憶装置に格納された異常検出ソフトウェアプログラムに基づき様々な演算を実行することができる。演算処理にあたって異常検出ソフトウェアプログラムは一時的にメモリ(図示せず)に読み出されてもよい。なお、異常検出ソフトウェアプログラムは、例えばFD(フレキシブルディスク)やCD−ROMその他の可搬性記録媒体から記憶装置に取り込まれてもよく、LANやインターネットといったコンピュータネットワークから記憶装置に取り込まれてもよい。
【0023】
ロボットシステム11の動作の開始に先立って、ロボットシステム11では予め様々な条件が設定される。まず、多関節ロボット12では通常動作の試運転が実施される。通常動作では、多関節ロボット12はワークに対して所定の作業を繰り返す。このとき、第1及び第2センサ23、24の検出値が制御部13に出力される。第1及び第2センサ23、24では異常がない状態でもセンサの個体差などにより検出値に差が生じる。なお、ここでは、差の特定にあたって制御部13は、例えば力成分(Fx、Fy、Fz)を合成して算出された合成力を用いる。
【0024】
ロボットシステム11では、多関節ロボット12の通常動作時、多関節ロボット12の動作に応じて第1及び第2検出値は変化する。こうした第1及び第2検出値に基づいて、制御部13は第1及び第2検出値の差を特定する。こうして特定された差に基づいて、例えば多関節ロボット12の通常動作時に特定される差の最大値よりも大きい所定の閾値が設定される。閾値は、誤検出を避けるためのマージンを考慮に入れて予め特定される。ロボットシステム11に異常が発生した場合、第1及び第2センサ23、24の設置位置や応答性の相違によって第1及び第2検出値には所定の閾値を超える大きな差が発生する。従って、第1及び第2検出値の差がこの閾値を超えた場合に、後述するように、制御部13は、ロボットシステム11に異常が生じたものと判断することができる。こうした閾値は記憶装置に記憶される。ロボットシステム11の異常には、多関節ロボット12に所定の力以上の力が作用した場合、すなわち、例えば多関節ロボット12に異物が衝突した場合、第1及び第2センサ23、24の少なくともいずれか一方に異常が発生した場合などが含まれる。
【0025】
同時に、制御部13は、多関節ロボット12の通常動作中の第1及び第2検出値の最大値を特定する。こうして特定される最大値よりも大きい値が後述の所定の許容値として設定される。特定される最大値に対して許容値がどの程度のマージンを有するかについては、例えばロボットシステム11内の空間内に進入する人間との衝突によって検出される検出値を考慮に入れて特定されてもよい。以上のことから、第1及び第2検出値の少なくともいずれか一方がこの許容値を超えた場合に、後述するように、制御部13は、多関節ロボット12が異物に衝突したものと判断する。こうした許容値は記憶装置に記憶される。異物には、例えば人やロボットシステム11内に配置される周辺装置などが含まれる。
【0026】
図2は、本発明に係るロボットシステム11の制御部13の処理の流れを示すフローチャートである。制御部13は異常検出ソフトウェアプログラムに基づき演算処理を実行する。ロボットシステム11の動作が開始されると、第1及び第2センサ23、24は多関節ロボット12の動作に応じて第1及び第2検出値をそれぞれ出力する。ステップS1で、制御部13は、出力された第1検出値と第2検出値との差を特定する。制御部13は、ステップS2で、第1及び第2検出値の差が前述の閾値を超えるかすなわち上回るか否かを監視する。差が、予め設定された前述の閾値を超えていない場合(ステップS2、NO)、制御部13は、ステップS3でロボットシステム11に異常は発生していないものと判断する。処理はステップS1に戻る。こうして制御部13はステップS1〜S3の処理を繰り返す。
【0027】
図3は、一具体例に係る第1及び第2検出値の変動を示すグラフである。このグラフでは、縦軸に検出値が示され、横軸に時間が示される。縦軸には前述の許容値pが設定される。第1検出値v1が実線で示され、第2検出値v2が点線で示される。第1及び第2検出値v1、v2は時間の経過とともに変化する。制御部13は、ある時間tで第1及び第2検出値v1、v2の差dが閾値を超えたことを検出する(ステップS2、YES)。その結果、ステップS4で、制御部13は、ロボットシステム11に何らかの異常が発生したものと判断する。異常の発生を検出すると、制御部13はステップS5で、所定の時間にわたって、第1及び第2検出値v1、v2の少なくともいずれか一方が許容値pを超えるか否かを監視する。
【0028】
図3から明らかなように、第1及び第2検出値v1、v2がともに許容値pを超えているので(ステップS5、YES)、制御部13の処理はステップS6に進む。ステップS6では、制御部13は、ロボットハンド15に衝突によって衝撃の過大な力が作用したものと判断する。その結果、制御部13は、ステップS7で、ロボットシステム11に異常が発生したことを示す警告信号を出力する。警告信号の出力に基づき、ロボットシステム11では、モニタ(図示せず)内に表示される警告、警報機(図示せず)の例えば音声による警告、回転灯(図示せず)の点灯などによる警告が実施される。こうした警告の実施によって、例えばロボットシステム11の管理者やロボットシステム11の周囲の他のロボットシステムにロボットシステム11に異常が発生したことを通知することができる。その結果、周囲のロボットシステムでも異常に対する処理を実行することができる。
【0029】
また、前述の警告の実施に代えて又は警告の実施に加えて、警告信号の出力に基づき、多関節ロボット12は、安全を確保する動作を実行してもよい。例えば多関節ロボット12の動作が停止されてもよい。動作の停止にあたって、例えば光カーテン(図示せず)の検知状態と同様の状態が確立されることによって多関節ロボット12の動作を停止させるようにしてもよい。また、第1及び第2検出値v1、v2が減少する方向にロボットハンド15が移動するように多関節ロボット12の動作が実行されてもよい。第1及び第2検出値v1、v2が減少する方向は、検出値のうちの力成分の向きが逆転する方向で特定される。こうした移動によって、ロボットハンド15は、衝突した異物から遠ざかる方向に離れることができる。また、その他、警告信号の出力によって、多関節ロボット12に予め決められた安全動作を行わせるようにしてもよい。
【0030】
図4は、他の具体例に係る第1及び第2検出値の変動を示すグラフである。図3と同様に、縦軸に検出値が示され、横軸に時間が示される。縦軸には前述と同様に許容値pが設定される。第1検出値v1が実線で示され、第2検出値v2が点線で示される。前述と同様に、制御部13は、ある時間tで第1及び第2検出値v1、v2の差dが閾値を超えたことを検出する(ステップS2、YES)。その結果、ステップS4で、制御部13は、ロボットシステム11に何らかの異常が発生したものと判断する。異常の発生を検出すると、制御部13はステップS5で、所定の時間にわたって、第1及び第2検出値v1、v2の少なくともいずれか一方が許容値pを超えるか否かを監視する。図4から明らかなように、第1及び第2検出値v1、v2のいずれもが許容値pを超えていないので(ステップS5、NO)、ロボットハンド15には衝突が発生していない。従って、制御部13の処理はステップS8に進む。
【0031】
ステップS8で、制御部13は、第1及び第2センサ23、24の少なくともいずれか一方に不具合が発生したものと判断する。この場合、制御部13の処理は前述のステップS7に進む。ここでは、図4から明らかなように、第1検出値v1に比べて第2検出値v2の値がほとんど検出されていないことから、例えば第2センサ24に異常が発生したことが推測される。前述と同様に、制御部13は、ステップS7で、ロボットシステム11に異常が発生したことを示す警告信号を出力する。警告信号の出力に基づき、ロボットシステム11では前述と同様の処理が実施される。なお、第1及び第2センサ23、24の不具合には、例えば第1及び第2センサ23、24自体のハードウェアの故障やソフトウェアの不具合、配線25a、25bの不具合、制御部13のハードウェアの不具合などが含まれる。
【0032】
以上のようなロボットシステム11では、2つの第1及び第2センサ23、24の位置の相違によって第1及び第2検出値に差が生じる。この差が、予め設定された所定の閾値を超える場合には、制御部13は、ロボットシステム11に何らかの異常が発生したことを検出する。こうして2つの第1及び第2センサ23、24の第1及び第2検出値が相対的に比較されることから、検出値の信頼性が確保され、かつ、第1及び第2検出値の差によって異常状態を判断することができるので、ロボットの動作状態や配置環境の温度変化によるギアや減速機の摩擦力の変動といった不確定要素の誤差を排除することができる。こうした誤差を考慮しなくてよいことから、検出値の差の閾値を小さく設定することができる。その結果、ロボットシステム11は、当該ロボットシステム11に発生する異常を高い感度で検出することができる。
【0033】
しかも、第1及び第2センサ23、24の第1及び第2検出値の少なくともいずれか一方が、予め設定された所定の許容値を超える場合には、制御部13は、ロボットハンド15に衝突が生じたことを検出することができる。こうしてロボットハンド15の衝突を高い感度で検出することができる。また、第1及び第2センサ23、24の第1及び第2検出値の少なくともいずれか一方が、予め設定された所定の許容値を超えない場合には、制御部13は、衝突の発生が生じていない一方で第1及び第2センサ23、24の少なくともいずれか一方に不具合が生じたことを検出することができる。こうして第1及び第2センサ23、24の不具合が高い感度で検出されることから、第1及び第2センサ23、24の検出値の信頼性を確保することができる。
【0034】
また、ロボットシステム11では、例えば回転軸線x6の方向に第1及び第2センサ23、24が相互に隣接して配置される。図1に示される例では、第1センサ23と第2センサ24とは直接に接して配置される。すなわち、第1センサ23と第2センサ24との間には他の構成部品は挟み込まれない。その一方で、第1センサ23と第2センサ24との間に構成部品が挟み込まれると、その構成部品の剛性によって第1検出値と第2検出値との間に余計な差分といった不確定要素が生じてしまう。本発明はこうした不確定要素を排除することができる。すなわち、検出値には余計な差分に対する補正が必要とされない。従って、本発明は、衝突の検出の精度、並びに、第1及び第2センサ23、24の不具合の検出の精度の悪化を防止することができる。
【0035】
その他、以上のようなロボットシステム11では、第1及び第2検出値の差の特定にあたって、例えば第1及び第2センサ23、24から出力される力成分(Fx、Fy、Fz)やモーメント成分(Mx、My、Mz)のそれぞれが比較されてもよい。また、合成力の特定にあたって、例えば力成分のうちの2方向の力成分が合成されてもよい。また、合成力は、力成分の代わりにMxやMyと力の作用点とから合成されてもよい。
【0036】
図5は、他の具体例に係る第1及び第2検出値の変動を示すグラフである。このグラフは図3のグラフと同様である。ただし、この例では、相互に異なる応答性を有する第1センサ23及び第2センサ24が用いられる。例えばロボットハンド15からより離れた第2センサ24で第1センサ23よりも遅い応答性が設定される。その結果、図5から明らかなように、前述の図3の場合に比べて、第2検出値v2の検出のタイミングが第1検出値v1よりも遅れるなどの理由によって、異常発生時の第1検出値v1と第2検出値v2との間の差が、図3の場合に比べてより急激に増大する。従って、制御部13は、その差が閾値を超えたことを図3の場合よりも迅速に高い精度で検出することができる。加えて、このロボットシステム11は前述と同様の作用効果を実現することができる。
【0037】
図6は、本発明の第2実施形態に係るロボットシステム11aの構造を概略的に示す図である。この図では前述と均等な構成や構造を有する構成要素には同一の参照符号が付される。このロボットシステム11aでは、第1及び第2センサ23、24は第2の制御部27に接続される。第1及び第2検出値は第2の制御部27に出力される。第2の制御部27は配線28を介して前述の制御部13に接続される。第2の制御部27は前述の異常検出ソフトウェアを実行する。ただし、制御部13が、例えば第2の制御部27から出力される警告信号に基づき多関節ロボット12の動作を制御する。こうして異常を検出する処理と多関節ロボット12の動作を制御する処理とが別個の制御部によって実行されるので、ロボットシステム11内での処理の速度を向上させることができる。
【0038】
図7は、本発明の第3実施形態に係るロボットシステム11bの構造を概略的に示す図である。この図では前述と均等な構成や構造を有する構成要素には同一の参照符号が付される。このロボットシステム11bでは、相互に隣接する第1及び第2センサ23、24がベース台16と基端アーム17との間に配置される。第1センサ23が例えば基端アーム17に取り付けられる。第2センサ24が例えばベース台16に取り付けられる。これらの第1及び第2センサ23、24は、基端アーム17からロボットハンド15までの間で多関節ロボット12に作用する力を検出することができる。従って、多関節ロボット12の大部分への衝突を高い精度で検出することができる。その他、このロボットシステム11bは前述と同様の作用効果を実現することができる。
【0039】
図8は、本発明の第4実施形態に係るロボットシステム11cの構造を概略的に示す図である。この図では前述と均等な構成や構造を有する構成要素には同一の参照符号が付される。このロボットシステム11cは、多関節ロボット12の周囲に配置される周辺装置29を備える。ここでは、周辺装置29には例えばテーブルが用いられる。第1及び第2センサ23、24は周辺装置29上に取り付けられる。多関節ロボット12のロボットハンド15は、例えば第1センサ23上に配置される基板にコネクタ(ともに図示せず)を実装する作業を実行する。このコネクタの実装時、ロボットハンド15はコネクタを介して基板すなわち第1及び第2センサ23、24に力を作用させる。このとき、第1及び第2センサ23、24は基板からの力の検出に基づき第1及び第2検出値をそれぞれ出力する。
【0040】
こうしたロボットシステム11cでは、多関節ロボット12の通常動作の試運転時に前述と同様に閾値及び許容値が設定される。例えば多関節ロボット12に対する異物の衝突によってロボットハンド15がコネクタを介して基板に誤って衝突することがある。このとき、第1及び第2センサ23、24は、多関節ロボット12から周辺装置29に作用する力に基づき所定の第1及び第2検出値をそれぞれ出力する。こうして、予め設定された閾値及び許容値に基づき前述と同様の処理が実行される。その結果、制御部13は、多関節ロボット12の衝突を高い感度で検出することができる。また、前述と同様に、第1及び第2センサ23、24の不具合を高い感度で検出することができる。
【0041】
その他、第1及び第2センサ23、24はロボットハンド15に配置されてもよい。また、ロボットシステム11〜11c内で、第1センサ23と第2センサ24とは相互に離間して配置されてもよい。この場合、前述した通り、第1センサ23と第2センサ24との間に挟み込まれる構成要素の剛性によって生じる第1検出値と第2検出値との間における余計な差分が予め測定される。こうした余計な差分は、多関節ロボット12中の第1及び第2センサ23、24の配置の相違を補正する所定の係数によって補正される。係数に検出値を乗じた計算値が補正後の検出値として用いられる。こうした係数は、例えば通常動作の試運転時に第1及び第2センサ23、24の第1及び第2検出値から求められることが可能である。
【0042】
また、以上のような本実施形態では、作業ツールに例えばワークをハンドリングするロボットハンド15が用いられるものの、例えばアーク溶接、スポット溶接、組立、検査、シーリング、レーザ、又はウォータジェットなどの加工の種類に応じて選択される他の作業ツールが用いられてもよい。
【符号の説明】
【0043】
11〜11c ロボットシステム
12 ロボット(多関節ロボット)
13 制御部
23 第1センサ
24 第2センサ
d 差
p 許容値
v1 第1検出値
v2 第2検出値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットと、
前記ロボットに作用する力に基づき所定の第1及び第2検出値をそれぞれ出力する第1及び第2センサと、
前記第1センサから出力された第1検出値と前記第2センサから出力された第2検出値との差を特定し、前記差が所定の閾値を超える場合、前記ロボットに異常が発生したと判断する制御部と、
を備えることを特徴とするロボットシステム。
【請求項2】
前記制御部は、前記差が前記閾値を超えるとともに、前記第1及び第2センサの前記第1及び第2検出値のうちの少なくともいずれか一方が所定の許容値を超える場合、前記ロボットに所定の力以上の力が作用したと判断することを特徴とする請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項3】
前記制御部は、前記差が前記閾値を超えるとともに、前記第1及び第2センサの前記第1及び第2検出値のいずれもが所定の許容値を超えない場合、前記第1及び第2センサの少なくともいずれか一方で異常が発生したと判断することを特徴とする請求項1又は2に記載のロボットシステム。
【請求項4】
前記第1センサの応答性は前記第2センサの応答性と異なることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のロボットシステム。
【請求項5】
ロボットに作用する力に基づき第1及び第2センサからそれぞれ出力される第1検出値と第2検出値との差を特定する工程と、
前記差が所定の閾値を超える場合、前記ロボットに異常が発生したと判断する工程と、
を備えることを特徴とするロボットシステムの制御方法。
【請求項6】
前記差が前記閾値を超えるとともに、前記第1及び第2センサの前記第1及び第2検出値のうちの少なくともいずれか一方が所定の許容値を超える場合、前記ロボットに所定の力以上の力が作用したと判断する工程をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載のロボットシステムの制御方法。
【請求項7】
前記差が前記閾値を超えるとともに、前記第1及び第2センサの前記第1及び第2検出値のいずれもが所定の許容値を超えない場合、前記第1及び第2センサの少なくともいずれか一方で異常が発生したと判断する工程をさらに備えることを特徴とする請求項5又は6に記載のロボットシステムの制御方法。
【請求項8】
前記第1センサの応答性は前記第2センサの応答性と異なることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載のロボットシステムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−218094(P2012−218094A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84485(P2011−84485)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト、人間・ロボット協調型セル生産組立システム(次世代産業用ロボット分野)、(先進工業国対応型セル生産組立システムの開発)」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】