説明

ロボット用事故解析システム

【課題】ロボットに発生した事故状態を客観的にとらえることができるロボット用事故解析システムを提供する。
【解決手段】ロボット2に発生した事故状態を再現するロボット用事故解析システムであって、ロボット2に設けられ、自ロボットの稼動状態情報を認識する稼動情報認識部と、ロボットとは別に設けられた撮像手段6によって撮像されたロボット2とその周辺環境との画像データを環境情報として認識する環境情報認識部とを有し、前記稼動状態情報と前記環境情報とを記録するロボット用レコーダ装置3と、ロボット用レコーダ装置3に記録された稼動状態情報及び環境情報に基づいて事故状態を再現するロボット用シミュレータ装置4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットに発生した事故状態を記録された情報に基づき再現し、事故原因の解析を行うロボット用事故解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ロボット技術が発達し、美術館や博物館などの公共施設やショッピングモールなどに清掃や案内を目的としたロボットが導入されている。それに伴い、人とロボットが接触する事故も増加しつつある。
【0003】
ロボットがさまざまな場所に導入されつつある一方で、ロボットに対する安全対策や安全基準は未だ確立されていない。このため、いざ事故が起こってしまったときには、第三者である目撃者がいない限り事故を客観的にとらえることは非常に困難であり、事故原因を含め当事者の主張や現場検証でのみ責任の割合が決まる傾向にある。
【0004】
このような状況下、最近では、ロボットに事故が発生した場合に、その事故の原因を客観的に判断できるようにしたいという要望が高まっている。
【0005】
従来、発生した事故の原因を判断するものとしては、車両用に開発された事故解析システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなシステムでは、車両に設けられた各センサによってブレーキ圧力、加速度、操舵角等を検出すると共に、車載用カメラによって車両の周辺環境の画像を撮像し、これらの情報を基に事故の状況、事故原因などを特定することが可能となる。
【0006】
また、ロボットに対しては、産業用ロボットにおいて衝突等のアラームが発生した場合に、アラームが発生した位置姿勢、目標位置姿勢、画像処理結果等に基づき、アラームの発生前及び発生時のロボットの稼動状況を再現するロボットシステム(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−83815号公報
【特許文献2】特開2005−103681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の事故解析システムは、車両用に開発されたものであるため、ロボットに転用することはできない。また、仮にこのようなシステムをロボットにそのまま転用しても、ロボットにおける事故原因を究明することは困難であった。
【0009】
また、特許文献2のシステムでは、ロボット用ではあるものの、ロボット自体が移動しない産業用ロボットを対象としているため、アラームの内容としては、作業対象のワークとは別のワークとの干渉、ロボットの異常動作、故障等を想定しており、例えばロボット自体が移動して人等と接触する場合の事故に対しては想定していなかった。このため、特許文献2のシステムでは、ロボットが検出したデータに基づきアラーム発生時のロボットの動きを再現することはできても、ロボットと人等とがどのように接触したか等の事故状況を客観的にとらえることまではできなかった。
【0010】
本発明は上記問題に鑑み案出されたものであり、ロボットに発生した事故状態を客観的にとらえることができるロボット用事故解析システムを提供することを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係るロボット用事故解析システムの特徴構成は、ロボットに発生した事故状態を再現するロボット用事故解析システムであって、前記ロボットに設けられ、自ロボットの稼動状態情報を認識する稼動情報認識部と、前記ロボットとは別に設けられた撮像手段によって撮像された前記ロボットとその周辺環境との画像データを環境情報として認識する環境情報認識部とを有し、前記稼動状態情報と前記環境情報とを記録するロボット用レコーダ装置と、前記ロボット用レコーダ装置に記録された前記稼動状態情報及び前記環境情報に基づいて前記事故状態を再現するロボット用シミュレータ装置とを備えた点にある。
【0012】
本構成によれば、ロボットの稼動状態情報と環境情報とにより、ロボットに発生した事故状態を客観的にとらえ、的確に把握できる。
したがって、ロボットにおける事故の原因を確実に究明し、客観的に証明することができる。
【0013】
本発明に係るロボット用事故解析システムにおいて、前記稼動状態情報は、速度データ、加速度データ、位置情報、振動情報、衝撃情報、接触情報、及び実行ステップからなる群から選択される少なくとも1種の情報を含むことが好ましい。
【0014】
本構成によれば、ロボットの的確な稼動状態情報を得ることができる。
【0015】
本発明に係るロボット用事故解析システムにおいて、前記環境情報は、録音手段によって録音された音データを含むことが好ましい。
【0016】
本構成によれば、より詳細な環境情報を得ることができる。
【0017】
本発明に係るロボット用事故解析システムにおいて、前記ロボット用レコーダ装置は、前記ロボットが事故状態にあることを判断したときに、前記稼動状態情報及び前記環境情報を記録する稼動状態記録処理部を有することが好ましい。
【0018】
本構成によれば、ロボットが事故状態にあるときの情報を確実に得ることができる。
【0019】
本発明に係るロボット用事故解析システムにおいて、前記稼動状態記録処理部は、前記稼動状態情報及び前記環境情報に基づいて前記ロボットが事故状態にあるか否かを判断することが好ましい。
【0020】
本構成によれば、稼動状態情報及び環境情報に基づいてロボットが事故状態にあるか否かを判断するため、ロボットが事故状態にあるときの情報をより確実に得ることができる。
【0021】
本発明に係るロボット用事故解析システムにおいて、前記ロボット用シミュレータ装置は、前記撮像手段によって撮像された前記画像データと録音手段によって録音された音データとを動画像として再現する動画像表示部と、前記ロボットが事故状態であったときの前記稼動状態情報を表示する稼動状態表示部と、前記ロボットが事故状態であったときの実行ステップを3次元画像として再現する3次元画像表示部とを備え、前記動画像と前記稼動状態情報と前記3次元画像とを時系列で表示することが好ましい。
【0022】
本構成によれば、ロボットに発生した事故状態を忠実に再現することができる。
【0023】
本発明に係るロボット用事故解析システムにおいて、前記ロボット用シミュレータ装置は、前記ロボット用レコーダ装置に記録された前記稼動状態情報及び前記環境情報を蓄積する事故状態データベースを、さらに有することが好ましい。
【0024】
本構成によれば、様々な事故状態のロボットの稼動状態情報及び環境情報を蓄積することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ロボット用事故解析システムの概要を示す図である。
【図2】ロボット用レコーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図3】ロボット用シミュレータ装置の構成を示すブロック図である。
【図4】ロボット用シミュレータ装置の表示画面である。
【図5】ロボット用レコーダ装置の処理を示すフローチャートである。
【図6】ロボット用シミュレータ装置の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明に係るロボット用事故解析システムの一実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態に係るロボット用事故解析システム1は、図1に示すように、ロボット2に搭載されたロボット用レコーダ装置3と、事故の解析に利用されるロボット用シミュレータ装置4とを備えて構成される。尚、ロボット2としては、所謂産業用ロボットや自動清掃ロボット等が例示され、設置式ロボットに適用するか、自走式ロボットに適用するかは特に限定されない。
【0027】
ロボット用レコーダ装置3は、図2に示すように、自ロボットの稼動状態情報を認識する稼動情報認識部3aと、ロボット2とは別に設けられたカメラ等の撮像手段6によって撮像されたロボット2とその周辺環境との画像データを環境情報として認識する環境情報認識部3bと、ロボット2が事故状態にあるか否かを判断し、ロボット2が事故状態にあると判断したときに稼動状態情報及び環境情報を記録処理する稼動状態記録処理部3cと、稼動状態記録処理部3cで処理された稼動状態情報及び環境情報を事故状態のデータとして格納する事故状態メモリ3dとを備える。
【0028】
稼動情報認識部3aは、ロボット2に設けられた多数のセンサ類からの情報を自ロボットの稼動状態情報として認識する。ロボット2に設けるセンサとしては、速度センサ31、加速度センサ32、GPS(位置情報)33等のロボット2の位置関連情報を認識するセンサ、事故による振動を認識する振動センサ34、衝撃を認識する衝撃センサ35、ロボット2の接触した箇所を特定する接触センサ36等が例示される。また、稼動情報認識部3aは事故時における自ロボットの実行ステップ37を認識することもできる。
【0029】
環境情報認識部3bは、ロボット2とは別に設けられたカメラ等の撮像手段6によって撮像された画像データを環境情報として認識するロボット周辺画像認識処理部38と、ロボット2とは別に設けられたマイクロフォン等の録音手段からの音データを環境情報として認識するロボット周辺音認識処理部39とを備える。尚、画像データや音データ等は、例えば、無線によって環境情報認識部3bに送ることができる。
また、環境情報認識部3bには、ロボット2に設けた別の撮像手段や録音手段からの情報を環境情報として認識する別の認識処理部をさらに設けることもできる。
【0030】
稼動状態記録処理部3cは、稼動情報認識部3aによって認識された稼動状態情報と環境情報認識部3bによって認識された環境情報を一時的に記憶し、処理してロボット2が事故状態にあるか否かを判断する。これらの情報からロボット2が事故状態にあると判断した場合には、事故状態と判断した稼動状態情報及び環境情報を事故状態のデータとして事故状態メモリ3dに記録する。
【0031】
ロボット用シミュレータ装置4は、ディスプレイを搭載したパーソナルコンピュータ5等を備えて構成され、事故状態メモリ3dに記録された稼動状態情報及び環境情報に基づいて事故状態を再現する。
【0032】
ロボット用シミュレータ装置4は、図3に示すように、事故状態メモリ3dに記録された稼動状態情報及び環境情報を蓄積する事故状態データベース4aと、事故状態データベース4aに蓄積された稼動状態情報及び環境情報に基づいて、画像を生成する動画像表示部4bと、ロボット2の稼動状態情報を表示する稼動状態表示部4cと、ロボット2の実行ステップを3次元画像として表示する3次元画像表示部4dと備える。
【0033】
ロボット用シミュレータ装置4は、1つの装置で複数のロボットにおける事故状態を再現することもできる。
【0034】
本実施形態に係るロボット用事故解析システムの処理の一例を以下に示す。
図5に示すように、ロボット2の稼動中では、ロボット用レコーダ装置3は、自ロボットの周辺環境を監視して周辺環境にある物体、人等を検出し、認識する(S501)。すなわち、ロボット用レコーダ装置3は、稼動情報認識部3aからの稼動状態情報及び環境情報認識部3bからの環境情報を取得する。
【0035】
次に、ロボット用レコーダ装置3は、取得した稼動状態情報及び環境情報に基づき、ロボット2が事故状態にあるか否かを判断する(S502)。ここで、ロボット2が事故状態にあるとは、例えば、ロボット2にある一定の定数を超えて接近あるいは接触する物体、人を検出した状態のことである。
【0036】
そして、ロボット2が事故状態にあることが判定された場合には、ロボット用レコーダ装置3は、事故状態と判断したときの稼動状態情報及び環境情報を事故状態メモリ3dに記録する(S503)。ここで、事故状態メモリ3dに記録される稼動状態情報は、ロボット用シミュレータ装置4でロボット2の事故状況を再現するために必要な情報であって、例えば、自ロボットの位置情報や速度情報等の位置関連情報、衝撃や接触等の衝突情報、事故時の稼動状態を再現する実行ステップ等である。また、事故状態メモリ3dに記録される環境情報は、ロボット用シミュレータ装置4でロボット2の周辺環境を再現するために必要な情報である。
【0037】
一方、S502において、ロボット2が事故状態にないと判断された場合には、ロボット用レコーダ装置3の処理はS501に戻る。
【0038】
ロボット用シミュレータ装置4によって事故状態を再現する場合には、図6に示すように、ロボットシミュレータ装置4は、ロボット用レコーダ装置3の事故状態メモリ3dに記録された稼動状態情報及び環境情報を事故状態データベース4aに取り込む(S601)。これにより、ロボット用シミュレータ装置4において、ロボット2の稼動状態情報および環境情報を利用可能となる。事故状態データベース4aには、様々な事故状態のロボット2の稼動状態情報及び環境情報が蓄積することができる。尚、ロボット用レコーダ装置3から稼動状態情報及び環境情報をロボットシミュレータ装置4に取り込む場合には、例えば、ロボットシミュレータ装置4はロボット用レコーダ装置3に無線によって接続してもよく、また情報を取り込む際に有線によって接続してもよい。
【0039】
次に、ロボット用シミュレータ装置4は、事故情報データベース4aに格納されたロボット2の稼動状態情報および環境情報を用いて、ロボット2の事故状態を再現する動画像を生成すると共に、ロボット2の実行ステップを3次元画像として生成する(S602)。
【0040】
そして、ロボット用シミュレータ装置4は、生成された動画像及び3次元画像を、ディスプレイを装備したパーソナルコンピュータ5に表示する(S603)。
【0041】
尚、ロボット用シミュレータ装置4では、例えば、図4に示すように、ロボット2の周辺の事故状況を再現する動画像100と、ロボット2の実行ステップを3次元として再現する3次元画像200とを同期させて、時系列に表示できるようにすることができる。また、その他の速度データ・加速度データ・位置情報等の稼動状態情報、環境情報も同様に同期することができ、ロボット2に物や人がどの様に衝突したのか、どの程度の衝撃があったのか、また、その時のロボット2の速度はどのようなものだったのか等を忠実に再現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、物や人等と接触する可能性がある様々なロボットに適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 ロボット用事故解析システム
2 ロボット
3 ロボット用レコーダ装置
4 ロボット用シミュレータ装置
5 パーソナルコンピュータ
6 撮像手段
3a 稼動情報認識部
3b 環境情報認識部
3c 稼動状態記録処理部
3d 事故状態メモリ
31 速度センサ
32 加速度センサ
33 GPS(位置情報)
34 振動センサ
35 衝撃センサ
36 接触センサ
37 実行ステップ
38 ロボット周辺画像認識処理部
39 ロボット周辺音認識処理部
4a 事故状態データベース
4b 動画像表示部
4c 稼動状態表示部
4d 3次元画像表示部
100 動画像
200 3次元画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットに発生した事故状態を再現するロボット用事故解析システムであって、
前記ロボットに設けられ、自ロボットの稼動状態情報を認識する稼動情報認識部と、前記ロボットとは別に設けられた撮像手段によって撮像された前記ロボットとその周辺環境との画像データを環境情報として認識する環境情報認識部とを有し、前記稼動状態情報と前記環境情報とを記録するロボット用レコーダ装置と、
前記ロボット用レコーダ装置に記録された前記稼動状態情報及び前記環境情報に基づいて前記事故状態を再現するロボット用シミュレータ装置とを備えたロボット用事故解析システム。
【請求項2】
前記稼動状態情報は、速度データ、加速度データ、位置情報、振動情報、衝撃情報、接触情報、及び実行ステップからなる群から選択される少なくとも1種の情報を含む請求項1に記載のロボット用事故解析システム。
【請求項3】
前記環境情報は、録音手段によって録音された音データを含む請求項1または2に記載のロボット用事故解析システム。
【請求項4】
前記ロボット用レコーダ装置は、前記ロボットが事故状態にあることを判断したときに、前記稼動状態情報及び前記環境情報を記録する稼動状態記録処理部を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載のロボット用事故解析システム。
【請求項5】
前記稼動状態記録処理部は、前記稼動状態情報及び前記環境情報に基づいて前記ロボットが事故状態にあるか否かを判断する請求項4に記載のロボット用事故解析システム。
【請求項6】
前記ロボット用シミュレータ装置は、前記撮像手段によって撮像された前記画像データと録音手段によって録音された音データとを動画像として再現する動画像表示部と、前記ロボットが事故状態であったときの前記稼動状態情報を表示する稼動状態表示部と、前記ロボットが事故状態であったときの実行ステップを3次元画像として再現する3次元画像表示部とを備え、前記動画像と前記稼動状態情報と前記3次元画像とを時系列で表示する請求項1〜5のいずれか1項に記載のロボット用事故解析システム。
【請求項7】
前記ロボット用シミュレータ装置は、前記ロボット用レコーダ装置に記録された前記稼動状態情報及び前記環境情報を蓄積する事故状態データベースを、さらに有する請求項1〜6のいずれか1項に記載のロボット用事故解析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−206871(P2011−206871A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75497(P2010−75497)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(594182834)株式会社イーガー (6)
【Fターム(参考)】