ローカル帯電分布精密計測方法及び装置
【課題】 試料の局所的な帯電電位計測機能を備えた荷電粒子線装置を実現する。
【解決手段】 ミラー状態におかれた試料に対して一次荷電粒子ビームを走査して、画像を取得する。取得画像は、試料の画像であるまたは荷電粒子光学系の構成部品の画像であるとを問わない。得られた画像と標準試料の画像とを比較して、局所的な帯電電位を計測する。
【解決手段】 ミラー状態におかれた試料に対して一次荷電粒子ビームを走査して、画像を取得する。取得画像は、試料の画像であるまたは荷電粒子光学系の構成部品の画像であるとを問わない。得られた画像と標準試料の画像とを比較して、局所的な帯電電位を計測する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板や液晶基板、あるいは微細な回路パターンが形成された基板ないしチップ等の試料の検査・計測技術に係り、特に、荷電粒子線を試料に照射し、得られる二次電子ないし反射電子の分布データを基に前記試料の検査・計測を行う検査・計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子線装置やイオンビーム装置など、荷電粒子線を試料に照射して検査・計測を行う装置においては、一次荷電粒子線照射による帯電の問題は古くからの解決課題である。絶縁体材料を含む試料、例えば、レジストがコーティングされた半導体基板、層間絶縁膜上に形成された配線パターンを含む試料などに荷電粒子線を照射すると、試料が帯電し、当該帯電電位により一次荷電粒子線の軌道が曲がる、フォーカスが合わない、あるいは非点収差が発生するなどの現象が発生する。このような現象が発生すると、試料の表面形状や材料分布を正しく反映した二次電子/反射電子の分布データが得られないため、正確な検査・計測を行うことができない。この問題は、半導体の配線幅や液晶駆動用トランジスタのサイズなど、検査・計測対象のサイズが小さくなるにつれ深刻化している。
【0003】
これに対し、特許文献1には、試料に印加するリターディング電位を帯電を相殺するような値に調整し、これにより得られる走査電子画像の画質変動を抑制する技術が開示されている。また、特許文献2には、試料表面の荷電マップを計算し、一次荷電粒子線の照射位置の帯電電位に応じて照射電子線の着地エネルギーを最適化して、一次荷電粒子線のフォーカス調整を行う技術が開示されている。また、特許文献3には、エネルギーフィルタを用いて二次電子のS次カーブを取得することにより、試料表面の局所的な電位を計測する技術が開示されている。局所帯電電位の計測値は、走査偏向器の偏向信号設定にフィードバックされ、偏向信号の強度を調整することにより画像倍率を変え、局所帯電の影響を除去する。また、特許文献3に記載の発明によれば、帯電には大域帯電と局所帯電の2種が存在し、大域帯電は荷電粒子線のフォーカスに、局所帯電は荷電粒子線の倍率に大きな影響を及ぼし、これらを分離計測する必要がある。
【0004】
一方、特許文献4には、荷電粒子ビームの加速エネルギーとほぼ同じ電位が印加された試料に対して面ビームを照射し、この状態で試料から面反射される荷電粒子線を結像して試料の検査を行う発明が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−125271号公報
【特許文献2】特開2001−236915号公報
【特許文献3】再公表特許2003/007330号公報
【特許文献4】特開2003−202217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1から3に記載された発明は、いずれも帯電量を計測し、その測定結果に基づいて装置条件を調整する技術に関する発明であるが、帯電量を測定するために、荷電粒子線を試料に照射しなければならない。例えば、特許文献1に記載の発明では、照射する一次電子線の電流量を元に試料のチャージアップ電位を推定し、また特許文献2に記載の発明では、一次電子線を試料に照射して得られる映像信号を基に試料の表面電位を推定している。更にまた、特許文献3に記載の発明では、エネルギーフィルタによりS字カーブを取得して帯電電位を推定しているが、S字カーブを取得するためには二次電子を検出しなければならない。荷電粒子線が試料に到達してしまえば、試料表面には照射による二次的な帯電が誘起され、ビーム照射前の帯電量を測定することが困難となる。
【0007】
そこで本発明の目的の一つは、ローカル帯電に起因して発生する試料の局所的な電位あるいは電位勾配を、荷電粒子線照射による二次的な帯電の誘起を抑制しつつ、従来よりも正確に推定する手段を提供することにある。
一方、研究の進展により、ローカル帯電は倍率へ影響するのみならず、非点収差や軸ずれなど、荷電粒子光学系の動作に影響を及ぼすことが分かってきた。そこで、本発明の他の目的の一つは、ローカル帯電が及ぼす荷電粒子光学系への影響を補償する方法およびそのような動作条件で動作しうる荷電粒子線装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、一次荷電粒子線への印加電位を調整することにより、試料表面に一次荷電粒子線が到達しない状態(以下、ミラー反射状態と呼ぶ)を形成し、引き戻された一次荷電粒子線を検出し解析することにより、試料表面の局所的な電位を推定する。ミラー状態におかれた試料に対しては一次荷電粒子線が到達しないので、二次帯電を誘起することなく、正確な表面電位の値が得られる。
【0009】
また、試料に局所的な帯電電位が存在すると、一次荷電粒子線の試料上での着地位置が正常な位置からずれる。従って、ずれ量に応じた荷電粒子光学系の補償量を予め求めておき、実際の荷電粒子光学系の動作の際には、推定された局所帯電電位の値から、これに応じた補償量を求めて荷電粒子光学系の動作にフィードバックする。これにより、局所帯電の影響を低減することが可能となる。
【0010】
好適には、上記非点補償手段の動作設定に、上記局所的な電位の推定値あるいは当該推定値から得られる補償量を用いる。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、二次的な帯電の誘起が従来よりも低減された試料表面の局所電位計測手法が実現される。また、当該局所的な帯電の影響が従来よりも低減された荷電粒子線装置が実現される。
【実施例1】
【0012】
本実施例では、まずローカル帯電が発生する原理について説明し、当該ローカル帯電に起因する電位の推定方法について説明する。
【0013】
図1には、ローカル帯電の発生原理およびその影響を示す模式図である。図1(A)に示す基板102上に絶縁体部103および伝導体部104が形成された試料101を考える。試料101上に荷電粒子線105が照射されると、荷電粒子線105の着地位置107から二次電子106が放出される。二次電子が生成すると、試料表面のポテンシャルに応じて二次電子が試料に戻りあるいは離脱するため、荷電粒子線の着地位置107にプラスの電荷とマイナスの電荷の不均衡が生じる。荷電粒子線の照射位置が伝導体であれば、電荷移動により電荷の不均衡は解消されるが、絶縁体の場合は電荷移動が起きにくいため、試料表面は正または負に帯電する。
【0014】
試料表面の特定箇所が帯電すると、帯電箇所を中心にして電位分布が形成され、この電位分布により周囲も新たに帯電する。図1(B)には、初期帯電位置107の近傍位置に二次的な帯電が形成された様子を示す。図1(C)のように、二次帯電位置108に荷電粒子線が照射されると、二次帯電位置108に形成される新たな電位分布により、荷電粒子線が軌道109で示すように曲げられる、あるいは電位分布のもたらすレンズ効果により収差が発生する等の問題が発生する。このような二次帯電は、初期帯電位置107からおおよそ数ナノメートルから数百ミクロンメートル程度の範囲で発生する。
【0015】
現状の荷電粒子線装置、特にリターディング電位を調整して焦点合わせを行う(リターディングフォーカス)荷電粒子線装置においては、観測目標位置(実際の荷電粒子線照射位置)から少し離れた位置に荷電粒子線を照射し、二次電子信号を取得することによりリターディング電位の補償値を決定している。リターディングフォーカスのために照射する荷電粒子線の照射位置は、通常、実際の観測目標位置からイメージシフトの範囲内に収まるような位置が選択される。ステージ移動による照射位置の変更を避けるためである。現状の走査偏向器の性能では、イメージシフトの可能な範囲は高々100ミクロンメートル程度であり、二次帯電の影響が及ばない位置に荷電粒子線を照射することは不可能である。また、イメージシフト範囲を大きくしすぎると、軸外収差の影響により1次荷電粒子線自体に歪みが生じる。従って、二次帯電を抑制しつつ初期帯電位置の帯電量を計測できる技術が求められている。
【0016】
次に、半導体ウェハの帯電モデルに基づき実際の試料の帯電について説明する。図2(A)には半導体ウェハの上面図を、図2(b)には、当該ウェハ上に形成された帯電電位の模式図を示した。図2(B)に示すとおり、ウェハ201上には、ウェハ全面に渡って電位分布202が形成されている。この電位分布202には、ウェハ全体に渡って変動するグローバル帯電成分204と局所的に変動する電位成分205とが重畳している。今のところ学術的な定義は存在しないが、本実施例では、グローバル帯電を電位分布の変動周期が試料全面に渡るもの、あるいは電位変動周期のオーダーが試料の長さ程度(例えば、ウェハの直径の1/2や1/10など)で変動する成分と定義する。一方、ローカル帯電は、グローバル帯電よりも大幅に小さなレンジで変動する電位成分と定義することができる。例えば、電位分布の変動周期が荷電粒子線の走査可能な範囲程度のオーダーのもの、イメージシフト偏向可能な範囲のオーダーのもの、あるいはチップやダイの大きさ程度のものなどである。グローバル帯電よりも大幅に短い周期で変動し、その変動成分をグローバル帯電と分離することが可能であれば、ローカル帯電と定義することが可能である。
【0017】
図2(C)に示すように、グローバル帯電204の電位分布はかなりの対称性を持っている。従って、図2(A)に示すように、ウェハ201上で複数の計測点203を決めて表面電位を測定すれば、得られた表面電位の実測値からグローバル帯電204の電位分布を推定することが可能である。しかしながら、実際の帯電分布202には、ローカル帯電に起因する電位分布205が重畳しており、リターディングフォーカス等、荷電粒子光学系の動作補償値を決定するためには、グローバル帯電以外に、ローカル帯電電位分布の情報の抽出も必要である。
【0018】
次に、ミラー反射状態の原理と、ミラー反射状態で一次荷電粒子線を特定のパターンにフォーカスさせ、特定パターンから放出した荷電粒子を検出することによりローカル帯電の電位計測を行う具体手法について説明する。
【0019】
図3には、ミラー状態を説明するための模式図を示す。今、荷電粒子源301より、加速電圧Vaの一次荷電粒子線が試料300に向かって照射されたものとする。試料には、電源302により荷電粒子線304と同じ極性のリターディング電位Vrが印加されたものとする。Vaで加速された荷電粒子線304は、リターディング電位Vrにより試料直前で減速され試料に到達するが、VaとVrがほぼ同じ大きさの場合には、荷電粒子線304は試料に到達できずに所定の反射面303で反射される。反射面303の位置はリターディング電位Vrの大きさを調整することにより調節することができ、リターディング電位が大きいほど、反射面303は試料表面から遠ざかる。
【0020】
反射面303で反射された荷電粒子308は、一次荷電粒子線304の入射角(試料表面の法線305に対する一次荷電粒子304の入射角)と同じ反射角で反射される。この状態で、一次荷電粒子304を所定の走査範囲306で走査すると、特定パターン310には、荷電粒子308が平行移動した荷電粒子309が当たる。特定パターン310から発生した二次信号311、312は、一次荷電粒子線の走査信号に同期させ検出器307によって検出され、画像化される。検出器で検出される荷電粒子の範囲は、反射面303から検出器310までの距離と、反射面303から特定パターン310までの経路上の拡大倍率で定まる。言い換えれば、ミラー反射状態で検出される画像の大きさは、結像系の拡大倍率が一定であれば、反射面303の高さのみで定まる。逆に言えば、ミラー状態で取得した画像の大きさから、試料上部の反射面303の高さすなわちリターディング電位Vrの大きさを推定することが可能である。
【0021】
なお、実際には、一次荷電粒子線304はある程度のエネルギー分布を持っているため、全ての荷電粒子が同じ反射面で反射される訳ではない。しかしながら、リターディング電位Vrを推定するためには、平均的に反射される反射面高さが分かれば十分である。また、ミラー状態で反射面で反射された一次荷電粒子線の他、一部高エネルギーの荷電粒子は試料表面に到達することにより試料から放出される二次電子や反射電子も含まれる。よって、以下の説明では、ミラー反射状態で検出される二次荷電粒子には、いわゆるミラー反射電子の他、極小数の二次電子や反射電子も含むものとして説明を進める。
【0022】
図4には、ミラー反射状態で検出される荷電粒子線を検出することにより、ローカル帯電の電位を計測する原理を示す模式図である。加速電圧Vaの一次荷電粒子が荷電粒子源401から、帯電した試料402に照射された状態を考える。試料402にはリターディング電源403により、リターディング電圧Vrが印加されている。実際には、試料402には図2(B)に示すようなグローバル帯電の電位分布が重畳されているが、一次荷電粒子線406の照射目標位置のグローバル帯電電位は、既にリターディング電位Vrで補償されているものとする。ローカル帯電の電位分布405が存在しなければ、一次荷電粒子線406は、加速電圧Vaと試料の帯電、リターディング電位Vrで定まる所定のミラー反射面404で反射され、ミラー状態における放出荷電粒子線407として本来の経路を通って検出器へ到達する。しかしながら、ローカル帯電分布405が重畳している場合、一次荷電粒子線は、ローカル帯電電位とミラー反射電位の差分だけずれた位置で反射される。これにより、特定パターン310に到達し放出する荷電粒子線の位置は、ローカル帯電分布が無い場合に比べてΔLだけずれる。よって、このずれ量を計測することにより、ローカル帯電分布(横電界分布)を推定することが可能となる。わかりやすさのため、図4では、反射面404が、ローカル帯電の電位分布よりも低い位置に形成されているように示しているが、反射面404が電位分布405の中に入っていても構わない。
【0023】
以上の実験事実から、ローカル帯電電位を定量的に推定するための以下の手法が提案される。
【0024】
まず、帯電しない試料、例えば表面に何もついてないシリコンウェハや金属基板などを用いて、ミラー状態で検出される画像のずれ量とリターディング電位との関係を求めておく。なお、帯電しない試料におけるずれ量とは、検出される一次荷電粒子の特定パターンへの入射位置のリターディング電位Vrに対する変化量のことである。更にまた、ローカル帯電分布から横電界起因のシフト量を求めるための校正曲線も予め求めておく。
【0025】
以上の予備データを予め求めておき、今度は実際の試料、すなわち絶縁膜が形成された半導体ウェハなどをミラー反射状態におき、一次荷電粒子線を試料上部空間で走査する。検出される特定パターンの像の広がり(二次元分布=画像であればパターン面積、一次元分布=プロファイルデータであればプロファイルの長さ)からローカル帯電による検出位置のずれ量が求まり、更にずれ量からローカル帯電電位を逆算することができる。
【0026】
次に、ローカル帯電電位から、ローカル帯電起因の横電界による一次電子ビームの着地位置のシフト量を計算するための校正曲線の求め方を説明する。図5には、当該校正曲線を求める手段の模式図を示した。試料503に囲まれた一対の絶縁された導電性電極501を用意し、可変電圧源502を用いて当該一対の電極間に電圧を印加する。この一対の電極間の中心位置の電位をVrとし、あるミラー状態を作る。所定の加速電位の荷電粒子線504を照射し特定パターン310上の照射位置を観測する。図示はしていないが、図5において荷電粒子線504の着地位置付近には、二次元電子検出器が配置されている。各ミラー(反射)位置で上記測定を行い、データベース化する。電極間への電位印加により荷電粒子線の着地位置がどれだけずれるかを観測すれば、電位勾配による着地位置のずれ量、すなわちローカル帯電電位の電位勾配に起因するシフト量が求まることになる。
【0027】
図6(A)に、リターディング電位Vrに対するずれ量の依存性カーブを示す。また、図6(B)に、図5に示す方法で求めた、ローカル帯電電位の横電界による一次電子ビームのシフト量に対する依存性カーブとを、それぞれ示す。
【0028】
実用上は、ローカル帯電電位そのものの値ではなく、ローカル帯電により発生する非点や局所的な軸ずれの補償量を求めることが重要である。従って、荷電粒子線504の光軸上に非点補正器や偏向器などを配置しておき、シフト量と併せて、シフト量をキャンセルするような偏向器への印加電圧・電流量、あるいは非点補正器点補正器への印加電圧・電流量を求めておく。これにより、ミラー状態で検出される画像のシフト量から、ローカル帯電起因の非点や軸ずれなどを補正することが可能となる。
【実施例2】
【0029】
本実施例では、実施例1で説明したローカル帯電電位の計測方法を測長SEMに応用した構成について説明する。測長SEMとは、所定の計測対象のSEM画像を取得し、画像上の任意の二点間の距離を画像処理により求める装置で、主として半導体装置の計測分野で広く使用されている。
【0030】
図7には,本実施例の測長SEMの全体構成を示す。本実施例の検査装置は、大まかに言って、試料を格納する試料室726,試料に対して一次電子ビームを照射して、発生する二次荷電粒子(二次電子や反射電子ないしはミラー反射電子など)を検出し、検出結果を信号出力する機能を備えた電子光学系700、試料室726や電子光学系700の各構成要素中の駆動部分に電圧または電流を供給する制御電源の集合体である電源ユニット715、電源ユニットや電子光学系の制御を行う制御部716、検出された二次荷電粒子信号をもとに測長を実行する測長ユニット723、測長結果や二次荷電粒子信号による画像を表示するための表示画面724などにより構成される。
【0031】
電子光学系700は、電子源701、引出電極702、加速電極703等により構成される電子銃と、電子銃下部の電子照射系、および二次荷電粒子の検出系により構成される。電子ビーム(図7では、電子源701から下に向かって伸びる実線で示される。一点鎖線は電子ビーム光軸を示す)は、電子源701と引き出し電極702との間に電圧を印加することにより、電子源701から引き出される。同時に、加速電極703に高電圧の負の電位を印加することにより電子ビームが加速される。
【0032】
電子照射系は、コンデンサレンズ704およびその下部の絞り、筒状電極709、ブースティング電極710、一次電子ビームを試料上に収束するための対物レンズ711、一次電子ビームを試料上の所定範囲内で走査するための走査偏向器707、非点補正器708などにより構成される。コンデンサレンズ704およびその下部の絞りは、一次電子ビームの電流量を調整するために設けられる。筒状電極709は接地されており、一方、その下部のブースティング電極710との間に一次電子ビームを加速する電界を発生させる。ブースティング電極710により加速された一次電子ビームは、対物レンズ711を通過した後、試料台713に印加されるリターディング電位Vr(負の電位)により減速されて試料面に到達する。一次電子ビームの試料上への到達位置は、走査偏向器707により偏向され、これにより二次荷電粒子が発生する。
【0033】
試料表面から発生した二次荷電粒子は、リターディング電位とブースティング電極710の電位とにより形成される電界により、一次電子ビームとは逆の方向に加速される。顔即された二次荷電粒子は、その後、エネルギーフィルタ725を通過して二次荷電粒子検出器705に到達し、二次荷電粒子信号を発生させる。発生した二次荷電粒子信号は、プリアンプ706により増幅され、後段の信号処理系に入力される。なお一次電子ビームの照射系の構成要素と一部重複する要素も含むが、便宜上、本実施例では、検出系を、ブースティング電極710、筒状円筒709、エネルギーフィルタ725、二次電子検出器705などにより構成されるものとする。
【0034】
試料室726には、計測対象試料712を載置する試料台713、試料台をXY面内の所定方向に移動するXYステージ714等が設けられる。試料台714には、電源ユニット715からリターディング電圧が供給される。
【0035】
以上説明した電子銃、電子光学系、検出系の各構成要素は、制御部716により制御される。制御部716は、電子光学系の各ユニットを制御する複数のサブシステムからなり、例えば、電子銃制御装置717、電子光学系制御装置719、ステージ制御装置720、二次荷電粒子信号を処理する情報処理装置718等により構成される。各サブシステムはまた、各制御電源と共同して、電子銃制御系715、電子光学系制御系722等を構成する。また、電子光学系700、試料室726は、いずれも真空容器内に格納されているものとする。
【0036】
プリアンプ706により増幅された二次荷電粒子信号は、情報処理装置718へ入力される。情報処理装置718は、二次荷電粒子検出器705の信号読み出しを一次電子ビームの走査のタイミングと連動して行うよう制御する。情報処理装置718へ入力された二次荷電粒子信号は、AD変換されてデジタルデータに変換され、以降、情報処理装置718内での信号処理は、デジタル信号処理として実行される。なお、AD変換器をプリアンプ706の直ぐに後段に配置し、プリアンプ706による増幅の直後にAD変換を実行してもよい。
【0037】
図8には、図7の装置の動作フローを示した。本実施例では、計測対象試料として、配線パターンが形成された半導体ウェハを用いた例について説明するが、当然ながら本実施例の適用対象は、半導体ウェハに限られるものではない。
【0038】
ステップ801で試料室726に試料が搬入される。ステップ802で、ステージ移動により、ウェハ上の計測箇所を一次電子ビームの照射位置に移動する。ステップ803でウェハアライメントが実行され、電子光学系制御系722のもつXYZ座標系と、ウェハ上の実座標を一致させる。ステップ804で一次電子ビームの照射光学条件が設定される。同時に、実施例1で説明した予備データの読み出し動作805が実行され、非点補正量やリターディング電位の補正量などが計算される。
【0039】
その後、画像取得ステップ806が実行され、ウェハ上の計測箇所の高倍画像が取得される。画像取得ステップ806は、厳密には、オートフォーカス807と低倍画素情報取得ステップ808、およびオートフォーカス809と高倍画素情報取得ステップ811により構成される。計測箇所の画素情報を取得すると、画像演算処理による測長ステップ811が実行される。目標箇所の計測が終了すると、測長を終了するかどうかの判定ステップ812が実行され、全ての計測点の測長が終了した場合には、ウェハ搬出ステップ813に進み、次の計測点がまだ残っている場合には、ステップ802に戻って、ステージ移動による次の計測位置への移動が実行される。
【0040】
次に、図9を用いて、ミラー状態で検出された二次荷電粒子を用いてローカル帯電電位を計測するためのフローについて説明する。なお、図9に示すフローは、図8の光学条件設定ステップ804で実行される動作の一部を詳細に説明したものである。
【0041】
最初のステップ902〜905では、ミラー反射状態で取得される画像の画像調整ステップが実行される。ステップ901でフローが開始されると、ステップ902で電子銃の加速電圧V0が設定され、一次電子ビームの照射条件が決められる。次に、ステップ903でリターディング電位Vrの値がそれぞれ設定される。ここで、最初に設定されるVrの値は初期値であり、後段のステップで所望倍率でミラー電子を得るための微調整が実行され、最終的な値に決定される。
【0042】
ステップ904では、ミラー状態におかれた一次電子ビームを走査し、特定パターンの二次信号像のフォーカス調整動作が実行される。ステップ904では、対物レンズ711を調整することにより、フォーカス調整が実行された。ここで焦点深度の深い光学条件を使ってフォーカス調整を行わなくてもよい。本実施例では、ミラー状態で取得する画像として、エネルギーフィルタ725の画像を用いた。エネルギーフィルタは、光軸上に配置された金属メッシュにより構成されており、二次荷電粒子がエネルギーフィルタを通過すると、メッシュの形状のをそのまま投影した像が二次荷電粒子検出器705で検出される。但し、二次荷電粒子検出器705は、一次電子ビームが通過するための開口を有しているため、実際に二次荷電粒子検出器705で検出される像は、メッシュの形状の投影像と二次電子検出器の開口の陰が合成された像となる。
【0043】
ステップ905では、ステップ904で検出された画像の倍率が所望の大きさになっているかどうかの判定動作が実行される。ミラー状態で試料から放射される二次荷電粒子の拡大倍率は、二次荷電粒子の反射面の高さ、すなわちリターディング電位により変化する。従って、倍率が所望の値になっていない場合には、フローはステップ903に戻り、Vrの値が再設定される。再設定後は、ステップ904でのフォーカス調整と予備画像取得動作が実行され、ステップ905の倍率判定ステップが実行される。倍率が所望の値になっていれば、フローはステップ906に進み、そうでない場合には、ステップ903から905が繰り返される。
【0044】
倍率調整が終わると、ステップ906で、ウェハ実電位の一次電子ビームが試料に照射され、エネルギーフィルタのミラー電子像が取得される。取得されたミラー像は、図8のステップ805で呼び出された予備データに含まれる帯電のない試料のミラー像と比較され、画像のずれ量が計算される。図10(A)に、予備データとして求めた基準画像(帯電が無い試料に対するミラー画像)と、ステップ906で求めたミラー画像の例を示す。Aで示した図が基準画像、Bが帯電がある実ウェハをミラー状態において得られた画像である。丸い実線がエネルギーフィルタの輪郭に相当し、中心部の黒い丸が二次電子検出器の開口に相当する。基準画像における開口の中心座標(x0,y0)が、帯電がある場合には(x1,y1)に移動していることが分かる。この2つの座標の差分(δxb,δyb)=(x1-x0, y1- y0)がずれ量に相当する。計算されたずれ量は、予備データとして求めたずれ量−リターディング電位の校正曲線と比較され、この比較演算により、一次電子ビームが実際に感じているウェハの表面電位Vr'が算出される。この表面電位とウェハに印加したリターディング電位Vrの差Vr'−Vrを計算することにより試料表面のローカル帯電電位を算出することができる。
【0045】
次に、ステップ907で、図6の校正曲線と求めたローカル帯電電位量とを比較して、横電界により発生する一電子ビーム着地位置の座標変化量(δxb、δyb)を求める。その後、ステップ908で、座標変化量(δxb、δyb)から、非点補正量、一次電子ビームのアライメント補正量、対物レンズ補正量を計算する。各補正量は、例えば校正テーブルのような形式で情報処理装置718に格納されている。図10(B)には、情報処理装置718内に記憶されている校正テーブルの一例について示した。非点補正器および一次電子ビームアライメント用偏向器への印加電流補正量、印加電圧補正量と、対物レンズの励磁電流補正量が、シフト量(δxb、δyb)と対になってテーブルに格納されている。情報処理装置718内の演算装置は、図10(B)のテーブルを参照して各補正量を算出する。算出された補正量は、ステップ909で電子光学系制御装置719へ伝達され、電子光学系制御系722により制御される各制御電源は、伝達された各補正量をもとにカラムの各構成部の動作電圧や電流を調整する。
【0046】
以上のステップを経て電子光学系の調整が終了すると、実際に計測に用いる画素情報の取得ステップ910が実行される。本ステップは、図8の画像取得ステップ806と同じステップであり、実際には、計測位置の視野中心を求めるための低倍画像取得ステップや計測に用いる高倍画像の取得ステップなどにより構成される。画素情報が取得されると測長ユニット723により画素演算が実行され、計測位置の測長が行われる(ステップ911)。
【0047】
目標位置での計測が終了するとステップ912に進み、測定継続の要否判定ステップが実行される。更に計測を実行する場合には、ビーム校正の要否判定ステップ913が実行される。同時に、図8のステップ802が実行され、ステージ移動により次の計測位置を一次電子ビームの照射位置に移動する。ビーム校正が不要である場合には、ステージの移動先で画像取得ステップ910が実行される。再度のビーム校正が必要である場合には、ステップ903に戻り、ステップ903〜910の動作が繰り返される。ステップ912で、計測の継続が不要であった場合には、計測は終了する。
【0048】
本実施例で説明した装置により、電子線照射による試料ダメージが非常に少ない、ローカル帯電電位の測定機能を有する測長SEMが実現される。また、ローカル帯電起因の横電界による非点や一次電子ビームによる軸ずれの影響を抑制可能な測長SEMが実現される。これにより、測長再現性に優れ、かつ電子線照射による試料ダメージが非常に少ない測長SEMを実現することが可能となる。
【0049】
なお、本実施例ではエネルギーフィルタの画像を用いてずれ量を算出したが、二次荷電粒子の反射板など電子光学系に備わった別の構造物の画像や、或いは試料に設けられた特定の計測点の画像を用いてずれ量を算出しても本実施例の効果が得られることは明らかである。また、本実施例の構成は、測長SEMに限らず、外観検査装置やレビューSEMなど、帯電により問題の発生しやすい電子線応用装置全般に適用できることは言うでもない。
【実施例3】
【0050】
本実施例では、SEM式外観検査装置の構成例について説明する。SEM式検査装置は、配線やコンタクトホールなどの回路パターンが形成された半導体ウェハ表面のSEM画像を取得し、取得画像の比較演算によって、異物や電気欠陥などの不良箇所を検出する装置であって、半導体装置の製造ラインなどで広く使用されている。
【0051】
図11には、本実施例のSEM式検査装置のシステム構成の模式図を示す。全体的な構成については、図7に示した測長SEMの構成との共通部分が多いため、共通部分の動作や機能については説明を省略する。以下、図11を説明する。
【0052】
本実施例のSEM式検査装置は、大まかに、試料室1124,電子光学系1100、電源ユニット1116、制御部1117、検出された二次荷電粒子信号をもとに欠陥位置の検出を行う画像演算ユニット1125、検査結果や二次荷電粒子信号による画像を表示するための表示画面1126などにより構成される。
【0053】
電子光学系1100は、電子源1101、引出電極1102、加速電極1103等により構成される電子銃と、電子銃下部の電子照射系、および二次荷電粒子の検出系により構成される。
【0054】
電子照射系は、コンデンサレンズ1104およびその下部の絞り、一次電子ビームを試料上の所定範囲内で走査するための走査偏向器1107、非点補正器1108、一次電子ビームを試料上に収束するための対物レンズ1110、一次電子ビームの照射位置にフラッドビーム(集束されていない電子ビーム)を照射するフラッドガン1111、対物レンズ1110の下部に配置された帯電制御電極1112などにより構成される。図7の装置と同様、試料台1114には、リターディング電位Vrが印加されている。
【0055】
試料表面から発生した二次荷電粒子は、反射部材1109に衝突して副次粒子(三次荷電粒子と呼ばれる場合もある)を生成する。生成した副次粒子は、更に二次電子検出器1105に到達して、二次荷電粒子信号として検出される。発生した二次荷電粒子信号は、プリアンプ1106により増幅され、後段の信号処理系に入力される。なお、実際には、対物レンズ1110と反射部材1109の間に、一次電子ビームと二次荷電粒子の軌道を分離するためのE×B偏向器が配置されているが、複雑になるため図11では図示を省略した。また、本実施例では、検出系は、E×B偏向器、反射部材1109、二次電子検出器1105などにより構成されるものとする。
【0056】
試料室1124には、検査試料1113を載置する試料台1114、試料台をXY面内の所定方向に移動するXYステージ1115等が設けられる。試料台1114には、電源ユニット1116からリターディング電圧が供給される。
【0057】
電子銃、電子光学系、検出系の各構成要素を制御する制御部1116は、電子銃制御装置1118、電子光学系制御装置1120、ステージ制御装置1121二次荷電粒子信号を処理する情報処理装置1119などのサブシステムにより構成される。各サブシステムはまた、各制御電源と共同して、電子銃制御系1122、電子光学系制御系1123等を構成する。また、電子光学系1100、試料室1124は、いずれも真空容器内に格納される。
【0058】
本実施例のSEM式検査装置は、画像取得領域の帯電電位を制御する機能を備えている。この機能は、制御電極1112に所望の電圧を印加した状態でフラッドガン1111からフラッドビームを試料に照射することにより実現される。フラッドビームの出力、すなわちフラッドガン1111の駆動電圧や帯電制御電極1112への印加電圧は、電子光学系制御装置1120により制御される。
【0059】
次に、図11に示す装置の全体動作について説明する。図12には、図11のSEM式検査装置の動作フローを示した。本実施例では、計測対象試料として、配線パターンが形成された半導体ウェハを用いた例について説明するが、本実施例の適用対象は、半導体ウェハに限られるものではない。
【0060】
ステップ1201で試料室1124に試料が搬入される。ステップ1202で、ウェハアライメントが実行され、電子光学系制御系1123のもつXYZ座標系と、ウェハ上の実座標とを一致させる。ステップ1203で一次電子ビームの照射光学条件が設定され、フォーカスマップおよび帯電制御マップ生成のための画像データ取得が実行される。このとき、試料の表面電位算出やフォーカスマップ・帯電制御マップ生成のための予備データの読み出し動作1204が実行される。同時に、非点補正量やリターディング電位の補正量などが計算される。
【0061】
ここで、フォーカスマップとは、試料上の各点でのフォーカス調整量を試料表面全体にマッピングしたデータであり、具体的には対物レンズの励磁電流値と、リターディング電圧値とを試料上の座標と対にして格納したデータテーブルのことである。また、帯電制御マップとは、フォーカスマップに格納されたデータと同じ座標で、帯電制御電極への印加電圧とフラッドガンの駆動電圧をフォーカスマップに格納されたデータと同じ座標に対してマッピングしたデータテーブルである。理想的には、検査を実行すべき全ての点に対してフォーカス調整量と帯電制御量のデータを持っているのが望ましいが、検査を実行するためのオーバーヘッド時間が大きくなりすぎるので、通常は、試料上に間欠的に設けられた所定の評価点に対してのみフォーカスマップや帯電制御マップを作成する。例えば、回路パターンの材質やウェハの種類によっては、ローカル帯電に起因して、試料上の特定領域の帯電電位がグローバル帯電の電位分布から予測される帯電電位から大きく外れることがある。そのような領域が予め分かっている場合には、そのような領域でのみ帯電制御マップを生成する、あるいは、そのような領域では計測点の数を他の領域よりも増やしてフォーカスマップないし帯電制御マップを生成すると効率的である。なお、実施例1の装置と同様、非点補正量、一次電子ビームのアライメント補正量、対物レンズ補正量も計算して、フォーカスマップのデータに組み入れてもよい。
【0062】
フォーカスマップおよび帯電制御マップが生成されると、画像データの取得ステップ1207が実行される。画像取得ステップ1207が、オートフォーカスステップ1208と低倍画素情報取得ステップ1209、およびオートフォーカスステップ1210と高倍画素情報取得ステップ1211により構成される。検査箇所の画素情報を取得すると、画像比較演算処理による検査ステップ1212が実行され、更に検査を終了するかどうかの判定ステップ1213が実行される。全ての箇所の検査が終了した場合には、ウェハ搬出ステップ1214に進み、次の検査位置がまだ残っている場合には、ステップ1206に戻り、以降、ステップ1206〜1213の各ステップが繰り返される。
【0063】
次に、図13を用いて、図12の光学条件設定ステップ1203とフォーカスマップ・帯電制御マップ1205の詳細について説明する。
【0064】
ステップ1301〜1305は、ミラー反射状態で取得される画像の画質調整ステップであり、実施例1と同様であるので、説明を省略する。なお、本実施例のSEM式検査装置では、ステップ1304のフォーカス調整を帯電制御電極1112の印加電圧を調整することにより行った。また、ミラー状態で取得する画像としては反射部材1109の画像を用いた。反射部材は、光軸上に配置された金属部材であり、一次電子ビームを通過させるための開口が設けられている。ミラー状態で引き戻された荷電粒子が反射部材の底面に衝突すると、開口部が陰となった像が二次荷電粒子検出器1105に検出される。本実施例のSEM式検査装置では、この陰のずれ量を求めることにより、一次電子ビーム照射位置のローカル帯電量を推定する。なお、実施例1同様、電子光学系の他の構成部品の画像や試料に設けられた特定の評価点の画像を用いてずれ量を算出しても良い。
【0065】
ステップ1305は、ステップ1304で検出された画像の倍率ステップであり、実施例1の装置と同じである。
【0066】
倍率調整が終了すると、帯電電位の算出ステップ1306が実行される。このステップでは、ミラー状態に設定された試料に対して一次電子ビームが照射され、反射部材1109のミラー電子像が取得される。取得されたミラー像は、図12のステップ1204で呼び出された予備データに含まれる帯電のない試料のミラー像と比較され、画像のずれ量が計算される。図10(A)と同じ要領で、実測画像と基準画像のずれ量を計算し、ずれ量−リターディング電位の校正曲線と比較し、更に、試料の表面電位とリターディング電位Vrの差分量Vr'−Vrを計算して、計測点でのローカル帯電電位を算出する。
【0067】
ついでステップ1307で、算出したローカル帯電電位と試料各点での帯電制御目標値とを比較して、帯電制御電極に与える電位(実際には帯電制御電極の印加電位とリターディング電位との差分量)と、フラッドガンの出力(電子ビームの照射エネルギーであり、フラッドビームの加速電圧により制御可能)とを決定する。決定された帯電制御電極の印加電圧値とフラッドガンの制御量は、データテーブルの形で情報処理装置1119に格納される。前述の通り、このステップで非点補正量、一次電子ビームのアライメント補正量、対物レンズ補正量も計算して、フォーカスマップのデータに組み入れてもよい。ステップ1308では、次の評価位置があるかどうかの判定ステップが実行され、以上、1303〜1308のループが繰り返されることにより、フォーカスマップないしは帯電制御マップが生成される。
【0068】
フォーカスマップないしは帯電制御マップが生成されると、検査画像の取得ステップ1309が実行される。実際には、ステップ1308とステップ1309の間に、図12のステップ1206に相当するステージ移動ステップが入るが、図13では省略した。
【0069】
ステージ移動が終了すると、帯電制御処理が必要かどうかの判定ステップが実行される。ウェハの位置によっては、帯電電位が既に目標値に等しくなっている箇所があるためである。帯電制御処理が必要な場合には、帯電制御処理ステップ1311が実行され、情報処理装置1119に格納されたフォーカスマップおよび帯電制御マップが参照される。情報処理装置1119は参照したデータを電子光学系制御装置1120に伝達し、その後、各制御電源により、所定電圧がフラッドガン1111と帯電制御電極1112へ供給される。
【0070】
フラッドビーム照射による帯電制御が終了すると、ステップ1312で一次電子ビームが試料に照射され、二次荷電粒子画像信号が検出される。検出された二次荷電粒子画像信号は、プリアンプ1106を経て情報処理装置1119に転送される。情報処理装置1119は、転送された検出信号を走査偏向器1107の走査偏向信号と同期して、所定の走査範囲の画像データを生成する。生成された画像データは画像演算ユニット1125へ更に転送され、画素演算により比較検査処理が実行される。検査の結果、不良と判定された場合は、当該検査箇所の座標情報が、画像演算ユニット1125内部の記憶装置に格納される。本ステップは、図12のステップ1212と同じであり、図12のステップ1213へ続く。ステップ1213以降の工程は、既に図12で説明しているので、説明は省略する。
【0071】
本実施例の装置により、不良箇所の検出率が高く、かつ電子線照射による試料ダメージが非常に少ないSEM式外観検査装置を実現することが可能となる。従来のSEM式外観検査装置においては、試料表面の帯電電位を試料交換室やアライナ位置に配置した表面電位計などにより計測していたため、グローバル帯電起因のフォーカスマップや帯電電位マップしか得ることができなかった。そのため、試料の特定箇所がグローバル帯電から予測される試料表面電位が、ローカル帯電により大きくずれた場合などに、それを検知する手段が無かった。従って、目標帯電電位とはずれた条件で試料検査を実行せざるを得ず、その結果、欠陥捕捉率が低く、虚報も多かった。
【0072】
本実施例の装置により、試料の表面電位を影響することなくローカル帯電電位を測定可能なSEM式外観検査装置が実現されるため、帯電制御手段の設定値を、実際の試料の表面電位に合わせて設定することが可能となる。よって、不良箇所の捕捉率が高く、かつ試料ダメージが非常に少ないSEM式外観検査装置が実現される。なお、実施例1同様、本実施例の装置構成が、SEM式外観検査装置に限らず、帯電による問題の発生しうる荷電粒子線応用装置全般に適用できることは言うでもない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】ローカル帯電による横電界の発生原理を示す模式図。
【図2】半導体ウェハの帯電モデル図。
【図3】ミラー状態を示す原理図。
【図4】帯電によるミラー反射位置の変動を説明する模式図。
【図5】ローカル帯電によるシフト量を求めるための装置構成図。
【図6】ずれ量とリターディング電位、およびシフト量とローカル帯電電位の校正曲線。
【図7】実施例1の測長SEMのシステム構成を示す模式図。
【図8】実施例1の測長SEMの全体動作フロー
【図9】ミラー電子検出によりローカル帯電電位を計測するための動作フロー
【図10】ミラー画像の典型例と校正テーブルの例
【図11】実施例2のSEM式外観検査装置のシステム構成を示す模式図。
【図12】実施例2のSEM式外観検査装置の全体動作フロー
【図13】ミラー電子検出によりフォーカスマップと帯電制御マップを生成するための動作フロー。
【符号の説明】
【0074】
101…試料,102…基板,103…絶縁体部,104…伝導体部,105…荷電粒子線,106…二次電子,107…荷電粒子の着地位置,108…二次帯電位置,109…荷電粒子線軌道,201…ウェハ,202…電位分布,203…ウェハ上の電位計測点,204…グローバル帯電の電位分布,205…局所的に変動する電位成分,301…荷電粒子源,302…電源,303…ミラー反射面,304…荷電粒子線,305…試料表面の法線 ,306…一次荷電粒子の走査範囲,307…検出器,308…荷電粒子,309…荷電粒子,310…特定パターン,311…特定パターンから放出した二次信号,312…特定パターンから放出した二次信号,401…荷電粒子源,402…試料,403…リターディング電源,404…ミラー反射面,405…ローカル帯電の電位分布,406…一次荷電粒子線,407…ミラー状態における放出荷電粒子線,408…ミラー状態における放出荷電粒子線,501…導電性電極,502…可変電圧源,503…試料,504…荷電粒子線,700…電子光学系,701…電子源,702…引き出し電極,703…加速電極,704…コンデンサレンズ,705…二次電子検出器,706…プリアンプ,707…走査偏向機,708…非点補正器,709…筒状円筒,710…ブースティング電極,711…対物レンズ,712…試料,713…試料台,714…XYステージ,715…電源ユニット,716…制御部,717…電子銃制御装置,718…情報処理装置,719…電子光学系制御装置,720…ステージ制御装置,721…電子銃制御系,722…電子光学系制御系,723…測長ユニット,724…表示用画面,725…エネルギーフィルタ,726…試料室,1100…電子光学系,1101…電子源,1102…引き出し電極,1103…加速電極,1104…コンデンサレンズ,1105…二次電子検出器,1106…プリアンプ,1107…走査偏向器,1108…非点補正器 ,1109…反射部材,1110…対物レンズ,1111…フラッドガン,1112…帯電制御電極,1113…試料,1114…試料台,1115…特XYステージ,1116…電源ユニット,1117…制御部,1118…電子銃制御装置,1119…反射部材,1120…電子光学系制御装置,1121…ステージ制御装置,1122…電子銃制御系,1123…電子光学系制御系,1124…試料室,1125…画像演算ユニット,1126…表示用画面。
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板や液晶基板、あるいは微細な回路パターンが形成された基板ないしチップ等の試料の検査・計測技術に係り、特に、荷電粒子線を試料に照射し、得られる二次電子ないし反射電子の分布データを基に前記試料の検査・計測を行う検査・計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子線装置やイオンビーム装置など、荷電粒子線を試料に照射して検査・計測を行う装置においては、一次荷電粒子線照射による帯電の問題は古くからの解決課題である。絶縁体材料を含む試料、例えば、レジストがコーティングされた半導体基板、層間絶縁膜上に形成された配線パターンを含む試料などに荷電粒子線を照射すると、試料が帯電し、当該帯電電位により一次荷電粒子線の軌道が曲がる、フォーカスが合わない、あるいは非点収差が発生するなどの現象が発生する。このような現象が発生すると、試料の表面形状や材料分布を正しく反映した二次電子/反射電子の分布データが得られないため、正確な検査・計測を行うことができない。この問題は、半導体の配線幅や液晶駆動用トランジスタのサイズなど、検査・計測対象のサイズが小さくなるにつれ深刻化している。
【0003】
これに対し、特許文献1には、試料に印加するリターディング電位を帯電を相殺するような値に調整し、これにより得られる走査電子画像の画質変動を抑制する技術が開示されている。また、特許文献2には、試料表面の荷電マップを計算し、一次荷電粒子線の照射位置の帯電電位に応じて照射電子線の着地エネルギーを最適化して、一次荷電粒子線のフォーカス調整を行う技術が開示されている。また、特許文献3には、エネルギーフィルタを用いて二次電子のS次カーブを取得することにより、試料表面の局所的な電位を計測する技術が開示されている。局所帯電電位の計測値は、走査偏向器の偏向信号設定にフィードバックされ、偏向信号の強度を調整することにより画像倍率を変え、局所帯電の影響を除去する。また、特許文献3に記載の発明によれば、帯電には大域帯電と局所帯電の2種が存在し、大域帯電は荷電粒子線のフォーカスに、局所帯電は荷電粒子線の倍率に大きな影響を及ぼし、これらを分離計測する必要がある。
【0004】
一方、特許文献4には、荷電粒子ビームの加速エネルギーとほぼ同じ電位が印加された試料に対して面ビームを照射し、この状態で試料から面反射される荷電粒子線を結像して試料の検査を行う発明が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−125271号公報
【特許文献2】特開2001−236915号公報
【特許文献3】再公表特許2003/007330号公報
【特許文献4】特開2003−202217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1から3に記載された発明は、いずれも帯電量を計測し、その測定結果に基づいて装置条件を調整する技術に関する発明であるが、帯電量を測定するために、荷電粒子線を試料に照射しなければならない。例えば、特許文献1に記載の発明では、照射する一次電子線の電流量を元に試料のチャージアップ電位を推定し、また特許文献2に記載の発明では、一次電子線を試料に照射して得られる映像信号を基に試料の表面電位を推定している。更にまた、特許文献3に記載の発明では、エネルギーフィルタによりS字カーブを取得して帯電電位を推定しているが、S字カーブを取得するためには二次電子を検出しなければならない。荷電粒子線が試料に到達してしまえば、試料表面には照射による二次的な帯電が誘起され、ビーム照射前の帯電量を測定することが困難となる。
【0007】
そこで本発明の目的の一つは、ローカル帯電に起因して発生する試料の局所的な電位あるいは電位勾配を、荷電粒子線照射による二次的な帯電の誘起を抑制しつつ、従来よりも正確に推定する手段を提供することにある。
一方、研究の進展により、ローカル帯電は倍率へ影響するのみならず、非点収差や軸ずれなど、荷電粒子光学系の動作に影響を及ぼすことが分かってきた。そこで、本発明の他の目的の一つは、ローカル帯電が及ぼす荷電粒子光学系への影響を補償する方法およびそのような動作条件で動作しうる荷電粒子線装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、一次荷電粒子線への印加電位を調整することにより、試料表面に一次荷電粒子線が到達しない状態(以下、ミラー反射状態と呼ぶ)を形成し、引き戻された一次荷電粒子線を検出し解析することにより、試料表面の局所的な電位を推定する。ミラー状態におかれた試料に対しては一次荷電粒子線が到達しないので、二次帯電を誘起することなく、正確な表面電位の値が得られる。
【0009】
また、試料に局所的な帯電電位が存在すると、一次荷電粒子線の試料上での着地位置が正常な位置からずれる。従って、ずれ量に応じた荷電粒子光学系の補償量を予め求めておき、実際の荷電粒子光学系の動作の際には、推定された局所帯電電位の値から、これに応じた補償量を求めて荷電粒子光学系の動作にフィードバックする。これにより、局所帯電の影響を低減することが可能となる。
【0010】
好適には、上記非点補償手段の動作設定に、上記局所的な電位の推定値あるいは当該推定値から得られる補償量を用いる。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、二次的な帯電の誘起が従来よりも低減された試料表面の局所電位計測手法が実現される。また、当該局所的な帯電の影響が従来よりも低減された荷電粒子線装置が実現される。
【実施例1】
【0012】
本実施例では、まずローカル帯電が発生する原理について説明し、当該ローカル帯電に起因する電位の推定方法について説明する。
【0013】
図1には、ローカル帯電の発生原理およびその影響を示す模式図である。図1(A)に示す基板102上に絶縁体部103および伝導体部104が形成された試料101を考える。試料101上に荷電粒子線105が照射されると、荷電粒子線105の着地位置107から二次電子106が放出される。二次電子が生成すると、試料表面のポテンシャルに応じて二次電子が試料に戻りあるいは離脱するため、荷電粒子線の着地位置107にプラスの電荷とマイナスの電荷の不均衡が生じる。荷電粒子線の照射位置が伝導体であれば、電荷移動により電荷の不均衡は解消されるが、絶縁体の場合は電荷移動が起きにくいため、試料表面は正または負に帯電する。
【0014】
試料表面の特定箇所が帯電すると、帯電箇所を中心にして電位分布が形成され、この電位分布により周囲も新たに帯電する。図1(B)には、初期帯電位置107の近傍位置に二次的な帯電が形成された様子を示す。図1(C)のように、二次帯電位置108に荷電粒子線が照射されると、二次帯電位置108に形成される新たな電位分布により、荷電粒子線が軌道109で示すように曲げられる、あるいは電位分布のもたらすレンズ効果により収差が発生する等の問題が発生する。このような二次帯電は、初期帯電位置107からおおよそ数ナノメートルから数百ミクロンメートル程度の範囲で発生する。
【0015】
現状の荷電粒子線装置、特にリターディング電位を調整して焦点合わせを行う(リターディングフォーカス)荷電粒子線装置においては、観測目標位置(実際の荷電粒子線照射位置)から少し離れた位置に荷電粒子線を照射し、二次電子信号を取得することによりリターディング電位の補償値を決定している。リターディングフォーカスのために照射する荷電粒子線の照射位置は、通常、実際の観測目標位置からイメージシフトの範囲内に収まるような位置が選択される。ステージ移動による照射位置の変更を避けるためである。現状の走査偏向器の性能では、イメージシフトの可能な範囲は高々100ミクロンメートル程度であり、二次帯電の影響が及ばない位置に荷電粒子線を照射することは不可能である。また、イメージシフト範囲を大きくしすぎると、軸外収差の影響により1次荷電粒子線自体に歪みが生じる。従って、二次帯電を抑制しつつ初期帯電位置の帯電量を計測できる技術が求められている。
【0016】
次に、半導体ウェハの帯電モデルに基づき実際の試料の帯電について説明する。図2(A)には半導体ウェハの上面図を、図2(b)には、当該ウェハ上に形成された帯電電位の模式図を示した。図2(B)に示すとおり、ウェハ201上には、ウェハ全面に渡って電位分布202が形成されている。この電位分布202には、ウェハ全体に渡って変動するグローバル帯電成分204と局所的に変動する電位成分205とが重畳している。今のところ学術的な定義は存在しないが、本実施例では、グローバル帯電を電位分布の変動周期が試料全面に渡るもの、あるいは電位変動周期のオーダーが試料の長さ程度(例えば、ウェハの直径の1/2や1/10など)で変動する成分と定義する。一方、ローカル帯電は、グローバル帯電よりも大幅に小さなレンジで変動する電位成分と定義することができる。例えば、電位分布の変動周期が荷電粒子線の走査可能な範囲程度のオーダーのもの、イメージシフト偏向可能な範囲のオーダーのもの、あるいはチップやダイの大きさ程度のものなどである。グローバル帯電よりも大幅に短い周期で変動し、その変動成分をグローバル帯電と分離することが可能であれば、ローカル帯電と定義することが可能である。
【0017】
図2(C)に示すように、グローバル帯電204の電位分布はかなりの対称性を持っている。従って、図2(A)に示すように、ウェハ201上で複数の計測点203を決めて表面電位を測定すれば、得られた表面電位の実測値からグローバル帯電204の電位分布を推定することが可能である。しかしながら、実際の帯電分布202には、ローカル帯電に起因する電位分布205が重畳しており、リターディングフォーカス等、荷電粒子光学系の動作補償値を決定するためには、グローバル帯電以外に、ローカル帯電電位分布の情報の抽出も必要である。
【0018】
次に、ミラー反射状態の原理と、ミラー反射状態で一次荷電粒子線を特定のパターンにフォーカスさせ、特定パターンから放出した荷電粒子を検出することによりローカル帯電の電位計測を行う具体手法について説明する。
【0019】
図3には、ミラー状態を説明するための模式図を示す。今、荷電粒子源301より、加速電圧Vaの一次荷電粒子線が試料300に向かって照射されたものとする。試料には、電源302により荷電粒子線304と同じ極性のリターディング電位Vrが印加されたものとする。Vaで加速された荷電粒子線304は、リターディング電位Vrにより試料直前で減速され試料に到達するが、VaとVrがほぼ同じ大きさの場合には、荷電粒子線304は試料に到達できずに所定の反射面303で反射される。反射面303の位置はリターディング電位Vrの大きさを調整することにより調節することができ、リターディング電位が大きいほど、反射面303は試料表面から遠ざかる。
【0020】
反射面303で反射された荷電粒子308は、一次荷電粒子線304の入射角(試料表面の法線305に対する一次荷電粒子304の入射角)と同じ反射角で反射される。この状態で、一次荷電粒子304を所定の走査範囲306で走査すると、特定パターン310には、荷電粒子308が平行移動した荷電粒子309が当たる。特定パターン310から発生した二次信号311、312は、一次荷電粒子線の走査信号に同期させ検出器307によって検出され、画像化される。検出器で検出される荷電粒子の範囲は、反射面303から検出器310までの距離と、反射面303から特定パターン310までの経路上の拡大倍率で定まる。言い換えれば、ミラー反射状態で検出される画像の大きさは、結像系の拡大倍率が一定であれば、反射面303の高さのみで定まる。逆に言えば、ミラー状態で取得した画像の大きさから、試料上部の反射面303の高さすなわちリターディング電位Vrの大きさを推定することが可能である。
【0021】
なお、実際には、一次荷電粒子線304はある程度のエネルギー分布を持っているため、全ての荷電粒子が同じ反射面で反射される訳ではない。しかしながら、リターディング電位Vrを推定するためには、平均的に反射される反射面高さが分かれば十分である。また、ミラー状態で反射面で反射された一次荷電粒子線の他、一部高エネルギーの荷電粒子は試料表面に到達することにより試料から放出される二次電子や反射電子も含まれる。よって、以下の説明では、ミラー反射状態で検出される二次荷電粒子には、いわゆるミラー反射電子の他、極小数の二次電子や反射電子も含むものとして説明を進める。
【0022】
図4には、ミラー反射状態で検出される荷電粒子線を検出することにより、ローカル帯電の電位を計測する原理を示す模式図である。加速電圧Vaの一次荷電粒子が荷電粒子源401から、帯電した試料402に照射された状態を考える。試料402にはリターディング電源403により、リターディング電圧Vrが印加されている。実際には、試料402には図2(B)に示すようなグローバル帯電の電位分布が重畳されているが、一次荷電粒子線406の照射目標位置のグローバル帯電電位は、既にリターディング電位Vrで補償されているものとする。ローカル帯電の電位分布405が存在しなければ、一次荷電粒子線406は、加速電圧Vaと試料の帯電、リターディング電位Vrで定まる所定のミラー反射面404で反射され、ミラー状態における放出荷電粒子線407として本来の経路を通って検出器へ到達する。しかしながら、ローカル帯電分布405が重畳している場合、一次荷電粒子線は、ローカル帯電電位とミラー反射電位の差分だけずれた位置で反射される。これにより、特定パターン310に到達し放出する荷電粒子線の位置は、ローカル帯電分布が無い場合に比べてΔLだけずれる。よって、このずれ量を計測することにより、ローカル帯電分布(横電界分布)を推定することが可能となる。わかりやすさのため、図4では、反射面404が、ローカル帯電の電位分布よりも低い位置に形成されているように示しているが、反射面404が電位分布405の中に入っていても構わない。
【0023】
以上の実験事実から、ローカル帯電電位を定量的に推定するための以下の手法が提案される。
【0024】
まず、帯電しない試料、例えば表面に何もついてないシリコンウェハや金属基板などを用いて、ミラー状態で検出される画像のずれ量とリターディング電位との関係を求めておく。なお、帯電しない試料におけるずれ量とは、検出される一次荷電粒子の特定パターンへの入射位置のリターディング電位Vrに対する変化量のことである。更にまた、ローカル帯電分布から横電界起因のシフト量を求めるための校正曲線も予め求めておく。
【0025】
以上の予備データを予め求めておき、今度は実際の試料、すなわち絶縁膜が形成された半導体ウェハなどをミラー反射状態におき、一次荷電粒子線を試料上部空間で走査する。検出される特定パターンの像の広がり(二次元分布=画像であればパターン面積、一次元分布=プロファイルデータであればプロファイルの長さ)からローカル帯電による検出位置のずれ量が求まり、更にずれ量からローカル帯電電位を逆算することができる。
【0026】
次に、ローカル帯電電位から、ローカル帯電起因の横電界による一次電子ビームの着地位置のシフト量を計算するための校正曲線の求め方を説明する。図5には、当該校正曲線を求める手段の模式図を示した。試料503に囲まれた一対の絶縁された導電性電極501を用意し、可変電圧源502を用いて当該一対の電極間に電圧を印加する。この一対の電極間の中心位置の電位をVrとし、あるミラー状態を作る。所定の加速電位の荷電粒子線504を照射し特定パターン310上の照射位置を観測する。図示はしていないが、図5において荷電粒子線504の着地位置付近には、二次元電子検出器が配置されている。各ミラー(反射)位置で上記測定を行い、データベース化する。電極間への電位印加により荷電粒子線の着地位置がどれだけずれるかを観測すれば、電位勾配による着地位置のずれ量、すなわちローカル帯電電位の電位勾配に起因するシフト量が求まることになる。
【0027】
図6(A)に、リターディング電位Vrに対するずれ量の依存性カーブを示す。また、図6(B)に、図5に示す方法で求めた、ローカル帯電電位の横電界による一次電子ビームのシフト量に対する依存性カーブとを、それぞれ示す。
【0028】
実用上は、ローカル帯電電位そのものの値ではなく、ローカル帯電により発生する非点や局所的な軸ずれの補償量を求めることが重要である。従って、荷電粒子線504の光軸上に非点補正器や偏向器などを配置しておき、シフト量と併せて、シフト量をキャンセルするような偏向器への印加電圧・電流量、あるいは非点補正器点補正器への印加電圧・電流量を求めておく。これにより、ミラー状態で検出される画像のシフト量から、ローカル帯電起因の非点や軸ずれなどを補正することが可能となる。
【実施例2】
【0029】
本実施例では、実施例1で説明したローカル帯電電位の計測方法を測長SEMに応用した構成について説明する。測長SEMとは、所定の計測対象のSEM画像を取得し、画像上の任意の二点間の距離を画像処理により求める装置で、主として半導体装置の計測分野で広く使用されている。
【0030】
図7には,本実施例の測長SEMの全体構成を示す。本実施例の検査装置は、大まかに言って、試料を格納する試料室726,試料に対して一次電子ビームを照射して、発生する二次荷電粒子(二次電子や反射電子ないしはミラー反射電子など)を検出し、検出結果を信号出力する機能を備えた電子光学系700、試料室726や電子光学系700の各構成要素中の駆動部分に電圧または電流を供給する制御電源の集合体である電源ユニット715、電源ユニットや電子光学系の制御を行う制御部716、検出された二次荷電粒子信号をもとに測長を実行する測長ユニット723、測長結果や二次荷電粒子信号による画像を表示するための表示画面724などにより構成される。
【0031】
電子光学系700は、電子源701、引出電極702、加速電極703等により構成される電子銃と、電子銃下部の電子照射系、および二次荷電粒子の検出系により構成される。電子ビーム(図7では、電子源701から下に向かって伸びる実線で示される。一点鎖線は電子ビーム光軸を示す)は、電子源701と引き出し電極702との間に電圧を印加することにより、電子源701から引き出される。同時に、加速電極703に高電圧の負の電位を印加することにより電子ビームが加速される。
【0032】
電子照射系は、コンデンサレンズ704およびその下部の絞り、筒状電極709、ブースティング電極710、一次電子ビームを試料上に収束するための対物レンズ711、一次電子ビームを試料上の所定範囲内で走査するための走査偏向器707、非点補正器708などにより構成される。コンデンサレンズ704およびその下部の絞りは、一次電子ビームの電流量を調整するために設けられる。筒状電極709は接地されており、一方、その下部のブースティング電極710との間に一次電子ビームを加速する電界を発生させる。ブースティング電極710により加速された一次電子ビームは、対物レンズ711を通過した後、試料台713に印加されるリターディング電位Vr(負の電位)により減速されて試料面に到達する。一次電子ビームの試料上への到達位置は、走査偏向器707により偏向され、これにより二次荷電粒子が発生する。
【0033】
試料表面から発生した二次荷電粒子は、リターディング電位とブースティング電極710の電位とにより形成される電界により、一次電子ビームとは逆の方向に加速される。顔即された二次荷電粒子は、その後、エネルギーフィルタ725を通過して二次荷電粒子検出器705に到達し、二次荷電粒子信号を発生させる。発生した二次荷電粒子信号は、プリアンプ706により増幅され、後段の信号処理系に入力される。なお一次電子ビームの照射系の構成要素と一部重複する要素も含むが、便宜上、本実施例では、検出系を、ブースティング電極710、筒状円筒709、エネルギーフィルタ725、二次電子検出器705などにより構成されるものとする。
【0034】
試料室726には、計測対象試料712を載置する試料台713、試料台をXY面内の所定方向に移動するXYステージ714等が設けられる。試料台714には、電源ユニット715からリターディング電圧が供給される。
【0035】
以上説明した電子銃、電子光学系、検出系の各構成要素は、制御部716により制御される。制御部716は、電子光学系の各ユニットを制御する複数のサブシステムからなり、例えば、電子銃制御装置717、電子光学系制御装置719、ステージ制御装置720、二次荷電粒子信号を処理する情報処理装置718等により構成される。各サブシステムはまた、各制御電源と共同して、電子銃制御系715、電子光学系制御系722等を構成する。また、電子光学系700、試料室726は、いずれも真空容器内に格納されているものとする。
【0036】
プリアンプ706により増幅された二次荷電粒子信号は、情報処理装置718へ入力される。情報処理装置718は、二次荷電粒子検出器705の信号読み出しを一次電子ビームの走査のタイミングと連動して行うよう制御する。情報処理装置718へ入力された二次荷電粒子信号は、AD変換されてデジタルデータに変換され、以降、情報処理装置718内での信号処理は、デジタル信号処理として実行される。なお、AD変換器をプリアンプ706の直ぐに後段に配置し、プリアンプ706による増幅の直後にAD変換を実行してもよい。
【0037】
図8には、図7の装置の動作フローを示した。本実施例では、計測対象試料として、配線パターンが形成された半導体ウェハを用いた例について説明するが、当然ながら本実施例の適用対象は、半導体ウェハに限られるものではない。
【0038】
ステップ801で試料室726に試料が搬入される。ステップ802で、ステージ移動により、ウェハ上の計測箇所を一次電子ビームの照射位置に移動する。ステップ803でウェハアライメントが実行され、電子光学系制御系722のもつXYZ座標系と、ウェハ上の実座標を一致させる。ステップ804で一次電子ビームの照射光学条件が設定される。同時に、実施例1で説明した予備データの読み出し動作805が実行され、非点補正量やリターディング電位の補正量などが計算される。
【0039】
その後、画像取得ステップ806が実行され、ウェハ上の計測箇所の高倍画像が取得される。画像取得ステップ806は、厳密には、オートフォーカス807と低倍画素情報取得ステップ808、およびオートフォーカス809と高倍画素情報取得ステップ811により構成される。計測箇所の画素情報を取得すると、画像演算処理による測長ステップ811が実行される。目標箇所の計測が終了すると、測長を終了するかどうかの判定ステップ812が実行され、全ての計測点の測長が終了した場合には、ウェハ搬出ステップ813に進み、次の計測点がまだ残っている場合には、ステップ802に戻って、ステージ移動による次の計測位置への移動が実行される。
【0040】
次に、図9を用いて、ミラー状態で検出された二次荷電粒子を用いてローカル帯電電位を計測するためのフローについて説明する。なお、図9に示すフローは、図8の光学条件設定ステップ804で実行される動作の一部を詳細に説明したものである。
【0041】
最初のステップ902〜905では、ミラー反射状態で取得される画像の画像調整ステップが実行される。ステップ901でフローが開始されると、ステップ902で電子銃の加速電圧V0が設定され、一次電子ビームの照射条件が決められる。次に、ステップ903でリターディング電位Vrの値がそれぞれ設定される。ここで、最初に設定されるVrの値は初期値であり、後段のステップで所望倍率でミラー電子を得るための微調整が実行され、最終的な値に決定される。
【0042】
ステップ904では、ミラー状態におかれた一次電子ビームを走査し、特定パターンの二次信号像のフォーカス調整動作が実行される。ステップ904では、対物レンズ711を調整することにより、フォーカス調整が実行された。ここで焦点深度の深い光学条件を使ってフォーカス調整を行わなくてもよい。本実施例では、ミラー状態で取得する画像として、エネルギーフィルタ725の画像を用いた。エネルギーフィルタは、光軸上に配置された金属メッシュにより構成されており、二次荷電粒子がエネルギーフィルタを通過すると、メッシュの形状のをそのまま投影した像が二次荷電粒子検出器705で検出される。但し、二次荷電粒子検出器705は、一次電子ビームが通過するための開口を有しているため、実際に二次荷電粒子検出器705で検出される像は、メッシュの形状の投影像と二次電子検出器の開口の陰が合成された像となる。
【0043】
ステップ905では、ステップ904で検出された画像の倍率が所望の大きさになっているかどうかの判定動作が実行される。ミラー状態で試料から放射される二次荷電粒子の拡大倍率は、二次荷電粒子の反射面の高さ、すなわちリターディング電位により変化する。従って、倍率が所望の値になっていない場合には、フローはステップ903に戻り、Vrの値が再設定される。再設定後は、ステップ904でのフォーカス調整と予備画像取得動作が実行され、ステップ905の倍率判定ステップが実行される。倍率が所望の値になっていれば、フローはステップ906に進み、そうでない場合には、ステップ903から905が繰り返される。
【0044】
倍率調整が終わると、ステップ906で、ウェハ実電位の一次電子ビームが試料に照射され、エネルギーフィルタのミラー電子像が取得される。取得されたミラー像は、図8のステップ805で呼び出された予備データに含まれる帯電のない試料のミラー像と比較され、画像のずれ量が計算される。図10(A)に、予備データとして求めた基準画像(帯電が無い試料に対するミラー画像)と、ステップ906で求めたミラー画像の例を示す。Aで示した図が基準画像、Bが帯電がある実ウェハをミラー状態において得られた画像である。丸い実線がエネルギーフィルタの輪郭に相当し、中心部の黒い丸が二次電子検出器の開口に相当する。基準画像における開口の中心座標(x0,y0)が、帯電がある場合には(x1,y1)に移動していることが分かる。この2つの座標の差分(δxb,δyb)=(x1-x0, y1- y0)がずれ量に相当する。計算されたずれ量は、予備データとして求めたずれ量−リターディング電位の校正曲線と比較され、この比較演算により、一次電子ビームが実際に感じているウェハの表面電位Vr'が算出される。この表面電位とウェハに印加したリターディング電位Vrの差Vr'−Vrを計算することにより試料表面のローカル帯電電位を算出することができる。
【0045】
次に、ステップ907で、図6の校正曲線と求めたローカル帯電電位量とを比較して、横電界により発生する一電子ビーム着地位置の座標変化量(δxb、δyb)を求める。その後、ステップ908で、座標変化量(δxb、δyb)から、非点補正量、一次電子ビームのアライメント補正量、対物レンズ補正量を計算する。各補正量は、例えば校正テーブルのような形式で情報処理装置718に格納されている。図10(B)には、情報処理装置718内に記憶されている校正テーブルの一例について示した。非点補正器および一次電子ビームアライメント用偏向器への印加電流補正量、印加電圧補正量と、対物レンズの励磁電流補正量が、シフト量(δxb、δyb)と対になってテーブルに格納されている。情報処理装置718内の演算装置は、図10(B)のテーブルを参照して各補正量を算出する。算出された補正量は、ステップ909で電子光学系制御装置719へ伝達され、電子光学系制御系722により制御される各制御電源は、伝達された各補正量をもとにカラムの各構成部の動作電圧や電流を調整する。
【0046】
以上のステップを経て電子光学系の調整が終了すると、実際に計測に用いる画素情報の取得ステップ910が実行される。本ステップは、図8の画像取得ステップ806と同じステップであり、実際には、計測位置の視野中心を求めるための低倍画像取得ステップや計測に用いる高倍画像の取得ステップなどにより構成される。画素情報が取得されると測長ユニット723により画素演算が実行され、計測位置の測長が行われる(ステップ911)。
【0047】
目標位置での計測が終了するとステップ912に進み、測定継続の要否判定ステップが実行される。更に計測を実行する場合には、ビーム校正の要否判定ステップ913が実行される。同時に、図8のステップ802が実行され、ステージ移動により次の計測位置を一次電子ビームの照射位置に移動する。ビーム校正が不要である場合には、ステージの移動先で画像取得ステップ910が実行される。再度のビーム校正が必要である場合には、ステップ903に戻り、ステップ903〜910の動作が繰り返される。ステップ912で、計測の継続が不要であった場合には、計測は終了する。
【0048】
本実施例で説明した装置により、電子線照射による試料ダメージが非常に少ない、ローカル帯電電位の測定機能を有する測長SEMが実現される。また、ローカル帯電起因の横電界による非点や一次電子ビームによる軸ずれの影響を抑制可能な測長SEMが実現される。これにより、測長再現性に優れ、かつ電子線照射による試料ダメージが非常に少ない測長SEMを実現することが可能となる。
【0049】
なお、本実施例ではエネルギーフィルタの画像を用いてずれ量を算出したが、二次荷電粒子の反射板など電子光学系に備わった別の構造物の画像や、或いは試料に設けられた特定の計測点の画像を用いてずれ量を算出しても本実施例の効果が得られることは明らかである。また、本実施例の構成は、測長SEMに限らず、外観検査装置やレビューSEMなど、帯電により問題の発生しやすい電子線応用装置全般に適用できることは言うでもない。
【実施例3】
【0050】
本実施例では、SEM式外観検査装置の構成例について説明する。SEM式検査装置は、配線やコンタクトホールなどの回路パターンが形成された半導体ウェハ表面のSEM画像を取得し、取得画像の比較演算によって、異物や電気欠陥などの不良箇所を検出する装置であって、半導体装置の製造ラインなどで広く使用されている。
【0051】
図11には、本実施例のSEM式検査装置のシステム構成の模式図を示す。全体的な構成については、図7に示した測長SEMの構成との共通部分が多いため、共通部分の動作や機能については説明を省略する。以下、図11を説明する。
【0052】
本実施例のSEM式検査装置は、大まかに、試料室1124,電子光学系1100、電源ユニット1116、制御部1117、検出された二次荷電粒子信号をもとに欠陥位置の検出を行う画像演算ユニット1125、検査結果や二次荷電粒子信号による画像を表示するための表示画面1126などにより構成される。
【0053】
電子光学系1100は、電子源1101、引出電極1102、加速電極1103等により構成される電子銃と、電子銃下部の電子照射系、および二次荷電粒子の検出系により構成される。
【0054】
電子照射系は、コンデンサレンズ1104およびその下部の絞り、一次電子ビームを試料上の所定範囲内で走査するための走査偏向器1107、非点補正器1108、一次電子ビームを試料上に収束するための対物レンズ1110、一次電子ビームの照射位置にフラッドビーム(集束されていない電子ビーム)を照射するフラッドガン1111、対物レンズ1110の下部に配置された帯電制御電極1112などにより構成される。図7の装置と同様、試料台1114には、リターディング電位Vrが印加されている。
【0055】
試料表面から発生した二次荷電粒子は、反射部材1109に衝突して副次粒子(三次荷電粒子と呼ばれる場合もある)を生成する。生成した副次粒子は、更に二次電子検出器1105に到達して、二次荷電粒子信号として検出される。発生した二次荷電粒子信号は、プリアンプ1106により増幅され、後段の信号処理系に入力される。なお、実際には、対物レンズ1110と反射部材1109の間に、一次電子ビームと二次荷電粒子の軌道を分離するためのE×B偏向器が配置されているが、複雑になるため図11では図示を省略した。また、本実施例では、検出系は、E×B偏向器、反射部材1109、二次電子検出器1105などにより構成されるものとする。
【0056】
試料室1124には、検査試料1113を載置する試料台1114、試料台をXY面内の所定方向に移動するXYステージ1115等が設けられる。試料台1114には、電源ユニット1116からリターディング電圧が供給される。
【0057】
電子銃、電子光学系、検出系の各構成要素を制御する制御部1116は、電子銃制御装置1118、電子光学系制御装置1120、ステージ制御装置1121二次荷電粒子信号を処理する情報処理装置1119などのサブシステムにより構成される。各サブシステムはまた、各制御電源と共同して、電子銃制御系1122、電子光学系制御系1123等を構成する。また、電子光学系1100、試料室1124は、いずれも真空容器内に格納される。
【0058】
本実施例のSEM式検査装置は、画像取得領域の帯電電位を制御する機能を備えている。この機能は、制御電極1112に所望の電圧を印加した状態でフラッドガン1111からフラッドビームを試料に照射することにより実現される。フラッドビームの出力、すなわちフラッドガン1111の駆動電圧や帯電制御電極1112への印加電圧は、電子光学系制御装置1120により制御される。
【0059】
次に、図11に示す装置の全体動作について説明する。図12には、図11のSEM式検査装置の動作フローを示した。本実施例では、計測対象試料として、配線パターンが形成された半導体ウェハを用いた例について説明するが、本実施例の適用対象は、半導体ウェハに限られるものではない。
【0060】
ステップ1201で試料室1124に試料が搬入される。ステップ1202で、ウェハアライメントが実行され、電子光学系制御系1123のもつXYZ座標系と、ウェハ上の実座標とを一致させる。ステップ1203で一次電子ビームの照射光学条件が設定され、フォーカスマップおよび帯電制御マップ生成のための画像データ取得が実行される。このとき、試料の表面電位算出やフォーカスマップ・帯電制御マップ生成のための予備データの読み出し動作1204が実行される。同時に、非点補正量やリターディング電位の補正量などが計算される。
【0061】
ここで、フォーカスマップとは、試料上の各点でのフォーカス調整量を試料表面全体にマッピングしたデータであり、具体的には対物レンズの励磁電流値と、リターディング電圧値とを試料上の座標と対にして格納したデータテーブルのことである。また、帯電制御マップとは、フォーカスマップに格納されたデータと同じ座標で、帯電制御電極への印加電圧とフラッドガンの駆動電圧をフォーカスマップに格納されたデータと同じ座標に対してマッピングしたデータテーブルである。理想的には、検査を実行すべき全ての点に対してフォーカス調整量と帯電制御量のデータを持っているのが望ましいが、検査を実行するためのオーバーヘッド時間が大きくなりすぎるので、通常は、試料上に間欠的に設けられた所定の評価点に対してのみフォーカスマップや帯電制御マップを作成する。例えば、回路パターンの材質やウェハの種類によっては、ローカル帯電に起因して、試料上の特定領域の帯電電位がグローバル帯電の電位分布から予測される帯電電位から大きく外れることがある。そのような領域が予め分かっている場合には、そのような領域でのみ帯電制御マップを生成する、あるいは、そのような領域では計測点の数を他の領域よりも増やしてフォーカスマップないし帯電制御マップを生成すると効率的である。なお、実施例1の装置と同様、非点補正量、一次電子ビームのアライメント補正量、対物レンズ補正量も計算して、フォーカスマップのデータに組み入れてもよい。
【0062】
フォーカスマップおよび帯電制御マップが生成されると、画像データの取得ステップ1207が実行される。画像取得ステップ1207が、オートフォーカスステップ1208と低倍画素情報取得ステップ1209、およびオートフォーカスステップ1210と高倍画素情報取得ステップ1211により構成される。検査箇所の画素情報を取得すると、画像比較演算処理による検査ステップ1212が実行され、更に検査を終了するかどうかの判定ステップ1213が実行される。全ての箇所の検査が終了した場合には、ウェハ搬出ステップ1214に進み、次の検査位置がまだ残っている場合には、ステップ1206に戻り、以降、ステップ1206〜1213の各ステップが繰り返される。
【0063】
次に、図13を用いて、図12の光学条件設定ステップ1203とフォーカスマップ・帯電制御マップ1205の詳細について説明する。
【0064】
ステップ1301〜1305は、ミラー反射状態で取得される画像の画質調整ステップであり、実施例1と同様であるので、説明を省略する。なお、本実施例のSEM式検査装置では、ステップ1304のフォーカス調整を帯電制御電極1112の印加電圧を調整することにより行った。また、ミラー状態で取得する画像としては反射部材1109の画像を用いた。反射部材は、光軸上に配置された金属部材であり、一次電子ビームを通過させるための開口が設けられている。ミラー状態で引き戻された荷電粒子が反射部材の底面に衝突すると、開口部が陰となった像が二次荷電粒子検出器1105に検出される。本実施例のSEM式検査装置では、この陰のずれ量を求めることにより、一次電子ビーム照射位置のローカル帯電量を推定する。なお、実施例1同様、電子光学系の他の構成部品の画像や試料に設けられた特定の評価点の画像を用いてずれ量を算出しても良い。
【0065】
ステップ1305は、ステップ1304で検出された画像の倍率ステップであり、実施例1の装置と同じである。
【0066】
倍率調整が終了すると、帯電電位の算出ステップ1306が実行される。このステップでは、ミラー状態に設定された試料に対して一次電子ビームが照射され、反射部材1109のミラー電子像が取得される。取得されたミラー像は、図12のステップ1204で呼び出された予備データに含まれる帯電のない試料のミラー像と比較され、画像のずれ量が計算される。図10(A)と同じ要領で、実測画像と基準画像のずれ量を計算し、ずれ量−リターディング電位の校正曲線と比較し、更に、試料の表面電位とリターディング電位Vrの差分量Vr'−Vrを計算して、計測点でのローカル帯電電位を算出する。
【0067】
ついでステップ1307で、算出したローカル帯電電位と試料各点での帯電制御目標値とを比較して、帯電制御電極に与える電位(実際には帯電制御電極の印加電位とリターディング電位との差分量)と、フラッドガンの出力(電子ビームの照射エネルギーであり、フラッドビームの加速電圧により制御可能)とを決定する。決定された帯電制御電極の印加電圧値とフラッドガンの制御量は、データテーブルの形で情報処理装置1119に格納される。前述の通り、このステップで非点補正量、一次電子ビームのアライメント補正量、対物レンズ補正量も計算して、フォーカスマップのデータに組み入れてもよい。ステップ1308では、次の評価位置があるかどうかの判定ステップが実行され、以上、1303〜1308のループが繰り返されることにより、フォーカスマップないしは帯電制御マップが生成される。
【0068】
フォーカスマップないしは帯電制御マップが生成されると、検査画像の取得ステップ1309が実行される。実際には、ステップ1308とステップ1309の間に、図12のステップ1206に相当するステージ移動ステップが入るが、図13では省略した。
【0069】
ステージ移動が終了すると、帯電制御処理が必要かどうかの判定ステップが実行される。ウェハの位置によっては、帯電電位が既に目標値に等しくなっている箇所があるためである。帯電制御処理が必要な場合には、帯電制御処理ステップ1311が実行され、情報処理装置1119に格納されたフォーカスマップおよび帯電制御マップが参照される。情報処理装置1119は参照したデータを電子光学系制御装置1120に伝達し、その後、各制御電源により、所定電圧がフラッドガン1111と帯電制御電極1112へ供給される。
【0070】
フラッドビーム照射による帯電制御が終了すると、ステップ1312で一次電子ビームが試料に照射され、二次荷電粒子画像信号が検出される。検出された二次荷電粒子画像信号は、プリアンプ1106を経て情報処理装置1119に転送される。情報処理装置1119は、転送された検出信号を走査偏向器1107の走査偏向信号と同期して、所定の走査範囲の画像データを生成する。生成された画像データは画像演算ユニット1125へ更に転送され、画素演算により比較検査処理が実行される。検査の結果、不良と判定された場合は、当該検査箇所の座標情報が、画像演算ユニット1125内部の記憶装置に格納される。本ステップは、図12のステップ1212と同じであり、図12のステップ1213へ続く。ステップ1213以降の工程は、既に図12で説明しているので、説明は省略する。
【0071】
本実施例の装置により、不良箇所の検出率が高く、かつ電子線照射による試料ダメージが非常に少ないSEM式外観検査装置を実現することが可能となる。従来のSEM式外観検査装置においては、試料表面の帯電電位を試料交換室やアライナ位置に配置した表面電位計などにより計測していたため、グローバル帯電起因のフォーカスマップや帯電電位マップしか得ることができなかった。そのため、試料の特定箇所がグローバル帯電から予測される試料表面電位が、ローカル帯電により大きくずれた場合などに、それを検知する手段が無かった。従って、目標帯電電位とはずれた条件で試料検査を実行せざるを得ず、その結果、欠陥捕捉率が低く、虚報も多かった。
【0072】
本実施例の装置により、試料の表面電位を影響することなくローカル帯電電位を測定可能なSEM式外観検査装置が実現されるため、帯電制御手段の設定値を、実際の試料の表面電位に合わせて設定することが可能となる。よって、不良箇所の捕捉率が高く、かつ試料ダメージが非常に少ないSEM式外観検査装置が実現される。なお、実施例1同様、本実施例の装置構成が、SEM式外観検査装置に限らず、帯電による問題の発生しうる荷電粒子線応用装置全般に適用できることは言うでもない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】ローカル帯電による横電界の発生原理を示す模式図。
【図2】半導体ウェハの帯電モデル図。
【図3】ミラー状態を示す原理図。
【図4】帯電によるミラー反射位置の変動を説明する模式図。
【図5】ローカル帯電によるシフト量を求めるための装置構成図。
【図6】ずれ量とリターディング電位、およびシフト量とローカル帯電電位の校正曲線。
【図7】実施例1の測長SEMのシステム構成を示す模式図。
【図8】実施例1の測長SEMの全体動作フロー
【図9】ミラー電子検出によりローカル帯電電位を計測するための動作フロー
【図10】ミラー画像の典型例と校正テーブルの例
【図11】実施例2のSEM式外観検査装置のシステム構成を示す模式図。
【図12】実施例2のSEM式外観検査装置の全体動作フロー
【図13】ミラー電子検出によりフォーカスマップと帯電制御マップを生成するための動作フロー。
【符号の説明】
【0074】
101…試料,102…基板,103…絶縁体部,104…伝導体部,105…荷電粒子線,106…二次電子,107…荷電粒子の着地位置,108…二次帯電位置,109…荷電粒子線軌道,201…ウェハ,202…電位分布,203…ウェハ上の電位計測点,204…グローバル帯電の電位分布,205…局所的に変動する電位成分,301…荷電粒子源,302…電源,303…ミラー反射面,304…荷電粒子線,305…試料表面の法線 ,306…一次荷電粒子の走査範囲,307…検出器,308…荷電粒子,309…荷電粒子,310…特定パターン,311…特定パターンから放出した二次信号,312…特定パターンから放出した二次信号,401…荷電粒子源,402…試料,403…リターディング電源,404…ミラー反射面,405…ローカル帯電の電位分布,406…一次荷電粒子線,407…ミラー状態における放出荷電粒子線,408…ミラー状態における放出荷電粒子線,501…導電性電極,502…可変電圧源,503…試料,504…荷電粒子線,700…電子光学系,701…電子源,702…引き出し電極,703…加速電極,704…コンデンサレンズ,705…二次電子検出器,706…プリアンプ,707…走査偏向機,708…非点補正器,709…筒状円筒,710…ブースティング電極,711…対物レンズ,712…試料,713…試料台,714…XYステージ,715…電源ユニット,716…制御部,717…電子銃制御装置,718…情報処理装置,719…電子光学系制御装置,720…ステージ制御装置,721…電子銃制御系,722…電子光学系制御系,723…測長ユニット,724…表示用画面,725…エネルギーフィルタ,726…試料室,1100…電子光学系,1101…電子源,1102…引き出し電極,1103…加速電極,1104…コンデンサレンズ,1105…二次電子検出器,1106…プリアンプ,1107…走査偏向器,1108…非点補正器 ,1109…反射部材,1110…対物レンズ,1111…フラッドガン,1112…帯電制御電極,1113…試料,1114…試料台,1115…特XYステージ,1116…電源ユニット,1117…制御部,1118…電子銃制御装置,1119…反射部材,1120…電子光学系制御装置,1121…ステージ制御装置,1122…電子銃制御系,1123…電子光学系制御系,1124…試料室,1125…画像演算ユニット,1126…表示用画面。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対して一次荷電粒子線を照射し、発生する二次荷電粒子を検出して信号出力する機能を有する電子光学系と、当該電子光学系および前記試料に印加する電圧を制御する制御手段とを備えた荷電粒子線装置において、
前記制御装置は、前記一次荷電粒子線の加速エネルギーよりも高い電圧を前記試料に印加した状態で検出される荷電粒子に基づいて得られる情報と、所定の試料電位で得られた前記情報との違いに基づいて前記試料の電位に関する情報を検出し、
当該検出情報を用いて前記電子光学系の動作を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記電子光学系は非点補正器を備え、
前記検出情報を用いて当該非点補正器を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記電子光学系は前記一次荷電粒子線の光軸調整を行う手段を備え、
前記検出情報を用いて当該光軸調整手段を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記電子光学系は対物レンズを備え、
前記検出情報を用いて当該対物レンズを制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
更に、前記荷電粒子線の照射位置に帯電制御用の荷電粒子ビームを照射するための第2の荷電粒子線照射手段を備え、
前記電子光学系は帯電制御電極を備え、
前記検出情報を用いて前記帯電制御電極への印加電圧および前記第2荷電粒子線照射手段を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の荷電粒子線装置において、
前記情報として、前記検出される荷電粒子の検出位置の情報を用いることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の荷電粒子線装置において、
前記情報として、前記検出される荷電粒子の像のずれ、ないしぼけ量、あるいは回転量のいずれかを用いることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか1項に記載の荷電粒子線装置において、
前記非点補正器、前記一次荷電粒子線の光軸調整手段、前記対物レンズ、前記帯電制御電極および前記第2荷電粒子線照射手段の制御パラメータの値と、前記検出情報とが格納されたデータテーブルを備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項7に記載の荷電粒子線装置において、
前記情報として、前記試料から放出される二次荷電粒子による前記電子光学系内の構造物の投影像を検出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項5に記載の荷電粒子線装置において、
前記帯電制御電極ないし前記第2荷電粒子線照射手段の制御パラメータの値を、前記試料表面上の位置に対応付けて格納したデータを生成し、
当該データを用いて前記一次荷電粒子線照射位置の試料表面電位を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項1】
試料に対して一次荷電粒子線を照射し、発生する二次荷電粒子を検出して信号出力する機能を有する電子光学系と、当該電子光学系および前記試料に印加する電圧を制御する制御手段とを備えた荷電粒子線装置において、
前記制御装置は、前記一次荷電粒子線の加速エネルギーよりも高い電圧を前記試料に印加した状態で検出される荷電粒子に基づいて得られる情報と、所定の試料電位で得られた前記情報との違いに基づいて前記試料の電位に関する情報を検出し、
当該検出情報を用いて前記電子光学系の動作を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記電子光学系は非点補正器を備え、
前記検出情報を用いて当該非点補正器を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記電子光学系は前記一次荷電粒子線の光軸調整を行う手段を備え、
前記検出情報を用いて当該光軸調整手段を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記電子光学系は対物レンズを備え、
前記検出情報を用いて当該対物レンズを制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
更に、前記荷電粒子線の照射位置に帯電制御用の荷電粒子ビームを照射するための第2の荷電粒子線照射手段を備え、
前記電子光学系は帯電制御電極を備え、
前記検出情報を用いて前記帯電制御電極への印加電圧および前記第2荷電粒子線照射手段を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の荷電粒子線装置において、
前記情報として、前記検出される荷電粒子の検出位置の情報を用いることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の荷電粒子線装置において、
前記情報として、前記検出される荷電粒子の像のずれ、ないしぼけ量、あるいは回転量のいずれかを用いることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか1項に記載の荷電粒子線装置において、
前記非点補正器、前記一次荷電粒子線の光軸調整手段、前記対物レンズ、前記帯電制御電極および前記第2荷電粒子線照射手段の制御パラメータの値と、前記検出情報とが格納されたデータテーブルを備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項7に記載の荷電粒子線装置において、
前記情報として、前記試料から放出される二次荷電粒子による前記電子光学系内の構造物の投影像を検出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項5に記載の荷電粒子線装置において、
前記帯電制御電極ないし前記第2荷電粒子線照射手段の制御パラメータの値を、前記試料表面上の位置に対応付けて格納したデータを生成し、
当該データを用いて前記一次荷電粒子線照射位置の試料表面電位を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−54508(P2009−54508A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222020(P2007−222020)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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