ロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブ、ロープ状炭素構造物及びその製法
【課題】本発明は、配向カーボンナノチューブの物理量を制御して、容易にロープ状炭素構造物を製造することができる配向カーボンナノチューブを提供することを目的としている。
【解決手段】本発明は、基体と前記基体表面に形成された触媒粒子層から構成される配向カーボンナノチューブ製造用触媒体を用いて合成される配向カーボンナノチューブにおいて、前記配向カーボンナノチューブが多層のカーボンナノチューブからなり、前記配向カーボンナノチューブのサイズ分布及び/又は層数分布が2つ以上の分布ピークを有し、前記基体表面に成長させた前記配向カーボンナノチューブの一部を引出すことによりカーボンナノチューブからなるロープ状構造物が形成されるロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブ、これを用いて製造されたロープ状炭素構造物及びその製造方法である
【解決手段】本発明は、基体と前記基体表面に形成された触媒粒子層から構成される配向カーボンナノチューブ製造用触媒体を用いて合成される配向カーボンナノチューブにおいて、前記配向カーボンナノチューブが多層のカーボンナノチューブからなり、前記配向カーボンナノチューブのサイズ分布及び/又は層数分布が2つ以上の分布ピークを有し、前記基体表面に成長させた前記配向カーボンナノチューブの一部を引出すことによりカーボンナノチューブからなるロープ状構造物が形成されるロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブ、これを用いて製造されたロープ状炭素構造物及びその製造方法である
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブが基体表面に配向して成長した配向カーボンナノチューブ、この配向カーボンナノチューブから作製されたカーボンナノチューブからなるロープ状炭素構造物(「ロープ状カーボンナノチューブ」とも称される)及びその製造方法に関し、更に詳細には、触媒粒子からなる触媒粒子層を前記基体表面に形成した触媒体を作製し、前記触媒体に原料ガスを供給して前記触媒粒子層の表面に多層の配向カーボンナノチューブを合成して、この配向カーボンナノチューブから作製したロープ状炭素構造物及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
配向カーボンナノチューブ(「ブラシ状CNT」とも称される)を合成する方法として、触媒体を利用して炭化水素などの原料ガスを分解し、触媒体表面にカーボンナノチューブを成長させる触媒化学的気相成長法(CCVD法、Catalyst Chemical Vapor Deposition)がある。国際公開 第WO2008/007750号(特許文献1)、国際公開第WO2008/111653号(特許文献2)、国際公開第WO2009/038172号(特許文献3)、末金 皇、長坂岳志、野坂俊紀、中山喜萬 著、応用物理13、第73巻、(2004)第5号(非特許文献1)には、CCVD法により触媒体表面に配向カーボンナノチューブを成長させる方法が記載されている。非特許文献1では、原料ガスのアセチレンとキャリアガスのヘリウムを用いて混合ガスを触媒体上に供給しながら、触媒体を抵抗加熱方式による伝導電熱で加熱して配向カーボンナノチューブを製造する方法が記載されている。
【0003】
尚、本願における「配向カーボンナノチューブ」とは、カーボンナノチューブが基体上に一定方向に林立したものであり、基体上に一定方向に成長したカーボンナノチューブを指す。一般的な配向カーボンナノチューブの合成過程は、初期の急速な成長による第1成長段階と、比較的緩やかに連続的に成長する第2成長段階があることが知られている。カーボンナノチューブの成長メカニズムについては、様々な研究が為されており、非特許文献1では、上述の2段階成長による成長メカニズムが説明されている。
【0004】
前記非特許文献1では、スパッタ法によりSiウエハ基板上に触媒前駆層としてFe薄膜を形成し、700℃まで加熱することによりFe薄膜を粒子化してSiウエハ基板上に触媒粒子層を形成して触媒体が作製されている。しかしながら、物理蒸着法(PVD)や化学気相成長法(CVD)により、触媒金属を含有する触媒前駆層を形成する場合、高真空蒸着装置等の高価な装置が必要となると共に、運用コストも増大する。より低コストで配向カーボンナノチューブを製造する方法として、本発明者らの一部は、特許文献3に、触媒金属化合物を分散又は溶解させた触媒液を塗着し、触媒層を形成する方法を開示している。このように触媒液を塗着して加熱することにより作製された触媒体を以下では、単に「湿式触媒体」とも称する。特許文献2において、前記湿式触媒体を用いて合成される配向カーボンナノチューブが触媒液の特性に対して、どのような依存性を示すかについては、詳細なデータが明示されていなかった。
【0005】
Yiming Li, et al. “Growth of Single-Walled Carbon Nanotubes from Discrete Catalytic Nanoparticles of Various Sizes”, J. Phys. Chem. B2001, 105, pp11424-11431 (非特許文献2)などにおいては、触媒粒子のサイズと合成される配向カーボンナノチューブの直径に相関があることが記載されている。例えば、非特許文献2には、触媒粒子の平均粒径が約3.7nmのとき、平均直径が約3.0nmの配向カーボンナノチューブが合成され、触媒粒子の平均粒径が約1.9nmのとき、平均直径が約1.5nmのカーボンナノチューブが合成されることが示されている。非特許文献2における触媒の作成方法は、電子ビーム蒸着やスパッタなどによる金属薄膜の成膜による金属触媒の製造方法であり、単に「乾式触媒体」とも称する。触媒粒子の直径と配向カーボンナノチューブを構成するカーボンナノチューブ自体の直径の相関関係から、配向カーボンナノチューブの平均直径を制御するためには、触媒粒子の直径を制御することが、より直接的かつ効果的な方法であると考えられる。
一方、特許文献1に記載される触媒液を塗着して触媒前駆層を形成する方法、いわゆる「湿式触媒体」を用いた場合の触媒粒子の直径を制御する方法は、これまで明確に示されていなかった。
【0006】
図28は、特許文献2に記載される従来の触媒体における触媒粒子層の粒径分布図である。原子間力顕微鏡(AFM)像の観察に基いて、所定の粒径d(Particle diameter)を有する触媒粒子の個数(Number)がプロットされている。このプロットに対して単一の分布関数がフィッティングされ、良い一致を示しており、その分布関数の半値幅ΔDが見積もられている。特許文献1では、酸化処理により触媒前駆層に凝集抑制層を形成した後に粒子化を図ることにより、粒径分布の半値幅ΔDが減少することが確かめられ、触媒粒子の均一性が向上することが示されている。しかしながら、高い均一性を保持しながら、触媒粒子の微小化を図る場合、物理蒸着法(PVD)や化学気相成長法(CVD)により、触媒金属を含有する触媒前駆層を形成するためには、高真空蒸着装置等の高価な装置が必要となると共に、運用コストも増大する。
【0007】
より低コストで配向カーボンナノチューブを製造する方法として、本発明者らの一部は、特許文献3に、触媒金属化合物を分散又は溶解させた触媒液を塗着し、触媒粒子層を形成する方法を開示している。尚、以下では、触媒液を塗着して加熱することにより触媒粒子層を形成する方法を「湿式法」、湿式法で作製された触媒体を単に「湿式触媒体」とも称する。この湿式触媒体は、触媒金属化合物を溶解・分散した触媒液を基体表面に均一に塗布して触媒前駆層を形成し、この触媒前駆層を加熱することにより触媒粒子層を形成して得られる。従って、比較的安価な装置で触媒体を製造できると共に、より均一で微小な触媒粒子層を形成できることが特許文献3に記載されている。
【0008】
近年、配向カーボンナノチューブから作製される炭素材料として、ロープ状炭素構造物が注目されており、超軽量、高強度の繊維であり、カーボン製電線など種々の炭素材料として利用することができる。特許文献1には、従来の触媒体表面に合成された配向カーボンナノチューブから、ロープ状炭素構造物を作製することが記載されている。即ち、配向カーボンナノチューブから隣接するカーボンナノチューブが絡み合ったカーボンナノチューブの集合体をピンセット等によって引き上げることによって、ロープ状炭素構造物の製造が可能である。しかしながら、前記湿式触媒体を用いて合成された配向カーボンナノチューブに関して、ロープ状炭素構造物を製造する好適な条件については明らかにされていなかった。即ち、湿式触媒体は、前述のように、比較的安価な装置で作製できると共に、触媒粒子の均一化や微小化を目的として開発された触媒体であるが、ロープ状炭素構造物を作製することに関しては明らかにされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第WO2008/007750号
【特許文献2】国際公開第WO2008/111653号
【特許文献3】国際公開第WO2009/038172号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】末金 皇、長坂岳志、 野坂俊紀、中山喜萬 著、応用物理13、第73巻、(2004)第5号
【非特許文献2】Yiming Li, et al. “Growth of Single-Walled Carbon Nanotubes from Discrete Catalytic Nanoparticles of Various Sizes”, J. Phys. Chem. B2001, 105, pp11424-11431
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述のように、特許文献3に記載される触媒液を塗着して触媒前駆層を形成する方法(以下、単に「塗着法」と称する)では、触媒層の形成方法に依存して、合成される配向カーボンナノチューブがどのような依存性を示すかについては、詳細なデータが明示されていなかった。前記塗着法は、低コストで配向カーボンナノチューブを合成する上で、好適な触媒体製造方法であり、前記塗着法で作製された触媒体を用いて、配向カーボンナノチューブの物理量を制御する方法の開発が求められていた。
【0012】
特許文献2に記載される従来の触媒体では、前記触媒前駆層の粒子化を行う前に凝集抑制層を形成することにより、より均一性の良い触媒粒子層が形成されることが示されている。即ち、図28に示すように、触媒粒子の粒径分布が単一の分布関数と良い一致を示し、フィッティングされた分布関数の半値幅ΔDが小さくなっている。しかしながら、図28に粒径分布を示した触媒粒子層は、電子ビーム蒸着方によって形成された触媒前駆層を加熱により粒子化したものであり、このような製造方法によって、さらに触媒粒子の均一性を向上させることは困難となっていた。前述のように、特許文献3に記載される湿式触媒体では、より均一で微小な触媒粒子からなる触媒粒子層が形成されることが示されている。従来の湿式触媒体は、触媒液を基体表面に均一に塗着して、乾燥させた後に加熱するだけで製造することができ、比較的安価で製造することが可能である。しかしながら、従来の湿式触媒体を用いて合成された配向カーボンナノチューブに関して、ロープ状炭素構造物を製造する好適な条件について詳細な研究は行われてこなかった。
【0013】
特許文献3において、PVDやCVDを用いて触媒前駆層を形成し、加熱による粒子化で触媒粒子層を形成した触媒体(以下、「乾式触媒体」とも称する)に比べ、湿式触媒体を用いて合成される配向カーボンナノチューブの平均直径が小さくなることが記載されている。しかしながら、比較的小さな平均直径を有する配向カーボンナノチューブからロープ状炭素構造物を作製する場合のカーボンナノチューブ自体の条件については、明らかにされてこなかった。特許文献2では、ロープ状炭素構造物を作製する配向カーボンナノチューブの条件として、その嵩密度が20mg/cm3であることを挙げているが、配向カーボンナノチューブを構成するカーボンナノチューブの平均直径と嵩密度の相関を考慮して、平均直径が異なる場合に、嵩密度に関するその条件がどのように適用できるかついては明確に示されていなかった。
【0014】
従って、本発明は、配向カーボンナノチューブを構成するカーボンナノチューブの物理量を制御して、容易にロープ状炭素構造物を製造することができる配向カーボンナノチューブを提供することを目的としている。より具体的には、触媒体を用いて合成された配向カーボンナノチューブからロープ状炭素構造物を作製するための条件を明らかにし、その条件を満たす配向カーボンナノチューブ及びそれを製造するための触媒体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであって、本発明の第1の形態は、基体と前記基体表面に形成された触媒粒子層から構成される配向カーボンナノチューブ製造用触媒体を用いて合成される配向カーボンナノチューブにおいて、前記配向カーボンナノチューブが多層のカーボンナノチューブからなり、前記配向カーボンナノチューブのサイズ分布及び/又は層数分布が2つ以上の分布ピークを有し、前記基体表面に成長させた前記配向カーボンナノチューブの一部を引出すことによりカーボンナノチューブからなるロープ状炭素構造物が形成されるロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブである。
【0016】
本発明の第2の形態は、第1の形態において、前記触媒粒子層を形成する触媒粒子の粒径分布が少なくとも2つ以上の分布ピークを有する配向カーボンナノチューブ製造用触媒体を用いて合成される配向カーボンナノチューブであるロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブである。
【0017】
本発明の第3の形態は、第1又は2の形態において、前記基体表面に成長させた前記配向カーボンナノチューブの平均高さが80μm以上であり、前記配向カーボンナノチューブの嵩密度が40mg/cm3以上であるロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブである。
【0018】
本発明の第4の形態は、第1〜3のいずれかの形態において、前記層数分布において、全分布数Nに対し、層数が9層以下である配向カーボンナノチューブの分布数Nfの比率Nf/Nが0.1〜0.7の範囲にあるロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブである。
【0019】
本発明の第5の形態は、第1〜4のいずれかの形態において、前記層数分布における前記分布ピークのうち、最も分布個数が多い第1分布ピークの個数をn1、次に分布個数が多い第2分布ピークの個数をn2としたとき、個数比率n2/n1が0.2≦n2/n1≦1の範囲にあるロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブである。
【0020】
本発明の第6の形態は、第5の形態において、前記第1分布ピークの層数と前記第2分布ピークの層数との層数差ΔLが2層以上であるロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブである。
【0021】
本発明の第7の形態は、第1〜6のいずれかの形態において、前記サイズ分布がカーボンナノチューブの外径分布及び/又は内径分布であるロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブである。
【0022】
本発明の第8の形態は、第1〜7のいずれかの形態のロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブの一部を引出して形成されたロープ状炭素構造物である。
【0023】
本発明の第9の形態は、触媒粒子層を基体表面に形成した触媒体を作製し、所定の合成温度に設定された前記触媒体に原料ガスを供給して前記基体表面に多層の配向カーボンナノチューブを合成し、前記配向カーボンナノチューブの一部を引出してカーボンナノチューブからなるロープ状炭素構造物を形成するロープ状炭素構造物製造方法において、前記触媒粒子層の膜厚を調整して前記配向カーボンナノチューブのサイズ分布及び/又は層数分布が2つ以上の分布ピークを有する配向カーボンナノチューブを合成するロープ状炭素構造物製造方法である。
【0024】
本発明の第10の形態は、第9の形態において、前記基体表面に成長させた前記配向カーボンナノチューブの平均高さを80μm以上、且つ前記配向カーボンナノチューブの嵩密度を40mg/cm3以上に制御するロープ状炭素構造物製造方法である。
【0025】
本発明の第11の形態は、第9又は10のいずれかの形態において、前記合成温度の増加に相関して前記平均層数を増加させるロープ状炭素構造物製造方法である。
【0026】
本発明の第12の形態は、第9〜11のいずれかの形態において、前記合成温度の増加に相関して前記平均外径及び/又は前記平均内径を増大させるロープ状炭素構造物製造方法である。
【0027】
本発明の第13の形態は、第9〜12のいずれかの形態において、前記触媒粒子層は、触媒金属化合物からなる触媒前駆物質を溶媒中に分散又は溶解させた触媒液を前記基体表面に塗着乾燥させて触媒前駆層を形成して、前記触媒前駆層を加熱して形成された触媒粒子から構成されるロープ状炭素構造物製造方法である。
【0028】
本発明の第14の形態は、第9〜13のいずれかの形態において、前記触媒金属化合物が酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、硝酸塩、塩化物及びオキソ酸塩から選択される1種以上の金属塩であるロープ状炭素構造物製造方法である。
【発明の効果】
【0029】
本発明の第1の形態によれば、前記配向カーボンナノチューブが多層のカーボンナノチューブからなり、前記配向カーボンナノチューブのサイズ布及び/又は層数分布が2つ以上の分布ピークを有することから、前記基体表面に成長させた前記配向カーボンナノチューブの一部を引出すことによりカーボンナノチューブからなるロープ状炭素構造物をより確実に作製することができる。従来の配向カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブの大量合成を主な目的としており、サイズをより均一化することが課題であったが、本発明では、配向カーボンナノチューブからロープ状炭素構造物を作製することを第1の目的としている。
本発明は、発明者らの鋭意研究の結果、配向カーボンナノチューブのサイズ布及び/又は層数分布が2つ以上の分布ピークを有する場合に、前記配向カーボンナノチューブからロープ状炭素構造物を容易に作製できることを発見し、本発明を完成するに到ったものである。尚、本願明細書において、配向カーボンナノチューブのサイズ分布とは、配向カーボンナノチューブを構成するカーボンナノチューブの外径、内径、長さ等のサイズに関する分布であり、少なくとも30以上のカーボンナノチューブのサイズおよび/又は層数を電子顕微鏡写真画像から解析し、見積もられた度数分布(ヒストグラム)や体積分布である。電子顕微鏡を用いた直接観察では、サイズの度数分布をサイズ分布として得ることができる。また、ヒストグラムの階級の範囲は、サイズ分布の場合、約1nmであることが好ましい。層数は自然数で表されるため、層数分布の場合、各層数毎に分布数をカウントすることができる。
電子顕微鏡を用いた写真画像の観察により、配向カーボンナノチューブからロープ状炭素構造物を形成する場合、サイズ及び/又は層数の比較的大きなカーボンナノチューブが存在し、これらを相互に連結させる比較的サイズ及び/又は層数が小さなカーボンナノチューブが存在することにより、より確実にロープ状炭素構造物を形成することができる状況が観察される。即ち、ロープ状炭素構造物を高効率に作製するための1つの条件として、比較的サイズ及び/又は層数が大きな配向カーボンナノチューブに対して、比較的サイズ及び/又は層数が小さな配向カーボンナノチューブが所定の割合で基板表面上に分布していることが挙げられる。配向カーボンナノチューブを構成するカーボンナノチューブに比較的サイズ及び/又は層数が小さなものと大きなものが混在することにより、カーボンナノチューブ同志の引き合う力(ファンデルワールス力)が高められ、配向カーボンナノチューブはロープ状炭素構造物が作製可能となる。
更に具体的な配向カーボンナノチューブを構成するカーボンナノチューブの形態を示すとすれば、比較的サイズ及び/又は層数が小さなものと大きなものが混在する配向カーボンナノチューブにおいて、比較的サイズ及び/又は層数が大きなものの間を比較的サイズ及び/又は層数が小さなものが縫うようにランダムに成長したカーボンナノチューブがある。このようなカーボンナノチューブの形態は、ロープ状炭素構造物を作製するとき、カーボンナノチューブを引っ張る際に途切れずに連続的に連なってロープ状炭素構造物を形成する重要な効果がある。但し、比較的サイズや層数が小さなカーボンナノチューブの成長は、完全にランダムな方向に成長するものではなく、上方に成長する周囲のカーボンナノチューブと引き合ったり、それらに衝突したりして、複数の折れ曲りや湾曲部が形成されながら配向する方向に成長していく。このことから、比較的サイズや層数が小さなカーボンナノチューブも配向カーボンナノチューブと定義しており、比較的サイズ及び/又は層数が大きなカーボンナノチューブと共存して、基体表面上に成長した配向カーボンナノチューブを構成しており、いずれも配向カーボンナノチューブと称している。
従って、第1の形態の配向カーボンナノチューブによれば、ロープ状炭素構造物をより確実に連続的に作製することができ、ロープ状炭素構造物の歩留りを向上させることができる。ロープ状炭素構造物は、超軽量、高強度の炭素繊維であり、カーボン製電線など種々の炭素材料として利用することができる。
【0030】
本発明の第2の形態によれば、前記触媒粒子層を形成する触媒粒子の粒径分布が少なくとも2つ以上の分布ピークを有する配向カーボンナノチューブ製造用触媒体を用いて合成される配向カーボンナノチューブであり、前記粒径分布を反映して前記サイズ布及び/又は前記層数分布に前記2つ以上の分布ピークが形成されるから、前記触媒粒子の粒径分布を制御して、より好適なサイズ布及び/又は層数分布を有する配向カーボンナノチューブを提供することができる。
触媒粒子を用いて合成されるカーボンナノチューブの外径は、触媒粒子の粒径を反映する。本発明者らは、前記粒径分布が2つ以上の分布ピークを有する場合に、配向カーボンナノチューブのサイズ分布や層数分布が2つ以上の分布ピークを有することを実験により明らかにして、本発明の第2の形態を完成するに到ったものである。
前記触媒粒子の粒径分布は、基体表面に形成される触媒前駆物質からなる塗膜の膜厚や触媒前駆物質の濃度に依存する。前記触媒前駆物質は、触媒金属化合物を分散又は溶解させた触媒液を基体表面に塗着・乾燥させ、触媒前駆層として形成される。この触媒前駆層を加熱することにより触媒粒子層が形成される。本発明者らは、前記触媒液中の触媒前駆物質の濃度を調整することにより、形成される配向カーボンナノチューブのサイズ分布及び/又は層数分布を制御できることを実験的に明らかにしている。また、前記触媒前駆層の膜厚は、前記触媒液の塗布量や溶媒の種類に依存する。従って、溶媒の種類と塗布量を決めれば、触媒前駆物質の濃度を調整して、触媒粒子の粒径分布を制御することができ、2つ以上の分布ピークを有する粒径分布を形成することができる。
【0031】
本発明の第3の形態によれば、前記基体表面に成長させた前記配向カーボンナノチューブの平均高さが80μm以上であり、前記配向カーボンナノチューブの嵩密度が40mg/cm3以上であるから、ロープ状炭素構造物をより確実に作製することができる。配向カーボンナノチューブを構成するカーボンナノチューブは平均高さが高くなることによって、カーボンナノチューブ同志がファンデルワールス力により引き合う力が強くなることは自明であり、ロープ状炭素構造物を作製する際において、カーボンナノチューブが機械的に引っ張られる力よりも強い力でカーボンナノチューブ同志が引き合うことも重要な要素である。加えて、連続的にロープ状炭素構造物を作製する際において、配向カーボンナノチューブを構成する個々のカーボンナノチューブが互いに引き合うように高い密度で成長し、連続的にカーボンナノチューブがロープ状炭素構造物として引きだされることも重要な要素である。本発明者らは、配向カーボンナノチューブの平均高さが80μm以上で、前記嵩密度40mg/cm3以上のときに、ロープ状炭素構造物の作製効率が格段に向上することを実験により明らかにして、本発明の第3の形態を完成するに到ったものである。
【0032】
本発明の第4の形態によれば、前記層数分布において、全分布数Nに対し、層数が9層以下である配向カーボンナノチューブの分布数Nfの比率Nf/Nが0.1〜0.7の範囲にあるから、前記基体表面上に成長した配向カーボンナノチューブからロープ状炭素構造物をより確実に製造することができる。前記層数分布が2つ以上の分布ピークを有する場合、物性の異なる2種類の配向カーボンナノチューブが分布していることに相当する。即ち、層数の少ない配向カーボンナノチューブは、層数の多い配向カーボンナノチューブに比べ、外径が小さくより柔軟性を有する傾向にある。
本発明者らは、電子顕微鏡等を用いた配向カーボンナノチューブの観察から、比較的層数の少ない配向カーボンナノチューブが比較的層数の多い配向カーボンナノチューブに対して所定以上の割合で分布していることが、ロープ状炭素構造物を形成する条件の1つと考えている。ロープ状炭素構造物を形成可能な配向カーボンナノチューブでは、電子顕微鏡像において、直立する比較的外径の大きな配向カーボンナノチューブと共に、外径が小さなカーボンナノチューブが間隙を縫ってランダムに成長していることが観察されている。この結果から、ロープ状炭素構造物では、直立する配向カーボンナノチューブやそれらの束が互いに引き合うと共に、ランダムに成長したカーボンナノチューブが直立する配向カーボンナノチューブやそれらの束に絡み引き合って、カーボンナノチューブ同士が互いにより強く結束していると考察することができる。従って、配向カーボンナノチューブにおいて、層数が多く直立するカーボンナノチューブと、層数が少なくランダムに成長したカーボンナノチューブとが共に所定の割合で共存することがロープ状炭素構造物を確実に製造する重要な条件の1つであると考えることができる。
本発明者らは、透過型電子顕微鏡による多層の配向カーボンナノチューブの観察から、配向カーボンナノチューブの層数分布を調べ、層数の少ない配向カーボンナノチューブと層数が多いものがどのような割合で存在する場合に、ロープ状炭素構造物を作製することができるかを明らかにしている。層数が9層以下の場合を層数が少ない配向カーボンナノチューブ、層数が10層以上の場合を層数が多い配向カーボンナノチューブとして分類することにより、ロープ状炭素構造物が形成され易い層数分布の特徴を明確化している。
層数分布の比較から、全分布数Nに対して、層数が9層以下である配向カーボンナノチューブの分布数Nfの比率Nf/Nが0.1〜0.7の範囲にある場合、ロープ状炭素構造物がより確実に製造できることが分かっている。前記比率Nf/Nが0.1以下の場合、ロープ状炭素構造物ができ難くなっており、前述のように、層数が少なく間隙を縫って成長可能なカーボンナノチューブの分布数が少なくなり過ぎるためと考えられる。また、前記比率Nf/Nが0.7より大きくなる場合もロープ状炭素構造物が形成されなくなることが確認されており、層数が多く直立した配向カーボンナノチューブの分布数が少なくなり過ぎるためと考えられる。
【0033】
本発明の第5の形態によれば、前記層数分布における前記分布ピークのうち、最も分布個数が多い第1分布ピークの個数をn1、次に分布個数が多い第2分布ピークの個数をn2としたとき、個数比率n2/n1が0.2≦n2/n1≦1の範囲にあり、より明確な2つの分布ピークが存在する。即ち、前述の条件を満たし、サイズ及び/又は層数が大きな配向カーボンナノチューブに対して、サイズ及び/又は層数が小さな配向カーボンナノチューブが所定量以上分布しているから、ロープ状炭素構造物を高効率に作製することができる。尚、前記個数は、観察された基体表面上の所定の領域に成長した配向カーボンナノチューブのうち、該当するサイズ範囲にある配向カーボンナノチューブの数をカウントしたものである。
前記サイズ分布が配向カーボンナノチューブの外径分布であり、少なくとも前記外径分布が2つ以上の分布ピークを有する場合、外径が小さい側に分布個数の多い第1分布ピークがあることが好ましい。即ち、外径が小さなカーボンナノチューブが大きなものに比べ、より多く形成されていることが好ましく、外径の大きなカーボンナノチューブが相互に引き合ってロープ状炭素構造物を形成し易くなる傾向にある。
【0034】
本発明の第6の形態によれば、前記第1分布ピークの層数と前記第2分布ピークの層数との層数差ΔLが2以上であるから、物性の異なる2種類の配向カーボンナノチューブが分布していることに相当する。層数の少ないカーボンナノチューブは、層数の多いカーボンナノチューブに比べてより柔軟であり、ランダムな方向に成長するから、一定方向に林立する配向カーボンナノチューブのうち、層数が多く、より直立したカーボンナノチューブ同士が引き合う力を補強することができ、比較的容易にロープ状炭素構造物を作製することができる。また、層数が増加すると、カーボンナノチューブの外径も増大し、層数が少ないものはその外径も小さくなることから、柔軟で外径が小さなカーボンナノチューブは間隙を縫って成長し、比較的外径が大きな同士が引き合う力が補強され、ロープ状炭素構造物が形成される。
【0035】
本発明の第7の形態によれば、前記サイズ分布が配向カーボンナノチューブの外径分布及び/又は内径分布であり、前記外径分布及び/又は内径分布が2つ以上の分布ピークを有するから、配向カーボンナノチューブからロープ状炭素構造物をより確実に作製することができる。前述のように、配向カーボンナノチューブの外径分布や内径分布は、所定の条件下において、触媒粒子層の粒径分布を反映することから、2つ以上の分布ピークを有する外径分布や内径分布を比較的容易に実現することができる。即ち、形成される触媒粒子層の粒径分布を制御することにより、合成される配向カーボンナノチューブの外径分布や内径分布は、2つ以上の分布ピークを有することができる。
また、配向カーボンナノチューブの平均外径は、1nm〜20nmの範囲にあることが好ましく、5nm〜15nmの範囲にあることがより好ましい。更に、配向カーボンナノチューブの平均内径は、平均外径の1/4〜3/4の大きさにあることが好ましい。
【0036】
本発明の第8の形態によれば、第1〜7のいずれかの形態のロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブの一部を引出してロープ状炭素構造物が形成されるから、作製効率を向上させることができ、製造コストを低減化して、より安価なロープ状炭素構造物を提供することができる。前述のように、第1〜7のいずれかの形態の配向カーボンナノチューブは、サイズ分布及び/又は層数分布に2つ以上の分布ピークを有し、ロープ状炭素構造物を比較的容易に作製することができる。前記ロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブは、触媒基体表面上に成長させたそのままの状態から、ロープ状炭素構造物を形成することができる。また、接着性を有し、ロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブをほぼそのままの状態で一体に転写可能な転写部材に接着させてから、ロープ状炭素構造物を形成することもできる。
【0037】
本発明の第9の形態によれば、前記触媒前駆層の膜厚を調整して前記配向するカーボンナノチューブのサイズ布及び/又は層数分布が2つ以上の分布ピークを有する配向カーボンナノチューブを合成することにより、前記配向カーボンナノチューブからロープ状炭素構造物を比較的容易に製造することができる。上述のように、配向カーボンナノチューブが2つ以上の分布ピークを有する場合に、ロープ状炭素構造物がより確実に作製できる。本発明の第9の形態は、前記触媒前駆層の膜厚を調整することによって、2つ以上の分布ピークが現れることを実験的に明らかにして、完成されるに到ったものである。
配向カーボンナノチューブのサイズ分布及び/又は層数分布は、前記合成温度や原料ガス、触媒金属成分などが同一であれば、前記触媒前駆層の膜厚に依存する。従って、前記触媒前駆層の膜厚を調整することにより、前記サイズ分布及び/又は層数分布に2つ以上の分布ピークが形成される。前記触媒前駆層は、触媒金属成分を含む蒸着膜や塗着膜であり、蒸着膜の膜厚や塗着させる触媒液の濃度などによって調整される。
【0038】
本発明の第10の形態によれば、前記基体表面に成長させた前記配向カーボンナノチューブの平均高さを80μm以上、且つ前記配向カーボンナノチューブの嵩密度を40mg/cm3以上に制御するから、前記配向カーボンナノチューブからロープ状炭素構造物をより確実に作製することができる。ロープ状炭素構造物は、触媒体の表面上に形成された配向カーボンナノチューブの一部をピンセット等で引き上げると、引き上げたカーボンナノチューブの束にその周辺にある一部のカーボンナノチューブが追従して、カーボンナノチューブの束が連なるロープ状炭素構造物が形成される。即ち、カーボンナノチューブ同士がファンデルワールス力により引き合う程度に密集している場合に、ロープ状炭素構造物を形成することができる。更に、配向カーボンナノチューブが所定以上の長さを有する場合、引き上げたカーボンナノチューブの束が隣接する他のカーボンナノチューブと連続的に引き出し易くなる。本発明者らは、鋭意研究の結果、前記配向カーボンナノチューブの平均高さが80μm以上、嵩密度が40mg/cm3以上の場合に、ロープ状炭素構造物がより確実に形成されることを発見し、第10の形態を完成するに到ったものである。
【0039】
本発明の第11の形態によれば、前記合成温度の増加に相関させて前記平均層数を増加させることができ、前記平均層数の増加に伴って、層数分布に2つ以上の分布ピークが形成され易くなる。即ち、層数分布が2つ以上の分布ピークを有するためには、平均層数が所定数以上であることが好ましい。前記合成温度の増加に相関して前記平均層数が増加することから、所定の平均層数以上の配向カーボンナノチューブを合成する場合、前記合成温度を増加させれば、より確実に2つ以上の分布ピークを有する配向カーボンナノチューブを合成することができる。従って、製造された配向カーボンナノチューブからロープ状炭素構造物を高効率に作製することができる。尚、前記平均層数は、8層以上あることが好ましく、10層以上あることがより好ましい。
【0040】
本発明の第12の形態によれば、前記合成温度の増加に相関して前記平均外径及び/又は前記平均内径を増大させることができるから、ロープ状炭素構造物の作製に好適な平均外径や平均内径を有する配向カーボンナノチューブを合成することができる。所定の大きさ以上の平均外径及び/又は平均内径を有する場合に、配向カーボンナノチューブの外径分布及び/又は内径分布が2つの分布ピークが形成され易くなる。従って、平均外径や平均内径が好適な大きさを有するように、前記合成温度を所定温度以上に設定することにより、2つ以上の分布ピークを有する配向カーボンナノチューブの外径分布や内径分布を実現することができる。
【0041】
本発明の第13の形態によれば、前記触媒前駆層は、触媒金属化合物からなる触媒前駆物質を溶媒中に分散又は溶解させた触媒液を前記基体表面に塗着乾燥させて形成され、前記触媒前駆層を加熱して触媒粒子層が形成されるから、前記触媒前駆物質の濃度や前記溶媒の種類により、前記触媒前駆層の厚さや触媒前駆物質成分の含有量を調整して、前記触媒粒子層の粒径分布を制御することができる。本発明者らは、鋭意研究の結果、前記触媒前駆物質の濃度により、前記配向カーボンナノチューブのサイズ分布及び/又は層数分布を制御することができ、サイズ分布及び/又は層数分布が2つ以上の分布ピークを有するように調整することができる。
【0042】
本発明の第14の形態によれば、前記触媒金属化合物が酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、硝酸塩、塩化物及びオキソ酸塩から選択される1種以上の金属塩であるから、前記触媒前駆層を比較的簡単に作製することができると共に、前記濃度を容易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る触媒体を用いて合成した配向カーボンナノチューブ側面を観察した走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図2】本発明に係る配向カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡(TEM)像である。
【図3】本発明に係る配向カーボンナノチューブから作製されたロープ状炭素構造物の写真図である。
【図4】本発明に係る配向カーボンナノチューブの触媒体の上面から又は表面付近を観察したSEM像である。
【図5】本発明に係る触媒粒子から成長するカーボンナノチューブを模式的に示した概略図である。
【図6】本発明に係る配向カーボンナノチューブの外径分布図及び内径分布図である。
【図7】実施例1の配向カーボンナノチューブの層数分布図である。
【図8】本発明に係る配向カーボンナノチューブ合成方法の工程図である。
【図9】本発明に係る触媒体の作製過程を模式的に示した説明図である。
【図10】本発明に係る触媒体表面の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
【図11】本発明に係る触媒体を用いて合成した実施例2の配向カーボンナノチューブ側面を観察したSEM像である。
【図12】本発明に対する比較例1〜3の配向カーボンナノチューブ側面を観察したSEM像である。
【図13】実施例1、2及び比較例1〜3における配向カーボンナノチューブの平均高さと嵩密度を触媒体製造時の硝酸鉄濃度に対してプロットしたグラフ図である。
【図14】実施例2の配向カーボンナノチューブ側面を高倍率で観察したときのSEM像である。
【図15】比較例1〜3の配向カーボンナノチューブ側面を高倍率で観察したときのSEM像である。
【図16】実施例2の基体表面付近を側面から観察したときのSEM像である。
【図17】比較例1〜3の基体表面付近を側面から観察したときのSEM像である。
【図18】実施例2の配向カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡(TEM)像である。
【図19】比較例1〜3の配向カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡(TEM)像である。
【図20】実施例2の配向カーボンナノチューブの層数分布図である。
【図21】比較例1〜3の配向カーボンナノチューブの層数分布図である。
【図22】実施例1、2及び比較例1〜3における配向カーボンナノチューブの平均外径と平均内径を触媒体の作製に用いられた触媒液の濃度に対してプロットしたグラフ図である。
【図23】実施例1、2及び比較例1〜3における配向カーボンナノチューブの層数を触媒体の作製に用いられた触媒液の濃度に対してプロットしたグラフ図である。
【図24】実施例2の配向カーボンナノチューブを基体表面の上方から観察したときのSEM像である。
【図25】比較例1〜3の配向カーボンナノチューブを基体表面の上方から観察したときのSEM像である。
【図26】本発明に係る配向カーボンナノチューブのCNT高さ、触媒液濃度及び合成温度の関係をプロットしたグラフ図である。
【図27】配向カーボンナノチューブのCVD温度、平均高さと嵩密度の関係において、ロープ状炭素構造物が確実に作製できる範囲を示すグラフ図である。
【図28】従来の触媒体における触媒粒子層の粒径分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1は、本発明に係る触媒体を用いて合成した配向カーボンナノチューブ側面を観察した走査型電子顕微鏡(SEM)像である。図1の(1A)は、触媒体とその表面に形成された配向カーボンナノチューブの側面を200倍の倍率で観察したSEM像である。(1A)のSEM像では、触媒体の上部表面に、合成された配向カーボンナノチューブが密集して形成されている。触媒体の表面には触媒粒子層が形成され、化学気相合成法(CVD法)により、前記触媒粒子層上に配向カーボンナノチューブが成長している。図1に示した配向カーボンナノチューブでは、硝酸鉄濃度が約5wt%の触媒液を用いて作製された触媒体により、配向カーボンナノチューブの合成が行われている。触媒体の作製に用いられた触媒液に含有される触媒前駆物質の濃度(以下、単に「濃度」又は「触媒液濃度」とも称する)が異なっている。触媒金属化合物としては、硝酸鉄9水和物が用いられている。配向カーボンナノチューブの合成条件や触媒体の構造等の詳細については後述する。
【0045】
(1B)は、配向カーボンナノチューブ側面を高倍率(50000倍)で観察したときのSEM像である。後述する比較例に比べ、密度が低く、配向カーボンナノチューブの外径、又は複数の配向カーボンナノチューブがバンドルしたバンドル径が小さい。更に、比較的外径が小さな配向カーボンナノチューブは曲がりくねっている。比較的外径が小さなカーボンナノチューブは、配向方向に成長する周囲のカーボンナノチューブと引き合ったり、それらに衝突したりして、折れ曲りや湾曲部を形成しながら、ほぼランダムに間隙を縫って成長している。比較的外径が大きなものと小さなものが共存し、基体表面上に成長した配向カーボンナノチューブを構成しており、比較的外径が小さなカーボンナノチューブは折れ曲りや湾曲部を有するが全体として配向方向に成長している
(1B)のSEM像のみから明確に判別することは難しいが、1本のカーボンナノチューブか、又はいくつかの配向カーボンナノチューブがバンドルしたものが観察されている。後述するように、図1に示した配向カーボンナノチューブからは、ロープ状炭素構造物が作製されることを確認している。
【0046】
図2は、本発明に係る配向カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡(TEM)像である。図2の配向カーボンナノチューブは、図1と同様に、5wt%の触媒液を用いて作製された触媒体によって合成されている。図2のTEM像から、配向カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブであり、層数、外径、内径を測定することができる。図2の配向カーボンナノチューブは、TEM像から、平均層数が11.4層、平均外径が14.7nm、平均内径が6.8nmと見積もられている。従って、TEM像の観察により、ロープ状炭素構造物を作製することができる配向カーボンナノチューブの条件を明らかにすることが可能となる。また、後述する比較例との比較から、硝酸鉄濃度が高いほど、層数が増え、外径、内径が大きくなる傾向があることが分かっている。
【0047】
図3は、本発明に係る配向カーボンナノチューブ1から作製されたロープ状炭素構造物2の写真図である。(3A)では、触媒体表面の配向カーボンナノチューブ1の一部をピンセット3で引き出すことにより紡糸され、ロープ状炭素構造物2が形成されている。(3A)において、ピンセットにより長さ23mmのロープ状炭素構造物2が作製されている。(3A)の配向カーボンナノチューブ1は、硝酸鉄濃度4wt%の触媒液を塗着して得られた触媒体を用いて合成されたものである。
【0048】
図3の(3B)では、硝酸鉄濃度5wt%の触媒液を塗着して得られた触媒体により、配向カーボンナノチューブを合成し、ロープ状炭素構造物2を作製している。また、(3B)では、触媒体1の基板を劈開したときに、長さ5mmのロープが引き出されている。ロープ状炭素構造物2が引き出せるかどうかと、その長さを、「ロープ引き出し性」として評価することが可能である。ロープ引き出し性は、配向カーボンナノチューブの平均高さ(又は「平均長さ」)や嵩密度が重要な因子であると考えられる。ロープ引き出し性に関しては、より系統的な比較を行っており、後述する。
【0049】
図4は、本発明に係る配向カーボンナノチューブの触媒体の上方から又は表面付近を観察したSEM像である。(4A)は、本発明に係る基体上に形成された配向カーボンナノチューブを上方から観察したときのSEM像である。観察倍率は2500倍であり、5wt%の触媒液を用いて作製された触媒体によって合成されている。大部分の箇所は均質であるが、ところどころに空隙が見られた。部分的に触媒の活性が失われて、このような空隙が発生している可能性がある。
【0050】
(4B)は、配向カーボンナノチューブが形成された触媒体表面付近を側面から倍率100000倍で観察したときのSEM像である。前述のSEM像と同様に、5wt%の触媒液を用いて作製された触媒体によって合成されている。基体上に存在する粒子は触媒粒子であると考えられる。後述の比較例との比較から、硝酸鉄濃度が高いほど、粒子は大きい。触媒粒子は合成中に炭素を吸って肥大化するので、(4B)のSEM像における触媒粒子の大きさは、配向カーボンナノチューブが形成される前の触媒粒子の大きさと完全に一致するものではない。しかしながら、合成前の触媒前駆層の厚み、あるいは加熱によって生じた触媒粒子の大きさを反映しているものと考えられる。
【0051】
図5には、本発明に係る触媒粒子4から成長するカーボンナノチューブ5を模式的に示した概略図である。触媒粒子4が鉄を主成分とする鉄系触媒粒子であり、酸化鉄成分を含有している場合を例として、以下に成長モデルを説明する。カーボンナノチューブ5を形成可能な触媒粒子4は、図に示すように必ずしも球状とは限らず、粒径が0.5nm〜80nmであればよい。原料ガスとしてアセチレンガスを供給すると、カーボンナノチューブ5の合成反応は初期の急速な成長と、アモルファスカーボンを生成しながらの緩慢な成長の2段階の反応による成長があることが判明している。原料ガスがアセチレンの場合について説明するが、他の原料ガスについても同様のメカニズムになる。特に初期の急速な反応は、触媒粒子4の表面での下記(式1)及び(式2)を主体とする反応自体を律速とする反応である。
Fe2O3+C2H2 → 2FeC+H2O+CO2 (式1)
Fe3O4+C2H2 → FeO+2FeC+H2O+O2 (式2)
【0052】
急速な第1段階の成長については、触媒が保持している酸素量が反応によって消費されることで停止し、通常は原料ガスから供給される過剰なアモルファスカーボンにより触媒表面が覆われることで触媒と原料ガスの接触が困難となり、最終的に反応停止に至る。前記触媒粒子4の保持する酸素が同程度の場合、カーボンナノチューブ5の長さが、ほぼ同じ長さになることこから、再現性があると同時に、初期触媒の酸素の保持量によってカーボンナノチューブ5の長さが決まるものと理解できる。
【0053】
次に、長さを制御可能なカーボンナノチューブ5を製造するのに不可欠な、アモルファスカーボンを生成しながらの緩慢な成長について説明する。緩慢な成長については、下記(式3)及び(式4)を主体とする、炭素の表面拡散を律速とする反応であると理解できる。
FeO+C2H2 → FeC + H2O + C (式3)
Fe+C2H2 → FeC + C + H2 (式4)
【0054】
図5に示すように、アセチレンに接触する触媒粒子4の接触部6では、炭素と結合した粒子状の炭化物が形成され、この炭化物の表面にカーボンナノチューブ5の壁を構成する多層レイヤ7が形成される。触媒粒子4と原料ガスが反応して生成したアモルファスカーボンが多層レイヤ7を押し出すことによりカーボンナノチューブ5が形成される。図中の矢印a、bは、カーボンの拡散方向を示す。触媒粒子4と基体8の親和力が強い場合、触媒粒子4は球状とならないため、両サイドの多層レイヤ7は、均等な速度で押し出されず、垂直に配向しない原因となる。従って、基体8の表面に窒化物や酸化物などからなる反応防止層が形成されることが好ましく、触媒金属と基体の親和力が極めて低減化される。
【0055】
また、適度な親和力の場合、ある程度カーボンレイヤが垂直に伸び、親和力がカーボンの拡散により押し出される力に反して触媒が浮きあがり、カーボンナノチューブ5の長さ方向の中間点に存在する場合もありうる。触媒粒子4は、(式3)、(式4)の反応により発生するカーボン分をキャリアガス及び/又は原料ガス中に含まれる酸素、水分により触媒表面より燃焼、除去することによりカーボンナノチューブ5の連続的な生成が可能となる。
【0056】
<実施例1>
図6は、本発明に係る配向カーボンナノチューブの外径分布図及び内径分布図である。これらの分布のヒストグラムでは、各階級の範囲を1nmとしている。図6における実施例1の配向カーボンナノチューブは、5wt%の触媒液を用いて作製された触媒体によって合成されている。(6A)は、所定の範囲内で、TEM像により観察された配向カーボンナノチューブについて、外径の各範囲にある個数をカウントしたものである。(6A)の外径分布では、9.0nm〜9.9nm、12.0nm〜12.9nm、14.0〜14.9nm、18.0nm〜18.9nm及び21.0〜21.9nmに分布ピークが存在する。(6A)では、分布ピークのうち、最小外径になる9.0nm〜9.9nmと最大外径の21.0〜21.9nmの間隔は、12nmとなり、比較的分布の範囲が広いことが分かる。
【0057】
また、(6A)において、分布数の多い、12.0nm〜12.9nm、14.0〜14.9nm及び18.0nm〜18.9の分布ピークのうち、最小外径となる12.0nm〜12.9nmと最大外径となる18.0nm〜18.9の分布ピークでは、6nmの間隔がある。平均外径は、14.7nmと見積もられている。(6A)では、平均外径より外径の大きな側と外径の小さな側の両側に分布ピークがあり、比較的外径の大きな配向カーボンナノチューブと比較的外径の小さな配向カーボンナノチューブが夫々、分布ピークを1つ以上有していることが分かる。
【0058】
図6の(6B)には、配向カーボンナノチューブの内径分布図を示しており、(6A)と同様に、TEM像を観察して、所定の範囲内において内径の各範囲にある個数がカウントされている。(6B)において、7.0nm〜7.9nmと8.0nm〜8.9nmの2つの分布ピークが同じ分布数であるため、最大分布ピークとして、一体の分布ピークとみなすことができる。即ち、最大分布ピークは、7.0nm〜8.9nmの範囲又はその中心にあるとすることができる。従って、第2分布ピークは、5.0nm〜5.9nmの範囲にある分布ピークとする。平均内径は、6.8nmと見積もられ、(6B)では、(6A)と同様に、平均内径の両側に分布ピークがある。図6の外径分布と内径分布を有する配向カーボンナノチューブからは、図3に示したロープ状炭素構造物が作製できることが確認されている。
【0059】
図7は、実施例1の配向カーボンナノチューブの層数分布図である。図7の層数分布は、TEM像の観察により配向カーボンナノチューブの層数を数え、各層数の個数をカウントしたヒストグラムである。図7に示すように、層数分布においても、複数の分布ピークが存在する。最大数分布する第1分布ピークは層数が9層の分布ピークであり、その次に分布数が多い第2分布ピークの層数は12層となっている。従って、第1分布ピークと第2分布ピークの層数差ΔLが3となっている。図7の分布から、平均層数は、11.4層と見積もられている。図7から明らかなように、平均層数より層数の小さな配向カーボンナノチューブと平均層数より層数の大きな配向カーボンナノチューブの各々が分離して、各々の分布ピークを有している。
【0060】
図8は、本発明に係る配向カーボンナノチューブ合成方法の工程図である。
<基体の供給:ステップS1>
本発明に係る配向カーボンナノチューブ合成方法の触媒液生成工程S1では、触媒金属化合物からなる触媒前駆物質を溶媒中に分散又は溶解させて触媒液を生成する。触媒金属化合物としては、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、硝酸塩又はオキソ酸など選択される金属塩が好ましい。更に、触媒金属化合物の金属成分は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、プラチナ(Pt)等の遷移金属であり、特に、鉄、コバルト、ニッケルが好ましく、また、これらの金属のうち1種又は2種以上の混合物であってもよい。
触媒液中における触媒前駆物質の濃度は、触媒金属化合物及び/又は溶媒の含有量により調整される。
【0061】
溶媒としては、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、エステル類、ケトン類、又は非プロトン性極性溶媒を用いることが好ましい。前記アルコール類としては、1−ブタノール、2−ブタノール又はジアセトンアルコールが好ましく、前記グリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール又はジエチレングリコールが好ましい。更に、前記グリコールエーテル類としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル又はプロピレングリコールモノエチルエーテルが好ましく、前記エステル類としては、乳酸エチルが好ましく、前記ケトン類としては、アセチルアセトンが好ましく、前記非プロトン性極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン又はN,N−ジメチルホルムアミドが好ましい溶媒として列挙される。
【0062】
更に、グリコールエーテル類において、プロピレングリコールモノエチルエーテル(PEG)は、溶媒として、より好ましい特性を有する。即ち、前記PGEは、均質な膜を得るための適度な粘度と蒸発速度を有し、種々の触媒金属化合物を溶解する能力を備えている。前記PGEは、酸化膜付きシリコンウエハ等の基体表面に対する濡れ性に優れ、スピンコート法やスプレー法によって、より均一な触媒前駆層を形成することができる。また、エタノールとN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などの混合液を溶媒に用いても良い。また、モレキュラシーブ等の脱水剤を用いて予め水分を除去することが望ましく、溶媒中に含まれる微量の水分が触媒金属化合物により加水分解などの化学反応を抑制することができ、触媒粒子以外の不純物が副生されることを低減化することができる。
【0063】
更に、前記DMFと水とでは、金属イオンに対する配位能力が同程度であるため、他の溶媒にDMFを添加すると、加水分解反応を抑制する効果が得られる。例えば、PEGにDMFを添加した混合溶媒は、より安定な溶媒として利用することができる。また、従来の触媒液は粘度が低いため、スピンコート法で塗布した際、遠心力の影響を受けて、基板中央部に比べて周辺部の膜厚が薄くなる傾向がある。つまり、膜厚の均一性にやや劣るという欠点を有している。PGEを溶媒として用いることで、この点が大きく改善される。
【0064】
<塗着乾燥工程:ステップS2> 塗布乾燥工程S2では、触媒液を塗着して乾燥させ、基体表面に触媒前駆層を形成する。前記触媒液を塗着して乾燥させることにより、基体表面に極めて薄い触媒前駆層を形成することができる。基体としては、セラミックス材、無機非金属、無機非金属化合物等の材料が好ましく、例えば、石英板、シリコン基板、シリコンウエハ、水晶板、溶融シリカ板、サファイヤ板、ステンレス板等を用いることができる。更に、基体表面には、酸化膜などのより不活性な層を設けることが好ましく、このような不活性層は「反応防止層」と称される。
【0065】
触媒液の塗着には、スプレー法やインクジェト法等が用いられ、触媒液を噴霧または印刷する。噴霧用の気体の流速、触媒液の流量及びノズルの形状などを制御することにより、塗膜の膜厚などの制御を行うことができる。また、基体表面が平面以外の凹凸形状の場合においても、塗膜を付着させることができる。スプレー印刷では、マスキングなどを使用して、任意のパターンを基体表面に印刷することができる。従って、前記基体との濡れ性に富んだ溶媒に前記金属化合物を分散又は溶解させた触媒液を用いることが好ましい。また、塗着乾燥工程において、酸化性ガスを供給しながら触媒前駆層を加熱して、触媒前駆体表面に酸化膜を形成しても良く、酸化膜を形成することにより、触媒粒子の凝集が抑制される。
【0066】
<触媒基体形成工程:ステップS3>
触媒基体形成工程では、前記触媒前駆層を加熱して前記基体表面に触媒粒子からなる触媒粒子層を形成して、触媒体が作製される。即ち、触媒前駆層が加熱されることにより粒子化され、触媒粒子層が形成される。微小な粒径を有すると共に、均一な粒径を有する触媒粒子層が形成される。前記触媒前駆物質の濃度を設定することにより、所望の平均外径を有する配向カーボンナノチューブを合成することが可能な触媒粒子層が形成される。
【0067】
<合成工程:ステップS4>
合成工程では、配向カーボンナノチューブの合成温度以上に加熱された原料ガスが触媒体表面に供給され、配向カーボンナノチューブが合成される。前記触媒前駆物質の濃度に応じて、所定の平均外径を有する配向カーボンナノチューブが合成される。更に、平均内径、平均層数も、前記濃度に応じて所定のサイズ又は層数に設定される。
【0068】
図9は、本発明に係る触媒体の作製過程を模式的に示した説明図である。(9A)〜(9D)には、基体表面及びその近傍の断面概略図を示している。(9A)に示すように、酸化性ガス雰囲気下で加熱処理された基体32の表面には、酸化物からなる反応防止層34が形成されており、この反応防止層34の表面に触媒液を塗着して、塗膜30が形成される。これを乾燥させることにより、(9B)の触媒前駆層36が形成される。(9C)では、粒子化の前段で、触媒前駆層36の表面が酸化され、凝集抑制層38が形成されている。(9D)に示すように、更に加熱されると触媒粒子42からなる触媒粒子層44が形成され、配向カーボンナノチューブの合成するための触媒体が得られる。
上述の方法で形成された触媒前駆層の厚さTと用いられた触媒液の濃度は、次のような対応関係を有し、各触媒液を同量、基体表面に塗着すると、乾燥後に厚さの異なる触媒前駆層が形成される。表1には、各硝酸鉄濃度に対する触媒前駆層の厚さTを記載している。
触媒前駆層の厚さTは、基体表面に触媒液を塗布・乾燥後に形成した触媒前駆層を高濃度の硝酸や塩酸に一旦全量溶かした後に、触媒金属量をICP発光分析などを用いて定量し、基体上に酸化鉄の状態(密度)で存在することを仮定し計算で求めた厚みである。
【0069】
【表1】
【0070】
図10は、本発明に係る触媒体表面の原子間力顕微鏡(AFM)像である。この触媒体は、以下のような工程で作製されている。
触媒液には、前記PGEとDMFの混合溶媒に、触媒金属化合物として硝酸鉄9水和物を溶解させて生成した。スピンコーターに基板状の基体をセットして回転させ、触媒溶液をピペットに取り、基体表面の中央部から周辺部に向かって走査するように滴下して、基体表面に触媒液を塗着している。回転停止後、基体を加熱して乾燥させて、基体表面に触媒前駆層を形成している。加熱乾燥の場合、300℃よりも低温で乾燥させることが好ましく、300℃を越えると乾燥だけでなく、触媒前駆層の粒子化が進行し、触媒粒子の粒径を制御することが困難となる虞があった。
【0071】
図10にAFM像を示した触媒体の作製工程では、200℃で基体表面上の触媒液を乾燥させて、触媒前駆層が形成されている。次に、触媒前駆層を形成した基体を石英管の中に設置し、Heガスを流しながら700℃〜900℃に昇温して、触媒粒子層の形成している。前記昇温温度は、700℃〜800℃未満であることがより好ましい。図10に示すように、基体表面の全面に亘って凹凸が見られ、加熱により粒子化が起こり、触媒体が作製されていることが確認された。加熱によって形成された触媒粒子の大きさや密度は比較的一様で、均質性が高いと言える。また、触媒粒子の平均粒径は、およそ10nmである。
【0072】
<実施例2>
図11は、本発明に係る触媒体を用いて合成した実施例2の配向カーボンナノチューブ側面を観察したSEM像である。図1に示した配向カーボンナノチューブと同様に、その合成はCVD法によって行われている。触媒金属化合物として、硝酸鉄9水和物が用いられ、触媒体の作製に用いられた触媒液の硝酸鉄濃度は約4wt%である。触媒前駆層を形成した基板状の基体を石英管内に設置し、ヘリウムガスを供給しながら、室温から700℃以上になるまで30分かけて昇温する。700℃以上の状態を数分間保持したのち、キャリアガスのヘリウムガスと、原料ガスであるアセチレンガス(C2H2)の混合ガスを供給し、配向カーボンナノチューブを合成している。700℃まで昇温する過程において、前記触媒前駆層が粒子化され、触媒粒子層が形成される。図11に示した配向カーボンナノチューブからは、ロープ状炭素構造物を作製できることが確かめられている。
【0073】
<比較例1〜3>
図12には、本発明に対する比較例1〜3の配向カーボンナノチューブ側面を観察したSEM像である。観察した倍率は200倍である。(12A)の比較例1では、硝酸鉄濃度が約3wt%の触媒液を用いて、(12B)の比較例2では、硝酸鉄濃度が約2wt%の触媒液を用いて、(12C)の比較例3では、硝酸鉄濃度が約1wt%の触媒液を用いて触媒体を作製し、各配向カーボンナノチューブの合成が行われている。しかしながら、比較例1〜3の配向カーボンナノチューブからは、ロープ状炭素構造物を作製することはできなかった。図1の実施例1、図11の実施例2及び図12の比較例1〜3を比べると、明らかに配向カーボンナノチューブの平均高さが異なっている。
【0074】
図13は、実施例1、2及び比較例1〜3における配向カーボンナノチューブの平均高さ(以下、単に「CNT高さ」とも称する)と嵩密度を触媒体製造時の硝酸鉄濃度に対してプロットしたグラフ図である。(13A)には、触媒液中の硝酸鉄濃度に対するCNT高さがプロットされている。(13A)に示すように、硝酸鉄濃度の増加に相関して、配向カーボンナノチューブのCNT高さ(μm)が減少している。これは、図1、図11及び図12に示した実施例1、2と比較例1〜3のSEM像からも明らかである。硝酸鉄濃度が4wt%以上であった実施例1、2の配向カーボンナノチューブからは、ロープ状炭素構造物が作製されている。従って、(13A)から、CNT高さが220μm以下、より好ましくは180μm以下であることがロープ状炭素構造物を作製する配向カーボンナノチューブの条件として考えることができる。
【0075】
(13B)には、硝酸鉄濃度に対する配向カーボンナノチューブの嵩密度(mg/cm3)をプロットしている。(13B)に示すように、嵩密度は、硝酸鉄濃度の変化に対して、大きな変化は無く、少なくとも(6B)の範囲においては、硝酸鉄濃度に対する依存性が少なく、およそ30±6mg/cm3程度の嵩密度が得られている。しかし、硝酸鉄濃度が4wt%以上であった実施例1、2では、いずれも嵩密度が30mg/cm3を越えており、ロープ状炭素構造物を作製する配向カーボンナノチューブの条件と考えることができる。
【0076】
図14及び15は、実施例2及び比較例1〜3の配向カーボンナノチューブ側面を高倍率(50000倍)で観察したときのSEM像である。前述のように、図14に示した実施例2及び図15の(15A)、(15B)、(15C)の比較例1〜3は、夫々、4wt%、3wt%、2wt%、1wt%の触媒液を用いて作製された触媒体によって合成されている。硝酸鉄濃度1〜4wt%の範囲においては、濃度が高くなるにつれ、見た目の密度および配向カーボンナノチューブの外径(バンドル径)が大きくなり、直線性が増していくように見える。図1の(1B)に示した硝酸鉄濃度5wt%のときには、密度が低く、配向カーボンナノチューブの外径(バンドル径)は小さい。また、多くの配向カーボンナノチューブは曲がりくねっている。但し、これらが1本のカーボンナノチューブなのか、それとも、いくつかの配向カーボンナノチューブがバンドルしたものなのかは、図14及び図15のSEM像からは判別できない。
【0077】
図16及び図17は、実施例2及び比較例1〜3の基体表面付近を側面から観察したときのSEM像(観察倍率100000倍)である。図16の実施例2、図17の(17A)、(17B)、(17C)の配向カーボンナノチューブは、夫々、4wt%、3wt%、2wt%、1wt%の触媒液を用いて作製された触媒体によって合成されている。図4と同様に、基体上に存在する粒子は触媒粒子であると考えられ、硝酸鉄濃度が高いほど、粒子は大きい傾向にある。触媒粒子は合成中に炭素を吸って肥大化するので、これがそのまま触媒粒子の大きさではないが、もとの触媒前駆層の厚み、あるいは加熱によって生じた触媒粒子の大きさを反映しているものと考えられ、前述のように、触媒液濃度によって、触媒粒子の粒径が制御可能である。
【0078】
図18及び図19は、実施例2及び比較例1〜3の配向カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡(TEM)像である。図18の実施例2、図19の(19A)、(19B)、(19C)の配向カーボンナノチューブは、夫々、4wt%、3wt%、2wt%、1wt%の触媒液を用いて作製された触媒体によって合成されている。これらのTEM像から、配向カーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブであり、層数、外径、内径を測定することができ、硝酸鉄濃度が高いほど、層数が増え、外径、内径が大きくなる傾向が見られる。
【0079】
図20は、実施例2の配向カーボンナノチューブの層数分布図である。図20の層数分布は、30以上のTEM像の観察から得られた所定範囲内における配向カーボンナノチューブの層数を数え、各層数の個数をカウントしたヒストグラムである。図20に示すように、複数の分布ピークが存在する。最大数分布する第1分布ピークは層数が10層の分布ピークであり、その次に分布数が多い第2分布ピークの層数は7層となっている。従って、第1分布ピークと第2分布ピークの層数差ΔLが3となっている。図20の層数分布から、平均層数は、10.2層と見積もられている。図20では、平均層数より大きな層数に第3の分布ピークが存在しており、平均層数より層数の小さな配向カーボンナノチューブと、平均層数より層数の大きな配向カーボンナノチューブとで、別々の分布ピークを有している。
【0080】
図21は、比較例1〜3の配向カーボンナノチューブの層数分布図である。前述のように、(21A)の比較例1、(21B)の比較例2、(21C)の比較例3の配向カーボンナノチューブは、夫々、3wt%、2wt%、1wt%の触媒液を用いて作製された触媒体によって合成されている。更に、比較例1〜3の配向カーボンナノチューブからは、ロープ状炭素構造物が作製されていない。(21A)と(21B)では、層数分布が1つだけであり、実施例に比べて比較的高い均一性を有している。更に、(21C)においては、層数11層で、小さな分布ピークがあるが、最も分布数が少なく、且つ層数7層にある最大分布ピークの20%未満の分布数である。
【0081】
図22は、実施例1、2及び比較例1〜3における配向カーボンナノチューブの平均外径と平均内径を触媒体の作製に用いられた触媒液の濃度に対してプロットしたグラフ図である。TEM像は、各濃度に対して試料数30以上を準備して観察し、外径と内径の平均値を見積もっている。(22A)では、配向カーボンナノチューブの平均外径を触媒液濃度に対してプロットしている。(22A)に示すように、触媒液濃度の増加に伴って、CNTの平均外径が増加傾向にあることが分かる。尚、硝酸鉄濃度が3wt%以下の比較例では、平均外径が全て12nm未満となっている。
(22B)には、配向カーボンナノチューブの平均内径を触媒液濃度に対してプロットしている。平均外径に比べてその増加率は小さいが、触媒液濃度の増加に伴って、CNTの平均内径が増加傾向にあることが分かる。また、硝酸鉄濃度が3wt%以下の比較例では、平均内径が全て6nm未満となっている。
【0082】
図23は、実施例1、2及び比較例1〜3における配向カーボンナノチューブの層数を触媒体の作製に用いられた触媒液の濃度に対してプロットしたグラフ図である。図20と同様に、平均層数は、30以上の試料をTEMで観察して測定されている。配向カーボンナノチューブを形成する多層カーボンナノチューブの平均層数は、触媒液濃度の増加に伴って増加する傾向にある。この結果は、図において、平均内径に比べ、平均外径が大きく増加する結果と一致する。従って、SEM像において観察された配向カーボンナノチューブは、いくつかのカーボンナノチューブがバンドルしているのではなく、1本のカーボンナノチューブである可能性が高い。
【0083】
【表2】
【0084】
表2には、実施例1、2と比較例1〜3における層数の少ない配向カーボンナノチューブの分布数Nfと、層数の多い配向カーボンナノチューブの分布数Nmと、全分布数N=Nf+Nmに対する分布数Nfの比率Nf/Nが記載されている。図21の(21C)に層数分布を示した比較例3の配向カーボンナノチューブは、試料の中で平均層数が最小であることから、図21の(21C)に示した比較例3の層数分布を基準として、実施例1、2と比較例1〜3の層数分布を比較する。尚、前述のように、図7の実施例1の層数分布、図20の実施例2の層数分布、図21の(21A)〜(21C)に示した比較例1〜3の層数分布では、TEM像の観察像において、30以上の配向カーボンナノチューブを無作為に選び、層数をカウントして層数分布を見積もっている。
【0085】
図21の(21C)に示した比較例3の層数分布において、配向カーボンナノチューブの層数は、殆どが9層以下であり、7層に分布ピークを有し、この分布ピークの両端側では、層数の増加と減少に伴ってほぼ単調に分布数が減少している。(21C)において、層数11層にも僅かな分布が見られるが、全体の約6%程度であることから、配向カーボンナノチューブ全体の特性への寄与は無視できると考えられる。従って、前述のように、試料中平均層数が最小であった比較例3を基準とすると、層数が9層以下の場合を層数の少ない配向カーボンナノチューブとして分類することができる。表2には、実施例1、2と比較例1〜3において、層数が9層以下の配向カーボンナノチューブの分布数を分布数Nf、層数が10層以上の配向カーボンナノチューブの分布数を分布数Nmとして記載している。更に、表2には、全分布数N=Nf+Nmに対する分布数Nfの比率Nf/Nが記載されている。
【0086】
表2に示すように、比較例1〜3では、比率Nf/Nが0.7を超え、これらの配向カーボンナノチューブからは、ロープ状炭素構造物を形成することができなかった。ロープ状炭素構造物が形成されることが確認された実施例1、2では、夫々、比率Nf/Nが0.35、0.39となっている。実施例1、2とほぼ同一の条件で製造された配向カーボンナノチューブは、比率Nf/Nが0.30〜0.50の範囲にあることがいくつかのTEM像から確認され、さらにロープ状炭素構造物が形成されることを確認している。層数の少ない配向カーボンナノチューブがほぼ直立する配向カーボンナノチューブ同士が引き合う力に寄与するとすれば、層数の少ない配向カーボンナノチューブと層数が多いものが同程度含まれる、つまり比率Nf/Nが0.5程度であることがより好ましいと考えられる。また、層数が9層以下の配向カーボンナノチューブの比率Nf/Nは、少なくとも0.1以上、つまり10%程度以上は、層数の少ない配向カーボンナノチューブが含まれていることが必要と判断している。従って、本発明者らは、比率Nf/Nが0.7を超えるとロープ状炭素構造物が形成されなかったことから、要求される比率Nf/Nの範囲を0.1〜0.7と見積もっている。
【0087】
図22及び図23において、配向カーボンナノチューブの平均層数や平均外径、平均内径の関係は、触媒前駆層の厚みおよび加熱した際に形成される触媒粒子の大きさや粒度分布を反映しているものと考えられる。したがって、表1の関係から、触媒液濃度の調整により、触媒前駆層の厚さ又はこの触媒前駆層を加熱して形成される触媒粒子の平均粒径を変えることで、配向カーボンナノチューブの平均層数や平均外径、平均内径などを制御することが可能になったと言える。
【0088】
図24及び図25は、実施例2及び比較例1〜3の配向カーボンナノチューブを基体表面の上方から観察したときのSEM像である。観察倍率は2500倍である。図24の実施例2と、図25における(25A)、(25B)、(25C)の配向カーボンナノチューブは、前述のように、夫々、4wt%、3wt%、2wt%、1wt%の触媒液を用いて作製された触媒体によって合成されている。(25C)に示した硝酸鉄濃度1wt%の比較例3では、配向カーボンナノチューブの先端が局所的に集合し、特異な構造を形成している。図24及び図25の(25A)、(25B)に示した硝酸鉄濃度2〜4wt%のときでは、このような構造は見られず、比較的均質である。図25(実施例2)及び図25の(25A)(比較例1)に示した硝酸鉄濃度3〜4wt%のとき、見た目の密度が最も高いように見える。しかしながら、図4に示した実施例5において、大部分の箇所は均質であるが、ところどころに空隙が見られている。換言すれば、単に、配向カーボンナノチューブを上方から観測しただけでは、ロープ状炭素構造物を作製できるかどうかを判断することはできない。
【0089】
<他の実施例>
図26は、本発明に係る配向カーボンナノチューブのCNT高さ、触媒液濃度及び合成温度の関係をプロットしたグラフ図である。(26A)では、合成温度が700℃、720℃及び740℃の場合におけるCNT高さ(μm)の触媒液濃度依存性を示している。(26A)において、700℃及び720℃の場合、硝酸鉄濃度の増加に伴ってCNT高さが明確に減少している。但し、合成温度が720℃の場合、硝酸鉄濃度が2wt%以上で濃度に対するCNT高さの明確な減少が現れている。また、合成温度が740℃の場合、硝酸鉄濃度2wt%〜5wt%の範囲では、濃度の増加に伴って僅かにCNT高さが減少する傾向にある。
【0090】
しかしながら、合成温度が740℃の場合、図26の(26A)では、CNT高さの変化量が700℃と720℃の場合におけるCNT高さの変化に比べて小さく、硝酸濃度の増加に対して殆ど変化していないと考えることもできる。図26の(26B)には、配向カーボンナノチューブの合成に用いた各触媒体の触媒液濃度毎に、合成温度に対するCNT高さをプロットしている。合成温度の増加に伴ってCNT高さが減少し、その減少率は、硝酸鉄濃度が増加すると小さくなる傾向にあることが分かる。
【0091】
図27は、配向カーボンナノチューブのCVD温度、平均高さ(CNT高さ)と嵩密度の関係において、ロープ状炭素構造物が確実に作製できる範囲を示すグラフ図である。配向カーボンナノチューブが形成された多くの触媒体からロープ状炭素構造物の作製を試み、より確実にロープ状炭素構造物を作製可能な配向カーボンナノチューブの条件を調べた。配向カーボンナノチューブの嵩密度が40mg/cm3程度以上、かつCNT高さが80μm以上の試料からは、ほぼ確実にロープ状炭素構造物を作製することができている。他の試料の場合、同一の試料でもロープ状炭素構造物を作製できる場合とできない場合があった。配向カーボンナノチューブの嵩密度が40mg/cm3程度以上で、かつCNT高さが80μm以上の試料は、全て触媒体の製造に用いられた触媒液の硝酸鉄濃度が4wt%以上で、合成温度(又は「CVD温度」とも称している)が720℃以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明に係る配向カーボンナノチューブによれば、より確実にロープ状炭素構造物を作製することができる。本発明に係る配向カーボンナノチューブを用いて作製されたロープ状炭素構造物は、超軽量、高強度の繊維であり、カーボン製電線などや種々の炭素材料として利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 配向カーボンナノチューブ
2 ロープ状炭素構造物
3 ピンセット
4 触媒粒子
5 カーボンナノチューブ
6 接触部
7 多層レイヤ
8 基体
30 塗膜
32 基体
34 反応防止層
36 触媒前駆層
38 凝集抑制層
42 触媒粒子
44 触媒粒子層
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブが基体表面に配向して成長した配向カーボンナノチューブ、この配向カーボンナノチューブから作製されたカーボンナノチューブからなるロープ状炭素構造物(「ロープ状カーボンナノチューブ」とも称される)及びその製造方法に関し、更に詳細には、触媒粒子からなる触媒粒子層を前記基体表面に形成した触媒体を作製し、前記触媒体に原料ガスを供給して前記触媒粒子層の表面に多層の配向カーボンナノチューブを合成して、この配向カーボンナノチューブから作製したロープ状炭素構造物及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
配向カーボンナノチューブ(「ブラシ状CNT」とも称される)を合成する方法として、触媒体を利用して炭化水素などの原料ガスを分解し、触媒体表面にカーボンナノチューブを成長させる触媒化学的気相成長法(CCVD法、Catalyst Chemical Vapor Deposition)がある。国際公開 第WO2008/007750号(特許文献1)、国際公開第WO2008/111653号(特許文献2)、国際公開第WO2009/038172号(特許文献3)、末金 皇、長坂岳志、野坂俊紀、中山喜萬 著、応用物理13、第73巻、(2004)第5号(非特許文献1)には、CCVD法により触媒体表面に配向カーボンナノチューブを成長させる方法が記載されている。非特許文献1では、原料ガスのアセチレンとキャリアガスのヘリウムを用いて混合ガスを触媒体上に供給しながら、触媒体を抵抗加熱方式による伝導電熱で加熱して配向カーボンナノチューブを製造する方法が記載されている。
【0003】
尚、本願における「配向カーボンナノチューブ」とは、カーボンナノチューブが基体上に一定方向に林立したものであり、基体上に一定方向に成長したカーボンナノチューブを指す。一般的な配向カーボンナノチューブの合成過程は、初期の急速な成長による第1成長段階と、比較的緩やかに連続的に成長する第2成長段階があることが知られている。カーボンナノチューブの成長メカニズムについては、様々な研究が為されており、非特許文献1では、上述の2段階成長による成長メカニズムが説明されている。
【0004】
前記非特許文献1では、スパッタ法によりSiウエハ基板上に触媒前駆層としてFe薄膜を形成し、700℃まで加熱することによりFe薄膜を粒子化してSiウエハ基板上に触媒粒子層を形成して触媒体が作製されている。しかしながら、物理蒸着法(PVD)や化学気相成長法(CVD)により、触媒金属を含有する触媒前駆層を形成する場合、高真空蒸着装置等の高価な装置が必要となると共に、運用コストも増大する。より低コストで配向カーボンナノチューブを製造する方法として、本発明者らの一部は、特許文献3に、触媒金属化合物を分散又は溶解させた触媒液を塗着し、触媒層を形成する方法を開示している。このように触媒液を塗着して加熱することにより作製された触媒体を以下では、単に「湿式触媒体」とも称する。特許文献2において、前記湿式触媒体を用いて合成される配向カーボンナノチューブが触媒液の特性に対して、どのような依存性を示すかについては、詳細なデータが明示されていなかった。
【0005】
Yiming Li, et al. “Growth of Single-Walled Carbon Nanotubes from Discrete Catalytic Nanoparticles of Various Sizes”, J. Phys. Chem. B2001, 105, pp11424-11431 (非特許文献2)などにおいては、触媒粒子のサイズと合成される配向カーボンナノチューブの直径に相関があることが記載されている。例えば、非特許文献2には、触媒粒子の平均粒径が約3.7nmのとき、平均直径が約3.0nmの配向カーボンナノチューブが合成され、触媒粒子の平均粒径が約1.9nmのとき、平均直径が約1.5nmのカーボンナノチューブが合成されることが示されている。非特許文献2における触媒の作成方法は、電子ビーム蒸着やスパッタなどによる金属薄膜の成膜による金属触媒の製造方法であり、単に「乾式触媒体」とも称する。触媒粒子の直径と配向カーボンナノチューブを構成するカーボンナノチューブ自体の直径の相関関係から、配向カーボンナノチューブの平均直径を制御するためには、触媒粒子の直径を制御することが、より直接的かつ効果的な方法であると考えられる。
一方、特許文献1に記載される触媒液を塗着して触媒前駆層を形成する方法、いわゆる「湿式触媒体」を用いた場合の触媒粒子の直径を制御する方法は、これまで明確に示されていなかった。
【0006】
図28は、特許文献2に記載される従来の触媒体における触媒粒子層の粒径分布図である。原子間力顕微鏡(AFM)像の観察に基いて、所定の粒径d(Particle diameter)を有する触媒粒子の個数(Number)がプロットされている。このプロットに対して単一の分布関数がフィッティングされ、良い一致を示しており、その分布関数の半値幅ΔDが見積もられている。特許文献1では、酸化処理により触媒前駆層に凝集抑制層を形成した後に粒子化を図ることにより、粒径分布の半値幅ΔDが減少することが確かめられ、触媒粒子の均一性が向上することが示されている。しかしながら、高い均一性を保持しながら、触媒粒子の微小化を図る場合、物理蒸着法(PVD)や化学気相成長法(CVD)により、触媒金属を含有する触媒前駆層を形成するためには、高真空蒸着装置等の高価な装置が必要となると共に、運用コストも増大する。
【0007】
より低コストで配向カーボンナノチューブを製造する方法として、本発明者らの一部は、特許文献3に、触媒金属化合物を分散又は溶解させた触媒液を塗着し、触媒粒子層を形成する方法を開示している。尚、以下では、触媒液を塗着して加熱することにより触媒粒子層を形成する方法を「湿式法」、湿式法で作製された触媒体を単に「湿式触媒体」とも称する。この湿式触媒体は、触媒金属化合物を溶解・分散した触媒液を基体表面に均一に塗布して触媒前駆層を形成し、この触媒前駆層を加熱することにより触媒粒子層を形成して得られる。従って、比較的安価な装置で触媒体を製造できると共に、より均一で微小な触媒粒子層を形成できることが特許文献3に記載されている。
【0008】
近年、配向カーボンナノチューブから作製される炭素材料として、ロープ状炭素構造物が注目されており、超軽量、高強度の繊維であり、カーボン製電線など種々の炭素材料として利用することができる。特許文献1には、従来の触媒体表面に合成された配向カーボンナノチューブから、ロープ状炭素構造物を作製することが記載されている。即ち、配向カーボンナノチューブから隣接するカーボンナノチューブが絡み合ったカーボンナノチューブの集合体をピンセット等によって引き上げることによって、ロープ状炭素構造物の製造が可能である。しかしながら、前記湿式触媒体を用いて合成された配向カーボンナノチューブに関して、ロープ状炭素構造物を製造する好適な条件については明らかにされていなかった。即ち、湿式触媒体は、前述のように、比較的安価な装置で作製できると共に、触媒粒子の均一化や微小化を目的として開発された触媒体であるが、ロープ状炭素構造物を作製することに関しては明らかにされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第WO2008/007750号
【特許文献2】国際公開第WO2008/111653号
【特許文献3】国際公開第WO2009/038172号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】末金 皇、長坂岳志、 野坂俊紀、中山喜萬 著、応用物理13、第73巻、(2004)第5号
【非特許文献2】Yiming Li, et al. “Growth of Single-Walled Carbon Nanotubes from Discrete Catalytic Nanoparticles of Various Sizes”, J. Phys. Chem. B2001, 105, pp11424-11431
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述のように、特許文献3に記載される触媒液を塗着して触媒前駆層を形成する方法(以下、単に「塗着法」と称する)では、触媒層の形成方法に依存して、合成される配向カーボンナノチューブがどのような依存性を示すかについては、詳細なデータが明示されていなかった。前記塗着法は、低コストで配向カーボンナノチューブを合成する上で、好適な触媒体製造方法であり、前記塗着法で作製された触媒体を用いて、配向カーボンナノチューブの物理量を制御する方法の開発が求められていた。
【0012】
特許文献2に記載される従来の触媒体では、前記触媒前駆層の粒子化を行う前に凝集抑制層を形成することにより、より均一性の良い触媒粒子層が形成されることが示されている。即ち、図28に示すように、触媒粒子の粒径分布が単一の分布関数と良い一致を示し、フィッティングされた分布関数の半値幅ΔDが小さくなっている。しかしながら、図28に粒径分布を示した触媒粒子層は、電子ビーム蒸着方によって形成された触媒前駆層を加熱により粒子化したものであり、このような製造方法によって、さらに触媒粒子の均一性を向上させることは困難となっていた。前述のように、特許文献3に記載される湿式触媒体では、より均一で微小な触媒粒子からなる触媒粒子層が形成されることが示されている。従来の湿式触媒体は、触媒液を基体表面に均一に塗着して、乾燥させた後に加熱するだけで製造することができ、比較的安価で製造することが可能である。しかしながら、従来の湿式触媒体を用いて合成された配向カーボンナノチューブに関して、ロープ状炭素構造物を製造する好適な条件について詳細な研究は行われてこなかった。
【0013】
特許文献3において、PVDやCVDを用いて触媒前駆層を形成し、加熱による粒子化で触媒粒子層を形成した触媒体(以下、「乾式触媒体」とも称する)に比べ、湿式触媒体を用いて合成される配向カーボンナノチューブの平均直径が小さくなることが記載されている。しかしながら、比較的小さな平均直径を有する配向カーボンナノチューブからロープ状炭素構造物を作製する場合のカーボンナノチューブ自体の条件については、明らかにされてこなかった。特許文献2では、ロープ状炭素構造物を作製する配向カーボンナノチューブの条件として、その嵩密度が20mg/cm3であることを挙げているが、配向カーボンナノチューブを構成するカーボンナノチューブの平均直径と嵩密度の相関を考慮して、平均直径が異なる場合に、嵩密度に関するその条件がどのように適用できるかついては明確に示されていなかった。
【0014】
従って、本発明は、配向カーボンナノチューブを構成するカーボンナノチューブの物理量を制御して、容易にロープ状炭素構造物を製造することができる配向カーボンナノチューブを提供することを目的としている。より具体的には、触媒体を用いて合成された配向カーボンナノチューブからロープ状炭素構造物を作製するための条件を明らかにし、その条件を満たす配向カーボンナノチューブ及びそれを製造するための触媒体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであって、本発明の第1の形態は、基体と前記基体表面に形成された触媒粒子層から構成される配向カーボンナノチューブ製造用触媒体を用いて合成される配向カーボンナノチューブにおいて、前記配向カーボンナノチューブが多層のカーボンナノチューブからなり、前記配向カーボンナノチューブのサイズ分布及び/又は層数分布が2つ以上の分布ピークを有し、前記基体表面に成長させた前記配向カーボンナノチューブの一部を引出すことによりカーボンナノチューブからなるロープ状炭素構造物が形成されるロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブである。
【0016】
本発明の第2の形態は、第1の形態において、前記触媒粒子層を形成する触媒粒子の粒径分布が少なくとも2つ以上の分布ピークを有する配向カーボンナノチューブ製造用触媒体を用いて合成される配向カーボンナノチューブであるロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブである。
【0017】
本発明の第3の形態は、第1又は2の形態において、前記基体表面に成長させた前記配向カーボンナノチューブの平均高さが80μm以上であり、前記配向カーボンナノチューブの嵩密度が40mg/cm3以上であるロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブである。
【0018】
本発明の第4の形態は、第1〜3のいずれかの形態において、前記層数分布において、全分布数Nに対し、層数が9層以下である配向カーボンナノチューブの分布数Nfの比率Nf/Nが0.1〜0.7の範囲にあるロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブである。
【0019】
本発明の第5の形態は、第1〜4のいずれかの形態において、前記層数分布における前記分布ピークのうち、最も分布個数が多い第1分布ピークの個数をn1、次に分布個数が多い第2分布ピークの個数をn2としたとき、個数比率n2/n1が0.2≦n2/n1≦1の範囲にあるロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブである。
【0020】
本発明の第6の形態は、第5の形態において、前記第1分布ピークの層数と前記第2分布ピークの層数との層数差ΔLが2層以上であるロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブである。
【0021】
本発明の第7の形態は、第1〜6のいずれかの形態において、前記サイズ分布がカーボンナノチューブの外径分布及び/又は内径分布であるロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブである。
【0022】
本発明の第8の形態は、第1〜7のいずれかの形態のロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブの一部を引出して形成されたロープ状炭素構造物である。
【0023】
本発明の第9の形態は、触媒粒子層を基体表面に形成した触媒体を作製し、所定の合成温度に設定された前記触媒体に原料ガスを供給して前記基体表面に多層の配向カーボンナノチューブを合成し、前記配向カーボンナノチューブの一部を引出してカーボンナノチューブからなるロープ状炭素構造物を形成するロープ状炭素構造物製造方法において、前記触媒粒子層の膜厚を調整して前記配向カーボンナノチューブのサイズ分布及び/又は層数分布が2つ以上の分布ピークを有する配向カーボンナノチューブを合成するロープ状炭素構造物製造方法である。
【0024】
本発明の第10の形態は、第9の形態において、前記基体表面に成長させた前記配向カーボンナノチューブの平均高さを80μm以上、且つ前記配向カーボンナノチューブの嵩密度を40mg/cm3以上に制御するロープ状炭素構造物製造方法である。
【0025】
本発明の第11の形態は、第9又は10のいずれかの形態において、前記合成温度の増加に相関して前記平均層数を増加させるロープ状炭素構造物製造方法である。
【0026】
本発明の第12の形態は、第9〜11のいずれかの形態において、前記合成温度の増加に相関して前記平均外径及び/又は前記平均内径を増大させるロープ状炭素構造物製造方法である。
【0027】
本発明の第13の形態は、第9〜12のいずれかの形態において、前記触媒粒子層は、触媒金属化合物からなる触媒前駆物質を溶媒中に分散又は溶解させた触媒液を前記基体表面に塗着乾燥させて触媒前駆層を形成して、前記触媒前駆層を加熱して形成された触媒粒子から構成されるロープ状炭素構造物製造方法である。
【0028】
本発明の第14の形態は、第9〜13のいずれかの形態において、前記触媒金属化合物が酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、硝酸塩、塩化物及びオキソ酸塩から選択される1種以上の金属塩であるロープ状炭素構造物製造方法である。
【発明の効果】
【0029】
本発明の第1の形態によれば、前記配向カーボンナノチューブが多層のカーボンナノチューブからなり、前記配向カーボンナノチューブのサイズ布及び/又は層数分布が2つ以上の分布ピークを有することから、前記基体表面に成長させた前記配向カーボンナノチューブの一部を引出すことによりカーボンナノチューブからなるロープ状炭素構造物をより確実に作製することができる。従来の配向カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブの大量合成を主な目的としており、サイズをより均一化することが課題であったが、本発明では、配向カーボンナノチューブからロープ状炭素構造物を作製することを第1の目的としている。
本発明は、発明者らの鋭意研究の結果、配向カーボンナノチューブのサイズ布及び/又は層数分布が2つ以上の分布ピークを有する場合に、前記配向カーボンナノチューブからロープ状炭素構造物を容易に作製できることを発見し、本発明を完成するに到ったものである。尚、本願明細書において、配向カーボンナノチューブのサイズ分布とは、配向カーボンナノチューブを構成するカーボンナノチューブの外径、内径、長さ等のサイズに関する分布であり、少なくとも30以上のカーボンナノチューブのサイズおよび/又は層数を電子顕微鏡写真画像から解析し、見積もられた度数分布(ヒストグラム)や体積分布である。電子顕微鏡を用いた直接観察では、サイズの度数分布をサイズ分布として得ることができる。また、ヒストグラムの階級の範囲は、サイズ分布の場合、約1nmであることが好ましい。層数は自然数で表されるため、層数分布の場合、各層数毎に分布数をカウントすることができる。
電子顕微鏡を用いた写真画像の観察により、配向カーボンナノチューブからロープ状炭素構造物を形成する場合、サイズ及び/又は層数の比較的大きなカーボンナノチューブが存在し、これらを相互に連結させる比較的サイズ及び/又は層数が小さなカーボンナノチューブが存在することにより、より確実にロープ状炭素構造物を形成することができる状況が観察される。即ち、ロープ状炭素構造物を高効率に作製するための1つの条件として、比較的サイズ及び/又は層数が大きな配向カーボンナノチューブに対して、比較的サイズ及び/又は層数が小さな配向カーボンナノチューブが所定の割合で基板表面上に分布していることが挙げられる。配向カーボンナノチューブを構成するカーボンナノチューブに比較的サイズ及び/又は層数が小さなものと大きなものが混在することにより、カーボンナノチューブ同志の引き合う力(ファンデルワールス力)が高められ、配向カーボンナノチューブはロープ状炭素構造物が作製可能となる。
更に具体的な配向カーボンナノチューブを構成するカーボンナノチューブの形態を示すとすれば、比較的サイズ及び/又は層数が小さなものと大きなものが混在する配向カーボンナノチューブにおいて、比較的サイズ及び/又は層数が大きなものの間を比較的サイズ及び/又は層数が小さなものが縫うようにランダムに成長したカーボンナノチューブがある。このようなカーボンナノチューブの形態は、ロープ状炭素構造物を作製するとき、カーボンナノチューブを引っ張る際に途切れずに連続的に連なってロープ状炭素構造物を形成する重要な効果がある。但し、比較的サイズや層数が小さなカーボンナノチューブの成長は、完全にランダムな方向に成長するものではなく、上方に成長する周囲のカーボンナノチューブと引き合ったり、それらに衝突したりして、複数の折れ曲りや湾曲部が形成されながら配向する方向に成長していく。このことから、比較的サイズや層数が小さなカーボンナノチューブも配向カーボンナノチューブと定義しており、比較的サイズ及び/又は層数が大きなカーボンナノチューブと共存して、基体表面上に成長した配向カーボンナノチューブを構成しており、いずれも配向カーボンナノチューブと称している。
従って、第1の形態の配向カーボンナノチューブによれば、ロープ状炭素構造物をより確実に連続的に作製することができ、ロープ状炭素構造物の歩留りを向上させることができる。ロープ状炭素構造物は、超軽量、高強度の炭素繊維であり、カーボン製電線など種々の炭素材料として利用することができる。
【0030】
本発明の第2の形態によれば、前記触媒粒子層を形成する触媒粒子の粒径分布が少なくとも2つ以上の分布ピークを有する配向カーボンナノチューブ製造用触媒体を用いて合成される配向カーボンナノチューブであり、前記粒径分布を反映して前記サイズ布及び/又は前記層数分布に前記2つ以上の分布ピークが形成されるから、前記触媒粒子の粒径分布を制御して、より好適なサイズ布及び/又は層数分布を有する配向カーボンナノチューブを提供することができる。
触媒粒子を用いて合成されるカーボンナノチューブの外径は、触媒粒子の粒径を反映する。本発明者らは、前記粒径分布が2つ以上の分布ピークを有する場合に、配向カーボンナノチューブのサイズ分布や層数分布が2つ以上の分布ピークを有することを実験により明らかにして、本発明の第2の形態を完成するに到ったものである。
前記触媒粒子の粒径分布は、基体表面に形成される触媒前駆物質からなる塗膜の膜厚や触媒前駆物質の濃度に依存する。前記触媒前駆物質は、触媒金属化合物を分散又は溶解させた触媒液を基体表面に塗着・乾燥させ、触媒前駆層として形成される。この触媒前駆層を加熱することにより触媒粒子層が形成される。本発明者らは、前記触媒液中の触媒前駆物質の濃度を調整することにより、形成される配向カーボンナノチューブのサイズ分布及び/又は層数分布を制御できることを実験的に明らかにしている。また、前記触媒前駆層の膜厚は、前記触媒液の塗布量や溶媒の種類に依存する。従って、溶媒の種類と塗布量を決めれば、触媒前駆物質の濃度を調整して、触媒粒子の粒径分布を制御することができ、2つ以上の分布ピークを有する粒径分布を形成することができる。
【0031】
本発明の第3の形態によれば、前記基体表面に成長させた前記配向カーボンナノチューブの平均高さが80μm以上であり、前記配向カーボンナノチューブの嵩密度が40mg/cm3以上であるから、ロープ状炭素構造物をより確実に作製することができる。配向カーボンナノチューブを構成するカーボンナノチューブは平均高さが高くなることによって、カーボンナノチューブ同志がファンデルワールス力により引き合う力が強くなることは自明であり、ロープ状炭素構造物を作製する際において、カーボンナノチューブが機械的に引っ張られる力よりも強い力でカーボンナノチューブ同志が引き合うことも重要な要素である。加えて、連続的にロープ状炭素構造物を作製する際において、配向カーボンナノチューブを構成する個々のカーボンナノチューブが互いに引き合うように高い密度で成長し、連続的にカーボンナノチューブがロープ状炭素構造物として引きだされることも重要な要素である。本発明者らは、配向カーボンナノチューブの平均高さが80μm以上で、前記嵩密度40mg/cm3以上のときに、ロープ状炭素構造物の作製効率が格段に向上することを実験により明らかにして、本発明の第3の形態を完成するに到ったものである。
【0032】
本発明の第4の形態によれば、前記層数分布において、全分布数Nに対し、層数が9層以下である配向カーボンナノチューブの分布数Nfの比率Nf/Nが0.1〜0.7の範囲にあるから、前記基体表面上に成長した配向カーボンナノチューブからロープ状炭素構造物をより確実に製造することができる。前記層数分布が2つ以上の分布ピークを有する場合、物性の異なる2種類の配向カーボンナノチューブが分布していることに相当する。即ち、層数の少ない配向カーボンナノチューブは、層数の多い配向カーボンナノチューブに比べ、外径が小さくより柔軟性を有する傾向にある。
本発明者らは、電子顕微鏡等を用いた配向カーボンナノチューブの観察から、比較的層数の少ない配向カーボンナノチューブが比較的層数の多い配向カーボンナノチューブに対して所定以上の割合で分布していることが、ロープ状炭素構造物を形成する条件の1つと考えている。ロープ状炭素構造物を形成可能な配向カーボンナノチューブでは、電子顕微鏡像において、直立する比較的外径の大きな配向カーボンナノチューブと共に、外径が小さなカーボンナノチューブが間隙を縫ってランダムに成長していることが観察されている。この結果から、ロープ状炭素構造物では、直立する配向カーボンナノチューブやそれらの束が互いに引き合うと共に、ランダムに成長したカーボンナノチューブが直立する配向カーボンナノチューブやそれらの束に絡み引き合って、カーボンナノチューブ同士が互いにより強く結束していると考察することができる。従って、配向カーボンナノチューブにおいて、層数が多く直立するカーボンナノチューブと、層数が少なくランダムに成長したカーボンナノチューブとが共に所定の割合で共存することがロープ状炭素構造物を確実に製造する重要な条件の1つであると考えることができる。
本発明者らは、透過型電子顕微鏡による多層の配向カーボンナノチューブの観察から、配向カーボンナノチューブの層数分布を調べ、層数の少ない配向カーボンナノチューブと層数が多いものがどのような割合で存在する場合に、ロープ状炭素構造物を作製することができるかを明らかにしている。層数が9層以下の場合を層数が少ない配向カーボンナノチューブ、層数が10層以上の場合を層数が多い配向カーボンナノチューブとして分類することにより、ロープ状炭素構造物が形成され易い層数分布の特徴を明確化している。
層数分布の比較から、全分布数Nに対して、層数が9層以下である配向カーボンナノチューブの分布数Nfの比率Nf/Nが0.1〜0.7の範囲にある場合、ロープ状炭素構造物がより確実に製造できることが分かっている。前記比率Nf/Nが0.1以下の場合、ロープ状炭素構造物ができ難くなっており、前述のように、層数が少なく間隙を縫って成長可能なカーボンナノチューブの分布数が少なくなり過ぎるためと考えられる。また、前記比率Nf/Nが0.7より大きくなる場合もロープ状炭素構造物が形成されなくなることが確認されており、層数が多く直立した配向カーボンナノチューブの分布数が少なくなり過ぎるためと考えられる。
【0033】
本発明の第5の形態によれば、前記層数分布における前記分布ピークのうち、最も分布個数が多い第1分布ピークの個数をn1、次に分布個数が多い第2分布ピークの個数をn2としたとき、個数比率n2/n1が0.2≦n2/n1≦1の範囲にあり、より明確な2つの分布ピークが存在する。即ち、前述の条件を満たし、サイズ及び/又は層数が大きな配向カーボンナノチューブに対して、サイズ及び/又は層数が小さな配向カーボンナノチューブが所定量以上分布しているから、ロープ状炭素構造物を高効率に作製することができる。尚、前記個数は、観察された基体表面上の所定の領域に成長した配向カーボンナノチューブのうち、該当するサイズ範囲にある配向カーボンナノチューブの数をカウントしたものである。
前記サイズ分布が配向カーボンナノチューブの外径分布であり、少なくとも前記外径分布が2つ以上の分布ピークを有する場合、外径が小さい側に分布個数の多い第1分布ピークがあることが好ましい。即ち、外径が小さなカーボンナノチューブが大きなものに比べ、より多く形成されていることが好ましく、外径の大きなカーボンナノチューブが相互に引き合ってロープ状炭素構造物を形成し易くなる傾向にある。
【0034】
本発明の第6の形態によれば、前記第1分布ピークの層数と前記第2分布ピークの層数との層数差ΔLが2以上であるから、物性の異なる2種類の配向カーボンナノチューブが分布していることに相当する。層数の少ないカーボンナノチューブは、層数の多いカーボンナノチューブに比べてより柔軟であり、ランダムな方向に成長するから、一定方向に林立する配向カーボンナノチューブのうち、層数が多く、より直立したカーボンナノチューブ同士が引き合う力を補強することができ、比較的容易にロープ状炭素構造物を作製することができる。また、層数が増加すると、カーボンナノチューブの外径も増大し、層数が少ないものはその外径も小さくなることから、柔軟で外径が小さなカーボンナノチューブは間隙を縫って成長し、比較的外径が大きな同士が引き合う力が補強され、ロープ状炭素構造物が形成される。
【0035】
本発明の第7の形態によれば、前記サイズ分布が配向カーボンナノチューブの外径分布及び/又は内径分布であり、前記外径分布及び/又は内径分布が2つ以上の分布ピークを有するから、配向カーボンナノチューブからロープ状炭素構造物をより確実に作製することができる。前述のように、配向カーボンナノチューブの外径分布や内径分布は、所定の条件下において、触媒粒子層の粒径分布を反映することから、2つ以上の分布ピークを有する外径分布や内径分布を比較的容易に実現することができる。即ち、形成される触媒粒子層の粒径分布を制御することにより、合成される配向カーボンナノチューブの外径分布や内径分布は、2つ以上の分布ピークを有することができる。
また、配向カーボンナノチューブの平均外径は、1nm〜20nmの範囲にあることが好ましく、5nm〜15nmの範囲にあることがより好ましい。更に、配向カーボンナノチューブの平均内径は、平均外径の1/4〜3/4の大きさにあることが好ましい。
【0036】
本発明の第8の形態によれば、第1〜7のいずれかの形態のロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブの一部を引出してロープ状炭素構造物が形成されるから、作製効率を向上させることができ、製造コストを低減化して、より安価なロープ状炭素構造物を提供することができる。前述のように、第1〜7のいずれかの形態の配向カーボンナノチューブは、サイズ分布及び/又は層数分布に2つ以上の分布ピークを有し、ロープ状炭素構造物を比較的容易に作製することができる。前記ロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブは、触媒基体表面上に成長させたそのままの状態から、ロープ状炭素構造物を形成することができる。また、接着性を有し、ロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブをほぼそのままの状態で一体に転写可能な転写部材に接着させてから、ロープ状炭素構造物を形成することもできる。
【0037】
本発明の第9の形態によれば、前記触媒前駆層の膜厚を調整して前記配向するカーボンナノチューブのサイズ布及び/又は層数分布が2つ以上の分布ピークを有する配向カーボンナノチューブを合成することにより、前記配向カーボンナノチューブからロープ状炭素構造物を比較的容易に製造することができる。上述のように、配向カーボンナノチューブが2つ以上の分布ピークを有する場合に、ロープ状炭素構造物がより確実に作製できる。本発明の第9の形態は、前記触媒前駆層の膜厚を調整することによって、2つ以上の分布ピークが現れることを実験的に明らかにして、完成されるに到ったものである。
配向カーボンナノチューブのサイズ分布及び/又は層数分布は、前記合成温度や原料ガス、触媒金属成分などが同一であれば、前記触媒前駆層の膜厚に依存する。従って、前記触媒前駆層の膜厚を調整することにより、前記サイズ分布及び/又は層数分布に2つ以上の分布ピークが形成される。前記触媒前駆層は、触媒金属成分を含む蒸着膜や塗着膜であり、蒸着膜の膜厚や塗着させる触媒液の濃度などによって調整される。
【0038】
本発明の第10の形態によれば、前記基体表面に成長させた前記配向カーボンナノチューブの平均高さを80μm以上、且つ前記配向カーボンナノチューブの嵩密度を40mg/cm3以上に制御するから、前記配向カーボンナノチューブからロープ状炭素構造物をより確実に作製することができる。ロープ状炭素構造物は、触媒体の表面上に形成された配向カーボンナノチューブの一部をピンセット等で引き上げると、引き上げたカーボンナノチューブの束にその周辺にある一部のカーボンナノチューブが追従して、カーボンナノチューブの束が連なるロープ状炭素構造物が形成される。即ち、カーボンナノチューブ同士がファンデルワールス力により引き合う程度に密集している場合に、ロープ状炭素構造物を形成することができる。更に、配向カーボンナノチューブが所定以上の長さを有する場合、引き上げたカーボンナノチューブの束が隣接する他のカーボンナノチューブと連続的に引き出し易くなる。本発明者らは、鋭意研究の結果、前記配向カーボンナノチューブの平均高さが80μm以上、嵩密度が40mg/cm3以上の場合に、ロープ状炭素構造物がより確実に形成されることを発見し、第10の形態を完成するに到ったものである。
【0039】
本発明の第11の形態によれば、前記合成温度の増加に相関させて前記平均層数を増加させることができ、前記平均層数の増加に伴って、層数分布に2つ以上の分布ピークが形成され易くなる。即ち、層数分布が2つ以上の分布ピークを有するためには、平均層数が所定数以上であることが好ましい。前記合成温度の増加に相関して前記平均層数が増加することから、所定の平均層数以上の配向カーボンナノチューブを合成する場合、前記合成温度を増加させれば、より確実に2つ以上の分布ピークを有する配向カーボンナノチューブを合成することができる。従って、製造された配向カーボンナノチューブからロープ状炭素構造物を高効率に作製することができる。尚、前記平均層数は、8層以上あることが好ましく、10層以上あることがより好ましい。
【0040】
本発明の第12の形態によれば、前記合成温度の増加に相関して前記平均外径及び/又は前記平均内径を増大させることができるから、ロープ状炭素構造物の作製に好適な平均外径や平均内径を有する配向カーボンナノチューブを合成することができる。所定の大きさ以上の平均外径及び/又は平均内径を有する場合に、配向カーボンナノチューブの外径分布及び/又は内径分布が2つの分布ピークが形成され易くなる。従って、平均外径や平均内径が好適な大きさを有するように、前記合成温度を所定温度以上に設定することにより、2つ以上の分布ピークを有する配向カーボンナノチューブの外径分布や内径分布を実現することができる。
【0041】
本発明の第13の形態によれば、前記触媒前駆層は、触媒金属化合物からなる触媒前駆物質を溶媒中に分散又は溶解させた触媒液を前記基体表面に塗着乾燥させて形成され、前記触媒前駆層を加熱して触媒粒子層が形成されるから、前記触媒前駆物質の濃度や前記溶媒の種類により、前記触媒前駆層の厚さや触媒前駆物質成分の含有量を調整して、前記触媒粒子層の粒径分布を制御することができる。本発明者らは、鋭意研究の結果、前記触媒前駆物質の濃度により、前記配向カーボンナノチューブのサイズ分布及び/又は層数分布を制御することができ、サイズ分布及び/又は層数分布が2つ以上の分布ピークを有するように調整することができる。
【0042】
本発明の第14の形態によれば、前記触媒金属化合物が酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、硝酸塩、塩化物及びオキソ酸塩から選択される1種以上の金属塩であるから、前記触媒前駆層を比較的簡単に作製することができると共に、前記濃度を容易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る触媒体を用いて合成した配向カーボンナノチューブ側面を観察した走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図2】本発明に係る配向カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡(TEM)像である。
【図3】本発明に係る配向カーボンナノチューブから作製されたロープ状炭素構造物の写真図である。
【図4】本発明に係る配向カーボンナノチューブの触媒体の上面から又は表面付近を観察したSEM像である。
【図5】本発明に係る触媒粒子から成長するカーボンナノチューブを模式的に示した概略図である。
【図6】本発明に係る配向カーボンナノチューブの外径分布図及び内径分布図である。
【図7】実施例1の配向カーボンナノチューブの層数分布図である。
【図8】本発明に係る配向カーボンナノチューブ合成方法の工程図である。
【図9】本発明に係る触媒体の作製過程を模式的に示した説明図である。
【図10】本発明に係る触媒体表面の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
【図11】本発明に係る触媒体を用いて合成した実施例2の配向カーボンナノチューブ側面を観察したSEM像である。
【図12】本発明に対する比較例1〜3の配向カーボンナノチューブ側面を観察したSEM像である。
【図13】実施例1、2及び比較例1〜3における配向カーボンナノチューブの平均高さと嵩密度を触媒体製造時の硝酸鉄濃度に対してプロットしたグラフ図である。
【図14】実施例2の配向カーボンナノチューブ側面を高倍率で観察したときのSEM像である。
【図15】比較例1〜3の配向カーボンナノチューブ側面を高倍率で観察したときのSEM像である。
【図16】実施例2の基体表面付近を側面から観察したときのSEM像である。
【図17】比較例1〜3の基体表面付近を側面から観察したときのSEM像である。
【図18】実施例2の配向カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡(TEM)像である。
【図19】比較例1〜3の配向カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡(TEM)像である。
【図20】実施例2の配向カーボンナノチューブの層数分布図である。
【図21】比較例1〜3の配向カーボンナノチューブの層数分布図である。
【図22】実施例1、2及び比較例1〜3における配向カーボンナノチューブの平均外径と平均内径を触媒体の作製に用いられた触媒液の濃度に対してプロットしたグラフ図である。
【図23】実施例1、2及び比較例1〜3における配向カーボンナノチューブの層数を触媒体の作製に用いられた触媒液の濃度に対してプロットしたグラフ図である。
【図24】実施例2の配向カーボンナノチューブを基体表面の上方から観察したときのSEM像である。
【図25】比較例1〜3の配向カーボンナノチューブを基体表面の上方から観察したときのSEM像である。
【図26】本発明に係る配向カーボンナノチューブのCNT高さ、触媒液濃度及び合成温度の関係をプロットしたグラフ図である。
【図27】配向カーボンナノチューブのCVD温度、平均高さと嵩密度の関係において、ロープ状炭素構造物が確実に作製できる範囲を示すグラフ図である。
【図28】従来の触媒体における触媒粒子層の粒径分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1は、本発明に係る触媒体を用いて合成した配向カーボンナノチューブ側面を観察した走査型電子顕微鏡(SEM)像である。図1の(1A)は、触媒体とその表面に形成された配向カーボンナノチューブの側面を200倍の倍率で観察したSEM像である。(1A)のSEM像では、触媒体の上部表面に、合成された配向カーボンナノチューブが密集して形成されている。触媒体の表面には触媒粒子層が形成され、化学気相合成法(CVD法)により、前記触媒粒子層上に配向カーボンナノチューブが成長している。図1に示した配向カーボンナノチューブでは、硝酸鉄濃度が約5wt%の触媒液を用いて作製された触媒体により、配向カーボンナノチューブの合成が行われている。触媒体の作製に用いられた触媒液に含有される触媒前駆物質の濃度(以下、単に「濃度」又は「触媒液濃度」とも称する)が異なっている。触媒金属化合物としては、硝酸鉄9水和物が用いられている。配向カーボンナノチューブの合成条件や触媒体の構造等の詳細については後述する。
【0045】
(1B)は、配向カーボンナノチューブ側面を高倍率(50000倍)で観察したときのSEM像である。後述する比較例に比べ、密度が低く、配向カーボンナノチューブの外径、又は複数の配向カーボンナノチューブがバンドルしたバンドル径が小さい。更に、比較的外径が小さな配向カーボンナノチューブは曲がりくねっている。比較的外径が小さなカーボンナノチューブは、配向方向に成長する周囲のカーボンナノチューブと引き合ったり、それらに衝突したりして、折れ曲りや湾曲部を形成しながら、ほぼランダムに間隙を縫って成長している。比較的外径が大きなものと小さなものが共存し、基体表面上に成長した配向カーボンナノチューブを構成しており、比較的外径が小さなカーボンナノチューブは折れ曲りや湾曲部を有するが全体として配向方向に成長している
(1B)のSEM像のみから明確に判別することは難しいが、1本のカーボンナノチューブか、又はいくつかの配向カーボンナノチューブがバンドルしたものが観察されている。後述するように、図1に示した配向カーボンナノチューブからは、ロープ状炭素構造物が作製されることを確認している。
【0046】
図2は、本発明に係る配向カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡(TEM)像である。図2の配向カーボンナノチューブは、図1と同様に、5wt%の触媒液を用いて作製された触媒体によって合成されている。図2のTEM像から、配向カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブであり、層数、外径、内径を測定することができる。図2の配向カーボンナノチューブは、TEM像から、平均層数が11.4層、平均外径が14.7nm、平均内径が6.8nmと見積もられている。従って、TEM像の観察により、ロープ状炭素構造物を作製することができる配向カーボンナノチューブの条件を明らかにすることが可能となる。また、後述する比較例との比較から、硝酸鉄濃度が高いほど、層数が増え、外径、内径が大きくなる傾向があることが分かっている。
【0047】
図3は、本発明に係る配向カーボンナノチューブ1から作製されたロープ状炭素構造物2の写真図である。(3A)では、触媒体表面の配向カーボンナノチューブ1の一部をピンセット3で引き出すことにより紡糸され、ロープ状炭素構造物2が形成されている。(3A)において、ピンセットにより長さ23mmのロープ状炭素構造物2が作製されている。(3A)の配向カーボンナノチューブ1は、硝酸鉄濃度4wt%の触媒液を塗着して得られた触媒体を用いて合成されたものである。
【0048】
図3の(3B)では、硝酸鉄濃度5wt%の触媒液を塗着して得られた触媒体により、配向カーボンナノチューブを合成し、ロープ状炭素構造物2を作製している。また、(3B)では、触媒体1の基板を劈開したときに、長さ5mmのロープが引き出されている。ロープ状炭素構造物2が引き出せるかどうかと、その長さを、「ロープ引き出し性」として評価することが可能である。ロープ引き出し性は、配向カーボンナノチューブの平均高さ(又は「平均長さ」)や嵩密度が重要な因子であると考えられる。ロープ引き出し性に関しては、より系統的な比較を行っており、後述する。
【0049】
図4は、本発明に係る配向カーボンナノチューブの触媒体の上方から又は表面付近を観察したSEM像である。(4A)は、本発明に係る基体上に形成された配向カーボンナノチューブを上方から観察したときのSEM像である。観察倍率は2500倍であり、5wt%の触媒液を用いて作製された触媒体によって合成されている。大部分の箇所は均質であるが、ところどころに空隙が見られた。部分的に触媒の活性が失われて、このような空隙が発生している可能性がある。
【0050】
(4B)は、配向カーボンナノチューブが形成された触媒体表面付近を側面から倍率100000倍で観察したときのSEM像である。前述のSEM像と同様に、5wt%の触媒液を用いて作製された触媒体によって合成されている。基体上に存在する粒子は触媒粒子であると考えられる。後述の比較例との比較から、硝酸鉄濃度が高いほど、粒子は大きい。触媒粒子は合成中に炭素を吸って肥大化するので、(4B)のSEM像における触媒粒子の大きさは、配向カーボンナノチューブが形成される前の触媒粒子の大きさと完全に一致するものではない。しかしながら、合成前の触媒前駆層の厚み、あるいは加熱によって生じた触媒粒子の大きさを反映しているものと考えられる。
【0051】
図5には、本発明に係る触媒粒子4から成長するカーボンナノチューブ5を模式的に示した概略図である。触媒粒子4が鉄を主成分とする鉄系触媒粒子であり、酸化鉄成分を含有している場合を例として、以下に成長モデルを説明する。カーボンナノチューブ5を形成可能な触媒粒子4は、図に示すように必ずしも球状とは限らず、粒径が0.5nm〜80nmであればよい。原料ガスとしてアセチレンガスを供給すると、カーボンナノチューブ5の合成反応は初期の急速な成長と、アモルファスカーボンを生成しながらの緩慢な成長の2段階の反応による成長があることが判明している。原料ガスがアセチレンの場合について説明するが、他の原料ガスについても同様のメカニズムになる。特に初期の急速な反応は、触媒粒子4の表面での下記(式1)及び(式2)を主体とする反応自体を律速とする反応である。
Fe2O3+C2H2 → 2FeC+H2O+CO2 (式1)
Fe3O4+C2H2 → FeO+2FeC+H2O+O2 (式2)
【0052】
急速な第1段階の成長については、触媒が保持している酸素量が反応によって消費されることで停止し、通常は原料ガスから供給される過剰なアモルファスカーボンにより触媒表面が覆われることで触媒と原料ガスの接触が困難となり、最終的に反応停止に至る。前記触媒粒子4の保持する酸素が同程度の場合、カーボンナノチューブ5の長さが、ほぼ同じ長さになることこから、再現性があると同時に、初期触媒の酸素の保持量によってカーボンナノチューブ5の長さが決まるものと理解できる。
【0053】
次に、長さを制御可能なカーボンナノチューブ5を製造するのに不可欠な、アモルファスカーボンを生成しながらの緩慢な成長について説明する。緩慢な成長については、下記(式3)及び(式4)を主体とする、炭素の表面拡散を律速とする反応であると理解できる。
FeO+C2H2 → FeC + H2O + C (式3)
Fe+C2H2 → FeC + C + H2 (式4)
【0054】
図5に示すように、アセチレンに接触する触媒粒子4の接触部6では、炭素と結合した粒子状の炭化物が形成され、この炭化物の表面にカーボンナノチューブ5の壁を構成する多層レイヤ7が形成される。触媒粒子4と原料ガスが反応して生成したアモルファスカーボンが多層レイヤ7を押し出すことによりカーボンナノチューブ5が形成される。図中の矢印a、bは、カーボンの拡散方向を示す。触媒粒子4と基体8の親和力が強い場合、触媒粒子4は球状とならないため、両サイドの多層レイヤ7は、均等な速度で押し出されず、垂直に配向しない原因となる。従って、基体8の表面に窒化物や酸化物などからなる反応防止層が形成されることが好ましく、触媒金属と基体の親和力が極めて低減化される。
【0055】
また、適度な親和力の場合、ある程度カーボンレイヤが垂直に伸び、親和力がカーボンの拡散により押し出される力に反して触媒が浮きあがり、カーボンナノチューブ5の長さ方向の中間点に存在する場合もありうる。触媒粒子4は、(式3)、(式4)の反応により発生するカーボン分をキャリアガス及び/又は原料ガス中に含まれる酸素、水分により触媒表面より燃焼、除去することによりカーボンナノチューブ5の連続的な生成が可能となる。
【0056】
<実施例1>
図6は、本発明に係る配向カーボンナノチューブの外径分布図及び内径分布図である。これらの分布のヒストグラムでは、各階級の範囲を1nmとしている。図6における実施例1の配向カーボンナノチューブは、5wt%の触媒液を用いて作製された触媒体によって合成されている。(6A)は、所定の範囲内で、TEM像により観察された配向カーボンナノチューブについて、外径の各範囲にある個数をカウントしたものである。(6A)の外径分布では、9.0nm〜9.9nm、12.0nm〜12.9nm、14.0〜14.9nm、18.0nm〜18.9nm及び21.0〜21.9nmに分布ピークが存在する。(6A)では、分布ピークのうち、最小外径になる9.0nm〜9.9nmと最大外径の21.0〜21.9nmの間隔は、12nmとなり、比較的分布の範囲が広いことが分かる。
【0057】
また、(6A)において、分布数の多い、12.0nm〜12.9nm、14.0〜14.9nm及び18.0nm〜18.9の分布ピークのうち、最小外径となる12.0nm〜12.9nmと最大外径となる18.0nm〜18.9の分布ピークでは、6nmの間隔がある。平均外径は、14.7nmと見積もられている。(6A)では、平均外径より外径の大きな側と外径の小さな側の両側に分布ピークがあり、比較的外径の大きな配向カーボンナノチューブと比較的外径の小さな配向カーボンナノチューブが夫々、分布ピークを1つ以上有していることが分かる。
【0058】
図6の(6B)には、配向カーボンナノチューブの内径分布図を示しており、(6A)と同様に、TEM像を観察して、所定の範囲内において内径の各範囲にある個数がカウントされている。(6B)において、7.0nm〜7.9nmと8.0nm〜8.9nmの2つの分布ピークが同じ分布数であるため、最大分布ピークとして、一体の分布ピークとみなすことができる。即ち、最大分布ピークは、7.0nm〜8.9nmの範囲又はその中心にあるとすることができる。従って、第2分布ピークは、5.0nm〜5.9nmの範囲にある分布ピークとする。平均内径は、6.8nmと見積もられ、(6B)では、(6A)と同様に、平均内径の両側に分布ピークがある。図6の外径分布と内径分布を有する配向カーボンナノチューブからは、図3に示したロープ状炭素構造物が作製できることが確認されている。
【0059】
図7は、実施例1の配向カーボンナノチューブの層数分布図である。図7の層数分布は、TEM像の観察により配向カーボンナノチューブの層数を数え、各層数の個数をカウントしたヒストグラムである。図7に示すように、層数分布においても、複数の分布ピークが存在する。最大数分布する第1分布ピークは層数が9層の分布ピークであり、その次に分布数が多い第2分布ピークの層数は12層となっている。従って、第1分布ピークと第2分布ピークの層数差ΔLが3となっている。図7の分布から、平均層数は、11.4層と見積もられている。図7から明らかなように、平均層数より層数の小さな配向カーボンナノチューブと平均層数より層数の大きな配向カーボンナノチューブの各々が分離して、各々の分布ピークを有している。
【0060】
図8は、本発明に係る配向カーボンナノチューブ合成方法の工程図である。
<基体の供給:ステップS1>
本発明に係る配向カーボンナノチューブ合成方法の触媒液生成工程S1では、触媒金属化合物からなる触媒前駆物質を溶媒中に分散又は溶解させて触媒液を生成する。触媒金属化合物としては、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、硝酸塩又はオキソ酸など選択される金属塩が好ましい。更に、触媒金属化合物の金属成分は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、プラチナ(Pt)等の遷移金属であり、特に、鉄、コバルト、ニッケルが好ましく、また、これらの金属のうち1種又は2種以上の混合物であってもよい。
触媒液中における触媒前駆物質の濃度は、触媒金属化合物及び/又は溶媒の含有量により調整される。
【0061】
溶媒としては、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、エステル類、ケトン類、又は非プロトン性極性溶媒を用いることが好ましい。前記アルコール類としては、1−ブタノール、2−ブタノール又はジアセトンアルコールが好ましく、前記グリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール又はジエチレングリコールが好ましい。更に、前記グリコールエーテル類としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル又はプロピレングリコールモノエチルエーテルが好ましく、前記エステル類としては、乳酸エチルが好ましく、前記ケトン類としては、アセチルアセトンが好ましく、前記非プロトン性極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン又はN,N−ジメチルホルムアミドが好ましい溶媒として列挙される。
【0062】
更に、グリコールエーテル類において、プロピレングリコールモノエチルエーテル(PEG)は、溶媒として、より好ましい特性を有する。即ち、前記PGEは、均質な膜を得るための適度な粘度と蒸発速度を有し、種々の触媒金属化合物を溶解する能力を備えている。前記PGEは、酸化膜付きシリコンウエハ等の基体表面に対する濡れ性に優れ、スピンコート法やスプレー法によって、より均一な触媒前駆層を形成することができる。また、エタノールとN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などの混合液を溶媒に用いても良い。また、モレキュラシーブ等の脱水剤を用いて予め水分を除去することが望ましく、溶媒中に含まれる微量の水分が触媒金属化合物により加水分解などの化学反応を抑制することができ、触媒粒子以外の不純物が副生されることを低減化することができる。
【0063】
更に、前記DMFと水とでは、金属イオンに対する配位能力が同程度であるため、他の溶媒にDMFを添加すると、加水分解反応を抑制する効果が得られる。例えば、PEGにDMFを添加した混合溶媒は、より安定な溶媒として利用することができる。また、従来の触媒液は粘度が低いため、スピンコート法で塗布した際、遠心力の影響を受けて、基板中央部に比べて周辺部の膜厚が薄くなる傾向がある。つまり、膜厚の均一性にやや劣るという欠点を有している。PGEを溶媒として用いることで、この点が大きく改善される。
【0064】
<塗着乾燥工程:ステップS2> 塗布乾燥工程S2では、触媒液を塗着して乾燥させ、基体表面に触媒前駆層を形成する。前記触媒液を塗着して乾燥させることにより、基体表面に極めて薄い触媒前駆層を形成することができる。基体としては、セラミックス材、無機非金属、無機非金属化合物等の材料が好ましく、例えば、石英板、シリコン基板、シリコンウエハ、水晶板、溶融シリカ板、サファイヤ板、ステンレス板等を用いることができる。更に、基体表面には、酸化膜などのより不活性な層を設けることが好ましく、このような不活性層は「反応防止層」と称される。
【0065】
触媒液の塗着には、スプレー法やインクジェト法等が用いられ、触媒液を噴霧または印刷する。噴霧用の気体の流速、触媒液の流量及びノズルの形状などを制御することにより、塗膜の膜厚などの制御を行うことができる。また、基体表面が平面以外の凹凸形状の場合においても、塗膜を付着させることができる。スプレー印刷では、マスキングなどを使用して、任意のパターンを基体表面に印刷することができる。従って、前記基体との濡れ性に富んだ溶媒に前記金属化合物を分散又は溶解させた触媒液を用いることが好ましい。また、塗着乾燥工程において、酸化性ガスを供給しながら触媒前駆層を加熱して、触媒前駆体表面に酸化膜を形成しても良く、酸化膜を形成することにより、触媒粒子の凝集が抑制される。
【0066】
<触媒基体形成工程:ステップS3>
触媒基体形成工程では、前記触媒前駆層を加熱して前記基体表面に触媒粒子からなる触媒粒子層を形成して、触媒体が作製される。即ち、触媒前駆層が加熱されることにより粒子化され、触媒粒子層が形成される。微小な粒径を有すると共に、均一な粒径を有する触媒粒子層が形成される。前記触媒前駆物質の濃度を設定することにより、所望の平均外径を有する配向カーボンナノチューブを合成することが可能な触媒粒子層が形成される。
【0067】
<合成工程:ステップS4>
合成工程では、配向カーボンナノチューブの合成温度以上に加熱された原料ガスが触媒体表面に供給され、配向カーボンナノチューブが合成される。前記触媒前駆物質の濃度に応じて、所定の平均外径を有する配向カーボンナノチューブが合成される。更に、平均内径、平均層数も、前記濃度に応じて所定のサイズ又は層数に設定される。
【0068】
図9は、本発明に係る触媒体の作製過程を模式的に示した説明図である。(9A)〜(9D)には、基体表面及びその近傍の断面概略図を示している。(9A)に示すように、酸化性ガス雰囲気下で加熱処理された基体32の表面には、酸化物からなる反応防止層34が形成されており、この反応防止層34の表面に触媒液を塗着して、塗膜30が形成される。これを乾燥させることにより、(9B)の触媒前駆層36が形成される。(9C)では、粒子化の前段で、触媒前駆層36の表面が酸化され、凝集抑制層38が形成されている。(9D)に示すように、更に加熱されると触媒粒子42からなる触媒粒子層44が形成され、配向カーボンナノチューブの合成するための触媒体が得られる。
上述の方法で形成された触媒前駆層の厚さTと用いられた触媒液の濃度は、次のような対応関係を有し、各触媒液を同量、基体表面に塗着すると、乾燥後に厚さの異なる触媒前駆層が形成される。表1には、各硝酸鉄濃度に対する触媒前駆層の厚さTを記載している。
触媒前駆層の厚さTは、基体表面に触媒液を塗布・乾燥後に形成した触媒前駆層を高濃度の硝酸や塩酸に一旦全量溶かした後に、触媒金属量をICP発光分析などを用いて定量し、基体上に酸化鉄の状態(密度)で存在することを仮定し計算で求めた厚みである。
【0069】
【表1】
【0070】
図10は、本発明に係る触媒体表面の原子間力顕微鏡(AFM)像である。この触媒体は、以下のような工程で作製されている。
触媒液には、前記PGEとDMFの混合溶媒に、触媒金属化合物として硝酸鉄9水和物を溶解させて生成した。スピンコーターに基板状の基体をセットして回転させ、触媒溶液をピペットに取り、基体表面の中央部から周辺部に向かって走査するように滴下して、基体表面に触媒液を塗着している。回転停止後、基体を加熱して乾燥させて、基体表面に触媒前駆層を形成している。加熱乾燥の場合、300℃よりも低温で乾燥させることが好ましく、300℃を越えると乾燥だけでなく、触媒前駆層の粒子化が進行し、触媒粒子の粒径を制御することが困難となる虞があった。
【0071】
図10にAFM像を示した触媒体の作製工程では、200℃で基体表面上の触媒液を乾燥させて、触媒前駆層が形成されている。次に、触媒前駆層を形成した基体を石英管の中に設置し、Heガスを流しながら700℃〜900℃に昇温して、触媒粒子層の形成している。前記昇温温度は、700℃〜800℃未満であることがより好ましい。図10に示すように、基体表面の全面に亘って凹凸が見られ、加熱により粒子化が起こり、触媒体が作製されていることが確認された。加熱によって形成された触媒粒子の大きさや密度は比較的一様で、均質性が高いと言える。また、触媒粒子の平均粒径は、およそ10nmである。
【0072】
<実施例2>
図11は、本発明に係る触媒体を用いて合成した実施例2の配向カーボンナノチューブ側面を観察したSEM像である。図1に示した配向カーボンナノチューブと同様に、その合成はCVD法によって行われている。触媒金属化合物として、硝酸鉄9水和物が用いられ、触媒体の作製に用いられた触媒液の硝酸鉄濃度は約4wt%である。触媒前駆層を形成した基板状の基体を石英管内に設置し、ヘリウムガスを供給しながら、室温から700℃以上になるまで30分かけて昇温する。700℃以上の状態を数分間保持したのち、キャリアガスのヘリウムガスと、原料ガスであるアセチレンガス(C2H2)の混合ガスを供給し、配向カーボンナノチューブを合成している。700℃まで昇温する過程において、前記触媒前駆層が粒子化され、触媒粒子層が形成される。図11に示した配向カーボンナノチューブからは、ロープ状炭素構造物を作製できることが確かめられている。
【0073】
<比較例1〜3>
図12には、本発明に対する比較例1〜3の配向カーボンナノチューブ側面を観察したSEM像である。観察した倍率は200倍である。(12A)の比較例1では、硝酸鉄濃度が約3wt%の触媒液を用いて、(12B)の比較例2では、硝酸鉄濃度が約2wt%の触媒液を用いて、(12C)の比較例3では、硝酸鉄濃度が約1wt%の触媒液を用いて触媒体を作製し、各配向カーボンナノチューブの合成が行われている。しかしながら、比較例1〜3の配向カーボンナノチューブからは、ロープ状炭素構造物を作製することはできなかった。図1の実施例1、図11の実施例2及び図12の比較例1〜3を比べると、明らかに配向カーボンナノチューブの平均高さが異なっている。
【0074】
図13は、実施例1、2及び比較例1〜3における配向カーボンナノチューブの平均高さ(以下、単に「CNT高さ」とも称する)と嵩密度を触媒体製造時の硝酸鉄濃度に対してプロットしたグラフ図である。(13A)には、触媒液中の硝酸鉄濃度に対するCNT高さがプロットされている。(13A)に示すように、硝酸鉄濃度の増加に相関して、配向カーボンナノチューブのCNT高さ(μm)が減少している。これは、図1、図11及び図12に示した実施例1、2と比較例1〜3のSEM像からも明らかである。硝酸鉄濃度が4wt%以上であった実施例1、2の配向カーボンナノチューブからは、ロープ状炭素構造物が作製されている。従って、(13A)から、CNT高さが220μm以下、より好ましくは180μm以下であることがロープ状炭素構造物を作製する配向カーボンナノチューブの条件として考えることができる。
【0075】
(13B)には、硝酸鉄濃度に対する配向カーボンナノチューブの嵩密度(mg/cm3)をプロットしている。(13B)に示すように、嵩密度は、硝酸鉄濃度の変化に対して、大きな変化は無く、少なくとも(6B)の範囲においては、硝酸鉄濃度に対する依存性が少なく、およそ30±6mg/cm3程度の嵩密度が得られている。しかし、硝酸鉄濃度が4wt%以上であった実施例1、2では、いずれも嵩密度が30mg/cm3を越えており、ロープ状炭素構造物を作製する配向カーボンナノチューブの条件と考えることができる。
【0076】
図14及び15は、実施例2及び比較例1〜3の配向カーボンナノチューブ側面を高倍率(50000倍)で観察したときのSEM像である。前述のように、図14に示した実施例2及び図15の(15A)、(15B)、(15C)の比較例1〜3は、夫々、4wt%、3wt%、2wt%、1wt%の触媒液を用いて作製された触媒体によって合成されている。硝酸鉄濃度1〜4wt%の範囲においては、濃度が高くなるにつれ、見た目の密度および配向カーボンナノチューブの外径(バンドル径)が大きくなり、直線性が増していくように見える。図1の(1B)に示した硝酸鉄濃度5wt%のときには、密度が低く、配向カーボンナノチューブの外径(バンドル径)は小さい。また、多くの配向カーボンナノチューブは曲がりくねっている。但し、これらが1本のカーボンナノチューブなのか、それとも、いくつかの配向カーボンナノチューブがバンドルしたものなのかは、図14及び図15のSEM像からは判別できない。
【0077】
図16及び図17は、実施例2及び比較例1〜3の基体表面付近を側面から観察したときのSEM像(観察倍率100000倍)である。図16の実施例2、図17の(17A)、(17B)、(17C)の配向カーボンナノチューブは、夫々、4wt%、3wt%、2wt%、1wt%の触媒液を用いて作製された触媒体によって合成されている。図4と同様に、基体上に存在する粒子は触媒粒子であると考えられ、硝酸鉄濃度が高いほど、粒子は大きい傾向にある。触媒粒子は合成中に炭素を吸って肥大化するので、これがそのまま触媒粒子の大きさではないが、もとの触媒前駆層の厚み、あるいは加熱によって生じた触媒粒子の大きさを反映しているものと考えられ、前述のように、触媒液濃度によって、触媒粒子の粒径が制御可能である。
【0078】
図18及び図19は、実施例2及び比較例1〜3の配向カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡(TEM)像である。図18の実施例2、図19の(19A)、(19B)、(19C)の配向カーボンナノチューブは、夫々、4wt%、3wt%、2wt%、1wt%の触媒液を用いて作製された触媒体によって合成されている。これらのTEM像から、配向カーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブであり、層数、外径、内径を測定することができ、硝酸鉄濃度が高いほど、層数が増え、外径、内径が大きくなる傾向が見られる。
【0079】
図20は、実施例2の配向カーボンナノチューブの層数分布図である。図20の層数分布は、30以上のTEM像の観察から得られた所定範囲内における配向カーボンナノチューブの層数を数え、各層数の個数をカウントしたヒストグラムである。図20に示すように、複数の分布ピークが存在する。最大数分布する第1分布ピークは層数が10層の分布ピークであり、その次に分布数が多い第2分布ピークの層数は7層となっている。従って、第1分布ピークと第2分布ピークの層数差ΔLが3となっている。図20の層数分布から、平均層数は、10.2層と見積もられている。図20では、平均層数より大きな層数に第3の分布ピークが存在しており、平均層数より層数の小さな配向カーボンナノチューブと、平均層数より層数の大きな配向カーボンナノチューブとで、別々の分布ピークを有している。
【0080】
図21は、比較例1〜3の配向カーボンナノチューブの層数分布図である。前述のように、(21A)の比較例1、(21B)の比較例2、(21C)の比較例3の配向カーボンナノチューブは、夫々、3wt%、2wt%、1wt%の触媒液を用いて作製された触媒体によって合成されている。更に、比較例1〜3の配向カーボンナノチューブからは、ロープ状炭素構造物が作製されていない。(21A)と(21B)では、層数分布が1つだけであり、実施例に比べて比較的高い均一性を有している。更に、(21C)においては、層数11層で、小さな分布ピークがあるが、最も分布数が少なく、且つ層数7層にある最大分布ピークの20%未満の分布数である。
【0081】
図22は、実施例1、2及び比較例1〜3における配向カーボンナノチューブの平均外径と平均内径を触媒体の作製に用いられた触媒液の濃度に対してプロットしたグラフ図である。TEM像は、各濃度に対して試料数30以上を準備して観察し、外径と内径の平均値を見積もっている。(22A)では、配向カーボンナノチューブの平均外径を触媒液濃度に対してプロットしている。(22A)に示すように、触媒液濃度の増加に伴って、CNTの平均外径が増加傾向にあることが分かる。尚、硝酸鉄濃度が3wt%以下の比較例では、平均外径が全て12nm未満となっている。
(22B)には、配向カーボンナノチューブの平均内径を触媒液濃度に対してプロットしている。平均外径に比べてその増加率は小さいが、触媒液濃度の増加に伴って、CNTの平均内径が増加傾向にあることが分かる。また、硝酸鉄濃度が3wt%以下の比較例では、平均内径が全て6nm未満となっている。
【0082】
図23は、実施例1、2及び比較例1〜3における配向カーボンナノチューブの層数を触媒体の作製に用いられた触媒液の濃度に対してプロットしたグラフ図である。図20と同様に、平均層数は、30以上の試料をTEMで観察して測定されている。配向カーボンナノチューブを形成する多層カーボンナノチューブの平均層数は、触媒液濃度の増加に伴って増加する傾向にある。この結果は、図において、平均内径に比べ、平均外径が大きく増加する結果と一致する。従って、SEM像において観察された配向カーボンナノチューブは、いくつかのカーボンナノチューブがバンドルしているのではなく、1本のカーボンナノチューブである可能性が高い。
【0083】
【表2】
【0084】
表2には、実施例1、2と比較例1〜3における層数の少ない配向カーボンナノチューブの分布数Nfと、層数の多い配向カーボンナノチューブの分布数Nmと、全分布数N=Nf+Nmに対する分布数Nfの比率Nf/Nが記載されている。図21の(21C)に層数分布を示した比較例3の配向カーボンナノチューブは、試料の中で平均層数が最小であることから、図21の(21C)に示した比較例3の層数分布を基準として、実施例1、2と比較例1〜3の層数分布を比較する。尚、前述のように、図7の実施例1の層数分布、図20の実施例2の層数分布、図21の(21A)〜(21C)に示した比較例1〜3の層数分布では、TEM像の観察像において、30以上の配向カーボンナノチューブを無作為に選び、層数をカウントして層数分布を見積もっている。
【0085】
図21の(21C)に示した比較例3の層数分布において、配向カーボンナノチューブの層数は、殆どが9層以下であり、7層に分布ピークを有し、この分布ピークの両端側では、層数の増加と減少に伴ってほぼ単調に分布数が減少している。(21C)において、層数11層にも僅かな分布が見られるが、全体の約6%程度であることから、配向カーボンナノチューブ全体の特性への寄与は無視できると考えられる。従って、前述のように、試料中平均層数が最小であった比較例3を基準とすると、層数が9層以下の場合を層数の少ない配向カーボンナノチューブとして分類することができる。表2には、実施例1、2と比較例1〜3において、層数が9層以下の配向カーボンナノチューブの分布数を分布数Nf、層数が10層以上の配向カーボンナノチューブの分布数を分布数Nmとして記載している。更に、表2には、全分布数N=Nf+Nmに対する分布数Nfの比率Nf/Nが記載されている。
【0086】
表2に示すように、比較例1〜3では、比率Nf/Nが0.7を超え、これらの配向カーボンナノチューブからは、ロープ状炭素構造物を形成することができなかった。ロープ状炭素構造物が形成されることが確認された実施例1、2では、夫々、比率Nf/Nが0.35、0.39となっている。実施例1、2とほぼ同一の条件で製造された配向カーボンナノチューブは、比率Nf/Nが0.30〜0.50の範囲にあることがいくつかのTEM像から確認され、さらにロープ状炭素構造物が形成されることを確認している。層数の少ない配向カーボンナノチューブがほぼ直立する配向カーボンナノチューブ同士が引き合う力に寄与するとすれば、層数の少ない配向カーボンナノチューブと層数が多いものが同程度含まれる、つまり比率Nf/Nが0.5程度であることがより好ましいと考えられる。また、層数が9層以下の配向カーボンナノチューブの比率Nf/Nは、少なくとも0.1以上、つまり10%程度以上は、層数の少ない配向カーボンナノチューブが含まれていることが必要と判断している。従って、本発明者らは、比率Nf/Nが0.7を超えるとロープ状炭素構造物が形成されなかったことから、要求される比率Nf/Nの範囲を0.1〜0.7と見積もっている。
【0087】
図22及び図23において、配向カーボンナノチューブの平均層数や平均外径、平均内径の関係は、触媒前駆層の厚みおよび加熱した際に形成される触媒粒子の大きさや粒度分布を反映しているものと考えられる。したがって、表1の関係から、触媒液濃度の調整により、触媒前駆層の厚さ又はこの触媒前駆層を加熱して形成される触媒粒子の平均粒径を変えることで、配向カーボンナノチューブの平均層数や平均外径、平均内径などを制御することが可能になったと言える。
【0088】
図24及び図25は、実施例2及び比較例1〜3の配向カーボンナノチューブを基体表面の上方から観察したときのSEM像である。観察倍率は2500倍である。図24の実施例2と、図25における(25A)、(25B)、(25C)の配向カーボンナノチューブは、前述のように、夫々、4wt%、3wt%、2wt%、1wt%の触媒液を用いて作製された触媒体によって合成されている。(25C)に示した硝酸鉄濃度1wt%の比較例3では、配向カーボンナノチューブの先端が局所的に集合し、特異な構造を形成している。図24及び図25の(25A)、(25B)に示した硝酸鉄濃度2〜4wt%のときでは、このような構造は見られず、比較的均質である。図25(実施例2)及び図25の(25A)(比較例1)に示した硝酸鉄濃度3〜4wt%のとき、見た目の密度が最も高いように見える。しかしながら、図4に示した実施例5において、大部分の箇所は均質であるが、ところどころに空隙が見られている。換言すれば、単に、配向カーボンナノチューブを上方から観測しただけでは、ロープ状炭素構造物を作製できるかどうかを判断することはできない。
【0089】
<他の実施例>
図26は、本発明に係る配向カーボンナノチューブのCNT高さ、触媒液濃度及び合成温度の関係をプロットしたグラフ図である。(26A)では、合成温度が700℃、720℃及び740℃の場合におけるCNT高さ(μm)の触媒液濃度依存性を示している。(26A)において、700℃及び720℃の場合、硝酸鉄濃度の増加に伴ってCNT高さが明確に減少している。但し、合成温度が720℃の場合、硝酸鉄濃度が2wt%以上で濃度に対するCNT高さの明確な減少が現れている。また、合成温度が740℃の場合、硝酸鉄濃度2wt%〜5wt%の範囲では、濃度の増加に伴って僅かにCNT高さが減少する傾向にある。
【0090】
しかしながら、合成温度が740℃の場合、図26の(26A)では、CNT高さの変化量が700℃と720℃の場合におけるCNT高さの変化に比べて小さく、硝酸濃度の増加に対して殆ど変化していないと考えることもできる。図26の(26B)には、配向カーボンナノチューブの合成に用いた各触媒体の触媒液濃度毎に、合成温度に対するCNT高さをプロットしている。合成温度の増加に伴ってCNT高さが減少し、その減少率は、硝酸鉄濃度が増加すると小さくなる傾向にあることが分かる。
【0091】
図27は、配向カーボンナノチューブのCVD温度、平均高さ(CNT高さ)と嵩密度の関係において、ロープ状炭素構造物が確実に作製できる範囲を示すグラフ図である。配向カーボンナノチューブが形成された多くの触媒体からロープ状炭素構造物の作製を試み、より確実にロープ状炭素構造物を作製可能な配向カーボンナノチューブの条件を調べた。配向カーボンナノチューブの嵩密度が40mg/cm3程度以上、かつCNT高さが80μm以上の試料からは、ほぼ確実にロープ状炭素構造物を作製することができている。他の試料の場合、同一の試料でもロープ状炭素構造物を作製できる場合とできない場合があった。配向カーボンナノチューブの嵩密度が40mg/cm3程度以上で、かつCNT高さが80μm以上の試料は、全て触媒体の製造に用いられた触媒液の硝酸鉄濃度が4wt%以上で、合成温度(又は「CVD温度」とも称している)が720℃以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明に係る配向カーボンナノチューブによれば、より確実にロープ状炭素構造物を作製することができる。本発明に係る配向カーボンナノチューブを用いて作製されたロープ状炭素構造物は、超軽量、高強度の繊維であり、カーボン製電線などや種々の炭素材料として利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 配向カーボンナノチューブ
2 ロープ状炭素構造物
3 ピンセット
4 触媒粒子
5 カーボンナノチューブ
6 接触部
7 多層レイヤ
8 基体
30 塗膜
32 基体
34 反応防止層
36 触媒前駆層
38 凝集抑制層
42 触媒粒子
44 触媒粒子層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と前記基体表面に形成された触媒粒子層から構成される配向カーボンナノチューブ製造用触媒体を用いて合成され、前記基体表面に成長させた前記配向カーボンナノチューブの一部を引出すことによりカーボンナノチューブからなるロープ状構造物を製造するためのロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブにおいて、前記配向カーボンナノチューブが多層のカーボンナノチューブからなり、前記配向カーボンナノチューブのサイズ分布及び/又は層数分布が2つ以上の分布ピークを有することを特徴とするロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブ。
【請求項2】
前記触媒粒子層を形成する触媒粒子の粒径分布が少なくとも2つ以上の分布ピークを有する配向カーボンナノチューブ製造用触媒体を用いて合成される配向カーボンナノチューブである請求項1に記載のロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブ。
【請求項3】
前記基体表面に成長させた前記配向カーボンナノチューブの平均高さが80μm以上であり、前記配向カーボンナノチューブの嵩密度が40mg/cm3以上である請求項1又は2に記載のロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブ。
【請求項4】
前記層数分布において、全分布数Nに対し、層数が9層以下である配向カーボンナノチューブの分布数Nfの比率Nf/Nが0.1〜0.7の範囲にある請求項1〜3に記載のロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブ。
【請求項5】
前記層数分布における前記分布ピークのうち、最も分布個数が多い第1分布ピークの個数をn1、次に分布個数が多い第2分布ピークの個数をn2としたとき、個数比率n2/n1が0.2≦n2/n1≦1の範囲にある請求項1〜4のいずれかに記載のロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブ。
【請求項6】
前記第1分布ピークの層数と前記第2分布ピークの層数との層数差ΔLが2以上である請求項5に記載のロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブ。
【請求項7】
前記サイズ分布がカーボンナノチューブの外径分布及び/又は内径分布である請求項1〜6のいずれかに記載のロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブの一部を引出して形成されたことを特徴とするロープ状炭素構造物。
【請求項9】
触媒粒子層を基体表面に形成した触媒体を作製し、所定の合成温度に設定された前記触媒体に原料ガスを供給して前記基体表面に多層の配向カーボンナノチューブを合成し、前記配向カーボンナノチューブの一部を引出してカーボンナノチューブからなるロープ状炭素構造物を形成するロープ状炭素構造物製造方法において、前記触媒粒子層の膜厚を調整して前記配向カーボンナノチューブのサイズ分布及び/又は層数分布が2つ以上の分布ピークを有する配向カーボンナノチューブを合成することを特徴とするロープ状炭素構造物製造方法。
【請求項10】
前記基体表面に成長させた前記配向カーボンナノチューブの平均高さを80μm以上、且つ前記配向カーボンナノチューブの嵩密度を40mg/cm3以上に制御する請求項9に記載のロープ状炭素構造物製造方法。
【請求項11】
前記合成温度の増加に相関して前記平均層数を増加させる請求項9又は10に記載のロープ状炭素構造物製造方法。
【請求項12】
前記合成温度の増加に相関して前記平均外径及び/又は前記平均内径を増大させる請求項9〜11のいずれかに記載のロープ状炭素構造物製造方法。
【請求項13】
前記触媒粒子層は、触媒金属化合物からなる触媒前駆物質を溶媒中に分散又は溶解させた触媒液を前記基体表面に塗着乾燥させて触媒前駆層を形成して、前記触媒前駆層を加熱して形成された触媒粒子から構成される請求項9〜12のいずれかに記載のロープ状炭素構造物製造方法。
【請求項14】
前記触媒金属化合物が酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、硝酸塩、塩化物及びオキソ酸塩から選択される1種以上の金属塩である請求項13に記載のロープ状炭素構造物製造方法。
【請求項1】
基体と前記基体表面に形成された触媒粒子層から構成される配向カーボンナノチューブ製造用触媒体を用いて合成され、前記基体表面に成長させた前記配向カーボンナノチューブの一部を引出すことによりカーボンナノチューブからなるロープ状構造物を製造するためのロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブにおいて、前記配向カーボンナノチューブが多層のカーボンナノチューブからなり、前記配向カーボンナノチューブのサイズ分布及び/又は層数分布が2つ以上の分布ピークを有することを特徴とするロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブ。
【請求項2】
前記触媒粒子層を形成する触媒粒子の粒径分布が少なくとも2つ以上の分布ピークを有する配向カーボンナノチューブ製造用触媒体を用いて合成される配向カーボンナノチューブである請求項1に記載のロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブ。
【請求項3】
前記基体表面に成長させた前記配向カーボンナノチューブの平均高さが80μm以上であり、前記配向カーボンナノチューブの嵩密度が40mg/cm3以上である請求項1又は2に記載のロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブ。
【請求項4】
前記層数分布において、全分布数Nに対し、層数が9層以下である配向カーボンナノチューブの分布数Nfの比率Nf/Nが0.1〜0.7の範囲にある請求項1〜3に記載のロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブ。
【請求項5】
前記層数分布における前記分布ピークのうち、最も分布個数が多い第1分布ピークの個数をn1、次に分布個数が多い第2分布ピークの個数をn2としたとき、個数比率n2/n1が0.2≦n2/n1≦1の範囲にある請求項1〜4のいずれかに記載のロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブ。
【請求項6】
前記第1分布ピークの層数と前記第2分布ピークの層数との層数差ΔLが2以上である請求項5に記載のロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブ。
【請求項7】
前記サイズ分布がカーボンナノチューブの外径分布及び/又は内径分布である請求項1〜6のいずれかに記載のロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のロープ状炭素構造物製造用配向カーボンナノチューブの一部を引出して形成されたことを特徴とするロープ状炭素構造物。
【請求項9】
触媒粒子層を基体表面に形成した触媒体を作製し、所定の合成温度に設定された前記触媒体に原料ガスを供給して前記基体表面に多層の配向カーボンナノチューブを合成し、前記配向カーボンナノチューブの一部を引出してカーボンナノチューブからなるロープ状炭素構造物を形成するロープ状炭素構造物製造方法において、前記触媒粒子層の膜厚を調整して前記配向カーボンナノチューブのサイズ分布及び/又は層数分布が2つ以上の分布ピークを有する配向カーボンナノチューブを合成することを特徴とするロープ状炭素構造物製造方法。
【請求項10】
前記基体表面に成長させた前記配向カーボンナノチューブの平均高さを80μm以上、且つ前記配向カーボンナノチューブの嵩密度を40mg/cm3以上に制御する請求項9に記載のロープ状炭素構造物製造方法。
【請求項11】
前記合成温度の増加に相関して前記平均層数を増加させる請求項9又は10に記載のロープ状炭素構造物製造方法。
【請求項12】
前記合成温度の増加に相関して前記平均外径及び/又は前記平均内径を増大させる請求項9〜11のいずれかに記載のロープ状炭素構造物製造方法。
【請求項13】
前記触媒粒子層は、触媒金属化合物からなる触媒前駆物質を溶媒中に分散又は溶解させた触媒液を前記基体表面に塗着乾燥させて触媒前駆層を形成して、前記触媒前駆層を加熱して形成された触媒粒子から構成される請求項9〜12のいずれかに記載のロープ状炭素構造物製造方法。
【請求項14】
前記触媒金属化合物が酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、硝酸塩、塩化物及びオキソ酸塩から選択される1種以上の金属塩である請求項13に記載のロープ状炭素構造物製造方法。
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図13】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図26】
【図28】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図24】
【図25】
【図27】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図13】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図26】
【図28】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図24】
【図25】
【図27】
【公開番号】特開2011−207724(P2011−207724A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79136(P2010−79136)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構、大阪府地域結集型共同研究事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構、大阪府地域結集型共同研究事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】
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