説明

ロールの軸受け構造

【課題】塗工装置における高精度なロールの軸受け構造を提供する。
【解決手段】ロール10の回転軸12には、2個のアンギュラベアリング18,20が取り付けられ、一対の軸受け28,29には、回転軸12が貫通する第1貫通空間30が形成され、第1貫通空間30の内部は球面形状に形成され、第1貫通空間30には、球面体のハウジング32が嵌合し、ハウジング32には、回転軸12が貫通する円筒状の第2貫通空間34が形成され、第2貫通空間34にアンギュラベアリング18,20が嵌合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工装置におけるロールの軸受け構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フィルム等のウエブに塗工液を塗工するための塗工ロールにおいては、塗工厚みの精度を向上させる必要があり、そのためにはロールの回転精度が要求される。
【0003】
例えば、他の分野である圧延機に用いられるロールにおいては、その回転精度を上げるために、クロスするワークロールの旋回中心を一方のロールチョークとし、このロールチョーク内にスラスト力を受けるスラスト力支持機構が設けられたものが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
上記構成のスラスト力保持機構は、凸状の部分円筒面が、凹状の部分円筒面に嵌合し、凸状の部分円筒面を有する部材に回転軸が回動自在に嵌合している。
【0005】
しかし、特許文献1の技術を用いてもその精度は1mm以上であって、フィルム等のウエブに塗工液を塗工するための塗工ロールにそのまま適用することはできない。
【特許文献1】特開平8−197109号公報の図4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、フィルム等のウエブにおける塗工厚さは例えば100μmぐらいであり、その回転精度は3μmぐらい必要である。しかし、従来より塗工装置に用いられている塗工ロールの精度は、8〜10μm程度であり、前記した3μmの要求に応えることができない。
【0007】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、塗工装置における高精度なロールの軸受け構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、一対の軸受けにロールを回転自在に支持するロールの軸受け構造であって、前記ロールの両端部から突出した回転軸には、アンギュラベアリングの内輪がそれぞれ固定され、前記一対の軸受けには、前記回転軸が貫通する第1貫通空間がそれぞれ形成され、前記一対の第1貫通空間の内側は球面形状にそれぞれ形成され、前記一対の第1貫通空間には、球面体のハウジングがそれぞれ嵌合して、前記ハウジングが前記第1貫通空間内部で回動自在であり、前記一対のハウジングには、前記回転軸が貫通する円筒状の第2貫通空間がそれぞれ形成され、前記一対のハウジングの第2貫通空間には、前記アンギュラベアリングの外輪がそれぞれ嵌合していることを特徴とするロールの軸受け構造である。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記アンギュラベアリングは、前記ロールの軸方向に沿って二列接触して配され、前記二列のアンギュラベアリングの内輪が互いに接近する方向に締め付けられていることを特徴とする請求項1記載のロールの軸受け構造である。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記一対の軸受けの中の一方の軸受けにおける前記アンギュラベアリングの外輪は、前記第2貫通空間に対し軸方向に移動しないように固定され、前記一対の軸受けの中の他方の軸受けにおける前記アンギュラベアリングの外輪は、前記第2貫通空間に対し軸方向に移動可能なように固定されていることを特徴とする請求項1記載のロールの軸受け構造である。
【0011】
請求項4に係る発明は、前記二列のアンギュラベアリングの接触位置が、前記球面体のハウジングの中心軸と一致していることを特徴とする請求項2記載のロールの軸受け構造である。
【0012】
請求項5に係る発明は、前記ロールが、ウエブに塗工液を塗工する塗工装置における塗工ロールであることを特徴とする請求項1記載のロールの軸受け構造である。
【0013】
請求項6に係る発明は、前記ロールが、ウエブに塗工液を塗工する塗工装置における前記ウエブを搬送する搬送ロールであることを特徴とする請求項1記載のロールの軸受け構造である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のロールの軸受け構造であると、ハウジングが第1貫通空間内部で回動し、ロールの自重によって回転軸が傾いても、そのぶれを吸収することができる。また、この場合に回転軸が、ハウジングに対しアンギュラベアリングによって回転自在に取り付けられているため、軸方向に対する遊びがなくなり、高精度な回転を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態のロール10の軸受け構造について説明する。
【0016】
(1)ロール10の構成
ロール10は、フィルム、布帛等のウエブに塗工液を塗工するための塗工ロールに用いられるものであり、特にその超薄膜コーティングが要求される塗工装置に用いられるものである。
【0017】
ロール10の両端部から、回転軸12がそれぞれ突出している。回転軸12とロール10との間には、回転軸12よりもやや径が大きく、ロール10よりも径が小さい円柱状の取付け部14が設けられている。これによって、取付け部14と回転軸12との間には段部16が形成されている。
【0018】
回転軸12には、2個のアンギュラベアリング18,20の内輪が固定されている。このアンギュラベアリング18,20とは、外輪の溝の片側が円筒形になっており、球を数多く入れることができ、球の接触点は軸に直角な平面から傾き、一方向の大きなスラスト荷重も受けることができるものであり、アンギュラベアリング18とアンギュラベアリング20とは互いに逆向きに取り付けられ、それらに予め軸方向に余圧を与えることにより径方向の遊びをなくしている。この径方向の遊びをなくす構造として、アンギュラベアリング18の内輪と段部16との間に円筒形のスペーサー22が介在し、外側のアンギュラベアリング20は、円筒形の固定部材24によって内方側に押圧されている。固定部材24はナット26によって回転軸12に固定され、これによってアンギュラベアリング20がアンギュラベアリング18側に押圧されている。そして、アンギュラベアリング18は段部16とスペーサー22によって固定されているため、2個のアンギュラベアリング18,20が互いに接近する方向に押圧され、固定されている。
【0019】
ロール10を支持する一対の軸受け28,29には、回転軸12が貫通するための第1貫通空間30が設けられている。この第1貫通空間30の内部は球面形状に形成されている。
【0020】
第1貫通空間30の内部には、球面体のハウジング32が嵌合している。このハウジング32の外周面は、第1貫通空間30の内周面と一致するように形成され、ハウジング32が第1貫通空間30内部で回動自在となっている。
【0021】
ハウジング32には、回転軸12が貫通する円筒状の第2貫通空間34が設けられている。この第2貫通空間34内部には、アンギュラベアリング18,20の外輪が嵌合している。また、アンギュラベアリング18,20の接触位置は、球面体のハウジング32の中心軸と一致している。
【0022】
ここで、一対の軸受け28,29の中でロール10を回転させるモータ46に直結されている駆動側の軸受け28について説明する。この駆動側の軸受け28には、モータ46と連結するために、回転軸12の端部からさらに連結軸36が突出している。この連結軸36には、モータ46に連結するためのキー38が突出している。
【0023】
ハウジング32の両側には、保持部材40が設けられ、この保持部材40の内周側にはそれぞれベアリング42,44が設けられ回転軸12と取付け部14とに回動自在に接触している。そして、この保持部材40は、アンギュラベアリング18,20の外輪が軸方向に移動しないように固定している。
【0024】
一方、駆動側の軸受け28とは反対側の他動側の軸受け29においては、上記で説明した連結軸36がなく、また、アンギュラベアリング18,20の外輪が軸方向に多少移動可能なように設けられている。
【0025】
(2)ロール10の回転状態
上記構成のロール10の軸受け構造の動作状態について説明する。
【0026】
ロール10を軸受け28,29に取り付けると、図3に示すようにロール10の自重によってロール10の中心部が下がり、回転軸12が水平状態から振れた状態になる。この場合に回転軸12が振れても、ハウジング32が第1貫通空間30内部で回動するため、ロール10を回転自在に支持することができる。そして、アンギュラベアリング18,20がストレスなしに回転させることができる。
【0027】
また、ロール10の両端の回転軸12,12の取付け位置が多少ずれていても、このハウジング32の回動によりそのずれを吸収することができる。
【0028】
さらに、回転軸12はアンギュラベアリング18,20によってハウジング32の第2貫通空間34に回動自在に取り付けられているため、ロール10は回転するが、軸方向に対してはずれることがなく高精度に回転することができる。特に、アンギュラベアリング18,20の接触位置がハウジング32の中心軸と一致しているため、ハウジング32が回動しても、アンギュラベアリング18,20の接触位置がずれることがなくその回転精度を保持することができる。また、アンギュラベアリング18,20の間に隙間が発生することがない。
【0029】
このロール10の軸受け構造であると、そのロール10の振れ精度を3μm以下にすることができ、フィルムに超薄膜で塗工液を塗工する場合でも塗工液を均一に塗工することができる。
【0030】
(応用例)
本実施形態のロール10の支持構造であると、ロール10が塗工装置に対し着脱自在な構造であっても、その精度を保持することができる。即ち、塗工装置の組み立て精度が低く、取り付けた場合の精度誤差があっても、上記のハウジング32とアンギュラベアリング18,20の働きにより高い回転精度を得ることができる。
【0031】
(変更例)
本発明は上記実施形態に限らず、その主旨を逸脱しない限り種々に変更することができる。
【0032】
例えば、上記実施形態では、ロール10を塗工ロールで説明したが、これに限らず搬送ロールでもよい。
【0033】
また、アンギュラベアリング18,20の接触位置をハウジング32の中心軸に一致させたが、軸方向にずらしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のロールの軸受け構造は、フィルム等に超薄膜で塗工液を塗工する塗工装置に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一の実施形態を示す軸受けの縦断面図である。
【図2】2個のアンギュラベアリングの縦断面図である。
【図3】ロールの全体の構造を示す説明図である。
【符号の説明】
【0036】
10 ロール
12 回転軸
14 取付け部
16 段部
18 アンギュラベアリング
20 アンギュラベアリング
22 スペーサー
24 固定部材
26 ピン
28 軸受け
29 軸受け
30 第1貫通空間
32 ハウジング
34 第2貫通空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の軸受けにロールを回転自在に支持するロールの軸受け構造であって、
前記ロールの両端部から突出した回転軸には、アンギュラベアリングの内輪がそれぞれ固定され、
前記一対の軸受けには、前記回転軸が貫通する第1貫通空間がそれぞれ形成され、
前記一対の第1貫通空間の内側は球面形状にそれぞれ形成され、
前記一対の第1貫通空間には、球面体のハウジングがそれぞれ嵌合して、前記ハウジングが前記第1貫通空間内部で回動自在であり、
前記一対のハウジングには、前記回転軸が貫通する円筒状の第2貫通空間がそれぞれ形成され、
前記一対のハウジングの第2貫通空間には、前記アンギュラベアリングの外輪がそれぞれ嵌合している
ことを特徴とするロールの軸受け構造。
【請求項2】
前記アンギュラベアリングは、前記ロールの軸方向に沿って二列接触して配され、
前記二列のアンギュラベアリングの内輪が互いに接近する方向に締め付けられている
ことを特徴とする請求項1記載のロールの軸受け構造。
【請求項3】
前記一対の軸受けの中の一方の軸受けにおける前記アンギュラベアリングの外輪は、前記第2貫通空間に対し軸方向に移動しないように固定され、
前記一対の軸受けの中の他方の軸受けにおける前記アンギュラベアリングの外輪は、前記第2貫通空間に対し軸方向に移動可能なように固定されている
ことを特徴とする請求項1記載のロールの軸受け構造。
【請求項4】
前記二列のアンギュラベアリングの接触位置が、前記球面体のハウジングの中心軸と一致している
ことを特徴とする請求項2記載のロールの軸受け構造。
【請求項5】
前記ロールが、ウエブに塗工液を塗工する塗工装置における塗工ロールである
ことを特徴とする請求項1記載のロールの軸受け構造。
【請求項6】
前記ロールが、ウエブに塗工液を塗工する塗工装置における前記ウエブを搬送する搬送ロールである
ことを特徴とする請求項1記載のロールの軸受け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−349100(P2006−349100A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−178018(P2005−178018)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000240341)株式会社ヒラノテクシード (58)
【Fターム(参考)】