説明

ワイヤソーを使用した物体の切断撤去方法

【課題】伸縮継手をダイヤモンドワイヤソーによって水平切断する際、ワイヤソー駆動装置の設置位置を変更せずに切断できるようにして工事の迅速化及びコスト低減を図る。
【解決手段】ワイヤソー駆動装置の基台から下に延びる旋回可能な変換プーリを床版の中央部に設けたピット内に位置させ、ワイヤソー4をこの変換プーリを介して切断する伸縮継手に掛け回し、ワイヤソーを走行させて伸縮継手の半分を水平切断する。変換プーリは切断の進行に伴ってワイヤソーの走行方向が変わるのに応じて内向きに方向が自動的に変わり、最終的には切断開始時の方向から90度回転した状態で切断を終了する。次にワイヤソー4を未切断の領域に掛けまわして同様に切断し、伸縮継手を水平切断し、床版からフリーな状態にして撤去する。ワイヤソー駆動装置の設置位置を移動せずに伸縮継手を切断することができ、施工効率が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート壁や床版等を一定深さで切断撤去したり、床版等に一体的に埋設された継手などの埋設物が老朽化等により交換が必要となった場合に切断撤去する方法に関する。
特に、高架道路や橋梁等の伸縮継手をブレーカ等の振動騒音を発生する器具を使用することなく低騒音・低振動で撤去する方法に関し、切断撤去を効率よく実施する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設から長期間経過して老朽化したり、また、損傷を受けた橋梁の伸縮継手を補修・交換するため、ブレーカでコンクリートをハツル作業を極力省略し、振動・騒音を周囲に撒き散らすことがないようするため、ダイヤモンドワイヤソーを使用して静音状態で交換作業をすることが特許文献1などで提案されている。
ダイヤモンドワイヤソーが走行する溝を切断によって伸縮継手などの撤去すべき埋設物の周囲に形成し、溝内をダイヤモンドワイヤソーを走行させて継手を含む床版を水平に切断することによって伸縮継手を撤去するものであり、溝の形成及びワイヤソーによる水平切断は共に低騒音・低振動であり、撤去作業を静音でおこなうことができるので、住居やビルが近接している都市高速道路の伸縮継手に適用することができる工法である。
【特許文献1】特開2001−226914号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来のワイヤソーによる橋梁の伸縮継手の水平切断方法は、図4(1)に示すように伸縮継手などの埋設物を含む切断領域を囲む溝601を形成し、ワイヤソー駆動装置1を切断領域の一端側に設置し、ワイヤソーを溝内に配設して走行駆動させて床版と埋設物を水平切断し、ワイヤソーが切断領域の中央部に設けた切断線605に達したところでワイヤソーの走行を中断し、図4(2)に示すように、ワイヤソー駆動装置1の設置場所を反対側に移動させてワイヤソーを未切断領域を包囲するように配設し、未切断領域の水平切断をおこなって全領域の切断を完了していた。
ワイヤソー駆動装置1を切断領域の外側に設置して全領域を一度で切断できないため、このように切断を2回に分けて実施していた。
従来の切断方法に使用するダイヤモンドワイヤソー駆動装置1は、図5に概略を示すように、基台2、昇降ガイド201、駆動プーリ3及びワイヤロープにダイヤモンドビーズを一定間隔で取り付けたワイヤソー4からなるものである。駆動プーリ3は、昇降ガイド201に昇降自在に取り付けてあり、ワイヤソーによる切断の進行に伴なうワイヤソーの余剰長さを、駆動プーリが3が昇降ガイドを上昇することによって吸収していた。駆動プーリは、油圧モータによって回転駆動され、駆動プーリ3に掛け回してあるワイヤソー4は床版を切断して形成した溝内に設置され、変換プーリ31を介して水平に方向転換させられて切断対象に巻きつけられ、駆動プーリ3の回転によってワイヤソー4が切断溝内を高速で走行して対象物を切断するものである。
【0004】
このように、従来方法はワイヤソー駆動装置を一旦停止させて設置場所を移動させるという手間がかかっており、そのため、施工効率が低下するという問題があった。
そこで、本発明は、ダイヤモンドワイヤソーを使用した道路橋等の床版に埋設された伸縮継手等の切断撤去工事、または、壁などを一定深さで切断撤去する場合において、ワイヤソー駆動装置を移動することなく一定深さで切断をおこなえるようにし、工事の迅速化及びコスト低減を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
物体の一定領域をワイヤソーを使用して所定の深さで切断撤去するにあたり、切断領域を囲む溝を物体に形成し、対向する溝内に物体表面に垂直な軸の廻りに旋回可能なプーリを対向して設置し、ワイヤソーを旋回可能なプーリを介して溝内に配設して切断領域の一部を溝に沿って切断した後、ワイヤソーを旋回可能なプーリを介して未切断領域の溝内に配設して切断するものである。
物体が橋梁等の床版の場合、床版に埋設された埋設物をワイヤソーで切断撤去するにあたり、埋設物である伸縮継手を囲む溝を床版に形成し、対向する溝の長手方向の中間部に旋回可能なプーリを対向して設置し、ワイヤソーを旋回可能なプーリを介して溝内に配設して切断予定領域の一部分を水平切断し、切断が旋回可能なプーリの位置まで達したら切断作業を中断し、ワイヤソーを旋回可能なプーリを介して未切断側に配設して水平切断をおこなう埋設物撤去方法である。
また、ワイヤソー駆動装置の基台から下側に延びるアームに水平軸の廻りに回転すると共にアームを軸に旋回可能な変換プーリを設けたワイヤソー駆動装置を使用し、このワイヤソー駆動装置を水平切断領域のほぼ中央部に設置し、変換プーリを溝内に位置させ、この変換プーリを介してワイヤソーを溝内に配設して切断領域の半分を切断し、次にワイヤソーを切断済みの領域の反対側に掛け回して未切断領域を切断して全体を切断するものであり、継手の撤去作業を迅速におこなうことができる。
溝の深さを変更することによって物体の表面に対して斜めに切断することができる。
【発明の効果】
【0006】
溝に沿った切断の進行に伴って旋回可能な変換プーリ31を介して溝内に配設されたワイヤソーが物体内に入り込み、溝に平行に走行しなくなるが、変換プーリが旋回可能であるので変換プーリが溝に対して直角になるまで切断作業をおこなうことができる。そして、ワイヤソーを未切断側に掛け換えて直ぐに切断作業を開始できるので、作業効率が高まり、道路橋における作業においては、交通遮断する時間を短縮することができ、交通に与える影響を軽減することができる。
本発明を壁体に適用することによって、壁の一定領域を溝に沿って効率よく切断撤去することが可能であり、壁面彫刻や壁画の移設に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
実施例1
本発明を橋梁の伸縮継手を切断撤去する場合の実施例で詳しく説明する。
本発明の埋設物撤去方法の橋梁の伸縮継手の撤去に使用するワイヤソー駆動装置1は、図2に示すように、基台2に移動用の車輪20が設けてあり、操作用ハンドル23を作業者が持ち移動させることができる。基台2の下側には切断作業時に装置を固定する固定装置21が設けてあり、脚22を延ばして車輪20を設置面より浮かせて装置を固定する。基台2上には駆動プーリ3及び複数の調整プーリ30が設けてある。
ワイヤソー4が複数の調整プーリ30の間に往復させて掛け渡してあり、切断の進行に伴って生じるワイヤソーの余剰長さを吸収する。駆動プーリ3は油圧モータによって回転駆動され、駆動プーリ3に掛け回したワイヤソー4を高速で走行させる。
【0008】
基台2の下部にブラケット24が設けてあり、下側に延びるアーム25がブラケット24に形成してある長穴にボルトで固定してあり、アーム25の基台2からの突出長さを調節できる。アーム25の先端部には変換プーリ31が脚に対してキャスターのように旋回可能に取り付けてある。なお、変換プーリはキャスター型に限定されず、アームの延長線上に変換プーリ31の回転軸が位置するものでもよい。
ワイヤソー4は駆動プーリ3から調整プーリ30に導かれ、変換プーリ31を介して溝内に水平に配設されて切断対象物に巻きつけられる。駆動プーリ3の回転によってワイヤソー4が高速で走行して対象物を切断する。アーム25自身が伸縮自在の構造でもよく、変換プーリ31の設置深さを変更することができるものであればどのような構造のものでもよい。
変換プーリ31がアーム25に対して旋回可能であるので、変換プーリ31は、切断の進行に伴ってワイヤソーの走行方向が変化してもワイヤソーの走行方向に追随して向きが変わりプーリからワイヤソーが外れたり、応力集中が生ずることなく走行が円滑におこなわれる。
【0009】
本発明を道路橋の伸縮継手の撤去に適用した場合の切断撤去作業の手順を図1に基づいて説明する。
切断作業にあたり、撤去する継手5の周囲の路面にまず、切断予定線を描く。また、切断に伴う冷却水が周囲に流れ出すのを防止するための発泡ウレタン製の防護材やシート(図示しない)を切断領域の周囲に設置する。
図1のSTEP−0に示すように、水平切断に直接使用するワイヤソーを走行させるための溝部分61を示す切断予定線を継手5の両側に描き、この溝61に直角で継手5の両側端の外側に溝部分62を描き、四角形の切断領域を画定する切断予定線を描く。また、ワイヤソーが循環走行する溝部分61、62から150mm内側に補助切断線63、64、及び4つのコーナー部分を円形に切断するための円形またはその中心がポイントとして描かれる。
【0010】
切断作業は、切断予定線61,62によって画定された四角形の4つのコーナー7をコアドリルで円形に切断してコア抜きをおこない、切断された円筒形のコアは撤去せずにその位置に残しておく。
旋回可能な変換プーリ31が旋回するためにはある程度の面積を必要とするので、伸縮継手5の中央部に変換プーリ31を設置するためのピット40を形成する必要があるので、コアドリルによる円形切断を重複しておこなって必要面積のピット40を形成する。ピット40の形成はコアドリルに限定されない。
【0011】
コンクリートカッターによる補助切断線63〜64は切断の補助のための溝を形成する部分であり、コンクリートカッターで切断して幅3mm程度の溝を形成する。次に、ワイヤソーを走行させる溝となる部分の切断予定線61、62に沿ってコンクリートカッターで切断して幅15mm程度の溝を形成する。市販の回転ブレード単独ではこの幅の溝を形成することができないので、回転ブレードを複数枚(本実施例では3枚)重ねることにより必要な幅の溝を形成した。
【0012】
図1のSTEP−1に示すように、ワイヤソー駆動装置1の変換プーリ31がピット40に収納されるように床版上に設置し、固定脚を延ばして固定する。変換プーリ31が設けてあるアーム25をピットの深さに応じて下方に延ばして変換プーリ31をピット内に位置させ、駆動プーリ3に巻き回されたワイヤソー4を溝内61、62に配設して、STEP−2の斜線で示す切断対象部分を取り囲んで溝の内部を一周させる。この時点で変換プーリ31は、切断予定線61に平行な方向を向いている。
【0013】
STEP−2に示すように、ワイヤソー4を緊張させ、駆動プーリ3を回転させて溝の内部を循環走行させるとワイヤソー4が床版コンクリートに食い込み、水平切断が開始される。切断が完了した部分を斜線で示す。ワイヤソーによる切断においては、引張り側が先に切断される傾向があり、従って引張り側の斜線部分が送り側に比較して大きくなっている。変換プーリ31は、旋回自在であるので、切断が非対称に進行しても、ワイヤソー4が走行する方向に自動的に向きを変更する。このように、ワイヤソーの走行方向と変換プーリ31の向きが常に一致し、ワイヤソーに集中応力が発生したり、プーリから外れたりすることがなく、走行が円滑におこなわれる。
STEP−4に示すように、切断が進行してピット40まで切断位置が到達すると、変換プーリ31は、切断開始時の位置からほぼ90度回転した状態となり、半分の切断領域の水平切断が完了するのでワイヤソーの走行を中断する。
【0014】
そこで、STEP−5に示すように、ワイヤソー駆動装置1を移動させることなく当初に設置した位置のままで、未切断の残りの部分を取り囲むようにワイヤソー4を溝内に配設し直して同様に水平切断する。STEP−6〜8はSTEP−2〜4と同じであるので説明は省略する。
ワイヤソー4を走行させて残りの部分の水平切断を完了させ、切断用溝と補助切断線の間のコンクリートを撤去し、継手5を周囲の床版コンクリートから完全に遊離させ、引き上げ用の金具を継手5に溶接してクレーンで持ち上げて撤去する。
【0015】
実施例2
本発明を建築物の壁や洞窟の壁の一定領域を切断撤去する場合に適用した例を図3を参照して説明する。図3の各ステップの上段は壁の側面を、下段は正面を示す。
切断作業にあたり、STEP−1に示すように、切断撤去領域50(斜線部)を囲む切断予定線を壁面51に描くことは、実施例1と同様である。屋外の壁面の場合、冷却水を使用することができるが、屋内の壁面の場合は極力冷却水を使用することを抑え、ワイヤソーに水滴を滴下させながら冷却用の空気を噴射してその場で水を蒸発させることによってワイヤソーを冷却し、水が周辺に流れ出して汚染することがないようにする。
【0016】
STEP−2に示すように、切断予定線(図示しない)によって画定された四角形の4つのコーナー7をコアドリルで円形に切断してコア抜きをおこない、切断された円筒形のコアは撤去せずにその位置に残しておく。
【0017】
STEP−3に示すように、コンクリートカッターによってワイヤソー4を走行させる溝となる部分の切断予定線に沿ってコンクリートカッターで切断して幅15mm程度の溝を形成する。また、必要に応じて適宜の補助切断線を壁面に形成する。
壁面から一定の深さで切断除去する場合は形成する溝の深さは一定とするが、斜めに切断撤去する場合は、溝の深さを浅くしたり深く形成する。
【0018】
STEP−4に示すように、ワイヤソー駆動装置1の変換プーリ31がピット40に収納されるように壁面51に近接させて設置する。変換プーリ31は、予め設けたピット40内にセットし、駆動プーリ3に巻き回されたワイヤソー4を溝61、62に配設して斜線で示す切断領域50を取り囲んで溝の内部を一周させる。ワイヤソー4を緊張させ、駆動プーリ3を回転させて溝の内部を循環走行させるとワイヤソー4が壁コンクリートに食い込み、溝に沿って切断が開始される。切断が完了した部分を細かい斜線で示す。変換プーリ31は、旋回自在であるので、ワイヤソー4が走行する方向に自動的に向きを変更する。
切断が進行してピット40まで切断位置が到達すると、変換プーリ31は、切断開始時の位置からほぼ90度回転した状態となり、半分の切断領域の水平切断が完了するのでワイヤソーの走行を中断する。
【0019】
そこで、STEP−5に示すように、ワイヤソー駆動装置1を移動させることなく当初に設置した位置のままで、未切断の残りの部分を取り囲むようにワイヤソー4を溝内に配設し直して同様に切断する。
ワイヤソー4を走行させて残りの部分の切断を完了させ、壁本体から切り離された部分に金具を取り付け、チェーンブロックを使用して撤去する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の工程説明図。
【図2】本発明方法に使用するワイヤソー駆動装置の正面図。
【図3】本発明の他の実施例の工程説明図。
【図4】従来の切断方法説明図。
【図5】従来のワイヤソー駆動装置の正面及び側面図。
【符号の説明】
【0021】
1 ワイヤソー駆動装置
2 基台
3 駆動プーリ
31 変換プーリ
4 ワイヤソー
40 ピット
5 継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の一定領域を切断撤去する方法であって、切断領域を囲む溝を物体に形成し、対向する溝内に物体表面に垂直な軸の廻りに旋回可能なプーリを対向して設置し、ワイヤソーを旋回可能なプーリを介して溝内に配設して切断領域の一部を溝に沿って切断した後、ワイヤソーを旋回可能なプーリを介して未切断領域の溝内に配設して溝に沿って切断する物体の切断撤去方法。
【請求項2】
請求項1において、旋回可能なプーリの設置位置が、切断領域の長手方向のほぼ中央部である物体の切断撤去方法。
【請求項3】
請求項1または2において、物体が橋梁の床版であり、切断領域内に伸縮継手が埋設固定されている物体の切断撤去方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、旋回可能なプーリはワイヤソー駆動装置に取り付けてある物体の切断撤去方法。
【請求項5】
請求項4において、旋回可能なプーリは、ワイヤソー駆動装置に対して取り付け位置が上下方向に変更可能である物体の切断撤去方法。
【請求項6】
請求項4において、旋回可能なプーリが伸縮自在な部材を介してワイヤソー駆動装置に取り付けてある物体の切断撤去方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−285809(P2008−285809A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128794(P2007−128794)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(594018876)ナガタ工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】