説明

ワイヤソー

【課題】カーフロスを低減しつつ所望の起伏をウエハ表面に良好に残す。
【解決手段】複数のガイドローラ26A等に巻回された切断用ワイヤにより形成され、ワイヤ軸方向に駆動されるワイヤ群と、ワイヤ群のワイヤ並び方向と直交する切込み方向にワークを移動させるワーク保持部材とを備えたワイヤソー。ワイヤソーは、さらにワイヤ群とワークとをワイヤ並び方向に相対的に移動させる移動手段と、その移動方向を切り替え制御するNC装置80とを備えている。移動手段は、ガイドローラ26A等を外周上に支持し、かつ制御水循環用の内部通路を備えるローラ支持軸40と、前記内部通路に制御水を循環させる温調器76等を備えた循環系統とを有し、NC装置80は、温調器76を制御することによりローラ支持軸40に供給する制御水の温度を一定周期で切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断用ワイヤにより構成されたワイヤ群に対して半導体インゴット等のワークを切り込み送りすることにより当該ワークを切断するワイヤソーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ワークをウエハ状に切り出す手段としてワイヤソーが知られている。ワイヤソーは、複数のガイドローラ間に切断用ワイヤが巻き掛けられることにより該ワイヤが多数本並んだ状態で張設され、このワイヤ群をその軸方向に高速駆動しながら該ワイヤ群に遊離砥粒を含む加工液を供給し、この状態で、ワーク保持部に保持されたワークを切断用ワイヤの軸方向と直交する方向に、前記ワイヤ群に対して切断込み送りすることにより、ワークをウエハ状に多数毎同時に切り出すように構成されている(特許文献1)。
【0003】
この種のワイヤソーを用いた太陽電池用のシリコンウエハの切り出しに際しては、ウエハの熱変換効率を高めるためにウエハ表面に適度の起伏(凹凸)を意図的に残すことが行われている。その手段として一般には、比較的大きめの遊離砥粒(例えば♯800〜♯1000程度)を含有した加工液を用いて粗めの加工をすることによってウエハ表面にわざと起伏を形成することが行われている。
【特許文献1】特開平11−10511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、大きめの遊離砥粒を用いてウエハを切り出す場合には、砥粒による切断用ワイヤの摩耗が進行し易いため、通常は、比較的太線の切断用ワイヤが使用される。
【0005】
ところが、近年、ワイヤソーでは、カーフロス(切断代)を低減して半導体材料の有効活用を図ることが一つの課題とされており、従って、切断用ワイヤとして太線のものを用いた上で、さらに比較的大きめの遊離砥粒を用いる必要がある太陽電池用ウエハの切り出し作業では、カーフロスを低減することが難しく、この点を解決することが望まれている。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、カーフロスを低減しつつ所望の起伏をウエハ表面に良好に残すことができるワイヤソーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、複数のガイドローラに巻回された切断用ワイヤからなり、ワイヤ軸方向に往復駆動されるワイヤ群と、このワイヤ群に対して、そのワイヤ並び方向と直交する方向にワークを相対的に切断送りする送り手段と、を備え、前記ワイヤ群に対して前記ワークを切断送りすることにより当該ワークから複数枚のウエハを同時に切り出すワイヤソーにおいて、前記ワイヤ群に対して、前記ワイヤ並び方向に前記ワークを相対的に移動させる移動手段と、切断されるウエハの表面に前記切断送り方向に沿って起伏が形成されるように、前記切断送り中に前記移動手段を作動させる制御手段と、を備えているものである。
【0008】
このワイヤソーによると、ワイヤ群に対してワイヤ並び方向と直交する方向にワークが切断送りされることにより、前記ワークから複数枚のウエハが同時に切り出される。そして、この切断送り中、制御手段の制御に基づき前記移動手段が作動することにより、切断されるウエハの表面に前記切断送り方向に沿って起伏が形成される。従って、太陽電池用ウエハの切り出しを行う場合でも、従来のように粒度の大きい砥粒や太線のワイヤを用いることなく、所望の起伏をウエハ表面に良好に形成することが可能となる。
【0009】
なお、前記制御手段は、前記切断送り方向に沿って規則的な起伏が形成されるように前記移動手段を制御するもの、具体的には、前記切断送り方向に沿ったウエハ表面の断面形状が正弦波曲線状になるように前記移動手段を制御するものであるのが好適である。
【0010】
この構成によれば、ウエハの表面全体に亘って規則的な起伏を均一に形成することができる。従って、太陽電池用ウエハの切り出しの際には、ウエハ全体に良好に起伏を形成することができる。特に、制御手段によりウエハ表面の断面形状が正弦波曲線状になるように移動手段を制御する場合には、切断送りに伴ってワイヤ群とワークとをワイヤ並び方向に安定した加速度で相対的に往復移動させることにより、円滑な切断を行いながら、滑らかで規則的な起伏を形成することができる。
【0011】
なお、ワイヤ群とワークとをワイヤ群のワイヤ並び方向に相対的に移動させるための具体的な構成としては種々の構成が考えられるが、例えばその一つとして、前記移動手段は、外周上に前記ガイドローラを支持すると共に、軸方向への熱変位が許容されるように所定のフレームに対して支持されるローラ支持軸と、このローラ支持軸内に設けられる内部通路に対して流体を供給すると共に、その流体温度を変更可能な流体供給手段と、を含み、前記内部通路に供給される流体温度に応じた前記ローラ支持軸の軸方向への熱変位に伴い前記ガイドローラとワイヤ群とを一体に前記ワイヤ並び方向に変位させるように構成され、前記制御手段は、前記流体供給手段を制御することにより、前記内部通路に供給する流体温度を、前記切断送り中に変更させるように構成される。
【0012】
このような構成によれば、モータ等の駆動源を用いた駆動機構等を組み込むことなく、ワイヤ群と前記ワークとを相対的にワイヤ並び方向に移動させることが可能となる。
【0013】
また、他の構成として、前記移動手段は、前記ワイヤ群のワイヤ並び方向に前記ワーク保持部材を移動可能に支持するガイド手段と、前記ワーク保持部材を前記ガイド手段に沿って進退駆動する駆動手段と、を含み、前記制御手段は、前記駆動手段を制御することにより、前記切断送り中に前記ワーク保持部材を進退させるように構成される。
【0014】
この構成によると、モータ等の駆動源を用いることとなるが、その分、移動手段による相対移動方向の切り替え等の応答性を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るワイヤソーによれば、太陽電池用ウエハの切り出しを行う場合でも、従来のように粒度の大きい砥粒や太線の切断用ワイヤを用いることなくウエハ表面に起伏を形成することができる。従って、カーフロスを低減しつつウエハ表面に所望の起伏を良好に残すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の好ましい実施の形態について図面を用いて説明する。
【0017】
図1は、本発明に係るワイヤソーの全体構成図である。この図に示すワイヤソーは、一対のワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10B、ガイドプーリ12A,12B、ガイドプーリ14A,14B、ガイドプーリ16A,16B、ワイヤ張力調節装置18A,18B、ガイドプーリ22A,22B、及び4つのガイドローラ24A,24B,26A,26Bを備えている。
【0018】
ガイドローラ24A,24Bは互いに同じ高さ位置に配され、ガイドローラ26A,26Bはそれぞれガイドローラ24A,24Bの下方の位置に配されており、ガイドローラ26Aが後述するように駆動モータ25によって回転駆動されるようになっている。
【0019】
各ワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10Bは、切断用のワイヤWが巻かれるボビン9A,9Bと、これを回転駆動するボビン駆動モータ11A,11Bと、を備えている。一方のワイヤ繰出し・巻取り装置10Aのボビン9Aから繰り出されたワイヤWは、ガイドプーリ12A,14A,16A、ワイヤ張力調節装置18Aのプーリ20A、及びガイドプーリ22Aの順に掛けられ、さらにガイドローラ24A,24B,26B,26Aの外周面のガイド溝(図示省略)に嵌め込まれながらこれらガイドローラの外側に多数回螺旋状に巻回された(巻き掛けられた)後、ガイドプーリ22B、ワイヤ張力調節装置18Bのプーリ20B、ガイドプーリ16B,14B,12Bの順に掛けられ、他方のワイヤ繰出し・巻取り装置10Bのボビン9Bに巻き取られており、両ワイヤ張力調節装置18A,18BによってワイヤWに適当な張力が与えられている。そして、駆動モータ25によるガイドローラ26Aの回転駆動方向と、各ボビン駆動モータ11A,11Bによるボビン9A,9Bの回転駆動方向が正逆に切換えられることにより、ワイヤWがボビン9Aから繰り出されてボビン9Bに巻き取られる状態と、ワイヤWがボビン9Bから繰り出されてボビン9Aに巻き取られる状態とに切換えられるようになっている。
【0020】
すなわち、このワイヤソーにおいては、ガイドローラ24A,24Bの間に多数本のワイヤWが互いに平行な状態で張られることによりワイヤ群が形成され、このワイヤ群がワイヤ軸方向に往復駆動されるようになっている。
【0021】
このガイドローラ24A,24B間に張られたワイヤWの上方には、円柱状のワーク(インゴット)28を移動させるワーク送り装置30が設けられている。このワーク送り装置30は、ワーク保持部32と、ワーク送りモータ34とを備えている。ワーク保持部32は、上記ワーク28をその軸方向とワイヤ並び方向とが合致する向きに保持するものであり、ワーク送りモータ34は、図略のボールネジとの組み合わせにより、上記ワーク保持部32とワーク28とを一体に昇降させる(すなわち、ワイヤ群のワイヤ並び方向と直交する方向に切断送りする)ものである。
【0022】
ガイドローラ24A,24B間に張られたワイヤWの上方において、ワーク28の左右両側の位置には、砥粒供給装置36A,36Bが設けられている。これらの砥粒供給装置36A,36Bは、高速駆動される各ワイヤWに対し、加工用砥粒が混合された加工液(スラリー)を同時供給し、ワイヤWの表面に付着させるものである。
【0023】
従って、このワイヤソーでは、ガイドローラ24A,24B間に張られた多数本のワイヤWがその長手方向に同時高速駆動され、かつこれらのワイヤWに砥粒供給装置36A,36Bからスラリーが供給されながら、上記ワイヤWに対してワーク28が下方に切断送りされることにより、このワーク28から一度に多数枚のウエハ(薄片)が同時に切り出される。
【0024】
なお、このワイヤソーでは、上記ワイヤ群がガイドローラ24A,24B,26A,26Bと一体的にローラ軸方向、つまりワイヤ群のワイヤ並び方向に移動可能となっており、ワーク28の切断送りに伴い、このようなワイヤ群の移動がNC装置80により制御されるようになっている。以下、この点について説明する。
【0025】
図2は、ガイドローラ24A,24B,26A,26Bの支持構造を断面図で概略的に示している。なお、ガイドローラ24A,24B,26A,26Bの支持構造はほぼ共通するため、以下、駆動用のガイドローラ26Aを例にその支持構造について説明する。
【0026】
同図に示すように、ワイヤソーの前後(同図では左右)にはガイドローラ支持壁38が立設され、ローラ支持軸40が該支持壁38によって支持されている。ローラ支持軸40は、その後端部が支持壁38に固定される一方、前端部が支持壁38に対して軸方向に変位可能に支持されている。これによりローラ支持軸40が、その後端部を基準として軸方向に熱変位可能となっている。そして、このローラ支持軸40の周囲にベアリング42a,42bを介して円筒状のガイドローラ26Aが回転可能に支持されている。
【0027】
ガイドローラ26Aは、内側ローラ44aとその外側に固定される外側ローラ44bとから構成されている。内側ローラ44aは、全体が金属材料から形成されている。一方、外側ローラ44bは、金属材料からなる本体部分の外周面に、例えばポリウレタン等の樹脂層が形成(被着)された構成となっている。そして、図示を省略するが、外側ローラ表面の樹脂層に、周方向に延びる多数本のガイド溝が軸方向に並設され、ワイヤWがこれらガイド溝に沿ってガイドローラ26Aの表面に掛けられている。
【0028】
内側ローラ44aの両端部には、一対のフランジ部材46,48が固定され、その一方側(フランジ部材48)には、さらにその外側に駆動プーリ50が固定されている。そして、前記支持壁38に駆動モータ25が固定され、この駆動モータ25の出力軸に固定されるプーリ54と前記駆動プーリ50とにわたって駆動ベルト56が掛け渡されている。この構成により、前記ガイドローラ26Aが駆動モータ25によってローラ支持軸40回りに回転駆動されるようになっている。
【0029】
なお、前記ローラ支持軸40には、ガイドローラ26Aの熱変位(伸縮)をコントロールするための流体を循環させる内部通路が形成されている。
【0030】
詳しく説明すると、ローラ支持軸40は、軸方向に貫通孔を有した中空軸から構成されており、ゴム又は合成樹脂からなる栓体によりその片側開口が閉栓されることにより、ローラ支持軸40の後端に、軸方向に延びる凹部41が設けられている。
【0031】
ローラ支持軸40の後端部には、前記凹部41を塞ぐように流路構成部材60が固定されている。この流路構成部材60は、筒状のスリーブ64とこれを支持する本体部分62とからなり、凹部41にスリーブ64を挿入した状態でローラ支持軸40の後端に組み付けられている。これによりローラ支持軸40の内部であって前記スリーブ64の内外に、その先端で互いに連通して軸方向に延びる上記内部通路が形成されている。そして、流路構成部材60の前記本体部分62に設けられる導入用ポート64aに所定の流体が供給されることにより、当該流体が、スリーブ64の内側通路を通じてスリーブ基端側から先端側に向かって流れ、スリーブ先端からその周囲の外側通路に流入しつつスリーブ先端側から基端側に向かって流れた後、本体部分62に設けられる導出用ポート64bから導出されるようになっている。
【0032】
なお、当実施形態では、上記流体として水(以下、制御水という)を循環させるように構成されている。制御水の循環系統は、例えば、ポンプ75の駆動により供給通路72を通じて前記導入用ポート64aに制御水を案内しつつ、ローラ支持軸40を巡って導出用ポート64bから導出される制御水を、排出通路74を通じて冷却器78に案内し、ここで例えば冷水等との熱交換により再び冷却してからポンプ75に導入するように構成されている。冷却器78とポンプ75との間には、ヒータ77を備えた温調器76が介設されており、前記排出通路74の途中部分に設けられる図外の温度計による制御水の検出温度に基づいて前記温調器76がNC装置80によって制御されることにより、ローラ支持軸40に供給される制御水の温度が調整されるようになっている。なお、この実施形態では、温調器76等を含む当該循環系統が本発明に係る流体供給手段に相当する。
【0033】
NC装置80(本発明に係る制御手段に相当する)は、予め記憶されているプログラムに従って所定の切断動作を実行すべく、ワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10B、ワーク送り装置30、および温調器76等を統括的に制御するものである。
【0034】
特に、NC装置80は、ワーク28をワイヤ群に対して切断送りする際に、切り出されるウエハの表面に起伏を与えるように前記温調器76を制御する。具体的には、ローラ支持軸40に供給する制御水の温度を一定周期で切り替えることによりローラ支持軸40を伸縮(熱変位)させ、この伸縮に伴いガイドローラ26Aとワイヤ群とを一体に前後方向(すなわちワイヤ並び方向)に移動させると共に、その移動方向を一定周期で切り替える。当実施形態では、NC装置80は、図3に示すように、切断送り方向に沿ったウエハ表面の断面形状が正弦波曲線状になるように制御水の温度を制御する。これによって、ワーク28から切り出されるウエハの表面に、切断送り方向に沿った起伏が形成される。因みに、この実施形態では、ワーク28から切り出されるウエハの厚みは180μmであり、これに対してウエハ表面の起伏差は4μm、切断送り方向に沿った当該起伏の山間ピッチは2mmである。
【0035】
なお、ここではガイドローラ24A,24B,26A,26Bのうち、駆動用のガイドローラ26Aについて説明したが、駆動モータ25の駆動伝達が行われる点を除き、他のガイドローラ24A,24B,26Bも基本的には同様の構造となっている。そして、ガイドローラ24A,24B,26A,26Bに対する制御水の供給系統も、各ガイドローラ24A,24B,26A,26Bに対して温調器76及び冷却器78が共通化されており、これによって等温の制御水が各ガイドローラ24A,24B,26A,26Bに供給されるようになっている。従って、NC装置80による制御水の温度制御により、上記ワイヤ群は、各ワイヤWが互いに平行を保ったままで各ガイドローラ24A,24B,26A,26Bと一体に前後方向に移動することとなる。
【0036】
このワイヤソーでは、砥粒供給装置36A,36Bからワイヤ群に対して加工液が供給され、この状態で、ワーク送り装置30によりワーク28がワイヤ群に対して切断送りされることにより、ワーク28から複数枚のウエハが同時に切り出される。その際、ワーク28へのワイヤ群の切込みが開始されるまでは、NC装置80の制御により、例えば制御水が一定温度に保たれることによりワイヤ群が前後方向の特定位置に配置される。そして、ワーク28へのワイヤ群の切込みが開始されると、NC装置80による制御水の温度切り替え制御によって各ガイドローラ24A,24B,26A,26Bと一体にワイヤ群がワーク28に対して前後方向(すなわちワイヤ並び方向)に変位する共に、この移動方向が一定周期で切り替えられる。これによってウエハ表面に、切断送り方向に沿った上記のような正弦波曲線状の起伏が形成されることとなる。
【0037】
このように本発明に係るワイヤソーによれば、ワーク28に対してワイヤ群を前後方向(ワイヤ並び方向)に相対的に移動させることによってウエハ表面に起伏を形成することができる構成となっているので、太陽電池用ウエハの切り出しを行うような場合でも、従来のような粒度の大きい砥粒や太線の切断用ワイヤを用いることなくウエハ表面に良好に起伏を形成することができる。従って、粒度の低い砥粒を用い、かつ切断用ワイヤWとして細線のものを用いることにより、カーフロスを低減しつつウエハ用面に所望の起伏を残すことができるようになる。
【0038】
特に、上記ワイヤソーでは、上記の通り、NC装置80による制御水の温度制御に基づいてワイヤ群(ローラ支持軸40)を前後方向に変位させるので、制御水の温度や温度切り替えの周期を適宜変更することによって、熱交換効率を高める上で有効な所望の起伏を良好にウエハ表面に形成することができるという利点がある。
【0039】
しかも、上記ワイヤソーでは、ワイヤ群がワーク28に切込み始めるまでは、例えば制御水を一定温度に保つことにより前後方向の特定位置にワイヤ群を配置しておき、ワーク28へのワイヤ群の切込み開始後、制御水の温度を一定周期で切り替えることによりワイヤ群を前後方向に変位させるので、ワイヤ群を前後方向に変位させてウエハ表面に起伏を形成しながらも、ワーク28へのワイヤ群の切込みを安定的に行わせることができるという利点もある。なお、上記の説明中では言及していないが、ワーク28へのワイヤ群の切込み開始の判断は、例えば駆動モータ25の負荷電力(研削電力)の検出に基づき行うことができる。
【0040】
ところで、以上説明したワイヤソーは、本発明に係るワイヤソーの好ましい実施形態の一例であって、その具体的な構成は本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0041】
例えば、実施液体では、本発明に係る移動手段として、ガイドローラ24A,24B,26A,26Bを支持するローラ支持軸40に内部通路を設け、当該通路に制御水を循環させてローラ支持軸40を熱変位させることにより、ワイヤ群とワーク28とをワイヤ並び方向に相対的に移動させる構成を採用しているが、移動手段の他の構成として、例えば図4に示すような構成を適用してもよい。すなわち、同図の構成では、ワーク送り装置30が、ワーク送りモータ34の駆動により昇降する昇降部31と、その下端にガイド33(ガイド手段)を介して前後方向にスライド可能に支持される前記ワーク保持部32とを有している。そして、ワーク保持部32に設けられたナット部35にボールねじ92が螺合挿入されると共に、このボールねじ軸92が、昇降部31に搭載されたモータ90により駆動される構成となっている。つまり、この構成は、モータ90によるボールねじ軸92の駆動によりワーク保持部32と一体にワーク28を前後方向に移動させ、これによってワイヤ群とワーク28とをワイヤ並び方向に相対的に移動させる構成となっている。このようにモータ90を用いてワイヤ群とワーク28とをワイヤ並び方向に相対的に移動させる構成によれば、上記実施形態の構成に比べて移動方向の切り替え応答性がよいため、ウエハ表面に形成できる起伏の自由度が向上するという利点がある。
【0042】
また、図4の構成において、モータ90及びボールねじ軸92を設ける代わりに、例えば昇降部31とワーク保持部32との間に前後方向の対向面を設け、当該対向面の間に圧電素子(ピエゾ素子)を介設して、該圧電素子への印加電圧をNC装置80により制御することによって、ワーク28をワーク保持部32と一体に昇降部31に対して前後方向に移動させるように構成してもよい。
【0043】
なお、本発明に係る移動手段としては、基本的には、実施形態(図2)で説明した構成か図4の構成の何れか一方を備えていればよいが、勿論、双方の構成を備えたものであってもよい。この構成によれば、双方の移動手段を個別に制御することによりウエハ表面に形成できる起伏の自由度がより一層向上するという利点がある。
【0044】
また、実施形態では、NC装置80による制御水の温度制御によってウエハ表面に正弦波曲線状の起伏を形成する例について説明したが、勿論、ウエハ表面の形状(ワーク28の切断面の形状)はこれに限定されるものではなく、例えば切込み方向に沿って先細りの起伏(ジグザグ)が連続するような形状を形成するようにしてもよい。但し、上記実施形態のように、ウエハ表面の断面形状が正弦波曲線状になるように制御水の温度制御を行うようにすれば、切断送りに伴ってワイヤ群とワーク28とをワイヤ並び方向に安定した加速度で相対的に往復移動させることにより、円滑な切断を行いながら、滑らかで規則的な起伏を形成することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係るワイヤソーの概略を示す全体図である。
【図2】ガイドローラの支持構造を示す断面図である。
【図3】ウエハの切断面(ウエハ表面に形成される起伏)の一例を示す断面図である。
【図4】ワイヤ群とワークとをワイヤ並び方向に相対的に移動させるための手段(移動手段)の他の構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
24A,24B,26A,26B ガイドローラ
28 ワーク
40 ローラ支持軸
60 流路構成部材
75 ポンプ
76 温調器
78 冷却器
W ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガイドローラに巻回された切断用ワイヤからなり、ワイヤ軸方向に往復駆動されるワイヤ群と、このワイヤ群に対して、そのワイヤ並び方向と直交する方向にワークを相対的に切断送りする送り手段と、を備え、前記ワイヤ群に対して前記ワークを切断送りすることにより当該ワークから複数枚のウエハを同時に切り出すワイヤソーにおいて、
前記ワイヤ群に対して、前記ワイヤ並び方向に前記ワークを相対的に移動させる移動手段と、切断されるウエハの表面に前記切断送り方向に沿って起伏が形成されるように、前記切断送り中に前記移動手段を作動させる制御手段と、を備えていることを特徴とするワイヤソー。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤソーにおいて、
前記制御手段は、前記切断送り方向に沿って規則的な起伏が形成されるように前記移動手段を制御することを特徴とするワイヤソー。
【請求項3】
請求項2に記載のワイヤソーにおいて、
前記制御手段は、前記切断送り方向に沿ったウエハ表面の断面形状が正弦波曲線状になるように前記移動手段を制御することを特徴とするワイヤソー。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載のワイヤソーにおいて、
前記移動手段は、外周上に前記ガイドローラを支持すると共に、軸方向への熱変位が許容されるように所定のフレームに対して支持されるローラ支持軸と、このローラ支持軸内に設けられる内部通路に対して流体を供給すると共に、その流体温度を変更可能な流体供給手段と、を含み、前記内部通路に供給される流体温度に応じた前記ローラ支持軸の軸方向への熱変位に伴い前記ガイドローラとワイヤ群とを一体に前記ワイヤ並び方向に変位させるように構成され、
前記制御手段は、前記流体供給手段を制御することにより、前記内部通路に供給する流体温度を、前記切断送り中に変更させることを特徴とするワイヤソー。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか一項に記載のワイヤソーにおいて、
前記移動手段は、前記ワイヤ群のワイヤ並び方向に前記ワーク保持部材を移動可能に支持するガイド手段と、前記ワーク保持部材を前記ガイド手段に沿って進退駆動する駆動手段と、を含み、
前記制御手段は、前記駆動手段を制御することにより、前記切断送り中に前記ワーク保持部材を進退させることを特徴とするワイヤソー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−196023(P2009−196023A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39044(P2008−39044)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】