説明

ワイヤハーネスおよびその製造方法

【課題】発泡樹脂で成形された部分の耐摩耗性を向上させる。
【解決手段】電線束Wの外周に該電線束を覆うように発泡樹脂成形体50がモールドされたワイヤハーネスWHにおいて、発泡樹脂成形体50の外表面に樹脂フィルム30が密着して配されている。下型10と上型20の内面に樹脂フィルム30を配置した上で、下型の配索溝11、12に沿って電線束Wを配置し、その状態で配索溝に発泡樹脂41を注入して発泡させることで、電線束の外周を覆うように発泡樹脂成形体50を成形すると同時に発泡樹脂成形体の外表面に樹脂フィルム30を接着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線束の外周に発泡樹脂成形体がモールドされたワイヤハーネス、および、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4は特許文献1に記載された従来のワイヤハーネスの一部の構成を示している。このワイヤハーネスでは、形状維持が要求される集中分岐部110を未発泡樹脂でモールド成形し、屈曲させて配索する必要のある支線部分120を発泡樹脂でモールド成形している。そしてそれにより、未発泡樹脂でモールド成形した集中分岐部110に強度を持たせると共に、発泡樹脂でモールド成形した支線部分120に柔軟性を持たせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−6108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のワイヤハーネスのように、発泡樹脂によりモールド成形された支線部分120が外部に露出している場合、発泡樹脂が耐摩耗性に優れていないために、車載時の長期間にわたる走行振動の影響で摩耗が進行して破損する可能性があることが分かった。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、発泡樹脂で成形された部分の耐摩耗性を向上させることのできるワイヤハーネスおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 電線束の外周に該電線束を覆うように発泡樹脂成形体がモールドされたワイヤハーネスにおいて、
前記発泡樹脂成形体の外表面に樹脂フィルムが密着して配されていることを特徴とするワイヤハーネス。
【0007】
(2) 前記樹脂フィルムが電磁遮蔽効果を持つことを特徴とする上記(1)に記載のワイヤハーネス。
【0008】
(3) 電線束の外周に該電線束を覆うように発泡樹脂成形体が設けられたワイヤハーネスの製造方法において、
成形型のキャビティの内壁に樹脂フィルムを配置した上で、前記キャビティの内部に電線束を配置すると共に発泡樹脂を注入して該樹脂を発泡させることで、前記電線束の外周を覆うように発泡樹脂成形体を成形すると同時に該発泡樹脂成形体の外表面に前記樹脂フィルムを接着することを特徴とするワイヤハーネスの製造方法。
【0009】
(4) 前記樹脂フィルムと前記発泡樹脂として、同属の高分子化合物が含まれる材料を使用することを特徴とする上記(3)に記載のワイヤハーネスの製造方法。
【0010】
上記(1)の構成のワイヤハーネスによれば、発泡樹脂成形体の外表面に樹脂フィルムが密着して配されているので、電線束を保護する外装材の軽量化を維持しながら、発泡樹脂成形体の弱点である耐摩耗性を向上させることができ、車載時の長期間にわたる走行振動の影響で摩耗が進行し破損するのを防止することができる。また、発泡樹脂成形体が電線束と一体の外装材としてプロテクタの役割を果たすので、別に保護用の外装材を取り付ける必要がなく、外装部品の削減を図ることができる。
【0011】
上記(2)の構成のワイヤハーネスによれば、発泡樹脂成形体の外表面に配された樹脂フィルムが電磁遮蔽効果を持つので、電線束が受ける電磁波の影響を軽減することができる。
【0012】
上記(3)の構成のワイヤハーネスの製造方法によれば、予め成形型のキャビティの内壁に樹脂フィルムを配置しておくだけで、発泡樹脂成形体の成形と同時に発泡樹脂成形体の外表面に樹脂フィルムを接着することができるので、樹脂フィルムを後から貼り付ける面倒がなく、製造が容易である。
【0013】
上記(4)の構成のワイヤハーネスの製造方法によれば、樹脂フィルムの材料と発泡樹脂の材料を、同属の高分子化合物が含まれる材料に揃えたので、樹脂フィルムと発泡樹脂成形体の一体性を高めることができ、より摩耗に強い成形体とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のワイヤハーネスによれば、発泡樹脂成形体の弱点である耐摩耗性を向上させることができる。従って、車載時の長期間にわたる走行振動の影響で摩耗が進行し破損するのを防止することができる。また、本発明のワイヤハーネスの製造方法によれば、発泡樹脂成形体の成形と同時に発泡樹脂成形体の外表面に樹脂フィルムを接着することができるので、樹脂フィルムを後から貼り付ける面倒がなく、製造が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)〜(f)は本発明の実施形態のワイヤハーネスの製造方法を示す工程図である。
【図2】同実施形態において使用する樹脂フィルムの他の形状例を示す斜視図である。
【図3】更に別の樹脂フィルムの形状例を示す斜視図である。
【図4】従来のワイヤハーネスの一部の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1(a)〜(f)は実施形態のワイヤハーネスの製造方法を示す工程図である。
この実施形態のワイヤハーネスWHは、図1(f)に示すように、電線束Wの外周に該電線束Wを覆うように発泡樹脂成形体50がモールドされ、更にその発泡樹脂成形体50の外表面に樹脂フィルム30が密着して配されたものであり、次のように製造されている。
【0017】
まず、図1(a)に示すように、上面に配索溝11、12が形成された下型10と、下型10の上に被せる上型20とからなる成形型を用意し、下型10の内面(上面)と上型20の内面(下面)にそれぞれ樹脂フィルム30を密着させる。次に、図1(b)に示すように、下側の樹脂フィルム30の上から下型10の配索溝11、12に沿って電線束Wを配索し、その状態で上型20を上側の樹脂フィルム30を介して下型10の上に被せる。上型20を被せた状態で、下型の配索溝11、12と、配索溝11、12の上面を塞ぐ上型20の部分とが、成形材料の充填される密閉されたキャビティを構成し、樹脂フィルム30はキャビティの内壁に沿って配置された状態となる。
【0018】
次に図1(c)に示すように、上型20の注入口21から注入機40により発泡樹脂41を、キャビティ内の上下の樹脂フィルム30間の電線束Wが収容された空間に注入して発泡樹脂41を発泡させる。ここで、上型20に配された樹脂フィルム30は、注入口21に対応する部分に、予め孔が開けられているか、又は発泡樹脂41の注入により注入口21に対応する樹脂フィルム30の部分が溶けることで孔が開くことで、キャビティ内に樹脂が流れ込むようになっている。この発泡時の圧力や加温の作用により、キャビティ内の樹脂フィルム30はキャビティの内壁に密着し、外表面が樹脂フィルム30に覆われた発泡樹脂成形体50が成形され、同時に、樹脂フィルム30が発泡樹脂成形体50の外表面に接着された状態となる。
【0019】
発泡樹脂が硬化したら、図1(d)に示すように、上型20を外し、下型10から、発泡樹脂成形体50が一体化されたワイヤハーネスWHを取り出す。そして、図1(e)に示すように、発泡樹脂成形体50からはみ出した不要部分の樹脂フィルム31をカットしてトリミングすることにより、図1(f)に示すような実施形態のワイヤハーネスWHを得ることができる。なお、必ずしも樹脂フィルム30をトリミングする必要はなく、トリミングしなくてもよい。
【0020】
このように、実施形態のワイヤハーネスWHでは、発泡樹脂成形体50の外表面に樹脂フィルム30が密着して配されているので、電線束Wを保護する外装材の軽量化を維持しながら、発泡樹脂成形体50の弱点である耐摩耗性を向上させることができ、車載時に走行振動などの影響で摩耗が進行し破損するのを防止することができる。また、発泡樹脂成形体50が電線束Wと一体の外装材としてプロテクタの役割を果たすので、別に保護用の外装材を取り付ける必要がなく、外装部品の削減を図ることができる。
【0021】
また、上記のように、予め下型10と上型20の内面に樹脂フィルム30を配置しておくだけで、発泡樹脂成形体50の成形と同時に該発泡樹脂成形体50の外表面に樹脂フィルム30を接着することができるので、樹脂フィルム30を後から貼り付ける面倒がなく、製造が容易である。
【0022】
また、上記実施形態では、特に樹脂フィルム30や発泡樹脂成形体50の材料について述べていないが、樹脂フィルム30と発泡樹脂成形体50の材料を、同属の高分子化合物が含まれる材料に揃えることで、樹脂フィルム30と発泡樹脂成形体50の一体性を高めることができ、より摩耗に強い成形体とすることができる。例えば、樹脂フィルム30の材料を熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)にし、発泡樹脂成形体50の材料を発泡ポリウレタン(EPU)にすることにより、その効果を得ることができる。
【0023】
また、樹脂フィルム30に電磁遮蔽効果を持たせることにより、電線束Wが受ける電磁波の影響を軽減することができる。例えば、樹脂フィルム30の表面にアルミニウムなどで導電性膜をコーティングを施すことにより、電磁波を遮蔽する機能を持たせることができる。
【0024】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0025】
例えば、上記実施形態では、樹脂フィルム30として、下側と上側に2枚に分離したものを用いて、それぞれの樹脂フィルム30を下型10と上型20の内面に密着させる場合を示したが、図2に示すように、1枚の連続した樹脂フィルム30BをU字状に折り曲げて、上側片を上型20に密着させ、下側片を下型10に密着させるようにしてもよい。
【0026】
また、図3に示すように、1枚の樹脂フィルム30Cを筒状に丸めて、上側の筒壁部分を上型20に密着させ、下側の筒壁部分を下型10に密着させるようにしてもよい。この場合、電線束Wを先に筒状に形成した樹脂フィルム30Cの中に通してもよいし、電線束Wを包囲するように後から樹脂フィルム30Cを筒状に丸めてもよい。
【0027】
また、上記実施形態では、下型10の配索溝11、12に沿って電線束Wを配索し、その状態で上型20を被せた後で、発泡樹脂41をキャビティに注入して硬化させる場合について述べたが、下型10の配索溝11、12に発泡樹脂41を流し込み、その樹脂が硬化する前に下型10の配索溝11、12に沿って電線束Wを配索し、上型20を被せて硬化を待つようにしてもよい。
【0028】
また、下型10の配索溝11、12に沿って電線束Wを配索し、その状態で下型10の配索溝11、12に発泡樹脂41を流し込み、樹脂が硬化する前に上型20を被せて硬化を待つようにしてもよい。
【符号の説明】
【0029】
10 下型(成形型)
11,12 配索溝(キャビティ)
20 上型(成形型)
30,30B,30C 樹脂フィルム
41 発泡樹脂
50 発泡樹脂成形体
W 電線束
WH ワイヤハーネス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線束の外周に該電線束を覆うように発泡樹脂成形体がモールドされたワイヤハーネスにおいて、
前記発泡樹脂成形体の外表面に樹脂フィルムが密着して配されていることを特徴とするワイヤハーネス。
【請求項2】
前記樹脂フィルムが電磁遮蔽効果を持つことを特徴とする請求項1に記載のワイヤハーネス。
【請求項3】
電線束の外周に該電線束を覆うように発泡樹脂成形体が設けられたワイヤハーネスの製造方法において、
成形型のキャビティの内壁に樹脂フィルムを配置した上で、前記キャビティの内部に電線束を配置すると共に発泡樹脂を注入して該樹脂を発泡させることで、前記電線束の外周を覆うように発泡樹脂成形体を成形すると同時に該発泡樹脂成形体の外表面に前記樹脂フィルムを接着することを特徴とするワイヤハーネスの製造方法。
【請求項4】
前記樹脂フィルムと前記発泡樹脂として、同属の高分子化合物が含まれる材料を使用することを特徴とする請求項3に記載のワイヤハーネスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−4470(P2013−4470A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137565(P2011−137565)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】