説明

ワイヤーハーネス及びその製造方法

【課題】ワイヤーハーネスの複数の電線間の導体露出部の止水処理の際に、止水剤の横流れの発生を防止して止水部分に欠損なく確実に止水剤を充填することが可能であると共に、電線間や電線内部の撚り線素線間の狭い間隙に止水剤を確実に充填することが可能であり、良好な止水性能を発揮することが可能である、ワイヤーハーネス及びその製造方法を提供する。
【解決手段】止水剤40として、未硬化の状態で前記止水部に供給することが可能な流動性を有し、光硬化性と熱硬化性を有する硬化性樹脂組成物の硬化物を用い、止水部10に止水剤40を供給して保持した状態で、止水剤の表面を光硬化して表層部を形成した後、止水部10を加熱して内部に止水剤40を浸透させると共に、内部の止水剤40を硬化させて内層部を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネス及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは自動車用ワイヤーハーネス等に使用される電線やシールド線の中間スプライス部分、電線の中間被覆除去部分或いは端子部分等の止水方法に好適に用いられるワイヤーハーネス及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用ワイヤーハーネス等の中間スプライス部の止水方法として各種方法が公知である(例えば特許文献1〜10参照)。
【0003】
特許文献1に記載の方法は、スプライス部の導体と接続端子を覆うように絶縁シートを巻付けると共に、ブチルゴムやシリコーン等の封止材を充填して密閉するものである。
【0004】
特許文献2に記載の方法は、圧力差を利用して被覆材(絶縁体)の内側に光硬化型シリコーン樹脂等の止水材を浸透させ、テープ巻きを行うものである。
【0005】
特許文献3に記載の方法は、粘着テープにシリコーンの止水材を塗布し、他方、発泡シートの表面にスプライス部を載置し、発泡シートを粘着テープと共にスプライス部に巻き付けて、スプライス部と電線露出部を被覆する方法である。
【0006】
特許文献4に記載の方法は、絶縁樹脂シートの粘着材を塗布したスプライス部を載置し、粘度10Pa・s〜100Pa・s程度の低粘度の光硬化性シリコーン樹脂を塗布し、前記絶縁樹脂シートをスプライス部に巻付け、シリコーン樹脂を硬化させる方法である。
【0007】
特許文献5に記載の防水構造は、電線接続部を上下重合した防水絶縁性の封止フィルムの間に入れ、空中水分半固化性の防水絶縁性接着剤からなるシール層に埋め込んで封止した封止部からなる構造を有するものである。
【0008】
特許文献6に記載の防水方法は、一部が光透過性に形成されたケースのキャビティにスプライス部を収容し、前記キャビティに光硬化性シリコーン樹脂を注入した後、光を照射して光硬化性シリコーン樹脂を硬化させる方法である。
【0009】
特許文献7に記載の方法は、電線接続部に樹脂ケースを被せ、該樹脂ケースの内部に紫外線硬化性の接着材を充填し、紫外線を照射して硬化させ防水処理層を形成する方法である。
【0010】
特許文献8に記載の方法は、結線部分を上面が開放された成形型にセットし、ホットメルトしたポリアミド樹脂を流し込み、冷却硬化させて防水処理を行うものである。
【0011】
特許文献9に記載の方法は、シールド電線のシースを中間皮剥ぎし、露出したシールド部材に接着剤を浸透させ、その上にホットメルトを介して熱収縮チューブを被せ、該熱収縮チューブの両端をシースの外周に重ねた状体で、熱収縮チューブを熱収縮させるものである。
【0012】
特許文献10に記載の方法は、紫外線硬化型の粘度が15〜500mPa・sの第1シール剤を導体に滴下し導体内に浸透させ、さらに第1シール剤よりも粘度の高い第2シール剤を滴下し第1シール剤を被覆した後、紫外線を照射して第1シール剤と第2シール剤を硬化させる方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−37692号公報
【特許文献2】特開2008−123712号公報
【特許文献3】特開2009−1167号公報
【特許文献4】特開2009−136039号公報
【特許文献5】実用新案登録第2593163号公報
【特許文献6】特開2009−130981号公報
【特許文献7】実開平4−111110号公報
【特許文献8】特開平7−263106号公報
【特許文献9】特開2007−250404号公報
【特許文献10】国際公開第2007/013589号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来の止水方法では、電線撚り素線間にも確実に止水剤の樹脂組成物を充填し、ワイヤーハーネスの複数の電線間のリークパスを遮断するのは、極めて困難であるという問題があった。
【0015】
そのため、電線撚り素線間の内部に止水剤を確実に浸透させるためには、例えば、電線被覆や導体に対して低接触角の低粘度の樹脂を用いることや、減圧、加圧、傾斜等の特殊な手段を用いる必要があった。
【0016】
しかしながら、中間スプライス部や、中間電線被覆除去部ならびに端子部分の止水剤として用いる樹脂組成物は、例えば粘度が10Pa・s未満の比較的低い粘度であると、樹脂組成物を塗布した際に止水部分から外部に流失する所謂横流れの現象を起こし、止水部分からの樹脂欠損が生じてしまうという問題があった。
【0017】
一方、樹脂組成物として、10〜100Pa・s程度の比較的高粘度の組成物を用いた場合、上記横流れの発生を防止できるが、電線間や電線内部の撚り線素線間の狭い間隙に、樹脂を充填できない虞が生じ、所望の止水性能が得られないことがあるという問題があった。
【0018】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決しようとするものであり、ワイヤーハーネスの複数の電線間の導体露出部の止水処理の際に、止水剤の横流れの発生を防止して止水部分に欠損なく確実に止水剤を充填することが可能であると共に、電線間や電線内部の撚り線素線間の狭い間隙に止水剤を確実に充填することが可能であり、良好な止水性能を発揮することが可能である、ワイヤーハーネス及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明のワイヤーハーネスは、
複数の絶縁電線からなる電線束の絶縁体が除去されて内部の導体が露出した導体露出部が止水剤により被覆されている止水部を有するワイヤーハーネスであって、
前記止水剤が、未硬化の状態で前記止水部に供給可能な流動性を有し、光硬化性と熱硬化性を有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、
前記止水剤は、光照射により光硬化された表層部と、加熱により前記止水部の内部に浸透した状態で硬化された内層部とを有することを要旨とするものである。
【0020】
上記ワイヤーハーネスにおいて、前記止水剤の表面が光透過性の保護シートにより被覆されていることが好ましい。
【0021】
上記ワイヤーハーネスにおいて、前記止水部が、中間スプライス部に形成することができる。
【0022】
上記ワイヤーハーネスにおいて、前記止水部が、絶縁電線の導体露出部に隣接する絶縁体の表面を被覆していることが好ましい。
【0023】
本発明のワイヤーハーネスの製造方法は、
複数の絶縁電線からなる電線束の絶縁体が除去されて内部の導体が露出した導体露出部が止水剤により被覆された止水部を有するワイヤーハーネスの製造方法であって、
前記止水剤として、未硬化の状態で前記止水部に供給することが可能な流動性を有し、光硬化性と熱硬化性を有する硬化性樹脂組成物の硬化物を用い、
前記止水部に前記止水剤を供給して保持した状態で、前前記止水部に光照射を行い前記止水剤の表面を光硬化して表層部を形成して、前記止水部からの前記止水剤の流出を防止した後、前記止水部を加熱して前記止水部に前記止水剤を浸透させると共に、内部の止水剤を硬化させて内層部を形成することを要旨とするものである。
【0024】
上記ワイヤーハーネスの製造方法において、光透過性を有する保護シートを用いて前記止水剤を供給した前記止水部を被覆し、前記止水剤の表面が前記保護シートに覆われた状態で光照射を行い、前記止水剤の表面を硬化させて表層部を形成することが好ましい。
【0025】
上記ワイヤーハーネスの製造方法において、前記止水剤の表面に前記保護シートを巻付けて、前記保護シートの外方から前記止水部が押圧された状態で光照射を行い表層部を硬化させることが好ましい。
【0026】
上記ワイヤーハーネスの製造方法において、前記止水剤が、未硬化の状態の25℃における粘度が、10〜100Pa・sの範囲内であることが好ましい。
【0027】
上記ワイヤーハーネスの製造方法において、前記止水部の内部に前記止水剤を浸透させる際に、前記止水剤の粘度が1〜500mPa・sの範囲内となる温度に前記止水部を加熱することが好ましい。
【0028】
上記ワイヤーハーネスの製造方法において、前記止水部を所定温度に加熱して内部に前記止水剤を浸透させた後、温度を上昇させて前記所定温度よりも高い温度で前記止水剤の硬化を行うことが好ましい。。
【発明の効果】
【0029】
本発明のワイヤーハーネスは、前記止水剤が、未硬化の状態で前記止水部に供給可能な流動性を有し、光硬化性と熱硬化性を有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、光照射により光硬化された表層部と、加熱により前記止水部の内部に浸透した状態で硬化された内層部とを有することにより、従来のワイヤーハーネスと比較して、導体露出部の止水処理の際に、止水剤の横流れの発生を防止することが可能であり、止水部に止水剤を確実に充填して、欠損のない止水部が得られる。
【0030】
更に本発明のワイヤーハーネスは、加熱により前記止水部の内部に浸透した状態で硬化された内層部を有するので、止水剤が電線間や電線内部の撚り線素線間の狭い間隙に確実に充填されるので、良好な止水性能を発揮することが可能である
【0031】
本発明のワイヤーハーネスの製造方法は、止水剤として、未硬化の状態で前記止水部に供給することが可能な流動性を有し、光硬化性と熱硬化性を有する硬化性樹脂組成物の硬化物を用い、前記止水部に前記止水剤を供給して保持した状態で、前前記止水部に光照射を行い前記止水剤の表面を光硬化して表層部を形成して、前記止水部からの前記止水剤の流出を防止した後、前記止水部を加熱して前記止水部に前記止水剤を浸透させると共に、内部の止水剤を硬化させて内層部を形成する方法を採用したことにより、止水剤の横流れの発生を防止することが可能であり、止水部に止水剤を確実に充填して、止水剤の外部への流出による欠損等のない止水部が得られる。
【0032】
更に本発明の製造方法は、表層部を形成した後、前記止水部を加熱すると、止水部の硬化性樹脂組成物からなる止水剤は加熱により低粘度化するため、狭い空間へ浸透させることができ、優れた止水性能を有する止水部が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は本発明のワイヤーハーネスの一例の中間スプライス部付近の外観を示す斜視図である。
【図2】図1の断面図である。
【図3】(a)〜(c)は本発明のワイヤーハーネスの製造方法の一例を示し、止水中間スプライス部の製造工程を示す説明図である。
【図4】(d)〜(f)は、本発明のワイヤーハーネスの製造方法の一例を示し、止水中間スプライス部の製造工程を示す説明図である。
【図5】(a)〜(e)は、止水中間スプライス部の他の例の製造工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は本発明のワイヤーハーネスの一例の中間スプライス部付近の外観を示す斜視図であり、図2は図1の断面図である。図1及び図2に示すように本発明のワイヤーハーネス1は、芯線からなる導体2の周囲が絶縁体3に被覆された絶縁電線4が複数本(図1及び図2の例では4本の絶縁電線)束ねられている電線束から構成されている。
【0035】
更にワイヤーハーネス1は、電線束の絶縁電線3が剥離除去されて、内部の導体2が露出した導体露出部5を有する。導体露出部5は、導体同士が接合されている中間スプライス部20を有する。中間スプライス部20では、複数の絶縁電線4、4、4、4の導体2、2、2、2が電気的に接続されている。
【0036】
ワイヤーハーネス1は、中間スプライス部20の周囲が保護シート30及び止水剤40により覆われて、止水中間スプライス部10(以下、単に止水部10ということもある)として構成されている。止水部10は、表面が光照射により硬化されて形成された表層部と、内部が熱により硬化されて形成された内層部とを有している。止水部10の内層部は、止水剤140が内部に浸透した状態で硬化されたものである。
【0037】
絶縁電線4は、例えば、導体2として銅、銅合金、アルミニウム等の素線の単線或いは撚り線等を用い、絶縁体3として、ポリ塩化ビニル、オレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂を用い、非架橋或いは架橋されている、通常の被覆電線を用いることができる。
【0038】
中間スプライス部20は、絶縁電線4の長手方向中間部において部分的に絶縁体3が除去されて導体2を露出させ、この導体2に他の絶縁電線4の導体2が接合されているものである。他の絶縁電線4の導体2は、当該絶縁電線4の長手方向中間部において露出しているものであってもよいし、当該絶縁電線4の端部に露出しているものであってもよい。ここでは、後者の例で説明する。また、ワイヤーハーネス1において、絶縁電線4は4本に限定されず、複数本であればよく、絶縁電線の数は特に限定されない。
【0039】
中間スプライス部20において、導体2同士の接合は、例えば、抵抗溶接、超音波溶接、レーザ溶接等により溶接等の手段を用いることができる。またスプライス部20における導体2の接合は、中間圧着端子等の部品を接合部に圧着する方法を用いてもよい。
【0040】
上記中間スプライス部20を含む止水部10には、止水剤40が充填され、更に該止水剤40の外側が光透過性の保護シート30により覆われている。上記光透過性とは、止水剤40の硬化性樹脂組成物を硬化させる際の光に対する透過性のことである。
【0041】
止水剤40は、中間スプライス部20に露出する導体2の外周表面と、絶縁電線4の長手方向において導体露出部に隣接する絶縁体3の表面を覆っている。すなわち止水部10は、止水剤40が絶縁電4線の導体露出部に隣接する導体の前後の被覆部6を覆うように形成されている。このように止水剤40が、上記被覆部6を被覆していることにより、絶縁体3と導体2の隙間から水分が侵入するのを更に良好に防止することができる。
【0042】
止水剤40は、未硬化の状態で流動性を有し、止水部10に供給して充填することが可能である。更に止水剤40は、光硬化性と熱硬化性を有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、止水部10に充填された後に硬化されて防水性能を発揮することが可能である。
【0043】
止水部10の表層部は、止水剤40を充填後に光照射により表層を光硬化させて形成する。表層部により止水部10に充填された組成物が外部へ流出しないように保持される。止水部10の内層部は、止水部10を加熱して止水剤40の粘性を低下させ、導体の素線間や電線同士の間等の間隙に浸透させた状態で完全に硬化させて形成されたものである。
【0044】
上記の止水剤40として用いられる硬化性樹脂組成物は、上記の特性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、(1)熱硬化性を付与した紫外線硬化性樹脂、(2)熱硬化性を付与した可視光硬化性樹脂、(3)紫外線照射により活性種が生じ、時間遅延してカチオン重合ないしアニオン重合が熱により促進される樹脂、(4)紫外線照射により活性種が生じ、重合反応の際に多大な発熱を生じて、また活性点ラジカル部位の移動を伴って、紫外線が届かない部位であっても硬化が進行する樹脂組成物、(5)紫外線硬化性の湿気硬化シリコーン樹脂、等を用いることができる。
【0045】
紫外線硬化性樹脂に熱硬化性を付与するには、例えば紫外線硬化性樹脂組成物に熱ラジカル重合開始剤を添加する。この組成物は、具体的には、重合性化合物と、光重合開始剤と、熱ラジカル重合開始剤を含有している。
【0046】
上記重合性化合物としては、鎖状アクリレートモノマーと、環状アクリレートモノマー及び/又は環状N−ビニルモノマーとの組合せが、樹脂粘度、硬化速度、硬度、ヤング率、破断伸び、密着力等の調整のし易さの観点から好ましい。特に、環状構造を含む極性のモノマーは、硬化後の樹脂と基材との密着力向上に寄与する。
【0047】
前記重合性化合物の組成物中の含有量は、組成物の粘度等に応じて適宜設定することができる。
【0048】
前記アクリレート系化合物としては、ウレタンアクリレートオリゴマーと、アクリレートモノマーとを組み合わせたものが好ましい。
【0049】
前記ウレタンアクリレートオリゴマーとしては、ビスフェノールA・エチレンオキサイド付加ジオール、トリレンジイソシアネート及びヒドロキシエチルアクリレートを反応させて得られるウレタンアクリレート;ポリテトラメチレングリコール、トリレンジイソシアネート及びヒドロキシエチルアクリレートを反応させて得られるウレタンアクリレート;トリレンジイソシアネート及びヒドロキシエチルアクリレートを反応させて得られるウレタンアクリレート等が挙げられる。これらのオリゴマーは、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0050】
前記アクリレートモノマーとしては、鎖状アクリレートモノマー、及び環状アクリレートモノマーが挙げられる。前記環状アクリレートモノマーとは、脂環、芳香環等の環状構造を有するアクリレートモノマーのことである。前記環状アクリレートモノマーとしては、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環式構造含有(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロへキシル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリンが挙げられる。前記環状アクリレートモノマーとしては、イソボルニル(メタ)アクリレートが好ましい。前記環状アクリレートモノマーとしては、IBXA(大阪有機工業化学製)、アロニックスM−111、M−113、M−114、M−117、TO−1210(以上、東亜合成製)を使用できる。本明細書において、鎖状アクリレートモノマーとは、環状構造を含まない直鎖状又は分岐鎖状アクリレートモノマーのことである。鎖状アクリレートモノマーとしては、例えば、ネオペンチルグリコールジアクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2−ブチル−2エチル−1,3−プロパンジオールジアクリレート、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールジアクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールアセテート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。
【0051】
前記アクリレート系化合物と共に、メタクリレート系化合物も使用してもよい。メタクリレート系化合物としては、例えば、ジ−2−メタクリロキシエチルホスフェート、モノ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ホスフェート、モノ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ジフェニルホスフェート、モノ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル〕ホスフェート、トリス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ホスフェート、及び特開平11−100414号公報においてO=P(−R1)(−R2)(−R3)として示される化合物等が挙げられる。
【0052】
前記環状N−ビニルモノマーとは、芳香環、脂環等の環状構造を有し、かつ、窒素原子を含むビニルモノマーのことである。前記環状N−ビニルモノマーとしては、例えば、N−ビニルピロリドン(日本触媒製)、N−ビニルカプロラクタム、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン等が挙げられる。
【0053】
上記の光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、オルソベンゾイン安息香酸メチル、4−ベンゾイル−4'−メチルジフェニルサルファイド等のベンゾフェノン誘導体、チオキサントンとその誘導体、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイン誘導体、ベンジルジメチルケタール、α−ヒドロキシアルキルフェノン、α−アミノアルキルフェノン、アシルホスフィンオキサイド、モノアシルホスフィンオキサイド、ビスアシルホスフィンオキサイド、アクリルフェニルグリオキシレート、ジエトキシアセトフェノン、チタノセン化合物等が挙げられる。光重合開始剤は、硬化速度、黄変性等等を考慮して適宜選択できる。光重合開始剤は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0054】
具体的な光重合開始剤の組合せとしては、例えば、ルシリンTPO(BASFジャパン社製)とイルガキュア184(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、ルシリンTPO(BASFジャパン社製)とイルガキュア651(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、ルシリンTPO(BASFジャパン社製)とイルガキュア907(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、イルガキュア184とイルガキュア907(共にチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0055】
前記光重合開始剤の組成物液中における含有量は、0.1〜5質量%の範囲が好ましく、更に好ましくは0.3〜2質量%の範囲である。光重合開始剤の含有量が少なくなって、0.1質量%未満であると、光が十分当たる個所であっても、光硬化できない場合があり、含有量が多くなって、5質量%を超えると未反応の光重合開始剤が多く残存し易くなる。残存した光重合開始剤は、熱、光等により活性化し、硬化後の封止部を変色させ、反応によりヤング率の増加や伸びの低下などの物性劣化を引き起こすことがある。
【0056】
上記の熱ラジカル重合開始剤としては、アゾイソブチルにトリル(AIBN)、ベンゾイルパーオキシド(BPO)、ラウロイルパーオキシド、アセチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、ジ−tert-ブチルパーオキシド、tert−ブチルパーベンゾエート、シクロヘキサノンパーオキサイド等の過酸化合物が挙げられる。
【0057】
硬化性樹脂組成物には、上記の重合性化合物、光重合開始剤、熱ラジカル重合開始剤以外に、他の添加剤を添加してもよい。このような添加剤としては例えば、酸化防止剤、着色材、紫外線吸収剤、光安定剤、シランあるいはチタン系などのカップリング剤、消泡材、硬化促進剤、チオール化合物やリン酸エステル系などの密着性助剤、レベリング剤、界面活性剤、保存安定剤、重合禁止剤、可塑剤、滑剤、フィラー、老化防止剤、濡れ性改良剤、塗膜改良剤等が挙げられる。
【0058】
また、上記の硬化性樹脂組成物として、市販の紫外線硬化性樹脂等にラジカル重合開始剤を添加した組成物、市販の紫外線及び熱硬化性樹脂の粘度を調製した組成物等も用いることができる。このような組み合わせとして、具体的には、以下の材料が挙げられる。
【0059】
上記(1)は、アクリルゴムポリマー(スリーボンド社製、商品名「3013Q」、25℃の粘度:23Pa・s)に、熱ラジカル重合剤を配合したものが挙げられる。
【0060】
上記(2)は、ウレタ
ンアクリレート(スリーボンド社製、商品名「3170D」、25℃の粘度:37Pa・s)に熱ラジカル開始剤を配合したものが挙げられる。
【0061】
上記(3)は、カチオン重合性紫外線硬化型樹脂(DIC社製、商品名「タイフォースシリーズ」)の粘度を10Pa・s(25℃)以上に調製したものが挙げられる。
【0062】
上記(5)は、湿気硬化性を付与した紫外線硬化型シリコーン(LOCKTITE社製、商品名「5773」)を粘度10Pa・s(25℃)以上に調製したものが挙げられる。
【0063】
未硬化の硬化性樹脂組成物は、常温で中間スプライス部20に供給して当該部分を覆うことが可能な流動性を有していればよい。硬化性樹脂組成物は、未硬化の状態の常温(25℃)における粘度が、10〜100Pa・sの範囲内であるのが好ましく、更に好ましくは20〜50Pa・sの範囲内である。前記粘度は、JIS−K7117−Dに準拠して、B型粘度計で測定した値である。硬化性樹脂組成物の粘度が10Pa・s未満では、止水部から流出して保持できない虞があり、粘度が100Pa・sを超えると止水部への組成物の供給が困難になる虞がある。
【0064】
また硬化性樹脂組成物は、加熱した際に中間スプライス部20に浸透して、絶縁電線4の絶縁体3同士の間、導体2を構成する素線の間、導体2同士の間等の間隙に行渡り、間隙を充填することが可能な流動性を有している。具体的には、加熱して浸透させる場合の止水部10の硬化性樹脂組成物の粘度が1〜500mPa・sの範囲内となるように加熱温度を制御することが好ましい。更に好ましくは、粘度が1〜100mPa・sの範囲内となるように、止水部10の硬化性樹脂組成物の加熱温度を制御することである。
【0065】
硬化性樹脂組成物を止水部10内部へ浸透させる場合、硬化性樹脂組成物の粘度が、1mPa・s未満では、硬化性樹脂の硬化時の揮発成分が多くなり発泡部位が生じて充填が不十分となる虞があり、500mPa・sを超えると、細部への浸透が不十分となる虞がある。
【0066】
硬化後の硬化性樹脂組成物は、硬化物が柔軟で適度なゴム弾性を有することが好ましい。上記硬化物の具体的な物性として、硬化物の伸びが、室温では50%以上であるのが好ましく、更に好ましくは100%以上である。また上記硬化物は低温(−50℃)の伸びが、10%以上であるのが好ましく、更に好ましくは20%以上である。硬化物が柔軟で適度なゴム弾性を有することで、止水部10が冷熱ヒートサイクルや、外部からの引張り、曲げ応力等をうけた際に、クラックや破断等の損傷を生じさせ難くなる。前記硬化物の破断伸び(%)の測定は、硬化性樹脂組成物を200μmの厚みに形成したフィルムを用いてJIS−K7113に準拠して引張り試験機(AGS、島津製作所製)で引張り試験を行うことで測定することができる。
【0067】
また硬化性樹脂組成物は、硬化物の導体や絶縁体等に対する剥離接着力が、100N/m以上が好ましく、更に好ましくは300N/m以上である。剥離接着力が上記範囲であると、止水剤による止水部の防水性能を確実に発揮させることができる。上記剥離接着力は、銅・PVCからなる基材上に、前記硬化性樹脂組成物を500μmの厚みで硬化させた樹脂フィルムを用いて、JIS−Z0237に準拠して90°ピール試験又はJIS−K6854に準拠して180°ピール試験又はTピール試験を行うことにより求められる。
【0068】
また硬化性樹脂組成物は、硬化物の剪断応力に対する接着力が、1MPa以上であるのが好ましく、更に好ましくは3MPa以上である。硬化物の剪断応力に対する接着力が上記範囲であると、基材との線膨張係数差で生じる基材とのせん断応力に対しての耐性を持つので止水部の防水性能を確実に発揮することができる。この場合の基剤は、導体の金属(銅・アルミ・スズめっき銅など)や絶縁体の樹脂(PVC・オレフィン系樹脂など)のことである。硬化物の剪断応力に対する接着力は、JIS−K6850の試験方法により測定することができる。
【0069】
保護シート30は、止水剤40の表面に密着した状態で、止水剤40の表面を被覆している。保護シート30は、止水剤40を硬化させる光を透過可能な光透過性を有し、未硬化の状態の止水剤40を保持することが可能なシートが用いられる。
【0070】
保護シート30の光透過性は、例えば止水剤40が紫外線硬化性樹脂を用いる場合、紫外線透過率が50%以上であることが好ましく、さらに好ましい紫外線透過率は90%以上である。
【0071】
保護シート30は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン及びポリフッ化ビニリデン等のオレフィン系樹脂のラップシート、或は、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンなどの汎用樹脂のラップシートを用いることができる。保護シート30は、特に自己密着(粘着)のよいポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂のシートが好適である。
【0072】
保護シート30の厚みは、100μm以下が好ましく、更に好ましくは5〜50μmである。
【0073】
また保護シート30は、ヤング率(JIS−K7113に準じた測定方向における室温での値)が、厚みが50μm未満の場合50〜500MPaの範囲であり、厚みが50μm〜100μmの場合10〜100MPaの範囲であり、厚みが100μmを超える場合、10MPa未満であるのが好ましい。また保護シート30は、破断時の伸びが、好ましくは20%以上、更に好ましくは50%以上である。
【0074】
保護シート30は、剥離粘着力(JIS−Z0237やJIS−K6854に準じた測定方法における室温での値)で表わされる自己密着力が、0.5〜10N/mの範囲であることが好ましい。止水部10は、止水剤40の表面の変形に追随して保護シート30が変形して、止水剤40表面と保護シート30が密着した状態で、止水剤40が硬化されている。保護シート30は、自己密着力が高いと、保護シート30を中間スプライス部20及び止水剤40の周囲に巻付ける際に、被覆が容易であり、作業性に優れる。
【0075】
また、保護シート30の表面に、厚み10μm以下の弱い粘着剤からなる粘着剤層を形成しておいてもよい。粘着剤層の厚みは、好ましくは5μm以下である。
【0076】
以下、図1のワイヤーハーネスの製造方法について説明する。図3(a)〜(c)、図4(d)〜(f)は、本発明のワイヤーハーネスの製造方法の一例を示し、止水中間スプライス部の製造工程を示す説明図である。この態様では、止水剤40として熱硬化性を付与した紫外線硬化性樹脂を用い、保護シート30として、適切な柔軟性、自己密着性、伸縮性、紫外線透過性等を有するシートを用いた。
【0077】
予め複数の絶縁電線を用いて中間スプライス部20を形成した電線束を準備する。電線束7は絶縁電線4の絶縁体3が除去されて内部の導体3が露出した導体露出部5を有している〔図3(b)参照〕。
【0078】
先ず図3(a)に示すように、中間スプライス部20を被覆できる程度の大きさの保護シート30の表面に止水剤40を供給する。止水剤40は保護シート30の中央部に、吐出装置のノズル60から、所定量、吐出される。
【0079】
次に、図3図(b)に示すように、保護シート30上に吐出された止水剤40上に電線束の中間スプライス部20を載置する。中間スプライス部20に止水剤40が供給される。また、止水剤40の供給は、同図(c)に示すように、保護シート30の上に中間スプライス部20を載置し、その上にノズル60から止水剤40を吐出してもよい。止水剤40の止水部への供給は常温で行う。
【0080】
次に、図4(d)に示すように、保護シート30の折り返し部側が中間スプライス部20及び止水剤40に巻付くと共に、中間スプライス部20のない部分では保護シート同士が重なる重ね合わせ部32となるように、折り曲げる。保護シート30の重ね合せ部32は、保護シート30の自己密着性によって、重ね合わせた状態が保持される。
【0081】
次に、中間スプライス部20の止水剤40の表面に保護シート30を巻付けて、保護シート30の内部に止水剤40が充填された状態にする。図4(d)に示すように、保護シート30を二つ折りにした後、保護シート30の重ね合せ部分を、ロール51でしごくようにして、重ね合せ部分32の止水剤40を中間スプライス部20に向けて押込む。保護シート30の重ね合せ部分32を止水部10に巻き回して密着させる。
【0082】
次に図4(e)に示すように、保護シート30の重ね合せ部分を中間スプライス部20及び止水剤40の周囲に巻付ける。保護シート30を引張り張力を加えた状態で巻付けると、保護シート30の外方から止水部10が押圧された状態で中間スプライス部20及び止水剤40の周囲に巻付けられる。その結果、中間スプライス部20の周りに局所的に存在していた止水剤40が、押出されて中間スプライス部20の外周部と保護シート30の間に行渡る。止水剤40は、中間スプライス部20の外側周囲の全体を覆うことができる。
【0083】
保護シート30は、自己密着性によって、止水部10の周囲に巻付けた状態が維持される。また、止水部10は、保護シート30の外側から押圧された状態も維持される。
【0084】
次に、図4(e)に示すように、紫外線照射装置52を用いて、中間スプライス部20と止水剤40の外側周囲に保護シート30が巻付けられた状態で、中間スプライス部20に紫外線53を照射して、止水剤40の表面を硬化させて表層部を形成する。
【0085】
中間スプライス部20に照射された紫外線53は、保護シート30を透過して止水剤40に照射される。このとき、紫外線の照射は、止水剤40の紫外線硬化性樹脂組成物の表面のみが硬化するような照射条件で行う。止水剤40は保護シート30と接する止水剤表面が硬化するので、止水剤40が保護シート30の端部33から外部へ流出することを防止できる。
【0086】
前記紫外線照射時間は、0.1〜3秒の範囲内であるのが、内部の止水剤まで硬化させずに表面のみの硬化に留めることが容易であることから好ましい。
【0087】
尚、この段階では、止水部10の内部の止水剤40は、未硬化の状態である。止水剤40は未硬化の状態の25℃における粘度が、10〜100Pa・sの範囲内とすると、止水剤の供給と充填を確実に行うことができる。
【0088】
紫外線硬化性組成物の表面のみを硬化させるには、紫外線の照射時間、照射光の強さ等を、止水剤として用いる紫外線硬化性樹脂組成物の組成等に応じて適宜選択すればよい。
【0089】
上記紫外線照射装置としては、Hg、Hg/Xeやメタルハライド化合物等を封入したバルブ式のUVランプ、LED−UVランプ等の光源を用いることができる。また紫外線照射装置は、上記光源からの光を反射ミラーによって集光して照射する集光型UV照射装置を用いてもよい。
【0090】
次いで図4(f)に示すように、加熱装置70により、中間スプライス部20を加熱して、止水部10の内部の止水剤40を所定の温度に加熱する。尚、図4(f)は、ワイヤーハーネスの短手方向の断面を示している。止水剤40が加熱されると粘度が低下する。粘度が低下した止水剤40は、導体3の素線同士の隙間や電線同士の隙間などに浸透して充填される。この時の止水剤の加熱は、未硬化の止水剤40の粘度が1〜500mPa・sとなるように加熱を行うことが好ましい。止水剤40の粘度が上記範囲であると、止水剤40の細部への浸透を短時間に確実に行うことができる。
【0091】
このときの止水剤を浸透させる場合、止水剤が熱硬化しない所定の温度であることが好ましい。止水剤40の止水部への浸透を、止水剤の熱硬化しない温度に加熱することで、内部の止水剤40が止水部の間隙に十分浸透しない状態で硬化してしまうのを避けることができるので、止水部に欠損が発生するのを防止して、更に良好な防水性能を発揮できる。
【0092】
次いで、止水部10の内部に止水剤40が浸透した状態で、更に中間スプライス
部を加熱して、止水剤40の温度を上記の止水剤の浸透温度よりも高い温度にして、未硬化の止水剤40を硬化させる。所定の時間、加熱を行い、止水部10の内部側の止水剤40を完全に硬化させて。止水部10の内部層が形成される。
【0093】
この内部の止水剤を熱硬化させるための加熱は、500mPa・s以下の粘度とするためには、80℃以上にするのが好ましい。また加熱は、熱硬化を効率的に行い、同時に、電線被覆を加熱損傷させないためには、150℃以下にすることが好ましい。特に止水剤の加熱は、100〜140℃の範囲内で行うのが、樹脂の浸透と硬化を両立させる理由から好ましい。また加熱温度は、熱ラジカル重合開始剤の分解温度を十分考慮して適宜選択するのが好ましい。
【0094】
上記の加熱装置70は、止水部10の止水剤を加熱することが可能装置であれば特に限定されず、各種の加熱装置を使用することができる。加熱装置は例えば、セラミックヒータ、熱風ジェットヒータ、パイプ電磁ヒータ、ハロゲンランプヒータ、接触式ゴムヒータ等が挙げられる。
【0095】
図5(a)〜(e)は、止水中間スプライス部の他の例の製造工程を示す説明図である。中間スプライス部20に保護シート30を巻付ける方法として、下記のように、一対のローラ110で保護シート30を挟込みつつ巻付ける方法を用いる事もできる。
【0096】
巻付け装置は、図5(a)〜(e)に示すように、一対のローラ110が互いに接触するように配設されている。そして中間スプライス部20の両端部の電線を、一対の側方溝に沿って移動させつつ下方に移動させると、中間スプライス部20が一対のローラ110によって挟込まれ、当該一対のローラ110を回転させつつ下方に移動するようになっている。
【0097】
まず、図5(a)に示すように、保護シート30を天板部上に載置し、保護シート30上に止水剤40を供給すると共に、中間スプライス部20を載置する。
【0098】
次いで図5(b)に示すように、電線束を側方溝に沿って下方に移動させる。中間スプライス部20が保護シート30によって挟込まれつつ一対のローラ110間に挟み込まれる。
【0099】
次いで同図に示すように一対のローラ部110は、中間スプライス部20の周辺部分の形状に応じて弾性変形しつつ、中間スプライス部20、止水剤40及び保護シート30を挟込む。これにより、周りから力が加えられつつ保護シート30が中間スプライス部20及び止水剤40に巻付けられる〔図5(c)参照〕。
【0100】
次いで図5(d)に示すように、中間スプライス部20を一対の棒状部材120で挟み込んだ状態で、該棒状部材120を中間スプライス部20に向けて移動させる。図5(e)に示すように、保護シート30の外方から止水部が押圧された状態で、保護シート30が止水剤40の表面に巻付けられる。
【実施例】
【0101】
以下、本発明の実施例、比較例を示す。尚、本発明は実施例により限定されるものではない。
【0102】
実施例1<止水中間スプライス部>(ワーク) 26μmの銅素線を1−6−12−18配列で撚った銅撚り線にポリ塩化ビニル(PVC)を被覆した外径2.6mmのPVC電線10本の端部のPVC被覆を除去し、5本ずつに束ねた2組の電線束の銅撚り線部分を抵抗溶接にて中間スプライスワークを用意した。
【0103】
(止水剤の硬化性樹脂組成物) ウレタンアクリレートオリゴマー、アクリレートモノマーを主成分とする紫外線硬化性樹脂100質量部に対し、光ラジカル重合開始剤としてチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、商品名「イルガキュア184」を1質量部、BASFジャパン社製、商品名「LucirinTPO」を0.3質量部、熱ラジカル重合開始剤としてクメンハイドロパーオキサイドを1質量部添加した、熱硬化性を付与した紫外線硬化性樹脂を粘度20Pa・s(25℃)に調製したものを用いた。
【0104】
(止水剤の充填と形状維持) PVC製のラップフィルム(幅100mm×長さ80mm×厚み20μm、自己粘着力0.8N/m)を保護シートとし、該ラップフィルム上の中央に上記止水剤を0.84g滴下し、その上から中間スプライスワークを載置した後、PVCラップフィルムをワークの長手方向と垂直な方向に折り返して、止水剤がワークの中間スプライス部の周辺部分を覆うように包み、止水剤が載っていない部分のPVCラップフィルムを貼り合わせた。
【0105】
更に2つのゴムスポンジの間を通し、貼り合わせた遠端から2つの丸棒で貼り合わせた部分をワークに向かって絞り込む機構を持つ絞り込み装置で絞り込み、中間スプライス部の周辺を電線と共にきれいに円柱状となるように包み込んだ。止水部の円柱状に包み込んだ部分の外径は7mmφであった。
【0106】
このとき止水剤は上記の絞り込み力によって、スプライス部中央から電線長手方向とワークの周方向に流動して広がり、止水部全体に充填することができた。PVCラップフィルムの余った部分は、ブラシを有するシート巻き機に挿入してワークの周囲に巻き上げた。ワークを水平状態に維持して上記の巻き上げを行った。その結果、止水剤は横流れを起さず、ラップフィルムの端部から流出することなく、止水部に止水剤が保持された状態を維持することができた。
【0107】
(紫外線照射による表層部のみの硬化) 次いで、紫外線照射装置を用いて、ラップフィルムの上からワークに紫外線を照射して、ラップフィルムに接している止水剤の表面を硬化させて表層部を形成した。紫外線照射は、中心波長が385nmのLED−UVランプを用い、照射強度400mW/cmで1秒間行った。
【0108】
(加熱による止水剤の内部への浸透と硬化) 120℃の空間温度制御をした2つのセラミックヒータ板の間に、紫外線を照射したワークを挿入し、90秒間保持して、内部に止水剤を浸透させると共に、内部の止水剤を熱硬化させて内層部を形成して、止水中間スプライス部を形成した。
【0109】
(止水性能) 止水中間スプライス部が形成された中間スプライスワーク両端の10本の各絶縁電線から200kPaの圧力を加え、水中に浸漬して、開放されてる他の9本の絶縁電線かの撚り線から空気がリークするかどうか観察した。その結果、いずれの電線にもリークは生じなかった。また10本の絶縁電線に同時に200kPaの圧力を加えた場合も、止水剤で覆われた外部と絶縁体との界面やスプライス部からのリークは生じなかった。
【0110】
(観察) 上記の止水テストの後、止水された中間スプライス部において、スプライス側の絶縁電線端近傍の銅撚り線内を断面カットして観察したところ、銅撚り線内には硬化した樹脂がきれいに充填されていた。
【0111】
比較例1 実施例1における紫外線照射時間を5秒以上とした以外は、実施例1と同様の材料を用い同様の処理を行って、止水部を形成した。その結果、ラップフィルムで円柱状に包んだ部分の止水剤は、紫外線が照射された部分がほとんど硬化していた。止水テストを実施したところ、10本の絶縁電線中、8本が絶縁電線間のリークパスが50kPaで認められた。またスプライス側の絶縁電線近傍の断面をカットして観察したところ、導体である銅撚り線間には、樹脂が充填されていない部分が多く見られた。
【0112】
上記実施例では、止水部分として中間スプライス部に適用した例を説明したが、本発明は、光透過性の保護キャップ類の中に止水剤を充填して得られる端末スプライスの止水部分や、圧着端子にて構成されるアース端子の止水部分、コネクター挿入用の電線かしめ端子の止水部分等に適用することができる。
【符号の説明】
【0113】
1 ワイヤーハーネス
2 導体
3 絶縁体
4 絶縁電線
5 導体露出部
6 導体の前後の被覆部
7 電線束
10 止水中間スプライス部(止水部)
20 中間スプライス部
30 保護シート
40 止水剤


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の絶縁電線からなる電線束の絶縁体が除去されて内部の導体が露出した導体露出部が止水剤により被覆されている止水部を有するワイヤーハーネスであって、
前記止水剤が、未硬化の状態で前記止水部に供給可能な流動性を有し、光硬化性と熱硬化性を有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、
前記止水剤は、光照射により光硬化された表層部と、加熱により前記止水部の内部に浸透した状態で硬化された内層部とを有することを特徴とするワイヤーハーネス。
【請求項2】
前記止水剤の表面が光透過性の保護シートにより被覆されていることを特徴とする請求項1記載のワイヤーハーネス。
【請求項3】
前記止水部が、中間スプライス部であることを特徴とする請求項1又は2記載のワイヤーハーネス。
【請求項4】
前記止水部が、絶縁電線の導体露出部に隣接する絶縁体の表面を被覆していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
【請求項5】
複数の絶縁電線からなる電線束の絶縁体が除去されて内部の導体が露出した導体露出部が止水剤により被覆された止水部を有するワイヤーハーネスの製造方法であって、
前記止水剤として、未硬化の状態で前記止水部に供給することが可能な流動性を有し、光硬化性と熱硬化性を有する硬化性樹脂組成物の硬化物を用い、
前記止水部に前記止水剤を供給して保持した状態で、前前記止水部に光照射を行い前記止水剤の表面を光硬化して表層部を形成して、前記止水部からの前記止水剤の流出を防止した後、前記止水部を加熱して前記止水部に前記止水剤を浸透させると共に、内部の止水剤を硬化させて内層部を形成することを特徴とするワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項6】
光透過性を有する保護シートを用いて前記止水剤を供給した前記止水部を被覆し、前記止水剤の表面が前記保護シートに覆われた状態で光照射を行い、前記止水剤の表面を硬化させて表層部を形成することを特徴とする請求項5記載のワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項7】
前記止水剤の表面に前記保護シートを巻付けて、前記保護シートの外方から前記止水部が押圧された状態で光照射を行い表層部を硬化させることを特徴とする請求項6記載のワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項8】
前記止水剤が、未硬化の状態の25℃における粘度が、10〜100Pa・sの範囲内であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載のワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項9】
前記止水部の内部に前記止水剤を浸透させる際に、前記止水剤の粘度が1〜500mPa・sの範囲内となる温度に前記止水部を加熱することを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載のワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項10】
前記止水部を所定温度に加熱して内部に前記止水剤を浸透させた後、温度を上昇させて前記所定温度よりも高い温度で前記止水剤の硬化を行うことを特徴とする請求項5〜9のいずれか1項に記載のワイヤーハーネスの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−248527(P2012−248527A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122026(P2011−122026)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】