ワイヤ放電加工用電極線、その製造方法
【課題】電極線外周面に形成した銅-亜鉛拡散合金層の粒状物を芯線から剥離し難くすることによって、電極線と加工対象物間での短絡を防止して、加工速度の向上だけでなく、加工精度の低下、加工面の微細スジ・金属粉の発生を抑えた高速加工用電極線を提供する。
【解決手段】熱拡散により生成した銅―亜鉛合金層と亜鉛層を外周面に有する線材を伸線加工して、製品径まで縮小する工程で、銅-亜鉛合金層を確実に破砕して粒状物とし、その粒状物を芯線外周面に埋め込むことによって拡散合金層と亜鉛層を芯線と一体化させ、芯線からの拡散合金層と亜鉛層の剥離を防止する。また、伸線加工で生じる銅―亜鉛合金層のクラックを亜鉛薄膜でも覆うために、亜鉛の展延性の良好な温度で伸線加工を行う。
【解決手段】熱拡散により生成した銅―亜鉛合金層と亜鉛層を外周面に有する線材を伸線加工して、製品径まで縮小する工程で、銅-亜鉛合金層を確実に破砕して粒状物とし、その粒状物を芯線外周面に埋め込むことによって拡散合金層と亜鉛層を芯線と一体化させ、芯線からの拡散合金層と亜鉛層の剥離を防止する。また、伸線加工で生じる銅―亜鉛合金層のクラックを亜鉛薄膜でも覆うために、亜鉛の展延性の良好な温度で伸線加工を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電によって被加工物(加工対象物)を加工するワイヤ放電加工に用いられるワイヤ放電加工用電極線およびその製造方法並びにその電極線を用いた放電加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工とは放電加工用電極線と被加工物との間で放電を起こさせ、放電によって引き起こされる熱エネルギーによって被加工物を切断していくもので、特に金型等の複雑な形状を有する金属加工に適している。
【0003】
このような放電加工において、a)加工速度が速いこと、b)被加工物の表面の仕上がり状態や寸法精度が良好であること、c)電極線と被加工物との相対位置を計測する位置決め性が良好であること、d)電極線を連続的に走行させた時の金属粉の発生量が少ないこと等が要求される。
【0004】
この電極線として、従来から広く使われているものに、電極線が亜鉛濃度35〜40重量%の黄銅単一体より製作されたものがある。この黄銅単一体の電極線は、亜鉛含有量を40重量%以上に増やすと、体心立方格子の金属間化合物を作り展延性や靭性が低下し、冷間伸線加工ができないという理由により製作できない。
【0005】
そこで、亜鉛濃度35〜40重量%の黄銅単一体の電極線よりも放電加工速度を速くしようとする研究が種々行われてきているが、電極線の組成中の亜鉛濃度が高いほど、放電加工速度を向上できることは良く知られている。
【0006】
この方法として、電極線の表層のみ亜鉛濃度が40重量%以上の銅−亜鉛合金層、あるいはその上に更に亜鉛層を設ける方法が知られている。
【0007】
日本特許第3718617号には、表層に亜鉛濃度が40重量%以上の銅−亜鉛合金層、あるいはその上に亜鉛層を設けた多孔性電極線が開示されている。
【0008】
この電極線表面にクラックを有する多孔性電極線は、溶融めっきにより銅含有芯線の表層に銅−亜鉛合金層、あるいはその上に亜鉛層を設け、伸線加工することによって表層に積極的にクラックを形成させ、電極線の表面積を大きくし、放電加工時に加工液との接触面積を増加させ、冷却速度を一層早くして加工速度を改善することが記載されている。
【0009】
さらに、国際公開番号WO2009/028117には上記発明の問題点を解決する方法として、次の構造の電極線が開示されている。
― 銅または銅合金の芯線に対して、その表面から溶融した亜鉛が熱拡散して形成された銅−亜鉛合金内層(亜鉛濃度50〜80重量%)と芯線自体の銅が溶融した亜鉛に拡散して形成された銅−亜鉛合金外層(亜鉛濃度81〜100重量%)からなる。(外層が拡散によって生成された2層の銅−亜鉛合金層の上に亜鉛層が設けられた3層構造)
― 拡散合金層よりも亜鉛層が厚い
― 亜鉛層の厚さは外径の1.2%以上であり、電極線の最表層にはクラックが存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】日本特許第3718617号
【特許文献2】WO2009/028117号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の銅または銅合金芯線の外周面に亜鉛層と拡散合金層を設け、伸線することによって得られる高速加工用電極線は、加工速度を向上することができるものの、加工速度以外の放電加工に必要な他の特性が悪くなるという問題点が生じる。
【0012】
また、電極線表層にクラックを形成するという技術も知られているが、電極線表層にクラックが形成されることによって、次のような問題点が生じる。
a)ワイヤ放電加工は、電極線と被加工物との間で放電を行わせながら、被加工物を溶断して糸鋸式の加工を行うものであるが、電極線の表層にクラックがあることによって、放電が不安定になり、被加工物の表面の仕上がり状態が悪くなる。
b)ワイヤ放電加工機に被加工物と電極線の相対位置を認識させるため、被加工物と電極線との間で電気的な導通を利用しているが、電極線の表層にクラックがあることによって接触面積が少なくなり、位置決め精度が悪くなる。
c)冷間伸線加工によって表層にクラックが生じるほど表層が脆いため、放電加工時に電極線を連続的に走行させた場合に加工機のガイド、プーリー等との摩擦・擦れ等により金属粉の発生量が多くなり、メンテナンス性を悪化させる。
d)表層にクラックがあることによって、取り扱い時または加工時に断線が発生し易くなり信頼性が悪くなる。
【0013】
それに対して拡散合金層を有していながら電極線の最表層にクラックを生じさせない対策も知られているが、この構造は亜鉛層の厚さを外径の1.2%以上にすることにより、拡散合金層のクラックを亜鉛層で被覆することによって、電極線の最表層にクラックを存在させなくする構造のために、最表層の亜鉛層がどうしても厚くなり、図4に示したように放電加工中に亜鉛の蒸発消耗によって線径が細り、入側と出側で加工溝巾の差が生じることにより、放電加工面がテーパー状になり、加工精度の面で問題が生じる。
【0014】
また、亜鉛層と拡散合金層が厚いことによりにより0.1−0.3mmφ等の要求される所定の直径の電極線を得るために、伸線加工すると亜鉛層を含めた拡散合金層が芯線から剥離し易くなる。
亜鉛層を含めた拡散合金層が剥離し易い電極線を用いてワイヤ放電加工を行うと、剥離片が電極線と被加工物の間でブリッジを形成することによって短絡が起こり、放電回数の減少による加工速度の低下や、放電が不安定になることにより、図5の模式図に示すように放電痕の集中による微細スジが、電極線の移動方向に沿って加工面に存在するようになる。
【0015】
本発明はこれらの問題点を解決するためになされたもので、亜鉛の消耗による加工精度の低下、または短絡による加工速度の低下や電極線の移動方向に沿って発生する加工面の微細スジを抑えた高速加工用の放電加工用電極線を提供することを目的とする。
【0016】
さらに本発明は、電極線を連続的に走行させた時の金属粉の発生量が少なく、かつ電極線と被加工物との相対位置を計測する位置決め性が良好で、取り扱い時または加工時に断線が発生することがない放電加工用電極線を提供することを目的としている。
【0017】
加えて本発明は、上記放電加工用電極線を製造するための方法および上記放電加工用電極線を用いた放電加工方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のワイヤ放電加工用電極線は、銅または銅合金からなる芯線の外周面に亜鉛溶融めっき層が形成され、前記亜鉛溶融めっき層と前記芯線の間で相互に熱拡散により生成された拡散合金層を有する母線が伸線加工されたワイヤ放電加工用電極線において、前記亜鉛溶融めっき層と前記拡散合金層の伸線加工時における展延性の差異に基づき、前記亜鉛溶融めっき層は、伸線されてクラックが存在しない亜鉛薄膜とされるとともに、前記拡散合金層は、伸線されて破砕された粒状物が前記芯線の外周面に埋め込まれ、前記亜鉛薄膜と拡散合金層が前記芯線と一体化されて剥離することが抑止されていることを特徴とする。
【0019】
さらに、本発明のワイヤ放電加工用電極線は、前記クラックが存在しない亜鉛薄膜は、伸線加工時に熱の影響を受けて亜鉛の展延性が良いとされる温度範囲で伸線されて形成されたものであることを特徴とする。
【0020】
さらに、本発明のワイヤ放電加工用電極線は、前記拡散合金層の破砕された粒状物は、大きな垂直方向の面圧を受けて前記芯線の外周面に深く埋め込まれていることを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明のワイヤ放電加工用電極線は、前記拡散合金層の破砕された粒状物は、伸線前断面積から伸線後断面積を差し引いた縮減断面積を伸線前断面積で除したものに100を乗じた伸線加工率の高い伸線加工を受けて、前記芯線の外周面に深く埋め込まれていることを特徴とする。
【0022】
ワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、銅または銅合金からなる芯線を、亜鉛を所定温度に保持しているめっき槽内を最外層が所定厚を超える亜鉛層とする浸漬時間通過せしめた後冷却することにより、前記芯線と前記亜鉛が接触する境界面で相互に熱拡散させて拡散合金層を生成させて電極線のめっき母線を製造し、該めっき母線を伸線加工するワイヤ放電加工用電極線の製造方法において、前記めっき母線を前記亜鉛の展延性が良いとされる温度範囲で伸線加工することにより、クラックが存在しない亜鉛薄膜を形成することを特徴とする。
【0023】
さらに、本発明のワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、前記めっき母線を前記亜鉛の展延性が良いとされる温度範囲で伸線加工するにあたり、ダイスと線材の境界に循環供給する伸線潤滑液の循環貯留槽内温度を75℃乃至100度に温度管理することを特徴とする。
【0024】
本発明のワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、銅または銅合金からなる芯線を、亜鉛を所定温度に保持しているめっき槽内を最外層が所定厚を超える亜鉛層とする浸漬時間通過せしめた後冷却することにより、前記芯線と亜鉛が接触する境界面で相互に熱拡散させて拡散合金層を生成させて電極線のめっき母線を製造し、該めっき母線を伸線加工するワイヤ放電加工用電極線の製造方法において、前記拡散合金層を破砕して形成した粒状物を芯線外周面に埋め込むことにより、前記亜鉛薄膜と拡散合金層が前記芯線と一体化して該薄膜が剥離することを抑止することを特徴とする。
【0025】
さらに、本発明のワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、前記伸線潤滑液として水を用いることにより、前記ダイスと前記線材の摩擦抵抗を増大してダイスと線材の境界に大きな垂直方向の面圧を発生させて、前記拡散合金層を確実に破砕して粒状物とし、該粒状物を芯線外周面に強く埋め込むことを特徴とする。
【0026】
さらに、本発明のワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、伸線前断面積から伸線後断面積を差し引いた縮減断面積を伸線前断面積で除したものに100を乗じた伸線加工率が所定値を下回らないように伸線加工制御することにより、前記拡散合金層を確実に破砕して粒状物とし、該粒状物を芯線外周面に深く埋め込むことを特徴とする。
【0027】
さらに、本発明のワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、前記所定値を94.0%以上としたことを特徴とする。
【0028】
本発明のワイヤ放電加工用電極線は、銅または銅合金からなる芯線の外周面に亜鉛溶融めっき層が形成されており、前記芯線と前記亜鉛溶融めっき層との間に熱拡散合金層を成形したワイヤ放電加工用電極線であって、前記熱拡散合金層は、破砕された粒状物が稠密状態で集合された層として形成されていることにより、前記芯線と前記亜鉛溶融めっき層とが前記熱拡散合金層により一体化されて剥離が抑止されることを特徴とする。
【0029】
さらに、本発明のワイヤ放電加工用電極線は、前記破砕された熱拡散合金層の粒状物と前記芯線との境界線長が、その境界線長を有する同一の電極線の長さより1.20倍以上長いことを特徴とする。
【0030】
本発明のワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、銅または銅合金を溶融亜鉛めっきすることにより、前記芯線と前記亜鉛溶融めっき層との間で相互に熱拡散させて拡散合金層を成形させて電極線のめっき母線を製造し、該めっき母線を伸線加工するワイヤ放電加工用電極線の製造方法において、伸線加工後の前記拡散合金層を破砕して形成した粒状物と前記芯線との境界線長が、その境界線長を有する同一の電極線の長さより1.20倍以上長いことを特徴とする。
【0031】
本発明の放電加工方法は、銅または銅合金からなる芯線の外周に亜鉛溶融めっき層が形成されており、前記芯線と前記亜鉛溶融めっき層との間に熱拡散合金層を成形したワイヤ放電加工用電極線によって放電加工する放電加工方法であって、前記熱拡散合金層は、破砕された粒状物が稠密状態で集合された層として形成されていることにより、前記芯線と前記亜鉛溶融めっき層とが前記熱拡散合金層により一体化されて剥離が抑止されているワイヤ放電加工用電極線を用いて放電加工することを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、簡単な設備および製造工程により、外周面の銅―亜鉛の熱拡散層の破砕された粒状物が稠密状態で集合された層として形成されて芯線に埋め込まれることにより、芯線と亜鉛溶融めっき層とが熱拡散合金層により一体化されて剥離を抑止できる。
【0033】
このことにより、放電加工中に被加工物と電極線との短絡を防止することができるため、放電回数の減少による加工速度の低下や、放電が不安定になることにより放電痕の集中による微細スジが電極線の移動方向に沿って加工面に発現することを抑止できる高速加工用電極線の提供が可能になる。
【0034】
また、従来の加工方法は、荒加工では外周面に亜鉛層と銅−亜鉛拡散合金層を有する構造の高速加工用電極線を、仕上げ加工には黄銅単一体の電極線を使用するなど、加工プロセス間で電極線を交換していたが、本発明の電極線は高速加工だけでなく、精密加工にも使用できるため、加工プロセス間の電極線の交換は必要なくなり、停止時間/交換時間が節約できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の電極線の断面図
【図2】本発明のめっき母線の断面図
【図3】めっき母線の径方向の亜鉛濃度および層厚を示す図
【図4】放電加工中の電極線の状態を示した図
【図5】加工面のスジの模式図
【図6】伸線加工中にめっき母線が受ける応力方向
【図7】溶融めっきおよび伸線装置を示す図
【図8】亜鉛層厚の異なる電極線の潤滑液温度と電極線外周面のクラック発生との関係図
【図9】電極線の亜鉛層厚と加工溝巾との関係図
【図10】拡散合金層の粒状物が芯線に埋め込まれた状態の写真(デジタルマイクロスコープ1000倍)
【図11】潤滑液種類と短絡発生回数との関係図
【図12】電極線の移動方向に発生するスジの写真(デジタルマイクロスコープ40倍)
【図13】短絡回数と加工速度の関係図
【図14】拡散合金層の粒状物が芯線に埋め込まれた状態の写真(デジタルマイクロスコープ1000倍)
【図15】加工率と短絡発生回数との関係図
【図16】伸線ダイス内部でのめっき母線の流れ図
【図17】潤滑液の違いによる拡散合金層の粒状物と芯線との境界線長との関係
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明のワイヤ放電加工用電極線は、外周面に拡散合金層とその上に亜鉛層を有する従来の電極線の前述の問題点を解決するためになされたものである。
【0037】
拡散合金層を有する従来技術のワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、銅または銅合金からなる芯線の外周面に電気めっきまたは溶融めっきにより、亜鉛の外側金属層を形成し、この線材を熱処理することによって、亜鉛めっき層と芯線の間で相互に熱拡散により生成された拡散合金層を有する線材を伸線加工により断面積を縮小して得られる。
【0038】
ここで、問題は、拡散合金層が体心立方格子の金属間化合物である亜鉛濃度40%以上の銅−亜鉛拡散合金層になっており、硬く、脆い性質のため、芯線と拡散合金層の変形特性が異なることによって伸線加工中に拡散合金層が砕けて電極線表面にクラックを発現させてしまい、破砕した拡散合金層が芯線から剥離して、被加工物と電極線との短絡を起し、加工速度の低下や加工面の品質低下を起こしてしまうことである。
【0039】
本出願人は、改善された拡散合金層を有する電極線を実現するために研究を重ねるうちに、次の3つの方法を用いることにより、芯線と亜鉛溶融めっき層とが熱拡散合金層により一体化されて剥離が抑止され、かつ電極線表面にクラックが存在しない電極線が経済的に得られることを発見した。
(1)めっき母線の亜鉛層を薄くしても、亜鉛層が拡散合金層のクラックを覆うことにより、電極線最表面にクラックが発現しないことを可能にするため、伸線加工中の亜鉛の温度を亜鉛の展延性が良い100〜150℃の温度で伸線加工を行う。
(2)伸線ダイスとめっき母線の摩擦抵抗を増大してダイス壁面と母線の境界に大きな垂直方向の面圧を発生させて、拡散合金層を確実に破砕して粒状物とし、その粒状物を芯線外周面に楔のように深く埋め込ませることを目的として、通常伸線に使用されている油性の伸線潤滑液よりも摩擦抵抗が大きくなる水を伸線潤滑液に用いる。
(3)拡散合金層が芯線に埋め込まれる時間を長く、また、ダイスを通過するパスの回数を多くして、拡散合金層を確実に破砕して粒状物とし、その粒状物を芯線外周面に深く埋め込ませることを目的として、伸線加工率を大きくして伸線加工を行う。
【0040】
上記(1)の方法は、WO2009/028117号によれば、伸線加工において電極線表面にクラックを生じさせないためには、亜鉛層の厚さは、電極線の外径の1.2%以上を必要とすると記載されている。しかし、亜鉛層が厚いと亜鉛の蒸発消耗によって加工精度が悪くなるのと、伸線加工で剥離片が発生し易くなるという問題が生じる。
【0041】
本発明は、亜鉛層が薄膜でも電極線表面にクラックを生じさせないため、亜鉛の展延性が良好な温度で伸線加工を行うことによって解決したものである。
【0042】
亜鉛は常温では脆いが、100〜150℃では展性や延性が増大する。この性質を利用して、めっき母線の亜鉛層が100〜150℃の温度で伸線されるように、めっき母線と伸線ダイスの壁面での摩擦熱の発生による温度上昇を見込んで、伸線潤滑液の温度を75℃以上100℃以下にすることにより、亜鉛層が拡散合金層のクラックを完全に覆うことにより電極線最表面にクラックが発現しないようにしたものである。
【0043】
上記(2)の方法は、油性の伸線潤滑液よりも摩擦抵抗が大きくなる水を伸線潤滑液に用いることにより、伸線加工で破砕した拡散合金層の粒状物が芯線の銅または銅合金に深く埋め込まれることによって、亜鉛薄膜と熱拡散合金層が芯線と一体化して剥離しないようにしたものである。
【0044】
金属間化合物である体心立方格子の拡散合金層は、展延性がないために伸線加工中に破砕して粒状物になり、芯線から亜鉛層と拡散合金層が剥離し易くなる。放電加工中に亜鉛層と拡散合金層が剥離すると、電極線と被加工物が短絡し、放電回数の減少による加工速度の低下や、放電が不安定になることにより微細スジが電極線の移動方向に沿って加工面に発生するようになる。
本発明は、拡散合金層の破砕した粒状物と芯線との境界線長が、その境界線長を有する同一の電極線の長さより1.20倍以上に長くなるように、拡散合金層の粒状物を芯線に深く埋め込むことによって、亜鉛薄膜と拡散合金層を芯線と一体化させ、芯線からの亜鉛薄膜と拡散合金層の剥離を抑止する構造のワイヤ放電加工用電極線とその製造方法、およびその電極線を用いた放電加工方法である。
【0045】
一体化させる原理は次による。
伸線加工中にめっき母線が受ける応力は、図6に示すように母線内部と母線表層部では異なる。
伸線加工中は、めっき母線表層部では、伸線ダイス拘束により伸線ダイスとめっき母線の境界に大きな垂直方向の面圧が発生する。これに対して、めっき母線内部では引き抜き力の影響による引張応力が作用する。
図16に伸線中に、ダイス内部でどのようにめっき母線が変形していくかのメタルフローを模式的に示す。
図16の伸線前の格子線の縦軸は伸線加工後に湾曲を起している(先進現象)。これは、めっき母線と伸線ダイス壁間の摩擦が原因であり、摩擦抵抗が大きいほど、表層部は垂直方向の面圧を受けて、長さ方向の変形量は中心部の変形量に比べて小さくなる。従って、めっき母線の表層部に発生する垂直方向の面圧を大きくするためには摩擦力(変形抵抗)が大きい方が良い。
【0046】
この原理を活用して、接触面の摩擦力を大きくして、破砕された粒状物を芯線に埋め込む面圧を大きくし、深く埋め込むために、伸線潤滑液として通常用いられている油性タイプ潤滑液(振り子式測定法による動摩擦係数 約0.1)を用いずに、油性タイプ潤滑液よりも潤滑機能の低い水(振り子式測定法による動摩擦係数 約0.36)を使用するものである。
【0047】
上記(3)の方法は、伸線加工における加工率を94.0%以上にすることによって、伸線加工で破砕した拡散合金層の粒状物が、芯線に深く埋め込まれることによって、亜鉛層と拡散合金層が芯線と一体化して剥離を抑止したものである。
【0048】
加工率は下記の式によって求まる。
加工率(%)=〔(伸線前断面積―伸線後断面積)/伸線前断面積〕×100
【0049】
拡散合金層は芯線と変形特性が異なるために(拡散合金層の方が伸度は低い)、伸線加工により拡散合金層が破砕して粒状物になり、亜鉛薄膜と拡散合金層が芯線から剥離し易くなる。
【0050】
この方法は伸線前の初期のめっき母線外径と伸線後の最終製品径の差を大きくして(加工率を高めることによって)、破砕した拡散合金層が芯線に埋め込まれる時間を長くすること、またダイスを通過するパスの回数を多くすることによって、伸線加工後の拡散合金層を破砕して形成した粒状物と芯線との境界線長が、その境界線長を有する同一の電極線の長さより1.20倍以上長くすることにより拡散合金層の粒状物を芯線に深く埋め込ませることによって、亜鉛層と拡散合金層が芯線と一体化して剥離を抑止したものである。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図7は本発明のワイヤ放電加工用電極線1の製造方法を実施するための設備を模式的に示したもので、めっき母線5の伸線装置14とアニーラー15は、図示のように巻取り装置16の前に設置しても良いし、又は本設備とは別に設置して、巻き取った後に伸線加工しても良い。
【0052】
また、溶融めっきの温度と浸漬時間を調整することによって、拡散合金層である銅−亜鉛合金層7と亜鉛層8の層厚を変化させることが可能であり、その傾向は次の通りである。
(1) 拡散合金層(銅−亜鉛合金層)
・同一温度であれば、浸漬時間が短いほど拡散合金層が薄くなる。
・同一浸漬時間であれば、温度が低いほど拡散合金層が薄くなる。
(2) 亜鉛層
・同一温度であれば、浸漬時間が短いほど亜鉛層が厚くなる。
・同一浸漬時間であれば、温度が低いほど亜鉛層が厚くなる。
【0053】
本発明の電極線1を得るためのめっき母線5は、上記知見に基づいて創作されたもので、溶融めっきの温度や浸漬時間を適切に選んで、拡散合金層7の厚さ、亜鉛層8の厚さを調整することにより、図3に示すような亜鉛濃度勾配を有する銅または銅合金からなる芯線6、拡散合金層7、亜鉛溶融めっき層8の3層構成のめっき母線5を得ることができる。
【0054】
次いでめっき母線5を伸線加工して、その断面を縮小することにより、図1に示したような銅または銅合金からなる芯線2と伸線により破砕された粒状の拡散合金層3が芯線に埋め込まれた層および亜鉛層4から構成される所定の直径のワイヤ放電加工用電極線1が得られる。
【0055】
本発明の電極線1は、伸線工程における次の3つの方法を組み合わせることによって本発明の構造の高速加工用電極線1が得られるが、まず、最初に個々の方法による効果について記載する。
【0056】
なお、放電加工特性は、三菱電機製ワイヤ放電加工機 SX10を使用して、荒加工条件を用いて実施した。(被加工物:材質SKD−11 厚さ50mm)
【0057】
【表2】
【0058】
方法1の効果
この方法による効果を確認するため、溶解、鋳造、伸線工程を経た線径0.9mmの黄銅線(銅60%/亜鉛40%)のめっき前母線9を図7の製造設備を使用して、溶融めっき浴の温度や浸漬時間を調整し、拡散合金層7が同一厚で亜鉛層8の異なる下表の3種類のめっき母線5を製造した。
【0059】
【表3】
【0060】
次に、これらの3種類のめっき母線5を3種類の温度の異なる油性タイプ伸線潤滑液を用いて伸線加工をして、亜鉛層4厚の割合が異なる3種類(亜鉛層厚の割合が外径の0.6%、1.2%、2.4%)の直径0.25mmφの電極線1を製作した。
このようにして製造した9種類の電極線について、次の評価を行った。
a)亜鉛層厚の異なる電極線の潤滑液温度と伸線加工後の電極線外周面のクラック発生との関係
b)電極線の亜鉛層厚と加工溝幅との関係
【0061】
評価結果について図8、図9に示す。
図8から明らかなように、潤滑液温度が75℃及び100℃の場合は、いずれの亜鉛層厚でも伸線加工後に電極線表面にクラックが発現しないが、潤滑液温度が20℃の場合は、亜鉛層厚が薄い(外径の0.6%)めっき母線5は伸線加工後に電極線表面にクラックが発現してしまう。
また、図9から明らかなように、亜鉛層厚が厚い程、亜鉛の蒸発温度が低いために放電開始と同時に蒸発・飛散してしまうことによって、図4に示すように線径が細り、入り側と出側の被加工物の加工溝巾に差が生じてしまうため、放電加工面がテーパー状になってしまい加工精度が悪くなる。この結果から、亜鉛層厚の薄いめっき母線を伸線潤滑液の温度を75℃以上100℃以下で伸線加工することによって、加工精度が良く、電極線の外周面にクラックが生じない電極線1が得られる。
【0062】
方法2の効果:
この方法による効果を確認するため、方法1と同じ拡散合金層7が同一厚で亜鉛層厚8が異なる3種類のめっき母線5を製造した。次に、これらのめっき母線5を伸線潤滑液として温度20℃の油性タイプ潤滑液および水を用いて伸線加工を行い、めっき層厚(亜鉛層4+拡散合金層3)が異なる3種類(めっき層厚の割合が外径の1.5%、2.1%、3.3%)の直径0.25mmφの電極線1を製作した。
このようにして製造した6種類の電極線について、次の評価を行った。
a)潤滑液種類と拡散合金層の粒状物が芯線に埋め込まれた状態
b)めっき層厚の異なる電極線の潤滑液種類と短絡回数との関係
c)短絡の有無と加工面のスジ発生との関係
d)短絡回数と加工速度との関係
e)潤滑液種類の違いによる拡散合金層の粒状物と芯線との境界線長との関係
【0063】
評価結果について図10、図11、図12、図13、図17に示す。
図10の写真に示すように伸線潤滑液に水を用いた電極線は拡散合金層3の粒状物が芯線2に深く埋め込まれた状態であるが、油性タイプ伸線潤滑液を用いた電極線1は拡散合金層3の粒状物が芯線2から浮いた状態である。
図17に図10の拡散合金層3の粒状物が芯線2に深く埋め込まれた状態の電極線、および拡散合金層3の粒状物が芯線2から浮いた状態の電極線について、拡散合金層粒状物と芯線との境界線長を示す。
境界線長の測定はKEYENCE社製デジタルマイクロスコープVHX−900の周囲長計測機能を用いて実施した。
測定結果は、図17に示すように、破砕された拡散合金層3の粒状物が芯線2に深く埋め込まれた状態の境界線長は、その境界線長を有する同一の電極線より1.20〜1.22倍長くなっているのに対して、破砕された拡散合金層3の粒状物が芯線2から浮いた状態の境界線長は、その境界線長を有する同一の電極線の長さに対して1.10〜1.11倍であり、拡散合金層3の粒状物が深く埋め込まれている電極線の方が境界線長は長くなる。
また、図11に示すように、水を用いて伸線加工した境界線長の長い電極線はめっき厚が厚くても、放電加工中に亜鉛層と拡散合金層が芯線と一体化して剥離しないため、電極線と被加工物間で短絡が発生しない。
図12に示すように短絡が発生する電極線(めっき厚は外径の2.1%、油性タイプ潤滑液使用)は、加工面に放電痕の集中による微細スジが発生するが、短絡が発生しない電極線(めっき厚は外径の2.1%、水潤滑液使用)は加工面に微細スジが発生しない。
図13に示すように短絡回数が多いほど、放電回数が減少することにより加工速度が低下する。
この結果から、伸線潤滑液に水を用いることによって短絡の発生を抑止できることにより、加工面にスジの発生が無く、加工速度低下が生じない電極線が得られる。
【0064】
方法3の効果:
この方法による効果を確認するため、最終製品径が0.25mmφの電極線1を製作するにあたって、加工率が92.3%、93.8%、95.7%、97、8%になるように選定した直径のめっき前母線9を用いて、方法1と同じ方法でめっき母線5を製造した。次に、これらのめっき母線5を温度20℃の油性タイプ潤滑液を用いて伸線加工して、めっき厚(亜鉛層4+拡散合金層3)が異なる3種類(外径の1.5%、2.1%、3.3%)の直径0.25mmφの電極線を製作した。
このようにして製造した12種類の電極線について、次の評価を行った。
a)加工率と拡散合金層の粒状物が芯線に埋め込まれた状態
b)伸線加工率と短絡回数との関係
b)短絡の有無と加工面のスジ発生との関係
c)短絡回数と加工速度との関係
e)伸線加工率による拡散合金層の粒状物と芯線との境界線長との関係
【0065】
評価結果について図14、図15に示す。
図14の写真はいずれも外径に対するめっき厚さが2.1%の母線を伸線加工して製作した電極線である。伸線加工率が93.8%、95.7および97.8%の電極線1は温度20℃の油性タイプ潤滑液を用いても、拡散合金層の粒状物が芯線2に深く埋め込まれた状態であるが、加工率が92.3%の電極線1は(外径に対するめっき厚さ割合2.1%および3.3%の電極線)拡散合金層3の粒状物が芯線2から浮いた状態である。
図14の上記拡散合金層3の粒状物が芯線2に深く埋め込まれている状態の電極線、および上記拡散合金層3の粒状物が芯線2から浮いた状態の電極線について、拡散合金層粒状物と芯線との境界線長を方法2と同方法で測定した。測定結果は、破砕された拡散合金層3の粒状物が芯線に深く埋め込まれた状態の境界線長は、その境界線長を有する同一の電極線の長さに対して1.21〜1.23倍長くなっているが、破砕された拡散合金層3の粒状物が芯線2から浮いた状態の境界線長は、その境界線長を有する同一の電極線の長さに対して1.10〜1.12倍であり、加工率の高い電極線の方が境界線長は長くなる。
また、図15に示すように、伸線加工率を高くして伸線加工した境界線長の長い電極線はめっき厚が厚くても、放電加工中に亜鉛層と拡散合金層が芯線と一体化して剥離しないため、電極線と被加工物間で短絡が発生しない。
この結果から、加工率を高くして伸線加工をすることにより、短絡の発生を抑止できることができ、加工面にスジの発生が無く、加工速度の低下を生じない電極線が得られる。
【0066】
本発明は、前述の3つの方法を組み合わせた多数の形態によって実施することができる。
表1にいくつかの本発明の実施例を示す。ここでの実施例は3つの方法の2つ乃至3つを含んだものであり(本発明が適用された条件は太字・斜線で示す)、比較例は3つの方法のいずれも含まないものである。
【0067】
表1から明らかなように、本発明の方法を少なくとも2つ取り入れたものは(実施例1〜4)、いずれも良好な結果が得られているのに対し、3つの方法のいずれも含まない比較例1および2は電極線と被加工物との間で短絡が発生するため、加工面に微細加工スジが発生し、また被加工物と電極線が短絡することにより放電回数が減少することによって加工速度も低下している。
【0068】
また、本発明の実施例の電極線は、比較例3の黄銅単一体(銅60%/亜鉛40%)の電極線より加工速度が約20%向上している。
【0069】
以上の実施例および比較例では、放電加工用電極線の外径が0.25mmのものが示されているが、いかなる外径のもの、例えば0.1〜0.3mmの外径の電極線においても同様の品質を確保することができる。
【0070】
【表1】
【符号の説明】
【0071】
1 ワイヤ放電加工用電極線
2 銅または銅合金からなる芯線
3 伸線により破砕された粒状の拡散合金層
4 亜鉛層
5 めっき母線
6 銅または銅合金からなる芯線
7 拡散合金層
8 亜鉛溶融めっき層
9 めっき前母線(芯線)
10 プレヒータ−
11 フラックス槽
12 溶融めっき装置
13 伸線装置
14 アニーラー
15 巻取り装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電によって被加工物(加工対象物)を加工するワイヤ放電加工に用いられるワイヤ放電加工用電極線およびその製造方法並びにその電極線を用いた放電加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工とは放電加工用電極線と被加工物との間で放電を起こさせ、放電によって引き起こされる熱エネルギーによって被加工物を切断していくもので、特に金型等の複雑な形状を有する金属加工に適している。
【0003】
このような放電加工において、a)加工速度が速いこと、b)被加工物の表面の仕上がり状態や寸法精度が良好であること、c)電極線と被加工物との相対位置を計測する位置決め性が良好であること、d)電極線を連続的に走行させた時の金属粉の発生量が少ないこと等が要求される。
【0004】
この電極線として、従来から広く使われているものに、電極線が亜鉛濃度35〜40重量%の黄銅単一体より製作されたものがある。この黄銅単一体の電極線は、亜鉛含有量を40重量%以上に増やすと、体心立方格子の金属間化合物を作り展延性や靭性が低下し、冷間伸線加工ができないという理由により製作できない。
【0005】
そこで、亜鉛濃度35〜40重量%の黄銅単一体の電極線よりも放電加工速度を速くしようとする研究が種々行われてきているが、電極線の組成中の亜鉛濃度が高いほど、放電加工速度を向上できることは良く知られている。
【0006】
この方法として、電極線の表層のみ亜鉛濃度が40重量%以上の銅−亜鉛合金層、あるいはその上に更に亜鉛層を設ける方法が知られている。
【0007】
日本特許第3718617号には、表層に亜鉛濃度が40重量%以上の銅−亜鉛合金層、あるいはその上に亜鉛層を設けた多孔性電極線が開示されている。
【0008】
この電極線表面にクラックを有する多孔性電極線は、溶融めっきにより銅含有芯線の表層に銅−亜鉛合金層、あるいはその上に亜鉛層を設け、伸線加工することによって表層に積極的にクラックを形成させ、電極線の表面積を大きくし、放電加工時に加工液との接触面積を増加させ、冷却速度を一層早くして加工速度を改善することが記載されている。
【0009】
さらに、国際公開番号WO2009/028117には上記発明の問題点を解決する方法として、次の構造の電極線が開示されている。
― 銅または銅合金の芯線に対して、その表面から溶融した亜鉛が熱拡散して形成された銅−亜鉛合金内層(亜鉛濃度50〜80重量%)と芯線自体の銅が溶融した亜鉛に拡散して形成された銅−亜鉛合金外層(亜鉛濃度81〜100重量%)からなる。(外層が拡散によって生成された2層の銅−亜鉛合金層の上に亜鉛層が設けられた3層構造)
― 拡散合金層よりも亜鉛層が厚い
― 亜鉛層の厚さは外径の1.2%以上であり、電極線の最表層にはクラックが存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】日本特許第3718617号
【特許文献2】WO2009/028117号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の銅または銅合金芯線の外周面に亜鉛層と拡散合金層を設け、伸線することによって得られる高速加工用電極線は、加工速度を向上することができるものの、加工速度以外の放電加工に必要な他の特性が悪くなるという問題点が生じる。
【0012】
また、電極線表層にクラックを形成するという技術も知られているが、電極線表層にクラックが形成されることによって、次のような問題点が生じる。
a)ワイヤ放電加工は、電極線と被加工物との間で放電を行わせながら、被加工物を溶断して糸鋸式の加工を行うものであるが、電極線の表層にクラックがあることによって、放電が不安定になり、被加工物の表面の仕上がり状態が悪くなる。
b)ワイヤ放電加工機に被加工物と電極線の相対位置を認識させるため、被加工物と電極線との間で電気的な導通を利用しているが、電極線の表層にクラックがあることによって接触面積が少なくなり、位置決め精度が悪くなる。
c)冷間伸線加工によって表層にクラックが生じるほど表層が脆いため、放電加工時に電極線を連続的に走行させた場合に加工機のガイド、プーリー等との摩擦・擦れ等により金属粉の発生量が多くなり、メンテナンス性を悪化させる。
d)表層にクラックがあることによって、取り扱い時または加工時に断線が発生し易くなり信頼性が悪くなる。
【0013】
それに対して拡散合金層を有していながら電極線の最表層にクラックを生じさせない対策も知られているが、この構造は亜鉛層の厚さを外径の1.2%以上にすることにより、拡散合金層のクラックを亜鉛層で被覆することによって、電極線の最表層にクラックを存在させなくする構造のために、最表層の亜鉛層がどうしても厚くなり、図4に示したように放電加工中に亜鉛の蒸発消耗によって線径が細り、入側と出側で加工溝巾の差が生じることにより、放電加工面がテーパー状になり、加工精度の面で問題が生じる。
【0014】
また、亜鉛層と拡散合金層が厚いことによりにより0.1−0.3mmφ等の要求される所定の直径の電極線を得るために、伸線加工すると亜鉛層を含めた拡散合金層が芯線から剥離し易くなる。
亜鉛層を含めた拡散合金層が剥離し易い電極線を用いてワイヤ放電加工を行うと、剥離片が電極線と被加工物の間でブリッジを形成することによって短絡が起こり、放電回数の減少による加工速度の低下や、放電が不安定になることにより、図5の模式図に示すように放電痕の集中による微細スジが、電極線の移動方向に沿って加工面に存在するようになる。
【0015】
本発明はこれらの問題点を解決するためになされたもので、亜鉛の消耗による加工精度の低下、または短絡による加工速度の低下や電極線の移動方向に沿って発生する加工面の微細スジを抑えた高速加工用の放電加工用電極線を提供することを目的とする。
【0016】
さらに本発明は、電極線を連続的に走行させた時の金属粉の発生量が少なく、かつ電極線と被加工物との相対位置を計測する位置決め性が良好で、取り扱い時または加工時に断線が発生することがない放電加工用電極線を提供することを目的としている。
【0017】
加えて本発明は、上記放電加工用電極線を製造するための方法および上記放電加工用電極線を用いた放電加工方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のワイヤ放電加工用電極線は、銅または銅合金からなる芯線の外周面に亜鉛溶融めっき層が形成され、前記亜鉛溶融めっき層と前記芯線の間で相互に熱拡散により生成された拡散合金層を有する母線が伸線加工されたワイヤ放電加工用電極線において、前記亜鉛溶融めっき層と前記拡散合金層の伸線加工時における展延性の差異に基づき、前記亜鉛溶融めっき層は、伸線されてクラックが存在しない亜鉛薄膜とされるとともに、前記拡散合金層は、伸線されて破砕された粒状物が前記芯線の外周面に埋め込まれ、前記亜鉛薄膜と拡散合金層が前記芯線と一体化されて剥離することが抑止されていることを特徴とする。
【0019】
さらに、本発明のワイヤ放電加工用電極線は、前記クラックが存在しない亜鉛薄膜は、伸線加工時に熱の影響を受けて亜鉛の展延性が良いとされる温度範囲で伸線されて形成されたものであることを特徴とする。
【0020】
さらに、本発明のワイヤ放電加工用電極線は、前記拡散合金層の破砕された粒状物は、大きな垂直方向の面圧を受けて前記芯線の外周面に深く埋め込まれていることを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明のワイヤ放電加工用電極線は、前記拡散合金層の破砕された粒状物は、伸線前断面積から伸線後断面積を差し引いた縮減断面積を伸線前断面積で除したものに100を乗じた伸線加工率の高い伸線加工を受けて、前記芯線の外周面に深く埋め込まれていることを特徴とする。
【0022】
ワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、銅または銅合金からなる芯線を、亜鉛を所定温度に保持しているめっき槽内を最外層が所定厚を超える亜鉛層とする浸漬時間通過せしめた後冷却することにより、前記芯線と前記亜鉛が接触する境界面で相互に熱拡散させて拡散合金層を生成させて電極線のめっき母線を製造し、該めっき母線を伸線加工するワイヤ放電加工用電極線の製造方法において、前記めっき母線を前記亜鉛の展延性が良いとされる温度範囲で伸線加工することにより、クラックが存在しない亜鉛薄膜を形成することを特徴とする。
【0023】
さらに、本発明のワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、前記めっき母線を前記亜鉛の展延性が良いとされる温度範囲で伸線加工するにあたり、ダイスと線材の境界に循環供給する伸線潤滑液の循環貯留槽内温度を75℃乃至100度に温度管理することを特徴とする。
【0024】
本発明のワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、銅または銅合金からなる芯線を、亜鉛を所定温度に保持しているめっき槽内を最外層が所定厚を超える亜鉛層とする浸漬時間通過せしめた後冷却することにより、前記芯線と亜鉛が接触する境界面で相互に熱拡散させて拡散合金層を生成させて電極線のめっき母線を製造し、該めっき母線を伸線加工するワイヤ放電加工用電極線の製造方法において、前記拡散合金層を破砕して形成した粒状物を芯線外周面に埋め込むことにより、前記亜鉛薄膜と拡散合金層が前記芯線と一体化して該薄膜が剥離することを抑止することを特徴とする。
【0025】
さらに、本発明のワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、前記伸線潤滑液として水を用いることにより、前記ダイスと前記線材の摩擦抵抗を増大してダイスと線材の境界に大きな垂直方向の面圧を発生させて、前記拡散合金層を確実に破砕して粒状物とし、該粒状物を芯線外周面に強く埋め込むことを特徴とする。
【0026】
さらに、本発明のワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、伸線前断面積から伸線後断面積を差し引いた縮減断面積を伸線前断面積で除したものに100を乗じた伸線加工率が所定値を下回らないように伸線加工制御することにより、前記拡散合金層を確実に破砕して粒状物とし、該粒状物を芯線外周面に深く埋め込むことを特徴とする。
【0027】
さらに、本発明のワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、前記所定値を94.0%以上としたことを特徴とする。
【0028】
本発明のワイヤ放電加工用電極線は、銅または銅合金からなる芯線の外周面に亜鉛溶融めっき層が形成されており、前記芯線と前記亜鉛溶融めっき層との間に熱拡散合金層を成形したワイヤ放電加工用電極線であって、前記熱拡散合金層は、破砕された粒状物が稠密状態で集合された層として形成されていることにより、前記芯線と前記亜鉛溶融めっき層とが前記熱拡散合金層により一体化されて剥離が抑止されることを特徴とする。
【0029】
さらに、本発明のワイヤ放電加工用電極線は、前記破砕された熱拡散合金層の粒状物と前記芯線との境界線長が、その境界線長を有する同一の電極線の長さより1.20倍以上長いことを特徴とする。
【0030】
本発明のワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、銅または銅合金を溶融亜鉛めっきすることにより、前記芯線と前記亜鉛溶融めっき層との間で相互に熱拡散させて拡散合金層を成形させて電極線のめっき母線を製造し、該めっき母線を伸線加工するワイヤ放電加工用電極線の製造方法において、伸線加工後の前記拡散合金層を破砕して形成した粒状物と前記芯線との境界線長が、その境界線長を有する同一の電極線の長さより1.20倍以上長いことを特徴とする。
【0031】
本発明の放電加工方法は、銅または銅合金からなる芯線の外周に亜鉛溶融めっき層が形成されており、前記芯線と前記亜鉛溶融めっき層との間に熱拡散合金層を成形したワイヤ放電加工用電極線によって放電加工する放電加工方法であって、前記熱拡散合金層は、破砕された粒状物が稠密状態で集合された層として形成されていることにより、前記芯線と前記亜鉛溶融めっき層とが前記熱拡散合金層により一体化されて剥離が抑止されているワイヤ放電加工用電極線を用いて放電加工することを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、簡単な設備および製造工程により、外周面の銅―亜鉛の熱拡散層の破砕された粒状物が稠密状態で集合された層として形成されて芯線に埋め込まれることにより、芯線と亜鉛溶融めっき層とが熱拡散合金層により一体化されて剥離を抑止できる。
【0033】
このことにより、放電加工中に被加工物と電極線との短絡を防止することができるため、放電回数の減少による加工速度の低下や、放電が不安定になることにより放電痕の集中による微細スジが電極線の移動方向に沿って加工面に発現することを抑止できる高速加工用電極線の提供が可能になる。
【0034】
また、従来の加工方法は、荒加工では外周面に亜鉛層と銅−亜鉛拡散合金層を有する構造の高速加工用電極線を、仕上げ加工には黄銅単一体の電極線を使用するなど、加工プロセス間で電極線を交換していたが、本発明の電極線は高速加工だけでなく、精密加工にも使用できるため、加工プロセス間の電極線の交換は必要なくなり、停止時間/交換時間が節約できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の電極線の断面図
【図2】本発明のめっき母線の断面図
【図3】めっき母線の径方向の亜鉛濃度および層厚を示す図
【図4】放電加工中の電極線の状態を示した図
【図5】加工面のスジの模式図
【図6】伸線加工中にめっき母線が受ける応力方向
【図7】溶融めっきおよび伸線装置を示す図
【図8】亜鉛層厚の異なる電極線の潤滑液温度と電極線外周面のクラック発生との関係図
【図9】電極線の亜鉛層厚と加工溝巾との関係図
【図10】拡散合金層の粒状物が芯線に埋め込まれた状態の写真(デジタルマイクロスコープ1000倍)
【図11】潤滑液種類と短絡発生回数との関係図
【図12】電極線の移動方向に発生するスジの写真(デジタルマイクロスコープ40倍)
【図13】短絡回数と加工速度の関係図
【図14】拡散合金層の粒状物が芯線に埋め込まれた状態の写真(デジタルマイクロスコープ1000倍)
【図15】加工率と短絡発生回数との関係図
【図16】伸線ダイス内部でのめっき母線の流れ図
【図17】潤滑液の違いによる拡散合金層の粒状物と芯線との境界線長との関係
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明のワイヤ放電加工用電極線は、外周面に拡散合金層とその上に亜鉛層を有する従来の電極線の前述の問題点を解決するためになされたものである。
【0037】
拡散合金層を有する従来技術のワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、銅または銅合金からなる芯線の外周面に電気めっきまたは溶融めっきにより、亜鉛の外側金属層を形成し、この線材を熱処理することによって、亜鉛めっき層と芯線の間で相互に熱拡散により生成された拡散合金層を有する線材を伸線加工により断面積を縮小して得られる。
【0038】
ここで、問題は、拡散合金層が体心立方格子の金属間化合物である亜鉛濃度40%以上の銅−亜鉛拡散合金層になっており、硬く、脆い性質のため、芯線と拡散合金層の変形特性が異なることによって伸線加工中に拡散合金層が砕けて電極線表面にクラックを発現させてしまい、破砕した拡散合金層が芯線から剥離して、被加工物と電極線との短絡を起し、加工速度の低下や加工面の品質低下を起こしてしまうことである。
【0039】
本出願人は、改善された拡散合金層を有する電極線を実現するために研究を重ねるうちに、次の3つの方法を用いることにより、芯線と亜鉛溶融めっき層とが熱拡散合金層により一体化されて剥離が抑止され、かつ電極線表面にクラックが存在しない電極線が経済的に得られることを発見した。
(1)めっき母線の亜鉛層を薄くしても、亜鉛層が拡散合金層のクラックを覆うことにより、電極線最表面にクラックが発現しないことを可能にするため、伸線加工中の亜鉛の温度を亜鉛の展延性が良い100〜150℃の温度で伸線加工を行う。
(2)伸線ダイスとめっき母線の摩擦抵抗を増大してダイス壁面と母線の境界に大きな垂直方向の面圧を発生させて、拡散合金層を確実に破砕して粒状物とし、その粒状物を芯線外周面に楔のように深く埋め込ませることを目的として、通常伸線に使用されている油性の伸線潤滑液よりも摩擦抵抗が大きくなる水を伸線潤滑液に用いる。
(3)拡散合金層が芯線に埋め込まれる時間を長く、また、ダイスを通過するパスの回数を多くして、拡散合金層を確実に破砕して粒状物とし、その粒状物を芯線外周面に深く埋め込ませることを目的として、伸線加工率を大きくして伸線加工を行う。
【0040】
上記(1)の方法は、WO2009/028117号によれば、伸線加工において電極線表面にクラックを生じさせないためには、亜鉛層の厚さは、電極線の外径の1.2%以上を必要とすると記載されている。しかし、亜鉛層が厚いと亜鉛の蒸発消耗によって加工精度が悪くなるのと、伸線加工で剥離片が発生し易くなるという問題が生じる。
【0041】
本発明は、亜鉛層が薄膜でも電極線表面にクラックを生じさせないため、亜鉛の展延性が良好な温度で伸線加工を行うことによって解決したものである。
【0042】
亜鉛は常温では脆いが、100〜150℃では展性や延性が増大する。この性質を利用して、めっき母線の亜鉛層が100〜150℃の温度で伸線されるように、めっき母線と伸線ダイスの壁面での摩擦熱の発生による温度上昇を見込んで、伸線潤滑液の温度を75℃以上100℃以下にすることにより、亜鉛層が拡散合金層のクラックを完全に覆うことにより電極線最表面にクラックが発現しないようにしたものである。
【0043】
上記(2)の方法は、油性の伸線潤滑液よりも摩擦抵抗が大きくなる水を伸線潤滑液に用いることにより、伸線加工で破砕した拡散合金層の粒状物が芯線の銅または銅合金に深く埋め込まれることによって、亜鉛薄膜と熱拡散合金層が芯線と一体化して剥離しないようにしたものである。
【0044】
金属間化合物である体心立方格子の拡散合金層は、展延性がないために伸線加工中に破砕して粒状物になり、芯線から亜鉛層と拡散合金層が剥離し易くなる。放電加工中に亜鉛層と拡散合金層が剥離すると、電極線と被加工物が短絡し、放電回数の減少による加工速度の低下や、放電が不安定になることにより微細スジが電極線の移動方向に沿って加工面に発生するようになる。
本発明は、拡散合金層の破砕した粒状物と芯線との境界線長が、その境界線長を有する同一の電極線の長さより1.20倍以上に長くなるように、拡散合金層の粒状物を芯線に深く埋め込むことによって、亜鉛薄膜と拡散合金層を芯線と一体化させ、芯線からの亜鉛薄膜と拡散合金層の剥離を抑止する構造のワイヤ放電加工用電極線とその製造方法、およびその電極線を用いた放電加工方法である。
【0045】
一体化させる原理は次による。
伸線加工中にめっき母線が受ける応力は、図6に示すように母線内部と母線表層部では異なる。
伸線加工中は、めっき母線表層部では、伸線ダイス拘束により伸線ダイスとめっき母線の境界に大きな垂直方向の面圧が発生する。これに対して、めっき母線内部では引き抜き力の影響による引張応力が作用する。
図16に伸線中に、ダイス内部でどのようにめっき母線が変形していくかのメタルフローを模式的に示す。
図16の伸線前の格子線の縦軸は伸線加工後に湾曲を起している(先進現象)。これは、めっき母線と伸線ダイス壁間の摩擦が原因であり、摩擦抵抗が大きいほど、表層部は垂直方向の面圧を受けて、長さ方向の変形量は中心部の変形量に比べて小さくなる。従って、めっき母線の表層部に発生する垂直方向の面圧を大きくするためには摩擦力(変形抵抗)が大きい方が良い。
【0046】
この原理を活用して、接触面の摩擦力を大きくして、破砕された粒状物を芯線に埋め込む面圧を大きくし、深く埋め込むために、伸線潤滑液として通常用いられている油性タイプ潤滑液(振り子式測定法による動摩擦係数 約0.1)を用いずに、油性タイプ潤滑液よりも潤滑機能の低い水(振り子式測定法による動摩擦係数 約0.36)を使用するものである。
【0047】
上記(3)の方法は、伸線加工における加工率を94.0%以上にすることによって、伸線加工で破砕した拡散合金層の粒状物が、芯線に深く埋め込まれることによって、亜鉛層と拡散合金層が芯線と一体化して剥離を抑止したものである。
【0048】
加工率は下記の式によって求まる。
加工率(%)=〔(伸線前断面積―伸線後断面積)/伸線前断面積〕×100
【0049】
拡散合金層は芯線と変形特性が異なるために(拡散合金層の方が伸度は低い)、伸線加工により拡散合金層が破砕して粒状物になり、亜鉛薄膜と拡散合金層が芯線から剥離し易くなる。
【0050】
この方法は伸線前の初期のめっき母線外径と伸線後の最終製品径の差を大きくして(加工率を高めることによって)、破砕した拡散合金層が芯線に埋め込まれる時間を長くすること、またダイスを通過するパスの回数を多くすることによって、伸線加工後の拡散合金層を破砕して形成した粒状物と芯線との境界線長が、その境界線長を有する同一の電極線の長さより1.20倍以上長くすることにより拡散合金層の粒状物を芯線に深く埋め込ませることによって、亜鉛層と拡散合金層が芯線と一体化して剥離を抑止したものである。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図7は本発明のワイヤ放電加工用電極線1の製造方法を実施するための設備を模式的に示したもので、めっき母線5の伸線装置14とアニーラー15は、図示のように巻取り装置16の前に設置しても良いし、又は本設備とは別に設置して、巻き取った後に伸線加工しても良い。
【0052】
また、溶融めっきの温度と浸漬時間を調整することによって、拡散合金層である銅−亜鉛合金層7と亜鉛層8の層厚を変化させることが可能であり、その傾向は次の通りである。
(1) 拡散合金層(銅−亜鉛合金層)
・同一温度であれば、浸漬時間が短いほど拡散合金層が薄くなる。
・同一浸漬時間であれば、温度が低いほど拡散合金層が薄くなる。
(2) 亜鉛層
・同一温度であれば、浸漬時間が短いほど亜鉛層が厚くなる。
・同一浸漬時間であれば、温度が低いほど亜鉛層が厚くなる。
【0053】
本発明の電極線1を得るためのめっき母線5は、上記知見に基づいて創作されたもので、溶融めっきの温度や浸漬時間を適切に選んで、拡散合金層7の厚さ、亜鉛層8の厚さを調整することにより、図3に示すような亜鉛濃度勾配を有する銅または銅合金からなる芯線6、拡散合金層7、亜鉛溶融めっき層8の3層構成のめっき母線5を得ることができる。
【0054】
次いでめっき母線5を伸線加工して、その断面を縮小することにより、図1に示したような銅または銅合金からなる芯線2と伸線により破砕された粒状の拡散合金層3が芯線に埋め込まれた層および亜鉛層4から構成される所定の直径のワイヤ放電加工用電極線1が得られる。
【0055】
本発明の電極線1は、伸線工程における次の3つの方法を組み合わせることによって本発明の構造の高速加工用電極線1が得られるが、まず、最初に個々の方法による効果について記載する。
【0056】
なお、放電加工特性は、三菱電機製ワイヤ放電加工機 SX10を使用して、荒加工条件を用いて実施した。(被加工物:材質SKD−11 厚さ50mm)
【0057】
【表2】
【0058】
方法1の効果
この方法による効果を確認するため、溶解、鋳造、伸線工程を経た線径0.9mmの黄銅線(銅60%/亜鉛40%)のめっき前母線9を図7の製造設備を使用して、溶融めっき浴の温度や浸漬時間を調整し、拡散合金層7が同一厚で亜鉛層8の異なる下表の3種類のめっき母線5を製造した。
【0059】
【表3】
【0060】
次に、これらの3種類のめっき母線5を3種類の温度の異なる油性タイプ伸線潤滑液を用いて伸線加工をして、亜鉛層4厚の割合が異なる3種類(亜鉛層厚の割合が外径の0.6%、1.2%、2.4%)の直径0.25mmφの電極線1を製作した。
このようにして製造した9種類の電極線について、次の評価を行った。
a)亜鉛層厚の異なる電極線の潤滑液温度と伸線加工後の電極線外周面のクラック発生との関係
b)電極線の亜鉛層厚と加工溝幅との関係
【0061】
評価結果について図8、図9に示す。
図8から明らかなように、潤滑液温度が75℃及び100℃の場合は、いずれの亜鉛層厚でも伸線加工後に電極線表面にクラックが発現しないが、潤滑液温度が20℃の場合は、亜鉛層厚が薄い(外径の0.6%)めっき母線5は伸線加工後に電極線表面にクラックが発現してしまう。
また、図9から明らかなように、亜鉛層厚が厚い程、亜鉛の蒸発温度が低いために放電開始と同時に蒸発・飛散してしまうことによって、図4に示すように線径が細り、入り側と出側の被加工物の加工溝巾に差が生じてしまうため、放電加工面がテーパー状になってしまい加工精度が悪くなる。この結果から、亜鉛層厚の薄いめっき母線を伸線潤滑液の温度を75℃以上100℃以下で伸線加工することによって、加工精度が良く、電極線の外周面にクラックが生じない電極線1が得られる。
【0062】
方法2の効果:
この方法による効果を確認するため、方法1と同じ拡散合金層7が同一厚で亜鉛層厚8が異なる3種類のめっき母線5を製造した。次に、これらのめっき母線5を伸線潤滑液として温度20℃の油性タイプ潤滑液および水を用いて伸線加工を行い、めっき層厚(亜鉛層4+拡散合金層3)が異なる3種類(めっき層厚の割合が外径の1.5%、2.1%、3.3%)の直径0.25mmφの電極線1を製作した。
このようにして製造した6種類の電極線について、次の評価を行った。
a)潤滑液種類と拡散合金層の粒状物が芯線に埋め込まれた状態
b)めっき層厚の異なる電極線の潤滑液種類と短絡回数との関係
c)短絡の有無と加工面のスジ発生との関係
d)短絡回数と加工速度との関係
e)潤滑液種類の違いによる拡散合金層の粒状物と芯線との境界線長との関係
【0063】
評価結果について図10、図11、図12、図13、図17に示す。
図10の写真に示すように伸線潤滑液に水を用いた電極線は拡散合金層3の粒状物が芯線2に深く埋め込まれた状態であるが、油性タイプ伸線潤滑液を用いた電極線1は拡散合金層3の粒状物が芯線2から浮いた状態である。
図17に図10の拡散合金層3の粒状物が芯線2に深く埋め込まれた状態の電極線、および拡散合金層3の粒状物が芯線2から浮いた状態の電極線について、拡散合金層粒状物と芯線との境界線長を示す。
境界線長の測定はKEYENCE社製デジタルマイクロスコープVHX−900の周囲長計測機能を用いて実施した。
測定結果は、図17に示すように、破砕された拡散合金層3の粒状物が芯線2に深く埋め込まれた状態の境界線長は、その境界線長を有する同一の電極線より1.20〜1.22倍長くなっているのに対して、破砕された拡散合金層3の粒状物が芯線2から浮いた状態の境界線長は、その境界線長を有する同一の電極線の長さに対して1.10〜1.11倍であり、拡散合金層3の粒状物が深く埋め込まれている電極線の方が境界線長は長くなる。
また、図11に示すように、水を用いて伸線加工した境界線長の長い電極線はめっき厚が厚くても、放電加工中に亜鉛層と拡散合金層が芯線と一体化して剥離しないため、電極線と被加工物間で短絡が発生しない。
図12に示すように短絡が発生する電極線(めっき厚は外径の2.1%、油性タイプ潤滑液使用)は、加工面に放電痕の集中による微細スジが発生するが、短絡が発生しない電極線(めっき厚は外径の2.1%、水潤滑液使用)は加工面に微細スジが発生しない。
図13に示すように短絡回数が多いほど、放電回数が減少することにより加工速度が低下する。
この結果から、伸線潤滑液に水を用いることによって短絡の発生を抑止できることにより、加工面にスジの発生が無く、加工速度低下が生じない電極線が得られる。
【0064】
方法3の効果:
この方法による効果を確認するため、最終製品径が0.25mmφの電極線1を製作するにあたって、加工率が92.3%、93.8%、95.7%、97、8%になるように選定した直径のめっき前母線9を用いて、方法1と同じ方法でめっき母線5を製造した。次に、これらのめっき母線5を温度20℃の油性タイプ潤滑液を用いて伸線加工して、めっき厚(亜鉛層4+拡散合金層3)が異なる3種類(外径の1.5%、2.1%、3.3%)の直径0.25mmφの電極線を製作した。
このようにして製造した12種類の電極線について、次の評価を行った。
a)加工率と拡散合金層の粒状物が芯線に埋め込まれた状態
b)伸線加工率と短絡回数との関係
b)短絡の有無と加工面のスジ発生との関係
c)短絡回数と加工速度との関係
e)伸線加工率による拡散合金層の粒状物と芯線との境界線長との関係
【0065】
評価結果について図14、図15に示す。
図14の写真はいずれも外径に対するめっき厚さが2.1%の母線を伸線加工して製作した電極線である。伸線加工率が93.8%、95.7および97.8%の電極線1は温度20℃の油性タイプ潤滑液を用いても、拡散合金層の粒状物が芯線2に深く埋め込まれた状態であるが、加工率が92.3%の電極線1は(外径に対するめっき厚さ割合2.1%および3.3%の電極線)拡散合金層3の粒状物が芯線2から浮いた状態である。
図14の上記拡散合金層3の粒状物が芯線2に深く埋め込まれている状態の電極線、および上記拡散合金層3の粒状物が芯線2から浮いた状態の電極線について、拡散合金層粒状物と芯線との境界線長を方法2と同方法で測定した。測定結果は、破砕された拡散合金層3の粒状物が芯線に深く埋め込まれた状態の境界線長は、その境界線長を有する同一の電極線の長さに対して1.21〜1.23倍長くなっているが、破砕された拡散合金層3の粒状物が芯線2から浮いた状態の境界線長は、その境界線長を有する同一の電極線の長さに対して1.10〜1.12倍であり、加工率の高い電極線の方が境界線長は長くなる。
また、図15に示すように、伸線加工率を高くして伸線加工した境界線長の長い電極線はめっき厚が厚くても、放電加工中に亜鉛層と拡散合金層が芯線と一体化して剥離しないため、電極線と被加工物間で短絡が発生しない。
この結果から、加工率を高くして伸線加工をすることにより、短絡の発生を抑止できることができ、加工面にスジの発生が無く、加工速度の低下を生じない電極線が得られる。
【0066】
本発明は、前述の3つの方法を組み合わせた多数の形態によって実施することができる。
表1にいくつかの本発明の実施例を示す。ここでの実施例は3つの方法の2つ乃至3つを含んだものであり(本発明が適用された条件は太字・斜線で示す)、比較例は3つの方法のいずれも含まないものである。
【0067】
表1から明らかなように、本発明の方法を少なくとも2つ取り入れたものは(実施例1〜4)、いずれも良好な結果が得られているのに対し、3つの方法のいずれも含まない比較例1および2は電極線と被加工物との間で短絡が発生するため、加工面に微細加工スジが発生し、また被加工物と電極線が短絡することにより放電回数が減少することによって加工速度も低下している。
【0068】
また、本発明の実施例の電極線は、比較例3の黄銅単一体(銅60%/亜鉛40%)の電極線より加工速度が約20%向上している。
【0069】
以上の実施例および比較例では、放電加工用電極線の外径が0.25mmのものが示されているが、いかなる外径のもの、例えば0.1〜0.3mmの外径の電極線においても同様の品質を確保することができる。
【0070】
【表1】
【符号の説明】
【0071】
1 ワイヤ放電加工用電極線
2 銅または銅合金からなる芯線
3 伸線により破砕された粒状の拡散合金層
4 亜鉛層
5 めっき母線
6 銅または銅合金からなる芯線
7 拡散合金層
8 亜鉛溶融めっき層
9 めっき前母線(芯線)
10 プレヒータ−
11 フラックス槽
12 溶融めっき装置
13 伸線装置
14 アニーラー
15 巻取り装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅合金からなる芯線の外周面に亜鉛溶融めっき層が形成され、前記亜鉛溶融めっき層と前記芯線の間で相互に熱拡散により生成された拡散合金層を有する母線が伸線加工されたワイヤ放電加工用電極線において、
前記亜鉛溶融めっき層と前記拡散合金層の伸線加工時における展延性の差異に基づき、前記亜鉛溶融めっき層は、伸線されてクラックが存在しない亜鉛薄膜とされるとともに、前記拡散合金層は、伸線されて破砕された粒状物が前記芯線の外周面に埋め込まれ、前記亜鉛薄膜と拡散合金層が前記芯線と一体化されて剥離することが抑止されていることを特徴とするワイヤ放電加工用電極線。
【請求項2】
前記クラックが存在しない亜鉛薄膜は、伸線加工時に熱の影響を受けて亜鉛の展延性が良いとされる温度範囲で伸線されて形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載されたワイヤ放電加工用電極線。
【請求項3】
前記拡散合金層の破砕された粒状物は、大きな垂直方向の面圧を受けて前記芯線の外周面に深く埋め込まれていることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれかに記載されたワイヤ放電加工用電極線。
【請求項4】
前記拡散合金層の破砕された粒状物は、伸線前断面積から伸線後断面積を差し引いた縮減断面積を伸線前断面積で除したものに100を乗じた伸線加工率の高い伸線加工を受けて、前記芯線の外周面に深く埋め込まれていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載されたワイヤ放電加工用電極線。
【請求項5】
銅または銅合金からなる芯線を、亜鉛を所定温度に保持しているめっき槽内を最外層が所定厚を超える亜鉛層とする浸漬時間通過せしめた後冷却することにより、前記芯線と前記亜鉛が接触する境界面で相互に熱拡散させて拡散合金層を生成させて電極線のめっき母線を製造し、該めっき母線を伸線加工するワイヤ放電加工用電極線の製造方法において、
前記めっき母線を前記亜鉛の展延性が良いとされる温度範囲で伸線加工することにより、クラックが存在しない亜鉛薄膜を形成することを特徴とするワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
【請求項6】
前記めっき母線を前記亜鉛の展延性が良いとされる温度範囲で伸線加工するにあたり、ダイスと線材の境界に循環供給する伸線潤滑液の循環貯留槽内温度を75℃乃至100度に温度管理することを特徴とする請求項5に記載されたワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
【請求項7】
銅または銅合金からなる芯線を、亜鉛を所定温度に保持しているめっき槽内を最外層が所定厚を超える亜鉛層とする浸漬時間通過せしめた後冷却することにより、前記芯線と亜鉛が接触する境界面で相互に熱拡散させて拡散合金層を生成させて電極線のめっき母線を製造し、該めっき母線を伸線加工するワイヤ放電加工用電極線の製造方法において、
前記拡散合金層を破砕して形成した粒状物を芯線外周面に埋め込むことにより、前記亜鉛薄膜と拡散合金層が前記芯線と一体化して該薄膜が剥離することを防止することを特徴とするワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
【請求項8】
前記伸線潤滑液として水を用いることにより、前記ダイスと前記線材の摩擦係数を増大してダイスと線材の境界に大きな垂直方向の面圧を発生させて、前記拡散合金層を確実に破砕して粒状物とし、該粒状物を芯線外周面に強く埋め込むことを特徴とする請求項7に記載されたワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
【請求項9】
伸線前断面積から伸線後断面積を差し引いた縮減断面積を伸線前断面積で除したものに100を乗じた伸線加工率が所定値を下回らないように伸線加工制御することにより、前記拡散合金層を確実に破砕して粒状物とし、該粒状物を芯線外周面に深く埋め込むことを特徴とする請求項7に記載されたワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
【請求項10】
前記所定値を94.0%以上としたことを特徴とする請求項9に記載されたワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
【請求項11】
銅または銅合金からなる芯線の外周面に亜鉛溶融めっき層が形成されており、前記芯線と前記亜鉛溶融めっき層との間に熱拡散合金層を成形したワイヤ放電加工用電極線であって、前記熱拡散合金層は、破砕された粒状物が稠密状態で集合された層として形成されていることにより、前記芯線と前記亜鉛溶融めっき層とが前記熱拡散合金層により一体化されて剥離が抑止されることを特徴とするワイヤ放電加工用電極線。
【請求項12】
前記破砕された熱拡散合金層の粒状物と前記芯線との境界線長が、その境界線長を有する同一の電極線の長さより1.20倍以上長いことを特徴とする請求項11に記載されたワイヤ放電加工用電極線。
【請求項13】
銅または銅合金を溶融亜鉛めっきすることにより、前記芯線と前記亜鉛溶融めっき層との間で相互に熱拡散させて拡散合金層を成形させて電極線のめっき母線を製造し、該めっき母線を伸線加工するワイヤ放電加工用電極線の製造方法において、
伸線加工後の前記拡散合金を破砕して形成した粒状物と前記芯線との境界線長が、その境界線長を有する同一の電極線の長さより1.20倍以上長くなることを特徴とするワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
【請求項14】
銅または銅合金からなる芯線の外周に亜鉛溶融めっき層が形成されており、前記芯線と前記亜鉛溶融めっき層との間に熱拡散合金層を成形したワイヤ放電加工用電極線によって放電加工する放電加工方法であって、前記熱拡散合金層は、破砕された粒状物が稠密状態で集合された層として形成されていることにより、前記芯線と前記亜鉛溶融めっき層とが前記熱拡散合金層により一体化されて剥離が抑止されることを特徴とするワイヤ放電加工用電極線を用いて加工する放電加工方法。
【請求項1】
銅または銅合金からなる芯線の外周面に亜鉛溶融めっき層が形成され、前記亜鉛溶融めっき層と前記芯線の間で相互に熱拡散により生成された拡散合金層を有する母線が伸線加工されたワイヤ放電加工用電極線において、
前記亜鉛溶融めっき層と前記拡散合金層の伸線加工時における展延性の差異に基づき、前記亜鉛溶融めっき層は、伸線されてクラックが存在しない亜鉛薄膜とされるとともに、前記拡散合金層は、伸線されて破砕された粒状物が前記芯線の外周面に埋め込まれ、前記亜鉛薄膜と拡散合金層が前記芯線と一体化されて剥離することが抑止されていることを特徴とするワイヤ放電加工用電極線。
【請求項2】
前記クラックが存在しない亜鉛薄膜は、伸線加工時に熱の影響を受けて亜鉛の展延性が良いとされる温度範囲で伸線されて形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載されたワイヤ放電加工用電極線。
【請求項3】
前記拡散合金層の破砕された粒状物は、大きな垂直方向の面圧を受けて前記芯線の外周面に深く埋め込まれていることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれかに記載されたワイヤ放電加工用電極線。
【請求項4】
前記拡散合金層の破砕された粒状物は、伸線前断面積から伸線後断面積を差し引いた縮減断面積を伸線前断面積で除したものに100を乗じた伸線加工率の高い伸線加工を受けて、前記芯線の外周面に深く埋め込まれていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載されたワイヤ放電加工用電極線。
【請求項5】
銅または銅合金からなる芯線を、亜鉛を所定温度に保持しているめっき槽内を最外層が所定厚を超える亜鉛層とする浸漬時間通過せしめた後冷却することにより、前記芯線と前記亜鉛が接触する境界面で相互に熱拡散させて拡散合金層を生成させて電極線のめっき母線を製造し、該めっき母線を伸線加工するワイヤ放電加工用電極線の製造方法において、
前記めっき母線を前記亜鉛の展延性が良いとされる温度範囲で伸線加工することにより、クラックが存在しない亜鉛薄膜を形成することを特徴とするワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
【請求項6】
前記めっき母線を前記亜鉛の展延性が良いとされる温度範囲で伸線加工するにあたり、ダイスと線材の境界に循環供給する伸線潤滑液の循環貯留槽内温度を75℃乃至100度に温度管理することを特徴とする請求項5に記載されたワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
【請求項7】
銅または銅合金からなる芯線を、亜鉛を所定温度に保持しているめっき槽内を最外層が所定厚を超える亜鉛層とする浸漬時間通過せしめた後冷却することにより、前記芯線と亜鉛が接触する境界面で相互に熱拡散させて拡散合金層を生成させて電極線のめっき母線を製造し、該めっき母線を伸線加工するワイヤ放電加工用電極線の製造方法において、
前記拡散合金層を破砕して形成した粒状物を芯線外周面に埋め込むことにより、前記亜鉛薄膜と拡散合金層が前記芯線と一体化して該薄膜が剥離することを防止することを特徴とするワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
【請求項8】
前記伸線潤滑液として水を用いることにより、前記ダイスと前記線材の摩擦係数を増大してダイスと線材の境界に大きな垂直方向の面圧を発生させて、前記拡散合金層を確実に破砕して粒状物とし、該粒状物を芯線外周面に強く埋め込むことを特徴とする請求項7に記載されたワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
【請求項9】
伸線前断面積から伸線後断面積を差し引いた縮減断面積を伸線前断面積で除したものに100を乗じた伸線加工率が所定値を下回らないように伸線加工制御することにより、前記拡散合金層を確実に破砕して粒状物とし、該粒状物を芯線外周面に深く埋め込むことを特徴とする請求項7に記載されたワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
【請求項10】
前記所定値を94.0%以上としたことを特徴とする請求項9に記載されたワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
【請求項11】
銅または銅合金からなる芯線の外周面に亜鉛溶融めっき層が形成されており、前記芯線と前記亜鉛溶融めっき層との間に熱拡散合金層を成形したワイヤ放電加工用電極線であって、前記熱拡散合金層は、破砕された粒状物が稠密状態で集合された層として形成されていることにより、前記芯線と前記亜鉛溶融めっき層とが前記熱拡散合金層により一体化されて剥離が抑止されることを特徴とするワイヤ放電加工用電極線。
【請求項12】
前記破砕された熱拡散合金層の粒状物と前記芯線との境界線長が、その境界線長を有する同一の電極線の長さより1.20倍以上長いことを特徴とする請求項11に記載されたワイヤ放電加工用電極線。
【請求項13】
銅または銅合金を溶融亜鉛めっきすることにより、前記芯線と前記亜鉛溶融めっき層との間で相互に熱拡散させて拡散合金層を成形させて電極線のめっき母線を製造し、該めっき母線を伸線加工するワイヤ放電加工用電極線の製造方法において、
伸線加工後の前記拡散合金を破砕して形成した粒状物と前記芯線との境界線長が、その境界線長を有する同一の電極線の長さより1.20倍以上長くなることを特徴とするワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
【請求項14】
銅または銅合金からなる芯線の外周に亜鉛溶融めっき層が形成されており、前記芯線と前記亜鉛溶融めっき層との間に熱拡散合金層を成形したワイヤ放電加工用電極線によって放電加工する放電加工方法であって、前記熱拡散合金層は、破砕された粒状物が稠密状態で集合された層として形成されていることにより、前記芯線と前記亜鉛溶融めっき層とが前記熱拡散合金層により一体化されて剥離が抑止されることを特徴とするワイヤ放電加工用電極線を用いて加工する放電加工方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−177886(P2011−177886A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85256(P2011−85256)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【分割の表示】特願2010−175130(P2010−175130)の分割
【原出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(390002598)沖電線株式会社 (45)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【分割の表示】特願2010−175130(P2010−175130)の分割
【原出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(390002598)沖電線株式会社 (45)
【Fターム(参考)】
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