説明

ワイヤ放電加工装置およびワイヤ放電加工方法

【課題】 上述のような特許文献に記載されている表面処理方法および従来の表面処理方法では、処理対象部分が狭く深いスリット形状の内面や、小径の深穴の内面である場合などにおいて、改質物質が処理部分の奥深くまで到達できず、未処理部分を生じ、処理可能な形状に制約があるという問題があった。
【解決手段】 ワイヤ電極と、前記ワイヤ電極に対向させて配置された工作物との間にパルス状の電圧を印加する加工電源と、前記ワイヤ電極に前記加工電源からの電流を給電する給電手段と、ワイヤ電極と工作物との間に、ガスあるいは加工液を供給する処理雰囲気制御手段と、前記ワイヤ電極をワイヤ電極の長さ方向に対して垂直方向に振動させるワイヤ電極加振手段と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワイヤ放電加工装置に関し、特に、処理雰囲気が気体中(以下では気中雰囲気という)において、ワイヤ状の工具電極と工作物との間に放電を発生させることにより、放電により溶融したワイヤ電極材料を工作物へ移行・付着させ、ワイヤ電極材料を主成分とする物質で工作物処理面を改質するワイヤ放電加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パンチやダイなどの金型は使用するに伴い、加工材料との摩擦により次第に摩耗していく。この摩耗を低減するために、金型には、材料や工具との接触面に耐摩耗性物質を被覆する表面処理が行われる。表面処理方法には溶射や蒸着処理などがあげられるが、放電加工を使用した表面処理方法が提案されている。
【0003】
例えば、大気中にて放電加工することにより、電極材料が溶融し、大気中の窒素成分と電極材料とで生成される窒化物を工作物処理面に被覆する試みが提案されている。この場合、被覆材料の元となる電極には、一般に形彫放電加工に使用されるような棒状電極を用い、この電極の片側を支持して、その電極の上下による極間(電極と工作物との間を意味する。以下同様)の接近・解離動作と電極の回転動作とによって、工作物の所定の面を被覆処理する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
上述のように、特許文献1では、棒状電極による放電被覆方法については述べられているが、線径の細い場合、すなわち、ワイヤ放電加工に使用されるワイヤ電極を使用した場合の被覆方法については、述べられていない。
【0005】
すなわち、上述の特許文献による被覆処理の方法は、直径が太く、片側支持しても剛性が維持できる形状を電極にした場合に有効であり、片側支持では剛性が得られないようなワイヤ電極を使用する場合には、前述の特許文献の方式は適用できない。
【0006】
また、液中にてワイヤ放電加工による荒加工を実施した後、中仕上げ加工としてのセカンドカットを大気中にて行う方法が示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−27469号公報
【特許文献2】特開2001−105239号公報
【0008】
しかしながら、上記特許文献2では加工面の真直形状制御について述べられているだけで、大気中でのワイヤ放電加工による窒化物形成については全く示されておらず、したがって、ワイヤ放電加工を実施して所定形状を加工した後、ワイヤ放電加工の軌跡を用いて加工面に対して耐摩耗性物質を被覆する方法については不明である。
【0009】
ワイヤ放電加工による改質層形成では、工作物処理面に改質層を形成する物質をワイヤ側から供給しなければならない。このことは、通常のワイヤ放電加工に比較してさらに積極的にワイヤを消耗させる必要があり、その結果、ワイヤ断線が発生する危険性が増大する。
【0010】
上記特許文献1では、電極が形彫り放電加工に使用されるような径の太いもののため、ワイヤ断線現象は考慮されておらず、また、上記特許文献2では、加工面の真直精度改善を目的とするゆえに、改質物の付着の影響は考慮されておらず、つまりは、改質物が付着しないような条件で工作物処理面を除去加工する方法である。すなわち、これら2つの文献に記載された技術を組み合わせても、気中雰囲気におけるワイヤ放電加工によって改質層を形成することは不可能であると考えられる。
【0011】
また、ワイヤ電極材料がもととなって工作物処理面に付着する改質物によって、工作物処理面は局所的に突起物が形成された状態となり、通常のワイヤ放電加工のように新しいワイヤ電極が供給される状態で改質物付着を継続すると、改質物が堆積して形成された突起部分における極間距離が狭くなり、その位置において放電が発生しやすくなる。なお、前述の「新しいワイヤ電極」とは、放電加工にまだ使用されていないワイヤ電極のことである(以下同様)。
【0012】
その結果、はじめに改質物が付着した位置に付着物が集中して堆積するようになり、その周辺の極間距離がより狭くなり、やがて、ワイヤ電極と付着物とが接触するまでに堆積し、ワイヤ電極を工作物処理面から離した位置に移動せざるを得なくなる。そうすると、ワイヤ電極が対向しているその他の被処理面では、通常の加工に要する時間に比較して長時間を経過しても放電することがなく、付着物、すなわち、改質層が形成されない状態となる。
【0013】
また、何らかの方法で前述の状態を回避して改質物を分散させて付着することができたとしても、工作物の板厚が厚い場合には、改質層を形成させたい工作物処理面に対して、単純にワイヤ電極を対向させて走行させただけでは、ワイヤ電極が時々刻々と被加工面の輪郭に沿って移動していくために、ワイヤ電極が対向する工作物処理面の全面に、均一に改質層を形成すことが困難となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のような特許文献に記載されている表面処理方法および従来の表面処理方法では、処理対象部分が狭く深いスリット形状の内面や、小径の深穴の内面である場合などにおいて、改質物質が処理部分の奥深くまで到達できず、未処理部分を生じ、処理可能な形状に制約があるという問題があった。
【0015】
また、工作物処理面に付着する改質物が集中して堆積することによって生ずる突起物により、その部分においてワイヤ電極と工作物処理面との間隙、すなわち極間距離が狭くなるために、その位置でしか改質物が形成されないという問題があった。
【0016】
また、工作物の板厚が厚い場合、改質物を分散堆積させることで形成される改質層を作成する場合、工作物処理面に対して単純にワイヤ電極を対向させ、そのワイヤ電極を走行させるだけでは、ワイヤ電極が対向する工作物処理面の全面に対して均一に改質層を形成することが困難であった。
【0017】
本発明は、かかる問題点を解決するためになされたものであり、従来の表面処理方法では、均一な改質層を形成することが困難であった微細金型や微細精密部品に対して、ワイヤ放電加工によってムラのない表面改質処理を実現するものであり、このような表面改質処理を実現できる処理装置および処理方法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のワイヤ放電加工装置は、ワイヤ電極と、前記ワイヤ電極に対向させて配置された工作物との間にパルス状の電圧を印加する加工電源と、前記ワイヤ電極に前記加工電源からの電流を給電する給電手段と、極間に、ガスあるいは加工液を供給する処理雰囲気制御手段と、前記ワイヤ電極をワイヤ電極の長さ方向に対して垂直方向に振動させるワイヤ電極加振手段と、を備えたものである。
【0019】
また、本発明のワイヤ放電加工方法は、ワイヤ電極と、前記ワイヤ電極に対向させて配置された工作物との間にパルス状の電圧を印加する加工電源と、前記ワイヤ電極に前記加工電源からの電流を給電する給電手段と、極間にガスあるいは加工液を供給する処理雰囲気制御手段と、を備え、前記処理雰囲気制御手段により、前記ワイヤ電極と前記工作物との間にガスが供給され気中雰囲気となる場合に、前記工作物に対して新しいワイヤ電極が供給される方向の前記ワイヤ電極の送り速度を間歇的に変更し、かつ、前記ワイヤ電極が前記工作物の被加工面に沿って加工しながら移動する方向の移動速度を遅くするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明のワイヤ放電加工装置は、上記のような構成としたので、工作物処理面に対して均一な改質層を形成することができる。ここで均一とは、厚さがほぼ一定で組成が一様な場合を言う。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態1によるワイヤ放電加工装置の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態2によるワイヤ放電加工装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
実施の形態1.
以下に、本発明の実施の形態について図を用いて説明する。
図1は、本発明の実施の形態1に係るワイヤ放電加工装置の構成図である。本実施の形態1に係るワイヤ放電加工装置においては、ワイヤボビン1から繰り出されたワイヤ電極2は、ワイヤ走行系を経て給電手段3を通過してガイド4を通りワイヤ回収ローラ7へ送られる。給電手段3と工作物5には加工用電源8が接続される。加工用電源8は電源とパルス発振制御装置からなる(図示せず)。前記加工用電源8は加工電源制御装置9に接続され、その電源電圧や電流値を制御され、さらに、上位コントローラ11に接続され、加工パルスの電流値、放電周波数、電源電圧などを制御される。工作物5は、たとえば、XY駆動装置6に載置され、XY駆動装置6は位置制御装置10に接続され、位置制御装置10は上位コントローラ11に接続され、その位置を制御される。純水もしくは油などの加工液供給装置12及び各種ガス供給装置13は、加工液・ガス供給管19を通ってワイヤ放電加工機のノズル15a、15bに接続され、前記加工液・ガス供給管19には流量調整バルブ14a、14b、14c、14dが備えられており、これら流量調整バルブ14a、14b、14c、14dは上位コントローラ11に接続されている。ワイヤ電極加振手段18はノズル15aあるいはノズル15b近傍に設置され、上位コントローラ11に接続される。
【0023】
また、電極材料と化合して硬質物質を形成するような、窒素ガスや炭素ガスなどの気体が蓄えられた各種ガス供給装置13と、加工雰囲気を水や油とするための加工液供給装置12、さらに、各種ガス供給装置13または加工液供給装置12からのガスまたは液体を極間に供給するノズル15a,15bと,各種ガス供給装置13および加工液供給装置12とノズル15a,15bをつなぐ加工液・ガス供給管19と、加工液・ガス供給管19に設置された流量調整バルブ14a、14b、14c、14dとによって構成される処理雰囲気制御手段を備える。この処理雰囲気制御手段によって、処理雰囲気を気中雰囲気とする場合には、流量調整バルブ14b、14dを開き、流量調整バルブ14a、14cを閉じればよい。液中雰囲気にて放電加工する場合は、流量調整バルブ14a、14cを開き、流量調整バルブ14b、14dを閉じる。
【0024】
次に、本発明の動作について説明する。
ワイヤ電極と工作物との間に加工用電源から除去加工を行うためのパルス状の電圧が印加され、ワイヤ電極とワイヤ電極が対向する工作物処理面との間で放電が発生し、パルス放電を維持しながらワイヤ電極をXY駆動装置6によりXY方向に2次元移動させることによってワイヤ軌跡形状が加工される。所望の形状を得るためのワイヤ軌跡の位置指令は、上位コントローラ11から位置制御装置に送られ、XY駆動装置6が駆動して工作物から所望の形状が切り出される。
【0025】
通常のワイヤ放電加工では、荒加工工程として、ある程度の寸法精度で目標形状を切り出した後、所定の加工形状と面粗さに仕上げるために中仕上げ加工と仕上げ加工を行う。この場合のワイヤ軌跡は荒加工時のワイヤ軌跡においてオフセット量を少しずつ変更したものを使用することで、徐々に加工形状を仕上げる。なお、こうした加工工程は、主に純水もしくは油のような液中にて行われる。
【0026】
前述の荒加工工程を終えた後の中仕上げ加工もしくは仕上げ加工を行う前に、上位コントローラ11によって、各種ガス供給装置13に接続された流量調整バルブ14bが締め切られ、加工液供給装置12に接続された流量調整バルブ14aが開放されるように指令される。さらに、ノズル15aに接続された流量調整バルブ14cとノズル15bに接続された流量調整バルブ14dが上位コントローラ11によって開放するように指令されると、極間に加工液が供給される。純水中や油中で除去加工する理由は、一般に気中雰囲気で除去加工する場合に比較して極間距離が広くなり、すなわち、放電ギャップが広くなり短絡しにくくなることから加工が安定し、加工形状精度を出しやすいためである。
【0027】
次に、仕上げ加工が終了した工作物に対する改質物生成を説明する。
前述のように、液中ワイヤ放電加工によって加工された工作物に対して、ワイヤ放電加工によって耐摩耗性材料を形成するために、上位コントローラ11によって、加工液供給装置12に接続された流量調整バルブ14aが締め切られ、各種ガス供給装置13に接続された流量調整バルブ14bが開放されるように指令される。さらに、ノズル15aに接続された流量調整バルブ14cとノズル15bに接続された流量調整バルブ14dが上位コントローラ11によって開放するように指令されると極間にガスが供給される。
【0028】
このとき、流量調整バルブからノズルまでの管路には切断加工で使用した加工液が滞留しているため、各種ガス供給装置からのガスによって加工液を管路から排出する。管路中の加工液を完全に排出し、さらに、ノズルに溜まった加工液をも各種ガス供給装置からのガスによって完全に排出しておく。このようにしない場合には、気中雰囲気加工中にノズルなどに溜まった加工液が液滴となって極間に供給され、局所的に液中放電の特性を持った加工雰囲気となり、工作物処理面への改質物形成が不安定となる。このノズルから供給されるエアには、工作物処理面の湿気を乾燥させ、狭スリット部に溜まった液体を吹き飛ばして、処理面が液中雰囲気にならないようにする作用がある。こうした加工液処理を行ったうえで、上位コントローラ11からの指令によって流量調整バルブの開放量を調整し極間に供給するガス流量を調整する。
【0029】
次にワイヤ電極の加振方法について説明する。
ワイヤ電極加振手段18は、ガイド4から工作物5までの間に設置され、ワイヤ電極をワイヤ送り方向に対して垂直方向に加振する。その振幅はサブミクロン〜10数ミクロン、周波数は数kHz〜数百kHz程度である。このワイヤ電極加振により工作物処理面とそれに対向するワイヤ電極の間において、ワイヤ電極は高次の振動モードとなり、ワイヤ電極の振動の腹の部分において放電が発生しやすくなり、放電集中を防止し、改質層を均一に形成することができる。ワイヤ電極加振手段には、たとえば、ディザのように高周波で微小振動できる装置を使用する。
【0030】
次に、ワイヤ電極送り方法について説明する。
気中雰囲気における放電加工により、ワイヤ電極が対向する工作物処理面にワイヤ電極材質をもととする付着物が堆積した改質層が形成される。しかし、改質物が付着した部分の間隙が狭いため、はじめに改質物が付着した部分でのみ改質物が局所的に堆積してしまう。これを防止するために、新しいワイヤ電極を次々に供給するのではなく、たとえば、ワイヤ電極の送りと工作物処理面に沿った加工方向の移動を停止する。この状態で工作物処理面に対してワイヤの接近・解離動作を行い、放電加工することでワイヤ対向面に対して均一に改質層を形成する。ワイヤ対向面に改質層が形成されれば、ワイヤ送りを再開し、新しいワイヤ電極を極間に供給する。このときのワイヤ電極の送り量は工作物の厚さ分以上とする。
【0031】
また、工作物の新しい面に改質層を形成するために工作物処理面に沿った加工方向への移動も再開する。この移動量はワイヤ直径以下とすると処理ムラが生じにくくなる。前述のワイヤ電極の送り速度や加工方向への移動速度は加工条件に応じて異なるため、ワイヤ電極の断線や、ワイヤ電極の移動が改質層形成に対して速すぎる場合に改質物が付着する部分と付着しない部分ができることによる処理ムラが発生しないように調整する。
【0032】
さらに、ワイヤ電極の送り速度とワイヤ電極の加工方向すなわち被加工面に沿ってワイヤ電極を移動する移動速度によって単位面積あたりの放電頻度を制御できるため、その移動速度を遅くすれば単位面積あたりの放電頻度が多くなり、被加工面に形成される改質層の厚さを厚く形成することができる。移動速度を速くすれば単面積あたりの放電頻度が少なくなるため、改質層の厚さを薄く形成することができる。ただし、形成される改質層の厚さは、工作物の板厚によっても影響されるため、移動速度が同一であっても工作物の板厚が厚い方が単位面積あたりの放電頻度が少なくなるため改質層は薄くなり、工作物の板厚が薄い方が単位面積あたりの放電頻度が多くなるため改質層は厚くなる。したがって、被加工面に所定の厚さの改質層が形成されるように、被加工面に沿ったワイヤ電極の移動速度を工作物の板厚に応じて制御する。また、改質層の組成は、加工液供給装置12と加工液・ガス供給管19から供給されるガスの供給量をバルブによって制御することで、形成される改質層の組成を変化させることができ、被加工面に沿ったワイヤ電極の移動を繰り返すことにより、硬度や耐摩耗性などの改質層の性質に傾斜性を持たせることができる。
【0033】
なお、工作物の板厚に応じたワイヤ電極送り速度の変更については、ワイヤ電極送りを間歇的に行う場合、工作物処理面の厚さに相当する長さについて、すでに放電加工に使用されたワイヤ電極が新しいワイヤ電極に入れ替わるようにワイヤ送りを行えばよく、この入れ替わるワイヤ電極の長さは、加工条件によってもワイヤの消耗状況が変化するため、加工条件に応じて調整する。
【0034】
極間で放電を発生させて溶融したワイヤ電極の一部を工作物処理面に付着させる場合、加工方向へのワイヤ電極移動速度についても調整が必要である。たとえば、改質層の形成速度に比較してワイヤ電極の移動速度が速い場合、ワイヤ電極が対向する工作物処理面に改質物質が付着しないうちに、ワイヤ電極が移動してしまうため、放電痕が局所的に形成され改質層形成にムラが発生する。こうした状態を防ぐためには、被加工面に対する改質層形成の状況を見ながら、ワイヤ電極の移動速度を調整すればよく、ワイヤ電極を断線させない程度の移動速度にすれば、改質層形成ムラを抑えることができる。
【0035】
たとえば、直径0.2mmの黄銅ワイヤ電極の場合、ワイヤ電極の送り速度は、工作物処理面に対向するワイヤ電極が放電加工に使用されていない新しいワイヤ電極となるようにワイヤ電極送りを行い、新しいワイヤ電極が工作物処理面に対向した時点でワイヤ電極の送りを停止して加工を開始し、そのワイヤ電極による放電加工により被加工面全面に改質層が形成されればワイヤ送りを再開するという間歇的な送りを繰り返す、あるいは、定速度では1〜5m/min程度の一定速度に設定するとよい。
【0036】
ワイヤ電極の材質には、形状加工を行う場合には一般的に黄銅が使用されるが、改質処理の場合には、ワイヤ電極にたとえばチタンワイヤを使用する。チタンワイヤは窒素雰囲気にて工作物に対して放電すると、窒素がチタンと反応して非常に高硬度な窒化チタンを生成し、チタンワイヤ電極と対向する工作物処理面に前述の窒化チタンが付着する。これにより、厚さ50ミクロン程度の窒化チタンの改質層が工作物処理面に形成される。ワイヤ線の材質は、チタン以外にタングステンやモリブデンなどを使用してもよい。
【0037】
実施の形態2.
次に、図2を用いてワイヤ加振状態の検出について説明する。図2のように、ワイヤ電極の振動状態を計測するセンサ20を工作物5とガイド4の間に設置し、ワイヤの振動状態を計測する。また、センサ20の出力は上位コントローラ11に入力され、ワイヤ電極の振幅や周波数を計測する。ここで、センサ20による測定値が、設定値から、ずれている場合には、ワイヤ電極振動状態が補正されるように、上位コントローラがワイヤ電極加振手段を制御する。たとえば、ワイヤにおいて、設定値となる振幅が得られていない場合には、ワイヤ電極加振手段18によってワイヤを振動させる。これにより、安定した改質層形成を行うことができる。なお、センサ20には渦電流式センサ、静電容量式センサ、あるいは、レーザ変位計のような非接触式センサが有効である。
【符号の説明】
【0038】
1 ワイヤボビン、2 ワイヤ電極、3 給電手段、4 ガイド、5 工作物、6 XY駆動装置、7 回収ローラ、8 加工用電源、9 加工電源制御装置、10 位置制御装置、11 上位コントローラ、12 加工液供給装置、13 各種ガス供給装置、14a、14b、14c、14d 流量調整バルブ、15a、15b ノズル、18 ワイヤ電極加振手段、 19 加工液・ガス供給管、20 センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ電極と、
前記ワイヤ電極に対向させて配置された工作物との間にパルス状の電圧を印加する加工電源と、
前記ワイヤ電極に前記加工電源からの電流を給電する給電手段と、
極間にガスあるいは加工液を供給する処理雰囲気制御手段と、
前記ワイヤ電極をワイヤ電極の長さ方向に対して垂直方向に振動させるワイヤ電極加振手段と、を備えたことを特徴とするワイヤ放電加工装置。
【請求項2】
工作物の除去加工を液中雰囲気で行い、除去加工後の工作物加工面に改質層形成を気中雰囲気で行うことを特徴とする請求項1記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項3】
ワイヤ電極の振動状態を計測するセンサを備え、ワイヤ振動量を制御しながら加工を行うことを特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項4】
前記処理雰囲気制御手段は、前記極間にガスを供給するものであり、当該気中雰囲気で前記工作物の除去加工がなされる場合に、前記工作物に対して新しいワイヤ電極が供給される方向の前記ワイヤ電極の送り速度を間歇的に変更し、かつ、前記ワイヤ電極が前記工作物の被加工面に沿って加工しながら移動する方向の移動速度を遅くすることを特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項5】
ワイヤ電極と、
前記ワイヤ電極に対向させて配置された工作物との間にパルス状の電圧を印加する加工電源と、
前記ワイヤ電極に前記加工電源からの電流を給電する給電手段と、
極間にガスあるいは加工液を供給する処理雰囲気制御手段と、を備えたワイヤ放電加工装置において、
前記処理雰囲気制御手段により、前記極間にガスが供給され、当該気体雰囲気で前記工作物の除去加工がなされ、前記工作物に対して新しいワイヤ電極が供給される方向の前記ワイヤ電極の送り速度を間歇的に変更し、かつ、前記ワイヤ電極が前記工作物の被加工面に沿って加工しながら移動する方向の移動速度を遅くすることを特徴とするワイヤ放電加工方法。
【請求項6】
被加工面に所定の厚さの改質層が形成されるように、被加工面に沿ったワイヤ電極の移動速度を工作物の板厚に応じて制御することを特徴とする請求項5に記載のワイヤ放電加工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−221371(P2010−221371A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73633(P2009−73633)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】