説明

ワークの仮止具

【課題】仮止時にワークからの突出長を小さくして加工機械への干渉を防ぎ、仮止めする複数のワークのグリップ長の変化に自在に対応可能とする。
【解決手段】所定の位置関係に保持された複数のワーク13,14を通して開穿された共通挿入孔15に挿入されるとともに挿入先端部に共通挿入孔15の直径よりも所要量大なる幅の掛止部3が形成され、一側面に長手方向に沿って複数の係止突起2が形成された可撓性の挿入用長板体1と、共通挿入孔15の内周面形状に対応した外周面形状のガイド本体部8、該ガイド本体部8の一端に形成され共通挿入孔15の一方の開口部周辺に対接される周辺掛止部9及び挿入用長板体1を挿通させる挿通孔10を備えた位置決めガイド7A。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの仮止具に関するものであり、特に、仮止時にワークからの突出長が小さくなって加工機械に干渉することがなく、該加工機械の作業性を極めて良好にすることが可能になるとともに、仮止めされる複数のワーク間に位置ずれを生じさせることがないワークの仮止具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、二個のワークを一体的に組み付ける等の組立作業において、該二個のワークを仮結合する仮止具として、例えば、クレコと称される金属製の柱状の形をしたものが知られている。そして、重ね合わせた二個のワークを通して開穿された孔を、例えば、適宜間隔をおいて複数個設け、その各孔にそれぞれクレコを挿入し、該クレコにより重ね合わせた二個のワークの上面と下面とを係止して仮止めを行っている。この仮止め時において、クレコは挿入側、即ちワークの上面に40mm程度以上突出した状態となっている。この仮止め後、二個のワークを、例えばリベット締結により一体的に組み付ける場合には、まず、各クレコの挿入位置間にリベット孔開穿用の加工機械により複数個のリベット孔の開穿が行われる。このとき、該加工機械は、ワークの上面から15mm程度離間した位置を移動しながらリベット孔の開穿が行われる。このため、前記クレコの挿入位置では該クレコが加工機械に干渉してしまうので、該加工機械の移動に伴ってクレコを順次抜き取りつつ該クレコの挿入位置間の複数の所要位置に対しリベット孔の開穿が行われる。また、上記二個のワーク間には、該二個のワーク間に位置ずれが生じないように、前記クレコとは別に位置決め用のピンが差し込まれている。
【0003】
さらに、複数の部材を一体的に結束する従来技術として、例えば、次のようなインシュロックが知られている。このインシュロックは、所要の幅と長さを備えた合成樹脂材からなる可撓性帯状本体の一端部に方形体凸部が連設されており、前記可撓性帯状本体の一面にはその長手方向に沿って所定ピッチで係止突起が形成されている。前記方形体凸部には、前記可撓性帯状本体を被結束物にループ状に巻き付けた際の該可撓性帯状本体の自由端を挿通させる係止孔が形成され、該係止孔内に前記係止突起に係止される係止爪が可動自在に形成されている。該係止爪は、係止孔内への可撓性帯状本体の挿入方向への移動を許容し、該挿入方向と反対方向への可撓性帯状本体の移動を阻止する。そして、可撓性帯状本体をパチンコ機等側の基体と回路基板とにループ状に巻き付けつつ該可撓性帯状本体の自由端を係止孔に挿通し、係止突起を係止爪に係止させて複数の部材である前記基体と回路基板とを一体的に結束している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−80830号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クレコにより仮止めを行うようにした従来技術においては、該クレコがワークの上面に40mm程度以上突出した状態となるため、仮止め後のリベット孔開穿用等の加工機械によるリベット孔の開穿作業時に、クレコの挿入位置では該クレコが加工機械に干渉してしまう。したがって、クレコの挿入位置近傍では、その都度加工機械を止ながらクレコを取り外すので極めて作業性が悪い。また、クレコは金属製のため、ワークの材質によっては、該ワークに傷をつけてしまうおそれがある。さらに、二個のワーク間の位置ずれを防ぐため、該二個のワーク間にクレコとは別の位置決め用のピンの差し込みを必要としている

【0006】
一方、特許文献1に記載のインシュロックは、可撓性帯状本体を基体と回路基板等の複数の部材にループ状に巻き付けて、該複数の部材を一体的に結束するようにしたものであり、複数の部材をその両者間で位置決めした上で仮止めするという概念及び機能は全くない。
【0007】
そこで、仮止時にワークからの突出長を小さくして加工機械への干渉を防ぎ、仮止めする複数のワークの厚さ(グリップ長)の変化に自在に対応可能とし、仮止時に位置決め用のピンの差し込みを必要とすることなく複数のワーク間の位置ずれを防ぎ、さらには仮止めされるワークへの損傷を防止するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、複数のワーク間の位置関係が所定の位置関係に保持された状態で該複数のワークを通して開穿された共通挿入孔に挿入されるとともに、挿入先端部には前記共通挿入孔の直径よりも所要量大なる幅の掛止部が形成され、一側面には長手方向に沿って適宜のピッチで複数の係止突起が形成された可撓性材質からなる挿入用長板体と、前記共通挿入孔の内周面形状に対応した外周面形状を持つガイド本体部、該ガイド本体部の一端に形成され前記共通挿入孔の一方の開口部周辺に対接される周辺掛止部、並びに前記ガイド本体部及び前記周辺掛止部を通して開穿され前記挿入用長板体を挿通させる挿通孔を備えた位置決めガイドと、前記係止突起に係止される係止爪が備えられて前記挿入用長板体における挿入余長部に嵌着される嵌着部材とを有し、前記挿入用長板体が前記位置決めガイドにおける前記挿通孔に移動可能に挿通されるとともに該位置決めガイドにおけるガイド本体部が前記共通挿入孔に臨み、さらに前記挿入用長板体における前記掛止部が幅方向に撓んで前記共通挿入孔を貫通し該共通挿入孔からの突出部において元の幅に復帰した状態で、前記嵌着部材を前記挿入用長板体の挿入余長部に嵌合させ、該嵌着部材を前記位置決めガイドにおける前記周辺掛止部に対接させるように押し込みつつ前記挿入余長部の端部を引き戻すことにより、前記嵌着部材における前記係止爪が前記挿入用長板体における前記係止突起に係止され、前記周辺掛止部が前記共通挿入孔の一方の開口部周辺に緊密に対接するとともに前記掛止部が前記共通挿入孔の他方の周縁部に掛け止められて前記複数のワークが仮結合されるとともに前記位置決めガイドにおける前記ガイド本体部で前記複数のワーク間の位置関係を所定の位置関係に保持するようにしたワークの仮止具を提供する。
【0009】
この構成によれば、複数のワークの仮止時に、挿入用長板体が位置決めガイドにおける挿通孔に移動可能に挿通され、共通挿入孔の直径よりも所要量幅広に形成されている挿入用長板体における掛止部が、ガイド本体部と共に共通挿入孔に差し込まれる。このとき、掛止部は幅方向に撓んで共通挿入孔を貫通し、共通挿入孔からの突出部分において元の幅に復帰する。この状態で挿入用長板体における挿入余長部に嵌着部材が嵌合される。該嵌着部材は位置決めガイドにおける周辺掛止部側への移動に対しては係止爪が係止突起に係止されることなく該移動が許容され、これと反対方向の移動に対しては係止爪が係止突起に係止されて該移動が阻止される。このため、嵌着部材を周辺掛止部側に押し込みつつ前記挿入余長部の端部を引き戻すことで、該嵌着部材における係止爪が挿入用長板体における係止突起に係止され、周辺掛止部が共通挿入孔の一方の開口部周辺に緊密に対接するとともに元の幅に復帰した突出部分側の掛止部が共通挿入孔の他方の周縁部に掛け止められる。この結果、複数のワークが仮結合されて仮止めが行われ、これと共に共通挿入孔の内周面形状に対応した外周面形状を持つガイド本体部で複数のワーク間の位置関係が所定の位置関係に保持されて該複数のワーク間の位置ずれが防止される。そして、この仮止め時に、ワークの表面部には挿入用長板体の挿入余長部とこの挿入余長部に嵌着された嵌着部
材とが突出する。しかし、嵌着部材は、その高さを数mm程度に形成することが可能であり、また可撓性材質からなる挿入余長部の不要部分はニッパ等で簡単に切断することができる。したがって、ワークの表面部への仮止具の突出長は、10mm以下程度とすることが可能となり、リベット孔開穿用等の加工機械への干渉が防止される。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、上記掛止部を含む上記挿入用長板体は、合成樹脂材製であるワークの仮止具を提供する。
【0011】
この構成によれば、掛止部を含む挿入用長板体を可撓性を有する合成樹脂材製としたことで、該掛止部を含む挿入用長板体がワークに弾力的に接してワークに傷がつくことがない。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、上記挿入用長板体は、予め適宜の長寸のものを準備しておくか、もしくは長さの異なるものを予め複数種準備することで、上記重ね合わせた複数のワークの全厚さの変化に対応可能であるワークの仮止具を提供する。
【0013】
この構成によれば、合成樹脂材製の挿入用長板体は、予め適宜の長寸のものを準備しておき、仮止めするワークに応じてその都度適宜にカットするか、もしくは長さの異なるものを予め複数種類準備しておくことで、重ね合わせた複数のワークの全厚さ(グリップ長)の変化に自在に対応することが可能となる。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1,2又は3記載の発明において、上記位置決めガイドにおける周辺掛止部は、上記一方の開口部周辺への対接側が円錐形に形成された円錐形周辺掛止部であり、前記一方の開口部周辺には前記円錐形に対応したテーパ状の凹欠部が形成されているワークの仮止具を提供する。
【0015】
この構成によれば、周辺掛止部における一方の開口部周辺への対接側を円錐形とし、これに対応して一方の開口部周辺側をテーパ状の凹欠部としたことで、複数のワークの仮止め時における共通挿入孔の一方の開口部周辺に対する周辺掛止部の対接面積が増して複数のワークを一層強固に仮結合させることが可能となり、また複数のワーク間の位置ずれを一層確実に防止することが可能となる。さらに仮止め時におけるワークからの周辺掛止部の突出長をゼロにすることができて、ワークの仮止具全体の突出長を一層小さく設定することが可能となる。
【0016】
請求項5記載の発明は、請求項1,2又は3記載の発明において、上記位置決めガイドにおける周辺掛止部は、鍔状に形成された鍔状周辺掛止部であるワークの仮止具を提供する。
【0017】
この構成によれば、複数のワークの仮止め時において、鍔状周辺掛止部が共通挿入孔の一方の開口部周辺に対接することで、嵌着部材が直接共通挿入孔の一方の開口部周辺に対接する場合に比べて対接面積が増し、複数のワークを強固に仮結合させることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の発明は、仮止め時に、ガイド本体部で複数のワーク間の位置関係が所定の位置関係に保持されて、位置決め用のピンの差し込みを必要とすることなく複数のワーク間の位置ずれを防ぐことができる。またワーク表面部への仮止具の突出長を10mm以下程度とすることができて、リベット孔開穿用等の加工機械への干渉を防止することができる。したがって該加工機械の作業性を極めて良好にすることができるという利点がある

【0019】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加えてさらに、掛止部を含む挿入用長板体がワークに弾力的に接することから、ワークへの損傷を防止することができるという利点がある。
【0020】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明の効果に加えてさらに、重ね合わせた複数のワークの全厚さ(グリップ長)の変化に自在に対応することができるという利点がある。
【0021】
請求項4記載の発明は、請求項1,2又は3記載の発明の効果に加えてさらに、仮止め時に、共通挿入孔の一方の開口部周辺に対する周辺掛止部の対接面積が増して複数のワークを一層強固に仮結合させることができ、また複数のワーク間の位置ずれを一層確実に防止することができる。さらに仮止め時におけるワークからの周辺掛止部の突出長をゼロにすることができて、ワークの仮止具全体の突出長を一層小さく設定することができるという利点がある。
【0022】
請求項5記載の発明は、仮止め時に、鍔状の周辺掛止部が一方の開口部周辺に対接することで、嵌着部材が直接一方の開口部周辺に対接する場合に比べて対接面積が増し、複数のワークを強固に仮結合させることができ、また複数のワーク間の位置ずれを確実に防止することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図は本発明の実施例に係るワークの仮止具を示すものである。
【図1】実施例1における挿入用長板体及び嵌着部材を示す平面図。
【図2】実施例1における位置決めガイドを示す斜視図。
【図3】実施例1において二個のワークを通して開穿された共通挿入孔に挿入用長板体を挿入する状態を示す図であり、(a)は挿入用長板体を位置決めガイドにおける挿通孔に移動可能に挿通してワークの共通挿入孔に差し込む直前の状態をワーク、位置決めガイド及び嵌着部材の部分を断面で示す側面図、(b)は挿入用長板体における掛止部が幅方向に撓んで共通挿入孔を貫通する様子を示すA−A線に沿う断面に相当する図、(c)はB−B線に沿う掛止部の断面図。
【図4】実施例1において二個のワークを仮止めした状態を示す縦断面図。
【図5】ワークの仮止具が翼外板と桁との組立作業時の仮結合に使用されている例を示す図。
【図6】実施例2における位置決めガイドを示す斜視図。
【図7】実施例2において二個のワークを仮止めした状態を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、仮止時にワークからの突出長を小さくして加工機械への干渉を防ぎ、仮止めする複数のワークの厚さ(グリップ長)の変化に自在に対応可能とし、仮止時に位置決め用のピンの差し込みを必要とすることなく複数のワーク間の位置ずれを防ぎ、さらには仮止めされるワークへの損傷を防止するという目的を達成するために、複数のワーク間の位置関係が所定の位置関係に保持された状態で該複数のワークを通して開穿された共通挿入孔に挿入されるとともに、挿入先端部には前記共通挿入孔の直径よりも所要量大なる幅の掛止部が形成され、一側面には長手方向に沿って適宜のピッチで複数の係止突起が形成された可撓性材質からなる挿入用長板体と、前記共通挿入孔の内周面形状に対応した外周面形状を持つガイド本体部、該ガイド本体部の一端に形成され前記共通挿入孔の一方の開口部周辺に対接される周辺掛止部、並びに前記ガイド本体部及び前記周辺掛止部を通して開穿され前記挿入用長板体を挿通させる挿通孔を備えた位置決めガイドと、前記係止突起に
係止される係止爪が備えられて前記挿入用長板体における挿入余長部に嵌着される嵌着部材とを有し、前記挿入用長板体が前記位置決めガイドにおける前記挿通孔に移動可能に挿通されるとともに、該位置決めガイドにおけるガイド本体部が前記共通挿入孔に臨み、さらに前記挿入用長板体における前記掛止部が幅方向に撓んで前記共通挿入孔を貫通し該共通挿入孔からの突出部において元の幅に復帰した状態で、前記嵌着部材を前記挿入用長板体の挿入余長部に嵌合させ、該嵌着部材を前記位置決めガイドにおける前記周辺掛止部に対接させるように押し込みつつ前記挿入余長部の端部を引き戻すことにより、前記嵌着部材における前記係止爪が前記挿入用長板体における前記係止突起に係止され、前記周辺掛止部が前記共通挿入孔の一方の開口部周辺に緊密に対接するとともに前記掛止部が前記共通挿入孔の他方の周縁部に掛け止められて前記複数のワークが仮結合されるとともに前記位置決めガイドにおける前記ガイド本体部で前記複数のワーク間の位置関係を所定の位置関係に保持するようにして実現した。
【実施例1】
【0025】
以下、本発明の好適な実施例1を図1乃至図5を参照して説明する。まず、ワークの仮止具を、その部品構成から説明する。図1において、合成樹脂材からなる挿入用長板体1は、仮止時に後述する複数のワークを通して開穿された共通挿入孔15(図3(a)参照)に挿入される部品の一つであり、その主体部は、厚さが1.3mm程度で十分に可撓性を有し、幅が数mm程度で前記共通挿入孔15の直径φ1(図3(b)参照)よりも所要量狭幅に形成され、その一側面には長手方向に沿って適宜のピッチで複数の係止突起2が形成されている。そして挿入用長板体1は、その挿入先端部に前記共通挿入孔15の直径φ1よりも所要量大なる幅Wの掛止部3が主体部と一体的に形成されている。
【0026】
該挿入用長板体1は、その主体部を予め適宜の長寸としておき、仮止めする複数のワークに応じてその都度適宜にカットするか、もしくは長さの異なるものを予め複数種類準備しておくことで、重ね合わせた複数のワークの全厚さ(後述する図4中のグリップ長L)の変化に自在に対応することが可能となる。
【0027】
嵌着部材4は、挿入用長板体1における挿入余長部に嵌着される部品であり、高さ寸法が5mm程度に形成され、平面視(図1の状態)におけるそのほぼ中央部に前記挿入余長部を挿通させる係止孔5が形成され、該係止孔5内に前記係止突起2に係止される係止爪6が可動自在に形成されている。該係止爪6は、係止孔5内への前記挿入余長部の挿入方向への移動を許容し、該挿入方向と反対方向への前記挿入余長部の移動を阻止する。
【0028】
上記のように、本実施例における挿入用長板体1と嵌着部材4の各構成及び機能は、前記インシュロックにおける可撓性帯状本体と方形体凸部の各構成及び機能と類似したものである。
【0029】
図2は、本実施例における位置決めガイド7Aを示している。位置決めガイド7Aは、前記共通挿入孔15の内周面形状に対応した外周面形状を持つ円筒状のガイド本体部8と、該ガイド本体部8の一端(図2では上端)に形成され前記共通挿入孔15の一方の開口部周辺に対接される周辺掛止部としての円錐形周辺掛止部9と、前記ガイド本体部8及び前記円錐形周辺掛止部9を通して開穿され前記挿入用長板体1を挿通させる挿通孔10とを備えて構成されている。
【0030】
前記円錐形周辺掛止部9は、その直径φ2が共通挿入孔15の直径φ1よりも所要量大径に形成され、共通挿入孔15の一方の開口部周辺への対接側が円錐形9aに形成されており、前記一方の開口部周辺には前記円錐形9aに対応したテーパ状の凹欠部11(図3(a)参照)が形成されている。該円錐形周辺掛止部9及び前記ガイド本体部8を含む位置決めガイド7Aの全高さhは、複数のワークの全厚さ(グリップ長L)よりも短寸に形成されている。
【0031】
前記円錐形周辺掛止部9における一方の開口部周辺への対接側を円錐形9aとし、これに対応して共通挿入孔15の一方の開口部周辺側をテーパ状の凹欠部11としたことで、複数のワークの仮止め時における共通挿入孔15の一方の開口部周辺に対する該円錐形周辺掛止部9の対接面積が増して複数のワークを一層強固に仮結合させることが可能となる。また円錐形周辺掛止部9は、後述するように、仮止め時におけるワークからの突出長をゼロにすることができて、ワークの仮止具全体の突出長を一層小さく設定することが可能となる。
【0032】
次に、図3の(a)、(b)、(c)及び図4を用いて、上述のような部品構成からなるワークの仮止具12Aの使用法及び作用を説明する。複数のワーク13,14を通して開穿された共通挿入孔15は、該複数のワーク13,14間の位置関係が所定の位置関係に保持された状態で開穿されている。該複数のワーク13,14の仮止時に、まず位置決めガイド7Aを、その挿通孔10の部分で挿入用長板体1に移動可能に挿通する。そして、位置決めガイド7Aにおけるガイド本体部8を前記共通挿入孔15に臨ませるようにして、共通挿入孔15の直径φ1よりも幅Wが所要量広く(W>φ1)形成されている掛止部3の部分を、共通挿入孔15に差し込む。
【0033】
このとき、掛止部3は、挿入用長板体1を含めて可撓性を有していることから、図3(b)に示すように幅方向に撓んで共通挿入孔15を貫通し、図3(c)に示すように共通挿入孔15からの突出部分において元の幅Wに復帰する。この状態で挿入用長板体1における挿入余長部に嵌着部材4を嵌合させる。図3(a)の例では、仮結合の強度を高めるためワッシャー16を介して嵌着部材4を嵌合させている。該嵌着部材4は位置決めガイド7Aにおける円錐形周辺掛止部9側への移動に対しては係止爪6が係止突起2に係止されることなく該移動が許容され、これと反対方向の移動に対しては係止爪6が係止突起2に係止されて該移動が阻止される。
【0034】
このため、嵌着部材4を円錐形周辺掛止部9側に押し込みつつ前記挿入余長部の端部を引き戻すことで、図4に示すように、該嵌着部材4における係止爪6が挿入用長板体1における係止突起2に係止され、円錐形周辺掛止部9が共通挿入孔15の一方の開口部周辺におけるテーパ状の凹欠部11に緊密に対接するとともに元の幅に復帰した突出部分側の掛止部3が共通挿入孔15の他方の周縁部14aに掛け止められる。この結果、複数のワーク13,14が仮結合されて仮止めが行われ、これと共に共通挿入孔15の内周面形状に対応した外周面形状を持つガイド本体部8で複数のワーク13,14間の位置関係が所定の位置関係に保持されて該複数のワーク13,14間の位置ずれが防止される。
【0035】
この仮止め時に、図4に示すように、位置決めガイド7Aにおける円錐形周辺掛止部9は一方の開口部周辺におけるテーパ状の凹欠部11に嵌合することで、ワーク13からの突出長がゼロになるが、なおワーク13の表面部には挿入用長板体1の挿入余長部とこの挿入余長部に嵌着された嵌着部材4とが突出する。しかし、嵌着部材4は、その高さが前記のように5mm程度であり、また合成樹脂材製の挿入余長部の不要部分はニッパ等で簡単に切断することができる。したがって、ワーク13の表面部への仮止具12Aの突出長は、10mm以下程度とすることが可能となり、仮止め後のリベット孔開穿用等の加工機械への干渉が防止される。
【0036】
図5は、航空機部品としての翼外板17と桁18との組立作業時の仮結合に本実施例に係るワークの仮止具12Aを適用した例を示している。桁18は翼外板17の内側に組み付けられており、該翼外板17及び桁18は、同図の紙面の奥側に適宜の長さに延びている。
【0037】
図5中の上側の翼外板17と桁18との仮結合について、ワークの仮止具12Aの使用法を、同図の左側から右側の順に説明する。翼外板17と桁18との間の位置関係を所定の位置関係に保持した状態で該翼外板17及び桁18を通して共通挿入孔15を開穿する。位置決めガイド7Aを、その挿通孔の部分で挿入用長板体1に移動可能に挿通し、該位置決めガイド7Aにおけるガイド本体部を共通挿入孔15に臨ませるようにして、該挿入用長板体1における掛止部3の部分を共通挿入孔15に差し込む。
【0038】
挿入用長板体1の挿入余長部に嵌着部材4を嵌合させ、該嵌着部材4を位置決めガイド7Aにおける円錐形周辺掛止部側に押し込みつつ前記挿入余長部の端部を引き戻す。この作業により該嵌着部材4における係止爪が挿入用長板体1の係止突起に係止され、位置決めガイド7Aにおける円錐形周辺掛止部が共通挿入孔15の一方の開口部周辺におけるテーパ状の凹欠部に緊密に対接し、挿入用長板体1における掛止部3が共通挿入孔15の他方の周縁部に掛け止められる。
【0039】
この結果、翼外板17と桁18とが仮結合されて仮止めが行われ、これと共に位置決めガイド7Aにおけるガイド本体部で翼外板17及び桁18との間の位置関係が所定の位置関係に保持されて該翼外板17及び桁18との間の位置ずれが防止される。
【0040】
仮止め後、挿入用長板体1における挿入余長部の不要部分をニッパ等で切断することで、翼外板17の上面へのワークの仮止具12Aの突出長は、10mm以下程度となり、仮止め後のリベット孔開穿用等の加工機械への干渉が防止される。ワークの仮止具12Aによる翼外板17と桁18との仮止め及び位置ずれ防止は、図5における下側の翼外板17と桁18との間においても、上記と同様にして行われる。
【0041】
上述したように、本実施例に係るワークの仮止具12Aにおいては、仮止め時に、位置決めガイド7Aにおけるガイド本体部8で複数のワーク13,14間の位置関係が所定の位置関係に保持されて、位置決め用のピンの差し込みを必要とすることなく複数のワーク13,14間の位置ずれを防ぐことができる。
【0042】
ワーク13表面部への仮止具12Aの突出長を10mm以下程度とすることができて、リベット孔開穿用等の加工機械への干渉を防止することができる。したがって、該加工機械の作業性を極めて良好にすることができる。
【0043】
掛止部3を含む挿入用長板体8を合成樹脂材製としたことで、該掛止部3及び挿入用長板体1がワーク13,14に弾力的に接することから、該ワーク13,14への損傷を防止することができる。
【0044】
挿入用長板体1は、その主体部を予め適宜の長寸としておき仮止めするワーク13,14のグリップ長Lに応じて適宜にカットするか、もしくは長さの異なるものを予め複数種準備しておくことで、重ね合わせた複数のワーク13,14のグリップ長Lの変化に自在に対応することができる。
【0045】
円錐形周辺掛止部9における一方の開口部周辺への対接側を円錐形9aとし、これに対応して前記一方の開口部周辺側をテーパ状の凹欠部11としたことで、仮止め時における前記一方の開口部周辺に対する円錐形周辺掛止部9の対接面積が増して複数のワーク13,14を一層強固に仮結合させることができ、また複数のワーク13,14間の位置ずれを一層確実に防止することができる。さらに、仮止め時におけるワーク13からの円錐形周辺掛止部9の突出長をゼロにすることができて、ワークの仮止具12A全体の突出長を一層小さく設定することができる。
【実施例2】
【0046】
本発明の実施例2を、図6および図7を参照して説明する。図6は、本実施例における位置決めガイド7Bを示している。本実施例の位置決めガイド7Bは、前記共通挿入孔15の内周面形状に対応した外周面形状を持つ円筒状のガイド本体部19と、該ガイド本体部19の一端(図6では上端)に形成され前記共通挿入孔15の一方の開口部周辺に対接される周辺掛止部としての鍔状周辺掛止部20と、前記ガイド本体部19及び前記鍔状周辺掛止部20を通して開穿され前記挿入用長板体1を挿通させる挿通孔10とを備えて構成されている。
【0047】
このように、本実施例の位置決めガイド7Bは、周辺掛止部が鍔状に形成された鍔状周辺掛止部20により構成されている。該鍔状周辺掛止部20の直径φ3は、前記実施例1における円錐形周辺掛止部9の直径φ2とほぼ同径に形成されている。また、前記実施例1では、前記円錐形周辺掛止部9及び前記ガイド本体部8を含む位置決めガイド7Aの全高さhが、複数のワークの全厚さ(グリップ長L)よりも短寸に形成されているが、本実施例では、前記ガイド本体部19の部分のみの高さが、前記実施例1における全高さhとほぼ同高さに形成されている。
【0048】
図7は、本実施例の位置決めガイド7Bを用いて、複数のワーク13,14を仮止めした状態を示している。本実施例では、鍔状周辺掛止部20における鍔の部分が共通挿入孔15の一方の開口部周辺に緊密に対接している。したがって、嵌着部材4が直接一方の開口部周辺に対接する場合に比べて対接面積が増し、複数のワーク13,14を強固に仮結合させることができ、またガイド本体部19で複数のワーク13,14間の位置ずれを確実に防止することができる。
【0049】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
仮止具による複数のワークの仮止時に位置決め用のピンの差し込みを必要とすることなく複数のワーク間の位置ずれ防止、及び仮止具による複数のワーク仮止め後のリベット締結、ボルト締結等の加工機械、加工道具等への前記仮止具の干渉防止が不可欠な用途に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 挿入用長板体
2 係止突起
3 掛止部
4 嵌着部材
5 係止孔
6 係止爪
7A 位置決めガイド
7B 位置決めガイド
8 ガイド本体部
9 円錐形周辺掛止部(周辺掛止部)
9a 円錐形
10 挿通孔
11 テーパ状の凹欠部
12A ワークの仮止具
12B ワークの仮止具
13 ワーク
14 ワーク
14a 他方の周縁部
15 共通挿入孔
16 ワッシャー
17 翼外板
18 桁
19 ガイド本体部
20 鍔状周辺掛止部(周辺掛止部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のワーク間の位置関係が所定の位置関係に保持された状態で該複数のワークを通して開穿された共通挿入孔に挿入されるとともに、挿入先端部には前記共通挿入孔の直径よりも所要量大なる幅の掛止部が形成され、一側面には長手方向に沿って適宜のピッチで複数の係止突起が形成された可撓性材質からなる挿入用長板体と、
前記共通挿入孔の内周面形状に対応した外周面形状を持つガイド本体部、該ガイド本体部の一端に形成され前記共通挿入孔の一方の開口部周辺に対接される周辺掛止部、並びに前記ガイド本体部及び前記周辺掛止部を通して開穿され前記挿入用長板体を挿通させる挿通孔を備えた位置決めガイドと、
前記係止突起に係止される係止爪が備えられて前記挿入用長板体における挿入余長部に嵌着される嵌着部材とを有し、
前記挿入用長板体が前記位置決めガイドにおける前記挿通孔に移動可能に挿通されるとともに、該位置決めガイドにおけるガイド本体部が前記共通挿入孔に臨み、さらに前記挿入用長板体における前記掛止部が幅方向に撓んで前記共通挿入孔を貫通し該共通挿入孔からの突出部において元の幅に復帰した状態で、前記嵌着部材を前記挿入用長板体の挿入余長部に嵌合させ、該嵌着部材を前記位置決めガイドにおける前記周辺掛止部に対接させるように押し込みつつ前記挿入余長部の端部を引き戻すことにより、前記嵌着部材における前記係止爪が前記挿入用長板体における前記係止突起に係止され、前記周辺掛止部が前記共通挿入孔の一方の開口部周辺に緊密に対接するとともに前記掛止部が前記共通挿入孔の他方の周縁部に掛け止められて前記複数のワークが仮結合されるとともに前記位置決めガイドにおける前記ガイド本体部で前記複数のワーク間の位置関係を所定の位置関係に保持するようにしたことを特徴とするワークの仮止具。
【請求項2】
上記掛止部を含む上記挿入用長板体は、合成樹脂材製であることを特徴とする請求項1記載のワークの仮止具。
【請求項3】
上記挿入用長板体は、予め適宜の長寸のものを準備しておくか、もしくは長さの異なるものを予め複数種準備することで、上記重ね合わせた複数のワークの全厚さの変化に対応可能であることを特徴とする請求項1又は2記載のワークの仮止具。
【請求項4】
上記位置決めガイドにおける周辺掛止部は、上記一方の開口部周辺への対接側が円錐形に形成された円錐形周辺掛止部であり、前記一方の開口部周辺には前記円錐形に対応したテーパ状の凹欠部が形成されていることを特徴とする請求項1,2又は3記載のワークの仮止具。
【請求項5】
上記位置決めガイドにおける周辺掛止部は、鍔状に形成された鍔状周辺掛止部であることを特徴とする請求項1,2又は3記載のワークの仮止具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−261568(P2010−261568A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114938(P2009−114938)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000232645)日本飛行機株式会社 (16)
【Fターム(参考)】