説明

ワーク回転搬送装置

【課題】簡単な構成と制御により、様々な大きさ、形状のワークの搬送及び回転が可能なワーク回転搬送装置を提供する。
【解決手段】弾性支持された可動台6と、垂直方向の周期的加振力を可動台6に付与する垂直加振手段7cと、可動台6の基準位置を中心に対向配置された複数の水平加振部とを具備し、水平加振部を協働させて水平な直線方向及び回転方向の周期的加振力を可動台6に付与する水平加振手段7a、7bと、切替命令に基づく動作指令信号を出力し、加振手段7a、7b、7cにより周期的加振力を位相差を有する同一の周波数で同時に発生させて可動台6に三次元の振動軌跡を生じさせる振動制御手段31と、振動制御手段31に対して動作指令信号の切替命令を出力して水平加振手段7a、7bによる周期的加振力の方向を直線方向または回転方向もしくは直線と回転の成分が混在した方向に切替える振動切替手段32とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの搬送および回転による向きの変更が可能なワーク回転搬送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ワークの搬送を行いつつその搬送ライン上で搬送方向を変えることができる装置として、種々のタイプのものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1のように、ワークの搬送面上に静電アクチュエータを格子状に多数配置したタイプのものがある。これは、搬送面上に多数の升形の固定子を設け、その中で搬送子をバネ部材を介して懸架しておき、固定子内の底面及び側面に設けた吸引電極を操作することによって搬送子の動作を制御することで、搬送子の上のワークを移動または回転させるものである。
【0004】
また、特許文献2では、ワークの搬送面上に回転軸が搬送面と平行になるように小型のローラを多数配置し、それらのローラの回転と向きを制御することによって、それらに載せるワークの搬送方向を制御する技術が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3では、搬送面上に互いに直交する回転軸を有するローラを交互に配置し、これらのローラの回転を制御することでワークの搬送および回転の方向を制御するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−116683号公報
【特許文献2】特開2004−75387号公報
【特許文献3】特開2008−168956号公報
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、上述した先行技術に係るワーク回転搬送装置は、静電アクチュエータや小型ローラなど多数の機器から構成され、それらを同時に駆動する必要があることから、構成が複雑になるとともに制御方式も複雑なものとなる。そのため、製造コストやメンテナンス費用が高くなる上に、機器の不具合も生じやすくなる。
【0008】
また、こうした構成では、搬送するワークが接触する搬送面に凹凸が生じるため、当該凹凸の大きさに比して小さなワークは搬送することが不能となる。よって、一個のワーク回転搬送装置で小型のものから大型のものまで幅広い大きさのワークを搬送可能とすることは困難である。
【0009】
さらには、上記のように装置内で部材の回転や摺動を伴うものであれば、摩耗粉が発生することからクリーンな環境下での使用は困難となる。
【0010】
本発明は、このような課題を有効に解決することを目的としており、具体的には簡単な構成でかつ複雑な制御を要することなく、ワークを搬送面上で任意に搬送および回転させることができるとともに、クリーン環境下でも使用でき、様々な大きさのワークを搬送可能なワーク回転搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、かかる目的を達成するために次のような手段を講じたものである。
【0012】
すなわち、本発明のワーク回転搬送装置は、ワ−クを載せる搬送面を有し基体に対して弾性支持された可動台と、垂直方向の周期的加振力を前記可動台に対して付与する垂直加振手段と、前記可動台に設定した基準位置を中心に対向して配置された複数の水平加振部を具備し、それら複数の水平加振部を協働させ前記可動台に対して水平な直線方向および回転方向の周期的加振力を付与する水平加振手段と、入力される切替命令に基づく動作指令信号を出力して、前記各加振手段による周期的加振力を位相差を有しつつ同一の周波数で同時に発生させ前記可動台に三次元の振動軌跡を生じさせるよう前記各加振手段を制御する振動制御手段と、当該振動制御手段に対して動作指令信号の切替命令を出力して前記水平加振手段による周期的加振力の方向を直線方向または回転方向もしくは直線方向と回転方向の成分が混在した方向に切り替える振動切替手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
このように構成すると、振動切替手段により可動台に直線方向の周期的加振力を生じさせた場合にはその方向にワークを搬送させることができ、回転方向の周期的加振力を生じさせた場合にはワークを回転させることができる。また、両方向の成分が混在する方向に周期的加振力を生じさせた場合にはワークの回転と搬送とを同時に行わせることができる。こうしたワークの搬送と回転の機能を備えつつ、部品点数および制御対象となるものが少なくシンプルに構成することができるため、製造コストを低減するとともに制御を容易にして動作安定性を高めることができる。また、振動によってワークの回転と搬送を行うために転がりや摺動を行う部品がなく、摩耗粉の発生を抑えることができ好適にクリーンな現場で用いることができるとともに、可動台上の搬送面をフラットに構成することができるために、様々な大きさや形状のワークに対応することが可能となる。
【0014】
さらに、水平加振手段としての周期的加振力の発生方向を、直線方向または回転方向もしくは直線方向と回転方向の成分が混在した方向に簡単に切り替えることを可能とするためには、前記振動切替手段が、前記基準位置を挟んで対向して配置される水平加振部による各周期的加振力を互いに同位相および逆位相の間で切り替えるように構成することが好適である。
【0015】
また、可動台上のワークを水平方向に任意の方向に搬送させることができるようにするためには、前記水平加振部が、前記可動台に対して第1の水平方向への周期的加振力を各々付与する複数の第1水平加振部と、前記第1の水平方向と交差する第2の水平方向への周期的加振力を各々付与する複数の第2水平加振部とから構成されており、前記水平加振手段が、前記複数の第1水平加振部からなる第1水平加振手段と、前記複数の第2水平加振部からなる第2水平加振手段とより構成されており、前記振動制御手段が、前記第1水平加振手段による周期的加振力と前記第2水平加振手段による周期的加振力とを位相差を有しつつ同時に発生させるように構成することが好適である。
【0016】
また、少ない要素で構成するとともに、精度良く回転方向や水平方向の加振力を生じさせるようにするためには、前記水平加振部が、前記基体と前記可動台とを直接または間接的に接続する鉛直方向に延設された棒状バネ部材と、当該棒状バネ部材の側面に貼設された圧電素子とを備えており、それらの圧電素子が前記振動制御手段より正弦電圧を印加されることで周期的な伸びを生じ、圧電素子を貼設した側面に直交する方向に前記棒状バネ部材が変形することで周期的加振力を生じるように構成することが好適である。
【0017】
また、回転方向と水平2方向の搬送とを、簡便な制御で実現することを可能とするためには、前記水平加振部が、同一の棒状バネ部材に貼設された直線方向の周期的加振力を発生させる水平加振用圧電素子と、回転方向の周期的加振力を発生させる回転加振用圧電素子とを備えているように構成することが好適である。
【0018】
さらに、圧電素子の数を減らして装置構成を簡略化するためには、上記の水平加振部が水平加振用圧電素子と回転加振用圧電素子とを個別に備える構成に代えて、前記水平加振手段により直線方向と回転方向の成分が混在した方向に周期的加振力を生じさせる場合において、当該水平加振手段を構成する水平加振部が備える各圧電素子に対して、直線方向の周期的加振力を与える場合の動作指令信号と、回転方向の周期的加振力を与える場合の動作指令信号とを重畳させた動作指令信号を与えるように構成することが好適である。
【発明の効果】
【0019】
以上説明した本発明によれば、部品点数の少ない簡単な構成で複雑な制御を要することがなく、優れた動作安定性を有しつつワークを搬送面上で任意の方向に搬送および回転させることができるとともに、様々な形状や大きさのワークに対応可能で、クリーン環境下でも使用可能なワーク回転搬送装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係るワーク回転搬送装置のシステム構成図。
【図2】同ワーク回転搬送装置の機械装置部の斜視図。
【図3】同ワーク回転搬送装置の機械装置部の正面図。
【図4】同ワーク回転搬送装置が備える各圧電素子に対しての動作指令信号の与え方を模式的に示す回路構成図。
【図5】同ワーク回転搬送装置において直線方向の振動を生じさせる場合の動作指令信号の与え方の一例を模式的に示す回路構成図。
【図6】同ワーク回転搬送装置において回転方向の振動を生じさせる場合の動作指令信号の与え方の一例を模式的に示す回路構成図。
【図7】同ワーク回転搬送装置における可動台が垂直方向に変位した場合の形態を示す正面図。
【図8】同ワーク回転搬送装置における可動台が水平方向(X方向)に変位した場合の形態を示す正面図。
【図9】同ワーク回転搬送装置における可動台が回転方向に変位した場合の形態を示す平面図。
【図10】同ワーク回転搬送装置における可動台に回転方向の変位を生じさせる場合の各第1バネ部材の変位方向を模式的に示した平面図。
【図11】同ワーク回転搬送装置において搬送面上のワークを動作させる場合の例を模式的に示した平面図。
【図12】同ワーク回転搬送装置において搬送面上のワークに動作させる場合の例を模式的に示した平面図。
【図13】同ワーク回転搬送装置における可動台に水平2方向と回転方向の振動を同時に生じさせた状態を模式的に示した平面図。
【図14】本発明の第2実施形態に係るワーク回転搬送装置が備える各圧電素子に対しての動作指令信号の与え方を模式的に示す回路構成図。
【図15】同ワーク回転搬送装置において回転方向の振動を生じさせる場合の動作指令信号の与え方の一例を模式的に示す回路構成図。
【図16】同ワーク回転搬送装置における可動台に回転方向の変位を生じさせる場合の各第1バネ部材の変位方向を模式的に示した平面図。
【図17】本発明の第1実施形態の変形例に係るワーク回転搬送装置の機械装置部の斜視図。
【図18】同ワーク回転搬送装置が備える各圧電素子に対しての動作指令信号の与え方を模式的に示す回路構成図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0022】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係るワーク回転搬送装置1は、図1に示すように、大きくは機械装置部2と制御システム部3とから構成される。この制御システム部3は、後述するように機械装置部2に組み込まれた圧電素子71〜74の制御を行うことで、機械装置部2にX、Y、Zの各方向およびZ軸回りの回転方向の周期的加振力を与えて直線方向と回転方向の振動を生じさせるように構成している。
【0023】
なお、X方向とは図中右側を正とする第1の水平方向であり、Y方向はX方向と直交す方向であって紙面手前方向を正とする第2の水平方向であり、Z方向はXおよびY方向と直交する上向きを正とする垂直方向を指すものとして、図中左下に示す座標軸のように定義する。さらには、Z軸回りの回転方向を上方から見て反時計回りを正としてθ方向と定義する。以下においてもこの座標軸に沿って説明を進めていく。
【0024】
機械装置部2は、図2および図3に示すように、大きくは床面に固定した基体4と、基体4に対して振動することで搬送面61上に載せたワーク9を搬送する可動台6と、可動台6を基体4に対して弾性的に支持しつつ振動を与える弾性支持手段5とから構成している。また、弾性支持手段5の一部は、前述の圧電素子71〜74とともに可動台6に対して振動を生じさせる加振手段7を構成する。
【0025】
基体4はX方向に長辺を向けた長方形の平板形状をしており、その上面4aにはY方向に長辺を向けた直方体状の取付ブロック41が2個X方向に間隔を空けて平行に固設してある。基体4の下に、図示しない防振ゴム等のバネ定数の小さい弾性体を取り付ければ、設置する床に対する反力を低減させることができて好適である。
【0026】
弾性支持手段5は、基体4と連結される4本の棒状バネ部材である第1バネ部材52と、当該第1バネ部材52によって基体4に対して水平方向に弾性的に支持される中間台51と、当該中間台51と連結され可動台6を垂直方向に弾性的に支持する4枚の板状バネ部材である第2バネ部材53とからなる。
【0027】
Y方向に離間させ並行して配置された一対の第1バネ部材52、52は、それぞれ平板状に構成した下端部52bで上記取付ブロック41のX軸と直交する側面のうち外側の側面41aに連結しており、当該下端部52bより鉛直上方(Z方向)に向かって延出する形状としている。そして、合計4本の第1バネ部材52を、搬送面61の中心である基準位置Sを中心に均等の距離で配置するとともに、それぞれ基体4の外縁をなす長方形の四隅のやや内側より起立するように設けており、上端部52aによって中間台51の一部を構成する上側ブロック51aを側面から支持するように連結している。さらに、対角位置にある第1バネ部材52、52同士は、可動台6上の基準位置Sを中心に対向する位置になるように配置されている。
【0028】
なお、ここでいう「基準位置Sを中心に対向する」との意は、可動台6の上面、すなわちZ軸正方向より見た場合に基準位置Sを対称中心とした対称位置にあることを意味しており、三次元空間座標系でいうと基準位置Sを通過するZ軸と平行な直線を対称軸とした対称位置にあることを意味する。
【0029】
第1バネ部材52のうち上端部52aと下端部52bの間の中間部52cは、断面が四角形となるように構成してあり、それぞれの側面がX軸、Y軸に直交する平面となるようにしている。このように4本の第1バネ部材52によって支持することによって、中間台51は水平方向に弾性的に支持され、X、Y方向に変位が生じる際にもほぼ水平状態を維持することができる。
【0030】
中間台51は、4枚の平板状の側板51dを縦横に組んだ矩形状の枠を構成し、これをX方向に一対配置した上側ブロック51aで吊り下げるような形で固定するように構成している。上述したように、上側ブロック51aは4本の第1バネ部材52によって支持しているため、中間台51は全体として空中で水平方向に弾性的に支持される。さらに、側板51dの内側には、4枚の板状バネである第2バネ部材53を、2枚を一組としてX方向に直列にかつ水平面に平行となるように配置し、これを上下2段として取付けている。側板51dは、第2バネ部材53に対して十分な強度を有しているために、強度メンバとして第2バネ部材53のねじれ方向の変形を抑制するとともに、第1バネ部材52が等しく変形するように変形方向を拘束するように機能する。上記の4枚の第2バネ部材53は、それぞれ片端側を上記上側ブロック51aと中間ブロック51b、あるいは中間ブロック51bと下側ブロック51cによって上下に挟みこむようにして固定している。そして、他端側を可動台6の下部に設けられた支持ブロック上部62aと支持ブロック中間部62b、あるいは支持ブロック中間部62bと支持ブロック下部62cとによって上下に挟みこむようにして固定している。このように構成することで、可動台6は中間台51に対して垂直方向に弾性的に支持され、Z方向に変位が生じる際にも水平状態を維持することが可能となっている。
【0031】
可動台6は下側に、上述したような支持ブロック上部62aと支持ブロック中間部62bと支持ブロック下部62cとを備えており、一体として動作を行う。そして、可動台6の上面は平面状の搬送面61としてワーク9を積載することが可能となっている。上述したように中間台51は、基体4に対して同一の4本の第1バネ部材52で連結されることによって水平方向に弾性支持されており、さらに可動台6は中間台51に対して第2バネ部材53で連結されることによって垂直方向に弾性支持されている。その結果、可動台6は、基体4に対してX、Y、Zの各方向に弾性的に支持されるように構成されており、X、Y、Zの各方向またはθ方向に変位が生じた場合でも可動台6の上面はほぼ水平の状態を維持することが可能となっている。
【0032】
また、可動台6は搬送面となる上面61が平坦を構成しているために、様々な大きさ、形状のワーク9を載せることが可能となっている。
【0033】
そして、この可動台6を振動させるための駆動部として加振手段7を設けている。加振手段7は以下に述べるように、可動台6に対してX方向および回転方向(θ方向)の振動を付与する第1の水平加振手段7aと、Y方向の振動を付与する第2の水平加振手段7bと、Z軸方向の振動を付与する垂直加振手段7cとから構成されている。
【0034】
まず、X方向およびZ軸回りの振動を付与する第1の水平加振手段7aは、棒状バネ部材として形成された第1バネ部材52と、その中間部52cにおけるX軸と直交する側面の長手方向中央以下の部分に貼り付けられた直方体状の第1圧電素子71と、同一の面における中間部52cの長手方向中央以上の部分に貼り付けられた直方体状の第4圧電素子74とから構成される。
【0035】
また、第1水平加振手段7aは、図4に示すように、可動台6の四隅に対応させつつ図中のA〜Dの4箇所に設けられた四つの第1水平加振部7a1〜7a4に分割して考えることができ、これら第1水平加振部7a1〜7a4によって構成されているということができる。各第1水平加振部7a1〜7a4は、各々第1バネ部材52と、その第1バネ部材52のX軸に直交する両側面に設けられた2つの第1圧電素子71、71と、2つの第4圧電素子74、74とから構成されている。第1圧電素子71、71と、第4圧電素子74、74とは同一の面に取り付けられてはいるが、上述のように前者は第1バネ部材52の長手方向中央より下側の部分に、後者は上側の部分に取付けられているために互いに動作が干渉することはない。また、対角同士にある第1水平加振部7a1と7a3、7a2と7a4は、可動台6上の基準位置Sを中心にして対向する位置となるように設定している。
【0036】
第1圧電素子71、71および第4圧電素子74、74は電圧を印加されることでZ軸方向に伸びが生じる向きに取り付けられており、伸びを生じることで圧電素子を貼り付けた面と垂直となる方向に第1バネ部材52〜52にたわみを生じさせることが可能となっている。このように第1バネ部材52〜52に対してたわみを生じさせることで、例えば、図8に示したように中間台51と可動台6に基体4に対して水平方向に変位を生じさせることができる。こうしたたわみが生じる場合、第1バネ部材52の両端は固定されているために中央を境に上下でたわみ方向が逆転する。そのため、圧電素子71、74は長手方向中央を避けていずれかの端部側に設けることがたわみを制御する上で効率的である。
【0037】
また、図面では省略しているが、各圧電素子71〜74を同一部材の表裏に対向して貼り付ける場合には、表裏で伸び側、縮み側が逆になるように入力電圧の正負が反転するように回路上で構成している。この点は、後述する第2圧電素子72および第3圧電素子73においても同様である。
【0038】
また、図4に戻って、圧電素子71、74に印加する電圧を周期的に変動させることで第1バネ部材52を振動メンバとして、周期的加振力を生じさせることができるようになっている。すなわち、各第1水平加振部7a1〜7a4は、圧電素子71、74を貼り付けた面に対する垂直方向である第1の水平方向としてのX方向に加振力を生じさせる。そして、これらの第1水平加振部7a1〜7a4が協働して、可動台6に対して加振力を与える第1水平加振手段7aとして機能する。第1水平加振手段7aとしてみた場合には、第1水平加振部7a1〜7a4が同時に同位相で振動することで、X軸と平行な直線方向の周期的加振力を生じさせ、対角にある第1水平加振部7a1と7a3または7a2と7a4が逆位相で振動することで基準位置Sを中心とする回転方向(θ方向)の周期的加振力を生じさせることになる。
【0039】
次に、Y方向の振動を付与する第2の水平加振手段7bは、図2および図3に示したように、第1バネ部材52と、その中間部52cにおけるY軸と直交する側面の長手方向中央以下の部分に貼り付けられた直方体状の第2圧電素子72とから構成される。
【0040】
また、第2水平加振手段7bは、図4に示すように、可動台6の四隅に対応させつつ図中のA〜Dの4箇所に設けられた四つの第2水平加振部7b1〜7b4に分割して考えることができ、これら第2水平加振部7b1〜7b4より構成されているものということができる。各第2水平加振部7b1〜7b4は、第1バネ部材52と、その第1バネ部材52におけるY軸と直交する両側面に設けられた2つの第2圧電素子72、72とから構成されている。
【0041】
第2圧電素子72、72は電圧を印加されることでZ軸方向に伸びが生じる向きに取り付けられており、伸びを生じることで圧電素子72、72を貼り付けた面と垂直となる方向に第1バネ部材52にたわみを生じさせることが可能となっている。さらに、圧電素子72、72に印加する電圧を周期的に変動させることで第1バネ部材52を振動メンバとして、周期的加振力を生じさせることができるようになっている。
【0042】
すなわち、各第2水平加振部7b1〜7b4は、圧電素子72、72を貼り付けた面に対する垂直方向である第2の水平方向としてのY方向に加振力を生じさせる。そして、これらの第2水平加振部7b1〜7b4が協働して、可動台6に対して加振力を与える第2水平加振手段7bとして機能する。第2水平加振手段7bとしてみた場合には、第2水平加振部7b1〜7b4が同時に同位相で振動することで、Y軸と平行な直線方向の周期的加振力を生じさせることになる。
【0043】
さらに、Z軸方向の振動を付与する垂直加振手段7cは、図3に示すように、板状バネ部材である第2バネ部材53と、その長手方向中央より外側となる位置の裏表に貼り付けられた第3圧電素子73〜73によって構成している。第3圧電素子73〜73は電圧を印加されることでX軸方向の伸びを生じる向きに貼り付けられており、印加電圧を制御することで第2バネ部材53にたわみを生じさせ、図7に示すように可動台6に対してZ軸方向の変位を生じさせることができる。なお、図中では4枚の第2バネ部材53のうち上段の2枚にのみ第3圧電素子73を貼りつけてあるが、これに代わって下段の第2バネ部材53に対して第3圧電素子73を取り付けても良いし、上下段の全てに第3圧電素子73を取り付けても良い。ただし、第1バネ部材52と同様に、第2バネ部材53も、たわみを生じた際に長手方向中央部を境界としてたわみ方向が逆転するために、中央付近を避けて中央からいずれかの端部よりに設けることが効率的である。
【0044】
第2バネ部材53および第3圧電素子73は可動台6に対して左右対称に設けられているとともに、各第3圧電素子73に印加する電圧は、常に全ての第2バネ部材53を同時に同方向に変位させるように正負を調整しつつ同時に与えるようにしている。そのため、各第3圧電素子73〜73に対して与える電圧を周期的に変動させることで、これらの第3圧電素子73〜73と第2バネ部材53〜53とが協働して垂直加振手段7cとして機能し、可動台6を水平に保ったままで垂直方向に振動させる。
【0045】
このようにして構成した機械装置部2に対して、図1に示す制御システム部3は、第1水平加振手段7a、第2水平加振手段7bおよび垂直加振手段7cに動作指令信号を出力することで、X、Y、Zおよびθの各方向の振動を発生させるための周期的加振力を生じさせるように制御を行う。そのため、制御システム部3が備える振動制御手段31より、各水平加振手段7a〜7cの一部を構成する各圧電素子71〜74に対して、動作指令信号としての正弦波状の電圧信号(以下、正弦電圧信号と称す。)Sx、Sy、SzまたはSθをそれぞれ与えるようにされている。
【0046】
具体的には、制御システム部3の一部を構成する振動制御手段31は、図1に示すように、基準となる正弦電圧信号Szを生じさせる発振機33を備えており、この正弦電圧信号Szをアンプ37cにより増幅した上で圧電素子73に与えるようにしている。こうすることで、発振機33によって生成される正弦電圧信号Szにおける周波数と同じ周波数で、垂直加振手段7cにより垂直方向(Z方向)の加振力を生じさせ、可動台6に対して図7のような形態の垂直方向の振動を生じさせることができる。この垂直方向の周期的加振力の大きさは、図1における発振機33により正弦電圧信号Szの振幅を変化させることや、アンプ37cによる増幅率を変化させることによって変更することができるようにしている。さらに、発振機33により正弦電圧信号Szの周波数を変化させることによって、周期的加振力の周波数を変更することもできる。
【0047】
また、振動制御手段31は、基準となる正弦電圧信号Szを基にして、これと同一の周波数で、かつ所望の位相差を持たせつつ振幅を変更させた正弦電圧信号Sx、Sy、Sθを生成するX方向振動生成部34、Y方向振動生成部35およびθ方向振動生成部36を備えている。X方向振動生成部34により生成される正弦電圧信号Sxは、可動台6に対して与えるX軸と平行な直線方向の振動を制御するものとして、アンプ37aを通じて増幅された上で第1水平加振手段7aに与えられる。また、Y方向振動生成部35により生成される正弦電圧信号Syは、可動台6に対して与えるY軸と平行な直線方向の振動を制御するものとして、アンプ37bを通じて増幅された上で第2水平加振手段7bに与えられる。さらに、θ方向振動生成部36により生成される正弦電圧信号Sθは、可動台6に対して与えるZ軸回りの回転方向(θ方向)の振動を制御するものとして、アンプ37dを通じて増幅された上で第1水平加振手段7aに与えられる。
【0048】
より具体的に説明すると、X方向の振動を生じさせる正弦電圧信号Sxは、図4に示すように、アンプ37aを介して第1水平加振手段7aを構成する各第1水平加振部7a1〜7a4が備える水平加振用圧電素子としての第1圧電素子71〜71に対して与えられるように電気回路38を構成している。この電気回路38は、図5に示すように、各第1圧電素子71〜71に対しては同一の電圧信号が同時に入力された際に、図中A〜Dの位置における各第1水平加振部7a1〜7a4に対して同じ方向の変位が生じるように構成している。なお、本図および図4では電気回路38の一部を省略して記載しており、表裏で対向して設置した圧電素子71〜74に対しては、反対側の圧電素子と反転した電圧を与えることを意味している。
【0049】
各第1圧電素子71〜71に対しては、電気回路38を通じて同じ(表裏では反転させた)正弦電圧信号Sxがほぼ同時に与えられる。そのため、図中A〜Dの位置における各第1水平加振部7a1〜7a4は全て同一周波数で、かつ、同位相でX方向に振動する。こうすることで可動台6に対してX軸と平行な直線方向の振動が与えられる。
【0050】
図4に戻って、θ方向の振動を生じさせる正弦電圧信号Sθは、アンプ37dを介して第1水平加振手段7aを構成する各第1水平加振部7a1〜7a4が備える回転加振用圧電素子としての第4圧電素子74〜74に対して与えられるように電気回路38を構成している。この電気回路38は、図6に示したように、各第4圧電素子74〜74に対して同一の電圧信号が同時に入力されることで、図中のA、B位置における第1水平加振部7a1、7a2と、図中C、D位置における第1水平加振部7a3、7a4とで変位方向が逆向きになるように構成している。なお、上記と同様に、本図では、表裏で対向して設置した圧電素子に対して、反対側の圧電素子と反転した電圧を与えることを意味している。
【0051】
このように電圧を与えたとき、図10に示すように各第1バネ部材52〜52は、図中のA、B位置のものと図中のC、D位置のもので変位方向が逆になり、可動台6に対して回転モーメントを発生させる。上述したように第1バネ部材52〜52は、基準位置Sを中心として配置されており、この基準位置Sを中心として対向して位置する第1バネ部材52、52同士が逆方向に移動するようにしているために、基準位置Sを中心とした回転運動を行うことができる。
【0052】
図6に戻って、各第4圧電素子74〜74に対して、同一の正弦電圧信号Sθが(表裏では反転されつつ)入力されることにより、第1水平加振部7a1、7a2と第1水平加振部7a3、7a4とはX方向に逆位相で振動を生じる。こうすることで可動台6に対して図9に示すような基準位置Sを中心とした回転方向(θ方向)の振動を生じさせることができる。
【0053】
図4に戻って、Y方向の振動を生じさせる正弦電圧信号Syは、アンプ37bを介して第2水平加振手段7bを構成する各第2水平加振部7b1〜7b4が備える第2圧電素子72〜72に対して与えられるように電気回路38を構成している。ここでの第2圧電素子72〜72は、上記第1圧電素子71〜71とは向きの異なる水平加振用圧電素子として機能する。各第2圧電素子72〜72に対しては、電気回路38を通じて同じ(表裏では反転させた)正弦電圧信号Syがほぼ同時に与えられる。そのため、各第2水平加振部7b1〜7b4は全て同一周波数で、かつ、同位相でY方向に振動する。こうすることで可動台6に対してY軸と平行な直線方向の振動が与えられる。
【0054】
上記のようにして図1のように構成される機械装置部2の各加振手段7a、7b、7cに対して、動作指令信号としての正弦電圧信号Sx、Sy、Sz、Sθが与えられ、この動作指令信号に基づき各加振手段7a、7b、7cが可動台6に各方向の周期的加振力を与えることによって三次元の振動軌跡を生じさせることができる。
【0055】
加えて、本実施形態における制御システム部3は、振動制御手段31に対して動作信号の切替命令を出力することによって上記可動台6に生じる三次元の振動軌跡を変更する振動切替手段32を有している。具体的には、振動切替手段32は振動制御手段31を構成するX、Y方向、θ方向の各振動生成部34〜36に対して、正弦電圧信号Sx、Sy、Sθを切り替えるための切替命令を出力する。
【0056】
各振動生成部34〜36は、上記切替命令に基づいて、発振機33より出力される基準となる正弦電圧信号Szを基にして、位相差および振幅を変更しつつ正弦電圧信号Sx、Sy、Sθとして出力を行うようにしている。こうすることで、X、Y、Z方向の各周期的加振力を、Z方向の周期的加振力と同じ周波数で同時に発生させるとともに、Z方向の周期的加振力に対してそれぞれ位相および振幅を変更することができるようにしている。
【0057】
なお、発振機33により生じさせる振動の周波数は、X、Y、Z方向のいずれかの振動系と共振する周波数とすることで、振動を増幅して省電力化を図るようにしてある。また、全ての方向の振動系の振動が干渉することを避けるためには、各方向の固有振動数を離してもよい。この時、各方向の固有振動数は例えば−10%〜+10%程度離すようにする。
【0058】
上記のように構成した本実施形態のワーク回転搬送装置1は次のように動作を行わせることによって、ワーク9の搬送および回転を行わせることができるようになっている。
【0059】
まず、図1に示すように、制御システム部3より、発振機33によって生成される正弦電圧信号Szと、これを基準として振動切替手段32からの切替命令に従って振幅および位相を設定しつつ生成する正弦電圧信号Sx、Sy、Sθを機械装置部2に対して出力する。そして、機械装置部2では上記正弦電圧信号Sx、Sy、Sz、Sθに従って各加振手段7a〜7cによって可動台6を加振することで、可動台6に対してX、Y、Z、θの各方向の振動成分が合成された三次元の振動軌跡を生じさせる。
【0060】
このとき、可動台6に対して与えられる各方向の振動成分のうちで、Z方向の振動成分とX方向の振動成分による組み合わせによって、可動台6にXZ平面内での楕円の振動軌跡を生じさせることができる。そして、この楕円の振動軌跡によって搬送面61よりワーク9に対して与える摩擦力を周期的に変動させ、これをX方向への推力として搬送を行うことができる。さらには、上記振動切替手段32により正弦電圧信号Sxを変化させた場合には、Z方向の振動成分に対するX方向の振動成分の位相または振幅を変化させることで、上記楕円の振動軌跡の大きさおよび向きを変更することによって、ワーク9を搬送する向きや速度を変化させることができる。
【0061】
同様に、Z方向の振動成分とY方向の振動成分による組み合わせにより、可動台6上のワーク9に対してY方向への推力を与えて搬送を行うことができる。また、Z方向の振動成分とθ方向の振動成分による組み合わせによって、可動台6上のワーク9に回転方向(θ方向)への推力を与えて可動台6上で回転を行わせて向きを変更させることができる。これらのY方向、θ方向への推力の大きさや向きの変更も、上記振動切替手段32により正弦電圧信号Sy、Sθを変更させることによって行うことができる。
【0062】
これらの水平2方向および回転方向の動作を組み合わせることで、ワーク9に対して幅広い動作を行わせることができる。以下、図1を参照しつつ図11および図12を基に説明する。
【0063】
例えば、図11(a)のように、時刻T0の時点で可動台6上の図中右側に載置させていたワーク9を、X方向とZ方向の正弦電圧信号Sx、Sz(図1参照)による制御を行うことで、図中左側に向かうX軸負方向に搬送させることができる。時刻T1より、振動切替手段32(図1参照)により振動の切り替えを行って正弦電圧信号Syを加えるように制御を行うことで、同時にY方向への搬送速度成分も与えることができる。この時、Y軸負方向に推力を与える向きにSyを設定すれば図中の左上方向にワークを搬送することができる。
【0064】
また、図11(b)に示すように、X方向、Y方向、Z方向の各正弦電圧信号Sx、Sy、Sz(図1参照)を発生させつつ、振動切替手段32によって、正弦電圧信号Sx、Sy(図1参照)の大きさや位相を連続して変更することにより、ワーク9の搬送軌跡を蛇行させるなど任意の方向に搬送させることができる。この際、振動切替手段32による振動の切替はあらかじめ決定したプログラムによって行っても良いし、外部からの入力に応じて搬送方向を変更するよう切替命令の出力を可能に構成することも可能である。
【0065】
さらに、θ方向の正弦電圧信号Sθ(図1参照)を加えることで、図12(a)〜(c)のような連続動作を行わせることも可能である。この例においては、まず時刻T0よりT1にかけて、図中の可動台6上で右端の位置に載置させたワーク9をX方向に搬送させる。そして、可動台6の中心に位置したワーク9に対して、時刻T2にかけて反時計回りの回転方向(θ方向)の推力を作用させてほぼ90°向きを変更する。さらに、時刻T3にかけて図中のY方向に移動させていく。このような連続動作を行わせることで、図示しない上流側のラインより可動台6上に供給したワーク9を、向きを変えて下流側のラインに送り出すように使用することができる。
【0066】
また、上記のようなX、Y、θ方向に対するワーク9の搬送は、上記正弦電圧信号Sx、Sy、Sθ(図1参照)を同時に与えて、図13のように可動台6に対してX、Y、θの各方向の振動を同時に発生させ、これらが混在した振動軌跡を可動台6に生じさせることによって、X、Yの水平2方向の搬送とθ方向の回転とを同時に行わせることもできる。
【0067】
ここで、X方向の周期的加振力とθ方向の周期的加振力とは、共通する第1水平加振手段7aによって生じさせるものであるが、そのための正弦電圧信号Sx、Sθを与える対象が、水平加振用圧電素子としての第1圧電素子71〜71と回転加振用圧電素子としての第4圧電素子74〜74とで異なっているために両者を区別しつつ、簡単に制御を行うことができる。このようにすることで、各棒状バネ部材52〜52によって双方の振動が混在した振動が生じ、可動台6に対して与えられる。
【0068】
また、上記のようなワーク9の搬送は、可動台6上の搬送面61が平坦面として構成されているために、多様な大きさ、形状のワーク9を載せることができるとともに、広い範囲でワーク9の移動を行わせることができる。さらには、ワーク9の搬送および回転を行わせるために生じさせる推力が、搬送面61からの摩擦によるものであるとともに、その摩擦を与えるための加振力の発生源に回転部や摺動部を伴わないために摩耗粉の発生が少ない。
【0069】
以上のように、本実施形態のワーク回転搬送装置1は、ワ−ク9を載せる搬送面を有し基体4に対して弾性支持された可動台6と、垂直方向の周期的加振力を前記可動台6に対して付与する垂直加振手段7cと、前記可動台6に設定した基準位置を中心に対向して配置された複数の水平加振部7a1〜7a4を具備し、それら複数の水平加振部7a1〜7a4を協働させ前記可動台6に対して水平な直線方向および回転方向の周期的加振力を付与する水平加振手段7a、7bと、入力される切替命令に基づく動作指令信号を出力して、前記各加振手段7a、7b、7cによる周期的加振力を位相差を有しつつ同一の周波数で同時に発生させ前記可動台6に三次元の振動軌跡を生じさせるよう前記各加振手段7a、7b、7cを制御する振動制御手段31と、当該振動制御手段31に対して動作指令信号の切替命令を出力して前記水平加振手段7a、7bによる周期的加振力の方向を直線方向または回転方向もしくは直線方向と回転方向の成分が混在した方向に切り替える振動切替手段32とを備えるように構成したものである。
【0070】
このように構成しているため、振動切替手段32により可動台6に直線方向の周期的加振力を生じさせた場合にはその方向にワーク9を搬送させることができ、回転方向の周期的加振力を生じさせた場合にはワーク9を回転させることができる。また、両方向の成分が混在する方向に周期的加振力を生じさせた場合にはワーク9の回転と搬送とを同時に行わせることができる。このようにワーク9の搬送と回転の機能を備えつつ、部品点数および制御対象となるものが少なくシンプルに構成することができるため、製造コストを低減するとともに制御を容易にして動作安定性を高めることができる。また、転がりや摺動を行う部品がないために、摩耗粉の発生を抑えることができ好適にクリーンな現場で用いることができる。また、可動台6上の搬送面61を平坦に構成することができるために、様々な大きさや形状のワーク9に対応することができる。
【0071】
さらに、前記振動切替手段32が、前記基準位置を挟んで対向して配置される水平加振部7a1、7a3(7a2、7a4)による各周期的加振力を互いに同位相および逆位相の間で切り替えるように構成しているために、簡単に水平加振手段7aとしての周期的加振力の発生方向を直線方向または回転方向もしくは直線方向と回転方向の成分が混在した方向に切り替えることが可能となる。
【0072】
また、前記水平加振部が、前記可動台6に対して第1の水平方向への周期的加振力を各々付与する複数の第1水平加振部7a1〜7a4と、前記第1の水平方向と交差する第2の水平方向への周期的加振力を各々付与する複数の第2水平加振部7b1〜7b4とから構成されており、前記水平加振手段が、前記複数の第1水平加振部7a1〜7a4からなる第1水平加振手段7aと、前記複数の第2水平加振部7b1〜7b4からなる第2水平加振手段7bとより構成されており、前記振動制御手段31が、前記第1水平加振手段7aによる周期的加振力と前記第2水平加振手段7bによる周期的加振力とを位相差を有しつつ同時に発生させるように構成しているため、第1水平加振手段7aと第2水平加振手段7bによって、可動台6上のワーク9を交差する2方向に移動させることができ、これらを組み合わせることで任意の方向に搬送させることが可能となる。
【0073】
また、前記水平加振部7a1〜4、7b1〜4が、前記基体4と前記可動台6とを直接または間接的に接続する鉛直方向に延設された棒状バネ部材52〜52と、当該棒状バネ部材52〜52の側面に貼設された圧電素子71〜72、74とを備えており、それらの圧電素子71〜72、74が前記振動制御手段31より正弦電圧を印加されることで周期的な伸びを生じ、圧電素子71〜72、74を貼設した側面に直交する方向に前記棒状バネ部材52〜52が変形することで周期的加振力を生じるように構成しているため、少ない要素で構成するとともに、圧電素子71〜72、74に印加する電圧を制御することで精度良く回転方向や水平方向の加振力を生じさせることが可能となる。
【0074】
さらに、前記水平加振部7a1〜4、7b1〜4が、同一の棒状バネ部材52〜52に貼設された直線方向の周期的加振力を発生させる水平加振用圧電素子71〜72と、回転方向の周期的加振力を発生させる回転加振用圧電素子74〜74とを備える構成としているため、複雑な動作指令信号を生成させなくても、回転方向と水平2方向の搬送とを簡単な制御で実現することが可能となる。
【0075】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係るワーク回転搬送装置101を、図14を用いて説明する。本図においては、第1実施形態と共通する部分には同じ符号を付してあり、これらの部分については説明を省略する。
【0076】
この第2実施形態では、棒状バネ部材としての第1バネ部材52〜52に対して、X軸に直交する側面には第1圧電素子71〜71を長手方向中央よりも下側に貼り付けるのみとしており、第1実施形態において回転加振用圧電素子として設けていた第4圧電素子74〜74(図4参照)を省略する構成としている。そのため、第1水平加振手段107aを構成する各第1水平加振部107a1〜107a4は第1バネ部材52〜52と第1圧電素子71〜71によってのみで各々構成され、第2水平加振手段107bを構成する各第2水平加振部107b1〜107b4は第1バネ部材52〜52と第2圧電素子72〜72によって各々構成されている。
このように、圧電素子の数が少ないために装置構成を簡略化することができる。
【0077】
そして、第1バネ部材52〜52と協働して、X方向に振動を生じさせる第1圧電素子71〜71、および、Y方向に振動を生じさせる第2圧電素子72〜72に対して、回転加振用の正弦電圧信号Sθも重畳して加え、X、Y方向と同時にθ方向の振動も生じさせるようにしている。すなわち第1水平加振手段107aだけではなく、第2水平加振手段107bでも回転方向の周期的加振力を生じるようにしている。
【0078】
この実施形態においては、回転方向(θ方向)の正弦電圧信号Sθが生じていない場合であれば、第1実施形態における場合と同様に各圧電素子71〜71、72〜72に対して信号の入力を行うようにしている(図4参照)。さらに、回転方向(θ方向)の正弦電圧信号Sθは、図中A位置における第1水平加振部107a1において、X方向の正弦電圧信号Sxに対して加算器139aを通じて重畳させた上で入力されるようにしている。また、これと対角位置にある第1水平加振部107a3において、X方向の正弦電圧信号Sxに対して減算器139cを通じて減じた上で入力されるようにしている。つまり、正弦電圧信号Sθを反転させた上で正弦電圧信号Sxに対して重畳させるようにしている。
【0079】
同様に、図中B位置における第2水平加振部107b2に対して、加算器139bを通じてY方向の正弦電圧信号Syにθ方向の正弦電圧信号Sθを重畳させた上で入力している。さらに、図中D位置における第2水平加振部107b4に対して、減産器139dを通じてY方向の正弦電圧信号Syにθ方向の正弦電圧信号Sθを反転させた上で重畳させて入力している。
【0080】
さらに、上記のように構成することで、各圧電素子71〜72に与えるべき信号が各々異なるため、それらの信号は個々に設けたアンプ137a〜137hを通じて各々増幅した上で入力されるように電気回路138が構成されている。
【0081】
このように構成されることで、例えばθ方向の正弦電圧信号Sθのみを加えた場合には、図15のように可動台6上の基準位置S(図2参照)を中心として対向位置にある第1水平加振部107a1と107a3、および、第2水平加振部107b2と107b4にそれぞれ逆位相の加振力を生じさせることができる。そのため、図16に示すように、図中A位置における第1バネ部材52にX負方向の変位が生じた場合には、対角のC位置にある第2バネ部材52にはX正方向の変位が生じる。このとき、B位置ではY負方向、D位置ではY正方向の変位が生じる。これらによって、可動台6上の基準位置Sを中心とした回転モーメントが発生し、これらの変位が信号に応じて周期的に変動することで回転方向(θ方向)の周期的加振力が生じる。
【0082】
以上のように構成した場合においても、上記第1実施形態と同様にワーク9の搬送および回転を行うことができる。そのため、第1実施形態により得られる効果として上述したものの中で、回転加振用圧電素子と水平加振用圧電素子とを分離して設けたことによるもの以外は、ほぼ同一の効果を得ることができる。
【0083】
さらに、本第2実施形態は、前記水平加振手段107a、107bにより直線方向と回転方向の成分が混在した方向に周期的加振力を生じさせる場合において、当該水平加振手段107a、107bを構成する水平加振部が備える各圧電素子107a1、107a3、107b2、107b4に対して、直線方向の周期的加振力を与える場合の動作指令信号と、回転方向の周期的加振力を与える場合の動作指令信号とを重畳させた動作指令信号を与えるように構成しているため、駆動源である圧電素子71〜73の数を減らして、装置構成を簡略化することができるようになっている。
【0084】
なお、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0085】
例えば、上述の第1実施形態を基にして、図17、図18に示すように変形した構成も考えられる。この変形例は、図17に示すように、第1実施形態と第1バネ部材52〜52の側面に貼り付ける回転加振用圧電素子274、275を異ならせたものである。第1実施形態においては、全ての第1バネ部材52〜52に対してX軸と直交する側の側面に回転加振用圧電素子としての第4圧電素子74〜74(図2参照)を貼り付けていたが、本変形例では対角位置にある一対の第1バネ部材52、52にのみX軸と直交する側の側面に回転加振用圧電素子の第4圧電素子274、274を貼り付け、他の一対の第1バネ部材52、52にはY軸と直交する側の側面に回転加振用圧電素子の第5圧電素子275、275を貼り付けたものである。すなわち、第1水平加振手段207aのみならず、第2水平加振手段207bによっても回転方向の周期的加振力を生じさせるようにしたものである。
【0086】
そのため、図18に示すように、一対の第1水平加振部207a1、207a3は第1バネ部材52と、第1圧電素子71と、回転加振用圧電素子としての第4圧電素子274とから構成され、他の一対の第1水平加振部207a2、207a4は第1バネ部材52と第1圧電素子71とから構成される。また、一対の第2水平加振部207b1、207b3は第1バネ部材52と第2圧電素子72とから構成され、他の一対の第2水平加振部207a2、207a4は第1バネ部材52と、第2圧電素子72と、回転加振用圧電素子としての第5圧電素子275とから構成される。
【0087】
このように構成した場合においても、図18に示したような電気回路238を構成することによって、θ方向の正弦電圧信号Sθを与えた際には、図15と同様に可動台上の基準位置S(図2参照)を中心に対向する位置にある第1水平加振部207a1と207a3、および、第2水平加振部207b2と207b4にそれぞれ逆位相の加振力を生じさせることで回転モーメントを発生させ、θ方向の周期的加振力を生じさせることができる。
【0088】
さらに、上述の第1および第2実施形態では、各方向への加振手段7a、7b、7c(107a、107b、7c)をそれぞれX、Y、Zの互いに直交する方向に加振力を与えるように構成したが、可動台6に三次元的に合成した振動軌跡を生成・変更できるかぎり必ずしも直交させることは必要でなく、単にそれぞれの方向が交差しているだけでもよい。また、各加振手段7a、7b、7c(107a、107b、7c)は厳密に垂直、水平方向に設定することも必要ではないし、基体4を傾けて設置する等の種々の利用の態様も可能である。
【0089】
また、上述の実施形態においては、第1バネ部材52の側面および、第2バネ部材53に貼りつける圧電素子71〜74を裏表に貼りつけた2個を一組としたバイモルフ型としていたが、それぞれを1個ずつとしたユニモルフ型とすることも可能である。さらには、このような構成を発展させて、さらに第1実施形態における水平加振用圧電素子71と回転加振用圧電素子74とを裏表に貼り付ける構成とすることも可能である。
【0090】
さらに、上述の実施形態では第2バネ部材53を合計4枚設けてあり、一対の第2バネ部材53を直列に配置したものを上下の二段として設けているが、直列に配置した2枚を連続した1枚の板状バネとして形成し、これを上下段に配置することにより合計2枚で構成することも可能である。本実施形態のように4枚構成とする場合には、組立が容易となり精度が向上するという利点があるとともに、2枚構成とした場合には部品点数が削減できて管理が容易になるという利点がある。
【0091】
また、上述の実施形態では、Z方向の周期的加振力の位相を基準として、X、Y、θ方向の各周期的加振力の位相を調整するような制御回路としていたが、Z方向の周期的加振力とX、Y、θ方向の各周期的加振力との間の位相差を所定の値とすることができる限り、どの方向の周期的加振力の位相を変更するように構成しても良い。
【0092】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0093】
1…ワーク回転搬送装置
4…基体
6…可動台
7…加振手段
7a…第1の水平加振手段
7a1〜7a4…第1の水平加振部
7b…第2の水平加振手段
7b1〜7b4…第2の水平加振部
7c…垂直加振手段
9…ワーク
31…振動制御手段
32…振動切替手段
52…第1バネ部材(棒状バネ部材)
53…第2バネ部材(板状バネ部材)
61…搬送面
71…第1圧電素子(水平加振用圧電素子)
72…第2圧電素子(水平加振用圧電素子)
73…第3圧電素子
74…第4圧電素子(回転加振用圧電素子)
S…基準位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワ−クを載せる搬送面を有し基体に対して弾性支持された可動台と、
垂直方向の周期的加振力を前記可動台に対して付与する垂直加振手段と、
前記可動台に設定した基準位置を中心に対向して配置された複数の水平加振部を具備し、それら複数の水平加振部を協働させ前記可動台に対して水平な直線方向および回転方向の周期的加振力を付与する水平加振手段と、
入力される切替命令に基づく動作指令信号を出力して、前記各加振手段による周期的加振力を位相差を有しつつ同一の周波数で同時に発生させ前記可動台に三次元の振動軌跡を生じさせるよう前記各加振手段を制御する振動制御手段と、
当該振動制御手段に対して動作指令信号の切替命令を出力して前記水平加振手段による周期的加振力の方向を直線方向または回転方向もしくは直線方向と回転方向の成分が混在した方向に切り替える振動切替手段とを備えたことを特徴とするワーク回転搬送装置。
【請求項2】
前記振動切替手段が、前記基準位置を挟んで対向して配置される水平加振部による各周期的加振力を互いに同位相および逆位相の間で切り替えるように構成したことを特徴とする請求項1に記載のワーク回転搬送装置。
【請求項3】
前記水平加振部が、
前記可動台に対して第1の水平方向への周期的加振力を各々付与する複数の第1水平加振部と、
前記第1の水平方向と交差する第2の水平方向への周期的加振力を各々付与する複数の第2水平加振部とから構成されており、
前記水平加振手段が、
前記複数の第1水平加振部からなる第1水平加振手段と、
前記複数の第2水平加振部からなる第2水平加振手段とより構成されており、
前記振動制御手段が、前記第1水平加振手段による周期的加振力と前記第2水平加振手段による周期的加振力とを位相差を有しつつ同時に発生させるように構成していることを特徴とする請求項1または2に記載のワーク回転搬送装置
【請求項4】
前記水平加振部が、
前記基体と前記可動台とを直接または間接的に接続する鉛直方向に延設された棒状バネ部材と、
当該棒状バネ部材の側面に貼設された圧電素子とを備えており、
それらの圧電素子が前記振動制御手段より正弦電圧を印加されることで周期的な伸びを生じ、圧電素子を貼設した側面に直交する方向に前記棒状バネ部材が変形することで周期的加振力を生じるように構成していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のワーク回転搬送装置。
【請求項5】
前記水平加振部が、同一の棒状バネ部材に貼設された直線方向の周期的加振力を発生させる水平加振用圧電素子と、回転方向の周期的加振力を発生させる回転加振用圧電素子とを備えていることを特徴とする請求項4に記載のワーク回転搬送装置。
【請求項6】
前記水平加振手段により直線方向と回転方向の成分が混在した方向に周期的加振力を生じさせる場合において、
当該水平加振手段を構成する水平加振部が備える各圧電素子に対して、直線方向の周期的加振力を与える場合の動作指令信号と、回転方向の周期的加振力を与える場合の動作指令信号とを重畳させた動作指令信号を与えるように構成したことを特徴とする請求項4に記載のワーク回転搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−71797(P2013−71797A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210836(P2011−210836)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】