説明

ワーク計測装置および計測方法

【課題】 チャック装置の芯ずれを自動的に補正してワークの真の外径位置を得ることができるワーク計測装置、およびワーク計測方法を提供する。
【解決手段】 このワーク計測装置は、軸心回りに回転自在であってワークWを支持可能なチャック装置1と、このチャック装置1に支持されたワークWの外径位置を計測する計測器2とを備える。チャック装置1に断面が真円であるマスタワークMWを支持させた際の計測器2の計測値を記憶するマスタワーク外径記憶手段14と、チャック装置1に計測対象ワークWを支持させた際の計測値を記憶するワーク計測値記憶手段15とを設ける。この計測対象ワークWの計測値をマスタワーク外径記憶手段14に記憶された計測値で補正するワーク計測値補正手段17を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、旋盤等で加工されたワークの外径を、旋盤の機外等で計測するワーク計測装置および計測方法に関し、特にそのチャック装置の芯ずれの自動補正に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークの外径計測における振れ計測では、ワークの基準径部分を精密チャックで把持し、回転させて計測部を計測している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
チャック自身の振れを補正するとき、基準側に接触子を当てるが、当てられない場合は補正を入れることができなかった。基準側に接触子を当てられない場合は、チャック芯出しを正確に行うしかなくなるが、この芯出しの精度を上げるには限界があった。
【0004】
この発明の目的は、チャック装置の芯ずれを自動的に補正してワークの真の外径位置を得ることができるワーク計測装置、およびワーク計測方法を提供することである。
この発明の他の目的は、芯ずれの補正を精度良く行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明のワーク計測装置は、軸心回りに回転自在であってワーク(W)を支持可能なチャック装置(1)と、このチャック装置(1)の周辺に設けられてチャック装置(1)に支持されたワーク(W)の外径位置を計測する計測器(2)とを備え、ワーク(W)を回転させてワーク(W)の外径位置を複数箇所計測するワーク計測装置であって、前記チャック装置(1)に断面が真円であるマスタワーク(MW)を支持させた際の前記計測器(2)の計測値を記憶するマスタワーク外径記憶手段(14)と、チャック装置(1)に計測対象ワーク(W)を支持させた際の計測値を記憶するワーク計測値記憶手段(15)と、このワーク計測値記憶手段(15)に記憶された計測対象ワーク(W)の計測値を前記マスタワーク外径記憶手段(14)に記憶された計測値で補正するワーク計測値補正手段(17)とを備える。
【0006】
この構成によると、真円のマスタワーク(MW)を計測するため、その計測値は、チャック装置(1)の芯ずれを示すことなる。このマスタワーク(MW)の計測値をマスタワーク外径記憶手段(14)に記憶しておき、計測対象ワーク(W)を計測した計測値を、ワーク計測値補正手段(17)により、マスタワーク外径記憶手段(14)に記憶された計測値で補正する。そのため、計測対象ワーク(W)の計測値がチャック装置(1)の芯ずれ量で補正されることになり、計測対象ワーク(W)の真の外径位置を得ることができる。
【0007】
この発明において、前記マスタワーク外径記憶手段(14)は、マスタワーク(MW)の計測値をチャック装置(1)の円周方向位置と関連付けて記憶するものとし、計測対象ワーク(W)をマスタワーク(MW)と同じチャック装置(1)の円周方向位置で計測させる手段(13)を設けても良い。
計測対象ワーク(W)とマスタワーク(MW)とを、チャック装置(1)の同じ円周方向位置で計測するため、計測対象ワーク(W)の計測値に対して、マスタワーク(MW)の計測値が補正値として正確なものとなる。そのため、より一層精度の良い計測を行うことができる。
【0008】
この発明のワーク計測方法は、軸心回りに回転自在であってワーク(W)を支持可能なチャック装置(1)と、このチャック装置(1)の周辺に設けられてチャック装置(1)に支持されたワーク(W)の外径位置を計測する計測器(2)とを備えたワーク計測装置を用い、前記チャック装置(1)にマスタワーク(MW)を支持させた状態で、チャック装置(1)を回転させてマスタワーク(MW)の外径位置を複数箇所計測し、その各計測値を記憶手段(14)に記憶しておき、マスタワーク(MW)に代えて計測対象ワーク(W)を前記チャック装置(1)に支持させた状態で、チャック装置(1)を回転させて計測対象ワーク(W)の外径位置を複数箇所計測し、この計測対象ワーク(W)の外径位置の計測値を、前記マスタワーク(MW)の外径位置の計測値で補正して計測対象ワーク(W)の補正後計測値とする。
この計測方法によると、この発明のワーク計測装置につき説明したと同様に、チャック装置(1)の芯ずれを自動的に補正して計測対象ワーク(W)の真の外径位置を得ることができる。
【発明の効果】
【0009】
この発明のワーク計測装置は、軸心回りに回転自在であってワークを支持可能なチャック装置と、このチャック装置の周辺に設けられてチャック装置に支持されたワークの外径位置を計測する計測器とを備え、ワークを回転させてワークの外径位置を複数箇所計測するワーク計測装置であって、前記チャック装置に断面が真円であるマスタワークを支持させた際の前記計測器の計測値を記憶するマスタワーク外径記憶手段と、チャック装置に計測対象ワークを支持させた際の計測値を記憶するワーク計測値記憶手段と、このワーク計測値記憶手段に記憶された計測対象ワークの計測値を前記マスタワーク外径記憶手段に記憶された計測値で補正するワーク計測値補正手段とを備えたものであるため、チャック装置の芯ずれを自動的に補正してワークの真の外径位置を得ることができる。
前記マスタワーク外径記憶手段を、マスタワークの計測値をチャック装置の円周方向位置と関連付けて記憶するものとし、計測対象ワークをマスタワークと同じチャック装置の円周方向位置で計測させる手段を設けた場合は、チャック装置の芯ずれの補正を精度良く行うことができる。
【0010】
この発明のワーク計測方法は、軸心回りに回転自在であってワークを支持可能なチャック装置と、このチャック装置の周辺に設けられてチャック装置に支持されたワークの外径位置を計測する計測器とを備えたワーク計測装置を用い、前記チャック装置にマスタワークを支持させた状態で、チャック装置を回転させてマスタワークの外径位置を複数箇所計測し、その各計測値を記憶手段に記憶しておき、マスタワークに代えて計測対象ワークを前記チャック装置に支持させた状態で、チャック装置を回転させて計測対象ワークの外径位置を複数箇所計測し、この計測対象ワークの外径位置の計測値を、前記マスタワークの外径位置の計測値で補正して計測対象ワークの補正後計測値とする方法であるため、チャック装置の芯ずれを自動的に補正してワークの真の外径位置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の一実施形態を図1ないし図3と共に説明する。このワーク計測装置は、ワークWを支持可能なチャック装置1と、このチャック装置1の周辺に設けられてチャック装置1に支持されたワークWの外径位置を計測する計測器2とを備える。
チャック装置1は、ワークWを把持する開閉可能なチャック爪1aを有しており、チャック支持台3に、チャック軸心Oの回りに回転自在に支持されている。チャック装置1はモータ4により回転駆動される。
【0012】
計測器2は、ワークWの外径面に接触子6が接触して接触子6の出入り量を検出して出力するマイクロメータ等からなり、計測器本体2aに揺動自在に設置された揺動アーム5の先端に接触子6が設けられている。計測器2は計測器支持装置7に設置されている。
【0013】
計測器支持装置7は、固定フレーム8に昇降体9が昇降可能に設置され、この昇降体9の下端に設けられたガイド10に可動台11を水平方向に進退自在設置したものであり、可動台11に計測器2が取付けられている。ガイド10による計測器2の案内方向は、チャック装置1のチャック軸心Oを中心とする円の半径方向(換言すれば、チャック軸心Oに垂直に交わる直線に沿う方向)とされ、その半径に沿う直線上を接触子6が移動可能なように設けられる。
【0014】
計測器2の計測値の取込みおよび処理は、パーソナルコンピュータ等からなる計測値取込・処理装置12によって行われる。
計測値取込・処理装置12は、計測値取込手段13、マスタワーク外径記憶手段14、ワーク計測値記憶手段15、ワーク計測値補正手段17、補正後計測値記憶手段16、振れ計測手段18、および良否判定手段19を有する。
【0015】
計測値取込手段13は、計測器2の計測値を取り込むタイミングを設定した手段であって、チャック装置1を1回転させる間に、複数回の計測値の取り込みを行う。計測値取込手段13は、タイマ20を有していて、チャック装置1の1回転の周期Tを設定数に分割した計測間隔t毎に計測値の取り込みを行う。チャック装置1は、回転の原点位置が検出可能なものであり、計測値取込手段13は、この原点位置から1回転分の検出値の取り込みを行う。したがって、計測値取込手段13は、チャック装置1の円周方向に等分割された円周方向位置に対応するワーク外周面の各計測点を計測することになる。
なお、チャック装置1が、エンコーダ等の回転位相の検出手段を有するものである場合は、タイマ20の代わりに、回転位相の検出手段の検出値によって検出器2の計測値の取り込みタイミングを得るようにしても良い。
【0016】
計測値取込手段13に対する検出値の取り込み開始の指令は、所定のスイッチ(図示せず)などからオペレータが与えるようにしても良く、また自動で与えるようにしても良い。自動で与える場合、例えば計測器支持装置7により計測器2の接触子6がワークWに当たってその計測値が零となり、かつチャック装置1の回転位相が原点位置となったことを条件として、検出値の取り込みを開始させるようにする。
【0017】
マスタワーク外径記憶手段14は、チャック装置1に断面が真円であるマスタワークMWを支持させた際の計測器2の計測値を記憶する手段である。この場合に、マスタワーク外径記憶手段14は、マスタワークMWの計測値をチャック装置1の円周方向位置と関連付けて記憶する。この関連付けは、前記のようにタイマ20で設定される各計測タイミングを区別する情報と対応させて計測値を記憶することで行われる。この、計測タイミングを区別する情報は、所定の識別情報であっても良く、また単に各計測値を計測順に並べて記憶させることで区別される情報であっても良い。 ワーク計測値記憶手段15は、チャック装置1に計測対象ワークWを支持させた際の計測値を記憶する手段である。ワーク計測値記憶手段15においても、マスタワーク外径記憶手段14と同様に、計測値をチャック装置1の円周方向位置と関連付けて記憶する。
【0018】
計測値取込手段13により取り込んだ計測器2の計測値をマスタワーク外径記憶手段14に記憶させるか、またはワーク計測値記憶手段15に記憶させるかは、オペレータの入力により選択するようにしても良く、また計測値取込・処理装置12にマスワーク計測モードと計測対象ワーク計測モードとに切り換えるモード切換手段(図示せず)を設け、その設定モードに応じた記憶手段14,15に記憶させるようにしても良い。上記モード切換手段の機能は、例えば計測値取込手段13に設けても良い。
【0019】
マスタワークMWの計測と、計測対象ワークWの計測とのいずれであっても、計測値取込手段13による計測値の取り込みタイミングは同じである。したがって、計測値取込手段13は、計測対象ワークWをマスタワークMWと同じチャック装置1の円周方向位置で計測させる。
【0020】
ワーク計測値補正手段17は、ワーク計測値記憶手段15に記憶された計測対象ワークWの各計測値を、マスタワーク外径記憶手段14に記憶された計測値で補正する手段である。この補正は、例えば、各計測点毎に計測対象ワークWの計測値からマスタワークMWの計測値を減算することで行う。
【0021】
補正後計測値記憶手段16は、ワーク計測値補正手段17により補正された各補正後計測値を記憶する手段である。
振れ計測手段18は、各補正後計測値のプラス側の最大値とマスナス側の最大値との差(すなわちピークツーピーク値)を演算して最大振れ量とする手段である。
良否判定手段19は、振れ計測手段18により演算された最大振れ量を設定許容値と比較し、設定許容値を超えると加工不良と判定する手段である。
【0022】
この構成のワーク計測装置を用いた計測方法を説明する。まず、図1(A)のように、チャック装置1にマスタワークWを支持させて、チャック装置1を回転させながらマスタワークWの外径位置を複数箇所計測し、その各計測値をマスタワーク外径記憶手段14に記憶させる。前記複数箇所は、前記のようにタイマ20で設定された計測タイミングで定まる位置である。
このとき、マスタワークMWの各点の計測値をつなぐと、例えば図2に曲線mで示すようになる。マスタワークMWは真円であるため、チャック装置1の芯ずれがなければ、前記曲線mは、値が零の直線となるが、通常は芯ずれが生じているため、図2のような形状の曲線mとなる。
【0023】
この後、マスタワークMWに代えて、図1(A)のように計測対象ワークWをチャック装置1に支持させた状態で、チャック装置1を回転させながら計測対象ワークWの外径位置を複数箇所計測する。その各計測値をワーク計測値記憶手段15に記憶させる。この各計測値をつなぐと、例えば図2の曲線wとなる。
【0024】
この計測対象ワークWの各外径位置の計測値を、ワーク計測値補正手段17により、マスタワークMの対応する各計測値で補正し、計測対象ワークの補正後計測値とする。補正後計測値は、補正後計測値記憶手段16に記憶する。
【0025】
各補正後計測値をつなぐと、図2の曲線awとなる。すなわち、図3のように、マスタワークMWの各計測点の計測値がA,B,C,…であり、計測対象ワークWの対応する各計測点の計測値がa,b,c,…であるとすると、補正後計測値は、それぞれ(A−a),(B−b),(C−c),…となる。
マスタワークMWは真円であるため、その計測値は、チャック装置1の芯ずれを示すことなる。したがって、計測対象ワークWの計測値からマスタワークMWの計測値を減算することで、計測対象ワークWの真の外径位置である補正後計測値が得られる。
【0026】
補正後計測値が得られると、振れ計測手段18により、各補正後計測値のプラス側の最大値とマイナス側の最大値との差(すなわちピークツーピーク値)PPmaxを演算して最大振れ量とする。
この最大振れ量PPmaxを、良否判定手段19により設定許容値と比較し、設定許容値を超えると加工不良と判定する。
【0027】
このワーク計測装置,計測方法によると、このように、チャック装置1の芯ずれを自動的に補正してワークWの真の外径位置を得ることができる。また、芯ずれの補正が精度良く行える。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(A)はこの発明の一実施形態にかかるワーク計測装置の概念構成を示すブロック図、(B)はそのマスタワークの計測動作の説明図である。
【図2】同ワーク計測装置による各計測値と補正結果の関係を示すグラフである。
【図3】同ワーク計測装置による各計測値と補正結果の関係を示す図表である。
【符号の説明】
【0029】
1…チャック装置
2…計測器
4…モータ
6…接触子
7…計測器支持装置
9…昇降体
10…ガイド
12…計測値取込・処理装置
13…計測値取込手段
14…マスタワーク外径記憶手段
15…ワーク計測値記憶手段
16…補正後計測値記憶手段
17…ワーク計測値補正手段
18…振れ計測手段
19…良否判定手段
MW…マスタワーク
O…チャック軸心
W…計測対象ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心回りに回転自在であってワークを支持可能なチャック装置と、このチャック装置の周辺に設けられてチャック装置に支持されたワークの外径位置を計測する計測器とを備え、ワークを回転させてワークの外径位置を複数箇所計測するワーク計測装置であって、
前記チャック装置に断面が真円であるマスタワークを支持させた際の前記計測器の計測値を記憶するマスタワーク外径記憶手段と、チャック装置に計測対象ワークを支持させた際の計測値を記憶するワーク計測値記憶手段と、このワーク計測値記憶手段に記憶された計測対象ワークの計測値を前記マスタワーク外径記憶手段に記憶された計測値で補正するワーク計測値補正手段とを備えたワーク計測装置。
【請求項2】
前記マスタワーク外径記憶手段は、マスタワークの計測値をチャック装置の円周方向位置と関連付けて記憶するものとし、計測対象ワークをマスタワークと同じチャック装置の円周方向位置で計測させる手段を設けた請求項1記載のワーク計測装置。
【請求項3】
軸心回りに回転自在であってワークを支持可能なチャック装置と、このチャック装置の周辺に設けられてチャック装置に支持されたワークの外径位置を計測する計測器とを備えたワーク計測装置を用い、
前記チャック装置にマスタワークを支持させた状態で、チャック装置を回転させてマスタワークの外径位置を複数箇所計測し、その各計測値を記憶手段に記憶しておき、
マスタワークに代えて計測対象ワークを前記チャック装置に支持させた状態で、チャック装置を回転させて計測対象ワークの外径位置を複数箇所計測し、
この計測対象ワークの外径位置の計測値を、前記マスタワークの外径位置の計測値で補正して計測対象ワークの補正後計測値とする、
ワーク計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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