説明

一体的に組み込まれた光ファイバを有する複合繊維部品の損傷領域の修復方法、及び装置

本発明は航空機用光ファイバ組み込み複合繊維部品1の損傷の修復に特に適した方法に関し、a)少なくとも所定領域において材料を機械的に除去して損傷領域2を前処理する工程とb)特には化学エッチングによって損傷領域2のエッジ領域6に光ファイバ3を露出させる工程とc)光学的な接続を修復する為にブリッジ用光ファイバ18を継ぎ合わせる工程とd)修復パッチ20を接着によって挿入及び/又は載置させる工程とを含む。さらに本発明はバルブ10を介して接続された2つのコンテナ8,9と可撓パイプ12を介して第2コンテナに接続された当接体11とを有し、特には修復スティック7の形態をなす装置に関する。コンテナ9はエッチングの為の酸性溶液を、第2コンテナ8はエッチング処理後に酸性溶液を中和させるアルカリ溶液を収容する。前記方法及び装置は、いわゆる「現地」での修復及び/又は光ファイバ付きの複合繊維部品の製造に特に適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機に使用される複合繊維部品であって、少なくとも一つの一体的に組み込まれた光ファイバを有する複合繊維部品の損傷領域を修復する方法に関する。
【0002】
本発明は、さらに、複合繊維部品内に一体的に組み込まれた光ファイバを露出させる為の装置に関する。
【背景技術】
【0003】
DE 101 02 853 B4は複合繊維樹脂に対してレーザーを用いて材料を選択的に除去する方法を開示し、WO 2007/003880Aは航空機における複合繊維材料の損傷領域を修復する方法を開示している。
【0004】
現在、航空機製造においては、質量を低減させる為に複合繊維部品が幅広く利用されている。この複合部品は、好ましくは、炭素繊維強化エポキシ樹脂で形成される。これに代えて、例えば、ガラス繊維,アラミド繊維又はセラミック繊維等の補強繊維を埋め込んだ補強繊維構造体を生成する為に、他の樹脂材料が使用され得る。
【0005】
複合繊維部品の機械的な完全性を評価する為に、例えば、ガラス繊維が前記複合繊維部品に組み込まれるようになってきている。これによれば、複合繊維部品における局所的な機械的過荷重に起因した疲れ破面又は疲労割れを使用中の早い段階において自動的に発見することができる。さらに、複合繊維部品に一体的に組み込まれたガラス繊維は航空機の内部における大量の情報を伝達する為にも使用可能であり、これにより、従来のワイヤ方式に比してコストを大幅に削減できる。
【0006】
例えば、石との衝突や鳥との激突等によって引き起こされる前記複合繊維部品の機械的損傷が現時点において大きな問題となっている。例えば、前記複合繊維部品が石との衝突によって損傷したとすると、その中に組み込まれているガラス繊維も損傷、特には切断される危険性がある。このような状況において、前記損傷の修復を可能とする利用可能な修復方法を確保することが極めて重要となる。この場合において、前記修復は航空機製造メーカの製造センターの外で、さらには簡単な装置を用いて行われる。必要に応じて、このような修復が「現地」作業("in filed applications")として実行されることが特に有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】DE 101 02 853 B4
【特許文献2】WO 2007/003880A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、一体的に組み込まれた光ファイバを備えた複合繊維部品の損傷の修復を可能とする方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的は、請求項1に従った工程を有する方法によって達成される。
【0010】
本発明は、人為的に且つ比較的低コストで、さらには、「現地」での作業によって、少なくとも部分的に光ファイバとして作用するように組み込まれた一体型光ファイバを備えた複合繊維部品の損傷を修復することを初めて可能とした。50μmから150μmの間の直径を有する少なくとも一つの別体のガラス繊維を有する前記複合繊維部品に組み込まれた光ファイバは、複合材料の樹脂母体内において、強化繊維構造として一般的に利用される炭素繊維と共に配置される。又、前記光ファイバを前記強化光ファイバと共に織る、編む又は縫うことも可能である。ガラス繊維又は光ファイバ(いわゆるファイバ・ブラッグ・グリッド・センサ(“FGBS”))は、所定距離に配列された高密度領域を有し、これよって格子模様を有している。CFRP部品に作用する外部からの力によってガラス繊維が若干伸長すると、高濃度ゾーン間の格子距離が変化し、その結果、ファイバ内に導入された光の周波数も変化する。これらの周波数変位は、CFRP部品の長さの変化の記録を測定することによって評価される。
【0011】
第1の作業ステップにおいて、損傷された複合繊維部品又は損傷領域が完全に除去される。
損傷領域は、例えば、研削,削り取り,搾り取り,研磨,切削又は吹き付けによって除去され得る。この場合において、損傷領域のエッジ領域は後の工程でこの領域に接着される修復パッチへの力の伝達をより良くする為に厚肉化され、これにより、前記修復パッチの正確な接合が実現される。除去領域のエッジ領域が厚肉とされる厚肉比は、複合CFRP材料においては約1:100とされ、これにより、十分な接着面積の拡張を得ることができる。除去領域のベース領域は略平坦とされ、且つ、四角又は矩形状とされる。前記除去領域は、四角又は矩形状から変形されたベース領域を有し得る。
【0012】
第2のステップにおいては、損傷領域のエッジ領域において光ファイバに対する前処理が行われる。複合繊維部品がエポキシ樹脂に埋め込まれた炭素繊維で形成されている場合には、光ファイバは、好ましくは、硫酸及び過酸化水素(H)を用いた化学エッチングによって露出される。過酸化水素の好ましい使用温度は350℃近傍とされる。
【0013】
硫酸の作用によって、樹脂母体はタールの小塊(炭素の塊)に変化され、これは、高温の過酸化水素によってその後に酸化されて除去される。炭素繊維は、過酸化水素に付着されない。硫酸の代わりに、必要に応じて、光ファイバをエッチングする為に硫酸及び硝酸の混合溶液を使用することも可能である。光ファイバに対して使用される露出プロセスに拘わらず、荷重無し状態のCFRP部品に対して修復プロセスのみを行うことも可能である。基本的には、種々の有機酸及び/又は無機酸がこの方法の為に使用され得る。他の樹脂材料で形成されている複合繊維部品の場合には、他の酸性物質又は少なくとも2つの異なる酸性物質の組み合わせを用いなければならない場合もある。炭素繊維及び光ファイバは影響を受けることなく、硫酸の作用によって、少なくともデュロプラスチック・エポキシ樹脂母体(duroplastic epoxy resin marix)が光ファイバの領域で完全に分解される。しかしながら、炭素繊維は注意深く分断することによって容易に除去可能であり、これにより、一般的には別体のガラス繊維を有する光ファイバが継ぎ合わせプロセスにとって十分な長さに亘って厚肉エッジ領域から突出される。光ファイバは、後続する継ぎ合わせプロセスにおいて利用可能な十分な繊維長さが得られるように、エッチングプロセスによって囲繞する樹脂母体から露出される。これに代えて、光ファイバを露出させる為にいわゆるプラズマエッチングプロセスを使用することも可能である。
【0014】
次に、ブリッジ用光ファイバが光学的接続を回復させる為に継ぎ合わされる。光ファイバは、公知の方法、特に通信技術分野において利用されている方法によってブリッジ用光ファイバに継ぎ合わされる。一般的には、損傷された複合繊維部品における光ファイバに使用されているものと同じ種類のガラス繊維がブリッジ用光ファイバにも使用される。光ファイバが露出されるべき領域においてエポキシ樹脂がエッチング除去された後に、作業領域に対して洗浄及び/又は化学的な中和が必要とされる場合がある。修復用光ファイバは、露出された光ファイバの両側の間において、エッジ領域に沿って又は除去領域を最短距離で貫通するように配置され得る。必要に応じて、ブリッジ用光ファイバは接着によって除去領域の内側に予め固着され得る。最終作業ステップにおいて、修復パッチは損傷領域が除去された領域に接着され、好ましくは、空洞を形成することなく且つ継ぎ目のない状態で損傷領域の除去部分に挿入される。この目的の為に、修復パッチは、除去領域の外形状と正確に一致した形状を有するものとされる。
【0015】
本発明に係る方法の改良形態においては、一般的には複合繊維部品の損傷領域が機械的手段によって除去された後に、当該領域への修復パッチの接着性を向上させる為に当該領域が活性化又は洗浄され得る。この活性化は、公知の機械的方法,化学的方法又はこれらの組み合わせによって行われる。後続する接着剤の接着性を向上させる為に、例えば、砥石,研磨剤,吹き付け又は化学的処理によって表面が研磨される。
【0016】
本発明のさらなる改良形態は、光ファイバが選択的に露出、即ち、光ファイバ周辺の限られた空間が露出されることを提供する。この選択的な露出は、エッチングされるべき領域が硫酸,硝酸,フッ化物又は有機酸及び無機酸の種々の組み合わせ等のエッチング流体によって露出される化学的エッチング方法又はプロセスによって実行される。これに代えて、プラズマ・サポート・ガス−ケミカル方法(いわゆるプラズマエッチング方法)によって材料除去することも可能である。
【0017】
本発明のさらに他の好ましい形態においては、ブリッジ用光ファイバがエッジ領域に沿って配設され得る。修復用光ファイバが除去された損傷領域の厚肉エッジ領域の周辺に沿って配置されるから、接着領域が同時に監視され、従って、作動期間に亘る接着の完全性が保証される。必要な場合には、追加のセンサが修復用光ファイバに備えられる。これに代えて、除去領域を最短で跨ぐように、一般的には直線を形成するように修復用光ファイバを配設することも可能である。
【0018】
必要に応じて、修復用光ファイバは、修復パッチが除去領域に接着によって挿入される前に、厚肉エッジ領域に予め固着され得る。この場合において、複合部品の樹脂母体に対して良好な接着特性を有する接着剤が好適に使用される。一般的には、複合繊維部品の樹脂母体を形成する為に使用されるものと同じ設定のエポキシ樹脂が接着剤として使用される。
【0019】
さらには、エッジ領域から除去領域の略中央まで延びる狭いブリッジが残存するように、損傷領域の機械的除去が行われ得る。その後、狭いブリッジに埋め込まれている光ファイバがエッチング処理によって囲繞する樹脂母体から露出される。この方法によれば、まず、光ファイバの比較的に長い区画が純粋な機械的手段によって除去可能となる。光ファイバが数ミリメートルの幅であるが特定の条件においては複合繊維部品の材料厚みに応じて数センチメートルの幅とされ得るブリッジ内に埋め込まれた状態となるまで、材料の大部分が一般的な機械的除去方法(研磨,擦り取り,削り取り,研磨剤,吹き付け)によって除去される。この場合において、最終の露出ステップは、比較的にゆっくりとした、従って、時間の掛かるエッチング方法によって行われる。ブリッジを形成する方法は、対向するエッジ領域に対して繰り返される。
【0020】
さらに、本発明の目的は、請求項8に係る修復スティックを含む装置によって達成される。
【0021】
修復用スティックはバルブを介して接続された第1及び第2コンテナを有し、且つ、パイプを介して前記第2コンテナに接続された当接体は作用するシール領域を形成する為に露出されるべき光ファイバの領域に配置可能とされているから、エッチング処理を実行する為に前記第2コンテナに収容された(エッチング)流体は前記当接体によって画され且つ制限された複合繊維部品の表面領域に選択的に作用する。前記複合繊維部品が炭素繊維強化エポキシ樹脂によって形成されている場合には、前記第2コンテナに収容された前記液体は好ましくは硫酸とされる。炭素繊維強化構造を囲繞する少なくともエポキシ樹脂は、前記当接体の影響を受ける領域においては炭素繊維及びその中に含まれる光ファイバのみが残存するまで、分解される。炭素繊維が分断されるから、光ファイバが炭素繊維から露出され、ブリッジ用光ファイバが後続する継ぎ合わせプロセスによって修復の為に継ぎ合わせ可能となる。
【0022】
第2コンテナの底部は、好ましくは、「バルブ」を形成するように穿孔可能な膜として構成される。穿孔処理の容易化を図る為に、前記当接体に接続されたパイプにはその端部に、前記パイプを前記第2コンテナに挿入した際に前記膜に穿孔を形成して前記第2コンテナ及び前記当接体間を接続させるドーム又はチップが備えられる。
【0023】
前記第1コンテナは、前記第2コンテナに収容された酸性溶液の化学的中和のみを行うアルカリ溶液を収容する。理想的な形態においては、前記第1コンテナの前記アルカリ溶液及び前記第2コンテナの前記酸性溶液が完全に混合された際に前記酸性溶液の全量が中和されるように、前記第1コンテナに収容されるアルカリ溶液の量が設定される。前記第1及び第2コンテナの間に配置された前記バルブを開放することによって、エッチング処理を完了する為に中和処理だけが開始される。
【0024】
中和の程度を制御する為に、前記第1コンテナ内のアルカリ溶液には光学的pH指示薬が混合され得る。さらに、穿孔バルブ(膜)と対比すると、バルブは開放量を再設定可能であり、中和処理は「滴定」によって行われ得る。この場合、前記バルブの開放及び再閉塞を短時間で繰り返すことによって小容量に設定されたアルカリ溶液が第2コンテナ及び当接体に供給可能とされ、これにより、作業領域での光ファイバの露出処理を完了すべく、約「7」の所望pH値に正確に設定される、
【0025】
前記当接体は、略ベル形状に形成された耐酸性の弾性ゴムで形成されている。前記複合繊維部品に載置される前記当接体の下方周縁エッジは、少なくとも一つの弾性ゴムリップを有している。光ファイバを露出させる為にエポキシ樹脂母体から開放される複合繊維部品の区画に酸性溶液が影響を与える空間領域(作業領域)が前記当接体によって画され、前記作業領域からの酸性溶液の漏出が有効に防止される。
【0026】
炭素繊維強化エポキシ樹脂の場合には、一般的には、硫酸が、エポキシ樹脂母体をエッチング除去することによって光ファイバを露出させる為の最も適切な化学品である。他の樹脂材料及び/又は強化繊維の場合には、囲繞する樹脂材料から光ファイバを露出させる為に他の酸性溶液又は少なくとも2つの有機酸及び/又は無機酸の混合溶液が必要とされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、損傷された一体型光ファイバが組み込まれた複合繊維部品の斜視図である。
【図2】図2は、損傷領域を(機械的に)除去した後の複合繊維部品を示している。
【図3】図3は、光ファイバの領域において複合繊維部品の樹脂母体を化学的エッチングによって除去する為の修復スティックを備えた図2の拡大断面図である。
【図4】図4は、複合繊維部品における除去領域のエッジ領域において露出された光ファイバを示す図2の拡大断面図である。
【図5】図5は、エッジ領域に配設され且つ継ぎ合わされる修復用光ファイバを備えた複合繊維部品の損傷部位の除去領域を、そこに接着される修復パッチと共に示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
添付図面において、同一部材には同一符号を付している。
【0029】
図1は、航空機における複合繊維部品1であって、複数のクラックを含む損傷領域2を有する複合繊維部品1を示している。前記複合繊維部品1の損傷は、例えば、外部の物体との衝突(いわゆる「衝突」)によって引き起こされる。前記複合繊維部品は、炭素繊維強化エポキシ樹脂を用いて公知の方法で形成される。
【0030】
前記複合繊維部品1には光ファイバ3が埋め込まれ又は一体化されている。前記光ファイバ3は、好ましくは、直径が100μmより小さいガラス繊維を少なくとも1本有する。光ファイバ3は、例えば、複合繊維部品1の機械荷重及び動作結果を記録し、及び/又は、疲労現象の結果として生じるクラック形成を発見するように作用する。さらに、複数の制御情報が前記光ファイバによって航空機の内部に伝達され得る。
【0031】
第1のステップにおいて、損傷領域2が純粋に機械的に除去される。図2に示されるように、前記複合繊維部品1における除去領域4は略矩形状のベース領域5を有している。前記除去領域4におけるエッジ領域6は厚肉化(thickened)され、即ち、前記エッジ領域6の表面が前記除去領域4のベース領域5に対して45°より小さい傾斜角を形成している。斯かる構成によれば、図2においては図示しない修復パッチに接着剤をつける際に利用可能な表面積を拡大させることができる。複合繊維部品1の最終強度が修復パッチを接着することによって損傷領域2において感知できる程に低減されてはならないから、この除去領域4の表面積の拡大は極めて重要であり、さらには、炭素繊維強化エポキシ樹脂を修復する為に使用される接着剤は一般的に5N/mmの最大接着強度を有するものとされる。固形材料よりも低い接着表面の機械的な荷重能力を向上させる為には、例えば厚肉化によって接着領域の表面積を拡大させる必要がある。
【0032】
前記損傷領域2は、好ましくは、機械的手段によって除去される。この場合において、前記除去は、適切な道具を使って、研削,削り取り,搾り取り,吹き付け,切削,研磨等によって行われる。この領域を通過する光ファイバ3は既に損傷され、さらなる不都合が生じることなく残さずに除去できる為、前記光ファイバ3に特別の注意を払う必要は無い。これに代えて、損傷領域2を(より時間を消費する)化学的手段によって除去することも可能である。
【0033】
損傷領域2の除去の後には洗浄作業の形態をなす中間ステップが続く。この中間ステップにおいては、接着されるべき修復パッチの接着性を向上する為に、残存するクーラント又は研磨剤の残留物がベース領域4及びエッジ領域6から除去される。
【0034】
さらなる作業ステップにおいて、手動操作可能であり且つ図3に示すように修復スティックとして形成された装置を用いて、複合繊維部品1から光ファイバ3が引き続いて露出される。修復スティック7は、光ファイバ3の出口領域において除去領域4のうちの機械加工されるべきエッジ領域6に配置される。
【0035】
修復スティック7は、再閉塞可能なバルブ10に連結された第1コンテナ8及び第2コンテナ9を有している。前記第2コンテナ9にはパイプ12を介して当接体11が接続されている。前記パイプ12は、例えば、耐酸性の可撓パイプ又は弾性ホースパイプとして形成される。前記パイプ12は、前記第2コンテナ9を向く端部に、膜13の貫通容易化を図る為のチップ又は半球体(dome)等を有し得る。化学的除去プロセスを開始する為に、前記パイプ12は使用者によって下方のコンテナ9に挿入される。これにより、膜13が穿孔されて、第2コンテナ9内に収容されている流体がパイプ12を介して当接体11へ流れ込み、エッジ領域6の表面に作用する。
【0036】
前記第1コンテナ8は、前記コンテナ9内に収容された酸性流体を中和する為だけに備えられる苛性アルカリ溶液を収容している。前記第2コンテナ9内に収容された酸性流体は、前記複合繊維部品が炭素繊維強化エポキシ樹脂で形成されている場合には、好ましくは、高濃度の硫酸流体とされる。他の樹脂システム及び/又は他の繊維タイプで形成された複合繊維部品12は、必要に応じて、他の酸性流体又は有機酸及び無機酸の組み合わせを必要とする。除去工程の時間短縮化の為に、前記酸性流体の粘性を調整する為の加熱装置を備え得る。
【0037】
前記第1コンテナ8内に備えられるアルカリ溶液の量は、前記バルブ10を開放させることによって前記アルカリ溶液が前記第1コンテナ8から前記第2コンテナ9及び前記当接体11内に完全に排出された際に理想的には硫酸溶液を完全に中和するように設定される。この場合において、混合流体のpH値は約「7」となる。前記再閉塞可能なバルブ10によって「滴定」を行うことも可能であり、この場合には、前記バルブ10の開閉を繰り返し行うことによって少量のアルカリ溶液が前記第1コンテナ8から前記第2コンテナ9へ流れ込み、これにより、前記混合流体及びエッジ領域6に含まれる残存酸性流体のpH値を所望値に大変に正確に設定できる。
【0038】
中和プロセスを監視し且つ制御する為に、アルカリ溶液には光学的pH指示薬が混合され、前記光学的pH指示薬は、前記第1及び第2コンテナ8,9からの混合流体が所望pH値に到達した際にその旨の表示、即ち、色の変化を示す。これに代えて、電気式pHメータを備えることも可能である。可撓性を有するように構成された前記パイプ12は、肉厚のエッジ領域6での作業が容易に行われることを可能とする。本発明に係る方法を実行する為には、修復パッチが除去領域4に接着される前に、中和状態が広範囲に広がることが極めて重要である。
【0039】
樹脂母体の分解の結果としてエッチングプロセスの後に生成されるタールの塊を除去する為に、過酸化水素(H)を収容する図略の他のコンテナが備えられる。前記過酸化水素は、中和が完了した後に約350℃の温度で当接体11に流入され、タールの塊の酸化を行う。
【0040】
修復スティック7を用いた頭上での作業を可能とする為に、例えば、酸性流体及びアルカリ溶液を保持又は重力に抗して前記当接体11の方向に押動し得るピストンシステムが前記コンテナ8,9に備えられ得る。前記ピストンは、例えば、スピンドル又は圧縮エアクッションで自動的に作動され得る。「バルブ」として作用する,一度だけ貫通可能な膜13の代わりに、前記バルブ10と同様の構成を有する再閉塞可能なバルブ手段を採用することも可能である。アルカリ溶液及び/又は酸性溶液の円滑は排出を保証するために、前記第1及び第2コンテナ8,9には、図3においては図示を省略した通気装置を有する。
【0041】
前記当接体11は、略ベル形状に形成されており、且つ、当該当接体11によって画される固有のシール作業領域を越えて硫酸が意に反して漏出することを防止する為に下端部に少なくとも一つの周縁弾性シールリップ14を有している。前記当接体11は、前記エッジ領域6に選択的な活動領域又は硫酸が影響を与える領域を画し、その領域においてのみ複合繊維部品1の樹脂母体を分解する。露出された光ファイバ3の領域において選択的に作用する本発明に係るエッチング方法によれば、少なくとも純粋な高濃度硫酸が使用された場合には、補強の為に使用されている炭素繊維及び光ファイバ3が損傷を受けない状態で維持されつつ、少なくとも複合繊維部品1のエポキシ樹脂母体が分解される。
【0042】
エッチングプロセスの完了後、即ち、露出されるべき光ファイバ3が後続する継ぎ合わせプロセスにとって十分な長さだけエッジ領域6から突出されると、前記バルブ10を開放することにより前記第1コンテナ8に収容されていたアルカリ溶液を介して硫酸が中和される。エッチングプロセスの間、前記当接体11は前記エッジ領域6に対して回転摺動動作を行いつつ双方向矢印15に略沿ってガイドされ得る。この場合において、前記当接体11は、硫酸の漏出を防止する為に常に十分な押圧力で複合繊維部品1に向けて押圧されることが保証されなければならない。
【0043】
図3に示された本発明に係る方法を実施する為の装置の変形例とは異なり、光ファイバ3の前処理又は露出は、いわゆるプラズマエッチング方法によっても行われ得る。
【0044】
ここでは複合CFRP部品から材料粒子を分解し且つそれらを気相に変換させ得る適切なプロセスガスが使用される。プラズマエッチングプロセスを実行する為の使用可能な装置はベル(bell)を利用しているが、前記当接体11と比較するとこのベルは大容量である。前記ベルは分解されるべき領域に載置され、しっかりとシールして区画された容積領域を形成する。前記ベルには、低圧に維持された導電性ガスが充満される。CFRP材料から分解された粒子が混入されたガスは前記ベルから吸い出され、新鮮なプロセスガスが外部から供給される。
【0045】
露出されるべき光ファイバの周辺の除去されるべき領域は、所定領域においてマスク、即ち、テンプレートでカバーされる。適切な構造の電界が前記ベル内で作用すると、導電性ガス粒子の除去動作がより活発化され、形状に正確に沿った除去結果を得ることができる。これに代えて、前記光ファイバ3の露出は、適切な大きさの方向をもった炎(バーナー)又は高エネルギレーザーによっても達成され、その結果、囲繞する樹脂母体は「燃焼」される。
【0046】
プラズマエッチングプロセスの間、及び、方向をもった炎又はレーザーが使用される際の双方において、修復領域の温度は、CFRP構造への永久的な損傷を回避する為に、エポキシ樹脂母体の分解温度よりもかなり低温に維持されなければならない。必要な場合には、作業領域の近傍に大面積の金属プレートを配置させること等によって、適切な冷却措置を施すことも可能である。
【0047】
エッチングプロセスの完了後に、複合繊維部品1は、図4に示されるように、若干量だけ湾曲(エッチング)されて形状処理16が行われ、これにより、前記光ファイバ3が当該光ファイバ3の継ぎ合わせ処理にとって十分な距離17に亘ってエッジ領域6から突出される。ブリッジ用光ファイバ18の継ぎ合わせ処理又は橋渡し処理(図5参照)は、通信技術において公知の方法によって行われる。
【0048】
本発明に係る方法のさらなる中間ステップにおいては、光ファイバ3の領域において硫酸によって分解されなかった炭素繊維を取り除くこと、又は、他の方法でそれらを除去して、適切な溶剤又は洗浄剤を用いたさらなる中間クリーニングステップによって修復スティック7の作業領域の全体に残留酸性物が残らないようにすることが場合によっては必要とされる。
【0049】
ブリッジ用光ファイバ18の継ぎ合わせは後続する方法ステップおいて行われる。図5に示されるように、ブリッジ用光ファイバ18は、複合繊維部品1の除去領域4のエッジ領域6に略沿って配設される。この場合において、ブリッジ用光ファイバ18を少なくとも複数の区画においてエッジ領域6に接着して位置を固定することが有利である。これに代えて、ブリッジ用光ファイバ18を前記ベース領域5上で前記除去領域4を単純に貫通する破線の第2ライン19に沿って最短距離となるように配置させることも可能である。ブリッジ用光ファイバ18を継ぎ合わせることによって、損傷領域2によって分断された光ファイバ3の完全な「光学的」接続を得ることができる。
【0050】
ブリッジ用光ファイバ18の継ぎ合わせの後に、最終方法ステップにおいて、修復パッチ20が除去領域4に矢印21の方向に沿って押圧され且つ接着される。修復パッチ20は、複合繊維部品1の除去領域4に可及的に継ぎ目無しで挿入されるような形状を有しており、これにより、最大の機械的荷重能力を得ることができ、さらに、可能な限りスムースで且つ平坦な表面を得ることができる。特に、修復パッチ20のエッジ領域22は除去領域4と同じ厚さとされる。これにより、複合繊維部品1の損傷領域の修復は、光ファイバ3の機能を完全に回復させた状態で完了される。
【0051】
厚肉化に代えて、損傷領域と重なり合う修復パッチを備えることも可能である。修復パッチ又は除去領域4と重なり合う前記修復パッチは、好ましくは、負荷の増加を防止する為に外側のエッジ領域において肉厚とされる。重合の為に、適切な力の伝達が保証され、エッジ領域6の肉厚化はもはや必要とされない。修復ポイントでの不具合の発生を低減する為に、修復パッチは修復されるべき部品にリベット又は他の方法で機械的に固定連結され得る。
【0052】
図2において破線で示されるブリッジの形状によって図示されるように、光ファイバ3が組み込まれている可及的に狭いブリッジがまずは残るように、損傷領域2を除去するステップを行うことも可能である。その後、前記ブリッジがエッチング処理によって補強繊維及び光ファイバ3が露出される程度にまで分解される。この方法の特有の効果は、エッチングプロセスがエッジ領域6においてのみ行われる前述の方法に比して、光ファイバをより長い範囲で露出させることができ、これにより、光ファイバの継ぎ合わせをより容易に行えることである。さらに、比較的遅い反応速度のエッチング方法を用いて、比較的少量の複合繊維部品のみを分解すれば良い。
【0053】
前記目的の為の本発明に係る方法は、光ファイバが組み込まれた複合繊維部品の修復のみに限定されるものではない。これに代えて、前記方法はそのような複合繊維部品の製造においても有効に利用される。例えば、光プラグコネクタ又はプラグ連結手段と連結され得るように、修復スティック7によって複合繊維部品のエッジ領域において光ファイバを露出させることも可能である。これらのプラグコネクタ又は連結手段は光ファイバに継ぎ合わされる。
【符号の説明】
【0054】
1 複合繊維部品
2 損傷領域
3 光ファイバ
4 除去領域
5 ベース領域(除去領域)
6 エッジ領域(除去領域)
7 修復スティック
8 第1コンテナ
9 第2コンテナ
10 バルブ
11 当接体
12 パイプ
13 膜
14 シールリップ
15 双方向矢印
16 形状処理
17 長さ
18 ブリッジ用光ファイバ
19 第2ライン
20 修復パッチ
21 矢印
22 エッジ領域(修復パッチ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1本の光ファイバ(3)が組み込まれた航空機用の複合繊維部品(1)における複合構造体及び光ファイバ(3)の双方が損傷している損傷領域(2)を修復する方法であって、
a)少なくとも所定領域において材料を機械的に除去することによって前記損傷領域(2)を前処理する工程と、
b)化学エッチング処理,プラズマエッチング処理,焼却又はレーザービームによって前記損傷領域(2)のエッジ領域(6)において前記光ファイバ(3)を露出させる工程と、
c)光学的な接続を修復する為にブリッジ用光ファイバ(18)を継ぎ合わせる工程と、
d)修復パッチ(20)を接着する工程とを含むことを特徴とする損傷領域の修復方法。
【請求項2】
前記前処理は、前記エッジ領域(6)を形成しつつ前記損傷領域(2)を除去することによって実行されることを特徴とする請求項1に記載の損傷領域の修復方法。
【請求項3】
前記エッジ領域(6)は肉厚化されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の損傷領域の修復方法。
【請求項4】
前記損傷領域(2)の除去の後に活性化処理が行われることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の損傷領域の修復方法。
【請求項5】
前記光ファイバ(3)は選択的に露出されることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の損傷領域の修復方法。
【請求項6】
前記ブリッジ用光ファイバ(18)は前記エッジ領域(6)に沿って配設されていることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の損傷領域の修復方法。
【請求項7】
前記複合繊維部品(1)は炭素繊維強化エポキシ樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の損傷領域の修復方法。
【請求項8】
複合繊維部品(1)に組み込まれた光ファイバ(3)を露出させる装置(7)であって、
バルブ(10)を介して接続された第1及び第2コンテナ(8,9)と、パイプ(12)を介して前記第2コンテナ(9)に接続された当接体(11)であって、作用を及ぼす閉塞領域を形成するように複合繊維部品(1)の露出されるべき光ファイバ(3)の領域に配置可能な当接体(11)とを備えていることを特徴とする光ファイバ露出装置。
【請求項9】
修復スティックとして形成されていることを特徴とする請求項8に記載の光ファイバ露出装置。
【請求項10】
前記第1コンテナ(8)は少なくとも部分的にアルカリ溶液で充填されており、前記第2コンテナは少なくとも部分的に硫酸等の酸性溶液で充填されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の光ファイバ露出装置。
【請求項11】
前記複合繊維部品(1)の強化繊維及び/又は樹脂母体は、継ぎ合わせ可能なように組み込まれている光ファイバ(3)を露出させる為に少なくとも一部が分解されることを特徴とする請求項8から10の何れかに記載の光ファイバ露出装置。
【請求項12】
前記第1コンテナ(8)のアルカリ溶液の量は、前記第2コンテナ(9)の酸性溶液の大部分が中和されるように設定されていることを特徴とする請求項8から11の何れかに記載の光ファイバ露出装置。
【請求項13】
前記酸性溶液の中和は、前記バルブ(10)を少なくとも部分的に開放させた後にpH指示薬によって光学的に示されることを特徴とする請求項8から12の何れかに記載の光ファイバ露出装置。
【請求項14】
酸性溶液を前記当接体(11)へ排出する為に前記第2コンテナ(9)に前記パイプ(12)を挿入することによって膜(13)が穿孔されることを特徴とする請求項8から13の何れかに記載の光ファイバ露出装置。
【請求項15】
略ベル形状を有する前記当接体(11)は、弾性で且つ耐酸性のゴムカラーを有していることを特徴とする請求項8から14の何れかに記載の光ファイバ露出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2010−532009(P2010−532009A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513931(P2010−513931)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【国際出願番号】PCT/EP2008/058249
【国際公開番号】WO2009/003933
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(509214104)エアバス・オペレイションズ・ゲーエムベーハー (15)
【Fターム(参考)】