説明

一方向回転ダンパ並びに該ダンパを備えたヒンジ機構、開閉機構及びレンジフード

【課題】急激な速度で開口せずに減速された状態で自重により開口し、作業者が手動により開口状態を整流板の自重とダンパ抵抗力で定まる所定位置以上に自在に調整することができ、閉鎖方向へは抵抗力を生じることなく閉鎖作動を行うことなどが可能なレンジフード等を提供する。
【解決手段】軸11の軸線回りの一方向の回転のみを許容する一方向クラッチ12、13、15と、一方向クラッチの軸の回転不能方向に対して摩擦力を付与し、軸の回転不能方向に摩擦摺動させる摩擦力付与機構とを備える一方向回転ダンパを備えたレンジフード。一方向クラッチの軸の回転不能方向に対して摩擦力付与機構を介して摩擦力を付与した状態で摺動できるため、該回転不能方向には所定の作用力以上の入力が働かない限り不動に固定でき、摩擦係数から定まる摩擦力以上の力が作用すると動き始め、さらに該摩擦力が作用している間だけ回動する一種のトリガー機能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向に摩擦摺動抵抗を有するダンパ並びに該ダンパを備えたヒンジ機構、開閉機構、及び煙吸引部の整流板に該開閉機構を採用したレンジフードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、厨房や家庭の台所において、コンロ等から生じる調理の際の煙を換気扇によって吸引し屋外へ排出するにあたり、効果的に煙を吸引して排煙する目的でレンジフードが使用される。一般的には、このレンジフードの内部にフィルターが配され、吸引した煙の中の油分等を付着させ、油の飛散を抑えるように構成されている。
【0003】
フィルターには煙中の油分が付着するため、レンジフードの吸引力の低下を防ぐ意味でも、フィルターは定期的に交換することが求められており、一般的には調理器具の上方に位置しているレンジフード内にある汚れたフィルターを取り出し、新規のフィルターに交換することが余儀なくされていた。
【0004】
また、レンジフードへの煙の吸入を効率よく行うため、レンジフードの開口部に整流板を配する構成が用いられている場合には、その整流板を脱着して該フィルターを交換する必要があった。
【0005】
整流板を取り外す場合には、レンジフードに取付ねじで固定されている整流板を落下しないように抑えながら、取付ねじを外す必要があり、一人での作業は困難であった。また、整流板の一方を回転支持するようにし、他方を取付ねじ又は嵌め込み等による固定手段で取り付けた構成も提供されているが、固定手段を解放すると整流板の自重により急激に下方に回動し作業者に当たる虞があるため、整流板を手で支持しながらでないと開放できなかった。
【0006】
整流板の開放方向への速度を抑制する手段として、特許文献1には、閉状態から開状態となる開動作動中において、煙吸引部が所定の距離以上下方に達したときにその開動作を減速させ、所定位置に達すると開動作を止めてその状態を保持する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−300353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1は、煙吸引部(本願発明における整流板)が所定の距離以上下方に達したときに開動作を減速させるようにステー内にトーションスプリングが配されている構成であるために、煙吸引部を開放した瞬間はトーションスプリングの付勢力が小さいため開放時の速度は減速されず、煙吸引部の自重とトーションスプリングの弾性力が釣り合った後は、煙吸引部はそれ以上回転できないため開口状態をさらに大きくすることはできないため、作業者が開口の程度をさらに大きくすることが困難であった。
【0009】
このように、特許文献1はトーションスプリングのような弾性部材を配しているため、開口具合により付勢力が異なり、開放時の速度を減速させると自重と釣り合う位置が開口具合の小さい位置となり、開口具合を大きくしようとすると開放時の開放速度が減速されず、作業者に当たる虞があり、トーションスプリングの調整が非常に難しかった。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、一方の端面がヒンジ機構で支持され、他方の端面がヒンジ機構部を中心に上下方向に回動する整流板を開放する場合等において、急激な速度で開口することなく減速された状態で自重により開口することができ、さらに開口具合を必要に応じて、作業者が手動により、開口状態を整流板の自重とダンパ抵抗力で定まる所定位置以上に自在に調整することができ、閉鎖方向への作動においては抵抗力を生じることなく閉鎖作動を行うことなどを可能とする一方向回転ダンパ並びに該ダンパを備えたヒンジ機構、開閉機構及びレンジフード等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、一方向回転ダンパであって、軸の軸線回りの一方向の回転のみを許容する一方向クラッチと、該一方向クラッチの前記軸の回転不能方向に対して摩擦力を付与し、前記軸の回転不能方向に摩擦摺動させる摩擦力付与機構とを備えることを特徴とする。
【0012】
そして、本発明によれば、一方の回転方向に対しては自在に回動でき、他方の回転方向に対しては摩擦力付与機構を介して摩擦力を付与した状態で摺動できるため、他方の回転方向には所定の作用力以上の入力が働かない限り不動に固定でき、摩擦係数から定まる摩擦力以上の力が作用すると動き始め、さらに該摩擦力以上の力が作用している間だけ回動するという一種のトリガー機能を有する一方向回転ダンパを提供することができる。
【0013】
上記一方向回転ダンパにおいて、前記一方向クラッチが、前記軸に一体的に設けられる歯車と、前記筒状部材に設けられ、前記歯車と歯合する、弾性部材で付勢された複数の爪部材とからなり、該複数の爪部材のいずれか一つが前記歯車のいずれか一つの歯と歯合することにより前記軸が回転不能となり、前記爪部材と前記歯車の歯との位相差が該歯のピッチ角を該爪部材の数で除した大きさとすることができる。これにより、軸を一方の回転方向に回動させる際に軸の固定位置を細かく調整することができる。
【0014】
そして、一方向クラッチの軸に一体的に設けられる歯車の歯に対し、複数設けた爪部材の位相差は、歯のピッチ角を爪部材の数で除した大きさにしているため、歯車の歯と爪部材の歯合が、複数設けた爪部材のいずれかの位置で生じ歯合する位置を細かく設定できる。
【0015】
上記一方向回転ダンパにおいて、前記一方向クラッチが、前記筒状部の内径面に設けられたポケットに収納されたころと、該ポケットに収納された付勢ばねとからなり、該ポケットの底面に一定方向に傾斜したカム面が形成され、該カム面と一方向クラッチの中心部に挿通された前記軸との間で一定の楔角が形成され、前記ころが前記付勢ばねによって前記楔角の狭小方向に付勢される構成をとることができ、一方向クラッチにより固定される軸の位置が、前述のような歯車の歯と爪部材による機械的な部品の歯合によらないため、さらに遊びがない状態で軸を直ちに固定することができる。
【0016】
また、上記一方向回転ダンパにおいて、前記摩擦力付与機構を、前記一方向クラッチにより固定された軸と、該軸の外周表面に内周表面で接し、該軸の回転不能方向に対して摩擦摺動する筒状摩擦材と、前記筒状摩擦材と前記軸との接触圧力を自在に調整する締め付け部材とから構成することができる。さらに前記軸と、前記筒状摩擦材の内周表面との接触圧力を自在に調整する締め付け部材を具備する構成をとることができるので、筒状摩擦材の内周表面材質やその表面状態、及び前記軸又は円筒状部材又は円柱状部材の外周表面材質やその表面状態により適宜締め付け力を調整し、摩擦摺動面へ与える圧力を変化させ摺動に要する摩擦力を所望の大きさにすることができる。
【0017】
さらに、上記一方向回転ダンパにおいて、前記摩擦力付与機構を、前記一方向クラッチの外周表面と、該外周表面に内周面で接し、該一方向クラッチにより軸が回転不能に固定された回転方向に摩擦摺動する筒状摩擦材と、前記筒状摩擦材と前記一方向クラッチの外周表面との接触圧力を自在に調整する締め付け部材からなるように構成することができる。
【0018】
また、上記一方向回転ダンパにおいて、前記筒状摩擦材を、金属製の裏金と、該裏金の表面に形成された多孔質青銅焼結層と、該多孔質青銅焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物のすべり層とからなり、該すべり層を内側にして円筒状に捲回された複層巻き軸受けとすることができる。これによれば、前記筒状摩擦材と前記一方向クラッチの外周表面との接触圧力を締め付け部材により調整する場合、複層巻き軸受けの合わせ目にある隙間が縮小し、換言すれば複層巻き軸受けが縮径できるため、締め付け部材により締め付けた力は、前記一方向クラッチの外周表面との接触圧力として無駄なく作用する。
【0019】
さらに、本発明は、ヒンジ機構であって、上記いずれかに記載の一方向回転ダンパを備え、前記摩擦力付与機構によって摩擦摺動する部材と、摩擦摺動しない部材との間でヒンジ機能を発揮させることを特徴とする。このヒンジ機構によれば、上述のように、一方の回転方向に対しては自在に回動でき、他方の回転方向には所定の作用力以上の入力が働かない限り不動に固定でき、トリガー機能を有することなどの特徴を備えたヒンジ機構を提供することができる。
【0020】
また、本発明は、開閉機構であって、上記ヒンジ機構を備え、前記摩擦摺動する部材と、摩擦摺動しない部材のいずれか一方に開閉対象物への取付部を備えることを特徴とする。
【0021】
この開閉機構によれば、摩擦力付与機構を介して他方の回転方向へ作用する外力の方向に重力を利用する場合には、回動させようとする物の自重により生じる下方への回転モーメントによる回転力と、前記摩擦力の釣り合いが取れた位置で、摩擦力付与機構部分の回転を停止させることができるため、予め他方の回転方向の回転力と摩擦力付与機構により摩擦面へ与えられる摩擦力を所定の値に設定することで、摩擦力付与機構を介して回転する他方の回動角度を所望の角度に定めることができる。換言すれば、他方の回転方向の作用力を、例えば蓋や扉の自重と大きさから生じる回転モーメントによる回転力と摩擦面で生じる摩擦力の釣り合いから開口具合を所望の位置に調整することができる。
【0022】
また、前記複数の爪部材を備えた一方向クラッチを用いることで、摩擦力付与機構で付与する摩擦力が回動しようとする回転モーメントから生じる回転力以上で固定されている場合において、蓋や扉の係止位置を歯車と爪部材の歯合により細かく設定することもできる。
【0023】
さらに、前記筒状部の内径面に設けられたポケットに収納されたころなどを備える一方向クラッチを用いることで、蓋や扉を枠体等に固定する場合において、軸に一体的に設けられている歯車と爪部材が、歯合していない状態で固定又は閉塞されることを防止できるので、前記蓋や扉の枠体等との固定を解除した際に、前記歯車の歯と爪部材の歯合がされていない場合に生じる可能性がある急な蓋や扉の降下を好ましく防止できる。
【0024】
さらにまた、本発明は、レンジフードであって、上記開閉機構を備え、前記開閉対象物が整流板であることを特徴とする。このレンジフードによれば、整流板を開放する場合、急激な速度で開口することなく減速された状態で自重により開口することができ、さらに開口具合を必要に応じて、作業者が手動により、開口状態を整流板の自重とダンパ抵抗力で定まる所定位置以上に自在に調整することができ、閉鎖方向への作動においては抵抗力を生じることなく閉鎖作動を行うことなどが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、急激な速度で開口することなく減速された状態で自重により開口することができ、さらに開口具合を必要に応じて、作業者が手動により、開口状態を整流板の自重とダンパ抵抗力で定まる所定位置以上に自在に調整することができ、閉鎖方向への作動においては抵抗力を生じることなく閉鎖作動を行うことなどを可能とする一方向回転ダンパ並びに該ダンパを備えたヒンジ機構、開閉機構及びレンジフード等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明にかかる一方向回転ダンパ(又はヒンジ機構)を備えた開閉機構の第1の実施形態を示す図であって、(a)は分解斜視図、(b)は装置側組立体を示す斜視図、(c)は扉側組立体を示す斜視図である。
【図2】図1の開閉機構をレンジフードの整流板の開閉に利用した場合の動作説明図である。
【図3】本発明にかかる一方向回転ダンパ(又はヒンジ機構)を備えた開閉機構の第2の実施形態を示す図であって、(a)は分解斜視図、(b)は装置側組立体を示す斜視図、(c)は扉側組立体を示す斜視図である。
【図4】図1及び図3に示した開閉機構のベースプレートの他の例を示す平面図である。
【図5】図5に示したベースプレートに爪部材とばねを収容した状態を示す平面図である。
【図6】本発明にかかる一方向回転ダンパ(又はヒンジ機構)を備えた開閉機構の第3の実施形態を示す図であって、(a)は分解斜視図、(b)は装置側組立体を示す斜視図、(c)は扉側組立体を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明にかかる一方向回転ダンパ(又はヒンジ機構)を備えた開閉機構の第1の実施形態を示し、この開閉機構1は、大別して、第1ブラケット2と、トルク軸7と、カバープレート8と、ラチェット軸11と、爪部材12と、ばね13と、ベースプレート15と、第2ブラケット17等で構成される。
【0029】
第1ブラケット2は、装置や建物等への取付部2aと、軸受け収容部2bとを備え、軸受け収容部2bには、軸受け6が収容される。
【0030】
軸受け6は、金属製の裏金と、該裏金の表面に形成された多孔質青銅焼結層と、該多孔質青銅焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物のすべり層とからなり、該すべり層を内側にして円筒状に捲回された複層巻き軸受けである。この軸受け6は、軸受け収容部2bに収容され、その内側にトルク軸7の小径部7bが収容され、ボルト3及びナット4によって締付力が加えられる。軸受け6は、トルク軸7の小径部7bとの間でラチェット軸11の回転不能方向に摩擦摺動させる摩擦力付与機構を構成する。
【0031】
トルク軸7は、大径部7aの両側に小径部7b、7cを備え、上述のように、小径部7bが軸受け6とで摩擦力付与機構を構成する。
【0032】
カバープレート8は、矩形板状の基部8aに円形の開口部8bを有し、開口部8bに軸受け10の円筒部10bが挿入される。軸受け10は、開口を有する円板状の基部10aに円筒部10bが突設される。
【0033】
ラチェット軸11は、円筒部11aの軸方向中央部に歯車11bが設けられ、歯車11bが後述するベースプレート15に収容された爪部材12等とで一方向クラッチを構成する。
【0034】
ベースプレート15は、矩形板状の基部15aに、円形孔15bと、爪部材収容部15cと、ばね収容部15dとを備える。爪部材12は、円板状の基部12aから爪部12bが突設され、ベースプレート15の爪部材収容部15cに収容される。また、ばね13は、ベースプレート15のばね収容部15dに収容され、爪部材12を一方向に付勢する。これによって、ベースプレート15の円形孔15bに挿入されたラチェット軸11の歯車11bに対して一方向のみの回転を許容する一方向クラッチが構成される。
【0035】
軸受け16は開口を有する円板状の基部16aにキャップ16bを備える。第2ブラケット17は、矩形板状の基部17aに円形の開口部17bを有し、基部17aに扉等への取付部17fを備える。
【0036】
次に、上記各部品の組立要領について説明する。
【0037】
第1ブラケット2の軸受け収容部2bに軸受け6を収容し、さらに、軸受け6にトルク軸7の小径部7bを収容し、軸受け収容部2bをボルト3とナット4で締めることで図1(b)に示すように、装置側組立体21が完成する。また、ボルト3とナット4の締め付け力を調整することで、軸受け6とトルク軸7との間の摩擦摺動面へ与える圧力を変化させ摺動に要する摩擦力を所望の大きさに調整することができる。
【0038】
一方、第2ブラケット17の開口部17bに軸受け16のキャップ16bを挿入し、ベースプレート15の爪部材収容部15c及びばね収容部15dに各々爪部材12とばね13とを収容する。ラチェット軸11の円筒部11aをベースプレート15の円形孔15bへ、さらに軸受け16の開口部16cへと挿入する。次に、ラチェット軸11の円筒部11dへ軸受け10の開口部を挿入し、最後にカバープレート8の開口部8bを円筒部11dに挿入して扉側組立体22が完成する。
【0039】
次に、上記装置側組立体21と、扉側組立体22とをレンジフードの整流板の開閉に用いた場合について図2を参照しながら説明する。
【0040】
図2に示したレンジフード31は、本体32の下部に整流板33を備え、上部に排気ダクト34を備える。図1に示した装置側組立体21を、図2(a)に示すように、本体32の下部に固定し、装置側組立体21と扉側組立体22とを組み合わせ、扉側組立体22の第2ブラケット17の取付部17fに整流板33の左端部を固定する。
【0041】
この状態で、整流板33は、ラチェット軸11とベースプレート15とで形成される一方向クラッチの機能により、ラチェット軸11は、ベースプレート15に対して、図2(a)の矢視A方向に回転することができず、矢視B方向にのみ回転することができる。また、軸受け6(図1参照)とトルク軸7とで構成される摩擦力付与機構により、トルク軸7は、ラチェット軸11に対して、矢視A方向に、所定の作用力以上の入力が働かない限り不動に固定することができ、所定の作用力以上の入力が働くと、該作用力を付与した状態で摺動可能となっている。
【0042】
上記構成により、図2(a)の状態から整流板33を開ける場合、整流板33を矢視A方向に回転させようとすると、ラチェット軸11は、ベースプレート15に対して回転することができないが、所定の作用力以上の入力を加えると、トルク軸7が軸受け6に対して回転することができるため、整流板33が矢視A方向に回転し、整流板33を開けることができる。
【0043】
整流板33が所望の位置まで来ると、整流板33への入力を弱めれば、軸受け6とトルク軸7との摩擦力付与機構によりトルク軸7の回転が停止するため、整流板33を所望の位置で停止させることができる。整流板33が停止した状態では、軸受け6とトルク軸7との間の摩擦力により整流板33がさらに下降したり、上昇することなく停止した状態を維持することができる。
【0044】
次に、整流板33を閉める場合には、図2(c)において矢視B方向に整流板33を回転させると、ラチェット軸11とベースプレート15とで形成される一方向クラッチの機能により、ラチェット軸11はベースプレート15に対して矢視B方向に回転可能であるため、僅かな力で整流板33を回転させて閉めることができる。
【0045】
また、この際、重力を利用し、整流板33の自重により生じる下方への回転モーメントによる回転力と、軸受け6とトルク軸7との間の摩擦力の釣り合いが取れた位置で、軸受け6とトルク軸7との摩擦力付与機構部分の回転を停止させることができるため、予めこの摩擦力を所定の値に設定することで、摩擦力付与機構を介して回転する整流板33の回動角度を所望の角度に定めることができる。換言すれば、整流板33の開口具合を所望の位置に調整することができる。
【0046】
次に、本発明にかかる一方向回転ダンパ(又はヒンジ機構)を備えた開閉機構の第2の実施形態について図3を参照しながら説明する。
【0047】
この開閉機構41は、大別して、第1ブラケット42と、トルク軸47と、カバープレート48と、ラチェット軸51と、爪部材52と、ばね53と、軸受け56と、軸受けハウジング57、58と、第2ブラケット62等で構成される。
【0048】
第1ブラケット42は、装置や建物等への取付部42aと、軸受け42bとを備え、軸受け42bには、トルク軸47の小径部47bが収容され、ボルト43及びナット44によって締結されて保持される。トルク軸47は、大径部47aの両側に小径部47bと、挿通孔47cを備える。
【0049】
カバープレート48は、矩形板状の基部48aに円形の開口部48bと、2箇所にスリット48c、48dを備える。
【0050】
ラチェット軸51は、円筒部51aの軸方向中央部に歯車51bが設けられ、後述するように、開閉機構41を組み立てた状態でベースプレート55に収容された爪部材52と噛み合う。
【0051】
ベースプレート55は、円板状の基部55aに、同芯状に設けられた円形孔55bと、爪部材収容部55cと、ばね収容部55dとを備える。爪部材52は、円板状の基部52aから爪部52bが突設され、ベースプレート55の爪部材収容部55cに収容される。また、ばね13は、ベースプレート55のばね収容部55dに収容され、爪部材52を一方向に付勢する。これによって、ベースプレート55の円形孔55bに挿入されたラチェット軸51の歯車51bに対して一方向のみの回転を許容する一方向クラッチが構成される。
【0052】
軸受け56は、金属製の裏金と、該裏金の表面に形成された多孔質青銅焼結層と、該多孔質青銅焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物のすべり層とからなり、該すべり層を内側にして円筒状に捲回された複層巻き軸受けである。この軸受け56は、ベースプレート55の外周表面に装着されるとともに、軸受けハウジング57、58との間の開口部59に収容され、ボルト60、61によって締付力が加えられる。軸受け56は、ベースプレート55との間でラチェット軸51の回転不能方向に摩擦摺動させる摩擦力付与機構を構成する。
【0053】
軸受けハウジング57は、軸受けハウジング58とで軸受け56の取付ハウジングを構成し、扉等への取付部57aには、扉等に締結手段を介して軸受けハウジング57を固定するための貫通孔57cを備える。取付部57aには、軸受け座を備えた立設部57bが設けられ、立設部57bにはスリット57dが穿設される。
【0054】
軸受けハウジング58は、軸受け座を備えた本体58aに、ボルト60、61によって軸受けハウジング57と接続するための挿通孔58cと、スリット58bが形成される。
【0055】
第2ブラケット62は、矩形板状の基部62aに円形の開口部62bを有し、基部62aの側面縁部に係止爪62c、62dを備える。
【0056】
次に、上記各部品の組立要領について説明する。
【0057】
第1ブラケット42の軸受け42bにトルク軸47の小径部47bを収容し、第1ブラケット42の挿通孔及びトルク軸47の挿通孔47cにボルト43を挿通させ、ナット44で締めることで図3(b)に示すように、装置側組立体64が完成する。
【0058】
一方、ベースプレート55の爪部材収容部55c及びばね収容部55dに各々爪部材52とばね53とを収容し、円形孔55bにラチェット軸51の歯車51bを収容し、ベースプレート55の外周部に軸受け56を装着し、これらを軸受けハウジング57と軸受けハウジング58とで形成される開口部59に収容し、ボルト60、61で締め付ける。ラチェット軸51の左側の円筒部51aにカバープレート48の開口部48bを挿通させ、ラチェット軸51の右側の円筒部51aに第2ブラケット62の開口部62bを挿通させ、係止爪62c、62dを各々軸受けハウジング58のスリット58b、軸受けハウジング57のスリット57d及びカバープレート48の2つのスリット48c、48dに各々挿通させ、最後に係止爪62c、62dの先端部を曲折させて、図3(c)に示すように、扉側組立体65が完成する。
【0059】
この開閉機構41についても、図1に示した開閉機構1と同様に、図2に示したレンジフードの整流板の開閉等に用いることができる。さらに、開閉機構41では、ベースプレート55の外周表面に軸受け56を装着し、ボルト60、61を用いてベースプレート55の外周表面と軸受け56の内周面との接触圧力を自在に調整することができるため、ベースプレート55及び軸受け56の表面材質やその表面状態により適宜ボルト60、61による締め付け力を調整し、摩擦摺動面へ与える圧力を変化させ摺動に要する摩擦力を所望の大きさにすることができる。この際、軸受け56の合わせ目にある隙間が縮小し、換言すれば軸受け56が縮径できるため、締め付け部材により締め付けた力は、ベースプレート55の外周表面との接触圧力として無駄なく作用する。
【0060】
また、上述のように、軸受け56を軸受けハウジング57、58(締め付け部材)を介してボルト60、61により締め付ける構成の他に、二つ割りされた締め付け部材を用い、二つ割りされた部材の一方の対峙面をヒンジ等により回転自在に固定し、他方の対峙面をボルト・ナットにより締め付ける構成として、軸受け56とベースプレート55の外周表面との接触圧力付与を行なってもよく、さらに、ベースプレート55の外周表面から締め付け部材の外側表面に至るスリットを設けた構成とし、該スリットの隙間をボルト・ナットにより狭めることにより軸受け56とベースプレート55の外周表面との接触圧力付与を行なってもよい。
【0061】
二つ割りされた締め付け部材を用い、二つ割りされた部材をボルト・ナットにより締め付ける構成とする場合は、二つ割りされた部材の対峙する二つの面のいずれか一方の位置と、また、二つ割りされ該二つ割部材の一方の対峙面をヒンジ等により回転自在に固定し、他方の対峙面をボルト・ナットにより締め付ける構成とする場合は他方の位置と、さらに、ベースプレート55の外周表面から締め付け部材の外側表面に至るスリットを設けた構成とする場合は該スリットの位置と、前記筒状摩擦材に用いられる軸受け56の合わせ目の位置が各々において略々同一であることが望ましく、このような構成をとれば、締め付け部材により加えられる締付け力がさらに無駄なく作用させることができる。
【0062】
上記のように、摩擦力付与機構に用いる筒状摩擦材を合わせ目を有する軸受け(複層巻き軸受け)56としたが、他の構成をとる筒状摩擦材であってもよく、締め付け部材により外周方向からの圧力が無駄なくベースプレート55の外周表面に作用するように縮径可能な構成であればよい。具体的には、軸方向に複数のスリットを設けて縮径可能な構成とした筒状摩擦部材であっても、網目構造例えばエキスバンドメタルからなる部材を用いた筒状摩擦部材であってもよい。
【0063】
さらに、摩擦力付与機構に用いる筒状摩擦材を締め付け部材により締め付ける構成に換え、締め付け部材の内周表面自体を摩擦摺動に適した状態として用いることもできる。具体的には、締め付け部材の内周表面に摩擦摺動に適した樹脂等をコーティング又は焼付塗装する構成や、締め付け部材の内周表面に固体潤滑剤等の摩擦摺動に適した部材を埋め込む構成、さらに、締め付け部材自体を摩擦摺動に適した合金、焼結合金、樹脂からなる構成としてもよい。
【0064】
次に、上記開閉機構1、41における一方向クラッチの改変例について図4及び図5を参照しながら説明する。
【0065】
図4は、改変例におけるベースプレート75を示し、このベースプレート75は、開閉機構1におけるベースプレート15、開閉機構41におけるベースプレート55に相当するものである。このベースプレート75は、板状の基盤75aに、円形孔75bと、3つの爪部材収容部75cと、3つのばね収容部75dと、隣接部材との取付孔75eを備える。
【0066】
図5は、図4に示したベースプレート75の円形孔75bに、図1に示したラチェット軸11の歯車11b又は図3に示した歯車51bを収容するとともに、爪部材収容部75cの各々に爪部材72を、ばね収容部75dの各々にばね73を収容し、一方向クラッチが構成された状態を示す。
【0067】
図5に示した一方向クラッチにおいて、歯車11bは矢視A方向へは回転自在であるが、矢視B方向へは、ばね73によって付勢された爪部材72によって回転できないようになっている。しかも、爪部材72と歯車11bの歯との位相差が歯のピッチ角を3で除した大きさとなっているため、歯車11bを一体化したラチェット軸11を矢視B方向に回動させる際(図1の軸受け6とトルク軸7との間の摩擦力付与機構によってラチェット軸11をベースプレート15との関係における回転不可能方向に回動させる際)にラチェット軸11の固定位置を細かく調整することができる。より具体的には、摩擦力付与機構で付与する摩擦力が回動しようとする回転モーメントから生じる回転力以上で固定されている場合において、扉や図2に示した整流板33の係止位置を歯車11bと爪部材72の歯合により細かく設定できる。
【0068】
次に、本発明にかかる一方向回転ダンパ(又はヒンジ機構)を備えた開閉機構の第3の実施形態について図6を参照しながら説明する。
【0069】
この開閉機構81は、大別して、第1ブラケット82と、摩擦力付与機構の摩擦材として機能する軸受け86と、一方向クラッチ87と、トルク軸88と、第2ブラケット89等で構成される。
【0070】
第1ブラケット82は、装置や建物等への取付部82aと、軸受け収容部82bとを備え、軸受け収容部82bには、軸受け86が収容される。
【0071】
軸受け86は、図1の軸受け6等と同様に、金属製の裏金と、該裏金の表面に形成された多孔質青銅焼結層と、該多孔質青銅焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物のすべり層とからなり、該すべり層を内側にして円筒状に捲回された複層巻き軸受けである。この軸受け86は、軸受け収容部82bに収容され、その内側に一方向クラッチ87等が収容され、ボルト83及びナット84によって締付力が加えられる。軸受け86は、一方向クラッチ87との間でトルク軸88の回転不能方向に摩擦摺動させる摩擦力付与機構を構成する。
【0072】
一方向クラッチ87は、内径面に設けられたポケットに収納されたころと、該ポケットに収納された付勢ばねとからなり、該ポケットの底面に一定方向に傾斜したカム面が形成され、該カム面と中心部に挿通されるトルク軸88の大径部88aの左側の小径部88bとの間で一定の一方向回転ダンパ楔角が形成され、前記ころが前記付勢ばねによって一方向クラッチ87の狭小方向に付勢されることで、一方向クラッチが構成される。
【0073】
第2ブラケット89は、矩形板状の基部89aに円形の開口部89bを有し、基部89aの背面に扉等への取付部89cを備える。
【0074】
次に、上記各部品の組立要領について説明する。
【0075】
一方向クラッチ87にトルク軸88の小径部88bを挿入固定し、さらに軸受け86に一方向クラッチ87を挿入し、軸受け86を第1ブラケット82の軸受け収容部82bに挿入し、軸受け収容部82bをボルト83とナット84で締めることで図6(b)に示すように、装置側組立体90が完成する。一方、図6(c)に示すように、第2ブラケット89は、そのまま扉側組立体91となる。
【0076】
この開閉機構81についても、図1に示した開閉機構1及び図3に示した開閉機構41と同様に、図2に示したレンジフードの整流板の開閉等に用いることができる。さらに、開閉機構81では、一方向クラッチ87を用いているため、前述の歯車及び爪部材を用いた一方向クラッチに比較し、一方向クラッチ87により固定されるトルク軸88の位置が、歯車の歯と爪部材による機械的な部品の歯合によらないため、さらに遊びがない状態でトルク軸88を直ちに固定できる。
【符号の説明】
【0077】
1 開閉機構
2 第1ブラケット
2a 取付部
2b 収容部
3 ボルト
4 ナット
6 軸受け
7 トルク軸
7a 大径部
7b 小径部
7c 小径部
8 カバープレート
8a 基部
8b 開口部
10 軸受け
10a 基部
10b 円筒部
11 ラチェット軸
11a 円筒部
11b 歯車
11d 円筒部
12 爪部材
12a 基部
12b 爪部
13 ばね
15 ベースプレート
15a 基部
15b 円形孔
15c 爪部材収容部
15d ばね収容部
16 軸受け
16a 基部
16b キャップ
16c 開口部
17 第2ブラケット
17a 基部
17b 開口部
17f 取付部
21 装置側組立体
22 扉側組立体
31 レンジフード
32 本体
33 整流板
34 排気ダクト
41 開閉機構
42 第1ブラケット
42a 取付部
42b 軸受け
42c 挿通孔
43 ボルト
44 ナット
47 トルク軸
47a 大径部
47b 小径部
47c 挿通孔
48 カバープレート
48a 基部
48b 開口部
48c スリット
48d スリット
51 ラチェット軸
51a 円筒部
51b 歯車
52 爪部材
52a 基部
52b 爪部
53 ばね
55 ベースプレート
55a 基部
55b 円形孔
55c 爪部材収容部
55d ばね収容部
56 軸受け
57 軸受けハウジング
57a 取付部
57b 立設部
57c 貫通穴
57d スリット
58 軸受けハウジング
58a 本体
58b スリット
58c 挿通孔
59 開口部
60 ボルト
61 ボルト
62 第2ブラケット
62a 基部
62b 開口部
62c 係止爪
62d 係止爪
64 装置側組立体
65 扉側組立体
72 爪部材
73 ばね
75 ベースプレート
75a 基盤
75b 円形孔
75c 爪部材収容部
75d 収容部
75e 取付孔
81 開閉機構
82 第1ブラケット
82a 取付部
82b 軸受け収容部
83 ボルト
84 ナット
86 軸受け
87 一方向クラッチ
88 トルク軸
88a 大径部
88b 小径部
89 第2ブラケット
89a 基部
89b 開口部
89c 取付部
90 装置側組立体
91 扉側組立体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸の軸線回りの一方向の回転のみを許容する一方向クラッチと、
該一方向クラッチの前記軸の回転不能方向に対して摩擦力を付与し、前記軸の回転不能方向に摩擦摺動させる摩擦力付与機構とを備えることを特徴とする一方向回転ダンパ。
【請求項2】
前記一方向クラッチが、前記軸に一体的に設けられる歯車と、前記歯車と歯合する、弾性部材で付勢された複数の爪部材とからなり、該複数の爪部材のいずれか一つが前記歯車のいずれか一つの歯と歯合することにより前記軸が回転不能となり、前記爪部材と前記歯車の歯との位相差が該歯のピッチ角を該爪部材の数で除した大きさであることを特徴とする請求項1に記載の一方向回転ダンパ。
【請求項3】
前記一方向クラッチが、前記軸が収容される収容部の内径面に設けられたポケットに収納されたころと、該ポケットに収納された付勢ばねとからなり、該ポケットの底面に一定方向に傾斜したカム面が形成され、該カム面と一方向クラッチの中心部に挿通された前記軸との間で一定の楔角が形成され、前記ころが前記付勢ばねによって前記楔角の狭小方向に付勢されることを特徴とする請求項1に記載の一方向回転ダンパ。
【請求項4】
前記摩擦力付与機構が、前記一方向クラッチにより固定された軸と、該軸の外周表面に内周表面で接し、該軸の回転不能方向に対して摩擦摺動する筒状摩擦材と、前記筒状摩擦材と前記軸との接触圧力を自在に調整する締め付け部材とからなることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の一方向回転ダンパ。
【請求項5】
前記摩擦力付与機構が、前記一方向クラッチの外周表面と、該外周表面に内周面で接し、該一方向クラッチにより軸が回転不能に固定された回転方向に摩擦摺動する筒状摩擦材と、前記筒状摩擦材と前記一方向クラッチの外周表面との接触圧力を自在に調整する締め付け部材からなることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の一方向回転ダンパ。
【請求項6】
前記筒状摩擦材が、金属製の裏金と、該裏金の表面に形成された多孔質青銅焼結層と、該多孔質青銅焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物のすべり層とからなり、該すべり層を内側にして円筒状に捲回された複層巻き軸受けであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の一方向回転ダンパ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の一方向回転ダンパを備え、前記摩擦力付与機構によって摩擦摺動する部材と、摩擦摺動しない部材との間でヒンジ機能を発揮させることを特徴とするヒンジ機構。
【請求項8】
請求項7に記載のヒンジ機構を備え、前記摩擦摺動する部材と、摩擦摺動しない部材のいずれか一方に開閉対象物への取付部を備えることを特徴とする開閉機構。
【請求項9】
請求項8に記載の開閉機構を備え、前記開閉対象物が整流板であることを特徴とするレンジフード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−12750(P2011−12750A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157411(P2009−157411)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【出願人】(509188137)大森プレス工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】