一連のレーザパルスを用いて薄膜にラインをスクライブするための方法及び装置
各パルスが所定の時間的パワー形状を有するパルス列における一連のレーザパルスは、基板上の材料の薄膜にラインをスクライブする。所定の時間的パルス形状は、高速立ち上がり時間及び高速立ち下がり時間を有し、10%のパワー点間のパルス幅が10ns未満である。スクライブされるラインに沿った隣接レーザパルススポット間に重複領域が存在するように、一連のレーザパルススポットをライン上に配置することによって、薄膜にラインがスクライブされる。薄膜にラインをスクライブするために所定のパルス形状を有する一連のレーザパルスを使用すると、従来のパルス形状を用いて得られるものと比較して、より高品質及びより綺麗なスクライビングプロセスを得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年11月30日に出願された米国特許仮出願第61/265,259号、2010年1月20日に出願された同第61/296,525号、及び2010年5月21日に出願された同第61/347,085号の優先権を主張し、それらのすべての開示は、あらゆる目的のために参照により本出願に組み込まれる。
【0002】
マーキング、彫り込み、マイクロマシニング、切断、及びスクライビングなどの用途向けにレーザを用いた材料処理を行うために、Nd:YAGレーザのようなパルスレーザ光源が使用されてきた。レーザ光源を用いて進歩がなされてきたにも関わらず、当該技術分野においてはレーザスクライビングに関する方法及びシステムを改善する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、概して、材料のレーザ処理に関するものである。より詳しくは、本発明は、レーザ処理用途において、より優れた処理品質及びより高いスループットを提供するように特別に成形された一連のレーザパルスを利用する方法及び装置に関するものである。また、本発明は、基板上の薄膜材料のスクライビングに関するものでもある。しかしながら、本発明は、より広い範囲に適用でき、他の用途や材料に適用することができる。
【0004】
レーザが使用される1つのプロセスは、より厚い基板上の材料の薄膜にラインをスクライブすることである。薄膜は、非常に一般的な用語で言うと、わずか数分子の厚さ又はそれよりも厚い材料からなる一層又は多層の構造として定義される。一例として、薄膜は、25nm〜10ミクロンの厚さであってもよい。一例として、薄膜は、同一又は異なる材料からなる一層又は多層を含むことができる。基板は、その上に層が成膜される材料であり、典型的には、基板は薄膜より非常に厚い。電子デバイス、電気光学デバイス、光学デバイス、及び腐食防止などの分野においては、薄膜を使用する例が数多く存在する。例えば、光電池又は太陽電池は、非晶質シリコン、テルル化カドミウム、硫化カドミウム、二セレン化銅インジウム、二セレン化銅インジウムガリウム、金、銀、又はモリブデンからなる1以上の層を含む薄膜と、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、及びアルミニウムやモリブデン等の他の金属の酸化物などの透明な導電性酸化物(TCO)材料の薄膜を使用して作製された電極とを有する場合がある。しかしながら、薄膜層の材料は、これらの例にのみ限定されるわけではない。また、これらの材料及び他の材料からなる薄膜は、フラットパネルディスプレイ及びデジタルディスプレイでも使用されている。このデバイスは、ある材料からなる単一の薄層、又は各層が同一又は異なる材料からなる多数の薄層を含んでいてもよい。したがって、本明細書に記載されるように、「薄膜」及び「薄膜材料」は、ある材料からなる1以上の層を有する任意の膜であってよい。好適な基板材料の例として多くのものがあり、金属膜又は金属箔はその一例である。また、ガラス又は石英ガラスなどの不活性材料も好適である。しかしながら、好適な基板材料の選択はこれらに限定されるものではない。
【0005】
基板上の薄膜材料にラインをスクライブすることは、典型的に、副層に至るまで、又は基板に至るまでのすべての薄膜材料を除去し、これをラインに沿って行うことを意味する。ラインは、直線、曲線、閉鎖ループとしてのライン、又は様々なパターンあるいは形状からなる様々なラインであってもよい。比較的太いラインでは、ナイフなどの機械的スクライビング工具を使用することができるが、この場合、エッジが粗くなり、薄膜材料の除去が不完全となることが多い。電子デバイスにおいて要求されるラインの幅は非常に細い場合がある。非常に細いラインを切断し、薄膜材料をクリーンに除去するためにレーザが使用されることがあるため、薄膜材料にラインをスクライブする用途にはレーザが使用される。ラインをスクライブする機械的手段より優れたレーザのさらなる利点は、レーザが下層に至るまで溝をスクライブし、そこで停止することができることである。
【0006】
電子デバイスの製造中に薄膜をスクライブする際の1つの目的としては、切断されている溝の内部にあるすべての材料を綺麗に除去することが考えられる。溝の内部又は隣接領域のいずれかにある残留物は問題を引き起こす可能性がある。プロセスの質に影響を及ぼす可能性がある他の問題としては、溝及び溝壁の近傍の材料への潜在的な熱又は他のものによるダメージとさらに基板自体へのダメージである。スクライブされたラインの付近の領域へのダメージは、デバイスの機能性及び信頼性を損なう可能性があり、したがって、製造プロセスの目的は、隣接領域へのスクライビングプロセスにより生じるダメージをなくす又は低減することにある。
【0007】
多くの場合、基板上の薄膜のレーザスクライビングは、レーザビームを基板に透過させて薄膜の底部にアクセスすることによって行われる。このプロセスは、第2表面スクライビング又は底面スクライビングと呼ばれている。もちろん、これが生じるためには、基板はレーザ波長において実質的に透明でなければならない。透明な基板の例としてはガラスがある。さらに、多くの場合、薄膜は、レーザ光が薄膜に強く吸収されて膜の底縁で最も強い吸収が生じるように選択されるレーザ波長において強力な吸収体であり、これにより薄膜を除去するプロセスが開始される。多くの場合、実質的に透明ではない基板上の薄膜をスクライブすることが望まれる。そのような基板は、例えば、良好な熱伝導体として選択される金属である場合がある。薄膜の上方から入射するレーザを用いて基板上の薄膜をスクライブすることは、第1表面スクライビング又は上面スクライビングと呼ばれる。従来のパルス形状を有するレーザを使用する薄膜の上面スクライビングは完全には成功していない。本発明の実施形態によれば、所定のパルス形状を有する一連のレーザパルスを用いて、薄膜の上面スクライビングの成功を達成するような方法及び装置が提供される。
【0008】
用途及び処理される材料によって、波長、パルスエネルギー、パルス幅、パルス繰り返し率、ピークパワー又はピークエネルギー、及び/又は時間的パルス形状を含むレーザパルスの様々な特性を特定の用途に応じて選択可能にすることは利点であろう。
【0009】
パルス当たり0.5mJを超えるパルスエネルギーを特徴とする既存の高出力パルスレーザの多くは、光学パルスを生成するためにQスイッチングやモード同期などの手法を利用している。しかしながら、そのようなレーザは、レーザの空洞の幾何学的形状や鏡面反射率などによって予め定められる特性を有する光学パルスを生成する。そのようなレーザを使用して、用途に最適なパルス形状をすぐに手に入れることは一般的に困難であり、したがって、多くの場合、レーザ処理はいくつかの欠陥を有している。特に、Qスイッチレーザでは、パルスエネルギーの大部分が供給された後、相当期間続く可能性のあるテール部(tail)に相当量のパルスエネルギーが存在する。
【0010】
本発明の実施形態は、従来のパルス形状、例えば、Qスイッチパルスを有するレーザを用いた第1表面スクライビング用システム及び方法と比べて、薄膜スクライビングプロセスの質及び歩留まりを改善する、基板上の材料の薄膜の第1表面スクライビング用システム及び方法を提供する。本発明の実施形態によれば、薄膜内にエネルギーが蓄積される期間を制限し、さらに、レーザパルスのテール部に存在するエネルギーの量を制限するようなパルスエネルギー及び時間的パルス形状を有する一連のパルスを用いることによって、改善された薄膜の第1表面スクライビングが提供される。
【0011】
本発明は、図1に模式的に示され、所定の時間的パルス形状を有する個々のパルスからなる一連のレーザパルスを用いて基板上の材料の薄膜にラインをスクライブ又は切断する方法に関し、レーザによって放出される従来の時間的パルス形状に代えてそのようなパルス形状を使用することは、薄膜スクライビングプロセスの質及び歩留まりを改善する点で様々な利点を有する。所定のパルス形状は、薄膜スクライビング用途に効果的な性質を有するように選択される。一実施形態においては、スクライビングプロセスは、一連のレーザパルスを用い、各パルスは所定のパルス形状を有し、このパルス形状は、図2Aに模式的に示されるように、急峻な立ち上がり前縁及び急峻な立ち下がり後縁を有する単純な頂部平坦パルス形状と言うことができる。一実施形態では、最大パワーの10%における時間的パルス幅は、全幅約5nsである。集束レーザビームスポットの多数のパルスがスポット重複を有しつつ薄膜材料にわたり走査されるスクライビングプロセスでは、以前に使用された従来の時間的パルス形状の代わりに、この頂部平坦状の所定のパルスを使用すると、スクライビングプロセスの質が大幅に改善される。
【0012】
薄膜スクライビングプロセスにおいて所定のパルス形状を使用することには多くの利点がある。一実施形態においては、所定の頂部平坦パルス形状は、光起電デバイスで使用される構造である、金属基板上にモリブデン副層を有するCIGS(二セレン化銅インジウムガリウム)膜のレーザスクライビングに使用され、スクライブされた溝に微量のCIGS材料のみを残し、モリブデン層に至るまでのCIGS材料が綺麗に除去される。加えて、隣接する材料には熱ダメージを明らかに受けた場所が存在しない。従来のレーザパルス形状ではなく、所定のパルス形状を使用することにより、それにより製作されるデバイスの品質及び信頼性が大幅に改善され、次の段階の製造を進めるのに許容可能なデバイスの数の歩留まりが大幅に改善される。
【0013】
多くのレーザは、最大平均パワーもしくはパルスエネルギー又は繰り返し周波数を提供するように設計されているが、出力パルスの時間的形状に関してはほとんど考慮がされていない。図3に模式的に示されるような自由継続のQスイッチ又はモード同期レーザの従来の時間的パルス形状は、立ち上がり前縁と、丸みのある頂部と、徐々に減少する立ち下がり後縁とを有している。このパルス形状は、主として、レーザ利得媒質、レーザポンピング手段、及び空洞設計によって決定される。ダイオードレーザなどのパルスレーザ光源は、パルス電子駆動信号を供給することによって簡単にパルス状にすることができる。このように生成される光学レーザパルスのパルス形状は、ダイオードレーザへの電子駆動信号の形状を選択することによって予め決定することができる。そして、そのようなパルスレーザ光源からの成形された信号を、ファイバレーザ増幅器などのレーザ増幅器で増幅させることができる。本発明の一実施形態においては、薄膜材料をスクライブするのに好適な所定の時間的パルス形状を有する一連のレーザパルスを生成するための本デザインの発振器増幅器レーザシステムが提供される。
【0014】
他の実施形態においては、所定の時間的パルス形状を有する一連のレーザパルスを生成するレーザシステムが提供される。パルスレーザ光源は、シード信号を生成するように構成されたシード源と、シード源に連結された第1のポートと第2のポートと第3のポートとを有する光サーキュレータとを含んでいる。また、パルスレーザ光源は、成形された電気波形を生成するように構成された変調器ドライバと、変調器ドライバに連結され、成形された電気波形を受信するように構成された振幅変調器とを含んでいる。振幅変調器は、光サーキュレータの第2のポートに連結された第1の側と第2の側とを特徴としている。パルスレーザ光源は、入力端部と反射端部とを特徴とする第1の光増幅器をさらに含んでいる。この入力端部は、振幅変調器の第2の側に連結される。さらに、パルスレーザ光源は、光サーキュレータの第3のポートに連結された第2の光増幅器を含んでいる。
【0015】
さらに別の実施形態では、所定の時間的パルス形状を有する一連のレーザパルスを生成する別のレーザデザインが提供される。パルスレーザ光源は、安定化光放射を生成するように構成された安定化源と、安定化源に連結された第1のポートと第2のポートと第3のポートとを有する光サーキュレータとを含んでいる。また、パルスレーザ光源は、所望の形状の信号パルスを生成するように構成された信号源を含み、信号源は、光サーキュレータの第2のポートに連結される。パルスレーザ光源は、光サーキュレータの第3のポートに連結された光増幅器をさらに含んでいる。
【0016】
本発明のさらなる実施形態では、基板上の薄膜材料の一層又は複数層にラインをスクライブ又は切断する材料処理システムが開示される。このシステムは、以下の利点のうち1つ以上の利点を達成するように薄膜材料を処理するための所定の時間的パルス形状を提供するレーザを含んでいる。(1)スクライブされた溝の中の残留物を最小限にしつつ材料を綺麗に除去する。(2)スクライブされた溝の両側の壁、スクライブされた溝に隣接する領域、及びスクライブされた溝の底の層に対する熱ダメージを最小限にする。(3)スクライブされた溝の両側の壁をほぼ垂直にする。レーザに加えて、材料処理システムは、スクライビングプロセスを実施するために薄膜材料にわたってレーザビームをパターンに集束させ、結像させ、走査させる手段と、走査されるレーザスポットの重複を調整する手段と、プロセスを制御する1以上のコンピュータとを含んでいる。
【0017】
従来の手法より優れた本発明を使用することで数多くの利点が得られる。例えば、本発明に係る実施形態では、同程度の性能特性を有するレーザと比較して安価な小型構造を利用した、薄膜材料のレーザスクライビングに好適な高出力のパルスレーザが提供される。さらに、本発明に係る実施形態では、薄膜材料のスクライビング用のレーザパルスプロファイルを最適化するように光学パルスを成形できるような、薄膜材料のレーザスクライビングに好適なパルスレーザが提供される。実施形態によっては、例えば、処理された物の品質及び歩留まりの改善をはじめとする数多くの利点がある。これらの利点及び他の利点は、本明細書を通して記載され、以下により詳細に記載される。本発明の様々な追加の目的、特徴、及び利点は、詳細な説明及び以下の添付図面を参照して、より完全に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、基板上の薄膜材料にラインをスクライブするのに好適な、頂部平坦パルス状の所定のパルス形状を有する一連のパルスを示す実施形態の模式図である。この図では、水平軸に沿って左から右に時間が増加し、パワーは垂直軸に沿っている。
【図2A】図2Aは、本発明の実施形態に係る頂部平坦パルスを示し、水平軸に沿って左から右に時間が増加し、パワーは垂直軸に沿っている。
【図2B】図2Bは、本発明の別の実施形態に係るパワードループ(power droop)を有するパルスを示し、水平軸に沿って左から右に時間が増加し、パワーは垂直軸に沿っている。
【図3】図3は、基板上の薄膜材料のスクライビングに使用される従来のレーザパルスの時間的パルス形状を示す模式図である。この図では、水平軸に沿って左から右に時間が増加し、パワーは垂直軸に沿っている。
【図4】図4は、各パルスの処理した領域が前のパルスと次のパルスによって処理される領域に重複するように多重レーザパルスを使用するレーザスクライビングプロセスの上面を示す模式図である。
【図5A】図5Aは、スクライビングプロセスの前の基板上の光起電薄膜デザインの側面断面を示す模式図である。
【図5B】図5Bは、従来のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝を有する、図5Aに示される構造体の側面断面の模式図である。
【図5C】図5Cは、従来のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝を有する、図5Aに示される構造体の側面断面の模式図である。
【図5D】図5Dは、本発明の実施形態に係る所定のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝を有する、図5Aに示される構造体の側面断面の模式図である。
【図6】図6は、本発明の実施形態に係る所定のパルス形状を有する一連の出力レーザパルスを提供する、調節可能なパルス特性を有するパルスレーザの簡略模式図である。
【図7】図7は、本発明の実施形態に係る所定のパルス形状を有する一連の出力レーザパルスを提供する、調節可能なパルス特性を有するパルスレーザの簡略模式図である。
【図8】図8は、本発明の別の実施形態に係る所定のパルス形状を有する一連の出力レーザパルスを提供する、調節可能なパルス特性を有するパルスレーザの簡略模式図である。
【図9】図9は、本発明の実施形態に係る基板上の薄膜にラインをスクライブするのに好適なレーザ処理システムの簡略模式図である。
【図10】図10は、本発明の実施形態に係る一連のレーザパルスを用いて薄膜にラインをスクライブするための方法を図示するフローチャートである。
【図11A】図11Aは、スクライビングプロセスの前の基板上の光起電薄膜デザインの側面断面を示す模式図である。
【図11B】図11Bは、従来のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝を有する、図11Aに示される構造体の側面断面の模式図である。
【図11C】図11Cは、従来のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝を有する、図11Aに示される構造体の側面断面の模式図である。
【図11D】図11Dは、本発明の実施形態に係る所定のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝を有する、図11Aに示される構造体の側面断面の模式図である。
【図12】図12は、本発明の実施形態に係るパルス形状を示し、水平軸に沿って左から右に時間が増加し、パワーは垂直軸に沿っている。
【図13】図13は、本発明の実施形態に係る所定のパルス形状を有する一連のパルスを用いて薄膜にラインをスクライブするための方法を図示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
太陽電池やフラットパネルディスプレイ、デジタルディスプレイなどのデバイスの製造プロセスにおいては、基板上に成膜された材料の薄膜を含んだデザインであって、材料に溝付きのライン又はパターンをスクライブし、それにより材料をセグメント化又はパターン化することによって、膜の一部をセグメント化しなければならないデザインであることが多い。このパターンは、デバイスの設計における要求に応じて、単純なライン又は長方形もしくは他の形状からなるより複雑なパターンであってもよい。パルスレーザを用いたラインのスクライビングは、一連の多数のレーザパルスを用いる多重パルスプロセスであり、各パルスは、薄膜上のスポットに集束又は結像され、スポットは、前のスポットと後続スポットの間に重複が生ずるように、スクライブされる所望のラインに沿って走査される。スクライブされるラインの幅は、主として、集束レーザスポットの寸法によって決定される。そのような薄膜にレーザスクライブされるラインの幅は、より細い又はより太いラインも可能であるが、典型的には10μm〜100μmの範囲である。材料を適切に除去して基板上に鋭いエッジのラインを残すために、所定量のスポット重複が使用される。このように、スクライビングプロセスは、単一パルスプロセスではなく、本質的に多重パルスプロセスである。パルスごとに重複量を用いてスクライビングプロセスを制御する場合もある。一例では、パルスの重複は30%であるが、処理されている材料の性質によってこの値は2%という低い値から95%という高い値まで変化し得る。
【0020】
薄膜のレーザスクライビングの模式図が図4に示されている。薄膜のレーザスクライビングは、多くの場合、少なくとも10パルスを含む一連のレーザパルスを必要とする多重パルスプロセスである。各パルスは、薄膜材料でスポットに集束又は結像される。一連のパルスの最初のパルス31は、最初のスポットがスクライブされるラインの開始位置になるように方向付けられる。一連のパルスのそれぞれの後続パルスは、前のスポットに隣接するスポットに方向付けられるが、2%〜95%の重複値OL%を有している。図4に示されるスポットの重複値は約30%である。このように、一連のパルスのそれぞれのパルスは、スクライブされるラインに沿った位置に方向付けられ、最後のパルス32は、最後のパルスからのスポットが、スクライブされるラインの終端となるように方向付けられる。Nをバーストのパルス数、Dを薄膜で集束されるスポットの直径、OL%をパーセント表示における重複値とすると、スクライブされるラインの長さLは、式:
L=DN−D(N−1)(OL%)/100
によって与えられる。
【0021】
スクライブされるラインの幅は、集束されるスポット寸法、スポットの重複度、及び薄膜との相互作用の関数であり、理想的には、スクライブされるラインの幅は、集束されるスポットの直径とほぼ同一である。スポットの重複度の選択は、プロセスを最適化するために変更される処理パラメータである。より薄い材料では、多くの場合、10%のような非常に低いスポットの重複度を使用できる場合が多く、これは、例えば、1m/s又はそれより高速な高速スクライビング速度を提供する。より厚い材料では、多くの場合、薄膜材料が完全に除去されるように、より大きな重複度が選択される。
【0022】
図5Aは、上面スクライビングプロセスの前の基板33上の典型的な光起電薄膜デザインの側面断面を示す模式図である。本実施形態では、薄膜は、以下のような複数の層からなる:モリブデン層34、CIGS(二セレン化銅インジウムガリウム)層35、硫化カドミウム層36、及びTCO(透明な導電性酸化物)層37。本実施形態における各層の厚さは、モリブデンが0.3μm、CIGSが1.6μm、硫化カドミウムが0.1μm未満、及びTCOが0.2μmである。これは本発明の実施形態に係るデザインの1つの具体例に過ぎない。また、例えば、二セレン化銅インジウム又は二セレン化銀インジウムガリウム又は二セレン化銀インジウムのようなCIGS以外の材料を使用してもよい。また、例えば、テルル化カドミウムのような硫化カドミウム以外の材料を使用してもよい。酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛、及び他の金属の酸化物のような様々なTCO材料を使用することができる。同様に、金のようなモリブデン以外の材料を使用してもよい。本発明の実施形態は、列挙されたこれらの材料への適用に制限されることはない。本出願に記載される原理は、多種多様な薄膜デザイン及び材料に適用することができる。多くの基板が利用可能であり、金属膜又は金属箔は好適である。ガラス又は石英ガラスなど不活性材料もまた好適である。しかしながら、利用可能な基板の選択はこれらに限定されない。さらに、薄膜内の層の数は4つに限定される必要はなく、単一の層から20以上の層と多くの層にまで及んでいてもよい。また、各層の厚さは上記例に限定されるものではない。
【0023】
図5Bは、図3の従来のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝40を有する、図5Aの実施形態の側面断面の模式図である。後縁が最大パワーの50%を下回った後のパルスの部分として定義されるパルスのテール部にパルスエネルギーの約17%が含まれている。また、図5Bには、スクライブされた溝内に残存する相当量のCIGS残留物39と溝の側壁及び隣接領域へのダメージ38も示されている。そのような残留物及び隣接領域への熱的ダメージは、多くの場合、従来のパルス形状を有するレーザを用いて薄膜材料をスクライブした結果である。従来のQスイッチレーザパルスを使用した場合のこの受け入れがたいスクライブ品質の1つの原因は、従来のレーザパルス形状のテール部に存在する大量のエネルギーであり、これによりレーザパルスに含まれる総エネルギーの大部分を十分に短い期間中に付与することはできないことにある。本発明の実施形態は、スクライブされた溝の内部の残留物を削減又は排除し、スクライブされた溝の壁及びそれに隣接する他の領域への熱的ダメージを低減又は排除することによって、薄膜スクライビングの品質を改善する方法及び装置を提供する。
【0024】
図5Cは、図3の従来のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝40を有する、図5Aの実施形態の側面断面の模式図であり、最大パワーの10%でのパルス幅全幅は約100fsである。材料内へのエネルギーの極めて高いピークパワー蓄積により材料を除去(ablate)すべく、フェムト秒領域の非常に短いパルス幅のレーザがしばしば使用される。これらのレーザは高価であり、かつ製造環境で使用するのに非常に複雑であるという欠点がある。また、極めて高いピークパワーレーザパルスは、より低いピークパワーを有するレーザパルスを普通にこれらの材料が実質的に反射するときにさえ、除去されるべきではない薄膜の層を除去してしまうという欠点があるときがある。図5Cに示されるように、従来のパルス形状を有する短パルスフェムト秒レーザを用いてスクライブされた溝40は、モリブデン層から相当量の材料41が除去されていることを示している。スクライブされた溝の下に存在する層に対する材料除去又はダメージは、好ましくない結果である。本発明のさらなる目的は、スクライブされた溝の下に存在する層に対するダメージや材料除去を低減又は排除することによって、薄膜スクライビングの品質を改善する方法及び装置を提供することにある。
【0025】
図5Dは、本発明の実施形態に係る所定のパルス形状を有する一連のレーザパルスを用いてスクライブされた溝40を有する、図5Aの実施形態の側面断面の模式図である。図5Dに示されるように、所定のパルス形状を有する一連のレーザパルスを用いてスクライブされた溝においては、溝内のCIGS残留物が最小限になるか、全くなく、溝の壁又は隣接領域へのダメージが最小限になるか、全くなく、下に存在するモリブデン層へのダメージが最小限になるか、全くなく、ほぼ垂直な側壁を有する溝となっている。
【0026】
図1は、各パルスが、基板上の薄膜へのラインのスクライビングにおいて、図3に示される従来のパルス形状を有する一連のレーザパルスを用いて得られる低品質と比べて改善された品質を有する、本発明の実施形態に係る所定のパルス形状を有している、一連のパルス21を示している。一連のパルスのそれぞれは、本発明の要件ではないが、典型的には少なくとも10パルスを含んでいる。特に、図2Aは、最大パワーの10%でのパルス幅全幅T1、前縁立ち上がり時間RT1(10%〜90%)、及び後縁立ち下がり時間FT1(90%〜10%)を有する、本発明の一実施形態に係る所定のパルス形状25を示す。平坦な頂部のピークパワーはH1である。本発明に係る所定のパルス形状において、T1は好ましくは1ns〜10nsの範囲内である。立ち上がり時間がT1の10%より速く、立ち下がり時間がT1の30%より速い実施形態もあり、さらに速い値であっても本発明の範囲内に含まれる。一般に、パルスエネルギーの選択は、処理される材料、レーザスポットの寸法、及びスクライブされるラインの幅をはじめとするいくつかの要因に依存している。図5Dに図示される例では、5〜10μJのパルスエネルギーの値が利用される。図5B及び図5Cに示されるような著しいCIGS残留物と隣接領域及び層へのダメージを呈した従来のパルス形状を有するパルスのバーストを用いてスクライブされたラインと比較すると、図2Aの頂部平坦パルス形状の一連のパルスを用いてスクライブされたラインは、図5Dに模式的に示されるように、ほぼ垂直な側壁を有し、壁又は隣接領域内に明らかなダメージがなく、下層のモリブデン層に対する除去やダメージがなく、微量のCIGS残留物のみが生じるだけである。本発明の一実施形態において、図5Aに示されるデザインの薄膜試料に幅47μmのラインをスクライブし、このときの層は以下のような構成であった:25μmの厚さの金属箔基板33、0.3μmの厚さのモリブデン層34、1.6μmの厚さのCIGS(二セレン化銅インジウムガリウム)層35、0.1μm未満の厚さの硫化カドミウム層36、及び0.2μmの厚さのTCO表面層37。本実施形態では、10μJのパルスエネルギー、5nsのパルス幅T1(最大パワーの10%での全幅)、0.3nsのRT1及びFT1、20KHzの繰り返し率を有する、図2Aの所定のパルス形状を有し、波長が1064nmのレーザからの一連のパルスが47μmのスポット寸法にて薄膜で結像され、スクライブされるラインパターンに沿って約10%のスポット重複となるようにステージを約0.85m/sの速度で移動した。薄膜材料をモリブデン層に至るまでスクライブされて得られた溝は、ほぼ垂直な側壁を有し、壁又は隣接領域内に明らかな熱的ダメージがなく、溝の内部には微量のCIGS残留物のみがあるだけで、下層のモリブデン層に対するダメージもなかった。スポット重複度を2%から50%まで変化させるために、他の様々なステージ速度及びレーザ繰り返し率が使用され、薄膜材料内に得られた溝は、ほぼ垂直な側壁を有し、壁又は隣接領域内には明らかな熱的ダメージがなく、溝の内部には微量のCIGS残留物のみがあるだけで、下層のモリブデン層に対するダメージもなく、同様の有利な性質を呈していた。2nsのパルス幅T1、それぞれ0.5ns未満のRT1及びFT1、5μJのパルスエネルギーを有する所定の頂部平坦パルス形状を有する一連のレーザパルスを用いて、36μmのスポット寸法に結像され、スポット重複が2%〜50%となるようなステージ速度及びレーザ繰り返し率を使用してラインがスクライブされる際にも、同様の有利な結果が見られた。10nsのパルス幅T1、それぞれ1ns未満のRT1及びFT1、10μJのパルスエネルギーを有する所定の頂部平坦パルス形状を有する一連のレーザパルスを用いて、41μmのスポット寸法に結像され、スポット重複が2%〜50%となるようなステージ速度及びレーザ繰り返し率を使用してラインがスクライブされる際にも、同様の有利な結果が見られた。本発明の実施形態の具体的なパラメータは、これらの値に制限されない。一実施形態においては、頂部平坦パルスのパルス幅T1は1ns〜10nsであってもよい。頂部平坦パルスの立ち上がり時間RT1は、6ns又はパルス幅T1のうちの短いほうより速くてもよい。立ち下がり時間FT1は、パルス幅T1又は2nsのうちの短いほうより速くてもよい。頂部平坦パルスが図2Bに示されるようなドループを呈する実施形態においては、同様の改善が達成される。例として、T2(最大パワーの10%での全幅)が1ns〜10nsの範囲内であり、RT2が6ns又はT2のうちの短いほうより速く、FT2が2ns又はT2のうちの短いほうより速い場合において、(H1−H2)がH1の50%未満であるようなドループであってもよい。
【0027】
本発明の実施形態に係る所定のパルス形状の利点により、ほぼ垂直な側壁を有し、壁又は隣接領域内に明らかな熱的ダメージがなく、溝の内部には微量のCIGS残留物のみがあるだけで、下層のモリブデン層に対するダメージもないような溝の同様な有利な性質を呈するラインを薄膜にスクライブすることができるパルスパラメータの範囲がある。本発明の実施形態は、パルスエネルギーの大部分を5ns以内、典型的には10ns以下のプロセスに提供するように構成された所定のレーザパルスを利用しており、薄膜スクライビングプロセスの品質に有害な影響を及ぼす可能性があるため、その期間の後のテール部にはエネルギーがほとんど提供されないようになっている。パルス立ち上がり時間が早いことが好ましいが、多くの材料に関しては、6nsと長い立ち上がり時間を有するパルスは、パルスエネルギーの大部分が10ns未満の期間内に提供される限り、同様の利点をもたらす。同様に、パルスの形状は、水平で頂部が平坦である必要はなく、平坦でテーパ状、あるいは丸みを帯びた頂部を有してもよい。このように、本発明の実施形態に係る最大パワーの10%でのパルス幅全幅を有する所定のパルス形状については、好ましくは、総パルスエネルギーの5%未満が、パルスの後縁の半分のパワー点よりも時間的に後のパルスの部分に含まれる。典型的には、エネルギーの10%未満がその中に含まれている。本発明の実施形態に係る所定のパルス形状の好適な例が図12に示されている。このパルス形状は、立ち上がり時間(パワー点の10%〜90%)が6ns未満であり、最大パワーの10%でのパルス幅全幅が10nsであり、後縁がハーフピークパワー点を下回った後のテール部内に総パルスエネルギーの10%未満を有している。好ましくは、所定のパルスの立ち上がり時間は1ns未満、パルス幅は5ns未満、テール部内に含まれるエネルギーのパーセンテージは総パルスエネルギーの2%未満である。
【0028】
異なるスポット寸法を利用すれば同様の改善が達成される。上述の例では、47μmのスポットに結像される10μJのエネルギーのパルスに対して達成されるエネルギー密度は0.65J/cm2である。1つの適用例においては、一連のパルス内の頂部平坦パルスにおけるパルス幅T1は1ns〜10nsの範囲内であり、薄膜試料のレーザスクライビングのエネルギー密度は0.2〜0.7J/cm2の範囲内であった。したがって、例えば、ステージが約1.7m/sの速度で移動される場合、パルスエネルギーが40μJ、パルス幅T1(最大パワーの10%での全幅)が5ns、RT1及びFT1が0.2ns、繰り返し率が20KHzである図2Aの所定のパルス形状を有し、94μmのスポット寸法にて薄膜で結像され、スクライブされるラインパターンに沿ったスポット重複が約10%である、波長1064nmのレーザからの一連のパルスは、ほぼ垂直な側壁を有し、壁又は隣接領域内に明らかなダメージがなく、微量のCIGS残留物のみが生じ、下層のモリブデン層に対する除去やダメージがないようなスクライブされた溝を薄膜材料に形成する。
【0029】
小さいスポット寸法を使用するときに、エネルギー密度を調整することが有用な場合がある。上述の例では、47μmのスポットに結像される10μJに対して達成されるエネルギー密度は0.65J/cm2である。1つの適用例においては、一連のパルス内の頂部平坦パルスにおけるパルス幅T1は1ns〜10nsの範囲内であり、0.4J/cm2〜1.4J/cm2のエネルギー密度を使用してレーザスポット寸法を20μmの直径に縮小したとき、レーザスクライビングにおいて有利な結果が得られた。エネルギー密度の選択は、スクライブされるラインの幅に依存していてもよい。
【0030】
エネルギー密度の選択は、薄膜で使用される材料の選択及び組成に依存していてもよい。例えば、CIGSは、その構成材料の固溶体であり、インジウムとガリウムの割合が特定の値となるように選択することができる。特定のレーザ波長を用いてその特定の薄膜にラインをスクライブする場合、典型的には、これらの値の具体的な選択は、エネルギー密度及び他のプロセスパラメータに影響を与える。特定の試料に最適なエネルギー密度の選択は、多くの場合、実際のスクライビングプロセスに先立つ一連の試験を利用してなされ、その試験の後に最適なパルスエネルギーを選択してもよい。
【0031】
非常に薄い膜では、集束されたスポットのそれぞれの材料を除去するために小さな重複度を用いることができる。しかしながら、材料の厚さが増加すると、パルスエネルギーを増加させるのではなく、スポット重複度を増加させることが好ましい場合がある。スポット重複度が低いと、スポットが重なっているスクライブされたラインの縁部に、スポット重複度が高い場合にスクライブされたラインの縁部に生じるよりも多くの変調が生じる場合がある。しかしながら、各スポット重複の縁部におけるこの鋭い部分は、従来のパルス形状を有する一連のレーザパルスを使用した場合に薄膜にスクライブされた溝の縁部に生じ得る熱的ダメージと同一ではない。したがって、一実施形態では、スポット重複度を増加させることによって、CIGS残留物の形成及び所定のパルス形状を有する一連のパルスによってスクライブされる溝の壁もしくは周囲領域への熱的ダメージに影響を及ぼすことなく、スポットが重なっている鋭い縁部が低減される。本発明の実施形態では、スポット重複度は30%になるように選択されるが、選択されるスポット重複度は、30%である必要はなく、10%と低くても、あるいは70%と高くてもよい。
【0032】
本発明は、ここで述べた厚さの材料の層に限定されない。例えば、上述した1.6μmではなく2μmの厚さのCIGS層では、パルスエネルギーはいくらか増加されると予想される。同様に、より薄い層では、所定のパルス形状とともに5nsの同一のパルス幅T1を維持しつつ、必要とされるパルスエネルギーはいくらか低減される。
【0033】
本開示に記載された実施形態で使用されるパラメータについて様々な変形及び組み合わせが提供される。例えば、スポット寸法、エネルギー密度及びステージ速度を同時に変更しつつ、10%〜70%の範囲でスポットの重複度を異なる値とすれば、薄膜基板にレーザスクライブされた溝又はパターンに関して同一の有利な性質が得られる。薄膜材料で結像されるレーザパルス内のエネルギー分布の空間プロファイルをガウス形態から平坦な頂部又は他の所望のプロファイルに変更するように設計された光学ホモジナイザが存在し、これを利用して有利な結果を得ることができる。
【0034】
スクライブされるラインの品質を決定するために様々な機器を利用することができる。従来のパルス形状を使用するスクライビングの場合では、溝内のCIGS残留物だけではなく、スクライブされたラインの壁及びその近傍領域に対するダメージを観測するのに40Xの倍率の光学顕微鏡が適切な場合がある。所定のパルス形状を使用する場合、光学顕微鏡を使用して検査すると、溝内にCIGS残留物がないことが明らかである。ここではこの結果を「観測可能な残留物なし」ということにする。同様に、本発明に係る所定のパルス形状を使用する場合、40Xの倍率の光学顕微鏡を使用して観測すると壁が垂直に見える。また、所定のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝をさらに検査するために、干渉表面プロファイラ又は走査型電子顕微鏡SEMなどのより高感度の機器を使用することもできる。SEMを使用すると、スクライブされた溝の床面上にわずかなCIGS粒子が依然として存在することを検出でき、これは「微量」として述べられる。このレベルのCIGS残留物は、光学顕微鏡を用いて観測できるよりずっと少なく、また、製造において問題を引き起こすようなレベルよりもずっと低い。また、SEMを使用すれば、スクライブされた溝の側壁の傾斜を推測することができる。実施形態によっては、壁上のランダムな場所で80%を超える測定結果において壁幅(高さの10%〜高さの90%)が1μm未満であるような垂直な側壁であるものもある。スクライブされた溝の品質を確認するためのさらに一般的な測定は、溝の一方の側の表面層から溝の他方の側の表面層に至る電気抵抗を測定することである。この層系にスクライブされた溝の抵抗に関して典型的に許容され得る値は、スクライブの長さにも依存するが200オームを超えるものである。
【0035】
本発明の範囲を制限することなく、発明者等は、所定のパルス幅及びパルス形状のレーザパルスを用いた第1表面プロセスを使用して、薄膜材料にラインを綺麗にスクライブすることができるという説明は、脆性破壊のプロセスであると考える。薄膜内に使用される材料をはじめとした、また特にCIGSや二セレン化銅インジウムをはじめとした所定の材料については、特定の条件下で使用されるレーザパルスがどのように近隣の材料への損傷なく所定の薄膜材料を綺麗に除去するかが脆性破壊のプロセスにより説明できる。そのような材料においては、下層の金属層に実質的に貫通するように、そしてその局所スポット及びその付近の材料を、その材料が融解又は実質的に軟化する温度の直下の高温に急速に加熱するように、好適なレーザパルスを作ることができる。その上昇した局所温度においては、モリブデンCIGS界面でガス蒸気圧の著しい上昇がみられ、また、CIGS層と下層のモリブデン層との間に著しい熱膨張差がみられ、それによって、スポットの外側の周囲で破壊を生じさせるのに十分な応力が生じ、モリブデンの表面からCIGSの爆発的放出(explosive expulsion)が生じる。CIGSを組み込む薄膜の場合、セレンはCIGS構成物質の中で最も沸点が低いので、セレン蒸気が最もガス圧力の源になりやすいと発明者等は考えている。このメカニズムは、適切な機械的性質を有する材料において一般的に見られるものである。CIGSや二セレン化銅インジウムなどの材料においては、材料の実質的な融解や近隣領域への熱伝導が生じることも防止しつつ、実効エネルギー蓄積時間を10ns未満とし、適切な薄膜層界面又はその近傍に十分なエネルギーを急速かつ直接蓄積するように作用して蒸気発生、熱膨張差、及び下層(例えばモリブデン)からのその後の層間剥離を引き起こすような適切な所定のパルス形状とし、適切な波長のレーザを使用することで、このプロセスが、断片を綺麗に取り出すこととともに実現できると発明者等は考えている。本発明の実施形態は、レーザパルスの短パルス幅を利用して、層構造の所望の場所に十分なエネルギーを非常に急速に蓄積するとともに、レーザパルスの高速立ち下がり時間を利用して、モリブデンから近隣領域内への伝導とCIGS材料による直接吸収に利用可能となるような余剰エネルギーが生じるのを防止する。
【0036】
さらに、実施形態によっては、取り除かれる層(例えばCIGS)の光学的性質が考慮される。一実施形態においては、レーザエネルギーを図5Aの下部層34(例えばモリブデン)に到達させるために、上に位置する層35、36、37は、使用されているレーザ波長において十分に透明なものとなっている。これらの層が吸収する場合、過剰エネルギーはそれらの層により直接吸収され得る。プロセス中は、融解が開始することなく、ガス圧力の十分な上昇と熱膨張差が生じるのに的確な量のエネルギーが蓄積される。CIGSの融解は蓄積された応力を解放する役割をしやすく、また、これにより、所望の爆発性層間剥離プロセスとスクライブされた綺麗なラインを結果として生じることなくガス蒸気を逃がすことも可能となる。制御されたエネルギー蓄積の例として、パルス幅T1が5nsで、直径が47μmのスポットに蓄積されるパルスにおける上述した10μJの状況では、CIGS層を通って伝達されるエネルギーの一部は、モリブデン層によって反射されるか、あるいはモリブデン層によって吸収された後、熱としてCIGS層に戻る。このように、薄膜の表面でのレーザ放射のエネルギー密度は、0.6J/cm2である。レーザパルス中のエネルギーの蓄積及び材料温度の上昇は一様ではないが、その代わりに、主としてモリブデン層とCIGS層との間の界面又はその近傍に位置していることを強調しておく。5nsの期間にわたるこの範囲内のエネルギー蓄積においては、CIGSの融解は生じないが、クリーンなプロセスにおいて、CIGSは破壊され、その上の層とともにモリブデン層から爆発的に剥離する。熱はほとんど残留しておらず、レーザパルスによってそれ以上エネルギーは蓄積されない。そのため、周辺領域への熱的ダメージが最小限に抑えられる。CIGS層の層間剥離を生じるのに適切な量のエネルギーを急速に蓄積することは、クリーンなスクライビングプロセスのキーとなる。
【0037】
36μmのスポット寸法に結像されるパルスエネルギー5μJの所定のパルス形状のT1=2nsのレーザパルスを使用した、CIGS内への制御されたエネルギー蓄積を上述した実施形態と同様に分析すると、以下のデータが得られる:表面でのレーザ放射のエネルギー密度が0.5J/cm2である。2nsの期間にわたるこの範囲内のエネルギー蓄積においては、CIGSの融解は生じないが、クリーンなプロセスにおいて、CIGSは破壊され、その上の層とともにモリブデン層から剥離する。十分な熱が残留しておらず、レーザパルスによってそれ以上エネルギーが蓄積されない。そのため、周囲領域への熱的ダメージが最小限に抑えられる。CIGS層の層間剥離を生じるのに適切な量のエネルギーを急速に蓄積することは、クリーンなスクライビングプロセスのキーとなる。CIGS層の層間剥離と爆発的放出を生じるのに適切な量のエネルギーを急速に蓄積することは、クリーンなスクライビングプロセスのキーとなる。
【0038】
CIGS材料の吸収値は80%と高くてもよいが、本発明の実施形態には低い吸収も好適である。CIGS層の吸収は実質的に80%未満であってもよい。このメカニズムは、薄膜を融解することなく、むしろモリブデン界面での層間剥離プロセスを通して薄膜を除去することを伴うと考えられるため、十分なレーザ光がCIGS層を実質的に貫通することができ、かつCIGS層に隣接するモリブデンの表面又はその近傍で部分的に吸収されることが好ましい。伝導によるモリブデンの表面に隣接するCIGS領域の加熱によりCIGS材料のその領域の温度が急速に上昇するが、CIGS材料の残りの部分はそれ程急速に加熱されない。膨張差と、モリブデン界面付近の熱いCIGS材料からのセレンガスの放出からの蒸気圧とによってもたらされる応力のプロセスを通して下層のモリブデン層からのCIGSの脆性破壊が生じ、爆発的放出を引き起こすと考えられている。CIGSを含む薄膜層が気泡として除去されるという証拠があり、実際に、一部のパルスのキャップがいくつかの大きな断片内に近接して見られ、あるいはキャップ全体を見られる場合もある。これにより、CIGSが粉末又は多くの小断片に分解される場合、あるいはCIGSが融解される場合において、このプロセスが、蒸発プロセスあるいは切除プロセスから区別される。溝がほぼ垂直な側壁を有し、壁又は隣接領域内に明らかなダメージがなく、溝の内部には微量のCIGS残留物のみがあるだけで、下層のモリブデン層に対するダメージもないような、スクライブされたラインの所望の性質を得るのに薄膜の除去は有益であると考えられている。
【0039】
スクライブの所望の性質を達成するために、モリブデンの表面に隣接するCIGS材料の温度を急激に上昇されなければならないが、CIGS材料のバルクの温度はほぼ同じくらいに上昇させてはならないと考えられる。実施形態によっては、レーザパルス幅の上限は、最大パワーの10%における全幅が10ns未満、好ましくは最大パワーの10%における全幅が5ns未満である。脆性破壊を生じさせるために、CIGSが展性を有するようになるか融解してしまうほど十分にCIGS材料のバルクの温度を上昇させることはできないと考えられる。温度上昇は、溝の底及び壁の上に融解した材料が生じるなどスクライブされた溝の好ましくない性質を生じさせるからである。レーザ波長及びCIGS材料の組成物によっては、CIGSの吸収係数も温度の関数として急速に増加すると考えられる。このため、10ns以下のレーザパルス中に、モリブデンの表面に隣接するCIGS材料の加熱が開始されると、レーザ光がCIGSのバルクに吸収されてその中で好ましくない温度上昇が生じる傾向があるので、それ以上大量のレーザ光が材料に入射しないということが重要である。この考えから、上述したようにパルスのテール部にほとんどエネルギーが存在しないように、急激な立ち下がり時間を有するパルスを使用することにつながる。
【0040】
モリブデンの表面で反射される光の量は、モリブデンの表面の物理的な仕上がりや隣接する層内の材料をはじめとする多くの要因に依存している。典型的な反射率は40%であるが、モリブデンの実際の反射率は、10%と低いものから65%と高いものにまで及ぶ。相当量のレーザ光がモリブデンで反射され得るにもかかわらず、一部の光は吸収もされる。この吸収された光は、モリブデン及び隣接するCIGS材料を加熱する役割を有する。反射率が低く、このため吸収の強いモリブデンについては、モリブデンの表面又はその近傍の温度が、より速く上昇する。これは、好ましい結果といえる。
【0041】
また、CIGS材料及びCIGSの上にある層内の材料の脆性破壊プロセスにおける放出は、CIGS層とモリブデン層との間の蒸気圧の上昇によって引き起こされるとも考えられる。この蒸気圧は極めて高くすることができ、これにより、大きな応力を受けているCIGS層を破壊し、爆発力によってそれを除去することができる。この証拠は、スクライブされたラインから約1mm以上の距離に見られるCIGS断片の形態で観測されている。蒸気圧は、主としてセレン蒸気のものであると考えられる。セレンは、CIGS及びモリブデン基板を構成する材料の最も低い沸点を有する。
【0042】
本発明の実施形態を用いてスクライブされるのに好適な基板上の薄膜の別の層構成が図11Aに示されている。この場合には、モリブデン層34とCIGS層35との間に薄層32がある。層32は、単に、成膜プロセスの副産物として存在していてもよい。例えば、厚さが0.1μm未満の二セレン化モリブデンの薄層は、多くの場合、成膜プロセスの結果として存在する。また、この層を意図的に成膜してもよい。ここで述べる本発明の実施形態はまた、図11Aに示される種類の薄膜にラインをスクライブするのにも好適である。実際に、薄層32は、レーザ光の吸収を増加させ、セレン蒸気の源を提供することにより、モリブデンの表面又はその近傍での吸収プロセスを促進することができ、これにより、隣接CIGS材料の加熱と脆性破壊プロセスによるCIGS層の除去を早めることができる。別の実施形態では、層32は、レーザスクライビングプロセスを促進するためにモリブデン層とCIGS層との間に追加される、吸収の強い材料であってもよい。別の実施形態においては、層32は、モリブデン表面の反射率を低減する材料であって、レーザスクライビングプロセスを促進するためにモリブデン層とCIGS層との間に追加される材料であってもよい。
【0043】
1つの可能性として、セレン蒸気が、CIGSから放出されるより二セレン化モリブデンからの方がより容易に放出され得るので、これが、爆発的切除プロセス(explosive ablation process)を促進する蒸気圧の上昇の源となり得ることが挙げられる。
【0044】
図11Bは、図3の従来のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝40を有する、図11Aの実施形態の側面断面の模式図であり、最大パワーの10%でのパルス幅全幅は約10nsである。また、図11Bには、相当量のCIGS残留物39がスクライブされた溝の内部に残留しており、また、溝の側壁及び隣接領域へのダメージ38があることも示されている。そのような残留物及び隣接領域への熱的ダメージは、しばしば、従来のパルス形状を有するレーザを使用した薄膜材料のスクライビングの結果である。本実施形態では、スクライブプロセスはモリブデン層34で終了する。
【0045】
図11Cは、図3の従来のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝40を有する、図11Aの実施形態の側面断面の模式図であり、最大パワーの10%でのパルス幅全幅は約100fsである。図11Cに示されるように、従来のパルス形状を有する短パルスフェムト秒レーザを用いてスクライブされた溝40では、相当量の材料41がモリブデン層から除去されている。スクライブされた溝の下に存在する層の材料の除去やその材料へのダメージは、好ましくない結果である。
【0046】
図11Dは、本発明の実施形態に係る所定のパルス形状を有する一連のレーザパルスを用いてスクライブされた溝40を有する、図11Aの実施形態の側面断面の模式図である。図11Dに示されるように、所定のパルス形状を有する一連のレーザパルスを用いてスクライブされた溝では、溝の内部のCIGS残留物が最小限となるか、全くなく、溝の壁又は隣接領域へのダメージが最小限となるか、全くなく、最小限の損傷を呈するか、又は損傷を呈さず、下層のモリブデン層へのダメージもなく、溝の側壁がほぼ垂直になっている。本発明の実施形態の用途としては、その他の薄膜の層設計にも好適であり、図5A及び図11Aに示されるデザインの薄膜のみに限定されない。
【0047】
本発明の実施形態の用途としては、CIGSの層を含有する薄膜に限定されない。本発明で開示される実施形態に係る所定のパルス形状を使用することは、他の材料の薄膜をスクライブするときに利点となる。例えば、二セレン化銅インジウムは、本発明で述べる所定のパルス形状を有するレーザスクライビングプロセスを用いて綺麗に除去することができる別の材料である。ただし、単位体積当たりのエネルギー蓄積の適切な値はCIGSと完全に同一ではない場合がある。本願における所定のパルス形状を使用することは、スクライブされる薄膜材料に適切であるような1064nm以外の波長を使用することによって利点がある。レーザ波長の選択は、一部においては、上下の層で使用される材料だけではなく、スクライブされる材料の吸収によって決定される。1064nmだけではなく、1032nm、1.3ミクロン、1.5ミクロン、2ミクロン等をはじめとする他の波長のレーザも利用できる。加えて、必要に応じて、より長い波長を実現するための位相整合混合などの非線形プロセスを用いて他の波長を実現することも可能である。場合によっては、CIGS材料がより透明となるより長い波長のような1064nm以外の波長を使用することが有利であることもある。
【0048】
本発明の範囲を限定することなく、発明者等はレーザ波長の選択のための指針を決定した:すなわち、レーザ波長は、スクライブされる薄膜を構成する大部分の材料の実効バンドギャップエネルギー波長より長くなければならず、バンドギャップエネルギー波長は、以下の式によって得られる。
(バンドギャップエネルギー波長)=hc/(バンドギャップエネルギー)
ここで、hはプランク定数、cは光の速度である。この指針は、レーザの光子エネルギーが、バンドギャップエネルギーよりも低くなければならないことを効果的に述べている。半導体のバンドギャップエネルギーは、当業者によく知られているパラメータであり、価電子帯の上縁に存在する電子と伝導帯の下縁に存在する電子との間のエネルギーのギャップとして定義される。バンドギャップエネルギーは、通常、ev(電子ボルト)の単位で与えられる。絶縁体のバンドギャップにも同様の定義が存在するが、絶縁体のバンドギャップエネルギーは、半導体のバンドギャップエネルギーよりずっと大きい。一例として、CIGS(二セレン化カドミウムインジウムガリウム)が薄膜の大部分の構成要素である上述の実施形態では、CIGSは、バンドギャップを有する半導体である。実際に、CIGS材料は、セレン化銅インジウム及びセレン化銅ガリウムの固溶体であり、Cu[InXGa(1-X)]Se2の化学式を有し、xの値は、x=1(純セレン化銅インジウム)からx=0(純セレン化銅ガリウム)まで変化し得る。同様に、CIGSの半導体バンドギャップは、純セレン化銅インジウム(x=1)の1eVと純セレン化銅ガリウム(x=0)の1.7eVとの間で変化し得る。上述の実施形態では、CIGS材料の測定されたバンドギャップは、1.2eVであった。これは、1033nmの等価バンドギャップエネルギー波長に対応する。したがって、選択された1064nmのレーザ波長は、1033nmのバンドギャップエネルギー波長より長かった(レーザ光子エネルギーはバンドギャップエネルギーよりも低かった)。当該技術分野の専門家の多くは、1.2eVのバンドギャップを有するCIGS材料は、起電用途に最適なCIGS組成物であると考えている。スクライブされる薄膜の大部分の構成要素のバンドギャップが未知であるか、または材料の組成又は製造プロセスによって変化する可能性がある場合、レーザ波長を適切に選択することができるように、バンドギャップを測定することが有用である。発明者等は、ここに記載された指針を用いて選択されるレーザ波長が、最適パルスエネルギー及び所定の時間的パルス形状との組み合わせで使用される場合にクリーンなスクライビングプロセスを実現するために動作期間を広げられると考えるが、スクライブされる薄膜の大部分の構成要素の等価バンドギャップエネルギー波長より長いレーザ波長を選択することは、すべての実施形態において、薄膜のクリーンなスクライビングプロセスを実現するために必要不可欠な要因ではない場合がある。
【0049】
薄膜のレーザスクライビングが電子デバイスの製造で使用されてきたが、市販されるレーザを使用する場合には多くの問題があった。これらの問題は、(1)近隣領域への意図されないダメージと、(2)材料の不完全な除去とに分類することができる。そのようなレーザは、信頼性があり、費用対効果に優れているが、典型的に、従来のパルス形状のパルスを提供する。薄膜をスクライブするために使用されるレーザの種類として、ピコ秒やさらにはフェムト秒の時間的尺度でエネルギーを蓄積させることができるように非常に短いパルス幅を有するレーザが最近追加された。この手法は、(1)短パルスレーザが非常に高価であり、かつ複雑であることと、(2)短パルスレーザが、これらのレーザの極めて高いピークパワーのために時として下層又は近隣領域にダメージを与えることがあることの2つの要因以外においては成功している。したがって、信頼性があり、かつ費用対効果に優れ、さらにCIGS等の材料をレーザスクライビングするために所定のパルス形状のパルスを生成することもできるレーザが求められている。
【0050】
図6を参照すると、本願に開示される種類の所定のパルス形状を生成することができるレーザシステムが示されている。このレーザシステムは、電子ドライバ53によって動力供給される発振器51を含むとともに増幅器52を含む。ダイオードレーザなどのパルスレーザ光源は、パルス電子駆動信号を提供することによって簡単にパルス状にすることができる。生成された一連のパルス56におけるそれぞれの光学レーザパルスのパルス形状は、電子ドライバ53によって発振器51に送られる電子駆動信号55の形状を選択することによって予め決定することができる。そして、そのようなパルスレーザ発振器からの成形された信号は、一連の出力パルス57におけるそれぞれのパルスのパルス形状が、発振器によって提供されたパルス形状から実質的に変更されない状態で維持されるように、ダイオードポンプ固体ロッド型レーザ又はファイバレーザ増幅器などのレーザ増幅器で増幅される。
【0051】
発振器レーザは、半導体レーザ、ファイバレーザ、ダイオードレーザ、又は分散型フィードバックダイオードレーザからなってもよい。特定の実施形態においては、パルス信号源は、ピークパルスパワーが1ワット、繰り返し率が最大で200KHz(キロヘルツ)まで可変で、パルス立ち上がり時間及び立ち下がり時間がサブナノ秒、パルス幅が5ナノ秒であり、1064nmの波長で動作する半導体ダイオードレーザである。別の実施形態では、パルス信号源のピーク光パワーを、1ワットより低くしたり、1ワットより高くしたりすることもできる。例えば、500mW、1ワット、2ワット、3ワット、4ワット、5ワット、又はそれよりも高くすることができる。また、パルス幅を、100ナノ秒より小さくしたり、100ナノ秒より大きくしたりすることができる。例えば、1ns(ナノ秒)、2ns、5ns、10ns、15ns、20ns、及び他の値にすることができる。発振器レーザは、電子ドライバによって与えられる電流パルスの形状が発振器レーザの出力パルス形状によって模倣されるように、電子ドライバによって駆動される。
【0052】
発振器51からの出力は、例えば、ファイバレーザ増幅器又はダイオードポンプ固体ロッド型レーザ増幅器からなるレーザ増幅モジュール52で増幅される。本発明の一実施形態では、増幅器は、光カプラを通して希土類添加ファイバループに連結されるポンプを含む光増幅器である。一般的に、半導体ポンプレーザが、ポンプとして使用される。しかしながら、当業者に明らかであるように、光増幅器のポンピングは他の手段によって達成することができる。特定の実施形態においては、光増幅器は、コア直径が約4.8ミクロン、長さが5メートルの希土類添加ファイバを含み、イッテルビウムで約6×1024イオン/m3のドーピング密度にドープされる。また、増幅器は、976nmの波長で動作し、出力パワーが500mWのFBG安定化半導体レーザダイオードであるポンプも含んでいる。他の特定の実施形態においては、光増幅器160は、コア直径が約10ミクロン、長さが2メートルの希土類ドープファイバを含み、イッテルビウムで約1×1026イオン/m3のドーピング密度にドープされる。また、増幅器は、出力パワーが5Wの半導体レーザダイオードであるポンプも含むことができる。
【0053】
イッテルビウム添加ファイバ増幅器と1064nmのレーザ波長の例を説明したが、本発明の他の実施形態においては、1064nmで動作する又は他の波長で動作するダイオードレーザ、固体レーザ、及びドープファイバの他の例を使用することができる。これらには、例えば、1550nmの波長域のエルビウム添加ファイバ及び2〜3ミクロンの波長域のツリウム添加ファイバが含まれる。
【0054】
図7を参照すると、本発明の実施形態において、所定のパルス形状のパルスのバーストを生成するパルスレーザ光源が提供される。パルスレーザ光源は、シード信号を生成するように構成されたシード源110と、シード源に連結された第1のポート114と第2のポート122と第3のポート116とを備えた光サーキュレータ120とを含む。また、パルスレーザ光源は、光サーキュレータの第2のポート122に連結された第1の側132と第2の側134とを特徴とする振幅変調器130も含む。パルスレーザ光源は、入力端部136と反射端部146とを特徴とする第1の光増幅器150をさらに含んでいる。入力端部は、振幅変調器の第2の側134に連結される。さらに、パルスレーザ光源は、光サーキュレータの第3のポート116に連結された第2の光増幅器160を含んでいる。図7は、光サーキュレータの第3のポートに連結された1つの光増幅器160を使用する場合を図示しているが、これは、本発明の実施形態によっては要求されないものである。別の実施形態においては、特定の用途に適切であるように、光サーキュレータの下流に複数の光増幅器が利用される。
【0055】
図8を参照すると、本発明の別の実施形態では、所定のパルス形状のパルスのバーストを生成するパルスレーザ光源が提供される。パルスレーザ光源は、安定化光放射を生成するように構成された安定化源210と、安定化源に連結された第1のポート214と第2のポート216と第3のポート218とを備えた光サーキュレータ220とを含んでいる。また、パルスレーザ光源は、所望の形状の信号パルスを生じるように構成された信号源230も含んでおり、信号源は光サーキュレータの第2のポート216に連結されている。パルスレーザ光源は、光サーキュレータの第3のポート218に連結された光増幅器260をさらに含んでいる。
【0056】
本発明の特定の一実施形態によれば、図9は、所定のパルス形状を有する一連のパルスを生成するレーザを用いて薄膜材料加工物304にラインをスクライブすることができるレーザ処理システムの例を示している。このシステムは、レーザ光源300と、光学系302と、コントローラ305と、加工物ホルダ303の上に配置された加工物304とを含んでいる。レーザ光源300は、波長、パルス幅、パルス形状、及びパルス繰り返し率など特定の特性を持ったレーザパルスを提供する。所定のパルス形状を有する一連のパルスを用いて薄膜材料加工物にラインをスクライブするために、本発明の実施形態に従って波長、パルス幅、及びパルス形状を調整してもよい。
【0057】
光学系は、レーザビームを加工物上に集束させるためのレンズ及び鏡と、ビームを加工物上の様々な場所に方向付けるための構成要素とを含んでもよい。特定の実施形態においては、ビームを方向付けるための構成要素は、ガルバノメータに取り付けた鏡であってもよい。光学系及びビームを方向付けるための構成要素の動きを制御するためにコントローラを用いてもよい。例えば、薄膜加工物304にラインをスクライブするときに、各集束レーザスポットが前の集束レーザスポットに隣接する場所に重複をもって方向付けられるように、加工物の表面に沿ったラインをビームで走査するように、光学系302をコントローラにより制御してもよい。他の実施形態においては、光学系は、レーザビームを加工物の表面で集束させてもよく、各集束レーザパルスが一連のレーザパルス内の前の集束レーザパルスに隣接する場所の上に重複をもって衝突するように、ライン内で加工物を移動させるように、加工物ホルダをコントローラにより制御してもよい。
【0058】
図10は、本発明の実施形態に係る一連のレーザパルスを用いて薄膜にラインをスクライブするための方法を示すフローチャートである。本発明の実施形態によれば、各パルスのレーザスポットは、薄膜にラインをスクライブするために、薄膜材料上の一連の先行パルスのレーザスポットに隣接する位置に、部分的にスポットを重複させつつ置かれる。薄膜にラインをスクライブするためのパルスエネルギー及び効果的なパルス形状を有する一連のレーザパルスを使用すると、従来のパルス形状を有する一連のレーザパルスを用いた場合に得られる結果と比較して、より高品質及びより綺麗なスクライビングプロセスを提供するという結果が得られる。
【0059】
図10を参照すると、本方法は、特定の用途に適切であるようなパルスエネルギー及び時間的パルス形状を選択すること(1005)を含んでいる。例として、効果的なパルス形状を利用することができる。それぞれ1005で選択されたパルスエネルギー及び形状を特徴とする一連のレーザパルスが提供される(1010)。最初のレーザパルスのレーザスポットは、レンズや鏡などを含み得る適切な光学系を利用して薄膜材料上に配置される(1015)。したがって、集束レーザスポットとも言うことが可能なレーザスポットを、特定の用途に適切な空間分布を持って形成することができる。残りのレーザパルスのレーザスポットは、各スポットがレーザスポットの空間分布において部分的に重複しつつ先行スポットに隣接するようにラインに沿って配置される(1020)。
【0060】
図10に示される具体的なステップにより、本発明の実施形態に係る一連のレーザパルスを用いて薄膜にラインをスクライブする特定の方法が提供されることを理解されたい。また、別の実施形態によりステップを他の順序で実施してもよい。例えば、本発明の別の実施形態では、上記に概説されたステップを異なる順序で実施してもよい。さらに、図10に図示される個々のステップは、個々のステップに適切であるような様々な順序で実施可能な複数のサブステップを含んでもよい。さらに、特定の用途によっては、追加ステップが追加又は削除されてもよい。当業者であれば、多くの変形、修正、及び代替方法を認識することができるであろう。
【0061】
図13は、本発明の実施形態に係る所定のパルス形状を有する一連のパルスを用いて薄膜にラインをスクライブするための方法を図示するフローチャートである。本発明の実施形態によれば、各パルスのレーザスポットは、薄膜にラインをスクライブするために、薄膜材料上の一連のパルスの後続パルスのレーザスポットに隣接する位置に、部分的にスポットを重複させつつ配置される。薄膜にラインをスクライブするために、所定のパルス形状を有する一連のレーザパルスを使用すれば、従来のパルス形状の一連のレーザパルスを使用する際に得られる結果と比較して、より高品質及びより綺麗なスクライビングプロセスを提供するという結果が得られる。
【0062】
図13を参照すると、一連のレーザパルスが供給され(1310)、一連のレーザパルスを光学経路に向ける(1312)。光学経路は、基板上の薄膜構造を横断する。また、本方法では、基板上の薄膜構造が光学経路を向くように基板を配置する(1314)。最初のパルスのレーザスポットは、薄膜の一部分を除去するために薄膜上に配置され(1316)、各レーザスポットが、スポット領域の一部を重複させつつ前のパルスのレーザスポットに隣接するように、一連の後続パルスのレーザスポットが薄膜上にラインに沿って配置される(1318)。
【0063】
図13に示される具体的なステップにより、本発明の実施形態に係る所定のパルス形状を有する一連のパルスを用いて薄膜にラインをスクライブする特定の方法が提供されることを理解されたい。また、別の実施形態によりステップを他の順序で実施してもよい。例えば、本発明の別の実施形態では、上記に概説されたステップを異なる順序で実施してもよい。さらに、図13に図示される個々のステップは、個々のステップに適切であるような様々な順序で実施可能な複数のサブステップを含んでもよい。さらに、特定の用途によっては、追加ステップが追加又は削除されてもよい。当業者であれば、多くの変形、修正、及び代替方法を認識することができるであろう。
【0064】
本発明の特定の実施形態及びその具体例について説明したが、他の実施形態が本発明の趣旨及び範囲内に含まれ得ることを理解されたい。したがって、本発明の範囲は、すべての範囲の均等物とともに添付の特許請求の範囲を参照して決定されるべきである。
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年11月30日に出願された米国特許仮出願第61/265,259号、2010年1月20日に出願された同第61/296,525号、及び2010年5月21日に出願された同第61/347,085号の優先権を主張し、それらのすべての開示は、あらゆる目的のために参照により本出願に組み込まれる。
【0002】
マーキング、彫り込み、マイクロマシニング、切断、及びスクライビングなどの用途向けにレーザを用いた材料処理を行うために、Nd:YAGレーザのようなパルスレーザ光源が使用されてきた。レーザ光源を用いて進歩がなされてきたにも関わらず、当該技術分野においてはレーザスクライビングに関する方法及びシステムを改善する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、概して、材料のレーザ処理に関するものである。より詳しくは、本発明は、レーザ処理用途において、より優れた処理品質及びより高いスループットを提供するように特別に成形された一連のレーザパルスを利用する方法及び装置に関するものである。また、本発明は、基板上の薄膜材料のスクライビングに関するものでもある。しかしながら、本発明は、より広い範囲に適用でき、他の用途や材料に適用することができる。
【0004】
レーザが使用される1つのプロセスは、より厚い基板上の材料の薄膜にラインをスクライブすることである。薄膜は、非常に一般的な用語で言うと、わずか数分子の厚さ又はそれよりも厚い材料からなる一層又は多層の構造として定義される。一例として、薄膜は、25nm〜10ミクロンの厚さであってもよい。一例として、薄膜は、同一又は異なる材料からなる一層又は多層を含むことができる。基板は、その上に層が成膜される材料であり、典型的には、基板は薄膜より非常に厚い。電子デバイス、電気光学デバイス、光学デバイス、及び腐食防止などの分野においては、薄膜を使用する例が数多く存在する。例えば、光電池又は太陽電池は、非晶質シリコン、テルル化カドミウム、硫化カドミウム、二セレン化銅インジウム、二セレン化銅インジウムガリウム、金、銀、又はモリブデンからなる1以上の層を含む薄膜と、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、及びアルミニウムやモリブデン等の他の金属の酸化物などの透明な導電性酸化物(TCO)材料の薄膜を使用して作製された電極とを有する場合がある。しかしながら、薄膜層の材料は、これらの例にのみ限定されるわけではない。また、これらの材料及び他の材料からなる薄膜は、フラットパネルディスプレイ及びデジタルディスプレイでも使用されている。このデバイスは、ある材料からなる単一の薄層、又は各層が同一又は異なる材料からなる多数の薄層を含んでいてもよい。したがって、本明細書に記載されるように、「薄膜」及び「薄膜材料」は、ある材料からなる1以上の層を有する任意の膜であってよい。好適な基板材料の例として多くのものがあり、金属膜又は金属箔はその一例である。また、ガラス又は石英ガラスなどの不活性材料も好適である。しかしながら、好適な基板材料の選択はこれらに限定されるものではない。
【0005】
基板上の薄膜材料にラインをスクライブすることは、典型的に、副層に至るまで、又は基板に至るまでのすべての薄膜材料を除去し、これをラインに沿って行うことを意味する。ラインは、直線、曲線、閉鎖ループとしてのライン、又は様々なパターンあるいは形状からなる様々なラインであってもよい。比較的太いラインでは、ナイフなどの機械的スクライビング工具を使用することができるが、この場合、エッジが粗くなり、薄膜材料の除去が不完全となることが多い。電子デバイスにおいて要求されるラインの幅は非常に細い場合がある。非常に細いラインを切断し、薄膜材料をクリーンに除去するためにレーザが使用されることがあるため、薄膜材料にラインをスクライブする用途にはレーザが使用される。ラインをスクライブする機械的手段より優れたレーザのさらなる利点は、レーザが下層に至るまで溝をスクライブし、そこで停止することができることである。
【0006】
電子デバイスの製造中に薄膜をスクライブする際の1つの目的としては、切断されている溝の内部にあるすべての材料を綺麗に除去することが考えられる。溝の内部又は隣接領域のいずれかにある残留物は問題を引き起こす可能性がある。プロセスの質に影響を及ぼす可能性がある他の問題としては、溝及び溝壁の近傍の材料への潜在的な熱又は他のものによるダメージとさらに基板自体へのダメージである。スクライブされたラインの付近の領域へのダメージは、デバイスの機能性及び信頼性を損なう可能性があり、したがって、製造プロセスの目的は、隣接領域へのスクライビングプロセスにより生じるダメージをなくす又は低減することにある。
【0007】
多くの場合、基板上の薄膜のレーザスクライビングは、レーザビームを基板に透過させて薄膜の底部にアクセスすることによって行われる。このプロセスは、第2表面スクライビング又は底面スクライビングと呼ばれている。もちろん、これが生じるためには、基板はレーザ波長において実質的に透明でなければならない。透明な基板の例としてはガラスがある。さらに、多くの場合、薄膜は、レーザ光が薄膜に強く吸収されて膜の底縁で最も強い吸収が生じるように選択されるレーザ波長において強力な吸収体であり、これにより薄膜を除去するプロセスが開始される。多くの場合、実質的に透明ではない基板上の薄膜をスクライブすることが望まれる。そのような基板は、例えば、良好な熱伝導体として選択される金属である場合がある。薄膜の上方から入射するレーザを用いて基板上の薄膜をスクライブすることは、第1表面スクライビング又は上面スクライビングと呼ばれる。従来のパルス形状を有するレーザを使用する薄膜の上面スクライビングは完全には成功していない。本発明の実施形態によれば、所定のパルス形状を有する一連のレーザパルスを用いて、薄膜の上面スクライビングの成功を達成するような方法及び装置が提供される。
【0008】
用途及び処理される材料によって、波長、パルスエネルギー、パルス幅、パルス繰り返し率、ピークパワー又はピークエネルギー、及び/又は時間的パルス形状を含むレーザパルスの様々な特性を特定の用途に応じて選択可能にすることは利点であろう。
【0009】
パルス当たり0.5mJを超えるパルスエネルギーを特徴とする既存の高出力パルスレーザの多くは、光学パルスを生成するためにQスイッチングやモード同期などの手法を利用している。しかしながら、そのようなレーザは、レーザの空洞の幾何学的形状や鏡面反射率などによって予め定められる特性を有する光学パルスを生成する。そのようなレーザを使用して、用途に最適なパルス形状をすぐに手に入れることは一般的に困難であり、したがって、多くの場合、レーザ処理はいくつかの欠陥を有している。特に、Qスイッチレーザでは、パルスエネルギーの大部分が供給された後、相当期間続く可能性のあるテール部(tail)に相当量のパルスエネルギーが存在する。
【0010】
本発明の実施形態は、従来のパルス形状、例えば、Qスイッチパルスを有するレーザを用いた第1表面スクライビング用システム及び方法と比べて、薄膜スクライビングプロセスの質及び歩留まりを改善する、基板上の材料の薄膜の第1表面スクライビング用システム及び方法を提供する。本発明の実施形態によれば、薄膜内にエネルギーが蓄積される期間を制限し、さらに、レーザパルスのテール部に存在するエネルギーの量を制限するようなパルスエネルギー及び時間的パルス形状を有する一連のパルスを用いることによって、改善された薄膜の第1表面スクライビングが提供される。
【0011】
本発明は、図1に模式的に示され、所定の時間的パルス形状を有する個々のパルスからなる一連のレーザパルスを用いて基板上の材料の薄膜にラインをスクライブ又は切断する方法に関し、レーザによって放出される従来の時間的パルス形状に代えてそのようなパルス形状を使用することは、薄膜スクライビングプロセスの質及び歩留まりを改善する点で様々な利点を有する。所定のパルス形状は、薄膜スクライビング用途に効果的な性質を有するように選択される。一実施形態においては、スクライビングプロセスは、一連のレーザパルスを用い、各パルスは所定のパルス形状を有し、このパルス形状は、図2Aに模式的に示されるように、急峻な立ち上がり前縁及び急峻な立ち下がり後縁を有する単純な頂部平坦パルス形状と言うことができる。一実施形態では、最大パワーの10%における時間的パルス幅は、全幅約5nsである。集束レーザビームスポットの多数のパルスがスポット重複を有しつつ薄膜材料にわたり走査されるスクライビングプロセスでは、以前に使用された従来の時間的パルス形状の代わりに、この頂部平坦状の所定のパルスを使用すると、スクライビングプロセスの質が大幅に改善される。
【0012】
薄膜スクライビングプロセスにおいて所定のパルス形状を使用することには多くの利点がある。一実施形態においては、所定の頂部平坦パルス形状は、光起電デバイスで使用される構造である、金属基板上にモリブデン副層を有するCIGS(二セレン化銅インジウムガリウム)膜のレーザスクライビングに使用され、スクライブされた溝に微量のCIGS材料のみを残し、モリブデン層に至るまでのCIGS材料が綺麗に除去される。加えて、隣接する材料には熱ダメージを明らかに受けた場所が存在しない。従来のレーザパルス形状ではなく、所定のパルス形状を使用することにより、それにより製作されるデバイスの品質及び信頼性が大幅に改善され、次の段階の製造を進めるのに許容可能なデバイスの数の歩留まりが大幅に改善される。
【0013】
多くのレーザは、最大平均パワーもしくはパルスエネルギー又は繰り返し周波数を提供するように設計されているが、出力パルスの時間的形状に関してはほとんど考慮がされていない。図3に模式的に示されるような自由継続のQスイッチ又はモード同期レーザの従来の時間的パルス形状は、立ち上がり前縁と、丸みのある頂部と、徐々に減少する立ち下がり後縁とを有している。このパルス形状は、主として、レーザ利得媒質、レーザポンピング手段、及び空洞設計によって決定される。ダイオードレーザなどのパルスレーザ光源は、パルス電子駆動信号を供給することによって簡単にパルス状にすることができる。このように生成される光学レーザパルスのパルス形状は、ダイオードレーザへの電子駆動信号の形状を選択することによって予め決定することができる。そして、そのようなパルスレーザ光源からの成形された信号を、ファイバレーザ増幅器などのレーザ増幅器で増幅させることができる。本発明の一実施形態においては、薄膜材料をスクライブするのに好適な所定の時間的パルス形状を有する一連のレーザパルスを生成するための本デザインの発振器増幅器レーザシステムが提供される。
【0014】
他の実施形態においては、所定の時間的パルス形状を有する一連のレーザパルスを生成するレーザシステムが提供される。パルスレーザ光源は、シード信号を生成するように構成されたシード源と、シード源に連結された第1のポートと第2のポートと第3のポートとを有する光サーキュレータとを含んでいる。また、パルスレーザ光源は、成形された電気波形を生成するように構成された変調器ドライバと、変調器ドライバに連結され、成形された電気波形を受信するように構成された振幅変調器とを含んでいる。振幅変調器は、光サーキュレータの第2のポートに連結された第1の側と第2の側とを特徴としている。パルスレーザ光源は、入力端部と反射端部とを特徴とする第1の光増幅器をさらに含んでいる。この入力端部は、振幅変調器の第2の側に連結される。さらに、パルスレーザ光源は、光サーキュレータの第3のポートに連結された第2の光増幅器を含んでいる。
【0015】
さらに別の実施形態では、所定の時間的パルス形状を有する一連のレーザパルスを生成する別のレーザデザインが提供される。パルスレーザ光源は、安定化光放射を生成するように構成された安定化源と、安定化源に連結された第1のポートと第2のポートと第3のポートとを有する光サーキュレータとを含んでいる。また、パルスレーザ光源は、所望の形状の信号パルスを生成するように構成された信号源を含み、信号源は、光サーキュレータの第2のポートに連結される。パルスレーザ光源は、光サーキュレータの第3のポートに連結された光増幅器をさらに含んでいる。
【0016】
本発明のさらなる実施形態では、基板上の薄膜材料の一層又は複数層にラインをスクライブ又は切断する材料処理システムが開示される。このシステムは、以下の利点のうち1つ以上の利点を達成するように薄膜材料を処理するための所定の時間的パルス形状を提供するレーザを含んでいる。(1)スクライブされた溝の中の残留物を最小限にしつつ材料を綺麗に除去する。(2)スクライブされた溝の両側の壁、スクライブされた溝に隣接する領域、及びスクライブされた溝の底の層に対する熱ダメージを最小限にする。(3)スクライブされた溝の両側の壁をほぼ垂直にする。レーザに加えて、材料処理システムは、スクライビングプロセスを実施するために薄膜材料にわたってレーザビームをパターンに集束させ、結像させ、走査させる手段と、走査されるレーザスポットの重複を調整する手段と、プロセスを制御する1以上のコンピュータとを含んでいる。
【0017】
従来の手法より優れた本発明を使用することで数多くの利点が得られる。例えば、本発明に係る実施形態では、同程度の性能特性を有するレーザと比較して安価な小型構造を利用した、薄膜材料のレーザスクライビングに好適な高出力のパルスレーザが提供される。さらに、本発明に係る実施形態では、薄膜材料のスクライビング用のレーザパルスプロファイルを最適化するように光学パルスを成形できるような、薄膜材料のレーザスクライビングに好適なパルスレーザが提供される。実施形態によっては、例えば、処理された物の品質及び歩留まりの改善をはじめとする数多くの利点がある。これらの利点及び他の利点は、本明細書を通して記載され、以下により詳細に記載される。本発明の様々な追加の目的、特徴、及び利点は、詳細な説明及び以下の添付図面を参照して、より完全に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、基板上の薄膜材料にラインをスクライブするのに好適な、頂部平坦パルス状の所定のパルス形状を有する一連のパルスを示す実施形態の模式図である。この図では、水平軸に沿って左から右に時間が増加し、パワーは垂直軸に沿っている。
【図2A】図2Aは、本発明の実施形態に係る頂部平坦パルスを示し、水平軸に沿って左から右に時間が増加し、パワーは垂直軸に沿っている。
【図2B】図2Bは、本発明の別の実施形態に係るパワードループ(power droop)を有するパルスを示し、水平軸に沿って左から右に時間が増加し、パワーは垂直軸に沿っている。
【図3】図3は、基板上の薄膜材料のスクライビングに使用される従来のレーザパルスの時間的パルス形状を示す模式図である。この図では、水平軸に沿って左から右に時間が増加し、パワーは垂直軸に沿っている。
【図4】図4は、各パルスの処理した領域が前のパルスと次のパルスによって処理される領域に重複するように多重レーザパルスを使用するレーザスクライビングプロセスの上面を示す模式図である。
【図5A】図5Aは、スクライビングプロセスの前の基板上の光起電薄膜デザインの側面断面を示す模式図である。
【図5B】図5Bは、従来のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝を有する、図5Aに示される構造体の側面断面の模式図である。
【図5C】図5Cは、従来のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝を有する、図5Aに示される構造体の側面断面の模式図である。
【図5D】図5Dは、本発明の実施形態に係る所定のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝を有する、図5Aに示される構造体の側面断面の模式図である。
【図6】図6は、本発明の実施形態に係る所定のパルス形状を有する一連の出力レーザパルスを提供する、調節可能なパルス特性を有するパルスレーザの簡略模式図である。
【図7】図7は、本発明の実施形態に係る所定のパルス形状を有する一連の出力レーザパルスを提供する、調節可能なパルス特性を有するパルスレーザの簡略模式図である。
【図8】図8は、本発明の別の実施形態に係る所定のパルス形状を有する一連の出力レーザパルスを提供する、調節可能なパルス特性を有するパルスレーザの簡略模式図である。
【図9】図9は、本発明の実施形態に係る基板上の薄膜にラインをスクライブするのに好適なレーザ処理システムの簡略模式図である。
【図10】図10は、本発明の実施形態に係る一連のレーザパルスを用いて薄膜にラインをスクライブするための方法を図示するフローチャートである。
【図11A】図11Aは、スクライビングプロセスの前の基板上の光起電薄膜デザインの側面断面を示す模式図である。
【図11B】図11Bは、従来のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝を有する、図11Aに示される構造体の側面断面の模式図である。
【図11C】図11Cは、従来のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝を有する、図11Aに示される構造体の側面断面の模式図である。
【図11D】図11Dは、本発明の実施形態に係る所定のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝を有する、図11Aに示される構造体の側面断面の模式図である。
【図12】図12は、本発明の実施形態に係るパルス形状を示し、水平軸に沿って左から右に時間が増加し、パワーは垂直軸に沿っている。
【図13】図13は、本発明の実施形態に係る所定のパルス形状を有する一連のパルスを用いて薄膜にラインをスクライブするための方法を図示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
太陽電池やフラットパネルディスプレイ、デジタルディスプレイなどのデバイスの製造プロセスにおいては、基板上に成膜された材料の薄膜を含んだデザインであって、材料に溝付きのライン又はパターンをスクライブし、それにより材料をセグメント化又はパターン化することによって、膜の一部をセグメント化しなければならないデザインであることが多い。このパターンは、デバイスの設計における要求に応じて、単純なライン又は長方形もしくは他の形状からなるより複雑なパターンであってもよい。パルスレーザを用いたラインのスクライビングは、一連の多数のレーザパルスを用いる多重パルスプロセスであり、各パルスは、薄膜上のスポットに集束又は結像され、スポットは、前のスポットと後続スポットの間に重複が生ずるように、スクライブされる所望のラインに沿って走査される。スクライブされるラインの幅は、主として、集束レーザスポットの寸法によって決定される。そのような薄膜にレーザスクライブされるラインの幅は、より細い又はより太いラインも可能であるが、典型的には10μm〜100μmの範囲である。材料を適切に除去して基板上に鋭いエッジのラインを残すために、所定量のスポット重複が使用される。このように、スクライビングプロセスは、単一パルスプロセスではなく、本質的に多重パルスプロセスである。パルスごとに重複量を用いてスクライビングプロセスを制御する場合もある。一例では、パルスの重複は30%であるが、処理されている材料の性質によってこの値は2%という低い値から95%という高い値まで変化し得る。
【0020】
薄膜のレーザスクライビングの模式図が図4に示されている。薄膜のレーザスクライビングは、多くの場合、少なくとも10パルスを含む一連のレーザパルスを必要とする多重パルスプロセスである。各パルスは、薄膜材料でスポットに集束又は結像される。一連のパルスの最初のパルス31は、最初のスポットがスクライブされるラインの開始位置になるように方向付けられる。一連のパルスのそれぞれの後続パルスは、前のスポットに隣接するスポットに方向付けられるが、2%〜95%の重複値OL%を有している。図4に示されるスポットの重複値は約30%である。このように、一連のパルスのそれぞれのパルスは、スクライブされるラインに沿った位置に方向付けられ、最後のパルス32は、最後のパルスからのスポットが、スクライブされるラインの終端となるように方向付けられる。Nをバーストのパルス数、Dを薄膜で集束されるスポットの直径、OL%をパーセント表示における重複値とすると、スクライブされるラインの長さLは、式:
L=DN−D(N−1)(OL%)/100
によって与えられる。
【0021】
スクライブされるラインの幅は、集束されるスポット寸法、スポットの重複度、及び薄膜との相互作用の関数であり、理想的には、スクライブされるラインの幅は、集束されるスポットの直径とほぼ同一である。スポットの重複度の選択は、プロセスを最適化するために変更される処理パラメータである。より薄い材料では、多くの場合、10%のような非常に低いスポットの重複度を使用できる場合が多く、これは、例えば、1m/s又はそれより高速な高速スクライビング速度を提供する。より厚い材料では、多くの場合、薄膜材料が完全に除去されるように、より大きな重複度が選択される。
【0022】
図5Aは、上面スクライビングプロセスの前の基板33上の典型的な光起電薄膜デザインの側面断面を示す模式図である。本実施形態では、薄膜は、以下のような複数の層からなる:モリブデン層34、CIGS(二セレン化銅インジウムガリウム)層35、硫化カドミウム層36、及びTCO(透明な導電性酸化物)層37。本実施形態における各層の厚さは、モリブデンが0.3μm、CIGSが1.6μm、硫化カドミウムが0.1μm未満、及びTCOが0.2μmである。これは本発明の実施形態に係るデザインの1つの具体例に過ぎない。また、例えば、二セレン化銅インジウム又は二セレン化銀インジウムガリウム又は二セレン化銀インジウムのようなCIGS以外の材料を使用してもよい。また、例えば、テルル化カドミウムのような硫化カドミウム以外の材料を使用してもよい。酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛、及び他の金属の酸化物のような様々なTCO材料を使用することができる。同様に、金のようなモリブデン以外の材料を使用してもよい。本発明の実施形態は、列挙されたこれらの材料への適用に制限されることはない。本出願に記載される原理は、多種多様な薄膜デザイン及び材料に適用することができる。多くの基板が利用可能であり、金属膜又は金属箔は好適である。ガラス又は石英ガラスなど不活性材料もまた好適である。しかしながら、利用可能な基板の選択はこれらに限定されない。さらに、薄膜内の層の数は4つに限定される必要はなく、単一の層から20以上の層と多くの層にまで及んでいてもよい。また、各層の厚さは上記例に限定されるものではない。
【0023】
図5Bは、図3の従来のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝40を有する、図5Aの実施形態の側面断面の模式図である。後縁が最大パワーの50%を下回った後のパルスの部分として定義されるパルスのテール部にパルスエネルギーの約17%が含まれている。また、図5Bには、スクライブされた溝内に残存する相当量のCIGS残留物39と溝の側壁及び隣接領域へのダメージ38も示されている。そのような残留物及び隣接領域への熱的ダメージは、多くの場合、従来のパルス形状を有するレーザを用いて薄膜材料をスクライブした結果である。従来のQスイッチレーザパルスを使用した場合のこの受け入れがたいスクライブ品質の1つの原因は、従来のレーザパルス形状のテール部に存在する大量のエネルギーであり、これによりレーザパルスに含まれる総エネルギーの大部分を十分に短い期間中に付与することはできないことにある。本発明の実施形態は、スクライブされた溝の内部の残留物を削減又は排除し、スクライブされた溝の壁及びそれに隣接する他の領域への熱的ダメージを低減又は排除することによって、薄膜スクライビングの品質を改善する方法及び装置を提供する。
【0024】
図5Cは、図3の従来のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝40を有する、図5Aの実施形態の側面断面の模式図であり、最大パワーの10%でのパルス幅全幅は約100fsである。材料内へのエネルギーの極めて高いピークパワー蓄積により材料を除去(ablate)すべく、フェムト秒領域の非常に短いパルス幅のレーザがしばしば使用される。これらのレーザは高価であり、かつ製造環境で使用するのに非常に複雑であるという欠点がある。また、極めて高いピークパワーレーザパルスは、より低いピークパワーを有するレーザパルスを普通にこれらの材料が実質的に反射するときにさえ、除去されるべきではない薄膜の層を除去してしまうという欠点があるときがある。図5Cに示されるように、従来のパルス形状を有する短パルスフェムト秒レーザを用いてスクライブされた溝40は、モリブデン層から相当量の材料41が除去されていることを示している。スクライブされた溝の下に存在する層に対する材料除去又はダメージは、好ましくない結果である。本発明のさらなる目的は、スクライブされた溝の下に存在する層に対するダメージや材料除去を低減又は排除することによって、薄膜スクライビングの品質を改善する方法及び装置を提供することにある。
【0025】
図5Dは、本発明の実施形態に係る所定のパルス形状を有する一連のレーザパルスを用いてスクライブされた溝40を有する、図5Aの実施形態の側面断面の模式図である。図5Dに示されるように、所定のパルス形状を有する一連のレーザパルスを用いてスクライブされた溝においては、溝内のCIGS残留物が最小限になるか、全くなく、溝の壁又は隣接領域へのダメージが最小限になるか、全くなく、下に存在するモリブデン層へのダメージが最小限になるか、全くなく、ほぼ垂直な側壁を有する溝となっている。
【0026】
図1は、各パルスが、基板上の薄膜へのラインのスクライビングにおいて、図3に示される従来のパルス形状を有する一連のレーザパルスを用いて得られる低品質と比べて改善された品質を有する、本発明の実施形態に係る所定のパルス形状を有している、一連のパルス21を示している。一連のパルスのそれぞれは、本発明の要件ではないが、典型的には少なくとも10パルスを含んでいる。特に、図2Aは、最大パワーの10%でのパルス幅全幅T1、前縁立ち上がり時間RT1(10%〜90%)、及び後縁立ち下がり時間FT1(90%〜10%)を有する、本発明の一実施形態に係る所定のパルス形状25を示す。平坦な頂部のピークパワーはH1である。本発明に係る所定のパルス形状において、T1は好ましくは1ns〜10nsの範囲内である。立ち上がり時間がT1の10%より速く、立ち下がり時間がT1の30%より速い実施形態もあり、さらに速い値であっても本発明の範囲内に含まれる。一般に、パルスエネルギーの選択は、処理される材料、レーザスポットの寸法、及びスクライブされるラインの幅をはじめとするいくつかの要因に依存している。図5Dに図示される例では、5〜10μJのパルスエネルギーの値が利用される。図5B及び図5Cに示されるような著しいCIGS残留物と隣接領域及び層へのダメージを呈した従来のパルス形状を有するパルスのバーストを用いてスクライブされたラインと比較すると、図2Aの頂部平坦パルス形状の一連のパルスを用いてスクライブされたラインは、図5Dに模式的に示されるように、ほぼ垂直な側壁を有し、壁又は隣接領域内に明らかなダメージがなく、下層のモリブデン層に対する除去やダメージがなく、微量のCIGS残留物のみが生じるだけである。本発明の一実施形態において、図5Aに示されるデザインの薄膜試料に幅47μmのラインをスクライブし、このときの層は以下のような構成であった:25μmの厚さの金属箔基板33、0.3μmの厚さのモリブデン層34、1.6μmの厚さのCIGS(二セレン化銅インジウムガリウム)層35、0.1μm未満の厚さの硫化カドミウム層36、及び0.2μmの厚さのTCO表面層37。本実施形態では、10μJのパルスエネルギー、5nsのパルス幅T1(最大パワーの10%での全幅)、0.3nsのRT1及びFT1、20KHzの繰り返し率を有する、図2Aの所定のパルス形状を有し、波長が1064nmのレーザからの一連のパルスが47μmのスポット寸法にて薄膜で結像され、スクライブされるラインパターンに沿って約10%のスポット重複となるようにステージを約0.85m/sの速度で移動した。薄膜材料をモリブデン層に至るまでスクライブされて得られた溝は、ほぼ垂直な側壁を有し、壁又は隣接領域内に明らかな熱的ダメージがなく、溝の内部には微量のCIGS残留物のみがあるだけで、下層のモリブデン層に対するダメージもなかった。スポット重複度を2%から50%まで変化させるために、他の様々なステージ速度及びレーザ繰り返し率が使用され、薄膜材料内に得られた溝は、ほぼ垂直な側壁を有し、壁又は隣接領域内には明らかな熱的ダメージがなく、溝の内部には微量のCIGS残留物のみがあるだけで、下層のモリブデン層に対するダメージもなく、同様の有利な性質を呈していた。2nsのパルス幅T1、それぞれ0.5ns未満のRT1及びFT1、5μJのパルスエネルギーを有する所定の頂部平坦パルス形状を有する一連のレーザパルスを用いて、36μmのスポット寸法に結像され、スポット重複が2%〜50%となるようなステージ速度及びレーザ繰り返し率を使用してラインがスクライブされる際にも、同様の有利な結果が見られた。10nsのパルス幅T1、それぞれ1ns未満のRT1及びFT1、10μJのパルスエネルギーを有する所定の頂部平坦パルス形状を有する一連のレーザパルスを用いて、41μmのスポット寸法に結像され、スポット重複が2%〜50%となるようなステージ速度及びレーザ繰り返し率を使用してラインがスクライブされる際にも、同様の有利な結果が見られた。本発明の実施形態の具体的なパラメータは、これらの値に制限されない。一実施形態においては、頂部平坦パルスのパルス幅T1は1ns〜10nsであってもよい。頂部平坦パルスの立ち上がり時間RT1は、6ns又はパルス幅T1のうちの短いほうより速くてもよい。立ち下がり時間FT1は、パルス幅T1又は2nsのうちの短いほうより速くてもよい。頂部平坦パルスが図2Bに示されるようなドループを呈する実施形態においては、同様の改善が達成される。例として、T2(最大パワーの10%での全幅)が1ns〜10nsの範囲内であり、RT2が6ns又はT2のうちの短いほうより速く、FT2が2ns又はT2のうちの短いほうより速い場合において、(H1−H2)がH1の50%未満であるようなドループであってもよい。
【0027】
本発明の実施形態に係る所定のパルス形状の利点により、ほぼ垂直な側壁を有し、壁又は隣接領域内に明らかな熱的ダメージがなく、溝の内部には微量のCIGS残留物のみがあるだけで、下層のモリブデン層に対するダメージもないような溝の同様な有利な性質を呈するラインを薄膜にスクライブすることができるパルスパラメータの範囲がある。本発明の実施形態は、パルスエネルギーの大部分を5ns以内、典型的には10ns以下のプロセスに提供するように構成された所定のレーザパルスを利用しており、薄膜スクライビングプロセスの品質に有害な影響を及ぼす可能性があるため、その期間の後のテール部にはエネルギーがほとんど提供されないようになっている。パルス立ち上がり時間が早いことが好ましいが、多くの材料に関しては、6nsと長い立ち上がり時間を有するパルスは、パルスエネルギーの大部分が10ns未満の期間内に提供される限り、同様の利点をもたらす。同様に、パルスの形状は、水平で頂部が平坦である必要はなく、平坦でテーパ状、あるいは丸みを帯びた頂部を有してもよい。このように、本発明の実施形態に係る最大パワーの10%でのパルス幅全幅を有する所定のパルス形状については、好ましくは、総パルスエネルギーの5%未満が、パルスの後縁の半分のパワー点よりも時間的に後のパルスの部分に含まれる。典型的には、エネルギーの10%未満がその中に含まれている。本発明の実施形態に係る所定のパルス形状の好適な例が図12に示されている。このパルス形状は、立ち上がり時間(パワー点の10%〜90%)が6ns未満であり、最大パワーの10%でのパルス幅全幅が10nsであり、後縁がハーフピークパワー点を下回った後のテール部内に総パルスエネルギーの10%未満を有している。好ましくは、所定のパルスの立ち上がり時間は1ns未満、パルス幅は5ns未満、テール部内に含まれるエネルギーのパーセンテージは総パルスエネルギーの2%未満である。
【0028】
異なるスポット寸法を利用すれば同様の改善が達成される。上述の例では、47μmのスポットに結像される10μJのエネルギーのパルスに対して達成されるエネルギー密度は0.65J/cm2である。1つの適用例においては、一連のパルス内の頂部平坦パルスにおけるパルス幅T1は1ns〜10nsの範囲内であり、薄膜試料のレーザスクライビングのエネルギー密度は0.2〜0.7J/cm2の範囲内であった。したがって、例えば、ステージが約1.7m/sの速度で移動される場合、パルスエネルギーが40μJ、パルス幅T1(最大パワーの10%での全幅)が5ns、RT1及びFT1が0.2ns、繰り返し率が20KHzである図2Aの所定のパルス形状を有し、94μmのスポット寸法にて薄膜で結像され、スクライブされるラインパターンに沿ったスポット重複が約10%である、波長1064nmのレーザからの一連のパルスは、ほぼ垂直な側壁を有し、壁又は隣接領域内に明らかなダメージがなく、微量のCIGS残留物のみが生じ、下層のモリブデン層に対する除去やダメージがないようなスクライブされた溝を薄膜材料に形成する。
【0029】
小さいスポット寸法を使用するときに、エネルギー密度を調整することが有用な場合がある。上述の例では、47μmのスポットに結像される10μJに対して達成されるエネルギー密度は0.65J/cm2である。1つの適用例においては、一連のパルス内の頂部平坦パルスにおけるパルス幅T1は1ns〜10nsの範囲内であり、0.4J/cm2〜1.4J/cm2のエネルギー密度を使用してレーザスポット寸法を20μmの直径に縮小したとき、レーザスクライビングにおいて有利な結果が得られた。エネルギー密度の選択は、スクライブされるラインの幅に依存していてもよい。
【0030】
エネルギー密度の選択は、薄膜で使用される材料の選択及び組成に依存していてもよい。例えば、CIGSは、その構成材料の固溶体であり、インジウムとガリウムの割合が特定の値となるように選択することができる。特定のレーザ波長を用いてその特定の薄膜にラインをスクライブする場合、典型的には、これらの値の具体的な選択は、エネルギー密度及び他のプロセスパラメータに影響を与える。特定の試料に最適なエネルギー密度の選択は、多くの場合、実際のスクライビングプロセスに先立つ一連の試験を利用してなされ、その試験の後に最適なパルスエネルギーを選択してもよい。
【0031】
非常に薄い膜では、集束されたスポットのそれぞれの材料を除去するために小さな重複度を用いることができる。しかしながら、材料の厚さが増加すると、パルスエネルギーを増加させるのではなく、スポット重複度を増加させることが好ましい場合がある。スポット重複度が低いと、スポットが重なっているスクライブされたラインの縁部に、スポット重複度が高い場合にスクライブされたラインの縁部に生じるよりも多くの変調が生じる場合がある。しかしながら、各スポット重複の縁部におけるこの鋭い部分は、従来のパルス形状を有する一連のレーザパルスを使用した場合に薄膜にスクライブされた溝の縁部に生じ得る熱的ダメージと同一ではない。したがって、一実施形態では、スポット重複度を増加させることによって、CIGS残留物の形成及び所定のパルス形状を有する一連のパルスによってスクライブされる溝の壁もしくは周囲領域への熱的ダメージに影響を及ぼすことなく、スポットが重なっている鋭い縁部が低減される。本発明の実施形態では、スポット重複度は30%になるように選択されるが、選択されるスポット重複度は、30%である必要はなく、10%と低くても、あるいは70%と高くてもよい。
【0032】
本発明は、ここで述べた厚さの材料の層に限定されない。例えば、上述した1.6μmではなく2μmの厚さのCIGS層では、パルスエネルギーはいくらか増加されると予想される。同様に、より薄い層では、所定のパルス形状とともに5nsの同一のパルス幅T1を維持しつつ、必要とされるパルスエネルギーはいくらか低減される。
【0033】
本開示に記載された実施形態で使用されるパラメータについて様々な変形及び組み合わせが提供される。例えば、スポット寸法、エネルギー密度及びステージ速度を同時に変更しつつ、10%〜70%の範囲でスポットの重複度を異なる値とすれば、薄膜基板にレーザスクライブされた溝又はパターンに関して同一の有利な性質が得られる。薄膜材料で結像されるレーザパルス内のエネルギー分布の空間プロファイルをガウス形態から平坦な頂部又は他の所望のプロファイルに変更するように設計された光学ホモジナイザが存在し、これを利用して有利な結果を得ることができる。
【0034】
スクライブされるラインの品質を決定するために様々な機器を利用することができる。従来のパルス形状を使用するスクライビングの場合では、溝内のCIGS残留物だけではなく、スクライブされたラインの壁及びその近傍領域に対するダメージを観測するのに40Xの倍率の光学顕微鏡が適切な場合がある。所定のパルス形状を使用する場合、光学顕微鏡を使用して検査すると、溝内にCIGS残留物がないことが明らかである。ここではこの結果を「観測可能な残留物なし」ということにする。同様に、本発明に係る所定のパルス形状を使用する場合、40Xの倍率の光学顕微鏡を使用して観測すると壁が垂直に見える。また、所定のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝をさらに検査するために、干渉表面プロファイラ又は走査型電子顕微鏡SEMなどのより高感度の機器を使用することもできる。SEMを使用すると、スクライブされた溝の床面上にわずかなCIGS粒子が依然として存在することを検出でき、これは「微量」として述べられる。このレベルのCIGS残留物は、光学顕微鏡を用いて観測できるよりずっと少なく、また、製造において問題を引き起こすようなレベルよりもずっと低い。また、SEMを使用すれば、スクライブされた溝の側壁の傾斜を推測することができる。実施形態によっては、壁上のランダムな場所で80%を超える測定結果において壁幅(高さの10%〜高さの90%)が1μm未満であるような垂直な側壁であるものもある。スクライブされた溝の品質を確認するためのさらに一般的な測定は、溝の一方の側の表面層から溝の他方の側の表面層に至る電気抵抗を測定することである。この層系にスクライブされた溝の抵抗に関して典型的に許容され得る値は、スクライブの長さにも依存するが200オームを超えるものである。
【0035】
本発明の範囲を制限することなく、発明者等は、所定のパルス幅及びパルス形状のレーザパルスを用いた第1表面プロセスを使用して、薄膜材料にラインを綺麗にスクライブすることができるという説明は、脆性破壊のプロセスであると考える。薄膜内に使用される材料をはじめとした、また特にCIGSや二セレン化銅インジウムをはじめとした所定の材料については、特定の条件下で使用されるレーザパルスがどのように近隣の材料への損傷なく所定の薄膜材料を綺麗に除去するかが脆性破壊のプロセスにより説明できる。そのような材料においては、下層の金属層に実質的に貫通するように、そしてその局所スポット及びその付近の材料を、その材料が融解又は実質的に軟化する温度の直下の高温に急速に加熱するように、好適なレーザパルスを作ることができる。その上昇した局所温度においては、モリブデンCIGS界面でガス蒸気圧の著しい上昇がみられ、また、CIGS層と下層のモリブデン層との間に著しい熱膨張差がみられ、それによって、スポットの外側の周囲で破壊を生じさせるのに十分な応力が生じ、モリブデンの表面からCIGSの爆発的放出(explosive expulsion)が生じる。CIGSを組み込む薄膜の場合、セレンはCIGS構成物質の中で最も沸点が低いので、セレン蒸気が最もガス圧力の源になりやすいと発明者等は考えている。このメカニズムは、適切な機械的性質を有する材料において一般的に見られるものである。CIGSや二セレン化銅インジウムなどの材料においては、材料の実質的な融解や近隣領域への熱伝導が生じることも防止しつつ、実効エネルギー蓄積時間を10ns未満とし、適切な薄膜層界面又はその近傍に十分なエネルギーを急速かつ直接蓄積するように作用して蒸気発生、熱膨張差、及び下層(例えばモリブデン)からのその後の層間剥離を引き起こすような適切な所定のパルス形状とし、適切な波長のレーザを使用することで、このプロセスが、断片を綺麗に取り出すこととともに実現できると発明者等は考えている。本発明の実施形態は、レーザパルスの短パルス幅を利用して、層構造の所望の場所に十分なエネルギーを非常に急速に蓄積するとともに、レーザパルスの高速立ち下がり時間を利用して、モリブデンから近隣領域内への伝導とCIGS材料による直接吸収に利用可能となるような余剰エネルギーが生じるのを防止する。
【0036】
さらに、実施形態によっては、取り除かれる層(例えばCIGS)の光学的性質が考慮される。一実施形態においては、レーザエネルギーを図5Aの下部層34(例えばモリブデン)に到達させるために、上に位置する層35、36、37は、使用されているレーザ波長において十分に透明なものとなっている。これらの層が吸収する場合、過剰エネルギーはそれらの層により直接吸収され得る。プロセス中は、融解が開始することなく、ガス圧力の十分な上昇と熱膨張差が生じるのに的確な量のエネルギーが蓄積される。CIGSの融解は蓄積された応力を解放する役割をしやすく、また、これにより、所望の爆発性層間剥離プロセスとスクライブされた綺麗なラインを結果として生じることなくガス蒸気を逃がすことも可能となる。制御されたエネルギー蓄積の例として、パルス幅T1が5nsで、直径が47μmのスポットに蓄積されるパルスにおける上述した10μJの状況では、CIGS層を通って伝達されるエネルギーの一部は、モリブデン層によって反射されるか、あるいはモリブデン層によって吸収された後、熱としてCIGS層に戻る。このように、薄膜の表面でのレーザ放射のエネルギー密度は、0.6J/cm2である。レーザパルス中のエネルギーの蓄積及び材料温度の上昇は一様ではないが、その代わりに、主としてモリブデン層とCIGS層との間の界面又はその近傍に位置していることを強調しておく。5nsの期間にわたるこの範囲内のエネルギー蓄積においては、CIGSの融解は生じないが、クリーンなプロセスにおいて、CIGSは破壊され、その上の層とともにモリブデン層から爆発的に剥離する。熱はほとんど残留しておらず、レーザパルスによってそれ以上エネルギーは蓄積されない。そのため、周辺領域への熱的ダメージが最小限に抑えられる。CIGS層の層間剥離を生じるのに適切な量のエネルギーを急速に蓄積することは、クリーンなスクライビングプロセスのキーとなる。
【0037】
36μmのスポット寸法に結像されるパルスエネルギー5μJの所定のパルス形状のT1=2nsのレーザパルスを使用した、CIGS内への制御されたエネルギー蓄積を上述した実施形態と同様に分析すると、以下のデータが得られる:表面でのレーザ放射のエネルギー密度が0.5J/cm2である。2nsの期間にわたるこの範囲内のエネルギー蓄積においては、CIGSの融解は生じないが、クリーンなプロセスにおいて、CIGSは破壊され、その上の層とともにモリブデン層から剥離する。十分な熱が残留しておらず、レーザパルスによってそれ以上エネルギーが蓄積されない。そのため、周囲領域への熱的ダメージが最小限に抑えられる。CIGS層の層間剥離を生じるのに適切な量のエネルギーを急速に蓄積することは、クリーンなスクライビングプロセスのキーとなる。CIGS層の層間剥離と爆発的放出を生じるのに適切な量のエネルギーを急速に蓄積することは、クリーンなスクライビングプロセスのキーとなる。
【0038】
CIGS材料の吸収値は80%と高くてもよいが、本発明の実施形態には低い吸収も好適である。CIGS層の吸収は実質的に80%未満であってもよい。このメカニズムは、薄膜を融解することなく、むしろモリブデン界面での層間剥離プロセスを通して薄膜を除去することを伴うと考えられるため、十分なレーザ光がCIGS層を実質的に貫通することができ、かつCIGS層に隣接するモリブデンの表面又はその近傍で部分的に吸収されることが好ましい。伝導によるモリブデンの表面に隣接するCIGS領域の加熱によりCIGS材料のその領域の温度が急速に上昇するが、CIGS材料の残りの部分はそれ程急速に加熱されない。膨張差と、モリブデン界面付近の熱いCIGS材料からのセレンガスの放出からの蒸気圧とによってもたらされる応力のプロセスを通して下層のモリブデン層からのCIGSの脆性破壊が生じ、爆発的放出を引き起こすと考えられている。CIGSを含む薄膜層が気泡として除去されるという証拠があり、実際に、一部のパルスのキャップがいくつかの大きな断片内に近接して見られ、あるいはキャップ全体を見られる場合もある。これにより、CIGSが粉末又は多くの小断片に分解される場合、あるいはCIGSが融解される場合において、このプロセスが、蒸発プロセスあるいは切除プロセスから区別される。溝がほぼ垂直な側壁を有し、壁又は隣接領域内に明らかなダメージがなく、溝の内部には微量のCIGS残留物のみがあるだけで、下層のモリブデン層に対するダメージもないような、スクライブされたラインの所望の性質を得るのに薄膜の除去は有益であると考えられている。
【0039】
スクライブの所望の性質を達成するために、モリブデンの表面に隣接するCIGS材料の温度を急激に上昇されなければならないが、CIGS材料のバルクの温度はほぼ同じくらいに上昇させてはならないと考えられる。実施形態によっては、レーザパルス幅の上限は、最大パワーの10%における全幅が10ns未満、好ましくは最大パワーの10%における全幅が5ns未満である。脆性破壊を生じさせるために、CIGSが展性を有するようになるか融解してしまうほど十分にCIGS材料のバルクの温度を上昇させることはできないと考えられる。温度上昇は、溝の底及び壁の上に融解した材料が生じるなどスクライブされた溝の好ましくない性質を生じさせるからである。レーザ波長及びCIGS材料の組成物によっては、CIGSの吸収係数も温度の関数として急速に増加すると考えられる。このため、10ns以下のレーザパルス中に、モリブデンの表面に隣接するCIGS材料の加熱が開始されると、レーザ光がCIGSのバルクに吸収されてその中で好ましくない温度上昇が生じる傾向があるので、それ以上大量のレーザ光が材料に入射しないということが重要である。この考えから、上述したようにパルスのテール部にほとんどエネルギーが存在しないように、急激な立ち下がり時間を有するパルスを使用することにつながる。
【0040】
モリブデンの表面で反射される光の量は、モリブデンの表面の物理的な仕上がりや隣接する層内の材料をはじめとする多くの要因に依存している。典型的な反射率は40%であるが、モリブデンの実際の反射率は、10%と低いものから65%と高いものにまで及ぶ。相当量のレーザ光がモリブデンで反射され得るにもかかわらず、一部の光は吸収もされる。この吸収された光は、モリブデン及び隣接するCIGS材料を加熱する役割を有する。反射率が低く、このため吸収の強いモリブデンについては、モリブデンの表面又はその近傍の温度が、より速く上昇する。これは、好ましい結果といえる。
【0041】
また、CIGS材料及びCIGSの上にある層内の材料の脆性破壊プロセスにおける放出は、CIGS層とモリブデン層との間の蒸気圧の上昇によって引き起こされるとも考えられる。この蒸気圧は極めて高くすることができ、これにより、大きな応力を受けているCIGS層を破壊し、爆発力によってそれを除去することができる。この証拠は、スクライブされたラインから約1mm以上の距離に見られるCIGS断片の形態で観測されている。蒸気圧は、主としてセレン蒸気のものであると考えられる。セレンは、CIGS及びモリブデン基板を構成する材料の最も低い沸点を有する。
【0042】
本発明の実施形態を用いてスクライブされるのに好適な基板上の薄膜の別の層構成が図11Aに示されている。この場合には、モリブデン層34とCIGS層35との間に薄層32がある。層32は、単に、成膜プロセスの副産物として存在していてもよい。例えば、厚さが0.1μm未満の二セレン化モリブデンの薄層は、多くの場合、成膜プロセスの結果として存在する。また、この層を意図的に成膜してもよい。ここで述べる本発明の実施形態はまた、図11Aに示される種類の薄膜にラインをスクライブするのにも好適である。実際に、薄層32は、レーザ光の吸収を増加させ、セレン蒸気の源を提供することにより、モリブデンの表面又はその近傍での吸収プロセスを促進することができ、これにより、隣接CIGS材料の加熱と脆性破壊プロセスによるCIGS層の除去を早めることができる。別の実施形態では、層32は、レーザスクライビングプロセスを促進するためにモリブデン層とCIGS層との間に追加される、吸収の強い材料であってもよい。別の実施形態においては、層32は、モリブデン表面の反射率を低減する材料であって、レーザスクライビングプロセスを促進するためにモリブデン層とCIGS層との間に追加される材料であってもよい。
【0043】
1つの可能性として、セレン蒸気が、CIGSから放出されるより二セレン化モリブデンからの方がより容易に放出され得るので、これが、爆発的切除プロセス(explosive ablation process)を促進する蒸気圧の上昇の源となり得ることが挙げられる。
【0044】
図11Bは、図3の従来のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝40を有する、図11Aの実施形態の側面断面の模式図であり、最大パワーの10%でのパルス幅全幅は約10nsである。また、図11Bには、相当量のCIGS残留物39がスクライブされた溝の内部に残留しており、また、溝の側壁及び隣接領域へのダメージ38があることも示されている。そのような残留物及び隣接領域への熱的ダメージは、しばしば、従来のパルス形状を有するレーザを使用した薄膜材料のスクライビングの結果である。本実施形態では、スクライブプロセスはモリブデン層34で終了する。
【0045】
図11Cは、図3の従来のパルス形状を有するレーザを用いてスクライブされた溝40を有する、図11Aの実施形態の側面断面の模式図であり、最大パワーの10%でのパルス幅全幅は約100fsである。図11Cに示されるように、従来のパルス形状を有する短パルスフェムト秒レーザを用いてスクライブされた溝40では、相当量の材料41がモリブデン層から除去されている。スクライブされた溝の下に存在する層の材料の除去やその材料へのダメージは、好ましくない結果である。
【0046】
図11Dは、本発明の実施形態に係る所定のパルス形状を有する一連のレーザパルスを用いてスクライブされた溝40を有する、図11Aの実施形態の側面断面の模式図である。図11Dに示されるように、所定のパルス形状を有する一連のレーザパルスを用いてスクライブされた溝では、溝の内部のCIGS残留物が最小限となるか、全くなく、溝の壁又は隣接領域へのダメージが最小限となるか、全くなく、最小限の損傷を呈するか、又は損傷を呈さず、下層のモリブデン層へのダメージもなく、溝の側壁がほぼ垂直になっている。本発明の実施形態の用途としては、その他の薄膜の層設計にも好適であり、図5A及び図11Aに示されるデザインの薄膜のみに限定されない。
【0047】
本発明の実施形態の用途としては、CIGSの層を含有する薄膜に限定されない。本発明で開示される実施形態に係る所定のパルス形状を使用することは、他の材料の薄膜をスクライブするときに利点となる。例えば、二セレン化銅インジウムは、本発明で述べる所定のパルス形状を有するレーザスクライビングプロセスを用いて綺麗に除去することができる別の材料である。ただし、単位体積当たりのエネルギー蓄積の適切な値はCIGSと完全に同一ではない場合がある。本願における所定のパルス形状を使用することは、スクライブされる薄膜材料に適切であるような1064nm以外の波長を使用することによって利点がある。レーザ波長の選択は、一部においては、上下の層で使用される材料だけではなく、スクライブされる材料の吸収によって決定される。1064nmだけではなく、1032nm、1.3ミクロン、1.5ミクロン、2ミクロン等をはじめとする他の波長のレーザも利用できる。加えて、必要に応じて、より長い波長を実現するための位相整合混合などの非線形プロセスを用いて他の波長を実現することも可能である。場合によっては、CIGS材料がより透明となるより長い波長のような1064nm以外の波長を使用することが有利であることもある。
【0048】
本発明の範囲を限定することなく、発明者等はレーザ波長の選択のための指針を決定した:すなわち、レーザ波長は、スクライブされる薄膜を構成する大部分の材料の実効バンドギャップエネルギー波長より長くなければならず、バンドギャップエネルギー波長は、以下の式によって得られる。
(バンドギャップエネルギー波長)=hc/(バンドギャップエネルギー)
ここで、hはプランク定数、cは光の速度である。この指針は、レーザの光子エネルギーが、バンドギャップエネルギーよりも低くなければならないことを効果的に述べている。半導体のバンドギャップエネルギーは、当業者によく知られているパラメータであり、価電子帯の上縁に存在する電子と伝導帯の下縁に存在する電子との間のエネルギーのギャップとして定義される。バンドギャップエネルギーは、通常、ev(電子ボルト)の単位で与えられる。絶縁体のバンドギャップにも同様の定義が存在するが、絶縁体のバンドギャップエネルギーは、半導体のバンドギャップエネルギーよりずっと大きい。一例として、CIGS(二セレン化カドミウムインジウムガリウム)が薄膜の大部分の構成要素である上述の実施形態では、CIGSは、バンドギャップを有する半導体である。実際に、CIGS材料は、セレン化銅インジウム及びセレン化銅ガリウムの固溶体であり、Cu[InXGa(1-X)]Se2の化学式を有し、xの値は、x=1(純セレン化銅インジウム)からx=0(純セレン化銅ガリウム)まで変化し得る。同様に、CIGSの半導体バンドギャップは、純セレン化銅インジウム(x=1)の1eVと純セレン化銅ガリウム(x=0)の1.7eVとの間で変化し得る。上述の実施形態では、CIGS材料の測定されたバンドギャップは、1.2eVであった。これは、1033nmの等価バンドギャップエネルギー波長に対応する。したがって、選択された1064nmのレーザ波長は、1033nmのバンドギャップエネルギー波長より長かった(レーザ光子エネルギーはバンドギャップエネルギーよりも低かった)。当該技術分野の専門家の多くは、1.2eVのバンドギャップを有するCIGS材料は、起電用途に最適なCIGS組成物であると考えている。スクライブされる薄膜の大部分の構成要素のバンドギャップが未知であるか、または材料の組成又は製造プロセスによって変化する可能性がある場合、レーザ波長を適切に選択することができるように、バンドギャップを測定することが有用である。発明者等は、ここに記載された指針を用いて選択されるレーザ波長が、最適パルスエネルギー及び所定の時間的パルス形状との組み合わせで使用される場合にクリーンなスクライビングプロセスを実現するために動作期間を広げられると考えるが、スクライブされる薄膜の大部分の構成要素の等価バンドギャップエネルギー波長より長いレーザ波長を選択することは、すべての実施形態において、薄膜のクリーンなスクライビングプロセスを実現するために必要不可欠な要因ではない場合がある。
【0049】
薄膜のレーザスクライビングが電子デバイスの製造で使用されてきたが、市販されるレーザを使用する場合には多くの問題があった。これらの問題は、(1)近隣領域への意図されないダメージと、(2)材料の不完全な除去とに分類することができる。そのようなレーザは、信頼性があり、費用対効果に優れているが、典型的に、従来のパルス形状のパルスを提供する。薄膜をスクライブするために使用されるレーザの種類として、ピコ秒やさらにはフェムト秒の時間的尺度でエネルギーを蓄積させることができるように非常に短いパルス幅を有するレーザが最近追加された。この手法は、(1)短パルスレーザが非常に高価であり、かつ複雑であることと、(2)短パルスレーザが、これらのレーザの極めて高いピークパワーのために時として下層又は近隣領域にダメージを与えることがあることの2つの要因以外においては成功している。したがって、信頼性があり、かつ費用対効果に優れ、さらにCIGS等の材料をレーザスクライビングするために所定のパルス形状のパルスを生成することもできるレーザが求められている。
【0050】
図6を参照すると、本願に開示される種類の所定のパルス形状を生成することができるレーザシステムが示されている。このレーザシステムは、電子ドライバ53によって動力供給される発振器51を含むとともに増幅器52を含む。ダイオードレーザなどのパルスレーザ光源は、パルス電子駆動信号を提供することによって簡単にパルス状にすることができる。生成された一連のパルス56におけるそれぞれの光学レーザパルスのパルス形状は、電子ドライバ53によって発振器51に送られる電子駆動信号55の形状を選択することによって予め決定することができる。そして、そのようなパルスレーザ発振器からの成形された信号は、一連の出力パルス57におけるそれぞれのパルスのパルス形状が、発振器によって提供されたパルス形状から実質的に変更されない状態で維持されるように、ダイオードポンプ固体ロッド型レーザ又はファイバレーザ増幅器などのレーザ増幅器で増幅される。
【0051】
発振器レーザは、半導体レーザ、ファイバレーザ、ダイオードレーザ、又は分散型フィードバックダイオードレーザからなってもよい。特定の実施形態においては、パルス信号源は、ピークパルスパワーが1ワット、繰り返し率が最大で200KHz(キロヘルツ)まで可変で、パルス立ち上がり時間及び立ち下がり時間がサブナノ秒、パルス幅が5ナノ秒であり、1064nmの波長で動作する半導体ダイオードレーザである。別の実施形態では、パルス信号源のピーク光パワーを、1ワットより低くしたり、1ワットより高くしたりすることもできる。例えば、500mW、1ワット、2ワット、3ワット、4ワット、5ワット、又はそれよりも高くすることができる。また、パルス幅を、100ナノ秒より小さくしたり、100ナノ秒より大きくしたりすることができる。例えば、1ns(ナノ秒)、2ns、5ns、10ns、15ns、20ns、及び他の値にすることができる。発振器レーザは、電子ドライバによって与えられる電流パルスの形状が発振器レーザの出力パルス形状によって模倣されるように、電子ドライバによって駆動される。
【0052】
発振器51からの出力は、例えば、ファイバレーザ増幅器又はダイオードポンプ固体ロッド型レーザ増幅器からなるレーザ増幅モジュール52で増幅される。本発明の一実施形態では、増幅器は、光カプラを通して希土類添加ファイバループに連結されるポンプを含む光増幅器である。一般的に、半導体ポンプレーザが、ポンプとして使用される。しかしながら、当業者に明らかであるように、光増幅器のポンピングは他の手段によって達成することができる。特定の実施形態においては、光増幅器は、コア直径が約4.8ミクロン、長さが5メートルの希土類添加ファイバを含み、イッテルビウムで約6×1024イオン/m3のドーピング密度にドープされる。また、増幅器は、976nmの波長で動作し、出力パワーが500mWのFBG安定化半導体レーザダイオードであるポンプも含んでいる。他の特定の実施形態においては、光増幅器160は、コア直径が約10ミクロン、長さが2メートルの希土類ドープファイバを含み、イッテルビウムで約1×1026イオン/m3のドーピング密度にドープされる。また、増幅器は、出力パワーが5Wの半導体レーザダイオードであるポンプも含むことができる。
【0053】
イッテルビウム添加ファイバ増幅器と1064nmのレーザ波長の例を説明したが、本発明の他の実施形態においては、1064nmで動作する又は他の波長で動作するダイオードレーザ、固体レーザ、及びドープファイバの他の例を使用することができる。これらには、例えば、1550nmの波長域のエルビウム添加ファイバ及び2〜3ミクロンの波長域のツリウム添加ファイバが含まれる。
【0054】
図7を参照すると、本発明の実施形態において、所定のパルス形状のパルスのバーストを生成するパルスレーザ光源が提供される。パルスレーザ光源は、シード信号を生成するように構成されたシード源110と、シード源に連結された第1のポート114と第2のポート122と第3のポート116とを備えた光サーキュレータ120とを含む。また、パルスレーザ光源は、光サーキュレータの第2のポート122に連結された第1の側132と第2の側134とを特徴とする振幅変調器130も含む。パルスレーザ光源は、入力端部136と反射端部146とを特徴とする第1の光増幅器150をさらに含んでいる。入力端部は、振幅変調器の第2の側134に連結される。さらに、パルスレーザ光源は、光サーキュレータの第3のポート116に連結された第2の光増幅器160を含んでいる。図7は、光サーキュレータの第3のポートに連結された1つの光増幅器160を使用する場合を図示しているが、これは、本発明の実施形態によっては要求されないものである。別の実施形態においては、特定の用途に適切であるように、光サーキュレータの下流に複数の光増幅器が利用される。
【0055】
図8を参照すると、本発明の別の実施形態では、所定のパルス形状のパルスのバーストを生成するパルスレーザ光源が提供される。パルスレーザ光源は、安定化光放射を生成するように構成された安定化源210と、安定化源に連結された第1のポート214と第2のポート216と第3のポート218とを備えた光サーキュレータ220とを含んでいる。また、パルスレーザ光源は、所望の形状の信号パルスを生じるように構成された信号源230も含んでおり、信号源は光サーキュレータの第2のポート216に連結されている。パルスレーザ光源は、光サーキュレータの第3のポート218に連結された光増幅器260をさらに含んでいる。
【0056】
本発明の特定の一実施形態によれば、図9は、所定のパルス形状を有する一連のパルスを生成するレーザを用いて薄膜材料加工物304にラインをスクライブすることができるレーザ処理システムの例を示している。このシステムは、レーザ光源300と、光学系302と、コントローラ305と、加工物ホルダ303の上に配置された加工物304とを含んでいる。レーザ光源300は、波長、パルス幅、パルス形状、及びパルス繰り返し率など特定の特性を持ったレーザパルスを提供する。所定のパルス形状を有する一連のパルスを用いて薄膜材料加工物にラインをスクライブするために、本発明の実施形態に従って波長、パルス幅、及びパルス形状を調整してもよい。
【0057】
光学系は、レーザビームを加工物上に集束させるためのレンズ及び鏡と、ビームを加工物上の様々な場所に方向付けるための構成要素とを含んでもよい。特定の実施形態においては、ビームを方向付けるための構成要素は、ガルバノメータに取り付けた鏡であってもよい。光学系及びビームを方向付けるための構成要素の動きを制御するためにコントローラを用いてもよい。例えば、薄膜加工物304にラインをスクライブするときに、各集束レーザスポットが前の集束レーザスポットに隣接する場所に重複をもって方向付けられるように、加工物の表面に沿ったラインをビームで走査するように、光学系302をコントローラにより制御してもよい。他の実施形態においては、光学系は、レーザビームを加工物の表面で集束させてもよく、各集束レーザパルスが一連のレーザパルス内の前の集束レーザパルスに隣接する場所の上に重複をもって衝突するように、ライン内で加工物を移動させるように、加工物ホルダをコントローラにより制御してもよい。
【0058】
図10は、本発明の実施形態に係る一連のレーザパルスを用いて薄膜にラインをスクライブするための方法を示すフローチャートである。本発明の実施形態によれば、各パルスのレーザスポットは、薄膜にラインをスクライブするために、薄膜材料上の一連の先行パルスのレーザスポットに隣接する位置に、部分的にスポットを重複させつつ置かれる。薄膜にラインをスクライブするためのパルスエネルギー及び効果的なパルス形状を有する一連のレーザパルスを使用すると、従来のパルス形状を有する一連のレーザパルスを用いた場合に得られる結果と比較して、より高品質及びより綺麗なスクライビングプロセスを提供するという結果が得られる。
【0059】
図10を参照すると、本方法は、特定の用途に適切であるようなパルスエネルギー及び時間的パルス形状を選択すること(1005)を含んでいる。例として、効果的なパルス形状を利用することができる。それぞれ1005で選択されたパルスエネルギー及び形状を特徴とする一連のレーザパルスが提供される(1010)。最初のレーザパルスのレーザスポットは、レンズや鏡などを含み得る適切な光学系を利用して薄膜材料上に配置される(1015)。したがって、集束レーザスポットとも言うことが可能なレーザスポットを、特定の用途に適切な空間分布を持って形成することができる。残りのレーザパルスのレーザスポットは、各スポットがレーザスポットの空間分布において部分的に重複しつつ先行スポットに隣接するようにラインに沿って配置される(1020)。
【0060】
図10に示される具体的なステップにより、本発明の実施形態に係る一連のレーザパルスを用いて薄膜にラインをスクライブする特定の方法が提供されることを理解されたい。また、別の実施形態によりステップを他の順序で実施してもよい。例えば、本発明の別の実施形態では、上記に概説されたステップを異なる順序で実施してもよい。さらに、図10に図示される個々のステップは、個々のステップに適切であるような様々な順序で実施可能な複数のサブステップを含んでもよい。さらに、特定の用途によっては、追加ステップが追加又は削除されてもよい。当業者であれば、多くの変形、修正、及び代替方法を認識することができるであろう。
【0061】
図13は、本発明の実施形態に係る所定のパルス形状を有する一連のパルスを用いて薄膜にラインをスクライブするための方法を図示するフローチャートである。本発明の実施形態によれば、各パルスのレーザスポットは、薄膜にラインをスクライブするために、薄膜材料上の一連のパルスの後続パルスのレーザスポットに隣接する位置に、部分的にスポットを重複させつつ配置される。薄膜にラインをスクライブするために、所定のパルス形状を有する一連のレーザパルスを使用すれば、従来のパルス形状の一連のレーザパルスを使用する際に得られる結果と比較して、より高品質及びより綺麗なスクライビングプロセスを提供するという結果が得られる。
【0062】
図13を参照すると、一連のレーザパルスが供給され(1310)、一連のレーザパルスを光学経路に向ける(1312)。光学経路は、基板上の薄膜構造を横断する。また、本方法では、基板上の薄膜構造が光学経路を向くように基板を配置する(1314)。最初のパルスのレーザスポットは、薄膜の一部分を除去するために薄膜上に配置され(1316)、各レーザスポットが、スポット領域の一部を重複させつつ前のパルスのレーザスポットに隣接するように、一連の後続パルスのレーザスポットが薄膜上にラインに沿って配置される(1318)。
【0063】
図13に示される具体的なステップにより、本発明の実施形態に係る所定のパルス形状を有する一連のパルスを用いて薄膜にラインをスクライブする特定の方法が提供されることを理解されたい。また、別の実施形態によりステップを他の順序で実施してもよい。例えば、本発明の別の実施形態では、上記に概説されたステップを異なる順序で実施してもよい。さらに、図13に図示される個々のステップは、個々のステップに適切であるような様々な順序で実施可能な複数のサブステップを含んでもよい。さらに、特定の用途によっては、追加ステップが追加又は削除されてもよい。当業者であれば、多くの変形、修正、及び代替方法を認識することができるであろう。
【0064】
本発明の特定の実施形態及びその具体例について説明したが、他の実施形態が本発明の趣旨及び範囲内に含まれ得ることを理解されたい。したがって、本発明の範囲は、すべての範囲の均等物とともに添付の特許請求の範囲を参照して決定されるべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に配置された薄膜構造にパターンを表面スクライブするレーザベースの処理方法であって、
一連のレーザパルスを供給し、前記一連のレーザパルスのそれぞれレーザパルスは、波長、パルスエネルギー、10%のパワー点の前縁と後縁との間のパルス幅、所定のレーザパルス時間的パワー形状、及びレーザスポット領域を特徴とし、前記パルス幅は1nsより大きく10ns未満であり、90%から10%のパワー点間の前記後縁の立ち下がり時間は2ns未満であり、
前記一連のレーザパルスを光学経路に向け、
前記薄膜構造が前記光学経路を向くように、前記薄膜構造を有する前記基板を位置決めし、
最初のパルスの前記レーザスポットを前記薄膜構造上のスポット位置に配置し、
前記薄膜の少なくとも一部を除去し、
各スポット位置が先行パルスの前記レーザスポットの前記スポット位置に隣接し、各スポットの重複領域が各先行スポットの重複領域に部分的に重複するようなスポット位置の重複があるように、前記一連のパルスのそれぞれの後続パルスの前記レーザスポットを前記薄膜上のパターンに沿ったスポット位置に配置する、
方法。
【請求項2】
前記薄膜は、二セレン化銅インジウムガリウム材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記二セレン化銅インジウムガリウム材料はバンドギャップエネルギー波長を特徴とし、前記レーザ波長は前記バンドギャップエネルギー波長より長い、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
パルスエネルギーを前記レーザスポット領域の面積で割ったものをエネルギー密度として定義すると、前記薄膜材料での前記レーザパルスのエネルギー密度は0.2J/cm2よりも高く0.7J/cm2よりも低い、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
2つの隣接スポットの前記重複の面積は、前記レーザスポット領域の面積の2%よりも大きく、50%よりも小さい、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記所定のレーザパルス時間的パワー形状は平坦な頂部を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記所定のレーザパルス時間的パワー形状は、10%〜90%のパワー点の前縁立ち上がり時間が6ns未満であることをさらに特徴としている、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記薄膜は、二セレン化銅インジウム材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記二セレン化銅インジウム材料はバンドギャップエネルギー波長を特徴とし、前記レーザ波長は前記バンドギャップエネルギー波長より長い、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
パルスエネルギーを前記レーザスポット領域の面積で割ったものをエネルギー密度として定義すると、前記薄膜材料でのエネルギー密度が0.2J/cm2よりも高く0.7J/cm2よりも低くなるように前記レーザパルスの前記パルスエネルギーが選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
2つの隣接スポットの前記重複の面積は、前記レーザスポット領域の面積の2%よりも大きく、50%よりも小さい、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記所定のレーザパルス時間的パワー形状は平坦な頂部を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記所定のレーザパルス時間的パワー形状は、10%〜90%のパワー点の前縁立ち上がり時間が6ns未満であることをさらに特徴としている、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
基板上に配置された薄膜構造にパターンを表面スクライブするレーザベースの処理方法であって、
一連のレーザパルスを供給し、前記一連のレーザパルスのそれぞれのレーザパルスは、波長、パルスエネルギー、10%のパワー点の前縁と後縁との間のパルス幅、所定のレーザパルス時間的パワー形状、及びレーザスポット領域を特徴とし、前記パルス幅は1nsより大きく10ns未満であり、前記後縁の50%のパワー点の後の前記パルスの期間内に含まれるエネルギーは、前記パルスエネルギーの5%未満であり、
前記一連のレーザパルスを光学経路に向け、
前記薄膜構造が前記光学経路を向くように、前記薄膜構造を有する前記基板を位置決めし、
最初のパルスの前記レーザスポットを前記薄膜構造上のスポット位置に配置し、
前記薄膜の少なくとも一部を除去し、
各スポット位置が先行パルスの前記レーザスポットの前記スポット位置に隣接し、各スポットの重複領域が各先行スポットの重複領域に部分的に重複するようなスポット位置の重複があるように、前記一連のパルスのそれぞれの後続パルスの前記レーザスポットを前記薄膜上のパターンに沿ったスポット位置に配置する、
方法。
【請求項15】
前記薄膜は、二セレン化銅インジウムガリウム材料を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記パターンはラインである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記パターンは閉鎖ループである、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記パターンは曲線である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記二セレン化銅インジウムガリウム材料はバンドギャップエネルギー波長を特徴とし、前記レーザ波長は前記バンドギャップエネルギー波長より長い、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
パルスエネルギーを前記レーザスポット領域の面積で割ったものをエネルギー密度として定義すると、前記薄膜材料での前記レーザパルスのエネルギー密度は0.2J/cm2よりも高く0.7J/cm2よりも低い、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
2つの隣接スポットの前記重複の面積は、前記レーザスポット領域の面積の2%よりも大きく、50%よりも小さい、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記所定のレーザパルス時間的パワー形状は、10%〜90%のパワー点の前縁立ち上がり時間が6ns未満であることをさらに特徴としている、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
前記薄膜は、二セレン化銅インジウム材料を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
パルスエネルギーを前記レーザスポット領域の面積で割ったものをエネルギー密度として定義すると、前記薄膜材料での前記レーザパルスのエネルギー密度は0.2J/cm2よりも高く0.7J/cm2よりも低い、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記二セレン化銅インジウム材料はバンドギャップエネルギー波長を特徴とし、前記レーザ波長は前記バンドギャップエネルギー波長より長い、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
パルスエネルギーを前記レーザスポット領域の面積で割ったものをエネルギー密度として定義すると、前記薄膜材料でのエネルギー密度が0.2J/cm2よりも高く0.7J/cm2よりも低くなるように前記レーザパルスの前記パルスエネルギーが選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記所定のレーザパルス時間的パワー形状は、10%〜90%のパワー点の前縁立ち上がり時間が6ns未満であることをさらに特徴としている、請求項23に記載の方法。
【請求項1】
基板上に配置された薄膜構造にパターンを表面スクライブするレーザベースの処理方法であって、
一連のレーザパルスを供給し、前記一連のレーザパルスのそれぞれレーザパルスは、波長、パルスエネルギー、10%のパワー点の前縁と後縁との間のパルス幅、所定のレーザパルス時間的パワー形状、及びレーザスポット領域を特徴とし、前記パルス幅は1nsより大きく10ns未満であり、90%から10%のパワー点間の前記後縁の立ち下がり時間は2ns未満であり、
前記一連のレーザパルスを光学経路に向け、
前記薄膜構造が前記光学経路を向くように、前記薄膜構造を有する前記基板を位置決めし、
最初のパルスの前記レーザスポットを前記薄膜構造上のスポット位置に配置し、
前記薄膜の少なくとも一部を除去し、
各スポット位置が先行パルスの前記レーザスポットの前記スポット位置に隣接し、各スポットの重複領域が各先行スポットの重複領域に部分的に重複するようなスポット位置の重複があるように、前記一連のパルスのそれぞれの後続パルスの前記レーザスポットを前記薄膜上のパターンに沿ったスポット位置に配置する、
方法。
【請求項2】
前記薄膜は、二セレン化銅インジウムガリウム材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記二セレン化銅インジウムガリウム材料はバンドギャップエネルギー波長を特徴とし、前記レーザ波長は前記バンドギャップエネルギー波長より長い、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
パルスエネルギーを前記レーザスポット領域の面積で割ったものをエネルギー密度として定義すると、前記薄膜材料での前記レーザパルスのエネルギー密度は0.2J/cm2よりも高く0.7J/cm2よりも低い、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
2つの隣接スポットの前記重複の面積は、前記レーザスポット領域の面積の2%よりも大きく、50%よりも小さい、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記所定のレーザパルス時間的パワー形状は平坦な頂部を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記所定のレーザパルス時間的パワー形状は、10%〜90%のパワー点の前縁立ち上がり時間が6ns未満であることをさらに特徴としている、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記薄膜は、二セレン化銅インジウム材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記二セレン化銅インジウム材料はバンドギャップエネルギー波長を特徴とし、前記レーザ波長は前記バンドギャップエネルギー波長より長い、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
パルスエネルギーを前記レーザスポット領域の面積で割ったものをエネルギー密度として定義すると、前記薄膜材料でのエネルギー密度が0.2J/cm2よりも高く0.7J/cm2よりも低くなるように前記レーザパルスの前記パルスエネルギーが選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
2つの隣接スポットの前記重複の面積は、前記レーザスポット領域の面積の2%よりも大きく、50%よりも小さい、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記所定のレーザパルス時間的パワー形状は平坦な頂部を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記所定のレーザパルス時間的パワー形状は、10%〜90%のパワー点の前縁立ち上がり時間が6ns未満であることをさらに特徴としている、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
基板上に配置された薄膜構造にパターンを表面スクライブするレーザベースの処理方法であって、
一連のレーザパルスを供給し、前記一連のレーザパルスのそれぞれのレーザパルスは、波長、パルスエネルギー、10%のパワー点の前縁と後縁との間のパルス幅、所定のレーザパルス時間的パワー形状、及びレーザスポット領域を特徴とし、前記パルス幅は1nsより大きく10ns未満であり、前記後縁の50%のパワー点の後の前記パルスの期間内に含まれるエネルギーは、前記パルスエネルギーの5%未満であり、
前記一連のレーザパルスを光学経路に向け、
前記薄膜構造が前記光学経路を向くように、前記薄膜構造を有する前記基板を位置決めし、
最初のパルスの前記レーザスポットを前記薄膜構造上のスポット位置に配置し、
前記薄膜の少なくとも一部を除去し、
各スポット位置が先行パルスの前記レーザスポットの前記スポット位置に隣接し、各スポットの重複領域が各先行スポットの重複領域に部分的に重複するようなスポット位置の重複があるように、前記一連のパルスのそれぞれの後続パルスの前記レーザスポットを前記薄膜上のパターンに沿ったスポット位置に配置する、
方法。
【請求項15】
前記薄膜は、二セレン化銅インジウムガリウム材料を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記パターンはラインである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記パターンは閉鎖ループである、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記パターンは曲線である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記二セレン化銅インジウムガリウム材料はバンドギャップエネルギー波長を特徴とし、前記レーザ波長は前記バンドギャップエネルギー波長より長い、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
パルスエネルギーを前記レーザスポット領域の面積で割ったものをエネルギー密度として定義すると、前記薄膜材料での前記レーザパルスのエネルギー密度は0.2J/cm2よりも高く0.7J/cm2よりも低い、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
2つの隣接スポットの前記重複の面積は、前記レーザスポット領域の面積の2%よりも大きく、50%よりも小さい、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記所定のレーザパルス時間的パワー形状は、10%〜90%のパワー点の前縁立ち上がり時間が6ns未満であることをさらに特徴としている、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
前記薄膜は、二セレン化銅インジウム材料を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
パルスエネルギーを前記レーザスポット領域の面積で割ったものをエネルギー密度として定義すると、前記薄膜材料での前記レーザパルスのエネルギー密度は0.2J/cm2よりも高く0.7J/cm2よりも低い、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記二セレン化銅インジウム材料はバンドギャップエネルギー波長を特徴とし、前記レーザ波長は前記バンドギャップエネルギー波長より長い、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
パルスエネルギーを前記レーザスポット領域の面積で割ったものをエネルギー密度として定義すると、前記薄膜材料でのエネルギー密度が0.2J/cm2よりも高く0.7J/cm2よりも低くなるように前記レーザパルスの前記パルスエネルギーが選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記所定のレーザパルス時間的パワー形状は、10%〜90%のパワー点の前縁立ち上がり時間が6ns未満であることをさらに特徴としている、請求項23に記載の方法。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図11c】
【図11d】
【図12】
【図13】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図11c】
【図11d】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2013−512111(P2013−512111A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542102(P2012−542102)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/057976
【国際公開番号】WO2011/066367
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(511300570)イ−エスアイ−パイロフォトニクス レーザーズ インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/057976
【国際公開番号】WO2011/066367
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(511300570)イ−エスアイ−パイロフォトニクス レーザーズ インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】
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