説明

一酸化炭素を選択的に酸化する触媒、一酸化炭素濃度を低減する方法および燃料電池システム

【課題】RuとPtを担体に担持して得られる触媒において、塩基性溶液による処理時によるPtの担体表面からの移動、Pt量の損失もしくはエッグシェル構造の消失が抑制された触媒を提供すると共に、その触媒を用いる、一酸化炭素および水素を含有する原料ガス中の一酸化炭素を選択的に酸化して一酸化炭素濃度を低減する方法を提供する。
【解決手段】アルミナ、シリカ、ジルコニアおよびチタニアから選ばれる少なくとも1種を含む無機酸化物からなる担体に担持されたRuとPtを含有し、前記PtがHPt(OH)をPt源として用い、塩基性溶液中で担持されたものであることを特徴とする一酸化炭素を選択的に酸化する触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化炭素を選択的に酸化する触媒、該触媒の製造方法、該触媒を用いて水素および一酸化炭素を含有する原料ガスから一酸化炭素を選択的に酸化して一酸化炭素濃度を低減させる方法、該触媒を用いた高濃度水素含有ガスを製造する装置並びにそれらを用いた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は燃料の燃焼反応による自由エネルギー変化を直接電気エネルギーとして取り出せるため、高い効率が得られるという特徴がある。さらに有害物質を排出しないことも相俟って、様々な用途への展開が図られている。特に固体高分子形燃料電池は、出力密度が高く、コンパクトで、しかも低温で作動するのが特徴である。
【0003】
一般的に、燃料電池用の燃料ガスとしては水素を主成分とするガスが用いられる。そして、その燃料ガスを得るための原燃料には天然ガス、LPG、ナフサ、灯油等の炭化水素、メタノール、エタノール等のアルコール、およびジメチルエーテル等のエーテル等が用いられる。しかし、これらの原燃料中には水素原子以外に炭素原子も存在するため、燃料電池に供される燃料ガス中に炭素由来の不純物が混入することは避けられない。
【0004】
このような不純物の中でも、一酸化炭素は燃料電池の電極触媒として使われている白金等の貴金属を被毒する。そのため、燃料ガス中に一酸化炭素が存在すると燃料電池は充分な発電特性が得られなくなる。特に低温において作動する燃料電池において、電極触媒は一酸化炭素を強く吸着し、被毒を受けやすい。このため固体高分子形燃料電池システムでは、燃料ガス中の一酸化炭素の濃度が低減されていることが必要不可欠である。
【0005】
燃料ガス中の一酸化炭素濃度を低減する方法としては、原燃料を改質して得られた改質ガス中の一酸化炭素を水蒸気と反応させ、水素と二酸化炭素に転化する方法、いわゆる水性ガスシフト反応が考えられる。しかし、通常、この方法では燃料ガス中の一酸化炭素濃度を0.5〜1体積%程度にまでしか低減することができない。燃料電池の電極触媒の一酸化炭素に対する耐性は用いられる金属種に依り変化するが、一般的に、燃料電池が効率よく作動するためには、燃料ガス中の一酸化炭素濃度は100体積ppm以下であることが望ましい。このような一酸化炭素濃度とするためには、水性ガスシフト反応による処理のみでは不充分であり、水性ガスシフト反応により0.5〜1体積%程度にまで低減された一酸化炭素濃度をさらに低減することが求められる。
【0006】
一酸化炭素濃度をさらに低減する方法としては、一酸化炭素を吸着分離する方法や膜分離する方法が考えられる。しかし、これらの方法では得られる水素純度は高いものの、装置コストが高く、装置サイズも大きくなるという問題があり、現実的でない。
【0007】
これに対して、化学的な方法には上述の問題はなく、より現実的な方法であるといえる。化学的方法としては、一酸化炭素をメタン化する方法、酸化して二酸化炭素に転化する方法などが考えられる。また、一酸化炭素を前段でメタン化し、後段で酸化する二段階処理方法も提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−86892号公報
【0008】
一酸化炭素を単にメタン化する方法では燃料電池の燃料となる水素の損失を生ずることから、効率の観点から適当ではない。前記二段階処理方法においても、前段での水素の損失は避けられない。従って、一酸化炭素を酸化して二酸化炭素とする方法を採用するのが適当である。この方法において重要なことは、大過剰の水素中に微量ないし少量混在する一酸化炭素を選択的に酸化処理し、かつメタン化することにより、生成ガス中の一酸化炭素濃度を目的とする濃度まで低減することである。このためには、担体に担持されたRuとPtを含有する触媒を用いることが一般的である。
【0009】
Ruを含有する触媒では、担持の際に用いるRu前駆体に含まれる塩素などのアニオンの除去を行うための手段として空気中での焼成を行うと、有毒なRu酸化物が発生すると同時に、Ru酸化物が昇華性を有するためRu担持量が減少する問題がある(非特許文献1参照)。このため、通常Ruを含有する触媒の製造においては、空気中での焼成は行わず、液相もしくは気相での還元処理を行う前に塩基性溶液によるアニオン除去工程を設ける。
【非特許文献1】「触媒化学」,講談社サイエンティフィク,p.153
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一方、RuとPtが担体に担持されてなる触媒においては、アルカリ溶液によるアニオン除去工程においてPtが担体から移動し、Pt量の損失が起こるか、もしくはエッグシェル構造(触媒粒子の表層近傍に活性成分が偏在する構造)が消失するという問題がある。
本発明者らはかかる課題について鋭意研究した結果、Pt源としてHPt(OH)を用い、かつ塩基性溶液中でPtを担持することにより、Ptの移動や損失を伴わずに所望の触媒が得られることを見出した。そしてその触媒を用いて一酸化炭素および水素を含有する原料ガス中の一酸化炭素の選択的酸化反応を行った場合、従来の触媒を用いた場合に比べ、より広いO/CO比(モル比。以下同じ。)の範囲において、10体積ppm以下に低減されたCO濃度を有する高濃度水素含有ガスを製造することができることを見出し、本発明を完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、アルミナ、シリカ、ジルコニアおよびチタニアから選ばれる少なくとも1種を含む無機酸化物からなる担体に担持されたRuとPtを含有し、前記PtがHPt(OH)をPt源として用い、塩基性溶液中で担持されたものであることを特徴とする一酸化炭素を選択的に酸化する触媒に関する。
また本発明は、前記塩基性溶液がNaOH水溶液であることを特徴とする前記記載の触媒に関する。
また本発明は、前記担体にRuを担持した後にPtを担持して得られることを特徴とする前記記載の触媒に関する。
【0012】
さらに本発明は、アルミナ、シリカ、ジルコニアおよびチタニアから選ばれる少なくとも1種を含む無機酸化物からなる担体に担持されたRuとPtを含有する一酸化炭素を選択的に酸化する触媒の製造方法であって、Ptを担持するに際して、Pt源としてHPt(OH)を用い、塩基性溶液中で担持することを特徴とする前記触媒の製造方法に関する。
【0013】
また本発明は、水素および一酸化炭素を含有する原料ガスと酸素含有ガスとを、前記記載の触媒に接触させ、前記原料ガス中の一酸化炭素を選択的に酸化して一酸化炭素濃度を低減する方法に関する。
また本発明は、前記記載の触媒が充填された反応器と、前記反応器に接続された水素および一酸化炭素を含む原料ガスの供給ラインと、前記反応器に接続された酸素含有ガスの供給ラインと、から少なくとも構成されることを特徴とする、前記原料ガス中の一酸化炭素濃度を低減し、高濃度水素含有ガスを製造する装置に関する。
さらに本発明は、前記記載の装置から供給される高濃度水素含有ガスを陰極側燃料として供給することを特徴とする燃料電池システムに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、Pt源としてHPt(OH)を用い、かつ塩基性溶液中でPtを所定の担体に担持することにより、Ptの移動や損失を伴わずに所望の触媒を製造することができる。そして、その触媒を用いて一酸化炭素および水素を含有する原料ガス中の一酸化炭素の選択的酸化反応を行った場合、従来の触媒を用いた場合に比べ、より広いO/CO比の範囲において、10体積ppm以下に低減されたCO濃度を有する高濃度水素含有ガスを製造することができる。更に、このような低減されたCO濃度を有する高濃度水素含有ガスを原料ガスとして使用することにより、長時間、安定して燃料電池を運転することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
本発明の一酸化炭素を選択的に酸化する触媒において、担体としては、アルミナ、シリカ、ジルコニアおよびチタニアから選ばれる少なくとも1種の無機酸化物が用いられる。これらの中でもアルミナがより好ましい。アルミナとしては、α−アルミナ、γ−アルミナが好ましく用いられるが、Ruとの親和性が高い点からγ−アルミナが特に好ましい。
【0016】
担体の形状、大きさ、成型方法については特に限定されるものではなく、また成型時に適当なバインダーを添加して成型性を高めたものであってもよい。
担体の形状としては、球状あるいは円柱状の形状を有するものがより好ましい。ここでいう球状あるいは円柱状の形状とは、厳密にいう球あるいは円柱のみを意味するものではなく、その一部の形状は変形しているが、実質的に球状あるいは円柱状と認めることができるものも包含する。
また、担体が球状である場合、その粒子径については特に限定されるものではないが、原料ガスとの接触効率の観点から、平均直径として1〜5mmの範囲が好ましく、1〜3mmが特に好ましい。
【0017】
本発明の触媒は、前記無機酸化物からなる担体に担持されたRuとPtの金属を含有する触媒である。
かかる金属を担持する方法については特に制限はなく、担持する金属の塩を溶媒に溶解した金属塩溶液を用いる含浸法、平衡吸着法、競争吸着法が好ましく採用され、中でも含浸法が好ましい。
担持回数についても特に制限はなく、担持工程において、全てを同時に担持もしくは、数回に分けて担持することが好ましい。
【0018】
Ruの金属塩としては、溶媒に溶解するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、RuCl・nHO、Ru(NO、K(RuCl(HO))、(NHRuCl、(Ru(NH)Br、Ru(NHCl、NaRuO、KRuO、Ru(CO)、[Ru(NHCl]Cl、Ru(CO)12およびRu(Cなどを挙げることができる。また、複数の金属塩を混合して用いてもよい。
溶媒としては、上記金属塩が溶解するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、クエン酸水溶液、シュウ酸水溶液、酢酸水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液などが用いられる。
【0019】
Ptを担持する際には、Pt源として、HPt(OH)を用い、かつ塩基性溶液中で担持を行うことが重要である。すなわち、HPt(OH)を塩基性溶液に溶解させた溶液中に担体を浸漬する等して、該担体にPtを担持する。
【0020】
塩基性溶液としては、HPt(OH)が溶解するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、LiOH水溶液、NaOH水溶液、KOH水溶液、RbOH水溶液、CsOH水溶液、LiHCO水溶液、NaHCO水溶液、KHCO水溶液、RbHCO水溶液、CsHCO水溶液、LiCO水溶液、NaCO水溶液、KCO水溶液、RbCO水溶液、CsCO水溶液、アンモニア水、(NMe)OH溶液、(NEt)OH溶液、(NPr)OH溶液、(NBu)OH溶液、(NHMe)OH溶液、(NHEt)OH溶液、(NHPr)OH溶液、(NHBu)OH溶液、液体アンモニアなどを挙げることができる。これらのうち特にNaOH水溶液が好ましい。また、複数の塩基性溶液を混合して用いてもよい。
NaOH水溶液の濃度としては、0.1質量%から50質量%の範囲が好ましく、より好ましくは5質量%から20質量%の範囲である。
【0021】
本発明の触媒において、RuとPtを担体に担持する順序については特に制限はないが、Ruを担持した後にPtを担持することが好ましい。
また、RuとPtを担体に担持した後に、NaBH溶液などにより液相還元することが好ましい。
【0022】
担体へのRuの担持量については特に限定されないが、担体に対して、0.01〜10質量%が好ましく、0.03〜2質量%が特に好ましい。Ruの担持量が0.01質量%未満の場合には、COの選択的酸化反応に対する触媒性能が十分に得られないので好ましくない。一方、Ruの担持量が10質量%を越える場合には、メタン化反応が大幅に促進され、その反応熱により反応の制御が困難となり好ましくない。
担体へのPtの担持量については特に限定されないが、担体に対して、0.01〜1質量%が好ましく、0.01〜0.1質量%が特に好ましい。Ptの担持量が0.01質量%未満の場合には、COの酸化反応に対する触媒性能が十分に得られないので好ましくない。一方、Ptの担持量が1質量%を越える場合には、CO濃度の低減が困難になり好ましくない。
【0023】
担体に金属を担持した後、溶媒を除去する必要があるが、空気中での自然乾燥あるいは加熱乾燥、減圧下での脱気乾燥のいずれかの方法を採用することによりこれを行うことができる。
製造された触媒中には、担体や担持に用いた金属塩などに由来する塩化物イオンが残留している場合があるが、塩化物イオン濃度は100質量ppm以下とすることが必要である。前記塩化物イオンの残留濃度は好ましくは80質量ppm以下であり、特に好ましくは50質量ppm以下である。残留濃度が100質量ppmを超える塩化物イオンは、担持金属の凝集等を促進し、触媒のCOの選択的酸化反応に対する活性を低下させる。
上記の方法で製造された触媒を実用に供する場合、通常、前処理として、水素による還元を行う。その条件として、温度は100〜800℃、好ましくは150〜250℃、時間は1〜5時間、好ましくは1〜3時間を採用することができる。
【0024】
本発明の一酸化炭素を選択的に酸化して一酸化炭素濃度を低減する方法に用いる一酸化炭素および水素を含有する原料ガスとしては、通常、燃料電池用の燃料ガスの出発原料(原燃料)として用いられる炭化水素、あるいはアルコールやエーテル等の含酸素炭化水素等を各種方法により改質反応を行って得られる水素を主成分とするガスが用いられる。原燃料としては、天然ガス、LPG、ナフサ、灯油、ガソリンまたはこれらに相当する各種溜分や、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の炭化水素、メタノール、エタノール等の各種アルコール、およびジメチルエーテル等のエーテル等が用いられる。
【0025】
上記原燃料を改質する方法としては、特に限定されるものではなく、水蒸気改質方法、部分酸化改質方法、オートサーマルリフォーミング方法等の各種方法が挙げられる。本発明においてはこれらのいずれの方法も採用することができる。
【0026】
なお、硫黄を含んでいる原燃料をそのまま改質工程に供給すると、改質触媒が被毒を受け活性が発現せず、また寿命も短くなるため、改質反応に先だって、原燃料を脱硫処理することが好ましい。脱硫処理の条件は、原燃料の種類および硫黄含有量によって異なるため一概にはいえないが、通常、反応温度は10〜450℃が好ましく、特に10〜300℃が好ましい。反応圧力は常圧〜1MPaが好ましく、特に常圧〜0.2MPaが好ましい。SVは原料が液体の場合で0.01〜15h−1の範囲が好ましく、0.05〜5h−1の範囲がさらに好ましく、0.1〜3h−1の範囲が特に好ましい。気体の原燃料を用いる場合は、100〜10,000h−1の範囲が好ましく、200〜5,000h−1の範囲がさらに好ましく、300〜2,000h−1の範囲が特に好ましい。
【0027】
また改質反応条件も必ずしも限定されるものではないが、通常、反応温度は200〜1,000℃が好ましく、特に500〜850℃が好ましい。反応圧力は常圧〜1MPaが好ましく、特に常圧〜0.2MPaが好ましい。GHSV(空間速度)は、100〜100,000h−1が好ましく、300〜50,000h−1がより好ましく、500〜30,000h−1が特に好ましい。
改質反応により得られるガス(改質ガス)は、主成分として水素を含むものの、他の成分としては、一酸化炭素、二酸化炭素、水蒸気等が含有される。
【0028】
本発明の一酸化炭素濃度を低減する方法においては、原料ガスとして前記改質ガスを直接用いることも可能であるが、かかる改質ガスを予め前処理して一酸化炭素濃度をある程度低減させたものを用いてもよい。かかる前処理としては、改質ガス中の一酸化炭素濃度を低減させるため、改質ガス中の一酸化炭素を水蒸気と反応させ、水素と二酸化炭素に転化する方法、いわゆる水性ガスシフト反応が挙げられる。水性ガスシフト反応以外の前処理としては、一酸化炭素を吸着分離する方法、あるいは膜分離する方法等が挙げられる。
【0029】
本発明の一酸化炭素濃度を低減する方法においては、改質ガス中の一酸化炭素を低減し、かつ水素濃度を高めるためにも、改質ガスをさらに水性ガスシフト反応に供したものを原料ガスとするのが好ましい。これにより、一酸化炭素濃度の低減をより効果的にすることができる。水性ガスシフト反応は改質ガスの組成等によって、必ずしも反応条件は限定されるものではないが、通常、反応温度は120〜500℃が好ましく、特に150〜450℃が好ましい。反応圧力は常圧〜1MPaが好ましく、特に常圧〜0.2MPaが好ましい。GHSVは100〜50,000h−1が好ましく、特に300〜10,000h−1が好ましい。
【0030】
本発明の一酸化炭素濃度を低減する方法において、原料ガス中の一酸化炭素濃度は、通常0.1〜2体積%である。一方、原料ガスにおける水素濃度は通常40〜85体積%である。また、原料ガスには、一酸化炭素および水素以外の成分として、例えば窒素、二酸化炭素等が含まれていてもよい。
【0031】
本発明の一酸化炭素濃度を低減する方法において使用する酸素含有ガスとしては、特に限定されないが、空気や酸素が挙げられ、空気が好ましい。酸素含有ガス中の酸素と原料ガス中の一酸化炭素とのモル比(O/CO)は特に限定されないが、0.5〜3.0の範囲内となるように酸素含有ガスを供給することが好ましい。例えば、原料ガス中の一酸化炭素濃度が0.5体積%である場合、前記モル比は、0.5〜2.5の範囲内とすることがより好ましい。前記モル比が0.5より小さい場合は、化学量論的に酸素が足りないため一酸化炭素の酸化反応が十分に進行しない。また、前記モル比が3.0より大きい場合は、水素の酸化反応により、水素濃度の低下、反応熱による反応温度の上昇、メタンの生成などの副反応が起こりやすくなるため好ましくない。
【0032】
本発明の一酸化炭素濃度を低減する方法における反応圧力は、燃料電池システムの経済性、安全性等も考慮し、常圧〜1MPaの範囲が好ましく、特に常圧〜0.2MPaが好ましい。反応温度としては、一酸化炭素濃度を低減できる温度であれば特に限定はないが、低温では反応速度が遅くなり、高温では選択性が低下する傾向にあるため、通常は80〜350℃が好ましく、特に100〜300℃が好ましい。GHSVは高すぎると一酸化炭素の酸化反応が進行しにくくなり、一方、低すぎると装置を大きくする必要があるため、1,000〜50,000h−1の範囲が好ましく、特に3,000〜30,000h−1の範囲が好ましい。
【0033】
本発明の一酸化炭素濃度を低減する方法により、原料ガス中の一酸化炭素濃度を100体積ppm以下、好ましくは50体積ppm以下、最も好ましくは10体積ppm以下にまで低減することができる。そのため、本方法により得られる一酸化炭素濃度が低減されたガスを燃料電池の燃料ガスとして用いることにより、燃料電池の電極に用いられている貴金属を含む触媒の被毒、劣化が抑制される。これにより、高い発電効率、且つ長寿命にて燃料電池を運転することが可能となる。
【0034】
本発明の原料ガス中の一酸化炭素濃度を低減し、高濃度水素含有ガスを製造する装置において、一酸化炭素の選択的酸化反応を行う反応器には、前記本発明の触媒が充填される。反応器の形式としては限定されないが、連続流通式固定床型反応器が好ましい。また、前記反応器には、水素および一酸化炭素を含む原料ガスの供給ラインが接続される。前記原料ガスの供給ラインの他方は、水性ガスシフト反応装置に接続されていることが好ましい。
【0035】
さらに、前記反応器には、酸素含有ガスの供給ラインが接続される。ここで、「前記反応器には、酸素含有ガスの供給ラインが接続される。」とは、前記酸素含有ガスの供給ラインが直接前記反応器に接続されている形態、および前記反応器の上流にて原料ガスの供給ラインに接続され、原料ガスと酸素含有ガスとが予め混合された状態で前記反応器に供給される形態の両方を意味する。
【0036】
前述のように酸素含有ガスとしては空気であることが好ましく、その場合には、その供給ラインの他方は、空気ブロアーに接続されることが好ましい。
【0037】
次に、本発明の燃料電池システムについて詳細に説明する。
【0038】
図1は本発明に係る燃料電池システムの好適な一例を示す概略図である。図1に示した燃料電池システムにおいて、原燃料タンク3内の原燃料は原燃料ポンプ4を経て脱硫器5に流入する。このとき、必要であれば選択的酸化反応器11から水素含有ガスを脱硫器5に供給することもできる。脱硫器5内には、例えば銅−亜鉛あるいはニッケル−亜鉛を含有する収着剤などを充填することができる。脱硫器5で脱硫された原燃料は、水タンク1から水ポンプ2を経て供給される水と混合された後、気化器6に導入され、さらに改質器7に送り込まれる。
【0039】
改質器7は加温用バーナー18で加温される。加温用バーナー18の燃料には主に燃料電池17のアノードオフガスを用いるが、必要に応じて原燃料ポンプ4から吐出される原燃料を補充することもできる。改質器7に充填される触媒としてはニッケル、ルテニウム、ロジウムなどを含有する触媒を用いることができる。
このようにして製造された水素と一酸化炭素を含有する改質ガスは、高温シフト反応器9および低温シフト反応器10により水性ガスシフト反応に供される。高温シフト反応器9には鉄−クロムを含有する触媒等、低温シフト反応器10には銅−亜鉛を含有する触媒等の触媒が充填されている。
【0040】
高温シフト反応器9および低温シフト反応器10から流出したガスは、次に選択的酸化反応器11に導かれる。選択的酸化反応器11には、前記の本発明の触媒が充填されている。原料ガスは空気ブロアー8から供給される空気と混合され、選択的酸化反応器11内において、前記触媒の存在下に一酸化炭素の選択的酸化が行われる。かかる方法により、一酸化炭素濃度は燃料電池の特性に影響を及ぼさない程度まで低減される。
【0041】
固体高分子形燃料電池17はアノード12、カソード13、固体高分子電解質14からなり、アノード側には上記の方法で得られた一酸化炭素濃度が低減された高純度の水素を含有する燃料ガスが、カソード側には空気ブロアー8から送られる空気が、それぞれ必要であれば適当な加湿処理を行なった後で(加湿装置は図示していない)導入される。この時、アノードでは水素ガスがプロトンとなり電子を放出する反応が進行し、カソードでは酸素ガスが電子とプロトンを得て水となる反応が進行する。これらの反応を促進するため、それぞれ、アノードには白金黒、活性炭担持のPt触媒あるいはPt−Ru合金触媒などが、カソードには白金黒、活性炭担持のPt触媒などが用いられる。通常アノード、カソードの両触媒とも、必要に応じてポリテトラフルオロエチレン、低分子量の高分子電解質膜素材、活性炭などと共に、多孔質触媒層に成形される。
【0042】
次いでNafion(デュポン社製)、Gore(ゴア社製)、Flemion(旭硝子社製)、Aciplex(旭化成社製)等の商品名で知られる高分子電解質膜の両側に前述の多孔質触媒層を積層することによりMEA(Membrane Electrode Assembly)が形成される。さらにMEAを金属材料、グラファイト、カーボンコンポジットなどからなるガス供給機能、集電機能、特にカソードにおいては重要な排水機能等を持つセパレータで挟み込むことで燃料電池が組み立てられる。電気負荷15はアノード、カソードと電気的に連結される。アノードオフガスは加温用バーナー18において消費される。カソードオフガスは排気口16から排出される。
【実施例】
【0043】
以下、実施例および比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
(触媒の製造)
金属Ruとして担体の質量を基準として0.5質量%となるRuCl・nHOと、金属Ptとして担体の質量を基準として0.03質量%となるHPtClを、担体の吸水量に相当する量のイオン交換水に溶解した溶液を用いて、含浸法によって市販のγ−アルミナ担体(平均粒径2.5mmの球状)へ担持した。得られた金属担持担体を乾燥により水分を除去した後、これに10質量%のNaOH水溶液を含浸してアニオンの除去を行い、さらにNaBH溶液により液相還元することでRu/Pt/Al触媒を製造した。この触媒を触媒Aとする。触媒Aの残留塩素イオン濃度を測定したところ、触媒の質量基準で60質量ppmであった。
【0045】
金属Ruとして担体の質量を基準として0.5質量%となるRuCl・nHOを、担体の吸水量に相当する量のイオン交換水に溶解した溶液を用いて含浸法によって市販のγ−アルミナ担体へ担持した。得られたRu担持担体を乾燥により水分を除去した後、金属Ptとして担体の質量を基準として0.03質量%となるHPtClを、担体の吸水量に相当する量の10質量%NaOH水溶液に溶解した溶液を用いて含浸法により担持すると同時に、塩化RuおよびHPtCl由来のアニオンの除去を行った。これをさらにNaBH溶液により液相還元することでRu/Pt/Al触媒を製造した。この触媒を触媒Bとする。触媒Bの残留塩素イオン濃度を測定したところ、触媒の質量基準で58質量ppmであった。
【0046】
金属Ruとして担体の質量を基準として0.5質量%となるRuCl・nHOを、担体の吸水量に相当する量のイオン交換水に溶解した溶液を用いた含浸法によって市販のγ−アルミナ担体へ担持した。得られたRu担持担体を乾燥により水分を除去した後、金属Ptとして担体の質量を基準として0.03質量%となるHPt(OH)を、担体の吸水量に相当する量の10質量%NaOH水溶液に溶解した溶液を用いて含浸法により担持すると同時に、塩化Ru由来のアニオンの除去を行った。これをさらにNaBH溶液により液相還元することでRu/Pt/Al触媒を製造した。この触媒を触媒Cとする。触媒Cの残留塩素イオン濃度を測定したところ、測定の検出限界(触媒の質量基準で50質量ppm)未満であった。
【0047】
金属Ptとして担体の質量を基準として0.1質量%となるHPtClを、担体の吸水量に相当する量のイオン交換水に溶解した溶液を用いて含浸法によって市販のγ−アルミナ担体へ担持した。得られたPt担持担体を乾燥により水分を除去した後、これに10%のNaOH水溶液を含浸しHPtCl由来のアニオンの除去を行った。これをさらにNaBH溶液により液相還元することでPt/Al触媒を調製した。この触媒を触媒Dとする。
【0048】
金属Ptとして担体の質量を基準として0.1質量%となるHPtClを、担体の吸水量に相当する量の10質量%NaOH水溶液に溶解した溶液を用いて含浸法により市販のγ−アルミナ担体へ担持した。これをさらにNaBH溶液により液相還元することでPt/Al触媒を製造した。この触媒を触媒Eとする。
【0049】
金属Ptとして担体の質量を基準として0.1質量%となるHPt(OH)を、担体の吸水量に相当する量の10質量%NaOH水溶液に溶解した溶液を用いて含浸法により市販のγ−アルミナ担体へ担持した。これをさらにNaBH溶液により液相還元することでPt/Al触媒を製造した。この触媒を触媒Fとする。
【0050】
(一酸化炭素の選択的酸化反応)
各触媒をそれぞれ反応管に12ml充填し、水素気流中、200℃で1時間還元した。
次に、原料ガスとして水素(H)59体積%、一酸化炭素(CO)5,000体積ppm、二酸化炭素(CO)20.2体積%、水蒸気(HO) 20.3体積%からなる原料ガスと、空気とを触媒層に供給し、原料ガス中の一酸化炭素の選択的酸化反応を行った。反応条件は、常圧、GHSV8,000h−1、反応温度(触媒層入口温度)130℃とした。また、空気の供給速度を、Oと原料ガス中のCOのモル比(O/CO)が2.5となるように調整し、反応を開始した。30分後に反応が安定したところで、反応管出口の流出ガス中のCO濃度を測定した。次に空気の供給速度をO/COが2.4となるように低減し、30分間の安定化の後、再び反応管出口の流出ガス中のCO濃度を測定した。以後同様に、O/COが0.1間隔で減少するように空気の供給速度を低減し、各段階における反応管出口の流出ガス中のCO濃度を測定し、これをO/COが0.9となるまで繰り返した。
【0051】
(比較例1)
触媒Aを用い、上記の操作により一酸化炭素の選択的酸化反応を行った。各段階の反応管出口の流出ガス中のCO濃度の測定値から、CO濃度を10体積ppm以下とすることのできるO/COの下限値を求め、結果を表1に示す。
【0052】
(比較例2)
触媒Bを用いた以外、比較例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0053】
(実施例1)
触媒Cを用いた以外、比較例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0054】
表1から、Pt源としてHPt(OH)を用い、NaOH水溶液中でPtを担持した触媒を用いることで、一酸化炭素および水素を含有する原料ガス中の一酸化炭素の選択的酸化において、広いO/CO範囲でCO濃度を10体積ppm以下に低減できることが分かる。
【0055】
(参考例1)
触媒DについてPtの元素分析を行い、Pt担持量を求めた。また、触媒粒子を粒子の中心を通る面にて切断し、その断面を観察したところ、触媒粒子の外表面から内部にかけてグレーになったPtがほぼ均一に担持されていることが目視により観察された。結果を表2に示す。
なお、本参考例1および下記の参考例2、3は、本発明に係るRu−Pt担持触媒における触媒粒子内のPtの分布を調べる目的で行ったものである。すなわち、本発明に係るRu−Pt担持触媒においては、Ptの担持量が小さいこと、および相対的に担持量の多いRuの影響から、Ptの分布を観察することが困難である。そこで、Ruを担持せず、Ptの担持量を大きくしたモデル触媒を用いて、Ptの分布を観察したものである。
【0056】
(参考例2)
触媒Eを用いた以外、参考例1と同様の分析を行った。結果を表2に示す。
【0057】
(参考例3)
触媒Fを用いた以外、参考例1と同様の分析を行った。結果を表2に示す。
【0058】
表2から、HPt(OH)を用い、NaOH水溶液中でPtを担持する方法を用いることにより、触媒の製造段階において、Ptの移動や損失が発生しないことが分かる。また、前記方法により製造される触媒は、Ptが触媒粒子外表面近傍のみに偏在するエッグシェル構造を有することが示唆される。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
(実施例2)
実施例1の一酸化炭素の選択的酸化反応により得られた生成ガスを図1の固体高分子形燃料電池アノード極に導入して発電を行ったところ正常に作動した。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の燃料電池システムの一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0063】
1 水タンク
2 水ポンプ
3 原燃料タンク
4 原燃料ポンプ
5 脱硫器
6 気化器
7 改質器
8 空気ブロアー
9 高温シフト反応器
10 低温シフト反応器
11 選択的酸化反応器
12 アノード
13 カソード
14 固体高分子電解質
15 電気負荷
16 排気口
17 固体高分子形燃料電池
18 加温用バーナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ、シリカ、ジルコニアおよびチタニアから選ばれる少なくとも1種を含む無機酸化物からなる担体に担持されたRuとPtを含有し、前記PtがHPt(OH)をPt源として用い、塩基性溶液中で担持されたものであることを特徴とする一酸化炭素を選択的に酸化する触媒。
【請求項2】
前記塩基性溶液がNaOH水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記担体にRuを担持した後にPtを担持して得られることを特徴とする請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
アルミナ、シリカ、ジルコニアおよびチタニアから選ばれる少なくとも1種を含む無機酸化物からなる担体に担持されたRuとPtを含有する一酸化炭素を選択的に酸化する触媒の製造方法であって、Ptを担持するに際して、Pt源としてHPt(OH)を用い、塩基性溶液中で担持することを特徴とする前記触媒の製造方法。
【請求項5】
水素および一酸化炭素を含有する原料ガスと酸素含有ガスとを、請求項1〜3のいずれか1項に記載の触媒に接触させ、前記原料ガス中の一酸化炭素を選択的に酸化して一酸化炭素濃度を低減する方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の触媒が充填された反応器と、前記反応器に接続された水素および一酸化炭素を含む原料ガスの供給ラインと、前記反応器に接続された酸素含有ガスの供給ラインと、から少なくとも構成されることを特徴とする、前記原料ガス中の一酸化炭素濃度を低減し、高濃度水素含有ガスを製造する装置。
【請求項7】
請求項6に記載の装置から供給される高濃度水素含有ガスを陰極側燃料として供給することを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【公開番号】特開2009−166030(P2009−166030A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308460(P2008−308460)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】