説明

一酸化窒素放出分子

本発明は、一酸化窒素(NO)を放出する炭素系ジアゼニウムジオラートを含む組成物に関する。炭素系ジアゾニウムジオレート化分子は生理学的条件下に引き続くニトロソアミンの形成なしにNOを自発的に放出する。また、本発明は炭素系ジアゼニウムジオラート化分子、そのような分子を含む組成物を作成する方法、そのような組成物を用いる方法および、そのような分子組成物を用いる用具にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は米国特許法第120条に基づき、2004年2月9日付出願、米国仮出願第60/542,298号および2004年2月9日付出願、米国仮出願第60/542,277号の優先権を主張し、それぞれを本明細書の一部を構成するものとしてその全体を援用する。
【0002】
本研究は、国立衛生研究所、心臓・肺・血液研究所からの米国公衆衛生サービス助成No.R44HL062729によって資金援助された。
【0003】
本発明は、一般的に一酸化窒素放出分子に関する。より詳細には、本発明は炭素系ジアゼニウムジオラート一酸化窒素放出分子に関する。
【背景技術】
【0004】
一酸化窒素(NO)は、心血管止血、神経伝達および免疫応答における多様な機能的役割を有する生物学的規制分子である(Moncadaら、1990年;Marlettaら、1990年)。NOはそのような広範囲の生理学上の活性に影響を及ぼすので、医薬、生理学および薬理学の研究手段のためNOを放出する化合物をもつことが望まれる。さらにより望ましくは、治療および臨床用途に生理学的条件下にNOを発生できる無害で非発ガン性物質の化合物である。しかしながら、そのような化合物は開発するのがこれまで困難であった。
【0005】
NOを放出する低分子(一般的に式量600未満の分子として記載)は公知であり、有機硝酸エステルのようなある種のものは数十年間治療に使用されてきている。
【0006】
ジアゼニウムジオラートは−[N(O)NO]−官能基を含有する化合物の一種であり、100年以上前から知られている(Traube,1898年)。ジアゼニウムジオラート基を担持する分子は、NO放出剤として開示されている(米国特許第4,954,526号、5,039,705号、5,155,137号および5,208,233号)。ここで、ジアゼニウムジオラートは第1級アミン、第2級アミンまたはポリアミンに結合しており、生理学的条件下に一酸化窒素を自発的に生成する。これらのNO放出剤の利点は、ジアゼニウムジオラート基を担持するアミンの構造に依存する広範囲の半減期である(Keeferら、1996年)。窒素系ジアゼニウムジオラートに付随する主たる不利な点は分解に際して発ガン物質(ニトロソアミン)の潜在的な形成であり、NOの放出は式1(Parzuchowskiら、2002年)で示される。ある種のニトロソアミンは非常に発ガン性が高く、ニトロソアミン形成の可能性があるため、安全性の問題において治療用薬剤としての配慮からNOドナーのN系ジアゼニウムジオラート類は制限されている。
【化2】

【0007】
NOドナーの他の非ジアゼニウムジオラートはS−ニトロソ化合物(米国特許第5,536,723号、Loscalzoら、および5,574,068号、Stamlerら)およびC−ニトロソ化合物(米国特許第6,359,182号、Stamlerら)を含め記載されている。S−ニトロソ化合物に関し、それらの治療用の可能性は、それらの急速かつ予期できない分解(NOの放出)が極微量のCu(I)および場合によりCu(II)イオンの存在で生じるためで制限される(Dicksら、1996年;AlSa'doniら、1997年)。さらに、S−ニトロソ化合物は還元した組織チオールへのNOの直接移動により分解されるかもしれない(Meyerら、1994年;Liuら、1998年)。最後に、多くの哺乳類の酵素がS−ニトロソ化合物からNOの放出に触媒作用をするかもしれない(Jourd''heuilら、1999a;Jourd''heuilら、1999b;Askewら、1995年;Gordgeら、1996年;Freedmanら、1995年;Zaiら、1999年;Trujilloら、1998年)。しかしながら、イオン、酵素およびチオールの組織および血液レベルは各個体の広範囲な変動に影響され、それゆえNOの放出が個々に予期できないことになる。NO放出の血液および組織成分依存性と敏感さにより、医薬においてニトロソ化合物の治療用の可能性は限定される。
【0008】
NOを放出する炭素系すなわちC系ジアゼニウムジオラート分子のいくつかの引用文献が開示されている(米国特許第6,232,336号、6,511,991号、6,673,338号;Arnoldら、2000年;Arnoldら、2002年;Arnoldら、2002年)。C系ジアゼニウムジオラートは、N系ジアゼニウムジオラートとは対照的に、生理学的条件下で自発的にNOを放出する能力を維持しながら構造的にニトロソアミンが形成できない理由から望ましい。Hrabieらは一連のエナミン由来ジアゼニウムジオラートを記載しており、その内1つだけが自発的に生理学的条件下で、少量のNOを放出する(理論上、最大値の約7%)(Hrabieら、2000年、米国特許第6,232,336号)。
【0009】
さらに、1,4−ベンゾキノンジオキシムから誘導されるNOを放出するイミデート、メタントリスジアゼニウムジオラートおよびビスジアゼニウムジオラートが最近報告されている(Arnoldら、2000年;Arnoldら、2002a;Arnoldら、2002b)。しかしながら、化合物モル当たり2モルのNOの、好ましいNO放出特徴を有したジオキシムは発ガン物質に分解する(Westmorelandら、1992年)。メタントリス化合物は爆発性(Arnoldら、2002年)であり、イミデート類化合物は架橋タンパク質になりうる(詳細は後述)。
【0010】
Arnoldらは以下の一般構造式(I)NO放出イミデートおよびチオイミデートを開示し
ている。(米国特許第6,673,338号)
【化3】

彼らはまた、イミデート官能基が一般的にタンパク質に結合および/または架橋するのに用いられるように、イミデート官能基を共有的に分子を結合して重合体または生重合体(タンパク質)とするのに用いる実施形態を開示する(Sekharら、1991年;AhmadiとSpeakman、1978年)。しかしながら、イミデートは組織タンパク質と反応する可能性があるので、イミデートのタンパク質結合特性は血液、血漿、細胞または組織と接触する用途には望ましいものではないかもしれない。
【特許文献1】米国特許第4,954,526号
【特許文献2】米国特許第5,039,705号
【特許文献3】米国特許第5,155,137号
【特許文献4】米国特許第5,208,233号
【特許文献5】米国特許第5,536,723号
【特許文献6】米国特許第5,574,068号
【特許文献7】米国特許第6,359,182号
【特許文献8】米国特許第6,232,336号
【特許文献9】米国特許第6,511,991号
【特許文献10】米国特許第6,673,338号
【特許文献11】米国特許第6,232,336号
【0011】
それゆえ、生理学的条件下で自発的に、NO放出が変動するNO放出に至らすかもしれない金属、チオール、酵素または他の組織因子に影響されず、予期および整調できるNO量でNOを放出し、分子が分解してニトロソアミンを形成できないおよびタンパク質と共有結合しないNO放出分子のニーズが引き続きある。
【0012】
従って、本発明の目的は、生理学的条件下で自発的にNOの流れを発生できるC系ジアゼニウムジオラートを含む組成物を提供することである。本発明の別の目的は、予期および整調できるNO放出量を発生するNO放出分子を提供することである。本発明のさらに別の目的は、ニトロソアミンに分解またはタンパク質に共有結合しないジアゼニウムジオラート分子を提供することである。
【0013】
加えて、本発明の目的は、C系ジアゼニウムジオラート分子の合成方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、C系ジアゼニウムジオラート分子を生物学および医薬に用いるための方法を提供することである。本発明のさらなる目的および利点は以下の説明から明らかになるであろう。
【発明の概要】
【0014】
本発明は生理学的条件下で自発的にNOを放出し、ニトロソアミンの形成の可能性がない分子組成物を提供することによって上記の目的を達成する。本発明はフェニル基含有の分子に共有的に結合した、C系ジアゼニウムジオラートからNOを発生させる組成物を提供する。本発明者は、炭素原子を介して分子に−[N(O)NO]-基を結合することにより分子骨格に−[N(O)NO]-官能基を導入する別の手段を開発したが、それは一般式、

3−C(R1x(N222y 式1

で表され、式中、yは1から3の整数、xは0から2の整数、およびxとyの合計が3であり、R1はアミジン、エナミン、イミデートまたはチオイミデートでない。R1は限定されないが、ニトロ基のような電子吸引基、限定されないが−OCH3、−OC25および−OSi(CH33のようなエーテル基、第3級アミン、または、限定されないが−SC25および−SPh(Phは置換または非置換)のようなチオエーテルで表される。R1はまた、限定されないが−N(C252のようなアミンであってもよい。R2は対カチオンまたは有機基、R3は置換または非置換のフェニル基である。フェニル基は式2で示すように置換または非置換でもよい(式中、R4はプロトンまたは環上の置換基でもよい)。式1および式2のR1基の操作で放出動力学および放出NO量を変更できる。放出NOの量および動力学を変更するためのR1基の変更は後述する。
【化4】

【発明の詳細説明】
【0015】
本発明は、炭素原子に結合する−[N(O)NO]-官能基を有する新規の類の分子を提供する。本発明のC系ジアゼニウムジオラートは種々の理由から有用である。例えば、C系ジアゼニウムジオラートは医療用薬剤、研究手段または医療用具として有利であるが、それは影響を及ぼすニトロソアミン発ガン物質の形成の可能性なしに生理学的条件下で医療用に適切なレベルのNOを放出する能力による。本発明のC系ジアゼニウムジオラートは水溶液に可溶である。
【0016】
式1および2において、R1はアミジン、エナミン、イミデートまたはチオイミデート、またはジアゼニウムジオラート官能基の導入時にそれらを形成するかもしれない基を表さない。R1は以下の限定されない例によって表される。限定されないがニトロ基のような電子吸引基、限定されないが−OCH3、−OC25および−OSi(CH33のようなエーテル基、第3級アミン、または、限定されないが−SC25および−SPh(Phは置換または非置換)のようなチオエーテルで表される。R1はまた限定されないが−N(C252のようなアミンであってもよい。
【0017】
式1および2におけるR2は対カチオンまたは共有結合した保護基でよい。R2基が対カチオンである実施形態において、R2基はいかなる対カチオン、医療用に許容できるまたはできない、限定されないがナトリウム、カリウム、リチウムのようなアルカリ金属、カルシウムおよびマグネシウムのようなIIa族、鉄、銅および亜鉛などの遷移金属、ならびに銀および金などの他のIb族元素を含んでよい。使用できる他の医療用に許容できる対カチオンには、限定されないがアンモニウム、限定されないが塩素、ベンズアルコニウムイオン誘導体のような他の第4級アミンが挙げられる。当業者に理解されるように、負に帯電したジアゼニウムジオラート基は等量の正電荷と釣り合わなければならない。それゆえ、式1を参照すると、1つの対カチオンまたは複数の対カチオン(R2)の原子価数はジアゼニウムジオラート基の化学量数と、いずれもyで表されているが、一致しなければならない。2つ以上のジアゼニウムジオラートがベンジル炭素に結合し、R2が1価である実施形態において、R2は同一カチオンまたは異なるカチオンでよい。
【0018】
2は、ジアゼニウムジオラート官能基のO2-酸素に共有結合しているいかなる無機または有機基であってもよく、官能基はスルホニル、アシル、アルキルまたはオレフィン基の他に、限定されないが置換または非置換のアリールおよびグリコシル基(米国特許第6,610,660号,Saavedraら)を含む。アルキルおよびオレフィン基は直鎖、分岐鎖または置換鎖でもよい。
【0019】
2はメチルまたはエチルのような飽和アルキル、または不飽和アルキル(アリルまたはビニルなど)でよい。ビニルで保護したジアゼニウムジオラートはシトクロムP−450で代謝上、活性化されることが知られている。R2は、限定されないが2−ブロモエチル、2−ヒドロキシルプロピル、2−ヒドロキシルエチルまたはS−アセチル−2−メルカプトエチルなどのアルキル官能基である。後者の例はエステラーゼに敏感な保護基である。前者の例は化学的官能基ハンドルを提供する。そのような方法はペプチドをジアゼニウムジオラート分子に結びつけるのに採用され成功してきたものである。加水分解はメトキシメチル保護基の添加によって遅らせることができるだろう。R2は2,4−ジニトロフェニルのようなアリール基でもよい。この種の保護基はグルタチオンおよび他のチオールのような求核剤に対して敏感である。いくつかの異なる保護基が用いられ、および/またはすべてのジアゼニウムジオラート部分が同一の保護基で保護されない、またはすべてのジアゼニウムジオラート基が保護されない保護基添加の化学量論が調整されてもよいことは、当業者には明らかである。異なる保護基を用いて、またはジアゼニウムジオラート割合に対する保護基の化学量論を変化させて実務者が所望の割合でNOの放出を設計できるであろう。
【0020】
式1および2におけるR3基は置換または非置換のフェニル基である。式1および式2のフェニル基の置換基は化合物のNO放出特性を抑制しない、分子骨格に共有結合を維持するいかなる部分でよい。限定されないが適切な部分として脂肪族、芳香族および非芳香族環式基が挙げられる。脂肪族部分は炭素および水素で構成されるがハロゲン、窒素、酸素、硫黄またはリンも含んでよい。芳香族環式基は少なくとも1つの芳香環から構成される。非芳香族環式基は芳香環のない環状構造からなる。また、フェニル環は多環式系に組み入れられてよく、その例として、限定されないが、アクリジン、アントラセン、ベンザザピン、ベンゾジオキセピン、ベンゾチアジアザピン、カルバゾール、シンノリン、フルオレセイン、イソキノリン、ナフタレン、フェナントレン、フェナントラジン、フェナジン、フタラジン、キノリン、キノキサリンおよび多環式芳香族炭化水素のような他のものが挙げられる。フェニル環に置換されうる別の部分として、限定されないが一置換または二置換アミノ、非置換アミノ、アンモニウム、アルコキシ、アセトキシ、アリールオキシ、アセトアミド、アルデヒド、ベンジル、シアノ、ニトロ、チオ、スルホン、ビニル、カルボキシル、ニトロソ、トリハロシラン、トリアルキルシラン、トリアルキルシロキサン、トリアルコキシシラン、ジアゼニウムジオラート、ヒドロキシル、ハロゲン、トリハロメチル、ケトン、ベンジルおよびアルキルチオが挙げられる。
【0021】
本発明による分子は市販されている塩化ベンジルから誘導される。別の方法として、塩化ベンジルは多数の方法で合成でき、限定されないが、トルエンの光触媒塩素化、トルエンの過酸化物触媒塩素化およびベンゼンのクロルメチル化を含む。なお、2つ以上のクロロメチル化部位を含むフェニル環が検討される。
【0022】
本発明の好適な一実施形態において、式2を用いて、スキーム1に概説する二工程手順で分子が合成される。第一工程(1)において、塩化ベンジルが当業者に公知の方法を用いて処理され−Cl原子が求核性置換基に置き換えられる。求核性置換基がジアゼニウムジオラート官能基の導入のためベンジル炭素のプロトンを活性化するのが望ましい。本発明の好適な実施形態において、−Cl原子を置換する原子は、電気陰性のヘテロ原子である。−Cl原子を置換する求核性置換基が電子吸引性であることが好ましい。追加する好ましい置換基は、−OR、−NR12および−SRを含む群から選択できる。−OR基は限定されないが、−OCH3、−OC25および−OSi(CH33である。置換基は限定されないが、−SC25および−SPh(置換または非置換)のようなチオールである。また、置換基は限定されないが−N(C252のようなアミンである。
【0023】
スキーム1の第二工程(2)において、NOガスの存在下に塩基で分子を処理する必要がある。反応溶媒はアセトニトリルまたはエタノールのようには塩基の存在下でNOと反応してはならない。適当な反応のための溶媒は限定されないが、THFおよびDMFである。適当な塩基は限定されないが、ナトリウムメトキシドおよびナトリウムトリメチルシラノラートである。本発明の方法に従って、塩化ベンジルから誘導された得られる分子は次のこれらの手順で、水溶液媒体中で自発的にNOを放出する−[N(O)NO]-多官能基を含むことになる。一般式およびスキーム1で引用されるR2置換基は医療上許容できる対イオン、加水分解される基または上述したように酵素的に活性化された加水分解される基を表す。R4はプロトンまたはフェニル環または他のクロロメチル化された位置の置換基である。
【化5】

【0024】
「一般化学およびNO放出のコントロール計画」
いかなる1つの理論に制約されず、本発明にとってベンジル構造(メチルフェニル基)の重要性は3部分である。第一に、ベンジル炭素は相対的に酸性プロトンであり、求核試薬の選択によって塩基が容易にプロトンを引き抜くようにベンジルプロトンの酸性度を増加すべきである。ベンジル化合物を塩基の存在下にNOに曝すことは、ジアゼニウムジオラート官能基を製造するために知られていない。第二に、芳香環共鳴によって塩基によるプロトンの引き抜きから形成されるカルバニオンが安定する。安定化したカルバニオンによってカルバニオンがNOと反応することができ、ラジカル炭素中心およびニトロキシアニオン(NO-)を生成する。さらに、ラジカル炭素中心とNOまたはNO2量体が反応してジアゼニウムジオラート官能基を生成する。アニオン性ジアゼニウムジオラート官能基は残りのベンジルプロトンの酸性度を高め、新たなジアゼニウムジオラート基が炭素に付加されることができる。このように、3つのジアゼニウムジオラート官能基がベンジル炭素経由で分子の中に導入される。第三に、芳香環共鳴電子の存在は、水溶液媒体中で−[N(O)NO]−基の自発的分解を促進するのに役立つ。他のビスジアゼニウムジオラート、即ち、メチレンビスジアゼニウムジオラート[H2C(N22Na)2]は分解プロセスに加わる共鳴電子力に欠け、それゆえ溶液中で著しい安定性(NO放出が不可)を示す(Traube,1898年)。
【0025】
常用法で所望の量と速度でNO放出に至る他の好ましい方法は、個々に合成した分子を2種以上混合して、混合物から所望の速度のNO放出を達成するものである。
【0026】
NOを放出する分子は特定の目標地点でNOの局所化した流れを提供するのに用いられる。例えば、式1および2の分子は、物理的または化学的手段によって重合体マトリクスと非共有的に結合、重合体マトリクスの一部、重合体マトリクス内に分散、重合体マトリクスに組み込まれ、または、重合体マトリクス内に含有されることができる。これは、式1および2の分子を、限定されないがポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルからなる重合体メルトに混合し、それから、その重合体をMoweryら(2000年)に記載される方法に類似して、所望の形状に成形することにより達成される。別の方法として、米国特許第5,405,919号(Keeferら)記載の方法に類似しているが、重合体に低分子量のNOドナーを溶解して、溶媒を蒸発させて共沈殿が実施できる。当業者に公知の他の方法は、本発明の分子を重合体マトリクス中に非共有的に組み入れることで用いられる。
【0027】
NOの効果を局所化することに加えて、重合体マトリクスに本発明の非共有的に組み入れる化合物のいかなる手段は、組み入れたNOドナーを溶液または懸濁液から濾過または遠心分離によって除去することができる。重合体マトリクス中での非共有的な組み入れによって、本発明の実施形態は、限定されないがステント、代用血管、外科に用いられる体外用具、カテーテル、カニューレ、人工ジョイントおよび補装具、および体内または体の上に一時的または永久的に移植できるいかなるデバイスなどの医療用具に使用されることができる。
【0028】
「医療用具のためのコーティングにおける使用」
NOが医療的であるために、目的の場所で輸送/製造されるのが最も好ましい。本明細書に記載された分子は目的の所望の領域でNOの長く続く流れを発生する可能性を有する。本発明のNO放出分子を医療用具に局所化することは、重合の非共有形態を用いることにより、限定されないが物理的または化学的手段によって重合体マトリクスと非共有的に結合、重合体マトリクスの一部、重合体マトリクス内に分散、重合体マトリクスに組み込まれ、または、重合体マトリクス内に含有されること、および当業者に公知の他の方法により、血圧低下のようないかなる有害な全体的作用なしにNOの長く続く流れを提供することができる。例えば、これは、式1および2の分子を、限定されないがポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルからなる重合体メルトに混合し、それから、その重合体をMoweryら(2000年)に記載される方法に類似して、所望の形状に成形することにより達成される。別の方法として、米国特許第5,405,919号(Keeferら)記載の方法に類似しているが、重合体に低分子量のNOドナーを溶解して、溶媒を蒸発させて共沈殿が実施できる。当業者に公知の他の方法は本発明の分子を重合体マトリクス中に非共有的に組み入れるために用いられる。
【0029】
そのような非共有的重合方法によって、本発明の実施形態は、限定されないがステント、代用血管、外科に用いられる体外用具、カテーテル、カニューレ、人工ジョイントおよび補装具、および体内または体の上に一時的または永久的に移植できるいかなるデバイスなどの医療用具に使用されることができる。
【0030】
血管ステント
血管ステントの現状は再狭窄を抑制する手段としてシロリムスのような増殖防止薬剤を溶出するために設計されている。しかしながら、これらの医薬は抗血栓でなく、患者は生命を脅かす血液凝固を患ってきた。シロリムス溶出ステントは医薬溶出ステントと非医薬溶出ステント両方の開発に示される基本的問題を例証している。
【0031】
一酸化窒素は血小板の凝集を抑制し(Moncadaら、1991年)、平滑筋細胞増殖を防止し(Mooradianら、1995年)、損傷血管の内皮の再生を促進する(Zicheら、1994年)。血管ステントは、医薬溶出ステントの現状を超えて患者の転帰を改善する次のPTCAステント開発で回復プロセスを促進する治療量のNOを溶出するため本発明によりコートされることができる。
【0032】
例示で限定なしに、本発明のNO放出分子で構成またはコートされた血管ステントは、血小板の接着に抵抗し、血小板の凝集を防止し、平滑筋細胞増殖を防止する能力を有する(Mooradianら、1995年)。現状の抗増殖溶出ステントは血液凝固を抑制しない。これらのステントを受けた患者は3ヶ月間、抗凝固薬剤による療法を継続しなければならない。最近の報告によると、この種のステントを受けた数十人の患者の血液凝固の検出が開示されている(Neergaard,2003年)。当業者は抗増殖薬とNOの両方を同時に放出するコーティングを想像することができる。
【0033】
NOによって仲介された内皮細胞(EC)の増殖は、EC増殖が新規血管化に向かう最初の段階であるので非常に興味深い(Ausprunk,1977年)。本発明の化合物は上述したように、限定されないが血管ステントまたは血管代用のような医療用具にEC増殖を刺激するために非共有的に重合した形態で使用できる。ECがその用具の表面に融合するにつれ、用具と血液との接触が最小化され、自然の細胞層に置き換わり、したがって、移植した用具に生体適合性を与える。
【0034】
留置カテーテル
入院に伴う固有の問題は、カテーテル、シャントおよびプローブなどの挿入された医療用具に直接関係する感染および死亡数で示される。血管カテーテルの導入での感染により毎年2万人にのぼる死者が発生していると推定される。挿入された医療用具は微生物に人体への直接接近を提供する。これらのバクテリアは挿入された用具に付着し、コロニーを形成し、そのプロセスにおいて、バイオフィルムとして知られる抗生物質に耐えるマトリクスを形成することができる。バイオフィルムが成長するにつれ、プランクトン様細胞が逃げ出し、さらに患者の中で感染を拡大する。感染はバクテリアが医療用具にコロニーを形成する前に滅菌するまたはバイオフィルムが形成できないように用具にバクテリアが付着するのを防止することにより防ぐことができる。
【0035】
微生物付着防止に関し、最近の報告によって、NOが微生物付着を抑制できることを明らかにしている(Nabloら、2001年)。ポリアミノシロキサンがガラススライド上に溶着されNOドナーに誘導体化された。P. aeruginosa付着はNO放出ゾルゲルにより投与量に依存する形で抑制された。この初期の報告はバクテリア付着がNOを放出するように設計された表面に影響されることを強く示唆する。それゆえ、本発明のNO発生分子からなるまたは含有するカテーテルが、バイオフィルムの形成を抑制し、患者の健康管理を改善できる。
【0036】
本発明の化合物は留置カテーテルおよび他の医療用具の微生物付着および成長を減少または除去するために用いられる。当業者は本発明の化合物を組み込んだ、放出されたNO量が微生物汚染の付着、引き続く成長を抑制するのに十分な流れと継続があるコーティングを工夫できる。
【0037】
「治療用薬剤としての本発明の使用」
生理学上多機能なNOの役割から、式1および2の化合物は生物学および医薬において広範囲な有用性が得られる。本発明の実施形態は限定されないが高血圧、血栓の形成および再狭窄を含む血管疾患を処置するために用いられる。また、本発明は限定されないが、NOの適用が有用であろう過敏性腸症候群、癌、傷およびいかなる疾患を含むインポテンス、微生物感染、寄生生物による感染、胃運動性疾患を処置するのにも使用できる。
【0038】
数多くの適切な投与ルートは本発明を用いて一酸化窒素の有効投与量を与えるため、動物、好ましくは哺乳類、特に人間の処置用に採用される。経口、吸入、鼻内、静脈、皮下、筋肉内、局所、経皮および直腸投与の目的に、医療用組成物は式Iおよび2のいかなるジアゼニウムジオラートから構成される。医療用組成物は許容できる医療用キャリアを含んでもよい。
【0039】
本明細書で提供される式IおよびIIの化合物は投与ルートの通常の方法、注射可能物質
製剤および経口用製剤に調合され、以下の方法および賦形剤は通常の許容できる手段の例示であり、それらは医療用組成物に関して本発明の範囲を制限すると考えてはならない。
【0040】
本発明の組成物は、水溶液または植物油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸エステルまたはプロピレングリコールなどの非水溶性溶媒に溶解、懸濁または乳化によって、製剤に必要なら、溶解剤、等張剤、懸濁化剤、乳化剤、安定剤および保存剤などの従来の添加剤とともに調合される。本発明の化合物の非経口投与は、デキストロース、注射用殺菌水、USP(米薬局方)または正規の生理食塩水のような医療的に許容できるキャリアによってなされてもよい。
【0041】
製剤の場合、化合物は単独でまたは適当な添加剤と組み合わせて、錠剤、粉末、顆粒またはカプセル等を作るが、例えば、乳糖、マンニトール、コーンスターチまたは片栗粉などの従来の添加剤、結晶性セルロース、セルロース誘導体、アカシア、コーンスターチまたはゼラチンなどの結合剤、コーンスターチ、片栗粉またはカルボキシルメチルセルロースのナトリウム塩などの分離剤、タルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの滑剤、必要に応じて、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤および香料が組み合わされる。
【0042】
固体経口投薬形態の可能なものの内、好ましい実施形態として錠剤、カプセル、トローチ、カプセル、粉末、分散剤などが挙げられる。他の形態も可能である。好ましい液状投薬形態は限定されないが、非水溶液懸濁液および水中油型乳化液を含む。
【0043】
固体経口投薬形態の一実施形態において、タブレットは、活性成分として本発明による医療用組成物または医療的に許容できる塩、またスターチ、砂糖および微結晶性セルロースのような医療的に許容できるキャリア、希釈剤、粒状化剤、滑剤、結合剤、分離剤、および任意選択的に他の治療成分を含む。酸の中でのジアゼニウムジオラートの不安定性の理由から、胃が治療対象の器官でない場合に限り、胃の中で一酸化窒素の全投与量の放出を避けるために腸溶性または遅延放出コーティングで経口固体投薬形態をコートするのが有利である。
【0044】
固体投薬形態のコーティングの好ましい方法は、一酸化窒素がコーティングプロセスの間、投薬形態から放出する可能性を減ずるために投薬形態に腸溶性または遅延放出コーティングの非水溶性プロセスの使用を含む。非水溶性コーティングプロセスは、米国特許第6,576,258号に記載のように当業者になじみの深いものである。経時放出コーティングは米国特許第5,811,121号に記載されており、固体投薬形態をコートするためにアルカリ水溶液を使用する。このコーティングプロセスは本発明の化合物から一酸化窒素の放出速度が、高いpHレベルで大きく減少されるので、ジアゼニウムジオラートの投薬形態中でのレベルを保つ役割も果たすであろう。
【0045】
直腸および別の投薬形態も、ジアゼニウムジオラート類化合物の酸に対する不安定性および中性pHでの水溶液に対する敏感性を念頭に、当業者によって開発が可能である。本発明の筋肉内調合は油または水中油型乳化液で調合されてよい。
【0046】
その化学構造により、R2が医療上許容できるカチオンである本発明の化合物は、静脈注射によって投与されるのが最も好ましい。R2が医療上許容できる金属中心または有機基である式IおよびIIの化合物は、静脈用または経口用いずれかで投与されるのが好まし
い。本発明の化合物は、適当な医療上許容できるキャリアまたは希釈剤の組み合わせにより、医療用に注射可能または経口用組成物に作られる。当業者は、所望の医療用調合に適する賦形剤の知識をもとに、適当な投薬形態を開発できるであろう。
【0047】
「殺菌剤の用途における使用」
本発明の化合物は、潜在的に発病させるバクテリア、菌、ウイルスまたは寄生虫の量のレベルを減ずるために無生物対象物の表面に使用されてよい。このことは、潜在的に発病させる微生物の量を減少させるのに十分な強さと十分な継続期間がある本発明の化合物の溶液に対象物を接触させて達成される。「潜在的に発病させる」とは微生物が哺乳類のような動物に感染する能力を有することを意味する。殺菌剤溶液は微生物を殺すことに関与するまたはしない多種の他の成分を含んでよい。
【0048】
「血小板保存用途における使用」
NO放出分子の有用性の限定しない一例が血小板の生体外抑制である。一酸化窒素は血小板凝集の有力な抑制剤であることが示されている(Moncadaら、1991年)。また、NOの血小板への適用が主動筋に応答する細胞内カルシウムの減少をもたらす(Raulli、1998年)ほか、粒状含有物の放出のようなカルシウムに依存する他の細胞内プロセスをもたらす(Barrettら、1989年)。
【0049】
生体外血小板の活性化を抑制するNO放出分子のこの能力は、血小板保存損傷(PSL)処置に著しく有用であろう。血小板保存損傷は、採取、製剤および貯蔵で血小板に生じる変化の合計として定義され(Chrenoff,1992年)、貯蔵期間が増加するにつれ、増加する血小板機能の損失の原因である。
【0050】
当業者は貯蔵された血小板をNO発生分子で処理する多くの方法を考案することができる。本発明の例示の実施形態において、血液貯蔵区分室内に予め仕込んで製造された本発明の化合物を使用する。分子は適当な量と放出速度で、多血小板血漿(PRP)、血小板濃縮物(PC),分離血小板(APP)または従来的に保存されるであろう他の血小板製品の特定の量に対し血小板活性化を部分的にまたは完全に抑制するべきである。分子は、一酸化窒素を抑制する流れが全貯蔵期間中存在する必要はない実例を想像するが、血小板製品に対して全予想継続期間に及ぶ十分な継続のために一酸化窒素を抑制するレベルで放出すべきである。
【0051】
本発明のNO放出化合物は単体でまたは、最適なNOの放出速度および持続期間に到達するために設計された混合物であってよい。当業者は本発明の化合物が血小板貯蔵用の完全な以下に記載の製造システムの一部であると理解するであろう(米国仮特許出願番号60/471,724号、2003年5月20日出願、Raulliら、名称「Systems and Methods for Pathogen Reduction in Blood Products」)。
【0052】
「貯蔵されたヒト血小板の病原体減少における使用」
一酸化窒素が多種のバクテリア、菌およびウイルス病原体を殺すことができることは十分確立されている(DeGrooteとFang,1995年)。本発明の例示の実施形態において、血液製品を汚染するかもしれない生存能力のある微生物を減少または除去する十分なレベルの一酸化窒素を輸送する血液貯蔵区分室内に一酸化窒素放出分子を使用する。
【0053】
本発明の分子は血液製品を汚染する病原体を殺す、不活性にする、またはさらなる成長を遅らせるのに十分なレベルの一酸化窒素を適当な速度で十分な持続期間放出する。さらに、分子は血液細胞および血液血漿に適合する。当業者は本発明の化合物が血小板貯蔵用の完全な以下に記載の製造システムの一部であると理解するであろう(米国仮特許出願第60/471,724号、2003年5月20日出願、Raulliら、名称「Systems and Methods for Pathogen Reduction in Blood Products」)。
【0054】
「一酸化窒素ガスの発生における使用」
本発明の化合物は発ガン性ニトロソアミンの形成なしに、一酸化窒素ガスを発生するために用いられる。一酸化窒素ガスは肺疾患高血圧症を処置するため、空気、酸素および他のガスと組み合わせて使用してよい。一酸化窒素ガスは気体透過膜からなる以下に記載の区分室内で発生させてもよい(米国仮特許出願第60/471,724号、NOガスは気体透過膜を通して個々の区分室に輸送される)。
【0055】
一般的に、空気または、全体または部分が酸素で構成されたいかなるガスが排気された容器でNOの発生を開始するのは有用である。これによってNOが酸素と反応してNO2の生成を最小限とする。本発明の化合物がNOを発生させる室に置かれ、室が真空にされる。もしガスが急速に発生されるべきであれば、室の真空状態を保ちながら、室に適当な量の酸性溶液が添加される。室は高圧にならないで発生したガスを収容できるだけの十分な寸法とされる。適当な量の本発明の化合物が理想気体の法則により容器の体積に合わせることができる。もし高圧が望まれれば、室はそのような圧に耐えうる材料で構成さるべきである。本発明の化合物は、十分な量の酸と粉末形で結合されていれば、水を用いてNOの発生を活性化することもできる。NOと空気と混合するのが有用な用途を想像することができる。この場合、所望量の空気がNO発生の前または後で室に加えられる。当業者は、本発明の化合物が以下に記載のような殺菌のための完全な製造システムの一部であることも理解するであろう(米国仮特許出願第60/534,395号、60/575,421号、60/564,589号それぞれを本明細書の一部としてその全体を援用する)。
【0056】
本発明の他の実施形態において、NOはNOドナーと光酸とを混合して発生してもよい。照明がNO放出の活性化に役立つ酸を作成する。適当な光酸発生剤として、限定されないがトリフェニルスルホニウムトリフラート、2−ナフチルジフェニルスルホニウムトリフラート、2−(4−メトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジンおよびジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェートとが挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下の実施例によってさらに本発明が明らかにされる。記載したものを除き、すべての試薬および溶媒は、Aldrich Chemical Company (Milwaukee,WI)から得られる。一酸化窒素はMatheson Gas Productsによって供給される。装置の詳細な記述およびNOガス雰囲気下の反応を実施するのに使用される技術は公開されており(Hrabieら、1993年)、それを本明細書の一部としてその全体を援用する。IRスペクトルはPerkin Elmer 1600 FTIRで得られる。発生したNOガスの監視および定量化は、認定された標準NOガスで毎日検定されるThermo Environmental Instruments Model 42C NO-NO2-NOx検出器を用いて実施される。発生したNO量は10億当たりの割合ppbで測定され、その決定は以下の通りである。NO発生物質は窒素ガスが定常流で流れている室に入れられる。窒素ガスは室内で発生したNOをすべて検出器に送り込むのに役立つキャリアガスである。100ppbの測定値は、NOの100分子が室を掃引する窒素ガスの全10億分子に対して発生したことを意味する。
【0058】
〔実施例1〕
本実施例はベンジルエーテルをNO放出剤に変換する。
【0059】
ベンジルメチルエーテルPhCH2OCH3はSigma-Aldrich社から市販されている。Parr圧力容器中の100mlのジエチルエーテルにカリウムt−ブトキシド3.62g(0.032モル)を攪拌しながら添加する。この懸濁液に2ml(0.016モル)のベンジルメチルエーテルをゆっくりと添加する。酸素をフラスコから不活性ガスで加圧および排気の交互のサイクル(10)で取り除く。それから攪拌した溶液が80psiのNOガスに室温で24時間曝される。反応の完了すなわちNOガスがこれ以上消費されなくなったとき、頂部空間のNOガスが追放され、黄褐色の固体が濾取されエーテルで洗浄される。この材料のUV可視光スペクトラムは258nmがピークで、Greiss反応に陽性を示す。黄褐色の粗生成物はNO発生が分析された。黄褐色の生成物6.7mgを10mMのNaOH0.1mlに溶解して溶液を作成する。pH7.4の緩衝液3mlを含む反応容器に0.1mlの黄褐色の生成物溶液が注入される。黄褐色の生成物は79分間に渡り0.13mgのNOを発生する。
【0060】
〔実施例2〕
本実施例によってベンジル−NR分子を炭素系ジアゼニウムジオラートに変換する方法が記載される。
【0061】
Parr圧力容器中、2.0g(0.010モル)の市販の塩化トリメチルアンモニウムベンジルを200mlのt−ブタノールに添加する。攪拌しながら、3.62g(0.032モル)のカリウムt−ブトキシドをゆっくり添加する。頂部空間を60psiのNOガスに曝す前に不活性ガスで洗い流す。反応を室温で24時間またはこれ以上NOガスの消費が観察されなくなるまで進行させる。得られるジアゼニウムジオラート塩が濾取され、t−ブタノールおよびジエチルエーテルで洗浄し、分析前に真空乾燥される。
【0062】
〔実施例3〕
本実施例によってベンジル−SR分子を炭素系ジアゼニウムジオラートに変換する方法が記載される。
【0063】
市販されている塩化ベンジルおよびナトリウムエタンチオラートが求核置換反応に供されて分離と生成の後にPhCH2SC25を生成する。Parr圧力容器中、2.0g(0.013モル)のPhCH2SC25を200mlのt−ブタノールに添加する。攪拌しながら、2.94g(0.026モル)のカリウムt−ブトキシドをゆっくり添加する。頂部空間を60psiのNOガスに曝す前に不活性ガスで洗い流す。反応を室温で24時間またはこれ以上NOガスの消費が観察されなくなるまで進行させる。得られるジアゼニウムジオラート塩が濾取され、t−ブタノールおよびジエチルエーテルで洗浄し、分析前に真空乾燥される。
【0064】
〔実施例4〕
本実施例によってデオキシベンゾインをNO放出剤に変換する方法を記載する。デオキシベンゾインPhCH2C(O)PhはSigma-Aldrich社から市販されている。5.05g(0.026モル)のデオキシベンゾインを200mlのビーカー内のTHF10mlに添加する。200mlのビーカー内のTHF15mlにナトリウムトリメチルシラノラート5.96g(0.053モル)を加える。デオキシベンゾイン溶液を300mlのParr圧力容器中、ナトリウムトリメチルシラノラート溶液と混合する。酸素をフラスコから不活性ガスで加圧および排気の交互のサイクル(10)で取り除く。それから攪拌した溶液が80psiのNOガスに室温で24時間曝される。反応の完了すなわちNOガスがこれ以上消費されなくなったとき、頂部空間のNOガスが追放され、黄褐色の固体が濾取され、エーテルで洗浄される。乾燥させた生成物の重量は7.78gである。この材料のUV可視光スペクトラムは253nm(10mMのNaOH)がピークで、Greiss反応に陽性を示す。カルボニルのピークはFT−IR(KBrペレット)で1686-1cmにシフトする。黄褐色の生成物はメタノール/エーテル溶液で再結晶化できる。その生成物は化学発光を用いてNO放出が分析される。再結晶化された生成物11.5mgを10mMのNaOH50mlからなる貯蔵溶液が作成される。pH7.4緩衝液3.0mlを収納する化学発光反応器に生成物溶液2.0mlを注入する。275分に渡り、0.0093mgのNOの生成が観察される。これは化合物のmg当たり0.020mgのNOに相当する。
【0065】
〔実施例5〕
本実施例によって1,3−ジフェニルアセトンをNO放出剤に変換する方法を記載する。1,3−ジフェニルアセトンPhCH2C(O)CH2PhはSigma-Aldrich社から市販されている。ジフェニルアセトン(2.14g、0.010モル)を300mlのParr圧力容器に加える。ナトリウムトリメチルシラノラート(4.28g、0.038モル)を200mlのビーカー内のTHF40mlに添加する。それから、ナトリウムトリメチルシラノラート溶液を攪拌しながらParr圧力容器内の1,3−ジフェニルアセトンに添加する。酸素をフラスコから不活性ガスで加圧および排気の交互のサイクル(10)で取り除く。それから、攪拌した溶液が80psiのNOガスに室温で24時間曝される。反応の完了、すなわちNOガスがこれ以上消費されなくなったとき、頂部空間のNOガスが追放され、黄褐色の固体が濾取されエーテルで洗浄される。乾燥させた生成物の重量は5.9gである。この材料のUVバイススペクトラムは257.4nm(10mMのNaOH)がピークで、Greiss反応に陽性を示す。試料に酸を添加すると、257.4nmピークが243nmにシフトする。カルボニルのピークはFT−IR(KBrペレット)で1714-1cmに観察される。再結晶化された白色の生成物がNO放出を分析される。再結晶化された白色の生成物38.9mgの10mMのNaOH50mlの貯蔵溶液が作成される。pH7.4緩衝液3.0mlを収納する化学発光反応器に生成物溶液1.0mlを注入する。331分に渡り、0.0105mgのNOが生成されるのが観察される。これは化合物のmg当たり0.013mgのNOに相当する。
【0066】
〔実施例6〕
本実施例は例示の病原体S.epidermidesに対する殺菌剤として本発明の使用を示す。
【0067】
外科用用具または医療用具のような無生物の対象物が意図的にS.epidermidesに感染され、2mg/mlと飽和限界の間の濃度で、5分から48時間で維持時間で本発明の化合物の緩衝溶液に浸漬される。また、同一量のS. epidermidesで感染された同様の無生物の対象物が本発明の化合物を含まない緩衝溶液に同一の期間浸漬される。時間を変化させた後、無生物対象物の各々をすすぎ洗い、S. epidermidesの増殖を支援する無菌の培養液を含む個々のフラスコに浸漬し、その培養液を激しく前後に振り混ぜながら37℃で24時間培養する。フラスコ内のS. epidermidesの増殖を本発明の化合物に曝した対象物と曝さなかった対象物の両方について測定し、測定値を比較する。
【0068】
本発明の好適な実施形態について上記の開示は例示および説明のため提供されている。それは網羅的または開示された正確な形態に本発明を限定することを意図しない。本明細書で記述された実施形態の多くの変形および修正は、上記開示に鑑みて当業者には明らかであろう。本発明の範囲は明細書に付けられた請求の範囲およびそれらの均等なものによってのみ定義されるべきである。
【0069】
さらに、記載される本発明の典型的な実施形態において、明細書では本発明の方法および/またはプロセスを工程の特定の順序として提供されているかもしれない。しかしながら、方法またはプロセスはここで述べた工程の特定の順序に依存しない範囲で、方法またはプロセスは記述された工程の特定の順序に限定されるべきでない。当業者に明らかなように、工程の他の順序は可能であろう。それゆえ、明細書で記述された工程の特定の順序は請求の範囲の限定と解釈されるべきでない。なお、本発明の方法および/またはプロセスに向けられる請求の範囲は、記載された順での工程の実施に限定されるべきでなく、当業者は順序が変形でき、なお本発明の精神および範囲にあることを容易に理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C系ジアゼニウムジオラート化合物を含む組成物であって、前記組成物が生理学的条件下に予期および整調できる量でNOを放出し、生理学的な条件下にニトロソアミンを発生せず、ジアゼニウムジオラート基を担持する前記の炭素がイミデート、チオイミデート、アミジンまたはエナミンを含まないことを特徴とする組成物。
【請求項2】
次式のC系ジアゼニウムジオラート化合物を含む組成物であって、式、

3−C(R1x(N222y

式中、xは0から2の整数、yは1から3の整数、およびxとyの合計が3であり、
1はイミデート、チオイミデート、アミジンまたはエナミンでなく、
2は対カチオンおよび末端酸素の保護基からなる群から選択され、および
3はフェニル基、であることを特徴とする組成物。
【請求項3】
次式のC系ジアゼニウムジオラート化合物を含む組成物であって、式、
【化1】

1はイミデート、チオイミデート、アミジンまたはエナミンでなく、
2は対カチオンおよび末端酸素の保護基からなる群から選択され、および
3はフェニル基、であることを特徴とする組成物。
【請求項4】
3のフェニル基が置換フェニル基である、請求項2または請求項3の組成物。
【請求項5】
置換基が脂肪族、芳香族および非芳香族環式基からなる群から選択される、請求項4の組成物。
【請求項6】
置換基が一置換または二置換アミノ、非置換アミノ、アンモニウム、アルコキシ、アセトキシ、アリールオキシ、アセトアミド、アルデヒド、ベンジル、シアノ、ニトロ、チオ、スルホン、ビニル、カルボキシル、ニトロソ、トリハロシラン、トリアルキルシラン、トリアルキルシロキサン、トリアルコキシシラン、ジアゼニウムジオラート、ヒドロキシル、ハロゲン、トリハロメチル、ケトン、ベンジルおよびアルキルチオからなる群から選択される、請求項4の組成物。
【請求項7】
3のフェニル基が多環系である、請求項2または請求項3の組成物。
【請求項8】
多環系がアクリジン、アントラセン、ベンザザピン、ベンゾジオキセピン、ベンゾチアジアザピン、カルバゾール、シンノリン、フルオレセイン、イソキノリン、ナフタレン、フェナントレン、フェナントラジン、フェナジン、フタラジン、キノリンおよびキノキサリンからなる群から選択される、請求項7の組成物。
【請求項9】
1が電子吸引基、ニトロ基、エーテル、チオエーテルおよび非エナミンのアミンからなる群から選択される、請求項2または請求項3の組成物。
【請求項10】
エーテルが−OCH3、−OC25および−OSi(CH33からなる群から選択される、請求項9の組成物。
【請求項11】
チオエーテルが−SC25および−SPh、但しPhは置換または非置換でもよい、からなる群から選択される請求項9の組成物。
【請求項12】
アミンが第3級アミンである、請求項9の組成物。
【請求項13】
アミンが−N(C252である、請求項9の組成物。
【請求項14】
2がアルカリ金属、IIa族金属、遷移金属およびIb族元素からなる群から選択され
る対カチオンである、請求項2または請求項3の組成物。
【請求項15】
2がアンモニウムおよび他の第4級アミンからなる群から選択される対カチオンである、請求項2または請求項3の組成物。
【請求項16】
2がアリール、スルホニル、グリコシル、アシル、アルキルおよびオレフィン基からなる群から選択される保護基である、請求項2または請求項3の組成物。
【請求項17】
前記アリール基が2,4−ジニトロフェニル基である、請求項16の組成物。
【請求項18】
前記アルキル基が飽和アルキル、不飽和アルキルおよびアルキル官能基からなる群から選択される、請求項16の組成物。
【請求項19】
前記アルキル官能基が2−ブロモメチル、2−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシエチルおよびS−アセチル−2−メルカプトエチル基からなる群から選択される、請求項18の組成物。
【請求項20】
前記アルキル基がビニル基である、請求項16の組成物。
【請求項21】
静菌量または殺菌量のNOを哺乳類の組織に輸送する方法であって、前記組織を一酸化窒素放出炭素系ジアゼニウムジオラート化合物に曝すことを含む方法。
【請求項22】
前記一酸化窒素放出炭素系ジアゼニウムジオラート化合物が請求項1ないし20のいずれか一項に記載の組成物である、請求項21の方法。
【請求項23】
貯蔵されたヒト血小板中の病原体を減少または削除する方法であって、静菌および/または殺菌レベルの一酸化窒素を炭素系ジアゼニウムジオラート化合物から一酸化窒素を放出することにより血小板に輸送されるように血小板貯蔵容器内に十分な量の一酸化窒素放出炭素系ジアゼニウムジオラート化合物を含むことを特徴とする方法。
【請求項24】
血小板懸濁液中で血小板の活性化を防止する血液血小板を貯蔵する方法であって、血小板懸濁液を貯蔵するために用いる容器内に十分な量の一酸化窒素放出炭素系ジアゼニウムジオラート化合物を含有し、血小板懸濁液と炭素系ジアゼニウムジオラート化合物との接触によって血小板の活性化を抑制するため十分な一酸化窒素を生成することを特徴とする方法。
【請求項25】
血小板懸濁液の活性化を防止する方法であって、血小板懸濁液を収納するのに用いられる容器内に十分な量の一酸化窒素放出炭素系ジアゼニウムジオラート化合物を含有し、血小板懸濁液と炭素系ジアゼニウムジオラート化合物との接触によって血小板の活性化を抑制するため十分な一酸化窒素を生成することを特徴とする方法。
【請求項26】
前記包含工程が、前記炭素系ジアゼニウムジオラート化合物を収納する容器の使用または、血小板が容器に導入される前、途中または後で、炭素系ジアゼニウムジオラート化合物を容器内に添加することにより達成される請求項23ないし25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記一酸化窒素放出炭素系ジアゼニウムジオラート化合物が請求項1ないし20のいずれか一項に記載の組成物である、請求項23ないし26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
動物を処置する方法であって、動物に治療上有効な量の一酸化窒素を放出するため許容できる薬用キャリアおよび一酸化窒素放出炭素系ジアゼニウムジオラート化合物の有効量を導入することを特徴とする方法。
【請求項29】
前記一酸化窒素放出炭素系ジアゼニウムジオラート化合物が請求項1ないし20のいずれか一項に記載の組成物である、請求項28の方法。
【請求項30】
医療用具コーティングが一酸化窒素放出重合体を含み、前記一酸化窒素放出炭素系ジアゼニウムジオラート化合物が、物理的または化学的な手段によって、重合体マトリクスと非共有結合的に結合、重合体マトリクスの一部、重合体マトリクス内に分散、重合体マトリクスに組み込まれ、または、重合体マトリクス内に含有されることを特徴とする医療用具コーティング。
【請求項31】
前記一酸化窒素放出炭素系ジアゼニウムジオラート化合物が請求項1ないし20のいずれか一項に記載の組成物である、請求項30の方法。
【請求項32】
前記医療用具が血管ステント、代用血管、カテーテル、損傷被覆材、包帯、血液採取袋、血液成分貯蔵袋、体外膜型酸素供給(ECMO)回路、内部監視デバイス、外部監視デバイスおよび、体内、体外または生体外で哺乳類の組織に接触するデバイスからなる群から選択される、請求項31の医療用具コーティング。
【請求項33】
無生物対象物上の病原体を減少または除去する方法であって、静菌および/または殺菌レベルの一酸化窒素を炭素系ジアゼニウムジオラート化合物から一酸化窒素を放出することによって対象物の表面に輸送するように、前記対象物を十分な量の一酸化窒素放出炭素系ジアゼニウムジオラート化合物と接触させることを特徴とする方法。
【請求項34】
一酸化窒素を発生する方法であって、
容器に十分な量の一酸化窒素放出炭素系ジアゼニウムジオラート化合物を提供すること、および
一酸化窒素を生成するため前記炭素系ジアゼニウムジオラート化合物を酸性溶液と接触させることを含む方法。
【請求項35】
前記提供工程が前記炭素系ジアゼニウムジオラート化合物を収容する容器を使用することまたは、酸性溶液が容器に導入される前、途中または後で、炭素系ジアゼニウムジオラート化合物を容器内に添加することにより達成される、請求項34の方法。
【請求項36】
前記一酸化窒素放出炭素系ジアゼニウムジオラート化合物が請求項1ないし20のいずれか一項に記載の組成物である、請求項33ないし35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
酸が光酸発生物の照明によって生成される請求項34の方法。

【公表番号】特表2007−523900(P2007−523900A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553122(P2006−553122)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【国際出願番号】PCT/US2005/000175
【国際公開番号】WO2005/081753
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(506233162)ノクシライザー,インコーポレイテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】NOXILIZER, INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】2700 36th street, N.W., Washington, D.C. 20007, U. S. A.
【Fターム(参考)】