説明

三価鉄錯体およびレドックス活性物質を含有する薬剤

pH7におけるレドックス電位が、標準水素電極(NHE)に対して−324mV〜−750mVである1以上の三価鉄錯体と、1以上のレドックス活性物質とを含むものであって、デキストラン及び還元デキストラン、デキストリン、酸化又は還元デキストリン、同様のプルラン、それらのオリゴマー及び/又は還元プルランからなる群から選択される糖と、「アスコルビン酸」、「ビタミンE」、「システイン」と、「ケルセチン、ルチン、フラボン類、フラボノイド類、ヒドロキノンからなる群から選択され生理的に許容され得るフェノール/ポリフェノール」と、「グルタチオン」からなる群から選択されるレドックス物質、特にアスコルビン酸と、を含有する薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のレドックス電位を有する三価鉄錯体を含有する薬剤に関し、詳細には、糖またはその誘導体、特に、デキストリンまたはデキストリン酸化物と、1以上のレドックス活性物質、特にアスコルビン酸、さらに任意で追加するビタミン、微量元素、無機物、栄養素、及び/又は補助因子に関する。また本発明は、鉄欠乏状態やさらにその疾患に対する治療薬としてのそれらの使用、鉄欠乏状態やさらにその疾患に対する治療薬として、レドックス活性物質と時間的に同時または近接して投与する三価鉄錯体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄欠乏症は、世界的に見て最も一般的な微量元素欠乏症である。世界中でおよそ20億人が、鉄欠乏または鉄欠乏性貧血を患っている(E.M.Demaeyer, 「プライマリヘルスケアを通した鉄欠乏性貧血の予防と管理」, World Health Organization, Geneva, 1989, ISBN 92 4 154249 7)。
【0003】
免疫不全症、特にエイズの治療のための有効成分としての三価鉄酸化物の使用が、WO 95/35113で開示されている。
【0004】
治療に有用な鉄注射剤およびそれらの製法が、DE 1467980で開示されている。
【0005】
非経口投与に適した、三価鉄−ポリマルトース錯体の薬剤の製法が、US 3076798で開示されている。
【0006】
鉄欠乏状態の予防または治療における鉄−糖錯体の使用が、WO 04/037865で開示されている。
【0007】
鉄欠乏状態の予防または治療のための、還元デキストリンを配位子とする鉄錯体が、WO 03/087164で開示されている。
【0008】
三価鉄−プルラン錯体およびそれらの鉄欠乏状態予防または治療における使用が、WO 02/46241で開示されている。
【0009】
WO 99/48533では、およそ1,000ダルトンの特定分子量を持つ還元デキストランを含有する、鉄欠乏性貧血の治療のための鉄−デキストラン錯体が開示されている。
【0010】
WO 01/00204では、酸化ストレスや内皮の機能不全を防ぐための、ヒドロキサム酸、ヒドロキシピリジン、シデロフォア(カテコラミン)、ビタミンC及び/又はビタミンEの三価鉄錯体を含有する抗貧血組成が開示されている。用いられた三価鉄錯体のレドックス電位については議論されていない。
【0011】
US-A-4 994 283では、貧血の治療用として、二価鉄又は三価鉄−糖錯体と、フルーツジュースの形でアスコルビン酸塩とを含有する組成が開示されている。
【0012】
WO 2004/082693では、レストレス・レッグス症候群の治療用として、たとえばデキストランや、デキストリン/ポリマルトース、特にスクロースのような糖類を配位子とする、二価鉄および三価鉄の錯体を含有する組成が開示されている。この組成には、アスコルビン酸のような従来のアジュバントを添加することも可能である。
【0013】
EP-A-0 134 936では、貧血の治療用として、三価鉄を含有するハイドロタルサイト様錯体が、たとえば飲料の形で開示されている。さらなる添加物としては、たとえばグルコース、好ましくは、アスコルビン酸およびグルタチオンが挙げられる。
【0014】
硫化鉄は、胃腸障害や歯の変色といった、不快な用量依存的二次反応を、比較的高頻度に引き起こすことが知られている。鉄塩化合物由来の鉄は、遊離鉄イオンが受動拡散しやすい。この鉄は、血液循環に入ることができ、このことが、二次的反応や鉄中毒をもたらす。従って、ハツカネズミのLD50値でさえ、鉄230mg/kgと、比較的低い値である。
【0015】
鉄−デキストランの使用はOskiらの「非貧血 鉄欠乏乳幼児の行動遂行に対する鉄治療の効果」, PEDIATRICS 1983; Volume 71; 877−880 によって開示されている。鉄−デキストランの非経口での使用は、デキストラン誘導性のアナフィラキシーショックが起こり得るため不都合である。
【0016】
従来の経口鉄剤は、通常二価鉄塩であり、頻繁に激しい胃腸の副作用をもたらし、服薬遵守の不良へと導く。経口鉄剤による治療は、活性酸素種の形成を触媒し、腸組織の損傷を増加させる。遊離鉄は、活性酸素種形成の強力な触媒であるため、経口二価鉄剤による治療は、特に、慢性炎症性腸疾患の患者に対しては、有害にさえなり得る。経口二価鉄剤は、あまり吸収されないため、排泄物中の鉄濃度が高くなり、排泄物中の鉄のかなりの部分が触媒活性に利用される。鉄が、既に炎症を起こしているかもしれない腸粘膜と接触すると、活性酸素種の産生が増大し、これにより組織損傷が増大する。
【0017】
三価鉄−ポリマルトース錯体は、非イオン形の鉄を含有しており、より毒性が少ない。このタイプの化合物が投与されると、副作用はほとんど起こらず、硫酸鉄(II)と比して服薬遵守は改善される(Jacobs, P., Wood, L., Bird, A.R., Hematol. 2000, 5:77−83)。
【0018】
食物中のアスコルビン酸の量が鉄の吸収に作用し、アスコルビン酸の食物への添加が、食物中に含まれる鉄のバイオアベイラビリティをより向上させることが、様々な研究結果により示唆されている(たとえば、Bjorn−Rasmussen E. らによる、 Am. J. Clin. Nutr. Metabol. 1974, 16, 94−100; Cook J.D. らによる、Am. J. Clin. Nutr. Metabol. 1977, 30, 235−241; Derman D.P. らによる、Scand. J. Haematol. 1980, 25, 193; Gillooly C. らによる、Scand. J. Haematol. 1982, 29, 18−24; Hallberg L., Ann. Rev. Nutr. 1981, 1, 123−147; Hallberg L. らによる、Am. J. Clin. Nutr. 1984, 39, 577; Morch, T.A. らによる、Am. J. Clin. Nutr. 1982, 36, 219−223; Sayers M.H., Br. J. Haematol. 1973, 24, 209−218; Sayers M.H. らによる、Br. J. Nutr. 1974, 31, 367−375; Sayers M.H. らによる、Br. J. Haematol. 1972, 28, 483−495)。ここでは、しばしば、難溶性三価鉄を易溶性の二価鉄へと還元することが重要であるということが推定されている。
【0019】
この点を考慮し、アスコルビン酸を含む特殊な鉄剤が開発され、今日の市場において代表的なものとなっている。これらの鉄剤は、二価鉄塩、主に硫酸鉄(II)と、アスコルビン酸の組み合わせからなるものである。これら鉄剤中のアスコルビン酸は、鉄剤中の二価鉄が三価鉄に酸化されるのを防止している。
【0020】
さらに、二価鉄塩は、アスコルビン酸と有色の複合体を形成し、そのアスコルビン酸は、酸性pHで、塩化鉄(III)と可溶性のキレート錯体を形成するが、アルカリ性pHでは、三価鉄沈殿物と錯体を形成しない。溶解した三価鉄キレート錯体は安定であり、その後、溶液がアルカリ性になっても可溶型を維持する(Conrad, M.E. らによる、Gastroenterology 1968, 55, 35−45)。
【0021】
無酸素状態下で、メスバウアー分光法およびUV/VIS分光法を用いることにより、pH6〜7の範囲において、アスコルビン酸が二価鉄とではなく三価鉄と錯体を形成することを示唆することが可能になった(Hamed, M.Y. らによる、Inorg. Chim. Acta 1988, 152, 227−231)。二価鉄は、アスコルビン酸と錯体を形成しないため、アルカリ性において沈澱が見られる。これに対し、アスコルビン酸を伴う三価鉄は、中性およびアルカリ性pHにおいて、三価鉄錯体の形で存在する(Gorman, J.E. らによる、J. of Food Science 1983, 48, 1217−1255)。三価鉄は、pH6.5において、赤色を呈し、アスコルビン酸と1:1の割合で水溶性錯体を形成する(Hamed, M.Y. らによる、Inorg. Chim. Acta 1988, 12, 227−231)。
【0022】
三価鉄錯体は次の2つのグループに分類される:
・生理的条件下(pH7)において、NADP(H)で二価鉄に還元されるもの
・上記条件にて還元されないもの
【0023】
このときの臨界のレドックス電位は−324mVである。これは、pH7におけるNAD(P)H/NADPのレドックス電位である。
【0024】
pH7においての、アスコルビン酸からデヒドロアスコルビン酸への反応におけるレドックス電位は−66mVであることが知られている(Borsook, H. らによる、Proc. N.A.S. 1933, 875−878)。このことは、pH7におけるレドックス電位が−66mV未満である三価鉄錯体は、アスコルビン酸によって還元されないことを意味する。三価鉄−ポリマルトース錯体のpH7におけるレドックス電位は−332mVである(Crichton, R.R., Danielson, B.G., Geisser, P. 静脈内投与を重視した鉄治療, 2nd edition, UNI−MED Verlag AG, Bremen, 2005, p.44, Fig. 6.4)。
【0025】
本特許出願で取り扱うレドックス電位は全て、標準水素電極(NHE)に対する値に換算している。
【0026】
過去の研究において既に、胃腸内における三価鉄から二価鉄への還元に関して取り上げられている(Gorman, J.E. らによる、J. of Food Science 1983, 48, 1217−1225)。最近の研究では、還元反応は強酸性pHで生じるものであるが、三価鉄−アスコルビン酸錯体の形成は、より速い反応であり、高いpH値でも生じ得ることが示唆されている(Dorey, C. らによる、Iron Club Meeting 1988; Xu, J.らによる、Inorg. Chem. 1990, 29, 4180−4184)。
【0027】
早くも1968年には、塩化鉄(II)および塩化鉄(III)は、アスコルビン酸と組み合わせない時よりも組み合わせた時のほうが、はるかに良い吸収性を示すことが示唆されていた(Conrad, M.E. らによる、Gastroenterology 1968, 55, 35−45)。具体的には、この研究は、塩化鉄(III)由来の三価鉄は、塩化鉄(II)由来の二価鉄とほぼ同様に再吸収され、アスコルビン酸は二価鉄および三価鉄に吸収増大効果をもたらし、中でも三価鉄−アスコルビン酸錯体は最も良い吸収性を示し、当該薬剤は、貧血ラットのみならず非貧血ラットにおいても、他研究による薬剤よりも高吸収性を示すことを示唆していた。
【0028】
Derman(Derman, D.P. らによる、Scand. J. Haemtol. 1980, 25, 193−201)は、トウモロコシ粥によりフェリチンまたは水酸化鉄(III)として摂取する鉄3mgの吸収は、アスコルビン酸100mgを添加することによって、各々0.4%から12.1%および10.5%へと改善されることを示すことに成功した。pH3.0およびpH7.0においてアスコルビン酸と錯体を形成することにより、透析可能な鉄の割合は大幅に改善されるであろう。
【0029】
また、酸は、二価鉄塩またはヘモグロビン中の鉄の吸収を増大させることはないが、三価鉄塩や食物中の鉄の吸収は増大させることが知られている(Conrad, M.E. らによる、Gastroenterology 1968, 55, 35−45)。三価鉄イオンは腸粘膜では吸収されないため、鉄を溶解させ、その吸収を増大させるために、まず、消化管分泌物によって三価鉄イオンから二価鉄イオンへと還元されるか、キレート錯体を形成しなければならない。
【0030】
さらに、内藤らによる研究(Naito, Y. らによる、Digestion 1995, 56, 472−478)は、アスコルビン酸と結合した二価鉄イオンは消化管に局所性潰瘍を引き起こし、その発症機序には活性酸素による脂質過酸化が重要な役割を果たしていることを示唆している。
【0031】
当初、高濃度のアスコルビン酸は、おそらく、直接の抗酸化作用(Bucher, J.R. らによる、Fund. Appl. Tox. 1983, 3, 222−226)や、単に鉄を還元型に保つこと(Baughler, J.M. らによる、J.Biol.Chem. 261, 10282−10289)により、脂質過酸化を抑制しているのであろうと思われていた。
【0032】
しかし、二価鉄は酸素と反応し、三価鉄とフリーOHラジカルを生じる。これらラジカルの形成は、激しい副作用をもたらし、好ましいものではない。Fodorによる最近の研究では、二価鉄とアスコルビン酸の組み合わせは、二価鉄だけより、著しい消化管潰瘍を引き起こすことが示唆されている(Fodor, I. らによる、Biochim. Biophys. Acta. 961(1988), 96−102)。さらにFodorは、全ての組み合わせにおいて、二価鉄とアスコルビン酸の組み合わせが、最も強い脂質過酸化を誘導したことを示し、それゆえ、二価鉄と組み合わされたアスコルビン酸は、脂質過酸化のプロモーターであり、以前考えられていたようなインヒビターではないことを示唆している。つまり、脂質過酸化は生体膜損傷の原因であり、ゆえに、潰瘍の原因である。
【0033】
さらに、二価鉄とアスコルビン酸の組み合わせには毒性があることが、相次いで報告されている(Higson, F.K. らによる、Free Rad. Res. Comms. 1988, 5, 107−115; Uchida, K. らによる、Agric. Biol. Chem. 1989, 53, 3285−3292)。このような毒性作用を受けて細胞レベルでの損傷が起こり、副作用や不良な服薬遵守をもたらしている。
【0034】
酸化ストレス、特に脂質過酸化は、例えば心臓発作、癌やアテローム性動脈硬化を患うリスクの増大と関連付けられる。低比重リポタンパク質(LDL)の酸化修飾は、アテローム発生の原因である(Tuomainenらによる、Nutrition Research, Vol.19, No.8, pp1121−1132, 1999を参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
それゆえ、本発明者らは、鉄欠乏状態の治療に適し、脂質過酸化反応による消化管潰瘍の形成や酸化ストレスといった、前述した二価鉄−アスコルビン酸の組成による薬剤の悪影響なしに、鉄のバイオアベイラビリティの改善を確実なものとする、1以上のレドックス活性物質と組み合わせて容易に許容しうる三価鉄剤を見いだすことを本発明の目的とした。
【0036】
そのため、本発明の目的は、特にアスコルビン酸といったレドックス活性物質により、三価鉄が二価鉄へと還元されず、それゆえ酸化ストレスを引き起こさない、三価鉄と1以上のレドックス活性物質の組成物を提供することであった。一方で、レドックス活性物質を配位子とする三価鉄錯体の形成による、鉄の最適吸収の可能性も活用されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0037】
上記目的は、本発明によれば、特に糖またはその誘導体との三価鉄錯体といった特定のレドックス電位を持つ三価鉄錯体と、特にアスコルビン酸といった1以上のレドックス活性物質とを含む薬剤によって達成される。
【0038】
特にポリマルトース(マルトデキストリン)といった糖と三価鉄との錯体は特に良好な耐用性を示し、服薬遵守率は高い。三価鉄錯体による治療の間は、酸化ストレスは引き起こされない。
【0039】
本発明者らは、pH7での還元電位が−332mVである三価鉄−ポリマルトース錯体は、pH3、5.5、および8の緩衝液(緩衝系:pH3.0:10−3 mol/l HCl; pH5.5およびpH8.0:0.1 mol/l NHCl/NH; Geisser, P. らによる、Arzneim. Forsch. /Drug Res. 1990, 40(II), 7, 754−760を参照)中では、アスコルビン酸と反応してデヒドロアスコルビン酸を生成し、酸素を排除することはないことを示唆した。
【0040】
三価鉄−ポリマルトース錯体は、フェリチンレベルの緩増加をもたらすだけであるが、ヘモグロビン合成に効果的に使われている(T.P. Tuomainen らによる、Loc. cit. , p.1127)。
【0041】
本発明によれば、鉄欠乏状態とは、ヘモグロビン、鉄、フェリチン、が血漿中で減少し、トランスフェリンが増加して、トランスフェリン飽和度の減少をもたらす状態であることとして理解されている。
【0042】
本発明で扱われる疾患は、鉄欠乏性貧血および貧血を伴わない鉄欠乏を含む。その区別は、例えば、ヘモグロビン値やトランスフェリン飽和度の値によってなされる。フローサイトメトリーやシアノヘモグロビン法により決定されるヘモグロビンの基準値や、鉄、フェリチンやトランスフェリンの基準値は、例えば、Charite, Institute fur Laboratoriumsmedizin und Pathobiochemie(http://www.charite.de/ilp/routine/parameter.html)およびThomas, L. Labor und Diagnose, TH Book Verlagsgesellschaft, Frankfurt/Main 1988 の参照データバンクに記載されている。鉄欠乏でない患者においては、通常、トランスフェリン飽和度は16%より多く、フェリチン値は少なくとも30 μg/l、ヘモグロビン値は少なくとも130 μg/lである。
【0043】
M. Wick, W. Pinggera, P. Lehmann, Eisenstoffwechsel−Diagnostik und Therapien der Anamien, 4th extended edition, Springer Verlag Vienna 1988 によれば、あらゆる病態の鉄欠乏は、臨床化学的に検出することができる。通常、トランスフェリンの増加、トランスフェリン飽和度の低下に伴い、フェリチン濃度が減少する。
【0044】
本発明による薬剤は、さらに、免疫防御や知力の改善に利用できる。
【0045】
本発明内の免疫防御の改善とは、免疫応答の顕著な改善を意味しており、例えば、MTT法を用いて示されるフィトヘマグルチニン(PHA)に対するリンパ球応答の顕著な改善、好中球を用いて示されるニトロブルーテトラゾリウム試験の改善、濁度変化により測定される、好中球の殺菌能力の改善、例えば、単染色法によりBDフローサイトメーターを用いてカウントされる、例えばCD3,CD4,CD8,CD56モノクローナル抗体および/または麻疹、インフルエンザ、破傷風の抗体の改善を意味する。最後に述べたケースは、本発明の使用によれば、特に、好中球レベル、抗体レベル及び/又は例えばフィトヘマグチニンに対するリンパ球応答により決定されるリンパ球機能の改善により起こる。
【0046】
本発明内の知力の改善とは、特に、認識機能や情動行動の改善を含み、例えば、短期記憶検査(STM)、長期記憶検査(LTM)、レーヴン漸進的マトリックス検査、ウェスクラー成人知能検査(WAIS)及び/又は情動係数の改善において表現される。
【0047】
本発明における薬剤はまた、レストレス・レッグス症候群(RLS,エクボン症候群としても知られる)の治療にも用いることができる。これは、患者が座ったまま、または立ったままでさえいられない病気である。患者は、動きたいという気持ちを抑え難く、顕著な不眠症にも悩まされる。動くとすぐに症状は消えるが、動きが止まるとすぐに症状が復活する。横たわることを強要されると、無意識の脚の動きが観察される。この症状に関する更なる説明はWO 2004/083693を参照のこと。
【0048】
本発明における薬剤は、さらに、慢性炎症性腸疾患、特に、クローン病や潰瘍性大腸炎を伴う鉄欠乏状態の治療に適している。
【0049】
本発明における薬剤はまた、特に、アスコルビン酸以外に、ビタミン、ミネラル、微量元素、栄養素、及び/又は後述にあるような微量栄養素の形で、さらなる薬理学的に有効な成分を含む場合には、特に、妊娠した女性の鉄欠乏状態の治療もしくは予防に適している。
【0050】
本発明において用いられる三価鉄錯体は、pH7で、−324mV〜−750mVのレドックス電位、好ましくは−330mV〜−530mVのレドックス電位、特に好ましくは、−332mV〜−475mVのレドックス電位を有している。これらの条件は、三価鉄−トランスフェリン錯体と同様、特に、三価鉄−ポリマルトース錯体、三価鉄−デキストリン錯体、三価鉄−デキストラン錯体、三価鉄−スクロース錯体の条件を満たしている。これらのうち、前述したレドックス電位を有する三価鉄−ポリマルトース錯体が、特に好ましい。ただし、その他の三価鉄錯体も、前述の範囲内にレドックス電位を有するものであれば適している。
【0051】
本発明において用いられる三価鉄錯体は、特に、糖類と錯体を形成したものである。その糖は、デキストランとその誘導体、デキストリンとその誘導体、プルラン、オリゴマー、及び/又はその誘導体からなる群から選択される糖であることが好ましい。前述の誘導体は、特に、還元誘導体を含む。デキストリンまたはその酸化物と三価鉄との錯体であることが特に好ましい。本発明における三価鉄錯体の薬剤の例としては、例えば、最初に述べたDE14679800、WO 04037865 A1、US 3076798、WO 03/087164、WO 02/46241 の特許明細書に記載されており、特に、製剤のプロセスについて組み込まれているものが開示されている。
【0052】
本発明において好んで用いられる“デキストリン”という単語は、デンプンが不完全に加水分解されたときに形成される、D−グルコースを単位とした様々な低分子または高分子の総称である。デキストリンはまた、糖の重合によっても作られる(WO 02083739 A2、US 20030044513 A1、US 3766165 参照)。デキストリンは、例えば、トウモロコシやじゃがいもデンプンをα‐アミラーゼで酵素的に切断することにより作られ、DE値(デキストロース当量)により示される加水分解の程度によって特徴付けられる、マルトデキストリンまたはポリマルトースを含む。本発明におけるポリマルトースは、デンプン特にデキストリンの酸加水分解によっても得られる。本発明において用いられる三価鉄錯体の調製は、通常、アルカリ性水溶液(pH>7)中で、鉄(II)塩または鉄(III)塩、特に塩化鉄(III)と、デキストリン、特にポリマルトースまたは、デキストリンの酸化物との反応により行われる。弱酸性pHでの調製も可能である。ただし、10より大きいアルカリpH値が好ましい。
【0053】
pH値は、例えば、初めにおよそpH3まで弱塩基を添加し、次に、より強い塩基を用いて中和させ、ゆっくり、徐々に増加させることが望ましい。弱塩基としては、例えば、ナトリウム、カリウムの炭酸塩、重炭酸塩、アンモニアのような、アルカリまたはアルカリ土類炭酸塩、重炭酸塩が適している。強塩基としては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムの水酸化物のような、アルカリまたはアルカリ土類水酸化物が適している。
【0054】
反応は、加熱によって促進される。例えば、15℃から沸点までの温度が用いられうる。温度は徐々に上昇させることが好ましい。例えば、はじめに、およそ15℃から70℃まで加熱し、それから徐々に沸点まで上昇させる。
【0055】
反応時間は、20分から4時間、25分から70分、30分から60分、という風に、15分から数時間である。
【0056】
反応が終わると、反応液は、例えば室温にまで冷却され、任意で希釈および濾過される。冷却後、pH値は、酸または塩基の添加により、例えばpH5からpH7までの値といった、中和点またはそれより若干低い値に調整される。用いられうる塩基としては、例えば前述した反応時に用いられるものが挙げられる。酸には、例えば、塩酸、硫酸等が用いられる。反応液は、精製され、薬剤の調製に直接用いられる。しかし、例えばエタノールといったアルカノールのようなアルコールを用いて沈澱させ、溶液から三価鉄錯体を単離することもまた可能である。噴霧乾燥による単離でもよい。精製、特に塩を除去するためのもの、は、従来の方法で行われうる。この精製は、例えば、噴霧乾燥や薬剤としての直接使用の前に、逆浸透により行うことができる。
【0057】
得られた三価鉄錯体は、例えば、鉄含有量が10〜40%wt./wt. 、特に20〜35%wt./wt. である。これらは通常、容易に水に溶ける。鉄含有量1%wt./vol. 〜20%wt./vol. の中性水溶液から調製することも可能である。そのような場合は、加熱により滅菌を行う。
【0058】
三価鉄−ポリマルトース錯体の薬剤に関しては、US 3076798を参考にしてもよい。
【0059】
本発明の好ましい実施態様としては、水酸化鉄(III)ポリマルトース錯体を用いる。この三価鉄−ポリマルトースは、分子量20,000〜500,000が好ましく、より好ましい態様としては30,000〜80,000ダルトン(daltons)である(分子量は、例えば、Geisserらによる、in Arzneim. Forsch./Drug Res. 42(11), 12, 1439−1452(1992), Section 2.2.5. に記述されているようなゲル透過クロマトグラフィーにより決定される)。水酸化鉄(III)−ポリマルトース錯体は、スイスのVifor(International)AG社から市販されているMaltofer(登録商標)が、特に好ましい。さらに好ましい実施態様としては、1以上のマルトデキストリンの酸化生成物を配位子とする三価鉄錯体を用いる。これは、例えば、鉄(III)塩水溶液や、アルカリ性領域pHの次亜塩素酸塩水溶液での1以上のマルトデキストリンの酸化生成物から得られ、この時、1つのマルトデキストリンが用いられる際のデキストロース当量が5〜37であり、複数のマルトデキストリンの混合物が用いられる際の混合物のデキストロース当量が5〜37であって、混合物中の個別のデキストロース当量が2〜40である。そのようにして得られた錯体の重量平均分子量Mwは、例えば、30kDa〜500kDa、好ましくは80kDa〜350kDa、特に好ましくは、300kDaまでである。(分子量は、例えば、Geisserらによる、in Arzneim. Forsch./Drug Res. 42(11), 12, 1439−1452(1992), Section 2.2.5. に記述されているようなゲル透過クロマトグラフィーにより決定される)。これに関しては、例えばWO 2004037865 A1を参考にしてもよく、ここで開示されている全体は、本願に組み込まれている。
【0060】
還元デキストリンを配位子とする鉄錯体の薬剤については、WO 03/087164を参考にしてもよい。
【0061】
三価鉄−プルラン錯体については、WO 02/46241を参考にしてもよい。
【0062】
本発明のアスコルビン酸に伴い用いられうるレドックス活性物質としては、ビタミンE、システイン、生理的に許容されるフェノール/ポリフェノール、グルタチオンがある。生理的に許容されるフェノール/ポリフェノールとしては、例えば、ケルセチン、ルチン、フラボン類、その他フラボノイド類(例えばカンフル類)、ハイドロキノン類が適当であり、特に、ケルセチンとその誘導体が適している。アスコルビン酸は特に好ましい。1以上のこれらレドックス活性物質を用いることができ、ビタミンEとアスコルビン酸の組み合わせ、および、アスコルビン酸のみ、が特に好ましい。
【0063】
本発明に関する薬剤において、三価鉄錯体と特にアスコルビン酸といったレドックス活性物質の比重は、好ましくは1:0.05〜1:20、より好ましくは1:0.3〜1:2、特に好ましくは、1:0.4〜1:1.8、最も好ましくは、1:1.5である(三価鉄ではなく、三価鉄錯体に基づく)。
【0064】
本発明に関する薬剤は、任意で、アスコルビン酸を除くビタミン、微量元素、ミネラル、栄養素、補助因子からなる群から選択される、さらなる薬理活性成分を含むことができる。追加する薬理活性成分としては、β−カロテン、チアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ピリドキシン(ビタミンB6)、シアノコバラミン(ビタミンB12)、コレカルシフェロール(ビタミンD3)、α−トコフェロール(ビタミンE)、ビオチン(ビタミンH)といったビタミン類、パントテン酸、ニコチンアミド、葉酸といったコファクター、銅、マンガン、亜鉛、カルシウム、リン及び/又はマグネシウムといった微量元素/ミネラル、アミノ酸、オリゴペプチド、糖、脂質といった栄養素が好ましく、任意で、生理的に許容される塩であってもよい。生理的に許容される塩としては、従来、生理的に許容されている塩であればどのようなものでもよく、塩酸塩、硫酸塩、塩化物、リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩のような無機酸または無機塩基の塩、もしくは、例えば、酢酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩等の有機酸の塩が好ましい。追加の薬理活性成分は、水和物または溶媒和物の形で存在し得る。リンは、リン酸塩もしくはリン酸水素塩の形で追加されることが好ましい。
【0065】
アスコルビン酸は中性pHで、大気中の酸素によって酸化され、デヒドロアスコルビン酸を生じるため、空気にさらされる従来の溶液の形の薬剤は、本発明には全く適していない。
【0066】
一方、錠剤(チューイングタブレット、フィルムコート錠、発泡錠)、発泡性の顆粒、粉末混合物、カプセル、サシエ剤、あるいは、例えば、一回分のバイアルやボトルの溶液中に存在する酸化鉄錯体及び任意追加成分と、服用の直前に加えられる好ましくは粉末又は顆粒に含まれるレドックス活性物質、特にアスコルビン酸とのキット、のような長期間安定な薬剤が適している。とりわけ水が、前述の溶液の溶媒として用いられるが、従来のシロップやジュースであってもよい。本発明によれば、特に、単回投与器、すなわち、好ましくはガラスで出来ており、その蓋がレドックス活性物質のための容器として設計されており、蓋の底を容器に押し込むことにより、取り込まれ、服用前に簡単に中身に溶けるようになっている容器である。このような単回投与器は周知であり、市販されている。
【0067】
さらに本発明によれば、特にアスコルビン酸といったレドックス活性物質、好ましくは溶液のかたちで服用され、より好ましくはフルーツジュース、特にオレンジジュースのかたちで摂取されるレドックス活性物質と三価鉄錯体を、同時または近接した時間に服用することが提供される。
【0068】
近接した時間とは、ここでは、2つの成分が2時間以上、好ましくは30分以上超えない間隔で投与されることを意味する。
【0069】
好ましくは40mg〜120mg、より好ましくは60〜100mgの三価鉄(三価鉄錯体ではなく三価鉄として計算)が、錠剤、カプセル、ドロップ、ジュース、糖衣錠、その他の経口生薬の形で、約150mgのアスコルビン酸量に相当する100mlのオレンジジュースと一緒に服用されるのが好ましい。特に、60〜100mgの三価鉄を含有している錠剤が好ましい。前述したような、さらなる薬理活性成分は、三価鉄錯体の製剤またはレドックス活性物質の溶液、またはその両方に存在し得る。
【0070】
水酸化鉄(III)錯体およびレドックス活性物質および任意のさらなる成分は、従来の薬剤キャリアまたは補助物質と共に適切な薬剤を形成し得る。このために、従来の結合剤、滑剤、希釈剤、崩壊剤、充填剤等が用いられうる。錠剤は、従来の被膜剤でコートされうる。香味剤、味付けした物質、着色剤もまた、必要に応じて追加しうる。
【0071】
本発明で用いられる水酸化鉄(III)錯体は経口投与される。日用量は、例えば、三価鉄10〜500mgである。例えば、鉄欠乏や鉄欠乏性貧血の患者は、100mgの三価鉄を1日に2〜3回服用し、妊婦は60mgの三価鉄を1日に1〜2回服用する(各ケースにおいて、錯体としてではなく、三価鉄として計算)。
【0072】
レドックス活性物質、特にアスコルビン酸の日用量は、例えば、50〜300mgであり、およそグラス一杯分のオレンジジュース量に相当する約150mgが好ましい。
【0073】
薬剤は、患者のヘモグロビン値、トランスフェリン飽和度、フェリチン値に反映されるように鉄状態が改善するまで、また、知力や免疫反応における望ましい改善が達成されるまで、また、レストレス・レッグス症候群が改善するまで、数ヶ月間に渡って、躊躇なく投与することができる。
【0074】
本発明による薬剤は、子供、若者、大人に用いることができる。
【0075】
本発明による使用は、特に、鉄、ヘモグロビン、フェリチン、トランスフェリンの値の改善により行われる。短期記憶検査(STM)、長期記憶検査(LTM)、レーヴン漸進的マトリックス検査、ウェスクラー成人知能検査(WAIS)及び/又は情動係数(バロン EQ−i、YVテスト、青年バージョン)の改善、また、好中球値、抗体値、及び/又はリンパ球機能の改善。
【0076】
本発明の実施態様は、以下の実施例により詳説する。
【実施例1】
【0077】
下記成分を含むフィルムコート錠が、従来の方法で調製された。
β−カロテン 7.2mg
ビタミンB1(硝酸チアミンとして) 2.0mg
ビタミンB2 1.8mg
ビタミンB6(塩酸ピリドキシンとして) 2.7mg
ビタミンB12 0.0026mg
アスコルビン酸 95m
ビタミンD3 10μg
ビタミンE 12mg
ビオチン 0.1mg
パントテン酸カルシウム 7.6mg
ニコチンアミド 20mg
葉酸 0.8mg
硫酸銅、無水 5mg
塩化マンガン四水和物 11mg
硫酸亜鉛一水和物 52mg
リン酸水素カルシウム、無水 39mg
酸化マグネシウム 166mg
三価鉄−ポリマルトース錯体 226mg(三価鉄60mg)
クロスカルメロースナトリウム 41mg
コロイド状無水酸化ケイ素 7mg
ステアリン酸マグネシウム 6mg
微結晶性セルロース 116mg
Opadry 85F27316(被膜剤) 50mg
【実施例2】
【0078】
下記成分を含むフィルムコート錠が、従来の方法で調製された。
三価鉄−ポリマルトース錯体 226mg(三価鉄60mg)
アスコルビン酸 95mg
クロスカルメロースナトリウム 41mg
コロイド状無水酸化ケイ素 7mg
ステアリン酸マグネシウム 6mg
微結晶性セルロース 116mg
Opadry 85F27316(被膜剤) 50mg
【実施例3】
【0079】
アスコルビン酸を伴った三価鉄−ポリマルトース錯体のpH3.0、5.5、8.0での測定結果を下記に示す。

【0080】
緩衝液(前述したバッファー、Geisser, P. らによる、Arzneim. Forsch. /Drug Res. 1990, 40(II), 7, 754−760を参照)は、三価鉄とアスコルビン酸のモル比1:1で混合され、混合液中の三価鉄とアスコルビン酸の濃度は、各々5×10−5であり、従来のUV−VIS分光光度計を用いて測定された。操作は、厳重に酸素を除外した状態で行った。
【0081】
表は、アスコルビン酸を伴った三価鉄−ポリマルトース錯体は、pH3〜8において、4時間の間に、デヒドロアスコルビン酸と二価鉄へと緩やかにしか反応しないことを明瞭に示している。
【実施例4】
【0082】
臨床試験
三価鉄−ポリマルトース錯体を経口投与した後の、赤血球中への標識59Feの取り込みに対する、搾りたてオレンジジュース(エンハンサー)および茶(インヒビター)効果を、鉄欠乏および非鉄欠乏の被験者において調べた。
【0083】
方法:
これは、単一施設のクロスオーバー試験である。59Fe標識された三価鉄−ポリマルトース錯体(labelled Maltofer(登録商標)(Vifor(International)AG, Switzerland)として鉄100mgの単回投与が行われる2回の期間に参加した。片方の期間には、試験の被験者は、薬剤投与前に一晩中絶食し、もう片方の期間では、被験者は薬剤投与前に特定の食品(グループAおよびグループB)を受け取った。別の方法として、鉄吸収のエンハンサー(オレンジジュース)または鉄吸収のインヒビター(紅茶)(グループCおよびグループD)の飽和状態で薬剤を投与した。合計32名の被験者が、試験に参加した。被験者は、健常および鉄欠乏を伴う者であり、詳細には、下記のようなグループに分類された。
【0084】
グループA:
鉄欠乏を伴う被験者であり、規格化された食品の摂取後または一晩の絶食後、の各々のケースにおいて連続的に試験薬を受けた。
グループB:
健常者であり、規格化された食品の摂取後または一晩の絶食後、の各々ケースにおいて連続的に試験薬を受けた。
グループC:
鉄欠乏を伴う被験者であり、オレンジジュースまたは紅茶と一緒に、規格化された食品を摂取した後の状態で、連続的に試験薬を受けた。
グループD:
健常者であり、オレンジジュースまたは紅茶と一緒に、規格化された食品を摂取した後の状態で、連続的に試験薬を受けた。
【0085】
グループAおよびBでは、試験薬は、胃を空にした状態(すなわち一晩の絶食後)または規格化された朝食後に、水道水100mlと共に投与された。
【0086】
グループCおよびDでは、試験薬は、搾りたてのオレンジジュース100ml(従来の方法によると、アスコルビン酸量が150mgに相当する)または紅茶100mlと、規格化された朝食を共に摂った後に、投与された。
【0087】
全てのグループにおいて、試験のための投与がなされ、それにより、その都度、鉄100mgに相当する59Fe標識されたMaltofer(登録商標)ドロップ剤と、100mlの水またはオレンジジュースまたは紅茶(アールグレイのティーバッグ1つを100mlの水に4分間さらし、お茶を抽出させたもの)を一緒に服用したことになる。使用されたコップはすぐに100mlの水ですすぎ、この水も飲用した。
【0088】
飲食後に試験薬を投与する場合には、規格化された朝食は投与の30分前に給仕され、30分以内に食べ終えなければならなかった。
【0089】
全試験の被験者は、規格化された昼食、おやつ、夕食を、それぞれ試験薬投与の4時間後、6時間後、9時間後に、追加で受け取った。
【0090】
被験者は、下記の条件を満たす者である。
・ヘモグロビンが130g/l 未満(鉄欠乏者)またはヘモグロビンが130g/l以上(健常者)
・トランスフェリン飽和率が16%未満またはフェリチンが30μg/l 未満(鉄欠乏者)、トランスフェリン飽和率が16%以上またはフェリチンが30μg/l 以上(健常者)
・貧血(サラセミア、悪性腫瘍、慢性感染症)の原因にこれ以上のものはない。
【0091】
被験物
鉄100mgとして、元素鉄50mg/mlの濃度の59Fe標識された三価鉄−ポリマルトース錯体溶液(Maltofer(登録商標)ドロップ剤、スイス、Vifor(International)AG社)2mlが経口投与された。これは高分子錯体(分子量53,200ダルトン)である。製造業者から入手した被験薬Maltfoer(登録商標)ドロップ剤の標識は、GMPやGLPに相当する我々自身の薬剤規格に準じて、スウェーデンにあるウプサラ大学のGIN Laboratoryにて行われた。2回の単回投与は、少なくとも21日間あけて行われた。2期間に投与された放射能は、
第1期:1MBq59Fe
第2期:2MBq59Fe
であった。
【0092】
薬物動態および代謝性
最初の薬物動態および代謝性の変化は、赤血球中への59Feの取り込みである。第二の評価項目は、血漿中の59Fe活性である。血漿および赤血球中の59Feを測定するための試料は、薬を投与してから96時間後、そして、7日目、14日目、21日目に採取された。試料はEDTAチューブに入れて、60分間遠心分離機にかけ、血漿と赤血球は分析するまで冷蔵保存した。
【0093】
下記のパラメーターを測定した。
・血液学:血中ヘモグロビン、血中ヘマトクリット、血中白血球数、血中赤血球、血中白血球、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)、血中血小板、総鉄結合能(TIBC),血清鉄、血清トランスフェリン飽和度、血清フェリチン
・臨床化学:血清シアノコバラミン(B12)、血清葉酸、赤血球葉酸
【0094】
赤血球への取り込み曲線のプラトーは、試験薬の投与後およそ20日/3週であると予期された。血液量は、ナドラーら(Nadler, S.B. , Surgery, 1962, 224−232)に準じて、被験者の身長および体重から決定した。血中を循環する59Feの総量を計算するため、測定した血中放射能濃度に、血液量を乗じた。最初の代謝性の評価項目、すなわち、取り込まれた投薬量の割合を計算するため、この値は、投与された59Feの量で割った。
【0095】
3週後の取り込み値は、統計的評価に用いられた。第2期には2MBqが投与されたが、第1期の1MBqの投与による残留ノイズが考えられた。そのため、第2期における2MBqの投与後第3週の取り込み値から第1期における1MBqの投与後第3週の取り込み値を差し引いて補正を行った。
【0096】
貧血症と健常の被験者間での59Fe吸収の比較も行われ、二価鉄−ポリマルトース錯体を経口投与した後、血漿−放射能濃度の記述データにより血漿中59Fe活性を評価した。
【0097】
データの評価は、常法の統計的手法により行った。
【0098】
結果のまとめ
鉄欠乏および非鉄欠乏の両方の被験者に、エンハンサーであるオレンジジュースとMaltofer(登録商標)ドロップ剤の同時投与が有効であることが、鉄の相対的な取り込み量として表わされた。
【0099】
貧血症と健常の被験者間における赤血球中への鉄取り込み量の比較を行った。スチューデント検定を行い、危険率5%以下である(片側検定)。
【0100】
絶食後および食後にMaltofer(登録商標)ドロップ剤を投与した後の、赤血球への取り込みの結果は次の通りである。
【0101】
表2

【0102】
オレンジジュース(エンハンサー)または紅茶(インヒビター)と一緒にMaltofer(登録商標)ドロップ剤を投与した後の、赤血球への取り込み結果は次の通りである。
【0103】
表3

【0104】
絶食後と食後、および、インヒビターとエンハンサーの間における、赤血球への鉄の相対的な取り込みに対する幾何平均比の点推定および90%信頼区間は次の通りである。
【0105】
表4

【0106】
絶食後、食後、インヒビター摂取、エンハンサー摂取した、貧血症と健常な被験者間での、赤血球への鉄の相対的な取り込みに対する幾何平均比の点推定、pおよび90%信頼区間は次の通りである。
【0107】
表5

ID=鉄欠乏;ND=非鉄欠乏
【0108】
鉄欠乏および非鉄欠乏被験者の、絶食後、摂食後、オレンジジュース併用における、表2および3で示した赤血球への鉄取り込み量の平均を以下の表にまとめた。

【0109】
この結果は、鉄欠乏被験者の鉄吸収(赤血球への相対的な鉄の取り込み量)は、Maltofer(登録商標)を食物またはオレンジジュースと併せて投与した際に改善され、鉄吸収に対するオレンジジュースの効果は、その食物の効果よりも著しく大きいことを示している。インヒビターは食物と比べて明確な効果を示さない。健常者もまた、鉄欠乏者よりもその効果は少ないが、オレンジジュースとMaltofer(登録商標)との併用は、インヒビターとの併用に比べて有効であった。健常者では、絶食後の鉄吸収は、食物と併せて投与した時と比べて多く、鉄欠乏の被験者では、その逆の状況になっている。
【0110】
さらに、鉄欠乏の被験者に対し、Maltofer(登録商標)を食物と、エンハンサーまたはインヒビターと併せて投与した際の鉄吸収は、健常者と比較して多いことが、確認された。健常者に対し、絶食後にMaltofer(登録商標)を投与した際にも、吸収量の増大がみられた。
【0111】
本試験において、Maltofer(登録商標)ドロップ剤の激しい副作用はみられなかった。最も頻度の高い副作用は、軽度または中度の頭痛、下痢、腹痛であり、重度の副作用はみられなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH7におけるレドックス電位が、標準水素電極(NHE)に対して−324mV〜−750mVである1以上の三価鉄錯体と、1以上のレドックス活性物質とを含むものであって、
デキストラン及び還元デキストラン、デキストリン、酸化又は還元デキストリン、同様のプルラン、それらのオリゴマー及び/又は還元プルランからなる群から選択される糖と、
「アスコルビン酸」、「ビタミンE」、「システイン」と、「ケルセチン、ルチン、フラボン類、フラボノイド類、ヒドロキノンからなる群から選択され生理的に許容され得るフェノール/ポリフェノール」と、「グルタチオン」からなる群から選択されるレドックス物質、特にアスコルビン酸と、
を含有する薬剤。
【請求項2】
三価鉄錯体が、三価鉄−ポリマルトース錯体である請求項1記載の薬剤。
【請求項3】
三価鉄−ポリマルトース錯体の分子量が、20,000〜500,000ダルトンである請求項2記載の薬剤。
【請求項4】
三価鉄錯体が、1以上のマルトデキストリンの酸化生成物を含む請求項1乃至3のいずれか記載の薬剤。
【請求項5】
三価鉄錯体が、
鉄(III)塩水溶液や、アルカリ性領域pHの次亜塩素酸塩水溶液での1以上のマルトデキストリンの酸化生成物から得られ、
この時、1つのマルトデキストリンが用いられる際のデキストロース当量が5〜37であり、複数のマルトデキストリンの混合物が用いられる際の混合物のデキストロース当量が5〜37であって、混合物中の個別のデキストロース当量が2〜40である、
水溶性の鉄−糖錯体である請求項4記載の薬剤。
【請求項6】
経口投与のための請求項1乃至5のいずれか記載の薬剤。
【請求項7】
錠剤、又は顆粒剤、又はカプセル剤、又は発泡錠剤、又は混合粉末、又は発泡顆粒剤、又はサシエ剤の剤形である請求項1乃至6のいずれか記載の薬剤。
【請求項8】
特に溶液状である三価鉄錯体の薬剤と、
それらと空間的に分離しているレドックス活性物質を含む薬剤と、
を含むキットである、請求項1乃至6のいずれか記載の薬剤。
【請求項9】
単回投与器の形である、請求項8記載の薬剤。
【請求項10】
アスコルビン酸を除くビタミン、微量元素、補助因子、ミネラル、栄養素からなる群から選択される1以上の薬理活性成分を更に含む、請求項1乃至9のいずれか記載の薬剤。
【請求項11】
薬理活性成分が、三価鉄錯体溶液、又は、レドックス活性物質の薬剤、又は、その両方に含まれる、請求項8乃至10のいずれか記載の薬剤。
【請求項12】
三価鉄錯体とアスコルビン酸の重量比が1:0.05〜1:20である、請求項1乃至11のいずれか記載の薬剤。
【請求項13】
鉄欠乏状態の治療のための請求項1乃至12のいずれか記載の薬剤。
【請求項14】
請求項1に記載された1以上のレドックス活性物質と近接した時間又は同時に投与することを特徴とする、鉄欠乏状態の治療のための薬剤における、請求項1乃至5のいずれか記載の糖またはその誘導体を伴う三価鉄錯体の使用。
【請求項15】
慢性炎症性腸疾患の患者、特に、クローン病又は潰瘍性大腸炎の患者、又は、妊婦を対象とする、鉄欠乏状態の治療に使用する薬剤における、請求項14記載の使用。
【請求項16】
免疫防御の改善、知力の増強、及び/又はレストレス・レッグス症候群の治療のための薬剤であって、
請求項1に記載された1以上のレドックス活性物質と近接した時間又は同時に投与することを特徴とする、
請求項1乃至5に記載の糖またはその誘導体を伴う三価鉄錯体の使用。
【請求項17】
レドックス活性物質が、溶液、特に、フルーツジュース中に存在する、請求項16記載の使用。
【請求項18】
アスコルビン酸を除くビタミン、微量元素、補助因子、ミネラル、栄養素からなる群から選択される薬理活性成分をさらに含む薬剤の、請求項14乃至17のいずれか記載の使用。

【公表番号】特表2009−517359(P2009−517359A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541667(P2008−541667)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【国際出願番号】PCT/EP2006/065539
【国際公開番号】WO2007/060038
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(505150084)ヴィフォー・インターナショナル・アーゲー (10)
【Fターム(参考)】