三次元形状計測方法
【課題】 鋭利な先端部、特に稜線を構成する2面のなす角度が120度以下の部分を含む試料もしくは頂点の角度が120度以下の円錐部や角錐部を有する試料の三次元形状を、コンフォーカル顕微鏡を用いて計測する方法を提供すること。
【解決手段】 試料先端部のレプリカを複数作製し、該複数のレプリカをコンフォーカル顕微鏡により形状計測し、該複数のレプリカについて形状計測した各データを合成して観察試料の三次元形状を構築する。複数のレプリカは、レプリカ材に対する試料の接触あるいは浸漬角度を順次変えて複数作製する。
【解決手段】 試料先端部のレプリカを複数作製し、該複数のレプリカをコンフォーカル顕微鏡により形状計測し、該複数のレプリカについて形状計測した各データを合成して観察試料の三次元形状を構築する。複数のレプリカは、レプリカ材に対する試料の接触あるいは浸漬角度を順次変えて複数作製する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は三次元形状測定方法に関し、特に精密切削加工用工具の鋭利な先端形状やその他の先端の尖った針状体の形状をコンフォーカル顕微鏡を用いて測定するのに適した三次元形状計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切削加工等による超精密加工技術は、これまで微細な光学部品の生産を始めとする種々の用途に用いられており、今後もマイクロマシンなどの三次元構造体の形成に期待されている技術である。これに伴い、超精密加工に用いる工具や形成物の三次元形状を精密に計測するニーズが高まっている。
【0003】
工具として一般に用いられるダイヤモンドは、被切削物を高い形状精度で加工する必要があることから刃先が鋭利な形状になっている。工具先端の形状により形成物の品質が左右されることから、先端部の面及び稜線形状をサブミクロン以下の精度で正確に計測することが求められている。
【0004】
従来より微細な三次元形状計測を高精度に行う手段としては、(1)原子力間顕微鏡(AFM)による触針式の形状計測 (2)走査電子顕微鏡(SEM)による形状計測 (3)光を照射し、その反射光あるいは干渉光を用いた光形状計測する方法などが知られている。また試料の大きさに制約がある場合などは、観察試料を石膏、樹脂等に浸漬してレプリカを取り、該レプリカを必要に応じて切断等の処理を行った後に種々の手段で形状計測する方法が用いられている。このうち(1)のAFMの測定精度は、原理上、原子分解能に達するが広範なエリアの測定が出来ないことや、表面凹凸の高さが数ミクロン以上ある場合や鋭利な先端部がある場合、プローブの形状の制約により段差に追従できず測定が不可能になってしまう。さらに、先端を加工した専用のプローブや高精度の検出機構などが必要であり、これらを制御して観察画像を得るには高価な装置が必要となってしまう。AFMやSTMの探針の先端形状を測定する方法として、特登録03090295号公報において、特殊な形状を有する専用の標準試料をある決められた方法で測定し、得られた測定データを処理することにより、探針自身の形状を求める方法が提案されている。
【0005】
また(2)のSEMを用いた装置としては、電子ビームを試料に照射した際に発生する二次電子または反射電子を複数の検出器で検出し、これら複数の検出器の出力に基づいて前記試料の先端稜の断面形状を算出する装置を用いることが可能である。特公平7-69164号公報においては、上記手法を用いた工具先端の形状測定方法が提案されている。しかしながら特殊な電子顕微鏡を必要とすることや試料セッティングが煩雑等の問題がある。また絶縁物であるダイヤモンド工具を観測する場合は、チャージアップにより画像が乱れ測定が不可能になってしまう。またダイヤ表面に導電性の膜をコーティングし観察することが必要となる。
【0006】
一方(3)の光を用いる方法においては従来、特開平5-322528号公報で提案された方法のように、被測定物にレーザーを照射した時の反射光を光位置検出器により検出して形状測定する方法があるが、サブミクロン以下の測定精度で三次元形状を計測することは困難である。
【0007】
サブミクロン以下の測定精度で三次元の形状計測が可能な装置としてはコンフォーカル顕微鏡が挙げられる。コンフォーカル顕微鏡の構成を図9に示す。コンフォーカル顕微鏡の基本構成としては、レーザ光源11、スキャンユニット12、対物レンズ13、ダイクロイックミラー14、集光レンズ15、結像点のピンホール16および結像した光を測定する受光装置17である。具体的には、レーザー光源1から放射されたレーザー光18は2次元スキャンユニット12によって2次元走査され、対物レンズ13により集光されて試料19の観察点に照射される。試料からの反射光は対物レンズから走査ミラーへと光路を逆行し、ダイクロイックミラー14で励起レーザ光と分離される。ダイクロイックミラー14を反射した光は、集光レンズ15により光路中に配置したピンホール16に集光される。このとき、試料の結像部からの反射光のみがピンホール16を通過し受光装置17に達し、光電変換されて電気信号に変換されるのでデフォーカス情報は排除される。この信号と走査位置情報とをコンピュータを用いて所定の処理を行うことで試料の蛍光像や反射像の切片画像を得る。
【0008】
ところが図9に示す共焦点顕微鏡において、試料19に傾斜面がある場合、この傾斜面からの反射光がピンホールに戻らない場合がある。例えば、図10は傾斜面を有する試料の近傍を示す説明図である。図10に示す試料19の傾斜面に矢印で示したように光20が入射された場合、反射光21は対物レンズ13の開口外に出てしまい、ピンホール板のピンホールに戻らない。一般に用いられるコンフォーカル顕微鏡の対物レンズは開口角が30度以下である場合が多いことから、光軸に垂直な面に対して30度以上の傾斜を有する試料では共焦点画像を得ることが難しいことになる。
【0009】
特開平10−206739号公報においては入射光の開口数よりも対物レンズの開口数を大きくすることにより、傾斜面を有する試料の表面検出精度を向上させる提案がなされている。また、特開2003−084207号公報においては、ディスクスキャン型のコンフォーカル顕微鏡において、落射照明光源の光路とは異なる光路で試料を照明する光学系を備えることにより、斜面の検出感度を向上させる提案がなされている。
【特許文献1】特登録03090295号公報
【特許文献2】特公平7−69164号公報
【特許文献3】特開平5−322528号公報
【特許文献4】特開平10−206739号公報
【特許文献5】特開2003−084207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、たとえば超精密加工に用いるダイヤモンド工具の場合、図11に示したように、稜線を構成する2面のなす角度が鋭角であるものや、先端が3つ以上の面から構成される角錐形状を有するものが多い。この場合、刃先先端の三次元形状を計測することは、上記理由から困難となる。開口数の大きなレンズに切り替えることにより、対物レンズの開口内に入る反射光を増やすことはできるが、その傾斜角には限界がある上に、開口数の大きな対物レンズは非常に高価であり簡単に入手することはできない。さらに特開2003−084207号公報提案のような方法を用いてある程度までは対物レンズの開口内に入る反射光を増やすことはできるが、その傾斜角には限界があり、様々な試料に適用することは難しい。一方特開2003−084207号公報に示した方法を用いた場合、測定分解能が若干低下することが考えられる。
【0011】
また、エッジ部分を多方向から計測する方法として、エッジ部のある点を中心として試料を回転及び傾斜させながら計測する方法も考えられるが、その場合、非常に高精度ステージが必要となり、現実的には難しい。
【0012】
本発明は上記従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、本出願に係る発明の目的は、鋭利な先端部、特に稜線を構成する2面のなす角度が120度以下の部分を含む試料もしくは頂点の角度が120度以下の円錐部を有する試料の三次元形状を、コンフォーカル顕微鏡を用いて計測する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために成されたものである。すなわち、請求項1に記載の本発明は、稜線を構成する2面のなす角度が120度以下の鋭利な先端部を有する観察試料もしくは頂点の角度が120度以下の円錐部を有する試料の立体形状を計測する方法であって、前記試料の先端部をレプリカ材に接触あるいは浸漬して先端部のレプリカを作製する工程と、該レプリカ材に対する該試料の接触あるいは浸漬角度を順次変えて前記工程をくり返し複数のレプリカを作製する工程と、該角度を変えて形状を転写した複数のレプリカをコンフォーカル顕微鏡により形状計測する工程と、該複数のレプリカについて形状計測したデータを合成して観察試料の立体形状を構築する工程を経ることを特徴とするものである。
【0014】
その一態様において、前記観察試料が、3つ以上の面から構成される角錐形状を有することを特徴とするものであり、例えば切削加工用ダイヤモンドバイトであることを特徴とするものである。
【0015】
該レプリカ材が軟質金属であることを特徴とするものである。また別の一態様においては該レプリカ材が熱可塑性樹脂であることを特徴とするものである。さらに別の一態様においては、該レプリカ材が低融点金属であることを特徴とするものである。
【0016】
また本発明にけるレプリカ材に接触あるいは浸漬する角度を順次変えてくり返し複数のレプリカを作製する工程の一態様において、任意の一方向に接触あるいは浸漬角度を順次変えることを特徴とするものである。また別の一態様においては、直交する2方向に接触あるいは浸漬角度を順次変えることを特徴とするものである。さらにレプリカ材に接触あるいは浸漬して形成されたレプリカの深さが100μm以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
上記のように、測定試料のレプリカを、該レプリカ材に対する該試料の接触あるいは浸漬角度を順次変えて複数作製した後に、該複数のレプリカをコンフォーカル顕微鏡により形状計測し、該複数のレプリカについて形状計測した各データを合成して観察試料の三次元形状を構築することにより、ダイヤモンド工具のように鋭利な先端形状を有するものであっても三次元形状データを容易に、かつ安価な方法で取得できる。
【0018】
なお、上記説明においては測定試料と精密切削加工用のダイヤモンド工具を取り上げたが、例えばビッカース硬度計やナノインデンターに用いるダイヤモンド圧子等にも適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図を用いて本発明を詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態にかかるレプリカ作成方法を示す図である。図1において、1は測定試料、2はレプリカ材、3はコンフォーカル顕微鏡(一部)を示す。本発明では、観察領域である鋭利な先端部の形状をレプリカ材に転写した後、そのレプリカ材をコンフォーカル顕微鏡観察する。レプリカは、軟質金属などからなるレプリカ材2に先端部1を押し付けるか、あるいは室温で固体の熱可塑性樹脂等からなるレプリカ材2を一旦加熱して軟化させ、これに先端部を浸漬し、室温で固化させる方法を用いることもできる。前者は取り扱いが簡単であり、後者は室温での形状変化が起こりにくいという利点がある。形状転写後は先端部をレプリカ材から抜いて分離する。レプリカ材表面3はできる限り平滑であることが望ましい。本発明では、図1(a)(b)(c)に示したように接触あるいは浸漬する角度θを順次精度良く変えて形状を転写し、複数のレプリカを作製する。角度θ及びレプリカの数は試料先端の形状に応じて適宜選択することができるが、前述のようにコンフォーカル顕微鏡では30度以上の傾斜は測定が困難である。したがって先端部のどの部分も、複数のレプリカのうち少なくとも1つにおいて傾斜30度以内に収まるようレプリカを作製する。この時角度θは、任意の1方向あるいは直交する2方向に変えていくことが、その後三次元形状を構築する際には望ましい。先端部が2つの面と1つの稜線で構成されている試料の場合は、角度を送る方向は稜線を垂直に横切る1方向で良く、3つの面以上からなる角錐形状の先端部を有する試料の場合は、必要に応じて2方向に角度を変えるようにする。
【0021】
角度θの送り精度は0.1°以内の精度であることが望ましく、市販の回転ステージに測定試料を固定して順次角度を変えながら作製していけばよい。
【0022】
またレプリカ材に押し付けるあるいは浸漬する深さは、コンフォーカル顕微鏡の深さ方向の測定領域を考慮し、100ミクロン以下であることが望ましい。
【0023】
レプリカ材2としては、鉛、亜鉛、金、銀、白金、錫、マグネシウム、純鉄、純銅、アルミニウム、インジウム等の軟質金属や、常温では固体で融点150℃以下の低融点金属や低融点合金、ポリエチレン樹脂、ワックス類等の熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0024】
形状測定は、作製した各々のレプリカについて汎用のコンフォーカル顕微鏡を用いて行うことができる。複数のレプリカについて個別に測定することも同時に測定することも可能である。各レプリカについては、傾斜面が30度以下の部分のみを計測できれば良い。
【0025】
三次元形状は、各レプリカについての測定データを合成することにより構築することができる。合成方法としては、レプリカを作製した際のレプリカに対する試料の接触あるいは浸漬角度θを用いて傾斜角の補正を行い、さらに画像の表面位置が一致するように演算処理する方法を用いる。
【0026】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
本実施例を図1、2、3を用いて説明する。本実施例では、試料1として図2に示したような、刃先が二つの平面と稜線部からなるダイヤモンドバイトを用いた。稜線の長さLは1mm、2面のなす角αは74度である。ここでは刃先稜線部及び刃先から200ミクロンの領域の斜面の計測を行うことを目的とし、まず測定に用いるレプリカを作製した。本実施例においては、レプリカ材2としてインジウムを用いた。インジウムは表面を水平に加工し、XYZステージ上に載せた。
【0028】
レプリカ作製は図3に示したように以下の通り行った。まず、ダイヤモンドバイトを回転ステージに取り付け、レプリカ表面に対してバイトの稜線を平行に、かつ軸5が垂直になるように固定した。次にインジウムを、バイトの先端が接触するまで上方に動かし、接触後さらに30ミクロンステージを上昇させ、先端形状をインジウムに転写した。その後ステージを元の位置まで下降させた。
【0029】
続いてダイヤモンドバイトを、稜線を垂直に横切る方向に40度回転させて固定した。あとは前記と同じ方法で、インジウムをバイトの先端が接触するまで上方に動かし、接触後さらに50ミクロンステージを上昇させ、先端形状をインジウムに転写した。さらに今度は、ダイヤモンドバイトを先程とは反対側に40度回転させて固定し、あとは前記と同じ方法で、バイトの先端が50ミクロンの深さに達するまでステージを動かし、先端形状をインジウムに転写した。
【0030】
こうして得られたレプリカのうち、バイトを±40度傾斜させて作製したものは、ゆるい傾斜面の傾斜角が13度、斜面の長さL2が約230ミクロン、レプリカ表面からの先端までの深さが50ミクロンであった。
【0031】
これら3つのレプリカをコンフォーカル顕微鏡で形状測定し、各測定データを合成することにより三次元形状を構築した。その結果、稜線部及び周囲の平面部を含む200ミクロンの領域の斜面の計測を行うことができた。稜線の先端角は300ナノメートル径であり、先端部及び平面部にはサブミクロン以上の大きさの欠けや傷は見られないことを確認した。
【実施例2】
【0032】
本実施例では実施例1と同じ試料を用い、レプリカ材2として融点110°の低分子量ポリエチレンを用いた。レプリカ材は一辺が数ミリ角で表面を水平に加工したものを3個用意し、その1つをXYZ方向に可動な加熱ステージ上に載せた。
【0033】
レプリカ作製は図3に示したように以下の通り行った。まず、ダイヤモンドバイトを回転ステージに取り付け、レプリカ表面に対してバイトの稜線を平行に、かつ軸5が垂直になるように固定した。次にレプリカ材を110℃まで過熱した状態でバイトの先端が接触するまで上方に動かし、接触後さらに30ミクロンステージを上昇させた。先端がレプリカ材に浸漬した状態でレプリカ材を室温まで冷却し、その後ステージを元の位置まで下降させた。
【0034】
続いて新たなレプリカ材をステージに用意し、一方ダイヤモンドバイトは稜線を垂直に横切る方向に40度回転させて固定した。あとは前記と同じ方法で、インジウムをバイトの先端が接触するまで上方に動かし、浸漬後さらに50ミクロンステージを上昇させ、そのまま室温まで冷却して先端形状をレプリカ材に転写した。さらに今度は、ダイヤモンドバイトを先程とは反対側に40度回転させて固定し、あとは前記と同じ方法で、バイトの先端が50ミクロンの深さに達するまでステージを動かし、先端形状をインジウムに転写した。
【0035】
これら3つのレプリカをコンフォーカル顕微鏡で形状測定し、各測定データを合成することにより三次元形状を構築した。その結果、稜線部及び周囲の平面部を含む200ミクロンの領域の斜面の計測を行うことができた。稜線の先端角は300ナノメートル径であり、先端部及び平面部にはサブミクロン以上の大きさの欠けや傷は見られないことを確認した。
【実施例3】
【0036】
本実施例を図4,5を用いて説明する。本実施例では、試料1として図4に示したような、1辺が1mmの正四角錐形状のダイヤモンドバイトを用いた。先端のなす角αは60度であり、各面は水平方向に対して60度傾斜している。ここでは刃先部及び刃先から150ミクロンの領域の斜面の計測を行うことを目的とし、まず測定に用いるレプリカを作製した。本実施例においては、レプリカ材2としてインジウムを用いた。インジウムは表面を水平に加工し、XYZステージ上に載せた。
【0037】
レプリカ作製は図5に示したように行った。まず、ダイヤモンドバイトを回転ステージに取り付け、レプリカ表面に対してバイトの軸5が垂直になるように固定した。次にインジウムを、バイトの先端が接触するまで上方に動かし、接触後さらに30ミクロンステージを上昇させ、先端形状をインジウムに転写した。その後ステージを元の位置まで下降させた。
【0038】
続いてダイヤモンドバイトを、四角錐の1底辺と平行な方向に45度回転させて固定した。あとは前記と同じ方法で、インジウムをバイトの先端が接触するまで上方に動かし、接触後さらに50ミクロンステージを上昇させ、先端形状をインジウムに転写した。さらに今度は、ダイヤモンドバイトを先程とは反対側に45度回転させて固定し、あとは前記と同じ方法で、バイトの先端が50ミクロンの深さに達するまでステージを動かし、先端形状をインジウムに転写した。
【0039】
次にダイヤモンドバイトを、上記で傾斜した方向と直交する方向に±45度傾斜させ、上記と同様の方法で2つのレプリカを作製した。
【0040】
こうして図5に示したように計5つのレプリカを得た。得られたもののうち、バイトを±45度傾斜させて作製したものは、ゆるい傾斜面の傾斜角が20度、斜面の長さ約150ミクロン、レプリカ表面からの先端までの深さが50ミクロンであった。
【0041】
これら3つのレプリカをコンフォーカル顕微鏡で形状測定し、各測定データを合成することにより三次元形状を構築した。その結果、頂点部を中心とした150ミクロンの領域の斜面の計測を行うことができた。稜線の先端角は400ナノメートル径であり、先端部及び平面部にはサブミクロン以上の大きさの欠けや傷は見られないことを確認した。
【実施例4】
【0042】
本実施例を図6、7を用いて説明する。本実施例では、試料1として図6に示したような、直径が1mm、側面の長さ1mm、頂点の角度60度の円錐形状の超硬合金からなる切削バイトを用いた。ここでは刃先部及び刃先から150ミクロンの領域の斜面の計測を行うことを目的とし、まず測定に用いるレプリカを作製した。本実施例においては、レプリカ材2としてインジウムを用いた。インジウムは表面を水平に加工し、XYZステージ上に載せた。
【0043】
レプリカ作製は実施例3と同様の方法で、まずレプリカ表面に対してバイトの軸5が垂直になるように固定して行った。続いてドバイトを、任意の1方向に45度傾斜させて実施例3と同様の処理を行い、さらにこれとは反対方向にも45度傾斜させて同様の処理を行った。本実施例では、傾斜させる方向を45度変えながら上記の方法を繰り返し、図7に示したように計9個のレプリカをとった。
【0044】
これら9個のレプリカをコンフォーカル顕微鏡で形状測定し、各測定データを合成することにより三次元形状を構築した。その結果、頂点部を中心とした150ミクロンの領域の斜面の計測を行うことができた。稜線の先端角は400ナノメートル径であり、先端部及び平面部にはサブミクロン以上の大きさの欠けや傷は見られないことを確認した。
【実施例5】
【0045】
本実施例を図8を用いて説明する。本実施例では、試料1として図8に示したような、先端が3面から成る角錐形状で、角度aが60度、角度bが90度、1辺が1mm〜3ミリのダイヤモンドバイトを用いた。ここでは刃先部及び刃先から150ミクロンの領域の斜面の計測を行うことを目的とし、まず測定に用いるレプリカを作製した。本実施例においては、レプリカ材2としてインジウムを用いた。インジウムは表面を水平に加工し、XYZステージ上に載せた。
【0046】
レプリカ作製は実施例3と同様の方法で行った。まず、ダイヤモンドバイトを回転ステージに取り付け、レプリカ表面に対して図8中A面が垂直になるように固定し、先端形状をインジウムに転写した。
【0047】
続いてダイヤモンドバイトを、A面と平行な方向に30度、45度及び反対側に30度、45度回転させて固定し、あとは前記と同じ方法で、バイトの先端が50ミクロンの深さに達するまでステージを動かし、先端形状をインジウムに転写した。
【0048】
次にダイヤモンドバイトを、上記で傾斜した方向と直交する方向に45度傾斜させ、上記と同様の方法で4つのレプリカを作製した。
【0049】
こうして得られた計9個のレプリカをコンフォーカル顕微鏡で形状測定し、各測定データを合成することにより三次元形状を構築した。その結果、頂点部を中心とした150ミクロンの領域の斜面の計測を行うことができた。稜線の先端角は200ナノメートルであり、先端部及び平面部にはサブミクロン以上の大きさの欠けや傷は見られないことを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】レプリカの作成手順の概要を示す図である。
【図2】実施例1に用いた測定試料の形状を示す図である。
【図3】実施例1におけるレプリカの作成手順の概要を示す図である。
【図4】実施例3に用いた測定試料の形状を示す図である。
【図5】実施例3におけるレプリカの作成手順の概要を示す図である。
【図6】実施例4に用いた測定試料の形状を示す図である。
【図7】実施例3におけるレプリカの作成手順の概要を示す図である。
【図8】実施例5に用いた測定試料の形状を示す図である。
【図9】コンフォーカル顕微鏡の構成図である。
【図10】試料が急な斜面を持つ場合の反射光の様子を示す説明図である。
【図11】切削工具先端形状の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0051】
1 測定試料
2 レプリカ材
3 レプリカ材表面
4 コンフォーカル顕微鏡
5 ダイヤモンドバイトの軸
11 レーザ光源
12 スキャンユニット
13 対物レンズ
14 ダイクロイックミラー
15 集光レンズ
16 結像点のピンホール
17 受光装置7
18 レーザー光
19 試料
20 入射光
21 反射光
【技術分野】
【0001】
本発明は三次元形状測定方法に関し、特に精密切削加工用工具の鋭利な先端形状やその他の先端の尖った針状体の形状をコンフォーカル顕微鏡を用いて測定するのに適した三次元形状計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切削加工等による超精密加工技術は、これまで微細な光学部品の生産を始めとする種々の用途に用いられており、今後もマイクロマシンなどの三次元構造体の形成に期待されている技術である。これに伴い、超精密加工に用いる工具や形成物の三次元形状を精密に計測するニーズが高まっている。
【0003】
工具として一般に用いられるダイヤモンドは、被切削物を高い形状精度で加工する必要があることから刃先が鋭利な形状になっている。工具先端の形状により形成物の品質が左右されることから、先端部の面及び稜線形状をサブミクロン以下の精度で正確に計測することが求められている。
【0004】
従来より微細な三次元形状計測を高精度に行う手段としては、(1)原子力間顕微鏡(AFM)による触針式の形状計測 (2)走査電子顕微鏡(SEM)による形状計測 (3)光を照射し、その反射光あるいは干渉光を用いた光形状計測する方法などが知られている。また試料の大きさに制約がある場合などは、観察試料を石膏、樹脂等に浸漬してレプリカを取り、該レプリカを必要に応じて切断等の処理を行った後に種々の手段で形状計測する方法が用いられている。このうち(1)のAFMの測定精度は、原理上、原子分解能に達するが広範なエリアの測定が出来ないことや、表面凹凸の高さが数ミクロン以上ある場合や鋭利な先端部がある場合、プローブの形状の制約により段差に追従できず測定が不可能になってしまう。さらに、先端を加工した専用のプローブや高精度の検出機構などが必要であり、これらを制御して観察画像を得るには高価な装置が必要となってしまう。AFMやSTMの探針の先端形状を測定する方法として、特登録03090295号公報において、特殊な形状を有する専用の標準試料をある決められた方法で測定し、得られた測定データを処理することにより、探針自身の形状を求める方法が提案されている。
【0005】
また(2)のSEMを用いた装置としては、電子ビームを試料に照射した際に発生する二次電子または反射電子を複数の検出器で検出し、これら複数の検出器の出力に基づいて前記試料の先端稜の断面形状を算出する装置を用いることが可能である。特公平7-69164号公報においては、上記手法を用いた工具先端の形状測定方法が提案されている。しかしながら特殊な電子顕微鏡を必要とすることや試料セッティングが煩雑等の問題がある。また絶縁物であるダイヤモンド工具を観測する場合は、チャージアップにより画像が乱れ測定が不可能になってしまう。またダイヤ表面に導電性の膜をコーティングし観察することが必要となる。
【0006】
一方(3)の光を用いる方法においては従来、特開平5-322528号公報で提案された方法のように、被測定物にレーザーを照射した時の反射光を光位置検出器により検出して形状測定する方法があるが、サブミクロン以下の測定精度で三次元形状を計測することは困難である。
【0007】
サブミクロン以下の測定精度で三次元の形状計測が可能な装置としてはコンフォーカル顕微鏡が挙げられる。コンフォーカル顕微鏡の構成を図9に示す。コンフォーカル顕微鏡の基本構成としては、レーザ光源11、スキャンユニット12、対物レンズ13、ダイクロイックミラー14、集光レンズ15、結像点のピンホール16および結像した光を測定する受光装置17である。具体的には、レーザー光源1から放射されたレーザー光18は2次元スキャンユニット12によって2次元走査され、対物レンズ13により集光されて試料19の観察点に照射される。試料からの反射光は対物レンズから走査ミラーへと光路を逆行し、ダイクロイックミラー14で励起レーザ光と分離される。ダイクロイックミラー14を反射した光は、集光レンズ15により光路中に配置したピンホール16に集光される。このとき、試料の結像部からの反射光のみがピンホール16を通過し受光装置17に達し、光電変換されて電気信号に変換されるのでデフォーカス情報は排除される。この信号と走査位置情報とをコンピュータを用いて所定の処理を行うことで試料の蛍光像や反射像の切片画像を得る。
【0008】
ところが図9に示す共焦点顕微鏡において、試料19に傾斜面がある場合、この傾斜面からの反射光がピンホールに戻らない場合がある。例えば、図10は傾斜面を有する試料の近傍を示す説明図である。図10に示す試料19の傾斜面に矢印で示したように光20が入射された場合、反射光21は対物レンズ13の開口外に出てしまい、ピンホール板のピンホールに戻らない。一般に用いられるコンフォーカル顕微鏡の対物レンズは開口角が30度以下である場合が多いことから、光軸に垂直な面に対して30度以上の傾斜を有する試料では共焦点画像を得ることが難しいことになる。
【0009】
特開平10−206739号公報においては入射光の開口数よりも対物レンズの開口数を大きくすることにより、傾斜面を有する試料の表面検出精度を向上させる提案がなされている。また、特開2003−084207号公報においては、ディスクスキャン型のコンフォーカル顕微鏡において、落射照明光源の光路とは異なる光路で試料を照明する光学系を備えることにより、斜面の検出感度を向上させる提案がなされている。
【特許文献1】特登録03090295号公報
【特許文献2】特公平7−69164号公報
【特許文献3】特開平5−322528号公報
【特許文献4】特開平10−206739号公報
【特許文献5】特開2003−084207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、たとえば超精密加工に用いるダイヤモンド工具の場合、図11に示したように、稜線を構成する2面のなす角度が鋭角であるものや、先端が3つ以上の面から構成される角錐形状を有するものが多い。この場合、刃先先端の三次元形状を計測することは、上記理由から困難となる。開口数の大きなレンズに切り替えることにより、対物レンズの開口内に入る反射光を増やすことはできるが、その傾斜角には限界がある上に、開口数の大きな対物レンズは非常に高価であり簡単に入手することはできない。さらに特開2003−084207号公報提案のような方法を用いてある程度までは対物レンズの開口内に入る反射光を増やすことはできるが、その傾斜角には限界があり、様々な試料に適用することは難しい。一方特開2003−084207号公報に示した方法を用いた場合、測定分解能が若干低下することが考えられる。
【0011】
また、エッジ部分を多方向から計測する方法として、エッジ部のある点を中心として試料を回転及び傾斜させながら計測する方法も考えられるが、その場合、非常に高精度ステージが必要となり、現実的には難しい。
【0012】
本発明は上記従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、本出願に係る発明の目的は、鋭利な先端部、特に稜線を構成する2面のなす角度が120度以下の部分を含む試料もしくは頂点の角度が120度以下の円錐部を有する試料の三次元形状を、コンフォーカル顕微鏡を用いて計測する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために成されたものである。すなわち、請求項1に記載の本発明は、稜線を構成する2面のなす角度が120度以下の鋭利な先端部を有する観察試料もしくは頂点の角度が120度以下の円錐部を有する試料の立体形状を計測する方法であって、前記試料の先端部をレプリカ材に接触あるいは浸漬して先端部のレプリカを作製する工程と、該レプリカ材に対する該試料の接触あるいは浸漬角度を順次変えて前記工程をくり返し複数のレプリカを作製する工程と、該角度を変えて形状を転写した複数のレプリカをコンフォーカル顕微鏡により形状計測する工程と、該複数のレプリカについて形状計測したデータを合成して観察試料の立体形状を構築する工程を経ることを特徴とするものである。
【0014】
その一態様において、前記観察試料が、3つ以上の面から構成される角錐形状を有することを特徴とするものであり、例えば切削加工用ダイヤモンドバイトであることを特徴とするものである。
【0015】
該レプリカ材が軟質金属であることを特徴とするものである。また別の一態様においては該レプリカ材が熱可塑性樹脂であることを特徴とするものである。さらに別の一態様においては、該レプリカ材が低融点金属であることを特徴とするものである。
【0016】
また本発明にけるレプリカ材に接触あるいは浸漬する角度を順次変えてくり返し複数のレプリカを作製する工程の一態様において、任意の一方向に接触あるいは浸漬角度を順次変えることを特徴とするものである。また別の一態様においては、直交する2方向に接触あるいは浸漬角度を順次変えることを特徴とするものである。さらにレプリカ材に接触あるいは浸漬して形成されたレプリカの深さが100μm以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
上記のように、測定試料のレプリカを、該レプリカ材に対する該試料の接触あるいは浸漬角度を順次変えて複数作製した後に、該複数のレプリカをコンフォーカル顕微鏡により形状計測し、該複数のレプリカについて形状計測した各データを合成して観察試料の三次元形状を構築することにより、ダイヤモンド工具のように鋭利な先端形状を有するものであっても三次元形状データを容易に、かつ安価な方法で取得できる。
【0018】
なお、上記説明においては測定試料と精密切削加工用のダイヤモンド工具を取り上げたが、例えばビッカース硬度計やナノインデンターに用いるダイヤモンド圧子等にも適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図を用いて本発明を詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態にかかるレプリカ作成方法を示す図である。図1において、1は測定試料、2はレプリカ材、3はコンフォーカル顕微鏡(一部)を示す。本発明では、観察領域である鋭利な先端部の形状をレプリカ材に転写した後、そのレプリカ材をコンフォーカル顕微鏡観察する。レプリカは、軟質金属などからなるレプリカ材2に先端部1を押し付けるか、あるいは室温で固体の熱可塑性樹脂等からなるレプリカ材2を一旦加熱して軟化させ、これに先端部を浸漬し、室温で固化させる方法を用いることもできる。前者は取り扱いが簡単であり、後者は室温での形状変化が起こりにくいという利点がある。形状転写後は先端部をレプリカ材から抜いて分離する。レプリカ材表面3はできる限り平滑であることが望ましい。本発明では、図1(a)(b)(c)に示したように接触あるいは浸漬する角度θを順次精度良く変えて形状を転写し、複数のレプリカを作製する。角度θ及びレプリカの数は試料先端の形状に応じて適宜選択することができるが、前述のようにコンフォーカル顕微鏡では30度以上の傾斜は測定が困難である。したがって先端部のどの部分も、複数のレプリカのうち少なくとも1つにおいて傾斜30度以内に収まるようレプリカを作製する。この時角度θは、任意の1方向あるいは直交する2方向に変えていくことが、その後三次元形状を構築する際には望ましい。先端部が2つの面と1つの稜線で構成されている試料の場合は、角度を送る方向は稜線を垂直に横切る1方向で良く、3つの面以上からなる角錐形状の先端部を有する試料の場合は、必要に応じて2方向に角度を変えるようにする。
【0021】
角度θの送り精度は0.1°以内の精度であることが望ましく、市販の回転ステージに測定試料を固定して順次角度を変えながら作製していけばよい。
【0022】
またレプリカ材に押し付けるあるいは浸漬する深さは、コンフォーカル顕微鏡の深さ方向の測定領域を考慮し、100ミクロン以下であることが望ましい。
【0023】
レプリカ材2としては、鉛、亜鉛、金、銀、白金、錫、マグネシウム、純鉄、純銅、アルミニウム、インジウム等の軟質金属や、常温では固体で融点150℃以下の低融点金属や低融点合金、ポリエチレン樹脂、ワックス類等の熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0024】
形状測定は、作製した各々のレプリカについて汎用のコンフォーカル顕微鏡を用いて行うことができる。複数のレプリカについて個別に測定することも同時に測定することも可能である。各レプリカについては、傾斜面が30度以下の部分のみを計測できれば良い。
【0025】
三次元形状は、各レプリカについての測定データを合成することにより構築することができる。合成方法としては、レプリカを作製した際のレプリカに対する試料の接触あるいは浸漬角度θを用いて傾斜角の補正を行い、さらに画像の表面位置が一致するように演算処理する方法を用いる。
【0026】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
本実施例を図1、2、3を用いて説明する。本実施例では、試料1として図2に示したような、刃先が二つの平面と稜線部からなるダイヤモンドバイトを用いた。稜線の長さLは1mm、2面のなす角αは74度である。ここでは刃先稜線部及び刃先から200ミクロンの領域の斜面の計測を行うことを目的とし、まず測定に用いるレプリカを作製した。本実施例においては、レプリカ材2としてインジウムを用いた。インジウムは表面を水平に加工し、XYZステージ上に載せた。
【0028】
レプリカ作製は図3に示したように以下の通り行った。まず、ダイヤモンドバイトを回転ステージに取り付け、レプリカ表面に対してバイトの稜線を平行に、かつ軸5が垂直になるように固定した。次にインジウムを、バイトの先端が接触するまで上方に動かし、接触後さらに30ミクロンステージを上昇させ、先端形状をインジウムに転写した。その後ステージを元の位置まで下降させた。
【0029】
続いてダイヤモンドバイトを、稜線を垂直に横切る方向に40度回転させて固定した。あとは前記と同じ方法で、インジウムをバイトの先端が接触するまで上方に動かし、接触後さらに50ミクロンステージを上昇させ、先端形状をインジウムに転写した。さらに今度は、ダイヤモンドバイトを先程とは反対側に40度回転させて固定し、あとは前記と同じ方法で、バイトの先端が50ミクロンの深さに達するまでステージを動かし、先端形状をインジウムに転写した。
【0030】
こうして得られたレプリカのうち、バイトを±40度傾斜させて作製したものは、ゆるい傾斜面の傾斜角が13度、斜面の長さL2が約230ミクロン、レプリカ表面からの先端までの深さが50ミクロンであった。
【0031】
これら3つのレプリカをコンフォーカル顕微鏡で形状測定し、各測定データを合成することにより三次元形状を構築した。その結果、稜線部及び周囲の平面部を含む200ミクロンの領域の斜面の計測を行うことができた。稜線の先端角は300ナノメートル径であり、先端部及び平面部にはサブミクロン以上の大きさの欠けや傷は見られないことを確認した。
【実施例2】
【0032】
本実施例では実施例1と同じ試料を用い、レプリカ材2として融点110°の低分子量ポリエチレンを用いた。レプリカ材は一辺が数ミリ角で表面を水平に加工したものを3個用意し、その1つをXYZ方向に可動な加熱ステージ上に載せた。
【0033】
レプリカ作製は図3に示したように以下の通り行った。まず、ダイヤモンドバイトを回転ステージに取り付け、レプリカ表面に対してバイトの稜線を平行に、かつ軸5が垂直になるように固定した。次にレプリカ材を110℃まで過熱した状態でバイトの先端が接触するまで上方に動かし、接触後さらに30ミクロンステージを上昇させた。先端がレプリカ材に浸漬した状態でレプリカ材を室温まで冷却し、その後ステージを元の位置まで下降させた。
【0034】
続いて新たなレプリカ材をステージに用意し、一方ダイヤモンドバイトは稜線を垂直に横切る方向に40度回転させて固定した。あとは前記と同じ方法で、インジウムをバイトの先端が接触するまで上方に動かし、浸漬後さらに50ミクロンステージを上昇させ、そのまま室温まで冷却して先端形状をレプリカ材に転写した。さらに今度は、ダイヤモンドバイトを先程とは反対側に40度回転させて固定し、あとは前記と同じ方法で、バイトの先端が50ミクロンの深さに達するまでステージを動かし、先端形状をインジウムに転写した。
【0035】
これら3つのレプリカをコンフォーカル顕微鏡で形状測定し、各測定データを合成することにより三次元形状を構築した。その結果、稜線部及び周囲の平面部を含む200ミクロンの領域の斜面の計測を行うことができた。稜線の先端角は300ナノメートル径であり、先端部及び平面部にはサブミクロン以上の大きさの欠けや傷は見られないことを確認した。
【実施例3】
【0036】
本実施例を図4,5を用いて説明する。本実施例では、試料1として図4に示したような、1辺が1mmの正四角錐形状のダイヤモンドバイトを用いた。先端のなす角αは60度であり、各面は水平方向に対して60度傾斜している。ここでは刃先部及び刃先から150ミクロンの領域の斜面の計測を行うことを目的とし、まず測定に用いるレプリカを作製した。本実施例においては、レプリカ材2としてインジウムを用いた。インジウムは表面を水平に加工し、XYZステージ上に載せた。
【0037】
レプリカ作製は図5に示したように行った。まず、ダイヤモンドバイトを回転ステージに取り付け、レプリカ表面に対してバイトの軸5が垂直になるように固定した。次にインジウムを、バイトの先端が接触するまで上方に動かし、接触後さらに30ミクロンステージを上昇させ、先端形状をインジウムに転写した。その後ステージを元の位置まで下降させた。
【0038】
続いてダイヤモンドバイトを、四角錐の1底辺と平行な方向に45度回転させて固定した。あとは前記と同じ方法で、インジウムをバイトの先端が接触するまで上方に動かし、接触後さらに50ミクロンステージを上昇させ、先端形状をインジウムに転写した。さらに今度は、ダイヤモンドバイトを先程とは反対側に45度回転させて固定し、あとは前記と同じ方法で、バイトの先端が50ミクロンの深さに達するまでステージを動かし、先端形状をインジウムに転写した。
【0039】
次にダイヤモンドバイトを、上記で傾斜した方向と直交する方向に±45度傾斜させ、上記と同様の方法で2つのレプリカを作製した。
【0040】
こうして図5に示したように計5つのレプリカを得た。得られたもののうち、バイトを±45度傾斜させて作製したものは、ゆるい傾斜面の傾斜角が20度、斜面の長さ約150ミクロン、レプリカ表面からの先端までの深さが50ミクロンであった。
【0041】
これら3つのレプリカをコンフォーカル顕微鏡で形状測定し、各測定データを合成することにより三次元形状を構築した。その結果、頂点部を中心とした150ミクロンの領域の斜面の計測を行うことができた。稜線の先端角は400ナノメートル径であり、先端部及び平面部にはサブミクロン以上の大きさの欠けや傷は見られないことを確認した。
【実施例4】
【0042】
本実施例を図6、7を用いて説明する。本実施例では、試料1として図6に示したような、直径が1mm、側面の長さ1mm、頂点の角度60度の円錐形状の超硬合金からなる切削バイトを用いた。ここでは刃先部及び刃先から150ミクロンの領域の斜面の計測を行うことを目的とし、まず測定に用いるレプリカを作製した。本実施例においては、レプリカ材2としてインジウムを用いた。インジウムは表面を水平に加工し、XYZステージ上に載せた。
【0043】
レプリカ作製は実施例3と同様の方法で、まずレプリカ表面に対してバイトの軸5が垂直になるように固定して行った。続いてドバイトを、任意の1方向に45度傾斜させて実施例3と同様の処理を行い、さらにこれとは反対方向にも45度傾斜させて同様の処理を行った。本実施例では、傾斜させる方向を45度変えながら上記の方法を繰り返し、図7に示したように計9個のレプリカをとった。
【0044】
これら9個のレプリカをコンフォーカル顕微鏡で形状測定し、各測定データを合成することにより三次元形状を構築した。その結果、頂点部を中心とした150ミクロンの領域の斜面の計測を行うことができた。稜線の先端角は400ナノメートル径であり、先端部及び平面部にはサブミクロン以上の大きさの欠けや傷は見られないことを確認した。
【実施例5】
【0045】
本実施例を図8を用いて説明する。本実施例では、試料1として図8に示したような、先端が3面から成る角錐形状で、角度aが60度、角度bが90度、1辺が1mm〜3ミリのダイヤモンドバイトを用いた。ここでは刃先部及び刃先から150ミクロンの領域の斜面の計測を行うことを目的とし、まず測定に用いるレプリカを作製した。本実施例においては、レプリカ材2としてインジウムを用いた。インジウムは表面を水平に加工し、XYZステージ上に載せた。
【0046】
レプリカ作製は実施例3と同様の方法で行った。まず、ダイヤモンドバイトを回転ステージに取り付け、レプリカ表面に対して図8中A面が垂直になるように固定し、先端形状をインジウムに転写した。
【0047】
続いてダイヤモンドバイトを、A面と平行な方向に30度、45度及び反対側に30度、45度回転させて固定し、あとは前記と同じ方法で、バイトの先端が50ミクロンの深さに達するまでステージを動かし、先端形状をインジウムに転写した。
【0048】
次にダイヤモンドバイトを、上記で傾斜した方向と直交する方向に45度傾斜させ、上記と同様の方法で4つのレプリカを作製した。
【0049】
こうして得られた計9個のレプリカをコンフォーカル顕微鏡で形状測定し、各測定データを合成することにより三次元形状を構築した。その結果、頂点部を中心とした150ミクロンの領域の斜面の計測を行うことができた。稜線の先端角は200ナノメートルであり、先端部及び平面部にはサブミクロン以上の大きさの欠けや傷は見られないことを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】レプリカの作成手順の概要を示す図である。
【図2】実施例1に用いた測定試料の形状を示す図である。
【図3】実施例1におけるレプリカの作成手順の概要を示す図である。
【図4】実施例3に用いた測定試料の形状を示す図である。
【図5】実施例3におけるレプリカの作成手順の概要を示す図である。
【図6】実施例4に用いた測定試料の形状を示す図である。
【図7】実施例3におけるレプリカの作成手順の概要を示す図である。
【図8】実施例5に用いた測定試料の形状を示す図である。
【図9】コンフォーカル顕微鏡の構成図である。
【図10】試料が急な斜面を持つ場合の反射光の様子を示す説明図である。
【図11】切削工具先端形状の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0051】
1 測定試料
2 レプリカ材
3 レプリカ材表面
4 コンフォーカル顕微鏡
5 ダイヤモンドバイトの軸
11 レーザ光源
12 スキャンユニット
13 対物レンズ
14 ダイクロイックミラー
15 集光レンズ
16 結像点のピンホール
17 受光装置7
18 レーザー光
19 試料
20 入射光
21 反射光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
稜線を構成する2面のなす角度が120度以下の先端部を有する試料、もしくは頂点の角度が120度以下の円錐部を有する試料の三次元形状を計測する方法であって、前記試料の先端部をレプリカ材に接触あるいは浸漬して先端部のレプリカを作製する工程と、該試料の該レプリカ材に対する接触あるいは浸漬角度を順次変えて前記工程をくり返し複数のレプリカを作製する工程と、該角度を変えて形状を転写した複数のレプリカをコンフォーカル顕微鏡により形状計測する工程と、該複数のレプリカについて形状計測したデータを合成して観察試料の三次元形状を構築する工程を経ることを特徴とする三次元形状の計測方法。
【請求項2】
前記観察試料が、3つ以上の面から構成される角錐形状を有することを特徴とする請求項1に記載の三次元形状の計測方法。
【請求項3】
観察試料が切削加工用ダイヤモンドバイトであることを特徴とする請求項1に記載の三次元形状の計測方法。
【請求項4】
該レプリカ材が軟質金属であることを特徴とする請求項1に記載の三次元形状の計測方法。
【請求項5】
該レプリカ材が融点熱可塑性樹脂あるいは低融点金属であることを特徴とする請求項1に記載の三次元形状の計測方法。
【請求項6】
任意の一方向に接触あるいは浸漬角度を順次変えることを特徴とする請求項1に記載の三次元形状の計測方法。
【請求項7】
直交する2方向に接触あるいは浸漬角度を順次変えることを特徴とする請求項1に記載の三次元形状の計測方法。
【請求項8】
レプリカ材に接触あるいは浸漬して形成されたレプリカの深さが100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の三次元形状の計測方法。
【請求項1】
稜線を構成する2面のなす角度が120度以下の先端部を有する試料、もしくは頂点の角度が120度以下の円錐部を有する試料の三次元形状を計測する方法であって、前記試料の先端部をレプリカ材に接触あるいは浸漬して先端部のレプリカを作製する工程と、該試料の該レプリカ材に対する接触あるいは浸漬角度を順次変えて前記工程をくり返し複数のレプリカを作製する工程と、該角度を変えて形状を転写した複数のレプリカをコンフォーカル顕微鏡により形状計測する工程と、該複数のレプリカについて形状計測したデータを合成して観察試料の三次元形状を構築する工程を経ることを特徴とする三次元形状の計測方法。
【請求項2】
前記観察試料が、3つ以上の面から構成される角錐形状を有することを特徴とする請求項1に記載の三次元形状の計測方法。
【請求項3】
観察試料が切削加工用ダイヤモンドバイトであることを特徴とする請求項1に記載の三次元形状の計測方法。
【請求項4】
該レプリカ材が軟質金属であることを特徴とする請求項1に記載の三次元形状の計測方法。
【請求項5】
該レプリカ材が融点熱可塑性樹脂あるいは低融点金属であることを特徴とする請求項1に記載の三次元形状の計測方法。
【請求項6】
任意の一方向に接触あるいは浸漬角度を順次変えることを特徴とする請求項1に記載の三次元形状の計測方法。
【請求項7】
直交する2方向に接触あるいは浸漬角度を順次変えることを特徴とする請求項1に記載の三次元形状の計測方法。
【請求項8】
レプリカ材に接触あるいは浸漬して形成されたレプリカの深さが100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の三次元形状の計測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−118871(P2006−118871A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304139(P2004−304139)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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