説明

三次元形状造形物の製造方法およびそれから得られる三次元形状造形物

【課題】金型として用いることができ、ウェルド発生を防止するのに好適な三次元形状造形物を提供すること。
【解決手段】(i)粉末層の所定箇所に光ビームLを照射して、その所定箇所の粉末を焼結又は溶融固化させて固化層24を形成する工程、および、(ii)得られた固化層24の上に新たな粉末層を形成し、その新たな粉末層の所定箇所に光ビームLを照射して更なる固化層24を形成する工程を繰り返して行う三次元形状造形物の製造方法であって、工程(i)と工程(ii)との反復実施に際して、固化層にヒータ要素70を配置し、それによって、三次元形状造形物の内部にヒータ要素70を設けることを特徴とする三次元形状造形物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元形状造形物の製造方法および三次元形状造形物に関する。より詳細には、本発明は、粉末層の所定箇所に光ビームを照射することによる固化層形成を繰り返し実施することによって複数の固化層が積層一体化した三次元形状造形物を製造する方法に関すると共に、それによって得られる三次元形状造形物にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、材料粉末に光ビームを照射して三次元形状造形物を製造する方法(一般的には「粉末焼結積層法」と称される)が知られている。かかる方法では、「(i)粉末層の所定箇所に光ビームを照射することよって、かかる所定箇所の粉末を焼結又は溶融固化させて固化層を形成し、(ii)得られた固化層の上に新たな粉末層を敷いて同様に光ビームを照射して更に固化層を形成する」といったことを繰り返して三次元形状造形物を製造している(特許文献1または特許文献2参照)。材料粉末として金属粉末やセラミック粉末などの無機質の材料粉末を用いた場合では、得られた三次元形状造形物を金型として用いることができ、樹脂粉末やプラスチック粉末などの有機質の材料粉末を用いた場合では、得られた三次元形状造形物をモデルとして用いることができる。このような製造技術によれば、複雑な三次元形状造形物を短時間で製造することが可能である。
【0003】
支持部材上で三次元形状造形物を製造する場合を例にとると、図1に示すように、まず、所定の厚みt1の粉末層22を造形物支持部材21上に形成する(図1(a)参照)。次いで、光ビームを粉末層22の所定箇所に照射して、その照射された粉末層の部分から固化層24を形成する。そして、形成された固化層24の上に新たな粉末層22を敷いて再度光ビームを照射して新たな固化層を形成する。このような固化層の形成を繰り返し実施すると、複数の固化層24が積層一体化した三次元形状造形物を得ることができる(図1(b)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平1−502890号公報
【特許文献2】特開2000−73108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
三次元形状造形物は金型として用いることができるが、金型を用いた射出成形においては、「金型が2点以上のゲートを有する場合」あるいは「1点のゲートであっても充填経路途中で流れが分離されるキャビティ形状を有する場合」では、金型キャビティ内において2つの樹脂原料流れが発生し得る。この2つの樹脂原料流れが合流する面は“ウェルド(またはウェルドライン)”と称されるが、かかるウェルドが発生すると、ウェルドを隠蔽するために得られる成形品に塗装が必要となったり、あるいは、ウェルドによる外観不良に起因してそもそも成形品として用いることができなかったりする。このようなウェルドについては、特定の理論に拘束されるわけではないが、(1)樹脂流路内の空気や樹脂から発生するガスが圧縮されて滞留するために樹脂同士が接合しきれない、(2)流動中の樹脂の先端部は空気に触れて冷却されるので2つの樹脂原料流れが合流した際に混ざり合いにくい、などといった発生要因が考えられる。
【0006】
ウェルドの発生を防止するためには、ポーラスなピンを用いたり、ピン挿入によるベントを行ったり、あるいは、金型に蒸気回路などを形成して加熱したりする必要があるものの、金型構造が複雑となり、設計が一般に困難となる。そのような金型では、例えば温度調節用部品とガス抜き部品とをボルト締めなどで接続しなければならないからである。
【0007】
本発明者らは、「貫通する中空部を有する温度制御ブロックを含む埋設用部材を埋設して成る三次元形状造形物の金型」につき既に発明を為している(特開2000−190086号公報参照)。しかしながら、本発明者らによる鋭意検討の結果、かかる金型ではウェルド発生防止の点で必ずしも満足のいくものとなっていないことが分かった。なぜなら、特開2000−190086の金型では、あくまでも埋設用部材の内部空間に温度調節素子を設けるからであり、その内部空間における空気の熱伝導率が非常に低いからである。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の課題は、金型として用いることができる三次元形状造形物であって、ウェルド発生を防止するのに特に好適な三次元形状造形物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明では、
(i)粉末層の所定箇所に光ビームを照射して、その所定箇所の粉末を焼結又は溶融固化させて固化層を形成する工程、および
(ii)得られた固化層の上に新たな粉末層を形成し、その新たな粉末層の所定箇所に光ビームを照射して更なる固化層を形成する工程
を繰り返して行う三次元形状造形物の製造方法であって、
工程(i)と工程(ii)との反復実施に際して、固化層にヒータ要素を配置し、それによって、三次元形状造形物の内部にヒータ要素を設けることを特徴とする、三次元形状造形物の製造方法が提供される。
【0010】
本発明の製造方法の特徴の1つは、三次元形状造形物の用途を考慮してヒータ要素を三次元形状造形物の内部に設けることである。より具体的には、工程(i)と工程(ii)との反復実施の途中のいずれかのポイントでヒータ要素を固化層に配置し、その後、更なる固化層の形成を継続する。
【0011】
本明細書にいう「ヒータ要素」とは、実質的には発熱体を意味しており、例えば、コイル等のように通電すると発熱するものを指している。
【0012】
また、本明細書にいう「固化層にヒータ要素を配置する」とは、既に形成された固化層の一部の領域にヒータ要素を設置することを実質的に意味している。特に、本発明では、固化層と直接的に接するようにヒータ要素を設置することを意味している。
【0013】
更に確認までに述べておくと、本明細書において「粉末層」とは、例えば「金属粉末から成る金属粉末層」を実質的に指している。また「粉末層の所定箇所」とは、製造される三次元形状造形物の領域を実質的に意味している。従って、かかる所定箇所に存在する粉末に対して光ビームを照射することによって、その粉末が焼結又は溶融固化して三次元形状造形物の形状を構成することになる。尚、「固化層」は、粉末層が金属粉末層である場合には「焼結層」に相当し得、「固化密度」は「焼結密度」に相当し得る。
【0014】
ある好適な態様では、工程(i)および(ii)を造形物支持部材上で実施する。即ち、粉末層および固化層の形成を造形物支持部材上で実施する。かかる場合、ヒータ要素としてコイルヒータを用い、支持部材に設けられた開口部を介して、固化層にコイルヒータを配置することが好ましい。尚、本明細書にいう「造形物支持部材」とは、製造される造形物の土台となる部材を実質的に意味している。特に好適な態様では、「造形物支持部材」は、造形テーブル上に配される板状あるいは直方体状の部材を指している(“造形テーブル”については後述を参照のこと)。造形物支持部材の材質としては、特に制限されるわけではないが、スチール、超硬合金、高速度工具鋼、合金工具鋼、ステンレス鋼および機械構造用炭素鋼から選択される少なくとも1種以上の材質を挙げることができる。
【0015】
ある好適な態様では、積層化した固化層に形成された溝部にヒータ要素を配置する。かかる場合、溝部に対して切削加工を施し、その切削加工を施した溝部面に対してヒータ要素を配置することが好ましい。
【0016】
また、ヒータ要素の配置後においては溝部に低融点金属粉末材料を充填することが好ましい。かかる場合、その低融点金属粉末材料に対して光ビームを照射し、得られる固化部材でもって溝部を埋めることを行う。かかる態様では、低融点金属粉末材料に対する光ビーム照射は、粉末層への光ビーム照射よりも低いエネルギーで行うことが好ましい。また、低融点金属粉末材料に対する光ビーム照射につき、ヒータ要素から離れるにしたがって照射エネルギーを徐々に大きくすることも好ましい。更には、低融点金属粉末材料から固化部材を形成した後、平面出しのための切削加工を固化部材および/または固化層に対して行うことも好ましい。
【0017】
本発明では、上述した製造方法で得られる三次元形状造形物も提供される。本発明の三次元形状造形物は、ヒータ要素が内蔵されており、金型として好適に用いることができるようになっている。ヒータ要素の好ましい内蔵形態としては、例えば以下のものを挙げることができる:

・金型のキャビティ部へと導入される原料樹脂が最終的に到達することになるキャビティ領域に近接してヒータ要素が内蔵されている形態。

・金型において薄肉成形部が形成されるキャビティ領域に近接してヒータ要素が設けられている形態。

・金型のゲート部に近接してヒータ要素が設けられている形態。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法では、粉末焼結積層法の実施に際して、ヒータ要素を造形物に好適に埋設させることができる。特に、最終的な用途を考慮して造形物の任意の局所的領域にヒータ要素を簡易に設けることができる。
【0019】
具体的には、三次元形状造形物を金型として用いることを想定した場合、“ウェルド”が発生し得る領域の近傍にのみヒータ要素を配置することができるので、樹脂成形時のウェルド発生を効果的に防止することができる。この点、従前の金型においては、一般的に三次元形状造形物内を通過するように中空状流路に流動性熱媒を流すことになるところ、中空状流路の設置経路に起因して金型が全体的に加熱される傾向があり、必要な局所的領域(例えばウェルドが発生し得るポイント)にのみ加熱を行うようにはなっていない。従前の金型において、局所的領域に加熱要素を設ける場合を想定すると、コア側またはキャビ側の金型につき2部品で構成する必要があり、一方の部品に加熱要素を配置した後で他方の部品により蓋をして締結部材で固定することが必要となるので、部品数が多くなり構造が複雑となってしまう。そのような従前の態様に対して、本発明の製造方法では、逐次的な形成の途中でヒータ要素を固化層上に配置するので部品数自体は特に増加することがなく、かつ、ヒータ要素の設置領域の制約は比較的少なく、所望の局所的領域にヒータ要素を好適に設けることができる(ヒータ要素の設置箇所に制約が少ないので、ガス抜き部や冷却管を好適に組み合わすことができ、ウェルド防止をより効果的に行うことができる)。
【0020】
本発明の三次元形状造形物は、金型として好適に用いることができる。特に所望の局所的領域にのみ発熱要素が設けられており、かつ、金型構成材に直接的に接するように発熱要素が設けられているので、“温度制御効率”や“応答性”などの点で望ましい金型が実現されている。また、上述したように、ヒータ要素の設置箇所に制約が少なく、ガス抜き部や冷却管も所望領域に設けることができるので、そのような点に鑑みても“温度制御効率”や“応答性”で望ましい金型が実現されているといえる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】光造形複合加工機の動作を模式的に示した断面図
【図2】光造形装置の態様を模式的に表した斜視図(図2(a):切削機構を備えた複合装置、図2(b):切削機構を備えていない装置)
【図3】粉末焼結積層法が行われる態様を模式的に示した斜視図
【図4】粉末焼結積層法が実施される光造形複合加工機の構成を模式的に示した斜視図
【図5】光造形複合加工機の動作のフローチャート
【図6】光造形複合加工プロセスを経時的に表した模式図
【図7】本発明の製造方法の概念を模式的に表した図(図7(a):ヒータ要素の設置、図7(b):ヒータ要素の設置後、図7(c):積層化完了)
【図8】本発明の製造方法における工程を模式的に表した図(ヒータ要素を設置する前の態様)
【図9】本発明の製造方法における工程を模式的に表した図(ヒータ要素を設置する際の態様)
【図10】積層化した固化層に形成された溝部の態様を模式的に表した図
【図11】造形物支持部材の態様を模式的に表した斜視図
【図12】開口部に残存した金属粉末を吸い出す態様を模式的に表した図
【図13】本発明の製造方法における工程を模式的に表した図(ヒータ要素の設置後の態様)
【図14】溝部を埋める固化部を形成する態様を模式的に表した図(図14(a):固化部形成の概念図、図14(b):固化部を光ビーム照射で一括して形成する態様、図14(c)固化部を複数の層に分けて形成する態様)
【図15】溝部を切削加工する態様を模式的に表した図
【図16】溝部にポーラス状固化部を形成する態様を模式的に表した図
【図17】焼結密度(かさ密度)と熱伝導率との相関関係を表したグラフ
【図18】平面出しのための切削加工の態様を模式的に表した図
【図19】ガス抜き部の形成の工程を模式的に表した図
【図20】ガス抜き部の別の形態を模式的に表した図
【図21】冷却管の設置態様を模式的に表した図
【図22】冷却管の設置態様を模式的に表した斜視図
【図23】本発明の金型を用いた樹脂成形の操作態様を模式的に表した図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
【0023】
[粉末焼結積層法]
まず、本発明の製造方法の前提となる粉末焼結積層法について説明する。説明の便宜上、材料粉末タンクから材料粉末を供給し、均し板を用いて材料粉末を均して粉末層を形成する態様を前提として粉末焼結積層法を説明する(尚、本発明は、切削機構を具備しない図2(b)に示す態様であっても実現可能であることを付言しておく)。また、粉末焼結積層法に際しては造形物の切削加工をも併せて行う複合加工の態様を例に挙げて説明する(つまり、図2(b)ではなく図2(a)に表す態様を前提とする)。図1,3および4には、粉末焼結積層法と切削加工とを実施できる光造形複合加工機の機能および構成が示されている。光造形複合加工機1は、「金属粉末を所定の厚みで敷くことによって粉末層を形成する粉末層形成手段2」と「外周が壁27で囲まれた造形タンク29内において上下に昇降する造形テーブル20」と「造形テーブル20上に配され造形物の土台となる造形物支持部材21」と「光ビームLを任意の位置に照射する光ビーム照射手段3」と「造形物の周囲を削る切削手段4」とを主として備えている。粉末層形成手段2は、図1に示すように、「外周が壁26で囲まれた材料粉末タンク28内において上下に昇降する粉末テーブル25」と「造形物支持部材上に粉末層22を形成するための均し板23」とを主として有して成る。光ビーム照射手段3は、図3および図4に示すように、「光ビームLを発する光ビーム発振器30」と「光ビームLを粉末層22の上にスキャニング(走査)するガルバノミラー31(スキャン光学系)」とを主として有して成る。必要に応じて、光ビーム照射手段3には、光ビームスポットの形状を補正するビーム形状補正手段(例えば一対のシリンドリカルレンズと、かかるレンズを光ビームの軸線回りに回転させる回転駆動機構とを有して成る手段)やfθレンズなどが具備されている。切削手段4は、「造形物の周囲を削るミーリングヘッド40」と「ミーリングヘッド40を切削箇所へと移動させるXY駆動機構41(41a,41b)」とを主として有して成る(図3および図4参照)。
【0024】
光造形複合加工機1の動作を図1、図5および図6を参照して詳述する。図5は、光造形複合加工機の一般的な動作フローを示しており、図6は、光造形複合加工プロセスを模式的に簡易に示している。
【0025】
光造形複合加工機の動作は、粉末層22を形成する粉末層形成ステップ(S1)と、粉末層22に光ビームLを照射して固化層24を形成する固化層形成ステップ(S2)と、造形物の表面を切削する切削ステップ(S3)とから主に構成されている。粉末層形成ステップ(S1)では、最初に造形テーブル20をΔt1下げる(S11)。次いで、粉末テーブル25をΔt1上げた後、図1(a)に示すように、均し板23を、矢印A方向に移動させ、粉末テーブル25に配されていた粉末(例えば「平均粒径5μm〜100μm程度の鉄粉」)を造形物支持部材21上へと移送させつつ(S12)、所定厚みΔt1に均して粉末層22を形成する(S13)。次に、固化層形成ステップ(S2)に移行し、光ビーム発振器30から光ビームL(例えば炭酸ガスレーザ(500W程度)、Nd:YAGレーザ(500W程度)、ファイバレーザ(500W程度)または紫外線など)を発し(S21)、光ビームLをガルバノミラー31によって粉末層22上の任意の位置にスキャニングし(S22)、粉末を溶融させ、固化させて造形物支持部材21と一体化した固化層24を形成する(S23)。光ビームは、空気中を伝達させることに限定されず、光ファイバーなどで伝送させてもよい。
【0026】
固化層24の厚みがミーリングヘッド40の工具長さ等から求めた所定厚みになるまで粉末層形成ステップ(S1)と固化層形成ステップ(S2)とを繰り返し、固化層24を積層する(図1(b)参照)。尚、新たに積層される固化層は、焼結又は溶融固化に際して、既に形成された下層を成す固化層と一体化することになる。
【0027】
積層した固化層24の厚みが所定の厚みになると、切削ステップ(S3)へと移行する。図1および図6に示すような態様ではミーリングヘッド40を駆動させることによって切削ステップの実施を開始している(S31)。例えば、ミーリングヘッド40の工具(ボールエンドミル)が直径1mm、有効刃長さ3mmである場合、深さ3mmの切削加工ができるので、Δt1が0.05mmであれば、60層の固化層を形成した時点でミーリングヘッド40を駆動させる。XY駆動機構41(41a,41b)によってミーリングヘッド40を矢印X及び矢印Y方向に移動させ、積層した固化層24から成る造形物の表面を切削加工する(S32)。そして、三次元形状造形物の製造が依然終了していない場合では、粉末層形成ステップ(S1)へ戻ることになる。以後、S1乃至S3を繰り返して更なる固化層24を積層することによって、三次元形状造形物の製造を行う(図6参照)。
【0028】
固化層形成ステップ(S2)における光ビームLの照射経路と、切削ステップ(S3)における切削加工経路とは、予め三次元CADデータから作成しておく。この時、等高線加工を適用して加工経路を決定する。例えば、固化層形成ステップ(S2)では、三次元CADモデルから生成したSTLデータを等ピッチ(例えばΔt1を0.05mmとした場合では0.05mmピッチ)でスライスした各断面の輪郭形状データを用いる。
【0029】
[本発明の製造方法]
本発明は、上述した粉末焼結積層法のなかでも、特に積層化の途中における工程に特徴を有している。具体的には、固化層形成の反復実施に際して、ヒータ要素70を固化層24に設けることを特徴としている(図7(a)〜(c)参照)。本発明では、固化層の任意の箇所にヒータ要素を据え置くことができるので、最終的に得られる三次元形状造形物においては、その内部の所望箇所にヒータ要素が設置されることになる。このようにして得られる三次元形状造形物は樹脂成形用の金型として用いることができるが、ヒータ要素が局所的に設けられており、かつ、金型構成材に直接的に接するように設けられているので、ウェルド防止に特に効果的である。
【0030】
以下では、図8〜図13を参照して本発明の製造方法を経時的に説明していく。ちなみに、本発明で用いる金属粉末は、鉄系粉末を主成分とした粉末であって、場合によってはニッケル粉末、ニッケル系合金粉末、銅粉末、銅系合金粉末および黒鉛粉末などから成る群から選択される少なくとも1種類を更に含んで成る粉末であってよい(一例として、平均粒径20μm程度の鉄系粉末の配合量が60〜90重量%、ニッケル粉末及びニッケル系合金粉末の両方又はいずれか一方の配合量が5〜35重量%、銅粉末および/または銅系合金粉末の両方又はいずれか一方の配合量が5〜15重量%、ならびに、黒鉛粉末の配合量が0.2〜0.8重量%となった金属粉末を挙げることができる)。尚、金属粉末は、このような鉄系粉末に限定されるものでなく、銅系粉末やアルミニウム粉末も可能であり、更にいえば、三次元形状造形物を金型以外の用途で用いるのであれば、プラスチック粉末やセラミック粉末も可能であることを付言しておく。
【0031】
本発明の実施に際しては、まず、図8(a)に示すように、均し板23などを用いて、造形物支持部材21上に金属粉末層22を形成する。次いで、図8(b)に示すように、かかる金属粉末層22に対して光ビームLを照射して、金属粉末層22から焼結層24を形成する。金属粉末層22および焼結層24の厚さは、特に制限はないが、例えば0.02mm〜0.5mm程度、好ましくは0.02mm〜0.2mm程度であってよい。このような焼結層24の形成を繰り返し実施すると(図9(a)参照)、所望の造形物が形成されていくが、所定の時点で一旦、焼結層24の形成を停止させる。そして、図9(b)に示すように、それまでに形成された固化層24に対してヒータ要素70を配置する。
【0032】
ヒータ要素70としては、特に制限されるわけではないが、コイルヒータを用いることが好ましい。ここでいう「コイルヒータ」とは、コイル状に曲げることができる可撓性の発熱部を有するヒータ要素を実質的に意味している。本発明では、例えば図9(b)に示すように、積層化された固化層の溝部80に対してコイルヒータ70の発熱部70aを配置することが好ましい。
【0033】
積層化された固化層の溝部80は、焼結層24の形成に際して、光ビームを照射する箇所とそうでない箇所とに分けることによって形成することができる。つまり、金属粉末層22において溝部80を設けたい粉末領域には光ビームを照射せずに粉末状態のままにしておき、最後にその領域部分の粉末を除去すると、溝部80が得られることになる。
【0034】
溝部80の形状は、特に制限されず、“使用されるコイル要素の形態”や“コイル要素が設置される態様”などに応じて適当な形状を選択すればよい。コイルヒータが用いられる場合では、図10に示すように、リング状ないしは環状の溝部80であってよい。かかる場合、図9(b)に示すように、可撓性の発熱部70aを曲げることによって溝部に沿ってコイルヒータを配置することが好ましい。図示するようなリング状ないしは環状の溝部80の場合、溝部の幅寸法wは0.1〜5mm程度、溝部の高さ寸法hは0.1〜5mm程度であってよい(図10を参照)。
【0035】
ここで、コイルヒータ70を溝部80に設ける場合、“造形物支持部材21”および“焼結層24”の開口部90a,90bを介して行うことが好ましい(“開口部”については図10参照)。具体的には、コイルヒータ70の発熱部70aを、造形物支持部材21の開口部90a(特に開口部の下側入口90a’)から挿入し、引き続いて、焼結層24の開口部90bへと挿入して、最終的に溝部に対して下側から導入する。コイルヒータでは発熱部70aはフレキシブルに曲げることができるので、開口部90a,90bを経た後であっても最終的に溝部80の形状に沿って好適に設けることができる。このようなコイルヒータの設置に際しては、造形物支持部材21として、図11に示すように、予め開口部90aが設けられたものを用いればよい(例えば、金属製の造形物支持部材21の場合ではドリル加工などの機械加工によって開口部90aを形成することができる)。また、焼結層24の開口部90bについては、溝部80の形成と同様、焼結層24の形成に際して光ビームを照射する箇所とそうでない箇所とに分けることによって形成することができる。つまり、金属粉末層22において開口部90bに相当する粉末領域には光ビームを照射せずに粉末状態のままにしておき、最後にその領域部分の粉末を除去すると開口部90bが得られることになる。ちなみに、焼結層の開口部90bは、図10に示すように、造形物支持部材21の開口部90aと溝部80との双方に連通するように形成することが好ましい。これにより、開口部を介したコイルヒータ70のスムーズな配置が助力される。
【0036】
ちなみに、開口部90a,90bを介したコイル要素70の配置は、焼結層と造形物支持部材との一体化物を材料粉末タンクから一旦取り出してから行ってよい。これにより、開口部90a,90bに詰まった金属粉末を容易に除去できる。かかる金属粉末の除去に際しては、図12に示すように、必要に応じて吸引機60などを用いることによって、開口部90a,90bに残存した金属粉末22を吸い出す操作を行ってもよい。
【0037】
ヒータ要素70を溝部80に配置した後では、焼結層24の形成を再開する。つまり、再び金属粉末層の敷設および光ビームの照射を繰り返すことになる(図13(a)および(b)参照)。具体的には、まず、溝部80を埋め、その後、これまでと同様に“均し板などによる金属粉末層の形成”および“光ビーム照射による焼結層24の形成”を反復実施する。以上の操作を経ることによって、ヒータ要素が所望の位置に埋設された三次元形状造形物が最終的に得られる。
【0038】
尚、ヒータ要素の配置後に溝部80を埋めるには、金属粉末層の形成で用いた均し板などを利用して溝部に金属粉末を充填した後、その充填された金属粉末に対して光ビームLを照射して行うことが好ましい(図14(a)参照)。溝部に充填された金属粉末に光ビームが照射されると、その金属粉末が固化するので(即ち、焼結して固化部80aが形成されるので)、溝部80が好適に埋められることになる。この際、溝部に充填した金属粉末を一括して光ビーム照射に付してよいし(図14(b))、あるいは、溝部に充填される金属粉末を複数の層に分けて形成し、個々の層ごとに光ビーム照射を行ってもよい(図14(c))。
【0039】
上述の態様は本発明の適用範囲のうちの典型例を例示したに過ぎない。本発明では、それらに限定されず、種々の変更態様が可能である。以下それについて詳述する。
【0040】
(溝部の切削加工)
「溝部の切削加工」の態様を図15に示す。かかる態様では、固化層の溝部にヒータ要素を配置するに先立って、溝部80に切削加工を施す。これにより、表面粗さが改善されるので、溝部に配置されたヒータ要素と溝部との密着性が向上する。ヒータ要素の密着性が向上すると、即ち、ヒータ要素と溝部面との接触率が向上すると、三次元形状造形物の最終的な用途において、ヒータ要素からの熱が三次元形状造形物に効率的に伝わることになる。尚、ここでいう、本明細書にいう「切削加工」とは、工具を用いて三次元形状造形物を切り削ることを意味しており、特に、三次元形状造形物の表面凹凸を除去するための操作を実質的に意味している。
【0041】
用いる切削加工手段は、表面切削を施せるものであればいずれのものであってもよい。例えば、上述した光造形複合加工機の切削加工手段(例えば図2(a)参照)を用いることができる。換言すれば、切削加工手段は、汎用の数値制御(NC:Numerical Control)工作機械またはそれに準ずるものであり得る。エンドミルなどの切削工具を自動交換可能なマシニングセンタ(MC)であることが好ましい。エンドミルは、例えば超硬素材の二枚刃ボールエンドミルが主に用いられる。必要に応じて、スクエアエンドミル、ラジアスエンドミル、ドリルなどを用いてもよい。
【0042】
溝部に表面切削加工を施すことによって、その溝部における表面粗さを改善できる。例えば、表面切削加工が施された箇所の表面粗さRzを、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、更に好ましくは0.1μm以下とすることができる。ここで「表面粗さRz」とは、粗さ曲線(本発明でいうと「溝部表面の断面形状プロファイル」)において平均線から“最も高い山頂部までの高さ”と“最も低い谷底部までの深さ”とを足し合わせることによって得られる粗さ尺度を意味している。
【0043】
(ポーラス状固化部の形成)
「ポーラス状固化部」の態様を図16に示す。かかる態様では、溝部80に金属粉末を充填した後、その充填された金属粉末に低エネルギーの光ビームを照射して、溝部80を埋めるポーラス状の固化部80b(即ち“粗状態の焼結部”)を形成する。即ち、溝部80に充填された金属粉末に照射する光ビームの出力エネルギーを低くして焼結密度を不十分にして、焼結密度が例えば約40%〜約90%の固化部を形成する(ちなみに、三次元形状造形物の焼結層24の焼結密度は約90〜100%程度である)。このようにポーラス状固化部を形成することによって、光ビームによるヒータ要素の損傷を効果的に防止することができる。ここで、本明細書にいう「焼結密度(%)」とは、造形物の断面写真を画像処理することによって求めた焼結断面密度(金属材料の占有率)を実質的に意味している。使用する画像処理ソフトはScion Image ver. 4.0.2(フリーウェア)であって、断面画像を焼結部(白)と空孔部(黒)とに二値化した後、画像の全画素数Pxallおよび焼結部(白)の画素数Pxwhiteをカウントすることで、以下の式1により焼結断面密度ρを求めることができる。
[式1]


【0044】
尚、本願発明者らは、鋭意検討の結果、このようにポーラス状の固化部を形成した場合であっても、その部分の熱伝導率は依然高く、ヒータ要素からの熱が効果的に造形物に伝わること見出している。これについては、図17を参照されたい(ちなみに、焼結密度が約40%〜約90%の固化層は、図17のグラフにおける“かさ密度ρ”6500〜7500kg/mに相当し得る点に留意されたい)。つまり、ポーラス状の固化部を形成した場合でもその部分における伝熱効率が低下することないので、最終的に得られる三次元形状造形物を金型用途として好適に用いることができる。
【0045】
ポーラス状固化部80bは、(a)光ビームの出力エネルギーを下げることによって形成できる他、(b)光ビームの走査速度を上げる、(c)光ビームの走査ピッチを拡げる、(d)光ビームの集光径を大きくすること等によっても形成することができる。上記(a)〜(d)は、単独で行ってもよいものの、それらを種々に組み合わせて行ってもよい。尚、上記(a)について言えば、例えば光ビームの照射エネルギー密度Eを約2〜3J/mmとすることによって焼結密度が約70〜80%程度のポーラス状固化部を形成できる。尚、エネルギー密度E=レーザ出力(W)/(走査速度(mm/s)×走査ピッチ(mm)である(製造条件は例えば、粉末の積層厚さ:0.05mm、レーザの種類:CO(炭酸ガス)レーザ、スポット径:0.5mmである。以下の説明においても同様である)。
【0046】
(低融点金属粉末材料の充填)
かかる態様は、ヒータ要素の配置後の溝部80に充填する金属粉末として、低融点金属粉末材料を用いる態様である。つまり、図14(a)〜(c)の態様において、溝部80に低融点金属粉末を充填し、その充填後の溝部に対して光ビームを照射することによって低融点金属粉末から固化部80cを形成する。本明細書において「低融点金属粉末材料」における「低融点」とは、三次元形状造形物のボディ部を形作る固化層の形成に用いる金属粉末よりも低い融点を実質的に意味しており、例えば100℃〜1000℃程度の融点を指している。このような低融点金属粉末材料を例示すると、銅合金、アルミニウム合金、はんだ粉などのスズ系合金およびインジウム系合金などから成る群から選択される少なくとも1種類を含んで成る粉末を挙げることができる。
【0047】
低融点金属粉末材料を用いる態様では、焼結層形成時よりも低いエネルギーの光ビームでもって溝部80を埋める固化部80cを形成することができるので、ヒータ要素70の損傷を防止することができる。つまり、焼結層24の形成時よりも光ビームの出力エネルギーを低くして溝部80を埋める固化部80cを形成することができる。このように、(a)光ビームの出力エネルギーを低くすることの他に、(b)光ビームの走査速度を上げる、(c)光ビームの走査ピッチを拡げる、(d)光ビームの集光径を大きくすることよっても、焼結層形成時よりも低いエネルギーの光ビームで溝部80を埋める固化部80cを形成できる。上記(a)〜(d)は、単独で行ってもよいものの、それを種々に組み合わせて行ってもよい。尚、上記(a)についていえば、例えば照射エネルギー密度Eが4〜15J/mm程度の光ビームでもって焼結層24を形成するのに対して、溝部80を埋める固化部80cを照射エネルギー密度Eが約0.1〜4J/mmの光ビームにより形成してよい。
【0048】
尚、低融点金属粉末材料を用いる態様では、低融点金属粉末材料に照射する光ビームのエネルギーを、ヒータ要素から離れるにしたがって徐々に大きくすることが好ましい。具体的には、図14(c)に示すように、溝部に充填される低融点金属粉末を複数の層に分けて形成して個々の層ごとに光ビーム照射を行う場合では、より上方の層になるほど光ビームのエネルギー密度Eをより高くすることが好ましい。これにより、光ビーム照射によるヒータ要素の損傷を更に防止することができると共に、溝部を埋める固化部の熱伝導率を効果的に増加させることができる。あくまでも例示にすぎないが、溝部に充填される低融点金属粉末を1〜10層に分けた場合、最下層に対する光ビームのエネルギー密度Eを0.1〜2J/mm程度とするのに対して、最上層に対する光ビームのエネルギー密度Eを1〜4J/mm程度とし、中間層に対して一定の間隔(例えば0.2〜0.5J/mm程度)でエネルギー密度Eを段階的に上昇させてよい。
【0049】
(平面出しのための切削加工)
「平面出しのための切削加工」の態様を図18に示す。かかる態様では、金属粉末又は低融点金属粉末から溝部80を埋める固化部80a,80cを形成した後、固化部の上面80Aと最上焼結層の上面24Aとが面一になるように切削加工を施す(つまり、溝部を埋める固化部を形成した場合では、粉末層の厚みが異なるために、焼結面が荒れることになるので、焼結状態が安定するまで強制的に平面仕上げを実施する)。用いる切削加工手段は、“面一”を可能にするもの、即ち、平坦な面の形成を可能にするものであればいずれのものであってもよい。例えば、上述した光造形複合加工機の切削加工手段を用いることができる。換言すれば、平面出しのための切削加工手段は、汎用の数値制御(NC:Numerical Control)工作機械またはそれに準ずるものであり得る。エンドミルなどの切削工具を自動交換可能なマシニングセンタ(MC)であることが好ましい。エンドミルは、例えば超硬素材の二枚刃ボールエンドミルが主に用いられる。必要に応じて、スクエアエンドミル、ラジアスエンドミルなどを用いてもよい。
【0050】
このように、固化部の上面80Aと最上焼結層の上面24Aとが面一になるように切削加工を施すことによって、ヒータ要素の設置後に行う粉末層形成を好適に行うことができ、ひいては、以後の焼結層形成を好適に行うことができる。
【0051】
(ガス抜き部の形成)
「ガス抜き部の形成」の態様を図19に示す。かかる態様では、三次元形状造形物を金型として用いる際に“ガス抜き”ができるように、ポーラス状の固化部分24bを形成する。このポーラス状の固化部分24bは、例えば焼結密度が70〜80%程度となった部分である。かかるポーラス状の固化部分24bは、(a)光ビームの出力エネルギーを下げることによって形成できる他、(b)光ビームの走査速度を上げる、(c)光ビームの走査ピッチを拡げる、(d)光ビームの集光径を大きくすること等によっても形成することができる。上記(a)〜(d)は、単独で行ってもよいものの、それらを種々に組み合わせて行ってもよい。尚、上記(a)について言えば、光ビームの照射エネルギー密度Eを例えば2〜3J/mm程度とすることによって焼結密度を約70〜80%程度にすることができ、ポーラス状の固化部分24bを得ることができる。
【0052】
ポーラス状の固化部分24bは、コイルヒータに隣接して設けてよく、例えば図19に示すようにコイルヒータの発熱部70aの内側領域に設けてよい。また、図20に示すように比較的薄いポーラス状の固化部分24bを形成した場合では、その底側に“補強用の梁部材24c”を形成して、ポーラス状の固化部分24bを支持するような態様にしてもよい。尚、このようなポーラス状の固化部分24bは、あくまでも“ガス抜き”に供するために、樹脂成形時に原料樹脂が最後に到達する領域、例えば2つの樹脂原料流れが合流するキャビティ内領域に近接して設けることが好ましい(三次元形状造形物を金型として用いる場合)。
【0053】
ヒータ要素の設置と共にポーラス状の固化部分24bが形成された三次元形状物では、成形時に局所的な加熱とキャビティ内のガス抜きとを行うことができるので、ウェルドの発生をより効果的に防止できる。
【0054】
(冷却管の形成)
「冷却管の形成」の態様を図21および図22に示す。かかる態様では、三次元形状造形物を金型として用いる際に“冷却液”を流せるように、パイプ状経路24dを造形物に形成する。このパイプ状経路24dは、焼結層24の形成に際して光ビームを照射する箇所とそうでない箇所とに分けることによって形成できる。つまり、金属粉末層においてパイプ状経路24dを設けたい粉末領域には光ビームを照射せずに粉末状態のままにしておき、最後にその領域部分の粉末を除去することによって、中空部分を形成することができる。尚、図21および図22に示すように、造形物支持部材21と一体化した造形物24を金型として用いる場合には、造形物支持部材21にもパイプ状経路24d’を設けておくことが好ましい。
【0055】
このように、ヒータ要素の設置と共にパイプ状経路24dを形成すると、金型の温度調整をより効果的に行うことができ、例えばウェルド発生と防止と成形時の冷却工程とを好適に行うことができる。尚、図21および図22に示す態様では、ヒータ要素およびパイプ状経路24dと共に、ポーラス状固化部分24bも形成されている。かかる態様では、成形時に局所的な加熱とキャビティ内のガス抜きとを行ってウェルド発生を効果的に防止しつつ、その後の冷却工程を効率的に行うことができる。
【0056】
[本発明の三次元形状造形物]
次に、上述の製造方法で得られる本発明の三次元形状造形物について説明する。本発明の三次元形状造形物は、コア側またはキャビ側の金型として用いることができるようにヒータ要素が内蔵されている。特に、本発明の金型ではヒータ要素が局所的に内蔵されているので、その近傍のキャビティ面を効果的に加熱できるようになっている。本発明におけるヒータ要素の内蔵形態としては、種々のものが考えられる。以下、その代表例について詳述する。
【0057】
(ウェルドライン発生領域/最終充填領域に近接した内蔵形態)
かかる形態では、樹脂成形時にて原料樹脂が最後に到達する位置(最終充填位置・ウェルドライン発生位置)の近傍にヒータ要素が内蔵されている。換言すれば、キャビティ部へと導入される原料樹脂が最終的に到達することになる領域に近接してヒータ要素が内蔵されている。ここで、本明細書において「近接してヒータ要素が内蔵されている」とは、対象となる領域からヒータ要素が約0.5〜20mm離隔して位置している態様を意図している。
【0058】
かかる形態では、樹脂成形時に原料樹脂が最後に到達する領域(例えば2つの樹脂原料流れが合流するキャビティ内領域)が局所的に加熱されるので、ウェルド発生を効果的に防止することができる。
【0059】
尚、本発明の金型の特に好ましい態様では、ガス抜き用のポーラス状固化部分24b(図21および図22参照)もヒータ要素に隣接して設けられており、これによって、より効果的にウェルド発生を防止することができる。
【0060】
(薄肉成形部に近接した内蔵形態)
かかる形態では、成形品の肉厚・厚みが薄くなる部位に相当するキャビティ領域に近接してヒータ要素が内蔵されている。一般的に薄肉部位に相当するキャビティ領域は原料樹脂が流れにくいところ、本発明の金型ではその領域に近接してヒータ要素が設けられている。従って、かかる領域を局所的に加熱でき、その結果、原料樹脂の流動性が向上し、薄肉部位であっても好適に原料樹脂を充填することができる。つまり、かかる形態の金型を用いれば、所望の薄肉成形品を成形することができる。
【0061】
尚、ここでいう「薄肉」とは、0.05mm〜0.5mm程度の厚さを実質的に意味している。つまり、本発明では、そのような肉厚を実現できるので、本発明の三次元形状造形物を例えば電子機器用コネクターなどの成形用金型として好適に用いることができる。
【0062】
かかる形態でも、ウェルド発生をより効果的に防止するために、ガス抜き用のポーラス状固化部分24bをヒータ要素70に隣接して設けることが好ましい。
【0063】
(ゲート部に近接した内蔵形態)
かかる形態では、金型ゲート部に近接してヒータ要素が内蔵されている。ゲート部は一般的に狭窄部となっており原料樹脂が凝固し易い箇所といえるところ、本発明の金型ではその領域に近接してヒータ要素が設けられている。従って、かかる領域を局所的に加熱でき、その結果、ゲート部における固化が防止され、樹脂充填率が向上することになる。つまり、かかる形態の金型を用いれば、高密度な成形品を好適に実現できる。
【0064】
次に、本発明の三次元形状造形物を金型として用いた場合の使用態様について例示する。特に、図21および図22に示されるように、「ヒータ要素70」に加えて、「ガス抜き用のポーラス状固化部分24b」および「冷却水用のパイプ状経路24d」を備えて成る三次元形状造形物(金型)を用いることを前提とする。
【0065】
本発明で得られる金型を用いた樹脂成形においては、「ヒータ要素による加熱操作のON/OFFのタイミング」、「ポーラス状固化部分24bを介したガス吸引もしくはガス噴出のタイミング」ならびに/または「パイプ状経路24dを介した冷却水流通のタイミング」を制御することが好ましい。例えば、図23に示すような制御を行うことが好ましい。このような制御を行うと、ウェルド発生なくより好適に成形品を得ることができる。ちなみに、型開き・突き出し時にポーラス状固化部分24bからガスを噴出すると、その部分の目詰まり防止となる。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の製造方法で得られる三次元形状造形物は工業上の種々の物品として用いることができる。例えば、得られる三次元形状造形物をプラスチック射出成形用金型、プレス金型、ダイカスト金型、鋳造金型、鍛造金型などの金型として用いることができる。
【符号の説明】
【0068】
1 光造形複合加工機
2 粉末層形成手段
3 光ビーム照射手段
4 切削手段
8 ヒューム
19 粉末/粉末層(例えば金属粉末/金属粉末層)
19’低融点金属粉末/低融点金属粉末層
20 造形テーブル
21 造形物支持部材
22 粉末層(例えば金属粉末層または樹脂粉末層)
22’残存した金属粉末
23 スキージング用ブレード
24 固化層(例えば焼結層)またはそれから得られる造形物
24b ポーラス状焼結部
24c 補強用の梁部材
24d パイプ状の経路
24d’ パイプ状の経路
24A 固化層の上面
25 粉末テーブル
26 粉末材料タンクの壁部分
27 造形タンクの壁部分
28 粉末材料タンク
29 造形タンク
30 光ビーム発振器
31 ガルバノミラー
40 ミーリングヘッド
41 XY駆動機構
50 チャンバー
52 光透過窓またはレンズ
60 吸引機
70 ヒータ要素(例えばコイルヒータ)
70a コイルヒータの発熱部
70b コイルヒータの駆動部
80 固化層に形成した溝部
80A 固化部の上面
80a 溝部を埋めている固化部
80b ポーラス状固化部
80c 低融点金属粉末材料から形成した固化部
90a,90b 造形物支持部材の開口部,固化層の開口部
L 光ビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)粉末層の所定箇所に光ビームを照射して前記所定箇所の粉末を焼結又は溶融固化させて固化層を形成する工程、および
(ii)得られた固化層の上に新たな粉末層を形成し、前記新たな粉末層の所定箇所に光ビームを照射して更なる固化層を形成する工程
を繰り返して行う三次元形状造形物の製造方法であって、
前記工程(i)と前記工程(ii)との反復実施に際して、固化層にヒータ要素を配置し、それによって、三次元形状造形物の内部に前記ヒータ要素を設けることを特徴とする、三次元形状造形物の製造方法。
【請求項2】
前記工程(i)および(ii)では、前記粉末層および前記固化層の形成を造形物支持部材上において実施しており、
前記ヒータ要素としてコイルヒータを用い、前記支持部材に設けられた開口部を介して前記コイルヒータを前記固化層に配置することを特徴とする、請求項1に記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項3】
積層化した固化層に形成された溝部に前記ヒータ要素を配置することを特徴とする、請求項1または2に記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項4】
前記溝部に対して切削加工を施し、該切削加工を施した面に対して前記ヒータ要素を配置することを特徴とする、請求項3に記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項5】
前記溝部に前記ヒータ要素を配置した後、該溝部に低融点金属粉末材料を充填する工程を含んで成り、
前記低融点金属粉末材料に光ビームを照射し、それによって得られる固化部材により該溝部を埋めることを特徴とする、請求項3または4に記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項6】
前記低融点金属粉末材料に対する光ビーム照射を、前記粉末層への光ビーム照射よりも低いエネルギーで行うことを特徴とする、請求項5に記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項7】
前記低融点金属粉末材料に対する光ビーム照射につき、ヒータ要素から離れるにしたがって照射エネルギーを徐々に大きくすることを特徴とする、請求項6に記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項8】
前記固化部材を形成した後、平面出しのための切削加工を該固化部材および/または前記固化層に対して行うことを特徴とする、請求項5〜7のいずれかに記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法で得られる三次元形状造形物であって、
金型として用いることができるようにヒータ要素が内蔵されていることを特徴とする、三次元形状造形物。
【請求項10】
前記金型のキャビティ部へと導入される原料樹脂が最終的に到達することになるキャビティ領域に近接して前記ヒータ要素が内蔵されていることを特徴とする、請求項9に記載の三次元形状造形物。
【請求項11】
前記金型において薄肉成形部が形成されるキャビティ領域に近接して前記ヒータ要素が設けられていることを特徴とする、請求項9に記載の三次元形状造形物。
【請求項12】
前記金型のゲート部に近接して前記ヒータ要素が設けられていることを特徴とする、請求項9〜11のいずれかに記載の三次元形状造形物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−256434(P2011−256434A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132209(P2010−132209)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【出願人】(506326176)株式会社OPMラボラトリー (5)
【Fターム(参考)】