説明

三環系化合物

【課題】 IKK2が関与する炎症性疾患又は自己免疫疾患等の治療又は予防薬としてに有用な化合物を提供すること。
【解決手段】 ピリジン環に含窒素飽和へテロ環又は置換アミノ基が置換し、チオフェン環上にカルボキサミド基とアミノ基を有することを特徴とする三環系化合物が、IKK2阻害作用に基づく優れた抗炎症作用を有することを見出し、特に炎症性疾患又は自己免疫疾患等の治療又は予防薬として有用であることを知見して本発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、特に関節リウマチ等、IKK2の関与する疾患の治療又は予防薬として有用な三環系化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ニュークレオファクターκB(NF-κB)はサイトカイン(TNF-α、IL-1β、IL-6等)、ケモカイン(RANTES、IL-8等)、或いはアラキドン酸代謝酵素(COX-2等)等の炎症反応に寄与するタンパク質の転写、翻訳を活性化するユビキタスな転写因子であり、炎症性疾患又は自己免疫疾患等における急性炎症反応及び慢性炎症反応に重要な役割をしている(Mol. Cell Biol. 1999;19:4547-51)。例えば、関節リウマチ(RA)患者の滑膜細胞では、NF-κBが核内に移行して活性化されていることが示されており、炎症部位でのサイトカインやエイコサノイド等の炎症性メディエーター産生にNF-κBが中心的役割を占めていることが指摘されている(Annu. Rev. Immunol. 1994;12:141-79)。
NF-κBの活性化を阻害することが、前記の炎症性疾患の有効な治療法となり得ることが示されている。例えば、臨床で広く用いられているステロイド、非ステロイド性抗炎症剤(NSAID;salicylate、sulindac等)、免疫調整剤(thalidomide等)或いは抗酸化剤(flavonoids等)等が、NF-κB活性化の阻害作用を有する(Nat. Rev. Drug Discov. 2004;3:17-26)。
通常、NF-κBはその抑制因子IκBと結びついて細胞質内に留められている。細胞をサイトカイン(TNF-α、IL-1β等)、細菌又はウイルスの生成物(LPS、TAX等)、或いは化学物質(ホルボールエステル等)で刺激すると、IκBはIκBキナーゼ(IKK1およびIKK2)によってリン酸化される。その結果、IκBから遊離した活性型NF-κBは核内へ移行できるようになり、核において特定のエンハンサー配列に結合し、前述のようにサイトカイン等の転写翻訳を開始する。
NF-κBの活性化にはIKK2が重要であり、IKK2を阻害することが最も効果的、選択的にNF-κB活性化、それに基づく炎症を抑制する方法であることが示唆されている(Nat. Rev. Drug Discov. 2004;3:17-26)。また、これまでに、IKK2を欠損した線維芽細胞では、サイトカイン刺激によりNF-κBが活性化されないことが示されている(Science 1999;284:321-5)。さらに、種々の動物モデルにおいて、IKK2を選択的に阻害する低分子化合物が炎症反応を抑制すること(Nat. Rev. Drug Discov. 2004;3:17-26)、或いは酵素活性を欠いたIKK2の変異体を発現させた動物では、炎症反応が抑制されることが報告されている(Arthritis Rheum. 2001; 44: 1897-907)。
近年、炎症性疾患又は自己免疫疾患等の治療では、TNF-α、IL-1等の抗サイトカイン抗体の生物製剤が注目されているが、単独では治療効果が十分ではないことが報告されている(Nat. Rev. Drug Discov. 2003;2:473-88)。実際、通常、臨床では生物製剤はNSAID又はステロイド等と併用して用いられる(Lancet 1999;354:1932-9)。一方、ラット関節炎モデルにおいて、抗TNF-α製剤と抗IL-1製剤を併用することにより相乗的な治療効果が示されている(Arthritis Rheum. 2001;43:2648-2659)。したがって、TNF-α及びIL-1に加えて様々な炎症因子を同時に抑制するIKK2阻害剤は、急性および慢性炎症、自己免疫疾患の治療に現在使われている薬剤よりも高い薬効を示す可能性がある。
なお、IKK2は抗アポトーシス蛋白(Bcl-2等)の発現制御に関与しており、IKK2の阻害剤は抗腫瘍作用を示すことが報告されている(Drug Discovery Today 2002;7:653-63)。
【0003】
下記一般式(II)で表されるチエノピリジン誘導体がIKK2阻害作用を有し、自己免疫疾患、炎症性疾患及び癌等の治療に有効であることが示唆されている(特許文献1)。
【化3】

(式中、R1はフェニル、ヘテロアリール、ヘテロシクリル等、R2はC1-6アルキル、C1-6アルコキシ、C1-6アルキルアミノ、ヘテロシクリル(CH2)m-等、mは0又は1を示す。詳細は当該公報参照。)
また、4,5-ジヒドロナフト[1,2-b]チオフェン誘導体及び4H-インデノ[1,2-b]チオフェン誘導体(特許文献2及び特許文献3)等の三環系骨格を有するIKK2阻害化合物が報告されている。
【0004】
一方、下記式(III)で示される化合物が、医薬化合物(IV)を製造する為の原料化合物として記載されている(特許文献4及び特許文献5)。
【化4】

【0005】
【特許文献1】国際公開第03/103661号パンフレット
【特許文献2】国際公開第04/009582号パンフレット
【特許文献3】国際公開第03/086309号パンフレット
【特許文献4】東ドイツ国特許第258018号明細書
【特許文献5】東ドイツ国特許第258019号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、IKK2阻害作用に基づく強力な抗炎症作用を有し、関節リウマチ等、炎症性疾患又は自己免疫疾患の治療又は予防に有効な医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、IKK2阻害作用を有する化合物につき鋭意検討した結果、下記一般式で示される、ピリジン環に含窒素飽和へテロ環又は置換アミノ基が置換し、チオフェン環上にカルボキサミド基とアミノ基を有することを特徴とする三環系化合物が、IKK2阻害作用に基づく優れた抗炎症作用を有することを確認し、良好な炎症性疾患又は自己免疫疾患の治療又は予防薬となりうることを知見して本発明を完成した。
即ち、本発明は下記一般式(I)で示される新規な三環系化合物又はその塩に関する。
【0008】
【化5】

(式中の記号は以下の意味を有する。
【化6】

Het:含窒素飽和ヘテロ環基、
R1:-R0、ハロゲン、ハロゲノ置換低級アルキル、-Y1-NR4(R5)、-Y1-NR4-CO(R6)、-Y1-OR6、-Y1-O-CO-R0、-Y1-CO2-R6、-Y1-CO-R6、-Y1-CO-NR4(R5)、-Y1-SO2-R0、-Y1-SO-R0、-Y1-S-R0、-Y1-CN、-Y1-CO-R00-NR4(R5)、-Y1-CO-R00-OR6、-Y1-CO-NR4-R00-OR6、-Y1-NR4-R00-OR6、-Y1-NR4-R00-NR5R6、-Y1-NR4-CO-NR5R6、-Y2-置換されていてもよいフェニル、-Y2-置換されていてもよい単環若しくは2環式ヘテロ環基、-Y2-置換されていてもよいシクロアルキル、-Y3-置換されていてもよいフェニル、
R0:低級アルキル、
R00:低級アルキレン、
Y1:結合又は-R00-、
Y2:結合、-R00-、-O-、-R00-O-、-R00-CO-、-R00-SO2-又は-CO2-R00-、
Y3:フェニル及び-CO2-R6から選択される基で置換された低級アルキレン、
R4及びR6:同一又は互いに異なって、H又は-R0
R5:H、-R0、ハロゲンで置換されていてもよいフェニル又はハロゲンで置換されていてもよいベンジル、
k:0、1、2又は3、
但し、基Hetがモルホリノ基のときkは1、2又は3を示す、
R2及び R3:同一又は互いに異なって、H、-R0、-R00-OR6、-R00-NR0R4、-R00-CN、-R00-CO2-R6、-R00-CO-NR4(R5)、-R00-SO2-R0、-R00-置換されていてもよいフェニル、-R00-置換されていてもよい単環若しくは2環式ヘテロ環基、-R00-置換されていてもよいシクロアルキル、-Y3-CO2-R0、-Y3-OR6、-Y3-置換されていてもよい単環若しくは2環式ヘテロ環基、置換されていてもよいフェニル、置換されていてもよい単環若しくは2環式ヘテロ環基、置換されていてもよいシクロアルキル、
X:-CR7R8-、-O-、-CO-、-S(O)p-又は-NR4-、
R7及びR8:同一又は互いに異なって、H、-R0、ハロゲン又は-OR6
p:0、1又は2、
m:0、1、2又は3、
n:0、1、2又は3、
ここで、m+nは2以上5以下の整数を表す。以下同様。)
【発明の効果】
【0009】
本発明化合物はIKK2阻害に基づく優れた抗炎症作用を有することから、炎症性疾患又は自己免疫疾患,特に、リウマチ疾患(関節リウマチ等)、消化器系疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病等)、皮膚炎症性疾患(アトピー性皮膚炎、乾癬等)、内分泌疾患(糖尿病等),中枢疾患(多発性硬化症等)、呼吸器疾患(喘息等)および癌疾患等の治療又は予防薬として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳述する。
本明細書中の一般式の定義において「低級」なる用語は、特に断らない限り、炭素数が1〜6(以後、C1-6と略す)の直鎖又は分枝状の炭素鎖を意味する。従って「低級アルキル」はC1-6アルキルであり、好ましくはメチル、エチル、プロピル、ブチル基等の直鎖状のアルキル、及びイソプロピル、イソブチル、tert-ブチル基等の分枝状のアルキルである。メチル、エチル、プロピル及びイソプロピル基が特に好ましい。
「低級アルキレン」はC1-6アルキレンであり、好ましくはメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン基等の直鎖状のアルキレン、及びメチルメチレン基等の分枝状のアルキレンである。メチレン、トリメチレン及びテトラメチレン基が特に好ましい。
「ハロゲン」は、F、Cl、Br及びIを示す。「ハロゲノ低級アルキル」とは、好ましくは1個以上のハロゲンで置換されたC1-6アルキルを意味し、より好ましくは1個以上のFで置換されたC1-6アルキルであり、更に好ましくは、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル及びトリフルオロエチル基である。
「シクロアルキル」とは、C3-10の飽和炭化水素環基であり、架橋を有していてもよい。好ましくはシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びアダマンチル基である。
【0011】
「単環式ヘテロ環基」とは、O、S及びNから選択されるヘテロ原子を1〜4個含有する単環3〜8員、好ましくは5〜7員環基であり、不飽和環である単環式ヘテロアリール、飽和環である単環式ヘテロシクロアルキル、及び前記単環式ヘテロアリールが部分的に水素化された環基を含む。単環式ヘテロアリールとしては、好ましくはピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、イミダゾリル、ピロリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チエニル、フリル、チアゾリル、ピラゾリル、イソチアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアジアゾリル、オキサジアゾリル基が挙げられる。単環式ヘテロシクロアルキル、又はヘテロアリール基が部分的に水素化された環基として好ましくは、ピペリジニル、ピロリジニル、ピペラジニル、アゼパニル、ジアゼパニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、モルホリニル、チオモルホリニル基である。
「2環式ヘテロ環基」は、前記の単環式ヘテロ環同士、又はベンゼン環と単環式ヘテロ環が縮環した環基であり、好ましくは、インドリル、イソインドリル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル、インダゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾオキサゾリル、キノリル、イソキノリル、キナゾリル、キノキサリニル、ジヒドロベンゾフラニル、テトラヒドロキノリル、テトラヒドロイソキノリル及びインドリニル基である。
前記「単環式ヘテロ環基」及び「2環式ヘテロ環基」において、環原子であるS又はNが酸化されオキシドやジオキシドを形成してもよい。また、ヘテロシクロアルキル、及びヘテロアリールが部分的に水素化された環基においては、任意の炭素原子がオキソ基で置換されていてもよい。
「含窒素飽和へテロ環基」とは、1つのN原子を含み、更にN、S及びOからなるヘテロ原子を1つ含んでいてもよく、架橋していてもよい5〜8員飽和若しくは一部不飽和の単環へテロ環(以下、含窒素飽和単環へテロ環基)を構成成分として含む環基の総称である。「含窒素飽和へテロ環基」には、上記の含窒素飽和単環へテロ環基以外に、これらの単環へテロ環同士、又はこれらの単環へテロ環とフェニル基若しくはシクロアルキルが縮合した2環基(以下、含窒素飽和2環式へテロ環基)を包含する。また、含窒素飽和単環へテロ環基同士、又は含窒素飽和単環へテロ環基とシクロアルキル若しくは含窒素飽和2環式へテロ環基が、スピロ結合により結合した環基(以下、含窒素飽和スピロ環基)も包含する。含窒素飽和単環へテロ環基として、好ましくは、ピペリジニル、ピペラジニル、ピロリジニル、アゼパニル、ジアゼパニル、モルホリニル、チオモルホリニル、テトラヒドロピリジル及びテトラヒドロ-1,4-オキサゼピン-4(5H)-イルである。含窒素飽和2環式へテロ環基としては、好ましくは、テトラヒドロキノリル、テトラヒドロイソキノリル、インドリル、2,5-ジアザビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル、ヘキサヒドロピロロ[1,2-a]ピラジン-2(1H)-イル及び3,4-ジヒドロ-ピロロ[1,2-a]ピラジン-2(1H)-イルである。含窒素飽和スピロ環基としては、好ましくは、4-オキソ-1-フェニル-1,3,8-トリアザスピロ[4.5]デク-8-イル、3-オキソ-1'H,3H-スピロ[2-ベンゾフラン-1,4'-ピペリジン]-1'-イル、1-オキソ-2,8-ジアザスピロ[4.5]デク-8-イル及び1'H,3H-スピロ[2-ベンゾフラン-1,4'-ピペリジン]-1'-イルである。
【0012】
「置換されていてもよい」とは、「無置換」或いは「同一又は異なる置換基を1〜5個有していること」を示す。
例えば、「置換されていてもよいフェニル」及び「置換されていてもよい単環若しくは2環式へテロ環基」における置換基としては、好ましくは、低級アルキル、ハロゲン、ハロゲノ置換低級アルキル、-OR6、-NR4(R5)、-R00-OR6、-R00-NR4(R5)、-NR4-CO(R6)、-CO-NR4(R5)、-CN、-NO2、フェニル、ベンジル、単環式へテロアリールである。R1における「置換されていてもよいフェニル」及び「置換されていてもよい単環若しくは2環式へテロ環基」としては、特に、低級アルキル、ハロゲン、-OR6、-NR4(R5)、-R00-OR6が好ましく、R2及びR3における当該置換基としては、特に、低級アルキル、ハロゲン、-OR6、-NR4(R5)、-R00-OR6、CN、フェニル、ベンジル、単環式へテロアリールが好ましい。また、「置換されていてもよいシクロアルキル」における置換基としては、好ましくは、R0、-O-R3、-NR4(R5)、オキソ、-CO2-R3である。
また、kが複数のとき、基R1は同一又は異なっていてもよい。
【0013】
一般式(I)に示される本発明化合物における好ましい態様を以下に示す。
i) Xが-CH2-、-O-又は-NMe-である化合物、より好ましくは-CH2-である化合物。
ii) m及びnが、同一又は互いに異なって1又は2である化合物、より好ましくは一方が1であり他方が2である化合物。
iii) Aが、下記式、
【化7】

で表される化合物、より好ましくは、Hetが含窒素飽和単環へテロ環基、より好ましくは、ピペラジニル、ピペリジニル、アゼパニル、ジアゼパニル、ピロリジニル、更に好ましくはピペラジニル、ピペリジニルである化合物。特に好ましくは、更にkが0又は1であり、kが1のとき、R1が、-R0、-NR4(R5)、-OR6、-CO-NR4(R5)、-CO-R00-NR4(R5)、-CO-R00-OR6、-CO-NR4-R00-OR0、-R00-OH、-R00-OR0である化合物。
【0014】
本発明化合物(I)には幾何異性体や互変異性体が存在する場合がある。本発明にはこれらの異性体の分離したもの、或いは混合物が包含される。
また、本発明化合物(I)は不斉炭素原子を有する場合があり、これに基づく光学異性体が存在しうる。本発明はこれらの光学異性体の混合物や単離されたものを全て包含する。
更に、本発明化合物(I)には、製薬学的に許容されるプロドラッグも含まれる。製薬学的に許容されるプロドラッグとは、加溶媒分解により又は生理学的条件下で本発明のNH2、OH、CO2H等に変換できる基を有する化合物である。プロドラッグを形成する基としては、Prog. Med., 5, 2157-2161 (1985)や「医薬品の開発」(廣川書店、1990年)第7巻 分子設計163-198に記載の基が挙げられる。
【0015】
本発明化合物(I)の塩としては、製薬学的に許容される塩であり、具体的には塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩等が挙げられる。また、置換基の種類によっては、塩基との塩を形成する場合もあり、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の金属を含む無機塩基、或いはメチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、リジン、オルニチン等の有機塩基との塩やアンモニウム塩等が挙げられる。
さらに、本発明化合物(I)及びその塩には、各種の水和物や溶媒和物及び結晶多形の物質が包含される。
【0016】
(製造法)
本発明化合物(I)及びその塩は、その基本骨格或いは置換基の種類に基づく特徴を利用し、種々の公知の合成法を適用して製造することができる。その際、官能基の種類によっては、当該官能基を原料乃至中間体の段階で適当な保護基で保護、又は当該官能基に容易に転化可能な基に置き換えておくことが製造技術上効果的な場合がある。このような官能基としては例えばアミノ基、水酸基、カルボキシル基等であり、それらの保護基としては例えばグリーン(T. W. Greene)及びウッツ(P. G. M. Wuts)著、「Protective Groups in Organic Synthesis(第3版、1999年)」に記載の保護基を挙げることができ、これらを反応条件に応じて適宜選択して用いればよい。このような方法では、当該保護基を導入して反応を行った後、必要に応じて保護基を除去、或いは所望の基に転化することにより、所望の化合物を得ることができる。
また、化合物のプロドラッグは、得られた化合物(I)又は原料乃至中間体の段階で、特定の基を導入することにより製造できる。反応は通常のエステル化、アミド化、脱水等、当業者により公知の方法を適用することにより行うことができる。
【0017】
(第一製法)
【化8】

本製法は化合物(1)と2-ブロモアセトアミド(2)とを用いて、連続するS-アルキル化反応と環化反応を同時に行うことにより、本発明化合物(I)を製造する方法である。
本反応は化合物(1)と2-ブロモアセトアミド(2)とを適当な塩基存在下、等量もしくは2-ブロモアセトアミド(2)を過剰量用い、反応に不活性な溶媒中、室温〜加熱還流下に通常1時間〜3日間撹拌することにより行われる。適当な塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物類、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩類、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩類、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム-t-ブトキシドのような金属アルコキシド類、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、N-メチルモルホリン、ピリジン、ピロリジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)等の有機アミン類を用いることができるが、化合物の他の部位に影響を与えないものであれば特に限定されることはない。また溶媒としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等のエーテル類、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ピリジン、ルチジン、水等を用いることができるが、反応に不活性な溶媒であればこれらに限定されることはない。
【0018】
(第二製法)
【化9】

(A2は、式(I)中のAで示される基のうち、窒素原子でピリジン環と結合する基を、TfOはトリフルオロメタンスルホニルオキシ基を示す。)
本製法は、トリフルオロメタンスルホナート化合物(3)とアミン化合物(4)とを用いて、置換反応と環化反応を組み合わせて本発明化合物(Ia)を製造する方法である。
まず、本発明化合物(Ia)は、置換反応により化合物(5)を生成させ、同一反応容器中で引き続く環化反応を行うことにより製造できる。置換反応は、両方の原料化合物を等量もしくはアミン誘導体(4)を過剰量用い、第一製法で記した反応に不活性な溶媒中、室温〜加熱還流下に通常1時間〜3日間撹拌することにより行われる。引き続く環化反応は、同一容器内に第一製法で記した適当な塩基を加え、室温〜加熱還流下に通常1時間〜3日間撹拌することにより行われる。
また、本発明化合物(Ia)は、化合物(3)を環化反応により(6)とした後に、化合物(4)と置換させることによっても製造できる。環化反応においては、THF溶媒中、DBUを用いて室温で反応させることが好ましい。
【0019】
(第三製法) その他の製法
種々の官能基を有する本発明化合物は、当業者に自明の方法又は公知の製造法、或いはその変法を適用することによっても製造することができる。例えば本発明化合物(I)を原料として、以下の反応を置換基Aの変換に適用することにより、本発明化合物(I)の一部を製造することができる。
(1)アミド化、スルホンアミド化及びエステル化
基A中に、カルボキシル基を有する化合物を、種々のアミン化合物と縮合させることにより、アミド基を有する化合物を製造することができる。同様に、基A中にアミノ基を有する化合物を種々のカルボン酸化合物、若しくはその反応性誘導体とを反応させることにより、アミド基を有する化合物を製造することができる。又、カルボン酸の代わりに、種々のスルホン酸誘導体(スルホン酸ハライドやスルホン酸無水物等の反応性誘導体が好ましい)を使用することで、種々のスルホンアミド誘導体を製造することができる。反応は、例えば日本化学会編「実験科学講座(第4版)」22巻(1992年)(丸善)等に記載の方法が適用できる。
(2)N-アルキル化
基A中に、アミノ基を有する化合物をアルキル化反応に付すことにより、N-アルキルアミノ基を有する本発明化合物を製造できる。反応は、日本化学会編「実験化学講座(丸善)」20巻(1992年)(丸善)に記載の方法を参考に実施することができる。
(3)加水分解
基A中に、エステルを有する化合物を加水分解反応に付すことにより、カルボキシル基を有する本発明化合物を製造できる。反応は、前述の「Protective Groups in Organic Synthesis(第3版)」のカルボキシル基の脱保護反応等に記載の方法を参考に実施することができる。
【0020】
(原料化合物の製造)
前記製法にて使用した原料化合物は、例えば下記合成経路に従って製造できる。
【化10】

化合物(1)は、カルボン酸誘導体(7)とカルボニル誘導体(8)を縮合反応に付して得られるジケトン誘導体(9)と、2-シアノチオアセトアミド(10)との環化反応により製造することができる。縮合反応は,Journal of Medicinal Chemistry, 1997, 40, 2374-2385に記載の方法を参考に行うことができる。環化反応は、第一製法で記した適当な塩基存在下、化合物(9)及び化合物(10)を等量もしくは(10)を過剰量用い、第一製法で記した反応に不活性な溶媒中、室温〜加熱還流下に通常1時間〜3日間撹拌することにより行われる。好ましくはエタノール溶媒中、ナトリウムエトキシドを用いて、室温〜還流温度において反応させる。
【化11】

(Eは低級アルキル基を示す。)
化合物(3)はβ-ケトエステル(11)と2-シアノチオアセトアミド(10)を環化反応に付した後、2-ブロモアセトアミド(2)によるアルキル化反応、引き続くトリフルオロメタンスルホニル化反応により製造することができる。環化反応は第二製法、アルキル化は第一製法と同様の条件で行うことができる。トリフルオロメタンスルホニル化は、化合物(13)とトリフルオロメタンスルホニルクロライド、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、N-フェニルビス(トリフルオロメタンスルホンイミド)等のトリフルオロメタンスルホニル化剤を第一製法で記した適当な塩基存在下、第一製法で記した反応に不活性な溶媒中、0℃〜室温下に通常1時間〜3日間撹拌することにより行われる。好ましくは1,4-ジオキサン溶媒中、DIPEA存在下、室温で反応させることにより行うことができる。
【0021】
このようにして製造された化合物(I)は、遊離のまま、又は常法による造塩処理を施し、その塩として単離・精製される。単離・精製は抽出、濃縮、留去、結晶化、濾過、再結晶、各種クロマトグラフィー等の通常の化学操作を適用して行われる。
各種の異性体は異性体間の物理化学的な性質の差を利用して常法により単離できる。例えば光学異性体は、ラセミ化合物を光学活性な有機酸(酒石酸等)とのジアステレオマー塩に導いた後に分別結晶化する方法、或いはキラル充填材を用いたカラムクロマトグラフィー等の手法により、各々分離精製することができる。また、光学活性化合物は適切な光学活性化合物を原料として用いることにより製造することもできる。尚、ジアステレオマーの混合物についても、分別結晶化又はクロマトグラフィー等により分離することができる。
【0022】
(試験方法)
本発明化合物の効果は以下の薬理試験により確認された。
(1)ラットIKK2酵素阻害評価
(i)酵素調製
ラットIKK2(Genbank AF115282)のORFをラット膵臓cDNAライブラリーよりクローニングし、FLAG-tagをつけた形でSf9細胞系にて発現させ、細胞溶解液(50mM Tris-HCl pH7.5, 0.15M NaCl, 1% NP-40, 10% Glycerol, 1mM EDTA, 1mM EGTA pH7.5, 1mM Na3VO4, 5mM p-nitrophenylphosphate, 10mM β-glycerophosphate, 1mM DTT, 1mM PMSF, 10μg/ml Leupeptin, 10μg/ml Aprotinin(Sigma社))に細胞を溶解し、細胞抽出液を大量調製した後、anti-FLAG M2抗体(Sigma社)にて精製した。以上の実験操作は、公知の方法、即ち遺伝子操作実験マニュアル(Sambrook, J. et al, Molecular Cloning-A Laboratory Manual", Cold Spring Harabor laboratory, NY, 1989)や試薬に添付の指示書に従った。精製したラットIKK2は、酵素保存液(20mM Tris-HCl pH7.5, 10% Glycerol, 12.5mM β-glycerophosphate, 0.5mM EDTA, 0.5mM EGTA, 0.05% Brij35, 1mM DTT, 1mM PMSF(Sigma社))中で、-80℃で保存した。
(ii)酵素アッセイ
上記精製ラットIKK2、1X酵素反応バッファー(20mM Tris-HCl pH7.5, 12.5mM β-glycerophosphate, 20mM MgCl2, 0.1mM DTT)、0.01% BSA (Sigma社)、0.5μM ATP、0.2μM ビオチン化基質ペプチド(ラットI-kappa B alpha (Genbank Q63746)のアミノ酸残基18番〜49番) 及び化合物を溶解したDMSO溶液を、384穴プレート(カタログ番号3677:コーニング社)に総量10μlとなるように加えて、室温で90分放置した。その後、10μlの反応停止液(100mM Hepse pH8, 0.01% BSA, 0.8M KF, 50mM EDTA pH8, 1% Triton X-100, 抗リン酸化I-kappa B alpha抗体(Santa Cru社)のユーロピウムクリプテート標識体, ストレプトアビジン標識したXL665(日本シェーリング)を加えて、30分保温後、DISCOVERY (Perkin-Elmer)にて測定した。被検化合物のラットIKK2酵素活性阻害作用は下式で求めた。なお、各用量は独立に三回試験された。
被検化合物による阻害率(%)=((化合物無し、ラットIKK2有りの状態の平均値)-(被検化合物有り、ラットIKK2有りの状態の平均値))/((化合物無し、ラットIKK2有りの状態の平均値)−(ラットIKK2無しの状態の平均値))x100。
各用量の阻害率(%)から、プロビット法により、50%阻害(IC50)を算出した。実施例1,2,3,4,5,6,7,8,11,12,13,14,15,17,18及び20の化合物は、0.5μM以下のIC50値を示した。この結果より、本発明化合物のIKK2阻害作用が確認された。
【0023】
(2)ラットカラゲニン足浮腫モデル
動物の体重測定後,一群5匹の体重の平均値が各群均等になるように群分けを行った。その後、被験化合物(投与量に応じ調整した10ml/kg溶液、コントロール群は溶媒のみ10ml/kg)を経口投与し,薬物投与後30分後にSprague-Dawley系雄性ラット(6〜10週齢,雄性,日本エスエルシ−社)の右足蹠皮下に1%カラゲニン(シグマアルドリッチジャパン)溶液を100 μL注入し炎症を惹起した。炎症惹起後3時間にエーテル深麻酔により致死せしめ、左右足踝下組織を切断採取し重量を測定した。
結果は、各個体毎にカラゲニン投与後3時間のカラゲニンを投与した右足重量からカラゲニンを投与しない左足重量を差し引いた重量の差(g)を算出し、コントロール群の平均に対する抑制率を算出し、平均±標準誤差として示した。コントロール群と被験物質投与群との多群比較はDunnettの多重比較検定を行い、P値が0.05未満の場合に統計的に有意とみなした。以上のすべての統計解析はSASを用いて行った。
実施例7の化合物は30 mg/kg経口投与で良好な抑制活性を示した。この結果より、本発明化合物が急性炎症に対する抑制作用を有することが確認された。
【0024】
(3)コラーゲン誘発関節炎に対する作用
ラットコラーゲン誘発関節炎に対する作用はThe Japanese Journal of Pharmacology, 1997 Aug;74(4):313-22に記載の方法を用いて評価することができる。また、マウスコラーゲン誘発関節炎に対する作用はThe Japanese Journal of Pharmacology, 2002 Apr;88(3):332-340に記載の方法を用いて評価することができる。
【0025】
本発明化合物(I)又はその塩を有効成分として含有する医薬組成物は通常製剤化に用いられる担体や賦形剤、その他の添加剤を用いて調製される。
投与は錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与、或いは静注、筋注等の注射剤、坐剤、経皮剤、経鼻剤或いは吸入剤等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。投与量は症状、投与対象の年齢、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定されるが、通常、経口投与の場合、成人1日当たり0.001 mg/kg乃至100 mg/kg程度であり、これを1回で、或いは2〜4回に分けて投与する。また、症状によって静脈投与される場合は、通常、成人1回当たり0.0001 mg/kg乃至10 mg/kgの範囲で1日に1回乃至複数回投与される。また、吸入の場合は、通常、成人1回当たり0.0001 mg/kg乃至1 mg/kgの範囲で1日に1回乃至複数回投与される。
本発明による経口投与のための固体組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤等が用いられる。このような固体組成物においては、一つ又はそれ以上の活性物質が、少なくとも一つの不活性な賦形剤、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等と混合される。組成物は、常法に従って、不活性な添加剤、例えばステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤やカルボキシメチルスターチナトリウム等の崩壊剤、溶解補助剤を含有していてもよい。錠剤又は丸剤は必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性コーティング剤で被膜してもよい。
【0026】
経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な溶剤、例えば精製水、エタノールを含む。この組成物は不活性な溶剤以外に可溶化剤、湿潤剤、懸濁化剤のような補助剤、甘味剤、矯味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
非経口投与のための注射剤としては、無菌の水性又は非水性の液剤、懸濁剤、乳剤を含む。水性の溶剤としては、例えば注射用蒸留水及び生理食塩水が含まれる。非水性の溶剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、ポリソルベート80(局方名)等がある。このような組成物は、さらに等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。また、これらは無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解、懸濁して使用することもできる。
【0027】
吸入剤や経鼻剤等の経粘膜剤は固体、液体、半固体状のものが用いられ、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば、ラクトースや澱粉のような賦形剤や、更に、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、安定剤や増粘剤等が適宜添加されていてもよい。投与は、適当な吸入又は吹送のためのデバイスを使用することができる。例えば、計量投与吸入デバイス等の公知のデバイスや噴霧器を使用して、化合物を単独で又は処方された混合物の粉末として、もしくは医薬的に許容し得る担体と組み合わせて溶液又は懸濁液として投与することができる。乾燥粉末吸入器等は、単回又は多数回の投与用のものであってもよく、乾燥粉末又は粉末含有カプセルを利用することができる。或いは、適当な駆出剤、例えば、クロロフルオロアルカン、ヒドロフルオロアルカン又は二酸化炭素等の好適な気体を使用した加圧エアゾールスプレー等の形態であってもよい。
また、本発明の三環系化合物又はその製薬学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬組成物は、治療上有効な他の有効成分、例えば、非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)、疾患修飾性抗リウマチ剤(DMARDs)、ステロイド剤、サイトカイン産生阻害剤、サイトカイン拮抗剤、免疫抑制剤等と適宜組み合わせて併用しても良い。これらと併用する場合は、同時に投与するための配合剤として、あるいは独立して投与するために組み合わされた別個の製剤として使用してもよい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づき本発明化合物(I)の製法を更に詳細に説明する。本発明は下記実施例に記載の化合物の発明のみに限定されるものではない。また原料化合物の製法を参考例に示す。
【0029】
参考例1
1-(tert-ブトキシカルボニル)ピペリジン-3-カルボン酸のトルエン溶液にトリエチルアミン及び塩化チオニルを加え、90℃で1.5時間撹拌後、沈殿物をろ過した。ろ液を1-ピロリジノ-1-シクロヘキセンとトリエチルアミンのトルエン溶液に加え、15時間加熱還流することにより、tert-ブチル 3-[(2-オキソシクロヘキシル)カルボニル]ピペリジン-1-カルボキシラートを得た。FAB-MS(M+H)+:310
参考例2
シアノチオアセトアミドのエタノール溶液にナトリウムエトキシドを加え、60℃で30分撹拌した後、tert-ブチル 3-[(2-オキソシクロヘキシル)カルボニル]ピペリジン-1-カルボキシラートを加え、60℃で15時間反応させることにより、tert-ブチル 3-(4-シアノ-3-チオキソ-2,3,5,6,7,8-ヘキサヒドロイソキノリン-1-イル)ピペリジン-1-カルボキシラートを得た。FAB-MS(M-H)-:372
参考例3
シアノチオアセトアミドのエタノール溶液にナトリウムエトキシドを加え、60℃で1時間撹拌した後、エチル 2-オキソシクロヘキサンカルボキシラートのエタノール溶液を加え、60℃で14時間反応させることにより、1-オキソ-3-スルファニル-1,2,5,6,7,8-ヘキサヒドロイソキノリン-4-カルボニトリル ナトリウム塩を得た。FAB-MS(M-H)-:205
参考例4
1-オキソ-3-スルファニル-1,2,5,6,7,8-ヘキサヒドロイソキノリン-4-カルボニトリル ナトリウム塩と2-ブロモアセトアミドのDMF溶液を70℃で3時間反応させることにより、2-[(4-シアノ-1-オキソ-1,2,5,6,7,8-ヘキサヒドロイソキノリン-3-イル)スルファニル]アセトアミドを得た。FAB-MS(M-H)-:262
参考例5
2-[(4-シアノ-1-オキソ-1,2,5,6,7,8-ヘキサヒドロイソキノリン-3-イル)スルファニル]アセトアミド、N-フェニルビス(トリフルオロメタンスルホンイミド)及びジイソプロピルエチルアミンの1,4-ジオキサン溶液を14時間反応させることにより、3-[(2-アミノ-2-オキソエチル)スルファニル]-4-シアノ-5,6,7,8-テトラヒドロイソキノリン-1-イル トリフルオロメタンスルホナートを得た。FAB-MS(M+H)+:396
【0030】
参考例6
3-[(2-アミノ-2-オキソエチル)スルファニル]-4-シアノ-5,6,7,8-テトラヒドロイソキノリン-1-イル トリフルオロメタンスルホナートのTHF溶液にDBUを加え、3時間反応させることにより、1-アミノ-2-(アミノカルボニル)-6,7,8,9-テトラヒドロチエノ[2,3-c]イソキノリン-5-イル トリフルオロメタンスルホナートを得た。FAB-MS(M+H)+:396
参考例7
THFに1.5M リチウムジイソプロピルアミドシクロヘキサン溶液とテトラヒドロ-4H-ピラン-4-オンを-78℃で加え1時間撹拌し、別途調製した1-(tert-ブトキシカルボニル)ピペリジン-3-カルボン酸とカルボニルジイミダゾールのTHF溶液を-78℃で加えた。冷却浴をはずし、室温にもどるまで撹拌しながら1.5時間反応させることにより、tert-ブチル 3-[(4-オキソテトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル)カルボニル]ピペリジン-1-カルボキシラートを得た。FAB-MS(M-H)-:310
参考例8
シアノチオアセトアミドのメタノール溶液にナトリウムメトキシドを加え、60℃で1時間撹拌した後、1-tert-ブチル 3-メチル 4-オキソピペリジン-1,3-ジカルボキシラートのメタノール溶液を加え、60℃で17時間反応させた。その後1M塩酸で処理することにより、tert-ブチル 5-シアノ-8-オキソ-6-スルファニル-3,4,7,8-テトラヒドロ-2,7-ナフチリジン-2(1H)-カルボキシラートを得た。FAB-MS(M-H)-:306
参考例9
tert-ブチル 5-シアノ-8-オキソ-6-スルファニル-3,4,7,8-テトラヒドロ-2,7-ナフチリジン-2(1H)-カルボキシラート、2-ブロモアセトアミド及びトリエチルアミンのDMF溶液を室温で16時間反応させることにより、tert-ブチル 6-[(2-アミノ-2-オキソエチル)スルファニル]-5-シアノ-8-オキソ-3,4,7,8-テトラヒドロ-2,7-ナフチリジン-2(1H)-カルボキシラートを得た。FAB-MS(M+H)+:365
参考例2の方法と同様にして参考例10の化合物を、参考例3の方法と同様にして参考例11の化合物を、参考例4の方法と同様にして参考例12の化合物を、参考例3及び参考例4と同様にして2工程連続して反応を行うことにより、参考例13の化合物を、参考例5と同様にして参考例14〜17の化合物を、参考例8の方法と同様にして参考例18の化合物を、参考例9の方法と同様にして参考例19の化合物を、それぞれ対応する原料を使用して製造した。
参考例10〜19の化合物の構造及び物理化学的データを表1に示す。
【0031】
実施例1
(1) tert-ブチル 3-(4-シアノ-3-チオキソ-2,3,5,6,7,8-ヘキサヒドロイソキノリン-1-イル)ピペリジン-1-カルボキシラート 253mgと2-ブロモアセトアミド113mgのDMF 10ml溶液に1M 水酸化カリウム水溶液 1.5mlを加え、室温で17時間撹拌した。反応混合物に水を加え、生じた沈殿物をろ取し、減圧下乾燥してtert-ブチル 3-[1-アミノ-2-(アミノカルボニル)-6,7,8,9-テトラヒドロチエノ[2,3-c]イソキノリン-5-イル]ピペリジン-1-カルボキシラート 387mgを淡黄色固体として得た。
(2) 次いで、この化合物 100mgの1,4-ジオキサン 3ml溶液に4M 塩化水素-1,4-ジオキサン溶液 3mlを加え、室温下13時間撹拌した。反応液を濃縮後、得られた固体をエタノールで再結晶することにより、1-アミノ-5-ピペリジン-3-イル-6,7,8,9-テトラヒドロチエノ[2,3-c]イソキノリン-2-カルボキサミド塩酸塩 23mgを淡黄色固体として得た。
実施例2
(1) 3-[(2-アミノ-2-オキソエチル)スルファニル]-4-シアノ-5,6,7,8-テトラヒドロイソキノリン-1-イル トリフルオロメタンスルホナート 395mgとtert-ブチル ピペリジン-4-イルカーバマート 601mgの1,4-ジオキサン 10ml溶液を100℃で3時間撹拌した後、2M炭酸ナトリウム水溶液 4mlを加え、100℃で15時間撹拌した。反応液を濃縮後、得られた残渣に水 50mlを加え、クロロホルム 100mlで抽出した。有機層を飽和食塩水 50mlで洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=99:1〜90:10)で精製することにより、tert-ブチル {1-[1-アミノ-2-(アミノカルボニル)-6,7,8,9-テトラヒドロチエノ[2,3-c]イソキノリン-5-イル]ピペリジン-4-イル}カーバマート 490mgを淡黄色非晶質として得た。
(2) 次いで、この化合物490mgを用いて、実施例1(2)と同様の反応を行うことにより、1-アミノ-5-(4-アミノピペリジン-1-イル)-6,7,8,9-テトラヒドロチエノ[2,3-c]イソキノリン-2-カルボキサミド2塩酸塩 367mgを淡黄色固体として得た。
【0032】
実施例3
3-[(2-アミノ-2-オキソエチル)スルファニル]-4-シアノ-5,6,7,8-テトラヒドロイソキノリン-1-イル トリフルオロメタンスルホナート 236mgと4-ヒドロキシピペリジン 182mgの1,4-ジオキサン 10ml溶液を100℃で24時間撹拌した後、2M炭酸ナトリウム水溶液 3mlを加え、100℃で15時間撹拌した。反応液を濃縮後、得られた残渣に水 50mlを加え、クロロホルム 100mlで抽出した。有機層を飽和食塩水 50mlで洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した。得られた残渣をジエチルエーテルで洗浄することにより、1-アミノ-5-(4-ヒドロキシピペリジン-1-イル)-6,7,8,9-テトラヒドロチエノ[2,3-c]イソキノリン-2-カルボキサミド 177mgを無色固体として得た。
次いで、この化合物177mgを用いて、実施例1(2)と同様の反応を行うことにより、1-アミノ-5-(4-ヒドロキシピペリジン-1-イル)-6,7,8,9-テトラヒドロチエノ[2,3-c]イソキノリン-2-カルボキサミド塩酸塩 179mgを淡黄色固体として得た。
実施例4
1-アミノ-2-(アミノカルボニル)-6,7,8,9-テトラヒドロチエノ[2,3-c]イソキノリン-5-イル トリフルオロメタンスルホナート 200mgとN-メチルピペラジン 222mgの1,4-ジオキサン溶液を100℃で18時間撹拌した。反応液を濃縮後、得られた残渣に水 50mlを加え、クロロホルム 100mlで抽出した。有機層を飽和食塩水 50mlで洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した。得られた残渣をジエチルエーテルで洗浄することにより、1-アミノ-5-(4-メチルピペラジン-1-イル)-6,7,8,9-テトラヒドロチエノ[2,3-c]イソキノリン-2-カルボキサミド 120mgを淡黄色固体として得た。
次いで、この化合物100mgを用いて、実施例1(2)と同様の反応を行うことにより、1-アミノ-5-(4-メチルピペラジン-1-イル)-6,7,8,9-テトラヒドロチエノ[2,3-c]イソキノリン-2-カルボキサミド2塩酸塩 104mgを黄色固体として得た。
【0033】
実施例5
1-アミノ-5-ピペラジン-1-イル-6,7,8,9-テトラヒドロチエノ[2,3-c]イソキノリン-2-カルボキサミド2塩酸塩 404mg、N-(tert-ブトキシカルボニル)グリシン 210mg、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩 230mg及び1-ヒドロキシベンゾトリアゾール 162mgのDMF 10ml溶液にトリエチルアミン 223mgを加え、室温で17時間撹拌した。反応混合物に水を加え、生じた沈殿物をろ過し、エタノールで洗浄することにより、tert-ブチル (2-{4-[1-アミノ-2-(アミノカルボニル)-6,7,8,9-テトラヒドロチエノ[2,3-c]イソキノリン-5-イル]ピペラジン-1-イル}-2-オキソエチル)カーバマート 467mgを無色固体として得た。
次いで、この化合物450mgを用いて、実施例1(2)と同様の反応を行うことにより、1-アミノ-5-[4-(アミノアセチル)ピペラジン1-イル]-6,7,8,9-テトラヒドロチエノ[2,3-c]イソキノリン-2-カルボキサミド2塩酸塩 387mgを黄色固体として得た。
実施例6〜20
実施例1〜5と同様にして実施例6〜20の化合物を製造した。それらの構造式と物理学的性状を後記表2及び3に示す。
【0034】
実施例21
1-(2-ベンゼンスルホニルエチル)ピペラジン23mgに1-アミノ-2-(アミノカルボニル)-6,7,8,9-テトラヒドロチエノ[2,3-c]イソキノリン-5-イル トリフルオロメタンスルホナート12mgの1,4-ジオキサン0.2ml溶液を加え、100℃にて10時間攪拌した。反応液を減圧下留去し、得られた残渣をHPLC(カラム:シンメトリー(Symmetry;登録商標) C18 5μm 19mmx100mm、溶媒:MeOH/0.1% HCOOH-H2O=10/90 (0 min) - 10/90 (1 min) -100/0 (9 min) - 100/0 (12 min)、流速:25 mL/min)にて分取精製を行い、1-アミノ-5-{4-[2-(メチルスルホニル)エチル]ピペラジン-1-イル}-6,7,8,9-テトラヒドロチエノ[2,3-c]イソキノリン-2-カルボキサミド0.3 mgを得た。
実施例22
tert-ブチル(1S,4S)-2,5-ジアザビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2-カルボキシラート24mgに1-アミノ-2-(アミノカルボニル)-6,7,8,9-テトラヒドロチエノ[2,3-c]イソキノリン-5-イル トリフルオロメタンスルホナート12mgの1,4-ジオキサン0.2ml溶液を加え、実施例(CL-265726)と同様の手法を用いて得られたtert-ブチル(1S,4S)-5-[1-アミノ-2-(アミノカルボニル)-6,7,8,9-テトラヒドロチエノ[2,3-c]イソキノリン-5-イル]-2,5-ジアザビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2-カルボキシラートに、4M 塩化水素-1,4-ジオキサン溶液0.5mlを加え、室温下10時間攪拌した。反応液を減圧下留去し、残渣をHPLC(カラム:シンメトリー(Symmetry;登録商標) C18 5μm 19mmx100mm、溶媒:MeOH/0.1% HCOOH-H2O=10/90 (0 min) - 10/90 (1 min) -100/0 (9 min) - 100/0 (12 min)、流速:25 mL/min)にて分取精製を行い、1-アミノ-5-[(1S,4S)-2,5-ジアザビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イル]-6,7,8,9-テトラヒドロチエノ[2,3-c]イソキノリン-2-カルボキサミド5.0mgを得た。
【0035】
実施例23〜208
実施例21と同様にして実施例23〜204の化合物を、実施例22と同様にして実施例205〜208の化合物を製造した。それらの構造式と物理学的性状を後記表4〜10に示す。
また、後記表11の化合物は前記実施例や製造法に記載の方法とほぼ同様にして、或いはそれらの方法より当業者に自明な若干の変法を適用することにより、容易に製造することができる。
後記表中、以下の略号を用いる。
Ex:実施例番号、REx:参考例番号、No:化合物番号、Str:構造式、Syn:製造法(数字は同様に製造した実施例番号)、pos:置換基の置換位置(数字が複数個あるものは複数の置換を示し、diMe-(3,5)はメチル基が3位と5位に存在することを示す。)、Dat:物理化学的データ(F1:FAB-MS(M+H)+、F2:FAB-MS(M-H)-、E1:ESI-MS(M+H)+、NMR:DMSO-d6中の1H NMRにおける特徴的なピークのδ(ppm)、 H:HPLCでの保持時間(分)[HPLC条件:Wakosil-II 5C18AR 5μm 2.0x30 mm、5 mM TFA-H2O/MeOH=9/1(0min)-0/10(4min)-0/10(4.5 min) 1.2 ml/min、254 nm、35.0℃])、Sal:塩(HCl:塩酸塩、2HCl:2塩酸塩、無記載:フリー体)、Pos:置換位置、Me:メチル、Et:エチル、iPr:イソプロピル、nPr:n-プロピル、tBu:tert-ブチル、cHex:シクロヘキシル、Ph:フェニル、Bn:ベンジル及びBoc:tert-ブトキシカルボニル、TfO:トリフルオロメタンスルホニルオキシ。
また、置換基の前の数字は置換位置を示す。例えば、4Cl-Ph-は4-クロロフェニルを示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
【表5】

【0041】
【表6】

【0042】
【表7】

【0043】
【表8】

【0044】
【表9】

【0045】
【表10】

【0046】
【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される三環系化合物又はその塩。
【化1】

(式中の記号は以下の意味を有する。
【化2】

Het:含窒素飽和ヘテロ環基、
R1:-R0、ハロゲン、ハロゲノ置換低級アルキル、-Y1-NR4(R5)、-Y1-NR4-CO(R6)、-Y1-OR6、-Y1-O-CO-R0、-Y1-CO2-R6、-Y1-CO-R6、-Y1-CO-NR4(R5)、-Y1-SO2-R0、-Y1-SO-R0、-Y1-S-R0、-Y1-CN、-Y1-CO-R00-NR4(R5)、-Y1-CO-R00-OR6、-Y1-CO-NR4-R00-OR6、-Y1-NR4-R00-OR6、-Y1-NR4-R00-NR5R6、-Y1-NR4-CO-NR5R6、-Y2-置換されていてもよいフェニル、-Y2-置換されていてもよい単環若しくは2環式ヘテロ環基、-Y2-置換されていてもよいシクロアルキル、-Y3-置換されていてもよいフェニル、
R0:低級アルキル、
R00:低級アルキレン、
Y1:結合又は-R00-、
Y2:結合、-R00-、-O-、-R00-O-、-R00-CO-、-R00-SO2-又は-CO2-R00-、
Y3:フェニル及び-CO2-R6から選択される基で置換された低級アルキレン、
R4及びR6:同一又は互いに異なって、H又は-R0
R5:H、-R0、ハロゲンで置換されていてもよいフェニル又はハロゲンで置換されていてもよいベンジル、
k:0、1、2又は3、
但し、基Hetがモルホリノ基のときkは1、2又は3を示す、
R2及び R3:同一又は互いに異なって、H、-R0、-R00-OR6、-R00-NR0R4、-R00-CN、-R00-CO2-R6、-R00-CO-NR4(R5)、-R00-SO2-R0、-R00-置換されていてもよいフェニル、-R00-置換されていてもよい単環若しくは2環式ヘテロ環基、-R00-置換されていてもよいシクロアルキル、-Y3-CO2-R0、-Y3-OR6、-Y3-置換されていてもよい単環若しくは2環式ヘテロ環基、置換されていてもよいフェニル、置換されていてもよい単環若しくは2環式ヘテロ環基、置換されていてもよいシクロアルキル、
X:-CR7R8-、-O-、-CO-、-S(O)p-又は-NR4-、
R7及びR8:同一又は互いに異なって、H、-R0、ハロゲン又は-OR6
p:0、1又は2、
m:0、1、2又は3、
n:0、1、2又は3、
ここで、m+nは2以上5以下の整数を表す。)

【公開番号】特開2007−277093(P2007−277093A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183073(P2004−183073)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【出願人】(592086318)壽製薬株式会社 (24)
【Fターム(参考)】