説明

不飽和アルコールの取り扱い方法

【課題】特定のアルコール原料から製造された重合体の重合率を制御し、優れた分散性能を有する分散剤等として好適に利用される重合体を製造することができるアルコール原料の取り扱い方法を提供する。
【解決手段】アルキレンオキサイドと反応させるアルコール原料を取り扱う方法であって、該アルコール原料は、下記一般式(1):
CH=CR−(R−O−(RO)−H (1)
で表される不飽和アルコールを主成分として含み、該アルコール原料中の水分含有量を2000ppm以下に制御することを特徴とするアルコール原料の取り扱い方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール原料の取り扱い方法、不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体の製造方法、(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する重合体の製造方法及びセメント混和剤に関する。より詳しくは、セメント混和剤等の分散剤として好適に用いることができる重合体の原料となるアルコール原料の取り扱い方法、その取り扱い方法を用いた不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体の製造方法、(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する重合体の製造方法、及び、該重合体を用いたセメント混和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール原料は、種々の化合物を製造する原料として用いられており、例えば、特定のアルコール原料から生成される重合体は、親水性を持つ重合体として種々の用途に用いられ、特に分散剤等として有用なものである。例えば、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物等に対して減水性能を発揮する、セメント混和剤又はコンクリート混和剤等として広く用いられており、セメント組成物から土木・建築構造物等を構築するために欠かすことのできないものとなっている。このようなセメント混和剤は、セメント組成物の流動性を高めてセメント組成物を減水させることにより、硬化物の強度や耐久性等を向上させる作用を有することになる。
【0003】
セメント混和剤等に用いることができる重合体は、例えば、アルコール原料に、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加反応させることで、オキシアルキレン基を有する単量体を生成し、その単量体を重合させることによって製造することができる。このような重合体を製造する場合、その原料となるアルコール原料は、容器中で貯蔵等して使用されることになる。しかしながら、重合体の原料となる原料は、容器中で貯蔵している間等に、不純物が混入することで品質の低下を招き、アルコール原料から製造される化学製品の品質や性能が低下するおそれがあった。
【0004】
そこで、セメント分散剤の原料として使用されるアルコキシポリアルキレングリコールの貯蔵・移送方法に関しては、容器内が不活性ガスで置換された及び/又は容器中にラジカル捕捉剤が添加された雰囲気中でアルコキシポリアルキレングリコールを貯蔵・移送する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、アルコキシ(ポリ)アルキレングリコールを含むセメント添加剤用重合体原料の貯蔵及び/又は移送方法に関しては、容器に充填する工程、貯蔵及び/又は移送する工程、並びに、抜き出し工程をこの順に含んでなり、該貯蔵及び/又は移送する工程は、該セメント添加剤用重合体原料を凝固点以下の温度として行われる方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。更に、ポリアルキレングリコール鎖を有する共重合体の製造方法として、ポリアルキレングリコールを含む不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体と不飽和モノカルボン酸系単量体とを含有する単量体成分を重合させる手法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−154049号公報(第1〜2頁)
【特許文献2】特開2002−234762号公報(第1〜2頁)
【特許文献3】特開2008−106238号公報(第1〜2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、アルコキシポリアルキレングリコールを貯蔵・移送する方法や、セメント添加剤用重合体原料の貯蔵及び/又は移送方法等が考えられているが、より高品質な化学製品を製造するためには、アルコール原料の種類、製造過程における原料の取り扱い、使用する用途等によっても好ましい取り扱い方法は異なり、不純物量等を制御することができる好適な取り扱い方法が望まれるところであった。また、(メタ)アリルアルコールやこれにアルキレンオキサイドが比較的低モル付加した化合物等のアルコール原料は、蒸留等による水分の分離が難しいという課題があった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、アルコール原料から製造される重合体の重合率を制御し、優れた分散性能を有する分散剤等として好適に用いられる重合体を製造することができるアルコール原料の取り扱い方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、セメント混和剤等に用いる各種重合体を高品質なものとして製造するべく種々検討したところ、(メタ)アリルアルコールやこれにアルキレンオキサイドが比較的低モル付加した化合物等の特定の不飽和アルコールを含むアルコール原料は、取り扱い中に水分を含みやすいことを見いだし、例えば、水分を多く含んだアルコール原料を用いて分散剤用の重合体を製造した場合、その分散性能が低下することを見いだした。そして、この分散剤としての性能の低下は、アルコール原料中の水分がアルキレンオキサイドと付加反応することで、(ポリ)エチレングリコール等の副生成物が増加することに起因していることを見いだした。これは、副生成物を多く含んだ状態で重合体を製造すると、重合に寄与しない成分が多く存在することになるためである。そこで、アルキレンオキサイドと付加反応を行うアルコール原料として、特定の不飽和アルコールを主成分とするものを用いる場合、該アルコール原料中の水分含有量を2000ppm以下とすることによって、アルコール原料中の水分に起因した副生成物の生成を抑制することができ、その結果、高い重合率を有する重合体を製造することができることに想到した。そして、このような重合体は、セメント混和剤等への分散性能が良好であり、高品質のセメント混和剤を製造できることにも想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、アルキレンオキサイドと反応させるアルコール原料を取り扱う方法であって、該アルコール原料は、下記一般式(1):
CH=CR−(R−O−(RO)−H (1)
(式中、Rは、メチル基又は水素原子を表す。Rは、メチレン基を表す。ROは、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、0〜2の整数を表す。mは、0〜20の数であり、ROで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表す。)で表される不飽和アルコールを主成分として含み、該アルコール原料中の水分含有量を2000ppm以下に制御するアルコール原料の取り扱い方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明は、アルキレンオキサイドと反応させるアルコール原料を取り扱う方法である。この方法でアルコール原料中の水分含有量を低減することにより、水分に起因する副生成物の生成が抑制され、該アルコール原料から製造される重合体の重合率を高くすることができる。そのため、セメント組成物等に対する分散性能が高い重合体とすることができる。アルコール原料中に水分が含まれると、例えば、下記式:
【0011】
【化1】

【0012】
(nは、同一又は異なって、1〜300の整数。)の反応式で表されるように、メタリルアルコール−1EO(メタリルアルコールにエチレンオキサイドが1モル付加した化合物、以下、「MLA−1」ともいう。)にエチレンオキサイドを更に付加したメタリルアルコール−nEO(以下、「MLA−n」ともいう。)を製造する場合には、製造されたMLA−nとともに二重結合をもたないポリエチレングリコール(PEG)が生成される。これは、水の両末端にアルキレンオキサイドが付加することによるものである。アルコール原料中の水分含有量が多い場合、このPEGが多量に生成されることとなるため、上記MLA−nとPEGとを含んだ単量体成分を用いて重合体を製造した場合、分散に寄与する重合体成分が減少し、分散性能が低下することとなる。本発明のアルコール原料の取り扱い方法では、アルコール原料中の水分含有量を少なくしているため、PEG等の不純物生成を抑制することができ、上記アルコール原料を用いて生成された化学製品を高品質のものとすることができる。
なお、上記アルコール原料とアルキレンオキサイドとの反応は、アルキレンオキサイドがアルコール原料に付加する付加反応のことである。また、上述したようにアルキレンオキサイドを付加反応させることができるものであれば、使用されるアルキレンオキサイドやアルコールの種類は、例示したMLA−1等に限られるものではない。
【0013】
上記アルコール原料の取り扱い方法は、水分等の不純物がアルコール原料中に混入するおそれがある取り扱いで好適に用いることができるものであり、取り扱いを行う過程は特に限定されるものではないが、上記取り扱い方法は、アルコール原料の貯蔵及び/又は使用時に水分含有量を制御するものであることが好ましい。例えば、使用時においては、アルコール原料を貯蔵している容器内からの取り出し、移送、及び/又は、製造装置への投入で水分含有量を制御するものであることが好ましい。これらのアルコール原料の取り扱いでは、水分等の不純物がアルコール原料へ混入する可能性が高いため、特に好適に用いることができる。
【0014】
上記貯蔵とは、物質を一時的又は継続的に貯蔵用容器に入れて保存する操作である。上記取り出しとは、アルコール原料が入った容器等から該アルコール原料を取り出す操作である。上記移送とは、物質の移動を伴う操作のうちで、コンテナやドラム缶、石油缶、ポリタンク等の移送用容器を用いてアルコール原料を移動させる操作を意味する。上記製造装置への投入とは、アルコール原料を付加反応させる製造装置内へ投入することを意味する。この場合、アルコール原料を一時的に貯蔵するタンク等が製造装置に取り付けられている場合には、該タンクに投入することも含まれる。
【0015】
上記取り扱い方法は、アルコール原料として、上記一般式(1)で表される不飽和アルコールを主成分とするものを使用するが、ここでいう「主成分とする」とは、アルコール原料100質量%に対し、該不飽和アルコールの合計量が50質量%以上であることを意味する。好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは、実質的にアルコール原料の全てが当該不飽和アルコールであるものである。このような不飽和アルコールを多く含む場合、吸湿性が高くなるため、当該不飽和アルコールを多く含むアルコール原料であるほど本発明の効果は著しく発揮されることとなる。
なお、上記アルコール原料は、本発明の作用効果が充分に発揮される限り、上記不飽和アルコール以外の他の成分を含有していてもよい。
【0016】
上記不飽和アルコールは、下記一般式(1):
CH=CR−(R−O−(RO)−H (1)
(式中、Rは、メチル基又は水素原子を表す。Rは、メチレン基を表す。ROは、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、0〜2の整数を表す。mは、0〜20の数であり、ROで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表す。)で表される化合物である。
【0017】
上記一般式(1)において、ROで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基としては、特に限定されないが、セメント混和剤に配合した場合にセメント粒子の分散性や親水性をより向上させる観点から、炭素数2〜8程度の比較的短鎖のオキシアルキレン基であることが好ましい。より好ましくは、炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、更に好ましくは、主として炭素数2のオキシアルキレン基(オキシエチレン基)である。なお、オキシアルキレン基を1種又は2種以上含むものであってもよい。
【0018】
上記一般式(1)において、nが0の場合、mは1〜20の数であることが好ましく、上記一般式(1)で表される不飽和アルコールとしては、ヒドロキシアルキルビニルエーテル又はヒドロキシアルキルビニルエーテルのアルキレンオキサイド付加物であることが好適である。中でも、ROとしてオキシブチレン基(オキシテトラメチレン基)を含むことが好ましく、m=1のヒドロキシブチルビニルエーテル、又は、m=2〜20でオキシアルキレン基の末端にオキシブチレン基を有するヒドロキシブチルビニルエーテルのアルキレンオキサイド付加物であることが好適である。
一方、nが1〜2でmが0の場合、上記一般式(1)で表される不飽和アルコールとしては、(メタ)アリルアルコールや3−メチル−3−ブテン−1−オールであることが好適である。
また、nが1〜2でmが1〜20の数である場合、上記一般式(1)で表される不飽和アルコールとしては、(メタ)アリルアルコールのアルキレンオキサイド付加物や3−メチル−3−ブテン−1−オールのアルキレンオキサイド付加物であることが好適である。
上記一般式(1)で表される不飽和アルコールは常温で液体又は比較的低温で溶融状態を保てる状態にあり、共沸しやすく脱水が容易ではないため、このような不飽和アルコールを取り扱う場合に、本発明は特に有用となる。常温で液体となり、加温・保温が不要で工業的に取り扱いやすい点で、mの数としては好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5、更に好ましくは1である。
【0019】
上記一般式(1)で表される不飽和アルコールとしては、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、(メタ)アリルアルコールや3−メチル−3−ブテン−1−オールのアルキレンオキサイド付加物であることが好適である。中でも、平均付加モル数が比較的小さいものが好ましく、例えば、ヒドロキシブチルビニルエーテル1EO付加物(ヒドロキシブチルビニルエーテルにエチレンオキサイドが1モル付加したもの)、メタリルアルコール1EO付加物(メタリルアルコールにエチレンオキサイドが1モル付加したもの)、アリルアルコール1EO付加物(アリルアルコールにエチレンオキサイドが1モル付加したもの)、3−メチル−3−ブテン−1−オール1EO付加物(3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキサイドが1モル付加したもの)、ヒドロキシブチルビニルエーテル2EO付加物(ヒドロキシブチルビニルエーテルにエチレンオキサイドが2モル付加したもの)、メタリルアルコール2EO付加物(メタリルアルコールにエチレンオキサイドが2モル付加したもの)、アリルアルコール2EO付加物(アリルアルコールにエチレンオキサイドが2モル付加したもの)、3−メチル−3−ブテン−1−オール2EO付加物(3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキサイドが2モル付加したもの)、ヒドロキシブチルビニルエーテル10EO付加物(ヒドロキシブチルビニルエーテルにエチレンオキサイドが10モル付加したもの)等が好適である。なお、これらの化合物を1種又は2種以上含んでいてもよい。
【0020】
上記不飽和アルコールの好ましい形態は、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、(メタ)アリルアルコール、及び、これらのアルキレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である。これらの不飽和アルコールを用いることで、アルコール原料の反応性を更に高めることが可能となり、また、アルコール原料中の水分に起因した副生成物の生成を抑制することができ、高い重合率を有する重合体を好適に製造できるという本発明の効果の発揮をより確認することができる。なお、ヒドロキシアルキルビニルエーテルの中でもヒドロキシブチルビニルエーテルが好適であり、また、アルキレンオキサイド付加物を形成するアルキレンオキサイドとして、エチレンオキサイドを主成分とするものが好適である。「エチレンオキサイドを主成分とする」とは、上記アルキレンオキサイド付加物を形成する全アルキレンオキサイド100モル%(ヒドロキシアルキルビニルエーテルの場合は、ヒドロキシアルキル基を構成するアルキレンオキサイド以外のアルキレンオキサイドを100モル%とする)に対し、エチレンオキサイドが50モル%以上であることを意味する。好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは100モル%、つまりエチレンオキサイドのみを付加することである。
上記不飽和アルコールとして特に好ましくは、ヒドロキシブチルビニルエーテル、(メタ)アリルアルコール、及び/又は、(メタ)アリルアルコール1EO付加物であり、最も好ましくは、(メタ)アリルアルコール、及び/又は、(メタ)アリルアルコール1EO付加物である。
【0021】
上記取り扱い方法は、アルコール原料中の水分含有量を2000ppm以下に制御するものである。2000ppm以下に制御することによって、例えば、不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体等の上記付加反応により製造された化合物とともに生成されるPEG等の副生成物の量を少なくすることができる。また、水分含有量の制御を行うことによって、上記アルコール原料を用いて製造される重合体の重合率を制御することもできる。水分含有量が2000ppmを超える場合には、副生成物の量が増加し、例えば、上記重合体をセメント混和剤に用いた場合には、分散性能が低下する。上記水分含有量として好ましくは1400ppm以下であり、より好ましくは1200ppm以下、更に好ましくは700ppm以下、特に好ましくは500ppm以下、最も好ましくは200ppm以下である。なお、水分含有量の範囲としては、100〜1000ppmであれば、充分に水分含有量が少なく、当該アルコール原料を用いたセメント混和剤を使用する場合等に好適に用いることができる。水分含有量を少なくすることによって、アルコール原料を用いて生成された化学製品等をより高品質のものとすることができる。
上記水分含有量の測定には、カールフィッシャー法を用いることができる。詳しくは、平沼微量水分測定装置AQ−7を用いた電量滴定法により測定することができる。
なお、アルコール原料中の水分含有量を制御する方法としては、後述するように、取り扱いを行う雰囲気の湿度、ガス種を制御する方法や、吸湿剤を用いる方法等が挙げられる。
【0022】
また上記取り扱い方法は、不活性ガス雰囲気下でアルコール原料を取り扱うものであることが好ましい。不活性ガス雰囲気下で取り扱うことによって、アルコール原料が反応することを防ぐことができ、より貯蔵、使用等に対する安定性を高めることができる。
上記不活性ガスとは、他の物質と反応を起こしにくい化学的に安定したガスを意味し、例えば、窒素ガス、希ガス(ヘリウムガス、アルゴンガス、キセノンガス等)等が好ましい。中でも、低コスト化の観点から、窒素ガス又はアルゴンガスを用いることが好ましい。より好ましくは、窒素ガスである。
【0023】
上記取り扱い方法は、相対湿度が40%以下の気体(好ましくは、上記不活性ガス)雰囲気でアルコール原料を取り扱うものであることが好ましい。すなわち、上記アルコール原料を相対湿度40%以下の不活性ガス雰囲気下で取り扱う形態もまた、本発明の取り扱い方法の好適な形態の1つである。より好ましくは35%以下であり、更に好ましくは30%以下である。湿度を低くした気体雰囲気下でアルコール原料の取り扱いを行うことによって、アルコール原料中の水分量を低減することができる。
湿度の測定方法としては、種々の方法が挙げられるが、例えば、湿度計(Custom社製、商品名CTH−201)を用いて測定することができる。
また湿度を調整する方法としては、モレキュラーシーブ、シリカ等の乾燥剤(吸湿剤)を用いる方法が挙げられる。このように、貯蔵を行う場合等では、貯蔵用容器の中にモレキュラーシーブ等の乾燥剤(吸湿剤)を仕込んでおくことが好適な形態の一つである。
【0024】
上記アルコール原料の取り扱い方法は、上述したように貯蔵や、移送、取り出し、及び/又は製造装置への投入等の使用時で好適に用いることができる。以下に、これらの取り扱い方法の好ましい形態について詳細に説明する。
上記アルコール原料を貯蔵する場合、アルコール原料が投入された貯蔵用容器内の気体の一部又は全部を水分含有量が低い(湿度が低い)気体で置換して密閉することが好ましい。この場合、上述した不活性ガスを用いることがより好適であり、上述した範囲内に湿度を設定することが好適である。また、密閉した貯蔵用容器内の圧力は、大気圧(1気圧)よりも高い状態であることが好ましい。貯蔵用容器内の気体は保存する温度が変化すると膨張、収縮等で容器内の圧力が変化するおそれがある。その場合、貯蔵用容器内を加圧状態にしておくことによって、容器外の気体が密閉状態にした容器内へ混入することをより抑制することができる。
【0025】
上記水分含有量が低い気体で容器内を置換する好ましい方法としては、例えば、水分含有量が低い不活性ガスを容器内に供給して加圧して排気する操作を数回繰り返す方法が挙げられる。これにより、容器内の大気の量を効果的に減少させ、水分含有量を低減することができる。このとき、容器内を加圧する圧力としては、0.01〜1.0MPaが好ましく、0.02〜0.4MPaが更に好ましい。また、容器内の不活性ガスを排気する際の圧力としては、例えば、0〜0.01MPaまで排気することが好ましい。加圧と排気の繰り返し回数としては1回以上、好ましくは3回以上、更に好ましくは5回以上である。
【0026】
上記貯蔵用容器は、アルコール原料を充填する前に容器内を予め水分含有量の低い不活性ガスで置換しておくことも好ましい。この操作によって、よりアルコール原料へ水分が含有することを抑制することができる。また、このようにしてアルコール原料を充填した後には、上記と同様の方法によって不活性ガスで置換することが好ましい。
【0027】
上記アルコール原料を移送する場合、移送用容器を上述した貯蔵用容器における取り扱いと同様に取り扱うことが好ましい。また、移送を行う雰囲気も湿度が低い雰囲気で移送することが好ましく、移送用容器内の圧力は、大気圧よりも高くしておくことが好ましい。
【0028】
上記取り出しは、貯蔵用容器、移送用容器等からアルコール原料を取り出すものである。この場合、アルコール原料が容器外の気体と触れることとなるため、容器外の気体を水分含有量の低い気体としておくことが好ましい。例えば、貯蔵用容器から他の容器へアルコール原料を移す際には、水分含有量を制御した室内で行う方法、水分含有量等を制御したグローブボックス内で取り出しを行う方法等が挙げられる。
【0029】
上記製造装置への投入は、貯蔵用容器、移送用容器等から外気に触れない方法で行うことが好ましい。この場合、投入される製造装置内を水分含有量が低い不活性ガス等で置換しておくことが好ましい。投入される製造装置内の水分量が多い状態になっていると、それによりアルコール原料中の水分含有量が増加するおそれがある。
【0030】
上記貯蔵用容器、移送用容器は、薬瓶、コンテナやドラム缶等の他、貯蔵用容器では地上タンクや地下タンク等を含むものである。このような容器の材質としては、密閉状態を保つことができ、上記不飽和アルコールと反応しにくいものであることが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ガラス、ステンレス(SUS)、アルミニウム、鉄等が好適である。また、−50〜150℃の温度で変質や劣化しにくいものであることがより好ましい。
【0031】
本発明はまた、上記アルコール原料の取り扱い方法で取り扱われたアルコール原料を、アルキレンオキサイドと反応させる工程を含む不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体の製造方法でもある。
上記不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体としては、不飽和アルコールにアルキレンオキサイドを付加反応して得られるものであり、不飽和アルコールとしては、上述したものが好適である。不飽和アルコールに付加させるアルキレンオキサイドとしては、炭素数2〜18のアルキレンオキサイドが好ましい。より好ましくは、炭素数2〜8のアルキレンオキサイドであり、更に好ましくは、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドである。具体的には、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド等の1種又は2種以上が好適であり、中でも、エチレンオキサイドが好ましい。2種以上のアルキレンオキサイドを付加させる場合は、エチレンオキサイドが80モル%以上であることが好ましい。これにより、親水性と疎水性とのバランスを保ち、優れた分散性能を発揮する不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体を得ることができる。80モル%未満であると、得られる不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体が充分な分散性を発揮しないおそれがある。より好ましくは、85モル%以上であり、更に好ましくは、90モル%以上であり、特に好ましくは、95モル%以上であり、最も好ましくは、100モル%である。
【0032】
上記2種以上のアルキレンオキサイドを付加させる場合の組み合わせとしては、(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド)、(エチレンオキサイド、ブチレンオキサイド)、(エチレンオキサイド、スチレンオキサイド)が好ましい。中でも、(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド)がより好ましい。
上記2種以上のアルキレンオキサイドを付加させる場合は、それぞれの付加方法としては、ブロック状付加、ランダム状付加、交互状付加等のいずれの付加形態でもよい。
【0033】
上記不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体としては、不飽和結合を有する基と、アルキレングリコール部位と、エーテル結合とを有するものであり、上記不飽和アルコールに上記アルキレンオキサイドを付加反応して得ることができる。
上記不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体は、下記一般式(2):
CH=CR−(R−O−(RO)−(RO)−R (2)
(式中、R、R、RO、n及びmは、上記一般式(1)と同じである。ROは、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。pは、1〜300の数であり、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表す。)で表される化合物であることが好ましい。
【0034】
上記一般式(2)において、ROとしては、不飽和アルコールに付加させたアルキレンオキサイド部位である。すなわち、ROとしては、炭素数2〜18のオキシアルキレン基であり、上記不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体を形成する原料であるアルキレンオキサイド(すなわち、上述した不飽和アルコールに付加反応させるアルキレンオキサイド)が、オキシアルキレン基となって付加されており、好適な例、割合等は、上記アルキレンオキサイドについて説明したとおりである。
【0035】
上記付加するアルキレンオキサイドの平均付加モル数pとしては、1〜300である。平均付加モル数が小さいほど親水性は低下し、セメント粒子を反発させる効果が低下する。その場合、得られる重合体の分散性能が低下するおそれがある。−方、300を超えると、不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体を重合に用いた場合に、重合反応性が低下するおそれがある。平均付加モル数として好ましくは、次の順で特定値以上であることである(数値が大きい方が好ましい)。平均付加モル数として好ましくは、10以上、25以上、35以上、50以上、75以上、100以上、110以上が好ましい。また平均付加モル数としては、次の順で特定値以下であることも好ましい(数値が小さい方が好ましい)。すなわち、280以下、250以下、225以下、200以下、175以下が好ましい。更に、アルキレンオキサイドの平均付加モル数pの範囲としては、110〜175の範囲であることも好ましい。
【0036】
上記Rとしては、水素原子、炭素数1〜10の直鎖又は分岐アルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基、アルケニル基、アルキニル基が好ましい。より好ましくは、水素原子、炭素数1〜6の直鎖又は分岐アルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基、アルケニル基、アルキニル基であり、更に好ましくは水素原子、炭素数1〜4の直鎖又は分岐アルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基、アルケニル基、アルキニル基であり、特に好ましくは水素原子、メチル基、エチル基であり、最も好ましくは水素原子である。
【0037】
上記(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体の具体例としては、(ポリ)アルキレングリコールメタリルエーテル類、(ポリ)アルキレングリコールアリルエーテル類等が好適である。具体的には、ポリエチレングリコールメタリルエーテル類、ポリエチレングリコールアリルエーテル類が好ましい。より好ましくはポリエチレングリコールメタリルエーテル類である。
【0038】
上記アルコール原料を用いて(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体を製造する場合、アルコール原料中の水分によりPEG等の副生成物も生成されることとなる。このように、上記製造方法により製造された不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体を含む組成物を「単量体組成物」又は「単量体成分」という。このような単量体組成物は、本発明のアルコール原料の取り扱い方法を用いることによって、アルコール原料中の水分含有量を低減しているため、製造された単量体組成物はポリエチレングリコール等の副生成物の含有量が少ないものとすることができる。
【0039】
上記単量体組成物は、アルコール原料中のアルコールにアルキレンオキサイドが付加された単量体を含むものであれば特に限定されず、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、アルコール原料中に含まれていた化合物、反応せずに残留したアルキレンオキサイド、水にアルキレンオキサイドが付加することで生成された(ポリ)アルキレングリコール等である。(ポリ)アルキレングリコールとして、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリブチレングリコール等が挙げられる。
【0040】
上記単量体組成物においては、(ポリ)アルキレングリコールの含有量が少ないことが好ましい。(ポリ)アルキレングリコール等の副生成物が単量体組成物中に多く存在する場合、該単量体組成物を用いて重合体を製造したときに、該重合体の重合率が低下することとなる。(ポリ)アルキレングリコールの含有量は、単量体組成物100質量%に対し、15質量%以下であることが好ましい。すなわち、上記単量体成分100質量%中の(ポリ)アルキレングリコールが15質量%以下であることが好適であり、このような形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは7質量%以下、特に好ましくは5質量%以下、最も好ましくは4質量%以下である。
【0041】
上記付加反応においては、反応温度が80〜170℃の範囲であることが好ましい。より好ましくは90〜160℃であり、更に好ましくは100〜150℃である。付加反応温度が高すぎると、副反応物が増える傾向があり、例えば得られた反応生成物を用いてセメント混和剤用重合体を得た場合、減水性能等の性能が低下する傾向がある。一方、低すぎると付加速度が遅くなり生産性が低下するおそれがある。また、反応時間としては、50時間以内であることが好ましい。より好ましくは40時間以内であり、更に好ましくは30時間以内である。反応時間が長すぎると副生成物が増える傾向がある。上記付加反応においては、加圧下で行うことが好ましい。付加反応開始時の圧力としては、0.01〜0.5MPaが好ましい。より好ましくは、0.05〜0.3MPaであり、更に好ましくは、0.09〜0.2MPaである。付加反応時の圧力としては、0.9MPa以下が好ましい。
【0042】
上記付加反応においては、触媒を用いることが好適である。触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、水素化ナトリウム、水素化カリウム等の金属水素化物、ブチルリチウム、メチルリチウム、フェニルリチウム等の有機金属化合物、三フッ化ホウ素、四塩化チタン等のルイス酸、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド等の金属アルコキシドが好ましい。より好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、三フッ化ホウ素であり、更に好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。
【0043】
上記触媒濃度としては、仕込み原料から算出されるアルキレンオキサイド付加物理論量に対する触媒の重量比が10000ppm以下であることが好ましい。より好ましくは8000ppm以下、更に好ましくは5000ppm以下、最も好ましくは3000ppm以下である。触媒濃度が高すぎると、副生成物が多量に発生する傾向がある。また、より好ましくは2000ppm以下、更に好ましくは1500ppm以下、特に好ましくは1000ppm以下、最も好ましくは500ppm以下である。また、上記触媒量を低減しすぎるとアルキレンオキサイド付加反応の速度・生産性が低下することから、触媒量は50ppm以上が好ましい。より好ましくは100ppm以上、更に好ましくは150ppm以上、特に好ましくは200ppm以上である。
上記付加反応は、回分式でも連続式でも行うことができ、反応条件等により適宜選択することができる。
【0044】
本発明はまた、上記不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体の製造方法で得られる不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体を必須成分とする単量体成分を重合させる工程を含む(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する重合体の製造方法でもある。このような製造方法により得られる(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する重合体は、セメント混和剤用重合体であることが好ましい。なお、重合に使用される単量体成分(単量体組成物)としては、上述したように、該単量体成分100質量%中の(ポリ)アルキレングリコールが15質量%以下であることが好適である。
上記(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する重合体を製造する方法においては、目的とする重合体に応じて重合させる単量体や単量体の割合を選択し、その単量体に応じた反応条件等を適宜設定して重合を行うことが好適である。例えば、セメント混和剤として上記重合体を用いる場合には、不飽和カルボン酸と共重合させることで生成した(ポリ)カルボン酸系共重合体であることが好ましい。
以下では、不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体と不飽和カルボン酸とを重合させて(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する(ポリ)カルボン酸系共重合体を得る工程について説明する。
【0045】
上記(ポリ)カルボン酸系共重合体を得る工程は、不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体と不飽和カルボン酸とを共重合するものである。
上記不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体(単量体(i)とも言う。)としては、上記アルキレンオキサイドを付加する工程を含む製造方法で得られるものであることが好ましく、また1種又は2種以上を用いてもよい。2種以上を用いる場合、オキシアルキレン基の平均付加モル数pが1〜300の範囲において異なる2種以上の組み合わせであってもよい。このとき、オキシアルキレン基の平均付加モル数pの差は10以上であるものが好ましく、20以上であるものがより好ましい。例えば、平均付加モル数pが50〜300であるものと、平均付加モル数pが1〜50であるものとの組み合わせ等が好適である。この場合、pの差としては、10以上が好ましく、より好ましくは20以上である。また、これらの割合としては、平均付加モル数pが1〜50であるものよりも平均付加モル数pが50〜300であるものの割合(重量比)の方が多いことが好ましい。異なる3種以上の単量体(i)を用いる場合も、平均付加モル数pの差は、10以上であるものが好ましく、20以上であるものがより好ましい。
【0046】
上記単量体(i)としては、オキシアルキレン基の平均付加モル数pが110〜175の範囲のものが必須として含まれるものであることがより好ましい。例えば、オキシアルキレン基の平均付加モル数が110〜175の範囲において異なる2種以上の組み合わせであってもよく、オキシアルキレン基の平均付加モル数が110〜175の範囲のものと、1〜300の範囲のものとを組み合わせて用いてもよい。このとき、オキシアルキレン基の平均付加モル数pの差は10以上であるものが好ましく、20以上であるものがより好ましい。例えば、平均付加モル数pが110〜175であるものと、平均付加モル数pが1〜110であるものとの組み合わせ等が好適である。この場合、pの差としては、10以上が好ましく、より好ましくは20以上である。また、こられの割合としては、平均付加モル数pが1〜110であるものよりも平均付加モル数pが110〜175であるものの割合(重量比)の方が多いことが好ましい。異なる3種以上の単量体(i)を用いる場合も、平均付加モル数pの差は、10以上であるものが好ましく、20以上であるものがより好ましい。
【0047】
上記不飽和カルボン酸(単量体(ii)とも言う。)としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、及び、これらの一価金属塩、二価金属塩、第四級アンモニウム塩、有機アミン塩等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸類;これらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩類等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも特に、より好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸であり、更に好ましくは、アクリル酸である。すなわち、不飽和カルボン酸としては、少なくともアクリル酸又はその塩を含むことが好ましい。アクリル酸又はその塩由来の構造を含むことにより、得られる(ポリ)カルボン酸系共重合体は、少量で優れた分散性を発揮することができる。
【0048】
上記(ポリ)カルボン酸系共重合体を得る工程においては、上記単量体成分にその他の成分(単量体(iii)とも言う。)が含まれていてもよく、具体的には、不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体(単量体(i))及び/又は不飽和カルボン酸(単量体(ii))と共重合可能な単量体(共重合性単量体)を含むものが挙げられる。
このような共重合性単量体としては、例えば、下記化合物等が挙げられ、1種又は2種以上を使用することができる。
【0049】
上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアルコールとのハーフエステル、ジエステル類;上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアミンとのハーフアミド、ジアミド類;上記アルコールやアミンに炭素原子数2〜18のアルキレンオキサイドを1〜500モル付加させたアルキル(ポリ)アルキレングリコールと上記不飽和ジカルボン酸類とのハーフエステル、ジエステル類;上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数2〜18のグリコール若しくはこれらのグリコールの付加モル数2〜500のポリアルキレングリコールとのハーフエステル、ジエステル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルクロトネート、エチルクロトネート、プロピルクロトネート等の不飽和モノカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアルコールとのエステル類;炭素数1〜30のアルコールに炭素数2〜18のアルキレンオキサイドを1〜500モル付加させたアルコキシ(ポリ)アルキレングリコールと(メタ)アクリル酸等の不飽和モノカルボン酸類とのエステル類;(ポリ)エチレングリコールモノメタクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノメタクリレート、(ポリ)ブチレングリコールモノメタクリレート等の、(メタ)アクリル酸等の不飽和モノカルボン酸類への炭素原子数2〜18のアルキレンオキサイドの1〜500モル付加物類;マレアミド酸と炭素原子数2〜18のグリコールもしくはこれらのグリコールの付加モル数2〜500のポリアルキレングリコールとのハーフアミド類;トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類。
【0050】
上記共重合性単量体の中でも、特に好ましくは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルクロトネート、エチルクロトネート、プロピルクロトネート等の不飽和モノカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアルコールとのエステル類;炭素数1〜30のアルコールに炭素数2〜18のアルキレンオキサイドを1〜500モル付加させたアルコキシ(ポリ)アルキレングリコールと(メタ)アクリル酸等の不飽和モノカルボン酸類とのエステル類;(ポリ)エチレングリコールモノメタクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノメタクリレート、(ポリ)ブチレングリコールモノメタクリレート等の(メタ)アクリル酸等の不飽和モノカルボン酸類への炭素原子数2〜18のアルキレンオキサイドの1〜500のモル付加物等である。
【0051】
上記単量体(i)〜(iii)の配合割合としては、不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体(単量体(i))、不飽和カルボン酸(単量体(ii))及び必要に応じて添加されるその他の成分(単量体(iii))の合計100質量%に対して、以下の範囲であることが好ましい。
上記単量体(i)の配合割合としては、1質量%以上であることが好ましい。配合割合が1質量%未満であると、得られる(ポリ)カルボン酸系共重合体をセメント混和剤として用いた場合に、セメントに対する分散性能が充分とはならない傾向がある。より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、特に好ましくは30質量%以上、最も好ましくは45質量%以上である。
【0052】
上記単量体(ii)の配合割合の上限としては、ナトリウム塩換算で60質量%以下であることが好適である。60質量%を超えると、得られる(ポリ)カルボン酸系共重合体をセメント混和剤として用いる場合に分散性能の経時的な低下(スランプロス)が著しくなり、充分な分散性能が発揮できないおそれがある。より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、特に好ましくは30質量%以下、最も好ましくは20質量%以下である。また、単量体(ii)の配合割合の下限としては、1質量%以上であることが好ましい。より好ましくは2質量%以上であり、更に好ましくは3質量%以上であり、特に好ましくは4質量%以上である。
【0053】
上記単量体(iii)の配合割合は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば特に制限されないが、(ポリ)カルボン酸系共重合体を得る工程においては、上記単量体(i)、(ii)及び(iii)の総質量100質量%中、70質量%以下であることが好ましく、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下、特に好ましくは40質量%以下、最も好ましくは30質量%以下である。また、更に好ましくは、20質量%以下であり、特に好ましくは、10質量%以下である。
【0054】
上記(ポリ)カルボン酸系共重合体を得る工程における各成分の配合比率は、例えば、単量体(i)/単量体(ii)/単量体(iii)=1〜99/1〜60/0〜70(質量%)の範囲が好ましい。より好ましくは、単量体(i)/単量体(ii)/単量体(iii)=5〜99/1〜50/0〜60(質量%)、更に好ましくは、10〜99/1〜40/0〜50(質量%)、特に好ましくは、40〜97/3〜30/0〜30(質量%)、最も好ましくは、45〜97/4〜20/0〜30である(但し、単量体(i)、単量体(ii)及び単量体(iii)の合計は100質量%である。)。
【0055】
上記(ポリ)カルボン酸系共重合体を得る際の共重合は、溶液重合や塊状重合等の方法で行うことができる。溶液重合は回分式でも連続式でも行なうことができ、その際に使用される溶媒としては、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の芳香族又は脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル化合物;等が挙げられるが、原料単量体及び得られる共重合体の溶解性から、水及び炭素数1〜4の低級アルコールよりなる群から選ばれた少なくとも1種を用いることが好ましく、その中でも水を溶媒に用いるのが、脱溶剤工程を省略できる点で更に好ましい。
【0056】
上記(ポリ)カルボン酸系共重合体に代表される(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する重合体は、重量平均分子量が10000〜300000であることが好適である。このような重量平均分子量の範囲を選ぶことで、より高い分散性能を発揮するセメント混和剤が得られる。より好ましくは20000〜200000、更に好ましくは43000〜150000、特に好ましくは45000〜100000、最も好ましくは45000〜80000の範囲である。
なお、重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」という)によるポリエチレングリコール換算の重量平均分子量であり、後述するGPC測定条件により測定することが好ましい。
【0057】
上記(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する重合体はまた、多分散度が2.2以下であることが好適である。このような多分散度であることにより、より高い分散性能を発揮するセメント混和剤が得られる。より好ましくは2.0以下、更に好ましくは1.9以下、特に好ましくは1.85以下、最も好ましくは、1.8以下である。
なお、多分散度は、[重量平均分子量/数平均分子量]で求めることができる。重量平均分子量及び数平均分子量は、後述する測定条件により測定することが好ましい。
【0058】
本発明はまた、上記(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する重合体の製造方法で得られる(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する重合体を含むセメント混和剤でもある。
上記(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する重合体を用いたセメント混和剤は、重合体の重合率を高くすることができるため、セメントペースト等に含有したときに分散性能を向上させることができる。
【0059】
上記セメント混和剤は、上述した(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する重合体を含むことにより、分散性能、スランプ保持性能、モルタル及びコンクリートの耐久性向上等の優れた効果を奏することができる。また、上記セメント混和剤、セメント及び水を必須成分として含んでなるセメント組成物は、粘性(作業性、例えば、モルタルを練る際の練りやすさやコンクリートの現場でのスコップワーク)と、流動性(流し込んだときの流れやすさ)との両方を発揮することができる。
なお、セメント組成物の物性を示す「フロー値」(流動性)と「コンクリートの状態」(粘性)との間の技術的な相関関係は、少なくとも現時点では明らかではないが、例えば、これらの現象は、水あめとヨーグルトとの関係に例えることができる。これらを比較すると、水あめは粘りけがあるためスプーンでかき混ぜようとした場合、相当の力が必要となるが(粘性が高く作業性が悪い)、平らな面に置いた場合は流動して薄く広がる。一方、ヨーグルトをスプーンでかき混ぜようとした場合、容易にかき混ぜることはできるが(粘性が低く作業性がよい)、平らな面に置いても流動して広がっていくことはない。
【0060】
上記(ポリ)カルボン酸系共重合体は、そのままでもセメント混和剤の主成分として用いることもできるが、取り扱い性の観点からは、pHを5以上に調整しておくことが好ましい。また、pH5未満で共重合反応を行うことが好ましく、共重合後にpHを5以上に調整することが好ましい。pHの調整は、例えば、一価金属又は二価金属の水酸化物や炭酸塩等の無機塩;アンモニア;有機アミン;等のアルカリ性物質を用いて行なうことができる。また、反応終了後、必要ならば濃度調整を行うこともできる。また、上記(ポリ)カルボン酸系共重合体は、水溶液の形態でそのままセメント混和剤の主成分として使用してもよいし、又は、カルシウム、マグネシウム等の二価金属の水酸化物で中和して多価金属塩とした後に乾燥させたり、シリカ系微粉末等の無機粉体に担持して乾燥させたりすることにより粉体化して使用してもよい。
【0061】
上記セメント混和剤は、各種水硬性材料、すなわち、セメントや、石膏等のセメント以外の水硬性材料等に用いることができる。水硬性材料と水と上記セメント混和剤とを含有し、更に必要に応じて細骨材(砂等)や粗骨材(砕石等)を含む水硬性組成物の具体例としては、セメントペースト、モルタル、コンクリート、プラスター等が挙げられる。中でも、水硬性材料としてセメントを使用するセメント組成物が最も一般的であり、上記セメント混和剤、セメント及び水を必須成分として含んでなるセメント組成物は、本発明の好ましい形態の一つである。
【発明の効果】
【0062】
本発明のアルコール原料の取り扱い方法は、上述した構成よりなり、アルコール原料を用いて製造される重合体の重合率を制御し、優れた分散性能を有する分散剤等として好適に用いられる重合体を与えることが可能な技術である。これにより、重合体等の製造工程での不具合の発生が防止され、セメント添加剤等の各種化学製品を高品質なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、実施例A−1〜A−2及び比較例A−1〜A−2に係る結果を、経過時間と水分含有量で示したグラフである。
【図2】図2は、実施例A−3〜A−6及び比較例A−3〜A−6に係る結果を、経過時間と水分含有量で示したグラフである。
【図3】図3は、モルタル試験(試験例1〜7)での0打フロー値と、使用した単量体成分中のPEG量との関係性を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0065】
下記製造例等において、(ポリ)アルキレングリコール(PEG)の生成量は、下記条件にて測定した。
<ポリアルキレングリコールの生成量の測定条件>
使用カラム:Shodex
GF−1G 7B
GF−310 HQ
溶離液:水/アセトニトリル=98/2(質量%)
サンプル:サンプルを上記溶離液を用いて0.1%に調整したもの。
サンプル打ち込み量:250μL
カラム温度:40℃
流速:1mL/分
検出器:Waters 2414 RI検出器
System:Waters alliance 2695
解析ソフト:Waters Empoer2(標準パッケージ/GPCオプション)
【0066】
また重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、GPC(Gel Permeation Chromatography)を用い、下記条件下で測定した。なお、多分散度は、Mw/Mnにより求めた。また、GPCチャートで、単量体ピーク部分を削除したときの面積%を測定し、これをP面積とした。
<GPC測定条件>
使用カラム:東ソー社製
TSK guard column SWXL
TSKgel G4000SWXL
TSKgel G3000SWXL
TSKgel G2000SWXLをこの順で連結させたもの。
溶離液:アセトニトリル6001g、水10999gの溶液に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶かし、更に酢酸でpH6.0に調整したものを使用した。
サンプル:重合体水溶液を上記溶離液にて重合体濃度が0.5質量%となるように溶解させたもの。
サンプル打ち込み量:100μL
流速:1.0mL/分
カラム温度:40℃
検出器:日本Waters社製 Empower Software
検量線作成用標準物質:ポリエチレングリコール[ピークトップ分子量(Mp)272500、219300、107000、50000、24000、11840、6450、4250、1470]
検量線:上記ポリエチレングリコールのMp値と溶出時間を基にして3次式で作成した。
【0067】
実施例A−1
窒素雰囲気下で、容器容量250mlの角型ポリ瓶(標準規格瓶角型広口、材質:ポリエチレン、ニッコー社製)にメタリルアルコール(「MLA」ともいう。)を約50ml投入する。その後、窒素雰囲気下で角型ポリ瓶の蓋を開放したまま放置し、0分後(すなわち放置直後)、90分経過後、168分経過後、210分経過後における水分値を測定した。水分値の測定は、平沼微量水分測定装置AQ−7を用い、シリンジで採取し、直ちに測定した。
なお、角型ポリ瓶の底面積は32.5cmである。つまり、角型ポリ瓶中に投入されたアルコールが窒素気体と接触する表面積が32.5cmである。窒素雰囲気中の温度は25℃であり、相対湿度は30%であった。
【0068】
実施例A−2
角型ポリ瓶に投入するアルコールがメタリルアルコール−1EO(メタリルアルコールにエチレンオキサイドが1モル付加した化合物、「MLA−1」ともいう。)であること以外は、実施例A−1と同様の方法で実験を行った。
【0069】
比較例A−1
角型ポリ瓶へのアルコールの投入の雰囲気、及び、角型ポリ瓶の蓋を開放したまま放置する雰囲気が大気雰囲気化であること以外は、実施例A−1と同様の方法で実験を行った。大気雰囲気中の温度は25℃であり、相対湿度は60%であった。
【0070】
比較例A−2
角型ポリ瓶に投入するアルコールをメタリルアルコール−1EO(MLA−1)に変更したこと以外は、比較例A−1と同様の方法で実験を行った。
【0071】
実施例A−1、A−2及び比較例A−1、A−2において、水分値を測定した結果を表1及び図1のグラフに示す。図1の縦軸は経過時間を表し、横軸は水分値を表す。なお、表1中の「−」は、測定していないことを示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1及び図1で示されるように、実施例A−1及びA−2の場合には、210分(3.5時間)経過した後においてもアルコール原料中の水分値が500ppm未満であるのに対して、比較例A−1では90分経過時点で既に2500ppmを超え、また比較例A−2では90分経過時点で3000ppmを超えていることを確認した。このように、低い湿度のもとで取り扱いを行うことでアルコール中の水分量の増加を抑制することができる。
【0074】
実施例A−3
メタリルアルコールMLAの水分値を、0分(すなわち放置直後)、5分、10分及び15分の経過時間で測定したこと以外は、実施例A−1と同様の方法で実験を行った。
【0075】
実施例A−4
角型ポリ瓶に投入するアルコールをメタリルアルコール−1EO(MLA−1)に変更したこと以外は、実施例A−3と同様の方法で実験を行った。
【0076】
実施例A−5
角型ポリ瓶に投入するアルコールをメタリルアルコール−8EO(メタリルアルコールにエチレンオキサイドが8モル付加した化合物、「MLA−8」ともいう。)に変更したこと以外は、実施例A−3と同様の方法で実験を行った。
【0077】
実施例A−6
角型ポリ瓶に投入するアルコールを、ヒドロキシブチルビニルエーテルにエチレンオキサイドが10モル付加したもの(「VE10」ともいう。)に変更したこと以外は、実施例A−3と同様の方法で実験を行った。
【0078】
比較例A−3
角型ポリ瓶へのアルコールの投入の雰囲気、及び、角型ポリ瓶の蓋を開放したまま放置する雰囲気が大気雰囲気化であること以外は、実施例A−3と同様の方法で実験を行った。
【0079】
比較例A−4
角型ポリ瓶に投入するアルコールをメタリルアルコール−1EO(MLA−1)に変更したこと以外は、比較例A−3と同様の方法で実験を行った。
【0080】
比較例A−5
角型ポリ瓶に投入するアルコールをメタリルアルコール−8EO(MLA−8)に変更したこと以外は、比較例A−3と同様の方法で実験を行った。
【0081】
比較例A−6
角型ポリ瓶に投入するアルコールをVE10に変更したこと以外は、比較例A−3と同様の方法で実験を行った。
【0082】
実施例A−3〜A−6及び比較例A−3〜A−6において、水分値を測定した結果を表2及び図2のグラフに示す。
【0083】
【表2】

【0084】
表2及び図2で示されるように、比較例A−3〜A−6では15分後には500ppmを超えたものとなり、短時間でも取り扱い方法によってアルコール原料中の水分値が大きく変化することから、本発明の効果が長時間保存する場合のみならず、アルコール原料を使用する際の短時間の作業時においても大きな効果を発揮できることを確認した。つまり、外気に触れる時間が短時間であっても、本発明のアルコール原料の取り扱い方法を用いることで優れた効果を発揮することができることが確認された。これは、貯蔵する場合のように長時間経過する過程だけでなく、製造装置へアルコール原料を投入する場合等の短時間の取り扱いであっても高い効果を発揮することができることを意味する。
【0085】
<不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル系単量体の製造>
実施例B−1
温度計、撹拌機、原料導入管及び窒素導入管を備えたSUS製オートクレーブ反応容器に、水分含有量が200ppmであるMLA−1(エチレングリコールモノメタリルエーテル、「第一MLA1」と称す。)231g、付加反応触媒として水酸化ナトリウム0.42gを仕込み、撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で130℃まで加熱した。そして安全圧下で130℃を保持したままエチレンオキシド613gを反応器内に導入し、アルキレンオキサイド付加反応が完結するまでその温度を保持して反応を終了した。得られた反応生成物(以下、M8−1と称す)は、メタリルアルコールに平均8モルのエチレンオキシドが付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(以下、MLA−8と称す。)とともに、副生成物として水溶性ポリアルキレングリコール(ポリエチレングリコール)を含む。反応生成物M8−1の分析結果を表3に示す。
【0086】
実施例B−2
温度計、攪拌機、原料導入管及び窒素導入管を備えたSUS製オートクレーブ反応容器に、実施例B−1で得られた反応生成物(M8−1)238g、付加反応触媒として48%水酸化ナトリウム水溶液0.57gを仕込み、攪拌下に反応容器内を窒素置換した後、容器内下方まで延びた配管を通して内液をバブリングするように窒素を60ml/min流しながら100℃まで昇温した。次いで、攪拌しながら反応容器の上部からガラス製トラップを装着した配管を接続し、真空ポンプを用いて反応容器内を57hPa(43Torr)に減圧した。その後エタノールドライアイス浴でガラス製トラップを冷却しながら、同温度で1時間脱水を行った。脱水終了後、窒素雰囲気下で130℃まで昇温した。そして安全圧下で130℃を保持したままエチレンオキシド542gを反応器内に導入し、アルキレンオキサイド付加反応が完結するまでその温度を保持して反応を終了した。得られた反応生成物(以下、M30−1と称す。)は、メクリルアルコールに平均30モルのエチレンオキシドが付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(以下、MLA−30と称す。)とともに、副生成物として水溶性ポリアルキレングリコール(ポリエチレングリコール)を含む。反応生成物M30−1の分析結果を表3に示す。
【0087】
実施例B−3
温度計、攪拌機、原料導入管及び窒素導入管を備えたSUS製オートクレーブ反応容器に、実施例B−2で得られた反応生成物(M30−1)693g、付加反応触媒として48%水酸化ナトリウム水溶液2.74gを仕込み、攪拌下に反応容器内を窒素置換した後、容器内下方まで延びた配管を通して内液をバブリングするように窒素を170ml/min流しながら100℃まで昇温した。次いで、攪拌しながら反応容器の上部からガラス製トラップを装着した配管を接続し、真空ポンプを用いて反応容器内を57hPa(43Torr)に減圧した。その後エタノールドライアイス浴でガラス製トラップを冷却しながら、同温度で1時間脱水を行った。脱水終了後、窒素雰囲気下で130℃まで昇温した。そして安全圧下で130℃を保持したままエチレンオキシド1973gを反応器内に導入し、アルキレンオキサイド付加反応が完結するまでその温度を保持して反応を終了した。得られた反応生成物(以下、M120−1と称す。)は、メタリルアルコールに平均120モルのエチレンオキシドが付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(以下、MLA−120と称す。)とともに、副生成物として水溶性ポリアルキレングリコール(ポリエチレングリコール)を含む。反応生成物M120−1の分析結果を表3に示す。
【0088】
実施例B−4〜B−18、比較例B−1〜B−3
用いたMLA−1中の水分値の割合が、それぞれ、実施例B−4〜B−6では500ppm(第二MLA1)、実施例B−7〜B−9では700ppm(第三MLA1)、実施例B−10〜B−12では900ppm(第四MLA1)、実施例B−13〜B−15では1200ppm(第五MLA1)、実施例B−16〜B−18では1400ppm(第六MLA1)、比較例B−1〜B−3では2200ppm(第七MLA1)であること以外は、実施例B−1〜B−3と同様の方法で、MLA−8とともにポリエチレングリコールを含む反応生成物M8−2〜M8−7、MLA−30とともにポリエチレングリコールを含む反応生成物M30−2〜M30−7、MLA−120とともにポリエチレングリコールを含む反応生成物M120−2〜M120−7を製造した。各反応生成物中のPEG量と、用いたMLA−1の水分含有量との関係を表3に示す。
【0089】
【表3】

【0090】
表3から、アルコール原料中の水分含有量が多くなるほど、単量体組成物(単量体成分)中のPEG量が増加していることが確認できる。特に水分量が2000ppm前後でPEG量に著しい差(M120−6とM120−7との差等)が生じていることから、本発明でアルコール原料中の水分含有量を2000ppm以下に制御することによる臨界的意義が確認された。
【0091】
<(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する重合体の製造>
実施例C−1
温度計、攪拌機、滴下装置、窒素導入管及び還流冷却装置を備えたガラス製反応装置内に、イオン交換水101g、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体として実施例B−3で得られた反応生成物(M120−1)196g、アクリル酸0.14gを仕込み、攪拌下に反応装置内を窒素置換し、窒素雰囲気下で58℃まで加熱した。反応容器内を58℃に保った状態で、2%過酸化水素水溶液14.9gを添加した。反応容器内を58℃に維持した状態で、アクリル酸9.89gとイオン交換水15.15gからなるアクリル酸水溶液を3時間かけて滴下し、それと同時に、イオン交換水36.19gにL−アスコルビン酸0.774g及び3−メルカプトプロピオン酸0.541gを溶解させた水溶液を3.5時間かけて滴下した。その後、2時間引き続いて58℃に温度を維持した後、重合反応を終了した。その後、酸性の反応溶液を重合反応温度以下の温度で水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH6.5に中和し、重量平均分子量52000の重合体水溶液から成るセメント混和剤1を得た。
【0092】
実施例C−2〜C−6、比較例C−1
実施例C−2、C−3、C−4、C−5、C−6及び比較例C−1では、各々、実施例B−6、B−9、B−12、B−15、B−18及び比較例B−3で得た反応生成物(M120−2、M120−3、M120−4、M120−5、M120−6、M120−7)を用いたこと以外は、実施例C−1と同様の方法で本発明のセメント混和剤2〜6及び比較セメント混和剤1を製造した。生成された重合体の重量平均分子量(Mw)、多分散度(Mw/Mn)及びP面積を求めた。結果を表4に示す。
【0093】
【表4】

【0094】
試験例1〜7
実施例C−1〜C−6及び比較例C−1で得たセメント混和剤について、下記条件下でモルタル試験を行った。評価結果を表5に示す。なお、図3に、モルタル試験での0打フロー値と、使用した単量体成分(反応生成物M120−1〜M120−7)中のPEG量との関係性を表すグラフを示す。
【0095】
<モルタル試験>
(1)固形分測定
性能試験に用いる重合体は、下記の手順で不揮発分を測定し、不揮発分をセメント混和剤として濃度を計算した。
アルミカップにセメント混和剤水溶液を約0.5g量り採り、イオン交換水を約1g加えて均一に広げた。これを窒素雰囲気下、130℃で1時間乾燥し、乾燥前の質量差から不揮発分を測定した。
(2)セメント混和剤調整
所定量の重合体水溶液を量り採り、消泡剤MA404(ポゾリス物産製)を有姿で重合体分に対して10質量%加え、更にイオン交換水を加えて210gとし、充分に均一溶解させた。
(3)モルタル配合
モルタル配合はC/S/W=900/1350/270(g)とした。ただし、
C:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
S:ISO標準砂(セメント協会製)
W:セメント混和剤
(4)モルタル実験環境
実験環境は、温度20℃±1℃、相対湿度60%±10%とした。
【0096】
(5)フロー値の測定
上記セメント900g、セメント混和剤270gをホバート型モルタルミキサー(型番N−50:ホバート社製)により低速で30秒から練りした後、30秒かけて上記ISO砂1350gをセメントペーストに投入した。次いで、高速で30秒混練後、回転を停止させ15秒かけて釜の壁についたモルタルを掻き落とした。更に75秒間放置した後、高速で60秒間混練してモルタルを調整した。
調整したモルタルを水平な回転式テーブルにおいたフローコーン(直径55mm、高さ50mmの中空円筒の容器)に半量詰め、つき棒を使って15回突いた。更にモルタルをフローコーンのすりきりいっぱいまで詰め、突き棒を使って15回突いた。その後、モルタルを詰めたフローコーンを静かに垂直に持ち上げ、テーブルに広がったモルタルの長径(mm)と短径(mm)を測定し、その平均値をモルタル0打フロー値とした。
(6)モルタル空気量の測定
モルタルを500mLガラス製メスシリンダーに約200mL詰め、径8mmの丸棒で突いた後容器に振動を加え、粗い気泡を抜いた。更にモルタルを約200mL加えて同様に気泡を抜いた後、体積と質量を測定し、質量と各材料の密度から空気量を計算した。
【0097】
【表5】

【0098】
試験例1’〜7’
また試験例1〜7において、0打フロー値の評価結果をセメント混和剤の添加量を増加させることでほぼ同等とした場合、その添加量及び増加分は、表6のようになる。
【0099】
【表6】

【0100】
表6に示すように、水分量が2000ppmを超えるアルコール原料(M120−7)から製造された比較セメント混和剤1では、水分量が2000ppm以下であるアルコール原料から製造されたセメント混和剤1〜6を用いた場合に比較して、セメント混和剤の添加量増分が、セメント混和剤1を使用した場合の添加量を基準としたときの12.3%と多量必要になる。したがって、本発明のセメント混和剤は少量でも充分な性能を発揮できる、すなわちセメント分散性能(減水性)に著しく優れるものであることが分かる。なお、比較セメント混和剤1のように、添加量の増加は生産コストの増大を招くため、好ましくない。
【0101】
試験例8〜14
実施例C−1〜C−6及び比較例C−1で得たセメント混和剤を用いてコンクリート組成物を調整し、下記の方法でスランプフロー値、スランプフロー値の経時変化、空気量、圧縮強度(24時間)を測定した。なお、コンクリート組成物の温度が20℃の試験温度になるように、試験に使用する材料、強制練りミキサー、測定器具類をこの試験温度雰囲気下で調温し、混練及び各測定もこの試験温度雰囲気下で行った。結果を表7に示す。
【0102】
<コンクリート試験>
(1)コンクリート試験配合
単位セメント量:573.3Kg/m
単位水量:172.0Kg/m(ポリマー、消泡剤等の混和剤を含む)
単位細骨材量:737.2Kg/m
単位粗骨材量:866.0Kg/m
水/セメント比(W/C):30.0%
骨材量比(s/a):47.0%
セメント:太平洋セメント社製 普通ポルトランドセメント
細骨材:君津産山砂と掛川水系産陸砂を3/7で混合したもの
粗骨材:青梅産砕石
【0103】
(2)コンクリート組成物の調整
上記コンクリート原料、配合により、練り混ぜ量が30Lとなるようにそれぞれの材料を計量し、パン型ミキサーを使用して下記に記載の方法によって材料の混練を実施した。
まず細骨材を10秒間混練した後、セメントを加えて10秒間混練した。その後セメント混和剤を含む所定量の水道水を加えて30〜90秒間混練した。その後更に粗骨材を加えて90秒間混練して、コンクリート組成物を得た。また評価試験においては、セメント混和剤を含む水道水を加えた後の混練開始時間をゼロ分(0分)とした。
(3)セメント混和剤の調整
セメント混和剤と消泡剤を用いて調整した。セメント混和剤の必要量は、下記の方法で測定したセメント混和剤中の不揮発分の量を用いて算出した。消泡剤には市販のオキシアルキレン系消泡剤を用い、空気量が1.0±0.5vol%となるように調整した。
(4)評価試験項目と測定方法
スランプフロー値:JIS−A−1101(2005年)
圧補強度(24時間):JIS−A−1108(2006年)(供試体作製:JIS−A−1132、2006年)
空気量:JIS−A−1128(2006年)
【0104】
【表7】

【0105】
表7に示されるように、水分量が2000ppmを超えるアルコール原料(M120−7)から製造された比較セメント混和剤1では、水分量が2000ppm以下であるアルコール原料から製造されたセメント混和剤1〜6を用いた場合に比較して、添加量が多量必要となるうえ、24時間強度の点でも著しく劣ることが分かる。したがって、本発明のセメント混和剤は、コストを削減できるうえ、少量の添加量でも高性能を有することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキレンオキサイドと反応させるアルコール原料を取り扱う方法であって、
該アルコール原料は、下記一般式(1):
CH=CR−(R−O−(RO)−H (1)
(式中、Rは、メチル基又は水素原子を表す。Rは、メチレン基を表す。ROは、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、0〜2の整数を表す。mは、0〜20の数であり、ROで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表す。)で表される不飽和アルコールを主成分として含み、
該アルコール原料中の水分含有量を2000ppm以下に制御することを特徴とするアルコール原料の取り扱い方法。
【請求項2】
前記一般式(1)で表される不飽和アルコールは、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、(メタ)アリルアルコール、及び、これらのアルキレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である
ことを特徴とする請求項1に記載のアルコール原料の取り扱い方法。
【請求項3】
前記取り扱い方法は、前記アルコール原料の貯蔵及び/又は使用時に、水分含有量を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のアルコール原料の取り扱い方法。
【請求項4】
前記取り扱い方法は、前記アルコール原料を相対湿度40%以下の不活性ガス雰囲気下で取り扱うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルコール原料の取り扱い方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の取り扱い方法で取り扱われたアルコール原料を、アルキレンオキサイドと反応させる工程を含むことを特徴とする不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法で得られる不飽和(ポリ)アルキレングリコール系エーテル単量体を必須成分とする単量体成分を重合させる工程を含むことを特徴とする(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する重合体の製造方法。
【請求項7】
前記製造方法は、前記単量体成分100質量%中の(ポリ)アルキレングリコールが15質量%以下であることを特徴とする請求項6に記載の重合体の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法で得られる(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する重合体を含むことを特徴とするセメント混和剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−235700(P2010−235700A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83105(P2009−83105)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】