説明

不飽和カルボン酸アダマンチルエステル及びその製造法

【課題】優れたエッチング耐性を付与できるとともに、架橋反応等に有利に利用できるヒドロキシル基を有する不飽和カルボン酸アダマンチルエステルを提供する。
【解決手段】下記式(1)


(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。pは0又は1以上の整数を示し、m、nはそれぞれ1以上の整数を示す。mが2以上の場合、m個のnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)で表される不飽和カルボン酸アダマンチルエステル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトレジスト樹脂等の高機能性材料の原料(モノマー成分等)などとして有用な不飽和カルボン酸アダマンチルエステルとその製造法、及び該不飽和カルボン酸アダマンチルエステルの合成原料として有用なヒドロキシアルキル基を有するアダマンタン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
アダマンタン骨格を有する不飽和カルボン酸エステルをモノマー成分として含むポリマーは、エッチング耐性、光学的特性、耐湿性、耐熱性、熱膨張率などの特性に優れるため、フォトレジスト用樹脂、光学材料、有機ガラス用透明樹脂コーティング剤、導電性ポリマー、写真感光性材料、蛍光性材料などへの利用が期待されている。
【0003】
特開昭63−33350号公報には、アダマンタン環に1〜3個のヒドロキシル基が結合したヒドロキシアダマンチルモノ(メタ)アクリレートが開示されている。この化合物はアダマンタン環に直接ヒドロキシル基が結合しているため、重合して得られるポリマーは基板への密着性に優れるという利点を有しており、フォトレジスト用樹脂として利用されている。また、特開2005−154363号公報には、アダマンタン環にヒドロキシメチル基及び(メタ)アクリロイルオキシメチル基が結合したヒドロキシメチルアダマンチルメチル(メタ)アクリレートが開示されており、この化合物はフォトレジスト用樹脂のモノマーや農医薬中間体等として有用であることが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−33350号公報
【特許文献2】特開2005−154363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記アダマンタン環に1〜3個のヒドロキシル基が結合したヒドロキシアダマンチルモノ(メタ)アクリレートは、アダマンタン環に結合しているヒドロキシル基が反応性に乏しいので、架橋反応等に利用することは難しい。一方、上記アダマンタン環にヒドロキシメチル基及び(メタ)アクリロイルオキシメチル基が結合したヒドロキシメチルアダマンチルメチル(メタ)アクリレートは架橋反応等に有利なヒドロキシメチル基を有するものの、(メタ)アクリロイルオキシ基とアダマンタン環がメチレン基を介して結合しているため、ポリマーをフォトレジスト用樹脂として用いた場合に、エッチング耐性が十分でないという欠点を有する。
【0006】
したがって、本発明の目的は、優れたエッチング耐性を付与できるとともに、架橋反応等に有利に利用できるヒドロキシル基を有する不飽和カルボン酸アダマンチルエステルと、その効率的な製造法を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記ヒドロキシル基を有する不飽和カルボン酸アダマンチルエステルの合成原料として有用なアダマンタン誘導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、アダマンタン環にヒドロキシル基とヒドロキシアルキル基とを有するアダマンタン誘導体のヒドロキシアルキル基のヒドロキシル基を保護基で保護した後、アダマンタンに直接結合しているヒドロキシル基を不飽和カルボン酸アシルオキシ基に変換し、次いで前記保護基を脱離すると、アダマンタン環に直接結合しているヒドロキシル基のみが選択的にエステル化された、ヒドロキシアルキル基を有する不飽和カルボン酸アダマンチルエステルが得られること、及びこの化合物をフォトレジスト用樹脂のモノマーとして使用した場合には、優れたエッチング耐性を付与できるとともに、ヒドロキシアルキル基のヒドロキシル基を架橋反応等に利用できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】

(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。pは0又は1以上の整数を示し、m、nはそれぞれ1以上の整数を示す。mが2以上の場合、m個のnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)
で表される不飽和カルボン酸アダマンチルエステルを提供する。
【0009】
この不飽和カルボン酸アダマンチルエステルにおいて、式(1)におけるm個の[−(CH2n−OH]のうち少なくとも1つが[−(CH2n−O(CO)−C(R1)=CH2]で置き換えられた不純物化合物の含有量は、3重量%未満であるのが好ましい。
【0010】
本発明は、また、下記式(2)
【化2】

(式中、pは0又は1以上の整数を示し、m、nはそれぞれ1以上の整数を示す。mが2以上の場合、m個のnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)
で表されるアダマンタノール誘導体を保護基導入反応に付して、下記式(3)
【化3】

(式中、R2はヒドロキシル基の保護基を示す。pは0又は1以上の整数を示し、m、nはそれぞれ1以上の整数を示す。mが2以上の場合、m個のnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)
で表される化合物とし、この化合物に、下記式(4)
CH2=C(R1)−COOH (4)
(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す)
で表される不飽和カルボン酸又はその反応性誘導体を反応させて、下記式(5)
【化4】

(式中、R1、R2、p、m、nは前記に同じ。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)
で表される化合物とし、次いでこの化合物を脱保護反応に付して、下記式(1)
【化5】

(式中、R1、p、m、nは前記に同じ。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)
で表される化合物を得ることを特徴とする不飽和カルボン酸アダマンチルエステルの製造法を提供する。
【0011】
この製造法において、ヒドロキシル基の保護基R2としては、アシル基、置換基を有していてもよいアルコキシメチル基、ベンジル基、トリフェニルメチル基又はシリル基であるのが好ましい。
【0012】
本発明は、さらに、下記式(3)
【化6】

(式中、R2はヒドロキシル基の保護基を示す。pは0又は1以上の整数を示し、m、nはそれぞれ1以上の整数を示す。mが2以上の場合、m個のnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)
で表されるアダマンタン誘導体を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の不飽和カルボン酸アダマンチルエステルによれば、アダマンタン環の橋頭位に不飽和カルボン酸アシルオキシ基が直接結合し、且つアダマンタン環に少なくとも1つのヒドロキシアルキル基が結合しているため、これを重合して得られるポリマーをフォトレジスト用樹脂として用いた場合に、高いエッチング耐性が得られるとともに、ヒドロキシアルキル基のヒドロキシル基を架橋反応等に利用することができる。
本発明の製造法によれば、上記のような優れた化合物を効率よく製造できる。
さらに、本発明のアダマンタン誘導体によれば、これを製造原料とすることにより、上記不飽和カルボン酸アダマンチルエステルを簡易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[不飽和カルボン酸アダマンチルエステル]
本発明の不飽和カルボン酸アダマンチルエステルは、前記式(1)で表される。式(1)中、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。
【0015】
1における炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。R1としては、特に、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0016】
式(1)中のpはアダマンタン環に直接結合しているヒドロキシル基の数であって、0又は1以上の整数を示す。ヒドロキシル基はアダマンタン環の橋頭位に結合していてもよく、非橋頭位に結合していてもよい。ヒドロキシル基は橋頭位に結合しているのが好ましい。pは好ましくは0又は1〜2の整数である。
【0017】
式(1)中のmはアダマンタン環に結合しているヒドロキシアルキル基[−(CH2n−OH]の数であって、1以上の整数を示す。前記ヒドロキシアルキル基はアダマンタン環の橋頭位に結合していてもよく、非橋頭位に結合していてもよい。前記ヒドロキシルアルキル基は橋頭位に結合しているのが好ましい。mは1〜3の整数、特に1又は2であることが多い。nはメチレン基[−CH2−]の数であって、1以上の整数を示す。nは好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜4、特に好ましくは1である。mが2以上の場合、m個のnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0018】
式(1)中のアダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素原子など)、アルキル基(メチル、エチル、イソプロピル基などのC1-4アルキル基など)、置換オキシ基(メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ基などのC1-4アルコキシ基、フェニルオキシ基などのアリールオキシ基、アセチルオキシ、ベンゾイルオキシ基などのアシルオキシ基(不飽和カルボン酸アシルオキシ基を除く)など)、置換アミノ基(N,N−ジメチルアミノ基などのN,N−ジC1-4アルキルアミノ基、アセチルアミノ基などのアシルアミノ基等)、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基(メトキシカルボニル、エトキシカルボニル基などのC1-4アルコキシ−カルボニル基など)、ニトロ基、オキソ基などが例示できる。式(1)で表される化合物が置換基を有するとき、その数は、例えば1〜4程度である。式(1)中のアダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有しないか、或いはメチル基等のC1-4アルキル基を1又は2個有する場合が多い。
【0019】
式(1)で表される不飽和カルボン酸アダマンチルエステルの代表的な例として、例えば、(メタ)アクリル酸 3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−イル エステル、(メタ)アクリル酸 3,5−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1−イル エステル、(メタ)アクリル酸 3−ヒドロキシ−5−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−イル エステルなどが挙げられる。
【0020】
本発明の不飽和カルボン酸アダマンチルエステルは、アダマンタン環の橋頭位に(メタ)アクリロイルオキシ基等の不飽和カルボン酸アシルオキシ基が直接結合しているため、重合して得られるポリマーをフォトレジスト用樹脂として用いた場合に、高いエッチング耐性が得られるとともに、アダマンタン環に直接結合しているヒドロキシ基よりも反応性が著しく高いヒドロキシメチル基等のヒドロキシアルキル基がアダマンタン環に少なくとも1つ結合しているため、該ヒドロキシアルキル基のヒドロキシル基を架橋反応(例えば、エポキシ樹脂等による架橋反応など)等に利用できるという利点を有する。このため、例えばネガ型のフォトレジスト用樹脂として利用できる。
【0021】
なお、本発明の不飽和カルボン酸アダマンチルエステル中に不純物、特に不飽和カルボン酸アシルオキシ基を複数個有する化合物(ジアシル体等)が含まれていると、重合の際、溶剤不溶解物が生成し、フィルタリング等の除去工程が必要となる。このような溶剤不溶解物は非常に目詰まりしやすく、幾度となく濾紙を交換する必要があり、操作が極めて煩雑となる。また、前記の不飽和カルボン酸アシルオキシ基を複数個有する化合物が重合に関与すると、分子量が大きくなり、ポリマーの機能上好ましくない。
【0022】
このため、本発明の不飽和カルボン酸アダマンチルエステルにおいては、式(1)におけるm個の[−(CH2n−OH]のうち少なくとも1つが[−(CH2n−O(CO)−C(R1)=CH2]で置き換えられた不純物化合物の含有量(総量)が3重量%未満、特に2重量%以下(とりわけ1重量%以下)であるのが好ましい。本発明の製造法(後述)以外の方法、例えば、前記式(2)で表される化合物を直接アシル化反応(不飽和カルボン酸アシル基導入反応)に付す場合には、第3級の水酸基よりも第1級の水酸基の方がアシル化されやすいので、目的化合物の収率が低いだけでなく、第3級水酸基と第1級水酸基がともにアシル化されたジアシル体が副生しやすい。このジアシル体と目的化合物とは物性が近似しているため、一般的な分離精製法では両者を完全に分離することが困難であり、通常、目的とする不飽和カルボン酸アダマンチルエステル中には不純物である前記ジアシル体が3重量%以上含まれる。
【0023】
[不飽和カルボン酸アダマンチルエステルの製造法]
本発明の不飽和カルボン酸アダマンチルエステルの製造法では、前記式(2)で表されるアダマンタノール誘導体を保護基導入反応に付して、前記式(3)で表される化合物とし、この化合物に、前記式(4)で表される不飽和カルボン酸又はその反応性誘導体を反応させて、前記式(5)で表される化合物とし、次いでこの化合物を脱保護反応に付して、前記式(1)で表される化合物(本発明の不飽和カルボン酸アダマンチルエステル)を得る。
【0024】
各式中、R1、p、m、nは前記に同じであり、アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基(前記と同様)を有していてもよい。
【0025】
式(2)で表される化合物の具体例として、下記式(2-1)〜(2-25)で表される化合物が挙げられる。
【0026】
【化7】

【0027】
これらのなかでも、式(2-1)〜(2-8)で表される化合物が好ましい。式(2)で表される化合物の代表的な例として、3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール、3,5−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1−オール、5−ヒドロキシメチルアダマンタン−1,3−ジオールなどが挙げられる。
【0028】
式(2)で表される化合物は、例えば、公知の化合物から公知の反応を利用して製造することができる。例えば、ヒドロキシメチル基とヒドロキシル基とを有するアダマンタン誘導体は、カルボキシル基又はアルコキシカルボニル基とヒドロキシル基とを有するアダマンタン誘導体に水素化アルミニウムリチウム等の還元剤を作用させて、カルボキシル基又はアルコキシカルボニル基をヒドロキシメチル基に転化させることにより得ることができる。また、アダマンタン環の橋頭位にヒドロキシル基を有するアダマンタン誘導体は、アダマンタン環の橋頭位に水素原子が結合している化合物を、N−ヒドロキシフタルイミド等のイミド系化合物触媒(又は、イミド系化合物触媒及び金属化合物)の存在下、酸素で酸化することにより得ることができる。さらに、アダマンタン環の非橋頭位にヒドロキシル基を有するアダマンタン誘導体は、アダマンタン環の非橋頭位にオキソ基が結合している化合物(アダマンタノン化合物)を、適当な還元剤、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム等を用いて還元するか、若しくは金属触媒存在下に接触水素添加する方法等により得ることができる。
【0029】
式(3)中、R2はヒドロキシル基の保護基を示す。ヒドロキシル基の保護基としては、有機合成の分野で慣用のヒドロキシル基の保護基を使用できる。これらの中でも、ヒドロキシル基の保護基として、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等のアシル基(特に、炭素数1〜4の脂肪族飽和アシル基又は炭素数6〜10の芳香族アシル基);メトキシメチル基、ベンジルオキシメチル基、t−ブトキシメチル基、2−メトキシエトキシメチル基、トリクロロエトキシメチル基などの置換基を有していてもよいアルコキシメチル基;ベンジル基;トリフェニルメチル基;トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、イソプロピルジメチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、(トリフェニルメチル)ジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基などのシリル基が好ましい。
【0030】
式(3)で表される化合物のなかでも、nが2以上(例えばn=2〜6、より好ましくはn=2〜4)である化合物、m+pが2以上(例えば、m+p=2〜3)である化合物、pが1以上(例えばp=1〜2、より好ましくはp=1)である化合物などが好ましい。
【0031】
式(2)で表されるアダマンタノール誘導体の第1級水酸基への保護基の導入は、慣用の方法で行うことができる。例えば、アシル基を導入する場合には、導入するアシル基に対応する酸無水物や酸ハライドをアシル化剤として用いることができる。アシル化反応は、ピリジン、トリエチルアミン等の塩基の存在下で行うのが好ましい。置換基を有していてもよいアルコキシメチル基を導入する場合には、導入する置換基を有していてもよいアルコキシメチル基に対応する置換基を有していてもよいアルコキシメチルハライドを反応剤として用いるのが好ましい。この反応(エーテル化反応)は、例えば、エチルジイソプロピルアミン、トリエチルアミンなどの塩基の存在下で行うのが好ましい。ベンジル基又はトリフェニルメチル基を導入する場合には、ベンジルハライド又はトリチルハライドを反応剤として用いるのが好ましい。この反応(エーテル化反応)は、例えば、炭酸カリウム、トリエチルアミン、4−ジメチルアミノピリジンなどの塩基の存在下で行うのが好ましい。シリル基を導入する場合には、通常、シリル基に対応するシリルハライドを反応剤として用いる。この反応(シリルエーテル化反応)は、例えば、トリエチルアミン、4−ジメチルアミノピリジン、ピリジン、イミダゾール、炭酸カリウムなどの塩基の存在下で行うのが好ましい。
【0032】
保護基導入反応は、通常、溶媒中で行われる。溶媒としては、導入する保護基の種類によっても異なるが、例えば、ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル;N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド;これらの混合溶媒などが挙げられる。反応条件は、保護基の種類に応じた慣用の反応条件を採用できる。保護基導入反応に用いる反応剤の使用量は、式(2)で表される化合物に結合しているヒドロキシアルキル基[−(CH2n−OH]1モルに対して、例えば1〜2モル、好ましくは1.01〜1.8モル程度である。
【0033】
反応終了後、反応生成物[式(3)で表される化合物]は、慣用の精製手段、例えば、濃縮、晶析、抽出、再結晶、蒸留、カラムクロマトグラフィー、又はこれらの組み合わせにより分離精製することができる。
【0034】
式(3)で表される化合物の具体例としては、前記式(2)で表される化合物の具体例として挙げられている化合物におけるヒドロキシメチル基が保護基で保護された化合物が挙げられる。なかでも、式(2-1)〜(2-8)で表される化合物におけるヒドロキシメチル基が保護基で保護された化合物が特に好ましい。
【0035】
式(4)で表される不飽和カルボン酸の代表的な例として、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。式(4)で表される不飽和カルボン酸の反応性誘導体の代表的な例としては、例えば、アクリル酸クロリド、アクリル酸ブロミド、メタクリル酸クロリド、メタクリル酸ブロミドなどの不飽和カルボン酸ハライド;無水アクリル酸、無水メタクリル酸などの不飽和カルボン酸無水物などが挙げられる。
【0036】
式(3)で表される化合物と式(4)で表される不飽和カルボン酸又はその反応性誘導体との反応は、通常、反応に不活性な有機溶媒中で行われる。前記有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル;N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド;これらの混合溶媒などが挙げられる。
【0037】
式(4)で表される不飽和カルボン酸誘導体又はその反応性誘導体の使用量は、式(3)で表される化合物1モルに対して、pが0の場合には、例えば1〜10モル、好ましくは1〜5モル程度である。pが1以上の整数の場合には、ジアシル体等の副生を抑制するため、式(4)で表される不飽和カルボン酸誘導体又はその反応性誘導体の使用量を適宜調整するのが好ましい。
【0038】
式(4)で表される不飽和カルボン酸を反応に用いる場合には、触媒として酸を使用するのが好ましい。酸としては、例えば、塩酸、塩化水素、硫酸、硝酸、リン酸、ヘテロポリ酸などの無機酸;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などのスルホン酸類;酢酸、トリフルオロ酢酸などのカルボン酸;陽イオン交換樹脂などが挙げられる。これらの中でも、硫酸などの無機強酸、p−トルエンスルホン酸などのスルホン酸類、強酸性陽イオン交換樹脂などの強酸が好ましい。酸の使用量は、触媒量であればよく、式(3)で表される化合物1モルに対して、例えば0.0001〜0.3モル、好ましくは0.001〜0.2モル程度である。
【0039】
式(4)で表される不飽和カルボン酸の反応性誘導体を反応に用いる場合には、反応を塩基の存在下で行う場合が多い。塩基としては、無機塩基を用いることもできるが、水の副生しない有機塩基を用いるのが好ましい。有機塩基としては、例えば、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、4−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5、1,5−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−5、ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンなどの鎖状又は環状アミン;ピリジン、イミダゾールなどの塩基性含窒素芳香族性複素環化合物などが挙げられる。塩基の使用量は、式(4)で表される不飽和カルボン酸の反応性誘導体1モルに対して、例えば0.8モル以上(0.8〜2モル程度)、好ましくは1〜1.6モル程度である。塩基を溶媒として用いることもできる。
【0040】
式(4)で表される不飽和カルボン酸の反応性誘導体として、酸無水物を用いる場合には、反応速度を高めるため、酸の存在下で反応を行ってもよい。酸としては、前記例示の酸を使用できる。
【0041】
式(3)で表される化合物と式(4)で表される不飽和カルボン酸又はその反応性誘導体との反応における反応温度は、反応に用いる化合物の種類により異なるが、一般に、例えば−20〜150℃、好ましくは−10〜120℃程度である。
【0042】
なお、アシル化反応中での保護基R2の脱離防止等の観点から、式(3)の化合物における保護基R2がアシル基の場合には、アシル化剤として式(4)で表される不飽和カルボン酸を用いる場合が多く、式(3)の化合物における保護基R2が置換基を有していてもよいアルコキシメチル基、ベンジル基、トリフェニルメチル基又はシリル基の場合には、アシル化剤として式(4)で表される不飽和カルボン酸の反応性誘導体を用いる場合が多い。
【0043】
反応終了後、反応生成物[式(5)で表される化合物]は、慣用の精製手段、例えば、濃縮、晶析、抽出、再結晶、蒸留、カラムクロマトグラフィー、又はこれらの組み合わせにより分離精製することができる。
【0044】
式(5)で表される化合物の保護基の脱離は、保護基の種類に応じた慣用の方法で行うことができる。例えば、保護基がアシル基の場合の脱保護は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等の塩基、又は硫酸等の強酸の存在下、加水分解反応に付すことにより行うことができる。保護基が置換基を有していてもよいアルコキシメチル基の場合の脱保護は、塩酸等の強酸存在下、加水分解反応に付すことにより行うことができる。保護基がベンジル基の場合の脱保護は、パラジム−炭素等の触媒の存在下、水添反応に付すことにより行うことができる。保護基がトリフェニルメチル基の場合の脱保護は、p−トルエンスルホン酸等の強酸の存在下、加水分解反応等に付すことにより行うことができる。保護基がシリル基の場合の脱保護は、例えば、第四級アンモニウム塩で処理することにより行うことができる。反応条件は、保護基の種類に応じた慣用の反応条件を採用できる。
【0045】
反応終了後、反応生成物[式(1)で表される化合物]は、慣用の精製手段、例えば、濃縮、晶析、抽出、再結晶、蒸留、カラムクロマトグラフィー、又はこれらの組み合わせにより分離精製することができる。
【0046】
本発明の製造法によれば、アダマンタン環に第1級水酸基を有するヒドロキシアルキル基が結合しており、且つアダマンタン環の橋頭位にヒドロキシル基(第3級水酸基)が結合している式(2)で表される化合物を出発原料とし、まず、反応性の高い第1級水酸基を保護基で保護しておき、第3級水酸基を不飽和カルボン酸アシルオキシ基に変換し、次いで前記保護基を脱離させるので、収率よく目的化合物[式(1)で表される化合物]を得ることができる。また、第1級水酸基と第3級水酸基がともに不飽和カルボン酸アシルオキシ基に変換した化合物の生成が極めて少ないため、簡易な精製手段で、このような不純物の含有量の極めて少ない目的化合物を得ることができる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例において、ジメタクリル体の含有量はガスクロマトグラフィーにより測定した。分析条件は下記の通りである。
【0048】
装置:(株)島津製作所製、ガスクロマトグラフGC−2010
カラム:HP−5 30m×0.25mmID×0.25μm
INJ:300℃
DET:FID/300℃
オーブン:100℃(0min)→20℃/min→200℃(10min)
内部標準:ジフェニルエーテル
【0049】
実施例1(保護基:アセチル基)
3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール(450g、2.47mol)とピリジン(450g)を混合し、42℃に加熱して完全に溶解させた。この溶液を29〜39℃に保ちながら、無水酢酸(379g、3.70mol)を70分間を要して添加した。室温下2.5時間撹拌を行った後、減圧下溶媒を留去した。得られた残留物に酢酸エチル(2.25kg)を加えて溶液とし、これを飽和重曹水(1.56kg)で洗浄してから、減圧下溶媒を留去した。得られた粗生成物固体をn−ヘキサンで洗浄し、減圧下40℃で乾燥することにより、3−アセトキシメチルアダマンタン−1−オール(448g、収率80%)を白色固体として得た。
[3−アセトキシメチルアダマンタン−1−オールのNMRスペクトルデータ]
1H−NMR(CDCl3):1.45(4H, m),1.52(2H,s),1.57(2H,m),1.68(4H,m),2.06(3H,s),2.23(2H,m),3.75(2H,s)
【0050】
4倍容の窒素ガスで希釈した空気を流通させたトルエン(2.53kg)中で、3−アセトキシメチルアダマンタン−1−オール(250g、1.11mol)、4−メトキシフェノール(6.94g、0.05mol)、及びメタクリル酸(386g、4.46mol)を混合し、85〜94℃の温度範囲で加熱しながら、濃硫酸(11g、0.11mol)を10分間を要して滴下した。ディーンシュターク管を用いて副生する水を除去しながら、6.5時間加熱還流を行った。反応液を室温にまで放冷し、5重量%重曹水(各1.5L)で4回洗浄を行った。減圧下溶媒を留去し、油状の粗生成物(333g)を得た。ガスクロマトグラフィー分析の結果、この粗生成物中には、メタクリル酸 3−アセトキシメチルアダマンタン−1−イル エステル(192g、収率61%)が含まれていた。
[メタクリル酸 3−アセトキシメチルアダマンタン−1−イル エステルのNMRスペクトルデータ]
1H−NMR(CDCl3):1.54(6H,m),1.89(3H,s),1.97(2H,s),2.07(3H,s),2.13(4H,m),2.27(2H,m),3.76(2H,s),5.48(1H,m),6.01(1H,s)
【0051】
室温下、前工程で得られたメタクリル酸 3−アセトキシメチルアダマンタン−1−イル エステル(190g、0.65mol)を含む粗液にメタノール(951g)を加えて溶液とし、さらに炭酸カリウム(22.5g、0.16mol)を加えた。室温下5.5時間撹拌し、ガスクロマトグラフィー及び薄層クロマトグラフィーで反応の完結を確認した後に、1規定塩酸(293g)を加えてpH3に調整した。酢酸エチル(2.86kg)を加え、これを4重量%食塩水(0.68L)及び飽和食塩水(1.0L)で洗浄し、4−メトキシフェノール(223mg)を加えてから、減圧下溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで3回(展開溶媒:n−ヘキサン/クロロホルム=1/3、n−ヘキサン/酢酸エチル=5/1、n−ヘキサン/ジイソプロピルエーテル=3/1〜1/1)精製し、メタクリル酸 3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−イル エステル(70g)を得た。収率は3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール基準で21%であった。
[メタクリル酸 3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−イル エステルのNMRスペクトルデータ]
1H−NMR(CDCl3):1.51(4H,m),1.63(2H,m),1.89(3H,s),1.93(2H,s),2.13(4H,m),2.28(2H,m),3.29(2H,s),5.47(1H,m)6.00(1H,s)
【0052】
上記と同様の操作によって得られた粗生成物(シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付す前のもの)を薄膜式分子蒸留装置で蒸留精製した。その結果、純度98%のメタクリル酸 3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−イル エステル[下記式(1a)で表される化合物]が23g得られた。なお、不純物として、痕跡量のジメタクリル体(=3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール ジメタクリレート)が含まれていた。
【0053】
【化8】

【0054】
比較例1
3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール(48g、263mmol)をテトラヒドロフラン(1300mL)に溶解させ、トリエチルアミン(39.9g、395mmol)を加え、25℃でメタクリル酸クロリド(27.5g、263mmol)を滴下して反応させた。反応混合液に塩酸水溶液を加えてクエンチし、酢酸エチル(2.8kg)を添加して分液させ、酢酸エチル層を重曹水溶液で洗浄した。酢酸エチル層を濃縮し、目的物であるメタクリル酸 3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−イル エステルが収率10%、3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール ジメタクリレートが収率3%、メタクリル酸 (1−ヒドロキシアダマンタン−3−イル)メチル エステルが収率50%で生成していた。得られた固形分からのヘキサン溶媒による抽出と、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製により、純度96%のメタクリル酸 3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−イル エステルを得た。得られたメタクリル酸 3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−イル エステル中には、不純物としてジメタクリル体(=3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール ジメタクリレート)が3%含まれていた。
【0055】
評価試験
不純物としてのジメタクリル体(=3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オールジメタクリレート)の含有量の異なる(それぞれ、1重量%、3重量%、5重量%)メタクリル酸 3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−イル エステル(5g)を、ラジカル重合開始剤(和光純薬工業社製、商品名「V−601」;0.25g)を用いて、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)(50mL)中、75℃で6時間重合させた。重合後の重合液を目視観察した。その結果、ジメタクリル体の含有量が1重量%のメタクリル酸 3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−イル エステルを重合させた場合には、不溶解物は見られなかったが、ジメタクリル体の含有量が3重量%のメタクリル酸 3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−イル エステルを重合させた場合には不溶解物が僅かに見られ、ジメタクリル体の含有量が5重量%のメタクリル酸 3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−イル エステルを重合させた場合には不溶解物がはっきりと観察された。
【0056】
実施例2(保護基:2−メトキシエトキシメチル基)
3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール(1.82g、10mmol)、エチルジイソプロピルアミン(1.29g、15mmol)、1−クロロメトキシ−2−メトキシエタン(1.24g、10mmol)をテトラヒドロフラン(40mL)中で混合し、室温下2日間撹拌した。反応液から減圧下溶媒を留去し、酢酸エチル(120mL)を加え、水(60mL×3)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、再び減圧下溶媒を留去した。
得られた残留物を塩化メチレン(30mL)の溶液とし、トリエチルアミン(1.51g、15mmol)、メタクリル酸クロリド(1.04g、10mmol)を加え、室温下1日撹拌した。反応液を水(30mL)で洗浄し、減圧下溶媒を留去した。
得られた残留物をアセトン(30mL)の溶液とし、6規定塩酸(2mL)を加えて、50℃で1時間撹拌した。酢酸エチル(40mL)を加えて希釈し、水(20mL)、重曹水(20mL)、水(20mL)で順次洗浄し、減圧下溶媒を留去した。
得られた粗生成物の一部をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=30/0〜30/1)で精製することにより、メタクリル酸 3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−イル エステルを得た。収率は3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール基準で14%であった。なお、不純物として、痕跡量のジメタクリル体(=3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール ジメタクリレート)が含まれていた。
【0057】
実施例3(保護基:ベンジル基)
3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール(1.82g、10mmol)、ベンジルブロミド(1.71g、10mmol)、炭酸カリウム(2.07g、15mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド(20mL)中で混合し、室温下2日間撹拌した。反応液に酢酸エチル(40mL)を加え、水(20mL×3)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下溶媒を留去した。得られた残留物を塩化メチレン(30mL)の溶液とし、トリエチルアミン(1.51g、15mmol)、メタクリル酸クロリド(1.04g、10mmol)を加え、室温下1日間撹拌した。反応液を、水(30mL)で洗浄し、減圧下溶媒を留去した。
得られた残留物をエタノール(30mL)の溶液とし、パラジウム−炭素触媒の存在下、常圧水素ガスを1時間接触させた。触媒を濾別後、減圧下溶媒を留去し、得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、メタクリル酸 3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−イル エステルを得た。収率は3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール基準で4%であった。なお、不純物として、痕跡量のジメタクリル体(=3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール ジメタクリレート)が含まれていた。
【0058】
実施例4(保護基:シリル基)
3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール(10g、54.9mmol)、t−ブチルジメチルシリルクロリド(9.10g、60.4mmol)、トリエチルアミン(6.66g、65.8mmol)、及び4−ジメチルアミノピリジン(0.268g、2.2mmol)を塩化メチレン(200g)中で混合し、室温下10時間撹拌した。
得られた反応液にトリエチルアミン(15.4g)を加え、35〜40℃に加熱しながら、メタクリル酸クロリド(8.60g、82.3mmol)を滴下し、1.5時間撹拌した。反応液を5規定塩酸(10g)で洗浄し、塩化メチレン層から減圧下溶媒を留去した。
得られた残留物をテトラヒドロフラン(120mL)の溶液とし、テトラn−ブチルアンモニウムフルオライド(18.6g、90.6mmol)を加えて、室温下1日間撹拌した。酢酸エチル(480mL)を加えて、水(240mL)で洗浄し、減圧下溶媒を留去し、得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、メタクリル酸 3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−イル エステルを得た。収率は3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール基準で21%であった。なお、不純物として、痕跡量のジメタクリル体(=3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール ジメタクリレート)が含まれていた。
【0059】
実施例5(保護基:トリフェニルメチル基)
3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール(1.82g、10mmol)、トリエチルアミン(1.51g、15mmol)、4−ジメチルアミノピリジン(0.12g、1.0mmol)、及びトリチルクロライド(2.79g、10mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド(20mL)中で混合し、室温下2日間撹拌した。酢酸エチル(60mL)を加え、水(20mL×3)で洗浄し、減圧下溶媒を留去した。得られた残留物を塩化メチレン(30mL)の溶液とし、トリエチルアミン(1.51g、15mmol)、メタクリル酸クロリド(1.04g、10mmol)を加え、室温下1日間撹拌した。反応液を水(30mL)で洗浄し、減圧下溶媒を留去した。
得られた残留物をメタノール(120mL)の溶液とし、p−トルエンスルホン酸(2.0g)を加えて室温下1日間撹拌した。酢酸エチル(400mL)を加えて、水(200mL)で洗浄し、減圧下溶媒を留去し、得られた残留をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、メタクリル酸 3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−イル エステルを得た。収率は3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール基準で19%であった。なお、不純物として、痕跡量のジメタクリル体(=3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール ジメタクリレート)が含まれていた。
【0060】
実施例6
5−ヒドロキシアダマンタン−1,3−ジカルボン酸を、常法に従い、水素化アルミニウムリチウム(ヒドリド試薬)で還元して、3,5−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1−オールを得た。
[3,5−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1−オールのNMRスペクトルデータ]
1H−NMR(DMSO−d6):1.06(2H,s),1.25(8H,m),1.45(2H,s),2.13(1H,m),3.04(4H,d),4.29(1H,s),4.34(2H,t)
【0061】
3,5−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1−オール(81.2g、0.383mol)、t−ブチルジメチルシリルクロリド(126.9g、0.842mol)、トリエチルアミン(92.9g、0.918mol)、及び4−ジメチルアミノピリジン(3.74g、30.6mmol)を塩化メチレン(812g)中で混合し、30℃で18時間撹拌した。
トリエチルアミン(92.9g、0.918mol)を加え、29〜34℃を保ちながら、メタクリル酸クロリド(72.0g、0.689mol)を塩化メチレン(72g)で希釈した溶液を滴下した。室温下4.5時間撹拌後、析出した塩を濾別し、減圧下溶媒を留去した。得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/n−ヘキサン=6/94)で精製することにより、メタクリル酸 3,5−ビス(t−ブチルジメチルシリルオキシメチル)アダマンタン−1−イル エステル(120g、収率80.8%)を得た。
メタクリル酸 3,5−ビス(t−ブチルジメチルシリルオキシメチル)アダマンタン−1−イル エステル(25g、49.1mmol)をテトラヒドロフラン(125g)の溶液とし、1Mテトラブチルアンモニウムフルオライド(51.4g、197mmol)を加えて、室温下1日間撹拌した。酢酸エチル(550mL)を加え、水(225mL×2)で洗浄し、減圧下溶媒を留去した。
得られた残留物のうちの一部をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=10/0〜10/1)で精製することにより、メタクリル酸 3,5−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1−イル エステル[下記式(1b)で表される化合物]を得た。収率は3,5−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1−オール基準で23%であった。なお、不純物として、痕跡量のジメタクリル体(=3,5−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1−オール ジメタクリレート)が含まれていた。
[メタクリル酸 3,5−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1−イル エステルのNMRスペクトルデータ]
1H−NMR(CDCl3):1.43(6H,m),1.51(2H,m),1.88(7H,m),2.11(2H,m),2.37(1H,m),3.35(4H,s),5.48(1H、s),6.00(1H,s)
【0062】
【化9】

【0063】
実施例7
実施例1において、3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オールの代わりに3,5−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1−オールを用い、実施例1と同様に、アセチル基を保護基として用いることにより、メタクリル酸 3,5−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1−オールを得た。収率は3,5−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1−オール基準で32%であった。なお、不純物として、痕跡量のジメタクリル体(=3,5−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1−オール ジメタクリレート)が含まれていた。
【0064】
実施例8
3,5−ジヒドロキシアダマンタン−1−カルボン酸を、エタノール中で塩化チオニルを作用させることによって対応するエチルエステルとした後、テトラヒドロフラン中で水素化アルミニウムリチウムを用いて還元を行うことにより、5−ヒドロキシメチルアダマンタン−1,3−ジオールを得た。
[5−ヒドロキシメチルアダマンタン−1,3−ジオールのNMRスペクトルデータ]
1H−NMR(DMSO−d6):1.15(2H,s),1.21(4H,m),1.42(6H,m),2.13(1H,s),3.03(2H,d,J=4.3Hz),4.37(1H,brs),4.40(2H,brs)
【0065】
5−ヒドロキシメチルアダマンタン−1,3−ジオール(150g、0.756mol)とピリジン(150g)を混合し、水浴で23〜27℃を保ちながら、無水酢酸(131.3g、1.286mol)を70分間を要して滴下した。室温下2時間撹拌後、減圧下溶媒を留去した。得られた残留物に酢酸エチル(603g)及び飽和重曹水(135g)を加え、室温下1時間撹拌し、濾過に付し、トルエン(150g)でリンスを行い、5−アセトキシメチルアダマンタン−1,3−ジオールを得た。
5−アセトキシメチルアダマンタン−1,3−ジオール(1.06g、4.16mmol),4−メトキシフェノール(25.8mg、0.208mmol)、及びメタクリル酸(1.43g、16.65mmol)をトルエン(20.43g)中で混合し、さらに、濃硫酸(42.1mg)を加えて、91〜101℃で3.5時間加熱した。室温にまで放冷し、反応液を10重量%炭酸ナトリウム水溶液(10.16g)、水(10g)、飽和食塩水(10g)で順次洗浄した。減圧下溶媒を留去し、メタクリル酸 3−ヒドロキシ−5−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−イル エステル[下記式(1c)で表される化合物](1.06g、収率85.4%)を得た。
[メタクリル酸 3−ヒドロキシ−5−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−イル エステルのNMRスペクトルデータ]
1H−NMR(DMSO−d6):1.23(1H,m),1.28(2H,m),1.35(1H,m),1.47(1H,m),1.52(1H,m),1.73(2H,m),1.81(3H,s),1.92(4H,m),2.25(1H,s),3.09(2H,m),4.49(1H,m),4.65(1H,s),5.58(1H,s),5.92(1H,s)
【0066】
【化10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。pは0又は1以上の整数を示し、m、nはそれぞれ1以上の整数を示す。mが2以上の場合、m個のnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)
で表される不飽和カルボン酸アダマンチルエステル。
【請求項2】
式(1)におけるm個の[−(CH2n−OH]のうち少なくとも1つが[−(CH2n−O(CO)−C(R1)=CH2]で置き換えられた不純物化合物の含有量が3重量%未満である請求項1記載の不飽和カルボン酸アダマンチルエステル。
【請求項3】
下記式(2)
【化2】

(式中、pは0又は1以上の整数を示し、m、nはそれぞれ1以上の整数を示す。mが2以上の場合、m個のnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)
で表されるアダマンタノール誘導体を保護基導入反応に付して、下記式(3)
【化3】

(式中、R2はヒドロキシル基の保護基を示す。pは0又は1以上の整数を示し、m、nはそれぞれ1以上の整数を示す。mが2以上の場合、m個のnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)
で表される化合物とし、この化合物に、下記式(4)
CH2=C(R1)−COOH (4)
(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す)
で表される不飽和カルボン酸又はその反応性誘導体を反応させて、下記式(5)
【化4】

(式中、R1、R2、p、m、nは前記に同じ。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)
で表される化合物とし、次いでこの化合物を脱保護反応に付して、下記式(1)
【化5】

(式中、R1、p、m、nは前記に同じ。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)
で表される化合物を得ることを特徴とする不飽和カルボン酸アダマンチルエステルの製造法。
【請求項4】
ヒドロキシル基の保護基R2が、アシル基、置換基を有していてもよいアルコキシメチル基、ベンジル基、トリフェニルメチル基又はシリル基である請求項3記載の不飽和カルボン酸アダマンチルエステルの製造法。
【請求項5】
下記式(3)
【化6】

(式中、R2はヒドロキシル基の保護基を示す。pは0又は1以上の整数を示し、m、nはそれぞれ1以上の整数を示す。mが2以上の場合、m個のnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)
で表されるアダマンタン誘導体。

【公開番号】特開2009−256307(P2009−256307A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227841(P2008−227841)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】