説明

両末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーン及びその製造方法

【課題】高分子量で純度の高い両末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーンを得ることができ、親水性モノマーとの相溶性も高い高純度な両末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーン及びその製造方法を提供する。
【解決手段】式[I]R1Me2SiO(R22SiO)aSiMe21[I](R1は、下記式(i)で示される基及び下記式(ii)で示される基からなり、式(i)の基と式(ii)の基との割合が70〜95モル%:30〜5モル%)


で示される両末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、他の親水性モノマーと共重合することにより、コンタクトレンズ(親水性コンタクトレンズ、シリコーンハイドロゲル)、眼内レンズ、人工角膜などの眼用レンズに好適なポリマーを与えることができる新規両末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーン及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリシロキサン末端で重合性基(メタアクリル基、アクリル基、ビニルカーボネート基)と結合したポリシロキサンは、たとえば特表平8−501504号公報(特許文献1)で公知であり、このポリシロキサンと親水性モノマーを共重合して親水性シリコーンコンタクトレンズ(シリコーンハイドロゲル)とすることも該公報中に記載されている。
しかし、ポリシロキサン末端にウレタン結合を有するものはN−ビニルピロリドン等の親水性モノマーとの相溶性が十分であるが、重合性基のみを末端に含むものは親水性モノマーとの相溶性が不十分で、シリコーンハイドロゲルの原料としては問題があった。
【0003】
特表2009−542674号公報(特許文献2)には片末端SiH基の5量体シリコーンとアリルグリセロール(メタ)アクリレートの白金触媒付加反応により、片末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーンを得ている。しかし、この特許文献2には、両末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーンについては開示がない。また、上記特許文献2には、その変性シリコーンを製造する際に使用した過剰のアリル化合物の除去方法についても示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平8−501504号公報
【特許文献2】特表2009−542674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の問題点を解決するためになされたもので、より高分子量で純度の高い両末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーンを得ることができ、親水性モノマーとの相溶性も高い高純度な両末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーン及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成し、眼内レンズ用材料として従来の両末端(メタ)アクリルシリコーンが抱える相溶性問題を解決すべく、水酸基をポリシロキサン両末端に導入した、高純度グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーン開発を目指すと共に、特に他重合性モノマーとの共重合時に、シロキサン末端基が全て共重合に関与可能であり、共重合後レンズ物性振れが少ない、高純度グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーン開発を目指して鋭意検討を行った結果、本発明をなすに至ったものである。
【0007】
この場合、一般の両末端(メタ)アクリルシリコーンは、シロキサン末端ケイ素原子と(メタ)アクリロキシ基間がアルキル基、一般にはプロピル基又はブチル基で結ばれており、水酸基は含有していない。
【0008】
本発明によれば、両末端ハイドロンジェンポリシロキサンを原料とし、このSiH基に対し過剰量のアリルグリセロール(メタ)アクリレートを反応させ、その後過剰量のアリルグリセロール(メタ)アクリレートをメタノール又はアセトン等の水溶性溶剤で洗浄除去することで、高純度な両末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーンを得ることができるものである。
【0009】
また、上記特許文献2の片末端変性シリコーンは最大でSi8量体の化合物であるが、本発明の変性シリコーンは最小で12量体のシリコーンであり、しかも片末端ではなく、両末端反応性である。
【0010】
即ち、本発明は、下記両末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーン及びその製造方法を提供する。
請求項1:
下記一般式[I]
1Me2SiO(R22SiO)aSiMe21 [I]
(式中、R1は、下記式(i)で示される基及び下記式(ii)で示される基からなり、式(i)の基と式(ii)の基との割合が70〜95モル%:30〜5モル%である。
【化1】

(R3は水素原子又はメチル基である。)
2は、同一でも異なっていてもよい炭素数1〜10の1価炭化水素基又はハロゲン化1価炭化水素基、Meはメチル基、aは10〜300の整数である。)
で示される両末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーン。
請求項2:
下記一般式[II]
RMe2SiO(R22SiO)aSiMe2R [II]
(式中、Rは水素原子又は有機基であり、Rの95モル%以上が請求項1記載のR1で示される基である。R2、aは請求項1で定義した通り。)
で示される両末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーン。
請求項3:
下記一般式[III]で示される両末端ハイドロジェンシリコーンと、下記一般式[IV]及び[V]で示されるアリル化合物とを式[IV]のアリル化合物と式[V]のアリル化合物とを70〜95モル%:30〜5モル%の割合で使用すると共に、上記式[III]の両末端ハイドロジェンシリコーンのSiH基量より上記式[IV]及び[V]のアリル化合物の合計アリル基量を過剰モル量となるように使用して付加反応させることを特徴とする下記一般式[I]で示される両末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーンの製造方法。
HMe2SiO(R22SiO)aSiMe2H [III]
[式中、R2は、同一でも異なっていてもよい炭素数1〜10の1価炭化水素基又はハロゲン化1価炭化水素基、Meはメチル基、aは10〜300の整数である。
【化2】

(式中、R3は水素原子又はメチル基である。)
1Me2SiO(R22SiO)aSiMe21 [I]
(式中、R1は、下記式(i)で示される基及び下記式(ii)で示される基からなり、式(i)の基と式(ii)の基との割合が70〜95モル%:30〜5モル%である。
【化3】

(式中、R3は水素原子又はメチル基である。)
2、Me、aは上記の通りである。]
請求項4:
上記付加反応後、過剰のアリル化合物を水溶性有機溶剤洗浄により除去する請求項3記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より高分子量で純度の高い両末端反応性の両末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーンを得ることができ、得られた変性シリコーンは、特に上記式(i)及び式(ii)の基が70〜95モル%:30〜5モル%の割合で混合されたものであることにより、式(ii)の基が有する1級水酸基の効果で対親水性モノマーとの相溶性が向上する効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】シリコーンAの1H−NMRを示した図である。
【図2】シリコーンAの13C−NMRを示した図である。
【図3】シリコーンAの29Si−NMRを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の両末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーンは、下記一般式[I]で示されるもので、眼用レンズ用として有用である。
1Me2SiO(R22SiO)aSiMe21 [I]
(式中、R1は、下記式(i)で示される基及び下記式(ii)で示される基からなり、式(i)の基と式(ii)の基との割合が70〜95モル%:30〜5モル%、好ましくは75〜90モル%:25〜10モル%である。なお、両者の合計は100モル%である。
【化4】

(R3は水素原子又はメチル基である。)
2は、同一でも異なっていてもよい炭素数1〜10、好ましくは1〜6のアルキル基、アリール基等の1価炭化水素基又はこの1価炭化水素基の水素原子の1個以上がフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子で置換されたハロゲン化1価炭化水素基、Meはメチル基、aは10〜300、好ましくは20〜150の整数である。)
【0014】
本発明の変性シリコーンは、このように1分子中2個のみの(メタ)アクリル基を両末端に含有し、他重合性モノマーと相溶性が良好で、その高反応性のために共重合後の未反応(メタ)アクリル基が少ないので、物性安定したポリマーが得られることを特徴とするものである。
【0015】
上記一般式[I]で示される両末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーンは、下記一般式[III]で示される両末端ハイドロジェンシリコーンと、下記一般式[IV]及び[V]で示されるアリル化合物とを式[IV]のアリル化合物と式[V]のアリル化合物とを70〜95モル%:30〜5モル%の割合で使用すると共に、上記式[III]の両末端ハイドロジェンシリコーンのSiH基量より上記式[IV]及び[V]のアリル化合物の合計アリル基量を過剰モル量となるように使用して付加反応させることにより得ることができる。
HMe2SiO(R22SiO)aSiMe2H [III]
(式中、R2、Me、aは上記の通りである。)
【化5】

(式中、R3は水素原子又はメチル基である。)
【0016】
この場合、付加反応後には、過剰のアリル化合物をメタノール又はアセトン洗浄で除去することが好ましい。
付加反応は、付加反応触媒、特に公知の白金族金属系触媒にて行うことができる。この場合、白金族金属系触媒としては、白金族金属として、上記式[III]の両末端ハイドロジェンシリコーンに対して0.1〜100ppm、より好ましくは1〜10ppm使用することが好ましい。
【0017】
反応温度は好ましくは0〜150℃、更に好ましくは30〜90℃で実施される。高温で反応を行うとSiH基の消失は速いものの、アリル化合物のアリル基とSiH基との付加反応の他に、(メタ)アクリル基とSiH基の付加反応が生起し、シロキサン末端がラジカル反応性でなくなるおそれがある。
また、一般式[IV],[V]中の水酸基とSiH基が脱水素した不純物も生成する。
【0018】
付加反応時、溶媒は使用しても使用しなくてもよいが、使用する場合には、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、エチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系溶剤が好適に使用できる。
【0019】
エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶剤は、水酸基とSiH基が脱水素した不純物が生成するので次善の溶剤である。
これらの不純物低減の目的でSiH基に対し過剰モル量のアリル化合物[IV]及び[V]が使用される。
この場合、SiH基1モルに対し[IV]成分及び[V]成分の合計が1.5〜2.5モルになるように[IV]及び[V]成分を使用するのが好ましい。1.5モル未満の使用であると不純物量が増大し、目的物の純度が低下するので好ましくない。また、2.5モルを超えて[IV],[V]成分を使用するのは経済的に好ましくない。
【0020】
溶剤を減圧で加熱留去した後、残留液に対し数倍量の水溶性溶剤を加え、洗浄する。溶液を静置すると2層分離する。上層は水溶性溶剤とアリル化合物であり、下層は目的のポリマーと若干量の水溶性溶剤である。
場合により、下層に更に水溶性溶剤を添加し、残存する微量アリル化合物を2層分離により除去してもよい。
下層の目的ポリマーと若干量の水溶性溶剤から溶剤を減圧で留去することで、目的のポリマーが得られる。
水溶性溶剤としては、メタノール、アセトン等が好適に使用される。
1回の洗浄に使用される溶剤量は、シリコーン化合物に対し半量から2倍量であることが好ましい。
【0021】
この場合、得られるシリコーン化合物は、下記一般式[II]
RMe2SiO(R22SiO)aSiMe2R [II]
(式中、Rは水素原子又は有機基であり、Rの95モル%以上、好ましくは97モル%以上が上記のR1で示される基である。R2、aは上記した通り。)
【0022】
即ち、得られるシリコーン化合物は、上記一般式[I]で示される両末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーンの純度が95%以上、特に97%以上の高純度のものである。この場合、残部は上述した不純物である。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、Meはメチル基を示す。
【0024】
[実施例1]
下記原料[III−A],[IV−A],[V−A]を使用した。
【化6】


原料[IV−A]と[V−A]とはモル比86.5:13.5の割合で使用した。
【0025】
式[III−A]の両末端ハイドロジェンシリコーン353.8g(0.1モル)、式[IV−A]及び式[V−A]のアリル化合物80.0g(0.4モル)、溶剤のエチレングリコールジメチルエーテル530g、塩化白金酸中和物の1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体の0.5質量%トルエン溶液1.0g、重合禁止剤であるビスt−ブチルヒドロキシトルエン0.9gを、ジムロート、温度計付きの2Lフラスコに仕込み、50〜60℃で6時間反応した。反応後SiH基は完全に消失していた。
【0026】
次に、溶剤エチレングリコールジメチルエーテルを減圧下で加熱留去した。ストリップ残分に対しメタノール430g加え、室温で10分間攪拌した。30分間静置後、上層を廃棄し、下層を回収した。更に下層に430gのメタノールを加え、10分間攪拌、30分間静置した。下層を減圧ストリップし、無色透明な液状シリコーンAを得た。
シリコーンAの物性
粘度(25℃):120.6mm2/s
屈折率(25℃):1.4105
【0027】
シリコーンAの1H−NMR(図1)、13C−NMR(図2)、29Si−NMR(図3)を示すが、Aは以下の構造であることが確認された。
1*Me2SiO(Me2SiO)62.6SiMe21*
1*は下記式(iii)又は(iv)
【化7】

であり、その割合は上記モル比(86.5:13.5)の通りであり、R1*がこれらの基からなる混合物であった。
【0028】
この場合、29Si−NMRでシリコーン末端がSiMe2OR4になっているものがSiMe21*末端に対し2.5質量%であることが確認された。メタクリル基とSiH基の付加反応体もNMRで検出されなかった。
以上より、両末端シリコーン化合物Aの純度は95%以上であることが確認された。
【0029】
なお、R4は、
【化8】

及びHの混合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[I]
1Me2SiO(R22SiO)aSiMe21 [I]
(式中、R1は、下記式(i)で示される基及び下記式(ii)で示される基からなり、式(i)の基と式(ii)の基との割合が70〜95モル%:30〜5モル%である。
【化1】

(R3は水素原子又はメチル基である。)
2は、同一でも異なっていてもよい炭素数1〜10の1価炭化水素基又はハロゲン化1価炭化水素基、Meはメチル基、aは10〜300の整数である。)
で示される両末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーン。
【請求項2】
下記一般式[II]
RMe2SiO(R22SiO)aSiMe2R [II]
(式中、Rは水素原子又は有機基であり、Rの95モル%以上が請求項1記載のR1で示される基である。R2、aは請求項1で定義した通り。)
で示される両末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーン。
【請求項3】
下記一般式[III]で示される両末端ハイドロジェンシリコーンと、下記一般式[IV]及び[V]で示されるアリル化合物とを式[IV]のアリル化合物と式[V]のアリル化合物とを70〜95モル%:30〜5モル%の割合で使用すると共に、上記式[III]の両末端ハイドロジェンシリコーンのSiH基量より上記式[IV]及び[V]のアリル化合物の合計アリル基量を過剰モル量となるように使用して付加反応させることを特徴とする下記一般式[I]で示される両末端グリセロール(メタ)アクリレート変性シリコーンの製造方法。
HMe2SiO(R22SiO)aSiMe2H [III]
[式中、R2は、同一でも異なっていてもよい炭素数1〜10の1価炭化水素基又はハロゲン化1価炭化水素基、Meはメチル基、aは10〜300の整数である。
【化2】

(式中、R3は水素原子又はメチル基である。)
1Me2SiO(R22SiO)aSiMe21 [I]
(式中、R1は、下記式(i)で示される基及び下記式(ii)で示される基からなり、式(i)の基と式(ii)の基との割合が70〜95モル%:30〜5モル%である。
【化3】

(式中、R3は水素原子又はメチル基である。)
2、Me、aは上記の通りである。]
【請求項4】
上記付加反応後、過剰のアリル化合物を水溶性有機溶剤洗浄により除去する請求項3記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−1898(P2013−1898A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138064(P2011−138064)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】