説明

両面研磨装置および研磨方法

【課題】安価かつ簡素な構成を追加するのみで、微少量の流体供給により剥がし力をワークに付与するようにして、上定盤へのワークの貼り付きを確実に防止し、復帰作業および清掃作業を無用としてプロセスの連続性を向上させる両面研磨装置を提供する。
【解決手段】上定盤と下定盤とによりワークの表裏両面をラッピングまたはポリッシングする両面研磨装置において、旋回ロッド218がシール用ボール220を押して形成する隙間を通じて微少量の圧力流体を流路空間222へ進入させる供給を順次行い、複数の流路空間222を通じて外部へ圧力流体を吐出する圧力流体吐出装置21と、圧力流体吐出装置21の複数の流路空間222と連通するように上定盤に複数設けられ、圧力流体を上定盤とワークとの間に流入させる吐出を、全てのワークに対して行う複数の流体吐出孔と、を備える両面研磨装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上定盤および下定盤によりワークの両面を研磨する両面研磨装置に係り、特に上定盤へのワークの貼り付きを防止する両面研磨装置に関する。また、両面研磨装置における上定盤へのワークの貼り付きを防止する研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
両面研磨装置では、研磨終了後に上定盤を上昇させてから下定盤上にあるワークを取り出す回収作業を行うが、ときどき、この上定盤にワークが貼り付いたまま上定盤が上昇することがある。このような貼り付き現象が生じた場合には、貼り付いたワークを回収可能な位置まで上定盤を回転させ、その位置で人手によりワークを上定盤から剥がして取り出すという復帰作業が必要となり、大きな時間的ロスが生じる。また、回収するまでに上定盤からワークが剥離して落下・破損し、ワークの破片等が下定盤上に飛散した場合には、ワークの不良化による損失に加え、さらに人手で破片を下定盤上から完全除去する清掃作業に多くの労力と時間を要する。
【0003】
特にワークを自動で供給・排出する自動機の場合、上記のようにワークの貼り付きが1枚でも発生すると加工が中断し、貼り付き現象の発生の度に上記のような人手による復帰作業および清掃作業を行うため、著しく生産性を損ねることになる。従って、両面研磨装置、特に自動化プロセスを行う自動機の場合はワークの上定盤への貼り付き防止は重要な課題であった。
【0004】
そこで、このような両面研磨装置では、貼り付き防止機能を持たせ、上記のような復帰作業および清掃作業を回避して生産性の低下防止が図られている。このような貼り付き防止機能を有する研磨装置の従来技術としては、例えば、特許文献1(特許第4163485号公報、発明の名称「両面研磨装置およびこれを用いた研磨加工方法」)に記載の発明が知られている。
特許文献1に記載の両面研磨装置では、上定盤上昇時、全てのスラリー供給口から加圧スラリーを適宜供給するというものであり、特に上定盤の全域にスラリー供給口を形成してワークがどの場所に位置しても効果があるようにしている。また、スラリー供給口を用いることから上定盤に別途供給口を開けないで済むようにしている。また、スラリー供給量を個別に制御して高品質の加工を行なっている。
【0005】
また、貼り付き防止機能を有する他の研磨装置の従来技術としては、例えば、特許文献2(特許第3891675号公報、発明の名称「ワークの研磨装置及び研磨方法」)に記載の発明が知られている。
特許文献2に記載の研磨装置では、ワーク保持孔と同数の吐出孔をワークの外周側に設け、ワークにミスト状流体を吐出する。ミスト状流体を吐出する理由は、「水」のみではワークが浮遊・移動し、傷が付くおそれがあるためであり、また、「エアー」のみでは大きな吐出圧が必要になってワークに歪が発生し、さらにワーク表面が乾く懸念があるためである。
【0006】
また、貼り付き防止機能を有する他の研磨装置の従来技術としては、例えば、特許文献3(実開昭59−109446号公報、発明の名称「両面加工装置」)に記載の発明が知られている。特許文献3に記載の両面加工装置では、多数の押し出し用ロッドを備え、ロッドによりワークを押し出して上定盤から剥がすというものである。
【0007】
また、貼り付き防止機能を有する他の研磨装置の従来技術としては、例えば、特許文献4(特開昭55−48574号公報、発明の名称「ポリッシング方法」)に記載の発明が知られている。特許文献4に記載のポリッシング方法では、上定盤を僅かに上昇させ、液体を充填して液層を形成した後にワークを自然落下させるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4163485号公報
【特許文献2】特許第3891675号公報
【特許文献3】実開昭59−109446号公報
【特許文献4】特開昭55−48574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
引用文献1に記載の両面研磨装置では、スラリー供給と貼り付き防止とを兼用することで構造を簡素化しているが、加工工程以外で高価なスラリーを消費してしまうことになり、この点でランニングコストの増大要因となっていた。
また、定盤外周側でのスラリー供給口は一般に配置密度は疎であり、ワークの停止位置によってはほとんど貼り付き防止効果がない場合があった。
また、多数あるスラリー供給口毎に流量調整弁を設ける構造を採用しているが、このような構造は設備費が増大すると同時に、定盤上の設置スペースを確保する必要があり、さらに各制御弁を制御装置に接続して個別に制御することになるので、全体の制御系が非常に繁雑になっていた。
【0010】
また、研磨加工後は、直ちに散水してワーク表面に付着したスラリーをワーク面から洗い流して表面を露出させ、研磨材の乾燥による固着を防止し、さらに欠陥の有無等を確認する必要があるが、従来技術のように加工終了後の上定盤上昇時にワークに高価なスラリーを吐出することは過度のスラリーが残存することになって通常は好ましくなく、次工程へ悪影響を及ぼすので本来は避けなければならない。
【0011】
また、引用文献2に記載の研磨装置では、上定盤上昇時にワーク貼り付き防止のために水を含むミスト状流体を大量に定盤上に吐出するが、引上げ時にミスト状流体のエアによりワークを吹き飛ばしてしまったり、また、ミスト状流体の水により下定盤上に大量の水が滞留して、後の作業に支障を来たすおそれが大きい。
【0012】
また、一斉に各供給路へ流体を供給する方式であり、吐出圧は通常低下してしまうと同時に、供給路の先が開放されている方(ワークがない方)へ流体は流れるが、供給路の先が閉塞している方(ワークが貼り付いている方)への流体の供給は少なくなり、剥がし力が弱いまたは作用しないことがある。したがって、適正な剥がし力を付与する調整は困難であるという問題があった。
【0013】
また、引用文献3に記載の両面加工装置では、機械的に押し出す構成であるため、力の制御を可能とするが、構成の複雑化・高コスト化が避けられなかった。
【0014】
また、引用文献4に記載の研磨装置では、自重によりワークを落下させるものであるが、ワーク落下まで時間を要し、加えて、落下までの時間が確定しないなど工程の短縮が見込めなかった。また、少し上定盤を上昇させただけではワークが落下したかどうかを検知することは容易ではなく、例えば、上定盤を大幅に上昇させる必要があり、この際にワーク落下のおそれもあるなどの問題を内包するものであった。
【0015】
以上のような課題は従来からあって、今までにも様々な対策が提案され実施されてきたが、従来の設備に大きな改造等を加えずに簡易かつ低コストで実施でき、さらに従来の加工工程に悪影響を与えないような対策が要望されていた。
【0016】
そこで、本発明は上記した問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、安価かつ簡素な構成を追加するのみで、微少量の流体供給により剥がし力をワークに付与するようにして、上定盤へのワークの貼り付きを確実に防止し、復帰作業および清掃作業を無用としてプロセスの連続性を向上させる両面研磨装置および研磨方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の請求項1に係る発明は、
上定盤と下定盤とによりワークの表裏両面をラッピングまたはポリッシングする両面研磨装置において、
前記上定盤の下面であって、研磨加工終了後の各ワークの停止位置に対応する位置に設けられる各々適数の流体吐出孔と、
該流体吐出孔からワークの上面に圧力流体を少量づつ間欠的に吐出させる圧力流体吐出装置と、
を設け、上定盤下面とワークとの間に圧力流体を流入させるようになされていることを特徴とする両面研磨装置とした。
【0018】
また、本発明の請求項2に係る発明は、
前記圧力流体吐出装置は、
圧力流体が充填される流体溜まり部と、この流体溜まり部と連通する複数の流路空間の開口部であって円上に形成される複数の孔と、シール用ボールを孔に押接させて孔から突出させた状態とする機能を有し、それぞれの流路空間内に設けられる複数のボールプランジャ型バルブと、流体溜まり部内に設けられ、回転移動により所定期間シール用ボールを押して流体溜まり部と流路空間とを連通させる旋回ロッドと、旋回ロッドを回転駆動する回転駆動部と、を備え、
旋回ロッドがシール用ボールを押して形成する隙間を通じて微少量の圧力流体を流路空間へ進入させる供給を順次行い、複数の流路空間を通じて、前記上定盤上の各流体吐出孔へ圧力流体を吐出するようになされていることを特徴とする請求項1項記載の両面研磨装置とした。
【0019】
また、本発明の請求項3に係る発明は、
ワークの研磨加工終了後、各ワークを取出す所定の位置へワークを移動するとともに、該ワークの停止位置に対応する位置に上定盤を移動させて、各流体吐出孔を各ワーク上へ位置決めする第1の工程と、
前記圧力流体吐出装置を作動させると同時に、上定盤を低速度で上昇させる第2の工程と、
上定盤を所定量上昇させた後、前記圧力流体吐出装置の作動を停止し、上定盤を中速度から高速度で上昇させて所定位置へ到達させた後、下定盤上のワークを順次取出す第3の工程と、
からなることを特徴とするワークの研磨方法とした。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、安価かつ簡素な構成を追加するのみで、微少量の流体供給により剥がし力をワークに付与するようにして、上定盤へのワークの貼り付きを確実に防止し、復帰作業および清掃作業を無用としてプロセスの連続性を向上させる両面研磨装置および研磨方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を実施するための形態の両面研磨装置の断面構成図である。
【図2】本発明を実施するための形態の両面研磨装置の上定盤を取り去った平面図である。
【図3】上定盤へのワーク貼り付き防止原理の説明図であり、図3(a)はワーク貼り付き時に生じる力の説明図、図3(b)はワーク剥落の説明である。
【図4】圧力流体吐出装置を説明する説明図であり、図4(a)は平面図、図4(b)は正面図である。
【図5】圧力流体吐出装置を説明する説明図であり、図5(a)はA−A矢視図、図5(b)はB−B矢視図である。
【図6】圧力流体吐出装置の動作のC−C矢視による説明図であり、図6(a)はボール接触直前の状態図、図6(b)はボール接触時の状態図、図6(c)はボール接触直後の状態図である。
【図7】他の圧力流体吐出装置を説明する説明図であり、図7(a)は通常幅の回転ロッドの説明図、図7(b)は太幅の回転ロッドの説明図である。
【図8】ボールプランジャ型バルブを多重円上に配置した他の圧力流体吐出装置の説明図である。
【図9】1枚のワークに2個の流体吐出孔を配置した他の形態の両面研磨装置の上定盤を取り去った平面図である。
【図10】1枚のワークに3個の流体吐出孔を配置した他の形態の両面研磨装置の上定盤を取り去った平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
続いて、本発明を実施するための形態の両面研磨装置100について、図1,図2,図3,図4,図5,図6を参照しつつ説明する。両面研磨装置100は、ワーク200を平面加工する装置である。両面研磨装置100は、図1で示すように、下定盤1、上定盤2、下定盤受け3、ベース部4、支持部5、サンギア6、サンギア駆動軸7、上定盤駆動ドラム8、連結部9、ドラム駆動軸10、インターナルギア11、インターナルギア支持部12、ワークキャリア13、上定盤昇降装置14、上定盤支持軸15、自在継手16、上定盤吊り板17、上定盤連結ロッド18、圧力流体供給装置19、供給チューブ20、圧力流体吐出装置21、接続チューブ22、流体吐出孔23を備える。
【0023】
続いて各構成について説明する。
下定盤1は、図1,図2で示すように、環状円板であり、上面にワーク200を研磨するラップ面/ポリッシュ面を有する。なお、図示しないが、下定盤1の上面に図示しない研磨布を貼り付け、研磨布によりワークを研磨することもある。
上定盤2は、図1で示すように、環状円板であり、下面にワーク200を研磨するラップ面/ポリッシュ面を有する。なお、図示しないが、上定盤2の下面に図示しない研磨布を貼り付け、研磨布によりワークを研磨することもある。
ここに下定盤1および上定盤2は、共通回転軸を回転中心として回転するように支持される。
【0024】
下定盤受け3は、回転体であり、下定盤受け3の上面には下定盤1が固定されている。この下定盤受け3は、下定盤1とともに図示しない下定盤回転駆動部により回転駆動される。下定盤受け3は、ベース部4の中心孔内に配置されており、ベース部4から独立して回転する。
ベース部4は、図示しない台座に固定される堅牢な構造体であり、回転体形状を有し、重量物を支持することができる。
【0025】
支持部5は、ベース部4上に固定される例えば環状の軸受けなどであり、下定盤受け3が円滑に回転するように下側から支えて支持する。
サンギア6は、外周側に歯が形成されており、下定盤1の内周側(中心側)に配置されている。
【0026】
サンギア駆動軸7は、サンギア6が一体に設けられており、図示しないサンギア回転駆動部によりサンギア駆動軸7に回転力が付与され、サンギア駆動軸7とともにサンギア6が回転駆動される。サンギア駆動軸7は下定盤受け3の中心孔内に配置されており、下定盤受け3から独立して回転する。
上定盤駆動ドラム8は、図1で示すように円柱体であり、側面に複数の嵌合溝が設けられている。下定盤1および上定盤2の中央孔に上定盤駆動ドラム8が貫通するようになされ、上定盤2の中央孔の開口部からは上定盤駆動ドラム8が突出するように設けられている。後述する昇降機構により上定盤2を下降させると上定盤2の中央の孔部に上定盤駆動ドラム8が貫通する構造となっている。
【0027】
連結部9は、例えば回動式駆動ツメであり、回動式駆動ツメが上定盤駆動ドラム8の嵌合溝内に入りこんで連結固定され、上定盤2と上定盤駆動ドラム8とが連結される。
ドラム駆動軸10は、上側に上定盤駆動ドラム8が固定される。ドラム駆動軸10はサンギア駆動軸7の中心孔内に配置されており、サンギア駆動軸7から独立して回転する。ドラム駆動軸10は、図示しない上定盤回転駆動部により回転力が付与される。
【0028】
インターナルギア11は、内周側(中心側)に向けて歯が形成されており、下定盤1の外周側に配置されている。
インターナルギア支持部12は、多段筒状部材を含む構成であり、上側にインターナルギア11が形成される。インターナルギア支持部12は、図示しないインターナルギア回転駆動部により回転力が付与され、インターナルギア支持部12とともにインターナルギア11が回転駆動される。インターナルギア支持部12の中心孔内にはベース部4が配置されており、インターナルギア支持部12はベース部4から独立して回転する。
【0029】
従って、下定盤1、上定盤2、サンギア6、および、インターナルギア11という四軸はそれぞれが独立して回転する。
【0030】
ワークキャリア13は、図2で示すように、歯車が外周に形成されており、サンギア6およびインターナルギア11に噛合するようになされている。ワークキャリア13においてワーク200を保持するワーク保持孔が形成される。ワークキャリア13はワークに応じて各種用意されており、1個のワークキャリア13に1個のワーク保持孔が形成されるものであったり、または、複数個のワーク保持孔が形成されるものであったりする。本形態では図2でも明らかなように例示的に4個のワーク保持孔を備えるワークキャリア13を用いるものとして説明する。そして、このようなワークキャリア13は、複数個(本形態では例示的に5個)配置されるものとして説明する。本形態ではワークは20個配置されることとなる。
【0031】
上定盤昇降装置14は、上定盤2の上側に配置されており、上定盤支持軸15に対し矢印a方向の昇降力を付与する機能を有している。
上定盤支持軸15は、上定盤昇降駆動部14内を移動するようになされており、先端で自在継手16と連結される。
【0032】
自在継手16は、上定盤支持軸15と上定盤吊り板17との間に介在して設けられており、上定盤支持軸15を回転軸として上定盤吊り板17が回転自在となるように支持し、また、上定盤吊り板17を三次元方向に移動可能に支持する。
上定盤吊り板17は、堅牢な板体であり、例えば上定盤2と同径の円板体である。
【0033】
上定盤連結ロッド18は、上定盤吊り板17と上定盤2との間に複数本設けられる。これら上定盤連結ロッド18は、平面から視ると円上に等間隔で設けられる。上定盤連結ロッド18は上定盤2に対して略鉛直方向に立設するように設けられる。上定盤連結ロッド18の下部は、上定盤2に対して図示しないボルトで連結固定されている。上定盤連結ロッド18の上部は、上定盤吊り板17に対して図示しないボルトで連結固定されている。これにより、上定盤吊り板17、上定盤連結ロッド18、および、上定盤2は一体に移動することになる。
【0034】
圧力流体供給装置19は、例えば所定圧力で流体を供給する装置である。そして、後述する圧力流体吐出装置21内の流体に所定圧力を付与して圧力流体として維持する。
供給チューブ20は、圧力流体供給装置19と圧力流体吐出装置21とを連結する流路であり、流体を圧力流体吐出装置21へ送る。なお、実際の両面研磨装置では上定盤吊り板17の回転時でも供給チューブ20が絡まらないように配慮して接続されるが、種々の技術を用いることが可能である。
【0035】
圧力流体吐出装置21は、圧力流体が満たされており、この圧力流体を微少量供給する機能を有している。圧力流体吐出装置21の詳細については後に詳述する。
接続チューブ22は、圧力流体吐出装置21から供給される圧力流体を流す。圧力流体吐出装置21には接続チューブ22が複数本(本形態ではワークと同じ数である20本)接続される。
【0036】
流体吐出孔23は、接続チューブ22の他端に接続されるものであり、上定盤2の下面に孔が向くように設けられて上定盤2の下側に圧力流体を供給する。特に図2で示すように、流体吐出孔23の下側にワーク200の中央があるようにワークキャリア13の位置決め制御がなされる。ここで、図2の上定盤を取り去った平面図中にある点線の流体吐出孔23は“上定盤2に形成される孔”なので上定盤2を取り去った平面図には当然残らないことになるが、図2では予想位置を表している。なお、図示しないが流体吐出孔23に加え上定盤2にはスラリー吐出孔が別途設けられており、スラリーを供給するようになされている。
【0037】
これら構成のうち、下定盤1、上定盤2、下定盤受け3、ベース部4、支持部5、サンギア6、サンギア駆動軸7、上定盤駆動ドラム8、ドラム駆動軸10、インターナルギア11、インターナルギア支持部12、上定盤昇降装置14、上定盤支持軸15、自在継手16、上定盤吊り板17の回転中心軸は共通軸となっている。
【0038】
また、これら下定盤1、上定盤2、サンギア6、インターナルギア11は、それぞれ、上定盤回転駆動部、下定盤回転駆動部、サンギア回転駆動部、インターナルギア回転駆動部により回転が制御されており、例えばこれら各駆動部に接続される制御装置により回転速度を調節して最適なラッピング・ポリッシングを行う。また、後述するが、制御装置はワークの上側に流体吐出孔23が位置するようにワークキャリア13を位置制御する。両面研磨装置100はこのようなものである。
【0039】
続いて、本発明の特徴をなす圧力流体吐出装置21による貼り付き防止について説明する。まずは、貼り付き防止原理について図3を参照しつつ検討する。面粗度の良い上定盤2にワーク面が対向する場合の貼り付きについてはレオロジーの問題として考えられる。図3(a)のモデル図で示すように、断面でみて幅Dのワーク200と上定盤2との間に厚さHの液体の相があるとする。なおHは本来は幅が狭いが、図3(a)では明瞭化のためHを広く記載している。ワーク面に対して鉛直方向となるように、仮に上定盤2からワーク200を離すように移動させると、液体は体積一定の条件で内側(中央側)へ流れ込み、細くなっていく。水平方向(内側へ向かう)液体の速度をV、ワークを離して行く速度H’とすれば、(ある断面をみれば)次式のように表される。
【0040】
[数1]
V≒H’(D/H)
【0041】
これにより(ワーク面の界面では液体の水平方向の速度はゼロと考えると)、内向きの流れの速度勾配γ’は次式のようになる。
【0042】
[数2]
γ’≒V/H
【0043】
また、ηを液体の粘度とすると、ワーク面に対して次式で表されるようなずり応力σを与える。
【0044】
[数3]
σ=ηγ’
【0045】
一方このようなずり流れは、ワーク面に挟まれた液体の内側と外側との圧力差によると考えることができる。大気圧P、液体の中心部の圧Pとすれば、ある断面で見ると、次式が成立する。
【0046】
[数4]
H(P−P)=−Dσ
【0047】
これらを纏めると以下のようになる。
【0048】
[数5]
P−P=−{(D/H)}η(H’/H)
【0049】
このワーク面を引き剥がす力をFとすれば、Fは(P−P)Dと見積もれるので、(ここではDのワーク面)Fは次式のようになる。
【0050】
[数6]
F={(D/H)}ηH’D
【0051】
ここにFは引き剥がし力、ηは粘度、Dは接触面積、Hは介在物厚さである。このように力Fは離して行く速度H’と、粘度ηと、(D/H)とDに依存する式となっている。 因みにワーク板を平行に速度Vで滑らせるときの粘性抵抗力Gはσ×Dであって、先の数式に代入すると次式のようになる。
【0052】
[数7]
G=(D/H)ηVD
【0053】
このように力Gは先に説明した力Fよりかなり小さい。そこで、ワーク面と可能な限り平行方向に切り出すようにすると、切り出し易くなる。しかしながら、依然Gの存在により切り出しに力を要するものとなっている。そこで、切り出し動作が容易となるように、予め上定盤とワークとの間での貼り付き状態を緩和(ワークの接触面に介在する流体の厚さHを大きくする、ワークの接触面積Dを小さくする、流体の粘度ηを小さくする、など)する一次分離を行う。
【0054】
ワークの貼り付きを回避するためには、本発明では液層厚さHを大きくする、すなわち図3(b)で示すように流体吐出孔23を通じてワークと上定盤との間に圧力流体を浸透させることにより貼り付き力を大きく減少させる。ここに、供給する流体は適度に加圧した圧力流体とし、この圧力流体を隙間に浸透させる。なお、吐出する圧力流体は微少量でよい。また圧力を高く維持するため、一部の流体吐出孔のみから圧力が充分に高い圧力流体を出すという間欠吐出を採用する。
【0055】
また、粘度が低い流体を採用する。水の粘度は1.0×10−3 Pa・Sであり、また、空気の粘度は1.8×10−5 Pa・Sである。このように空気の粘度は水の粘度の1/50以下となっており、ワーク貼り付き面に対して、空気層を界面に形成することが非常に有効であることは明らかである。このように空気層を厚く形成することは、即ち接触面積Dの低減にも通ずる。なお、水の層をできるだけ厚く形成することも有効であり、本発明では特に圧力流体として空気と水を採用できる。なお、本形態では一括して圧力流体であるとして説明する。
【0056】
続いて、圧力流体の吐出方法について説明する。上記のように圧力流体をワーク200と上定盤2の接触界面との間に流し込んで流体の層をできるだけ厚く形成させることができればよいわけであるが、単純に圧力流体を大量に供給すると以下の問題が生じる。
【0057】
(1)大量の圧力流体(エアーあるいは水など)を吐出するには大きな設備が必要でありコスト高である。
(2)圧力流体として大量の加圧水を吐出すると下定盤上に大量の滞留水が残って次工程に支障を来たすと同時に、下定盤上のワークが浮遊してワーク保持孔からワークが飛び出る現象が発生する。
(3)圧力流体として大量の加圧エアーを噴出するとワークが下定盤方向へ吹飛ばされて、ワークキャリアのワーク保持孔から外れる懸念があると同時に、下定盤とワークキャリアあるいはワークとの界面に加圧エアーが浸入して夫々を浮遊させることになり、場合のよってはワークキャリアやワークが再び上定盤へ貼り付いてしまう懸念がある。
(4)圧力流体を大量に供給することは上定盤に貼り付いたワークを流体のエネルギーで吹き飛ばす方法といってよく、ワーク界面へ介在物の層をできるだけ厚く形成するものではない。
【0058】
一方、圧力流体の流量を全体的に絞った場合、上記のような吐出流体による新たな問題はある程度防止でき、それほど大きな設備も必要がなくなるが、以下の問題が生じる。
(a)上定盤2からワーク200を引き剥がす工程において、ワーク200が上定盤2に貼り付いて流体吐出孔23からの流路がほぼ閉塞している箇所やワーク200と上定盤2との間に既にやや厚い液体膜が形成されている箇所などが混在することになるが、このような状況下で同時に複数の流体吐出孔23から圧力流体を吐出した場合、圧力流体は後者の流路が存在する箇所へ集中的に流れて行き、流体自身の圧力低下が生じると同時に、前者の流路が閉塞している箇所即ち引き剥がしたいワーク200の界面へは流体がほとんど流れないことになり、貼り付き防止効果は不十分となる。
【0059】
本発明では、微少量の圧力流体を一時に一の流体吐出孔23のみから噴出させるようにして圧力減少を抑え、充分に高い圧力を有する圧力流体による剥がし力を1のワーク200に対して付与するようにした。
【0060】
そして、圧力流体として例えば加圧エアを採用し、微少量の加圧エアを流体吐出孔23から吐出して空気層をワーク界面に形成する。
なお、実用面では、加圧エアの吐出の条件によっては下定盤とワークあるいはワークキャリア間の界面に加圧エアが入り込んで、ワークあるいはキャリアを浮遊させて上定盤へワークが再び貼りついたり、ワークがキャリア穴から飛び出すなどの懸念がある。そこで、加圧エアの吐出の条件(圧力や流量)の調整を必要とする。
また、実用面では、ワーク表面を乾かしてしまう懸念が指摘されている。そこで、スラリー供給口から水を滴下させながら行う方法や上部の円筒容器の中に間欠的に水を供給するなどの対策を用いてもよい。
【0061】
また、圧力流体として例えば加圧水を採用し、加圧水を流体吐出孔23から吐出して水の層をワーク界面に形成するようにしてもよい。非圧縮性流体のため、加圧エア適用時の吹き飛ばしや乾燥の問題はないので適用はやや容易である。
このように加圧エアまたは加圧水による圧力流体を採用することができる。
【0062】
続いて、圧力流体吐出装置21の構成について説明する。圧力流体吐出装置21は、図4,図5で示すように、装置本体211、ロッド回転用モータ212、流体受入口213、流体吐出管214、回転軸215、軸受け部216、流体溜まり部217、旋回ロッド218、孔219、シール用ボール220、圧縮バネ221、流路空間222を備える。
【0063】
続いて各構成について説明する。
装置本体211は、詳しくは図5で示すように、さらに底板211a、中板211b、蓋211cおよび円筒211dとを有し、内部には中板211b、蓋211cおよび円筒211dにより仕切られる流体溜り部217が形成されている。
ロッド回転用モータ212は、装置本体211の蓋211cの上側に配置されており、図5で示すように、回転軸215が流体溜り部217内に突出するように設けられる。
【0064】
流体受入口213は、装置本体211の蓋211cの上側に配置されており、流体溜り部217と連通している。流体受入口213には供給チューブ20が接続されており圧力流体が受入され、流体溜り部217へ送られる。
流体吐出管214は、装置本体211の外周側にある円筒211dに複数個(本形態では20個)配置されている。全ての流体吐出管214は、流路空間222を介して流体溜り部217に連通する。
【0065】
回転軸215は、ロッド回転用モータ212により回転駆動される。これらロッド回転用モータ212および回転軸215により本発明の回転駆動部を構成する。
軸受け部216は、図5で示すように、上側の蓋211cと下側の中板211bという2箇所で回転軸215を支持しており、回転する回転軸215がぶれないようになされている。軸受け部216は、圧力流体が漏れないようにシール機能も有している。
【0066】
流体溜り部217は、流体受入口213と流体吐出管214とが連通する空間であり、圧力流体が充填される。
旋回ロッド218は、回転軸215に軸支されており、図5(a)で示すように、流体溜り部217内を回転する。後述するが回転する旋回ロッド218は、シール用ボール220に接触し、シール用ボール220を押し下げるようになされている。
【0067】
孔219は、中板211bに形成されており、平面から視ると、図5(a)で示すように、同一円状に等間隔で複数個(本形態では20個)設けられる。
シール用ボール220は、流体溜り部217と連通する孔219に当接して孔219を塞ぐときは流路空間222や流体吐出管214へ圧力流体を流さないようにし、また、孔219から離れるときは圧力流体を流路空間222や流体吐出管214へ流す機能を有している。シール用ボール220は円筒型収容部である流路空間222内に配置される。
【0068】
圧縮バネ221は、シール用ボール220を孔219側へ付勢しており、孔219は通常は閉塞するようになされている。圧縮バネ221は、円筒型収容部である流路空間222内に配置される。
流路空間222は、円筒型の空間である。この流路空間222にシール用ボール220、および、圧縮バネ221が配置されてプランジャー型バルブを形成する。このプランジャー型バルブは円上に複数(本形態では20個)形成されることとなる。
【0069】
このような圧力流体吐出装置21の特徴として、ボールプランジャ型バルブを円上に配列して旋回ロッド218を回転させることで多分岐の流体分配を実現した。加工終了時にワーク200上に各流体吐出孔23が凡そ来るような位置制御が行われ、微少量の圧力流体(加圧エアまたは加圧水)を噴射すれば、専用の流体吐出孔23から圧力流体がワーク200と上定盤2との間に流れ出てワーク200の貼り付き力を減らしてワーク200が上定盤2から確実に剥がれるようにする。
【0070】
続いて圧力流体の供給動作について説明する。
まず、図6(a)で示すように、シール用ボール220は孔219から流体溜り部217側へ僅かに突出しており、孔219を塞いでいる。そして、旋回ロッド218が回転し、シール用ボール220へ近づいていくものとする。
【0071】
そして、図6(b)で示すように、旋回ロッド218がシール用ボール220に接触して下側へ押下げると、流体溜り部217に充填されている圧力流体がシール用ボール220と孔219との隙間から流れ込む。なお、図中では勢いによりシール用ボール220が旋回ロッド218から離れてさらに下側へ移動した状態を図示している。この流れ込む時間は一瞬である。圧力流体を流路空間222へ流し、流体吐出管214、接続チューブ22を経て流体吐出孔23から流体を吐出する。
【0072】
そして、図6(c)で示すように、旋回ロッド218がシール用ボール220から離れた後に、シール用ボール220は圧縮バネ221の付勢力により孔219に当接され、シール状態が復活する。そして旋回ロッド218を回転させて、順番にボールプランジャ型バルブを開閉していく。
【0073】
このような圧力流体吐出装置21では微少量の圧力流体を瞬間的に吐出することが可能となる。そして、夫々の流体供給路は独立し、かつボールプランジャ型バルブは一つのみ空けられて圧力流体を流されるので、流体溜り部217に充填されている圧力流体の圧力や量が瞬時に低下するような事態は発生しない。また、仮にワークがないような場合でも多量に圧力流体が吐出されることはなく、一定量で吐出される。
【0074】
また、圧力流体供給装置19により流体溜り部217に圧力流体が供給され続けられるため、元圧が低下することもない。また、流体吐出孔23の先でワーク200の有無により隙間の大小がある場合でも供給量はボールプランジャー型バルブにより一定となり元圧が低下したりすることがないので、どの流体吐出孔23から吐出される圧力流体であっても所定の圧力および量が保証される。
【0075】
そして、図2で示すようにワーク200の中央に圧力流体が供給されれば、図3(b)で示すようにワーク200と上定盤2との間に適量の圧力流体を浸透させて薄い層を形成することにより、貼り付け力を瞬時に大きく減少させ、ワーク200の自重により下側へ自然落下する。圧力流体の吐出量が過度でなければワーク200が吹き飛ばされるような事態は生じない。そして、このような機能は簡易構成により安価に実現される。
【0076】
続いて、本形態の両面研磨装置100の具体的なワーク取りだし動作を含む一連の加工動作を説明する。両面研磨装置100は、各ワークキャリア13のワーク保持孔に保持されたワーク200を下定盤1と上定盤2との間に挟み込み、各ワークキャリア13を遊星運動させながら下定盤1および上定盤2を互いに逆方向に回転させてワーク200の両面の研磨加工を行い、研磨終了後、上定盤2を上昇させてワーク200を取り出す、というものである。
【0077】
(1)まず、ワークキャリア13にワーク200を設置する設置工程が行われる。この設置工程では、例えば、上定盤2が持ち上げられた状態で、ワークキャリア13に設けられたワーク保持孔内に、複数枚のワーク200が装着される。この装着は、手作業による装着、または、ワークキャリア13へのワーク200の装着とワークキャリア13からのワークの取り出しとを自動的に行うワークハンドリングロボットによる装着など、を採用しても良い。ワークキャリア13に設けられたワーク保持穴にラッピングまたはポリッシングされる複数のワーク200が保持された状態となる。
【0078】
(2)続いて、上定盤2を下降させて、上定盤駆動ドラム8の嵌合溝に回動式駆動ツメを嵌合して連結部9を構成する。上定盤支持軸15に加わる支持荷重を図示しない荷重計により計測し、この支持荷重が所定レベルに達したら下降を停止する。
上定盤支持軸15に支持される環状の上定盤2は、上定盤支持軸15とともに昇降駆動が行われ、ワーク200に対して適正圧力で接するような位置に決定される。
【0079】
(3)下定盤1および上定盤2を回転させ、加工開始する。
上定盤2に設けられた図示しないスラリー供給穴からスラリーの供給を開始しつつ、図示しない上定盤回転駆動部がドラム駆動軸10および上定盤駆動ドラム8を回転させると、連結部9を介して上定盤2の回転が開始される。
なお、図示しないがスラリー供給方法自身は重力落下方式を採用するものであり、加圧設備を設けて圧送したり個々の流路に流量制御弁を設けるという非常に繁雑でコスト高な方法を採るものではなく、この点でもコスト低減を実現している。
【0080】
同様に、下定盤1、サンギア6およびインターナルギア11も所定速度にて回転させる。下定盤1は、下定盤回転駆動部から駆動力が伝達され、この駆動力に応じて回転する。サンギア6がサンギア回転駆動部により回転駆動され、また、インターナルギア11がインターナルギア回転駆動部により回転駆動される。ワークキャリア13の外周の歯面はサンギア6およびインターナルギア11と噛合っており、ワークキャリア13は遊星運動を開始する。サンギア6およびインターナルギア11を回転させることにより上定盤2と下定盤1とにより挟持されるワーク200が装着されたワークキャリア13が自転しつつ公転し、ワーク200の両面が研磨される。
【0081】
これら上定盤2、下定盤1、サンギア6、インターナルギア11は、それぞれ、上定盤回転駆動部、下定盤回転駆動部、サンギア回転駆動部、インターナルギア回転駆動部により回転が制御されており、例えばこれら各駆動部に接続される制御装置により回転速度を調節して最適なラッピング・ポリッシングを行う。
【0082】
(4)所定時間加工後、加工を停止する。
ワーク200が目標厚さに達し、図示しない厚みセンサから加工終了信号が制御装置へ出力されたら、制御装置は、これと同時に各ワークキャリア13の停止位置へ最短距離で停止できるように動作量を生成して停止動作に入る。各ワークの加工後停止位置を一定の位置とする。そのため、ワークキャリアの位置決めを行うサンギア6とインターナルギア11の位置決め制御を行う。上定盤2も同様に、上記の各ワークに対応する位置(加工後停止位置)に各キャリア位置上へ流体吐出孔23が来る最短動作の位置決めを行う動作量を生成して上定盤2の回転位置決めを行う停止動作に入る。
【0083】
なお、ワーク加工終了直前あるいは終了後に上定盤2の位置決めをする場合、上定盤2の動きを最小限としてワーク200への余分な研磨や傷付きなどを防止する必要があるが、上定盤2上の流体吐出孔23は定盤中心軸周りに(360度/ワークキャリア数n)毎に各ワークキャリア13に対応する位置に同様に設けられているので、上定盤2の回転量が最も少ない回転位置にある流体吐出孔23とワークキャリア13の位置を一致させることにより、前記した問題を回避できる。なお、この(4)は本発明の第1の工程に相当する。
【0084】
(5)貼り付き防止処理を行う。
上定盤2、下定盤1、およびワークキャリア13が所定の位置で停止したら、「貼り付き防止工程」を行いながら上定盤を上昇させる。具体的には上記したよう圧力流体吐出装置21の旋回ロッド218が回転してボールプランジャ型バルブを順次押下して、各流体吐出孔23から圧力流体の間欠的な供給を行い、全てのワーク200に対して剥がし力を与える。
【0085】
(6)上定盤2を微速度で上昇させる。
この時、上定盤2は特別な姿勢保持機構がなければ、任意の位置のワーク面から剥離が進行する。(厳密には上定盤2が僅かに傾く)この時、上定盤2ではワーク200から離れた(剥離した)部分とワーク200と接している部分などが混在した状態となっている。少しするとワーク200は上定盤から離れた(剥離した)状態となっている。なお、これら(5),(6)は本発明の第2の工程に相当する。
【0086】
(7)一定量の高さまで上定盤2が上昇したら、上昇速度を大きくして退避位置の上限まで上昇させる。
【0087】
(8)下定盤1上のワーク200を自動または手動にて順次回収する。なお、これら(7),(8)は本発明の第3の工程に相当する。
加工動作はこのようなものである。
【0088】
このような両面加工装置100によれば、上定盤2とワーク200との間に微少量の圧力流体を流入させるため、貼り付き力を大幅に少なくして剥がれやすくする。特に簡素な構成である圧力流体吐出装置21により圧力流体の微少量な吐出が実現される。
【0089】
続いて本発明の他の形態について説明する。先に図1,図2,図3,図4,図5,図6を用いて説明した圧力流体吐出装置21の旋回ロッド218と比較すると本形態では旋回ロッドの幅を太くしている。比較のため掲げた先の形態の図7(a)では旋回ロッド218の幅が狭いが、本形態では図7(b)で示すように旋回ロッド218の幅を太くした点のみが相違している。他は同じ構成を採用するものであって先の形態と同じ説明であり、重複する説明を省略する。
つまり、旋回ロッド218がシール用ボール220に接触する時間が長くなり、流れ込む流体が増える。このような構成を採用しても良い。また、この際、回転速度を調節すればさらに流れ込む流体の増減を調節することができる。
【0090】
続いて本発明の他の形態について説明する。先に図4,図5を用いて説明した圧力流体吐出装置21では一の円上に全てのプランジャー型バルブが配置されていた。本形態では、図8で示すように、二の同心円の上に全てのプランジャー型バルブが配置される。そして同じ角度に二のプランジャー型バルブが配置される。これにより、旋回ロッド218はある角度で二のプランジャー型バルブと接触して圧力流体を流すこととなり、時間短縮やより多くの流体吐出孔23の採用が可能となる。このようにプランジャー型バルブが増加しても圧力流体吐出装置21を構成することが可能である。また、この際、回転速度を調節すればさらに流れ込む流体の増減を調節することができる。このように流体吐出孔23の数が多くなる場合でも孔219を複数列としたり、プランジャー型バルブの設置間隔を調整することで配置が可能となる。さらに先の形態で説明したように旋回ロッド218の幅などを適宜設定して、各流体吐出孔23からの吐出時間や流量を任意に設定できる。このような構成を採用しても良い。
【0091】
続いて本発明の他の形態について説明する。先の形態では流体吐出孔23は1のワーク200に対して1個配置されるものであった。しかしながら、ワーク200をより確実に剥がすため、図9で示すように1のワーク200に対して流体吐出孔23を2個設けるようにしても良い。また、2個の流体吐出孔23の位置も圧力流体が全面に行き渡りやすくするため、ともにワーク中心から離して外周側に設けた。本形態では20枚のワークがあり、計40個の流体吐出孔23を設けている。流体吐出孔23および接続チューブ22も40個設ける。ここで、図9の上定盤を取り去った平面図中にある点線の流体吐出孔23は“上定盤2に形成される孔”なので上定盤2を取り去った平面図には当然残らないことになるが、図9では予想位置を表している。このような構成を採用することで上定盤2とワーク200との間の広い領域に圧力流体が吐出されることとなり、よりワーク200が剥がれ易くなる。なお、圧力流体吐出装置21は、図4,図5,6を用いて説明した形態を採用しても良く、また、図7,図8を用いて説明した形態を採用しても良い。このような形態を採用しても良い。
【0092】
続いて本発明の他の形態について説明する。先の形態では流体吐出孔23は1のワーク200に対して2個配置されるものであった。しかしながら、ワーク200をより確実に剥がすため、図10で示すように1のワーク200に対して流体吐出孔23を3個設けるようにしても良い。また、3個の流体吐出孔23の位置も圧力流体が全面に行き渡りやすくするため、ともにワーク中心から離して外周側に設けた。本形態では20枚のワークがあり、計60個の流体吐出孔23を設けている。流体吐出孔23および接続チューブ22も60個設ける。ここで、図10の上定盤を取り去った平面図中にある点線の流体吐出孔23は“上定盤2に形成される孔”なので上定盤2を取り去った平面図には当然残らないことになるが、図10では予想位置を表している。このような構成を採用することで上定盤2とワーク200との間の広い領域に圧力流体が吐出されることとなり、よりワーク200が剥がれ易くなる。なお、圧力流体吐出装置21は、図4,図5,6を用いて説明した形態を採用しても良く、また、図7,図8を用いて説明した形態を採用しても良い。このような形態を採用しても良い。
【0093】
また、図示しないが1のワークキャリアに1のワークが嵌め込まれるような大口径ワークではワークの中心位置に1個の流体吐出孔を設け、中心から所定半径を有する円周上に3または4個の流体吐出孔を設けるようにしても良い。ただし、ワークの貼り付き状況により適宜吐出孔の数や配置は検討する必要がある。このように構成することで効率良く剥がすことができる。
【0094】
このような本発明の両面研磨装置では、ワークの中心、または、ワークの中心から所定半径の円周上に複数の流体吐出孔を配置するので、上定盤とワークとの間に圧力流体が確実に吐出され、剥がし力が確実に付与される。そして、流体吐出孔の配置や使用されるワークの材質や厚みなど実際の製品を考慮しつつ最小限の流体吐出孔を設ければよい。
また、圧力流体吐出装置や接続チューブ、流体吐出孔という比較的簡素で安価な構成を追加するのみでよく、流量制御弁を多数用いる従来技術と比較しても大幅なコストダウンを実現している。
【0095】
また、本発明の両面研磨装置は、圧力流体として、高価なスラリーではなく、通常工場内に用意されているユーティリティである圧縮エアまたは水を微少量消費するだけであり、コストも最小限度増加するに留まる。
また、本発明の両面研磨装置は、スラリーのような洗浄が難しいものではなく、間欠的に少量の圧力流体を吐出するだけなので、ワーク面を含めて後工程に及ぼす影響を低くしている。
また、圧力流体は微少量であるため、大量の加圧エアのように吹き飛ばしたり、大量の加圧水のように流れる事態を防止する。
また、ワークの有無によらず、全ての流体吐出孔から出る圧力流体の圧力をほぼ一定に維持できるので、一定の剥がし力を付与でき、利便性を高めている。
【0096】
また、本発明の両面研磨装置は、ラップ加工およびポリッシュ加工のいずれにおいても有効であり、利便性が高い。
また、本発明の両面研磨装置は、圧力流体として加圧エアや加圧水を用いるので効率が良い、環境悪化しない、低コストという利点がある。なお、定盤上を汚さない観点からは加圧エアの使用が好ましい。
【0097】
このように、本発明の両面研磨装置では、従来の設備に大きな改造等を伴わずに簡易かつ低コストで実施でき、さらに従来の加工工程に悪影響を与えないような対策を施すことで、安価かつ簡素な構成を追加するのみで、微少量の流体供給により剥がし力を付与するようにして、上定盤へのワークの貼り付きを確実に防止し、復帰作業および清掃作業を無用としてプロセスの連続性を向上させる両面研磨装置および研磨方法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
以上のような本発明に係る両面研磨装置および研磨方法は特にシリコンウエハや透明ガラス基板というワークの研磨に適している。
【符号の説明】
【0099】
100:両面研磨装置
1:下定盤
2:上定盤
3:下定盤受け
4:ベース部
5:支持部
6:サンギア
7:サンギア駆動軸
8:上定盤駆動ドラム
9:連結部
10:ドラム駆動軸
11:インターナルギア
12:インターナルギア支持部
13:ワークキャリア
14:上定盤昇降装置
15:上定盤支持軸
16:自在継手
17:上定盤吊り板
18:上定盤連結ロッド
19:圧力流体供給装置
20:供給チューブ
21:圧力流体吐出装置
211:装置本体
211a:底板
211b:中板
211c:蓋
211d:円筒
212:ロッド回転用モータ
213:流体受入口
214:流体吐出管
215:回転軸
216:軸受け部
217:流体溜まり部
218:旋回ロッド
219:孔
220:シール用ボール
221:圧縮バネ
222:流路空間
22:接続チューブ
23:流体吐出孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上定盤と下定盤とによりワークの表裏両面をラッピングまたはポリッシングする両面研磨装置において、
前記上定盤の下面であって、研磨加工終了後の各ワークの停止位置に対応する位置に設けられる各々適数の流体吐出孔と、
該流体吐出孔からワークの上面に圧力流体を少量づつ間欠的に吐出させる圧力流体吐出装置と、
を備え、上定盤下面とワークとの間に圧力流体を流入させるようになされていることを特徴とする両面研磨装置。
【請求項2】
前記圧力流体吐出装置は、
圧力流体が充填される流体溜まり部と、この流体溜まり部と連通する複数の流路空間の開口部であって円上に形成される複数の孔と、シール用ボールを孔に押接させて孔から突出させた状態とする機能を有し、それぞれの流路空間内に設けられる複数のボールプランジャ型バルブと、流体溜まり部内に設けられ、回転移動により所定期間シール用ボールを押して流体溜まり部と流路空間とを連通させる旋回ロッドと、旋回ロッドを回転駆動する回転駆動部と、を備え、
旋回ロッドがシール用ボールを押して形成する隙間を通じて微少量の圧力流体を流路空間へ進入させる供給を順次行い、複数の流路空間を通じて、前記上定盤上の各流体吐出孔へ圧力流体を吐出するようになされていることを特徴とする請求項1項記載の両面研磨装置。
【請求項3】
ワークの研磨加工終了後、各ワークを取出す所定の位置へワークを移動するとともに、該ワークの停止位置に対応する位置に上定盤を移動させて、各流体吐出孔を各ワーク上へ位置決めする第1の工程と、
前記圧力流体吐出装置を作動させると同時に、上定盤を低速度で上昇させる第2の工程と、
上定盤を所定量上昇させた後、前記圧力流体吐出装置の作動を停止し、上定盤を中速度から高速度で上昇させて所定位置へ到達させた後、下定盤上のワークを順次取出す第3の工程と、
からなることを特徴とするワークの研磨方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−223852(P2012−223852A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93008(P2011−93008)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000236366)浜井産業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】