説明

中子用樹脂組成物、樹脂中子、および樹脂製中空体の製造方法

【課題】本発明は熱可塑性樹脂、および充填材からなり、容易に除去することができる樹脂中子、それを使用して得られる樹脂製中空体、および樹脂製中空体の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】融点またはガラス転移点が80〜160℃である熱可塑性樹脂(a)30〜100重量%、充填材(b)0〜70重量%からなる樹脂中子を作成し、金型内に中子を配置し、本体となる熱可塑性樹脂組成物を成形し、気相中で中子を除去することで樹脂製中空対を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂および充填材からなり、除去が容易な中子、それを使用して得られる樹脂製中空体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製中空体を製造する方法として、ブロー成形工法や、振動溶着工法、ダイスライドインジェクション工法、ロストコア工法などが知られている。
【0003】
しかし、ブロー成形工法には肉厚の不均一性、内面の表面性状が不十分などの問題があり、機能品には採用しがたい。
【0004】
また、振動溶着工法には、形状の自由度が小さい、溶着強度が小さいなどの問題がある。
【0005】
ダイスライドインジェクション工法には特別な設備(成形機や金型)が必要であり、また成形条件幅が小さい問題がある。
【0006】
ロストコア工法では、一般に低融点合金を中子に使用しているが、低融点合金では専用の成形機や、低融点合金を除去する特別なオイルバスが必要であり、大掛かりな設備が必要となる問題や、低融点合金の比重が大きいといった材料面の問題がある。
【0007】
一方、上記ロストコア工法の欠点を解消する以下のような提案がなされている。
【0008】
例えば、溶媒可溶性熱可塑性樹脂と鋳物砂からなる中子が提案されている(例えば特許文献1)。しかしながら、中子除去のために溶媒を必要とし、汎用性は十分ではない。
【0009】
また、中子として氷やドライアイス、砂などを用いる技術が提案されている(例えば特許文献2)。しかしながら、氷やドライアイスでは中子の作製が困難であり、また作製できたとしても保管が困難である。一方、砂を用いた場合、中空体の表面性状が不十分となる問題がある。
【0010】
また異なる技術として、可撓性袋体に回流動性物質を充填して中子とする技術が提案されている(例えば特許文献3)。しかし、可撓性袋体では形状が不安定であるため、樹脂製中空体を成形した際に、中空部の形状が一定にならない問題がある。
【特許文献1】特開平4−200838号公報
【特許文献2】特開平1−82910号公報
【特許文献3】特開平1−118337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は熱可塑性樹脂および充填材からなり、容易に除去することができる樹脂中子、それを使用して得られる樹脂製中空体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は主として、
(1)融点が80〜160℃の結晶性樹脂(a1)、またはガラス転移点が80〜160℃の非晶性樹脂(a2)から選ばれる1以上の熱可塑性樹脂(a)30〜100重量%、および充填材(b)0〜70重量%からなるロストコア工法の中子用樹脂組成物、および樹脂中子、
(2)<1>上記(1)に記載の中子用樹脂組成物からなる中子を金型内に配置する工程、<2>本体となる熱可塑性樹脂組成物(c)を成形する工程、<3>得られた成形品を加熱し、中子を除去する工程、<4>成形品を冷却する工程からなる樹脂製中空体の製造方法、
(3)熱可塑性樹脂組成物(c)がポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂の少なくとも1種を含有することを特徴とする上記(2)記載の樹脂製中空体の製造方法。
(4)中子の除去を気相中で加熱して行う上記(2)または(3)記載の樹脂製中空体の製造方法。
によって達成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、従来の中子を用いるよりも簡便な設備・工程で樹脂製中空体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
本発明の樹脂中子に用いる熱可塑性樹脂(a)は、本体となる熱可塑性樹脂組成物(c)の成形時の溶損や、加熱による溶出の関係から、結晶性樹脂であれば融点が80〜160℃であり、非晶性樹脂であればガラス転移点が80〜160℃であることが必要である。
【0016】
なお、ここで言う熱可塑性樹脂(a)とは、加熱によって流動する樹脂を意味している。従って、一般に熱硬化性樹脂に分類される樹脂であっても、触媒や硬化剤を含まないために硬化しないものであれば、熱可塑性樹脂(a)に含まれる。
【0017】
結晶性樹脂(a1)は、共重合ポリアミド、ポリ乳酸、熱可塑性エラストマー、エポキシ基を有する化合物である。
【0018】
共重合ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12などから2種類以上のポリアミドを選択し、適正量を共重合したものが挙げられる。例えば、ポリアミド6/12共重合体、ポリアミド6/66/610、ポリアミド6/66/610/612などが挙げられる。
【0019】
ポリ乳酸としては、L−乳酸および/またはD−乳酸を主たる構成成分とし、また乳酸以外の他の共重合成分を含んでいるポリマーが挙げられる。他の共重合成分単位としては、例えば、多価カルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトンなどが挙げられ、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸などの多価カルボン酸類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、ビスフェノールにエチレンオキシドを付加反応させた芳香族多価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの多価アルコール類、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸類、およびグリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトンなどのラクトン類などを使用することができる。
【0020】
熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマーなどが挙げられる。中でもポリオレフィン系エラストマーが好ましく、例えば、アイオノマー、エチレン・α−オレフィンコポリマー、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体が挙げられる。
【0021】
エポキシ基を含有する化合物としては、ビスA型、ビスF型、ビフェニル型などが挙げられる。なお、固化速度調整のために硬化しない量の硬化剤および触媒を添加していてもよい。
【0022】
非晶性樹脂(a2)は、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、ポリスチレンである。
【0023】
また、(a1)、(a2)から選ばれる樹脂がアロイ化されていてもよい。
【0024】
中子に含まれる熱可塑性樹脂(a)の含有量は30〜100重量%である。30重量%未満であれば溶出が困難になる。
【0025】
本発明の樹脂中子に用いる充填材(b)は、特に制限はなく、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーなどの繊維状充填材、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、ワラステナイト、シリカなどの粒状充填材、その他各種充填材が挙げられる。
【0026】
充填材(b)の含有量は0〜70重量%である。中子としての形状保持の必要性などに応じて適量を含有すればよい。
【0027】
樹脂中子の製造方法には特に制限はなく、熱可塑性樹脂(a)単体の場合は射出成形やプレス成形などが可能である。また、熱可塑性樹脂(a)と充填材(b)からなる場合は、これら原料を押出機で溶融混練後、ペレット化や粉末化し、射出成形やプレス成形する方法などが可能である。
【0028】
本発明の本体となる熱可塑性樹脂組成物(c)は特に制限はなく、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィドなどが挙げられ、複数樹脂をアロイ化していてもよい。中でも機械特性や耐熱性、成形性などの点でポリアミド、またはポリフェニレンスルフィドが好ましい。
【0029】
また、熱可塑性樹脂組成物(c)は必要に応じて、強化材、充填材、耐熱剤などの各種添加剤を含有してもよい。特に、機械特性などの点でガラス繊維や炭素繊維を含有していることが好ましい。
【0030】
本発明の樹脂製中空体の製造方法は
(1)成形した樹脂中子を金型内に配置する工程、
(2)本体となる熱可塑性樹脂組成物(c)を射出成形する工程、
(3)得られた成形品を加熱し、樹脂中子を除去する工程、
(4)樹脂中空体を冷却する工程
からなることが好ましい。
【0031】
樹脂中子を金型内に配置する方法としては特に制限はなく、ロボットを使用してもよく、また人力でもよい。
【0032】
本体となる熱可塑性樹脂組成物(c)を射出成形する際、中子の融点を大きく越える温度や、高圧・高速の条件とすると、中子の崩形につながるため、可能な限り低温・低圧・低速とすることが好ましい。
【0033】
加熱の際は、設備の点でオーブンなどの気相中で行うことが好ましい。また、気相中の加熱だけでは樹脂中子を完全に除去できない場合は、冶具を用いて除去してもよい。
【0034】
加熱温度としては、本体が変形しない温度であり、かつ中子が溶出する温度であれば特に制限はないが、中子の融点+20〜50℃が好ましい。
【0035】
冷却の方法としては、大気放置、大気や冷風の送風、水への浸漬などが挙げられる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の骨子は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0037】
(1)中子用原材料
熱可塑性樹脂(a)
ポリ乳酸 4042D(ネイチャーワークス社製)
ハイミラン 1706(三井デュポンポリケミカル社製)
エピコート YX4000K(ジャパンエポキシレジン社製)
共重合ポリアミド CM831(東レ社製)
ポリブチレンテレフタレート 1401X06(東レ社製)
充填材(b)
タルク LMS100(富士タルク社製)
その他
融点138℃のスズ−ビスマス合金。
【0038】
(2)熱可塑性樹脂組成物(c)用原材料
ガラス繊維強化ポリアミド6 CM1011G30(東レ社製)
ガラス繊維強化ポリアミド66 CM3001G30(東レ社製)
ガラス繊維強化ポリフェニレンスルフィド A504X90(東レ社製)。
【0039】
(3)中子製造条件
ポリ乳酸4042D、およびハイミラン1706、共重合ポリアミドCM831、ポリブチレンテレフタレート1401X06は単体として使用した。
【0040】
エピコートYX4000KはタルクLMS100と7:3の割合で混合したものを、シリンダ温度120℃の押出機TEX30(日本製鋼所社製)に供給し、溶融混練したものを粉砕器にて粉末化した(供給量10kg/h、スクリュー回転数200rpm)。
【0041】
得られた中子用材料を射出成形機に供給し、5×10×30(mm)の角柱を成形した。なお、中子用樹脂を成形する際のシリンダ設定温度は以下の通り。
ポリ乳酸4042D・・・200℃、
ハイミラン1706、共重合ポリアミドCM831、エピコートYX4000KとタルクLMS100の混合物・・・150℃、
ポリブチレンテレフタレート・・・250℃とした。
金型温度はいずれも30℃とした。
【0042】
(4)熱可塑性樹脂組成物(c)の成形条件
ガラス繊維強化ポリアミド6、およびガラス繊維強化ポリアミド66を成形する際のシリンダ設定温度は290℃、金型温度は80℃とした。
【0043】
ガラス繊維強化ポリフェニレンスルフィドを成形する際のシリンダ設定温度は310℃、金型温度は80℃とした。
【0044】
所定温度の金型に中子として成形した角柱を置き、それぞれの樹脂を射出成形し、80×80×15(mm)の成形品を成形した。
【0045】
(5)中子溶出条件
いずれの中子の場合も、200℃に設定したオーブン中で30分間加熱した。
【0046】
(6)評価
オーブンでの加熱処理後の成形品を観察した。中子の除去状態が良好な物を○、残留物が多いものを×とした。また、中子部分の形状の変形度合いを確認し、変形度合いが小さい物を○、大きいものを×とした。
【0047】
実施例1〜5
表1に示す組み合わせにて中子および樹脂製中空体の作製を行った。表1に結果も併せて示す。
【0048】
比較例1〜5
表2に示す組み合わせにて中子および樹脂製中空体の作製を行った。表2に結果も併せて示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
実施例および比較例より本発明の樹脂中子は軽量、溶出性、形状保持特性に優れており、それを用いて成形した樹脂製中空体は所定の形状を保持していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が80〜160℃の下記(a1)群に記載の結晶性樹脂(a1)、またはガラス転移点が80〜160℃の下記(a2)群に記載の非晶性樹脂(a2)から選ばれる1以上の熱可塑性樹脂(a)30〜100重量%、および充填材(b)0〜70重量%を配合してなるロストコア工法の中子用樹脂組成物。
(a1)群:共重合ポリアミド、ポリ乳酸、熱可塑性エラストマー、エポキシ基を有する化合物。
(a2)群:アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、ポリスチレン
【請求項2】
融点が80〜160℃の下記(a1)群に記載の結晶性樹脂(a1)、またはガラス転移点が80〜160℃の下記(a2)群に記載の非晶性樹脂(a2)から選ばれる1以上の熱可塑性樹脂(a)30〜100重量%、および充填材(b)0〜70重量%を配合してなるロストコア工法の樹脂中子。
(a1)群:共重合ポリアミド、ポリ乳酸、熱可塑性エラストマー、エポキシ基を有する化合物。
(a2)群:アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、ポリスチレン
【請求項3】
(1)請求項2に記載の中子を金型内に配置する工程、(2)本体となる熱可塑性樹脂組成物(c)を成形する工程、(3)得られた成形品を加熱し、中子を除去する工程、(4)成形品を冷却する工程からなる樹脂製中空体の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂組成物(c)がポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂の少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項3記載の樹脂製中空体の製造方法。
【請求項5】
中子の除去を気相中で加熱して行う請求項3または4記載の樹脂製中空体の製造方法。

【公開番号】特開2008−80599(P2008−80599A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262045(P2006−262045)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】