説明

中程度の持続時間の神経筋遮断剤およびそのアンタゴニスト

本発明は、新規な神経筋遮断剤、上記神経筋遮断剤を使用する方法、ならびに上記神経筋遮断剤の効果を逆転させるための試薬、方法およびキットを提供する。一実施形態において、本発明の方法は、本発明の中間型神経筋遮断剤の投与によって引き起こされる神経筋遮断を拮抗する、即時作用性薬剤を包含する。本発明の神経筋遮断剤の投与によって引き起こされる上記神経筋遮断を拮抗し得る薬剤としては、システイン、N−アセチルシステイン、グルタチオン、ならびに関連するシステインアナログおよびこれらの組み合わせが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
この出願は、2006年12月6日に出願された、米国仮出願第60/873,132号(この出願は、その全体が参考として本明細書に具体的に援用される)の利益を主張する。この出願はまた、2004年10月28日に出願された、米国出願第10/975,197号;2004年10月28日に出願された、PCT出願PCT/US2004/035869号;2004年10月28日に出願された、米国出願第60/515,048号(これらの出願は、その全体が参考として本明細書に具体的に援用される)にも関する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、中間作用型(intermediate acting)神経筋遮断剤、ならびにこのような神経筋遮断剤の効果を使用するための方法およびこのような効果を中和する(counteract)ための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
長時間作用型(long−acting)神経筋遮断薬(NMB)であるd−ツボクラリン(クラーレ)(1a)の投与は、外科手術の間の骨格筋弛緩を誘導し、麻酔の実施を変えた気管挿管手順を容易にする。非特許文献1。そのとき以来、NMB(クラーレ様)活性の種々の持続時間を有する種々の半合成神経筋遮断薬および合成神経筋遮断薬は、診療所において利用可能になった。同書;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4。
【0004】
神経筋遮断薬は、それらの作用機構(非脱分極(nondepolarizing)または脱分極)およびそれらの作用持続時間(超短時間作用型、短時間作用型、中間作用型、および長時間作用型)の両方によって分類される。FDAによって定義されるこのような神経筋遮断薬の最大臨床的持続時間は、95%有効用量(ED95)の2倍の投与後に、単収縮応答試験(twitch response test)においてコントロールの25%へ戻すための時間である。この超短時間型神経筋遮断薬の最大持続時間は8分間であり、短時間型神経筋遮断薬については、持続時間は20分間であり、中間型神経筋遮断薬については、持続時間は50分間であり、長時間作用型神経筋遮断薬については、持続時間は50分より長い。非特許文献5を参照のこと。
【0005】
麻酔法に対するこれら神経筋遮断補助剤(adjunct)の例としては、長時間作用型薬剤であるメトクリン(1b)、超短時間作用型スクシニルコリン(2)、短時間作用型弛緩薬ミバクリウム(3)、および長時間作用型薬剤であるドキサクリウム(4)が挙げられる。
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

ベンジルテトラヒドロイソキノリンベースの弛緩薬は、非脱分極性神経筋遮断薬である。
【0008】
スクシニルコリン(2)は、脱分極性薬剤である。脱分極性神経筋遮断薬は、ニコチン様アセチルコリンレセプターアゴニストであり、それらの作用機構と関連する多くの望ましくない副作用を生じる。非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8;非特許文献9。これら都合の悪い効果は、希な場合においては、アナフィラキシー、高カリウム血症、悪性高熱症、および心不整脈を含み得る。脱分極性神経筋遮断薬のより一般的な副作用としては、線維束性攣縮、重篤な筋肉痛、増大した眼内圧、および増大した胃内圧力(intragastric tension)が挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Savareseら,Pharmacology of Muscle Relaxants and Their Antagonists.In Anesthesia,第4版;Miller,R.D.,編;Churchill Livingstone:New York,1994;pp 417−488
【非特許文献2】Lee,Br.J.Anaesth.2001,87,755−769
【非特許文献3】Reesら,Annu.Rep.Med.Chem.1996,31,41−50
【非特許文献4】Bevan,Pharmacol.Toxicol.1994,74,3−9
【非特許文献5】Bedford,Anesthesiology 1995,82,33A
【非特許文献6】Naguibら,Anesthesiology 2002,96,202−231
【非特許文献7】Mahajan,Curr.Anaesth.Crit.Care 1996,7,289−294
【非特許文献8】Belmont,Curr.Opin.Anesthesiol.1995,8,362−366
【非特許文献9】Durantら,Br.J.Anaesth.1982,54,195−208
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
種々の長時間作用型、中間作用型、および短時間作用型神経筋遮断薬は診療所に存在するが、これら神経筋遮断剤の効果を逆転させるための方法はゆっくりとしており、望ましくない副作用を生じる。その副作用のうちのいくつかは、生命を脅かし得る。従って、新たな中間型神経筋遮断薬および中間型神経筋遮断の持続時間を制御するための新たな方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、新規な中間型神経筋遮断剤に関する。本発明の他の局面は、これら中間型神経筋遮断剤の最大臨床持続時間を制御するための方法、組成物およびキットを包含する。一実施形態において、本発明の方法は、本発明の中間型神経筋遮断剤の投与によって引き起こされる神経筋遮断を拮抗する、即時作用性(fast−acting)薬剤を包含する。本発明の神経筋遮断剤の投与によって引き起こされる上記神経筋遮断を拮抗し得る薬剤としては、システイン、N−アセチルシステイン、グルタチオン、ならびに関連するシステインアナログおよびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0012】
従って、本発明の一局面は、以下:
【0013】
【化3】

【0014】
【化4】

およびこれらの組み合わせからなる群から選択される神経筋遮断剤である。
【0015】
本発明の別の局面は、哺乳動物において神経筋遮断を生じるための治療方法であり、この方法は、本発明の神経筋遮断剤の有効量を上記哺乳動物に投与する工程を包含する。
【0016】
本発明の別の局面は、本発明の神経筋遮断剤を哺乳動物に投与することによって引き起こされる神経筋遮断を拮抗するための治療方法であり、ここで上記方法は、有効量の神経筋遮断アンタゴニストを上記哺乳動物に投与する工程を包含する。神経筋遮断アンタゴニストの例としては、システイン、グルタチオン、N−アセチルシステイン、ホモシステイン、メチオニン、S−アデノシル−メチオニン、ペニシラミン、関連するシステインアナログ、これらの組み合わせまたはこれらの薬学的に受容可能な塩が挙げられる。いくつかの実施形態において、上記アンタゴニストはシステインである。他の実施形態において、上記アンタゴニストは、グルタチオンと組み合わせたシステインである。他の実施形態において、上記アンタゴニストは、任意の他のアンタゴニストと組み合わせた、システインまたはグルタチオンである。例えば、いくつかの実施形態において、システインとグルタチオンとの組み合わせは特に有効である。
【0017】
本発明はさらに、別個に梱包された、(a)骨格筋活性を弛緩または遮断するに十分な量の、少なくとも1種の本発明の神経筋遮断剤、および(b)哺乳動物に対する上記遮断剤の効果を逆転させるに有効な量の、上記神経筋遮断剤に対するアンタゴニストと、(c)どのようにして上記神経筋遮断剤を哺乳動物に投与するか、およびどのようにして、上記アンタゴニストを使用して、上記遮断剤が投与される上記哺乳動物に対する上記遮断剤の効果を逆転させるかを説明する指示書、を含むキットを提供する。このような神経筋遮断剤に対するアンタゴニストは、例えば、システイン、グルタチオン、N−アセチルシステイン、ホモシステイン、メチオニン、S−アデノシル−メチオニン、ペニシラミン、これらの組み合わせまたはこれらの薬学的に受容可能な塩(組み合わせにおいて)であり得る。いくつかの実施形態において、上記アンタゴニストはシステインである。他の実施形態において、上記アンタゴニストは、システインアナログと組み合わせたシステインである。例えば、いくつかの実施形態において、システインとグルタチオンとの組み合わせは、特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、神経筋遮断アンタゴニスト(20mg/kg システインと10mg/kg グルタチオンとの組み合わせ)の投与あり(黒四角)および投与なし(黒菱形)で、0.1mg/kg AV001神経筋遮断剤の投与によって引き起こされる、サルにおける神経筋遮断の持続時間をグラフに示す。示されるように、AV001の投与からの自発的回復は、約2800秒(約46分)かかる。しかし、システインとグルタチオンとの組み合わせがAV001の投与後2分間で投与される場合、その神経筋遮断からの回復は、約354秒(約6分)しかかからない。
【図2】図2は、0.1mg/kgまたは3.0mg/kgのAV001神経筋遮断剤のいずれかを投与して種々の時間での、システイン投与とグルタチオン投与との効果をグラフに示す。0.1mg/kg AV001(黒四角)を投与しかつ2分後に、20mg/kg システインと10mg/kg グルタチオンとの組み合わせの投与によってその遮断が回復される場合、回復は、354秒以内に生じる。しかし、AV001の遙かに大きな用量(3.0mg/kg,黒菱形)が投与されかつ9分後に、20mg/kg システインと10mg/kg グルタチオンとの組み合わせの投与によってその遮断が回復される場合、回復は、511秒内に生じる。従って、システインとグルタチオンは、広範囲に及ぶ過剰用量(massive overdose)のAV001の効果を効率的に回復させる。
【図3】図3は、対数スケールを使用してプロットしたAV002神経筋遮断剤に対する用量応答曲線である。示されるように、95%神経筋遮断に関する有効投与量は、0.045mg/kgであり、50%神経筋遮断に関する有効投与量は、0.031mg/kgである。
【図4】図4は、神経筋遮断アンタゴニスト(20mg/kg システインと10mg/kg グルタチオンとの組み合わせ)あり(黒四角)およびなし(黒菱形)で、0.1mg/kg AV002神経筋遮断剤の投与によって引き起こされる、サルにおける神経筋遮断の持続時間をグラフに示す。示されるように、AV002の投与からの自発的回復は、約1600秒(約26.6分)かかる。しかし、システインとグルタチオンとの組み合わせが、AV002の投与後2分で投与される場合、その神経筋遮断からの回復は、約200秒(約3分)未満しかかからない。
【図5】図5は、神経筋遮断アンタゴニストの投与後に、サルにおける神経筋遮断の持続時間に対するAV002投与量の効果をグラフに示す。AV002投与量が0.1mg/kg(黒三角)である場合、20mg/kg システインと10mg/kg グルタチオンとの組み合わせでの遮断の逆転は、200秒よりわずかに短い。しかし、AV002投与量が0.2mg/kg(黒四角)である場合、20mg/kg システインと10mg/kg グルタチオンとの組み合わせでの遮断の逆転は、約500秒かかる。
【図6】図6は、神経筋遮断アンタゴニスト(20mg/kg システインと10mg/kg グルタチオンとの組み合わせ)の投与あり(黒四角)およびなし(黒菱形)で、0.2mg/kg AV002神経筋遮断剤の投与によって引き起こされる、サルにおける神経筋遮断の持続時間をグラフに示す。示されるように、AV002の投与からの自発的回復は、約1730秒(約28.8分)かかる。しかし、システインとグルタチオンとの組み合わせがAV002の投与後2分で投与される場合、上記神経筋遮断からの回復は、約440秒(約7.5分)未満しかかからない。
【図7】図7は、AV001神経筋遮断剤の投与(\\\付きの棒)およびAV002神経筋遮断剤の投与(///付きの棒)によって引き起こされる、サルにおける神経筋遮断の持続時間をグラフにまとめる。クロスハッチなしの最も右側ある棒は、使用される上記アンタゴニストがシステインとグルタチオンとの組み合わせだった場合、アンタゴニストの投与が、どのように上記AV002神経筋遮断の持続時間を短縮するかを示す。
【図8】図8は、AV002神経筋遮断剤の増大する投与量に対して観察された平均動脈血圧(黒四角)、心拍数(白三角)および最大遮断(黒菱形)をグラフにまとめる。
【図9】図9は、AV001神経筋遮断剤の増大する投与量に対して観察された平均動脈血圧(白三角)、心拍数(黒四角)および最大遮断(黒菱形)をグラフにまとめる。
【図10】図10は、対数スケールでプロットされたAV001神経筋遮断剤に関する用量応答曲線である。示されるように、95%神経筋遮断に対する有効投与量は、0.040mg/kgであり、50%神経筋遮断に対する有効投与量は、0.027mg/kgである。
【図11】図11は、種々の逆転薬剤(reversal agent)ありまたは逆転薬剤なし(*)による、AV002(0.15mg/kg)によって引き起こされる神経筋遮断からの回復時間を示す。従って、AV002投与の1分間後(黒菱形)または単収縮回復の最初の徴候時(黒四角)に投与された30mg/kg システインと30mg/kg グルタチオンとの効果は、示されるように、速い。しかし、AV002投与の1分後(黒三角)におよび単収縮の最初の回復時(黒丸)に投与された、伝統的な逆転薬剤であるネオスチグミン(0.05mg/kg)およびアトロピン(0.03mg/kg)は、示されるように、ゆっくりとしている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、中間持続時間の新規な神経筋遮断剤およびこれら神経筋遮断剤の持続時間を制御するための方法に関する。
【0020】
神経筋遮断剤は、それらが活性である時間にわたって、患者を文字通り麻痺させ得る。従って、神経筋遮断剤の使用は、筋弛緩が患者の有効な処置に必須である状況(例えば、選択された外科手術手順および気管の挿管に要する手順)に制限される。麻痺は、必須の身体機能(例えば、呼吸)を妨害し得るので、医師は、必要とされるが、必要とされる以上ではない程度に活性な神経筋遮断剤を選択する。例えば、呼吸チューブが患者の気管に挿入されなければならない場合、神経筋遮断剤は、気管の筋肉を弛緩させかつ挿管を可能にするために使用される。しかし、上記神経筋遮断剤は、胸部の気管をも弛緩させ、それによって、患者の呼吸を停止させる。麻酔科医は、呼吸チューブを患者の気管へ迅速に挿入し、肺の換気を始めなければならない。上記チューブが十分迅速に挿入できない場合、医師は、人工心肺蘇生法のある形態で介入しなければならないか、または患者は、酸素欠乏(oxygen deprivation)、および酸素の欠如から関連する組織損傷を被り得る。迅速に作用するアンタゴニストによる神経筋遮断剤からの速い回復は、患者から危険を取り除き、継続した人工心肺蘇生法を回避し得る。
【0021】
新たな中間持続時間の神経筋遮断剤を提供することに加えて、本発明は、これら遮断剤を使用する方法、およびこれら中間持続時間神経筋遮断剤の効果を中和するための迅速で信頼性の高い方法を提供し、その結果、患者は、適切なアンタゴニストを投与後数分以内で、このような神経筋遮断剤の効果から回復する。
【0022】
本発明の化合物は、神経筋薬剤(neuromuscular agent)およびアンタゴニストの現在入手可能な組み合わせより安全でより信頼性の高い神経筋遮断剤である。なぜなら、特に、神経筋遮断は、いつでも(上記遮断剤の投与直後ですら)、システインおよびシステイン様分子で中和され得るからである。このことは、現在入手可能な神経筋遮断剤およびアンタゴニストでは行うことはできない。現在、麻酔科医は、現時点で一般に入手可能であるアンタゴニストを投与する前に、患者が自発的に現在入手可能な神経筋遮断剤から回復し始めるまで待たなければならない。現在入手可能な神経筋遮断剤の場合、この待機時間は、30〜60分間以上であり得る。
【0023】
対照的に、本発明の逆転薬剤は、本発明の遮断剤によって引き起こされる神経筋遮断を、数分以内に効率的に除去する。本発明のシステインおよびシステイン様アンタゴニストはまた、実質的に副作用がない。本発明のアンタゴニストは、身体中で天然に見いだされる化合物でありかつ、脈拍数にも、血圧にも、心機能の他の指標にも本質的に変化を引き起こさない。本発明のシステインおよびシステイン様アンタゴニストは、神経筋遮断剤に対して直接作用し、そしてそれらを不活性な化学的誘導体に迅速に変換する。本発明のシステインおよびシステイン様アンタゴニストは、神経筋遮断剤の現在入手可能なアンタゴニスト(例えば、ネオスチグミン、エドロフォニウムおよび他のコリンエステラーゼインヒビター)によって必要とされる重要な内因性酵素系の阻害を要さない。
【0024】
(神経筋遮断剤)
本発明の神経筋遮断剤は、以下の構造およびこれらの組み合わせを有する。
【0025】
【化5】

【0026】
【化6】

【0027】
【化7】

(神経筋遮断アンタゴニスト)
本発明によれば、システイン、N−アセチルシステイン、グルタチオン、関連するシステインアナログおよびこれらの組み合わせは、本発明の神経筋遮断剤の持続時間を短縮するために使用され得る。本発明者らは、システインがクロロフマレート神経筋遮断剤の神経筋遮断を逆転し得ることを以前観察し、これら遮断剤上の塩素が、システインの逆転に必要とされると考えられた。しかし、本発明の神経筋遮断剤は、塩素も他のハライドも有さない。従って、システイン、グルタチオンおよび他のシステイン様アンタゴニストが、迅速かつ完全に本発明の薬剤の投与によって引き起こされる神経筋遮断を逆転し得ることは驚くべきである。
【0028】
システイン様分子(例えば、システインおよびグルタチオン)は、他のベンジルイソキノリニウムベースの神経筋遮断薬(例えば、ミバクリウム、ドキサクリウムおよびシサトラクリウム(cisatracurium)によって生じる遮断からの回復に対していかなる逆転効果も有しないことに注意すること。従って、本明細書に示されるように、システイン様アンタゴニストによる逆転は、上記神経筋遮断剤が、フマレート二重結合を有する場合に有効であり、ここで活性化しているカルボキシル基は、上記二重結合のすぐ隣に(すなわち、α−)存在する。さらに、ミバクリウムはその分子の中心に二重結合を含むが、この結合は、2つの炭素原子によってカルボキシル基から分離されていることに注意すること。従って、ミバクリウムによって引き起こされる神経筋遮断は、システイン様分子によって逆転され得ない。さらに、本発明者らは、クロロフマレートによって引き起こされる遮断がシステインによって逆転され得るが、他のハロゲン化薬剤(例えば、Bighamら(米国特許第6,177,445号)によって列挙されるようなもの(フルオロフマレートおよびジフルオロスクシネートを含む))は、システイン/グルタチオンによって影響を受けないことを見いだした。
【0029】
さらに、Bighamらによって列挙された化合物は、超短時間作用型として記載され、すべてハロゲン化されている。本発明の化合物は、それらがハロゲン化されておらず、持続時間が中間でありかつフマレート二重結合および活性化している隣あるカルボキシル基の存在が原因でシステイン/グルタチオンによって迅速に逆転され得るという点で特に独特である。本発明の化合物は、本発明のアンタゴニストのうちの1つまたは本発明のアンタゴニストの組み合わせによって、いつでも、その効果が迅速に終結され得る、唯一の非塩素化神経筋遮断剤であると考えられる。
【0030】
本発明の方法において使用されるアンタゴニスト分子は、本発明の神経筋遮断剤のうちの1つによって引き起こされる神経筋遮断の持続時間を短縮させ得る、スルフヒドリルおよび/またはアミノ置換基を有する任意の実質的に非毒性の化合物を含む。このようなアンタゴニストの例としては、システイン、N−アセチルシステイン、グルタチオン、ホモシステイン、メチオニン、S−アデノシル−メチオニン、ペニシラミンおよび関連するシステインアナログが挙げられる。
【0031】
(使用方法)
本発明の一局面は、有効量の、本発明の神経筋遮断剤のうちの1つを投与することによって、哺乳動物において麻痺または神経筋遮断を誘導するための方法である。
【0032】
本発明はまた、本発明の神経筋遮断剤によって生じる神経筋遮断を逆転させるに有効な量のシステインまたはシステイン様分子を哺乳動物に投与することによって、本発明の神経筋遮断剤によって引き起こされる、哺乳動物における麻痺または神経筋遮断を逆転させるための方法を提供する。
【0033】
各被験体についての本発明の神経筋遮断剤の有効量または投与量は、変動し得る。しかし、哺乳動物において麻痺を得るに有効な本発明の神経筋遮断剤の量または投与量は、約0.01〜20.0mg/kg体重、または約0.02〜2.0mg/kg体重であり、ここでこの投与量は、二価カチオンの重量に基づいており、この二価カチオンが活性成分である。筋肉内投与がこのましい場合、上記投与量は、静脈内用量について使用されるものの約2倍〜8倍である。従って、上記筋肉内投与量は、約0.02〜80.0mg/kg体重、または約0.04〜8.0mg/kg体重である。
【0034】
本発明の別の局面は、本発明の神経筋遮断剤のうちの1種以上と、治療において使用するための(例えば、外科手術または気管の挿管のために神経筋遮断を誘導し、その後、神経筋遮断を逆転するための)有効量のシステインまたはシステイン様分子とを含むキットである。本発明はまた、哺乳動物(ヒトを含む)における神経筋遮断を逆転するための医薬の製造における、本発明の化合物ありまたはなしでの、システインまたはシステイン様分子の使用を提供する。
【0035】
システイン、システイン様分子および/または本発明の化合物がバルク活性化合物(bulk active chemical)として投与されることは可能であるが、それらを、非経口投与のための薬学的処方物の形態で提示することがこのましい。従って、本発明は、治療上有効量の本発明の神経筋遮断剤を含む、1つの薬学的処方物を提供する。さらに、本発明は、治療上有効量のシステインまたはシステイン様分子、あるいはシステイン様分子の組み合わせ(本明細書中上記で定義される)と、薬学的に受容可能なキャリアとを別個に提供する。
【0036】
薬学的処方物が非経口投与用である場合、上記処方物は水性溶液であっても非水性溶液であって、脂質の混合物であってもよく、これらは、静菌性薬剤、抗酸化剤、緩衝剤または他の薬学的に受容可能な添加剤を含み得る。あるいは、上記化合物は、水(注射用)またはデキストロース溶液または生理食塩水溶液で再構成するための凍結乾燥個体として提示され得る。このような処方物は、通常、単位投与形態(例えば、アンプルもしくは使い捨て注射デバイス)で提示される。それらはまた、複数投与形態(例えば、適切な用量が引き出され得るボトル)で提示され得る。すべてのこのような処方物は、無菌であるべきである。
【0037】
成人ヒト(150ポンド、または70kg)について神経筋遮断を得るための適切な用量は、約0.1mg〜約500mg、またはいくつかの実施形態において、約1mg〜約500mg、または他の実施形態において、約0.5mg〜約150mg、またはさらなる実施形態において、約3.5mg〜約50mgである。従って、ヒトに投与するのに適切な薬学的非経口用調製物は、好ましくは、0.1〜50mg/mlの、本発明の化合物のうちの1種以上を、溶液中にまたは複数用量バイアルのためのそのあつまりの中に含む。
【0038】
成人ヒト(平均体重約150ポンド、または70kgを有する)における神経筋遮断を逆転するためのシステインまたはシステイン様分子の適切な用量は、約5mg〜約10,000mg、または約50mg〜約2000mgまたは約150〜約750mgである。従って、ヒトへ投与するために適切な薬学的非経口用調製物は、好ましくは、0.1〜2000mg/mlのシステインもしくはシステイン様分子、またはシステインとシステイン様分子との組み合わせを、溶液中にまたは複数用量バイアルのためのその集まりの中に含む。
【0039】
本発明の神経筋遮断剤、システインおよび/またはシステイン様分子の溶液の単純な処方物は、滅菌水もしくは生理食塩水溶液中に処方され得る。当然のことながら、上記神経筋遮断剤およびシステイン/システイン様薬剤は、別個の溶液または処方物として調製される。これら溶液は、発熱物質を含まない水もしくは生理食塩水中に、溶液のための保存剤および安定化剤ありまたはなしで、上記化合物を溶解させることによって調製され得る。あるいは、上記処方物は、滅菌化合物を、発熱物質を含まない滅菌水または滅菌生理食塩水溶液中に、無菌条件下で溶解させることによって調製され得る。特に好ましい処方物は、約2.0〜5.0のpHを有する。
【0040】
本発明の神経筋遮断剤、システインおよび/またはシステイン様分子はまた、約5秒〜約15秒にわたって、迅速な静脈内ボーラスとして投与されるか、あるいは、塩類溶液の約1分〜約2分にわたるゆっくりとした注入(例えば、点滴形態のリンゲル溶液)として投与され得る。
【0041】
上記化合物はまた、他の溶媒(通常は、溶媒と水とを混合して)(例えば、アルコール、ポリエチレングリコール、およびジメチルスルホキシド)中で投与され得る。上記化合物はまた、懸濁液または溶液として、静脈内投与され得るかまたは筋肉内投与され得る(必要であれば、点滴剤として)。
【0042】
以下の実施例は、本発明をさらに例示するが、本発明を限定することは意図しない。
【実施例】
【0043】
(実施例1:神経筋遮断剤の投与法)
アカゲザルを、筋肉内または静脈内で与えたケタミン(7.5mg/kg)で麻酔した。イソフルラン(1.5%)、亜酸化窒素(60%)および酸素(40%)の混合物で、麻酔を維持した。The 総腓骨神経を、0.15Hzの速度で、0.2m秒持続時間の方形波(square wave pulse)を用いて最大上刺激した。単収縮(twitch contraction)を、総指伸筋(extensor digitorum muscle)腱を介して記録した。
【0044】
すべての動物において、気管に挿管し、12〜15ml/kg、18〜24呼吸/分で換気を制御した。末梢静脈および末梢動脈を、それぞれ、薬物投与のため、および動脈圧の記録のためにカニューレ挿管した。予備研究において、以下の構造のうちの1つを有する神経筋遮断剤を、静脈内投与した。
【0045】
【化8】

【0046】
【化9】

これら薬剤によって引き起こされる神経筋遮断の逆転を試験するために設計された研究において、システインおよび/またはグルタチオンを、選択された投与量において、試験動物に投与した。
【0047】
(実施例2:神経筋薬剤の有効投与量および持続時間)
投与量研究によって、以下の投与量が示された時間の間に神経筋遮断を達成するに十分であることが示された。
【0048】
【表1】

*アカゲザルにおける研究の結果
**注射から95% 単収縮回復まで
従って、上記AV001遮断剤およびAV002遮断剤は、0.04mg/kgの95%神経筋遮断(ED95)を達成する有効用量を有するのに対して、AV003(AV002のシス異性体に対応する)は、0.20mg/kgのED95を有する。トランス異性体(AV002)とシス異性体(AV003)とを比較すると、トランス異性体(AV002)は、5倍より高く効くことが示される。従って、このシリーズにおいて、上記トランス異性体(AV002)は、より高い効力を示し、そしてさらに、より短い作用持続時間を有する(表1)。
【0049】
興味深いことに、これら神経筋遮断剤の構造は類似しているものの、これら薬剤によって引き起こされる遮断の持続時間は異なっている(表1)。従って、AV001の4×ED95投与量によって引き起こされる遮断の持続時間は、50〜60分間続くのに対して、AV002の類似の投与量によって引き起こされる遮断は、30〜35分間続くに過ぎない。上記AV003遮断剤は、4×ED95投与量で投与した場合に、約45〜60分間にわたって、麻痺を引き起こす。従って、本発明の神経筋遮断剤における小さな構造上の変化は、それらの生物学的特性において顕著な変化を生じ得る。
【0050】
(実施例3:システインおよびグルタチオンは、神経筋遮断からの迅速な回復を提供する)
アカゲザルを麻酔し、実施例1に記載されるように、神経筋遮断剤で処置した。
【0051】
図1は、自発的に、およびシステイン(20mg/kg)とグルタチオン(10mg/kg)との組み合わせが投与された場合の両方で、どの程度迅速に、平均して、試験した5匹のアカゲザル(Renoir、Morgan、Soutine、SeuratおよびWinslow)が、神経筋遮断剤AV001の投与から回復したかを示す。AV001投与からの自発的な回復は、約2800秒(約46.7分,図1)かかった。しかし、システイン(20mg/kg)とグルタチオン(10mg/kg)との組み合わせをAV001投与後2分間で投与した場合、AV001によって引き起こされた遮断は、遙かに速く、わずか約354秒(6分に少し足りない)緩和した。従って、システインとグルタチオンとの組み合わせは、AV001神経筋遮断剤の効果を逆転させるための非常に有効な組成物であった。
【0052】
図2は、システイン(20mg/kg)とグルタチオン(10mg/kg)との組み合わせは、AV001の実質的な過剰用量(30×代表的に使用される有効用量)の効果を逆転させうることを示す。この研究において、通常の投与量(0.1mg/kg)および広範囲に及ぶ過剰用量(3.0mg/kg)のAV001神経筋遮断剤を異なる動物に投与した。2分後に、システイン(20mg/kg)とグルタチオン(10mg/kg)との組み合わせを、0.1mg/kg AV001を受けた動物に投与したところ、神経筋遮断は、約475秒、またはシステイン/グルタチオン投与後の約354秒に逆転した。従って、通常のAV001の0.1mg/kg投与量は、約6分で逆転され得る。AV001過剰投与の逆転は、約511秒(約8.5分)かかったが、このような逆転は、AV001の全般的な持続時間と比較して、特に、AV001を高い投与量で投与したことを考慮した場合、なお非常に速かった。
【0053】
AV001についての用量応答曲線は、図10として提供され、AV001に関して95%麻痺を達成するに有効な用量が0.040mg/kgであり、そして50%麻痺を達成するに有効な様r様が0.027mg/kgであることを示す。
【0054】
図3は、AV002神経筋遮断剤についての用量応答曲線を示し、投与量におけるかなり少量の増加は、神経筋遮断%を実質的に増大させうることを実証する。95%麻痺を達成するに有効なAV002の用量は、0.045mg/kgであるが、50%麻痺を達成するに有効なAV002の用量は、0.031mg/kgである。
【0055】
図4は、自発的に、およびシステイン(20mg/kg)とグルタチオン(10mg/kg)との組み合わせが投与された場合の両方で、アカゲザルがどの程度速く0.1mg/kgのAV002神経筋遮断剤の投与から回復したかを示す。AV002投与からの自発的な回復は、約1600秒(約26.7分,図4)かかった。しかし、システイン(20mg/kg)とグルタチオン(10mg/kg)との組み合わせを、AV002投与後2分で投与した場合、AV002によって引き起こされる遮断は、遙かに速かった(わずか約200秒(約3.3分))。従って、システインとグルタチオンとの組み合わせは、AV002神経筋遮断剤の効果を逆転するたに非常に有効な組成物であった。
【0056】
図7に示されるように、AV002の投与量を0.1mg/kgから0.2mg/kgに増大させると、神経筋遮断の持続時間が約1766秒から約2150秒に増大する。従って、AV002の投与量の調節は、AV002誘導性の神経筋遮断の持続時間を調節するために使用されうる。図5に示されるように、システインとグルタチオンとの組み合わせの使用は、AV002遮断の効果を迅速に逆転させた。しかし、AV002の投与量を0.1mg/kgから0.2mg/kgに増大させると、神経筋遮断の逆転の時間を、約320秒から約670秒へ増大させた。それにも拘わらず、AV002の高い方の投与量についての670秒の逆転時間は、回復のための時間を、約2150秒から約670秒へと実質的に増加させた。従って、システインとグルタチオンとの組み合わせは、非常に有効な神経筋遮断逆転組成物である。
【0057】
図7は、AV001遮断剤およびAV002遮断剤の持続時間をグラフにまとめ、比較する。
【0058】
(実施例4:神経筋遮断剤およびアンタゴニスト投与は、本質的に全く副作用を有しない)
アカゲザルに麻酔し、実施例1に記載されるように、神経筋遮断剤で処置した。図8および9は、AV002神経筋遮断剤およびAV001神経筋遮断剤の投与の心血管効果についての平均値を、それぞれ、投与量の関数として提供する。
【0059】
図8は、さらに高投与量のAV002を受けた動物の平均動脈圧(黒四角)および心拍数(黒三角)において変化がほとんどないか全くないことをグラフに示す。同様に、図9は、AV002の高投与量を受けた動物の平均動脈圧(黒三角)および心拍数(黒四角)において変化がほとんどまたは全くないことをグラフに示す。従って、AV001神経筋遮断剤およびAV002神経筋遮断剤は、インビボで循環に対する生理学的窮迫を引き起こす徴候を示さない。
【0060】
(実施例5:システイン、グルタチオン、ネオスチグミンおよびアトロピンを使用するAV002神経筋遮断剤の逆転)
この実施例は、AV002での処置からの自発的回復が、AV002処置からの回復と比較して、システインとグルタチオンとによって促進されたことを示す。さらに、この実施例は、従来の逆転剤(ネオスチグミンおよびアトロピン)を使用するAV002処置からの回復を示す。
【0061】
(方法)
7.5mg/kg ケタミンを使用して、成体雄性アカゲザルにおいて麻酔を誘導した。局所麻酔を用いて、気管に挿管した。イソフルラン 1〜2%およびNO/O(60%/40%)で麻酔を維持した。ECG、温度、O飽和、および血圧をモニターし、正常限界値範囲内で維持した。筋音図(MMG)記録を、0.15Hzでの総指伸筋からの単収縮応答から行った。AV002のコントロール用量(0.15mg/kg;ED95の約3倍)を与え、動物を自発的に回復させた。0.15mg/kgのAV002の別の用量を、100%超までに四連刺激(train of four)(TOF)から回復して約30分後に与えた。AV002の2回目の投与からの逆転を、以下のいずれかを用いて、4つの別個の動物群において試みた:
1)AV002を注射して1分後に、システイン 30mg/kgとグルタチオン 30mg/kg、
2)単収縮の回復の最初の徴候時に、システイン 30mg/kgとグルタチオン 30mg/kg、
3)AV002を注射して1分後に、ネオスチグミン 0.05mg/kgとアトロピン 0.03mg/kg、または
4)単収縮の回復の最初の徴候時に、ネオスチグミン 0.05mg/kgとアトロピン 0.03mg/kg。
【0062】
スチューデントt検定を用いて、相対的な回復間隔および総持続時間を分析した。
【0063】
(結果)
ED95投与量の約3倍に等しいAV002の投与量は、システインとグルタチオンとの組み合わせを使用した場合に、最も効率的に逆転させた。従って、AV002注射して1分後にシステインとグルタチオンとを注射すると、神経筋遮断の平均総持続時間を27.24分に減少させた(p=<0.0001)。AV002を注射して1分後にネオスチグミンおよびアトロピンを投与すると、神経筋遮断の持続時間に対して何ら効果がなかった(p=0.11)。最初の単収縮(回復の徴候)時に、システインとグルタチオンとを投与すると、最初の単収縮回復時のネオスチグミンおよびアトロピンの投与と比較して、6.81分に平均回復間隔を減少させた(p=0.03)。
【0064】
【表2】

AV002は、中間作用型非脱分極性神経筋遮断薬である。外因性のシステインおよびグルタチオンは、AV002のED95用量の3倍の投与量が投与される場合ですら、約3分で神経筋遮断を逆転させる。3分間の回復期間は、システインとグルタチオンとを、薬物注射の1分後および単収縮回復の最初の徴候時に与えた場合に観察された。比較すると、ネオスチグミンでの伝統的な逆転は、単収縮回復の最初の徴候時にネオスチグミンを与えた場合に、約10分で達成されたが、AV002注射の1分後に与えた場合に、持続時間に対して何ら効果がなかった。
【0065】
迅速な開始、挿管用量後の中間型の逆転の可能性、および広い循環安全比(circulatory safety ratio)を有する中間型持続時間との組み合わせは、AV002が、臨床の実際において使用されうる有用な神経筋遮断薬であることを示す。
【0066】
本明細書で言及されるすべての特許および刊行物は、本発明が属する分野の当業者の技術のレベルを示し、このように言及された各々の特許および刊行物は、その全体が個々に援用されるかまたは全体が本明細書に記載されたかのように同程度まで、本明細書に参考として援用される。出願人は、任意のこのような引用された特許または刊行物からのあらゆるすべての資料および情報を、本明細書に物理的に援用する権利をもっている。
【0067】
本明細書に記載される特定の方法および組成物は、好ましい実施形態の代表であり、そして例示であって、本発明の範囲に対する限定として解釈されない。他の目的、局面および実施形態は、本明細書を考慮すれば当業者に想起され、そして特許請求の範囲の範囲によって定義されるような、本発明の趣旨の範囲内に包含される。種々の置換および改変が、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、本明細書に開示される発明に対して行われうることは、当業者に容易に明らかである。本明細書に例示的に記載される本発明は、本明細書に、必至であるとして開示されていない要素がなくても、限定がなくても、適切に実施されうる。本明細書に例示的に記載される方法およびプロセスは、種々の工程の順序で適切に行われ得、そしてそれらは、本明細書または特許請求の範囲に示される工程の順序に必ずしも限定されない。本明細書および貼付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つの、ある(a)」、「1つの、ある(an)」、および「この、その、上記(the)」とは、文脈が明らかに他のものを示さなければ、複数形への言及を包含する。従って、例えば、「宿主細胞」への言及は、このような宿主細胞の複数(例えば、培養物もしくは集団)などを包含する。どんなことがあっても、本特許は、具体的に本明細書に開示される具体例または実施形態または方法に限定されるとは解釈され得ない。どんなことがあっても、本特許は、特許商標庁のいかなる審査官またはいかなる他の官僚または従業員によってなされるいかなる陳述にも、そのような陳述が具体的でなく、かつ出願人が書いている応答において明示的に採用されている制限(qualification)も条件(reservation)もない場合には、限定されると解釈され得ない。
【0068】
使用されてきた用語および表現は、説明として使用され、限定としては使用されず、そしてこのような用語および表現の使用において、示されかつ記載された特徴のいかなる等価物またはその一部を排除する意図はないが、種々の改変が、特許請求されたような本発明の範囲内で考えられることが認識される。従って、本発明は、好ましい実施形態および選択肢的な特徴によって具体的に開示されてきたが、本明細書に開示される概念の改変およびバリエーションは、当業者によって行われ得、そしてこのような改変およびバリエーションが、添付の特許請求の範囲によって定義されるような本発明の範囲内であると考えられることは、理解される。
【0069】
本発明は、広くかつ包括的に本明細書に記載されてきた。包括的な開示の範囲内のより狭い種および亜属のグループ分けの各々はまた、本発明の一部を形成する。これは、削除されたものが、本明細書に具体的に記載されているか否かに拘わらず、属からの任意の主題を取り除く但し書きまたは否定の限定付きで、本発明の包括的な記載を包含する。
【0070】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲の範囲内である。さらに、本発明の特徴または局面が、マーカッシュグループの形で記載されている場合、当業者は、本発明が、それによって、マーカッシュグループの任意の個々の構成要素または構成要素のサブグループに関して記載されていることを認識する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
【化10】

【化11】

およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、神経筋遮断剤。
【請求項2】
薬学的に受容可能なキャリアおよび哺乳動物被験体を麻痺させるに十分な量の請求項1に記載の神経筋遮断剤を含む、組成物。
【請求項3】
前記神経筋遮断剤は、以下の構造:
【化12】

を有する、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
治療目的で、哺乳動物における神経筋遮断を誘導するための方法であって、該方法は、請求項2または3に記載の組成物を該哺乳動物に投与する工程を包含する、方法。
【請求項5】
前記哺乳動物はまた全身麻酔に供される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記治療目的は、外科手術手順を含む、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記哺乳動物はヒトである、請求項4、5または6に記載の方法。
【請求項8】
哺乳動物における神経筋遮断を逆転させるための方法であって、該方法は、有効量のシステイン、N−アセチルシステイン、グルタチオン、ホモシステイン、メチオニン、S−アデノシル−メチオニン、ペニシラミン、これらの組み合わせまたはこれらの薬学的に受容可能な塩を該哺乳動物に投与する工程を包含し、ここで該神経筋遮断は、請求項4、5、6または7に記載の方法によって生じる、方法。
【請求項9】
システインが投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
グルタチオンが投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
システインとグルタチオンとの組み合わせが投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記システイン、N−アセチルシステイン、グルタチオン、ホモシステイン、メチオニン、S−アデノシル−メチオニン、ペニシラミン、これらの組み合わせまたはこれらの薬学的に受容可能な塩は、薬学的に受容可能な液体キャリアと組み合わせて静脈内投与される、請求項8〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記システイン、N−アセチルシステイン、グルタチオン、ホモシステイン、メチオニン、S−アデノシル−メチオニン、ペニシラミン、これらの組み合わせまたはこれらの薬学的に受容可能な塩は、約0.1mg/kg〜約500mg/kgの投与量において投与される、請求項8〜12に記載の方法。
【請求項14】
前記哺乳動物は、家畜または動物園動物である、請求項8〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記哺乳動物はヒトである、請求項8〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
キットであって、該キットは、別個に梱包された、以下:
(a)一定量の、請求項1に記載の神経筋遮断剤、
(b)該神経筋遮断剤に対する有効量のアンタゴニスト、および
(c)該アンタゴニストを使用して、該遮断剤が投与される哺乳動物に対する該遮断剤の効果を逆転させるように使用者に指示する、指示書
を含み、ここで該アンタゴニストは、システイン、N−アセチルシステイン、グルタチオン、ホモシステイン、メチオニン、S−アデノシル−メチオニン、ペニシラミンこれらの組み合わせまたはこれらの薬学的に受容可能な塩である、キット。
【請求項17】
前記神経筋遮断剤は、薬学的に受容可能な液体キャリアとともに組み合わせて、静脈内投与されるように処方されている、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
前記アンタゴニストは、薬学的に受容可能な液体キャリアと組み合わせて、静脈内投与されるように処方されている、請求項16または17に記載のキット。
【請求項19】
前記アンタゴニストは、システイン、グルタチオン、これらの組み合わせまたはこれらの薬学的に受容可能な塩である、請求項16〜18のいずれかに記載のキット。
【請求項20】
前記アンタゴニストは、システインとグルタチオンとの組み合わせである、請求項16〜19のいずれかに記載のキット。
【請求項21】
前記神経筋遮断剤は、以下:
【化13】

の構造を有する、請求項16〜20のいずれかに記載のキット。
【請求項22】
哺乳動物において治療的神経筋遮断を確立するために適した医薬の調製における、請求項1に記載の神経筋遮断剤の使用。
【請求項23】
哺乳動物において治療的神経筋遮断を確立するために適した医薬の調製における、以下:
【化14】

の式の神経筋遮断剤の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公表番号】特表2010−511715(P2010−511715A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540280(P2009−540280)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/024914
【国際公開番号】WO2008/070121
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(308007479)コーネル リサーチ ファウンデーション, インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】