説明

中空炭素球

【課題】比較的に大きな内部自由体積を備えた200ナノメートル未満の直径を有する中空炭素球を提供する。
【解決手段】炭素シェルおよび内部コアを有する中空炭素球が開示されている。この中空炭素球は炭素シェルの体積に該炭素シェルの内部自由体積を加えた体積に等しい総体積を有している。この内部自由体積は総体積の25%以上である。ある場合には、該中空炭素球の公称半径は10〜180ナノメートルの範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国エネルギー省によって締結された契約第DE−AC52−06NA25396号のもと、政府の支援とともに行なわれたものである。政府は、本発明において一定の権利を有するものである。
【0002】
本発明は中空炭素球、そして特に大きな内部自由体積を有する中空炭素球に関する。
【背景技術】
【0003】
中空炭素球が知られている。例えば、Xiongら(非特許文献1)は、400〜600ナノメートルの直径を有し、CClから、190〜230℃の温度で作られた中空炭素球を報告しており、Zhangら(非特許文献2)は、400ナノメートルの公称直径を備え、また金属亜鉛粉末およびエタノールを用いて作られた中空炭素球を報告しており、Suら(非特許文献3)は、シリカ球を炭素で被覆することによって作られた中空炭素球を報告しており、またWinら(非特許文献4)は300ナノメートル〜1ミクロンの範囲の直径を備えた中空炭素球を報告している。200ナノメートル未満の直径を有する中空炭素球については、米国特許第7156958号公報に3〜60ナノメートルの範囲の直径を備えた中空炭素球の製造方法が開示されており、また米国特許出願公開第2005/0079354号明細書および第2007/0220873号明細書には、20ナノメートル未満の直径を備えた中空炭素球が開示されている。しかしながら、これらの文献は中空炭素構造内部の内部コアまたは空洞の大きさを開示してはいない。対照的に、米国特許出願公開第2007/0080054号明細書には、直径が20ナノメートルの中空炭素ナノ粒子内部の5ナノメートルの内部空洞を開示しており、またPhillipsらは直径が30nmと小さい中空グラファイト粒子を製造したことを報告している(非特許文献5およびJonathan Phillips, Martin Nemer およびJohn Weigleの2006年9月7日公開の米国特許出願公開第2006/0198949号明細書)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7156958号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0079354号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0220873号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2007/0080054号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2006/0198949号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yujie Xiong、Yi Xie、Zhengquan Li、Changzheng WuおよびRong Zhang、Chem. Commun.、Royal Society of Chemistry、第2003巻、p.904〜905
【非特許文献2】Wu Zhang、Jianwei Liu、Zhen Huang、Dekun Ma、Jianbo LiangおよびYitai Qian、Chemistry Letters、日本化学会、2004年、第33巻、第10号、p.1346〜1347
【非特許文献3】Fabing Su、X. S. Zhao、Yong Wang、Likui WangおよびJim Yang Lee、J. Mater. Chem.、Royal Society of Chemistry、2006年、第16巻、p.4413〜4419
【非特許文献4】Zhenhai Wen、Qiang Wang、Qian Zhang、Jinghong Li、Electrochemistry Communiations、Elsevier、2007年、第9巻、p.1867〜1872
【非特許文献5】Jonathan Phillips、Toshi Shiina、Martin NemerおよびKelvin Lester、Langmuir 22、2006年、p.9694
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、200ナノメートル未満の直径を有する中空炭素球が開示されているが、しかしながら比較的に大きな内部自由体積を備えているこの大きさの範囲の中空炭素球は開示されていない。従って、比較的に大きな内部自由体積を備えた200ナノメートル未満の直径を有する中空炭素球が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
炭素シェルおよび内部自由体積を有する中空炭素球が開示されている。この中空炭素球は、炭素シェルの体積にこの炭素シェル内の内部自由体積を加えたものに等しい総体積を有している。この内部自由体積は総体積の25%以上である。ある場合には、中空炭素球の公称直径は、10〜180ナノメートルの範囲である。
【0008】
この炭素シェルはそれを通る経路、例えば小孔の形の経路および/またはこの炭素シェルの少なくとも一部を形成する2つの隣接した炭素粒子の間の不整合領域の形態の経路を有している。この経路は、物質をこの中空炭素球の内部に封入させることができるものであり、例えば電気活性物質、触媒物質および/または生物学的に活性な物質である。更に、この触媒物質はこの炭素シェルの表面上に配置されていてもよく、また場合によっては、この炭素シェルの外側の表面上にあってもよい。この触媒物質としては、例えば白金、パラウム、ロジウム、レニウム、鉄、ニッケル、コバルト、銀、金およびそれらの合金を挙げることができる。
【0009】
また、中空炭素球を作る方法が開示されており、この方法は、炭素が封入する犠牲コア物質を供給すること、これによって炭素シェルを形成することを含んでいる。その後、中空炭素球を生成するために、この犠牲物質をこの炭素シェルから取り出す。この中空炭素球は、球の総体積の25%以上である内部体積を有している。
【0010】
犠牲物質上への炭素の堆積には、炭素原子の縮合による堆積を含むことができる。例えば、炭素はプラズマ中で蒸発させて炭素蒸気を形成させることができ、次いで炭素原子を犠牲物質上に再配置および/または堆積することができる。更に、炭素の犠牲コア物質上への堆積としては、化学気相堆積による堆積、レーザーアブレーションによる堆積、電気アーク放電による堆積および低温溶媒和による堆積を挙げることができる。この犠牲物質は炭素シェル内部から、酸性溶解またはアルカリ性溶解によって取り除くことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、内部自由体積を備えた炭素シェルを有する中空炭素球を開示する。更に、この中空炭素球を作る方法が開示される。この中空炭素球は、その中に物質を封入するために、および/または触媒物質を担持するために用いることができる。このようにして、この中空炭素球は、電池材料、触媒担持構造材料などとしての有用性を有している。更に、この方法は、中空炭素球を作るために有用性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施態様による複数の中空炭素球の概略図である。
【図2】図2は、複数の中空炭素球の内部に電気活性物質を備えた図1に示した実施態様の概略図である。
【図3】図3は、複数の中空炭素球の表面上に触媒物質を備えた図1に示した実施態様の概略図である。
【図4】図4は、炭素シェルを通る潜在的な経路を示すTEM画像である。
【図5】図5は中空炭素球を作る方法の流れ図である。
【図6】図6は、炭素によって封入されたコア物質を作るための装置の概略図である。
【図7】図7は、犠牲物質上の炭素の外側シェルの概略図である。
【図8】図8は、犠牲物質上の外側炭素シェルのTEM画像である。
【図9】図9は、炭素によって封入されるコア物質を形成するための装置の概略図である。
【図10】図10は、中空炭素球のTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この中空炭素球は、炭素シェルの体積にこの炭素シェル内の内部自由空間の体積を加えた体積に等しい総体積を有している。この内部自由体積は総体積の25%以上である。ある場合には、この内部自由体積は総体積の50%以上であり、他の場合にはこの内部自由体積は総体積の75%以上であり、また更に他の場合にはこの内部体積は総体積の90%以上である。
【0014】
中空炭素球の公称直径は10〜180ナノメートルの範囲であることができ、またある場合には50〜150ナノメートルの範囲である。更に他の場合には中空炭素球の公称直径は、80〜120ナノメートルである。炭素シェルは2〜30ナノメートルの範囲の公称厚さを有することができ、またある場合には5〜20ナノメートルの範囲である。更に他の場合には、炭素シェルの公称厚さは7〜10ナノメートルの範囲である。
【0015】
炭素シェルは、物質がシェルを通して炭素球の中に、または外に通過することができるそれを通した経路を有することができる。この経路は、小孔および/または隣接する2つの炭素原子の間の不整合の領域の形態であることができ、そこで原子および/または分子の拡散率が高められる。
【0016】
中空炭素球は電気活性物質をその中に封入するために用いることができる。この電気活性物質はリチウムと合金になる物質および/またはリチウムを含む物質であることができる。また、中空炭素球は触媒物質のための担持構造として働くことができ、この触媒物質は炭素シェルの表面上にあることができる。この表面は炭素シェルの外側表面であることができ、またはこれとは異なり、炭素シェルの内側表面であることができる。この触媒物質は、白金、パラジウム、ロジウム、レニウム、鉄、ニッケル、コバルト、銀、金および/またはそれらの合金であることができる。
【0017】
更に、中空炭素球は生物学的活性物質を炭素シェルの内部および/または炭素シェル上に有することによって薬物送達のために用いることができる。例示のためおよび説明の目的だけのために、中空炭素球は、送達されるべき生物学的活性物質もしくは分子、および場合によっては生物学的活性分子に共有結合的に結合したポリマー、例えば抗体もしくは抗体断片をその内部に含むことができる。生物学的活性分子は、中空炭素球の内部および/または外側表面上に配置することができる。生物学的活性分子は、患者を処置するいずれかの分子であることができ、例としてはタンパク質、炭水化物もしくは多糖、核酸、脂質、それらの組み合わせ、または有機および無機物質を含む合成分子が挙げられる。
【0018】
ある場合には、中空炭素球は注入可能な粒子として用いることができ、中空炭素球は送達されるべき物質およびポリ(アルキレングリコール)とポリ(乳酸−co−グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)またはポリ無水物との共重合体を有しており、ポリ(アルキレングリコール)は抗体もしくは抗体断片に共有結合的に結合している。このように、中空炭素球は、高度に活性で、また有効であり、全身的に投与された場合には重大な副作用を発生させる薬物を、長期間に亘って放出するのに用いることができる。制御された放出が、封入されていない薬物の全身的投与に伴う有毒な副作用を大体において低減することは、高く評価される。また、ポリマーマトリックスも、短い生物学的半減期をもつ薬物のプラズマ中での劣化に対して薬物への保護を提供することができる。
【0019】
中空炭素球の製造方法は、犠牲物質を準備すること、炭素シェルを形成するためにこの犠牲物質上に炭素を堆積させること、および中空炭素球を生成させるためにこの犠牲物質を取り除くこと、を含むことができる。この犠牲物質は、酸性溶解またはアルカリ性溶解によって炭素シェルの内部から取り除くことができるいずれかの物質であることができる。
【0020】
ある場合には、乾燥した前駆体粉末、液体および/または液体の蒸気の形態の前駆体を供給することができ、この前駆体はエーロゾルガス中に懸濁され、この前駆体を含むエーロゾルを生成することができる。更に、このエーロゾルは、このエーロゾル中の前駆体の少なくとも一部を蒸発させながら、ホットゾーンを有するプラズマを通り抜けることができる。この前駆体からの原子の、また場合によっては同様にエーロゾルガスからの原子の再編成によって、ホットゾーン中で新しい粒子を作り出すことができる。
【0021】
エーロゾルガスは、この新しい粒子を、ホットゾーンの外に、そして極めて迅速な冷却が起こっているプラズマ残光領域中へと運ぶことができる。この粒子は、次いで周囲温度に近い区域中に運び、ここでこの粒子は通常はフィルタでエーロゾルガスから取り除くことができる。この後に、コア物質を炭素シェル内部から取り除くために、酸性溶解またはアルカリ性溶解を用いることができる。
【0022】
プラズマのホットゾーンは高い電磁エネルギーの領域であることができ、これは無線周波数、マイクロ波エネルギーまたは直流電流放電を用いて発生させることができる。このプラズマは非酸化プラズマおよび場合によっては、マイクロ波エネルギーをカップラー内部に集中させることによって発生させたプラズマの、低出力の大気圧もしくは近大気圧プラズマである。
【0023】
エーロゾルガスは不活性ガスであることができ、例としてはヘリウム、アルゴンおよびこれらの組み合わせを挙げることができる。更にこの方法は、エーロゾルに加えてプラズマガスをプラズマのホットゾーンを通過させることを含み、このプラズマガスはまた不活性ガスである。ある場合には、コア物質はリチウム合金化材料であり、錫、ケイ素、アルミニウム、ゲルマニウム、これらの組み合わせ等の元素を含んでいてもよい。
【0024】
ここで図1に注目すると、中空炭素球の実施態様が参照番号10でおおまかに示されている。実施態様10は、1つまたはそれ以上の中空炭素球100を含んでいることができ、この中空炭素球100は炭素シェル110および内部自由体積120を有している。中空炭素球100は半径112を含むことができ、半径112は球の中心102から炭素シェル110の外側表面116に延びている。更に、中空炭素球100は内半径124を有することができ、内半径124は球の中心102から内側表面118に延びている。このように、中空炭素球100は4/3πRに等しい総体積を有することができ、ここでRは図1に示されるように半径112に等しい。同様に、中空炭素球100は4/3πRに等しい内側自由空間体積を有することができ、ここでRは図1に示すように内半径124に等しい。
【0025】
ある場合には、内側自由空間体積は中空炭素球100の総体積の25%以上に等しい。他の場合には、内側自由空間体積は総体積の50%以上、また更に他の場合には、内側自由空間体積は総体積の75%以上である。更に他の場合には、内側自由空間体積は総体積の90%以上である。
【0026】
炭素シェル110は、それを通過する経路を有することができる。例えば、そして説明の目的のみで、この経路は図1に示したような小孔114の形態であることができる。小孔114は、炭素シェル110を通して原子および/または分子を通過、移動および/または拡散させることができる。更に、この経路は、炭素シェル110の一部である隣接する炭素粒子の間の不整合領域によって提供することができる。例えば、図4は、113で図示されるように異なる方向を有する2つの隣接する粒子111を有する中空炭素球の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示している。この粒子111は、その上に略図を描かれた炭素原子の列に相当する線を有しており、これによって2つの粒子111が同じ方向を有していないことを図示している。このように2つの隣接する粒子111の間に位置する領域113が、それを通した原子および/または分子の拡散率を向上させることが理解される。このように、酸またはアルカリ溶液からの原子および/または分子は炭素シェルを通過し、そして犠牲物質と接触することができる。同様に、溶解された犠牲物質は、中空炭素球100を出て行くことが出来る。
【0027】
図2に注目すると、中空炭素球100はその内部に封入された電気活性物質135を有することができる。電気活性物質135としては、リチウム合金化物質を挙げることができる。電気活性物質135は、先ず炭素シェル110の上記の経路を通過させることによって中空炭素球100の内部に堆積させることができる。
【0028】
図3を見ると、中空炭素球100は、炭素シェル110によって担持された触媒物質140を有している。触媒物質140は炭素シェル110の外側表面116上、および/または内側表面118上に存在することができる。生物学的活性物質または分子を炭素シェル110の内部および/または上に配置することができ、そしてそれによって中空炭素球が薬物送達に用いられるようにできることが理解される。
【0029】
図5に注目すると、中空炭素球を製造する実施態様が参照番号20でおおまかに示されている。方法20は、工程200で粉末、液体および/または液体の蒸気の形態の前駆体を準備すること、そして工程202で、この前駆体をプラズマトーチを通して通過させることを含んでいる。工程202でプラズマトーチを通して前駆体を通過させることで、前駆体の内部に含まれるシェル物質の少なくとも一部およびコア物質の少なくとも一部が蒸発する。この蒸発した物質は、次いで縮合されて、工程204でコアシェル構造ナノ粒子を形成する。この後に、外側シェル内部にある犠牲物質が取り除かれ、そして中空炭素球が生成される。
【0030】
図6は参照番号30の、コアシェル構造ナノ粒子を製造するための装置の概略図である。この図に示されるように、エーロゾルガス300が入口管310を通して、前駆体322を収容する前駆体容器320中へと通過する。エーロゾル300が前駆体容器322中に十分な流速で流入することで、前駆体322がエーロゾルガス300中に懸濁することをもたらし、エーロゾルを生成する。前駆体322はコア物質およびシェル物質を含むことができる。前駆体322はまた、コア/シェル構造ナノ粒子のコアおよび/またはシェル内に組み込まれないが、しかしながら全体の過程の中で何らかの仕方で役立つために存在していてもよい元素を含むことができる。
【0031】
このエーロゾルが生成された後に、エーロゾルは出口管330を通して通過または流出することでき、出口管330の少なくとも一部はプラズマトーチ340中を通過している。ある場合には、出口管330はセラミック部分332を有しており、それは通常は導波管360の中央で末端部をなしている。導波管360はマイクロ波エネルギーをプラズマトーチ340に結びつけるために用いられる。また、プラズマガス350が含まれていてもよく、これはプラズマトーチ340内であるが、しかしながらエーロゾルを通過させる出口管330のセラミック部分332の外側を通過する。マイクロ波エネルギーを導波管360でプラズマトーチ340に集中させることで、プラズマトーチ340内に位置するホットゾーン342を備えたプラズマを発生することができる。前駆体322を備えたエーロゾルがプラズマトーチ340のホットゾーン342を通過する時は、ホットゾーン342の温度は前駆体322の少なくとも一部が蒸発するような温度である。蒸発した前駆体322はプラズマトーチ340のホットゾーン342を出て、そして排気塔領域370中に入る。ホットゾーン342を出ると、蒸発した前駆体の原子は固体粒子へと縮合する。
【0032】
前駆体322がコア物質およびシェル物質を含むのであれば、エーロゾルがプラズマトーチ340のホットゾーン342を通過するか、または流れることで、コア物質の少なくとも一部およびシェル物質の少なくとも一部の蒸発をもたらす。この後に、コアおよびシェル物質原子は、コアシェル構造ナノ粒子へと縮合する。このコアシェル構造ナノ粒子は、粒子フィルタ390、排気塔領域370の内側表面および/または粒子補足器(示されていない)から収集することができる。
【0033】
コアシェル構造ナノ粒子が収集された後に、それらは酸性またはアルカリ性の浴中に置くことができる。この酸性またはアルカリ性の浴は犠牲物質もしくは内部コアと接触して、そしてそれらの溶解をもたらす。このようにして、中空炭素球が生成される。
【実施例】
【0034】
本発明の実施態様をより良く説明するために、中空炭素球が生成される方法の例を以下に与える。
【0035】
実施例1
図6を参照すると、マイクロメートル錫粒子と結晶性アントラセン粒子との混合物を、手を使って粉砕して乾燥した前駆体粉末322を生成することで、乾燥前駆体粉末を準備した。錫とアントラセンの質量比は50:1であり、錫粒子は50μmの平均直径を有しており、そして錫粒子とアントラセン結晶の混合物は生成物が完全に均一に見えるまで手を使って粉砕した。乾燥前駆体粉末322を前駆体粉末容器320の内部に配置した。標準温度および圧力(STP)で、分当たり200立方センチメートル(cc/分)の流速のアルゴンをプラズマガスとして用い、そしてプラズマトーチ340を通過させた。
【0036】
乾燥前駆体粉末322を含むエーロゾルを生成するために、STPで300cc/分の流速のアルゴンをエーロガス300として用い、そして前駆体粉末容器320中に通過または流入させた。前駆体粉末容器320中に流入させること、そして次いでそこから出口管330を通して排出することで、エーロゾルガス300は乾燥前駆体粉末322からの錫粒子およびアントラセン粒子をその中に懸濁させて有しており、それによってエーロゾルを生成した。錫およびアントラセン粒子を含むこのエーロゾルは出口管330のセラミック部分332を出て、そして導波管部360の概ね中央でプラズマのホットゾーンに入った。導波管部360はマイクロ波エネルギーをプラズマトーチ340に、約900ワットの吸収パワーが存在するように、結びつけた。この例では、プラズマトーチは石英管で作られた。プラズマ自体は石英トーチ340内部に閉じ込められ、そしてプラズマガスおよびエーロゾルの滞留時間は例えば1秒未満であった。この後に、新しい粒子がホットゾーンから残光領域に通過し、そして最終的に周囲温度に近い区域へと通過した。これらのパラメータを用いることで、50ナノメートルの平均直径および比較的に狭い粒径分布を備えた錫コアおよび炭素シェルを有するコアシェル構造ナノ粒子が生成された。図7は、このような参照番号210のナノ粒子の概略を示しており、コアシェル構造ナノ粒子210は内部コア212および外側シェル214を有している。図8は、上記のパラメータを用いて生成された実際の錫コア−炭素シェルナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示している。
【0037】
コアシェル構造ナノ粒子が生成された後に、内部コアの犠牲物質を米国特許第3986970号明細書中に開示された溶解法を用いて取り除いたが、これを参照によりその全体をここに組み込む。
【0038】
上記の例では錫−炭素ナノ粒子を生成したが、他の前駆体粉末物質を用いて他のコアシェル構造ナノ粒子を生成することができることが理解され、例えば、説明の目的のみで、アルミニウムのミクロンの大きさの粒子およびアントラセンを前駆体物質として用いて、アルミニウム−炭素ナノ粒子を生成することができる。
【0039】
図9を参照すると(同様の符号の数値は、図6で参照された同様の要素と対応している)、ヘキサン(C14)および/またはその蒸気の形態の液体炭素源327に加えて、上記の実施例1に記載したように乾燥前駆体粉末を準備した。ヘキサンは室温で無色の液体であり、−95℃で溶融し、69℃で沸騰し、また20℃および1気圧において132mmHgの蒸気圧を有することが理解される。更に、他の液体炭素源および、液滴および/またはその蒸気を不活性ガス中に混合する他の方法(例えば、直接にヘキサンエーロゾルを生成するヘキサンの超音波振動)も本発明の範囲内で用いることができることが理解される。
【0040】
図9に示したように、液体炭素源327は容器325中に配置され、エーロゾルガス300を容器325中、そして炭素源327の上方に流入させ、その後容器325から排出させた。このように、エーロゾルガス300が容器325から排出されそして容器320に流入する時に、炭素源の蒸気はエーロゾルガス300中に懸濁される。この場合、プラズマトーチ340において約900ワットの吸収されたパワーが存在し、プラズマおよびエーロゾルガスとしてアルゴンが用いられた。さらに、プラズマガス350の250cc/分の流速、エーロゾルガス300の30cc/分の流速、そしてエーロゾルガス300の160cc/分の流速が、錫コア−炭素シェルナノ粒子を与えた。
【0041】
コアシェル構造ナノ粒子が生成された後に、前の実施例中に記載したように犠牲物質を取り除いたが、図10にこの方法で生成した中空炭素球のTEM画像を示した。
【0042】
本発明は、特定の流速、組成または構成によって拘束されないことが理解される。更に、上記の実施例は2つのガス流系を有する方法であって、それぞれのガス流が異なる全体組成を有し、またプラズマホットゾーンでのみ合流し、そして混合される方法を開示しているが、他のガス流および/またはプラズマ系も本発明の範囲内に含まれる。例えば、そして説明の目的のみで、1つの流動ガス系を有する直流(DC)放電を用いた方法で、エーロガスおよびプラズマガスが同じガスである方法も開示された発明の方法の範囲にある。上記の実施例中に記載したように、2つのガス流系ではエーロガスおよびプラズマガスが互いにホットゾーンの中央で混合されるのとは反対に、この方法はプラズマを通して流れる全てのガスおよび前駆体がホットゾーンに達する前によく混合されていることをもたらす。
【0043】
前述の図面、議論および記載は本発明の具体的な実施態様を説明するものであるが、しかしながらこれらはその実施を制限することを意図したものではない。ここに与えられた教示に照らして、当業者には本発明の多くの変更および変化が直ちに明らかである。本発明の範囲を定義するのは次の特許請求の範囲であり、全ての均等物を含んでいる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
総体積を有する炭素シェル;
内部自由体積を有する内部コア;を含む中空炭素球であって、
該総体積は該炭素シェルの体積に該内部自由体積を加えた体積に等しく;
該内部自由体積は該総体積の25%以上である、中空炭素球。
【請求項2】
公称直径が10〜180ナノメートルの範囲である、請求項1記載の中空炭素球。
【請求項3】
前記の内部コア内に封入された生物学的活性物質を更に含む、請求項1記載の中空炭素球。
【請求項4】
前記の炭素シェルの表面上に触媒物質を更に含む、請求項1記載の中空炭素球。
【請求項5】
前記の表面が前記の炭素シェルの外側表面である、請求項4記載の中空炭素球。
【請求項6】
前記の触媒物質が、白金、パラジウム、ロジウム、レニウム、鉄、ニッケル、コバルト、銀、金およびそれらの合金からなる群から選ばれる、請求項4記載の中空炭素球。
【請求項7】
物質からなる内部コア用に犠牲物質を準備すること;
炭素シェルを形成するために該物質からなる内部コア上に炭素を堆積させること;および
中空炭素球を生成するために該物質からなる内部コアを取り除くことを含む中空炭素球の製造方法であって、該中空炭素球が、
総体積を有する炭素シェル;
内部自由体積を有する内部コア;を有する中空炭素球であって、
該総体積は該炭素シェルの体積に該内部自由体積を加えた体積に等しく;
該内部自由体積は該総体積の25%以上である、中空炭素球である方法。
【請求項8】
該中空炭素球が10〜180ナノメートルの範囲の公称直径である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記の物質からなる内部コア上への炭素の堆積が前記の犠牲物質上への炭素原子の縮合による堆積である、請求項7記載の方法。
【請求項10】
プラズマで炭素を蒸発させて炭素蒸気を形成することを更に含む、請求項7記載の方法。
【請求項11】
前記の犠牲物質上への炭素の堆積が、化学気相堆積による堆積、レーザーアブレーションによる堆積、電気アーク放電による堆積および低温溶媒和による堆積からなる群から選ばれる、請求項7記載の方法。
【請求項12】
前記の物質からなる内部コアの除去が前記の内部コア物質の酸性溶解による、請求項7記載の方法。
【請求項13】
前記の物質からなる内部コアの除去が前記の内部コア物質のアルカリ性溶解による、請求項7記載の方法。
【請求項14】
前記の中空炭素球内部に生物学的活性物質を封入することを更に含む、請求項7記載の方法。
【請求項15】
前記の中空炭素球の表面上に触媒物質を堆積することを更に含む、請求項7記載の方法。
【請求項16】
前記の中空炭素球の表面が、該中空炭素球の外側表面である、請求項15記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図9】
image rotate

【図4】
image rotate

【図8】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−222239(P2010−222239A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−38831(P2010−38831)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(507342261)トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド (135)
【出願人】(510051163)リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ニューメキシコ (3)
【出願人】(510051174)ロスアラモス ナショナル ラブ (2)
【Fターム(参考)】