説明

中空糸型血液浄化装置およびその製造方法

【課題】 本発明は、血液に対する抗酸化作用が確実に向上した、また、脂溶性ビタミンの含有量が多くても滅菌による血液浄化用中空糸膜のクラックやリークがない中空糸型血液浄化装置およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 疎水性高分子と親水性高分子よりなり、脂溶性ビタミンを含有する血液浄化用中空糸膜の複数本を容器に充填し、該中空糸膜の膜壁により血液側流路と濾液側流路に隔てて流路を形成する中空糸型血液浄化装置であって、前記血液浄化用中空糸膜は脂溶性ビタミンを膜面積換算で70mg/m以上300mg/m以下の範囲で含有し、かつ血液浄化装置は放射線滅菌されていることを特徴とする中空糸型血液浄化装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血液、血漿等の体液を透析、濾過透析、濾過等の原理により浄化する血液浄化療法に用いられる血液浄化装置およびその製造方法に関する。特に、脂溶性ビタミンを含有した中空糸膜を用いる血液浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、血液、血漿等の体液を浄化する血液浄化療法が普及し、各種疾患に罹患した患者の治療に応用されている。血液浄化療法に用いられる中空糸を用いた血液浄化装置を例示すると、例えば血液透析器、血液濾過透析器、血液濾過器、持続式血液濾過(透析)器、血漿分離器、血漿成分分離器、腹水濾過器、腹水濃縮器、人工肺、等が例示できる。これらの血液浄化装置は日々改良されており、特に血液適合性の観点からの改良が進められている。
【0003】
血液透析を例にとって説明すると、長期透析患者では透析アミロイドーシス、動脈硬化など種々の合併症が見られ、その発症の一因として酸化ストレスの亢進が挙げられる。酸化ストレスとは酸化能が抗酸化能を上回った状態であり、透析患者では血液と透析膜の接触により活性化された白血球によるフリーラジカルの産生亢進や、ビタミンCやビタミンEなどの血中の抗酸化物質の減少により、酸化ストレスが亢進した状態となっている。
【0004】
血液中にはスーパーオキシドジスムターゼ、尿酸、ビタミンC、ビタミンE、カロチノイドなどの種々の抗酸化物質があるが、透析患者の場合、血液中や赤血球膜のビタミンE濃度の低下が報告されている。ビタミンE濃度の低下が脂質などの酸化亢進や赤血球寿命の低下を引き起こし、透析患者の長期合併症である透析アミロイドーシス、動脈硬化性疾患、悪性腫瘍増加、貧血の原因となることが示唆されている。そのため、透析患者が受ける酸化ストレスを抑制することにより、患者のQOL(Quality of life)や予後を改善する可能性が高いことが指摘されている。
【0005】
透析患者が受ける酸化ストレスを軽減する方法は幾つか考えられるが、その一つとして、抗酸化能を有する血液透析膜(血液透析器)を用いた血液透析方法が提案され、数多くの臨床例が報告されている。血液透析膜の主たる素材としては、樹脂としての汎用性、耐熱・耐放射線特性、生体適合性等の理由から、近年ではポリスルホン系高分子等の疎水性合成高分子が主流となっている。しかし、膜の血液接触面の疎水性が強すぎると血液凝固が起こるため、通常は親水性高分子とのポリマーブレンドや親水性高分子による表面改質により形成された膜が使用されている(特許文献1および2)。そして、このように内表面や膜全体を親水化した疎水性高分子膜において、脂溶性ビタミンを固定した中空糸膜が血液適合性により一層優れていることが知られている(特許文献3〜5)。
【0006】
これらの特許文献には、いずれも膜中の脂溶性ビタミンの含浸量が記載されており、例えば、特許文献3では1〜5000mg/m(好ましくは10〜1000mg/m)、特許文献4では1〜1000mg/m(好ましくは10〜100mg/m)、特許文献5では1〜1000mg/m(好ましくは10〜300mg/m)という範囲が記載されている。
【0007】
しかしながら、本発明者らがこれらの特許文献に開示された条件について検討した結果、脂溶性ビタミンの含浸量が多くなるに従って、オートクレーブ(AC)滅菌した際に中空糸膜にクラック、すなわち大小を問わず亀裂が発生しやすくなることが判った。一般に、脂溶性ビタミンの含浸量が多いほど抗酸化能も高くなると思われるが、この知見は、実用に際し十分効果のある抗酸化能を発現させ得るために脂溶性ビタミンの含浸量を増やすと、中空糸膜がリークを起こす可能性が高くなることを示唆しており、実用上好ましくない領域があることを示している。
【0008】
また、脂溶性ビタミンの含浸量については、いずれも中空糸膜全体の量や表面からの抽出量で説明されるに留まり、膜構造中における分布については詳細な知見がなかった。このことは、中空糸膜全体として見れば十分高い含浸量であっても、実用に際して期待する効果効能が得られない可能性があることも示唆している。血液が接触する中空糸膜内表面近傍も同様に高い含浸量とは限らないからである。
【0009】
以上述べたように、疎水性高分子と親水性高分子からなり、さらに脂溶性ビタミンを含有する中空糸膜を充填した血液浄化装置において、滅菌処理されていても中空糸膜がリークを起こす可能性が極めて低く、しかも効果効能を十分発揮できるように中空糸膜内表面近傍に脂溶性ビタミンを分布した中空糸膜が必要と考えられたが、そのような中空糸膜が充填された血液浄化装置はこれまで知られていなかった。
【特許文献1】特開平6−238139号公報
【特許文献2】国際公開第98/52683号パンフレット
【特許文献3】特開平9−66225号公報
【特許文献4】特開平10−244000号公報
【特許文献5】特開平11−347117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑み、血液に対する抗酸化作用を確実に向上させ、また、脂溶性ビタミンの含有量が多くても滅菌による血液浄化用中空糸膜のクラックやリークがない血液浄化装置およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した。その結果、疎水性高分子と親水性高分子からなり、さらに脂溶性ビタミンを含有する血液浄化用の中空糸膜を充填した血液浄化装置において、脂溶性ビタミンの膜全体の含有量と、膜内表面近傍の濃度、または滅菌条件を特定することで、従来技術の問題点が解決できることを見出した。具体的には、前記中空糸膜が70mg/m以上300mg/m以下の脂溶性ビタミンを含有し、このような中空糸膜を充填した血液浄化装置を放射線滅菌したもの、また、血液と直接接触する中空糸内表面近傍に存在する脂溶性ビタミン含有量が、中空糸内表面近傍に存在する前記疎水性高分子と親水性高分子の総量に対し2.5%以上30.0%以下であるような中空糸膜を充填した血液浄化装置が、中空糸膜のリークを起こし難く、血液に対し優れた抗酸化作用を有することを見出した。
また、放射線滅菌により、中空糸膜中の親水性高分子が不完全に(適度に)架橋した、即ち部分架橋した構造をとるので、親水性高分子の溶出による孔径の変化を起こし難いことを見出し、これらを以って本発明を完成するに至った。
即ち本発明は以下を含む。
(1)疎水性高分子と親水性高分子よりなり、脂溶性ビタミンを含有する血液浄化用中空糸膜の複数本を容器に充填し、該中空糸膜の膜壁により血液側流路と濾液側流路に隔てて流路を形成する中空糸型血液浄化装置であって、前記血液浄化用中空糸膜は脂溶性ビタミンを膜面積換算で70mg/m以上300mg/m以下の範囲で含有し、かつ血液浄化装置は放射線滅菌されていることを特徴とする中空糸型血液浄化装置。
(2)疎水性高分子と親水性高分子よりなり、脂溶性ビタミンを含有する血液浄化用中空糸膜の複数本を容器に充填し、該中空糸膜の膜壁により血液側流路と濾液側流路に隔てて流路を形成する中空糸型血液浄化装置であって、前記血液浄化用中空糸膜の血液流路側表面に存在する脂溶性ビタミン含有量が、中空糸内表面近傍に存在する前記疎水性高分子と親水性高分子の総量に対し2.5%以上30.0%以下の範囲であることを特徴とする中空糸型血液浄化装置。
(3)さらに、血液浄化用中空糸膜は脂溶性ビタミンを膜面積換算で70mg/m以上300mg/m以下の範囲で含有するものである、上記(2)に記載の中空糸型血液浄化装置。
(4)前記血液浄化用中空糸膜の血液流路側表面に存在する脂溶性ビタミン含有量が、中空糸内表面近傍に存在する前記疎水性高分子と親水性高分子の総量に対し2.5%以上30.0%以下の範囲である上記(1)に記載の中空糸型血液浄化装置。
(5)さらに、該親水性高分子が部分架橋している上記(1)〜(4)の何れかに記載の中空糸型血液浄化装置。
(6)前記親水性高分子の含有量が総高分子量の1〜18重量%であり、ジメチルアセトアミドに可溶性の親水性高分子量が総親水性高分子量の25重量%以上95重量%以下である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の中空糸型血液浄化装置。
(7)前記疎水性高分子がポリスルホン系樹脂であり、前記親水性高分子がポリビニルピロリドンである上記(1)〜(6)の何れかに記載の中空糸型血液浄化装置。
(8)中空糸内表面近傍が、中空糸の血液側内表面から1〜5nmの層である上記(1)〜(7)のいずれかに記載の中空糸型血液浄化装置。
(9)疎水性高分子と親水性高分子よりなる血液浄化用中空糸膜の複数本を容器に充填し、該中空糸膜の膜壁により血液側流路と濾液側流路に隔てて流路を形成する中空糸型血液浄化装置の製造方法において、該血液流路側に、脂溶性ビタミンを溶媒に溶解した脂溶性ビタミン溶液を通液し、次に余分な脂溶性ビタミン溶液を除去した後に溶媒を乾燥除去し、しかる後に血液浄化装置を放射線滅菌することを特徴とする中空糸型血液浄化装置の製造方法。
(10)脂溶性ビタミンの溶媒がイソプロピルアルコールである上記(9)に記載の中空糸型血液浄化装置の製造方法。
(11)乾燥後放射線滅菌をする前に、水系溶液で中空糸膜を湿潤化する上記(9)又は(10)に記載の中空糸型血液浄化装置の製造方法。
(12)放射線滅菌が、少なくとも中空糸膜に滅菌保護剤を付与した状態で滅菌するものである上記(9)〜(11)の何れかに記載の中空糸型血液浄化装置の製造方法。
(13)脂溶性ビタミン溶液の濃度が、0.2〜2.0%である上記(9)〜(12)のいずれかに記載の中空糸型血液浄化装置の製造方法。
(14)脂溶性ビタミン溶液の中空糸膜への通液が、中空糸膜の外表面に水を存在させた状態で行うものである、上記(9)〜(13)のいずれかに記載の中空糸型血液浄化装置の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の血液浄化装置は、そこに充填された中空糸膜が血液に対して優れた抗酸化作用を示し、また、滅菌によるリークを起こすことが無い血液浄化装置である。また、該中空糸膜は血小板活性化を抑制しており、さらには膜中の疎水性高分子が部分架橋しているので膜成分の溶出の発生を抑制し、膜の孔径の変化を起こし難い。したがって、血液透析等に使われる血液浄化装置として優れた特性を持ち合わせている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明でいう疎水性高分子とは、水に溶解しないか或いは水に親和性を示さない合成または天然高分子を言い、例示すると、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン−ポリアリレートのポリマーアロイ、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリルエーテルケトン、セルローストリアセテート、セルロースジアセテートなどが挙げられる。中でも、ポリマーとしての組成の均一性から合成高分子が好ましく、特にポリスルホンは、血液浄化用途での好適な臨床実績が数多くあり、原料としての安定供給性に優れるため特に好ましい。本発明でいうポリスルホンには、芳香環の一部が化学修飾されたものの他に、ポリフェニルスルホンやポリアリルエーテルスルホン等のいわゆる類縁化合物も含まれる。
【0014】
親水性高分子とは、水に可溶であり、かつ物理的処理および/または化学的処理により架橋し、それにより水に対し不溶化し得る物質を言い、例示するとポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ハイドロキシプロピルセルロース(HPC)、デンプン、ハイドロキシエチルスターチ(HES)等が挙げられる。中でも、ポリビニルピロリドンとポリエチレングリコールは中空糸膜の孔形成性が良いため好ましく、ポリビニルピロリドンが特に好ましい。
本発明でいう中空糸膜は、上記の疎水性高分子と親水性高分子とを含むが、それらの存在形態は特に限定されない。例えば、相溶性の高い成分同士がポリマーブレンドされたものや、疎水性高分子の膜基材に親水性高分子をグラフトしたものでもよい。あるいは、疎水性成分と親水性成分からなる共重合高分子を用いることもできる。その例としては、PVPとPSfとのブロック共重合体やPEGとPSfとのブロック共重合体等が挙げられる。
【0015】
脂溶性ビタミンとは、一般に水に溶けにくく、アルコールや油脂に溶けるビタミンを言い、例示すると、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKおよびユビキノン等が挙げられるが、これらの中では、ビタミンEが好適である。ビタミンEとしては、α−トコフェロール、α−酢酸トコフェロール、α−ニコチン酸トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール等が挙げられる。中でもα−トコフェロールは生体内抗酸化作用、生体膜安定化作用、血小板凝集抑制作用 などの種々の生理作用を有するため、特に好ましい。
【0016】
本発明でいう血液浄化用中空糸膜とは、血液透析器、血液濾過透析器、血液濾過器、持続式血液濾過(透析)器、血漿分離器、血漿成分分離器、腹水濾過器、腹水濃縮器、人工肺等に用いられる中空糸膜であり夫々の用途に適した孔径を持つ、疎水性高分子と親水性高分子からなり脂溶性ビタミンを含有する血液浄化用中空糸膜を言う。患者が受ける酸化ストレスは、体外循環治療の繰り返しや長期化によっても累積されることを考慮すると、高頻度かつ長期間にわたって実施される血液透析または血液濾過透析において、本発明を血液透析器や血液濾過透析器として用いることが好ましい。
【0017】
本発明の中空糸膜を充填した血液浄化装置における血液側流路とは、中空糸膜によって隔てられた中空糸膜内側の空間または中空糸膜外側と容器内側との間に形成される空間を言い、血液の流れる空間を言う。血液透析器等、中空糸膜の内腔部を血液が流れる場合は中空糸膜内面側の空間のことであるが、例えば人工肺のように中空糸膜の内腔をガスが流れる場合は、中空糸膜外側と容器内側との間に形成される空間のことをいう。
【0018】
本発明の中空糸膜を充填した血液浄化装置における濾液側流路とは、血液側流路と中空糸膜を隔てた空間であって、前記の血液側流路とは反対側の空間を言い、濾液や透析液の流れる空間を言う。血液透析器等、中空糸膜の内腔部を血液が流れる場合は中空糸膜外側と容器内側との間に形成される空間のことであるが、例えば人工肺のように中空糸膜の内腔をガスが流れる場合は、中空糸膜内側の空間のことをいう。
【0019】
なお、以下の説明は全て、血液透析器のように中空糸膜の内腔部を血液が流れる場合を想定して説明するが、中空糸膜の内腔部に血液が流れない場合は、中空糸膜の内外を反対に読み替えるものとする。
【0020】
本発明の血液浄化装置に充填される血液浄化用中空糸膜は、脂溶性ビタミンを膜面積換算で70mg/m以上300mg/m以下の範囲で含有している必要がある。ここでいう膜面積とは濾過や透析に関与する中空糸膜の実効総内表面積のことであり、中空糸膜の平均内径、円周率、本数および有効長の積で示される。該脂溶性ビタミンが膜面積換算で70mg/mより少ないと、脂溶性ビタミンの被覆にむらが生じやすいので、抗酸化能力に劣る。反対に、300mg/mより多いと、膜全体の表面、例えば、中空糸内表面以外の血液が接触しない中空糸内部や中空糸外表面にも多量の脂溶性ビタミンが付着してしまうので、膜全体の疎水性が強まる。その結果、血液成分や濾過液あるいは透析液などの透過能力が低下するだけではなく、抗血栓性が低下し残血が発生する。
さらに、詳細は後述するが、滅菌時の熱履歴や熱水との接触により、該脂溶性ビタミンが局所凝集を起こして中空糸内にクラックが発生することがある。従って、より好ましい含有量の範囲は80mg/m以上250mg/m以下であり、さらに好ましくは100mg/m以上200mg/m以下である。
【0021】
また、本発明においては、膜構造中の局所的な含有量を特定することが重要である。すなわち、脂溶性ビタミンの含有量は中空糸の濾液流路側よりも血液流路側、言い換えれば中空糸内表面近傍に多くすることが必要であり、中空糸内表面の近傍に存在する前記疎水性高分子と親水性高分子の総量に対し、血液流路側の脂溶性ビタミンは2.5%以上、30.0%以下の範囲であることが必要である。その理由は、血液が接触する中空糸内表面に存在する脂溶性ビタミンが血液の酸化を抑制する効果をより高めるためと考えられる。中空糸内表面の抗酸化能を考慮すると、その含有量が高いほうが好ましく思われるが、必要以上に高いと前述のとおり内表面の疎水性が高くなりすぎて血液凝固系を刺激するおそれがある。反対に、低すぎると本来の効果を発揮し得ない。従って、より好ましくは3.5%以上、25.0%以下の範囲であり、さらに好ましくは4.5%以上、20.0%以下の範囲である。
【0022】
中空糸内表面近傍の脂溶性ビタミン存在量を測定する方法は、TOF−SIMS(Time−of−Flight Secondary Ion Mass Spectrometry、時間飛行型二次イオン質量分析装置)が最適であり、以下にその妥当性を示す。
【0023】
TOF−SIMSは、固体試料の最表面の成分(原子、分子)およびその分布をppmオーダーの極微量オーダーにて捕らえることが可能な装置である。原理としては、高真空中で高速のイオンビーム(1次イオン)を固体試料表面にぶつけると、スパッタリング現象により、表面の構成成分がはじき飛ばされ、このとき発生する正または負の電荷を帯びたイオン(2次イオン)を電場によって一方向に飛ばして、一定距離離れた位置で検出するものである。特に、TOF−SIMSの場合は1次イオン照射量 が著しく少ないため、有機化合物は化学構造を保った状態でイオン化され、固体試料表面の最も外側で発生した2次イオンのみが、真空中へ飛び出す原理になっている。そのため、中空糸膜の最表面の情報を得ることが可能となる。さらに、イオンを検出する方法が、電子や光を検出する方法と比べて感度がよいため、TOF−SIMSは中空糸膜の表面に存在するppmオーダーの微量成分をも検出することができる長所も有する。このような点から、TOF―SIMS法は、酸化ストレス等の血液適合性を確実に反映する中空糸内表面近傍、すなわち、中空糸膜内表面の極めて薄い層である1〜5nm付近に存在する脂溶性ビタミン存在量を適切に測定できる極めて有効な手法である。
【0024】
本発明の血液浄化装置は、滅菌方法として放射線滅菌されていることが必要である。血液浄化装置に充填された中空糸膜において、脂溶性ビタミンの含有量が70〜300mg/mと多い場合、高温高湿条件を伴うオートクレーブ滅菌では脂溶性ビタミンが局所的凝集を起こすことにより、中空糸膜にクラックが発生する。これが原因となって血液リークが起こる可能性が高まる。また、ホルマリンやエチレンオキサイトガスのような薬剤(ガス)滅菌の場合には、薬剤の残留による副作用が問題となるため使用することができない。
一方、放射線滅菌では中空糸膜のリークの問題も起こらず、薬剤残留の問題もないばかりか、放射線の照射エネルギーによって親水性ポリマーが架橋することにより、親水性ポリマーの溶出を抑えることも可能となる。オートクレーブ滅菌や薬剤滅菌では親水性高分子の架橋が起こらず、親水性ポリマーの溶出を抑えることはできない。
【0025】
本発明において、ジメチルアセトアミド(以下、DMACと称する)に可溶性の親水性高分子含有量は、総親水性高分子量の25重量%以上95重量%であることが好ましい。DMACに可溶性の親水性高分子含有量(%)が25重量%未満であると、親水性高分子は強固に不溶化された状態で膜に存在し、親水性高分子溶出は極めて少ないが残血がひどくなる傾向にあり、95重量%を越えると親水性高分子の溶出量増加が懸念される。そのための好ましい範囲は35重量%以上90重量%以下、更に好ましくは50重量%以上85重量%以下である。
【0026】
DMAC に可溶性の親水性高分子含有量とは、DMACに溶解する親水性高分子含有量の総親水性高分子量(もともと膜中に存在した親水性高分子の量)に対する割合の百分率であり、式(1)から算出される。

【0027】
例えば、親水性高分子がポリビニルピロリドンの場合、次の方法で測定することができる。まず、総親水性高分子重量は、中空糸の元素分析により、その総窒素量から中空糸単位重量当たりの値を算出する。秤量した乾燥中空糸膜約1gにDMACを50ml加え、25℃で5時間程度の充分な撹袢を行うと、DMACはポリスルホンおよび架橋不溶化していない親水性高分子を溶解するので、架橋によって不溶化した親水性高分子がゲル状の固形分として残る。この固形分を予め秤量したフィルターで濾過し、水洗した後、105℃で16時間乾燥する。得られた固形分重量を測定することにより、中空糸単位重量当たりのDMACに不溶性の親水性高分子重量を求めることができる。これらを上記数式に代入し、DMACに可溶性の親水性高分子含有量(%)を算出することができる。
【0028】
一般に、中空糸膜製膜原液に添加した親水性高分子は膜が形成される過程ににおいてその一部が膜中に残存する。その残存率は親水性高分子の分子量や紡糸条件により変化するが、親水性高分子含有量が総高分子量、言い換えれば膜の乾燥重量の1〜18重量%が良く、好ましくは2〜15重量%、さらに好ましくは2〜12重量%がよい。1重量%未満では、中空糸膜が十分な親水性を示さない傾向にあり、反対に18重量%より多いと、膜表面の親水性が過度に高くなって乾燥時に中空糸外表面同士の固着が発生するため、成型上好ましくない。また、そのような膜を得ようとすると、製膜原液の粘性が高くなりすぎて安定紡糸が困難となる。
次に、本発明の血液浄化装置の製造方法について述べる。
【0029】
本発明の血液浄化装置の製造方法は、公知の方法によって、疎水性高分子と親水性高分子からなる血液浄化用中空糸膜の束を容器に充填し、一般的な中空糸膜型血液浄化装置の形状に組み立て、成型した後、脂溶性ビタミンの被覆工程および滅菌工程を順に経ることから構成される。その際、被覆工程と滅菌工程との間に、中空糸膜の湿潤化工程と滅菌保護剤の添加工程を加えることもできる。
【0030】
(中空糸膜の準備〜組み立て・成型)
本発明においては、血液浄化用中空糸膜の製造方法は特に限定する必要はなく、前述の疎水性高分子と親水性高分子を含む中空糸膜であって、血液浄化に適した透過性能や膜構造を形成し得る方法を適宜利用すればよい。例えば、疎水性高分子と親水性高分子とを共通溶剤に溶解した製膜原料を用いて乾湿式紡糸する方法(国際公開第98/52683号パンフレット等)や、疎水性高分子の中空糸膜表面に親水性高分子を被覆する方法(特開平6−238139等)を例示することができる。
【0031】
次に、前記のとおり製膜された中空糸膜を数千〜2万本程度に纏めた束を、例えば筒状の樹脂容器に充填し、該中空糸膜の膜壁により容器内を血液側流路と濾液側流路とに隔てるように組み立てられた血液浄化装置を準備する。具体的には、濾液または透析液の導入・導出用のノズルを設けた筒状の樹脂容器の両端部をウレタン等の包埋樹脂でポッティング加工し、包埋樹脂の硬化後に、両端部で各中空糸膜が開口するよう包埋樹脂を切断する。この両端部に血液導入(導出)用のノズルを有するヘッダーキャップを装填すれば血液浄化装置の形状を得ることができるが、これに限定する必要はなく、公知の組立技術を参照すればよい。
【0032】
(脂溶性ビタミンの被覆工程)
血液浄化装置の中空糸膜の内表面を被覆する場合を例に挙げて説明する。脂溶性ビタミン、脂溶性ビタミンの溶媒からなる脂溶性ビタミン溶液を作製し、これを中空糸膜の中空糸内腔部に流入することにより、脂溶性ビタミンを中空糸膜内表面に付着させる。流入方法は、例えば、循環ポンプを利用して、被覆用の脂溶性ビタミン溶液を血液浄化装置のヘッダーノズルから中空糸内腔部に導入する方法が簡便である。他には、ヘッダーキャップの装填前に包埋樹脂の切断面をビタミン溶液に浸漬し、これを吸い上げる方法、紡糸原液または紡糸芯液のいずれかまたは両方に脂溶性ビタミンを混入せしめる方法等が挙げられるが、適宜選択すればよい。
【0033】
このとき、中空糸膜の外表面および外表面近傍の膜厚部に水を存在させると、水に不溶あるいは難溶である脂溶性ビタミンは血液流路側に近い部分、すなわち中空糸内表面側に多く含有される。この脂溶性ビタミン溶液を所定時間、例えば、30秒〜5分間、好ましくは40〜120秒間、血液流路側に通液させることで中空糸膜内面に脂溶性ビタミンを充分なじませることが好ましい。
【0034】
脂溶性ビタミン溶液に用いる溶媒としては、脂溶性ビタミンを溶解し基材を溶解しないものが好ましい。このような溶媒としては、たとえば、 メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec− ブタノール、2−エチルヘキサノール等のアルコール類;ジエチルエーテル等のエーテル類;1,2,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン、トリクロロフルオロメタン、1,1,2,2−テトラクロロ−1,2−ジフルオロエタン等の塩化弗化炭化水素;弗化メチル、四弗化炭素、テトラフルオロエタン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロメチルプロピルシクロヘキサン、パーフルオロブチルシクロヘキサン等のパーフルオロシクロアルカン類、パーフルオロデカン、パーフルオロメチルデカリン、パーフルオロアルキルテトラヒドロピラン等の弗化炭化水素;またはヘキサン、ヘプタン、デカン等の炭化水素等が挙げられる。溶媒は、これらの中から用いる基材の種類により適宜選択すればよいが、工業用生産に使用する場合は、安価であり、安全上沸点が高めのものが好ましく、さらに脂溶性ビタミンを多く含有するためには、より溶解力の高いものが好ましい。例えば、基材としてポリスルホンを、脂溶性ビタミンとしてビタミンEを使用した場合その溶媒としてはイソプロパノールが好適に用いられる。
【0035】
これらの溶媒のうち、水溶性アルコールの溶媒に水を混和して用いると、脂溶性ビタミンの中空糸膜表面への付着がより促進される傾向にあるので好ましい。水との混和比率は、脂溶性ビタミンの溶解濃度により制限されるので、例えば5〜50%(アルコール濃度として95〜50%)程度の範囲で、脂溶性ビタミンが析出しない程度に水を添加して用いると好ましい。
【0036】
また、脂溶性ビタミン溶液中のビタミン濃度はその種類や溶媒組成によって適宜設定し得るものであるが、例えば、ビタミンEを50〜60%のプロパノール水溶液に溶解して用いる際は、概ね0.2〜2.0%の範囲に調整してあれば良い。この範囲よりも濃度が低いと、抗酸化能を発揮するのに十分な被覆量が得られず、反対に、濃度が高いと被覆量が過剰となって被覆面の疎水性が強くなり、抗血栓性の低下につながる。
【0037】
溶液温度については、温度が高いほどビタミンの溶解度は高まるが、被覆工程で中空糸膜、容器、包埋樹脂等への影響を軽減するために、室温付近(15〜30℃)に調整すればよい。
【0038】
前記のとおり脂溶性ビタミン溶液を中空糸膜の内表面に接触させた後、自然落下あるいはエアフラッシュなどにより中空糸内腔部の脂溶性ビタミン溶液を排出する。しかる後、中空糸内腔部へ、例えば、空気、窒素、炭酸ガス等の乾燥気体を導入する等により被覆面を乾燥させ、脂溶性ビタミンの溶剤および水を乾燥除去すると同時に脂溶性ビタミンの皮膜を形成させる。導入する気体の温度は10〜80℃が好ましく、より好ましくは15〜30℃である。
【0039】
(中空糸膜の湿潤化工程)
脂溶性ビタミンの被覆を完了した中空糸膜は、滅菌前に水系溶液で湿潤化しておくと好ましい。水系溶液で中空糸膜を湿潤することにより中空糸膜が安定し、透水性能、透析性能、濾過性能等の性能の変化を起こすことが少なくなる。水系溶液で中空糸膜を湿潤化する方法は、容器に水系溶液を充填する方法、容器に水系溶液を充填した後排液する方法等がある。この中空糸膜の湿潤化工程は、以下に述べる滅菌保護剤の添加工程を兼ねることもできる。
【0040】
(滅菌保護剤の添加工程)
前記の湿潤化にあたり、水系溶液として滅菌保護剤を含む水系溶液で湿潤化しておくとより好ましい。滅菌保護剤とは、後述する滅菌工程において照射される放射線エネルギーによって、中空糸膜の親水性高分子が著しく変性を受けないように保護するためのもので、有機化合物としては、一分子中に複数の水酸基や芳香環を有するラジカル捕捉剤である。具体的には、グリセリンやプロピレングリコール等の(多価)アルコール類、オリゴ糖や多糖等の水溶性糖類を例示できる。また、亜硫酸塩等の抗酸化作用を有する無機塩類も利用できる。
滅菌保護剤を中空糸膜に含浸させる方法は、滅菌保護剤を適当な溶媒に溶解して血液処理装置に導入する方法、例えば、水または生理的塩溶液に滅菌保護剤を溶解させて血液処理装置内部の空間に充填させる、または中空糸膜だけに含浸させる方法等が用いられる。血液処理装置内に滅菌保護剤が存在すると、以下に述べる放射線滅菌により血液処理装置、特に中空糸膜が変化を受けるのを抑制することができる。
滅菌保護剤を溶液状態にして用いる場合、滅菌保護剤の濃度は、血液処理装置の材質、抗酸化剤の種類および滅菌の条件によって最適な濃度が決定されるべきであるが、大体好ましくは0 .001 %から1 %、より好ましくは0 .005 %から0 .5 %の濃度である。
【0041】
(滅菌工程)
本発明で用いられる滅菌方法は、放射線滅菌法であることが必要である。放射線滅菌法には、電子線、ガンマ線、エックス線等を用いることができるが、中でも、対象物に対する照射エネルギーの透過性や処理効率の点から、ガンマ線を用いた放射線滅菌法が好んで用いられる。
放射線の照射線量は、ガンマ線の場合は通常5〜50kGyであるが、本発明においては、15〜25kGyの比較的低い線量範囲で照射することが好ましい。このような条件下で放射線滅菌することにより、中空糸膜中の親水性高分子は部分架橋され、良好な血液適合性を維持したまま親水性高分子の溶出性を抑制することができる。より好ましくは、この照射線量の範囲で滅菌保護剤を併用することであり、その添加濃度の多少によりDMACに可溶性の親水性高分子の含有量を制御しやすくなる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。先ず、本実施例で用いた各種測定方法について説明する。
【0043】
(中空糸膜中の脂溶性ビタミン(ビタミンE)の総含有量)
血液浄化装置を分解して採取した血液浄化用中空糸膜を水洗した後、乾燥し、乾燥した中空糸膜重量を測定した後、その全量を細かく裁断し、400mlのエタノールを加え、室温で60分間、超音波振動を加えながらビタミンEの抽出を行った。
定量操作は液体クロマトグラフ法により行ない、ビタミンE標準溶液のピーク面積から得た検量線を用いて、抽出液のビタミンE量を求めた。すなわち、高速液体クロマトグラフ装置(JASCO社製UV−2075plus intelligent UV/VIS Detecter、PU−2080plusintelligent HPLC pump、CO−2065plus intelligent column oven、AS−2057plus intelligent sampler)に、カラム(Shodex Asahipak社製 ODP−50 6E packed column for HPLC)を取り付け、カラム温度40℃において、移動相である高速液体クロマトグラフィー用メタノールを流量1ml/minで通液し、紫外部の吸収ピークの面積からビタミンE濃度を求めた。この濃度から、抽出効率を100%として中空糸膜に含有されるビタミンE濃度を求めた。
【0044】
(血液流路側(中空糸内表面近傍)に存在する脂溶性ビタミン(ビタミンE)含有量)
血液浄化装置を分解して採取した血液浄化用中空糸膜を水洗した後、凍結乾燥させた。乾燥した中空糸を軸方向に切開して内表面を露出させた状態にて、TOF−SIMS装置(TRIFTIII,Physical Electronics社製)を用いて測定した。測定条件は、一次イオンGa+、加速電圧15kV、電流600pA(DCとして)、分析面積200μm×200μm、積算時間5minで行ない、検出器により、負イオン(Massとして、ビタミンEは163、ポリビニルピロリドンは26、ポリスルホンは32)を検出イオンとして検出した。本測定装置の特性上、測定深さは血液流路側を0とすると5nmまでの深さに相当する。表面濃度算出方法は得られた試料の各成分のイオン強度を、プロトンのイオン強度IHを用い、式(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)に従い規格化して用いる。
【0045】

【0046】
各成分の規格化イオン強度(規格化値I163(ViE)、I26(PVP)、I32(psf))と純粋な各試料の規格化イオン強度(規格化値I163(ViE)100%、I26(PVP)100%、I32(psf)100%)から各成分濃度(CViE、CPVP、Cpsf)を式(8)、(9)、(10)により求める。

これにより得られた濃度を%換算するが、そのとき、各成分の感度係数はk1=0.4、k2=1.1、k3=0.9とする。
【0047】
(血液の抗酸化能指標であるグルタチオンペルオキシターゼ(Gpx)の試験方法)
血液浄化装置を分解して採取した血液浄化用中空糸膜300本を有効長9cm(膜面積0.016m)となるように両端をシリコンで加工し、ミニモジュールを作成した。このミニモジュールを注射用蒸留水(大塚製薬株式会社、大塚注射用蒸留水)で洗浄後、生理食塩水(大塚製薬株式会社、大塚生食注)25mlを中空糸内腔に流して洗浄し、蒸留水と置換した(以下、プライミングと称す)。その後、ミニモジュールを遠心チューブ内に立てた状態で遠心脱水(1000rpm×5min)し、脱水したモジュールを恒温槽に並べて37℃で加温した。一方、バットに氷を入れ、血液回収用の遠心管を氷冷しておいた。
ブランク用の血液として、ヘパリン加人血を約5ml採取し、血清採取用の容器に約3.0mlを入れ良く攪拌し、30分放置後、遠心分離(3000rpm×10min)した。得られた血清をGPx測定用に0.5mlずつマイクロチューブに入れた。
試験用の血液として、ヘパリン加人血をミニモジュールの中空糸内腔部に吸い上げた状態でホールドし、37℃の恒温漕に入れて反応を開始した。それと同時に、ブランク用の血液3.5mlを37℃の恒温漕に入れて反応を開始する。反応終了後、別のバットで氷冷しておいた遠心管にミニモジュールを移し入れ、キャップを外して、遠心分離し(500rpm×3min、4℃)、ホールドした血液を遠心管に回収した。回収した血液はブランク同様、血清採取用の容器に約3.0mlを入れ良く攪拌し、30分放置後、遠心分離(3000rpm×10min)した。得られた血清をGPx用に0.5mlずつマイクロチューブに入れ、これらの検体中のGpx測定を検査業者(SRL株式会社)に外注した。
Gpxの測定方法は以下のとおりである。すなわち、反応試薬として、第一試薬と第二試薬を使用する。第一試薬は、0.25M Potassium phosphate buffer、pH7.0(0.25mM EDTA、2.5mM NaN)、10mM グルタチオン水溶液、2.5mM NADPH in 0.1%NaHCO、50μg/ml(120U/mg)GRinphospate buffer、pH7.0(0.25mM EDTA,2.5mM NaN)を使用時に当量混和し、蒸留水で2倍に希釈して用い、第二試薬は、20mM H水溶液である。検体の血清20μlに第一試薬を320μl混和し、37℃で10分反応させ、その後、第二試薬を20μl加え、340nmで吸光度を1分間測定する。ブランクは、20μl蒸留水に第一試薬を320μl混和し、37℃で10分反応させ、その後、第二試薬を20μl加え、340nmで1分間吸光度を測定する。1分間当たりの吸光度変化量からブランクの変化量を差し引き、これにファクターを乗じ、活性測定値(μl NADPH/min/l)とする。ファクター(F)は、NADPHの340nmでのモル吸光度係数:6.3(cm/μmol)、検体量0.02ml、キュベットの底面積:0.25cmより、下記式により算出される。
F=(1/モル吸光度係数)×(1/光路長)×10
=(1/6.3)×(0.25/0.02)×10
≒1984
本方法では、Gpxの低下能(%)として表記されるが、この低下能が小さいほど抗酸化能に優れることを意味する。
【0048】
(血小板活性化指標である乳酸脱水素酵素(LDH)の試験方法)
血液浄化装置を分解して採取した血液浄化用中空糸膜56本を有効長15cm(膜面積50mm)となるように両端をシリコンで加工し、ミニモジュールを作成した。このミニモジュールに対し、生理食塩水(大塚製薬株式会社、大塚生食注)10mlを中空糸内側に流し洗浄した(以下、プライミングと称す)。その後、ヘパリン加人血を7mlシリンジポンプにセットして、1.44ml/minの流速でミニモジュール内に通血した後、生理食塩水によりミニモジュールの内側を10ml、外側を10ml洗浄した。
洗浄したミニモジュールから長さ14cmの中空糸膜を28本採取後、これを細断してLDH測定用のスピッツ管に入れたものを測定用試料とした。次に、燐酸緩衝溶液(PBS)(和光純薬工業(株)製)にTritonX−100(ナカライテスク社製)を溶解して得た0.5容量TritonX−100/PBS溶液をLDH測定用のスピッツ管に0.5ml添加後、超音波処理を60分行って中空糸膜に付着した細胞(主に血小板)を破壊し、細胞中のLDHを抽出した。この抽出液を0.05ml分取し、さらに0.6mMのピルビン酸ナトリウム溶液2.7ml、1.277mg/mlのNaDH溶液0.3mlを加えて反応させ、直ちにその0.5mlを分取して340nmの吸光度を測定した。残液をさらに37℃で1時間反応させた後に340nmの吸光度を測定し、反応直後からの吸光度の減少を測定した。同様に血液と反応させていない膜についても吸光度を測定し、下記式(11)により吸光度の差を算出した。本方法では、この減少率が大きいほどLDH活性が高い、すなわち血小板活性化が大きいことを意味する。
Δ340nm=(サンプル反応直後吸光度−サンプル60分後吸光度)−(ブランク反応直後吸光度−ブランク60分後吸光度) (11)
【0049】
〔実施例1〕
ポリスルホン(ソルベイ社製P−1700)18.0重量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製 K90、重量平均分子量1,200,000)4.3重量%を、N,N−ジメチルアセトアミド77.7重量%に溶解して均一な溶液とした。ここで、製膜原液中のポリスルホンに対するポリビニルピロリドンの混和比率は23.9重量%であった。この製膜原液を60℃に保ち、N,N−ジメチルアセトアミド30重量%と水70重量%の混合溶液からなる内部液とともに、2重環状紡口から吐出させ、0.96mのエアギャップを通過させて75℃の水からなる凝固浴へ浸漬し、80m/分にて巻き取った。この時、紡口から凝固浴までを円筒状の筒で囲み、筒の中に水蒸気を含んだ窒素ガスを流しながら、筒の中の湿度を54.5%、温度を51℃にコントロールした。紡速に対するエアギャップの比率は、0.012m/(m/分)であった。巻き取った糸束を切断後、束の切断面上方から80℃の熱水シャワーを2時間かけて洗浄することにより膜中の残溶剤を除去し、該膜をさらに乾燥することにより含水量が1%未満の乾燥膜を得た。さらに、該乾燥膜を、液体の導入および導出用の2本のノズルを有する筒状容器に充填して両端部をウレタン樹脂で包埋後、硬化したウレタン部分を切断して中空糸膜が開口した端部に加工した。この両端部に血液導入(導出)用のノズルを有するヘッダーキャップを装填し血液浄化装置の形状に組み上げた。
次に、イソプロパノール57wt%の水溶液にビタミンEを0.23wt%溶解した被覆溶液を、血液浄化装置の血液導入ノズルから中空糸膜の内腔部に52秒通液してビタミンEを接触させた。さらにエアフラッシュして内腔部の残液を除去した後、24℃の乾燥空気を30分間通気して溶媒を乾燥除去することにより、ビタミンEを被覆した。湿潤化工程として、滅菌保護剤であるピロ亜硫酸ナトリウムを0.06%含み、さらにpH調整のための炭酸ナトリウムを0.03%含む水溶液を血液浄化装置の血液側流路と濾液側流路に充填し、各ノズルを密栓した状態でγ線を25kGy照射滅菌することにより、本発明の血液浄化装置を得た。
得られた血液浄化装置内の中空糸膜のビタミンE含有量を測定した結果、71.2mg/mであった。
【0050】
〔実施例2〕
ビタミンEを0.5wt%溶解した被覆溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法により血液浄化装置を得た。得られた血液浄化装置内の中空糸膜のビタミンE含有量を測定した結果、148.9mg/mであった。
【0051】
〔実施例3〕
ビタミンEを1.0wt%溶解した被覆溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法により血液浄化装置を得た。得られた血液浄化装置内の中空糸膜のビタミンE含有量を測定した結果、282.2mg/mであった。
【0052】
〔比較例1〕
ビタミンEを0.2wt%溶解した被覆溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法により血液浄化装置を得た。得られた血液浄化装置内の中空糸膜のビタミンE含有量を測定した結果、62.8mg/mであった。
【0053】
〔比較例2〕
ビタミンEを1.2wt%溶解した被覆溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法により血液浄化装置を得た。得られた血液浄化装置内の中空糸膜のビタミンE含有量を測定した結果、352.1mg/mであった。
【0054】
〔比較例3〕
γ線照射滅菌の代わりに121℃で1時間のオートクレーブ滅菌(AC)を行った以外は、実施例1と同様の方法により血液浄化装置を得た。得られた血液浄化装置内の中空糸膜のビタミンE含有量を測定した結果、70.3mg/mであった。
【0055】
〔比較例4〕
ビタミンEを1.0wt%溶解した被覆溶液を用いたこと、およびγ線照射滅菌の代わりに121℃で1時間のオートクレーブ滅菌を行った以外は、実施例1と同様の方法により血液浄化装置を得た。得られた血液浄化装置内の中空糸膜のビタミンE含有量を測定した結果、302.6mg/mであった。
また、これらの実施例および比較例について、内表面ビタミンEの存在量、DMAC可溶性のPVP量、抗酸化能、リーク率、および血小板活性化の測定も行ったので、その結果も表1に示す。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明血液浄化装置は、血液浄化療法に於いて必要な本来の機能に加え、血液に対する高い抗酸化能力を示す。また、充填されている中空糸のリークがなく、さらには、優れた血液適合性を併せ持っているので、各種疾患に罹患した患者に対する血液浄化療法用の血液浄化装置として有用である。
また、かかる特性を有することから、リユース(使用後の装置を洗浄して再使用すること)の分野においても有用となるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性高分子と親水性高分子よりなり、脂溶性ビタミンを含有する血液浄化用中空糸膜の複数本を容器に充填し、該中空糸膜の膜壁により血液側流路と濾液側流路に隔てて流路を形成する中空糸型血液浄化装置であって、前記血液浄化用中空糸膜は脂溶性ビタミンを膜面積換算で70mg/m以上300mg/m以下の範囲で含有し、かつ血液浄化装置は放射線滅菌されていることを特徴とする中空糸型血液浄化装置。
【請求項2】
疎水性高分子と親水性高分子よりなり、脂溶性ビタミンを含有する血液浄化用中空糸膜の複数本を容器に充填し、該中空糸膜の膜壁により血液側流路と濾液側流路に隔てて流路を形成する中空糸型血液浄化装置であって、前記血液浄化用中空糸膜の血液流路側表面に存在する脂溶性ビタミン含有量が、中空糸内表面近傍に存在する前記疎水性高分子と親水性高分子の総量に対し2.5%以上30.0%以下の範囲であることを特徴とする中空糸型血液浄化装置。
【請求項3】
さらに、血液浄化用中空糸膜は脂溶性ビタミンを膜面積換算で70mg/m以上300mg/m以下の範囲で含有するものである、請求項2に記載の中空糸型血液浄化装置。
【請求項4】
前記血液浄化用中空糸膜の血液流路側表面に存在する脂溶性ビタミン含有量が、中空糸内表面近傍に存在する前記疎水性高分子と親水性高分子の総量に対し2.5%以上30.0%以下の範囲である請求項1に記載の中空糸型血液浄化装置。
【請求項5】
さらに、該親水性高分子が部分架橋している請求項1〜4の何れかに記載の中空糸型血液浄化装置。
【請求項6】
前記親水性高分子の含有量が総高分子量の1〜18重量%であり、ジメチルアセトアミドに可溶性の親水性高分子量が総親水性高分子量の25重量%以上95重量%以下である請求項1〜5のいずれかに記載の中空糸型血液浄化装置。
【請求項7】
前記疎水性高分子がポリスルホン系樹脂であり、前記親水性高分子がポリビニルピロリドンである請求項1〜6の何れかに記載の中空糸型血液浄化装置。
【請求項8】
中空糸内表面近傍が、中空糸の血液側内表面から1〜5nmの層である請求項1〜7のいずれかに記載の中空糸型血液浄化装置。
【請求項9】
疎水性高分子と親水性高分子よりなる血液浄化用中空糸膜の複数本を容器に充填し、該中空糸膜の膜壁により血液側流路と濾液側流路に隔てて流路を形成する中空糸型血液浄化装置の製造方法において、該血液流路側に、脂溶性ビタミンを溶媒に溶解した脂溶性ビタミン溶液を通液し、次に余分な脂溶性ビタミン溶液を除去した後に溶媒を乾燥除去し、しかる後に血液浄化装置を放射線滅菌することを特徴とする中空糸型血液浄化装置の製造方法。
【請求項10】
脂溶性ビタミンの溶媒がイソプロピルアルコールである請求項9に記載の中空糸型血液浄化装置の製造方法。
【請求項11】
乾燥後放射線滅菌をする前に、水系溶液で中空糸膜を湿潤化する請求項9又は10に記載の中空糸型血液浄化装置の製造方法。
【請求項12】
放射線滅菌が、少なくとも中空糸膜に滅菌保護剤を付与した状態で滅菌するものである請求項9〜11の何れかに記載の中空糸型血液浄化装置の製造方法。
【請求項13】
脂溶性ビタミン溶液の濃度が、0.2〜2.0%である請求項9〜12のいずれかに記載の中空糸型血液浄化装置の製造方法。
【請求項14】
脂溶性ビタミン溶液の中空糸膜への通液が、中空糸膜の外表面に水を存在させた状態で行うものである、請求項9〜13のいずれかに記載の中空糸型血液浄化装置の製造方法。

【公開番号】特開2006−296931(P2006−296931A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126412(P2005−126412)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000116806)旭化成メディカル株式会社 (133)
【Fターム(参考)】