説明

中継衛星および衛星通信システム

【課題】同報通信を行う場合に周波数利用効率を高めた中継衛星を得ること。
【解決手段】受信ビームエリア内の送信局から信号を受信し、周波数変換処理を行う受信信号変換手段群と、複数の信号に分波する分波手段群と、分波後の各信号に周波数帯を割り当て、送信先となる送信ビームエリア単位で出力するディジタルスイッチマトリックス部300と、送信ビームエリア単位で出力された信号に対して遅延処理を行う遅延手段群と、遅延処理後の信号を合波する合波手段群と、合波後の信号を無線周波数帯へ変換し、送信先の送信ビームエリアへ送信する送信手段群と、を備え、同報信号を2以上の受信局へ送信する場合、ディジタルスイッチマトリックス部300は、同報信号を複製した各同報信号を、同一周波数帯に割り当て、遅延手段群は、複製した同報信号に対して異なる時間遅延を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信局から受信した信号を受信局へ送信する中継衛星に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マルチビームを用いて中継を行うマルチビーム衛星システムがあり、このようなシステムにおいて周波数を有効に利用する技術が、下記非特許文献1において開示されている。具体的には、隣接する複数のビームを1クラスタとしてまとめ、同一周波数を複数のクラスタで繰り返し利用することで、周波数の有効利用を実現する。1クラスタ内での各ビームへの割り当て周波数は、ビーム間で重ならないように異なる周波数で割り当てる必要がある。例えば、衛星システムに割り当てられたシステム帯域をBs、M個のビームで1クラスタを構成する場合、M個のビームで利用できる総帯域はBsとなる。この場合、1ビーム当り利用可能な平均帯域はBs/Mとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】三次仁他 「次世代移動衛星通信システムにおける搭載機器技術」信学技報 SAT2003−113,2003年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術によれば、放送等、1つの地上局からM個のビーム内の各移動局に同一信号を配信する1対Mの同報通信についても同様であり、ダウンリンクにおいて、M個のビーム間で同報信号の周波数が重ならないように周波数配置する必要がある。そのため、同報信号の帯域をBbとすると、1対Mの同報通信に必要な帯域はM*Bbとなり、M個のビームで利用可能な残帯域はBs−M*Bbとなることから、周波数を十分に活用できない、という問題があった(但し、*は乗算を意味する)。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、同報通信を行う場合に、周波数利用効率を高めることが可能な中継衛星を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、N(Nは2以上の整数)個の受信ビームエリア内に存在する送信局から受信した信号を、N’(N’は2以上の整数)個の送信ビームエリア内に存在する受信局へ送信する中継衛星であって、1つの受信ビームエリア内にある送信局からの信号を受信し、受信した信号に対して周波数変換処理および帯域制限処理を行った信号をサンプリングする受信信号変換手段、をN個備えた受信信号変換手段群と、前記受信信号変換手段と1対1で接続し、サンプリング後の信号を複数の信号に分波する分波手段、をN個備えた分波手段群と、前記分波手段群から入力した分波後の各信号に対して周波数帯を割り当て、送信先となる送信ビームエリア単位で出力する制御を行うディジタルスイッチマトリックス手段と、前記送信ビームエリア単位で出力された信号に対して遅延処理を行う遅延手段、をN’個備えた遅延手段群と、前記遅延手段と1対1で接続し、前記送信ビームエリア単位で出力された遅延処理後の信号を合波する合波手段、をN’個備えた合波手段群と、前記合波手段と1対1で接続し、合波後の信号をアナログ信号に変換し、さらに無線周波数帯へ変換した信号を送信先の送信ビームエリアへ送信する送信手段、をN’個備えた送信手段群と、を備え、前記送信局から受信した同報信号あるいは自身で生成した同報信号を2以上の受信局へ送信する場合、前記ディジタルスイッチマトリックス手段は、前記同報信号を複製した各同報信号を、同一周波数帯に割り当て、送信先の受信局が含まれる送信ビームエリアへ送信可能な送信手段と接続する合波手段と接続する遅延手段へ出力し、前記複製した同報信号を受信した各遅延手段は、前記同報信号に対してそれぞれ異なる時間遅延を付与する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、同報通信を行う場合に、周波数利用効率を高めることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、中継衛星の受信側と上りの各送信局の構成例を示す図である。
【図2】図2は、中継衛星の送信側と下りの各受信局の構成例を示す図である。
【図3】図3は、中継衛星が信号中継処理を行う各中継信号の流れを示す図である。
【図4】図4は、従来の衛星通信システムの信号中継処理における各中継信号の流れを示す図である。
【図5】図5は、分波の数(m)を4とした場合の各分波回路部における分波特性の例を示す図である。
【図6】図6は、受信Port2における信号分波例を示す図である。
【図7】図7は、各信号に対するスイッチ処理から遅延処理および合波処理までの流れを示す図である。
【図8】図8は、各遅延回路部において付与する遅延時間を示す図である。
【図9】図9は、受信局の構成例を示す図である。
【図10】図10は、合成部の構成例を示す図である。
【図11】図11は、各アンテナのビームパターンと受信局の位置を示す図である。
【図12】図12は、ビームエリア内に存在する受信局が相互相関を行った場合の例を示す図である。
【図13】図13は、合成部から出力される合成後の信号ベクトルを示す図である。
【図14】図14は、同報送信局が送信する同報信号Aのフレームフォーマットを示す図である。
【図15】図15は、受信局の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明にかかる中継衛星の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
実施の形態1.
本実施の形態では、複数のビームに対して、同報信号を同一周波数で配信することが可能な中継衛星および衛星通信システムについて説明する。なお、ここでは、3ビームで1クラスタを構成するM=3の場合について説明するが、一例であり、Mはこれに限定するものではなく、2以上の整数であればどのような値でもよい。
【0011】
図1は、本実施の形態にかかる中継衛星の受信側と上りの各送信局の構成例を示す図である。中継衛星200は、受信側であるビームエリア100、102などからの各アップリンク信号を受信するN(Nは2以上の整数)個の受信アンテナ部210−0、210−1、210−2、…、210−(N−1)と、受信した信号を増幅するN個の受信アンプ部220−0、220−1、220−2、…、220−(N−1)と、フィルタを用いて不必要な周波数帯を除去するN個のバンドパスフィルタ(BPF)部230−0、230−1、230−2、…、230−(N−1)と、原振信号を生成する原振生成部240と、原振信号に基づいて受信ローカル信号を生成する受信ローカル信号生成部250と、受信した信号と受信ローカル信号とを乗算するN個のミキサ部260−0、260−1、260−2、…、260−(N−1)と、フィルタを用いて不必要な周波数帯を除去するN個のローパスフィルタ(LPF)部270−0、270−1、270−2、…、270−(N−1)と、アナログ信号をディジタル信号に変換するN個のアナログ/ディジタル(A/D)変換部280−0、280−1、280−2、…、280−(N−1)と、入力した信号を複数の信号に分波するN個の分波回路部290−0、290−1、290−2、…、290−(N−1)と、入力した信号に対してスイッチ処理を行うディジタルスイッチマトリックス部300と、を備える。なお、例えば、N=2の場合、各構成の符号の末尾は「0」および「1」の2つのみとなる。
【0012】
また、図1において、ビームエリア100内には同報信号Aを送信する同報送信局101が配置され、ビームエリア102内には通常の双方向通信を行うユニキャスト送信局103、104、105が配置されている。また、中継衛星200を制御する制御局110が、受信アンテナ部210−0、210−1、210−2、…、210−(N−1)を経由しない別回線で中継衛星200と接続する。制御局110は、コマンド信号を送信し、中継衛星200のディジタルスイッチマトリックス部300のスイッチ処理を制御する。
【0013】
図2は、本実施の形態にかかる中継衛星の送信側と下りの各受信局の構成例を示す図である。中継衛星200は、入力した信号に対して遅延処理を行うN’(N’は2以上の整数)個の遅延回路部310−0、310−1、310−2、…、310−(N’−1)と、入力した複数の信号を合波するN’個の合波回路部320−0、320−1、320−2、…、320−(N’−1)と、ディジタル信号をアナログ信号に変換するN’個のディジタル/アナログ(D/A)変換部330−0、330−1、330−2、…、330−(N’−1)と、フィルタを用いて不必要な周波数帯を除去するN’個のローパスフィルタ(LPF)部340−0、340−1、340−2、…、340−(N’−1)と、原振信号に基づいて送信ローカル信号を生成する送信ローカル信号生成部350と、送信対象の信号と送信ローカル信号とを乗算するN’個のミキサ部360−0、360−1、360−2、…、360−(N’−1)と、フィルタを用いて不必要な周波数帯を除去するN’個のバンドパスフィルタ(BPF)部370−0、370−1、370−2、…、370−(N’−1)と、送信する信号を増幅するN’個の送信アンプ部380−0、380−1、380−2、…、380−(N’−1)と、送信側であるビームエリア400、402、404やN’番目のビームエリア等への送信を行うN’個の送信アンテナ部390−0、390−1、390−2、…、390−(N’−1)と、を備える。なお、例えば、N’=2の場合、各構成の符号の末尾は「0」および「1」の2つのみとなる。
【0014】
また、図2において、ビームエリア400内には受信局401が配置され、ビームエリア402内には受信局403が配置され、ビームエリア404内には受信局405が配置されている。
【0015】
つづいて、中継衛星200における信号中継処理について説明する。図3は、中継衛星が信号中継処理を行う各中継信号の流れを示す図である。具体的に、中継衛星200が、以下に示す信号の同時中継を図3に示す周波数配置にて実現する場合について説明する。
【0016】
(1)中継衛星200は、ビームエリア100内の同報送信局101からの同報信号Aを3つに複製し、ビームエリア400内の受信局401、ビームエリア402内の受信局403、ビームエリア404内の受信局405へ、それぞれ異なる遅延を与えた上で送信する。なお、遅延処理された同報信号Aを、それぞれ同報信号A0、A1、A2とする。
【0017】
(2)中継衛星200は、ビームエリア102内のユニキャスト送信局103からの信号Bを、ビームエリア402内の受信局403へ送信する。
【0018】
(3)中継衛星200は、ビームエリア102内のユニキャスト送信局104からの信号Cを、ビームエリア404内の受信局405へ送信する。
【0019】
(4)中継衛星200は、ビームエリア102内のユニキャスト送信局105からの信号Dを、ビームエリア400内の受信局401へ送信する。
【0020】
なお、受信局401、403、405が、それぞれ同報信号Aと、信号D、B、Cのうち1つの信号を同時に受信する場合について説明するが、これに限定するものではない。例えば、同報信号Aを受信する受信局と、信号B、C、Dを受信する受信局は、同じ局である必要は無く、各ビームエリア内に別々に存在してもよい。
【0021】
また、ユニキャスト送信局103、104、105が、全て1つのビームエリア102に存在する場合について説明するが、これに限定するものではない。例えば、ユニキャスト送信局103、104、105が、それぞれ別々のビームエリアに存在してもよい。
【0022】
また、図3に示すように、ここでは、衛星通信システムに割当てられたシステム帯域Bsを基準に、各信号帯域を表現している。すなわち、システム帯域Bsを1.0とした場合に、同報信号Aの帯域Bbは0.25、信号B、C、Dの帯域幅も0.25として表す。図3から明らかなように、本実施の形態では、中継衛星200が、遅延処理した同報信号A0、A1、A2を、それぞれ同一周波数上(f0)に配置することを特徴とする。
【0023】
ここで、従来の衛星通信システムにおいて信号中継処理を行ったときの各信号の周波数配置について簡単に説明する。図4は、従来の衛星通信システムの信号中継処理における各中継信号の流れを示す図である。従来の衛星通信システムでは、同一周波数による干渉を避けるため、同報信号Aを、f0、f1、f2と異なる周波数に配置していた。この場合、システム帯域1.0に対して、同報通信用に0.75(=0.25*3)の帯域が消費される。そのため、同報通信以外の他の通信には、余った僅かな帯域0.25(=1.0−0.75)を用いるしかなかった。例えば、図4に示すように、従来の衛星通信システムでは、余った帯域0.25を用いて、ユニキャスト送信局103から受信局403への信号Bの中継のみを実現できた。
【0024】
これに対して、本実施の形態では、図3に示すように、中継衛星200が、同報信号A0、A1、A2を、同一周波数上(f0)に配置するため、同報通信用には僅か0.25の帯域が消費されるだけであり、残った帯域0.75(=1.0−0.25)を同報通信以外の他の通信に使用できる。例えば、図3に示すように、中継衛星200は、余った帯域0.75を用いて、ユニキャスト送信局103から受信局403への信号Bの中継だけでなく、ユニキャスト送信局104から受信局405への信号Cの中継、およびユニキャスト送信局105から受信局401への信号Dの中継を実現することができる。これにより、周波数を有効に利用でき、システム容量の増加を実現することができる。
【0025】
具体的に、M個のビームで利用できる総帯域をBs、同報信号の帯域をBbとした場合、従来の衛星通信システムで必要な帯域はM*Bbである。一方、本実施の形態で必要な帯域は、M*BbからBbに削減されるため、同報通信の周波数利用効率がM倍に改善される。これにより、M個のビームで利用可能な残帯域は、「Bs−M*Bb」から「Bs−Bb」に増加し、結果としてシステム容量を「(Bs−Bb)/(Bs−M*Bb)」倍に増加させることができる。
【0026】
中継衛星200における信号中継処理の動作について、まず、図1を用いて中継衛星200の受信側の動作について説明する。中継衛星200では、ビームエリア100からの同報送信局101から送信された同報信号Aを受信アンテナ部210−0で受信し、受信アンプ部220−0で増幅する。
【0027】
中継衛星200では、同報信号Aを受信アンプ部220−0で増幅後、受信Port0におけるBPF部230−0で帯域処理を行い、ミキサ部260−0へ出力する。ここで、受信ローカル信号生成部250では、原振生成部240からの原振信号に基づいて、後述する周波数変換処理を実現するための受信ローカル信号を生成し、ミキサ部260−0、260−1、260−2、…、260−(N−1)へ出力する。
【0028】
ミキサ部260−0では、入力した同報信号Aと受信ローカル信号とを乗算し、乗算後の信号をLPF部270−0へ出力する。中継衛星200では、LPF部270−0で乗算後の信号を帯域処理することにより、同報信号Aを、無線周波数帯から中間周波数(IF)帯あるいはベースバンド帯に周波数変換し、また、同時にシステム帯域Bs=1.0で帯域制限された信号を得ることができる。
【0029】
つぎに、中継衛星200では、A/D変換部280−0で周波数変換後の同報信号Aをサンプリングし、分波回路部290−0へ出力する。ここで、入力される信号が中間周波数(IF)信号の場合、A/D変換部280−0は、IF信号をサンプリングする。また、入力される信号がベースバンド信号の場合、A/D変換部280−0は、同相(I)および直交(Q)の2式でベースバンド信号をサンプリングする。
【0030】
なお、上記で説明した受信アンテナ部210−0からA/D変換部280−0までの構成をまとめて、便宜的に受信信号変換手段として表す。すなわち、中継衛星200は、N個の受信信号変換手段を備えているものとする。ただし、原振生成部240および受信ローカル信号生成部250は1つでよい。
【0031】
分波回路部290−0は、A/D変換部280−0において帯域外の信号も含めてサンプリングされるため、4分波する過程で帯域幅0.25に制限された同報信号Aを抽出する。分波回路部290−0は、分波処理後の同報信号Aをディジタルスイッチマトリックス部300へ出力する。
【0032】
なお、説明の都合上、分波の数(m)を4つとしているが、これに限定するものではない。分波の数は2以上の整数であれば、どのような値でもよい。但し、受信側のビームエリア(例えば、ビームエリア102)に複数の送信局が存在する場合、ビームエリア内に存在している送信局の数以上に分波できることが望ましい。図5は、分波の数(m)を4とした場合の、各分波回路部における分波特性の例を示す図である。横軸は周波数、縦軸は振幅を示す。分波回路部290−0、290−1、290−2、…、290−(N−1)は、各分波回路部に入力される信号スペクトラムを、図中の(1)〜(4)で示される4つの周波数特性で分波する。
【0033】
また、各分波回路部の周波数特性は、図5に示す特性に限定するものではない。各分波回路部に入力される信号スペクトラムを4つに分波できれば、図5に示す特性以外の特性で分波してもよい。但し、図5に示す特性で分波することにより、分波された元の信号を復元できるという効果がある。
【0034】
詳細には、図5に示すように、各分波回路部で使用されるフィルタの特性は、隣接するフィルタ間で特性がオーバーラップする設計とし、かつ、各フィルタの特性が交差する振幅は0.5、またオーバーラップ領域の各フィルタの周波数対振幅特性の総和は1となるフィルタ設計とする。さらに、図5に示す各フィルタの周波数対位相特性も不連続でなく、直線となる設計とすれば、例えば、広帯域信号が一旦4つに分解されても、後段の合波回路部320−0、320−1、320−2、…、320−(N’−1)による合波処理により、元の広帯域信号を復元することができる。このような性質により、中継衛星200では、中継可能な信号帯域幅は0.25未満とは限らず、帯域幅1.0までの範囲で多様な帯域幅の信号中継を実現することが可能である。
【0035】
同報送信局101からの同報信号Aを受信した場合について説明したが、中継衛星200は、他のユニキャスト送信局からの信号を受信した場合も上記同様の処理を行う。中継衛星200では、ビームエリア102からのユニキャスト送信局103からの信号B、ユニキャスト送信局104からの信号C、およびユニキャスト送信局105からの信号Dを、受信アンテナ部210−2で受信し、受信アンプ部220−2で増幅する。なお、図示しないが、中継衛星200は、他の受信アンテナ部210−1、210−(N−1)等でも同様に他のビームエリアから複数の信号を受信し、後段の受信アンプ部で増幅する。
【0036】
中継衛星200では、受信アンプ部220−2が信号{B,C,D}を増幅後、受信Port2におけるBPF部230−2で帯域処理を行い、ミキサ部260−2へ出力する。ミキサ部260−2では、入力した信号{B,C,D}と受信ローカル信号とを乗算し、乗算後の信号をLPF部270−2へ出力する。中継衛星200では、LPF部270−2で乗算後の信号を帯域処理することにより、信号{B,C,D}を、無線周波数帯から中間周波数帯あるいはベースバンド帯に周波数変換し、また、同時にシステム帯域Bs=1.0で帯域制限された信号を得ることができる。図6は、受信Port2における信号分波例を示す図である。各ユニキャスト送信局から受信アンテナ部210−2で受信した信号を分波回路部290−2で分波するまでの流れを示すものである。図6(a)、(b)に示すように、BPF部230−2とLPF部270−2によるアナログフィルタでは、信号{B,C,D}が抽出され、隣接周波数帯に不要波が存在する場合は、不要波を除去する。
【0037】
つぎに、中継衛星200では、A/D変換部280−2で周波数変換後の信号{B,C,D}をサンプリングし、分波回路部290−2へ出力する。分波回路部290−2は、A/D変換部280−2でサンプリングされた図6(b)に示す信号{B,C,D}を、図6(c)の点線で示す4つのフィルタ特性により、帯域外の信号も含め、図6(d)に示す4つの信号に分解する。このようにして、分波回路部290−2は、図6(c)に示す信号{B,C,D}を、3つの信号B、C、Dに分解(分波)する。
【0038】
つぎに、ディジタルスイッチマトリックス部300におけるスイッチ処理について説明する。図7は、各信号に対するスイッチ処理から遅延処理および合波処理までの流れを示す図である。ディジタルスイッチマトリックス部300は、分波回路部290−0から出力される同報信号A、分波回路部290−2から出力される信号B、C、Dを入力とし、図7(a)に示すスイッチ処理を行う。
【0039】
具体的には、ディジタルスイッチマトリックス部300は、同報信号Aをビームエリア400、402、404へ送信するため3つに複製し、図7(a)に示す送信Port{0、1、2}の各周波数0番に接続する。また、ディジタルスイッチマトリックス部300は、分波回路部290−2から出力された信号Bを図7(a)に示す送信Port1の周波数3番に、信号Cを図7(a)に示す送信Port2の周波数2番に、信号Dを図7(a)に示す送信Port0の周波数1番にそれぞれ接続する。
【0040】
つぎに、図2を用いて中継衛星200の送信側の動作について説明する。各遅延回路部310−0、310−1、310−2、…、310−(N’−1)は、m(ここではm=4)個の入力信号に対して、それぞれ時間遅延を与える。各時間遅延量は、図1に示す地上の制御局110からのコマンド信号によって任意に設定する。なお、設定を運用中に変更できる構成とすることにより、中継衛星200における信号処理の柔軟性を高めることができる。
【0041】
遅延回路部310−0、310−1、310−2、…、310−(N’−1)は、主に複製された同報信号Aに対して作用し、複製された同報信号Aに対して、それぞれ異なる時間遅延を与える。ここでは、遅延回路部310−0、310−1、310−2は、3つに複製された同報信号Aに対して3つの異なる時間遅延を与える。図8は、各遅延回路部において付与する遅延時間を示す図である。遅延回路部310−0は、同報信号Aに対して時間遅延τ(0,0)を与え、本遅延を与えた後の信号を同報信号A0として出力し、遅延回路部310−1は、同報信号Aに対して時間遅延τ(0,1)を与え、本遅延を与えた後の信号を同報信号A1として出力し、遅延回路部310−2は、同報信号Aに対して時間遅延τ(0,2)を与え、本遅延を与えた後の信号を同報信号A2として出力する。図8に示すように、各遅延時間τ(0,0)、τ(0,1)、τ(0,2)は異なる値とする。
【0042】
なお、ここでは、同報信号は1つ(同報信号A)のみとしたが、これに限定するものではない。複数の同報信号を中継する場合、各遅延回路部において、それぞれの同報信号に対して同様に異なる遅延を与える。これにより、中継衛星200では、複数の同報信号についても対応可能となる。
【0043】
また、信号B、C、Dなどの同報信号以外の信号については、使用する周波数帯を変えていることから、各遅延回路部で遅延させる必要はなく、遅延時間ゼロで設定すればよい。図7(b)、(c)、(d)に各遅延回路部に関する処理を示す。信号B、C、Dは遅延させる必要が無いため、時間遅延を点線で表記しているが、同報信号Aと同様、それぞれに遅延を与えてもよい。
【0044】
つぎに、合波回路部320−0、320−1、320−2、…、320−(N’−1)の動作について説明する。合波回路部320−0、320−1、320−2、…、320−(N’−1)は、それぞれ4つの入力信号を、0.25の周波数間隔に並べて合成する。また、各合波回路部は、合波後の信号の周波数対位相特性が、前述の分波回路部と同様、直線となる回路設計とする。ここでは、合波回路部320−0が、信号A0と信号Dを図7(e)に示す周波数配置で合波し、合波回路部320−1が、信号A1と信号Bを図7(f)に示す周波数配置で合波し、合波回路部320−2が、信号A2と信号Cを図7(g)に示す周波数配置で合波する。
【0045】
なお、これらの合波処理あるいは分波処理に関しては、例えば、「”フレキシブル衛星中継器用分波/合波方式の検討”,電子情報通信学会 2011年総合大会 B−3−3,2011年3月」や「”衛星搭載用再生/非再生中継器に適した分波/合波方式の検討”,電子情報通信学会 2011年総合大会 B−3−10,2011年9月」の文献に記載された2分波/2合波を基本とするツリー型のフィルタバンク方式で実現することができる。
【0046】
つぎに、中継衛星200では、D/A変換部330−0において合波回路部320−0で同報信号A0と信号Dを合波した信号をディジタル信号からアナログ信号へ変換し、LPF部340−0が帯域処理後、ミキサ部360−0へ出力する。ここで、送信ローカル信号生成部350では、原振生成部240からの原振信号に基づいて、後述する周波数変換処理を実現するための送信ローカル信号を生成し、ミキサ部360−0、360−1、360−2、…、360−(N’−1)へ出力する。
【0047】
ミキサ部360−0では、同報信号A0と信号Dとを合波した信号と、送信ローカル信号と、を乗算し、乗算後の信号をBPF部370−0へ出力する。中継衛星200では、BPF部370−0で乗算後の信号を帯域処理することにより無線周波数帯の信号へ変換し、無線周波数帯に変換された信号を送信アンプ部380−0経由で送信アンテナ部390−0からビームエリア400に向けて送信する。
【0048】
同様に、中継衛星200では、合波回路部320−1で同報信号A1と信号Bを合波した信号を、D/A変換部330−1、LPF部340−1、ミキサ部360−1、BPF部370−1を経由して無線周波数帯に変換後、送信アンプ部380−1を経由して送信アンテナ部390−1からビームエリア402に向けて送信する。
【0049】
また、中継衛星200では、合波回路部320−2で同報信号A2と信号Cを合波した信号を、D/A変換部330−2、LPF部340−2、ミキサ部360−2、BPF部370−2を経由して無線周波数帯に変換後、送信アンプ部380−2を経由して送信アンテナ部390−2からビームエリア404に向けて送信する。
【0050】
なお、上記で説明したD/A変換部330−0から送信アンテナ部390−0までの構成をまとめて、便宜的に送信手段として表す。すなわち、中継衛星200は、N’個の送信手段を備えているものとする。ただし、送信ローカル信号生成部350は1つでよい。
【0051】
また、説明の都合上、合波の数を4つとしているが、合波の数はこれに限定するものではない。2以上の整数であれば、どのような値でもよい。
【0052】
このように、中継衛星200では、同報信号Aを3つのビームエリアに中継する際、それぞれ異なる時間遅延を与えた上で、図3に示す同一周波数(f0)で送信する。これにより、従来と比較して、周波数の利用効率を高めることができる。
【0053】
ここで、3つのビームエリア400、402、404が隣接する場合、一般に、隣接するビームエリア向けの同報信号Aが、自ビームエリア向けの同報信号Aに対して、干渉源となるため、通信品質の低下を招くことになる。しかしながら、中継衛星200において上述の時間遅延を与えることにより、受信局では、逆に隣接するビームエリア向けの同報信号Aを、自ビームエリア向けの同報信号Aに合成し、通信品質の向上、および衛星の送信電力低減効果を実現することができる。
【0054】
つづいて、中継衛星200からの信号を受信する受信局の構成について説明する。図9は、受信局の構成例を示す図である。ここでは、一例として、同報信号Aがスペクトラム拡散信号の場合について説明する。また、受信局403について説明するが、受信局401、405も受信局403と同様の構成とする。
【0055】
受信局403は、中継衛星200からの信号を受信する受信アンテナ部500と、受信した信号を増幅する受信アンプ部501と、フィルタを用いて不必要な周波数帯を除去するバンドパスフィルタ(BPF)部502と、受信ローカル信号を生成する受信ローカル信号生成部503と、ミキサ部504と、フィルタを用いて不必要な周波数帯を除去するローパスフィルタ(LPF)部505と、アナログ信号をディジタル信号に変換するアナログ/ディジタル(A/D)変換部506と、入力した信号を複数の信号に分波する分波回路部507と、ユニキャスト信号を復調するユニキャスト用復調部508、509と、同報信号を復調する同報信号用復調部510と、を備える。また、同報信号用復調部510は、相互相関データ系列を得る相互相関部511と、相互相関データ系列から相互相関ベクトルの数、各ベクトルの到来時刻、各ベクトル位相角を検出するベクトル位相検出部512と、ベクトルの数、ベクトルの到来時刻、およびベクトル位相角の各情報を用いて、相互相関データ系列の各相関ベクトルをベクトル合成する合成部513と、同期検波あるいは遅延検波を行いデータ復調する検波部514と、を備える。
【0056】
図10は、合成部の構成例を示す図である。合成部513は、相互相関データを指定された遅延時間だけ遅延させる遅延部600、601と、遅延処理後の相互相関データを移相させるための移相部610、611と、相互相関データおよび移相後の信号を加算する加算部620と、加算後の相互相関データ系列からベクトル合成後の相関ピーク値を抽出するラッチ部630と、を備える。
【0057】
具体的に、受信局403を用いて受信処理の動作を説明する。ビームエリア402内に存在する受信局403は、受信アンテナ部500で同報信号A1と信号Bとを合波した信号{A1,B}を受信し、受信アンプ部501で増幅する。受信局403では、増幅された信号{A1,B}をBPF部502で帯域処理し、ミキサ部504において帯域処理後の信号と受信ローカル信号とを乗算し、LPF部505でさらに帯域処理をすることにより、信号{A1,B}の周波数を、無線周波数帯から中間周波数あるいはベースバンドに変換する。そして、A/D変換部506が、周波数変換後の信号{A1,B}をサンプリングし、分波回路部507が、信号{A1,B}から同報信号A1、信号Bの各信号を分波する。
【0058】
なお、干渉源となる隣接するビームエリア向けの信号も受信していた場合、受信局403では、この隣接するビームエリア向けの信号についても信号{A1,B}とあわせて上述の受信処理を行う。
【0059】
ユニキャスト用復調部508は、分波回路部507で分波された信号Bを復調する。信号Bは、図3から明らかなように、隣接するビームエリア向けの信号から同一周波数干渉を受けないため、一般的な復調方法で、データ復調を実現することができる。一方、同報信号用復調部510は、自ビームエリア向けの信号A1だけでなく、隣接するビームエリア向けの同一周波数の信号A0、A2も用いた復調を行う。
【0060】
具体的に、同報信号用復調部510における復調処理について詳細に説明する。まず、前提として、制御局110が、中継衛星200の遅延回路部310−0〜310−(N’−1)に設定した各遅延量情報を、各受信局401、403、405にも通知しているものとする。同様に、制御局110は、各ビームエリアにおいて、隣接ビームエリアから到来し得る同報信号の数を、各受信局401、403、405に通知する。
【0061】
同報信号用復調部510では、相互相関部511において逆拡散処理を開始する。相互相関部511は、同報信号Aの拡散系列と同じ系列を用いた相互相関処理を、拡散用チップレートの数倍以上のサンプリング速度で行う(スライディング相関を行う)。
【0062】
図11は、各アンテナのビームパターンと受信局403の位置を示す図である。ビームパターン701は、送信アンテナ部390−1から送信されたビームエリア402向けのビームパターンであり、ビームパターン702は、送信アンテナ部390−0から送信されたビームエリア400向けのビームパターンであり、ビームパターン703は、送信アンテナ部390−2から送信されたビームエリア404向けのビームパターンである。また、例えば、ビームエリア402向けのビームエリアについて、ビームパターン701によるアンテナ利得をY[dBi]としたときの各地点における他のビームパターンによるアンテナ利得の大きさを示す。
【0063】
また、図12は、ビームエリア402内に存在する受信局403が相互相関を行った場合の例を示す図である。図12(a)は相互相関ベクトル特性を示し、図12(b)は相互相関電力特性を示す。受信局403では、同報信号Aの拡散系列と同じ系列を用いた相互相関処理を行うと、自ビームエリア宛の同報信号A1との相関値である相互相関ベクトルC1が得られる(図12(a))。同時に、ビームエリア400に送信された同報信号A0との相関値である相互相関ベクトルC0、ビームエリア404に送信された同報信号A2との相関値である相互相関ベクトルC2も、図12(a)、(b)に示すように、ベクトルC1よりも小さい相関電力ではあるが、時間的に分離されて得られる。この時間分離は、中継衛星200で与えた遅延差(τ(0,0)、τ(0,1)、τ(0,2))によって得られるものであり、3つの相関ベクトルの各時間差は、ベクトルC1とベクトルC0との間で「τ(0,1)−τ(0,0)」となり、ベクトルC1とベクトルC2との間で「τ(0,2)−τ(0,1)」となる。
【0064】
ベクトル位相検出部512は、相互相関部511で得られた相互相関データ系列(図12(a))から、図12(a)に示す相互相関ベクトルの数、各ベクトルの到来時刻、および各ベクトル位相角を検出し、合成部513に通知する。
【0065】
なお、ベクトル位相検出部512は、ベクトルの到来時刻やベクトル位相角検出の際に、制御局110からの情報を用いてもよい。具体的には、中継衛星200の遅延回路部310−0〜310−2に設定した各遅延量、および隣接ビームエリアから到来し得る同報信号の数(ここでは3つ)の各情報であり、これらの情報を用いることで、これらの情報を用いずに検出する場合と比較して、より正確なベクトルの数、ベクトルの到来時刻、およびベクトル位相角を検出することができる。
【0066】
合成部513は、ベクトル位相検出部512で検出したベクトルの数、ベクトルの到来時刻、およびベクトル位相角の各情報を用いて、相互相関部511から出力される相互相関データ系列の各相互相関ベクトルをベクトル合成して出力する。
【0067】
合成部513の動作例について、図10を用いて説明する。相互相関データ系列は、遅延部600、601に入力される。遅延部600は、最初に到来した1番目のパスのベクトルを、3番目のパスの到来時刻に合わせる時間遅延制御を行う。具体的には、ベクトル位相検出部512が検出したベクトルの時間差情報をもとに、ベクトル位相検出部512が、1番目のパスの遅延量「τ(0,2)−τ(0,0)」を遅延部600に与える。同様に、遅延部601は、2番目のパスのベクトルを、3番目のパスの到来時刻に合わせる時間遅延制御を行う。具体的には、ベクトル位相検出部512が検出したベクトルの時間差情報をもとに、ベクトル位相検出部512が、2番目のパスの遅延量「τ(0,2)−τ(0,1)」を、遅延部601に与える。
【0068】
このように3分岐した相互相関データ系列の各遅延制御処理により、3つの相関ベクトルの位置を、3番目のパスのベクトル位置に全て揃えることができる。但し、各相関ベクトル位相角は揃っていないため、さらに、以下の処理によりベクトル位相角を揃える。
【0069】
移相部610は、最初に到来した1番目のパスのベクトル位相角を、3番目のパスのベクトル位相角に合わせる。具体的には、ベクトル位相検出部512が検出したベクトル位相角情報をもとに、ベクトル位相検出部512が、1番目のパスの移相量を移相部610に与える。同様に、移相部611は、2番目のパスのベクトル位相角を、3番目のパスのベクトル位相角に合わせる。具体的には、ベクトル位相検出部512が、2番目のパスの移相量を移相部611に与える。
【0070】
このようなベクトル移相制御を行うことで、3分岐した相互相関データ系列のベクトル位相角も、3番目のパスのベクトル位置に全て揃えることができる。
【0071】
加算部620は、上述の時間遅延制御と移相制御が施された3つの相互相関データ系列を加算し、ラッチ部630は、ベクトル位相検出部512で検出したベクトルの到来時刻に基づいて、加算後の相互相関データ系列から、ベクトル合成後の相関ピーク値を抽出する。
【0072】
なお、ここでは、ビームエリア402に存在する受信局403の同報信号復調処理について説明したが、ビームエリア400に存在する受信局401の同報信号復調処理、ビームエリア404に存在する受信局405の同報信号復調処理も同様にして実現できる。この場合、ビームエリア400に存在する受信局401では、自ビームエリア向けの相関ベクトルC0が、ビームエリア404に存在する受信局405では、自ビームエリア向けの相関ベクトルC2が、それぞれ最も高い相関電力を示すことになる。
【0073】
図13は、合成部から出力される合成後の信号ベクトルを示す図である。以上の処理により、合成部513から出力される合成後の信号ベクトルは、図13に示すように揃うため、信号レベルの減少のない信号を得ることができる。
【0074】
後段の検波部514は、合成部513から拡散コード周期(L[μ秒])で出力される上記合成後の信号ベクトルを入力として、同期検波、あるいは遅延検波を行い、データを復調する。
【0075】
このように、上記中継衛星200の各同報信号に対する遅延制御と、受信局403の各信号処理により、衛星通信システムでは、各受信局において、自ビームエリア宛の同報信号だけでなく、同一周波数で隣接するビームエリアから到来する同報信号も合成した上で、同報信号を復調するため、周波数の有効利用(図4→図3)とともに、同報通信に対する良好な通信品質を実現することができる。さらに、同一周波数で隣接するビームエリアから到来する同報信号を合成することにより、合成しない場合と比較して、中継衛星200から送信する同報信号A0、A1、A2の電力を、必要最低限の通信品質レベルまで下げることができる。これにより、中継衛星200の低消費電力化を実現することもできる。なお、同一周波数で隣接するビームエリアから到来する同報信号をそれぞれ分離し、同報通信の品質が、隣接するビームエリアからの信号を合成しなくても十分確保される場合、各受信局では、合成処理を省略することも可能である。
【0076】
なお、各受信局は、上記相関電力情報を用いて、自局の位置を推定することもできる。例えば、受信局403が、図11に示すアンテナパターンの条件下、(1)の位置で同報信号{A0,A1,A2}を受信する場合、図12(b)に示すように、自ビームエリア向けの同報信号A1から得られる相関電力P1は、隣接するビームエリアから受信される相関電力P0、P2よりb[dB]高くなり、相関電力P0、P2はいずれもb[dB]低いレベルとなる。つぎに、受信局403が図11の(1)の位置から(2)の位置に移動すると、自ビームエリア向けの同報信号A1から得られる相関電力P1、および隣接ビームエリア404向けの同報信号A2から得られる相関電力P2が減少する一方、隣接ビームエリア400向けの同報信号A0から得られる相関電力P0が増加する(図12(c))。さらに、受信局403がビームエリア400とビームエリア402の境界である図11の(3)の位置に移動すると、さらに、相関電力P1、相関電力P2が減少する一方、相関電力P0が増加する(図12(d))。この場合、図12(d)に示すように、相関電力P0、P1はa[dB]低いレベルとなり、相関電力P2はc[dB]低いレベルとなる。このように受信局がどの位置に移動しても、相関電力P0、P1、P2のいずれかの電力は保持されるため、安定した同報通信を実現できることは明らかである。さらに、この各相関電力情報を用いて、受信局の位置を推定することもできる。
【0077】
本実施の形態では、図12(b)に示す各相関電力が得られた場合、自局はビームエリア402の中央に、図12(d)に示す各相関電力が得られた場合、自局はビームエリア402とビームエリア404の境界に位置するといえる。このように各相関電力P0、P1、P2の各相関電力情報から自局の位置を推定することができる。なお、相関電力だけでなく、各相関値のタイミング情報も併用してもよい。
【0078】
なお、相関電力P0、P1、P2の発生タイミングは、衛星で与えた各時間遅延が支配的ではあるが、厳密には、受信局の位置によって若干変動する。相関電力だけでなく、この変動情報も用いることで、自局の位置を推定してもよい。
【0079】
ところで、本実施の形態では、1次元的に表現しているが、実際は、東西南北で2次元的に割当てられた各隣接ビームエリアからの同報信号を用いて、自局の位置を同報信号用復調部510で検出することができる。これにより、従来の複数の衛星を用いたGPSシステムと異なり、1つの中継衛星200を用いて位置推定を実現できるため、システムのコストを抑えることができる。
【0080】
また、応用例として、受信局は、GPSシステムでは3つの衛星からの信号を用いて自局の位置を推定していたが、2つのGPS衛星と本衛星(中継衛星200)の組合せで自局の位置を推定してもよい。2つのGPS衛星を用いる場合、自局の位置は、円周上の不確定性が発生するが、前述の位置推定情報を加えることにより、不確定性の範囲を狭めることもできる。
【0081】
以上説明したように、本実施の形態では、1つの同報信号を複数の受信局へ送信する場合に、中継衛星において、同報信号を複製し、複製した各同報信号を同一の周波数帯へ割り当て、複製した各同報信号に対して異なる遅延時間を与えて送信することとした。これにより、同報信号の通信に使用する帯域を従来よりも低減できることから、周波数を有効に利用でき、周波数利用効率を高めることができる。
【0082】
また、中継衛星と受信局を含む衛星通信システム、特に、各ビームエリアを隣接して配置されるマルチビームの衛星通信システムにおいて、隣接するビームエリア向けの同報信号を用いて合成することにより、同報通信の高品質化、高安定化、および中継衛星の低消費電力化を実現することができる。さらに、各受信局の位置推定を実現することができる。
【0083】
なお、本実施の形態では、3ビームに対して、同報信号に対して3通りの時間遅延を与えるが、Nビームの場合は、最大N通りの時間遅延を与える構成となる。自ビームエリアと隣接しない、別ビームエリア向けの同報信号で、自ビームエリアに同一周波数干渉を与えない場合は、自ビームエリア向けの同報信号と別ビームエリア向けの同報信号の間で、異なる時間遅延を与えなくてもよい(同一の時間遅延設定でよい)。従って、衛星から同報信号を送信するビーム数がN個の場合、必ずしもN通りの時間遅延を与えなくてもよい。
【0084】
また、ビームエリアによっては、同報信号の送信が不要な場合もあるため、同報信号Aは必ずしも全てのビームに複製、遅延差を与えて送信する必要はなく、制御局110からのディジタルスイッチマトリックス部300への接続制御により、必要なビームエリアにのみ同報信号Aを複製して送信する。
【0085】
なお、本実施の形態では、遅延回路部310−0、310−1、310−2、…、310−(N’−1)を、ディジタルスイッチマトリックス部300と合波回路部320−0、320−1、320−2、…、320−(N’−1)の間に設け、それぞれ、入力されるm個の信号に対して独立した遅延を与える構成について説明したが、このような構成に限定するものではない。例えば、遅延回路部310−0、310−1、310−2、…、310−(N’−1)を、合波回路部320−0、320−1、320−2、…、320−(N’−1)の前ではなく後に設置してもよい。この場合、遅延する信号は合波後の信号1つであり、m個の信号に対して独立した遅延を与えることはできない。よって、他のユニキャスト信号も、同報信号と同様の遅延が与えられてしまうデメリットは発生するが、遅延回路部の回路規模を1/m倍に削減することができる。また、本実施の形態では、同報信号を、ビームエリア100内の同報送信局101から中継衛星200を介して、複数のビームエリアに送信するケースを示したが、同報信号は中継衛星200の内部で生成してもよい。この場合の同報信号は、例えば、中継衛星200自らが観測した情報(地形画像データ等)を変調したものとなる。この中継衛星200内部で生成した同報信号は、直接、ディジタルスイッチマトリックス部300に入力され、以降は、前記と同様、他のマルチキャスト信号と合わせて各ビームエリアに送信される。
【0086】
実施の形態2.
実施の形態1では、同報信号Aがスペクトラム拡散信号である場合の信号処理について説明した。本実施の形態では、同報信号Aがスペクトラム拡散を行わないPSK変調信号の場合について説明する。実施の形態1と異なる部分について説明する。
【0087】
図14は、同報送信局101が送信する同報信号Aのフレームフォーマットを示す図である。同報送信局101は、図14に示すように、PSK変調信号に伝送路等化用のプリアンブルを付加した形で送信し、中継衛星200は、実施の形態1と同様の処理で、同報信号Aを中継する。
【0088】
つぎに、受信局の構成について説明する。図15は、本実施の形態における受信局401の構成例を示す図である。ここでは、一例として、同報信号AがPSK変調信号の場合について説明する。また、受信局401について説明するが、受信局403、405も受信局401と同様の構成とする。
【0089】
受信局401は、受信アンテナ部500と、受信アンプ部501と、BPF部502と、受信ローカル信号生成部503と、ミキサ部504と、LPF部505と、A/D変換部506と、分波回路部507と、ユニキャスト通信用復調部508、509と、同報信号を復調する同報信号用復調部520と、を備える。また、同報信号用復調部520は、相互相関データ系列を得る相互相関部521と、伝送路推定値を検出する伝送路推定部522と、伝送路推定値を用いて受信信号の等化処理を行う等化部523と、等化後の同報信号Aに対する復調を行う検波部524と、を備える。
【0090】
実施の形態1における受信局401との違いは、同報信号用復調部520の部分のみである。同報信号用復調部520の動作を、図15を用いて説明する。
【0091】
相互相関部521は、上記PSK変調信号に付加した同一のプリアンブルを用いて、受信信号と既知プリアンブルとの相互相関処理を行い、相互相関データ系列を得る。
【0092】
つぎに、伝送路推定部522は、上記相互相関データ系列のうち、受信信号に含まれるプリアンブルと既知プリアンブルとの相互相関特性を相互相関電力検出によって抽出し、抽出した上記相互相関特性を伝送路推定値として保存する。このとき、伝送路推定部522では、プリアンブル受信時、実施の形態1と同様、図12に示すような各同報信号の相関ベクトルを得ることができるため、プリアンブルの相互相関情報を用いて、実施の形態1と同様、自局の位置推定を実現することができる。
【0093】
等化部523は、上記伝送路推定値を用いて、受信信号の等化処理を行う。例えば、受信信号を時間領域から周波数領域に変換後、周波数領域に変換された受信信号を、周波数領域に変換された伝送路推定値で除算することで、周波数領域での等化処理が実現できる。この等化処理により、同一周波数にて受信される同報信号A0、A1、A2から、元の同報信号Aを復元することができる。除算後のデータ系列は、等化部523内で、再び周波数領域から時間領域に変換後、検波部524に出力される。
【0094】
検波部524は、等化部523で同報信号A帯域内の位相不連続が解消されているため、一般的な復調処理で、等化後の同報信号Aに対する復調を実現することができる。
【0095】
以上説明したように、同報信号がスペクトラム拡散を行わないPSK変調信号の場合についても、実施の形態1と同様、隣接するビームエリア向けの同報信号を用いることにより、同報通信の高品質化、高安定化を実現することができる。なお、本実施の形態では、PSK変調信号の中継を説明したが、中継する信号は、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)でもよい。OFDMの場合も、フレームフォーマットは図14に示すプリアンブルとデータの組み合わせであり、受信局も図15と同様の構成で実現できる。検波部524にてOFDM特有のFFT処理による復調が行われる。
【0096】
実施の形態3.
実施の形態1、2では、中継衛星を用いたマルチビームの衛星通信システムにおいて、特に各ビームエリアを隣接して配置される場合に、周波数の有効利用、同報通信の高品質化、高安定化、さらに、各地上受信局の位置推定を実現する方法について説明した。しかしながら、中継衛星と同様の構成を、地上に設置された中継装置に備えることも可能である。また、この中継装置を用いて地上無線システムに適用することも可能である。
【0097】
この場合、実施の形態1と同一の構成で実現される中継装置では、送信局からの同報信号を、別の周波数に変換後に遅延差を与え、複数の方向を向いている指向性アンテナから同一周波数で送信する。
【0098】
これにより、中継衛星と同一構成の中継装置を用いた地上無線システムにおいても、周波数の有効利用、同報通信の高品質化、高安定化を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上のように、本発明にかかる中継衛星は、信号の中継に有用であり、特に、複数の送信局からの信号を複数の受信局へ中継する場合に適している。
【符号の説明】
【0100】
100、102 ビームエリア
101 同報送信局
103、104、105 ユニキャスト送信局
110 制御局
200 中継衛星
210−0、210−1、210−2、…、210−(N−1) 受信アンテナ部
220−0、220−1、220−2、…、220−(N−1) 受信アンプ部
230−0、230−1、230−2、…、230−(N−1) BPF部
240 原振生成部
250 受信ローカル信号生成部
260−0、260−1、260−2、…、260−(N−1) ミキサ部
270−0、270−1、270−2、…、270−(N−1) LPF部
280−0、280−1、280−2、…、280−(N−1) A/D変換部
290−0、290−1、290−2、…、290−(N−1) 分波回路部
300 ディジタルスイッチマトリックス部
310−0、310−1、310−2、…、310−(N’−1) 遅延回路部
320−0、320−1、320−2、…、320−(N’−1) 合波回路部
330−0、330−1、330−2、…、330−(N’−1) D/A変換部
340−0、340−1、340−2、…、340−(N’−1) LPF部
350 送信ローカル信号生成部
360−0、360−1、360−2、…、360−(N’−1) ミキサ部
370−0、370−1、370−2、…、370−(N’−1) BPF部
380−0、380−1、380−2、…、380−(N’−1) 送信アンプ部
390−0、390−1、390−2、…、390−(N’−1) 送信アンテナ部
400、402、404 ビームエリア
401、403、405 受信局
500 受信アンテナ部
501 受信アンプ部
502 BPF部
503 受信ローカル信号生成部
504 ミキサ部
505 LPF部
506 A/D変換部
507 分波回路部
508、509 ユニキャスト用復調部
510 同報信号用復調部
511 相互相関部
512 ベクトル位相検出部
513 合成部
514 検波部
520 同報信号用復調部
521 相互相関部
522 伝送路推定部
523 等化部
524 検波部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N(Nは2以上の整数)個の受信ビームエリア内に存在する送信局から受信した信号を、N’(N’は2以上の整数)個の送信ビームエリア内に存在する受信局へ送信する中継衛星であって、
1つの受信ビームエリア内にある送信局からの信号を受信し、受信した信号に対して周波数変換処理および帯域制限処理を行った信号をサンプリングする受信信号変換手段、をN個備えた受信信号変換手段群と、
前記受信信号変換手段と1対1で接続し、サンプリング後の信号を複数の信号に分波する分波手段、をN個備えた分波手段群と、
前記分波手段群から入力した分波後の各信号に対して周波数帯を割り当て、送信先となる送信ビームエリア単位で出力する制御を行うディジタルスイッチマトリックス手段と、
前記送信ビームエリア単位で出力された信号に対して遅延処理を行う遅延手段、をN’個備えた遅延手段群と、
前記遅延手段と1対1で接続し、前記送信ビームエリア単位で出力された遅延処理後の信号を合波する合波手段、をN’個備えた合波手段群と、
前記合波手段と1対1で接続し、合波後の信号をアナログ信号に変換し、さらに無線周波数帯へ変換した信号を送信先の送信ビームエリアへ送信する送信手段、をN’個備えた送信手段群と、
を備え、
前記送信局から受信した同報信号あるいは自身で生成した同報信号を2以上の受信局へ送信する場合、
前記ディジタルスイッチマトリックス手段は、前記同報信号を複製した各同報信号を、同一周波数帯に割り当て、送信先の受信局が含まれる送信ビームエリアへ送信可能な送信手段と接続する合波手段と接続する遅延手段へ出力し、
前記複製した同報信号を受信した各遅延手段は、前記同報信号に対してそれぞれ異なる時間遅延を付与する、
ことを特徴とする中継衛星。
【請求項2】
1つの受信ビームエリア内に2以上の送信局がある場合、
前記分波手段は、受信ビームエリア内に含まれる送信局数以上の信号数に分波可能とする、
ことを特徴とする請求項1に記載の中継衛星。
【請求項3】
前記分波手段は、分波する各フィルタの周波数特性が、隣接するフィルタ間でオーバーラップし、オーバーラップ領域の各フィルタの振幅の和が1となるように分波する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の中継衛星。
【請求項4】
前記遅延手段は、前記ディジタルスイッチマトリックス手段から前記同報信号と同報信号以外のユニキャスト信号を入力した場合、前記ユニキャスト信号に対して前記同報信号と同じ時間遅延を付与する、
ことを特徴とする請求項1、2または3に記載の中継衛星。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の中継衛星と、前記送信ビームエリア内にある受信局と、から構成される衛星通信システムであって、
前記受信局は、
前記中継衛星からの信号を受信し、受信した信号に対して周波数変換処理および帯域制限処理を行った信号をサンプリングする受信信号変換手段と、
サンプリング後の信号を、前記中継衛星の合波手段による合波処理前の信号に分波する分波手段と、
前記同報信号を復調する同報信号用復調手段と、
前記同報信号以外のユニキャスト信号を復調するユニキャスト用復調手段と、
を備え、
前記同報信号用復調手段は、前記中継衛星から送信された、自局が存在する送信ビームエリア向けの信号に含まれる同報信号と、自局が存在しない送信ビームエリア向けの信号に含まれる同報信号と、を用いて同報信号を復調する、
ことを特徴とする衛星通信システム。
【請求項6】
前記同報信号がスペクトラム拡散信号の場合に、
前記同報信号用復調手段は、
前記同報信号の拡散系列と同じ系列を用いて相互相関処理を行い、各ビームエリアに送信された同報信号について相関値である相互相関ベクトルを求める相互相関手段と、
前記相互相関ベクトルから、相互相関ベクトルの数、各ベクトルの到来時刻、および各ベクトル位相角を検出するベクトル位相検出手段と、
前記相互相関ベクトルの数、各ベクトルの到来時刻、および各ベクトル位相角の各情報を用いて、前記相互相関手段から出力される各相互相関ベクトルを合成する合成手段と、
合成後の信号ベクトルに対して検波を行い、データを復調する検波手段と、
を備えることを特徴とする請求項5に記載の衛星通信システム。
【請求項7】
前記受信局は、
前記相互相関手段における相互相関処理で求めた相関電力情報に基づいて、自局の位置を推定する、
ことを特徴とする請求項6に記載の衛星通信システム。
【請求項8】
前記同報信号がPSK変調信号あるいはOFDM信号の場合に、
前記同報信号用復調手段は、
前記PSK変調信号に付加した同一のプリアンブルを用いて、受信信号と既知プリアンブルとの相互相関処理を行い、相互相関データ系列を得る相互相関手段と、
前記相互相関データ系列のうち、受信信号に含まれるプリアンブルと既知プリアンブルとの相互相関特性を相互相関電力検出で抽出し伝送路推定値を求める伝送路推定手段と、
時間領域から周波数領域に変換した受信信号を、周波数領域に変換した伝送路推定値で除算し、さらに周波数領域から時間領域に変換する等化手段と、
時間領域に変換後の信号に対して検波を行い、データを復調する検波手段と、
を備えることを特徴とする請求項5に記載の衛星通信システム。
【請求項9】
さらに、
前記中継衛星のディジタルスイッチマトリックス手段に対して、分波後の各信号に対して周波数帯を割り当てる指示を行い、また、前記遅延手段群に対して、各遅延手段における時間遅延量を指示する制御局、
を備えることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1つに記載の衛星通信システム。
【請求項10】
前記制御局は、前記受信局に対して前記時間遅延量の情報を通知する、
ことを特徴とする請求項9に記載の衛星通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−98782(P2013−98782A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240377(P2011−240377)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】