説明

中継装置及び通信制御方法

【課題】中継装置の位置が変化する場合のサービスノードに起因する干渉を効率的に抑えることのできる中継装置及び通信制御方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る中継装置101は、基地局と移動局との間で送受信される無線信号を中継する中継装置101であって、基地局と無線信号を送受信する基地局側通信部117と、移動局と無線信号を送受信する移動局側通信部123と、中継装置101がある場所に位置するときに、移動局側通信部123が無線信号を送信しない状態での基地局側通信部117の送信電力を基準電力とし、移動局側通信部223が無線信号を送信している状態で、中継装置101が前記場所に再度位置し、且つ基地局側通信部117の送信電力から前記基準電力を引いた差分が差分閾値以上になる場合記移動局側通信部123の送信電力を下げる制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中継装置及び通信制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動局が基地局と通信するためには、移動局は基地局からの無線電波が届く範囲(サービスエリア)に位置する必要がある。しかし、山岳地帯や高層ビル等が建ち並ぶ市街地では、障害物が多いため無線電波が届きにくい領域が存在する。また、屋外に設置された基地局からは、電波が届かない領域(例えば、建物の内部や地下)が多く存在する。特に、IEEE標準規格802.16eを基に規格化されたWiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)(登録商標)等の高速無線通信方式では、2.5GHz以上の高周波数帯の電波が使用されるが、このような電波は直進性が強く、障害物を回りこむ性質が弱い。そのため、WiMAX等は障害物の影響を強く受ける。このような電波が届かない領域をカバーするため、基地局と移動局との間の無線信号を中継する中継装置(レピータ)が必要となる。
【0003】
この中継装置は、サービスエリアを拡充できるという利点がある反面、中継装置が発する電波が他の電波との干渉を引き起こすという欠点がある。中継装置に起因する干渉の一つには、基地局と通信を行うドナーノード(MS(Mobile Station)部)と、移動局と通信を行うサービスノード(BS(Base Station)部)との間における相互干渉(回り込み干渉又は自己干渉)があげられる。例えば、ドナーノードの受信期間とサービスノードの送信期間が重なった場合、基地局からの送信波が、サービスノードの送信波と干渉を起こし、ドナーノードは、品質の劣化した基地局からの送信波を受信することになる。同様にして、ドナーノードの送信期間とサービスノードの受信期間が重なった場合にも、相互干渉は発生する。
【0004】
そこで、従来、相互干渉を抑制するための無線通信方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。当該方法では、図8のように、基地局が下り信号を送信する下りサブフレーム期間(第1期間)内に、ドナーノードの受信(Rx)期間とサービスノードの受信期間とが合わせられる。また、基地局が上り信号を受信する上りサブフレーム期間(第2期間)内に、ドナーノードの送信(Tx)期間とサービスノードの送信期間とが合わせられる。これにより、上述したような相互干渉について抑制することができる。なお、図8におけるDLは、下り回線(Down Link)を意味し、ULは、上り回線(Up Link)を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−56711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の方法では、相互干渉については抑制されるものの、新たな干渉が発生する。例えば、図8の第2期間において、サービスノードの送信波が、ドナーノードの送信波と干渉を引き起こすことが考えられる。この場合、基地局は、品質の劣化したドナーノードからの送信波を受信することになる。
【0007】
ドナーノード及びサービスノードの位置が固定される場合は、設置時に電波測定を行い、干渉の影響が少ない設置位置を特定することができる。また、干渉の影響が許容範囲に収まるように、サービスノードの最大送信電力を定めることもできる。
【0008】
しかし、中継装置は、電車やバス等の車両に設置されることもあり、この場合、ドナーノード及びサービスノードの位置は固定されない。中継装置の周囲の電波環境の変化は著しいため、設置時の電波測定やサービスノードの最大送信電力の設定では、干渉の影響を抑えることが難しくなる。
【0009】
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、中継装置の位置が変化する場合のサービスノードに起因する干渉を効率的に抑えることのできる中継装置及び通信制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した諸課題を解決すべく、第1の観点に係る中継装置の発明は、
基地局と移動局との間で送受信される無線信号を中継する中継装置であって、
前記基地局と無線信号を送受信する基地局側通信部と、
前記移動局と無線信号を送受信する移動局側通信部と、
前記移動局側通信部の送信電力を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記中継装置がある場所に位置するときに、前記移動局側通信部が無線信号を送信しない状態での前記基地局側通信部の送信電力を基準電力とし、
前記移動局側通信部が無線信号を送信している状態で、前記中継装置が前記場所に再度位置し、且つ前記基地局側通信部の送信電力から基準電力を引いた差分が差分閾値以上になる場合、前記移動局側通信部の送信電力を下げる
中継装置である。
【0011】
また、第2の観点に係る発明は、第1の観点に係る中継装置において、
前記制御部は、前記中継装置の位置を管理する管理装置に接続される基地局に前記基準電力を送信するように前記基地局側通信部を制御し、
前記基地局側通信部は、前記管理装置から前記基地局を介して前記中継装置の位置に応じた前記基準電力を受信する
ことを特徴とするものである。
【0012】
また、第3の観点に係る発明は、
基地局と移動局との間で送受信される無線信号を中継する中継装置であって、
前記基地局と無線信号を送受信する基地局側通信部と、
前記移動局と無線信号を送受信する移動局側通信部と、
前記中継装置の位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記中継装置がある場所に位置する場合に、基地局の所定の受信品質を維持できる前記移動局側通信部の品質保証送信電力を記憶する記憶部と
前記移動局側通信部の送信電力を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記位置情報より、前記中継装置が前記場所に位置するか判断し、
前記中継装置が前記場所に位置すると判断できる場合、前記移動局側通信部の送信電力を前記品質保証送信電力に変更する
中継装置である。
【0013】
上述したように本発明の解決手段を装置として説明してきたが、本発明はこれらに実質的に相当する方法、プログラム、プログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものであり、本発明の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0014】
例えば、本発明を方法として実現させた第4の観点に係る通信制御方法は、
基地局と移動局との間で送受信される無線信号を中継する中継装置における通信制御方法において、当該中継装置が、
前記中継装置がある場所に位置するときに、前記中継装置が前記移動局に無線信号を送信しない状態における、前記中継装置が前記基地局に送信する無線信号の送信電力を基準電力とするステップと、
前記中継装置が前記移動局に無線信号を送信している状態において、前記中継装置が前記場所に再度位置し、且つ前記中継装置が前記基地局に送信する無線信号から前記基準電力を引いた差分が差分閾値以上になる場合、前記中継装置が前記移動局に送信する無線信号の送信電力を下げるステップと
を含むものである。
【発明の効果】
【0015】
上記のように構成された本発明に係る中継装置及び通信制御方法によれば、中継装置(ドナーノード)が基地局へ送信する無線信号の送信電力の上昇に応じて、中継装置(サービスノード)が移動局へ送信する無線信号の送信電力が下がるので、中継装置の位置が変化する場合のサービスノードに起因する干渉を効率的に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る概略的な無線通信システム構成図である。
【図2】図2は、本発明の第1実施形態に係る中継装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図3】図3は、本発明の第1実施形態に係る中継装置の処理を示すフローチャートである。
【図4】図4は、本発明の第1実施形態に係る中継装置の処理を示すフローチャートである。
【図5】図5は、本発明の第2実施形態に係る概略的な無線通信システム構成図である。
【図6】図6は、本発明の第2実施形態に係る中継装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図7】図7は、本発明の第2実施形態に係る中継装置の処理を示すフローチャートである。
【図8】図8は、従来の中継装置の送受信期間を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る概略的な無線通信システム構成図である。無線通信システム11は、基地局BS1(Base Station)(BS1−1及びBS1−2)と、移動局MS1(Mobile Station)と、車両103に搭載されている中継装置101と、管理装置105とから構成されている。無線通信システム11の通信方式がWiMAXである場合、無線通信システム11には、例えば時分割複信(TDD:Time Division Duplex)方式が採用される。中継装置101は、WiMAX等の無線通信方式において、基地局BS1と移動局MS1との間で送受信される無線信号を中継する。移動局MS1は、基地局BS1のセル(通信可能エリア)の範囲外に位置していても、中継装置101を介して基地局BS1と無線信号を送受信できる。管理装置105は、基地局BS1に有線で接続され、車両103の位置を管理することにより、中継装置101の位置を特定するものである。管理装置105は、例えば、EMS(Element Management System:エレメント管理システム)やNMS(Network Management System:ネットワーク管理システム)である。管理装置105は、例えば、車両に搭載されるGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)受信機からの信号の受信や車両103の時刻表を基に車両103の位置を特定することができる。なお、図1において、基地局BS1は2つ、移動局MS1は1つ記載されているが、本発明はこの態様に限定されるものではない。例えば、基地局の数を1つまたは3つ以上とし、移動局の数を2つ以上とすることができる。
【0019】
図1において、中継装置101は、車両103と共に予め定められた範囲を移動する。車両103が場所A1に位置する場合、中継装置101は、基地局BS1−1と通信し、車両103が場所B1に位置する場合、中継装置101は、基地局BS1−2と通信するものとする。車両103が場所A1及びB1に位置する場合、車両103は、停止するものとする。つまり、場所A1及びB1は、例えば駅である。なお、中継装置101が停止する場所は、2つに限定されるものではなく、3つ以上存在することができる。
【0020】
図2は、本発明の第1実施形態に係る中継装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0021】
中継装置101は、基地局BS1と通信を行うドナーノード(MS部)111と、移動局MS1と通信を行うサービスノード(BS部)113とを備えている。中継装置101は、中継装置101が移動する状況であれば、一体型に限定されるものではなく、分離型であってもよい。一体型の中継装置101は、一つの筐体内にドナーノード111とサービスノード113とを備えるものである。分離型の中継装置101では、ドナーノード111とサービスノード113とをそれぞれ独立して配置することが可能である。分離型又は一体型のドナーノード111とサービスノード113とは、信号ラインにより接続される。
【0022】
まず、ドナーノード111の機能ブロックについて説明する。ドナーノード111は、基地局側通信部117と、記憶部119と、制御部121とを備えている。基地局側通信部117及び記憶部119は、制御部121に接続されている。
【0023】
基地局側通信部117は、アンテナを介して基地局BS1と無線信号を送受信する。基地局側通信部117は、受信した無線信号に対して低雑音での増幅及びダウンコンバート等を行うことによりベースバンド信号を生成し、制御部121に送る。また、基地局側通信部117は、ベースバンド信号に対してアップコンバート及び増幅等を行うことにより、無線信号を生成し、アンテナを介して当該無線信号を基地局BS1に送信する。
【0024】
無線通信システム11に時分割複信方式が採用されている場合は、基地局側通信部117は、例えば、基地局BS1から無線信号を基地局BS1の下りサブフレーム期間(第1期間)で受信し、基地局BS1へ無線信号を第1期間に続く基地局BS1の上りサブフレーム期間(第2期間)で送信する。そして、連続する第1期間と第2期間との繰り返しにより、基地局側通信部117は、受信と送信を繰り返すことになる。
【0025】
記憶部119は、基地局側通信部117の送信電力に関する基準電力及び差分閾値などの各種情報を記憶するものであり、ワークメモリなどとしても機能する。差分閾値については、後述する。
【0026】
基準電力は、サービスノード113が機能を停止している状態、つまり後述する移動局側通信部123が無線信号を送信しない状態での基地局側通信部117の送信電力である。基地局BS1は、ドナーノード111からの無線信号の受信品質値が受信品質閾値以上になるように、基地局側通信部117の送信電力を制御する。受信品質値とは、干渉による影響を反映するものであり、例えばCINR(Carrier to Interference and Noise Ratio:搬送波対干渉雑音比)、SINR(Signal to Interference and Noise Ratio:信号対干渉雑音比)などの値であり、値が大きいほど受信品質の良さを表す。受信品質閾値とは、基地局BS1が、基地局側通信部117からの無線信号を正しく復調できる品質や所望のスループット速度を実現できる品質などに対応するCINRやSINRなどの値である。
【0027】
基地局BS1は、受信品質値が受信品質閾値未満である場合、基地局側通信部117の送信電力を上げるように指示する旨の信号を中継装置101に送信する。基地局側通信部117が当該信号を受信すると、後述する制御部121は、基地局側通信部117の送信電力を上げる。基地局側通信部117の送信電力が上がることにより、基地局側通信部117からの希望波の強度が上がり、CINRの値が大きくなる。つまり、基地局BS1の受信環境が改善されたことを意味する。よって、サービスノード113が機能を停止している状態で、基地局BS1が基地局側通信部117の送信電力を制御することにより、基地局BS1の受信品質値が受信品質閾値以上となる基地局側通信部117の送信電力が求まる。そして、求められた送信電力が基準電力となる。
【0028】
なお、本実施形態では、ドナーノード111のみが、記憶部119を有するが、本発明は、この構成に限定されるものではない。例えば、サービスノード113のみが記憶部を有し、当該記憶部が、ドナーノード111及びサービスノード113の各種情報を記憶することもできる。また、ドナーノード111及びサービスノード113の双方が記憶部を有し、各々の記憶部が関連する各々のユニットの情報を記憶することもできる。
【0029】
制御部121は、ドナーノード111及びサービスノード113の各機能ブロックをはじめとしてドナーノード111及びサービスノード113の全体を制御及び管理する。ここで、制御部121は、CPU(中央処理装置)等の任意の好適なプロセッサ上で実行されるソフトウェアとして構成したり、処理ごとに特化した専用のプロセッサ(例えばDSP(デジタルシグナルプロセッサ))によって構成したりすることもできる。なお、本実施形態では、ドナーノード111のみが、制御部121を有するが、本発明は、この構成に限定されるわけではない。例えば、サービスノード113のみが制御部を有し、当該制御部が、ドナーノード111及びサービスノード113の全体を制御及び管理することができる。また、ドナーノード111及びサービスノード113の双方が制御部を有し、各々の制御部が関連する各々のユニットを制御及び管理することもできる。
【0030】
続いて、サービスノード113の機能ブロックについて説明する。サービスノード113は、移動局側通信部123を備えている。移動局側通信部123は、制御部121に接続されている。
【0031】
移動局側通信部123は、アンテナを介して移動局MS1と無線信号を送受信する。移動局側通信部123は、受信した無線信号に対して低雑音での増幅及びダウンコンバート等を行うことによりベースバンド信号を生成し、制御部121に送る。また、移動局側通信部123は、ベースバンド信号に対してアップコンバート及び増幅等を行うことにより、無線信号を生成し、アンテナを介して当該無線信号を移動局MS1に送信する。
【0032】
無線通信システム11に時分割複信方式が採用されている場合は、移動局側通信部123は、例えば、移動局MS1から無線信号を第1期間内で受信し、移動局MS1へ無線信号を第1期間に続く第2期間内で送信する。そして、連続する第1期間と第2期間の繰り返しにより、移動局側通信部123は、受信と送信を繰り返すことになる。移動局側通信部123と基地局側通信部117との送信期間が、且つ移動局側通信部123と基地局側通信部117との受信期間が揃うことにより中継装置101における相互干渉は抑制される。
【0033】
ここで、ドナーノード111の制御部121についてより詳細に説明する。移動局側通信部123が機能する、つまり移動局側通信部123が無線信号を送信すると、当該無線信号が、基地局側通信部117が送信する無線信号に干渉することがある。基地局側通信部117からの無線信号において干渉が発生すると、基地局BS1における当該無線信号の受信品質は下がる。よって、基地局BS1は、基地局側通信部117の送信電力を上げるように中継装置101に指示する。制御部121は、中継装置101からの指示に従い、基地局側通信部117の送信電力を上げる。このとき、基地局側通信部117の送信電力から基準電力を引いた差分が差分閾値以上である場合、制御部121は、移動局側通信部123の送信電力を下げる。移動局側通信部123の送信電力が下がることにより、移動局側通信部123からの無線信号に起因する干渉を抑えることができる。差分閾値は、制御部121が、移動局側通信部123の送信電力を下げるタイミングを定めるものであり、基地局側通信部117の最大送信電力や許容される送信電力の変動などに基づいて任意に設定できる事項である。制御部121が行うその他の処理については、後述の図3及び図4の説明にて詳述する。
【0034】
続いて、中継装置101(制御部121)が移動局側通信部123の送信電力を制御する方法について、図1、図3及び図4を参照して説明する。図3は、本発明の第1実施形態に係る中継装置が、サービスノードの機能停止時に行う処理を示すフローチャートである。図4は、本発明の第1実施形態に係る中継装置が、サービスノードの機能時に行う処理を示すフローチャートである。
【0035】
まず、制御部121は、移動局側通信部123の送信電力を制御するために、サービスノード113が機能を停止している状態で、全ての中継装置101の停止場所での基地局側通信部117(ドナーノード111)の送信電力を取得する(ステップS101)。つまり、図1においては、制御部121は、中継装置が場所(駅)A1及びB1に位置するときの基地局側通信部117の送信電力を求める。求められた送信電力は、基地局BS1−1及びBS1−2の受信品質値が受信品質閾値以上になるものである。そして、制御部121は、送信電力を当該送信電力が求められた場所に関連づけて基準電力に設定する(ステップS102)。
【0036】
そして、制御部121は、基準電力を基地局BS1に送信するように基地局側通信部117を制御する(ステップS103)。基地局BS1は、基準電力を受信すると、当該情報を管理装置105に転送する。管理装置105は、基準電力を当該基準電力が求められた場所に関連付けて保存する。
【0037】
続いて、制御部121は、サービスノード113の機能を再開させる。移動局側通信部123は、ある規定値の送信電力で無線信号を送信しているものとする。なお、規定値は任意に設定できる事項である。
【0038】
中継装置101は、予め定められた範囲を移動するので、再度、場所A1に位置したとする。すると、管理装置105は、車両103が場所A1に停止したことを特定し、場所A1に関連する基準電力を基地局BS1−1に送信する。基地局BS1−1は、この基地局側通信部117(ドナーノード111)の基準電力を中継装置101に送信する。すると、基地局側通信部117は、基準電力を受信し(ステップS111)、制御部121に送る。制御部121は、基準電力を記憶部119に記憶させる。
【0039】
中継装置101が場所A1に位置している間に、制御部121は、基地局側通信部117(ドナーノード111)の送信電力を取得する(ステップS112)。そして、基地局側通信部117の送信電力から基準電力を引いた差分が差分閾値以上か否かを判断する(ステップS113)。
【0040】
差分が差分閾値未満の場合(ステップS113のNo)、制御部121は、移動局側通信部123からの無線信号と基地局側通信部117からの無線信号との干渉は、許容できるものであると判断し、移動局側通信部123(サービスノード113)の送信電力を変更せずに維持する(ステップS114)。
【0041】
差分が差分閾値以上の場合(ステップS113のYes)、制御部121は、移動局側通信部123からの無線信号と基地局側通信部117からの無線信号との干渉は許容できるものではなく、干渉を抑える必要があると判断する。そして、制御部121は、移動局側通信部123(サービスノード113)の送信電力を引き下げる(ステップS115)。つまり、移動局側通信部123は、規定値よりも小さい値の送信電力で無線信号を送信する。なお、制御部121が移動局側通信部123の送信電力を引き下げる量は、ある所定の量(固定値)とすることができる。また、制御部121は、差分が大きければ大きいほど、移動局側通信部123の送信電力を大きく下げることもできる。
【0042】
車両103が位置B1に向かって動き出すと、制御部121は、移動局側通信部123の送信電力を規定値に戻すことができる。
【0043】
車両103が位置B1で停止すると、中継装置101は基地局BS1−2と通信し、ステップS111〜S115の処理を行う。
【0044】
このように本実施形態では、中継装置101の制御部121は、中継装置101が場所A1及びB1に位置するときにそれぞれ、移動局側通信部123が無線信号を送信しない状態での基地局側通信部117の送信電力を基準電力とする。そして、制御部121は、移動局側通信部123が無線信号を送信している状態で、中継装置101が場所A1又はB1に再度位置し、且つ基地局側通信部117の送信電力から中継装置101が位置する場所に対応する基準電力を引いた差分が差分閾値以上になる場合、移動局側通信部123の送信電力を下げる。つまり、制御部121は、移動局側通信部123の機能停止時と、無線信号送信時とにおける基地局側通信部117の送信電力の変化から、移動局側通信部123の無線信号が基地局側通信部117の無線信号に干渉する度合いを評価する。移動局側通信部123の無線信号に起因する干渉が大きいほど、基地局BS1の受信品質は悪くなり、基地局側通信部117の送信電力を上昇する。基地局側通信部117の送信電力の上昇が、差分閾値以上となると、移動局側通信部123の送信電力は下がる。これにより、移動局側通信部123(サービスノード113)に起因する干渉を抑えることができる。また、中継装置101の停止場所毎に基準電力を予め定めておくことにより、中継装置101が移動し、停止場所が変わっても、制御部101は、基地局側通信部117の送信電力を停止場所に対応する基準電力と比較することができる。よって、制御部101は、中継装置101の停止場所毎に、移動局側通信部123に起因する干渉の有無を判断でき、必要に応じて移動局側通信部123の送信電力を下げることができる。
【0045】
また、本実施形態では、制御部121は、中継装置101の位置を管理する管理装置105に接続される基地局BS1に基準電力を送信するように基地局側通信部117を制御し、基地局側通信部117は、管理装置105から基地局BS1を介して中継装置101の位置に応じた基準電力を受信することができる。つまり、中継装置101は、基準電力を管理する必要がなく、管理装置105が、基準電力を中継装置101の停止位置と関連付けて管理する。管理装置105が、車両103の位置を管理することにより、中継装置101の位置を特定する。よって、中継装置101は、自装置の位置を特定するために、位置情報取得部を備える必要がなく、中継装置101の小型化及びコストダウンが図れる。また、中継装置101の記憶部119が基準電力を保存して管理する必要がないため、記憶部119の容量の小型化も可能である。
【0046】
なお、上述の本発明の第1実施形態の説明においては、管理装置105が車両の位置を管理することにより、中継装置の停止場所が特定されるが、本発明はこの態様に限定されるものではない。例えば、中継装置がGPSを備えることにより、中継装置の停止場所を特定することができる。この場合、基準電力は、管理装置ではなく、中継装置の記憶部が記憶することにより、管理装置を設けることなく、上記第1実施形態を実現することができる。
【0047】
(第2実施形態)
第1実施形態では、ドナーノードの基地局側通信部の送信電力と基準電力との差分に基づき、サービスノードの移動局側通信部の送信電力を下げる場合について説明したが、第2実施形態では、中継装置の位置に基づきサービスノードの移動局側通信部の送信電力を下げる場合について説明する。
【0048】
図5は、本発明の第2実施形態に係る概略的な無線通信システム構成図である。第2実施形態に係る無線通信システム21は、基地局BS2(BS2−1及びBS2−2)と、移動局MS2と、車両203に搭載されている中継装置201とから構成されている。これらの無線通信システム21の構成要素は、第1実施形態の基地局BS1(BS1−1及びBS1−2)と、移動局MS1と、車両103に搭載されている中継装置101と同じであるため、説明は省略する。なお、無線通信システム21は、無線通信システム11とは異なり、管理装置を含まない。
【0049】
中継装置201は、中継装置101と同様、車両203と共に予め定められた範囲を移動する。図5において、車両203が場所A2に位置する場合、中継装置201は、基地局BS2−1と通信し、車両203が場所B2に位置する場合、中継装置201は、基地局BS2−2と通信するものとする。
【0050】
図6は、本発明の第2実施形態に係る中継装置の概略構成を示す機能ブロック図である。中継装置201は、第1実施形態と同様、ドナーノード211とサービスノード213とを備えている。
【0051】
ドナーノード211は、ドナーノード111と同様、基地局側通信部217と、記憶部219と、制御部221とを備えている。基地局側通信部217及び記憶部219は、制御部221に接続されている。制御部221以外の機能部217及び219は、第1実施形態の機能部117及び119と同じ機能を有するので、説明は省略する。
【0052】
サービスノード213は、移動局側通信部223と位置情報取得部225とを備えている。移動局側通信部223は、移動局側通信部123と同様の機能を有するため、説明は省略する。
【0053】
位置情報取得部225は、中継装置201(サービスノード213)の位置情報を取得するもので、例えば、GPS受信機である。位置情報取得部225は、定期的又は不定期的に中継装置201の情報を取得し、制御部221に送る。また、位置情報取得部225は、GPS受信機のみではなく、ジャイロや加速度センサも含むことができる。そのため、人工衛星からの電波が届きにくい環境でも、ジャイロや加速度センサにより、中継装置201の位置を決定することができる。なお、本実施形態では、サービスノード213が、位置情報取得部225を有するが、本発明は、この構成に限定されるものではない。例えば、ドナーノード211が位置情報取得部を有することもできる。そして、ドナーノード211の位置情報取得部により特定された位置を中継装置201の位置とすることができる。
【0054】
ここで、ドナーノード211の制御部221についてより詳細に説明する。移動局側通信部223が機能する、つまり移動局側通信部223が無線信号を送信すると、当該無線信号が、基地局側通信部217が送信する無線信号に干渉することがある。そのため、制御部221は、中継装置201が停止する位置と、中継装置201と通信する基地局BS2の位置と、中継装置201のドナーノード211及びサービスノード213の位置との関係や、基地局側通信部217の送信電力などを勘案して、基地局BS2の所定の受信品質を維持できる移動局側通信部223の品質保証送信電力を定める。つまり、品質保証送信電力はシミュレーション等で求まる理論値となる。所定の受信品質とは、基地局BS2が、基地局側通信部217からの無線信号を正しく復調できる品質や所望のスループット速度を実現できる品質などである。そして、制御部221は、品質保証送信電力を記憶部219に記憶させる。そして、制御部221は、位置情報取得部225の情報から中継装置201が停止したと判断すると、移動局側通信部223の送信電力をある規定値から品質保証送信電力に変更する。なお、規定値は任意に設定できる事項であり、品質保証送信電力よりも大きい値又は小さい値に設定される。制御部221が行うその他の処理については、後述の図7の説明にて詳述する。
【0055】
続いて、中継装置201(制御部221)が移動局側通信部223の送信電力を制御する方法について、図5及び図7を参照して説明する。図5は、本発明の第2実施形態に係る中継装置が行う処理を示すフローチャートである。
【0056】
位置情報取得部225が位置情報を取得し(ステップS201)、当該情報を制御部221に送る。制御部221は、連続する複数の位置情報から中継装置201が移動を停止したか否かを判断する(ステップS202)。
【0057】
中継装置201は、車両203と共に予め定められた範囲を移動するもので、まず場所A1で停止したとする。制御部221は、中継装置201が移動を停止したと判断すると(ステップS202のYes)、記憶部219に記憶されている品質保証送信電力を読み出す(ステップS203)。そして、制御部221は、移動局側通信部223(サービスノード213)の送信電力を品質保証送信電力に変更する(ステップS204)。
【0058】
車両203が位置B1に向かって動き出すと、制御部221は、移動局側通信部223の送信電力を規定値に戻すことができる。
【0059】
車両203が移動中、位置情報取得部225は位置情報を取得し(ステップS201)、車両203が位置B1で停止すると、中継装置201はステップS203及びS204の処理を行う。
【0060】
このように本実施形態では、中継装置201の制御部221は、位置情報取得部225からの位置情報より、中継装置201が場所A2又はB2に位置するかを判断し、中継装置201が場所A2又はB2に位置すると判断できる場合、移動局側通信部223の送信電力を品質保証送信電力に変更する。つまり、中継装置201が移動し、停止位置が変化する場合でも、中継装置201が停止する毎に、移動局側通信部223の送信電力は理論値である品質保証送信電力となる。これにより、第1実施形態とは異なり、移動局側通信部223が無線信号を送信しない状態での、基地局側通信部217の送信電力を取得する必要がないため、より容易に移動局側通信部223に起因する干渉を抑えることができる。また、中継装置201の位置は、中継装置201が備える位置情報取得部225の位置情報により特定される。よって、第2実施形態では、第1実施形態とは異なり、中継装置201の位置を管理する管理装置が不要である。つまり、中継装置201と基地局を介した管理装置との通信処理が不要であるため、中継装置201の処理を軽減することができる。
【0061】
なお、上述の本発明の第2実施形態の説明においては、中継装置201の移動が停止すると、制御部221は、移動局側通信部223の無線信号が基地局側通信部217の無線信号に与える影響の度合いに関係なく、移動局側通信部223の送信電力を品質保証送信電力に変更するが、本発明はこの態様に限定されるものではない。例えば、基地局側通信部217は、定期的又は不定期的に基地局BS2から、基地局BS2のCINRなどの受信品質を示す情報を受信することができる。そして、中継装置201の移動が停止した際に、基地局BS2のCINRがCINR閾値未満となると、制御部221は、移動局側通信部223の無線信号に起因する干渉の影響は大きいと判断し、移動局側通信部223の送信電力を品質保証送信電力に変更することができる。なお、基地局BS2のCINRがCINR閾値以上の場合は、制御部221は、移動局側通信部223の送信電力を、維持することも、また品質保証送信電力に近づくように段階的に下げることもできる。
【0062】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。
【0063】
例えば、各部材、各手段、各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段やステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0064】
上述の本発明の実施形態の説明において、例えば、閾値「以上」または閾値「未満」のような表現の技術的思想が意味する内容は必ずしも厳密な意味ではなく、中継装置の仕様に応じて、基準となる値を含む場合又は含まない場合の意味を包含するものとする。例えば、閾値「以上」とは、閾値の比較対象である値が閾値に達した場合のみならず、閾値を超えた場合も含意し得るものとする。また、例えば閾値「未満」とは、閾値の比較対象である値が閾値を下回った場合のみならず、閾値に達した場合、つまり閾値以下になった場合も含意し得るものとする。
【符号の説明】
【0065】
11、21 無線通信システム
101、201 中継装置
103、203 車両
105 管理装置
111、211 ドナーノード
113、213 サービスノード
117、217 基地局側通信部
119、219 記憶部
121、221 制御部
123、223 移動局側通信部
225 位置情報取得部
BS1−1、BS1−2、BS2−1、BS2−2 基地局
MS1、MS2 移動局
A1、B1、A2、B2 場所(駅)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局と移動局との間で送受信される無線信号を中継する中継装置であって、
前記基地局と無線信号を送受信する基地局側通信部と、
前記移動局と無線信号を送受信する移動局側通信部と、
前記移動局側通信部の送信電力を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記中継装置がある場所に位置するときに、前記移動局側通信部が無線信号を送信しない状態での前記基地局側通信部の送信電力を基準電力とし、
前記移動局側通信部が無線信号を送信している状態で、前記中継装置が前記場所に再度位置し、且つ前記基地局側通信部の送信電力から前記基準電力を引いた差分が差分閾値以上になる場合、前記移動局側通信部の送信電力を下げる
中継装置。
【請求項2】
請求項1に記載の中継装置において、
前記制御部は、前記中継装置の位置を管理する管理装置に接続される基地局に前記基準電力を送信するように前記基地局側通信部を制御し、
前記基地局側通信部は、前記管理装置から前記基地局を介して前記中継装置の位置に応じた前記基準電力を受信する
ことを特徴とする中継装置。
【請求項3】
基地局と移動局との間で送受信される無線信号を中継する中継装置であって、
前記基地局と無線信号を送受信する基地局側通信部と、
前記移動局と無線信号を送受信する移動局側通信部と、
前記中継装置の位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記中継装置がある場所に位置する場合に、基地局の所定の受信品質を維持できる前記移動局側通信部の品質保証送信電力を記憶する記憶部と
前記移動局側通信部の送信電力を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記位置情報より、前記中継装置が前記場所に位置するか判断し、
前記中継装置が前記場所に位置すると判断できる場合、前記移動局側通信部の送信電力を前記品質保証送信電力に変更する
中継装置。
【請求項4】
基地局と移動局との間で送受信される無線信号を中継する中継装置における通信制御方法において、当該中継装置が、
前記中継装置がある場所に位置するときに、前記中継装置が前記移動局に無線信号を送信しない状態における、前記中継装置が前記基地局に送信する無線信号の送信電力を基準電力とするステップと、
前記中継装置が前記移動局に無線信号を送信している状態において、前記中継装置が前記場所に再度位置し、且つ前記中継装置が前記基地局に送信する無線信号から前記基準電力を引いた差分が差分閾値以上になる場合、前記中継装置が前記移動局に送信する無線信号の送信電力を下げるステップと
を含む通信制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−98577(P2013−98577A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236365(P2011−236365)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】