説明

乗員保護装置

【課題】 乗員の保護性能を向上させる。
【解決手段】 乗員保護装置10では、車両の前面衝突時に、制御装置54の制御によって右エアバッグ24及び左エアバッグ26がガスを供給されて膨張されることで、シートクッション20の車両上側面20Aが車両上方へ変位されて、乗員の車両前側への移動が乗員の臀部下面において阻止され、乗員が拘束保護される。ここで、右乗員検知センサ56及び左乗員検知センサ58がシートクッション20への乗員の着座位置を検知すると共に、当該検知された乗員の着座位置に応じて右エアバッグ24及び左エアバッグ26の膨張量が制御される。このため、シートクッション20への乗員の着座位置に応じて乗員を適切に保護することができ、乗員の拘束性能を向上して乗員の保護性能を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張部が膨張されることでシートクッションの車両上側面が車両上方へ変位される乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗員保護装置としては、シートクッションの下方に設けられたエアバッグがガス供給装置からガスを供給されて膨張されることで、シートクッションが押し上げられるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この乗員保護装置では、シートクッションの下方にエアバッグが複数設けられると共に、各エアバッグにガス供給装置が接続されており、乗員がシートベルトを装着しているか否かが検知されることで、シートクッションへの乗員の着座位置が判断されて、各ガス供給装置の作動が制御される。
【0004】
しかしながら、この乗員保護装置では、各ガス供給装置の作動と非作動とが制御されるのみであるため、各エアバッグの膨張と非膨張とが制御されるのみである。
【特許文献1】特開2001−239872公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事実を考慮し、シートクッションへの乗員の着座位置に応じて乗員の保護性能を向上させることができる乗員保護装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の乗員保護装置は、車両のシートクッションへの乗員の着座位置を検知する乗員検知手段と、ガスが供給されることで膨張されて前記シートクッションの車両上側面を車両上方へ変位させる複数の膨張部と、前記複数の膨張部へガスを供給可能とされ、前記乗員検知手段が検知した前記シートクッションへの乗員の着座位置に応じて前記膨張部を複数の膨張状態へ膨張可能とされたガス供給手段と、を備えている。
【0007】
請求項2に記載の乗員保護装置は、請求項1に記載の乗員保護装置において、前記ガス供給手段は、前記複数の膨張部へガスを供給する複数のガス供給装置を有する、ことを特徴としている。
【0008】
請求項3に記載の乗員保護装置は、請求項1又は請求項2に記載の乗員保護装置において、車両前後に前記複数の膨張部を並べて配置した、ことを特徴としている。
【0009】
請求項4に記載の乗員保護装置は、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の乗員保護装置において、車両左右に前記複数の膨張部を並べて配置した、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の乗員保護装置では、ガス供給手段が複数の膨張部へガスを供給可能とされており、膨張部へガスが供給されることで、膨張部が膨張されて、シートクッションの車両上側面が車両上方へ変位される。これにより、乗員のサブマリン現象等の車両前側への移動を阻止して、乗員が拘束保護される。
【0011】
ここで、乗員検知手段がシートクッションへの乗員の着座位置を検知する。さらに、乗員検知手段が検知したシートクッションへの乗員の着座位置に応じて、ガス供給手段が膨張部を複数の膨張状態(膨張させない状態を除いた範囲での複数の膨張状態(膨張量))へ膨張可能とされている。このため、シートクッションへの乗員の着座位置に応じてシートクッションの車両上側面の部位毎における車両上方への変位量を変更可能となり、乗員の拘束性能を向上して乗員を適切に保護することができる。
【0012】
請求項2に記載の乗員保護装置では、ガス供給手段が複数の膨張部へガスを供給する複数のガス供給装置を有している。このため、各膨張部を容易に複数の膨張状態へ膨張させることができる。
【0013】
請求項3に記載の乗員保護装置では、車両前後に複数の膨張部が並べられて配置されている。このため、シートクッションへの乗員の前後方向における着座位置に応じて、乗員を適切に保護することができる。
【0014】
請求項4に記載の乗員保護装置では、車両左右に複数の膨張部が並べられて配置されている。このため、シートクッションへの乗員の左右方向における着座位置に応じて、乗員を適切に保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[第1の実施の形態]
図1には、本発明の第1の実施の形態に係る乗員保護装置10が適用されて構成された車両用シート装置12が車両前斜め左側から見た斜視図にて示されている。なお、図面では、車両前方を矢印FRで示し、車両上方を矢印UPで示す。
【0016】
本実施の形態に係る車両用シート装置12は、支持部材14を備えており、支持部材14は車室16の床面18に図示しないシート位置調整機構を介して支持されている。支持部材14にはシートクッション20が支持されており、シートクッション20は弾性を有している。シートクッション20は略水平に配置されており、シートクッション20は車両用シート装置12の車両上側面20Aに着座した乗員(図示省略)を弾力的に支持する。
【0017】
シートクッション20の車両下側部には、図2にも示す如く、筒状のダクト22が設けられており、シートクッション20の車両前後方向及び車両左右方向の中央において、ダクト22の一端部22Aが車両上下方向に沿って配置されて、ダクト22の一端面22Bが車両上方へ向けて開口されている。ダクト22の他端には空調装置(図示省略)が接続されており、空調装置から温度が調整された空気がダクト22へ送られることで、当該空気がダクト22の一端面22Bからシートクッション20内へ送られる。これにより、当該空気がシートクッション20内を通気されて、シートクッション20の温度が調整される。
【0018】
シートクッション20の車両下側部には膨張部としての金属製袋状の右エアバッグ24及び左エアバッグ26が折り畳まれた状態で設けられており、シートクッション20の車両前側部位において、右エアバッグ24が車両右側かつ左エアバッグ26が車両左側に配置されて、右エアバッグ24及び左エアバッグ26が車両左右に並べられて配置されている。
【0019】
図2に示す如く、右エアバッグ24及び左エアバッグ26の車両下側面は、金属製略平板状のマウントプレート28の車両上側面に固定されており、マウントプレート28は支持部材14に固定されている。これにより、右エアバッグ24及び左エアバッグ26の車両下側への移動がマウントプレート28によって阻止される。マウントプレート28の車両後側部には、車両左右方向中央部位において、配置孔30が貫通形成されており、配置孔30は車両後側が開放されている。配置孔30内にはダクト22の一端部22Aが配置されており、これにより、右エアバッグ24と左エアバッグ26との間にダクト22の一端部22Aが配置されている。
【0020】
マウントプレート28の車両前側部には、円筒状の右インフレータパイプ32及び左インフレータパイプ34がそれぞれ板状のクランプ板36と共にボルト38及びナット40の締結によって固定されており、右インフレータパイプ32及び左インフレータパイプ34はマウントプレート28の車両下側に配置されている。右インフレータパイプ32及び左インフレータパイプ34にはそれぞれL字形円管状の右接続パイプ42及び左接続パイプ44の一端が接続されており、右接続パイプ42及び左接続パイプ44の他端に対応してマウントプレート28には円形状の一対の接続孔46が貫通形成されている。右接続パイプ42及び左接続パイプ44の他端はそれぞれ接続孔46を介して右エアバッグ24及び左エアバッグ26に接続されており、右インフレータパイプ32内及び左インフレータパイプ34内はそれぞれ右接続パイプ42内及び左接続パイプ44内を介して右エアバッグ24内及び左エアバッグ26内に連通されている。各接続孔46にはゴム製円環状のパッキン48が配置されており、各パッキン48はそれぞれ右接続パイプ42の他端と右エアバッグ24との接続部分及び左接続パイプ44の他端と左エアバッグ26との接続部分をシールしている。
【0021】
右インフレータパイプ32内及び左インフレータパイプ34内には、それぞれガス供給手段を構成するガス供給装置としての右インフレータ50及び左インフレータ52が密閉状態で設けられており、右インフレータ50及び左インフレータ52には制御装置54(制御手段)が接続されている。
【0022】
図1に示す如く、シートクッション20内には、乗員検知手段としての長方形膜状の右乗員検知センサ56及び左乗員検知センサ58が設けられており、シートクッション20の車両上側面20A近傍かつシートクッション20の車両前側部から車両後側部において、右乗員検知センサ56が車両右側かつ左乗員検知センサ58が車両左側に配置されている。また、右乗員検知センサ56及び左乗員検知センサ58は、乗員の荷重を検出して乗員の着座位置(着座姿勢)を検知するためのものであり、上記制御装置54へ接続されている。
【0023】
なお、支持部材14の車両後側端にはシートバック21の車両下側端が支持されており、シートバック21は弾性を有している。シートバック21はシートクッション20の車両後側端から略垂直に立設されており、シートバック21は車両用シート装置12に着座した乗員の傾動を支持する。
【0024】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0025】
以上の構成の乗員保護装置10では、車両の前面衝突時に、制御装置54の制御によって右インフレータ50及び左インフレータ52が作動されてガスを発生することで、右インフレータパイプ32内及び左インフレータパイプ34内からそれぞれ右接続パイプ42内及び左接続パイプ44内を介し右エアバッグ24内及び左エアバッグ26内へガスが供給されて、右エアバッグ24及び左エアバッグ26がマウントプレート28によって車両下側への移動を阻止されつつ車両上方へ膨張(展開)される。
【0026】
このため、この右エアバッグ24及び左エアバッグ26の膨張によってシートクッション20の車両前側端付近が車両上方へ押圧されて、シートクッション20の車両上側面20Aが車両上方へ変位されることで、乗員のサブマリン現象等の車両前側への移動が乗員の臀部下面において阻止されて、乗員が拘束保護される。
【0027】
ここで、右乗員検知センサ56及び左乗員検知センサ58が、乗員から受ける荷重を検出することで、シートクッション20への乗員の着座位置を検知し、後述の如く右エアバッグ24及び左エアバッグ26の膨張量が制御される。
【0028】
すなわち、右乗員検知センサ56が受ける乗員の荷重Rが左乗員検知センサ58が受ける乗員の荷重Lよりも所定値P以上大きい際には、乗員がシートクッション20の車両右側部位へ偏って着座していると制御装置54が判断する。
【0029】
右乗員検知センサ56が受ける乗員の荷重Rと左乗員検知センサ58が受ける乗員の荷重Lとの差が所定値P未満の際には、乗員がシートクッション20へ車両左右方向に偏りなく着座していると制御装置54が判断する。
【0030】
左乗員検知センサ58が受ける乗員の荷重Lが右乗員検知センサ56が受ける乗員の荷重Rよりも所定値P以上大きい際には、乗員がシートクッション20の車両左側部位へ偏って着座していると制御装置54が判断する。
【0031】
さらに、右乗員検知センサ56及び左乗員検知センサ58が検知したシートクッション20への乗員の着座位置に応じて、右インフレータ50で発生されて右エアバッグ24内へ供給されるガスの量及び左インフレータ52で発生されて左エアバッグ26内へ供給されるガスの量が変更される。
【0032】
すなわち、図3に示す如く、乗員がシートクッション20の車両右側部位へ偏って着座していると制御装置54が判断した際(R−LがP以上の際)には、制御装置54の制御によって、右インフレータ50で発生されて右エアバッグ24内へ供給されるガスの量が多くされる(HIGH)と共に、左インフレータ52で発生されて左エアバッグ26内へ供給されるガスの量が少なくされる(LOW)。このため、特に、右エアバッグ24の膨張量(膨張圧力)が大きくなって、シートクッション20の車両上側面20Aの車両前右部位の車両上方への変位量が大きくなる。これにより、シートクッション20の車両右側部位へ偏って着座している乗員が、特にシートクッション20の車両上側面20Aの車両前右部位の車両上方への大きな変位によって臀部下面の車両前側への移動を拘束されて確実に保護される。
【0033】
乗員がシートクッション20へ車両左右方向に偏りなく着座していると制御装置54が判断した際(|R−L|がP未満の際)には、制御装置54の制御によって、右インフレータ50で発生されて右エアバッグ24内へ供給されるガスの量が多くされる(HIGH)と共に、左インフレータ52で発生されて左エアバッグ26内へ供給されるガスの量が多くされる(HIGH)。このため、右エアバッグ24及び左エアバッグ26の膨張量(膨張圧力)が共に大きくなって、シートクッション20の車両上側面20Aの車両前右部位及び車両前左部位の車両上方への変位量が共に大きくなる。これにより、シートクッション20へ車両左右方向に偏りなく着座している乗員が、シートクッション20の車両上側面20Aの車両前右部位及び車両前左部位の車両上方への大きな変位によって臀部下面の車両前側への移動を拘束されて確実に保護される。
【0034】
乗員がシートクッション20の車両左側部位へ偏って着座していると制御装置54が判断した際(L−RがP以上の際)には、制御装置54の制御によって、左インフレータ52で発生されて左エアバッグ26内へ供給されるガスの量が多くされる(HIGH)と共に、右インフレータ50で発生されて右エアバッグ24内へ供給されるガスの量が少なくされる(LOW)。このため、特に、左エアバッグ26の膨張量(膨張圧力)が大きくなって、シートクッション20の車両上側面20Aの車両前左部位の車両上方への変位量が大きくなる。これにより、シートクッション20の車両左側部位へ偏って着座している乗員が、特にシートクッション20の車両上側面20Aの車両前左部位の車両上方への大きな変位によって臀部下面の車両前側への移動を拘束されて確実に保護される。
【0035】
以上により、シートクッション20への乗員の左右方向における着座位置に応じて、乗員を適切に保護することができ、乗員保護装置10による乗員の拘束性能を向上して乗員の保護性能を向上させることができる。
【0036】
さらに、乗員がシートクッション20の車両右側部位及び車両左側部位の何れか一方へ偏って着座している際には、乗員の臀部が、車両前後方向においてずれて(臀部の偏って着座していない側(車両右側部位及び車両左側部位の何れか他方側)が臀部の偏って着座している側(車両右側部位及び車両左側部位の何れか一方側)より車両前側に位置して)、右エアバッグ24又は左エアバッグ26に近すぎたり右エアバッグ24又は左エアバッグ26上にある場合が想定される。この場合には、シートクッション20の車両上側面20Aの車両上方への変位が効果を発揮しないおそれ等が考えられるため、上述の如くシートクッション20の車両上側面20Aの車両右側部位及び車両左側部位の何れか一方(偏って着座している側)を最大に(HIGHレベルで)車両上方へ変位させる(シートクッション20の車両上側面20Aの車両右側部位及び車両左側部位の何れか他方(偏って着座していない側)をLOWレベルで車両上方へ変位させる)ことで、乗員を的確に拘束して保護することができる。
【0037】
また、マウントプレート28の車両後側部に配置孔30が貫通形成されて配置孔30内にダクト22の一端部22Aが配置されると共に、右エアバッグ24及び左エアバッグ26が車両左右方向に分離して配置されて右エアバッグ24と左エアバッグ26との間にダクト22の一端部22Aが配置されている。このため、シートクッション20に乗員保護装置10が設けられても、シートクッション20の車両前後方向及び車両左右方向の中央にダクト22の一端面22Bを配置でき、ダクト22がシートクッション20への他の部品の配置を妨げない。
【0038】
[第2の実施の形態]
図4には、本発明の第2の実施の形態に係る乗員保護装置60が適用されて構成された車両用シート装置62が車両前斜め左側から見た斜視図にて示されており、図5には、車両用シート装置62が車両左側から見た一部破断した側面図にて示されている。
【0039】
本実施の形態に係る車両用シート装置62は、上記第1の実施の形態と同様に、車室16の床面18に支持されて、支持部材14、シートクッション20及びシートバック21を備えている。また、車両用シート装置62のシートクッション20には、上記第1の実施の形態におけるダクト22及び空調装置が設けられていない。
【0040】
車両用シート装置62では、シートクッション20の車両下側部に膨張部としての金属製袋状の前エアバッグ64及び中エアバッグ66が折り畳まれた状態で設けられており、前エアバッグ64がシートクッション20の車両前側部位における車両右側部から車両左側部に横長に配置されかつ中エアバッグ66がシートクッション20の車両前後方向中央部位における車両右側部から車両左側部に横長に配置されて、前エアバッグ64及び中エアバッグ66が車両前後に並べられて配置されている。
【0041】
前エアバッグ64及び中エアバッグ66の車両下側面は、それぞれ金属製略平板状の前マウントプレート68及び中マウントプレート70の車両上側面に固定されており、前マウントプレート68及び中マウントプレート70はそれぞれ固定部材72を介して支持部材14に固定されている。これにより、前エアバッグ64及び中エアバッグ66の車両下側への移動がそれぞれ前マウントプレート68及び中マウントプレート70によって阻止されている。
【0042】
前マウントプレート68及び中マウントプレート70には、それぞれ円筒状の前インフレータパイプ74及び中インフレータパイプ76が固定されており、前インフレータパイプ74及び中インフレータパイプ76はそれぞれパイプ(図示省略)を介して前エアバッグ64及び中エアバッグ66に接続されている。これにより、前インフレータパイプ74内及び中インフレータパイプ76内はそれぞれパイプ内を介して前エアバッグ64内及び中エアバッグ66内に連通されている。
【0043】
前インフレータパイプ74内及び中インフレータパイプ76内には、それぞれガス供給手段を構成するガス供給装置としての前インフレータ78及び中インフレータ80が密閉状態で設けられており、前インフレータ78及び中インフレータ80には制御装置82(制御手段)が接続されている。
【0044】
シートクッション20内には、乗員検知手段としての長方形膜状の前乗員検知センサ84、中乗員検知センサ86及び後乗員検知センサ88が設けられており、シートクッション20の車両上側面20A近傍において、前乗員検知センサ84がシートクッション20の車両前側部位における車両左側部から車両右側部に配置され、中乗員検知センサ86がシートクッション20の車両前後方向中央部位における車両左側部から車両右側部に配置されかつ後乗員検知センサ88がシートクッション20の車両後側部位における車両左側部から車両右側部に配置されている。また、前乗員検知センサ84、中乗員検知センサ86及び後乗員検知センサ88は、乗員90の荷重を検出して乗員90の着座位置(着座姿勢)を検知するためのものであり、上記制御装置82へ接続されている。
【0045】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0046】
以上の構成の乗員保護装置60では、車両の前面衝突時に、制御装置82の制御によって前インフレータ78及び中インフレータ80の少なくとも一方が作動されてガスを発生することで、前インフレータパイプ74内及び中インフレータパイプ76内の少なくとも一方から一対のパイプ内の少なくとも一方を介し前エアバッグ64内及び中エアバッグ66内の少なくとも一方へガスが供給されて、前エアバッグ64及び中エアバッグ66の少なくとも一方が前マウントプレート68及び中マウントプレート70の少なくとも一方によって車両下側への移動を阻止されつつ車両上方へ膨張(展開)される。
【0047】
このため、この前エアバッグ64及び中エアバッグ66の少なくとも一方の膨張によってシートクッション20が上方へ押圧されて、シートクッション20の車両上側面20Aが車両上方へ変位されることで、乗員90のサブマリン現象等の車両前側への移動が乗員90の臀部90A下面において阻止されて、乗員90が拘束保護される。
【0048】
ここで、前乗員検知センサ84、中乗員検知センサ86及び後乗員検知センサ88が、乗員90から受ける荷重を検出することで、シートクッション20への乗員90の着座位置を検知し、後述の如く前エアバッグ64及び中エアバッグ66の膨張量が制御される。
【0049】
すなわち、前乗員検知センサ84が受ける乗員90の荷重Fが、中乗員検知センサ86が受ける乗員90の荷重M及び後乗員検知センサ88が受ける乗員90の荷重Bよりも大きい際には、乗員90が臀部90Aの下面をシートクッション20の車両前側部位へ載置して着座していると制御装置82が判断する。
【0050】
中乗員検知センサ86が受ける乗員90の荷重Mが、前乗員検知センサ84が受ける乗員90の荷重F及び後乗員検知センサ88が受ける乗員90の荷重Bよりも大きい際には、乗員90が臀部90Aの下面をシートクッション20の車両前後方向中央部位へ載置して着座していると制御装置82が判断する。
【0051】
後乗員検知センサ88が受ける乗員90の荷重Bが、前乗員検知センサ84が受ける乗員90の荷重F及び中乗員検知センサ86が受ける乗員90の荷重Mよりも大きい際には、乗員90が臀部90Aの下面をシートクッション20の車両後側部位へ載置して着座していると制御装置82が判断する(図5参照)。
【0052】
さらに、前乗員検知センサ84、中乗員検知センサ86及び後乗員検知センサ88が検知したシートクッション20への乗員90の着座位置に応じて、前インフレータ78で発生されて前エアバッグ64内へ供給されるガスの量及び中インフレータ80で発生されて中エアバッグ66内へ供給されるガスの量が変更される。
【0053】
すなわち、図6に示す如く、乗員90が臀部90Aの下面をシートクッション20の車両前側部位へ載置して着座していると制御装置82が判断した際(FがM及びBよりも大きい際)には、制御装置82の制御によって、前インフレータ78で発生されて前エアバッグ64内へ供給されるガスの量が少なくされる(LOW)と共に、中インフレータ80で発生されて中エアバッグ66内へ供給されるガスがなくされる(OFF)。このため、前エアバッグ64の膨張量(膨張圧力)が小さくなると共に中エアバッグ66が膨張されずに、シートクッション20の車両上側面20Aの車両前側部位の車両上方への変位量が小さくなると共にシートクッション20の車両上側面20Aの車両前後方向中央部位が車両上方へ変位されない。これにより、臀部90Aの下面をシートクッション20の車両前側部位へ載置して着座している乗員90が、シートクッション20の車両上側面20Aの車両前側部位の車両上方への小さな変位によって臀部90A下面の車両前側への移動を拘束されて確実に保護される。
【0054】
乗員90が臀部90Aの下面をシートクッション20の車両前後方向中央部位へ載置して着座していると制御装置82が判断した際(MがF及びBよりも大きい際)には、制御装置82の制御によって、前インフレータ78で発生されて前エアバッグ64内へ供給されるガスの量が多くされる(HIGH)と共に、中インフレータ80で発生されて中エアバッグ66内へ供給されるガスの量が少なくされる(LOW)。このため、前エアバッグ64の膨張量(膨張圧力)が大きくなると共に中エアバッグ66の膨張量(膨張圧力)が小さくなって、シートクッション20の車両上側面20Aの車両前側部位の車両上方への変位量が大きくなると共にシートクッション20の車両上側面20Aの車両前後方向中央部位の車両上方への変位量が小さくなる。これにより、臀部90Aの下面をシートクッション20の車両前後方向中央部位へ載置して着座している乗員90が、シートクッション20の車両上側面20Aの車両前側部位の車両上方への大きな変位及びシートクッション20の車両上側面20Aの車両前後方向中央部位の車両上方への小さな変位によって臀部90A下面の車両前側への移動を拘束されて確実に保護される。
【0055】
乗員90が臀部90Aの下面をシートクッション20の車両後側部位へ載置して着座していると制御装置82が判断した際(BがF及びMよりも大きい際)には、制御装置82の制御によって、前インフレータ78で発生されて前エアバッグ64内へ供給されるガスの量が多くされる(HIGH)と共に、中インフレータ80で発生されて中エアバッグ66内へ供給されるガスの量が多くされる(HIGH)。このため、前エアバッグ64及び中エアバッグ66の膨張量(膨張圧力)が共に大きくなって、シートクッション20の車両上側面20Aの車両前側部位及び車両前後方向中央部位の車両上方への変位量が共に大きくなる。これにより、臀部90Aの下面をシートクッション20の車両後側部位へ載置して着座している乗員90が、シートクッション20の車両上側面20Aの車両前側部位及び車両前後方向中央部位の車両上方への大きな変位によって臀部90A下面の車両前側への移動を拘束されて確実に保護される。
【0056】
以上により、シートクッション20への乗員90の前後方向における着座位置に応じて、乗員90を適切に保護することができ、乗員保護装置60による乗員90の拘束性能を向上して乗員90の保護性能を向上させることができる。
【0057】
なお、上記第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、複数のエアバッグ(右エアバッグ24及び左エアバッグ26又は前エアバッグ64及び中エアバッグ66)に対して複数のガス供給装置(右インフレータ50及び左インフレータ52又は前インフレータ78及び中インフレータ80)を設けた構成としたが、複数のエアバッグ(膨張部)に対して単一のガス供給装置を設けた構成としてもよい。この場合、複数のエアバッグへ単一のガス供給装置が分配してガスを供給するガス分配装置を設けることで、各エアバッグへ供給するガスの量を変更することができる。
【0058】
さらに、上記第1の実施の形態では、右エアバッグ24及び左エアバッグ26を車両左右に並べて配置した構成とし、上記第2の実施の形態では、前エアバッグ64及び中エアバッグ66を車両前後に並べて配置した構成としたが、複数のエアバッグ(膨張部)を車両左右及び車両前後に並べて配置した構成としてもよい。これにより、シートクッションへの乗員の着座位置に厳密に応じて、乗員を適切に保護することができる。
【0059】
また、上記第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、膨張部をエアバッグ(右エアバッグ24、左エアバッグ26、前エアバッグ64及び中エアバッグ66)とした構成としたが、膨張部を、シートクッションに設けられたチャンバ等の他の膨張部としてもよい。
【0060】
さらに、上記第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、シートクッション20の車両上側面20A略全体下方の内部に乗員検知手段として複数の乗員検知センサ(右乗員検知センサ56及び左乗員検知センサ58又は前乗員検知センサ84、中乗員検知センサ86及び後乗員検知センサ88)を分離して設けた構成としたが、シートクッション20の車両上側面20A略全体下方の内部に乗員検知手段として複数の乗員検知センサを一体にして設けた構成としてもよい。さらにまた、乗員検知手段を、シートクッション20に着座した乗員を撮像する撮像装置(カメラ)等の他のセンサとしてもよい。
【0061】
また、上記第1の実施の形態及び第2の実施の形態において、車両用シート装置12、62にシートベルト装置(特に乗員の腰部を拘束するラップベルト)を設けた構成としてもよい。これにより、乗員の保護性能を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施の形態における車両用シート装置を示す車両前斜め左側から見た斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る乗員保護装置の右エアバッグ及び左エアバッグ等の設置状況を示す車両前斜め左側から見た分解斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る乗員保護装置の作動制御状況を示す表である。
【図4】本発明の第2の実施の形態における車両用シート装置を示す車両前斜め左側から見た斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態における車両用シート装置を示す車両左側から見た一部破断した側面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る乗員保護装置の作動制御状況を示す表である。
【符号の説明】
【0063】
10 乗員保護装置
20 シートクッション
20A 車両上側面
24 右エアバッグ(膨張部)
26 左エアバッグ(膨張部)
50 右インフレータ(ガス供給手段、ガス供給装置)
52 左インフレータ(ガス供給手段、ガス供給装置)
56 右乗員検知センサ(乗員検知手段)
58 左乗員検知センサ(乗員検知手段)
60 乗員保護装置
64 前エアバッグ(膨張部)
66 中エアバッグ(膨張部)
78 前インフレータ(ガス供給手段、ガス供給装置)
80 中インフレータ(ガス供給手段、ガス供給装置)
84 前乗員検知センサ(乗員検知手段)
86 中乗員検知センサ(乗員検知手段)
88 後乗員検知センサ(乗員検知手段)
90 乗員

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシートクッションへの乗員の着座位置を検知する乗員検知手段と、
ガスが供給されることで膨張されて前記シートクッションの車両上側面を車両上方へ変位させる複数の膨張部と、
前記複数の膨張部へガスを供給可能とされ、前記乗員検知手段が検知した前記シートクッションへの乗員の着座位置に応じて前記膨張部を複数の膨張状態へ膨張可能とされたガス供給手段と、
を備えた乗員保護装置。
【請求項2】
前記ガス供給手段は、前記複数の膨張部へガスを供給する複数のガス供給装置を有する、ことを特徴とする請求項1記載の乗員保護装置。
【請求項3】
車両前後に前記複数の膨張部を並べて配置した、ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の乗員保護装置。
【請求項4】
車両左右に前記複数の膨張部を並べて配置した、ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の乗員保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−143045(P2006−143045A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−337392(P2004−337392)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(503358097)オートリブ ディベロップメント エービー (402)
【Fターム(参考)】