説明

乗員保護装置

【課題】車両衝突に対し乗員を効果的に保護することができる乗員保護装置を得る。
【解決手段】乗員保護装置10は、シートバック16におけるシート幅方向の一方側を構成する第1シートバック18と、シートバック16におけるシート幅方向の他方側を構成する第2シートバック20と、車両の衝突が検知又は予測された場合に第1シートバック18と第2シートバック20とをシート幅方向に分離させるシートバック分離アクチュエータ34及びECU40と、シート幅方向に分離された第1シートバック18と第2シートバック20との間で乗員Pを背面側から支持するネット部材22と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートへの着座乗員を保護するための乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
側面衝突を検知したときにシートバックを回転させて乗員の拘束力を向上し、乗員とシートとを一体に移動させて2次衝突を防止できるようにした乗員保護装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−143173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の如き従来の技術では、車両の前面衝突について考慮されておらず、この点を含め改善の余地があった。
【0004】
本発明は、上記事実を考慮して、車両衝突に対し乗員を効果的に保護することができる乗員保護装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明に係る乗員保護装置は、シートバックにおけるシート幅方向の一方側を構成する第1シートバックと、前記シートバックにおけるシート幅方向の他方側を構成する第2シートバックと、車両の衝突が検知又は予測された場合に、前記第1シートバックと第2シートバックとをシート幅方向に分離させるシートバック分離手段と、シート幅方向に分離された前記第1シートバックと第2シートバックとの間で、乗員を背面側から支持する支持部材と、を備えている。
【0006】
請求項1記載の乗員保護装置では、通常は、第1シートバックと第2シートバックとで乗員(着座者)の上体を背面側から支持するシートバックを構成している。例えば車両の前面衝突が検知又は予測されると、シートバック分離手段が第1、第2シートバックを分離させる(シートバックが分割される)。すると、このシートの乗員は、シートバックによる後方からの支持が失われ、支持部材に支持されつつ上体が後傾され、又は後傾することで上体が支持部材に支持される。このような乗員上体の後方への移動により、乗員の前方の空間が広がるので、該乗員の保護性能が向上する。
【0007】
このように、請求項1記載の乗員保護装置では、車両衝突に対し乗員を効果的に保護することができる。なお、第1、第2シートバックの分離に伴って乗員を確実に後方にするために、前面衝突に至る前にシートバック分離手段を作動させることが好ましい。
【0008】
請求項2記載の発明に係る乗員保護装置は、請求項1記載の乗員保護装置において、前記シートバック分離手段は、車両の衝突が検知又は予測された場合に、前記第1シートバック及び第2シートバックの少なくとも一方が乗員の側方に回り込むように、前記第1シートバックと第2シートバックとをシート幅方向に分離させる。
【0009】
請求項2記載の乗員保護装置では、第1及び第2シートバックの少なくとも一方がシートバックの分割に伴って乗員の側方に回り込むので、シートバック分離手段を側面衝突が検知又は予測された場合に作動させることで、乗員を側面衝突に対しても保護することが可能である。
【0010】
請求項3記載の発明に係る乗員保護装置は、請求項1記載の乗員保護装置において、前記第1シートバック及び第2シートバックは、それぞれ前記シートバックを構成する状態で乗員を側方から支持するサイドサポートを有し、前記シートバック分離手段は、車両の衝突が検知又は予測された場合に、前記第1シートバック及び第2シートバックが乗員の側方に回り込むように、前記第1シートバックと第2シートバックとをシート幅方向に分離させる。
【0011】
請求項3記載の乗員保護装置では、第1及び第2シートバックのそれぞれがシートバックの分割に伴って乗員の側方に回り込むので、シートバック分離手段を側面衝突が検知又は予測された場合に作動させることで、乗員が側面衝突に対しても保護される。また、第1、第2シートバックにはそれぞれサイドサポートが設けられているので、これらが乗員側方に回り込んだ場合には、各サイドサポートが乗員の前面側に回り込む。すなわち、分離された第1、第2シートバックが乗員を包み込む(抱え込む)。このため、シートへの乗員拘束性が向上し、衝突の際に乗員をシートと共に各方向に移動させることが可能になる。
【0012】
請求項4記載の発明に係る乗員保護装置は、請求項1〜請求項3の何れか1項記載の乗員保護装置において、前記支持部材は、張力で前記乗員を背面側から支持する張力構造体である。
【0013】
請求項4記載の乗員保護装置では、支持部材が張力構造体(例えば、布状体、ネット状体、並列された帯状体等)であるため、シートバックが分割された場合に、乗員の上体にフィットしつつ該上体を支持することができる。
【0014】
請求項5記載の発明に係る乗員保護装置は、請求項4記載の乗員保護装置において、前記支持部材は、シート幅方向に分離された前記第1シートバックと第2シートバックとの間に展開されるように、前記シートバックを構成する状態の前記第1シートバックと第2シートバックの間に収容されている。
【0015】
請求項5記載の乗員保護装置では、例えば第1、第2シートバック間に折り畳み状態等で収容されていた伸縮性の支持部材がこれらの分離に伴い展開されることで、後方に移動される又は移動された乗員の上体を支持する。支持部材を展開させる専用構造(動力等)が不要であるので、構造が簡単である。
【0016】
請求項6記載の発明に係る乗員保護装置は、請求項4記載の乗員保護装置において、前記支持部材は、前記シートバックの表皮材又はクッション材を構成している。
【0017】
請求項6記載の乗員保護装置では、シートバックの分割前には該シートバックの表皮又はクッション材を成していた支持部材が、第1、第2シートバックの分離に伴い伸展されることで、後方に移動される又は移動された乗員の上体を支持する。支持部材を展開させる専用構造(動力等)が不要であるので、構造が簡単である。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明に係る乗員保護装置は、車両衝突に対し乗員を効果的に保護することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の第1の実施形態に係る乗員保護装置10について、図1〜図6に基づいて説明する。
【0020】
図1(A)には、車両用シート12に適用された乗員保護装置10の概略構成が模式的な平面図にて示されており、図1(B)、図1(C)には乗員保護装置10の作動状態が模式的な平面図にて示されている。これらの図に示される如く、乗員保護装置10は、シートクッション14とシートバック16とを有する車両用シート12に適用されており、該車両用シート12のシートバック16を構成する第1シートバック18と、第2シートバック20とを備えている。
【0021】
図1(A)に示される如く、第1シートバック18と第2シートバック20とは、通常は車幅方向に一致されたシート幅方向に隣接されており、乗員(着座者)Pの上体を背面側(車両前後方向の後側)から支持するシートバック16を略半分ずつ構成している。これら第1シートバック18と第2シートバック20とは、図1(B)及び図1(C)に示される如く、シート幅方向に分離される分離形態をとり得る構成とされている。第1シートバック18と第2シートバック20とは、後述するように乗員保護装置10が適用された自動車等の車両の前面衝突時、側面衝突時に互いに分離されるようになっている。
【0022】
また、第1シートバック18、第2シートバック20は、それぞれ乗員Pを側方(シート幅方向外側)から支持するためのサイドサポート18A、20Aを有する。これらサイドサポート18A、20Aは、第1シートバック18、第2シートバック20が乗員Pの側方に回り込むように分離されることで、該乗員Pの前方に回り込むようになっている(図1(C)参照)。さらに、図1(B)、図1(C)及び図2(B)に示される如く、乗員保護装置10は、分離された第1シートバック18と第2シートバック20との間に展開(張設)される支持部材としてのネット部材22を備えている。以下、乗員保護装置10について、具体的な構造を説明する。
【0023】
図3(A)には、車両用シート12に組み込まれた乗員保護装置10の概略構造が正面図にて示されている。この図に示される如く、第1シートバック18を構成する第1シートバックフレーム24、第2シートバック20を構成する第2シートバックフレーム26は、それぞれの下端部が回転ジョイント28を介してシートクッション14の後端部に支持されている。
【0024】
この実施形態では、各回転ジョイント28は、シート幅方向に長手のベースフレーム25の長手方向両端に配置され、それぞれ車両前後方向に一致されるシート前後方向に沿う軸線を有している。これにより、第1シートバックフレーム24(第1シートバック18)、第2シートバックフレーム26(第2シートバック20)は、シートクッション14に対して、回転ジョイント28周りに左右に揺動可能に支持されている。
【0025】
また、第1シートバックフレーム24における回転ジョイント28による支持部を含む下部24Aと、車両上下方向に一致されるシート上下方向の中間部から上端部にかけての上部24Bとの間には、これらの間の相対変位を許容する回転ばね30が介在されている。同様に、第2シートバックフレーム26における回転ジョイント28による支持部を含む下部26Aと、シート上下方向の中間部から上端部にかけての上部26Bとの間には、これらの間の相対変位を許容する回転ばね30が介在されている。この実施形態では、回転ばね30は、それぞれ第1シートバックフレーム24、第2シートバックフレーム26におけるシート上下方向に延在すると共にシート幅方向の外端部を構成するサイドフレーム部24C、26Cに設けられている。
【0026】
また、第1シートバックフレーム24と第2シートバックフレーム26とのシート上下方向の上端間でかつシート幅方向の内端間には、該第1シートバックフレーム24と第2シートバックフレーム26との分離を禁止するためのロック手段として電磁ロック32が設けられている。電磁ロック32のロック状態では、第1シートバックフレーム24(第1シートバック18)と第2シートバックフレーム26(第2シートバック20)とがシート幅方向に隣接する(シートバック16を構成する)状態が維持される構成である。一方、電磁ロック32によるロック解除状態では、第1シートバックフレーム24と第2シートバックフレーム26との分離が許容されるようになっている。
【0027】
さらに、第1シートバックフレーム24と第2シートバックフレーム26とのシート上下方向の上端間でかつシート幅方向の内端間には、該第1シートバックフレーム24と第2シートバックフレーム26との分離するための動力を発生するシートバック分離アクチュエータ34が設けられている。この実施形態では、シートバック分離アクチュエータ34として、第1シートバックフレーム24の上端と第2シートバックフレーム26の上端とを繋ぐ図示しないフレキシブルチューブに高圧ガスを供給する流体圧アクチュエータが用いられている。ガス発生器としては、例えばガス発生剤に着火してガスを発生させるインフレータ等を用いることができる。
【0028】
またさらに、乗員保護装置10では、ネット部材22は、通常は第1シートバック18と第2シートバック20との間に折り畳まれて収容されている(図3(A)参照)。ネット部材22は、図3(B)に示される如く第1シートバック18と第2シートバック20とが分離された状態で、該第1シートバック18と第2シートバック20との間に展開されるように、該展開状態における幅方向の両端が第1シートバック18、第2シートバック20におけるそれぞれのシート幅方向内端を構成するインナフレーム部24D、26Dに接合されている。
【0029】
また、図3(A)及び図3(B)に示される如く、乗員保護装置10では、第1シートバック18と20との分離(シートバック16の分割を許容するために、シートバック16の上端に設けられたヘッドレスト36が第1ヘッドレスト36Aと、第2ヘッドレスト36Bとを主要部して構成されている。第1ヘッドレスト36Aは、第1シートバックフレーム24に支持されており、第2ヘッドレスト36Bは、第2シートバックフレーム26に支持されている。
【0030】
さらに、第1ヘッドレスト36Aと第2ヘッドレスト36Bとの間には、該第1ヘッドレスト36Aと第2ヘッドレスト36Bとのシート幅方向への分離に伴って展開されるネット部材38が設けられている。ネット部材38は、展開された状態におけるシート幅方向両端が第1ヘッドレスト36A、第2ヘッドレスト36Bに接合されており、通常は該第1ヘッドレスト36Aと第2ヘッドレスト36Bとの間に折り畳まれて収容されている。
【0031】
以上により、乗員保護装置10は、電磁ロック32のロック解除状態でシートバック分離アクチュエータ34が作動されると、第1シートバックフレーム24と第2シートバックフレーム26とがシート幅方向に分離されることで、第1シートバック18と第2シートバック20とがシート幅方向に分離されると共に第1ヘッドレスト36Aと第2ヘッドレスト36Bとがシート幅方向に分離されるようになっている。
【0032】
また、乗員保護装置10では、上記した第1シートバック18と第2シートバック20との分離、第1ヘッドレスト36Aと第2ヘッドレスト36Bとの分離に伴って、これらの間でネット部材22、38が展開され、ネット部材22によって乗員Pの上体が背面側から支持されると共に、ネット部材38によって乗員Pの頭部が背面側から支持されるようになっている。
【0033】
そして、乗員保護装置10では、第1シートバック18と第2シートバック20との間で張力により乗員Pの上体を支持するネット部材22によって、第1シートバックフレーム24、第2シートバックフレーム26は、それぞれのインナフレーム部24D、26Dがシート後方に移動させることで、上部24B、26Bが乗員Pの側方に回り込むように、各回転ばね30を変形させつつ下部24A、26Aに対し図3(B)の矢印R方向に回転変位されるようになっている。
【0034】
これにより、乗員保護装置10では、図1(B)、図1(C)に示される如く、第1シートバック18、第2シートバック20が乗員Pの側方に回り込むように分離される構成とされている。
【0035】
また、乗員保護装置10は、シートバック分離アクチュエータ34とで本発明におけるシートバック分離手段を構成する制御手段としてのECU40を備えている。ECU40は、適用された自動車の前面衝突を予測するための前突センサ42、該自動車の側面衝突を予測するための側突センサ44のそれぞれと電気的に接続されている。前突センサ42、側突センサ44は、例えば、ミリ波レーダ(距離センサ)、車速センサ、CCDカメラ(撮像手段)、車両状況を検出するための各種センサの1つ又は組み合わせとして構成することができる。
【0036】
ECU40は、これら前突センサ42、側突センサ44からの信号に基づいて適用された自動車の衝突形態(前突又は側突)を予測し、さらに衝突が回避可能であるか否かを判断するようになっている。例えば、ECU40は、図4に示されるフローチャートの如き制御を行う構成とされている。
【0037】
次に、第1の実施形態の作用を、ECU40による制御と共に説明する。
【0038】
上記構成の乗員保護装置10が適用された車両用シート12では、図1(A)及び図2(A)に示される如く、通常は、第1シートバック18と第2シートバック20とがシート幅方向に隣接してシートバック16を構成している。乗員Pは、シートクッション14上に着座して、その上体がシートバック16に背面側から支持される。乗員Pは、この着座状態でシートベルト装置を装着する。すなわち、乗員保護装置10は、シートベルト装置と併用される。この実施形態では、乗員保護装置10は、3点式シートベルト装置46と併用されている。
【0039】
そして、乗員Pの着座状態でECU40は、図4に示されるフローチャートの如き制御を行う。具体的には、ECU40は、ステップS10で、前突センサ42、側突センサ44からの信号を読み込み、ステップS12に進む。ステップS12でECU40は、前突センサ42からの信号に基づいて適用された自動車の前面衝突が予測され、かつ前面衝突が不可避であるか否かを判断する。前面衝突が不可避であると判断した場合、ECU40は、ステップS14に進む。
【0040】
また、ステップS12で前面衝突が予測されない又は回避可能であると判断した場合、ECU40はステップS16に進み、側突センサ44からの信号に基づいて適用された自動車の側面衝突が予測され、かつ側面衝突が不可避であるか否かを判断する。側面衝突が予測されない又は回避可能であると判断した場合、ECU40はステップS10に戻る。そして、ステップS16で側面衝突が不可避であると判断した場合、ECU40は、ステップS14に進む。
【0041】
ステップS14でECU40は、それぞれ予測される衝突形態に応じて、乗員保護装置10の第1シートバック18と第2シートバック20とを分離させる(シートバック16を分割する)か否かを判断する。例えば、前面衝突が予測される場合には、衝突速度や衝突対象、オフセットの程度等(各車両用シート12の乗員Pに作用することが予測される衝撃値)に応じてシートバック16の分割要否が判断され、側面衝突が予測される場合には、被衝突速度や衝突体、衝突の車両前後位置、衝突側か反衝突側か等(各車両用シート12の乗員Pに作用することが予測される衝撃値)に応じてシートバック16の分割要否が判断される。
【0042】
ステップS14でシートバック16の分割が不要であると判断した場合、ECU40はステップS10に戻る。一方、シートクッション14でシートバック16の分割が必要であると判断した場合、ECU40は、ステップS18に進み、電磁ロック32を制御して該電磁ロック32によるロックを解除させる。次いでECU40はステップS20に進み、シートバック分離アクチュエータ34を作動させる。
【0043】
すると、乗員保護装置10では、第1シートバックフレーム24、第2シートバックフレーム26が互いの上端をシート幅方向に離間させるように、それぞれの回転ジョイント28周りの矢印A方向(図3(B)参照)に回転される。これにより、第1シートバック18と第2シートバック20とがシート幅方向に分離されると共に、該第1シートバック18と第2シートバック20との間にネット部材22が展開される。
【0044】
そして、乗員Pの上体は、図1(B)、図1(C)、図2(B)に示される如く、張力構造体であるネット部材22に支持されつつ車両前後方向の後側に移動される。また、乗員Pの上体の後方への移動に伴ってネット部材22がインナフレーム部24D、26Dを後方に移動させるので、分離された第1シートバック18、第2シートバック20は、後方に移動する乗員Pの状態の側方に回り込む。
【0045】
ここで、乗員保護装置10では、適用された自動車の前面衝突が予測された場合に、第1シートバック18と第2シートバック20とをシート幅方向に分離させるため、前面衝突に至る前に乗員Pの上体が後方に移動される。このため、乗員Pの前方の空間が広がり、乗員Pは3点式シートベルト装置46によって十分に衝撃が吸収される。
【0046】
この点について、図5に示す解析モデルを用いた解析結果(図6)を参照しつつ補足する。図5に示す解析モデルは、質量1000kgの車体Bが衝突速度50km/hで壁Wに衝突した場合に、質量50kgの車両用シート12に着座している体重60kgの乗員Pに作用する加速度を算出するためのモデルである。壁Wとの衝突で潰れる車体前部の剛性をK1、減衰をC1、変位(潰れ代、隙間)をδ1、3点式シートベルト装置46による乗員の拘束剛性をK2、減衰をC2、変位をδ2、シートバック16による乗員Pの支持剛性をK3、減衰をC3、変位をδ3、車体Bに対する車両用シート12の支持剛性をK4、減衰をC4とした場合の解析結果が図6に示されている。
【0047】
図6では、乗員保護装置10のモデルとして、シートバック16の分割に伴い略70mmのδ3が設定された場合の解析結果が実線にて示されている。また、図6では、比較例として、シートバック16が分割されない通常のシート(δ3=0mm)の解析結果が一点鎖線にて示されている。この図から、乗員保護装置10では、比較例との比較で乗員Pに作用する加速度のピークが略半減されることが解る。
【0048】
このように、乗員保護装置10では、適用された自動車の前面衝突前にシートバック16を分割することで乗員Pを後方に移動させるため、衝撃収集ストロークを創出して衝突に備えることができる。そして、前面衝突に至った後は、該乗員Pに作用する衝撃(加速度の)ピークを低減しつつ、シートバック16の分割により創出されたストロークで3点式シートベルト装置46により十分に衝撃が吸収される。すなわち、乗員保護装置10では、適用された自動車の前面衝突に対し乗員Pを効果的に保護することができる。しかも、乗員保護装置10では、シートバック16の分割後には張力構造体であるネット部材22が乗員の上体にフィットしながら該上体を支持するため、乗員の上体の各部に作用する荷重が均等化され、局所的に荷重が大きくなる部分が生じることが防止される。
【0049】
また、乗員保護装置10では、図1(C)に示される如く、分離された第1シートバック18、第2シートバック20が乗員Pの側方に回り込むため、例えばオフセット前面衝突に場合に乗員Pが車体内面に直接的に2次衝突することが防止される。同様に、第1ヘッドレスト36A、第2ヘッドレスト36Bが分離されて乗員Pの頭部の側方に回り込むため、例えばオフセット前面衝突の場合に乗員Pの頭部が車体内面に直接的に2次衝突することが防止される。
【0050】
しかも、乗員保護装置10では、分離された第1シートバック18、第2シートバック20が乗員Pの側方に回り込むことに伴って、サイドサポート18A、20Aが乗員Pの前方に回り込むため、換言すれば、分離された第1シートバック18、第2シートバック20が乗員Pを包み込むため、該乗員Pがステアリングホイールやウインドシールドガラス、インストルメントパネル等に衝突することが抑制される。また仮に、第1シートバック18、20がステアリングホイールやウインドシールドガラス、インストルメントパネル、ドアトリム等の車体内面に接触した場合でも、該第1シートバック18、第2シートバック20が緩衝材として機能し、乗員Pに作用する荷重を軽減することができる。
【0051】
さらに、乗員保護装置10では、シートバック16の分割に伴いヘッドレスト36が分割されてネット部材38が早期に展開されるので、前面衝突の初期から乗員Pの頭部をネット部材38にて支持させることができる。このため、該頭部の後傾に伴う頚部の鞭打ちを軽減することができる。すなわち、乗員保護装置10では、前面衝突の際に乗員Pの頭部、頚部も効果的に保護される。
【0052】
またここで、乗員保護装置10では、適用された自動車の側面衝突が予測された場合に、第1シートバック18と第2シートバック20とをシート幅方向に分離させ、かつ分離された第1シートバック18と第2シートバック20とが乗員Pの側方に回り込むため、側突が生じた場合に乗員Pがドアトリムやピラー等の車体内面に直接的に接触することが防止される。そして、第1シートバック18、第2シートバック20は、緩衝材として機能し、乗員Pに作用する側突荷重を軽減することができる。同様に、第1ヘッドレスト36A、第2ヘッドレスト36Bが分離されて乗員Pの頭部の側方に回り込むため、例えばオフセット前面衝突の場合に乗員Pの頭部がドアトリムやピラー等の車体内面に直接的に接触することが防止される。
【0053】
しかも、乗員保護装置10では、分離された第1シートバック18、第2シートバック20が乗員Pの側方に回り込むことに伴って、サイドサポート18A、20Aが乗員Pの前方に回り込むため、換言すれば、分離された第1シートバック18、第2シートバック20が乗員Pを包み込むため、側面衝突の際に乗員Pを効果的に拘束することができる。このため、側面衝突の際に乗員Pを車両用シート12と共に移動させることが可能になる。すなわち、乗員Pを車両用シート12と共に車体への衝突体の衝突側から離間するように移動させることが可能になる。また、第1シートバック18、第2シートバック20が乗員Pを包み込む構造であるため、側面衝突が乗員Pに対し前後位置にオフセットしている場合でも、乗員Pがピラーやドア以外の車体内面に2次衝突されることが防止される。
【0054】
以上説明したように、本発明の第1の実施形態に係る乗員保護装置10では、第1シートバック18と、第2シートバック20と、ネット部材22とで、乗員Pを前面衝突、側面衝突の双方に対し保護することができる。
【0055】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。なお、上記第1の実施形態と基本的に同一に部品、部分については、上記第1の実施形態と同一の符号を付して説明を書略し、図示を省略する場合がある。
【0056】
図7(A)及び図7(B)には、本発明に第2の実施形態に係る乗員保護装置50が図3(A)、図3(B)に対応する正面図にて示されている。この図に示される如く、乗員保護装置50は、第1シートバックフレーム24、第2シートバックフレーム26の上部間に設けられたシートバック分離アクチュエータ34に代えて、回転ジョイント28による第1シートバックフレーム24、第2シートバックフレーム26の支持部にそれぞれに設けられたシートバック分離アクチュエータ52を備える点で、第1の実施形態に係る乗員保護装置10とは異なる。また、乗員保護装置50は、回転ばね30に代えて、モータアクチュエータ54を備える点で、第1の実施形態に係る乗員保護装置10とは異なる。
【0057】
具体的には、シートバック分離アクチュエータ52は、第1シートバックフレーム24、第2シートバックフレーム26のそれぞれに設けられており、作動されることで、第1シートバックフレーム24、第2シートバックフレーム26を回転ジョイント28のシート前後方向に沿った軸線周りに回転させる構成とされている。したがって、乗員保護装置50では、一対のシートバック分離アクチュエータ52が作動されることで、第1シートバック18と第2シートバック20とがシート幅方向に分離されるようになっている。
【0058】
また、モータアクチュエータ54は、第1シートバックフレーム24のサイドフレーム部24Cにおける下部24Aと上部24Bとの間、第2シートバックフレーム26のサイドフレーム部26Cにおける下部26Aと上部26Bとの間にそれぞれ設けられている。各モータアクチュエータ54は、作動されることで、それぞれサイドフレーム部24C、26Cの上部24B、26Bを、下部24A、26Aに対し図7(B)に示される矢印R方向に回転変位させるようになっている。
【0059】
さらに、乗員保護装置50は、通常は折り畳まれているネット部材22に代えて、通常はシートバック16のクッション材の(一層)又は表皮材を成す伸縮ネット56を備えている。伸縮ネット56は、両端が第1シートバックフレーム24、第2シートバックフレーム26のサイドフレーム部24C、26Cに張設された張力構造体とされている。シートバック16のクッション材、表皮材のうち伸縮ネット56以外の部分は、第1シートバック18、第2シートバック20の何れか一方を構成しており、シートバック16の分割に伴いシー値幅方向の中央部から該シート幅方向の両側に分離されるようになっている。
【0060】
そして、伸縮ネット56は、第1シートバック18と第2シートバック20との分離に伴って伸張し、該第1シートバック18と第2シートバック20との間で乗員Pを背面側から支持するようになっている。なお、この実施形態では、第1シートバックフレーム24、第2シートバックフレーム26は、インナフレーム部24D、インナフレーム部26Dを有しない構成とされている。
【0061】
以上説明した乗員保護装置50では、電磁ロック32、各シートバック分離アクチュエータ52、各モータアクチュエータ54、前突センサ42、側突センサ44が、制御手段としてのECU58に電気的に接続されている。したがって、第2の実施形態に係る乗員保護装置50では、各シートバック分離アクチュエータ52と各モータアクチュエータ54とECU58とが本発明におけるシートバック分離手段を構成している。
【0062】
以下、ECU58による制御と共に、乗員保護装置50の作用における乗員保護装置10の作用と異なる部分を主に説明する。
【0063】
上記構成の乗員保護装置50では、ECU58は、乗員保護装置10のECU40と同様にステップS10〜ステップS14を実行することにより、シートクッション14でシートバック16の分割が必要であると判断した場合、ECU40は、電磁ロック32を制御して該電磁ロック32によるロックを解除させ(ステップS18)、次いで各シートバック分離アクチュエータ52を作動させる(ステップS20)。すると、乗員保護装置50では、第1シートバックフレーム24、第2シートバックフレーム26が互いの上端をシート幅方向に離間させるように、それぞれの回転ジョイント28周りに回転される。これにより、第1シートバック18と第2シートバック20とはシート幅方向に分離され、伸縮ネット56が乗員Pの状態を背面側から支持する状態に移行する。
【0064】
この第1シートバック18と第2シートバック20との分離と共に、又は分離後に、ECU58は、各モータアクチュエータ54を作動させる(追加のステップ)。すると、第1シートバックフレーム24の上部24B、第2シートバックフレーム26の上部26Bが、モータアクチュエータ54の動力によってそれぞれの下部24A、26Aに対し矢印R方向に回転変位される。これにより、分離された第1シートバック18、第2シートバック20は、伸縮ネット56に支持されつつ後方に移動する乗員Pの状態の側方に回り込む。
【0065】
このように、第2の実施形態に係る乗員保護装置50によっても、適用された自動車の前面衝突の前に、第1シートバック18と第2シートバック20とを分離して乗員Pを後方に移動させることができるので、乗員保護装置10の場合と同様に、前面衝突に対し乗員Pを保護することができる。また、乗員保護装置50では、分離された第1シートバック18、第2シートバック20が乗員Pの側方に回り込むので、乗員保護装置10の場合と同様に、前面衝突及び側面衝突のそれぞれに対し乗員Pを保護することができる。特に、乗員保護装置50では、サイドサポート18A、20Aが乗員Pの前方に回り込むので、乗員保護装置10の場合と同様に、前面衝突及び側面衝突のそれぞれに対し乗員Pを一層良好に保護することができる。
【0066】
なお、上記した第2の実施形態では、シートバック分離アクチュエータ52、モータアクチュエータ54、及び伸縮ネット56を備える点が乗員保護装置10に対する主な相違点である例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、上記した各相違点の一部だけが乗員保護装置10と異なる構成としても良い。
【0067】
また、上記した各実施形態では、回転ジョイント28がシート前後方向に沿った回転軸を有する一軸(一自由度)のジョイントである例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、回転ジョイント28を2軸以上の自由度を有する構成とし、第1シートバック18と第2シートバック20との分割、第1シートバック18及び第2シートバック20の乗員P側方への回り込みを回転ジョイント28廻りの動作に統合しても良い。
【0068】
さらに、上記した各実施形態では、シートバック分離アクチュエータ34、シートバック分離アクチュエータ52が流体圧やモータ等の動力を利用する例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、シートバック分離手段として、シートバック16を構成する第1シートバック18と第2シートバック20との間で圧縮されたスプリングや、回転ジョイント28廻りの分離方向に第1シートバック18、第2シートバック20を付勢するスプリング等を採用することも可能である。
【0069】
またさらに、上記した各実施形態では、シートバック分離アクチュエータ34、モータアクチュエータ54と、電磁ロック32とが別個に設けられた例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、第1シートバック18と第2シートバック20とをシートバック16を構成する状態に保持(ロック)する状態を解除する機能と、第1シートバック18と第2シートバック20とを分離させる機能とを1つの装置で行うようにしても良い。
【0070】
また、上記した各実施形態では、前面衝突の発生前、側面衝突の発生前に第1シートバック18、第2シートバック20を分離させる例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、ECU40、ECU58が前突センサ42、側突センサ44からの信号に基づいて前面衝突又は側面衝突を検知した場合に、第1シートバック18と第2シートバック20とを分離させ、乗員Pが第1シートバック18、20によって包み込まれるようにしても良い。
【0071】
さらに、上記した各実施形態では、前面衝突が予測された場合、側面衝突が予測された場合の何れにも乗員保護装置10、50のシートバック16が分割される例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、前面衝突が予測された場合、側面衝突が予測された場合の何れか一方にのみシートバック16が分割される構成としても良い。
【0072】
またさらに、上記した各実施形態では、シートバック16が分割された場合に、第1シートバック18及び第2シートバック20のそれぞれが乗員Pの側方に回り込む例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、第1及び第2シートバック18、第2シートバック20のうちドアやピラー側のシートバックのみが乗員Pの側方に回り込む構成としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る乗員保護装置の動作を模式的に示す図であって、(A)は動作前の平面図、(B)は乗員拘束過程の平面図、(C)は乗員拘束状態の平面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る乗員保護装置の動作を模式的に示す図であって、(A)は動作前の側面図、(B)は乗員拘束過程の側面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る乗員保護装置の概略構成を示す図であって、(A)は通常状態の正面図、(B)はシートバック分割状態の正面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る乗員保護装置を構成するECUの制御フローを示すフローチャートである。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る乗員保護装置が適用された車両が前面衝突した際に乗員に作用する加速度を数値解析により算出するための解析モデルを示す図である。
【図6】図5の解析モデルを用いた解析結果を比較例と比較しつつ示す線図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る乗員保護装置の概略構成を示す図であって、(A)は通常状態の正面図、(B)はシートバック分割状態の正面図である。
【符号の説明】
【0074】
10 乗員保護装置
16 シートバック
18 第1シートバック
18A サイドサポート
20 第2シートバック
20A サイドサポート
22 ネット部材(支持部材)
34 シートバック分離アクチュエータ(シートバック分離手段)
40 ECU(シートバック分離手段)
50 乗員保護装置
52 シートバック分離アクチュエータ(シートバック分離手段)
54 モータアクチュエータ(シートバック分離手段)
56 伸縮ネット(支持部材)
58 ECU(シートバック分離手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックにおけるシート幅方向の一方側を構成する第1シートバックと、
前記シートバックにおけるシート幅方向の他方側を構成する第2シートバックと、
車両の衝突が検知又は予測された場合に、前記第1シートバックと第2シートバックとをシート幅方向に分離させるシートバック分離手段と、
シート幅方向に分離された前記第1シートバックと第2シートバックとの間で、乗員を背面側から支持する支持部材と、
を備えた乗員保護装置。
【請求項2】
前記シートバック分離手段は、車両の衝突が検知又は予測された場合に、前記第1シートバック及び第2シートバックの少なくとも一方が乗員の側方に回り込むように、前記第1シートバックと第2シートバックとをシート幅方向に分離させる請求項1記載の乗員保護装置。
【請求項3】
前記第1シートバック及び第2シートバックは、それぞれ前記シートバックを構成する状態で乗員を側方から支持するサイドサポートを有し、
前記シートバック分離手段は、車両の衝突が検知又は予測された場合に、前記第1シートバック及び第2シートバックが乗員の側方に回り込むように、前記第1シートバックと第2シートバックとをシート幅方向に分離させる請求項1記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記支持部材は、張力で前記乗員を背面側から支持する張力構造体である請求項1〜請求項3の何れか1項記載の乗員保護装置。
【請求項5】
前記支持部材は、シート幅方向に分離された前記第1シートバックと第2シートバックとの間に展開されるように、前記シートバックを構成する状態の前記第1シートバックと第2シートバックの間に収容されている請求項4記載の乗員保護装置。
【請求項6】
前記支持部材は、前記シートバックの表皮材又はクッション材を構成している請求項4記載の乗員保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−149240(P2009−149240A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330402(P2007−330402)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】