説明

乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シ−ト

【課題】乗客コンベアにおける移動手摺りに対して、広告や案内の表示などの情報提供、あるいは意匠などの目的で貼付される粘着シートであって、貼付期間(数週間〜数ヶ月間程度)中の表面のしわやひび割れの発生及び剥離などを抑制し得ると共に、黄変などの変色による外観の低下を抑制し得る、乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シートを提供する。
【解決手段】熱可塑性ポリウレタン層と軟質ポリ塩化ビニル層との積層シートと、該積層シートの軟質ポリ塩化ビニル層上に形成された粘着剤層とを有し、かつ前記積層シートの総厚が40〜200μmであって、熱可塑性ポリウレタン層と軟質ポリ塩化ビニル層との層厚比が20:80〜80:20であることを特徴とする、乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シートに関する。さらに詳しくは、本発明は、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアにおける移動手摺りに対して、広告や案内の表示などの情報提供、あるいは意匠などの目的で、数週間〜数ヶ月間程度貼付される粘着シートであって、貼付期間中のしわやひび割れ、剥離などの発生及び黄変などの変色を抑制し得る粘着シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアとして、エスカレータや動く歩道などが知られている。これらの乗客コンベアは、その目的から多くの人に利用される場所に設置されており、特に、乗客と同速度で移動する手摺り(ハンドレール)の表面に表示された情報は乗客への伝達効果が高く、その方法に関してこれまでにも種々の提案がなされている。
例えば、(1)ウレタン樹脂の塗布により、表面加工されたハンドレール(特許文献1参照)、(2)有機溶剤で表面処理したポリウレタンを固着する模様付きハンドレール(特許文献2参照)が開示されている。
しかしながら、前記(1)のハンドレールは、既設のハンドレールに表面加工することは困難であり、表示内容を変更する場合はハンドレール全体を交換しなければならず、表示内容を適宜変更する必要がある広告等の用途にはコストの問題からも実用的でない。
また、前記(2)の模様付きハンドレールは、模様付きポリウレタンフィルムをハンドレールに固着する方法として、金型を使用した高温高圧処理を必要とすることから、前記と同様に実用的でない。
【0003】
一方、粘着シートを乗客コンベアの移動手摺りに貼付することが試みられている。しかし、この場合、乗客コンベアの移動手摺りは、常態的に伸縮を繰り返すため、このような部材の表面に粘着シートを貼着させると使用中にしわ、割れ、剥離などが生じやすいという問題があり、この問題を解決する必要がある。また、貼着された粘着シートの経時による変色や劣化などを避けることも重要である。
乗客コンベアの移動手摺りに粘着シートを貼付する技術として、例えば(3)手摺りベルト表面に貼付するための粘着剤層及びポリ塩化ビニルフィルムから構成されたエスカレータの手摺りベルト用フィルムカバー(特許文献3参照)、(4)ポリウレタンフィルムからなるベース層、ベース層の裏面に設けられた粘着剤層、ベース層の表面上に印刷された画像、及びその画像を保護するポリウレタン粘着フィルムを有するエスカレータのハンドレールに貼付する複合フィルム(特許文献4参照)が開示されている。
【特許文献1】特許第2567969号公報
【特許文献2】特許第3395570号公報
【特許文献3】特開平7−101659号公報
【特許文献4】特表2002−537200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の特許文献3に記載されているエスカレータの手摺りベルト用フィルムについては、表示材料として一般的に用いられているポリ塩化ビニル系粘着シートからなるマーキングフィルムを移動手摺りに貼付したところ、表面にしわやひび割れが発生してしまうという問題が生じた。
また、前記の特許文献4に記載されているエスカレータのハンドレールに貼付する複合フィルムについては、熱可塑性ポリウレタン系粘着シートを移動手摺りに貼付したところ、数日間で黄変し、外観不良をもたらすという問題が生じた。この問題は、いわゆる無黄変型の熱可塑性ポリウレタンフィルムを用いても、同様に起こることが分かった。その理由については、必ずしも明確ではないが、被着体である移動手摺りは、クロロスルホン化ゴム加硫物などの加硫ゴム弾性体から構成されており、該加硫ゴム弾性体は、例えば加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、プロセスオイル、その他ゴム薬品などを含むことから、これらのゴム薬品に起因することが考えられる。
本発明は、このような状況下になされたもので、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアにおける移動手摺りに対して、広告や案内の表示などの情報提供、あるいは意匠などの目的で貼付される粘着シートであって、貼付期間(数週間〜数ヶ月間程度)中の表面のしわやひび割れの発生及び剥離などを抑制し得ると共に、黄変などの変色による外観の低下を抑制し得る、乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シートを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性ポリウレタン層と軟質ポリ塩化ビニル層とからなる、特定の層厚比と厚さを有する積層シートの軟質ポリ塩化ビニル層上に粘着剤層を形成してなる粘着シートが、その目的に適合し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
[1]熱可塑性ポリウレタン層と軟質ポリ塩化ビニル層との積層シートと、該積層シートの軟質ポリ塩化ビニル層上に形成された粘着剤層とを有し、かつ前記積層シートの総厚が40〜200μmであって、熱可塑性ポリウレタン層と軟質ポリ塩化ビニル層との層厚比が20:80〜80:20であることを特徴とする、乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シート、
[2]積層シートにおける熱可塑性ポリウレタン層の100%モジュラスが、6〜20MPaであり、かつ破断伸びが150〜600%である、上記[1]項に記載の乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シート、
[3]積層シートにおける軟質ポリ塩化ビニル層の100%モジュラスが、5〜40MPaであり、かつ破断伸びが150〜400%である、上記[1]又は[2]項に記載の乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シート、
[4]積層シートの5%モジュラスの5分後における残留応力が、7N/15mm以下である、上記[1]〜[3]項のいずれかに記載の乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シート、
[5]積層シートの粘着剤層側表面、その反対側表面、熱可塑性ポリウレタン層の軟質ポリ塩化ビニル層側表面、及び軟質ポリ塩化ビニル層の熱可塑性ポリウレタン層側表面のいずれかに印刷層が設けられてなる、上記[1]〜[4]項のいずれかに記載の乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シート、及び
[6]粘着剤層が再剥離型粘着剤層である、上記[1]〜[5]項のいずれかに記載の乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シート、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアにおける移動手摺りに対して、広告や案内の表示などの情報提供、あるいは意匠などの目的で貼付される粘着シートであって、貼付期間(数週間〜数ヶ月間程度)中の表面のしわやひび割れの発生及び剥離などを抑制し得ると共に、黄変などの変色による外観の低下を抑制し得る、乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シート(以下、単に粘着シートと称することがある。)は、熱可塑性ポリウレタン層と軟質ポリ塩化ビニル層との積層シートと、該積層シートの軟質ポリ塩化ビニル層上に形成された粘着剤層とを有し、乗客コンベアの移動手摺りに貼付した際、貼付期間(数週間〜数ヶ月間程度)中の表面のしわやひび割れの発生及び剥離などを抑制し得ると共に、黄変などの変色による外観の低下を抑制し得る効果を奏する。
【0008】
[積層シート]
(性状)
本発明の粘着シートにおける積層シートは、熱可塑性ポリウレタン層と軟質ポリ塩化ビニル層との積層体であって、当該粘着シートを乗客コンベアの移動手摺りに貼付した際、前記効果を奏するには、上記軟質ポリ塩化ビニル層が、上記移動手摺り側に位置するように粘着剤層を軟質ポリ塩化ビニル層上に設けることが必要である。逆に熱可塑性ポリウレタン層が移動手摺り側に位置するように、粘着剤層を熱可塑性ポリウレタン層に設け、当該粘着シートを移動手摺りに貼付した場合、3日間程度で熱可塑性ポリウレタン層が黄変し、本発明の目的が達せられない。
当該積層シートの総厚は、40〜200μmの範囲で選定される。この総厚が40μm未満では機械的強度が低く、生産時や貼付時の取り扱いが困難となり、一方200μmを超えると貼付部分と未貼付部分、又は重ね貼り部分の段差が大きくなり、不用意に剥離する危険性が高くなるなどの不都合が生じる。好ましい総厚は50〜150μmである。
なお、本発明における積層シートの総厚とは、後述のように積層シートに隠蔽層や印刷層を設けたり、表面に保護層を設けた場合には、それらの層を含む厚さを意味する。
当該積層シートにおいては、前述した本発明の効果をより有効に発揮させる観点から、熱可塑性ポリウレタン層と軟質ポリ塩化ビニル層との層厚比は20:80〜80:20であることを要し、30:70〜70:30であることが好ましい。
【0009】
当該積層シートは、5%モジュラスの5分後における残留応力が7N/15mm以下であることが好ましい。この残留応力が7N/15mmを超えると、移動手摺りに貼付された粘着シートが、該移動手摺り走行時の屈曲により繰り返し発生するシートの伸縮に追従しきれず、表面にしわやひび割れが発生するなどの不都合が生じやすい。より好ましい残留応力は6N/15mm以下である。
なお、本発明における5%モジュラスの5分後における残留応力とは、23±2℃、50±5%RH雰囲気下における横方向長さが15mm、縦方向(製膜方向)長さが150mmで、縦方向のつかみ間隔が100mmの試料の積層シートを縦方向に200mm/minの速度で5%伸長させて停止し、その状態で5分経過した時点の応力値と定義する。また、試料の積層シートとしては、後述のように隠蔽層や印刷層を設けたり、表面に保護層を設けた場合には、これらの層を有するものを用いる。
【0010】
(熱可塑性ポリウレタン層)
当該積層シートにおける熱可塑性ポリウレタン層は、100%モジュラスの値が6〜20MPaであり、かつ破断伸びが150〜600%であることが好ましい。熱可塑性ポリウレタン層の硬度及び破断伸びが、上記範囲にあれば、前述した残留応力が7N/15mm以下である積層シートを得ることができる。より好ましくは、前記100%モジュラスが7〜15MPaであって、破断伸びが、200〜500%である。
なお、100%モジュラス及び破断伸びの測定方法については、後で説明する。
前記熱可塑性ポリウレタン層を構成する熱可塑性ポリウレタン(以下、TPUと略記することがある。)材料はジオール化合物とジイソシアネート化合物、又はジオール化合物、ジイソシアネート化合物及び鎖延長剤を反応させることにより、製造することができる。
このTPU材料としては、前記の物性を有するTPU層を形成し得るものであればよく、特に制限されず、エステル系ジオール化合物を用いてなるエステル系TPU及びエーテル系ジオール化合物を用いてなるエーテル系TPUのいずれも用いることができ、またそれらの混合物を用いることもできる。
【0011】
<エステル系ジオール化合物>
エステル系TPUの原料として用いられるエステル系ジオール化合物としては、縮合ポリエステルジオール、ラクトン系ポリエステルジオール及びポリカーボネートジオールなどが挙げられる。
縮合系ポリエステルジオールは、ジカルボン酸とジオールの1種又は2種以上用いることにより得られるポリエステルジオールが好ましく用いられる。
ジカルボン酸としてはグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸、又はこれらの低級アルキルエステルを挙げることができ、これらを1種又は2種以上用いることができる。これらのなかでもアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸又はこれらの低級アルキルエステルが好ましい。
【0012】
ジオールとしてはエチレングリコール、1,2−プロパングリコール、1,3−プロパングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどの脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオールなどの脂環族ジオールを挙げることができ、これらを1種又は2種以上用いることができる。これらのなかでも、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオールなどの脂肪族ジオールを用いるのが好ましい。
【0013】
ラクトン系ポリエステルジオールとしては、β−プロピオラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、メチル−ε−カプロラクトン、ジメチル−ε−カプロラクトン、トリメチル−ε−カプロラクトン等のラクトン化合物を、短鎖のジオール等のヒドロキシ化合物と共に反応させて得られたポリエステルジオールなどが挙げられる。
【0014】
ポリカーボネートジオールとしては、例えば、低分子ジオールとジアルキルカーボネート、アルキレンカーボネート、ジアリールカーボネートなどのカーボネート化合物との反応により得られるポリカーボネートジオールが好ましい。ポリカーボネートジオールの製造原料である低分子ジオールとしては、ポリエステルジオールの製造原料として先に例示した低分子ジオールを用いることができる。また、ジアルキルカーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどを、アルキレンカーボネートとしてはエチレンカーボネートなどを、ジアリールカーボネートとしてはジフェニルカーボネートなどを挙げることができる。
【0015】
<エーテル系TPU用ジオール>
エーテル系TPUの原料として用いられるポリエーテルジオールとしては、例えばポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、テトラヒドロフランの開環重合により得られるポリオキシテトラメチレングリコール、その他公知の各種ポリウレタン用エーテルジオール等を使用することができる。
【0016】
<TPU用ジイソシアネート化合物>
エステル系TPUやエーテル系TPUの原料として用いられるジイソシアネート化合物としては、例えばテトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,2,4−又は2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピリデンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂肪族又は脂環族ジイソシアネート、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート、3−メチルジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート、m−又はp−フェニレンジイソシアネート、クロロフェニレン−2,4−ジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートなどを用いることができ、これらのジイソシアネートは1種又は2種以上を用いることができる。これらのうちでも、いわゆる無黄変型TPUの原料として知られているヘキサメチレンジイソアネートなどの脂肪族又は脂環族ジイソシアネートが好ましい。
【0017】
<TPU用鎖伸長剤>
TPUの製造に用いられる鎖伸長剤の種類は特に制限されず、通常のTPUの製造に従来から用いられている鎖伸長剤のいずれもが使用できるが、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量300以下の低分子化合物を用いるのが好ましい。
鎖伸長剤としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール、ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート、キシリレングリコールなどのジオール類;ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン及びその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどのジアミン類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類などが挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。これらのなかでも、炭素数2〜10の脂肪族ジオールを用いるのが好ましく、1,4−ブタンジオールを用いるのがより好ましい。
【0018】
当該TPU層の作製に用いられるTPU材料の製造方法については特に制限はなく、原料として、前記のジオール化合物とジイソシアネート化合物、又はジオール化合物とジイソシアネート化合物と鎖延長剤を用い、従来公知の方法、例えばワンショット工程又は2段階工程によって製造することができる。
このようにして得られるTPU材料には、本発明の効果が損なわれない範囲で、所望により各種添加剤、例えば紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、着色剤、充填剤、アンチブロッキング剤、滑剤、帯電防止剤、難燃化剤、抗菌剤などを適宜添加することができる。
【0019】
(軟質ポリ塩化ビニル層)
当該積層シートにおける軟質ポリ塩化ビニル層は、100%モジュラスが5〜40MPaであり、かつ破断伸びが150〜400%であることが好ましい。軟質ポリ塩化ビニル層の100%モジュラス及び破断伸びが、上記範囲にあれば、前述した残留応力が7N/15mm以下である積層シートを得ることができる。より好ましくは、前記100%モジュラスが10〜35MPaであって、破断伸びが、200〜350%である。
なお、100%モジュラス及び破断伸びの測定方法については、後で説明する。
前記軟質ポリ塩化ビニル層を構成する軟質ポリ塩化ビニル(以下、軟質PVCと略記することがある。)材料は、塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を必須成分として含むものである。
【0020】
<塩化ビニル系樹脂>
本発明において、軟質PVC材料に用いられる塩化ビニル系樹脂としては、例えば数平均重合度が約800〜2500のポリ塩化ビニル、塩化ビニルを主体とする共重合体(例えばエチレン−塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、塩化ビニル−ハロゲン化オレフィン共重合体など)、あるいはこれらのポリ塩化ビニル又は塩化ビニル共重合体を主体とする他の相溶性の樹脂(例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体、部分ケン化ポリビニルアルコールなど)とのブレンド物などが使用される。前記のポリ塩化ビニル又は塩化ビニルを主体とする共重合体は塊状重合法、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法など常用のいかなる製造法によって得られたものでもよい。これら塩化ビニル系樹脂は1種を単独用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
<可塑剤>
本発明において、軟質PVC材料に用いられる可塑剤としては、例えばジ−n−オクチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート等のフタル酸誘導体;ジイソオクチルイソフタレート等のイソフタル酸誘導体;ジ−(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ジ−(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジ−(2−エチルヘキシル)セバケート等の脂肪族二塩基酸誘導体;リン酸トリクレジル、リン酸トリキシレニル、リン酸トリ−2−エチルヘキシル等のリン酸誘導体;エポキシ大豆油等のエポキシ誘導体;分子量1000以上のポリエステル等の重合形可塑剤などを挙げることができるが、これらの中でポリエステルが好適である。
これらの可塑剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。その配合量は特に制限はなく、得られる軟質PVC層の100%モジュラス及び破断伸びが、前述した範囲にあるように、可塑剤の種類に応じて適宜選定される。
本発明で用いる軟質PVC材料には、本発明の効果が損なわれない範囲で、所望により各種添加剤、例えば紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、金属セッケンなどの安定剤、滑剤、充填剤、白色顔料などの着色剤等を適宜添加することができる。
【0022】
(積層シートの作製)
前記のTPU材料及び軟質PVC材料を用いて当該積層シートを作製する方法に特に制限はなく、従来用いられている公知の積層シートの製造方法、例えば(1)ダブルキャスト製膜法、(2)ホットメルトラミネート法、(3)ドライラミネート法などを採用することができる。
前記(1)のダブルキャスト製膜法としては、例えば表面が剥離処理された工程シートの該剥離処理面に、まずキャスト法によりTPU層を形成し、次いでその表面にキャスト法により軟質PVC層を積層して一体化することにより、積層シートを作製する方法を挙げることができる。
前記(2)のホットメルトラミネート法は、例えば軟質PVCフィルム(又はTPUフィルム)上に、加熱溶融した低分子量のエチレン−酢酸ビニル共重合体やエチレン−アクリル酸エステル共重合体などを塗布し、直ちにTPUフィルム(又は軟質PVCフィルム)を貼り合わせて冷却することにより、積層シートを作製する方法である。
前記(3)のドライラミネート法は、例えば有機溶剤に可溶なビニル系樹脂、セルロース系樹脂、エポキシ系樹脂、ゴム系樹脂などを有機溶剤に溶かした接着剤を塗布機で、軟質PVCフィルム(又はTPUフィルム)にコーティングしたのち、乾燥し、その後加熱ロールでTPUフィルム(又は軟質PVCフィルム)と圧着してラミネートすることにより、積層シートを作製する方法である。
【0023】
(印刷層)
本発明の粘着シートにおいては、前記のようにして得られた積層シートの粘着剤層側表面、その反対側表面、TPU層の軟質PVC側表面、及び軟質PVC層のTPU層側表面のいずれかに印刷層を設けることができる。印刷層の形成方法や使用されるインキには特に限定はなく、スクリーン印刷、グラビア印刷、平版印刷、シール印刷等の印刷方法や、電子写真方式、熱転写方式、インクジェット方式等、各種のプリンターを使用して画像を描写することもでき、使用されるインキも各描画方式に適したインキから適宜選択して使用すればよい。いずれの場合も、インキの密着性を高める目的で、TPU層や軟質PVC層の印刷層を設ける面を、予めコロナ放電処理やアンカー剤をコート処理するか、あるいは該面にインキ受理層を設けることが好ましい。
当該積層シートの粘着剤層側表面に印刷層を設ける場合には、形成された積層シートの軟質PVC層表面に印刷層を設ける方法、あるいは、予め印刷層を設けてなる軟質PVCフィルムの反対面と、TPUフィルムとを、前記のホットメルトラミネート法又はドライラミネート法により積層する方法を用いることができる。この場合、印刷層の視認性を向上させるために、該印刷層の下面側に、白色などに着色された隠蔽層を存在させることが好ましく、したがって、該印刷層上に、さらに白色軟質PVCフィルムなどをラミネートすることが望ましい。白色軟質PVCフィルムをラミネートする場合、前述の100%モジュラス及び破断伸びが、当該積層シートの軟質PVC層とほぼ同一である白色軟質PVCフィルムを用いることが好ましい。
【0024】
また、当該積層シートの粘着剤層側とは反対側表面、すなわちTPU層表面に印刷層を設ける場合、前記のダブルキャスト製膜法、ホットメルトラミネート法又はドライラミネート法により、TPU層と白色軟質PVC層との積層シートを形成したのち、TPU層表面に印刷層を設ける方法などを用いることができる。この場合、印刷層上に保護層を設けることが好ましい。該保護層としては、透明TPUフィルムが好ましく、この透明TPUフィルムとしては前述の100%モジュラス及び破断伸びが、当該積層シートのTPU層とほぼ同一である透明TPUフィルムを用いることが好ましい。また、透明TPUフィルムを粘着剤層を介して、印刷層上に貼付して保護層を形成してもよい。
さらに、当該積層シートにおけるTPU層の軟質PVC層側表面に印刷層を設ける場合、印刷層が設けられたTPUフィルムの該印刷層側と、白色軟質PVCフィルムとをホットメルトラミネート法又はドライラミネート法により、積層する方法を用いることができる。
一方、当該積層シートにおける軟質PVC層のTPU層側表面に印刷層を設ける場合、印刷層が設けられた白色軟質PVCフィルムの印刷層側と、透明TPUフィルムとをホットメルトラミネート法又はドライラミネート法により、積層する方法を用いることができる。
【0025】
[粘着剤層]
本発明の粘着シートにおいて、積層シートの軟質PVC層上に形成される粘着剤層を構成する粘着剤については特に制限はなく、アクリル系、シリコーン系、ポリエステル系、ウレタン系、ゴム系などの通常使用される各種粘着剤が使用できるが、耐候性、コストなどの観点から、アクリル系粘着剤が好適である。
また、本発明の粘着シートは、通常乗客コンベアの手摺りに貼付した場合、一定期間が過ぎると剥がして、新しい粘着シートとの貼り替えが行われるので、粘着剤層には剥がした際、糊残りの少ない再剥離型粘着剤を使用することが好ましい。再剥離型粘着剤としては特に制限はなく、従来再剥離型粘着剤として公知の粘着剤の中から、適宜選択して用いることができるが、中でもアクリル系再剥離型粘着剤が、粘着性能、耐候性、耐熱性などの性能の点から、好適である。このアクリル系再剥離型粘着剤は、溶剤型、エマルション型のいずれであってもよい。
本発明の粘着シートにおける粘着剤層の厚さは、被着体との密着性及び粘着剤のはみ出し防止性などの観点から、通常10〜80μm程度、好ましくは20〜50μmである。
【0026】
(粘着剤層の形成)
前記粘着剤層の形成方法に特に制限はなく、例えば前記積層シートの軟質PVC層上に、従来公知の塗布法により、粘着剤を直接塗布して粘着剤層を設けてもよい。この場合、形成された粘着剤層を保護するために、通常剥離シートが該粘着剤層上に貼着される。あるいは、剥離シート上に、従来公知の塗布法により、粘着剤を塗布して粘着剤層を設けたのち、これを前記積層シートの軟質PVC層上に貼着し、該粘着剤層を転写してもよい。この場合、剥離シートは、所望により剥がすことなく、そのまま付着させておく。
前記剥離シートは、粘着シートの使用時に剥離する。また、粘着剤の塗布法としては、グラビヤロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、ロールコーター、ロールナイフコーター、スプレーコーターなどを用いる方法を採用することができる。
前記剥離シートとしては、例えばグラシン紙、コート紙、ラミネート紙などの紙及び各種プラスチックフィルムに、シリコーン樹脂などの剥離剤を塗布したものなどが挙げられる。この剥離シートの厚さについては特に制限はないが、通常20〜150μm程度である。
【0027】
[粘着シートの使用方法、特性]
(粘着シートの使用方法)
前述した構成を有する本発明の粘着シートの1例の断面模式図を図1に示す。
粘着シート10は、白色軟質ポリ塩化ビニル層1と、表面に印刷層4が形成されている熱可塑性ポリウレタン層2とからなる積層シート6の白色軟質ポリ塩化ビニル層1の裏面側に、粘着剤層3が形成されていると共に、前記熱可塑性ポリウレタン層2の印刷層4上に保護層5が設けられ、さらに前記粘着剤層3上に剥離シート7が貼着された構造を有している。
このような構造を有する本発明の粘着シートを、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアの手摺りに貼付する方法に特に制限はないが、粘着剤層を保護する剥離シートを剥がしながら、既設の乗客コンベアの手摺りに、ゴムローラーやスキージなどで圧着する方法を用いることができる。また、手摺りの走行を利用し、この動力をプーリーなどで伝達し、剥離シートを自動的に巻き取るような簡単な機構の貼付治具を製作し、使用すれば手摺りへの粘着シートの貼付がさらに容易となる。
【0028】
(被着体)
本発明の粘着シートは、前述したように被着体である乗客コンベアの手摺りに貼付される。この乗客コンベアの手摺りは、加硫ゴム弾性体が用いられており、該加硫ゴム弾性体としては、耐摩耗性、耐候性、耐オゾン性、耐薬品性、耐熱性などに優れる点から、クロロスルホン化ポリエチレンの加硫物が好適に用いられる。このクロロスルホン化ポリエチレン[デュポン社製、商品名「ハイパロン」など]の加硫物は、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、プロセスオイル、その他ゴム薬品などの種々ゴム配合剤が含まれている。
乗客コンベアの手摺りは、一般に寸法安定性を高めるために、金属ワイヤーや金属プレートの芯材が挿入された、前記クロロスルホン化ポリエチレンの加硫物などのゴム材料からなり、エンドレスに接続されたベルト状となっている。乗客コンベアが走行する際には、手摺りも同一速度で走行するため、案内レール等に沿って曲げ伸ばしされながら回転を続ける。このとき、芯材から数mm〜数cmの厚みをもって被覆されたゴム材料の表面は、芯材からの距離と曲げ伸ばしされたときの曲率に応じた伸縮が常に生じている。
このため、該表面に粘着シートを貼付する場合、この伸縮に十分追従できるシートを使用しないと、しわやひび割れ、剥がれ等の問題が生じることになる。
【0029】
(粘着シートの特性)
本発明の粘着シートにおいては、前記の伸縮に十分追従し得るために、TPU層と軟質PVC層との積層シートは、前述したように、5%モジュラスの5分後における残留応力が7N/15mm以下であることが好ましく、6N/15mm以下がより好ましい。
残留応力が上記範囲にある積層シートを得るには、TPU層は、前述したように、100%モジュラスが6〜20MPaであって、破断伸びが150〜600%であることが好ましい。また、軟質PVC層は、前述したように、100%モジュラスが5〜40MPaであって、破断伸びが150〜400%であることが好ましい。
積層シートではなく、軟質PVC単独シートを貼付した場合、前記伸縮に対して、十分に追従することができず、表面にしわやひび割れが生じる。
一方、TPU単独シートを貼付した場合、前記伸縮に対して十分追従することができ、表面にしわやひび割れは生じないが、短期間(3日間程度)で黄変が生じ、外観の低下をもたらす。この現象は、いわゆる無黄変型のTPUシートを用いても起こる。
その原因については、必ずしも明確ではないが、以下のことが考えられる。
乗客コンベアのベルト状手摺り表面のゴム材料は、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、プロセスオイル、その他各種ゴム薬品などのゴム配合剤を含んでおり、このゴム配合剤が、ベルト状手摺り表面のゴム材料の繰り返し伸縮作用により、粘着剤層を通して、TPUシートに影響を及ぼし、黄変が生じるものと考えられる。
したがって、前記伸縮に対して追従性に優れ、表面にしわやひび割れが生じたり、剥離が生じることがなく、かつ黄変などの変色が生じない粘着シートを得るには、TPU層と軟質PVC層との積層シートの軟質PVC層上に、粘着剤層を形成した構成とすることが必要となる。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例における諸特性は、以下に示す方法に従って測定した。
<熱可塑性ポリウレタンフィルム及び軟質ポリ塩化ビニルフィルムの物性>
(1)100%モジュラス
フィルム製膜後、23±2℃、50±5%RHで3日間放置したのち、長さ(製膜方向)6cm、幅(製膜方向の90度方向)1.5cm、つかみ代、長さ方向でそれぞれ2cm、チャック間距離2cmの試料を作製した。次いで、引張り試験機[ミネビア(株)製、機種名「TG−1KN」]を用いて、引張り速度200mm/minにて、100%モジュラスを測定した。試験は5サンプルにて行い、上下値を削除して3点の平均値で表した。
(2)破断伸び
フィルム製膜後、23±2℃、50±5%RHで3日間放置したのち、長さ(製膜方向)6cm、幅(製膜方向の90度方向)1.5cm、つかみ代、長さ方向でそれぞれ2cm、チャック間距離2cmの試料を作製した。次いで、引張り試験機[ミネビア(株)製、機種名「TG−1KN」]を用いて、引張り速度200mm/minにて、破断伸びを測定した。試験は5サンプルにて行い、上下値を削除して3点の平均値で表した。
【0031】
<積層シート又は単層フィルムの5%モジュラスの5分後における残留応力>
23±2℃、50±5%RH雰囲気下における横方向長さが15mm、縦方向(製膜方向)長さが150mmで、縦方向のつかみ間隔が100mmの試料を引張試験機[ORIENTEC社製、機種名:「RTA−T−2M」]を用い、縦方向に200mm/minの速度で5%伸張させ、その状態で5分経過した時点の応力値を、残留応力として測定した。試験は3個の試料について行い、その平均値で残留応力を表した。
<貼付粘着シートの外観変化>
各例で得られた長さ(製膜方向)30cm、幅10cmの粘着シートサンプルの剥離シートを剥がし、エスカレータのベルト状手摺り(実機)に、図2の断面図に示すように、サンプルの長手方向がベルト状手摺りの長さ方向となるように貼付し、エスカレータを走行させた。図2において、11はベルト状手摺りのゴム材料部、12は金属ワイヤー、13は粘着シートである。なお、ベルト状手摺りのゴム材料は、クロロスルホン化ポリエチレンの加硫物である。
(1)粘着シート表面のしわ、ひび割れ及び剥離の有無
粘着シート貼付後、エスカレータを72時間(3日間)走行させた時点で、粘着シートの外観について目視により、表面のしわ、ひび割れの有無及び剥離状態を観察した。
(2)黄変度
粘着シートサンプルの貼付前のYI値及び貼付後、走行72時間経過した時点のYI値を、JIS K 7105に基づき、測定装置[日本電色工業(株)製、機種名「SQ2000」]を用いてそれぞれ測定し、その差ΔYI値を求めた。ΔYI値が大きいほど黄変度が大きいことを示す。
【0032】
実施例1
表面が剥離処理された工程シート[帝人デュポンフィルム社製、商品名「A−546」]の剥離処理面に、熱可塑性ポリウレタン材料[大日精化工業(株)製、商品名「レザミンNE−380」]をキャスト法により製膜し、厚さ40μmの熱可塑性ポリウレタンフィルム(TPUフィルム)を形成した。
次いで、このTPUフィルム上に、軟質ポリ塩化ビニル材料[PolyOne社製、商品名「GEON178」、の塩化ビニル樹脂100質量部と、ポリエステル系可塑剤35質量部を含有]をキャスト法により製膜し、厚さ40μmの軟質ポリ塩化ビニルフィルム(軟質PVCフィルム)を形成する操作を行うことにより、TPUフィルムと軟質PVCフィルムからなる、層厚比が1:1で、総厚80μmの積層シートを2枚作製した。その1枚について、上述の残留応力を測定した。結果を第1表に示す。
一方、上質紙の両面にポリエチレンをラミネートし、片面にシリコーン剥離層を設けた厚さ150μmの剥離シート[リンテック社製、商品名「10NL」]の剥離処理面に、溶剤型の再剥離型粘着剤[リンテック社製、商品名「PA−10」、アクリル系]を、ロールナイフコーターにより乾燥厚さが25μmになるように塗布し、90℃にて1分間乾燥処理することにより、再剥離型粘着剤層を形成した。
次に、この剥離シート付再剥離型粘着剤層を、前記で得られた残りの1枚の積層シートの軟質PVCフィルムに貼着させたのち、工程シートを剥がすことにより、剥離シート付き粘着シートを作製した。
この粘着シートの剥離シートを剥がし、エスカレータのベルト状手摺り(実機)に貼付し、エスカレータを走行させ、貼付粘着シートの外観変化を観察した。その結果を第1表に示す。
一方、前記工程シートの剥離処理面に、前記の熱可塑性ポリウレタン材料及び軟質ポリ塩化ビニル材料それぞれを用い、キャスト法により、100モジュラス及び破断伸び測定用のサンプルであるTPUフィルム及び軟質PVCフィルムを作製し、それぞれについて100%モジュラス及び破断伸びを測定した。結果を第1表に示す。
【0033】
実施例2
実施例1と同様の方法で、厚さ20μmのTPUフィルムと厚さ45μmのPVCフィルムからなる、層厚比が1:2.25で、総厚が65μmの積層シート2枚を作製し、その1枚について、上述の残留応力を測定した。結果を第1表に示す。
残り1枚の積層シートについては、実施例1と同様な操作により、剥離シート付き粘着シートを作製した。
この粘着シートの剥離シートを剥がし、エスカレータのベルト状手摺り(実機)に貼付し、エスカレータを走行させ、貼付粘着シートの外観変化を観察した。その結果を第1表に示す。
【0034】
比較例1
実施例1で用いたものと同じ工程シートの剥離処理面に、実施例1で用いたものと同じ熱可塑性ポリウレタン材料をキャスト法により製膜し、厚さ80μmのTPUフィルム2枚を作製した。その1枚について、上述の残留応力を測定した。結果を第1表に示す。
残り1枚のTPUフィルムについては、実施例1と同様な操作により、剥離シート付き粘着シートを作製した。
この粘着シートの剥離シートを剥がし、エスカレータのベルト状手摺り(実機)に貼付し、エスカレータを走行させ、貼付粘着シートの外観変化を観察した。その結果を第1表に示す。
【0035】
比較例2
実施例1で用いたものと同じ工程シートの剥離処理面に、実施例1で用いたものと同じ軟質ポリ塩化ビニル材料をキャスト法により製膜し、厚さ65μmの軟質PVCフィルム2枚を作製した。その1枚について、上述の応力を測定した。結果を第1表に示す。
残り1枚の軟質PVCフィルムについては、実施例1と同様な操作により、剥離シート付き粘着シートを作製した。
この粘着シートの剥離シートを剥がし、エスカレータのベルト状手摺り(実機)に貼付し、エスカレータを走行させ、貼付粘着シートの外観変化を観察した。その結果を第1表に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
第1表から分かるように、本発明の粘着シート(実施例1、2)は、エスカレータ走行72時間(3日間)経過した時点で、しわ、ひび割れ、剥離などは見られず、また、72時間(3日間)経過後のΔYI値は、実施例1で0.28、実施例2で0.12であり、黄変はほとんど生じなかった。
これに対し、比較例1のTPUフィルム単層の場合、72時間(3日間)経過した時点で、しわ、ひび割れ、剥離などは見られなかったが、72時間(3日間)経過した時点でΔYI値が78.14であり、かなりの黄変が生じた。また、比較例2の軟質PVCフィルム単層の場合、72時間(3日間)経過した時点で、ΔYI値が0.20であって、黄変はほとんど生じないが、72時間(3日間)経過した時点で、表面に無数のしわやひび割れが見られた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シートは、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアにおける移動手摺りに対して、広告や案内の表示などの情報提供、あるいは意匠などの目的で、数週間〜数ヶ月間程度貼付される粘着シートであって、貼付期間中のしわやひび割れ、剥離などの発生及び黄変などの変色を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シートの1例の断面模式図である。
【図2】乗客コンベアのベルト状手摺り表面に、本発明の粘着シートを貼付した状態の1例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 白色軟質ポリ塩化ビニル層
2 熱可塑性ポリウレタン層
3 粘着剤層
4 印刷層
5 保護層
6 積層シート
7 剥離シート
10 粘着シート
11 ベルト状手摺りのゴム材料部
12 金属ワイヤー
13 粘着シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリウレタン層と軟質ポリ塩化ビニル層との積層シートと、該積層シートの軟質ポリ塩化ビニル層上に形成された粘着剤層とを有し、かつ前記積層シートの総厚が40〜200μmであって、熱可塑性ポリウレタン層と軟質ポリ塩化ビニル層との層厚比が20:80〜80:20であることを特徴とする、乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シート。
【請求項2】
積層シートにおける熱可塑性ポリウレタン層の100%モジュラスが、6〜20MPaであり、かつ破断伸びが150〜600%である、請求項1に記載の乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シート。
【請求項3】
積層シートにおける軟質ポリ塩化ビニル層の100%モジュラスが、5〜40MPaであり、かつ破断伸びが150〜400%である、請求項1又は2に記載の乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シート。
【請求項4】
積層シートの5%モジュラスの5分後における残留応力が、7N/15mm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シート。
【請求項5】
積層シートの粘着剤層側表面、その反対側表面、熱可塑性ポリウレタン層の軟質ポリ塩化ビニル層側表面、及び軟質ポリ塩化ビニル層の熱可塑性ポリウレタン層側表面のいずれかに印刷層が設けられてなる、請求項1〜4のいずれかに記載の乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シート。
【請求項6】
粘着剤層が再剥離型粘着剤層である、請求項1〜5のいずれかに記載の乗客コンベアの手摺り貼付用粘着シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−166960(P2009−166960A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7161(P2008−7161)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(000108214)ゼオン化成株式会社 (10)
【Fターム(参考)】