説明

乗客又は荷物のコンベア、乗客又は荷物のコンベアの駆動チェーンの弛み診断方法及び乗客又は荷物のコンベアの駆動チェーンの弛み診断プログラム

【課題】乗客又は荷物のコンベアにおいて、駆動チェーンの弛緩量を診断することを可能とすることである。
【解決手段】乗客又は荷物のコンベアは、駆動モータの回転を駆動チェーンでスプロケットの回転に伝達し、スプロケットに巻きつけた踏段チェーンの移動に変換して、踏段チェーンに取り付けられた踏段を移動させる。駆動チェーンの弛みの診断には、最初DOWN運転を行い、適当に停止させ、駆動チェーンの片側に弛みを集める。そのときの駆動モータの回転位置を初期値として検出する(S14−S18)。次にUP運転を行い、弛みが解消して踏段が移動し始めるのを加速度センサで検出して停止させ、そのときの駆動モータの回転位置を初期値と比較し、駆動チェーンの弛み量を算出する(S20−S26)。算出したデータは保守センタ等に送信され利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客又は荷物のコンベア、乗客又は荷物のコンベアの駆動チェーンの弛み診断方法及び乗客又は荷物のコンベアの駆動チェーンの弛み診断プログラムに係り、特に、駆動モータの回転を駆動チェーンでスプロケットの回転に伝達し、スプロケットに巻きつけた踏段チェーンの移動に変換して、踏段チェーンに取り付けられた踏段を移動させる乗客又は荷物のコンベア、その乗客又は荷物のコンベアの駆動チェーンの弛み診断方法及び、その乗客又は荷物のコンベアの駆動チェーンの弛み診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
乗客を乗せた踏段を移動することで乗客を運搬するものとして、エスカレータ、あるいは動く歩道等がある。これらの乗客コンベアにおいては、駆動モータを備え、その駆動モータの回転を駆動チェーンでスプロケットの回転に伝達し、スプロケットに巻きつけた踏段チェーンの移動に変換して、踏段チェーンに取り付けられた踏段を移動させる機構が用いられる。
【0003】
すなわち、複数の踏段が設けられた踏段チェーンは、運搬路の一方側から他方側に配置され、路面の下側を通って再び運搬路の一方側に戻る無限軌道を形成している。この無限軌道の踏段チェーンは、運搬路の例えば一方側において、スプロケットによって駆動される。このスプロケットと駆動モータとの間は、駆動チェーン等の駆動ベルトで接続され、駆動モータの回転がスプロケットに伝達される仕組みとなっている。
【0004】
ここで、乗客コンベアを運行するうちに、駆動チェーンが経時変化等で、次第に弛緩してくる。弛緩してくると、バックラッシュが大きくなる等で、快適な運搬に支障が生ずる。そこで、定期的又は不定期に駆動チェーンの弛緩量を検査し、弛緩量が所定の値より多いときは、例えば駆動モータとスプロケットの軸心間の距離を変える等で調整が行われる。実際には、乗客コンベアの運行を一旦停止し、通常はカバーで覆われている駆動チェーンを、カバー等を取除いて露出させ、保守担当員が駆動チェーンを手等で持ち上げ、弛緩量を確かめる操作が行われる。したがって、その確認のために、一々乗客コンベアの運行を一時停止し、カバーを外し、検査終了後またカバーを戻す等の面倒な作業が必要となる。その結果、調整は不要ということもある。
【0005】
このように、駆動チェーンの弛緩量の確認は、運行上重要な項目ではあるが、乗客等利用者に不便をかけ、また面倒な作業が多い。そこで、特許文献1では、カバーを外すことなく、外部からの制御により駆動チェーンの弛み量を診断する方法が提案されている。ここでは、外部からの信号により、駆動モータの運転を制御し、駆動モータを一旦停止させた後、いずれか一方方向に駆動して、駆動チェーンの弛みを作り出す。そして、踏段チェーンやスプロケットを駆動できない程度の小さい駆動力で駆動モータを駆動すると、駆動モータは弛み量を無くすところまで回転するが、それ以上は駆動力が不足するので停止する。この原理を用いて、小さい駆動力の下での駆動モータの回転量で駆動チェーンの弛み量を診断する。
【0006】
【特許文献1】特開2003−292280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法によれば、一々カバーを外さなくても外部から駆動モータの駆動を制御し、低駆動力の下で、駆動モータが停止することを検出することで、駆動チェーンの弛み量を診断できる。この方法では、駆動モータを運行状態と異なる低駆動力にすることの他に、駆動モータの停止を検出する手段が必要となる。特許文献では、駆動モータの回転を監視するエンコーダのパルス間隔の変化、あるいは駆動モータの拘束電流の変化等を用いることが提案されている。
【0008】
本発明の目的は、新規な方法で駆動チェーンの弛緩量を診断することが可能な乗客又は荷物のコンベア、乗客又は荷物のコンベアの駆動チェーンの弛み診断方法及び乗客又は荷物のコンベアの駆動チェーンの弛み診断プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る乗客又は荷物のコンベアは、駆動モータの回転を駆動チェーンでスプロケットの回転に伝達し、スプロケットに巻きつけた踏段チェーンの移動に変換して、踏段チェーンに取り付けられた踏段を移動させる乗客又は荷物のコンベアにおいて、駆動モータの回転軸に設けられる回転量検出センサと、踏段又はスプロケットに設けられる加速度センサと、駆動チェーンの弛みを診断する診断部と、を備え、診断部は、駆動モータを一旦停止させ、ついで、正方向又は逆方向に任意の時間徐行駆動して再び停止させることで、駆動チェーンについて、スプロケット側から回転した駆動モータ側に向かう方向に弛みなく張らせ、回転した駆動モータ側からスプロケット側に向かう方向に弛みを生じさせ、その状態における回転量検出センサの出力を取得する初期値検出手段と、ついで、駆動モータを先ほどとは反対に、逆方向又は正方向に徐行駆動し、駆動チェーンの弛んでいた部分を逆に弛みなく張らせ、加速度センサが踏段又はスプロケットの動き出すことを検出したときの回転量検出センサの出力を取得する移動検出手段と、初期値検出手段により取得された回転量と、移動検出手段により検出された回転量とに基づき、駆動チェーンの弛みを求める手段と、を含むことを特徴とする。
【0010】
また、初期値検出手段は、さらに、徐行駆動した後の停止の際に加速度センサの出力を確認し、出力が正常でないと確認されたときは、加速度センサの位置を変更するためにさらに任意の移動駆動を行うことが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る乗客又は荷物のコンベアにおいて、さらに、求められた駆動チェーンの弛みのデータを送信する手段を含むことが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る乗客又は荷物のコンベアにおいて、さらに、弛みデータを送信された先から、駆動チェーンの保守に関する指示情報を受信する手段を含むことが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る乗客又は荷物のコンベアの駆動チェーンの弛み診断方法は、駆動モータの回転を駆動チェーンでスプロケットの回転に伝達し、スプロケットに巻きつけた踏段チェーンの移動に変換して、踏段チェーンに取り付けられた踏段を移動させる乗客又は荷物のコンベアの駆動チェーンの弛みを診断する方法であって、駆動モータを一旦停止させ、ついで、正方向又は逆方向に任意の時間徐行駆動して再び停止させることで、駆動チェーンについて、スプロケット側から回転した駆動モータ側に向かう方向に弛みなく張らせ、回転した駆動モータ側からスプロケット側に向かう方向に弛みを生じさせ、その状態において、駆動モータの回転軸に設けられる回転量検出センサの出力を取得する初期値検出工程と、ついで、駆動モータを先ほどとは反対に、逆方向又は正方向に徐行駆動し、駆動チェーンの弛んでいた部分を逆に弛みなく張らせ、踏段又はスプロケットに設けられる加速度センサが踏段又はスプロケットの動き出すことを検出したときの回転量検出センサの出力を取得する移動検出工程と、初期値検出工程により取得された回転量と、移動検出工程により検出された回転量とに基づき、駆動チェーンの弛みを求める工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る乗客又は荷物のコンベアの駆動チェーンの弛み診断プログラムは、駆動モータの回転を駆動チェーンでスプロケットの回転に伝達し、スプロケットに巻きつけた踏段チェーンの移動に変換して、踏段チェーンに取り付けられた踏段を移動させる乗客又は荷物のコンベアの制御部上で実行される駆動チェーンの弛み診断プログラムであって、駆動モータを一旦停止させ、ついで、正方向又は逆方向に任意の時間徐行駆動して再び停止させることで、駆動チェーンについて、スプロケット側から回転した駆動モータ側に向かう方向に弛みなく張らせ、回転した駆動モータ側からスプロケット側に向かう方向に弛みを生じさせ、その状態において、駆動モータの回転軸に設けられる回転量検出センサの出力を取得する初期値検出処理手順と、ついで、駆動モータを先ほどとは反対に、逆方向又は正方向に徐行駆動し、駆動チェーンの弛んでいた部分を逆に弛みなく張らせ、踏段又はスプロケットに設けられる加速度センサが踏段又はスプロケットの動き出すことを検出したときの回転量検出センサの出力を取得する移動検出処理手順と、初期値検出工程により取得された回転量と、移動検出工程により検出された回転量とに基づき、駆動チェーンの弛みを求める処理手順と、を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上記構成により、初期値検出において、駆動チェーンの弛みをいずれか一方に寄せてそのときの駆動モータの回転量を取得し、移動検出において弛みを解消する方向に駆動モータを駆動させて、弛みの解消を加速度センサで検出し、そのときの駆動モータの回転量を取得する。この両回転量から、駆動チェーンの弛み量を診断するので、従来の方法とは異なり、駆動モータは単にゆっくり回転させるだけで、加速度センサの検出により、容易に駆動チェーンの弛みを診断できる。
【0016】
また、初期値検出の際に加速度センサの出力が正常でないときはさらに任意の位相駆動を行わせるので、たまたま乗客又は荷物のコンベアの停止位置が加速度の検出に不向きの位置となっても、次の任意移動駆動で、位置を変更でき、加速度の検出を正しく行うことが出来る。
【0017】
また、駆動チェーンの弛みデータを送信するので、例えば保守センタ等にこれらのデータを送信し、受取った遠隔地の保守センタ等で弛みデータの評価判断を迅速に行うことが出来る。また、これらのデータの送信先からの指示を受信するので、遠隔地からの駆動チェーンの保守の指示等を迅速に得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、乗客又は荷物のコンベアとして、一般的な乗客用エスカレータを説明するが、低層階から上層階への運搬以外に、例えば動く歩道のように、同じ階の中での運搬であってもよい。また、運搬対象は、乗客専用に限られず、荷物専用あるいは混載であってもよい。
【0019】
図1は、エスカレータ10の上層階における部分を示す図である。エスカレータ10は、上層階の床12と図示されていない低層階の床との間で乗客を運搬する機能を有し、図1では、機構部分の一部断面構造が示されているが、通常は乗客の安全・利便のため、機構部分は手すり14等で覆われている。エスカレータ10の乗客を運搬する複数の踏段16は、上層階と低層階との間をループ状に移動する踏段チェーン18に所定の間隔で取り付けられている。そして、図示されていない水平化機構により、乗客を乗せる移動領域においては、各踏段16の上面は水平に保持されている。
【0020】
上層階の床12の下部には、踏段チェーン18が噛み合うスプロケット20と、駆動チェーン28を介してスプロケット20を駆動する駆動モータ30が配置される。また、駆動モータ30には回転検出のためのエンコーダ32が設けられ、踏段16の1つには加速度センサ34が取り付けられる。これらの要素を含め、エスカレータ10全体の動作は、制御部40によって制御される。
【0021】
スプロケット20は、駆動モータ30からの回転駆動力を受けて、踏段チェーン18を図1に示すUP方向、又はDOWN方向に移動駆動させる機能を有する動力伝達機構である。具体的には、上層階の床12に相対的に平行な回転軸と、その両端に回転軸と一体として回転する外ギヤ板22と、外ギヤ板22と一体に回転し、外ギヤ板22の外径よりより小さい外径を有する内ギヤ板24を備える。外ギヤ板22は、外周に踏段チェーン18と噛み合うギヤ歯を有し、内ギヤ板24は駆動チェーン28と噛み合うギヤ歯を有する。なお、踏段チェーン18がスプロケット20に噛み合うところの各踏段は、図示されていない畳み込み機構により、両側の外ギヤ板22の間に挟まれる空間の中に畳み込まれる。
【0022】
駆動モータ30は、動力用電動機であって、制御部40の制御の下で、所定の回転速度プロファイル等に従って正逆回転可能である。駆動モータ30の回転出力軸にはモータ側ギヤ板26が設けられる。また、回転出力軸に上記のようにエンコーダ32が設けられる。エンコーダ32は、駆動モータ30についてその回転出力軸の時々刻々の変化を検出する機能を有し、具体的には、円板の円周方向に複数のスリットを有する回転板と、このスリットの位置を光学的に検出する受発光センサとから構成される。なお、光学的エンコーダ32に代えて、他の方式の回転量検出センサ、例えば磁気センサ等を用いてもよい。具体的なエンコーダ32の作用は後述する。
【0023】
駆動チェーン28は、スプロケット20の内ギヤ板24と、駆動モータ30の回転出力軸に取り付けられるモータ側ギヤ板26と噛み合うループ状のチェーンである。駆動チェーン28には適度の弛みが持たされているが、エスカレータ10の運行に従って、この弛みが次第に増大するので、その弛み量が適正範囲にあるかどうかが診断されるが、その詳細については後述する。
【0024】
加速度センサ34は、駆動モータ30の駆動力がスプロケット20以降に伝達され、スプロケット20以降が移動することを検出する機能を有する素子である。ここでは、踏段16の1つに取り付けられ、踏段16の移動加速度を検出する。例えば、圧電素子を用いたセンサ等を用いることが出来る。加速度センサ34は、無線送信機36と共に踏段16の下部に取り付けられる。加速度センサ34により検出されたデータは、無線送信機36を介し、制御部40に送られる。もちろん、無線手段を用いずに、有線信号線を用いて制御部40に加速度センサ34の検出データを伝送してもよい。また、加速度センサ34の取り付け位置は、スプロケット20以降で駆動モータ30の駆動力が及ぶところであればよい。例えば、踏段16に代えてスプロケット20に加速度センサ34を取り付けることもできる。
【0025】
制御部40は、駆動モータ30の動作制御によりエスカレータ10を運行制御する機能と、駆動チェーン28の弛み量を診断するための各要素の動作を制御する機能等を有する制御装置である。
【0026】
図2は制御部40のブロック図である。制御部40は、CPU50と、加速度センサ34からのデータを受取る加速度センサI/F(42)、エンコーダ32からのデータを受取るエンコーダI/F(52)、駆動モータ30と接続される駆動モータI/F(54)、外部の保守センタとLAN(46)等を介して交信する通信制御部44、エスカレータ10の運行プログラム等を記憶する記憶装置56を含み、これらは内部バスで相互に接続される。かかる制御部40は、エスカレータ運行制御に適した専用制御装置あるいはコンピュータ等で構成することができる。LAN(46)に代えて、電話回線を用いてもよい。
【0027】
CPU50は、駆動チェーンの弛み量に関する検出、診断を行う機能を有する弛み診断部60と、通常のエスカレータ運行のための駆動モータの制御等を行う機能を有する定常運行制御部62とを含む。弛み診断部60は、初期値検出モジュール64、移動検出モジュール66、弛み算出モジュール68を含む。これらの機能はソフトウエアによって実現することができ、具体的には対応する弛み診断プログラム及び定常運行プログラム等を実行することで実現できる。また、各機能の一部をハードウエアで実現するように構成してもよい。
【0028】
ここで、定常運行制御部62は、エスカレータ10のUP運転、DOWN運転等、乗客等の利用者にとって快適な運行を制御する機能であり、公知の運行プログラム等を用いて駆動モータ30等を制御するものであるので、詳細な説明は省略する。以下では、弛み診断部60の各機能の詳細について、図3から図5のフローチャート及び駆動チェーンの弛み状況を示す図6を用いて詳細に説明する。なお、図1、図2において説明した要素については、その符号を用いる。
【0029】
図3は、エスカレータ10の駆動チェーン28の弛みを診断する基本手順を示すフローチャートである。図4、図5は、図3の基本手順に付加的な機能を追加する手順を示すフローチャートである。図3と、図4、図5の関係は、これらの図におけるAからFまでの手順のジャンプを示す記号で表してある。図6は、図3のフローチャートの主要な手順における駆動チェーン28の弛みの状態と、エンコーダ32による駆動モータ30の回転状態を説明する図である。
【0030】
駆動チェーン28の弛み診断は、弛み診断プログラムを起動することで開始される。具体的には、エスカレータ10の設置場所から離れたところにある保守センタから、弛み診断の指令がLAN46を経由して送信される(S10)。図3においてS10を破線としたのは、エスカレータ10に設けられる制御部40が実行する手順でないことを示すためである。送信された指令は、通信制御部44を介して受信される(S12)。これにより、記憶装置56に格納されている弛み診断プログラムが読み出され、以下の手順が実行される。
【0031】
最初は、エスカレータ10は停止状態にある。その様子を図6(a)に示す。図6は、スプロケット20の内ギヤ板24と、駆動モータ30のモータ側ギヤ板26と、駆動チェーン28と、エンコーダ32の様子を模式的に示したものである。エンコーダ32は、説明のために、回転板70に12個のスリット72が設けられるものとし、各スリット72を区別するため、便宜上の番号を付してある。したがって、受発光センサ74の位置に来たスリット72の番号で、エンコーダ32の回転状態、すなわち駆動モータ30のモータ側ギヤ板26の回転状態を区別することができる。
【0032】
最初の停止状態では、その直前の運行状態のままのこともあるが、ここでは一般的に、スプロケット20及び駆動モータ30の回転軸が適当な位置にあって、図6の紙面において、駆動チェーン28の上側の部分28a、下側の部分28bが共に弛んでいるものとして示した。このとき、エンコーダ32においてはスリット番号11が検出されているとする。
【0033】
次に、UP運転(S14)から初期値検出(S18)までの一連の手順が行われる。具体的には、CPU50の初期値検出モジュール64の機能により、次のような手順が実行される。まずUP運転が行われる(S14)。UP運転とは、図1に示す矢印のUP側に踏段チェーン18を移動駆動させる手順で、具体的には、駆動モータI/F(54)を介し、駆動モータ30にUP運転側の回転を行わせる指令が与えられる。このとき、好ましくは、定常運行のときより低速運転が好ましい。
【0034】
このとき、スプロケット20も回転するが、負荷があって重いので、駆動チェーン28を駆動方向、つまりスプロケット20側から回転する駆動モータ30側に向かう方向に張らせるようになる。これに対し逆の方向、すなわち回転する駆動モータ30側からスプロケット20側に向かう方向には駆動チェーン28は弛むことになる。
【0035】
そして、適当な時間経過後、停止させる(S16)。適当な時間とは、駆動チェーン28が、スプロケット20側から回転する駆動モータ30側に向かう方向に弛みがなくなる程度の回転を行うのに十分な時間である。例えば、駆動モータ30の回転出力軸のところで90度程度の回転を与えるのに十分な時間等である。保守が正常に行われている状態では、この適当な時間は短くてすむ。停止は、駆動モータ30に停止指示を与え、駆動電流を遮断し、適当なブレーキをかけることで実行される。
【0036】
そして、停止したときのエンコーダ32の検出値が読取られ、初期値検出が行われる(S18)。具体的には、エンコーダ32の検出データが、エンコーダI/F(52)を介して取得される。取得された初期値は、記憶装置56又は適当なメモリに一旦記憶される。
【0037】
停止直前の様子を図6(b)に示す。UP運転は、図6ではモータ側ギヤ板26の時計方向の回転に相当する。このとき、上記のようにスプロケット20には負荷があるので、駆動チェーン28の上側の部分28aが弛みなく張るまで回転しない。その分、駆動チェーン28の下側の部分28bに弛みが集められる。ここで分かるように、弛みがなくなる駆動チェーン28の上側の部分28aとは、スプロケット20から回転する駆動モータ30に向かう駆動チェーン28の部分であり、弛みが集められる駆動チェーン28の下側の部分28bとは、回転する駆動モータ30からスプロケット20に向かう駆動チェーン28の部分である。このように、駆動チェーン28の一方側が弛みなくなった状態で停止させて、そのときのエンコーダ32の読みを初期値とする。図6(b)では、初期値は、スリット5の位置である。
【0038】
初期値検出が終わると、次にDOWN運転(S20)から移動検出(S24)までの一連の手順が行われる。具体的には、CPU50の移動検出モジュール66の機能により、次のような手順が実行される。まずDOWN運転が行われる(S20)。DOWN運転とは、図1に示す矢印のDOWN側に踏段チェーン18を移動駆動させる手順で、具体的には、駆動モータI/F(54)を介し、駆動モータ30にDOWN運転側の回転を行わせる指令が与えられる。
【0039】
このとき、S14と同様に、好ましくは、定常運行のときより低速運転が好ましい。このとき、スプロケット20も回転するが、負荷があって重いので、駆動チェーン28を駆動方向、つまりスプロケット20側から回転する駆動モータ30側に向かう方向に張らせるようになる。駆動モータ30の回転方向はS14と逆方向であるので、駆動チェーン28を張るのは、S14、S16において弛んでいた部分となる。つまり、S14、S16において弛んでいた部分が、弛みを解消して張る方向になる。これに対し逆の方向、すなわち、S14、S16において張っていた部分は弛むことになる。
【0040】
そして、加速度センサ34の出力を監視して加速度検出を行い、加速度が検出されると、その状態で停止させる(S22)。具体的には、加速度検出は、加速度センサI/F(42)を介して、踏段16に設けられた加速度センサ34の出力を取得することで行われる。加速度センサ34は、踏段16が静止状態から動きはじめるときに加速度を検出するので、駆動チェーン28の弛んでいる部分が駆動モータ30のDOWN運転により弛みがなくなり、スプロケット20に駆動力が伝達され、スプロケット20が動きだしたときを検出できる。停止は、S16と同様に、駆動モータ30に停止指示を与え、駆動電流を遮断し、適当なブレーキをかけることで実行される。
【0041】
そして、停止したときのエンコーダ32の検出値が読取られ、移動検出が行われる(S24)。具体的には、エンコーダ32の検出データが、エンコーダI/F(52)を介して取得される。取得されたデータは、記憶装置56又は適当なメモリに記憶させることが出来る。
【0042】
停止直前の様子を図6(c)に示す。DOWN運転は、図6ではモータ側ギヤ板26の反時計方向の回転に相当する。このとき、上記のようにスプロケット20には負荷があるので、駆動チェーン28の下側の部分28bが弛みなく張るまで回転しない。ここで分かるように、弛みがなくなる駆動チェーン28の下側の部分28bとは、図6(b)で弛んでいた部分である。弛みが解消すると、駆動チェーン28を介してスプロケット20に駆動モータ30の駆動力が伝達され、スプロケット20が回転を始める。すると上記のように加速度センサ34がそれを検出し、直ちに駆動モータ30を停止させる。そのときのエンコーダ32の読みを移動検出値とする。図6(c)では、移動検出値は、スリット7の位置である。
【0043】
次に、弛み量の算出が行われる(S26)。具体的には弛み算出モジュール68の機能により、S18で取得した初期値のデータ、及びS24で検出された移動検出のデータに基づいて、駆動チェーン28の弛み量が求められる。図6の例で説明すれば、エンコーダ32の出力データに基づいて駆動チェーン28の弛み量が求められる。すなわち、図6(b)で初期値がスリット番号5の位置で、移動検出はスリット番号7の位置であるので、駆動チェーン28の弛み量は、スリット番号で2だけ異なる量に対応するものとして求められる。これを駆動モータ30の回転出力軸の回転量として表わしてもよい。上記の例では、(2/12)×360°=60°が、駆動チェーン28の弛み量に相当する駆動モータ30の回転出力軸の回転量となる。また、これを駆動チェーン28の理論全長に対する緩み量に換算する等、別の適当な管理量に変換してもよい。
【0044】
求められた弛み量は弛みデータとして送信される(S28)。具体的には、通信制御部44を介し、LAN(46)を通して、保守センタに送信される。弛みデータは、上記の例で言えば、駆動モータ30の回転出力軸の回転量60°として送信してもよく、あるいは初期値検出データであるスリット番号5、移動検出データであるスリット番号7等の検出データそのものを送信してもよい。
【0045】
保守センタでは送信された弛みデータを取得し、駆動チェーン28の保守を行うかどうか等を含めた指示を決定し、LAN(46)を通して送信する(S30)。この工程も、制御部40の実行する手順でないので、図3では破線で示した。
【0046】
送信された指示は、通信制御部44を介して受信される(S32)。このように、エスカレータ10のカバー等を取り外すことなく、電気信号のやり取りによって、駆動チェーン28の弛みを検出し、診断することができる。また、エスカレータ10の設置場所から保守センタが遠隔地にあっても、LAN(46)等によって、弛み診断の指令を与えることができる。またその結果を遠隔地で受け取って、駆動チェーン28の弛み保守の要不要の判断ができ、その判断をエスカレータ10の設置場所に知らせて、適切な処置を取らせることができる。
【0047】
図4は、図3の基本的な手順に追加して、加速度センサ34の検出位置を変更できるようにする手順を示すものである。加速度センサ34は、踏段16に取り付けられるので、S16の停止位置がどこであるかによって、加速度の検出に不向きなところに加速度センサ34が取り付けられた踏段16が停止することがある。そのような踏段16の位置としては、例えば、下層階のスプロケット、上層階のスプロケット20のところ等が考えられる。そのような場合には、踏段16の位置を移動させることが望ましい。
【0048】
そのような処理を行うため、図3のS16の後に、図4のサブルーチンにジャンプする。図4においては、まず、加速度センサ34の出力が正常であったか否かを判断する(S40)。具体的には、S14のUP運転において、加速度センサI/F(42)を介して加速度センサ34の出力を取得し、S16の停止のときにその出力を予め定められた正常出力基準値と比較する。加速度センサ34の出力が正常であれば、図3のS18に戻り、以後の手順を続ける。
【0049】
加速度センサ34の出力が正常とは判断されないときは、弛み確認は最初かどうか判断する(S42)。つまり、S14、S16の工程が最初のものであるかどうかを判断する。最初であるときは、踏段16の位置の変更を行う(S44)。具体的には、駆動モータI/F(54)を介し、駆動モータ30に、さらにUP運転を任意量行う指令を与える。任意量としては、例えば、スプロケットの領域に踏段16の位置が来ないように、スプロケットの半回転以上程度のものとすることができる。踏段16の位置変更、すなわち加速度センサ34の位置変更が終われば、念のため、S14のUP運転の工程へ戻る。場合によっては、そのままS18の工程に戻るものとすることもできる。
【0050】
弛み確認が最初であるとは判断されないときは、加速度センサ不良の信号出力を行い、弛み診断手順を終了させる。すなわち、弛み確認が最初でないときとは、少なくともS40の工程を1度は通っているので、加速度センサ34の出力が少なくとも2度正常でないと判断されている。したがって、このような場合には、加速度センサ34周辺になんらかの故障がある可能性が高いので、以後の手順を続行せず、加速度センサ不良の信号出力を行って、適切な処置を待つのが好ましいからである。加速度センサ不良の信号出力は、保守センタあてに通信制御部44、LAN(46)を介して伝送するほか、エスカレータ10の設置場所に通報することとしてもよい。
【0051】
図5は、弛み量の算出を複数回行うときの手順の一例を示すフローチャートである。この例では、図3におけるUP運転(S14)−停止(S16)−初期値算出(S18)−DOWN運転(S20)−加速度検出・停止(S22)−移動検出(S24)に加え、さらにUP運転を加えるものである。すなわち、S22の状態は図6(c)で示すように、駆動チェーン28の下側の部分28bが張っており、上側の部分28aが弛んでいる。したがって、この状態を第2の初期値検出とし、さらにUP運転を行えば、図6(b)のように、弛んでいた駆動チェーン28の上側の部分28aが張る。その瞬間は加速度センサ34で検出できるので、そのときの駆動モータ30の回転量を検出して第2移動検出とできる。
【0052】
具体的には、図5に示すように、図3のS26からジャンプして、UP運転(S50)に移る。そして、加速度センサ34の出力を監視し、踏段16の移動開始を検出し、そのときに停止させる(S52)。そして、そのときのエンコーダ32の出力を取得し、これを第2移動検出とする(S54)。例えば、そのときのエンコーダ32の出力を図6(b)のように、スリット番号5の位置とする。そして、S24における元々の移動検出の値と、第2移動検出の値から、第2弛み量を算出する(S56)。上記の例では、スリット番号5とスリット番号7の差が第2弛み量となる。そして、S26で得られた元々の弛み量と、第2弛み量との平均の平均弛み量を算出する(S58)。その後は、再び図3のS28へジャンプして戻る。なお、この後にさらにDOWN運転を行う等で、3回以上の弛み量算出を行うものとしてもよい。
【0053】
このようにして、1回の弛み量測定のみならず、複数回の弛み量に基づき、駆動チェーン28の弛み診断を行うことで、診断の信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る実施の形態におけるエスカレータの上層階における部分を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態における制御部のブロック図である。
【図3】本発明に係る実施の形態における駆動チェーンの弛みを診断する手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明に係る実施の形態における追加的なフローチャートの1つである。
【図5】本発明に係る実施の形態における他の追加的なフローチャートである。
【図6】本発明に係る実施の形態において、駆動チェーンの弛みの状態と駆動モータの回転状態を説明する図である。
【符号の説明】
【0055】
10 エスカレータ、12 床、16 踏段、18 踏段チェーン、20 スプロケット、22 外ギヤ板、24 内ギヤ板、26 モータ側ギヤ板、28a 駆動チェーンの上側部分、28b 駆動チェーンの下側部分、28 駆動チェーン、30 駆動モータ、32 エンコーダ、34 加速度センサ、36 無線送信機、40 制御部、42 加速度センサI/F、44 通信制御部、46 LAN、50 CPU、52 エンコーダI/F、54 駆動モータI/F、56 記憶装置、60 弛み診断部、62 定常運行制御部、64 初期値検出モジュール、66 移動検出モジュール、68 弛み算出モジュール、70 回転板、72 スリット、74 受発光センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動モータの回転を駆動チェーンでスプロケットの回転に伝達し、スプロケットに巻きつけた踏段チェーンの移動に変換して、踏段チェーンに取り付けられた踏段を移動させる乗客又は荷物のコンベアにおいて、
駆動モータの回転軸に設けられる回転量検出センサと、
踏段又はスプロケットに設けられる加速度センサと、
駆動チェーンの弛みを診断する診断部と、
を備え、
診断部は、
駆動モータを一旦停止させ、ついで、正方向又は逆方向に任意の時間徐行駆動して再び停止させることで、駆動チェーンについて、スプロケット側から回転した駆動モータ側に向かう方向に弛みなく張らせ、回転した駆動モータ側からスプロケット側に向かう方向に弛みを生じさせ、その状態における回転量検出センサの出力を取得する初期値検出手段と、
ついで、駆動モータを先ほどとは反対に、逆方向又は正方向に徐行駆動し、駆動チェーンの弛んでいた部分を逆に弛みなく張らせ、加速度センサが踏段又はスプロケットの動き出すことを検出したときの回転量検出センサの出力を取得する移動検出手段と、
初期値検出手段により取得された回転量と、移動検出手段により検出された回転量とに基づき、駆動チェーンの弛みを求める手段と、
を含むことを特徴とする乗客又は荷物のコンベア。
【請求項2】
請求項1に記載の乗客又は荷物のコンベアにおいて、
初期値検出手段は、さらに、徐行駆動した後の停止の際に加速度センサの出力を確認し、出力が正常でないと確認されたときは、加速度センサの位置を変更するためにさらに任意の移動駆動を行うことを特徴とする乗客又は荷物のコンベア。
【請求項3】
請求項1に記載の乗客又は荷物のコンベアにおいて、
さらに、
求められた駆動チェーンの弛みのデータを送信する手段を含むことを特徴とする乗客又は荷物のコンベア。
【請求項4】
請求項3に記載の乗客又は荷物のコンベアにおいて、
さらに、
弛みデータを送信された先から、駆動チェーンの保守に関する指示情報を受信する手段を含むことを特徴とする乗客又は荷物のコンベア。
【請求項5】
駆動モータの回転を駆動チェーンでスプロケットの回転に伝達し、スプロケットに巻きつけた踏段チェーンの移動に変換して、踏段チェーンに取り付けられた踏段を移動させる乗客又は荷物のコンベアの駆動チェーンの弛みを診断する方法であって、
駆動モータを一旦停止させ、ついで、正方向又は逆方向に任意の時間徐行駆動して再び停止させることで、駆動チェーンについて、スプロケット側から回転した駆動モータ側に向かう方向に弛みなく張らせ、回転した駆動モータ側からスプロケット側に向かう方向に弛みを生じさせ、その状態において、駆動モータの回転軸に設けられる回転量検出センサの出力を取得する初期値検出工程と、
ついで、駆動モータを先ほどとは反対に、逆方向又は正方向に徐行駆動し、駆動チェーンの弛んでいた部分を逆に弛みなく張らせ、踏段又はスプロケットに設けられる加速度センサが踏段又はスプロケットの動き出すことを検出したときの回転量検出センサの出力を取得する移動検出工程と、
初期値検出工程により取得された回転量と、移動検出工程により検出された回転量とに基づき、駆動チェーンの弛みを求める工程と、
を含むことを特徴とする乗客又は荷物のコンベアの駆動チェーンの弛み診断方法。
【請求項6】
駆動モータの回転を駆動チェーンでスプロケットの回転に伝達し、スプロケットに巻きつけた踏段チェーンの移動に変換して、踏段チェーンに取り付けられた踏段を移動させる乗客又は荷物のコンベアの制御部上で実行される駆動チェーンの弛み診断プログラムであって、
駆動モータを一旦停止させ、ついで、正方向又は逆方向に任意の時間徐行駆動して再び停止させることで、駆動チェーンについて、スプロケット側から回転した駆動モータ側に向かう方向に弛みなく張らせ、回転した駆動モータ側からスプロケット側に向かう方向に弛みを生じさせ、その状態において、駆動モータの回転軸に設けられる回転量検出センサの出力を取得する初期値検出処理手順と、
ついで、駆動モータを先ほどとは反対に、逆方向又は正方向に徐行駆動し、駆動チェーンの弛んでいた部分を逆に弛みなく張らせ、踏段又はスプロケットに設けられる加速度センサが踏段又はスプロケットの動き出すことを検出したときの回転量検出センサの出力を取得する移動検出処理手順と、
初期値検出工程により取得された回転量と、移動検出工程により検出された回転量とに基づき、駆動チェーンの弛みを求める処理手順と、
を実行させることを特徴とする乗客又は荷物のコンベアの駆動チェーンの弛み診断プログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−131356(P2006−131356A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322835(P2004−322835)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】