説明

乗物用気体処理装置

【課題】 乗物の揺れや傾きに左右されずに、水の安定した汲み上げが可能な乗物用気体処理装置を実現する。
【解決手段】 下方にスクリュー15を内設した中空の回転体10を水中に浸漬して回転することにより、回転体内部の下方から上方に向かって水を汲み上げると共に、この水を回転体の上方に設けた水及び空気が通過可能な筒状の散水部12からミスト状に飛散させ、外気を導入可能な処理室内にミスト雰囲気を形成するミスト発生部1と、回転体の下端を水中に浸漬させた状態で上記ミスト発生部1を水槽Tに溜めた水Wに浮遊させるための浮体20からなる気体処理装置本体Mを、乗物内に設置した水槽Tに浮遊させて運転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気などの気体をミストと接触させることにより、気体のマイナスイオンの濃度を高めたり、気体中の雑菌、塵、臭いの成分等を除去する気体処理装置に関し、特に船舶・航空機・車両などの乗物の客室や荷物室内で使用するのに最適な気体処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人為的にマイナスイオンの濃度を高めるために、ミスト雰囲気を生成した処理室内に空気を導入して、空気とミストを接触させることにより、空気中のマイナスイオンの濃度を高めた後、空気を処理室外に排出する技術が知られている(例えば、特許文献1〜3)。この種の装置は、より詳細には水が砕けて微細な水滴(ミスト)に分裂する時に、空気中のイオンの濃度が高まる現象を利用するものである。
【0003】
一方、ミスト雰囲気を生成した処理室内に外気を導入して、外気とミストを接触させることにより、ミストにより気体の雑菌、塵、臭いの成分等が捕捉されることも前記特許文献において知られている。
【0004】
以上のように、ミスト雰囲気を生成した処理室内に外気を導入して、外気とミストを接触させることにより、気体のマイナスイオンの濃度を高めたり、雑菌、塵、臭いの成分等を除去する処理を施した後、処理した外気を処理室外に排出する気体処理手段が公知である。
【0005】
また、微細なミスト雰囲気下に食品や植物をおいてその鮮度を保持する試みもなされている。
【0006】
以上の気体処理装置においては、大量の水を飛散させ、しかも飛散されたミストの粒径が小さいほど大量のマイナスイオンが発生することが知られており、限られた容量でいかに効率よくこれを実現できるかが技術的な課題となっている。これを解決する発明として、外気を導入可能な処理室内において、下方にスクリューを内設した筒体を水中に浸漬して回転することにより、筒内の下方から上方に向かって水を汲み上げると共に、この水を筒体の上方に設けた水及び空気が通過可能な筒状の散水部に衝突させながらそこを通過させることによりにミスト状に飛散させ、さらに飛散させたミストをこの散水部の周囲に配された水及び空気が通過可能な筒状のスクリーンに衝突させながらそこを通過させることにより、より細かく砕いてマイナスイオンを含むミスト雰囲気を形成する発明を本願出願人は既に提案している(特許文献4) 。
【0007】
ところで、例えば船舶、航空機、自動車、鉄道車両などの乗物に前記原理の気体処理装置を使用することが特許文献5において提案されている。この場合、車内環境は客室に止まらず、例えば食品や植物の輸送においてその荷室やコンテナにおいて前記原理の気体処理装置を使用すれば輸送中の鮮度が保持されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】1960年8月22日のフランス特許第1245534号明細書
【特許文献2】特許第3051055号公報
【特許文献3】特許第3757889号公報
【特許文献4】特開2009−66389号公報
【特許文献5】特許第3917722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記したように、前記原理の気体処理装置においてはミストを生成するために水を汲み上げることが不可欠となり、そのためのタンクが下方に設置されている。この場合、平滑な場所に静的に設置される屋内用途の場合と異なり、乗物においては走行速度の変化による加速度により水面が波打って水位が上下したり、坂路や空路、海路を進行する際の乗物の傾きにより水面に対しミストの発生装置が相対的に傾く現象が生じることとなる。これはポンプからの負圧により水を強制的に吸い上げる構造と異なり、筒内の下方に存する水をスクリューで汲み上げる構造を有する特許文献4に記載の気体処理装置においては大きな問題であり、筒内の水が途切れて汲み上げが中断するおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は以上の問題点を解消した乗物用気体処理装置を提供することを目的として創作されたものであり、下方にスクリューを内設した中空の回転体を水中に浸漬して回転することにより、回転体内部の下方から上方に向かって水を汲み上げると共に、この水を回転体の上方に設けた水及び空気が通過可能な筒状の散水部からミスト状に飛散させ、外気を導入可能な処理室内にミスト雰囲気を形成するミスト発生部と、回転体の下端を水中に浸漬させた状態で上記ミスト発生部を水槽に溜めた水に浮遊させるための浮体からなる気体処理装置本体と、上記気体処理装置本体を浮遊させるための水槽を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、ここでは第2発明としてミスト発生部の回転体の上方に設けた水及び空気が通過可能な筒状の散水部からミスト状に飛散させたミストを、さらにこの散水部の周囲に配された水及び空気が通過可能な筒状のスクリーンに衝突させながらそこを通過させることにより、より細かく砕く乗物用気体処理装置も開示する。
【0012】
また、ここでは第3発明として水中に浸漬される回転体の下方の箇所を下端に取水のための開口部を設けたドーム形状に構成した乗物用気体処理装置も開示する。
【0013】
この発明においては、気体処理装置本体は乗物内に設置された水槽に浮遊して使用に供される。よって、走行速度の変化による加速度により水上を移動して水槽のへりに衝突しないように、水槽に浮遊させた気体処理装置本体の移動範囲を規制する手段を設けることが望ましい。
【0014】
この発明においては、筒体の下方から上方に向かって汲み上げられると共に、回転する筒体の遠心力により上方において周囲に飛散する水を、水及び空気が通過可能な筒体からなる散水部に衝突させながらそこを通過させることによりミスト状に砕いて飛散させる。このための散水部の構造として、ここでは下記のものを例示する。
(A) 筒体の外周壁に多数のスリットを設けたもの。
(B) 筒体の外周壁に多数の細孔を設けたもの。
(C) 筒体の外周壁を網目体により構成したもの。
【0015】
また、第2発明においては、前記の散水部により飛散させたミストを散水部の周囲に配された水及び空気が通過可能な筒状のスクリーンに衝突させながらそこを通過させることにより、ミストをより細かく砕いてマイナスイオンを含むミスト雰囲気を形成させる。このためのスクリーンの構造として、ここでは下記のものを例示する。
(A) 筒体の外周壁に多数のスリットを設けたもの。
(B) 筒体の外周壁に多数の細孔を設けたもの。
(C) 筒体の外周壁を網目体により構成したもの。
【0016】
前記のように、この発明においては水を砕いてミスト状に飛散させる散水部と、散水部からのミストをより細かく砕いて飛散させるスクリーンの構造としてはいくつかのものが想定されるが、発明者らの実験によれば散水部、スクリーン共前記(A) の、外周壁に多数のスリットを設けた構造としたものが、マイナスイオンの発生効果において好成績を得ていることが確認されている。
【発明の効果】
【0017】
この発明の乗物用気体処理装置は乗物内に設置された水槽に気体処理装置本体を浮遊させて使用される。この場合、水槽の水面は乗物が揺れたり傾いたりしても常に水平を保とうとするが、ここから水を汲み上げる気体処理装置本体も水上に浮遊しているので、それに追従して常に水平を保とうとする。よって、従来技術のように水面に対しミストの発生装置が相対的に傾く現象が生ぜず、乗物の揺れや傾きにかかわらず常に安定して水を汲み上げることが可能となる。また、走行速度の変化による加速度により水面が波打って水位が上下しても、やはり常に安定して水を汲み上げることが可能となる。
【0018】
一方、第2発明の乗物用気体処理装置は、水中に浸漬される回転体の下方の箇所が下端に取水のための開口部を設けたドーム形状に構成され、その結果、回転体の開口部周縁は水平に近い状態に寝ているので(図6参照)、水面に対する気体処理装置本体の前記の追従までタイムタグがあったとしても、水は開口部周縁の接線方向から回転体内に流入し、水が途切れて汲み上げが中断することが防止される効果を得られる。
【0019】
前記と同様の理由により回転体はドーム面により水中での抵抗が少なく、急激に水面が波打ったり傾いても、ミスト発生装置本体が不用意に傾いて筒内の水が途切れて汲み上げが中断することが防止される効果を得られる。
【0020】
また、第3発明においては散水部の周囲に、それと共に回転する筒状のスクリーンを設けることにより、散水部により先ず水を粗目のミストに砕いて飛散させ、ついでスクリーンにより、より細かいミストに砕いて飛散させる。その結果、散水部の段階でミストの粒径をより細かくすることを企図する必要がないので、水が散水部の外周壁をうまく通過できる程度にスリットや細孔の大きさを設定することが可能となり、大量の水を使用してミストを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の乗物用気体処理装置の第1実施例の一部切り欠き側面図。
【図2】同上、気体処理装置本体の分解斜視図。
【図3】同上、回転体およびファンの分解斜視図。
【図4】同上、要部の一部切り欠き側面図。
【図5】この発明の乗物用気体処理装置の第2実施例の回転体およびファンの分解斜視図。
【図6】同上、要部の一部切り欠き側面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明の具体的実施例を添付図面に基づいて説明する。この発明の乗物用気体処理装置は外気を導入可能な処理室R1内にミスト雰囲気を生成するためのミスト発生部1と、上記ミスト発生部1を水槽Tに溜めた水Wに浮遊させるための浮体20からなる気体処理装置本体Mと、水槽Tからなる。
【0023】
上記ミスト発生部1は基板2を上下に貫通して配される内筒3と、基板2の下方に内筒と同心に垂設される外筒8を有し、内筒3の頂部には内筒内に連通する複数個のミスト排出孔4Aを穿設した蓋4が施され、基板2の内筒の貫通箇所の周側には垂設される外筒の内側と貫通される内筒の外側の空間に連通する複数個の外気導入孔2Aが穿設される。
【0024】
図中符号20は浮力を有するドーナツ形状の浮体であり、中央の穴21に前記のミスト発生部1の外筒8が挿入されるとともに、上面にミスト発生部1の基板2が載置されることによりミスト発生部と組み合わされる。なお、ここでは浮体20を発泡スチロールとすることにより浮力を得ているが素材はこれに限らず、また、中空状にすることにより浮力を得てもよいことは勿論である。
【0025】
以上のミスト発生部1においては基板2の下方から水面に至る空間と基板の上方から蓋4に至る空間が形成される。下方の空間は水を汲み上げてミストとして飛散されるための回転体10が配される処理室R1として、上方の空間は上記処理室を負圧状態にして外気を外気導入孔2Aから吸引して処理室内で生成されたミストを排出孔4Aから排出するための送風羽根5が配される吸気室R2として機能する。
【0026】
図3は前記の回転体10の詳細を示す分解斜視図である。この回転体10は下方にスクリュー15を内設し水中に浸漬して回転することにより、回転体内の下方から上方に向かって水を汲み上げる。ここでは、回転体10に貫通固定されるシャフト14の下端にスクリュー15を設けることによりスクリューを内設する手段としている。上記シャフト14は同時に送風羽根5に貫通固定されるものであり、吸気室R2の蓋4上に配されたモータ6によりシャフトを回転駆動することにより回転体10および送風羽根を同時に回転させる。
【0027】
前記の回転体10の上方には水及び空気が通過可能な筒状の散水部12が形成され、さらにこの実施例においては上部をフランジ状の張り出しに形成することによりエンド部材13を構成する。このエンド部材にスクリーン16が回転体と同心状に固着される。前記の散水部12およびスクリーン16はそれぞれ円筒状のものが同心に配されるが、この実施例では散水部12は多数のスリット12Sを穿設したものが、スクリーン16はやはり多数のスリット16Sを穿設したものを採用している。
【0028】
なお、図中符号7はスクリュー15の回転による水の渦流により生じるキャビテーションを打ち消すために、内筒3の回転体の10の下方箇所に垂設されるキャビテーション防止板である。
【0029】
以上の構成よりなる気体処理装置本体Mは乗物内に設置された水槽Tに溜めた水Wに浮遊させて運転される。この場合、走行速度の変化による加速度により気体処理装置本体Mが水上を移動して水槽Tのへりに衝突しないように、水槽に浮遊させた気体処理装置本体の移動範囲を規制する手段が設けられる。この実施例においては気体処理装置本体Mの周側数か所をコイルバネCにより水槽Tのへりに繋ぐことにより前記規制手段としているが、規制手段はこれに限られないことはもちろんである(図1参照)。
【0030】
この発明においてはミスト発生部1の回転体10は処理室R1内で回転することによりスクリュー15により下方から上方に向かって水Wを汲み上げ、汲み上げた水W1を回転体と共に回転する筒状の散水部12のスリット12Sに衝突、通過させることによりミストM1として飛散させ、さらに飛散させたミストM1を散水部の周囲に配された筒状のスクリーン16のスリット16Sに衝突、通過させることにより、より細かいミストM2に砕いて飛散させる(図4参照)。一方、回転体10とともに吸気室R2内で回転する送風羽根5により、上記処理室R1内を負圧状態にして外気を外気導入孔2Aから吸引して処理室内に導入し、前記のミストM2で生成されたミストを導入された外気と接触することによりマイナスイオンを含むミスト雰囲気を形成し、これを排出孔4Aから外部に排出し、浴室内に加温されたミスト雰囲気を形成する。
【0031】
次に図6はこの発明の乗物用気体処理装置の第2実施例を示す図である。この実施例においてはミスト発生部の回転体の構成が前記第1実施例と異なる。すなわち、回転体30の水中に浸漬される下方の箇所は下端に取水のための開口部31を設けたドーム形状に構成される。上記開口部31は開口部周縁が水平に近い状態に寝るように、すなわち周縁にドーム面を残すように設けられる。この実施例のその余の構成は前記第1実施例の場合と共通するのでここではその記述は省略する。
【符号の説明】
【0032】
M 気体処理装置本体
T 水槽
1 ミスト発生部
10 筒体
12 散水部
15 スクリュー
16 スクリーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方にスクリューを内設した中空の回転体を水中に浸漬して回転することにより、回転体内部の下方から上方に向かって水を汲み上げると共に、この水を回転体の上方に設けた水及び空気が通過可能な筒状の散水部からミスト状に飛散させ、外気を導入可能な処理室内にミスト雰囲気を形成するミスト発生部と、回転体の下端を水中に浸漬させた状態で上記ミスト発生部を水槽に溜めた水に浮遊させるための浮体からなる気体処理装置本体と、上記気体処理装置本体を浮遊させるための水槽を備えたことを特徴とする乗物用気体処理装置。
【請求項2】
水槽に浮遊させた気体処理装置本体の移動範囲を規制する手段を設けた請求項1記載の乗物用気体処理装置。
【請求項3】
ミスト発生部の回転体の上方に設けた水及び空気が通過可能な筒状の散水部からミスト状に飛散させたミストを、さらにこの散水部の周囲に配された水及び空気が通過可能な筒状のスクリーンに衝突させながらそこを通過させることにより、より細かく砕く請求項1または2記載の乗物用気体処理装置。
【請求項4】
水中に浸漬される回転体の下方の箇所を下端に取水のための開口部を設けたドーム形状に構成した請求項1から3のいずれかに記載の乗物用気体処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−41731(P2011−41731A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192810(P2009−192810)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(503248824)株式会社ファインネット (3)
【Fターム(参考)】