説明

乗用田植機

【課題】苗継ぎ時に、植付部を所定の高さまで上昇させるとともに、当該植付部を傾斜させることにより、苗継ぎ作業に必要な労力を低減することが可能な田植機を提供する。
【解決手段】走行部10と、走行部10の後部に具備され、植付作業を行う植付部30と、上部リンク52及び下部リンク53を備え、植付部30を走行部10に対して昇降可能に支持する昇降リンク機構50と、を具備する乗用田植機1において、上部リンク52を伸縮させることにより、走行部10に対する植付部30の相対角度θを変更する角度変更アクチュエータ52cと、昇降リンク機構50により、植付部30を所定の高さに調節するとともに当該高さで停止させ、角度変更アクチュエータ52cにより、植付部30の相対角度θを所定の相対角度θs−dβ1に調節する苗継ぎ制御を行う制御部100と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用田植機の技術に関する。より詳細には、苗継ぎ作業を容易にするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、乗用田植機(以下、単に「田植機」と記す)には、植付作業を行っている際に、苗載台上の苗が設定量以下になると、警報を発することで作業者に苗継ぎ作業を行うよう促すものがある。苗継ぎ作業を行う場合、作業者は、前記警報を解除し、機体の走行を停止し、苗継ぎスイッチを押す。この苗継ぎスイッチを押すことにより、植付部の高さを、予め設定される苗継ぎ作業が行い易い高さに変更する技術が公知となっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、田植機の前後荷重の変化や、耕盤の凹凸により、前記田植機の機体が前後に傾く場合がある。前記田植機の機体が前上がりに傾くと、当該田植機のフロートも前上がりに傾く。これによって、当該フロートの後部が圃場に沈み、圃場の泥を押す「泥押し」が発生する場合がある。また、前記田植機の機体が前下がりに傾くと、当該田植機のフロートも前下がりに傾く。これによって、当該フロートの後部が圃場表面から離れ、苗の植え付け深さが浅くなる「浅植え」や、苗を植え付けることができずに当該苗が水面に浮かぶ「浮苗」が発生する場合がある。これらの発生を防止するために、前記田植機の機体の前後の傾きに合わせて、植付部を前後に傾斜駆動させ、前記フロートを常時前後方向水平に保つ技術も公知となっている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2005−333825号公報
【特許文献2】特開平10−52126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、田植機において、植付部と座席との間に施肥機の肥料ホッパーと繰り出し装置を、植付位置近傍に施肥機の施肥部を、それぞれ配置し、植付作業と同時に施肥作業を行えるように構成した技術も公知となっている。このような田植機において、苗継ぎ作業を行う場合には、前記肥料ホッパーの上端高さよりも高い位置に苗載台の上端が位置するように前記植付部の高さを変更する。これにより、前記肥料ホッパーの上方を経て、苗継ぎ作業を行うことができる。
しかし、前記田植機においては、苗を持ち上げながら後方の苗載台まで運ぶ必要があるため、作業者に対する負担が大きい点で不利であった。
【0005】
本発明は上記の如き課題を鑑みてなされたものであり、苗継ぎ時に、植付部を所定の高さまで上昇させるとともに、当該植付部を傾斜させることにより、苗継ぎ作業に必要な労力を低減することが可能な田植機の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、走行部と、前記走行部の後部に具備され、植付作業を行う植付部と、上部リンク及び下部リンクを備え、昇降アクチュエータにより前記植付部を前記走行部に対して昇降可能に支持する昇降リンク機構と、を具備する乗用田植機において、前記上部リンクを伸縮させることにより、前記走行部に対する前記植付部の相対角度を変更する角度変更アクチュエータと、前記昇降アクチュエータにより、前記植付部を所定の高さに調節するとともに当該高さで停止させ、前記角度変更アクチュエータにより、前記植付部の相対角度を所定の相対角度に調節する苗継ぎ制御を行う制御部と、を備えるものである。
【0008】
請求項2においては、前記制御部は、前記苗継ぎ制御において、前記植付部を前方に傾斜させるものである。
【0009】
請求項3においては、前記制御部は、前記苗継ぎ制御における前記植付部の可動相対角度範囲を、前記苗継ぎ制御以外における前記植付部の可動相対角度範囲よりも大きくするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
請求項1においては、植付部を所定の高さまで上昇させるとともに所定の相対角度だけ傾斜させることで、苗継ぎ作業に適した位置及び姿勢に調節することができ、苗継ぎ作業に必要な労力の低減、及び、苗継ぎ作業の効率化を図ることができる。
【0012】
請求項2においては、植付部の上部を走行部側へ近接させることができ、前方から植付部の苗載台へと苗を供給する際の、苗継ぎ作業に必要な労力の低減、及び、苗継ぎ作業の効率化を図ることができる。
【0013】
請求項3においては、苗継ぎ制御における植付部の可動相対角度範囲を大きくすることで、植付部をより苗継ぎ作業に適した位置及び姿勢に調節することができ、さらに苗継ぎ作業に必要な労力の低減、及び、苗継ぎ作業の効率化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、図1から図7を用いて、本発明に係る田植機の実施の一形態である田植機1について説明する。
図1に示すように、田植機1は、主として走行部10、植付部30、昇降リンク機構50等を具備する。
【0015】
走行部10は、主として車体フレーム11、エンジン12、前輪13・13、後輪14・14、ボンネット15、予備苗載台16・16・・・、ダッシュボード17、ハンドル18、運転席19、施肥機20等を具備する。
【0016】
車体フレーム11は、走行部10の基礎となる部材である。車体フレーム11は、略箱状の部材であり、前後方向に長く形成される。
【0017】
エンジン12は、田植機1が駆動するための動力を発生するものである。エンジン12は、車体フレーム11の前上部に具備される。
【0018】
前輪13・13は、車体フレーム11を支持するものである。前輪は、車体フレーム11の前下部左右にそれぞれ具備される図示せぬフロントアクスルケース、フロントアクスルケースから左右方向にそれぞれ突設される前車軸13a・13aを介して、車体フレーム11に具備される。
【0019】
後輪14・14は、車体フレーム11を支持するものである。後輪14・14は、車体フレーム11の後下部左右にそれぞれ具備されるリアアクスルケース14b・14b、リアアクスルケース14b・14bから左右方向にそれぞれ突設される後車軸14a・14aを介して、車体フレーム11に具備される。
【0020】
ボンネット15は、エンジン12を覆う部材である。ボンネット15は、車体フレーム11の前上部に具備される。
【0021】
予備苗載台16・16・・・は、植付作業に用いる予備の苗5を載置するものである。予備苗載台16・16・・・は、車体フレーム11の前部であって、ボンネット15の左右両側方に具備される。
【0022】
ダッシュボード17は、田植機1を操作する際に用いられるレバーやスイッチ等の操作系を具備するものである。ダッシュボード17は、ボンネット15の後部に具備される。
【0023】
ハンドル18は、田植機1を操舵する際に操作されるものである。ハンドル18は、ダッシュボード17の左右略中央部に具備される。
【0024】
運転席19は、作業者が着座するものである。運転席19は、車体フレーム11の前後略中央上部であって、ハンドル18の後方に具備される。
【0025】
施肥機20は、圃場に肥料を散布するものである。施肥機20は、車体フレーム11の後上部に具備される。施肥機20は、主として肥料ホッパー21、繰り出し装置22、肥料案内管23、施肥部24等を具備する。
【0026】
肥料ホッパー21は、圃場に散布する粒状肥料を収容するものである。肥料ホッパー21は、車体フレーム11の後上部であって、運転席19の後方に具備される。
【0027】
繰り出し装置22は、肥料ホッパー21内に収容された粒状肥料を、所定量毎に排出するものである。繰り出し装置22は、図示せぬ繰り出しローラ、エアチャンバー、ブロワ等により構成される。繰り出し装置22は、肥料ホッパー21の下部に具備される。
【0028】
肥料案内管23は、繰り出し装置22により排出される粒状肥料を案内するものである。肥料案内管23の一端は、繰り出し装置22の後部に連通接続される。
【0029】
施肥部24は、繰り出し装置22により排出され、肥料案内管23により案内される粒状肥料を圃場へと排出するものである。施肥部24は、肥料案内管23の他端に連通接続される。
【0030】
上記の如く構成された走行部10において、エンジン12から発生した動力は、図示せぬトランスミッション、前車軸13a・13a、後車軸14a・14a等の動力伝達機構を介して、前輪13・13及び後輪14・14に伝達される。当該伝達された動力により、前輪13・13及び後輪14・14が回動することで、田植機1は走行する。
【0031】
植付部30は、圃場に苗5を植え付けるものである。植付部30は、主として植付フレーム31、植付用ミッションケース32、植付伝達ケース33、ロータリケース34、植付爪35、フロート36・36・・・、苗載台37等を具備する。
【0032】
植付フレーム31は、植付部30の基礎となる部材である。植付フレーム31は、走行部10の後方に具備される。
【0033】
植付用ミッションケース32は、エンジン12から発生された動力を伝達するものである。植付用ミッションケース32は、植付フレーム31の下部に具備される。
【0034】
植付伝達ケース33は、植付用ミッションケース32からの動力を伝達するものである。植付伝達ケース33の前端は、植付用ミッションケース32の後部に具備される。
【0035】
ロータリケース34は、植付伝達ケース33からの動力により回動するものである。ロータリケース34は、植付伝達ケース33の後端に具備される。
【0036】
植付爪35は、苗5を圃場へと植え付けるものである。植付爪35は、ロータリケース34の回転中心を中心とする同一円周上に具備される。
【0037】
フロート36・36・・・は、植付部30を支えて圃場を整地するものである。フロート36・36・・・は、植付用ミッションケース32の下方に具備される。
【0038】
苗載台37は、植付爪35・35・・・により植え付けられる苗5を載置するものである。苗載台37は、植付フレーム31の後部に、左右往復運動可能に具備される。
【0039】
上記の如く構成された植付部30において、ロータリケース34が回動することにより、植付爪35は、苗載台37に載置された苗5を所定量ずつ切り取り、当該苗5を圃場に植え付ける。
【0040】
昇降リンク機構50は、植付部30を、走行部10に対して昇降可能に連結するものである。昇降リンク機構50は、主として支持フレーム51、上部リンク52、下部リンク53、昇降アーム54等を具備し、昇降アクチュエータ55により昇降回動される。
【0041】
支持フレーム51は、昇降リンク機構50の基礎となる部材である。支持フレーム51は、車体フレーム11の後上部に具備される。
【0042】
上部リンク52は、支持フレーム51と植付フレーム31とを連結するものである。上部リンク52は、主として上部リンク前部材52a、上部リンク後部材52b、角度変更アクチュエータ52c等を具備する。
【0043】
上部リンク前部材52aは、円形断面を有する軸状の部材である。上部リンク前部材52aの前端は、上部連結部材52Fにより、支持フレーム51の上端に上下回動可能に連結される。上部リンク前部材52aの後端には、雌ネジ部が形成される。
【0044】
上部リンク後部材52bは、円形断面を有する軸状の部材である。上部リンク後部材52bの前端には、雄ネジ部が形成される。当該雄ネジ部と、上部リンク前部材52aの雌ネジ部と、を螺着することにより、上部リンク前部材52aと上部リンク後部材52bとが連結される。上部リンク後部材52bの後端は、上部連結部材52Rにより、植付フレーム31の中途部に上下回動可能に連結される。
【0045】
角度変更アクチュエータ52cは、上部リンク52を伸縮させるものである。角度変更アクチュエータ52cは、モータ等により構成され、上部リンク後部材52bの雄ネジ部を正回転又は逆回転させる。これにより、上部リンク前部材52aの前端から上部リンク後部材52bの後端まで、すなわち、上部リンク52の長手方向長さLを伸縮させることができる。但し、上部リンク52を伸縮させる構造はこれに限定するものではなく、油圧シリンダ等で構成することも可能である。
【0046】
下部リンク53は、支持フレーム51と植付フレーム31とを連結するものである。下部リンク53の長手方向長さは、上部リンク52の長手方向長さと略同一に形成される。
下部リンク53の前端は、下部連結部材53Fにより、支持フレーム51の下端左右にそれぞれ上下回動可能に連結される。
下部リンク53の後端は、下部連結部材53Rにより、植付フレーム31の下端左右にそれぞれ上下回動可能に連結される。
【0047】
通常、上部リンク52の長手方向長さは、下部リンク53の長手方向長さと等しくなるように調節される。この際、支持フレーム51、植付フレーム31、上部リンク52、及び下部リンク53は、側面視において上部連結部材、下部連結部材を結ぶ線が平行四辺形を形成する、いわゆる「平行リンク」を構成する。
【0048】
昇降アーム54は、下部リンク53と一体回動する部材である。昇降アーム54は、側面視において、下部連結部材を中心に、下部リンク53とともに回動する。
【0049】
昇降アクチュエータ55は、昇降アーム54を回動操作するものである。昇降アクチュエータ55は油圧シリンダ等のアクチュエータにより構成される。昇降アクチュエータ55のロッド先端は、昇降アーム54の上端に連結される。
【0050】
上記の如く構成された植付部30において、昇降アクチュエータ55が伸縮することにより、昇降アーム54を介して下部リンク53が回動され、ひいては、植付部30が上下に昇降される。この際、昇降リンク機構50を上記平行リンクで構成したことにより、植付部30が昇降された場合においても、走行部10に対する植付部30の相対角度(以下、単に「相対角度」と記す)θは略一定に保たれる。
また、角度変更アクチュエータ52cにより上部リンク52の長手方向長さLを伸縮させることにより、相対角度θを変更することができる。
以下では、田植機1が、水平な圃場で植付作業を行う際の上部リンク52の長手方向長さLをLsと、上部リンク52の長手方向長さがLsである場合の相対角度θをθsと、それぞれ定義して、以下の説明を行う。
【0051】
以下では、図2を用いて、上述の田植機1において、植付部30の昇降動作の制御に係る構成について説明する。
田植機1は、傾斜センサ101、フィードバックセンサ102、昇降位置センサ103、苗継ぎスイッチ110、制御部100等を具備する。
【0052】
傾斜センサ101は、植付フレーム31に具備され、植付部30の前後方向の傾斜を検出するものである。より詳細には、傾斜センサ101は、植付部30が基準傾斜角度γに対して前方向又は後方向に傾斜しているか否かを検出する。また、傾斜センサ101は、植付部30が基準傾斜角度γに対して前方向又は後方向に傾斜している場合、基準傾斜角度γに対する傾斜角度を検出する。
ここで、上記基準傾斜角度γとは、田植機1が、水平な圃場で植付作業を行う際の植付部30の傾斜角度である。また、基準傾斜角度γとは、走行部10の傾斜に関わらず、水平方向を基準とした角度である。
【0053】
フィードバックセンサ102は、角度変更アクチュエータ52cの回転数を検出するものである。より詳細には、フィードバックセンサ102は、角度変更アクチュエータ52cの回転数を検出することによって、上部リンク52の長手方向長さLを検出するものである。フィードバックセンサ102は、ポテンショメータ等により構成され、角度変更アクチュエータ52cに具備される。
【0054】
昇降位置センサ103は、植付部30の昇降位置を検出するものである。昇降位置センサ103は、ポテンショメータ等により構成され、上部リンク前部材52aの前端支持部に具備される。昇降位置センサ103は、上部リンク前部材52aの回動角度を検出することにより、植付部30の昇降位置を検出することができる。
【0055】
苗継ぎスイッチ110は、植付部30を所定の高さに調節し、当該高さで停止させるためのスイッチである。苗継ぎスイッチ110は、ダッシュボード17や運転席19付近等の、作業者が操作することが可能な位置に具備される。苗継ぎスイッチ110は、作業者による押圧を検出するプッシュ式のスイッチ等で構成される。また、苗継ぎスイッチ110内にランプや発光ダイオード等を具備し、苗継ぎスイッチ110が押圧される度に当該ランプ等を点灯・消滅する構成とすることも可能である。
【0056】
制御部100は、傾斜センサ101、フィードバックセンサ102、昇降位置センサ103及び苗継ぎスイッチ110による検出結果に基づいて、昇降アクチュエータ55及び角度変更アクチュエータ52cの動作を制御するものである。制御部100は、具体的にはCPU、ROM、RAM、HDD等がバスで接続される構成であってもよく、あるいはワンチップのLSI等からなる構成であってもよい。
【0057】
制御部100は、傾斜センサ101に接続され、傾斜センサ101による植付部30の基準傾斜角度γに対する傾斜の有無、及び、その傾斜角度の検出信号を取得することが可能である。
制御部100は、フィードバックセンサ102に接続され、フィードバックセンサ102による上部リンク52の長手方向長さLの検出信号を取得することが可能である。
制御部100は、昇降位置センサ103に接続され、昇降位置センサ103による植付部30の昇降位置の検出信号を取得することが可能である。
制御部100は、苗継ぎスイッチ110に接続され、苗継ぎスイッチ110が作業者により操作(押圧)された旨の検出信号を取得することが可能である。
【0058】
制御部100は、昇降アクチュエータ55への圧油の送油方向を切り替える電磁バルブ55aに接続され、昇降アクチュエータ55の伸縮動作を制御することが可能である。
制御部100は、角度変更アクチュエータ52cに接続され、角度変更アクチュエータ52cの動作を制御することが可能である。
【0059】
また、制御部100の記憶部(ROM)には、昇降アクチュエータ55及び角度変更アクチュエータ52cの動作を制御するための種々のプログラム及びデータが格納され、当該プログラム及びデータに基づいて昇降アクチュエータ55及び角度変更アクチュエータ52cの動作を制御する。
【0060】
以下では、図3から図7を用いて制御部100による制御態様について具体的に説明する。
まず、植付部30の前後方向の傾斜角度を、基準傾斜角度γに保つ制御(以下、単に「水平制御」と記す)について説明する。水平制御は、主に植付作業等の、植付部30の傾斜を圃場面に対して一定に保って行う必要がある作業を行う際に実行される。
【0061】
図3に示すステップS100において、制御部100は、傾斜センサ101による植付部の基準傾斜角度γに対する傾斜角度の検出信号を取得する。
制御部100は、前記検出信号を取得した後、ステップS110に移行する。
【0062】
ステップS110において、制御部100は、前記検出信号に基づいて、植付部30が基準傾斜角度γに対して前後方向に設定角度以上傾斜しているか否かを判定する。
その結果、制御部100は、植付部30が基準傾斜角度γに対して前記設定角度以上前後方向に傾斜している場合には、ステップS120に移行する。
また、制御部100は、植付部30が基準傾斜角度γに対して前記設定角度以上前後方向に傾斜していない場合には、再度ステップS100の処理を行う。
ここで、前記「設定角度」とは、予め設定される値である。植付部30が基準傾斜角度γに対して前記設定角度以上前後方向に傾斜している場合にのみ、ステップS120に移行することにより、植付部30のハンチング等を防止することができる。
【0063】
ステップS120において、制御部100は、植付部30が基準傾斜角度γに対して前下がりに傾斜しているか否かを判定する。
その結果、制御部100は、植付部30が基準傾斜角度γに対して前下がりに傾斜している場合には、ステップS130に移行する。
また、制御部100は、植付部30が基準傾斜角度γに対して前下がりに傾斜していない、すなわち、前上がりに傾斜している場合には、ステップS140に移行する。
【0064】
ステップS130において、制御部100は、角度変更アクチュエータ52cを駆動し、植付部30の傾斜角度が基準傾斜角度γになるまで、上部リンク52を伸ばす。
【0065】
ステップS140において、制御部100は、角度変更アクチュエータ52cを駆動し、植付部30の傾斜角度が基準傾斜角度γになるまで、上部リンク52を縮める。
【0066】
上記水平制御を行うことにより、植付部30の傾斜を圃場面に対して略一定に保つことができる。これによって、泥押し、浅植え、及び浮苗等の発生を防止し、正確な植付作業を行うことができる。
【0067】
図4に示すように、上記水平制御において、制御部100は、上部リンク52の長手方向長さLを、予め設定される可動長さ範囲(Ls−dx1≦L≦Ls+dx2)内で、また、相対角度θを、前記可動長さ範囲に対応する可動相対角度範囲(θs−dα1≦θ≦θs+dα2)内で、調節する。
これは、上部リンク52の長手方向長さLを制限なく変更すると、走行部10に対して相対的に大きく傾斜(特に、前傾)した植付部30が、走行部10に具備された施肥機20の肥料ホッパー21等と干渉し、破損するおそれがあるためである。
【0068】
また、上記可動相対角度範囲(θs−dα1≦θ≦θs+dα2)、より具体的には上記dα1及びdα2の値は、植付部30の昇降位置に基づいて変更される。
例えば、植付作業時等の植付部30が下降している場合は、植付部30が上昇している場合に比べて、苗載台37上端部と肥料ホッパー21との距離が近接している。このため、植付部30が下降している場合のdα1は、上昇している場合のdα1よりも小さい値に変更される。これにより、上記可動相対角度範囲は狭くなる。
上記の如く、植付部30の昇降位置に基づいて上記dα1及びdα2の値を変更するために、制御部100には、予め植付部30の昇降位置と、当該昇降位置に最適な上記dα1及びdα2との相対関係が、制御マップ等により記憶される。制御部100は、昇降位置センサ103によって検出される植付部30の昇降位置、及び前記制御マップに基づいて、当該昇降位置に最適な上記dα1及びdα2の値を算出する。制御部100は、算出した前記dα1及びdα2により決定される上記可動相対角度範囲(θs−dα1≦θ≦θs+dα2)内で、上記水平制御を行う。
【0069】
次に、植付部30を所定の高さで停止するとともに、相対角度θを所定の角度に調節する制御(以下、単に「苗継ぎ制御」と記す)について説明する。
【0070】
図5に示すステップS200において、制御部100は、苗継ぎスイッチ110が作業者により操作(押圧)されたか否かを判定する。
その結果、制御部100は、苗継ぎスイッチ110が作業者により操作された場合には、ステップS210に移行する。
また、制御部100は、苗継ぎスイッチ110が作業者により操作されていない場合には、再度ステップS200の処理を行う。
【0071】
ステップS210において、制御部100は、昇降アクチュエータ55を所定の長さに伸縮させ、当該長さで停止させる。これにより、植付部30の昇降位置は、所定の高さに調節され、当該高さで停止される。
制御部100は、昇降アクチュエータ55の動作を制御した後、ステップS220に移行する。
【0072】
ステップS220において、制御部100は、角度変更アクチュエータ52cの動作を制御することにより、上部リンク52の長手方向長さLをL−dy1に、ひいては、相対角度θを上部リンク52の長手方向長さL−dy1に対応するθs−dβ1に調節する。
【0073】
上記苗継ぎ制御を行うことにより、植付部30を所定の高さで停止するとともに、相対角度θを所定の相対角度(θs−dβ1)に調節することができる。
【0074】
上記苗継ぎ制御において、ステップS210における植付部30の所定の高さ、及びステップS220におけるdy1(ひいては、dβ1)は、制御部100に予め設定される。より具体的には、前記所定の高さ、及びdβ1は、上記苗継ぎ制御によって、苗載台37の上端が肥料ホッパー21の上方に位置し、植付部30が肥料ホッパー21に干渉しない範囲で可能な限り前傾された状態となるように設定される。
【0075】
図6に示すように、ステップS210において、植付部30が、所定の高さに調節された場合、植付作業時に比べて、植付部30の上端と肥料ホッパー21との隙間が大きくなる。これによって、前記隙間が大きくなった分だけ、植付部30を走行部10に対して相対的により大きく傾斜(特に、前傾)させることができる。すなわち、植付部30が所定の高さに調節された場合の可動相対角度範囲(θs−dβ1≦θ≦θs+dβ2)は、植付作業時(例えば、前記水平制御時)の可動相対角度範囲(θs−dα1≦θ≦θs+dα2)(図4参照)よりも広く設定することができる。
図7に示すように、dβ1を、dα1よりも大きい値に設定することで、植付部30を大きく前傾させ、植付部30の上端を可能な限り走行部10へ近づけることができる。これによって、予備苗載台16から苗載台37へ苗5を移動させる苗継ぎ作業を行う作業者の労力を、低減することができる。
なお、上記苗継ぎ制御は、苗継ぎ作業を行う場合に、植付部30の上端を走行部10へ近づけることができる構成であればよい。このため、上記dβ2については、dα2と同一の値に設定する構成としてもよい。
【0076】
以上の如く、本実施形態の田植機1は、
走行部10と、
走行部10の後部に具備され、植付作業を行う植付部30と、
上部リンク52及び下部リンク53を備え、昇降アクチュエータ55により植付部30を走行部10に対して昇降可能に支持する昇降リンク機構50と、
を具備する田植機1において、
上部リンク52を伸縮させることにより、走行部10に対する植付部30の相対角度θを変更する角度変更アクチュエータ52cと、
昇降アクチュエータ55により、植付部30を所定の高さに調節するとともに当該高さで停止させ、角度変更アクチュエータ52cにより、植付部30の相対角度θを所定の相対角度θs−dβ1に調節する苗継ぎ制御を行う制御部100と、
を備えるものである。
このように構成することにより、植付部30を所定の高さまで上昇させるとともに所定の相対角度θs−dβ1だけ傾斜させることで、苗継ぎ作業に適した位置及び姿勢に調節することができ、苗継ぎ作業に必要な労力の低減、及び、苗継ぎ作業の効率化を図ることができる。
【0077】
また、制御部100は、
前記苗継ぎ制御において、植付部30を前方に傾斜させるものである。
このように構成することにより、植付部30の上部を走行部10側へ近接させることができ、前方から植付部30の苗載台37へと苗5を供給する際の、苗継ぎ作業に必要な労力の低減、及び、苗継ぎ作業の効率化を図ることができる。
【0078】
また、制御部100は、
前記苗継ぎ制御における植付部30の可動相対角度範囲(θs−dβ1≦θ≦θs+dβ2)を、前記苗継ぎ制御以外における前記植付部の可動相対角度範囲(θs−dα1≦θ≦θs+dα2)よりも大きくするものである。
このように構成することにより、苗継ぎ制御における植付部30の可動相対角度範囲(θs−dβ1≦θ≦θs+dβ2)を大きくすることで、植付部30をより苗継ぎ作業に適した位置及び姿勢に調節することができ、さらに苗継ぎ作業に必要な労力の低減、及び、苗継ぎ作業の効率化を図ることができる。
【0079】
また、図8及び図9に示すように、本発明に係る田植機の他の実施の一形態として、植付部30の昇降動作の制御に係る構成を以下の如く構成することも可能である。なお、前述の実施形態(図2参照)と略同一の構成の部材については、同一の部材番号を付し、説明を省略する。
【0080】
図8に示すように、傾斜設定スイッチ111は、前記苗継ぎ制御時における相対角度θを所望の相対角度θrに調節するためのスイッチである。傾斜設定スイッチ111は、ダッシュボード17や運転席19付近等の、作業者が操作することが可能な位置に具備される。傾斜設定スイッチ111は、回動操作されることにより調節可能なダイヤル式のスイッチ等で構成される。傾斜設定スイッチ111は、作業者により設定される所望の相対角度θrの値を検出する。
【0081】
制御部100は、傾斜設定スイッチ111に接続され、作業者により設定される所望の相対角度θrの検出信号を取得することが可能である。
【0082】
図9に示すステップS300において、制御部100は、苗継ぎスイッチ110が作業者により操作(押圧)されたか否かを判定する。
その結果、制御部100は、苗継ぎスイッチ110が作業者により操作された場合には、ステップS310に移行する。
また、制御部100は、苗継ぎスイッチ110が作業者により操作されていない場合には、再度ステップS300の処理を行う。
【0083】
ステップS310において、制御部100は、昇降アクチュエータ55を所定の長さに伸縮させ、当該長さで停止させる。これにより、植付部30の昇降位置は、所定の高さに調節され、当該高さで停止される。
制御部100は、昇降アクチュエータ55の動作を制御した後、ステップS320に移行する。
【0084】
ステップS320において、制御部100は、傾斜設定スイッチ111による検出信号に基づいて、角度変更アクチュエータ52cの動作を制御することにより、相対角度θを所望の相対角度θrに調節する。
【0085】
上記苗継ぎ制御を行うことにより、植付部30を所定の高さで停止するとともに、相対角度θを所望の相対角度θrに調節することができる。また、傾斜設定スイッチ111を調節することにより、所望の相対角度θrを調節することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施の一形態に係る乗用田植機の全体的な構成を示した側面図。
【図2】同じく植付部の昇降動作の制御に関する構成を示すブロック図。
【図3】同じく水平制御の態様を示すフローチャート。
【図4】同じく水平制御における植付部の可動範囲を示す側面図。
【図5】同じく苗継ぎ制御の態様を示すフローチャート。
【図6】同じく苗継ぎ制御における植付部の可動範囲を示す側面図。
【図7】同じく苗継ぎ制御後の苗継ぎ作業の様子を示す側面図。
【図8】本発明の実施の他の一形態に係る乗用田植機の制御に関する構成を示すブロック図。
【図9】同じく苗継ぎ制御の態様を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0087】
1 乗用田植機
10 走行部
30 植付部
50 昇降リンク機構
52 上部リンク
52c 角度変更アクチュエータ
53 下部リンク
55 昇降アクチュエータ
100 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行部と、
前記走行部の後部に具備され、植付作業を行う植付部と、
上部リンク及び下部リンクを備え、昇降アクチュエータにより前記植付部を前記走行部に対して昇降可能に支持する昇降リンク機構と、
を具備する乗用田植機において、
前記上部リンクを伸縮させることにより、前記走行部に対する前記植付部の相対角度を変更する角度変更アクチュエータと、
前記昇降アクチュエータにより、前記植付部を所定の高さに調節するとともに当該高さで停止させ、前記角度変更アクチュエータにより、前記植付部の相対角度を所定の相対角度に調節する苗継ぎ制御を行う制御部と、
を備えることを特徴とする乗用田植機。
【請求項2】
前記制御部は、
前記苗継ぎ制御において、前記植付部を前方に傾斜させることを特徴とする請求項1に記載の乗用田植機。
【請求項3】
前記制御部は、
前記苗継ぎ制御における前記植付部の可動相対角度範囲を、前記苗継ぎ制御以外における前記植付部の可動相対角度範囲よりも大きくすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乗用田植機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−225680(P2009−225680A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71965(P2008−71965)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】