説明

乗用移動体の駆動制御装置及び駆動制御方法、乗用移動体

【課題】対象物に対する乗用移動体の走行を適切に支援する。
【解決手段】乗用移動体1は、姿勢のピッチ方向の角度を検出するジャイロセンサ21と、ジャイロセンサ21が検出したピッチ方向の検出角度に基づいた倒立振子制御により、各車輪3r,3lの駆動トルクを制御するCPU44と、周囲に存在する対象物と乗用移動体との距離を検出する対象物検知センサ32と、走行速度を検出するエンコーダ24r,24lと、を備え、CPU44が、対象物と乗用移動体との距離に応じた筐体のピッチ方向の角度補正成分を算出し、算出した角度補正成分をピッチ方向の検出角度に加算してピッチ方向の角度を補正し、補正したピッチ角度である加算値に基づいた倒立振子制御を行い、各車輪3r,3lの駆動トルクを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの車輪を有する乗用移動体の傾斜した姿勢を維持して該乗用移動体が走行するように2つの車輪を倒立振子制御を基に駆動制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、倒立振子制御を基に車輪を駆動制御する乗用移動体(搬送体)を開示している。
この特許文献1では、搭乗者(搬送者)が操作するアクセルレバー及びブレーキレバーを設けて、そのレバー操作によって搭乗者の加速や減速の意思等を反映した乗用移動体の走行を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−162104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術は、搭乗者が操作したアクセルレバーやブレーキレバーに対応して乗用移動体が加速や制動している。よって、搭乗者が乗用移動体の周囲の対象物を認識してブレーキレバーやアクセルレバーの操作を行い、乗用移動体の対象物に対する接近を防止したり、乗用移動体を対象物に追従させたりする必要がある。
そのため、搭乗者の負荷が高く、適切な乗用移動体の走行支援を行うことが望まれていた。
本発明の課題は、対象物に対する乗用移動体の走行を適切に支援することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明は、筐体のピッチ方向の検出角度に基づいた倒立振子制御により各車輪の駆動トルクを制御している。
本発明は、乗用移動体の周囲に存在する対象物と該乗用移動体との距離に応じた筐体のピッチ方向の角度補正成分を算出する。そして、角度補正成分をピッチ方向の検出角度に加算してピッチ方向の検出角度を補正し、補正したピッチ角度である加算値に基づいた倒立振子制御を行い、各車輪の駆動トルクを制御する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、乗用移動体と対象物との距離に対応させた倒立振子制御を基に、各車輪の駆動トルクを制御できる。
このように乗用移動体と対象物との距離に対応させて各車輪の駆動トルクを制御できるので、対象物に対する乗用移動体の走行を適切に支援できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施形態の乗用移動体の構成を示す側面図である。
【図2】乗用移動体の構成を示す正面図である。
【図3】乗用移動体の構成を示す底面図である。
【図4】乗用移動体の制御系の構成を示すブロック図である。
【図5】倒立振子制御に用いる値の説明に使用した図である。
【図6】第1の実施形態におけるCPUによる駆動制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】図6の駆動制御を実施したときの乗用移動体の姿勢変化を示す図である。
【図8】ローパスフィルタ処理を施すローパスフィルタを示すブロック図である。
【図9】搭乗者が乗用移動体に搭乗しているときの様子の一例を示す図である。
【図10】乗用移動体が対象物に接近したときの乗用移動体と対象物との間の距離(dob)の経時変化を示す特性図である。
【図11】図10のように変化する距離(dob)に応じた乗用移動体(筐体)のピッチ角度の変化を示す特性図である。
【図12】他の乗用移動体の構成を示す側面図である。
【図13】他の乗用移動体の構成を示す正面図である。
【図14】他の乗用移動体の構成を示す上面図である。
【図15】第2の実施形態におけるCPUによる駆動制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図16】図15の駆動制御を実施したときの乗用移動体の姿勢変化を示す図である。
【図17】第2の実施形態の乗用移動体の制御系の構成を示すブロック図である。
【図18】第3の実施形態におけるCPUによる駆動制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図19】図18の駆動制御を実施したときの乗用移動体の姿勢変化を示す図である。
【図20】第4の実施形態におけるCPUによる駆動制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図21】図20の駆動制御を実施したときの乗用移動体の姿勢変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1の実施形態)
(構成)
第1の実施形態は、本発明を適用した乗用移動体である。この乗用移動体は、“倒立振子制御を基盤とする2輪独立駆動型乗用移動体(パーソナルモビリティ)”となる。すなわち、この乗用移動体は、姿勢を前傾又は後傾させて前進又は後退する移動体である。
図1〜図3は、乗用移動体の構成を示す。図1は側面図である。図2は正面図である。図3は平面図(底面図)である。
図1〜図3に示すように、乗用移動体1は、筐体2、駆動輪3r,3l、減速機4r,4l、駆動モータ5r,5l及び補助バー(立位搭乗用補助バー)7r,7lを有する。
筐体2は、略箱形状をしている。筐体2は、図3に示すように、上方からみた形状が略正方形状となる。筐体2の左右側面部2b,2cは、上面2aに対して垂直となる。搭乗者は、この筐体2の上面2aに搭乗する。この筐体2の上面2aが路面と水平になるとき、乗用移動体1は、いわゆる垂直立位状態になる。
【0009】
筐体2内には、左右それぞれに減速機4r,4l及び駆動モータ5r,5lを収容している。右側減速機4rと右側駆動モータ5rとを、同軸6r上に配置している。左側減速機4lと左側駆動モータ5lとを、同軸6l上に配置している。同軸6r,6lは、互いに同一直線上に位置され、かつ路面に対して水平となる。
左右の減速機4r,4lの出力軸それぞれに、左右の駆動輪3r,3lを取り付けている。これにより、駆動輪3r,3lは、筐体2の左右側面部2r,2lそれぞれに対向して配置された状態になっている。
【0010】
以上の構成により、右側駆動モータ5rが右側減速機4rを介して右側駆動輪3rを駆動する。すなわち、右側駆動モータ5rがその回転数を右側減速機4rで減速させて右側駆動輪3rを駆動する。また、左側駆動モータ5lが左側減速機4lを介して左側駆動輪3lを駆動する。すなわち、左側駆動モータ5lがその回転数を左側減速機4lで減速させて左側駆動輪3lを駆動する。
【0011】
左右の補助バー7r,7lは、筐体2上に搭乗した搭乗者の姿勢の維持等を補助するためのものである。左右の補助バー7r,7lは、筐体2上に搭乗した搭乗者が手で保持することができるような形状をなす。右側補助バー7rは、筐体2の右側で、かつ略前方側端部から上方に所定長をもって延びている。また、左側補助バー7lは、筐体2の左側で、かつ略前方側端部から上方に、右側補助バー7rと同様な所定長をもって延びている。左右の補助バー7r,7lは、乗用移動体1が垂直立位状態にあるとき、路面に対して略垂直になる。また、右側補助バー7rと左側補助バー7lとの間は、搭乗員がすり抜け可能な程度の間隔になっている。
【0012】
右側補助バー7rの先端には、図2に示すように、ジョイスティック8を設けている。ジョイスティック8は、搭乗者が右手で操作可能となっており、乗用移動体1の進行方向(左右方向)の入力を受け付ける。
図4は、乗用移動体1の制御系の構成を示す。図4に示すように、乗用移動体は、センサ部20、モータドライバ31、対象物検知センサ32、及び演算部40を有する。
【0013】
センサ部20は、3軸方向(ヨー、ロール及びピッチ方向)のジャイロセンサ21、加速度を検出する加速度センサ22、荷重検出用のロードセル23、及び駆動モータ5r,5lの回転数を検出するエンコーダ24r,24lを有する。ジャイロセンサ21、加速度センサ22、及びエンコーダ24を筐体2内に有する。
ロードセル23は、筐体2の上面2aの四隅にかかる荷重を検出する。そのため、ロードセル23は、該筐体2の上面2aの四隅に配置した4個のロードセル23fr,23fl,23rr,23rlからなる。このロードセル23により、筐体2上での搭乗者の前後左右方向の体重移動が検出可能になる。
【0014】
対象物検知センサ32は、乗用移動体1の外界環境(周囲環境)として、予め定められた検出範囲内の物体(対象物)の存在、及び乗用移動体から物体までの距離を検出する。本実施形態では、乗用移動体1の前方に向くよう対象物検知センサ32を搭載し、乗用移動体1の前方所定範囲内の外界環境を検出している。例えば、筐体2の前方端部でかつ左右方向における中間部に対象物検知センサ32を搭載している。
【0015】
演算部40は、AD変換部41、DA変換部42、カウンタ部43、及びCPU44を有する。
AD変換部41は、ジャイロセンサ21からの入力(ヨー方向成分21y、ロール方向成分21r及びピッチ方向成分21p)をデジタル変換する。また、AD変換部41は、加速度センサ22の入力(左右方向成分22x、前後方向成分22y及び上下方向成分22z)をデジタル変換する。また、AD変換部41は、ロードセル23からの入力をデジタル変換する。また、AD変換部41は、ジョイスティック8からの入力(操作信号)をデジタル変換する。AD変換部41は、デジタル変換して得た各種情報をCPU44に出力する。
【0016】
カウンタ部43は、エンコーダ24r,24lの検出信号から回転数情報を得る。カウンタ部43は、その回転数情報をCPU44に出力する。
CPU44は、乗用移動体1のシステム全体を所定の制御則に従い制御する。例えば、CPU44は、入力される各種情報を基に、左右の駆動モータ5r,5lの駆動トルク指令値を算出する。そして、CPU44は、駆動トルク指令値をDA変換部42を介してモータドライバ31に出力する。モータドライバ13は例えばインバータである。モータドライバ31は、駆動トルク指令値に対応した駆動モータ出力により駆動モータ5r,5lを駆動する。
【0017】
このCPU44は、図4に示すように、モード判定部44a及び姿勢角度成分算出部44bを有する。
モード判定部44aは、対象物検知センサ32による対象物の検出結果及び検出走行速度を基に、後述の対象物検知走行モード及び通常走行モードを判定する。また、姿勢角度成分算出部44bは、対象物検知センサ32によって検出された対象物との距離に応じた筐体2のピッチ方向の角度補正成分を算出する。これらモード判定部44a及び姿勢角度成分算出部44bの処理については後で詳しく説明する。
【0018】
以上のような構成を有する乗用移動体1は、倒立振子制御の制御則に従い左右の駆動輪3r,3lを駆動制御する。
倒立振子制御は、振子を倒立、維持するものとして一般的に知られる制御である。乗用移動体1は、この倒立振子制御を基盤として、乗用移動体1(筐体2)の傾斜した姿勢を維持して走行するように駆動モータ5r,5lを駆動して、乗用移動体1のピッチ軸周りの安定化(転ばない)制御、前後進制御及び操舵制御を実現している。
【0019】
倒立振子制御に基づいた制御則は種々あるが、本実施形態では、下記(1)式及び(2)式により表される制御則を用いている。
u_r=k1(θ1−θ1_s)+k3θ1´+k4(θ2_r´−θref_r´)
−ky((θ2_r−∫θref_r´)−(θ2_l−∫θref_l´))−ky_d((θ2_r´−θref_r´)−(θ2_l´−θref_l´))
・・・(1)
u_l=k1(θ1−θ1_s)+k3θ1´+k4(θ2_l´−θref_l´)
+ky((θ2_r−∫θref_r´)−(θ2_l−∫θref_l´))+ky_d((θ2_r´−θref_r´)−(θ2_l´−θref_l´))
・・・(2)
【0020】
ここで、u_rは、右側駆動輪3rを駆動する駆動モータ5rのモータトルクである。u_lは、左側駆動輪3lを駆動する駆動モータ5lのモータトルクである。θ1は、図5に示すように、乗用移動体1のピッチ軸周りの傾斜角度(姿勢角度)である。すなわち、θ1は、筐体2のピッチ軸周りの傾斜角度である。θ2_rは、右側駆動輪3rの車輪回転角度である。θ2_lは、左側駆動輪3lの車輪回転角度である。
【0021】
また、搭乗者は、乗用移動体1が静止状態にあるとき、総じて該乗用移動体1を前傾姿勢(ピッチ軸周りに前方に傾いた姿勢)にする傾向にある。そして、その前傾姿勢の度合は、搭乗者毎に個人差がある。このようなことから、静止状態において搭乗者が搭乗したときの乗用移動体1の傾斜角度θ1を傾斜角度θ1_sとする。そして、この傾斜角度(以下、搭乗時傾斜角度という。)θ1_sは予め設定される値とする。
【0022】
また、式中の「´」を付した値は、「´」が付されている値の微分値となる。よって、例えば、θ1´は、筐体2のピッチ軸周りの角速度になる。θ2_r´は、左側駆動輪3lの回転角速度になる。また、θref_r´,θref_r´は、左右の駆動輪3r,3lの回転角速度目標値である。
また、k1,k3,k4は、ピッチ軸周りにおける安定化フィードバックゲイン値(ピッチ方向の安定化フィードバックゲイン値)である。ky,ky_dは、ヨー軸周りにおける安定化フィードバックゲイン値(ヨー方向の安定化フィードバックゲイン値)である。
【0023】
CPU44は、以上の倒立振子制御を実現する(1)式及び(2)式に基づき、筐体2のピッチ軸周りにおける傾斜角度θ1等の変化に応じてモータトルク(駆動輪3r,3lの駆動トルクともいえる。)u_r,u_lを算出する。そして、CPU44は、算出したモータトルクu_r,u_lを基に駆動モータ5r,5lを駆動して駆動輪3r,3lを駆動制御している。
【0024】
次に、以上の構成を前提とした乗用移動体1の駆動制御を説明する。
図6は、CPU44による駆動制御の処理手順を示す。図7は、その駆動制御を実施したときの乗用移動体1の姿勢変化(図7の(a)〜(d))を示す。図7の(a)及びそれに続く(b)は、乗用移動体1が速度vで走行している状態を示す。この図6の処理手順を、図7を用いつつ説明する。なお、ここで車速vは、前進方向の車速を正の値とし、後退方向の車速を負の値として検出されるものとする。
【0025】
図6に示すように、CPU44は、対象物検知センサ32が対象物110との距離dobを検出すると、ステップS1からステップS2に進む。この検出処理は、モード判定部44aが行う。また、CPU44は、対象物検知センサ32により対象物110との距離dobを検出できない場合、すなわち、対象物110を検出できない場合、ステップS10に進む。対象物110は、例えば路面に固定されている障害物(例えば建造物)、先行する車両や他の乗用移動体である。
【0026】
ステップS2では、CPU44は、乗用移動体1の車速vを検出する。CPU44は、例えば、エンコーダ24r,24lが検出した駆動輪3r,3lの回転角変化を基に車速vを得る。このステップS2の処理は、前記ステップS1で検出距離dobを検出した直後の処理になるため、このステップS2で検出した車速vは、前記ステップS1で検出距離dobを検出した時点の車速(対象物検出時車速)になる。
【0027】
続いてステップS3において、CPU44は、前記ステップS1で検出した検出距離dob、及び前記ステップS2で検出した速度vを基に、下記(3)式により、対象物110に対する乗用移動体1の到達時間TTC1を算出する。
TTC1=dob/v ・・・(3)
この(3)式では、検出距離dobの検出時点の一定速度v(前記ステップS2で検出した車速v)を基に到達時間TTC1を算出している。
【0028】
さらに、ステップS3では、CPU44は、算出した到達時間TTC1が制限時間Tob未満か否かを判定する。制限時間Tobは、到達時間TTC1を判定するために予め設定した値であり、実験値、経験値又は理論値である。CPU44は、到達時間TTC1が制限時間Tob未満の場合(TTC1<Tob)、ステップS4に進む。また、CPU44は、到達時間TTC1が制限時間Tob以上の場合(TTC1≧Tob)、ステップS10に進む。
【0029】
ステップS4では、CPU44は、距離しきい値dob_sに検出距離dobを設定する。ここで、ステップS4は、前記ステップS3の直後の処理になるため、距離しきい値dob_sは、到達時間TTC1が制限時間Tob未満となった直後の検出距離dob(図7(b)の位置での乗用移動体1Bでの値)となる。よって、距離しきい値dob_sは、到達時間TTC1が制限時間Tob未満となったときに設定される値でもあるため、制限時間Tobにより決定される値(Tob・v)とも言える。
【0030】
なお、距離しきい値dob_sを予め定められた一定の距離とすることもできる。しかし、車速によって決定される距離であることが好ましく、本実施形態においては、上述のように、到達時間TTC1が制限時間Tob未満となった距離を距離しきい値dob_sとしている。
続いてステップS5において、CPU44は、検出距離dobが前記ステップS4で設定した距離しきい値dob_s未満か否かを判定する。この判定処理は、モード判定部44aが行う。CPU44は、検出距離dobが距離しきい値dob_s未満の場合(dob<dob_s)、ステップS6に進む。また、CPU44は、検出距離dobが距離しきい値dob_s以上の場合(dob≧dob_s)、ステップS10に進む。
【0031】
ステップS6では、CPU44は、乗用移動体1の速度vが零よりも大きいか否かを判定する。この判定処理は、モード判定部44aが行う。CPU44は、乗用移動体1の速度vが零よりも大きい場合、すなわち、乗用移動体1が走行中の場合(v>0)、ステップS7に進む。また、CPU44は、乗用移動体1の速度vが零以下の場合(v≦0)、すなわち、乗用移動体1が停止若しくは後退している場合、ステップS10に進む。
【0032】
ステップS7では、CPU44は、対象物検知走行モード(停止モード)を実施する。対象物検知走行モードでは、CPU44は、下記(4)式により、θ1_obを算出する。この演算は、姿勢角度成分算出部44bが行う。
θ1_ob=kob・(dob_s−dob
ここで、dob_s>dob
・・・(4)
ここで、kobは、対象物110までの距離に関する比例ゲインである。この(4)式によれば、乗用移動体1が対象物110に近づくほど、検出距離dobが小さくなるため、θ1_obは大きくなる。
また、対象物検知走行モードでは、前記(4)式により算出したθ1_obにローパスフィルタ処理を施す。
【0033】
図8は、ローパスフィルタ処理を施すローパスフィルタ45を示す。図8に示すように、ローパスフィルタ45は、入力となるθ1_ob(時々刻々と変化する値)に対してローパスフィルタ処理を施して、θ1_ob_LPを出力する。以下、ローパスフィルタ処理が施された姿勢角成分θ1_ob_LPを第2姿勢角成分と称する。
そして、対象物検知走行モードでは、第2姿勢角成分θ1_ob_LPを前記(1)式及び(2)式の傾斜角度θ1に加算する(θ1=θ1+θ1_ob_LP)。すなわち、傾斜角度θ1に第2姿勢角度成分θ1_ob_LPを加算することによって補正して得た加算値を、新たな傾斜角度θ1として算出する。
【0034】
下記(5)式及び(6)式は、その追加入力後の前記(1)式及び(2)式に対応する式になる。
u_r=k1(θ1−θ1_s+θ1_ob_LP)+k3θ1´+k4(θ2_r´−θref_r´)
−ky((θ2_r−∫θref_r´)−(θ2_l−∫θref_l´))−ky_d((θ2_r´−θref_r´)−(θ2_l´−θref_l´))
・・・(5)
u_l=k1(θ1−θ1_s+θ1_ob_LP)+k3θ1´+k4(θ2_l´−θref_l´)
+ky((θ2_r−∫θref_r´)−(θ2_l−∫θref_l´))+ky_d((θ2_r´−θref_r´)−(θ2_l´−θref_l´))
・・・(6)
【0035】
ここで、第2姿勢角成分θ1_ob_LPは、乗用移動体1が対象物110に近づくに従い大きくなる。対象物検知走行モードでは、この第2姿勢角成分θ1_ob_LPを用いた(5)式及び(6)式により、乗用移動体1がピッチ方向で後傾しつつも倒れずにバランスし減速するようになる。例えば、図7(b)の位置以降の(c)及び(d)の乗用移動体1C,1Dの走行状態がその減速状態にあたる。
【0036】
続いてステップS8及びステップS9において、CPU44は、新たに検出距離dob及び車速vを検出する。そして、CPU44は、前記ステップS5からの処理を再び開始する。
ステップS10では、CPU44は、通常走行モードを実施する。すなわち、前記(1)式及び(2)式に従い、すなわち、通常の倒立振子制御に従い左右の駆動輪3r,3lを駆動制御する。つまり、CPU44は、第2姿勢角成分θ1_ob_LPを追加入力することなく、傾斜角度θ1を用いた倒立振子制御に従い左右の駆動輪3r,3lを駆動制御する。
【0037】
(動作及び作用)
(搭乗者の搭乗時傾斜角度θ1_sの設定)
乗用移動体1は、搭乗者が搭乗すると、センサ部20(ジャイロセンサ21等)の検出値を基に、搭乗時傾斜角度θ1_sを設定する。
図9は、搭乗者200が乗用移動体1に搭乗しているときの様子の一例を示す。図9に示す乗用移動体1は垂直立位状態にある。例えば、このように搭乗者200が搭乗した状態(かつ停止状態)で乗用移動体1が前傾姿勢になったとき、その前傾姿勢を搭乗時傾斜角度θ1_sに設定する。
【0038】
(通常走行モード)
乗用移動体1は、搭乗者が自らの荷重を前後方向に移動したことで該乗用移動体1の前後方向の荷重バランスが変化して該乗用移動体1の姿勢が前後方向(ピッチ方向)に変化すると、ジャイロセンサ21及び加速度センサ22がその変化を検出する。
乗用移動体1は、その検出値を基に、駆動輪3r,3lを前方又は後方に駆動制御する(前記ステップS10、前記(1)式及び(2)式)。すなわち、乗用移動体1は、搭乗者が操作した前傾姿勢や後傾姿勢を維持するよう駆動輪3r,3lを駆動制御する。これにより、乗用移動体1は、搭乗者が操作した前傾姿勢のまま前進したり、搭乗者が操作した後傾姿勢のまま後退したりする。
【0039】
また、乗用移動体1は、ジョイスティック8の操作方向(例えば左右方向)に応じて該乗用移動体1が走行するよう駆動輪3r,3lを駆動制御する。これにより、搭乗者がジョイスティック8を左右方向に操作すると、乗用移動体1は、前傾姿勢又は後傾姿勢のままでその操作方向に旋回するようになる。
また、乗用移動体1は、到達時間TTC1が制限時間Tob未満になった以後に、検出距離dobが距離しきい値dob_s以上になった場合(dob≧dob_s)や、乗用移動体1が停止するに至った場合(v=0)にも、対象物検知走行モードから通常走行モードに遷移して、駆動輪3r,3lを駆動制御する(前記ステップS10、前記(1)式及び(2)式)。
【0040】
(対象物検知走行モード)
乗用移動体1は、予め制限時間Tobを設定する。そして、乗用移動体1は、対象物検知センサ32が対象物110を検出すると、その検出距離dob及びその検出時点の乗用移動体1の速度vを基に、到達時間TTC1を算出する(前記ステップS1〜ステップS3、前記(3)式)。
そして、乗用移動体1は、到達時間TTC1が制限時間Tob未満になったとき、そのときの検出距離dobを距離しきい値dob_sに設定する(前記ステップS3〜ステップS4)。
【0041】
それから、乗用移動体1は、検出距離dobが距離しきい値dob_s未満である間、該乗用移動体1が停止するまで(v≦0になるまで)、対象物検知走行モードを実施する(前記ステップS5〜ステップS9、図7の(b)〜(c))。
この対象物検知走行モードでは、乗用移動体1は、距離しきい値dob_sと検出距離dobとの差分に応じたθ1_obを算出し、その算出値にローパスフィルタ処理を施して第2姿勢角成分θ1_ob_LPを得る。そして、対象物検知走行モードでは、乗用移動体1は、第2姿勢角成分θ1_ob_LPを考慮(追加入力)した前記(5)式及び(6)式を用いて、駆動輪3r,3lを駆動制御する(前記ステップS7)。
【0042】
この結果、この対象物検知走行モードでは、乗用移動体1が対象物110に近づくに従い第2姿勢角成分θ1_ob_LPが大きくなることで、乗用移動体1が後傾して減速するようになる。
これにより、乗用移動体1は、対象物110に近づくに従い後傾度合い(後傾角度)が大きくなりつつ減速度が大きくなる。そして、前記図7(d)のように、乗用移動体1Dは、対象物110にある程度接近した状態になると、後傾姿勢のままで停車する。このとき、前記ステップS6の判定結果が速度vが零になることで、対象物検知走行モードが通常走行モードに遷移する。
【0043】
本実施形態のような倒立振子制御を駆動制御の基盤とした乗用移動体1を対象物110に対して停止させるには、その対象物110に対応して搭乗者が意図的に乗用移動体1を後傾操作しなければならない。このとき、搭乗者には、乗用移動体1の操作についてある程度の習熟スキルが必要になる。
これに体して、本実施形態では、乗用移動体1は、倒立振子制御をそのまま用いた走行制御により、対象物110に対して自動的に後傾して減速するようになる。このような乗用移動体1の動作が、搭乗者に対して対象物110に対する乗用移動体1の最適な姿勢操作のナビゲーションになる。そのため、搭乗者は、習熟スキルを要しなくても、乗用移動体1を対象物110に対して適切に停止させることができるようになる。
【0044】
また、本実施形態では、対象物検知走行モードの走行制御が通常走行モードと同様の倒立振子制御を基盤として用いているため、減速及び停止等をさせるために、乗用移動体1の走行が不自然になったり、搭乗者に違和感を与えたりするのを防止できる。
例えば、特許文献1の乗用移動体では、倒立振子制御を基に車輪を駆動制御しつつ、搭乗者がアクセルレバーやブレーキレバーを操作した場合には、強制的に乗用移動体1を姿勢変化させて(重心移動させて)加速や減速をしている。
【0045】
ここで、倒立振子制御では、乗用移動体の姿勢のバランスをとりつつ走行しなければならない。すなわち、倒立振子制御では、加速時には乗用移動体を前傾にし、減速時には乗用移動体を後傾にして、乗用移動体の走行時のピッチング方向の姿勢変化を不可避としている。
しかし、特許文献1の乗用移動体では、アクセルレバー等の操作により強制的に姿勢変化させるため(重心移動させるため)、搭乗者に違和感を与える恐れがある。また、特に、乗用移動体の素性や出力等の駆動性能を理解していない搭乗者がアクセルレバー等の操作により加速等させてしまうと、その違和感が大きくなる。さらには、制御上におけるコンフリクトや、駆動モータ等におけるアクチュエーション遅れが発生してしまう恐れがある。
【0046】
つまり、姿勢を制御することで乗用移動体を走行制御するのが、乗用移動体に負担なく、搭乗者にも違和感を与えなく、最も自然な制御態様であると考えられる。
このようなことから、本実施形態では、あくまでも倒立振子制御に則り対象物に対応して乗用移動体1を走行制御していることで、乗用移動体1の走行が不自然になったり、搭乗者に違和感を与えたりするのを防止している。
【0047】
また、対象物検知走行モードでは、θ1_obを直接用いずにローパスフィルタ処理を施して得た第2姿勢角成分θ1_ob_LPを用いて、駆動輪3r,3lを駆動制御している。
ここで、本実施形態では、対象物検知走行モードを対象物の検出状態を基に終了(通常走行モードに遷移)している。そのため、対象物の検出状態によっては、対象物検知走行モードと通常走行モードとの間の遷移(モード遷移)が頻雑に発生してしまう場合がある。このようにモード遷移が煩雑に発生した場合、乗用移動体1のピッチ角が急激に変化してしまう恐れがある。この結果、乗用移動体1の姿勢や駆動制御が搭乗者に違和感を与えてしまう恐れがある。
【0048】
例えば、モード遷移が頻雑に発生してしまうような状況下では、前記(4)式により算出されるθ1_obがモード遷移に対応して過敏に変化する傾向がある。そのため、そのθ1_obをそのまま前記(5)式及び(6)式に代入してしまうと、θ1_obの過敏な変化が乗用移動体1の過敏なピッチ角変化として現れてしまう恐れがある。
例えば、人間との共存環境に代表される、乗用移動体の周囲に多種の障害物が存在する空間には、通行人が、乗用移動体が対象物を検出可能な領域、すなわち対象物検知走行モード領域に入ってきた後、すぐ居なくなってしまう等の状況が存在する。このような状況では、モード遷移が頻雑に発生し易く、結果として、乗用移動体1が過敏にピッチ角変化してしまう恐れがある。
【0049】
これに対して、本実施形態では、第2姿勢角成分θ1_ob_LPがローパスフィルタ処理を施して得た値であるため、モード遷移が頻雑に発生してもそれに対応して第2姿勢角成分θ1_ob_LPが過敏に変化するようなことはない。この結果、モード遷移が頻雑に発生しても、駆動輪3r,3lが過敏に変化してしまうのを防止でき、乗用移動体1が過敏にピッチ角変化してしまうのを防止できる。
【0050】
図10は、乗用移動体が対象物(障害物)に接近したときの乗用移動体と対象物との間の距離(dob)の経時変化を示す。図11は、そのときの距離(dob)に応じた乗用移動体(筐体)のピッチ角度の変化を示す。
例えば、制限時間を5(sec)に予め設定している。また、図10中、距離dp1は、その設定した制限時間により決まる距離しきい値bob_sに相当する値である。
【0051】
図10に示すように、乗用移動体には、乗用移動体と対象物との間の距離がdp1となった時刻tinに、それまでの前傾姿勢(角度θp1付近の姿勢)にピッチ方向の変化が発生(後傾方向に姿勢が変化)する。すなわち、乗用移動体は、時刻tinに対象物検知走行モードに遷移する。
この対象物検知走行モードでは、乗用移動体は、対象物に近づく(図10の矢印Aの変化)に従い減速度が大きくなるよう、ピッチ角度を前傾の角度θp1から後傾の角度θp2に変化(図11の矢印Bに変化)させている。このときの乗用移動体の姿勢変化は、ローパスフィルタ処理を施して得た第2姿勢角成分θ1_ob_LPに応じた滑らかな変化となる。
【0052】
そして、この対象物検知走行モードでは、乗用移動体は、距離がdp2に至りピッチ角度が後傾の角度θp2になったとき、停止する(通常走行モードに遷移する)。
その後、乗用移動体は、対象物が移動する等して距離が再びdp1を超えると、通常走行モードにより、運転者による荷重変化等に応じて、前傾姿勢で前進するようになる。そして、対象物検知走行モードから通常走行モードに遷移した直後に該通常走行モードにて前進を開始するようなときでも、前述のローパスフィルタ処理を施した効果により、後傾姿勢から前傾姿勢に滑らかに変化するようになる。
【0053】
(第1の実施形態の変形例)
(1)本実施形態は、2輪の駆動輪3r,3lのみで走行する乗用移動体の形態に限定されない。例えば、乗用移動体は、予め内蔵したスタンドスタンドや補助輪、キャスタを有することもできる。
図12〜図14は、補助輪51を有する乗用移動体1の構成を示す。図12は側面図である。図13は正面図である。図14は平面図(上面図)である。
【0054】
図12〜図14に示すように、乗用移動体1は、筐体2の後方に回転揺動可能な補助輪51を有する。そのため、筐体2には、補助輪51を回転自在に支持する補助輪支持部52を取り付けてある。筐体2の上面2aが水平になっている状態(すなわち、乗用移動体1の垂直立位状態)で、該上面2aに対して垂直になる軸を回転中心として回動するよう筐体2に補助輪支持部52を取り付けている。また、乗用移動体1の垂直立位状態で、補助輪51の外周で下方に向く部位(接地部位)が、路面100から所定距離(クリアランス)だけ離間している。これにより、補助輪51は、乗用移動体1がある角度の後傾姿勢に達したとき路面100に接地して、該乗用移動体1の走行方向に応じて向きを変化させるようになる(走行補助するようになる)。
【0055】
よって、乗用移動体1は、ある所定の速度域以上では、このような第3輪となる補助輪51が接地しないことで、2輪走行による走破性及び機動性を高くできる。また、乗用移動体1は、微速や静止状態では、補助輪51の接地により、静的安定を実現できる。
また、乗用移動体1は、内蔵したスタンドを有することで、例えばシステム停止時等にはその内蔵スタンドを立てることで、停止した状態で直立安定姿勢をとることが可能になる。
ここで、本実施形態の移動体は、左右2つの駆動輪が平行に配置された“倒立振子制御を基盤とする2輪独立駆動型乗用移動体”である。この“倒立振子制御を基盤とする2輪独立駆動型乗用移動体”は、2輪の駆動輪だけが存在する乗用移動体のみならず、前述のように、スタンドや補助輪51、キャスタ等を含むような構造形態をも含めて意味している。
【0056】
(2)ロードセル23(23fr,23fl,23rr,23rl)により搭乗者の筐体2上での体重移動を検出し、その検出結果を基に、倒立振子制御に基づいた駆動制御を行うこともできる。この場合、例えば、ロードセル23により検出した体重移動を、乗用移動体1のヨー方向成分、ロール方向成分及びピッチ方向成分の角度変化相当に変換し、その角度変化を基に、倒立振子制御に基づいた駆動制御を行う。
【0057】
(3)本実施形態では、θ1_obにローパスフィルタ処理を施して得た第2姿勢角成分θ1_ob_LPを用いて、(5)式及び(6)式を基に駆動輪3r,3lを駆動制御している。これに対して、ローパスフィルタ処理を施すことなく、θ1_obを直接用いて、(5)式及び(6)式を基に駆動輪3r,3lを駆動制御することもできる。
ここで、ジャイロセンサ21はピッチ角検出手段に対応し、CPU44は駆動制御手段に対応し、対象物検知センサ32は対象物検出手段に対応し、エンコーダ24r,24lやステップS2等の処理は速度検出手段に対応し、姿勢角度成分算出部44bは角度補正成分算出手段に対応する。また、θ1_obは角度補正成分に対応する。また、ローパスフィルタ25はフィルタ手段に対応する。また、第2姿勢角成分θ1_ob_LPは、ピッチ方向の角度に加算する角度補正成分θ1_obに、ローパスフィルタ処理を施して得た値に対応する。
【0058】
(第1の実施形態の効果)
(1)ピッチ角検出手段は、筐体のピッチ方向の角度を検出する。また、駆動制御手段は、ピッチ角検出手段が検出したピッチ方向の角度に基づいた倒立振子制御により、各車輪の駆動トルクを制御する。また、対象物検出手段は、乗用移動体の周囲に存在する対象物を検出すると共に、検出した対象物と乗用移動体との距離を検出する。また、速度検出手段は、乗用移動体の走行速度を検出する。また、角度補正成分算出手段は、対象物検出手段によって検出された対象物との距離に応じた筐体のピッチ方向の角度補正成分を算出する。
【0059】
そして、駆動制御手段は、角度補正成分算出手段が算出した角度補正成分をピッチ角検出手段が検出したピッチ方向の角度に加算してピッチ方向の角度を補正し、補正したピッチ角度である加算値に基づいた倒立振子制御を行い、各車輪の駆動トルクを制御する。
このように、駆動制御手段は、乗用移動体と対象物との距離を基に算出した角度補正成分をピッチ方向の検出角度に加算してピッチ方向の角度を補正し、補正したピッチ角度である加算値に基づいた倒立振子制御を行い各車輪の駆動トルクを制御することで、対象物に対応させた倒立振子制御を基に、各車輪の駆動トルクを制御できる。
【0060】
このように乗用移動体と対象物との距離に対応させて各車輪の駆動トルクを制御できるので、対象物に対する乗用移動体の走行を適切に支援できる。
この結果、例えば、乗用移動体がその周囲に存在する対象物に対して必要以上に接近してしまうのを防止できる。さらには、乗用移動体を対象物に自動的に追従させるため、適切に追従させることができる。
【0061】
(2)フィルタ手段は、ピッチ方向の角度に加算する角度補正成分に角度補正成分にローパスフィルタ処理を施す。そして、駆動制御手段は、フィルタ手段によってローパスフィルタ処理を施された角度補正成分を、ピッチ角検出手段が検出したピッチ方向の角度に加算する。
これにより、対象物に応じた走行制御(対象物検知走行モード)と通常の走行制御(通常走行モード)との間のモード遷移が頻雑に発生するようなシーンでも、それに応じて角度補正成分が過敏に変化するようなことがなくなる。この結果、走行制御の遷移、すなわちモード遷移が煩雑に発生するようなシーンでも、乗用移動体のピッチ方向の変化が搭乗者に違和感を与えてしまうのを防止できる。
【0062】
(3)駆動制御手段は、対象物検出手段が検出した対象物と乗用移動体との距離が予め定められた所定の距離である距離しきい値未満となったときに、前記加算値に基づく倒立振子制御を行う。
これにより、対象物と乗用移動体との距離がある程度短くなったときに、対象物と乗用移動体との距離に対応させた各車輪の駆動トルクの制御を開始できる。
この結果、対象物と乗用移動体との距離に対応させた各車輪の駆動トルクの制御を不用意に介入させてしまうのを防止できる。
【0063】
(4)駆動制御手段は、対象物検出手段が検出した対象物と乗用移動体との距離、及び速度検出手段が検出した走行速度を基に、対象物までの到達時間を算出する。そして、距離しきい値は、算出した到達時間が予め設定した制限時間未満となる距離である(前記ステップS3参照)。
これにより、到達時間に応じて、対象物に対応させた各車輪の駆動トルクの制御を行うことができる。
例えば、制限時間を乗用移動体が有する加減速性能に応じて設定することで、乗用移動体が有する加減速性能に対応させて、対象物に対応させた各車輪の駆動トルクの制御を行うことができる。
【0064】
(5)角度補正成分算出手段は、距離しきい値と、対象物検出手段が検出した対象物と乗用移動体との距離との差分を基に、角度補正成分を算出する。
これにより、対象物との距離に対応させて、乗用移動体を姿勢変化させ加減速させることができる。
(6)駆動制御手段は、加算値に基づく倒立振子制御を実行中に、対象物検出手段が検出した対象物と乗用移動体との距離が距離しきい値以上となった場合、又は速度検出手段が検出した走行速度が零になった場合、加算値に基づく倒立振子制御を中止する。
これにより、距離や速度に応じた適切なタイミングで、加算値に基づく倒立振子制御を中止できる。
【0065】
(7)角度補正成分算出手段は、
対象物検出手段が検出した対象物と乗用移動体との距離をdobとし、距離しきい値をdob_sとし、kobをゲインとした場合、
角度補正成分θ1_obを、
θ1_ob=kob・(dob_s−dob
により算出する。
また、駆動制御手段は、加算値に基づく倒立振子制御では、
θ1_ob_LPを前記θ1_obにローパスフィルタ処理を施して得た値とし、θ1を筐体のピッチ方向の角度とし、θ1´を筐体のピッチ方向の角速度とし、θ1_sを搭乗者が筐体に搭乗し、かつ該筐体が静止状態にあるときの該筐体のピッチ方向の角度とし、θ2_rを右側車輪の回転角度とし、θ2_lを左側車輪の回転角度とし、θ2_r´を右側車輪の回転角速度とし、θ2_l´を左側車輪の回転角速度とし、θref_r´を右側車輪の回転角速度目標値とし、θref_l´を左側車輪の回転角速度目標値とし、k1,k3,k4を筐体のピッチ方向における安定化フィードバックゲイン値とし、ky,ky_dを筐体のヨー方向における安定化フィードバックゲイン値とした場合、
右側車輪の駆動トルクu_r及び左側車輪の駆動トルクu_lを、
u_r=k1(θ1−θ1_s+θ1_ob_LP)+k3θ1´+k4(θ2_r´−θref_r´)
−ky((θ2_r−∫θref_r´)−(θ2_l−∫θref_l´))−ky_d((θ2_r´−θref_r´)−(θ2_l´−θref_l´))
u_l=k1(θ1−θ1_s+θ1_ob_LP)+k3θ1´+k4(θ2_l´−θref_l´)
+ky((θ2_r−∫θref_r´)−(θ2_l−∫θref_l´))+ky_d((θ2_r´−θref_r´)−(θ2_l´−θref_l´))
により算出する。
これにより、対象物に応じた走行制御(対象物検知走行モード)では、通常の走行制御(通常走行モード)で用いる倒立振子制御(前記(1)式及び(2)式)と同様な制御で各車輪を駆動制御できる。
【0066】
(第2の実施形態)
(構成)
第2の実施形態は、本発明を適用した乗用移動体である。
第2の実施形態では、乗用移動体1は、対象物検知走行モードにおいて、対象物に追従可能な構成をなす。
なお、第2の実施形態の乗用移動体の構成は、基本的には前記第1の実施形態の乗用移動体の構成と同様である。以下の説明では、第2の実施形態の乗用移動体において、前記第1の実施形態の乗用移動体の構成や処理(ステップ)と同一符号を付してある構成や処理(ステップ)については、特に言及しない限りは同一である。
【0067】
図15は、CPU44による駆動制御の処理手順を示す。図16は、その駆動制御を実施したときの乗用移動体1の姿勢変化(図16の(a)〜(c))を示す。この図15の処理手順を、図16を用いつつ説明する。
図15に示すように、CPU44は、対象物検知センサ32により対象物110との距離dobを検出すると、ステップS1からステップS21に進む。また、CPU44は、対象物検知センサ32により対象物110との距離dobを検出できない場合、ステップS10に進む。
ステップS10では、CPU44は、前記第1の実施形態と同様に、通常走行モードを実施する。
ステップS21では、CPU44は、搭乗者から追従モード指令がなされたか否かを判定する。
【0068】
図17は、第2の実施形態の乗用移動体1の制御系の構成を示す。図17に示すように、乗用移動体1は、搭乗者が追従モード指令を出すための追従ボタン51を有する。
CPU44は、このような追従ボタン51が操作されて追従モード指令が出されたか否かを判定する。CPU44は、搭乗者からの追従モード指令があった場合、ステップS22に進む。また、CPU44は、搭乗者からの追従モード指令がない場合、前記ステップS10に進む。
ステップS22では、CPU44は、追従距離(車間距離)dob_tに検出距離dobを設定する。ここで、ステップS22は、前記ステップS21の直後の処理になるため、追従距離(車間距離)dob_tは、搭乗者が追従モード指令が出した直後の検出距離dob(図16(b)の位置での乗用移動体1Bの距離)になる。
【0069】
続いてステップS23において、CPU44は、乗用移動体1の車速vを検出する。
続いてステップS6において、CPU44は、前記第1の実施形態と同様に、乗用移動体1の速度vが零よりも大きいか否かを判定する。CPU44は、乗用移動体1の速度vが零よりも大きい場合(v>0)、ステップS24に進む。また、CPU44は、乗用移動体1の速度vが零以下の場合(v≦0)、前記ステップS10に進む。
【0070】
ステップS24では、CPU44は、対象物検知走行モード(追従モード)を実施する。この対象物検知走行モードでは、CPU44は、下記(7)式によりθ1_obを算出する。この演算は、姿勢角度成分算出部44bが行う。
θ1_ob=kob・(dob_t−dob)+kv・v(t) ・・・(7)
ここで、kobは、対象物110までの距離に関する比例ゲインである。kvは、速度vに関する比例ゲイン(例えば一定値)である。v(t)は、前記ステップS23で実時間で検出した車速v(時々刻々変化する車速v)である。
【0071】
乗用移動体1が対象物110に近づくほど、検出距離dobが小さくなる。そのため、この(7)式によれば、乗用移動体1が対象物110に近づくほど、θ1_obは大きくなる。また、前記(4)式との比較では、θ1_obは、速度vに応じた値(kv・v)だけオフセットされた値になる。
さらに、対象物検知走行モードでは、前記第1の実施形態と同様に、前記(7)式により算出したθ1_obにローパスフィルタ処理を施して第2姿勢角成分θ1_ob_LPを得る。ローパスフィルタ処理を施す構成は、前記第1の実施形態と同様である(図8参照)。
【0072】
そして、対象物検知走行モードでは、前記第1の実施形態と同様に、第2姿勢角成分θ1_ob_LPを追加入力した前記(5)式及び(6)式を基に、駆動輪3r,3lを駆動制御する。
続いてステップS8において、CPU44は、前記第1の実施形態と同様に、新たに検出距離dobを検出する。そして、CPU44は、前記ステップS23からの処理を再び開始する。
【0073】
(動作及び作用)
主に対象物検知走行モードの動作及び作用を説明する。
乗用移動体1は、対象物検知センサ32が対象物110を検出し(対象物110の捕捉中)、かつ搭乗者からの追従モード指令があると、その指令時の検出距離dobを追従距離dob_tに設定する(前記ステップS1、ステップS21、ステップS22)。
ここで、対象物110は、例えば他の乗用移動体300である。例えば、搭乗者200は、乗用移動体1を他の乗用移動体300に追従させたいとき、対象物検知センサ32が対象物110を捕捉している期間内に、追従ボタン51を押して追従モード指令を出す。
それから、乗用移動体1は、停止するまで(v≦0になるまで)、対象物検知走行モード(追従モード)を実施する(前記ステップS23、ステップS6、ステップS24、ステップS8)。
【0074】
この対象物検知走行モードでは、乗用移動体1は、追従距離dob_tと検出距離dobとの差分、及び車速vに応じたθ1_obを算出する(前記(7)式)。さらに、対象物検知走行モードでは、その算出値にローパスフィルタ処理を施して第2姿勢角成分θ1_ob_LPを得る。そして、対象物検知走行モードでは、乗用移動体1は、前記(5)式及び(6)式を用いて、駆動輪3r,3lを駆動制御する(前記ステップS23)。
【0075】
ここで、前記(7)式により、(dob_t−dob)と速度v(t)との加算値(より詳しくはさらにローパスフィルタ処理した値)として第2姿勢角成分θ1_ob_LPを得ている。この第2姿勢角成分θ1_ob_LPは、車速v(前記(7)式の右辺第2項の値)が大きいほど小さくなる。なお、これは、(dob_t−dob)(前記(7)式の右辺第1項の値)が大きいほど第2姿勢角成分θ1_ob_LPが大きくなるのと反対の関係になる。
【0076】
そして、第2姿勢角成分θ1_ob_LPは、倒立振子制御による駆動制御に用いられる値となる。よって、この第2姿勢角成分θ1_ob_LPの変数となる速度v(t)(より詳しくはkv・v(t))は、駆動制御のオフセット量となる。これにより、倒立振子制御による駆動制御のオフセット量が、乗用移動体1の本体速度v(t)に連動することになる。すなわち、倒立振子制御による駆動制御するトルク成分が、乗用移動体1の本体速度v(t)に連動することになる。
このように倒立振子制御による駆動制御のオフセット量を乗用移動体1の本体速度v(t)に連動させることで、対象物検知走行モードでの制御は、乗用移動体1が他の乗用移動体300に追従する追従制御となる。
【0077】
この追従制御により、乗用移動体1は次のように動作する。
乗用移動体1は、他の乗用移動体300の減速等により該他の乗用移動体300との間の距離が短くなると、後傾して減速するようになる。
そして、乗用移動体1は、他の乗用移動体300が停止すると、該他の乗用移動体300から所定距離をおいて後傾を維持して停止するようになる。例えば、図16において、他の乗用移動体300が停止している場合、(c)に示すように、乗用移動体1Cは、他の乗用移動体300から所定距離をおいて後傾して停止するようになる。
【0078】
また、乗用移動体1は、他の乗用移動体300の加速等により該他の乗用移動体300との間の距離が所定距離(追従距離dob_t)よりも長くなると、前傾して加速するようになる。例えば、図16において、他の乗用移動体300が加速している場合、(a)に示すように、乗用移動体1Aは、他の乗用移動体300に向かい前傾して加速するようになる。
また、ローパスフィルタ処理を施して得た第2姿勢角成分θ1_ob_LPを用いることで、前記第1の実施形態と同様に、モード遷移が頻雑に発生しても、駆動輪3r,3lが過敏に変化してしまうのを防止でき、乗用移動体1が過敏にピッチ角変化してしまうのを防止できる。この結果、安定した追従走行を実現できる。
【0079】
(第2の実施形態の効果)
(1)角度補正成分算出手段が、対象物検出手段が検出した対象物と乗用移動体との距離と距離しきい値との差分、及び速度検出手段が検出した走行速度を基に、角度補正成分を算出する。これにより、駆動制御手段は、加算値に基づく倒立振子制御では、対象物検出手段が検出した対象物と乗用移動体との距離を距離しきい値に収束させるよう各車輪の駆動トルクを制御する。
これにより、乗用移動体を対象物に追従させる走行制御を実現できる。
【0080】
(2)角度補正成分算出手段は、
対象物検出手段が検出した対象物と乗用移動体との距離をdobとし、距離しきい値をdob_sとし、kob及びkvをゲインとし、前記速度検出手段が検出した走行速度をv(t)とした場合、
角度補正成分θ1_obを、
θ1_ob=kob・(dob_s−dob)+kv・v(t)
により算出する。
【0081】
また、駆動制御手段は、加算値に基づく倒立振子制御では、
θ1_ob_LPをθ1_obにローパスフィルタ処理を施して得た値とし、θ1を筐体のピッチ方向の角度とし、θ1´を筐体のピッチ方向の角速度とし、θ1_sを搭乗者が筐体に搭乗し、かつ該筐体が静止状態にあるときの該筐体のピッチ方向の角度とし、θ2_rを右側車輪の回転角度とし、θ2_lを左側車輪の回転角度とし、θ2_r´を右側車輪の回転角速度とし、θ2_l´を左側車輪の回転角速度とし、θref_r´を右側車輪の回転角速度目標値とし、θref_l´を左側車輪の回転角速度目標値とし、k1,k3,k4を筐体のピッチ方向における安定化フィードバックゲイン値とし、ky,ky_dを筐体のヨー方向における安定化フィードバックゲイン値とした場合、
右側車輪の駆動トルクu_r及び左側車輪の駆動トルクu_lを、
u_r=k1(θ1−θ1_s+θ1_ob_LP)+k3θ1´+k4(θ2_r´−θref_r´)
−ky((θ2_r−∫θref_r´)−(θ2_l−∫θref_l´))−ky_d((θ2_r´−θref_r´)−(θ2_l´−θref_l´))
u_l=k1(θ1−θ1_s+θ1_ob_LP)+k3θ1´+k4(θ2_l´−θref_l´)
+ky((θ2_r−∫θref_r´)−(θ2_l−∫θref_l´))+ky_d((θ2_r´−θref_r´)−(θ2_l´−θref_l´))
により算出する。
これにより、対象物に応じた走行制御(対象物検知走行モード)では、通常の走行制御(通常走行モード)で用いる倒立振子制御(前記(1)式及び(2)式)と同様な制御で各車輪を駆動制御できる。
【0082】
(第3の実施形態)
(構成)
第3の実施形態は、本発明を適用した乗用移動体である。
前記第1の実施形態や第2の実施形態では、検出距離dob及び距離しきい値dob_sを用いて、θ1_obを算出している(前記(4)式、(7)式参照)。これに対して、第3の実施形態では、検出距離dobや距離しきい値dob_sに換えて、制限時間Tob、到達時間TTC(TTC1)及び速度vを用いて、θ1_obを算出する。
なお、第3の実施形態の乗用移動体の構成は、基本的には前記第1の実施形態の乗用移動体の構成と同様である。以下の説明では、第3の実施形態の乗用移動体において、前記第1の実施形態の乗用移動体の構成や処理(ステップ)と同一符号を付してある構成や処理(ステップ)については、特に言及しない限りは同一である。
【0083】
図18は、CPU44による駆動制御の処理手順を示す。図19は、その駆動制御を実施したときの乗用移動体1の姿勢変化(図19の(a)〜(d))を示す。この図18の処理手順を、図19を用いつつ説明する。
図18に示すように、CPU44は、対象物検知センサ32により対象物110との距離dobを検出すると、ステップS1からステップS31に進む。また、CPU44は、対象物検知センサ32により対象物110との距離dobを検出できない場合、ステップS10に進む。
【0084】
ステップS10では、CPU44は、前記第1の実施形態と同様に、通常走行モードを実施する。
ステップS31では、CPU44は、乗用移動体1の車速vを検出する。
続いてステップS32において、CPU44は、前記ステップS1で検出した検出距離dob、及び前記ステップS31で検出した速度vを基に、下記(8)式により、対象物110に対する乗用移動体1の到達時間TTC2を算出する(図19(c)の位置での乗用移動体1Cでの処理)。
TTC2=dob/v(t) ・・・(8)
ここで、前記(3)式では、車速vが一定値であるのに対して、この(8)式では、車速v(t)は時々刻々変化する値となる(v=v(t))。
【0085】
さらに、ステップS32では、CPU44は、算出した到達時間TTC2が制限時間Tob未満か否かを判定する。制限時間Tobは、到達時間TTC2を判定するために予め設定した値であり、実験値、経験値又は理論値である(図19(b)の位置での乗用移動体1Bでの値)。CPU44は、到達時間TTC2が制限時間Tob未満の場合(TTC2<Tob)、ステップS6に進む。また、CPU44は、到達時間TTC2が制限時間Tob以上の場合(TTC2≧Tob)、前記ステップS10に進む。
【0086】
なお、このステップS32の処理は、モード判定部44aが行う。
ステップS6では、CPU44は、前記第1の実施形態と同様に、乗用移動体1の速度vが零よりも大きいか否かを判定する。CPU44は、乗用移動体1の速度vが零よりも大きい場合(v>0)、ステップS33に進む。また、CPU44は、乗用移動体1の速度vが零以下の場合(v≦0)、ステップS10に進む。
【0087】
ステップS33では、CPU44は、対象物検知走行モード(停止モード)を実施する。この対象物検知走行モードでは、CPU44は、下記(9)式によりθ1_obを算出する。この演算は、姿勢角度成分算出部44bが行う。
θ1_ob=kob・v(t)・(Tob−TTC2) ・・・(9)
ここで、kobは、対象物110までの距離に関する比例ゲインである。
【0088】
さらに、対象物検知走行モードでは、前記第1の実施形態と同様に、前記(9)式により算出したθ1_obにローパスフィルタ処理を施して第2姿勢角成分θ1_ob_LPを得る。ローパスフィルタ処理を施す構成は、前記第1の実施形態と同様である(図8参照)。
そして、対象物検知走行モードでは、前記第1の実施形態と同様に、第2姿勢角成分θ1_ob_LPを追加入力した前記(5)式及び(6)式を基に、駆動輪3r,3lを駆動制御する。
続いてステップS8において、CPU44は、新たに検出距離dobを得る。そして、CPU44は、前記ステップS31からの処理を再び開始する。
【0089】
(動作及び作用)
主に対象物検知走行モードの動作及び作用を説明する。
乗用移動体1は、対象物検知センサ32が対象物110を検出すると、車速vを検出する(前記ステップS1、ステップS31)。
それから、乗用移動体1は、到達時間TTC2が制限時間Tob未満である間、該乗用移動体1が停止するまで(v≦0になるまで)、対象物検知走行モード(追従モード)を実施する(前記ステップS31、ステップS32、ステップS6、ステップS33、ステップS8)。
【0090】
この対象物検知走行モードでは、乗用移動体1は、制限時間Tobと到達時間TTC2との差分、及び実時間で変化する車速vに応じたθ1_obを算出する(前記(9)式)。さらに、対象物検知走行モードでは、乗用移動体1は、その算出値にローパスフィルタ処理を施して第2姿勢角成分θ1_ob_LPを得る。そして、対象物検知走行モードでは、乗用移動体1は、前記(5)式及び(6)式を用いて、駆動輪3r,3lを駆動制御する(前記ステップS33)。
【0091】
ここで、前記(9)式により、(Tob−TTC2)と速度v(t)との乗算値(より詳しくはさらにローパススケジュールフィルタ処理した値)として第2姿勢角成分θ1_ob_LPを得ている。
この結果、乗用移動体1が対象物110に近づいたことで到達時間TTC2が小さくなると、(Tob−TTC2)が大きくなり、第2姿勢角成分θ1_ob_LPが大きくなる。このとき、乗用移動体1は、後傾して減速(速度vが減少)するようになる。その一方で、速度vが減少すると(零に近づくと)、第2姿勢角成分θ1_ob_LPも零に近づく。
【0092】
このようなことから、乗用移動体1は、対象物110に近づいてくと後傾して減速(速度vが減少)するようになる(図19(c)に示す乗用移動体1Cの状態になる)。そして、乗用移動体1は、停止時に第2姿勢角成分θ1_ob_LPが零になることで、その停止が垂直立位状態でなされるようになる(図19(d)に示す乗用移動体1Dの状態になる)。すなわち、前記第1及び第2の実施形態では、乗用移動体1が後傾して停止しているのに対して、この第3の実施形態では、乗用移動体1は、垂直立位状態で停止するようになる。
【0093】
これは、前記第1及び第2の実施形態では、検出距離dobが零になったとしても、第2姿勢角成分θ1_ob_LPがある値(dob_s、dob_t)を示すからである(前記(4)式及び(7)式参照)。この結果、停止時の乗用移動体1の姿勢に、第2姿勢角成分θ1_ob_LPによる後傾姿勢成分が残ってしまうからである。
また、ローパスフィルタ処理を施して得た第2姿勢角成分θ1_ob_LPを用いることで、モード遷移が頻雑に発生しても、駆動輪3r,3lが過敏に変化してしまうのを防止でき、乗用移動体1が過敏にピッチ角変化してしまうのを防止できる。
【0094】
(第3の実施形態の効果)
(1)角度補正成分算出手段は、到達時間と制限時間との差分に速度検出手段が検出した走行速度を乗じた値を基に、角度補正成分を算出する。
これにより、乗用移動体が停止して走行速度が零になったとき、角度補正成分を零にすることができる。この結果、停止時の乗用移動体の姿勢を垂直立位状態にできる。
よって、乗用移動体を垂直立位状態から発進させることができ、不自然な姿勢変化を経ることなく乗用移動体を容易に再発進させることができる。また、速度相応の姿勢変化と減速制御とがより自然に両立されたものとなる。
【0095】
(2)駆動制御手段は、加算値に基づく倒立振子制御を実行中に、対象物検出手段が検出した対象物と乗用移動体との距離が距離しきい値以上となった場合、又は速度検出手段が検出した走行速度が零になった場合、該加算値に基づく倒立振子制御を中止する。
これにより、距離や速度に応じた適切なタイミングで、加算値に基づく倒立振子制御を中止できる。
また、駆動制御手段が、到達時間が制限時間以上の場合、又は速度検出手段が検出した走行速度が零になった場合、加算値に基づく倒立振子制御を中止することで、到達時間や速度に応じた適切なタイミングで、加算値に基づく倒立振子制御を中止できる。
【0096】
(3)角度補正成分算出手段は、
到達時間をTTC2とし、制限時間をTobとし、速度検出手段が検出した走行速度をv(t)とし、kobをゲインとした場合、
角度補正成分θ1_obを、
θ1_ob=kob・v(t)・(Tob−TTC2)
として算出する。
また、駆動制御手段は、加算値に基づく倒立振子制御では、
θ1_ob_LPをθ1_obにローパスフィルタ処理を施して得た値とし、θ1を筐体のピッチ方向の角度とし、θ1´を筐体のピッチ方向の角速度とし、θ1_sを搭乗者が筐体に搭乗し、かつ該筐体が静止状態にあるときの該筐体のピッチ方向の角度とし、θ2_rを右側車輪の回転角度とし、θ2_lを左側車輪の回転角度とし、θ2_r´を右側車輪の回転角速度とし、θ2_l´を左側車輪の回転角速度とし、θref_r´を右側車輪の回転角速度目標値とし、θref_l´を左側車輪の回転角速度目標値とし、k1,k3,k4を筐体のピッチ方向における安定化フィードバックゲイン値とし、ky,ky_dを筐体のヨー方向における安定化フィードバックゲイン値とした場合、
右側車輪の駆動トルクu_r及び左側車輪の駆動トルクu_lを、
u_r=k1(θ1−θ1_s+θ1_ob_LP)+k3θ1´+k4(θ2_r´−θref_r´)
−ky((θ2_r−∫θref_r´)−(θ2_l−∫θref_l´))−ky_d((θ2_r´−θref_r´)−(θ2_l´−θref_l´))
u_l=k1(θ1−θ1_s+θ1_ob_LP)+k3θ1´+k4(θ2_l´−θref_l´)
+ky((θ2_r−∫θref_r´)−(θ2_l−∫θref_l´))+ky_d((θ2_r´−θref_r´)−(θ2_l´−θref_l´))
により算出する。
これにより、対象物に応じた走行制御(対象物検知走行モード)では、通常の走行制御(通常走行モード)で用いる倒立振子制御(前記(1)式及び(2)式)と同様な制御で各車輪を駆動制御できる。
【0097】
(第4の実施形態)
(構成)
第4の実施形態は、本発明を適用した乗用移動体である。
第4の実施形態の乗用移動体は、前記第2の実施形態の乗用移動体の駆動制御と前記第3の実施形態の乗用移動体の駆動制御とを組み合わせた駆動制御を実現している。
このようなことから、第4の実施形態の乗用移動体の構成は、前記第2や第3の実施形態の乗用移動体の構成を有する。以下の説明では、第4の実施形態の乗用移動体において、前記第2の実施形態や第3の実施形態の乗用移動体の構成や処理(ステップ)と同一符号を付してある構成や処理(ステップ)については、特に言及しない限りは同一である。
【0098】
図20は、CPU44による駆動制御の処理手順を示す。図21は、その駆動制御を実施したときの乗用移動体1の姿勢変化(図21の(a)〜(c))を示す。この図20の処理手順を、図21を用いつつ説明する。
この図20に示すように、第4の実施形態では、ステップS41を新たに加えている。また、ステップS42の処理内容を変更している。
図20に示すように、CPU44は、対象物検知センサ32により対象物110(他の乗用移動体)との距離dobを検出すると、ステップS1からステップS21に進む。また、CPU44は、対象物検知センサ32により対象物110との距離dobを検出できない場合、ステップS10に進む。
【0099】
ステップS21では、CPU44は、前記第2の実施形態と同様に、搭乗者から追従モード指令がなされたか否かを判定する。CPU44は、搭乗者からの追従モード指令があった場合、ステップS22に進む。また、CPU44は、搭乗者からの追従モード指令がない場合、ステップS10に進む。
ステップS22では、CPU44は、前記第2の実施形態と同様に、乗用移動体1の車速vを検出する。
【0100】
続いてステップS41において、CPU44は、制限時間Tobを設定する。具体的には、CPU44は、前記ステップS1で検出した検出距離dob、及び前記ステップS22で検出した車速vを用いて、下記(10)式により制限時間Tobを算出する(図21(b)の位置での乗用移動体1Bの処理)。
ob=dob/v ・・・(10)
続いてステップS31において、CPU44は、前記第3の実施形態と同様に、乗用移動体1の車速vを検出する。
【0101】
続いてステップS6において、CPU44は、前記第2の実施形態や第3の実施形態と同様に、乗用移動体1の速度vが零よりも大きいか否かを判定する。CPU44は、乗用移動体1の速度vが零よりも大きい場合(v>0)、ステップS42に進む。また、CPU44は、乗用移動体1の速度vが零以下の場合(v≦0)、前記ステップS10に進む。
ステップS42では、CPU44は、対象物検知走行モード(追従及び停止モード)を実施する。この対象物検知走行モードでは、CPU44は、下記(11)式によりθ1_obを算出する。この演算は、姿勢角度成分算出部44bが行う。
θ1_ob=kob・v(t)・(Tob−TTC2+kvt) ・・・(11)
ここで、kvtは、乗用移動体1の速度vに関する比例ゲインである。
【0102】
さらに、対象物検知走行モードでは、前記(11)式により算出したθ1_obにローパスフィルタ処理を施して第2姿勢角成分θ1_ob_LPを得る。ローパスフィルタ処理を施す構成は、前記第1の実施形態と同様である(図8参照)。
そして、対象物検知走行モードでは、第2姿勢角成分θ1_ob_LPを追加入力した前記(5)式及び(6)式を基に、駆動輪3r,3lを駆動制御する。
続いてステップS8において、CPU44は、新たに検出距離dobを得る。そして、CPU44は、前記ステップS31からの処理を再び開始する。
【0103】
(動作及び作用)
主に対象物検知走行モードの動作及び作用を説明する。
乗用移動体1は、対象物検知センサ32が対象物110を検出し(対象物110の捕捉中)、かつ搭乗者200からの追従モード指令があると、その指令時の車速vを検出する(前記ステップS1、ステップS21、ステップS22)。そして、乗用移動体1は、検出距離dob及び車速vを用いて、制限時間Tobを算出する(前記ステップS41)。
それから、乗用移動体1は、停止するまで(v≦0になるまで)、対象物検知走行モード(追従モード)を実施する(前記ステップS31、ステップS6、ステップS42、ステップS8)。
【0104】
この対象物検知走行モードでは、乗用移動体1は、制限時間Tobと到達時間TTC2との差分、及び実時間で変化する車速vに応じたθ1_obを算出する(前記(11)式)。さらに、対象物検知走行モードでは、乗用移動体1は、その算出値にローパスフィルタ処理を施して第2姿勢角成分θ1_ob_LPを得る。そして、対象物検知走行モードでは、乗用移動体1は、前記(5)式及び(6)式を用いて、駆動輪3r,3lを駆動制御する(前記ステップS42)。
【0105】
そして、第4の実施形態の乗用移動体1は、前記第2の実施形態の乗用移動体1の動作と第3の実施形態の乗用移動体1の動作とを実現する。
すなわち、第4の実施形態では、倒立振子制御による駆動制御のオフセット量を乗用移動体1の本体速度v(t)(具体的には、前記(11)式のv(t)・kvt)に連動させている。これにより、対象物検知走行モードでは、乗用移動体1は、他の乗用移動体300に追従するようになる。
【0106】
具体的には、乗用移動体1は、他の乗用移動体300の減速等により該他の乗用移動体300との間の距離が短くなると、後傾して減速するようになる(図21(c)に示す乗用移動体1Cの状態)。また、乗用移動体1は、他の乗用移動体300の加速等により該他の乗用移動体300との間の距離が所定距離(制限時間Tob相当)よりも長くなると、前傾して加速する。例えば、図21において、他の乗用移動体300が加速している場合、(a)に示すように、乗用移動体1Aは、他の乗用移動体300に向かい前傾して加速するようになる。
【0107】
そして、乗用移動体1は、他の乗用移動体300が停止すると、該他の乗用移動体300から所定距離をおいて垂直立位状態で停止するようになる。
また、ローパスフィルタ処理を施して得た第2姿勢角成分θ1_ob_LPを用いることで、モード遷移が頻雑に発生しても、駆動輪3r,3lが過敏に変化してしまうのを防止でき、乗用移動体1が過敏にピッチ角変化してしまうのを防止できる。この結果、安定した追従走行を実現できる。
【0108】
(第4の実施形態の効果)
(1)角度補正成分算出手段が、到達時間と制限時間との差分、及び速度検出手段が検出した走行速度を基に、角度補正成分を算出することで、駆動制御手段は、到達時間を制限時間に収束させるよう各車輪の駆動トルクを制御する。
これにより、乗用移動体を対象物に追従させる走行制御を実現できる。
(2)角度補正成分算出手段は、
到達時間をTTC2とし、制限時間をTobとし、速度検出手段が検出した走行速度をv(t)とし、kob,kvtをゲインとした場合、
角度補正成分θ1_obを、
θ1_ob=kob・v(t)・(Tob−TTC2+kvt
として算出する。
【0109】
また、駆動制御手段は、加算値に基づく倒立振子制御では、
θ1_ob_LPをθ1_obにローパスフィルタ処理を施して得た値とし、θ1を筐体のピッチ方向の角度とし、θ1´を筐体のピッチ方向の角速度とし、θ1_sを搭乗者が筐体に搭乗し、かつ該筐体が静止状態にあるときの該筐体のピッチ方向の角度とし、θ2_rを右側車輪の回転角度とし、θ2_lを左側車輪の回転角度とし、θ2_r´を右側車輪の回転角速度とし、θ2_l´を左側車輪の回転角速度とし、θref_r´を右側車輪の回転角速度目標値とし、θref_l´を左側車輪の回転角速度目標値とし、k1,k3,k4を筐体のピッチ方向における安定化フィードバックゲイン値とし、ky,ky_dを筐体のヨー方向における安定化フィードバックゲイン値とした場合、
右側車輪の駆動トルクu_r及び左側車輪の駆動トルクu_lを、
u_r=k1(θ1−θ1_s+θ1_ob_LP)+k3θ1´+k4(θ2_r´−θref_r´)
−ky((θ2_r−∫θref_r´)−(θ2_l−∫θref_l´))−ky_d((θ2_r´−θref_r´)−(θ2_l´−θref_l´))
u_l=k1(θ1−θ1_s+θ1_ob_LP)+k3θ1´+k4(θ2_l´−θref_l´)
+ky((θ2_r−∫θref_r´)−(θ2_l−∫θref_l´))+ky_d((θ2_r´−θref_r´)−(θ2_l´−θref_l´))
により算出する。
これにより、対象物に応じた走行制御(対象物検知走行モード)では、通常の走行制御(通常走行モード)で用いる倒立振子制御(前記(1)式及び(2)式)と同様な制御で各車輪を駆動制御できる。
【0110】
(3)角度補正成分算出手段は、到達時間と制限時間との差分に速度検出手段が検出した走行速度を乗じた値を基に、角度補正成分を算出する(前記(11)式参照)。
これにより、乗用移動体が停止して走行速度が零になったとき、角度補正成分を零にすることができる。この結果、停止時の乗用移動体の姿勢を垂直立位状態にできる。
よって、乗用移動体を垂直立位状態から発進させることができ、不自然な姿勢変化を経ることなく乗用移動体を容易に再発進させることができる。また、速度相応の姿勢変化と減速制御とがより自然に両立されたものとなる。
なお、前記第1〜第4の実施形態では、乗用移動体の前進時のみ対象物検知走行モードを実行するようにしている。しかし、これに限定されず、乗用移動体の後方の物体を検知する対象物検知センサを設けて、前進及び後退時に対象物検知走行モードを実行することもできる。
【符号の説明】
【0111】
1 乗用移動体1、2 筐体、3r,3l 駆動輪、4r,4l 減速機、5r,5l 駆動モータ、7r,7l 補助バー、20 センサ部、21 ジャイロセンサ(ピッチ角検出手段)、22 加速度センサ、23 ロードセル、24r,24l エンコーダ(速度検出手段)、25 ローパスフィルタ(フィルタ手段)、32 対象物検知センサ、40 演算部、44 CPU(駆動制御手段)、44a モード判定部、44b 姿勢角度成分算出部(角度補正成分算出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭乗者が搭乗する筐体に左右2つの車輪が配置されている2輪独立駆動型の乗用移動体を駆動制御するものであり、前記2つの車輪を倒立振子制御を基に駆動制御する乗用移動体の駆動制御装置において、
前記筐体のピッチ方向の角度を検出するピッチ角検出手段と、
前記ピッチ角検出手段が検出した前記ピッチ方向の角度に基づいた前記倒立振子制御により、前記各車輪の駆動トルクを制御する駆動制御手段と、
前記乗用移動体の周囲に存在する対象物を検出すると共に、検出した対象物と乗用移動体との距離を検出する対象物検出手段と、
前記乗用移動体の走行速度を検出する速度検出手段と、
前記対象物検出手段によって検出された前記対象物との距離に応じた筐体のピッチ方向の角度補正成分を算出する角度補正成分算出手段と、
を備え、
前記駆動制御手段は、前記角度補正成分算出手段が算出した角度補正成分を前記ピッチ角検出手段が検出した前記ピッチ方向の角度に加算して前記ピッチ方向の角度を補正し、補正した前記ピッチ角度である加算値に基づいた前記倒立振子制御を行い、前記各車輪の駆動トルクを制御すること
を特徴とする乗用移動体の駆動制御装置。
【請求項2】
前記ピッチ方向の角度に加算する角度補正成分にローパスフィルタ処理を施すフィルタ手段を備え、
前記駆動制御手段は、前記フィルタ手段によってローパスフィルタ処理を施された前記角度補正成分を、前記ピッチ角検出手段が検出したピッチ方向の角度に加算することを特徴とする請求項1に記載の乗用移動体の駆動制御装置。
【請求項3】
前記駆動制御手段は、前記対象物検出手段が検出した対象物と乗用移動体との距離が予め定められた所定の距離である距離しきい値未満となったときに、前記加算値に基づく倒立振子制御を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の乗用移動体の駆動制御装置。
【請求項4】
前記駆動制御手段は、前記対象物検出手段が検出した対象物と乗用移動体との距離、及び前記速度検出手段が検出した走行速度を基に、前記対象物までの到達時間を算出し、
前記距離しきい値は、算出した到達時間が予め設定した制限時間未満となる距離であることを特徴とする請求項3に記載の乗用移動体の駆動制御装置。
【請求項5】
前記角度補正成分算出手段は、前記距離しきい値と、前記対象物検出手段が検出した対象物と乗用移動体との距離との差分を基に、前記角度補正成分を算出することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の乗用移動体の駆動制御装置。
【請求項6】
前記駆動制御手段は、前記加算値に基づく倒立振子制御を実行中に、前記対象物検出手段が検出した対象物と乗用移動体との距離が前記距離しきい値以上となった場合、又は前記速度検出手段が検出した走行速度が零になった場合、前記加算値に基づく倒立振子制御を中止することを特徴とする請求項3〜5の何れか1項に記載の乗用移動体の駆動制御装置。
【請求項7】
前記角度補正成分算出手段は、
前記対象物検出手段が検出した対象物と乗用移動体との距離をdobとし、前記距離しきい値をdob_sとし、kobをゲインとした場合、
前記角度補正成分θ1_obを、
θ1_ob=kob・(dob_s−dob
により算出し、
前記駆動制御手段は、前記加算値に基づく倒立振子制御では、
θ1_ob_LPを前記θ1_obにローパスフィルタ処理を施して得た値とし、θ1を前記筐体のピッチ方向の角度とし、θ1´を前記筐体のピッチ方向の角速度とし、θ1_sを搭乗者が前記筐体に搭乗し、かつ該筐体が静止状態にあるときの該筐体のピッチ方向の角度とし、θ2_rを右側車輪の回転角度とし、θ2_lを左側車輪の回転角度とし、θ2_r´を右側車輪の回転角速度とし、θ2_l´を左側車輪の回転角速度とし、θref_r´を右側車輪の回転角速度目標値とし、θref_l´を左側車輪の回転角速度目標値とし、k1,k3,k4を前記筐体のピッチ方向における安定化フィードバックゲイン値とし、ky,ky_dを前記筐体のヨー方向における安定化フィードバックゲイン値とした場合、
右側車輪の駆動トルクu_r及び左側車輪の駆動トルクu_lを、
u_r=k1(θ1−θ1_s+θ1_ob_LP)+k3θ1´+k4(θ2_r´−θref_r´)
−ky((θ2_r−∫θref_r´)−(θ2_l−∫θref_l´))−ky_d((θ2_r´−θref_r´)−(θ2_l´−θref_l´))
u_l=k1(θ1−θ1_s+θ1_ob_LP)+k3θ1´+k4(θ2_l´−θref_l´)
+ky((θ2_r−∫θref_r´)−(θ2_l−∫θref_l´))+ky_d((θ2_r´−θref_r´)−(θ2_l´−θref_l´))
により算出することを特徴とする請求項3〜6の何れか1項に記載の乗用移動体の駆動制御装置。
【請求項8】
前記角度補正成分算出手段が、前記対象物検出手段が検出した対象物と乗用移動体との距離と前記距離しきい値との差分、及び前記速度検出手段が検出した走行速度を基に、前記角度補正成分を算出することで、前記駆動制御手段は、前記加算値に基づく倒立振子制御では、前記対象物検出手段が検出した対象物と乗用移動体との距離を前記距離しきい値に収束させるよう前記各車輪の駆動トルクを制御することを特徴とする請求項3又は4に記載の乗用移動体の駆動制御装置。
【請求項9】
前記角度補正成分算出手段は、
前記対象物検出手段が検出した対象物と乗用移動体との距離をdobとし、前記距離しきい値をdob_sとし、kob及びkvをゲインとし、前記速度検出手段が検出した走行速度をv(t)とした場合、
前記角度補正成分θ1_obを、
θ1_ob=kob・(dob_s−dob)+kv・v(t)
により算出し、
前記駆動制御手段は、前記加算値に基づく倒立振子制御では、
θ1_ob_LPを前記θ1_obにローパスフィルタ処理を施して得た値とし、θ1を前記筐体のピッチ方向の角度とし、θ1´を前記筐体のピッチ方向の角速度とし、θ1_sを搭乗者が前記筐体に搭乗し、かつ該筐体が静止状態にあるときの該筐体のピッチ方向の角度とし、θ2_rを右側車輪の回転角度とし、θ2_lを左側車輪の回転角度とし、θ2_r´を右側車輪の回転角速度とし、θ2_l´を左側車輪の回転角速度とし、θref_r´を右側車輪の回転角速度目標値とし、θref_l´を左側車輪の回転角速度目標値とし、k1,k3,k4を前記筐体のピッチ方向における安定化フィードバックゲイン値とし、ky,ky_dを前記筐体のヨー方向における安定化フィードバックゲイン値とした場合、
右側車輪の駆動トルクu_r及び左側車輪の駆動トルクu_lを、
u_r=k1(θ1−θ1_s+θ1_ob_LP)+k3θ1´+k4(θ2_r´−θref_r´)
−ky((θ2_r−∫θref_r´)−(θ2_l−∫θref_l´))−ky_d((θ2_r´−θref_r´)−(θ2_l´−θref_l´))
u_l=k1(θ1−θ1_s+θ1_ob_LP)+k3θ1´+k4(θ2_l´−θref_l´)
+ky((θ2_r−∫θref_r´)−(θ2_l−∫θref_l´))+ky_d((θ2_r´−θref_r´)−(θ2_l´−θref_l´))
により算出することを特徴とする請求項8に記載の乗用移動体の駆動制御装置。
【請求項10】
前記角度補正成分算出手段は、前記到達時間と前記制限時間との差分に前記速度検出手段が検出した走行速度を乗じた値を基に、前記角度補正成分を算出することを特徴とする請求項4に記載の乗用移動体の駆動制御装置。
【請求項11】
前記駆動制御手段は、前記加算値に基づく倒立振子制御を実行中に、前記対象物検出手段が検出した対象物と乗用移動体との距離が前記距離しきい値以上となった場合、又は前記速度検出手段が検出した走行速度が零になった場合、前記加算値に基づく倒立振子制御を中止することを特徴とする請求項10に記載の乗用移動体の駆動制御装置。
【請求項12】
前記角度補正成分算出手段は、
前記到達時間をTTC2とし、前記制限時間をTobとし、前記速度検出手段が検出した走行速度をv(t)とし、kobをゲインとした場合、
前記角度補正成分θ1_obを、
θ1_ob=kob・v(t)・(Tob−TTC2)
として算出し、
前記駆動制御手段は、前記加算値に基づく倒立振子制御では、
θ1_ob_LPを前記θ1_obにローパスフィルタ処理を施して得た値とし、θ1を前記筐体のピッチ方向の角度とし、θ1´を前記筐体のピッチ方向の角速度とし、θ1_sを搭乗者が前記筐体に搭乗し、かつ該筐体が静止状態にあるときの該筐体のピッチ方向の角度とし、θ2_rを右側車輪の回転角度とし、θ2_lを左側車輪の回転角度とし、θ2_r´を右側車輪の回転角速度とし、θ2_l´を左側車輪の回転角速度とし、θref_r´を右側車輪の回転角速度目標値とし、θref_l´を左側車輪の回転角速度目標値とし、k1,k3,k4を前記筐体のピッチ方向における安定化フィードバックゲイン値とし、ky,ky_dを前記筐体のヨー方向における安定化フィードバックゲイン値とした場合、
右側車輪の駆動トルクu_r及び左側車輪の駆動トルクu_lを、
u_r=k1(θ1−θ1_s+θ1_ob_LP)+k3θ1´+k4(θ2_r´−θref_r´)
−ky((θ2_r−∫θref_r´)−(θ2_l−∫θref_l´))−ky_d((θ2_r´−θref_r´)−(θ2_l´−θref_l´))

u_l=k1(θ1−θ1_s+θ1_ob_LP)+k3θ1´+k4(θ2_l´−θref_l´)
+ky((θ2_r−∫θref_r´)−(θ2_l−∫θref_l´))+ky_d((θ2_r´−θref_r´)−(θ2_l´−θref_l´))
により算出することを特徴とする請求項10又は11に記載の乗用移動体の駆動制御装置。
【請求項13】
前記角度補正成分算出手段が、前記到達時間と前記制限時間との差分、及び前記速度検出手段が検出した走行速度を基に、前記角度補正成分を算出することで、前記駆動制御手段は、前記加算値に基づく倒立振子制御では、前記到達時間を前記制限時間に収束させるよう前記各車輪の駆動トルクを制御することを特徴とする請求項4に記載の乗用移動体の駆動制御装置。
【請求項14】
前記角度補正成分算出手段は、
前記到達時間をTTC2とし、前記制限時間をTobとし、前記速度検出手段が検出した走行速度をv(t)とし、kob,kvtをゲインとした場合、
前記角度補正成分θ1_obを、
θ1_ob=kob・v(t)・(Tob−TTC2+kvt
として算出し、
前記駆動制御手段は、前記加算値に基づく倒立振子制御では、
θ1_ob_LPを前記θ1_obにローパスフィルタ処理を施して得た値とし、θ1を前記筐体のピッチ方向の角度とし、θ1´を前記筐体のピッチ方向の角速度とし、θ1_sを搭乗者が前記筐体に搭乗し、かつ該筐体が静止状態にあるときの該筐体のピッチ方向の角度とし、θ2_rを右側車輪の回転角度とし、θ2_lを左側車輪の回転角度とし、θ2_r´を右側車輪の回転角速度とし、θ2_l´を左側車輪の回転角速度とし、θref_r´を右側車輪の回転角速度目標値とし、θref_l´を左側車輪の回転角速度目標値とし、k1,k3,k4を前記筐体のピッチ方向における安定化フィードバックゲイン値とし、ky,ky_dを前記筐体のヨー方向における安定化フィードバックゲイン値とした場合、
右側車輪の駆動トルクu_r及び左側車輪の駆動トルクu_lを、
u_r=k1(θ1−θ1_s+θ1_ob_LP)+k3θ1´+k4(θ2_r´−θref_r´)
−ky((θ2_r−∫θref_r´)−(θ2_l−∫θref_l´))−ky_d((θ2_r´−θref_r´)−(θ2_l´−θref_l´))
u_l=k1(θ1−θ1_s+θ1_ob_LP)+k3θ1´+k4(θ2_l´−θref_l´)
+ky((θ2_r−∫θref_r´)−(θ2_l−∫θref_l´))+ky_d((θ2_r´−θref_r´)−(θ2_l´−θref_l´))
により算出することを特徴とする請求項13に記載の乗用移動体の駆動制御装置。
【請求項15】
左右2つの車輪が配置され、前記2つの車輪を倒立振子制御を基に駆動制御する2輪独立駆動型の乗用移動体において、
前記2つの車輪が左右に配置されて搭乗者が搭乗する筐体と、
前記筐体のピッチ方向の角度を検出するピッチ角検出手段と、
前記ピッチ角検出手段が検出した前記ピッチ方向の角度に基づいた前記倒立振子制御により、前記各車輪の駆動トルクを制御する駆動制御手段と、
周囲に存在する対象物を検出すると共に、検出した対象物と乗用移動体との距離を検出する対象物検出手段と、
走行速度を検出する速度検出手段と、
前記対象物検出手段によって検出された前記対象物との距離に応じた筐体のピッチ方向の角度補正成分を算出する角度補正成分算出手段と、
を備え、
前記駆動制御手段は、前記角度補正成分算出手段が算出した角度補正成分を前記ピッチ角検出手段が検出した前記ピッチ方向の角度に加算して前記ピッチ方向の角度を補正し、補正した前記ピッチ角度である加算値に基づいた前記倒立振子制御を行い、前記各車輪の駆動トルクを制御すること
を特徴とする乗用移動体。
【請求項16】
搭乗者が搭乗する筐体に左右2つの車輪が配置されている2輪独立駆動型の乗用移動体を駆動制御するものであり、前記2つの車輪を倒立振子制御を基に駆動制御する乗用移動体の駆動制御方法において、
筐体のピッチ方向の検出角度に基づいた前記倒立振子制御により前記各車輪の駆動トルクを制御し、
乗用移動体の周囲に存在する対象物と該乗用移動体との距離に応じた筐体のピッチ方向の角度補正成分を算出し、算出した角度補正成分を前記ピッチ方向の検出角度に加算して前記ピッチ方向の検出角度を補正し、補正した前記ピッチ角度である加算値に基づいた前記倒立振子制御を行い、前記各車輪の駆動トルクを制御すること
を特徴とする乗用移動体の駆動制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−5991(P2011−5991A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152478(P2009−152478)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】