説明

乱数発生回路、無接触形のICタグ、リーダライタ、ICタグシステム

【課題】リーダライタとのデータ通信を適切に維持する。
【解決手段】ICタグ20は、論理制御回路25用の基本クロック信号CLを発生する乱数発生回路26と、電源電圧Vd の確立により初期信号をランダムなインタバル時間ごとにリーダライタに繰返し送信する送信手段と、リーダライタからのID情報を含むコマンドを受信する受信手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無接触形のICタグ用のICチップに組み込む乱数発生回路、無接触形のICタグ、無接触形のICタグ用のリーダライタ、無接触形のICタグシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
電波を介してリーダライタと双方向にデータ通信する無接触形のICタグは、セキュリティの向上のために、暗号化用の乱数発生回路を組み込むことがある。
【0003】
従来の乱数発生回路は、電気回路の熱雑音を増幅するもの(たとえば特許文献1)、特殊な半導体素子(Si ドットMOSFET)内の単一電子現象を利用するもの(たとえば非特許文献1)などの物理乱数発生回路が知られている。なお、数学的な手法によるソフトウェア的な擬似乱数発生回路や、高周波の発振回路と、低速カウンタ、平滑化回路とを組み合わせる乱数発生回路は、回路規模や消費電力が過大になりがちであり、ICタグなどの小形機器に搭載することに不向きであるとされている。
【0004】
一方、無接触形ICタグシステムにおいて、ICタグとリーダライタとのデータ通信は、リーダライタからの搬送波を利用してICタグ内の論理制御回路用の基本クロック信号を作る同期通信方式が一般的である(たとえば特許文献2、3)。
【特許文献1】特開2002−41281号公報
【特許文献2】特開平7−105330号公報
【特許文献3】特開平9−214366号公報
【非特許文献1】棚本 哲史他、超小型乱数発生素子、インターネット情報、www.toshiba.co.jp/tech/review/2006/02/61_02pdf/a05.pdf
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来技術によるときは、従来の物理乱数発生回路のうち、電気回路の熱雑音を利用するものは、増幅回路やフィルタ回路が大げさになり、所要回路面積が過大になりがちであり、単一電子現象を利用するものは、特殊な半導体素子が必要であり、一般的でないという問題があった。また、従来のデータ通信方式は、リーダライタからの搬送波の周波数に自由度がないため、地域や用途などによって適用が制限されることがある上、複数のICタグが同時に応答すると、通信が錯綜して正常なデータ通信ができなくなることがあるという問題があった。
【0006】
そこで、この発明の目的は、かかる従来技術の問題に鑑み、簡単な標準的な回路素子を組み合わせながら、無接触形のICタグ用のICチップに好適に組み込むことができる乱数発生回路と、リーダライタからの搬送波の周波数に依存することなく動作し、複数のICタグが同時に応答しても適切なデータ通信を維持することができる無接触形のICタグ、リーダライタ、ICタグシステムとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するためのこの出願の第1発明(請求項1に係る発明をいう、以下同じ)の構成は、無接触形のICタグに組み込む乱数発生回路であって、クロック信号を発生する第1のパルス源と、第1のパルス源からのクロック信号より長いパルス周期のクロック信号を発生する第2のパルス源と、第1、第2のパルス源からの各クロック信号をそれぞれシリアル入力端子、クロック入力端子に入力するシフトレジスタとを備えてなり、シフトレジスタは、第2のパルス源からのクロック信号に基づき、第1のパルス源からのクロック信号のレベルをサンプリングして2値データとして時系列的に記憶し、所定ビット数の乱数としてパラレル出力することをその要旨とする。
【0008】
なお、第1のパルス源は、パルス発振器の出力と、リーダライタからの搬送波の波形整形出力とのいずれかを選択出力可能であってもよく、第1のパルス源からのクロック信号は、ICタグの論理制御回路用の基本クロック信号として使用可能であってもよく、第2のパルス源からのクロック信号は、ICタグに搭載するメモリの書込み電圧を生成する昇圧回路用のクロック信号として使用可能であってもよい。
【0009】
第2発明(請求項5に係る発明をいう、以下同じ)の構成は、電波を介してリーダライタと双方向にデータ通信する無接触形のICタグであって、論理制御回路用の基本クロック信号を発生するクロック発生手段と、電源電圧の確立により同期信号、ID情報を含む初期信号をランダムなインタバル時間ごとにリーダライタに繰返し送信する送信手段と、リーダライタからのID情報を含むコマンドを受信する受信手段とを備えてなり、送信手段は、クロック発生手段からの基本クロック信号に基づいて初期信号のビットレートを定め、受信手段は、リーダライタからのコマンドが自ICタグに対する選択コマンドであれば、送信手段による初期信号の繰返し送信を停止させてリーダライタからの自ICタグに対する通常コマンドの受信を待ち、他ICタグに対するコマンドであれば、送信手段による初期信号の繰返し送信を一時中断させることをその要旨とする。
【0010】
なお、第1発明に係る乱数発生回路を付設し、送信手段は、初期信号の繰返し送信の都度、乱数発生回路からの乱数に基づいてインタバル時間を設定することができ、クロック発生手段は、第1のパルス源からのクロック信号を基本クロック信号として出力することができる。
【0011】
第3発明(請求項8に係る発明をいう、以下同じ)の構成は、電波を介して複数の無接触形のICタグと双方向にデータ通信するリーダライタであって、ICタグからの同期信号、ID情報を含む初期信号を受信する受信手段と、受信手段によって受信された同期信号のビットレートを計測し、ID情報ごとに記憶する計測手段と、特定のICタグに対してID情報を含むコマンドを送信する送信手段とを備えてなり、送信手段は、記憶されているID情報ごとのビットレートに合わせてコマンドのビットレートを設定することをその要旨とする。
【0012】
なお、受信手段は、ICタグからのID情報を含む応答信号を受信し、計測手段は、受信手段によって受信された応答信号のビットレートを計測し、ID情報ごとに記憶されているビットレートを更新することができる。
【0013】
第4発明(請求項10に係る発明をいう、以下同じ)の構成は、第2発明に係る複数のICタグと、第3発明に係るリーダライタとを組み合わせてなることをその要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
かかる第1発明の構成によるときは、シフトレジスタは、第1のパルス源からの高周波のクロック信号をシリアル入力端子に入力し、第2のパルス源からの低周波のクロック信号をクロック入力端子に入力することにより、後者のクロック信号に基づいて前者のクロック信号のレベルをサンプリングし、1または0の2値データとして時系列的に記憶して所定ビット数の乱数としてパラレル出力する。第2のパルス源からのクロック信号により第1のパルス源からのクロック信号をサンプリングするとき、第1のパルス源からのクロック信号のレベルは、1または0のいずれかであって、予測不能であるからである。そこで、第1発明は、シフトレジスタに格別な平滑化回路を付設しなくても、第1、第2のパルス源からの各クロック信号の一方または双方の微少な周波数変動により乱数データを大幅に変動させることができる上、消費電力が小さく、所要回路面積も小さくて済み、無接触形のICタグ用のICチップに好適に組み込むことができる。
【0015】
なお、シフトレジスタのビット数は、パラレル出力する乱数をセキュリティ用の暗号鍵として使用することを考慮して、16、32、64、128ビット程度にすることが好ましい。また、第1、第2のパルス源は、それぞれのクロック信号が互いに独立であり、相関性を有しないものとし、少なくとも一方のパルス源は、たとえば電源電圧、周囲温度などの動作パラメータに対して発振周波数の安定度がさほど高くないことが好ましい。また、双方のパルス源を同一の回路構成に揃えるときは、たとえば回路素子の形式などを違えることにより、周波数の安定度に差違を生じさせることが好ましい。
【0016】
第1のパルス源は、独立のパルス発振器を使用するに代えて、リーダライタからの搬送波を波形整形して出力してもよい。第2のパルス源は、当然に独立のパルス発振器であるから、第1のパルス源として独立のパルス発振器を使用しないことにより、第1、第2のパルス源からのクロック信号を互いに完全に独立させ、乱数特性を改善することができる。ただし、このときの第2のパルス源は、発振周波数の安定度が低い回路構成とする。
【0017】
第1のパルス源からのクロック信号をICタグの論理制御回路用の基本クロック信号として使用すれば、基本クロック信号を発生させるためのクロック発生手段をICタグ内に別に設ける必要がない。また、第2のパルス源からのクロック信号をICタグに搭載するメモリ(たとえばEEPROMなどの書替可能な不揮発性メモリ)の書込み電圧生成用のクロック信号として使用すれば、専用のクロック信号発生手段をICタグ内に別に設ける必要がない。
【0018】
第2発明の構成によるときは、ICタグがリーダライタの通信可能領域に進入して電源電圧が確立すると、送信手段は、ランダムなインタバル時間ごとに初期信号を繰返し送信する。そこで、仮に複数のICタグが同時にリーダライタの通信可能領域に進入した場合であっても、リーダライタは、少なくとも2回目以降に送信されるいずれかのICタグからの初期信号を確実に受信し、初期信号に含まれるID情報に基づいてICタグを特定することができる。各ICタグからの初期信号は、ランダムなインタバル時間ごとに繰返し送信されるからである。一方、受信手段は、リーダライタからのコマンドが自ICタグに対する選択コマンドであれば、リーダライタとの通信が確立されたと判断し、初期信号の繰返し送信を停止させて、リーダライタからの自ICタグに対するデータ通信用の通常コマンドの受信を待てばよく、他ICタグに対するコマンドであれば、初期信号の繰返し送信を一時中断させることにより、リーダライタと他ICタグとのデータ通信の妨害を回避する。
【0019】
なお、リーダライタからのコマンドには、ICタグからの初期信号に応答する選択コマンドと、データ通信用の通常コマンド(たとえばリードコマンド、ライトコマンド)とがあるものとし、いずれのコマンドにも、ICタグを特定するID情報が含まれているものとする。また、送信手段は、クロック発生手段からの基本クロック信号に基づいて初期信号のビットレートを定めるから、リーダライタにおいてそれを計測してコマンドに反映させることにより、リーダライタからの搬送波の周波数に依存しないデータ通信を実現することができる。
【0020】
第1発明に係る乱数発生回路を付設すれば、送信回路は、乱数発生回路からの乱数に基づいて、初期信号の繰返し送信の都度、繰返し送信のインタバル時間をランダムに設定することができる。また、乱数発生回路の第1のパルス源からのクロック信号を論理制御回路用の基本クロック信号として出力すれば、格別なクロック発生手段を別に設ける必要がない。
【0021】
第3発明の構成によるときは、計測手段は、受信手段によって受信されたICタグからの初期信号に含まれる同期信号のビットレートを計測し、それをID情報ごとに記憶する。また、送信手段は、特定のICタグに対してコマンドを送信するに際し、そのICタグのID情報をコマンドに付加するとともに、ID情報ごとに記憶されているビットレートに合わせてコマンドのビットレートを設定する。そこで、ICタグ側では、自己が送出した初期信号のビットレートと同一のビットレートのコマンドを受信すればよく、リーダライタからの搬送波の周波数に全く依存しない双方向のデータ通信を実現することができる。なお、計測手段は、ID情報ごとにビットレートを記憶するから、ICタグごとにビットレートが異なっていてもよく、ビットレートが同一のICタグが複数存在していてもよい。
【0022】
計測手段は、受信手段によって受信されたICタグからの応答信号のビットレートを計測し、ID情報ごとに記憶されているビットレートを更新することにより、送信手段は、ICタグに対し、そのICタグの最新のビットレートに合わせてコマンドを送信することができる。すなわち、ICタグ側の基本クロック信号が時間的に変動する場合であっても、常に最新のビットレートを反映して確実なデータ通信を実現することができる。
【0023】
第4発明の構成によるときは、第2発明に係る複数のICタグと、第3発明に係るリーダライタとを組み合わせることによって、リーダライタからの搬送波の周波数に依存することなく、複数のICタグがリーダライタの通信可能領域に同時に進入しても、互いの通信が錯綜することなく、適切な双方向のデータ通信を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を以って発明の実施の形態を説明する。
【0025】
無接触形のICタグシステムは、リーダライタ10と、複数の無接触形のICタグ20、20…とを組み合わせてなる(図1)。
【0026】
リーダライタ10には、電波Wを介してICタグ20、20…とデータ通信するために、送受信用のアンテナ10aが付設されている。ただし、図1において、ICタグ20、20…は、図示しないコンベヤ上の図示しない物品に個別に付設され、矢印K方向に搬送される。リーダライタ10は、ICタグ20、20…の進行経路と交錯する通信可能領域Sを有し、各ICタグ20は、通信可能領域S内にあるとき、電波Wを介してリーダライタ10と双方向にデータ通信することができる。
【0027】
リーダライタ10は、アンテナ10aに接続する受信回路11、送信回路12と、マイクロコンピュータ13とを備えている(図2)。マイクロコンピュータ13には、メモリ14が内蔵されている。受信回路11の出力は、マイクロコンピュータ13に接続され、マイクロコンピュータ13の出力は、送信回路12に接続されている。また、マイクロコンピュータ13は、図示しない外部のホストコンピュータと双方向に接続されている。
【0028】
ICタグ20は、コイルL、コンデンサCによる並列共振回路21と、電源回路22、送信回路23、受信回路24と、マイクロコンピュータからなる論理制御回路25と、乱数発生回路26とを備えている。ただし、論理制御回路25には、たとえばEEPROMのような書替可能な不揮発性のメモリ25aが双方向に接続されている。乱数発生回路26は、パルス発振器26a、26b、シフトレジスタ26cと、波形整形回路26d、スイッチ26eとを備えている。なお、図3において、ICタグ20の各構成部材は、ICタグ20用のICチップに一体に組み込むことができる。ただし、コイルL、コンデンサCの一方または双方は、ICチップの外部に設けてもよい。
【0029】
電源回路22、送信回路23、受信回路24は、並列共振回路21に並列接続されている。なお、受信回路24の出力は、論理制御回路25に接続され、論理制御回路25の出力は、送信回路23に接続されている。また、電源回路22の出力は、直流の電源電圧Vd としてICタグ20の各構成部材に給電されている。
【0030】
並列共振回路21の一端は、波形整形回路26dを介してスイッチ26eの一方の切換端子に接続され、パルス発振器26aの出力は、スイッチ26eの他方の切換端子に接続され、スイッチ26eの共通端子は、シフトレジスタ26cのシリアル入力端子STに接続されている。なお、スイッチ26eの共通端子は、基本クロック信号CLとして論理制御回路25に分岐入力されている。パルス発振器26bの出力は、シフトレジスタ26cのクロック入力端子CTに接続され、メモリ25aの書込み電圧を生成する図示しない昇圧回路用のクロック信号WRとして論理制御回路25に分岐入力されている。シフトレジスタ26cのパラレル出力端子PTは、論理制御回路25に接続されている。
【0031】
リーダライタ10は、送信回路12、アンテナ10aを介してICタグ20、20…に電波Wを送信することができる(図1、図2)。ただし、電波Wは、高周波の搬送波W1 に対して任意のパルスデータDが重畳されており(図4)、パルスデータDは、マイクロコンピュータ13により準備され(図2)、送信回路12内の図示しない変調回路を介して搬送波W1 に重畳される。なお、パルスデータDによる電波Wの変調率は、図4のように100%未満に設定してもよく、100%に設定してもよい。
【0032】
ICタグ20がリーダライタ10の通信可能領域Sに進入すると、ICタグ20のコイルL、コンデンサCの両端には、リーダライタ10からの電波Wの搬送波W1 による高周波電圧Vf が発生する(図3)。そこで、電源回路22は、高周波電圧Vf を整流平滑して直流の電源電圧Vd を作り、ICタグ20の各部に供給してICタグ20を動作させる。たとえば、受信回路24は、高周波電圧Vf を入力し、リーダライタ10からの電波Wに重畳されているパルスデータDを復調して論理制御回路25に送出するから、論理制御回路25は、パルスデータDを解読し、パルスデータDの内容に従って所定の動作を実行することができる。
【0033】
また、論理制御回路25は、必要に応じて、リーダライタ10に向けて発信すべきデータを別のパルスデータD1 として送信回路23に送出し、送信回路23は、パルスデータD1 によりリーダライタ10からの搬送波W1 を負荷変調し、リーダライタ10に送信する。そこで、リーダライタ10の受信回路11は、パルスデータD1 を復調してマイクロコンピュータ13に送出し(図2)、マイクロコンピュータ13は、パルスデータD1 を解読して所定の動作を実行することができる。
【0034】
図3において、論理制御回路25は、乱数発生回路26からの基本クロック信号CLに基づいて動作し、メモリ25aの書替が必要なときは、乱数発生回路26からのクロック信号WRを利用して、図示しない昇圧回路により書替用の高電圧を作る。基本クロック信号CLは、スイッチ26eをパルス発振器26a側に切り換えることにより、パルス発振器26aの出力を選択し、スイッチ26eを波形整形回路26d側に切り換えることにより、高周波電圧Vf 、すなわちリーダライタ10からの搬送波W1 の波形整形出力を選択することができる。なお、基本クロック信号CL、クロック信号WRのパルス周期Tc 、Tw は、Tw ≫Tc に設定されている(図5)。ただし、パルス発振器26aの発振周波数は、高周波の搬送波W1 の周波数より低いものとし、スイッチ26eは、搬送波W1 の周波数が基本クロック信号CLとして高過ぎるとき、パルス発振器26a側に切り換える。
【0035】
シフトレジスタ26cは、基本クロック信号CL、クロック信号WRをそれぞれシリアル入力端子ST、クロック入力端子CTに入力することにより、クロック信号WRの立上りまたは立下りのエッジごとに基本クロック信号CLのレベルをサンプリングし、1または0の2値データとして時系列的に記憶する。ただし、図5において、クロック信号WRから基本クロック信号CLに向かう矢印は、クロック信号WRの立上りのエッジにより基本クロック信号CLのレベルをサンプリングすることを示している。
【0036】
一方、シフトレジスタ26cは、このようにして記憶した所定ビット数の2値データをパラレル出力端子PTから乱数Rとして論理制御回路25にパラレル出力することができる。基本クロック信号CL、クロック信号WRは、それぞれパルス発振器26a、波形整形回路26d、スイッチ26eからなる第1のパルス源からのクロック信号、パルス発振器26bからなる第2のパルス源からのクロック信号であって、両者のクロック信号は、互いに相関性がなく、後者のクロック信号に基づいてサンプリングされる前者のクロック信号の各サンプリング時点のレベルは、予測不能であるからである。なお、乱数発生回路26は、常時作動させ、第2のパルス源からのクロック信号の1周期ごとに異なる乱数Rを連続的に発生させてもよく、必要に応じて、論理制御回路25からの図示しない指令信号によって作動させ、その都度新規の乱数Rを発生させてもよい。
【0037】
ICタグ20は、リーダライタ10の通信可能領域Sに進入し、電源回路22からの電源電圧Vd が確立すると、たとえば図6のプログラムフローチャートに従って動作する。
【0038】
ICタグ20の論理制御回路25は、まず、乱数発生回路26から乱数Rを読み出し、乱数Rに基づいて、初期信号の繰返し送信のインタバル時間を設定する(図6のプログラムステップ(1)、以下、単に(1)のように記す)。つづいて、論理制御回路25は、送信回路23を介して、リーダライタ10に向けて初期信号を送信する(2)。ただし、論理制御回路25は、乱数発生回路26からの基本クロック信号CLに基づいて作動し、基本クロック信号CLに基づいて初期信号のビットレートを定めるものとする。次に、論理制御回路25は、受信回路24を介して受信するリーダライタ10からの電波WにいずれかのICタグ20に対するコマンドが重畳されているか否かを判断し(3)、リーダライタ10からのコマンドを検知しない限り、インタバル時間の経過を待って(6)、乱数発生回路26からの乱数Rを新たに読み出し(1)、以下同様の動作を繰り返す((1)〜(3)、(6)、(1))。
【0039】
ここで、ICタグ20からの初期信号、リーダライタ10からのコマンドのフォーマットは、たとえば図7のとおりである。初期信号は、たとえば図4のパルスデータDのような規則的なビットパターンの4〜16周期分からなるスタート信号、2値数値の11001110のような固定パターンの同期信号、ICタグ20を識別するための固有のID情報と、同期信号、ID情報を対象とするエラーチェック用のCRC(Cyclic Redundancy Check)情報、固定パターンのエンド信号とを縦続して構成されている。また、コマンドは、スタート信号、コマンドの種類を示すコマンドコードにつづけて、ICタグ20を指定するID情報と、必要なコマンドデータと、コマンドコード、ID情報、コマンドデータを対象とするCRC情報と、エンド信号とを縦続して構成されている。
【0040】
なお、図7には、リーダライタ10からのコマンドに対して応答するためのICタグ20からの必要な応答信号の他、リーダライタ10からの選択コマンド、リーダライタ10からのリードコマンド、ライトコマンドの各フォーマットが併せて図示されている。ただし、リーダライタ10からのコマンドには、選択コマンド、通常コマンドがあり、通常コマンドには、リードコマンド、ライトコマンドなどがあるものとする。そこで、ICタグ20の論理制御回路25は、図6のプログラムステップ(1)〜(3)、(6)、(1)を繰返し実行することにより、乱数発生回路26からの乱数Rに基づいて、同期信号、ID情報を含む初期信号をランダムなインタバル時間ごとに送信回路23を介してリーダライタ10に繰返し送信するとともに、基本クロック信号CLに基づいて初期信号のビットレートを定めることができる。
【0041】
一方、論理制御回路25は、インタバル時間の間に受信回路24を介してリーダライタ10からのコマンド(選択コマンドまたは通常コマンド)を検知すると(3)、そのコマンドが自ICタグ20に対する選択コマンドであれば((4)、(5))、初期信号の繰返し送信を停止させてリーダライタ10からの通常コマンドの受信を待つ(8)。また、リーダライタ10からのコマンドが自ICタグ20に対するコマンドでなく、他ICタグ20に対するコマンドであれば(4)、通常よりも長めのインタバル時間を設定して初期信号の繰返し送信を一時中断させる((7)、(6))。さらに、リーダライタ10からのコマンドが自ICタグ20に対する選択コマンドでないときは((4)、(5))、通常のランダムなインタバル時間による初期信号の繰返し送信を続行する((6)、(1)〜(6))。
【0042】
なお、論理制御回路25は、図6のプログラムステップ(8)において、受信回路24を介してリーダライタ10からの通常コマンド(リードコマンドまたはライトコマンド)を受信すると、それを実行する(9)。すなわち、リードコマンドであれば、メモリ25aの指定の読出しアドレスの内容を読み出し、応答信号として送信回路23を介してリーダライタ10に送信し、ライトコマンドであれば、メモリ25aの指定の書込みアドレスに指定の書込みデータを書き込めばよい。
【0043】
そこで、図3において、パルス発振器26a、波形整形回路26d、スイッチ26eは、論理制御回路25用の基本クロック信号CLを発生するクロック発生手段となっている。送信回路23と、図6のプログラムステップ(1)、(2)、(6)相当の論理制御回路25の機能は、電源電圧Vd の確立により同期信号、ID情報を含む初期信号をランダムなインタバル時間ごとにリーダライタ10に繰返し送信する送信手段になっており、送信手段は、クロック発生手段からの基本クロック信号CLに基づいて初期信号のビットレートを定めている。また、受信回路24と、図6のプログラムステップ(3)〜(5)、(7)、(8)相当の論理制御回路25の機能は、リーダライタ10からのID情報を含むコマンドを受信する受信手段となっており、受信手段は、リーダライタ10からのコマンドが自ICタグ20に対する選択コマンドであれば、初期信号の繰返し送信を停止させて自ICタグ20に対する通常コマンドを待ち、他ICタグ20に対するコマンドであれば、初期信号の繰返し送信を一時中断させる。
【0044】
リーダライタ10は、電源が投入されると、たとえば図8のプログラムフローチャートに従って動作する。
【0045】
リーダライタ10のマイクロコンピュータ13は、まず、送信回路12を作動させてアンテナ10aから電波Wの搬送波W1 を連続送信し、受信回路11を介して、通信可能領域Sに進入する任意のICタグ20からの初期信号の受信を待って待機する(図8のプログラムステップ(1)、以下、単に(1)のように記す)。一方、任意のICタグ20がリーダライタ10の通信可能領域Sに進入すると、そのICタグ20は初期信号を送信するから(図6のプログラムステップ(2))、マイクロコンピュータ13は、受信回路11を介して初期信号のスタート信号を認識し(1)、初期信号に含まれる各データを読み取るとともに、同期信号のビットレートを計測する(2)。
【0046】
つづいて、マイクロコンピュータ13は、初期信号から読み取ったCRC情報、ID情報の正否をチェックし((3)、(4))、CRC情報が正常であり、ID情報が有効であれば、ID情報とともにビットレートをメモリ14に記憶するが(5)、CRC情報、ID情報の一方または双方が正しくなければ、ICタグ20からの初期信号そのものを無視する((3)、(4)、(1))。なお、通信可能領域S内のICタグ20は、ランダムなインタバル時間ごとに初期信号を繰返し送信するから、最初の初期信号が無視されても、後続のいずれかの初期信号が正しく受信され、リーダライタ10、ICタグ20間の通信が確立されると((1)〜(4))、そのときの同期信号のビットレートがID情報ごとに記憶される(5)。
【0047】
次いで、マイクロコンピュータ13は、ICタグ20に対し、送信回路12を介して、そのICタグ20のID情報を含む選択コマンドを送信する(6)。なお、このときの選択コマンドのビットレートは、ICタグ20からの初期信号から計測され、メモリ14に記憶されているビットレートに合致させるものとする。そこで、ICタグ20の論理制御回路25は、自己が送出した初期信号と同一のビットレートの自己宛ての選択コマンドを容易に、しかも確実に検出することができる(図6のプログラムステップ(3)〜(5))。
【0048】
ICタグ20は、自ICタグ20に対する選択コマンドを受信すると、初期信号の繰返し送信を停止して、リーダライタ10からの通常コマンドの受信を待つ(図6のプログラムステップ((4)、(5)、(8))。そこで、リーダライタ10のマイクロコンピュータ13は、必要に応じて(7)、ICタグ20に対して通常コマンド(リードコマンドまたはライトコマンド)を送信し(8)、特にリードコマンドの場合は、受信回路11を介してICタグ20からの正常な応答信号が得られるまで、通常コマンドを繰返し送信する((8)、(9)、(8))。なお、このときの通常コマンドのビットレートも、先きにID情報ごとに記憶されているビットレートに合致させるものとする。
【0049】
そこで、図2の受信回路11と、図8のプログラムステップ(1)相当のマイクロコンピュータ13の機能は、ICタグ20からの初期信号を受信する受信手段となっている。また、図8のプログラムステップ(2)〜(5)相当のマイクロコンピュータ13の機能は、受信手段によって受信された同期信号のビットレートを計測し、ID情報ごとに記憶する計測手段となっている。さらに、図2の送信回路12と、図8のプログラムステップ(6)、(8)相当のマイクロコンピュータ13の機能は、特定のICタグ20に対してID情報を含むコマンドを送信する送信手段となっており、送信手段は、記憶されているID情報ごとのビットレートに合わせてコマンドのビットレートを設定することができる。
【0050】
なお、ICタグ20は、リーダライタ10からのコマンドが自ICタグ20に対する選択コマンドであることを認識すると(図6のプログラムステップ(3)〜(5))、同図のプログラムステップ(8)に進んでリーダライタ10からの通常コマンドを待つに先き立って、選択コマンドを正しく受信した旨の応答信号をリーダライタ10に送信してもよい。このときのリーダライタ10は、たとえば図8のプログラムステップ(6)において選択コマンドを送信すると、ICタグ20からの応答信号を確認するまで選択コマンドを繰返し送信し、応答信号を確認することにより、プログラムステップ(8)の通常コマンドの送信に進むことができる。
【0051】
同様に、ICタグ20は、図6のプログラムステップ(8)、(9)において、リーダライタ10からの通常コマンドがリードコマンドのみならず、ライトコマンドのときにもリーダライタ10に応答信号を送信してもよい。このときのリーダライタ10は、図8のプログラムステップ(8)、(9)において、通常コマンドがライトコマンドのときでも、ICタグ20からの応答信号が得られるまで通常コマンドを繰返し送信することができる。
【0052】
また、以上のようにしてICタグ20からの応答信号が得られるとき、リーダライタ10のマイクロコンピュータ13は、ICタグ20からの応答信号のビットレートを再計測し、応答信号に含まれるID情報に従って、ID情報ごとにメモリ14に記憶されているビットレートを更新することにより、その後のコマンドのビットレートを最新のビットレートに合致させることができる。すなわち、計測手段は、受信手段によって受信された応答信号のビットレートを計測し、ID情報ごとに記憶されているビットレートを更新した上、その後のコマンドのビットレートに反映させることができる。
【0053】
なお、このシステムは、リーダライタ10の通信可能領域S内に複数のICタグ20、20が同時に存在しても(図9)、リーダライタ10と各ICタグ20とのデータ通信の錯綜を回避することができる。
【0054】
たとえば、複数のICタグ20、20が同時に通信可能領域Sに進入しても(図9(A))、ICタグ20、20は、それぞれランダムなインタバル時間ごとに初期信号を繰返し送信するから(図6のプログラムステップ(1)〜(6)、(1))、各ICタグ20からの少なくとも2回目以降の初期信号の送信タイミングが時間的にずれることにより、リーダライタ10は、特定の1個のICタグ20との通信を容易に確立することができる。また、このようにして1個のICタグ20との通信が確立すると、他のICタグ20は、初期信号の繰返し送信を一時中断し(図6のプログラムステップ(3)、(4)、(7)、(6))、先に通信が確立したICタグ20の通信を妨げるおそれがない。同様に、複数のICタグ20、20が相前後してリーダライタ10の通信可能領域Sに進入しても(図9(B))、先のICタグ20とリーダライタ10との間に確立されている通信が優先され、後のICタグ20が先のICタグ20の通信を妨げるおそれがない。
【0055】
以上の説明において、ICタグ20の論理制御回路25は、マイクロコンピュータ内のソフトウェアによって構成するに代えて、ハードウェアによるロジック回路によって構築することができる。このとき、図6のプログラムステップ(3)のリーダライタ10からのコマンドの検知機能は、初期信号の繰返し送信のインタバル時間の間に限らず、初期信号の送信中を含む図6のプログラムステップ(1)〜(3)、(6)の全期間において有効であり、論理制御回路25は、リーダライタ10からのコマンドを検知すると、送信中の初期信号を中断させ、図6のプログラムステップ(4)、(5)の判定を優先させるものとする。なお、このとき、リーダライタ10からのコマンドと、ICタグ20からの初期信号を峻別するために、リーダライタ10からの電波Wは、変調率100%に、または100%近くに設定することが好ましい。ただし、以上のようなリーダライタ10からのコマンドの検知と、それに伴う判定の優先動作は、ソフトウェアによる論理制御回路25であっても、たとえばマイクロコンピュータの割込機能を利用して実現可能である。
【0056】
また、ICタグ20の論理制御回路25は、初期信号、応答信号を送出するに際し、乱数発生回路26からの最新の乱数Rを暗号鍵として初期信号、応答信号を暗号化して通信のセキュリティを向上させることができる。なお、このとき、ICタグ20は、乱数Rに基づく暗号鍵を初期信号、応答信号に付加して送信するものとし、リーダライタ10は、このようにして送信される暗号鍵を利用して初期信号、応答信号を復号化する。また、リーダライタ10も、ICタグ20からの暗号鍵によりコマンドを暗号化して送信することができる。ただし、暗号化のロジックは、ICタグ20、リーダライタ10の双方にあらかじめ共通に記憶させておくものとする。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】全体模式構成図
【図2】リーダライタのブロック系統図
【図3】ICタグのブロック系統図
【図4】データ通信用電波の波形図
【図5】基本クロック信号、クロック信号の波形図
【図6】ICタグのプログラムフローチャート
【図7】データ通信用の信号フォーマット
【図8】リーダライタのプログラムフローチャート
【図9】動作状態を説明する図1相当説明図
【符号の説明】
【0058】
W…電波
W1 …搬送波
R…乱数
Vd …電源電圧
CL…基本クロック信号
WR…クロック信号
Tc 、Tw …パルス周期
ST…シリアル入力端子
CT…クロック入力端子
10…リーダライタ
20…ICタグ
25…論理制御回路
25a…メモリ
26…乱数発生回路
26a、26b…パルス発振器
26c…シフトレジスタ

特許出願人 株式会社 エフ・イー・シー
株式会社 ジクシス
代理人 弁理士 松 田 忠 秋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無接触形のICタグに組み込む乱数発生回路であって、クロック信号を発生する第1のパルス源と、該第1のパルス源からのクロック信号より長いパルス周期のクロック信号を発生する第2のパルス源と、前記第1、第2のパルス源からの各クロック信号をそれぞれシリアル入力端子、クロック入力端子に入力するシフトレジスタとを備えてなり、該シフトレジスタは、前記第2のパルス源からのクロック信号に基づき、前記第1のパルス源からのクロック信号のレベルをサンプリングして2値データとして時系列的に記憶し、所定ビット数の乱数としてパラレル出力することを特徴とする乱数発生回路。
【請求項2】
前記第1のパルス源は、パルス発振器の出力と、リーダライタからの搬送波の波形整形出力とのいずれかを選択出力可能であることを特徴とする請求項1記載の乱数発生回路。
【請求項3】
前記第1のパルス源からのクロック信号は、ICタグの論理制御回路用の基本クロック信号として使用可能であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の乱数発生回路。
【請求項4】
前記第2のパルス源からのクロック信号は、ICタグに搭載するメモリの書込み電圧を生成する昇圧回路用のクロック信号として使用可能であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか記載の乱数発生回路。
【請求項5】
電波を介してリーダライタと双方向にデータ通信する無接触形のICタグであって、論理制御回路用の基本クロック信号を発生するクロック発生手段と、電源電圧の確立により同期信号、ID情報を含む初期信号をランダムなインタバル時間ごとにリーダライタに繰返し送信する送信手段と、リーダライタからのID情報を含むコマンドを受信する受信手段とを備えてなり、前記送信手段は、前記クロック発生手段からの基本クロック信号に基づいて初期信号のビットレートを定め、前記受信手段は、リーダライタからのコマンドが自ICタグに対する選択コマンドであれば、前記送信手段による初期信号の繰返し送信を停止させてリーダライタからの自ICタグに対する通常コマンドの受信を待ち、他ICタグに対するコマンドであれば、前記送信手段による初期信号の繰返し送信を一時中断させることを特徴とするICタグ。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか記載の乱数発生回路を付設し、前記送信手段は、初期信号の繰返し送信の都度、前記乱数発生回路からの乱数に基づいてインタバル時間を設定することを特徴とする請求項5記載のICタグ。
【請求項7】
前記クロック発生手段は、前記第1のパルス源からのクロック信号を基本クロック信号として出力することを特徴とする請求項6記載のICタグ。
【請求項8】
電波を介して複数の無接触形のICタグと双方向にデータ通信するリーダライタであって、ICタグからの同期信号、ID情報を含む初期信号を受信する受信手段と、該受信手段によって受信された同期信号のビットレートを計測し、ID情報ごとに記憶する計測手段と、特定のICタグに対してID情報を含むコマンドを送信する送信手段とを備えてなり、該送信手段は、記憶されているID情報ごとのビットレートに合わせてコマンドのビットレートを設定することを特徴とするリーダライタ。
【請求項9】
前記受信手段は、ICタグからのID情報を含む応答信号を受信し、前記計測手段は、前記受信手段によって受信された応答信号のビットレートを計測し、ID情報ごとに記憶されているビットレートを更新することを特徴とする請求項8記載のリーダライタ。
【請求項10】
請求項5ないし請求項7のいずれか記載の複数のICタグと、請求項8または請求項9記載のリーダライタとを組み合わせてなる無接触形のICタグシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−293167(P2008−293167A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136367(P2007−136367)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(595119486)株式会社エフ・イー・シー (18)
【出願人】(505083335)株式会社ジクシス (6)
【Fターム(参考)】