説明

乾燥方法と乾燥装置

【課題】環境への悪影響が少なく、被乾燥対象物を効率よく乾燥させることが可能な乾燥方法と乾燥装置を提供する。
【解決手段】乾燥装置1における乾燥方法は、繊維構造体100に水と界面活性剤とを加える第1の行程と、第1の行程の後に、繊維構造体100を液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に浸漬させる第2の行程と、第2の行程において繊維構造体100を浸漬させた液体状態または超臨界状態の二酸化炭素を蒸発させる第3の行程とを行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乾燥方法と乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水は、蒸発熱が非常に大きい。そのため、水を蒸発させるためには時間がかかり、また、大きなエネルギーが必要とされる。そこで、水に濡れた被乾燥対象物を乾燥させる際に、石油、フロン、アルコールなど水以外の溶媒(置換溶媒)を使用し、被乾燥対象物に含まれる水を溶媒で置換した後に、その溶媒を蒸発させて、被乾燥対象物を乾燥させることが一般に行われている。
【0003】
このような置換溶媒としては、上述の溶媒の他に、液体状態や超臨界状態の二酸化炭素(CO)も使用されている。液体状態や超臨界状態の二酸化炭素を得るためには、二酸化炭素を高圧にする必要がある。一方で、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素は、減圧されることによって、容易に蒸発させられる。そのため、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素は、加熱することなく、低温で蒸発させることができる。また、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素を蒸発させることによって、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に溶解している汚れと二酸化炭素とを容易に分離することができるため、分離後に二酸化炭素を容易に再生することができる。
【0004】
しかしながら、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素は水との親和性が低く、水はほとんど二酸化炭素に溶解しない。そのため、水を含む被乾燥対象物をそのまま、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に浸漬しても、水と二酸化炭素とを十分に交換することができない。そこで、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に水を溶解させるために、二酸化炭素に添加するフッ素系界面活性剤が開発されている。
【0005】
例えば、特開2004−315675号公報(特許文献1)には、フッ化炭化水素基を有するポリエーテルからなる二酸化炭素溶媒用界面活性剤が記載されている。
【0006】
また、米国特許第6684525号明細書(特許文献2)には、二酸化炭素に親和性を有するフッ化炭化水素基を含む界面活性剤を用いて、水を含む混合物から水を除去する方法が記載されている。この方法では、界面活性剤の少なくとも一部が溶解した二酸化炭素溶媒を用いて、水を含む混合物から水を除去する。
【0007】
フッ素系界面活性剤は、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素との親和性が高いため、このように、二酸化炭素に添加する用途に広く使われている。液体状態または超臨界状態の二酸化炭素とフッ素系界面活性剤との親和性が高いのは、フッ素系界面活性剤が有するC−F結合が、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素中のC−O結合と高い親和性を有するためだと考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−315675号公報
【特許文献2】米国特許第6684525号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、C−F結合は非常に安定な結合であるため、C−F結合を有するフッ素系界面活性剤は生分解性が低く、環境への影響が懸念されている。
【0010】
また、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に界面活性剤を添加して、被乾燥対象物が含む水と二酸化炭素との交換を促進する方法では、被乾燥対象物を十分に乾燥させられないことがある。
【0011】
そこで、この発明の目的は、環境への悪影響が少なく、被乾燥対象物を効率よく乾燥させることが可能な乾燥方法と乾燥装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に従った乾燥方法は、被乾燥対象物に水と界面活性剤とを加える第1の行程と、第1の行程の後に、被乾燥対象物を液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に浸漬させる第2の行程と、第2の行程において被乾燥対象物を浸漬させた液体状態または超臨界状態の二酸化炭素を蒸発させる第3の行程とを行なう。
【0013】
第1の行程においては、被乾燥対象物に水と界面活性剤とが加えられる。界面活性剤は、水とともに被乾燥対象物に付着する。第1の行程が行なわれるよりも前に、あらかじめ被乾燥対象物に含まれていた水は、第1の行程において被乾燥対象物に加えられる水と界面活性剤とに混じり合う。水と界面活性剤とが混じり合うことによって、水の表面張力が小さくなる。
【0014】
次に、第2の行程において、被乾燥対象物は液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に浸漬される。被乾燥対象物を浸漬させた液体状態または超臨界状態の二酸化炭素は、被乾燥対象物に含まれる水と界面活性剤と混じり合う。被乾燥対象物に含まれる水の表面張力は、第1の行程において界面活性剤を加えられることによって小さくなっており、また、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素の表面張力はもともと高くないので、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素と水とは、容易に混じり合う。そのため、被乾燥対象物に含まれている水と界面活性剤の少なくとも一部は、被乾燥対象物が浸漬されている液体状態または超臨界状態の二酸化炭素によって容易に置換される。このようにして、被乾燥対象物にあらかじめ含まれていた水の少なくとも一部が被乾燥対象物から取り除かれる。
【0015】
第3の行程においては、被乾燥対象物を浸漬させた液体状態または超臨界状態の二酸化炭素を蒸発させる。液体状態または超臨界状態の二酸化炭素は、減圧されることによって、容易に蒸発する。そのため、被乾燥対象物を加熱しなくても、被乾燥対象物から二酸化炭素を蒸発させることができる。被乾燥対象物から液体状態または超臨界状態の二酸化炭素を蒸発させることによって、被乾燥対象物は乾燥した状態になる。
【0016】
このように、本発明の乾燥方法においては、第1の行程において、水と界面活性剤とを被乾燥対象物に加え、その後、第2の行程において、被乾燥対象物を液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に浸漬させる。一方、米国特許第6684525号明細書(特許文献2)に記載されているような、従来の水の除去方法では、二酸化炭素に界面活性剤を添加している。
【0017】
被乾燥対象物に含まれる水を液体状態または超臨界状態の二酸化炭素で置換する行程は、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素と水とが接触し、界面活性剤の存在下でミセルやマイクロエマルションなどを形成し、混じりあう、または、溶けあうことによって置換が進行すると考えられる。もし、界面活性剤が添加されなければ、表面張力によって、水も、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素も、表面積が小さく保たれる。表面積が小さければ、水と液体状態または超臨界状態の二酸化炭素とが互いに接触しにくくなるので、水と二酸化炭素とが混じり合いにくくなる。したがって、界面活性剤が添加されなければ、被乾燥対象物に含まれる水は、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に置換されにくい。従来の水の除去方法では、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に界面活性剤を添加することによって、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素の表面張力を低下させて、水と液体状態または超臨界状態の二酸化炭素とを混じり合いやすくさせている。
【0018】
しかし、水は、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素と比較して表面張力が大きい。そのため、従来の水の除去方法のように、もともと表面張力の小さい二酸化炭素に界面活性剤を添加してさらに二酸化炭素の表面張力を小さくするよりも、あらかじめ被乾燥対象物に含まれている水に界面活性剤を加えて、被乾燥対象物に含まれている水の表面張力を小さくする方が、被乾燥対象物に含まれている水と液体状態または超臨界状態の二酸化炭素とが混ざり合いやすくなる。
【0019】
このように、被乾燥対象物に含まれる水の表面張力を小さくしてから、被乾燥対象物を液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に浸漬することによって、被乾燥対象物に含まれる水が液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に置換されやすくなる。
【0020】
さらに、被乾燥対象物に界面活性剤だけを加えるよりも、界面活性剤と水とを加える方が、被乾燥対象物のより広い範囲に界面活性剤を分散させることができるので、被乾燥対象物に含まれている水のうち、より多くの量の水を界面活性剤と混じらせて、表面張力を小さくすることができる。より多くの量の水の表面張力を小さくすることによって、水を液体状態または超臨界状態の二酸化炭素と置換されやすくすることができる。
【0021】
このようにして、被乾燥対象物に含まれる水を液体状態または超臨界状態の水と置換させやすくすることによって、被乾燥対象物を効率よく乾燥させることができる。
【0022】
また、二酸化炭素に界面活性剤を添加する必要がないので、界面活性剤として、二酸化炭素との親和性が高い、特殊な界面活性剤を使用する必要がなくなる。二酸化炭素との親和性が高いC−F結合を有する界面活性剤を用いる必要がないので、生分解性が高く、環境への影響が小さい界面活性剤を用いることができる。
【0023】
このようにすることにより、環境への悪影響が少なく、被乾燥対象物を効率よく乾燥させることが可能な乾燥方法を提供することができる。
【0024】
また、この発明に従った乾燥装置は、乾燥槽と、水供給部と、界面活性剤供給部と、二酸化炭素供給部と、蒸発部と、制御部とを備える。
【0025】
乾燥槽は、被乾燥対象物を収容する。水供給部は、乾燥槽に水を供給する。界面活性剤供給部は、乾燥槽に界面活性剤を供給する。二酸化炭素供給部は、乾燥槽内の被乾燥対象物に液体状態または超臨界状態の二酸化炭素を供給する。蒸発部は、二酸化炭素供給部によって乾燥槽内の被乾燥対象物に供給された液体状態または超臨界状態の二酸化炭素を蒸発させる。制御部は、水供給部と界面活性剤供給部と二酸化炭素供給部と蒸発部とを制御する。
【0026】
制御部は、第1の行程と第2の行程と第3の行程とを行なうように、水供給部と界面活性剤供給部と二酸化炭素供給部と蒸発部とを制御する。第1の行程は、被乾燥対象物に水と界面活性剤とを加える行程である。第2の行程は、第1の行程の後に、被乾燥対象物を液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に浸漬させる行程である。第3の行程は、第2の行程において被乾燥対象物を浸漬させた液体状態または超臨界状態の二酸化炭素を蒸発させる行程である。
【0027】
このようにすることにより、環境への悪影響が少なく、被乾燥対象物を効率よく乾燥させることが可能な乾燥装置を提供することができる。
【0028】
この発明に従った乾燥方法においては、被乾燥対象物は繊維構造体であることが好ましい。
【0029】
また、この発明に従った乾燥装置においては、被乾燥対象物は繊維構造体であることが好ましい。
【0030】
繊維構造体は、表面の形状が複雑であることが多い。複雑な表面の形状によって、繊維構造体に含まれる水と二酸化炭素との接触が妨げられやすい。また、繊維構造体と水との親和性が高いので、繊維構造体には水が残留しやすい。
【0031】
そこで、繊維構造体を二酸化炭素と水とを接触させやすくして、効果的に乾燥を促進することができる。
【0032】
この発明に従った乾燥方法においては、界面活性剤は、イオン性界面活性剤であることが好ましい。
【0033】
また、この発明に従った乾燥装置においては、界面活性剤は、イオン性界面活性剤であることが好ましい。
【0034】
イオン性界面活性剤は、極性を有する水に溶けやすく、無極性の二酸化炭素には溶けにくい。イオン性界面活性剤は、水と比較して、二酸化炭素との親和性が高くないので、二酸化炭素中にはほとんど分散しない。したがって、イオン性界面活性剤は水側で作用し続け、水の表面張力を下げる効果を高めることができる。このようにして、被乾燥対象物の乾燥をさらに効果的に促進することができる。
【0035】
また、界面活性剤としてイオン性界面活性剤を用いることによって、第3の行程の後にイオン交換樹脂のようなイオン性がある吸着剤を使用して界面活性剤を吸着除去するなどして、二酸化炭素と界面活性剤の分離が容易になる。このようにすることにより、二酸化炭素の再生と再利用が容易になる。
【発明の効果】
【0036】
以上のように、この発明によれば、環境への悪影響が少なく、被乾燥対象物を効率よく乾燥させることが可能な乾燥方法と乾燥装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の一つの実施の形態として、乾燥装置の概略的な構成を示す図である。
【図2】乾燥装置の制御関連の構成を示すブロック図である。
【図3】乾燥装置における乾燥行程を順に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0039】
図1は、この発明の一つの実施の形態として、乾燥装置の概略的な構成を示す図である。
【0040】
図1に示すように、乾燥装置1は、乾燥槽11と、洗剤投入部12と、二酸化炭素ボンベ13と、ポンプ14と、ドレン溜め15と、撹拌装置16と、制御部17とを備える。乾燥槽11は、給水弁21が配置される配管によって、外部の給水栓30に接続されている。乾燥槽11と洗剤投入部12は、洗剤投入弁22が配置される配管によって接続されている。二酸化炭素ボンベ13は、ボンベ弁23が配置される配管によってポンプ14に接続され、ポンプ14は、二酸化炭素供給弁24が配置される配管によって乾燥槽11に接続されている。乾燥槽11とドレン溜め15は、ドレン排出弁25が配置される配管によって接続されている。また、乾燥槽11には、排水弁26が配置される配管が接続されている。撹拌装置16は、乾燥槽11の内部を撹拌することが可能であるように、乾燥槽11に取り付けられている。撹拌装置16としては、例えば、撹拌羽根などが用いられる。
【0041】
給水弁21は、水供給部の一例である。洗剤投入弁22は、界面活性剤供給部の一例である。ポンプ14とボンベ弁23と二酸化炭素供給弁24は、二酸化炭素供給部の一例である。ドレン排出弁25は蒸発部の一例である。
【0042】
乾燥槽11には、被乾燥対象物として、繊維構造体100が収容される。繊維構造体100は、例えば、布や、布によって構成される衣類などである。繊維構造体100は、水に濡れた状態である。繊維構造体100が含む水の量は、多くても少なくても構わない。なお、被乾燥対象物は、繊維構造体100の他、電子回路を備えた電子デバイスや食品、医薬品等であってもよい。
【0043】
洗剤投入部12には、洗剤などの界面活性剤が収容されている。洗剤投入部12に収容される界面活性剤は、洗剤以外の界面活性剤であってもよい。
【0044】
二酸化炭素ボンベ13には、気液混合状態の二酸化炭素が収容されている。ポンプ14は、二酸化炭素ボンベ13に収容されている気液混合状態の二酸化炭素を加圧して、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素にして、乾燥槽11に送出する。
【0045】
ドレン溜め15には、乾燥槽11からドレンが排出されて溜められる。
【0046】
図2は、乾燥装置の制御関連の構成を示すブロック図である。
【0047】
図1と図2に示すように、制御部17は、給水弁21と、洗剤投入弁22と、ボンベ弁23と、二酸化炭素供給弁24と、ドレン排出弁25と、排水弁26との開閉を制御する。また、制御部17は、ポンプ14と撹拌装置16の駆動と駆動停止とを制御する。
【0048】
制御部17が給水栓21を開放するように制御すると、給水栓30から配管を通して乾燥槽11内に水道水などの水が供給される。制御部17が洗剤投入弁22を開放するように制御すると、洗剤投入部12内に収容されている界面活性剤が乾燥槽11内に供給される。制御部17がボンベ弁23と二酸化炭素供給弁24とを開き、ポンプ14を駆動させるように制御すると、二酸化炭素ボンベ13内の気液混合状態の二酸化炭素がポンプ14で加圧され、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素にされて、乾燥槽11内に供給される。制御部17がドレン排出弁25を開放するように制御すると、乾燥槽11内のドレンがドレン溜め15内に排出される。制御部17が排水弁26を開放するように制御すると、乾燥槽11内の水が乾燥装置1の外に排水される。制御部17が撹拌装置16を駆動するように制御すると、乾燥槽11の内部が撹拌される。
【0049】
図3は、乾燥装置における乾燥行程を順に示すフローチャートである。
【0050】
図1から図3を用いて、この実施形態の乾燥装置の乾燥行程を説明する。
【0051】
まず、第1の行程として、乾燥槽11内の繊維構造体を、界面活性剤を含む水に浸漬させる行程が行なわれる。ステップS001では、制御部17は、給水弁21を開放し、同時に、洗剤投入弁22を開放するように制御する。乾燥槽11内の繊維構造体100には、水と界面活性剤とが供給される。ステップS002では、制御部17は、撹拌装置16を駆動するように制御する。撹拌装置16が乾燥槽11内を撹拌すると、繊維構造体100が、界面活性剤を含む水に浸漬された状態になる。このように、撹拌装置16によって乾燥槽11内を撹拌することによって、繊維構造体100が洗浄されるとともに、繊維構造体100の全体に界面活性剤を含む水が短時間で浸透する。界面活性剤を含む水は、繊維構造体100にあらかじめ含まれていた水と混じり合って、繊維構造体100に含まれる水の表面張力を低減させる。
【0052】
なお、給水弁21と洗剤投入弁22とは同時に開放されず、いずれか一方が先に開放されてもよい。また、例えば洗剤投入部12内において、あらかじめ水と界面活性剤とを混合させておいてもよい。
【0053】
次に、乾燥槽11内の水を排出し、繊維構造体100を脱水する行程が行なわれる。ステップS003では、制御部17は、排水弁26を開放するように制御し、乾燥槽11内に水が貯まっている場合には、乾燥槽11内の水を排出する。ここで、例えば繊維構造体100を高速で回転させるなどして、繊維構造体100を脱水してもよい。乾燥槽11内の水が排出され、脱水されても、繊維構造体100は界面活性剤を含む水に濡れた状態である。
【0054】
なお、排水や脱水は、必ずしも行われなくてもよい。
【0055】
次に、第2の行程として、繊維構造体100を液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に浸漬する行程を行なう。ステップS004では、制御部17は、ボンベ弁23と二酸化炭素供給弁24とを開放し、ポンプ14を駆動するように制御する。ポンプ14で加圧された気液混合状態の二酸化炭素は、液体状態または超臨界状態になって乾燥槽11内に供給される。乾燥槽11内の繊維構造体100は、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に浸漬された状態になる。乾燥槽11内は、ポンプ14から二酸化炭素が送り込まれることによって加圧される。制御部17は、所定の量の二酸化炭素が乾燥槽11内に供給された後、ボンベ弁23と二酸化炭素供給弁24とを閉じる。
【0056】
ステップS005では、制御部17は、撹拌装置16を駆動させて、乾燥槽11内を撹拌する。乾燥槽11内を撹拌することによって、界面活性剤と水とを含む繊維構造体100が、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に、短時間で浸漬される。
【0057】
乾燥槽11内の繊維構造体100が液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に浸漬されると、繊維構造体100に含まれていた界面活性剤を含む水が、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に溶解する。繊維構造体100には、二酸化炭素が付着する。繊維構造体100に含まれている水は、界面活性剤によって表面張力を低減させられているので、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素とよく混じり合う。すなわち、繊維構造体100に含まれていた、界面活性剤を含む水の少なくとも一部が、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素と混じり合って、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に置換され、繊維構造体100から取り除かれる。液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に置換されることによって繊維構造体100から取り除かれた界面活性剤を含む水は、乾燥槽11内の液体状態または超臨界状態の二酸化炭素中に分散する。
【0058】
このとき、繊維構造体100は、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素によって洗浄もされることになる。
【0059】
続いて、第3の行程として、繊維構造体100からの二酸化炭素の除去が行なわれる。ステップS006では、制御部17は、ボンベ弁23と二酸化炭素供給弁24とを閉じたまま、ドレン排出弁25を開放するように制御する。ドレン排出弁25が開放されると、乾燥槽11内が減圧される。乾燥槽11内が減圧されると、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素が膨張し、乾燥槽11内から排出される。乾燥槽11内から排出された二酸化炭素は、蒸発して気体状態になる。乾燥槽11内が減圧されているので、乾燥槽11内に残留する二酸化炭素も蒸発する。このようにして、繊維構造体100から二酸化炭素が除去される。一方、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素中に分散した界面活性剤や水、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素によって繊維構造体100から取り除かれた汚れは、室温では気体にならないので、二酸化炭素とともにドレン溜め15内に排出されて、ドレン溜め15内に溜められる。
【0060】
このようにして、本発明の乾燥方法による乾燥行程が行なわれる。
【0061】
乾燥行程の終了後、乾燥槽11から排出される気体状態の二酸化炭素を回収して、再び加圧して再生利用(リサイクル)してもよい。二酸化炭素には直接、界面活性剤を添加していないので、回収した二酸化炭素の再生が容易になる。
【0062】
なお、ステップS006を行なう前に、ボンベ弁23と二酸化炭素供給弁24とを開放し、ポンプ14を駆動した状態で、ドレン排出弁25を適度に開放することによって、乾燥槽11内の二酸化炭素を液体状態または超臨界状態に保ったままで、乾燥槽11内に二酸化炭素を流通させることができる。このようにすることにより、繊維構造体100からの水の除去が促進される。
【0063】
このように、繊維構造体100に含まれる水を二酸化炭素で置換することによって、加熱することなく乾燥したり、低温で乾燥したりすることができる。繊維構造体100を乾燥させるために加熱が必要なくなるので、省エネルギーになる。また、電子回路や、レーヨン、シルクなどの布製品、加熱に弱い食品・医薬品などのような高温に弱いものも乾燥させることができる。
【0064】
以上のように、乾燥装置1における乾燥方法は、繊維構造体100に水と界面活性剤とを加える第1の行程と、第1の行程の後に、繊維構造体100を液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に浸漬させる第2の行程と、第2の行程において繊維構造体100を浸漬させた液体状態または超臨界状態の二酸化炭素を蒸発させる第3の行程とを行なう。
【0065】
第1の行程においては、繊維構造体100に水と界面活性剤とが加えられる。界面活性剤は、水とともに繊維構造体100に付着する。第1の行程が行なわれるよりも前に、あらかじめ繊維構造体100に含まれていた水は、第1の行程において繊維構造体100に加えられる水と界面活性剤とに混じり合う。水と界面活性剤とが混じり合うことによって、水の表面張力が小さくなる。
【0066】
次に、第2の行程において、繊維構造体100は液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に浸漬される。繊維構造体100を浸漬させた液体状態または超臨界状態の二酸化炭素は、繊維構造体100に含まれる水と界面活性剤と混じり合う。繊維構造体100に含まれる水の表面張力は、第1の行程において界面活性剤を加えられることによって小さくなっており、また、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素の表面張力はもともと高くないので、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素と水とは、容易に混じり合う。そのため、繊維構造体100に含まれている水と界面活性剤の少なくとも一部は、繊維構造体100が浸漬されている液体状態または超臨界状態の二酸化炭素によって容易に置換される。このようにして、繊維構造体100にあらかじめ含まれていた水の少なくとも一部が繊維構造体100から取り除かれる。
【0067】
第3の行程においては、繊維構造体100を浸漬させた液体状態または超臨界状態の二酸化炭素を蒸発させる。液体状態または超臨界状態の二酸化炭素は、減圧されることによって、容易に蒸発する。そのため、繊維構造体100を加熱しなくても、繊維構造体100から二酸化炭素を蒸発させることができる。繊維構造体100から液体状態または超臨界状態の二酸化炭素を蒸発させることによって、繊維構造体100は乾燥した状態になる。
【0068】
このように、本発明の乾燥方法においては、第1の行程において、水と界面活性剤とを繊維構造体100に加え、その後、第2の行程において、繊維構造体100を液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に浸漬させる。一方、従来の水の除去方法では、二酸化炭素に界面活性剤を添加している。
【0069】
繊維構造体100に含まれる水を液体状態または超臨界状態の二酸化炭素で置換する行程は、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素と水とが接触し、界面活性剤の存在下でミセルやマイクロエマルションなどを形成し、混じりあう、または、溶けあうことによって置換が進行すると考えられる。もし、界面活性剤が添加されなければ、表面張力によって、水も、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素も、表面積が小さく保たれる。表面積が小さければ、水と液体状態または超臨界状態の二酸化炭素とが互いに接触しにくくなるので、水と二酸化炭素とが混じり合いにくくなる。したがって、界面活性剤が添加されなければ、繊維構造体100に含まれる水は、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に置換されにくい。従来の水の除去方法では、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に界面活性剤を添加することによって、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素の表面張力を低下させて、水と液体状態または超臨界状態の二酸化炭素とを混じり合いやすくさせている。
【0070】
しかし、水は、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素と比較して表面張力が大きい。そのため、従来の水の除去方法のように、もともと表面張力の小さい二酸化炭素に界面活性剤を添加してさらに二酸化炭素の表面張力を小さくするよりも、あらかじめ繊維構造体100に含まれている水に界面活性剤を加えて、繊維構造体100に含まれている水の表面張力を小さくする方が、繊維構造体100に含まれている水と液体状態または超臨界状態の二酸化炭素とが混ざり合いやすくなる。
【0071】
このように、繊維構造体100に含まれる水の表面張力を小さくしてから、繊維構造体100を液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に浸漬することによって、繊維構造体100に含まれる水が液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に置換されやすくなる。
【0072】
さらに、繊維構造体100に界面活性剤だけを加えるよりも、界面活性剤と水とを加える方が、繊維構造体100のより広い範囲に界面活性剤を分散させることができるので、繊維構造体100に含まれている水のうち、より多くの量の水を界面活性剤と混じらせて、表面張力を小さくすることができる。より多くの量の水の表面張力を小さくすることによって、水を液体状態または超臨界状態の二酸化炭素と置換されやすくすることができる。
【0073】
このようにして、繊維構造体100に含まれる水を液体状態または超臨界状態の水と置換させやすくすることによって、繊維構造体100を効率よく乾燥させることができる。
【0074】
また、二酸化炭素に界面活性剤を添加する必要がないので、界面活性剤として、二酸化炭素との親和性が高い、特殊な界面活性剤を使用する必要がなくなる。二酸化炭素との親和性が高いC−F結合を有する界面活性剤を用いる必要がないので、生分解性が高く、環境への影響が小さい界面活性剤を用いることができる。
【0075】
このようにすることにより、環境への悪影響が少なく、繊維構造体100を効率よく乾燥させることが可能な乾燥方法を提供することができる。
【0076】
また、乾燥装置1は、乾燥槽11と、給水弁21と、洗剤投入弁22と、ポンプ14とボンベ弁23と二酸化炭素供給弁24と、ドレン排出弁25と、制御部17とを備える。
【0077】
乾燥槽11は、繊維構造体100を収容する。給水弁21は、乾燥槽11に水を供給する。洗剤投入弁22は、乾燥槽11に界面活性剤を供給する。ポンプ14とボンベ弁23と二酸化炭素供給弁24は、乾燥槽11内の繊維構造体100に液体状態または超臨界状態の二酸化炭素を供給する。ドレン排出弁25は、ポンプ14とボンベ弁23と二酸化炭素供給弁24によって乾燥槽11内の繊維構造体100に供給された液体状態または超臨界状態の二酸化炭素を蒸発させる。制御部17は、給水弁21と洗剤投入弁22とポンプ14とボンベ弁23と二酸化炭素供給弁24とドレン排出弁25とを制御する。
【0078】
制御部17は、第1の行程と第2の行程と第3の行程とを行なうように、給水弁21と洗剤投入弁22とポンプ14とボンベ弁23と二酸化炭素供給弁24とドレン排出弁25とを制御する。第1の行程は、繊維構造体100に水と界面活性剤とを加える行程である。第2の行程は、第1の行程の後に、繊維構造体100を液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に浸漬させる行程である。第3の行程は、第2の行程において繊維構造体100を浸漬させた液体状態または超臨界状態の二酸化炭素を蒸発させる行程である。
【0079】
このようにすることにより、環境への悪影響が少なく、繊維構造体100を効率よく乾燥させることが可能な乾燥装置1を提供することができる。
【0080】
また、乾燥装置1における乾燥方法においては、被乾燥対象物は繊維構造体100である。
【0081】
繊維構造体100は、表面の形状が複雑であることが多い。複雑な表面の形状によって、繊維構造体100に含まれる水と二酸化炭素との接触が妨げられやすい。また、繊維構造体100と水との親和性が高いので、繊維構造体100には水が残留しやすい。
【0082】
そこで、繊維構造体100を乾燥装置1で乾燥させることによって、二酸化炭素と水とを接触させやすくして、効果的に乾燥を促進することができる。
【実施例】
【0083】
本発明の乾燥方法の一つの効果として、水で洗浄し、そのまま乾燥する場合と比較して、効率よく乾燥させることができる。このことを確認するために実験を行なった。実験は、図1に示す乾燥装置1を用いて行なわれた。被乾燥対象物としては、2.5cm角に裁断した綿の平布3枚を水で湿らせたものを用いた。被乾燥対象物を乾燥槽1内に収容して、以下の実施例と比較例に示す実験を行なった。なお、被乾燥対象物の質量として、湿らせる前の重量を測定した。
【0084】
(実施例1〜4)
本発明の実施例として、まず、第1の行程として、50mLの水と界面活性剤を乾燥槽11に供給し、15分間、撹拌した。その後、排水した。
【0085】
続いて、第2の行程として、ボンベ弁23と二酸化炭素供給弁24を開放し、ポンプ14を駆動することによって、乾燥槽11内に二酸化炭素を供給した。二酸化炭素は、ポンプ14で加圧することによって、20MPa、35℃の超臨界状態にされた。乾燥槽11内において二酸化炭素の圧力を保ったままで、5mL/minで、350mLの二酸化炭素を流した。
【0086】
その後、第3の行程として、ドレン排出弁25を開放して二酸化炭素を蒸発させた。
【0087】
二酸化炭素が蒸発した後、被乾燥対象物の重量を測定した。
【0088】
実施例1〜4では、次の表1に示すように、第1の行程で乾燥槽11に供給する界面活性剤の種類と濃度を異ならせた。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤であるアルコールエトキシレート(AE)の一種であるポリオキシエチレン(4)ラウリルエーテル(以下、AEとする)と、イオン性界面活性剤である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)の一種であるラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム(以下、LASとする)と、市販の粉末合成洗剤の一例としてアタック(花王株式会社製、界面活性剤として直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを24%、水軟化剤としてアルミノケイ酸塩、アルカリ剤として炭酸塩、工程剤として硫酸塩、分散剤、蛍光増白剤、酵素を含む。)を用いた。界面活性剤の濃度は、水の量に対する界面活性剤の重量によって求めた。
【0089】
【表1】

【0090】
(比較例1〜3)
本発明の比較例1〜3としては、まず、50mLの水を乾燥槽11に供給し、15分間撹拌した。その後、排水した。
【0091】
次に、乾燥槽11内に、被乾燥対象物と接触しないように界面活性剤を入れた。
【0092】
続いて、ボンベ弁23と二酸化炭素供給弁24を開放し、ポンプ14を駆動することによって、乾燥槽11内に二酸化炭素を供給した。二酸化炭素は、実施例1〜4と同様の量と圧力で供給された。
【0093】
その後、ドレン排出弁25を開放して二酸化炭素を蒸発させた。二酸化炭素が蒸発した後、被乾燥対象物の重量を測定した。
【0094】
比較例1〜3では、次の表2に示すように、乾燥槽11に供給する界面活性剤の種類と濃度を異ならせた。界面活性剤の濃度は、二酸化炭素の量に対する界面活性剤の重量によって求めた。
【0095】
【表2】

【0096】
(比較例4)
本発明の比較例4としては、まず、50mLの水を乾燥槽11に供給し、15分間、撹拌した。その後、排水した。
【0097】
続いて、ボンベ弁23と二酸化炭素供給弁24を開放し、ポンプ14を駆動することによって、乾燥槽11内に二酸化炭素を供給した。二酸化炭素は、実施例1〜4と同様の量と圧力で供給された。
【0098】
その後、ドレン排出弁25を開放して二酸化炭素を蒸発させた。二酸化炭素が蒸発した後、被乾燥対象物の重量を測定した。
【0099】
比較例4では、界面活性剤を使用しなかった。
【0100】
(比較例5)
本発明の比較例5としては、まず、ボンベ弁23と二酸化炭素供給弁24を開放し、ポンプ14を駆動することによって、乾燥槽11内に二酸化炭素を供給した。二酸化炭素は、実施例1〜4と同様の量と圧力で供給された。
【0101】
その後、ドレン排出弁25を開放して二酸化炭素を蒸発させた。二酸化炭素が蒸発した後、被乾燥対象物の重量を測定した。
【0102】
比較例5においても、界面活性剤を使用しなかった。
【0103】
実施例1〜4と比較例1〜5のそれぞれにおいて、乾燥させた被乾燥対象物の重量から、湿らせる前の被乾燥対象物の重量を引いて、被乾燥対象物の乾燥後の1枚当たりの残留水量を求めた。実施例1〜4と比較例1〜5の残留水量を表3に示す。
【0104】
【表3】

【0105】
表3に示すように、実施例1〜4の残留水量は、すべて、比較例1〜5のいずれと比較しても少なかった。すなわち、界面活性剤を使用しなかった場合や、二酸化炭素に界面活性剤を添加した場合と比較して、水に界面活性剤を添加した場合の方が、乾燥終了後に被乾燥対象物に残留する水量が少なかった。なお、界面活性剤を使用しなかった比較例4と比較例5では、残留水量が同じであった。
【0106】
実施例1と比較例1では、どちらも、界面活性剤として約1wt%のAEを用いた。実施例1では、比較例1と比較して、残留水量が0.05g/枚だけ少なかった。
【0107】
実施例2と比較例2では、どちらも、界面活性剤として約0.06wt%のLASを用いた。実施例2では、比較例2と比較して、残留水量が0.13g/枚だけ少なかった。
【0108】
実施例3と比較例3では、どちらも、界面活性剤として約0.1wt%のアタックを用いた。実施例3では、比較例3と比較して、残留水量が0.13g/枚だけ少なかった。
【0109】
また、実施例2と実施例4では、どちらも界面活性剤を0.06wt%の濃度で用いた。しかし、実施例2では界面活性剤としてLASを用い、実施例4では界面活性剤としてAEを用いた。LASはイオン性の界面活性剤であり、AEは非イオン性の界面活性剤である。実施例2では、実施例4と比較して、残留水量が0.03g/枚だけ少なかった。すなわち、非イオン性界面活性剤であるAEを用いた場合と比較して、イオン性界面活性剤であるLASを用いた場合に、残留水量を減少させる効果が大きかった。
【0110】
一般に、イオン性の界面活性剤は、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素中での使用には向かないとされている。今回の実施例と比較例に用いた界面活性剤の中でも、非イオン性の界面活性剤であるAEは、液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に溶解するのに対し、イオン性界面活性剤であるLASや、イオン性界面活性剤を含むアタックはほとんど溶解しない。しかし、実施例2のように、第1の行程において、水とイオン性界面活性剤とを被乾燥対象物に加えることによって、二酸化炭素との親和性が高い非イオン性界面活性剤を用いる実施例4の場合よりも、被乾燥対象物の残留水量を少なくすることができた。
【0111】
このように、この発明の乾燥方法と、この発明の乾燥装置においては、界面活性剤は、イオン性界面活性剤であることが好ましい。
【0112】
イオン性界面活性剤は、極性を有する水に溶けやすく、無極性の二酸化炭素には溶けにくい。イオン性界面活性剤は、水と比較して、二酸化炭素との親和性が高くないので、二酸化炭素中にはほとんど分散しない。したがって、イオン性界面活性剤は水側で作用し続け、水の表面張力を下げる効果を高めることができる。このようにして、被乾燥対象物の乾燥をさらに効果的に促進することができる。
【0113】
また、界面活性剤としてイオン性界面活性剤を用いることによって、第3の行程の後にイオン交換樹脂のようなイオン性がある吸着剤を使用して界面活性剤を吸着除去するなどして、二酸化炭素と界面活性剤の分離が容易になる。このようにすることにより、二酸化炭素の再生と再利用が容易になる。
【0114】
また、実施例1の条件で、流通させる二酸化炭素の総量を600mLとした場合には、処理後の残留水量は0.00g/枚で、ほぼ完全に乾燥した状態であった。このように、使用する二酸化炭素の量を十分な量にすることによって、被乾燥対象物に付着した水の一部を除去するだけでなく、被乾燥対象物を完全に乾燥させることができる。
【0115】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものである。
【符号の説明】
【0116】
1:乾燥装置、11:乾燥槽、14:ポンプ、17:制御部、21:給水弁、22:洗剤投入弁、23:ボンベ弁、24:二酸化炭素供給弁、25:ドレン排出弁、100:繊維構造体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被乾燥対象物に水と界面活性剤とを加える第1の行程と、
前記第1の行程の後に、被乾燥対象物を液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に浸漬させる第2の行程と、
前記第2の行程において被乾燥対象物を浸漬させた液体状態または超臨界状態の二酸化炭素を蒸発させる第3の行程とを行なう、乾燥方法。
【請求項2】
被乾燥対象物は繊維構造体である、請求項1に記載の乾燥方法。
【請求項3】
前記界面活性剤は、イオン性界面活性剤である、請求項1または請求項2に記載の乾燥方法。
【請求項4】
被乾燥対象物を収容する乾燥槽と、
前記乾燥槽に水を供給する水供給部と、
前記乾燥槽に界面活性剤を供給する界面活性剤供給部と、
前記乾燥槽内の被乾燥対象物に液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に供給する二酸化炭素供給部と、
前記二酸化炭素供給部によって前記乾燥槽内の被乾燥対象物に供給された液体状態または超臨界状態の二酸化炭素を蒸発させる蒸発部と、
前記水供給部と前記界面活性剤供給部と前記二酸化炭素供給部と前記蒸発部とを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
被乾燥対象物に水と界面活性剤とを加える第1の行程と、
前記第1の行程の後に、被乾燥対象物を液体状態または超臨界状態の二酸化炭素に浸漬させる第2の行程と、
前記第2の行程において被乾燥対象物を浸漬させた液体状態または超臨界状態の二酸化炭素を蒸発させる第3の行程とを行なうように、前記水供給部と前記界面活性剤供給部と前記二酸化炭素供給部と前記蒸発部とを制御する、乾燥装置。
【請求項5】
被乾燥対象物は繊維構造体である、請求項4に記載の乾燥装置。
【請求項6】
前記界面活性剤は、イオン性界面活性剤である、請求項4または請求項5に記載の乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−243039(P2010−243039A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91267(P2009−91267)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】