説明

二核金属錯体の製造方法

【課題】 高い光電変換効率と耐久性を有する光電変換素子、光化学電池を実現できる金属錯体色素として特に有用な二核金属錯体を製造する方法を提供する。
【解決手段】 リチウムを含む塩基の存在下で式:(LClで示される単核金属錯体と式:(BL)M(Lで示される単核金属錯体を反応させ、一般式:(L(BL)M(L(X)で示される非対称な二核金属錯体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な二核金属錯体の製造方法に関する。
【0002】
さらに、本発明は、この製造方法により得られる金属錯体色素、この金属錯体色素によって光増感された酸化物半導体を用いた光電変換素子、ならびにそれを用いた光化学電池に関する。
【背景技術】
【0003】
太陽電池はクリーンな再生型エネルギー源として大きく期待されており、単結晶シリコン系、多結晶シリコン系、アモルファスシリコン系の太陽電池やテルル化カドミウム、セレン化インジウム銅などの化合物からなる太陽電池の実用化をめざした研究がなされている。しかし、家庭用電源として普及させるためには、いずれの電池も製造コストが高いことや原材料の確保が困難なことやリサイクルの問題、また大面積化が困難であるなど克服しなければならない多くの問題を抱えている。そこで、大面積化や低価格化を目指し有機材料を用いた太陽電池が提案されてきたが、いずれも変換効率が1%程度と実用化にはほど遠いものであった。
【0004】
こうした状況の中、1991年にグレッツェルらによりNatureに色素によって増感された半導体微粒子を用いた光電変換素子および太陽電池、ならびにこの太陽電池の作製に必要な材料および製造技術が開示された。(例えば、Nature、第353巻、737頁、1991年(非特許文献1)、特開平1−220380号公報(特許文献1)など)。この電池はルテニウム色素によって増感された多孔質チタニア薄膜を作用電極とする湿式太陽電池である。この太陽電池の利点は、安価な材料を高純度に精製する必要がなく用いられるため、安価な光電変換素子として提供できること、さらに用いられる色素の吸収がブロードであり、広い可視光の波長域にわたって太陽光を電気に変換できることである。しかしながら実用化のためにはさらなる変換効率の向上が必要であり、より高い吸光係数を有し、より高波長域まで光を吸収する色素の開発が望まれている。
【0005】
本出願人による特開2003−261536号公報(特許文献2)には、光電変換素子として有用な金属錯体色素であるジピリジル配位子含有金属単核錯体が開示されている。
【0006】
また、色素増感太陽電池の最新技術(株式会社シーエムシー、2001年5月25日発行、117頁)(非特許文献2)には、多核β−ジケトナート錯体色素が開示されている。
【0007】
また、特開2004−359677号公報(特許文献3)には、光などの活性光線のエネルギーを受けて電子を取り出す光電変換機能の優れた新規な複核錯体として、複数の金属と複数の配位子を有し、その複数の金属に配位する橋かけ配位子(BL)が複素共役環を有する配位構造と複素共役環を有しない配位構造を有する複核錯体が開示されている。
【0008】
さらに、WO2006/038587(特許文献4)には、高い光電変換効率を有する光電変換素子が得られる金属錯体色素として、複素共役環を有する配位構造を有する二核金属錯体が開示されている。この二核金属錯体は、ナトリウムを含む塩基を使用して合成されている。
【0009】
光電変換素子に用いる色素として、高い光電変換効率を有し、かつ優れた耐久性を有する光電変換素子を実現できる金属錯体色素が望まれている。
【特許文献1】特開平1−220380号公報
【特許文献2】特開2003−261536号公報
【特許文献3】特開2004−359677号公報
【特許文献4】WO2006/038587
【非特許文献1】Nature、第353巻、737頁、1991年
【非特許文献2】色素増感太陽電池の最新技術(株式会社シーエムシー、2001年5月25日発行、117頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、高い光電変換効率と耐久性を有する光電変換素子、光化学電池を実現できる金属錯体色素として特に有用な二核金属錯体を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の事項に関する。
【0012】
1. 一般式:(L(BL)M(L(X)で示される非対称な二核金属錯体(但し、M及びMは、遷移金属であって、同一でも異なっていてもよく、L及びLは、多座配位可能なキレート型配位子であって、LとLは異なるものであり、二つのLは異なるものであってもよく、二つのLも異なるものであってもよく、BLはヘテロ原子を含む環状構造を少なくとも二つ有する架橋配位子であって、M及びMに配位する配位原子がこの環状構造に含まれるヘテロ原子である。Xは対イオンである。nは錯体の電荷を中和するのに必要な対イオンの数を表す。)を製造する方法であって、
リチウムを含む塩基(1)の存在下で式:(LClで示される単核金属錯体(但し、M及びLは上記と同義である。)と式:(BL)M(Lで示される単核金属錯体(但し、M、L及びBLは上記と同義である。)を反応させる工程を有することを特徴とする製造方法。
【0013】
2. 前記リチウムを含む塩基(1)が水酸化リチウムおよび/またはリチウムのアルコキシドである上記1記載の製造方法。
【0014】
3. 式:(LClで示される単核金属錯体と式:(BL)M(Lで示される単核金属錯体を反応させた後、酸を加えて、あるいは酸とリチウムを含む塩を加えて式:(L(BL)M(L(X)で示される二核金属錯体を単離させる工程を有する上記1または2記載の製造方法。
【0015】
4. リチウムを含む塩基(2)の存在下で式:(LClで示される単核金属錯体(但し、M及びLは上記と同義である。)とH(BL)(但し、BLは上記と同義であり、H(BL)はBL中の二つのヘテロ原子がプロトン化された状態を示す。)を反応させ、式:(BL)M(Lで示される単核金属錯体を合成する工程をさらに有する上記1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【0016】
5. 前記リチウムを含む塩基(2)がリチウムのアルコキシドである上記4記載の製造方法。
【0017】
6. 一般式:(BL)M(Lで示される単核金属錯体(但し、Mは、遷移金属であり、Lは、多座配位可能なキレート型配位子であって、二つのLは異なるものであってもよく、BLはヘテロ原子を含む環状構造を少なくとも二つ有する架橋配位子であって、Mに配位する配位原子がこの環状構造に含まれるヘテロ原子である。)の製造方法であって、
リチウムを含む塩基(2)の存在下で式:(LClで示される単核金属錯体(但し、M及びLは上記と同義である。)とH(BL)(但し、BLは上記と同義であり、H(BL)はBL中の二つのヘテロ原子がプロトン化された状態を示す。)を反応させる工程を有することを特徴とする製造方法。
【0018】
7. 上記1〜5のいずれかに記載の方法により製造される一般式:(L(BL)M(L(X)で示される非対称な二核金属錯体(但し、M及びMは、遷移金属であって、同一でも異なっていてもよく、L及びLは、多座配位可能なキレート型配位子であって、LとLは異なるものであり、二つのLは異なるものであってもよく、二つのLも異なるものであってもよく、BLはヘテロ原子を含む環状構造を少なくとも二つ有する架橋配位子であって、M及びMに配位する配位原子がこの環状構造に含まれるヘテロ原子である。Xは対イオンである。nは錯体の電荷を中和するのに必要な対イオンの数を表す。)。
【0019】
8. 上記1〜5のいずれかに記載の方法により製造される一般式:(L(BL)M(L(X)で示される非対称な二核金属錯体(但し、M及びMは、遷移金属であって、同一でも異なっていてもよく、L及びLは、多座配位可能なキレート型配位子であって、LとLは異なるものであり、二つのLは異なるものであってもよく、二つのLも異なるものであってもよく、Xは対イオンであり、nは錯体の電荷を中和するのに必要な対イオンの数を表し、BLはヘテロ原子を含む環状構造を少なくとも二つ有する架橋配位子であって、M及びMに配位する配位原子がこの環状構造に含まれるヘテロ原子であり、Lが半導体微粒子に固定され得る置換基を有し、かつ主に(LにLUMOが分布する構造である。)からなることを特徴とする金属錯体色素。
【0020】
9. 上記8記載の金属錯体色素により増感された半導体微粒子を含むことを特徴とする光電変換素子。
【0021】
10. 前記半導体微粒子が、酸化チタン、酸化亜鉛、または酸化錫であることを特徴とする上記9記載の光電変換素子。
【0022】
11. 上記9または10記載の光電変換素子を用いることを特徴とする光化学電池。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、リチウムを含む塩基を使用して二核金属錯体(L(BL)M(L(X)を合成する。本発明により製造される二核金属錯体色素を用いた光化学電池は、従来のナトリウムを含む塩基を使用して製造された二核金属錯体色素を用いたものと比べて、同程度の高い光電変換効率が得られ、さらには耐久性が向上した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明では、一般式:(L(BL)M(L(X)で示される非対称な二核金属錯体を、例えば、次のようにして二つの単核金属錯体(LClと(BL)M(Lを合成し、これらを反応させることにより合成する。
【0025】
が下式(L−1)であり、
【0026】
【化1】

がRuである単核金属錯体(LCl(MC−1)は次の合成スキームに従って合成することができる。
【0027】
【化2】

上式において、Lがカルボキシル基以外の置換基を有するもの、MがRu以外の遷移金属であるものも同様にして合成することができる。
【0028】
また、Lが下式(L−4)であり、
【0029】
【化3】

がRuである単核金属錯体(LCl(MC−2)は次の合成スキームに従って合成することができる。
【0030】
【化4】

上式において、Lがカルボキシル基以外の置換基を有するもの、MがRu以外の遷移金属であるものも同様にして合成することができる。
【0031】
一方、単核金属錯体(BL)M(Lは次の合成スキームに従って合成することができる。
【0032】
【化5】

スキーム中のHBLはBL中の二つのヘテロ原子(窒素原子など)がプロトン化された状態を示す。
【0033】
尚、BLが後述する式(BL−1)〜(BL−4)で表されるもの(置換基を有しているものも含む)、Lが式(L−1)〜(L−4)で表されるもの(置換基を有しているものも含む)は何れも、この合成スキームに従って合成することができる。但し、BLが式(BL−1)で表されるもの(置換基を有しているものも含む)については、後段の塩基による反応工程は不要で、M(LClとBLを反応させると(BL)M(Lが得られる。
【0034】
この反応において使用する塩基はナトリウムを含まない塩基、例えばカリウム、マグネシウム、カルシウムまたは鉄を含む塩基、あるいは有機塩基であればよいが、リチウムを含む塩基が好ましい。中でも、リチウムのアルコキシドが好ましく、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウム−t−ブトキシドがさらに好ましく、リチウムメトキシドが特に好ましい。塩基の使用量は適宜決めることができる。
【0035】
このようにして合成した(LCl(MC)と(BL)M(L(MC)を次の合成スキームに従って反応させ、(L(BL)M(L(X)を合成することができる。
【0036】
【化6】

この反応において使用する塩基はナトリウムを含まない塩基、例えばカリウム、マグネシウム、カルシウムまたは鉄を含む塩基、あるいは有機塩基であればよいが、リチウムを含む塩基が好ましい。中でも、リチウムの水酸化物およびリチウムのアルコキシドが好ましく、水酸化リチウム、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウム−t−ブトキシドがさらに好ましく、水酸化リチウムが特に好ましい。塩基の使用量は適宜決めることができる。
【0037】
塩基の存在下で(LCl(MC)と(BL)M(L(MC)を反応させた後、酸(HX)を加えて(L(BL)M(L(X)で示される二核金属錯体を単離させる。酸を加える前または同時に、硝酸リチウムなどのリチウムを含む塩(LiX)を加えてもよい。
【0038】
本発明の金属錯体は、リチウムを含む塩基を使用すること以外は、公知の方法、例えばWO2006/038587、Inorganic Chemistry、第17巻、第9号、第2660〜2666頁、1978年、Journal of the American Chemical Society、第115巻、第6382〜6390頁、1993年等の文献中に引用された方法を参考にして製造することができる。
【0039】
次に、本発明により製造される二核金属錯体について説明する。
【0040】
本発明の一般式:(L(BL)M(L(X)で示される非対称な二核金属錯体において、M及びMは、遷移金属であり、好ましくは第VIII族〜第XI族の遷移金属であり、具体的には、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)または鉄(Fe)が好ましい。中でも、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)が好ましく、ルテニウム(Ru)が特に好ましい。
【0041】
及びMは、同一金属でも異なった金属であってもよい。
【0042】
及びLは、多座配位可能なキレート型配位子であり、好ましくは二座もしくは三座もしくは四座配位可能なキレート型配位子、さらに好ましくは二座配位可能なキレート型配位子である。具体的には、2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、2−(2−ピリジニル)キノリンまたは2,2’−ビキノリンなどの誘導体などが挙げられる。LとLは、異なるものである。また、二つのLは異なるものであってもよく、二つのLも異なるものであってもよい。
【0043】
本発明の二核金属錯体が光電変換素子に用いる金属錯体色素である場合、Lは、半導体微粒子に固定され得る置換基を少なくとも一つ有している。
【0044】
の半導体微粒子に固定され得る置換基としては、カルボキシル基(−COOH)、アミノ基(−NH)、水酸基(−OH)、硫酸基(−SOH)、燐酸基(−PO)、ニトロ基(−NO)などが挙げられる。中でも、カルボキシル基(−COOH)が好ましい。カルボキシル基の水素は、テトラブチルアンモニウムなどの4級アンモニウム、ナトリウムイオンなどのアルカリ金属イオンなどのカチオンで交換されていてもよい。また、水素は脱離していてもよい。
【0045】
さらに、Lは、半導体微粒子に固定され得る置換基以外の置換基を有しても、有してなくてもよい。このような置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)などが挙げられる。
【0046】
また、本発明の二核金属錯体が光電変換素子に用いる金属錯体色素である場合、Lは、主に(L部分にLUMOが分布するような配位子であることが好ましい。「主に(L部分にLUMOが分布する」とは、(L部分よりも(L部分にLUMOが多く分布していることを意味する。主に(Lが太陽光などの光照射により電子が励起するLUMOを有する構造であることによって、この二核金属錯体により増感された半導体微粒子を含む光電変換素子を用いて光化学電池を製造したときに、電解質から光電変換素子(負極)へのスムーズな電子移動を起こすことができ、効率のよい光化学電池を構成することができる。
【0047】
LUMOの算出は、ソフトウェアはCeriusあるいはMaterial Studioを用いた。その方法は、DMolモジュールを用いてDFT(密度汎関数法)によって金属錯体の構造最適化を行った。そのときの交換相関関数は特に限定はしないがVWN法またはBLYP法が好適に用いられる。基底関数は特に限定はしないがDNPが好適に用いられる。
【0048】
エネルギー状態計算は得られた構造を用い、交換相関関数としては特に限定はしないがBLYP,PBEが用いられ、基底関数系としては特に限定はしないがDNPが好適に用いられる。
【0049】
としては、下式(L−A)で表される配位子が挙げられる。
【0050】
【化7】


式中、−COOHのHは脱離していてもよく、R、R、R、R、R及びRは水素原子、アルコキシ基または置換もしくは無置換の炭化水素基を表すか、または、これらの二つ以上が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環または置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素環を形成している。
【0051】
〜Rは好ましくは水素原子、アルキル基、アルコキシ基であり、水素原子、アルキル基であることがより好ましい。アルキル基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。また、アルコキシ基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
【0052】
また、RとR、RとR、RとRが一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(置換基を有していてもよい)を形成していることも好ましい。芳香族炭化水素環の置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)などが挙げられる。
【0053】
〜Rは水素原子であることが特に好ましい。
【0054】
の具体例としては、下式(L−1)〜(L−4)で表される配位子が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
【化8】

2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸(Hdcbpy)
【0056】
【化9】

1,10−フェナントロリン−4,7−ジカルボン酸(Hdcphen)
【0057】
【化10】

2−(2−(4−カルボキシピリジル))−4−カルボキシキノリン(Hdcpq)
【0058】
【化11】

2,2’−ビキノリン−4,4’−ジカルボン酸(Hdcbiq)

但し、式(L−1)〜(L−4)中の複素環およびベンゼン環は置換基を有していてもよく、また、−COOHのHは脱離していてもよい。置換基としては、メチル基、エチル基などの炭素数6以下のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基などの炭素数6以下のアルコキシ基などが挙げられる。
【0059】
前述の通り、Lは、多座配位可能なキレート型配位子であり、好ましくは二座もしくは三座もしくは四座配位可能なキレート型配位子、さらに好ましくは二座配位可能なキレート型配位子である。具体的には、2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、2−(2−ピリジニル)キノリンまたは2,2’−ビキノリンなどの誘導体などが挙げられる。
【0060】
は、置換基を有しても、有してなくてもよい。Lの置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基など)、アリール基(フェニル基、トリル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)、および水酸基(−OH)などが挙げられる。特に、電子供与性を示す基が好ましい。
【0061】
としては、下式(L−A)で表される配位子が挙げられる。
【0062】
【化12】

式中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17及びR18は水素原子、アルコキシ基、水酸基または置換もしくは無置換の炭化水素基を表すか、または、これらの二つ以上が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環または置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素環を形成している。
【0063】
11〜R18は好ましくは水素原子、アルキル基、アルコキシ基であり、水素原子、アルキル基であることがより好ましい。アルキル基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。また、アルコキシ基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
【0064】
また、R11〜R18の隣接する二つ、またはR11とR18が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(置換基を有していてもよい)を形成していることも好ましい。芳香族炭化水素環の置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)などが挙げられる。
【0065】
11〜R18は水素原子またはメチル基であることが特に好ましい。また、R11とR18が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(メチル基などの置換基を有していてもよい)を形成しており、R12〜R17は水素原子またはメチル基、より好ましくは水素原子であることも特に好ましい。
【0066】
の具体例としては、下式(L−1)〜(L−4)で表される配位子が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
【化13】

2,2’−ビピリジン(bpy)
【0068】
【化14】

1,10−フェナントロリン(phen)
【0069】
【化15】

2−(2−ピリジニル)キノリン(pq)
【0070】
【化16】

2,2’−ビキノリン(biq)

但し、式(L−1)〜(L−4)中の複素環およびベンゼン環は置換基を有していてもよい。置換基としては、炭素数6以下のアルキル基、炭素数6以下のアルコキシ基、メチル基などの置換基を有していてもよいフェニル基、水酸基などが挙げられる。
【0071】
BLは架橋配位子であって、ヘテロ原子を含む環状構造を有するものである。そして、この環状構造(複素共役環)に含まれるヘテロ原子がM及びMに配位する配位原子である。ヘテロ原子としては、窒素、酸素、硫黄、燐などが挙げられる。
【0072】
BLは、四座配位子であることが好ましく、さらに好ましくはアニオン性である。また、BLは、環状構造(複素共役環)上に置換基を有しても、有しなくてもよい。
【0073】
BLとしては、下式(BL−A)で表されるものが挙げられる。
【0074】
【化17】

式中、R31、R32及びR33は水素原子または置換もしくは無置換の炭化水素基を表すか、または、これらの二つ以上が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環または置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素環を形成しており、R34、R35及びR36は水素原子または置換もしくは無置換の炭化水素基を表すか、または、これらの二つ以上が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環または置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素環を形成している。
【0075】
31〜R36は好ましくは水素原子、アルキル基、アルコキシ基であり、水素原子、アルキル基であることがより好ましい。アルキル基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。また、アルコキシ基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
【0076】
また、R31〜R36の隣接する二つが一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(置換基を有していてもよい)を形成していることも好ましい。芳香族炭化水素環の置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)などが挙げられる。
【0077】
31〜R36は水素原子またはメチル基であることが特に好ましく、R31〜R36は水素原子であることがさらに好ましい。
【0078】
また、BLとしては、下式(BL−B)で表されるものも挙げられる。
【0079】
【化18】

式中、R41及びR42は水素原子または置換もしくは無置換の炭化水素基を表すか、または、これらが一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環または置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素環を形成しており、R43及びR44は水素原子または置換もしくは無置換の炭化水素基を表すか、または、これらが一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環または置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素環を形成している。
【0080】
41〜R44は好ましくは水素原子、アルキル基、アルコキシ基であり、水素原子、アルキル基であることがより好ましい。アルキル基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。また、アルコキシ基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
【0081】
また、R41とR42、R43とR44が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(置換基を有していてもよい)を形成していることも好ましい。芳香族炭化水素環の置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)などが挙げられる。
【0082】
41〜R44は水素原子またはメチル基であることが特に好ましく、R41〜R44は水素原子であることがさらに好ましい。また、R41とR42、R43とR44が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(メチル基などの置換基を有していてもよい)を形成していることも特に好ましい。
【0083】
上式(BL−B)で表されるものの中では、下式(BL−C)で表されるものが好ましい。
【0084】
【化19】

式中、R51、R52、R53及びR54は水素原子または置換もしくは無置換の炭化水素基を表すか、または、これらの二つ以上が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環または置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素環を形成しており、R55、R56、R57及びR58は水素原子または置換もしくは無置換の炭化水素基を表すか、または、これらの二つ以上が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環または置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素環を形成している。
【0085】
51〜R58は好ましくは水素原子、アルキル基、アルコキシ基であり、水素原子、アルキル基であることがより好ましい。アルキル基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。また、アルコキシ基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
【0086】
また、R51〜R58の隣接する二つが一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(置換基を有していてもよい)を形成していることも好ましい。芳香族炭化水素環の置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)などが挙げられる。
【0087】
51〜R58は水素原子またはメチル基であることが特に好ましく、R51〜R58は水素原子であることがさらに好ましい。
【0088】
BLの具体例としては、下式(BL−1)〜(BL−4)で表されるものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0089】
【化20】

2,2’−ビピリミジン(bpm)
【0090】
【化21】

テトラチアフルバレン(TTF)
【0091】
【化22】

2,2’−ビイミダゾラト(BiIm)
【0092】
【化23】

2,2’−ビベンズイミダゾラト(BiBzIm)

但し、式(BL−1)〜(BL−4)中の複素環およびベンゼン環は置換基を有していてもよい。置換基としては、炭素数6以下のアルキル基、炭素数6以下のアルコキシ基などが挙げられ、また、式(BL−4)中のベンゼン環上の隣接する二つの炭素原子が一緒になって新たなベンゼン環(置換基を有していてもよい)を形成していてもよい。
【0093】
光電変換素子に用いる金属錯体色素である場合、BLが上式(BL−3)、または(BL−4)で表される配位子であることが好ましい。
【0094】
また、(L(BL)M(L(X)は、水または有機溶媒を結晶溶媒として含んでいてもよい。有機溶媒としては、DMSO、アセトニトリル、DMF、DMAC、メタノールなどが挙げられる。尚、結晶溶媒の数は特に規定されない。
【0095】
Xは対イオンであり、錯体[(L(BL)M(L]がカチオンであれば対イオンはアニオン、錯体[(L(BL)M(L]がアニオンであれば対イオンはカチオンである。ここにnは、錯体の電荷を中和するのに必要な対イオンの数を表す。
【0096】
Xの具体例として、対イオンがアニオンの場合、ヘキサフルオロリン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフェニルホウ酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、チオシアン酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、および塩化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオンなどが挙げられる。
【0097】
Xの具体例として、対イオンがカチオンの場合、アンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、ナトリウムイオンなどのアルカリ金属イオン、およびプロトンなどが挙げられる。
【0098】
金属錯体色素としては、特に、Lが上式(L−1)で表される配位子(−COOHのHが脱離しているもの、複素環およびベンゼン環がさらに置換基を有しているものも含む)であり、Lが上式(L−1)または(L−2)で表される配位子(複素環およびベンゼン環が置換基を有しているものも含む)であり、BLが上式(BL−3)または(BL−4)で表される配位子(複素環およびベンゼン環が置換基を有しているものも含む)であり、M及びMがルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)または鉄(Fe)であるものが好ましい。
【0099】
本発明の(L(BL)M(L(X)で示される非対称な二核金属錯体の具体例としては、下式(D−1)〜(D−16)で表されるものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0100】
【化24】

[(Hdcbpy)Ru(BiIm)Ru(bpy)](ClO
【0101】
【化25】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiIm)Ru(bpy)](PF
【0102】
【化26】

[(Hdcbiq)(Hdcbiq)Ru(BiIm)Ru(bpy)](PF
【0103】
【化27】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(bpy)](PF
【0104】
【化28】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(bpy)](BF
【0105】
【化29】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(bpy)](BPh
【0106】
【化30】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(bpy)](OSOCF
【0107】
【化31】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(bpy)](ClO
【0108】
【化32】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(bpy)](NO
【0109】
【化33】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(bpy)](I)
【0110】
【化34】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(phen)](PF
【0111】
【化35】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(biq)](PF
【0112】
【化36】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(dmbpy)](PF
【0113】
【化37】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(TMBiBzIm)Ru(bpy)](PF
【0114】
【化38】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Os(bpy)](PF
【0115】
【化39】

[(Hdcbpy)Ru(bpm)Ru(bpy)](PF6

上記の金属錯体は、金属錯体色素として用いることができ、金属錯体色素により増感された半導体微粒子を用いて、光化学電池を製造することができる。
【0116】
本発明の光電変換素子は、上記の金属錯体色素により増感された半導体微粒子を含むものである。より具体的には、上記の金属錯体色素により増感された半導体微粒子を電極上に固定したものである。
【0117】
導電性電極は、透明基板上に形成された透明電極であることが好ましい。導電剤としては、金、銀、銅、白金、パラジウムなどの金属、錫をドープした酸化インジウム(ITO)に代表される酸化インジウム系化合物、フッ素をドープした酸化錫(FTO)に代表される酸化錫系化合物、酸化亜鉛系化合物などが挙げられる。
【0118】
半導体微粒子としては、酸化チタン、酸化亜鉛、または酸化錫などが挙げられる。また、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化バナジウムや、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウムなどの複合酸化物半導体、カドミウムまたはビスマスの硫化物、カドミウムのセレン化物またはテルル化物、ガリウムのリン化物またはヒ素化物なども挙げられる。半導体微粒子としては、酸化物が好ましく、酸化チタン、酸化亜鉛、または酸化錫、およびこれらのいずれか1種以上を含む混合物が特に好ましい。
【0119】
半導体微粒子の一次粒子径は特に限定されないが、通常、1〜5000nm、好ましくは2〜500nm、特に好ましくは5〜300nmである。
【0120】
本発明の光化学電池は、上記の光電変換素子を用いたものである。より具体的には、電極として上記の本発明の光電変換素子と対極とを有し、その間に電解質層を有するものである。本発明の光電変換素子に用いた電極と対極の少なくとも片方は透明電極である。
【0121】
対極は光電変換素子と組み合わせて光化学電池としたときに正極として作用するものである。対極としては、上記導電性電極と同様に導電層を有する基板を用いることもできるが、金属板そのものを使用すれば、基板は必ずしも必要ではない。対極に用いる導電剤としては、白金や炭素などの金属、フッ素をドープした酸化錫などの導電性金属酸化物が挙げられる。
【0122】
電解質(酸化還元対)としては特に限定されず、公知のものをいずれも用いることができる。例えば、ヨウ素とヨウ化物(例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム等の金属ヨウ化物、またはヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム、ヨウ化ピリジニウム、ヨウ化イミダゾリウム等の4級アンモニウム化合物のヨウ化物)の組み合わせ、臭素と臭化物の組み合わせ、塩素と塩化物の組み合わせ、アルキルビオローゲンとその還元体の組み合わせ、キノン/ハイドロキノン、鉄(II)イオン/鉄(III)イオン、銅(I)イオン/銅(II)イオン、マンガン(II)イオン/マンガン(III)イオン、コバルトイオン(II)/コバルトイオン(III)等の遷移金属イオン対、フェロシアン/フェリシアン、四塩化コバルト(II)/四塩化コバルト(III)、四臭化コバルト(II)/四臭化コバルト(III)、六塩化イリジウム(II)/六塩化イリジウム(III)、六シアノ化ルテニウム(II)/六シアノ化ルテニウム(III)、六塩化ロジウム(II)/六塩化ロジウム(III)、六塩化レニウム(III)/六塩化レニウム(IV)、六塩化レニウム(IV)/六塩化レニウム(V)、六塩化オスミウム(III)/六塩化オスミウム(IV)、六塩化オスミウム(IV)/六塩化オスミウム(V)等の錯イオンの組み合わせ、コバルト、鉄、ルテニウム、マンガン、ニッケル、レニウムといった遷移金属とビピリジンやその誘導体、ターピリジンやその誘導体、フェナントロリンやその誘導体といった複素共役環及びその誘導体で形成されているような錯体類、フェロセン/フェロセニウムイオン、コバルトセン/コバルトセニウムイオン、ルテノセン/ルテノセウムイオンといったシクロペンタジエン及びその誘導体と金属の錯体類、ポルフィリン系化合物類等が使用できる。好ましい電解質は、ヨウ素とヨウ化リチウムや4級アンモニウム化合物のヨウ化物とを組み合わせた電解質である。電解質の状態は、有機溶媒に溶解した液体であっても、溶融塩、ポリマーマトリックスに含浸漬したいわゆるゲル電解質や、固体電解質であってもよい。
【0123】
本発明の光化学電池は、従来から適用されている方法によって製造することができる。
【0124】
例えば、透明電極上に酸化物等の半導体微粒子のペーストを塗布し、加熱焼成し半導体微粒子の薄膜を作製する。半導体微粒子の薄膜がチタニアの場合、温度450℃、反応時間30分で焼成する。この薄膜の付いた透明電極を色素溶液に浸漬し、色素を担持して光電変換素子を作製する。さらにこの光電変換素子と対極として白金あるいは炭素を蒸着した透明電極を合わせ、その間に電解質溶液を入れることにより本発明の光化学電池を製造することが出来る。
【実施例】
【0125】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0126】
(実施例1)
二核金属錯体色素[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(bpy)](NO)(D−9)の合成
1.単核金属錯体(Hdcbpy)RuCl(MC−1)の合成
窒素雰囲気下、500ml三口フラスコに、市販のRuCl・3HO(2.53g,9.68mmol)、Hdcbpy(4.50g,18.4mmol)、およびN,N−ジメチルホルムアミドを300ml加え、2.45GHzのマイクロ波照射下45分間還流した。放冷後ろ過し、得られたろ液を減圧乾固した。得られた残留物をアセトン/ジエチルエーテル(1:4)で洗浄後、2mol/l塩酸300mlを加え、20分間超音波攪拌、さらに超音波攪拌を止め2時間攪拌した。攪拌終了後、不溶物をろ取し、2mol/l塩酸、アセトン/ジエチルエーテル(1:4)およびジエチルエーテルで洗浄した。真空乾燥後、5.75gのMC−1を得た(収率85%)。
【0127】
【化40】

2.単核金属錯体(BiBzIm)Ru(bpy)(MC−2)の合成
窒素雰囲気下、300ml三口フラスコに、Ru(bpy)Cl(4.02g,7.7mmol)、Inorg.Chem.,34,5979(1995)を参照して合成した2,2’−ビベンズイミダゾール(BiBzImH)(2.18g,9.3mmol)、およびエチレングリコールを100ml加え、2.45GHzのマイクロ波照射下5分間還流した。放冷後、10%のリチウムメトキシドメタノール溶液を35ml加え、60℃で10分間2.45GHzのマイクロ波を照射した。放冷後、200mlの水を加え、攪拌し、析出物をろ過した。析出物を水、冷メタノール、およびジエチルエーテルで洗浄、真空乾燥後、MC−2を5.7708g得た。さらに、この析出物5.77gを窒素下でメタノール200mlに加え、さらにここへ10%のリチウムメトキシドメタノール溶液を10ml加え、1時間還流した。放冷後、析出物をろ過し、冷メタノール、水、およびジエチルエーテルで洗浄、真空乾燥後、MC−2を5.02g得た(収率95%)。
【0128】
【化41】

3.D−9の合成
窒素雰囲気下、300ml三口フラスコに、MC−1(0.604g,0.87mmol)、およびエタノール/水(1:1)を100ml加え、1mol/l水酸化リチウム水溶液を3.5ml滴下し溶解させた。この溶液にMC−2(0.624g,0.92mmol)を加え、2.45GHzのマイクロ波照射下30分間還流した。放冷後、少量の不溶解物をろ別後、ろ液のエタノールを減圧留去した。得られた懸濁液をろ過し、ろ液に硝酸リチウム(0.615g、8.92mmol)を加え、さらに0.5mol/l硝酸水溶液をpH2.5になるまで滴下した。析出した錯体をろ取し、pH2.5硝酸水溶液、アセトン/ジエチルエーテル(1:4)、およびジエチルエーテルで洗浄した。真空乾燥後、D−9を1.010g得た(収率87%)。
【0129】
(実施例2)
1.多孔質チタニア電極の作製
(多孔質チタニア電極の作製)
触媒化成製のチタニアペーストPST−18NRを透明層に、PST−400Cを拡散層に用い、旭硝子株式会社製透明導電性ガラス電極上にスクリーン印刷機を用いて塗布した。得られた膜を25℃、60%の雰囲気下で5分間エージングし、このエージングした膜を450℃で30分間焼成した。冷却した膜に対し、同じ作業を所定の厚みになるまで繰り返し、16mmの多孔質チタニア電極を作製した。
【0130】
2.色素を吸着した多孔質チタニア電極の作製
D−9のt−ブタノール/アセトニトリルの1:1混合溶媒を用いた飽和色素溶液に多孔質チタニア電極を30℃で40時間浸漬し、乾燥して色素吸着多孔質チタニア電極を得た。
【0131】
3.光化学電池の作製
以上のようにして得られた色素吸着多孔質チタニア電極と白金板(対極)を重ね合わせた。次に、電解質溶液を両電極の隙間に毛細管現象を利用して染み込ませることにより光化学電池を作製した。
【0132】
4.耐久性評価
得られた光化学電池を85℃暗所で所定の時間静置した後、室温に戻し、光電変換効率(η)を英弘精機株式会社製のソーラーシュミレーターを用い、100mW/cmの擬似太陽光を照射し測定した。図1に85℃暗所で放置した時間による光電変換効率の変化を示す。
【0133】
(比較例1)
C−2の合成時にリチウムメトキシドメタノール溶液の代わりにナトリウムメトキシドメタノール溶液を用い、D−9の合成時に水酸化リチウム水溶液の代わりに水酸化ナトリウム水溶液を、硝酸リチウムの代わりに硝酸ナトリウムを用いた以外は実施例1と同様にして二核金属錯体色素(D−9)を製造した。そして、この色素を用い、実施例2と同様にして光化学電池を作製し、耐久性の評価を行った。その結果を図1に示す。
【0134】
図1から明らかなように、本発明の二核金属錯体色素を用いた光化学電池は、ナトリウムを含む塩基を使用して合成した色素を用いたものと比べて、耐久性が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0135】
以上のように、本発明によれば、高い光電変換効率と耐久性を有する光化学電池を実現できる金属錯体色素を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】図1は、実施例2および比較例1で得られた光化学電池の85℃暗所で所定の時間静置した後の光電変換効率を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:(L(BL)M(L(X)で示される非対称な二核金属錯体(但し、M及びMは、遷移金属であって、同一でも異なっていてもよく、L及びLは、多座配位可能なキレート型配位子であって、LとLは異なるものであり、二つのLは異なるものであってもよく、二つのLも異なるものであってもよく、BLはヘテロ原子を含む環状構造を少なくとも二つ有する架橋配位子であって、M及びMに配位する配位原子がこの環状構造に含まれるヘテロ原子である。Xは対イオンである。nは錯体の電荷を中和するのに必要な対イオンの数を表す。)を製造する方法であって、
リチウムを含む塩基(1)の存在下で式:(LClで示される単核金属錯体(但し、M及びLは上記と同義である。)と式:(BL)M(Lで示される単核金属錯体(但し、M、L及びBLは上記と同義である。)を反応させる工程を有することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記リチウムを含む塩基(1)が水酸化リチウムおよび/またはリチウムのアルコキシドである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
式:(LClで示される単核金属錯体と式:(BL)M(Lで示される単核金属錯体を反応させた後、酸を加えて、あるいは酸とリチウムを含む塩を加えて式:(L(BL)M(L(X)で示される二核金属錯体を単離させる工程を有する請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
リチウムを含む塩基(2)の存在下で式:(LClで示される単核金属錯体(但し、M及びLは上記と同義である。)とH(BL)(但し、BLは上記と同義であり、H(BL)はBL中の二つのヘテロ原子がプロトン化された状態を示す。)を反応させ、式:(BL)M(Lで示される単核金属錯体を合成する工程をさらに有する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記リチウムを含む塩基(2)がリチウムのアルコキシドである請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
一般式:(BL)M(Lで示される単核金属錯体(但し、Mは、遷移金属であり、Lは、多座配位可能なキレート型配位子であって、二つのLは異なるものであってもよく、BLはヘテロ原子を含む環状構造を少なくとも二つ有する架橋配位子であって、Mに配位する配位原子がこの環状構造に含まれるヘテロ原子である。)の製造方法であって、
リチウムを含む塩基(2)の存在下で式:(LClで示される単核金属錯体(但し、M及びLは上記と同義である。)とH(BL)(但し、BLは上記と同義であり、H(BL)はBL中の二つのヘテロ原子がプロトン化された状態を示す。)を反応させる工程を有することを特徴とする製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法により製造される一般式:(L(BL)M(L(X)で示される非対称な二核金属錯体(但し、M及びMは、遷移金属であって、同一でも異なっていてもよく、L及びLは、多座配位可能なキレート型配位子であって、LとLは異なるものであり、二つのLは異なるものであってもよく、二つのLも異なるものであってもよく、BLはヘテロ原子を含む環状構造を少なくとも二つ有する架橋配位子であって、M及びMに配位する配位原子がこの環状構造に含まれるヘテロ原子である。Xは対イオンである。nは錯体の電荷を中和するのに必要な対イオンの数を表す。)。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法により製造される一般式:(L(BL)M(L(X)で示される非対称な二核金属錯体(但し、M及びMは、遷移金属であって、同一でも異なっていてもよく、L及びLは、多座配位可能なキレート型配位子であって、LとLは異なるものであり、二つのLは異なるものであってもよく、二つのLも異なるものであってもよく、Xは対イオンであり、nは錯体の電荷を中和するのに必要な対イオンの数を表し、BLはヘテロ原子を含む環状構造を少なくとも二つ有する架橋配位子であって、M及びMに配位する配位原子がこの環状構造に含まれるヘテロ原子であり、Lが半導体微粒子に固定され得る置換基を有し、かつ主に(LにLUMOが分布する構造である。)からなることを特徴とする金属錯体色素。
【請求項9】
請求項8記載の金属錯体色素により増感された半導体微粒子を含むことを特徴とする光電変換素子。
【請求項10】
前記半導体微粒子が、酸化チタン、酸化亜鉛、または酸化錫であることを特徴とする請求項9記載の光電変換素子。
【請求項11】
請求項9または10記載の光電変換素子を用いることを特徴とする光化学電池。

【図1】
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【公開番号】特開2008−189551(P2008−189551A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22097(P2007−22097)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】