説明

二段過給システムの配置構造

【課題】吸気の通気抵抗を抑えてポンピングロスを低減し得、燃費向上を図り得ると共に、高圧段タービンと低圧段タービンとの間の熱膨張差に伴う応力の発生を抑制し得る二段過給システムの配置構造を提供する。
【解決手段】高圧段ターボチャージャ6の軸線O1に対し低圧段ターボチャージャ10の軸線O2を、湾曲する吸気管19の曲率が小さくなるよう、傾斜させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二段過給システムの配置構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジン排気流路から分流した排気を水冷式の管形熱交換器であるEGRクーラ(EGR:Exhaust Gas Recirculation)により冷却した上でエンジン吸気流路へ戻し、燃焼温度を下げてNOxの発生を低減させる排気再循環が一般的に行われている。
【0003】
排気容量を変えずにエンジンの出力を高めるためには、1サイクル当たりの燃料噴射量を多くすると共に、ターボチャージャにより過給圧を上げてシリンダへの吸気の送給量を増やす必要がある。
【0004】
又、吸気の送給量を減らさずに高EGR率を達成するためにも、ターボチャージャを用いて過給圧を上げる必要がある。
【0005】
そこで、高圧力比が得られる二段過給システムをエンジンに採用することが提案されている。
【0006】
図6は従来の二段過給システムの一例を示すものであり、車載のエンジン1の排気マニホールド2から直に送出される排気Gによって高圧段タービン3を作動させ且つ高圧段コンプレッサ4で圧縮した吸気Aをエンジン1の吸気マニホールド5へ送給する高圧段ターボチャージャ6と、該高圧段ターボチャージャ6の高圧段タービン3から送出される排気G、或いは該高圧段タービン3の吸込側から吐出側へ至るウエストゲート配管7を経た排気Gによって低圧段タービン8を作動させ低圧段コンプレッサ9で圧縮した吸気Aを前記高圧段コンプレッサ4へ送給する低圧段ターボチャージャ10とを備え、前記ウエストゲート配管7には、高圧段タービン3に対応するウエストゲートバルブ11が組み込まれている。
【0007】
前記低圧段ターボチャージャ10の低圧段コンプレッサ9の吐出側と前記高圧段ターボチャージャ6の高圧段コンプレッサ4の吸入側とをつなぐ低圧吸気流路12には、インタクーラ13が介装されており、前記高圧段コンプレッサ4の吐出側とエンジン1の吸気マニホールド5とをつなぐ高圧吸気流路14には、アフタクーラ15が介装されている。
【0008】
又、前記高圧段タービン3よりも上流側のエンジン排気流路(図6の例では排気マニホールド2)からは、前記アフタクーラ15よりも下流側の高圧吸気流路14(図6の例では吸気マニホールド5)へ至るEGR配管16が分岐接続され、該EGR配管16には、前記エンジン排気流路から分流した排気Gを冷却するEGRクーラ17と、前記高圧吸気流路14(図6の例では吸気マニホールド5)へ還流すべき排気Gの流量を調整するEGRバルブ18とが設けられている。
【0009】
尚、図6中、19は前記低圧段コンプレッサ9へ吸気Aを供給する吸気管、20は前記高圧段タービン3と低圧段タービン8とをつなぐ排気接続管、21は低圧段タービン8を駆動した後の排気Gを排出する排気管である。
【0010】
そして、前述の如き二段過給システムにおいては、エンジン1が稼動状態にあるとき、排気マニホールド2から送出される排気Gの大部分は、高圧段タービン3へ流入して高圧段コンプレッサ4を駆動した後、排気接続管20を介し低圧段タービン8へ流入して低圧段コンプレッサ9を駆動し、排気管21から排出される。
【0011】
前記吸気管19から低圧段コンプレッサ9に流入し且つ圧縮された吸気Aは、前記低圧吸気流路12に介装されたインタクーラ13を経て高圧段コンプレッサ4に送給され、該高圧段コンプレッサ4で再び圧縮され、前記高圧吸気流路14に介装されたアフタクーラ15を経て吸気マニホールド5へ送給される。
【0012】
これにより、シリンダへの吸気Aの送給量が増加し、1サイクル当たりの燃料噴射量を多くすれば、エンジン1の出力を高めることができる。
【0013】
又、前記排気Gの一部は、排気マニホールド2からEGR配管16へ流入し、EGRクーラ17で冷却され且つEGRバルブ18で流量調整が行われた排気Gが、吸気Aと一緒に吸気マニホールド5へ送給され、これにより、シリンダ内の燃焼温度の低下が図られ、NOxの発生が低減される。
【0014】
更に、前記エンジン1が高速高負荷領域に達した際には、高圧段タービン3の能力を上回るような高エネルギ(大流量で高圧力)の排気Gが、該高圧段タービン3に流れ込むことがないようにウエストゲートバルブ11を開き、排気Gの一部をウエストゲート配管7から低圧段タービン8に導くようにして、タービン内の圧力過上昇抑制と過回転防止、並びにポンピングロス低減を図るようになっている。因みに、前記ウエストゲート配管7から低圧段タービン8に導かれる排気Gは、全体の0〜30%程度の範囲内で、前記ウエストゲートバルブ11の開度調節による流量調節が行われ、ウエストゲートバルブ11全閉時より燃費改善を図っている。
【0015】
尚、前述の如き二段過給システムと関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2007−71179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところで、トラック等の大型の車両は、普通乗用車と比べて未舗装の悪路を走行する機会が多いことから、エンジンの吸気としては、塵埃が多く含まれている地面付近の空気ではなく、地面から充分高い部分の清浄な空気を取り入れることが好ましく、又、地面付近では、走行時に跳ね上げられる雨水や積雪等を一緒に取り込んでしまう虞もあるため、地面から充分高い部分で空気だけを確実に取り入れることが好ましい。
【0018】
このため、図7に示される如く、トラック等の車両22の場合、該車両22のキャブ23後面における左右方向一側下部に、前記低圧段ターボチャージャ10の低圧段コンプレッサ9に吸気管19から空気を吸気Aとして供給するエアクリーナ24を配置し、該エアクリーナ24から上方へ立ち上がるエアクリーナ入口ダクト25に対し、可撓性を有するブーツ26を介して吸気ダクト27を接続し、該吸気ダクト27を前記キャブ23の後面に組み付け、前記吸気ダクト27の上部に開口させた空気取入口28から外気を、水や塵埃等の異物が吸気ダクト27内に侵入することを防止しつつ、吸気ダクト27内へ導き、前記エアクリーナ24で濾過し、清浄な吸気Aとして前記吸気管19から低圧段コンプレッサ9へ供給するようになっている。
【0019】
一方、従来の場合、前記高圧段ターボチャージャ6に対し低圧段ターボチャージャ10は、図6に示される如く、その軸線O1,O2が平行となるよう配置されるのが一般的であるが、前記エアクリーナ24はキャブ23の後面側に設置されるため、該キャブ23の後面側に設置されるエアクリーナ24に対し低圧段コンプレッサ9を吸気管19を介して接続するには、該吸気管19をU字状に折り曲げてその曲率を大きくせざるを得なかった。
【0020】
しかしながら、前記吸気管19内部を流れる吸気Aの圧力は低いため、前述の如く、吸気管19をU字状に折り曲げてその曲率を大きくした場合、吸気Aが低圧段コンプレッサ9に流入する手前で略180°方向転換しなければならず、通気抵抗が非常に大きくなってしまい、ポンピングロスが増大し、燃費が悪くなるという不具合を有していた。
【0021】
又、前記高圧段タービン3と低圧段タービン8との間には、およそ100[℃]前後の温度差が生じ、軸線O1,O2方向での熱膨張差が約3[mm]程度となることが本発明者の研究によって明らかとなっており、このため、前記排気接続管20によって互いに接続される高圧段タービン3と低圧段タービン8との間に過大な応力が発生することが懸念されていた。
【0022】
本発明は、斯かる実情に鑑み、吸気の通気抵抗を抑えてポンピングロスを低減し得、燃費向上を図り得ると共に、高圧段タービンと低圧段タービンとの間の熱膨張差に伴う応力の発生を抑制し得る二段過給システムの配置構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、エンジンから直に送出される排気によって高圧段タービンを作動させ且つ高圧段コンプレッサで圧縮した吸気をエンジンへ送給する高圧段ターボチャージャと、該高圧段ターボチャージャの高圧段タービンから送出される排気によって低圧段タービンを作動させ且つ低圧段コンプレッサで圧縮した吸気を前記高圧段コンプレッサへ送給する低圧段ターボチャージャとを備え、前記低圧段コンプレッサとキャブ後面に設置されるエアクリーナとを湾曲させた吸気管を介して接続する二段過給システムの配置構造において、
前記高圧段ターボチャージャの軸線に対し低圧段ターボチャージャの軸線を、前記湾曲する吸気管の曲率が小さくなるよう、傾斜させることを特徴とする二段過給システムの配置構造にかかるものである。
【0024】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0025】
前述の如く高圧段ターボチャージャの軸線に対し低圧段ターボチャージャの軸線を、前記湾曲する吸気管の曲率が小さくなるよう、傾斜させると、吸気が低圧段コンプレッサに流入する手前で方向転換する角度が緩やかになるため、前記吸気管内部を流れる吸気の圧力が低くても、前記吸気管をU字状に折り曲げてその曲率を大きくした場合に比べ、通気抵抗が抑えられ、ポンピングロスが増大せず、燃費が良くなる。
【0026】
前記二段過給システムの配置構造においては、前記高圧段タービンと低圧段タービンとをつなぐ排気接続管の一端部を、高圧段タービンに対しその軸線方向へスライド自在となるようシールリングを介して接続することができ、このようにすると、前記高圧段タービンと低圧段タービンとの間に、大きな温度差が生じ、軸線方向での熱膨張差が大きくなったとしても、前記排気接続管の一端部がシールリングによって気密性を保持しつつ高圧段タービンに対しその軸線方向へスライドすることにより、該高圧段タービンと低圧段タービンとの間に過大な応力が発生しなくなる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の二段過給システムの配置構造によれば、吸気の通気抵抗を抑えてポンピングロスを低減し得、燃費向上を図り得ると共に、高圧段タービンと低圧段タービンとの間の熱膨張差に伴う応力の発生を抑制し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の二段過給システムの配置構造の実施例を示す平面図である。
【図2】本発明の二段過給システムの配置構造の実施例を示す側面図であって、図1のII−II矢視相当図である。
【図3】本発明の二段過給システムの配置構造の実施例における排気接続管及びシールリングを示す分解斜視図である。
【図4】本発明の二段過給システムの配置構造の実施例における排気接続管及びシールリングの組み付け状態を示す破断斜視図である。
【図5】本発明の二段過給システムの配置構造の実施例における低圧段ターボチャージャの搭載角度と通気抵抗との関係を示す線図である。
【図6】従来の二段過給システムの一例を示す概念図である。
【図7】従来の吸気ダクトの一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0030】
図1〜図5は本発明の二段過給システムの配置構造の実施例であって、図中、図6及び図7と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図6及び図7に示す従来のものと同様であるが、本実施例の特徴とするところは、図1〜図5に示す如く、高圧段ターボチャージャ6の軸線O1に対し低圧段ターボチャージャ10の軸線O2を、前記湾曲する吸気管19の曲率が小さくなるよう、傾斜させた点にある。
【0031】
前記高圧段ターボチャージャ6の軸線O1に対する低圧段ターボチャージャ10の軸線O2の傾斜角度、即ち低圧段ターボチャージャ10の搭載角度を図1に示す如くθとした場合、該搭載角度θを鋭角の範囲内で大きくしていくと、通気抵抗は小さくなり、この関係は、図5に示すような線図で表されるため、該搭載角度θは、レイアウト的に可能な限り大きくすれば良く、
0<θ≦20°
といった範囲に設定することができる。
【0032】
又、本実施例の場合、図3及び図4に示す如く、前記高圧段タービン3と低圧段タービン8とをつなぐ排気接続管20の一端部を、高圧段タービン3に対しその軸線O1方向へスライド自在となるようシールリング29,30を介して接続してある。
【0033】
前記シールリング29,30は、ピストンリングと同様のものを使用し、その材質としては、例えば、鋳鉄を用いることができ、前記高圧段タービン3の吐出口外周縁部に凹設したリング溝31,32に嵌合させるようにしてある。
【0034】
尚、前記排気接続管20の他端部は、図2及び図3に示す如く、低圧段タービン8の吸込側に対しフランジ33によりボルト・ナット等の締結部材34を用いて接合してある。
【0035】
次に、上記実施例の作用を説明する。
【0036】
前述の如く高圧段ターボチャージャ6の軸線O1に対し低圧段ターボチャージャ10の軸線O2を、前記湾曲する吸気管19の曲率が小さくなるよう、傾斜させると、吸気Aが低圧段コンプレッサ9に流入する手前で、図6に示される例のように略180°方向転換しなくて済む。
【0037】
これにより、前記吸気Aが低圧段コンプレッサ9に流入する手前で方向転換する角度が緩やかになるため、前記吸気管19内部を流れる吸気Aの圧力が低くても、前記吸気管19をU字状に折り曲げてその曲率を大きくした場合に比べ、通気抵抗が抑えられ、ポンピングロスが増大せず、燃費が良くなる。
【0038】
又、本実施例の場合、図3及び図4に示す如く、前記高圧段タービン3と低圧段タービン8とをつなぐ排気接続管20の一端部を、高圧段タービン3に対しその軸線O1方向へスライド自在となるようシールリング29,30を介して接続してあるため、前記高圧段タービン3と低圧段タービン8との間に、およそ100[℃]前後の温度差が生じ、軸線O1方向での熱膨張差が約3[mm]程度となっても、前記排気接続管20の一端部がシールリング29,30によって気密性を保持しつつ高圧段タービン3に対しその軸線O1方向へスライドすることにより、該高圧段タービン3と低圧段タービン8との間に過大な応力が発生しなくなる。
【0039】
こうして、吸気の通気抵抗を抑えてポンピングロスを低減し得、燃費向上を図り得ると共に、高圧段タービン3と低圧段タービン8との間の熱膨張差に伴う応力の発生を抑制し得る。
【0040】
尚、本発明の二段過給システムの配置構造は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0041】
1 エンジン
3 高圧段タービン
4 高圧段コンプレッサ
6 高圧段ターボチャージャ
8 低圧段タービン
9 低圧段コンプレッサ
10 低圧段ターボチャージャ
19 吸気管
20 排気接続管
23 キャブ
24 エアクリーナ
29 シールリング
30 シールリング
O1 軸線
O2 軸線
θ 搭載角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから直に送出される排気によって高圧段タービンを作動させ且つ高圧段コンプレッサで圧縮した吸気をエンジンへ送給する高圧段ターボチャージャと、該高圧段ターボチャージャの高圧段タービンから送出される排気によって低圧段タービンを作動させ且つ低圧段コンプレッサで圧縮した吸気を前記高圧段コンプレッサへ送給する低圧段ターボチャージャとを備え、前記低圧段コンプレッサとキャブ後面に設置されるエアクリーナとを湾曲させた吸気管を介して接続する二段過給システムの配置構造において、
前記高圧段ターボチャージャの軸線に対し低圧段ターボチャージャの軸線を、前記湾曲する吸気管の曲率が小さくなるよう、傾斜させることを特徴とする二段過給システムの配置構造。
【請求項2】
前記高圧段タービンと低圧段タービンとをつなぐ排気接続管の一端部を、高圧段タービンに対しその軸線方向へスライド自在となるようシールリングを介して接続した請求項1記載の二段過給システムの配置構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−60820(P2013−60820A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198054(P2011−198054)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】