説明

二酸化マンガン、その製造方法および製造装置、それを用いて作製される電池用活物質、ならびにそれを用いる電池

【課題】電池の放電特性や長期信頼性を向上させた二酸化マンガンを提供する。
【解決手段】β型の結晶構造を有する単結晶粒子を含む二酸化マンガン。前記二酸化マンガンは、マンガンイオンを含む水溶液を亜臨界状態または超臨界状態として、二酸化マンガンを析出させる工程を包含する製造方法により作製することができる。マンガンイオンを含む水溶液と亜臨界状態または超臨界状態の水とは、反応管の入口側の端部において混合される。反応管の内壁部分は、絶縁性無機材料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化マンガン、その製造方法および製造装置、それを用いて作製される電池用活物質、ならびにそれを用いる電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化マンガンは資源的に豊富であり、安価であることから、電池用正極活物質として広く用いられている。例えば、二酸化マンガンは、負極に亜鉛を用いたマンガン電池またはアルカリ電池、あるいは負極にリチウム金属を用いたリチウム電池などの正極に用いられている。特に、リチウム電池は優れた保存特性を有することから、主電源として用いられているだけでなく、バックアップ電源としても広く用いられている。
【0003】
従来、電池用二酸化マンガンの製造方法としては、硫酸水溶液などの酸性水溶液にマンガン鉱物を溶解し、その溶液を電気分解する電解法が用いられている(特許文献1参照)。電解法により、数十μmの二次粒子が得られることが報告されている。
【特許文献1】特開平6−150914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の電子機器のポータブル化および多機能化に伴い、放電特性および長期信頼性の向上など、電池に対するさらなる高性能化が求められている。しかしながら、電解法または固相法により得られる従来の二酸化マンガンでは、上記要望に対して必ずしも十分に応えられているとはいえない。例えば、電解法で得られる二酸化マンガンは多結晶構造をしており、結晶欠陥および/または結晶粒界が存在する。このため、水素イオン、リチウムイオンなどが、二酸化マンガン固相内を拡散するのが妨げられ、電池の放電特性が低下すると考えられる。
【0005】
正極活物質の粒子サイズは、電池の放電特性に影響を与えると考えられている。電解法または固相法で得られる二酸化マンガンは、平均粒子径が数十μmと大きいため、水素イオンおよびリチウムイオンの二酸化マンガン内での移動距離が長い。このため、例えば、粉砕により、二酸化マンガンを微細化すれば、放電特性の向上が期待できる。しかし、微細化によっても、平均粒子径を1μm程度にしかできない。さらに、この微細化は、高コスト化の原因ともなる。
【0006】
例えば、ゾル−ゲル法または噴霧熱分解法を用いることにより、粒子径が1μm以下の微粒子を作製することは可能である。しかしながら、これらの方法は、工程が複雑であることや二酸化マンガンの合成に時間を要することから、これらの方法を用いて二酸化マンガンを量産化することは困難であると考えられる。
【0007】
そこで、本発明は、電池の放電特性や長期信頼性を向上させることができる二酸化マンガン、その製造方法およびその装置、それを用いて作製される電池用活物質、ならびにそれを用いる電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、β型の結晶構造を有する単結晶粒子を含む二酸化マンガンに関する。二酸化マンガンの単結晶粒子の平均粒子径は、0.1μm以上1μm以下であることが好ましい。その単結晶粒子は針状の粒子形状を有することが好ましい。また、上記二酸化マンガンは、β型の結晶構造を有する単結晶粒子を70重量%以上含むことが好ましい。ここで、単結晶粒子の平均粒子径とは、二酸化マンガン単結晶粒子の最大幅の平均値をいう。例えば、針状の粒子の場合、単結晶粒子の平均粒子径とは、結晶の成長方向(長さ方向)における単結晶粒子の長さの平均値をいう。
【0009】
また、本発明は、上記二酸化マンガンの製造方法に関する。この製造方法は、マンガンイオンを含む水溶液を亜臨界状態または超臨界状態として、二酸化マンガンを析出させる工程を含む。
【0010】
上記製造法方法において、マンガンイオンを含む水溶液を、300℃/sec以上の昇温速度で加熱して、亜臨界状態または超臨界状態とすることが好ましい。このとき、マンガンイオンを含む水溶液を、亜臨界状態または超臨界状態の水と直接混合することにより、マンガンイオンを含む水溶液を300℃/sec以上の昇温速度で加熱することがさらに好ましい。
【0011】
上記製造方法において、マンガンイオンを含む水溶液には、酸化剤が溶解されており、酸化剤は、酸素ガス、オゾンガス、過酸化水素および硝酸イオンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0012】
マンガンイオンを含む水溶液を、亜臨界状態または超臨界状態の水と直接混合する場合、亜臨界状態または超臨界状態の水には、酸化剤が溶解されていてもよい。酸化剤としては、上記と同様のものを用いることができる。
【0013】
また、本発明は、上記二酸化マンガンの製造装置に関する。この装置は、反応管と、反応管の入口側に接続され、反応管にマンガンイオンを含む水溶液を供給する第1管と、反応管の入口側に接続され、反応管に亜臨界状態または超臨界状態の水を供給する第2管と、反応管の出口側に設けられた二酸化マンガンの回収手段を備える。マンガンイオンを含む水溶液と亜臨界状態または超臨界状態の水とは、反応管の入口側の端部において混合される。反応管の内壁部分は、絶縁性無機材料からなる。絶縁性無機材料は、石英またはアルミナであることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、上記二酸化マンガンとリチウム化合物とを熱焼成して合成される電池用正極活物質に関する。なお、上記二酸化マンガンも、正極活物質として用いることができる。
【0015】
また、本発明は、上記二酸化マンガンまたは上記電池用正極活物質を含む正極、負極、セパレータおよび電解液を含む電池に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の二酸化マンガンを電池用活物質として用いることにより、電池の放電特性や長期信頼性を向上させることが可能となる。同様に、本発明の二酸化マンガンを出発物質として合成した活物質を用いた場合にも、電池の放電特性や長期信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の二酸化マンガンは、β型の結晶構造を有する単結晶粒子を含む。このような二酸化マンガンを電池用正極活物質に用いることにより、電池の放電特性や長期信頼性を向上させることが可能となる。
すなわち、従来の多結晶構造の二酸化マンガンには、結晶欠陥や結晶粒界が存在し、それらの結晶欠陥や結晶粒界は、水素イオンおよびリチウムイオンなどが活物質粒子内を拡散することを妨げる。しかしながら、本発明の二酸化マンガンは、上記のように単結晶であり、結晶欠陥等がほとんど含まれない粒子を主に含むため、従来の多結晶構造の二酸化マンガンよりも放電特性を向上させることができる。つまり、本発明の二酸化マンガンを用いることにより、例えば、放電途中における電池の内部抵抗の上昇を抑制することができる。
【0018】
本発明の二酸化マンガンは、低級酸化物、酸成分および結晶水などの不純物等をほとんど含まないため、保存時においても、二酸化マンガンからマンガンイオンが溶出しにくい。さらに、本発明の二酸化マンガンは、単結晶粒子を主として含むため、粒界における腐食等が抑制され、また、表面エネルギーが低い。このため、従来の多結晶構造の粒子から主に構成される二酸化マンガンと比較して安定となり、分解しにくい。よって、長期信頼性を向上させることが可能となる。
【0019】
二酸化マンガンの単結晶粒子の平均粒子径は、0.1μm以上20μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1μm以下であることがさらに好ましい。単結晶粒子の平均粒子径が20μm以下であることにより、二酸化マンガンを粉砕処理して、微粒子にする必要がない。特に、単結晶粒子の平均粒子径が1μm以下であると、単結晶粒子内での水素イオンおよびリチウムイオンの拡散距離が短くなる。このため、電池の放電特性をさらに向上させることが可能となる。ただし、単結晶粒子の平均粒子径が0.1μmより小さい二酸化マンガンは、電極作製時に、導電助剤および結着剤との混合が困難となる場合がある。
【0020】
本発明の二酸化マンガンは、β型の結晶構造を有する単結晶粒子を70重量%以上含むことが好ましい。
【0021】
本発明の二酸化マンガンは、マンガンイオン(Mn2+)を含む水溶液を、亜臨界状態または超臨界状態とすることにより作製することができる。例えば、マンガンイオンを含む水溶液が、マンガンイオンの酸化を促進するための酸化剤として過酸化水素を含む場合、二酸化マンガンは、以下のような反応式:
Mn2+ + 2H22 + 2e- → MnO2 + 2H2
により生成される。
【0022】
マンガンイオンを含む水溶液の温度を250℃以上とし、その圧力を20MPa以上とすることにより、マンガンイオンを含む水溶液を、少なくとも亜臨界状態にすることができる。さらに、マンガンイオンを含む水溶液の温度を374℃以上とし、その圧力を22MPa以上とすることにより、その水溶液を超臨界状態とすることができる。
【0023】
Mn2+などの電荷を有するイオンは、液体中に安定に存在しやすい。一方、生成される二酸化マンガンのような無極性物質は、本来ガス中に安定に存在しやすい。従って、特に超臨界状態では、水のような溶媒は液状からガス状になるため、無極性の二酸化マンガンが速やかに生成されることとなる。
【0024】
超臨界状態において、二酸化マンガンのような金属酸化物の水への溶解度は、一定圧力下では、水の温度を上げていくと、急激に低下する。よって、超臨界状態において、圧力一定下で、温度を上昇させることにより、反応生成物としての二酸化マンガンの析出を促進することが可能となる。
【0025】
100〜200℃程度の比較的低温で水熱合成を行うことにより、金属酸化物を作製した場合、生成した酸化物には、一般に、結晶水および/または水酸基を含む化合物が取り込まれる。一方、特に超臨界状態のような高温状態で金属酸化物を合成する場合には、水はガス状になっているため、生成した酸化物には、結晶水等はほとんど取り込まれることはない。さらに、このような高温状態では、微粒子かつ高結晶性の二酸化マンガンの合成が可能となる。
従って、本発明のように、亜臨界状態または超臨界状態で合成を行うことにより、結晶化度の高い酸化物の生成が促進され、酸化物の単結晶の微粒子が得られやすくなると考えられる。
【0026】
特に、β型の結晶構造を有し、かつ平均粒子径が0.1μm以上1μm以下の単結晶粒子である二酸化マンガンは、マンガンイオンを含む水溶液を、300℃/sec以上の昇温速度で加熱して亜臨界状態または超臨界状態とすることにより作製することができる。
以下、本発明の二酸化マンガンの作製方法を具体的に説明する。
【0027】
(作製方法1)
本発明の二酸化マンガン、特に、平均粒子径が1μmより大きく20μm以下の単結晶粒子を主に含む二酸化マンガンは、例えば、図1に示されるような装置を用いて、マンガンイオンを含む水溶液を亜臨界状態または超臨界状態とすることにより作製することができる。
図1に示される装置は、電熱線4を備える管状炉2、および管状炉2内に配置された管1を具備する。管1には、マンガンイオンを含む水溶液(原料水溶液)が封入されている。管1は、ホルダー6により管状炉2内に固定されている。管状炉2内の管1が配置された空間は、栓5により密閉される。電熱線4は、管状炉2の本体において、管が配置される空間付近の部分を通っている。管状炉2内には、熱電対3が配置されており、熱電対3により、管状炉2内の温度が測定される。
【0028】
このような装置を用いる二酸化マンガンの作製は、以下のようにして行うことができる。
まず、管1に原料水溶液を入れ、管1を密封する。原料水溶液は、例えば、蒸留水に、水溶性マンガン塩を溶解することにより調製する。マンガン塩としては、種々のものを用いることができる。例えば、Mn(NO32、およびMnSO4が挙げられる。
【0029】
原料水溶液に含まれるマンガンイオンの濃度は、0.01〜5mol/Lであることが好ましい。マンガンイオンの濃度が0.01mol/Lより小さい場合には、二酸化マンガンの生産量が少なくなる。マンガンイオンの濃度が5mol/Lより高くなると、二酸化マンガンの収率が低くなる。
【0030】
管1に原料水溶液を封入した後、管1を管状炉2内に挿入する。原料水溶液の管1への封入量は、管状炉2内の所定の温度において、目的とする圧力になるように調整される。ここで、この圧力は、原料水溶液を純水であると仮定し、スチームテーブル(Steam Table)により算出することができる。例えば、反応温度400℃、反応圧力30MPaの水の密度は0.35g/cm3であることから、管1の容積が例えば10cm3であれば、管1には、3.5gの原料水溶液が封入される。
【0031】
次に、管1を、管状炉2で加熱して所定の温度とし、原料水溶液を亜臨界状態または超臨界状態にする。その温度で、所定の反応時間(例えば5〜20分程度)の間保持し、二酸化マンガンを合成する。原料水溶液の種類などの条件にもよるが、温度250℃以上、圧力20MPa以上にすることにより、原料水溶液を少なくとも亜臨界状態とすることができる。加熱温度および管1に封入される原料水溶液の量を調節して、原料水溶液を超臨界状態とすることが好ましい。なお、温度を374℃以上とし、圧力を22MPa以上とすることにより、原料水溶液を超臨界状態とすることができる。上記所定の温度までの昇温速度は、管状炉の性能等によって決まる。原料水溶液の温度を上記所定の温度まで上昇させるために要する時間は、一般には、30秒〜2分程度である。例えば、上記装置において、昇温速度は、4℃/secとすることができる。
管状炉2による加熱温度は、熱電対3を用いて管状炉内の温度を測定しながら、制御する。
【0032】
次に、所定の反応時間の経過後、管1を管状炉2内から取り出し、冷水浴等に入れて、反応を速やかに停止させる。次いで、管1内に析出した固形分を、濾別し、洗浄することによって、反応生成物である二酸化マンガンの微粒子が得られる。
【0033】
上記作製方法により、単結晶粒子の平均粒子径が1μmより大きく20μm以下、好ましくは1μmより大きく10μm以下の二酸化マンガン微粒子を得ることができる。このため、得られた二酸化マンガンを粉砕処理して微粒子にする必要がない。さらに、上記作製方法により、二酸化マンガンを高収率で作製することができる。
ここで、単結晶粒子の平均粒子径とは、二酸化マンガン単結晶粒子の最大径の平均値をいう。例えば、針状の粒子の場合、結晶の成長方向(長さ方向)における単結晶粒子の長さの平均値をいう。
【0034】
原料水溶液は、マンガンイオンの酸化を促進するための酸化剤を含んでいてもよい。酸化剤としては、例えば、酸素ガス、オゾンガス、過酸化水素、および硝酸イオンを用いることができる。これらは、単独で用いてもよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。このような酸化剤を含むことにより、Mn2+をMn4+に速やかに酸化することが可能となる。
例えば、Mn(NO32を用いることにより、原料水溶液中にNO3-イオンを添加することができる。このNO3-イオンの存在により、Mn2+イオンのMn4+イオンへの酸化を促進することができる。
【0035】
さらに、管1中には、空気が存在する。このとき、空気中の酸素も酸化剤として機能する。よって、反応管1内の気相に酸素ガスを存在させることがさらに好適である。酸化反応を促進させるために、管1内の気相中に含まれる酸素ガスの量を増加させることが好ましい。
【0036】
酸化剤としては、硝酸イオンと過酸化水素とを併用することが好ましい。過酸化水素は、加熱により容易に酸素ガスと水に分解する。特に、超臨界条件下では、酸素ガスと原料水溶液とが均一な相を形成するため、酸化剤が硝酸イオンと過酸化水素を含むことにより、より良好な酸化反応場を形成することが可能となる。
【0037】
(作製方法2)
平均粒子径が0.1μm以上1μm以下の単結晶粒子を主に含む二酸化マンガンは、マンガンイオンを含む水溶液(原料水溶液)を、300℃/sec以上の昇温速度で加熱して、亜臨界状態または超臨界状態とすることにより作製することができる。
このような二酸化マンガンは、例えば、図2に示される装置を用いて作製することができる。図2の装置においては、蒸留水を、所定の圧力下で、所定の温度に加熱することにより、亜臨界状態または超臨界状態の水を作製する。得られた亜臨界状態または超臨界状態の水と原料水溶液とを直接混合し、原料水溶液を300℃/sec以上の昇温速度で加熱することにより、原料水溶液を亜臨界状態または超臨界状態とする。
【0038】
図2の装置は、反応管26、第1管23を通して反応管26にマンガンイオンを含む水溶液を供給する第1供給装置21、および第2管24を通して反応管26に亜臨界状態または超臨界状態の水を供給する第2供給装置22を備える。この装置は、さらに、第2管24の途中に設けられた管型電気炉25、反応管26の出口側に設けられた二酸化マンガンの回収手段29、反応管26の途中に設けられた管型電気炉27、反応液を冷却するための熱交換器28、反応液の圧力を低下させるための背圧弁30、およびリザーバ31を備える。反応管26の内壁部分は、絶縁性無機材料からなる。
【0039】
第1供給装置21は、マンガンイオンを含む水溶液を収容するタンク21aおよびマンガンイオンを含む水溶液を所定の圧力で供給するためのポンプ21bとを備える。第2供給装置22は、蒸留水を収容するタンク22aおよび蒸留水を所定の圧力で供給するためのポンプ22bとを備える。ポンプ21bおよび22bとしては、例えば、無脈流ポンプ等を用いることができる。
【0040】
第2供給装置22により第2管24内に供給された蒸留水は、第2管24の途中に設けられた管状電気炉25により、250℃以上に加熱されて、亜臨界状態または超臨界状態の水となる。このとき、蒸留水には、形成される亜臨界状態または超臨界状態に応じて、第2供給装置22により、20MPa以上の所定の圧力がかけられている。
【0041】
第1管23と第2管24とは反応管26の入口側に接続されている。反応管の入口側の端部において、マンガンイオンを含む水溶液と、亜臨界状態または超臨界状態の水とが混合される。図3に、第1管23と第2管24と反応管26の合流部MPの一例を示す。
図3において、第1管23から供給される原料水溶液と、第2管24から供給される亜臨界状態または超臨界状態の水とが、第1管23と第2管24と反応管26との合流部MPにおいて混合されて、反応液が形成される。原料水溶液は、亜臨界状態または超臨界状態の水と接触することにより300℃/sec以上の昇温速度で加熱されて、亜臨界状態または超臨界状態となる。なお、亜臨界状態または超臨界状態となるように、原料水溶液にも第1供給装置21により、20MPa以上の所定の圧力がかけられている。第1管と第2管と反応管との接続様式は、第1管を流れる原料水溶液と、第2管を流れる亜臨界状態または超臨界状態の水とが、反応管の上流側の端部で混合できるのであれば、図3のような様式に限られない。
【0042】
得られた反応液は、反応管26を移動する。このとき、亜臨界状態または超臨界状態が維持されるように、反応液は、管状電気炉27により加熱されている。
【0043】
反応液が所定の長さの反応管26を移動した後、反応液は、反応管26の下流側に設けられた2重管型熱交換器28により冷却される。冷却された反応液は、インラインフィルタのような回収手段29を通過する。回収手段29には、固形分が堆積する。その固形分を、洗浄することにより、二酸化マンガンを得ることができる。回収手段29を通過した反応液は、回収手段29の下流側に設けられた背圧弁30により、その圧力が降圧される。降圧後の反応液は、リザーバ31に溜められる。
上記装置において、図3に示されるように、反応管26の内壁部分32は、絶縁性無機材料からなる。絶縁性無機材料を用いると、ステンレス鋼などの金属材料を用いた場合とは異なり、反応液と反応管との界面での二酸化マンガンの結晶核発生が起こらず、反応液中のみで結晶核発生が起こる。このため、装置の閉塞を防止することができる。
【0044】
上記絶縁性無機材料は石英ガラスまたはアルミナであることがさらに好ましい。これらの材料は絶縁体であり、また超臨界状態でも安定であることから、これらの材料を用いることにより、長時間にわたって、二酸化マンガンの連続合成を安定に行うことが可能となる。
【0045】
本作製方法では、マンガンを含む水溶液が、300℃/sec以上の昇温速度で加熱される。これにより、二酸化マンガンの高い過飽和状態を瞬時に達成できるために、1μm以下の結晶核を生成させることができる。さらに、複数の二酸化マンガンの結晶核が同時に生成するため、核の凝集や結晶表面での2次核生成による多結晶化を防止することができる。特に超臨界状態では、結晶の再溶解析出(オストワルトライプニング現象)による二酸化マンガン結晶の成長を抑制することができる。このため、平均粒子径が1μm以下の二酸化マンガン単結晶粒子を高収率で製造することが可能となる。
【0046】
図2の装置では、原料水溶液と、亜臨界状態または超臨界状態の水とを連続的に混合することができる。このため、二酸化マンガンを、連続的に合成することができる。
【0047】
上記方法では、平均粒子径1μm以下の二酸化マンガンの微粒子を合成できるため、得られた二酸化マンガンを粉砕処理に供する必要がない。ただし、マンガンイオンを含む水溶液の昇温速度が300℃/secより小さくなると、結晶核の成長が起こり易くなるため、平均粒子径が1μmよりも大きくなることがある。
【0048】
マンガンイオンを含む水溶液は、上記のように、亜臨界状態または超臨界状態の水と直接混合して、300℃/sec以上の昇温速度で加熱してもよい。亜臨界状態または超臨界状態の水は、当該分野で公知の方法を用いて作製することができる。または、マンガンイオンを含む水溶液を、加熱機器を用いて300℃/sec以上の昇温速度で直接加熱してもよい。
【0049】
本作製方法においても、マンガンイオンを含む水溶液としては、作製方法1と同様に、水溶性マンガン塩を蒸留水に溶解した水溶液を用いることができる。同様に、マンガンイオンを含む水溶液に含まれるマンガンイオンの濃度は、0.01〜5mol/Lであることが好ましい。
マンガンイオンを含む水溶液は、マンガンイオンの酸化を促進するための酸化剤を含んでいてもよい。マンガンイオンを含む水溶液を、亜臨界状態または超臨界状態の水と直接混合する場合には、マンガンイオンを含む水溶液が酸化剤を含んでいてもよいし、亜臨界状態または超臨界状態の水が酸化剤を含んでいてもよい。酸化剤としては、作製方法1と同様の物質を用いることができる。
【0050】
気相が存在する反応場で二酸化マンガンを作製する場合、上記と同様に、Mn2+の酸化を促進させるために、原料水溶液に酸化剤を加えるだけでなく、気相中に酸素ガスを含ませてもよい。このとき、酸化反応を促進させるために、反応管内の気相中に含まれる酸素ガスの量を増加させることが好ましい。特に、超臨界状態では、マンガンイオンを含む水溶液と酸素ガスのような気体とは、均一相を形成することができる。このため、マンガンイオンの酸化が容易に起こり、二酸化マンガンを高収率で製造できる。
【0051】
以上のように、本実施形態の製造方法によれば、β型の結晶構造を有し、平均粒子径が0.1μm以上1μm以下の単結晶粒子である二酸化マンガンを高収率で製造できる。
【0052】
上記作製方法1および作製方法2で得られた二酸化マンガンは、電池の正極活物質として用いることができる。また、得られた二酸化マンガンを出発物質として合成した化合物を電池の正極活物質として用いることもできる。上記二酸化マンガンを出発物質として合成された化合物は、高純度、高結晶性であり、さらに平均粒子径が小さい。このため、このような化合物を活物質として含む電池は、充放電特性および長期信頼性を向上することができる。
【0053】
例えば、上記二酸化マンガンとリチウム化合物とを混合し、その混合物を焼成することにより、高純度、高結晶性のリチウム含有マンガン酸化物やスピネル状のリチウムマンガン酸化物を得ることができる。リチウム化合物としては、リチウム水酸化物、リチウム酸化物などを用いることができる。
このようなマンガン酸化物を電池の活物質として用いることも可能である。
【0054】
上記のような二酸化マンガンおよび/またはマンガン酸化物は、例えば、リチウム一次電池、リチウム二次電池、アルカリ電池およびマンガン電池の正極活物質として用いることができる。
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。但し、本実施例は本発明の一実施形態を示すものであり、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例】
【0055】
《実施例1−1》
(二酸化マンガンの作製)
図1に示されるような装置を用いて、二酸化マンガンを作製した。
ステンレス鋼(SUS316)製で容積5cm3の管に、1.31cm3(1.31g)の硝酸マンガン水溶液(マンガンイオン濃度:1mol/L)を封入した。硝酸マンガン水溶液を封入した管を管状炉に挿入し、反応温度400℃で10分間反応させた。このときの圧力は28MPaであった。また、このときの昇温速度は4℃/secとした。
10分間の反応時間の終了後、管を水浴に投入して、反応を停止させた。次いで、管の内容物を取り出し、その内容物をろ過後水洗して、二酸化マンガンを得た。得られた二酸化マンガン単結晶粒子の平均粒子径は、8μmであった。
【0056】
(正極の作製)
上記のようにして得られた二酸化マンガンと、導電剤であるカーボンブラックと、結着剤であるフッ素樹脂とを、重量比90:5:5で混合して、正極合剤とした。この正極合剤を加圧成形し、円柱状の正極を作製した。なお、正極は、使用する前に、250℃で熱処理して、付着水を除去した。
【0057】
(負極の作製)
リチウム圧延板を円盤状に打ち抜いて、負極とした。
【0058】
(電解液の調製)
プロピレンカーボネイトと1,2−ジメトキシエタンとを体積比1:1で混合した混合溶媒に、過塩素酸リチウム(LiClO4)を1モル/Lの濃度で溶解して、電解液を調製した。
【0059】
(電池の組立)
以上のようにして得られた正極、負極および電解液を用いて、図4に示される構造を有するコイン形電池を、以下のようにして作製した。コイン形電池の外径は20.0mmとし、厚さは3.2mmとした。
ガスケット44と組み合わせた封口板45に負極42を圧着した。次に、円形に打ち抜いたポリプロピレン製の不織布からなるセパレータ43を負極42と接するように配置した。正極41を、セパレータ43を介して負極42に対向するように配置し、この後、所定量の電解液を注入した。正極41と接するように正極ケース46を被せた後、これらを封口金型に入れ、プレス機により正極ケース46の開口端部を、ガスケット44を介して封口板45にかしめつけることにより、正極ケース46の開口部を封口した。正極ケース46と正極41との間には、カーボン塗料47を塗布しておいた。
このようにして得られた電池を電池1−1とした。
【0060】
《実施例1−2》
硝酸マンガンと過酸化水素を、それぞれ1mol/Lおよび2mol/Lとなるように蒸留水に溶解し、原料水溶液を得た。この原料水溶液を用いたこと以外、実施例1−1と同様にして、二酸化マンガンを作製した。得られた二酸化マンガン単結晶粒子の平均粒子径は、8μmであった。
このようにして得られた二酸化マンガンを正極活物質として用いたこと以外は、実施例1−1と同様にして、電池1−2を作製した。
【0061】
《実施例1−3》
原料水溶液の管への封入量を4.12cm3(4.12g)とし、反応温度を250℃にしたこと以外は、実施例1−2と同様にして、電池1−3を作製した。なお、反応時の圧力は28MPaであった。得られた二酸化マンガン単結晶粒子の平均粒子径は20μmであった。
【0062】
《実施例1−4》
原料水溶液の管への封入量を3.74cm3(3.74g)とし、反応温度を300℃にしたこと以外は、実施例1−2と同様にして、電池1−4を作製した。なお、反応時の圧力は、28MPaであった。得られた二酸化マンガン単結晶粒子の平均粒子径は15μmであった。
【0063】
《実施例1−5》
実施例1−1で得られた二酸化マンガンと、水酸化リチウムとを、1:0.5のモル比で混合した。得られた混合物を400℃で熱処理して、リチウム含有マンガン酸化物(Li0.5MnO2)を得た。得られたリチウム含有マンガン酸化物を正極活物質として用いた。得られたリチウム含有マンガン酸化物と、導電剤であるカーボンブラックと、結着剤であるフッ素樹脂とを、重量比90:5:5で混合して、正極合剤としたこと以外は、実施例1−1と同様にして、電池1−5を作製した。電池1−5は二次電池である。
【0064】
《実施例1−6》
実施例1−1で得られた二酸化マンガンと、水酸化リチウムとを、1:0.5のモル比で混合し、混合物を得た。得られた混合物を850℃にて熱処理して、マンガンスピネル(LiMn24)を得た。得られたマンガンスピネルを正極活物質として用いた。得られたマンガンスピネルと、導電剤であるカーボンブラックと、結着剤であるフッ素樹脂とを、重量比で90:5:5で混合して、正極合剤としたこと以外は、実施例1−1と同様にして、電池1−6を作製した。電池1−6は二次電池である。
【0065】
《比較例1−1》
電解二酸化マンガン(平均粒子径30μm)を正極活物質として用いた。なお、電解二酸化マンガンは結晶水を多く含むγ型の結晶構造を有するため、電解二酸化マンガンを400℃で熱処理して、β型の結晶構造へ相変化させた。結晶構造をβ型へ相変化させた電解二酸化マンガンと、導電剤であるカーボンブラックと、結着剤であるフッ素樹脂とを、重量比で90:5:5で混合して、正極合剤としたこと以外は、実施例1−1と同様にして、比較電池1−1を作製した。
【0066】
《比較例1−2》
電解二酸化マンガン(平均粒子径30μm)と、水酸化リチウムとを、1:0.5のモル比で混合した。得られた混合物を400℃で熱処理して、リチウム含有マンガン酸化物(Li0.5MnO2)を得た。得られたリチウム含有マンガン酸化物を正極活物質として用いたこと以外、実施例1−1と同様にして、比較電池1−2を作製した。比較電池1−2は二次電池である。
【0067】
《比較例1−3》
電解二酸化マンガン(平均粒径30μm)と、水酸化リチウムとを、1:0.5のモル比で混合した。得られた混合物を850℃にて熱処理し、マンガンスピネル(LiMn24)を得た。得られたマンガンスピネルを正極活物質として用いたこと以外、実施例1−1と同様にして、比較電池1−3を作製した。比較電池1−3は二次電池である。
【0068】
上記比較電池1−1〜1−3で用いた電解二酸化マンガンは、塊状の二次粒子であり、多結晶構造であった。多結晶構造の電解二酸化マンガンに含まれる結晶子の平均粒径は、0.2μm程度であった。ここで、結晶子の平均粒径とは、二次粒子に含まれる一次粒子の平均粒径をいう。
【0069】
(作製試料の評価方法)
上記実施例1−1〜1−4で作製した二酸化マンガンの結晶構造、実施例1−5〜1−6において作製した正極活物質の結晶構造、および比較例1−1〜1−3において作製した正極活物質の結晶構造を、CuKαを用いるX線回折法(XRD)により測定した。作製した二酸化マンガン等の形状は、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。
【0070】
(評価結果)
一例として、実施例1−2で作製した二酸化マンガンのSEM写真を図5に示し、X線回折チャートを図6に示す。電池1−2に用いられた二酸化マンガンは、図5のSEM写真および図6のX線回折チャートから、不純物が少なく、極めて結晶性が高いことがわかる。従って、本発明の二酸化マンガンは、例えば、リチウム一次電池の正極材料として非常に好適である。
【0071】
実施例1−2で得られた二酸化マンガンの単結晶粒子の形状は、図5のSEM写真に見られるように、主に針状であった。その針状結晶の長さは5μm〜10μmの範囲にあり、その平均長さ(平均粒子径)は8μmであった。その針状結晶の幅は1μm〜2μmの範囲にあった。反応温度が374℃以下である実施例1−3および1−4では、得られた二酸化マンガン単結晶粒子の平均粒子径は、それぞれ20μmおよび15μmであった。つまり、実施例1−3および1−4で得られる二酸化マンガン単結晶の平均粒径は、実施例1−2の二酸化マンガン単結晶粒子の平均粒子径と比較して大きくなっていた。
なお、従来、β型の結晶構造を有する二酸化マンガンのほとんどが多結晶粒子であり、単結晶粒子を70重量%以上含む二酸化マンガンはなかった。
【0072】
表1に、電池1−1〜1−4に用いられた二酸化マンガンを作製したときのH22の添加の有無、反応温度および二酸化マンガンの収率を示す。二酸化マンガンの収率とは、理論的に得られる二酸化マンガンの量に対し、実際に得られた二酸化マンガンの量の割合を百分率で表した値である。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示される電池1−1および1−2の結果より、H22を添加している電池1−2の方が、二酸化マンガンの収率がより高くなっていることがわかる。このことから、H22が酸化剤として機能していると考えられる。
【0075】
電池1−2〜1−4の結果より、反応温度が250〜400℃の温度範囲では、高温であるほど、二酸化マンガンの収率が高くなっていることがわかる。これより、原料水溶液を、亜臨界状態または超臨界状態にすることにより、二酸化マンガンが得られやすいことがわかる。
【0076】
原料水溶液に過酸化水素を共存させ、原料水溶液を超臨界状態とした場合(実施例1−2)に、二酸化マンガンの収率が高かった。この結果は、過酸化水素が熱分解して生成した酸素ガスと原料水溶液とが均一相を形成し、マンガンイオンの酸化が良好に進行したためであると考えられる。
【0077】
(一次電池の評価)
一次電池である電池1−1〜1−4および比較電池1−1を、各10個ずつ、負荷抵抗15kΩで、電池電圧が2.0Vに低下するまで放電し、二酸化マンガン単位重量当たりの放電容量を求めた。各電池において、得られた10個の放電容量値を平均して、平均値を求めた。
【0078】
電池1−1〜1−4および比較電池1−1を、各20個ずつ、電池の放電容量の75%まで予め放電させた。放電後、各電池について、1kHzの交流電圧を印加することにより(交流インピーダンス法)、内部抵抗を測定し、その平均値を求めた。次いで、各電池を、60℃で40日間保存した。この条件での保存は、室温で2年間保存した場合に相当すると考えられる。
【0079】
保存ののち、保存前と同様にして、内部抵抗を測定し、平均値を求めた。得られた結果を表2に示す。表2には、二酸化マンガン単位重量あたりの放電容量の平均値(表2においては、放電容量としている)および保存前の内部抵抗値の平均値と保存後の内部抵抗値の平均値(表2では、内部抵抗値としている)を示している。表2には、H22の添加の有無、反応温度、および二酸化マンガン単結晶粒子の平均粒子径も示す。
【0080】
【表2】

【0081】
表2の電池1−1〜1−4および比較電池1−1の結果より、本発明の二酸化マンガンは、従来の二酸化マンガンと比較して、単位重量あたりの放電容量が約10mAh以上増加していることがわかる。本発明の二酸化マンガンは、単結晶または単結晶に近い構造を有し、粒子中にほとんど粒界が無いために、リチウムイオンの固相内拡散がスムーズに行われたためであると考えられる。
【0082】
電池1−2の放電容量は、電池1−1の放電容量と比較して大きいことがわかる。原料水溶液にH22を添加することにより、生成される二酸化マンガンの結晶性がより高くなり、その利用率が向上したためと考えられる。
【0083】
電池1−2と電池1−3の結果から、二酸化マンガン合成時の反応温度が高くなるほど、放電容量が大きくなることがわかる。二酸化マンガンを作製するときに、原料水溶液を亜臨界状態さらには超臨界状態とすることにより、二酸化マンガンの結晶性が高くなり、その利用率が向上したためと考えられる。
【0084】
電池1−1〜1−4は、比較電池1−1と比較して、保存後の内部抵抗値が低い。よって、電池1−1〜1−4で用いた二酸化マンガンが、比較電池1−1で用いた従来の二酸化マンガンに比べ安定であることがわかる。本発明の二酸化マンガンは、単結晶または単結晶に近い構造を有しており、結晶欠陥や低級酸化物をほとんど含まず、結晶構造内に硫酸根や結晶水をほとんど含まない。このため、二酸化マンガンからのマンガンの溶出が抑制され、内部抵抗の増加が抑えられたと考えられる。
【0085】
電池1−2の保存後の内部抵抗値は、電池1−1の保存後の内部抵抗値よりも小さいことがわかる。二酸化マンガンを作製するときに、原料水溶液にH22を添加することにより、二酸化マンガンの結晶性がより高くなる。このため、マンガンの溶出が抑制されると考えられる。
【0086】
電池1−2と電池1−3との結果より、反応温度が高くなるほど、保存後の内部抵抗値が小さくなることがわかる。原料水溶液を亜臨界状態または超臨界状態とすることにより、生成される二酸化マンガンの結晶性がより高くなり、マンガンの溶出が抑制されるためと考えられる。
【0087】
(二次電池の評価)
二次電池である電池1−5および比較電池1−2については、各電池を10個ずつ、0.1mAの電流値で、2.5〜3.5Vの電池電圧の範囲で充放電を繰り返した。放電容量が、1サイクル目の放電容量(以下、初期放電容量ともいう)の50%となるサイクル数を求めた。
【0088】
同様に、二次電池である電池1−6および比較電池1−3についても、各電池を10個ずつ、0.1mAの電流値で、3.5〜4.5Vの電池電圧の範囲で充放電を繰り返した。放電容量が、初期放電容量の50%となるサイクル数を求めた。
【0089】
電池1−5における放電容量が初期放電容量の50%にまで低下するまでのサイクル数は、比較電池1−2と比べて、約20%増加していた。電池1−6における放電容量が初期放電容量の50%にまで低下するまでのサイクル数は、比較電池1−3と比べて、約25%増加していた。
【0090】
《実施例2−1》
図2および図3に示される装置を用いて、二酸化マンガンを作製した。反応管26の内壁部分32を構成する絶縁性無機材料としては、石英ガラスを用いた。また、第1管23および第2管24の構成材料、ならびに反応管26の外側部分の構成材料としては、ステンレス鋼を用いた。
【0091】
原料水溶液として、0.05mol/Lの硝酸マンガン水溶液を用いた。この硝酸マンガン水溶液を、第1供給装置21により、所定の圧力で供給した。酸化剤である過酸化水素を0.1mol/Lの濃度で蒸留水に溶解させた過酸化水素水を、第2供給装置22で、所定の圧力で供給した。その途中で、その過酸化水素水を、電気炉25により加熱して、超臨界水とした。
【0092】
硝酸マンガン水溶液と超臨界水とを、合流部MPで合流させて、反応液とした。このとき、合流部MPでの反応液の温度が400℃となり、その圧力が30MPaとなるように、電気炉25および27、ならびに背圧弁30を調節しておいた。なお、原料水溶液の昇温速度は、322℃/secであった。
【0093】
次いで、回収手段29に堆積した固形分を洗浄して、二酸化マンガンを得た。得られた二酸化マンガン単結晶粒子は、β型の結晶構造を有し、平均粒子径は0.4μmであった。
上記のようにして得られた二酸化マンガンを用い、実施例1−1と同様にして、電池2−1を作製した。
【0094】
《実施例2−2》
二酸化マンガンを作製するときに、0.05mol/Lの硝酸マンガン水溶液を用い、蒸留水に酸化剤を添加しなかったこと以外、実施例2−1と同様にして、電池2−2を作製した。なお、合流部MPでの反応液の温度および圧力は実施例2−1と同じにした。本実施例で得られた二酸化マンガン単結晶粒子の平均粒子径は0.4μmであった。
【0095】
《実施例2−3》
二酸化マンガンを作製するときに、合流部MPでの反応液の温度を300℃となるようにしたこと以外、実施例2−1と同様にして、電池2−3を作製した。なお、合流部MPでの反応液の圧力は実施例2−1と同じにした。本実施例で得られた二酸化マンガン単結晶粒子の平均粒子径は、0.7μmであった。
【0096】
《実施例2−4》
二酸化マンガンを作製するときに、合流部MPでの反応液の温度を250℃とし、圧力を30MPaとしたこと以外、実施例2−1と同様にして、電池2−4を作製した。本実施例で得られた二酸化マンガン単結晶粒子の平均粒子径は、0.9μmであった。
【0097】
《実施例2−5》
実施例2−1で得られた二酸化マンガンと、水酸化リチウムとを、1:0.5のモル比で混合し、混合物を得た。得られた混合物を400℃で熱処理して、リチウム含有マンガン酸化物(Li0.5MnO2)を得た。得られたリチウム含有マンガン酸化物を正極活物質として用いたこと以外、実施例2−1と同様にして、電池2−5を作製した。電池2−5は二次電池である。
【0098】
《実施例2−6》
実施例2−1で得られた二酸化マンガンと、水酸化リチウムとを、1:0.5のモル比で混合し、混合物を得た。得られた混合物を850℃にて熱処理して、マンガンスピネル(LiMn24)を得た。得られたマンガンスピネルを正極活物質として用いたこと以外、実施例2−1と同様にして、電池2−6を作製した。電池2−6は二次電池である。
【0099】
(生成試料の評価方法)
上記実施例2−1〜2−4において作製した二酸化マンガン、ならびに実施例2−5〜2〜6において作製した正極活物質の結晶構造、形状等を、上記と同様にして測定した。
【0100】
(評価結果)
一例として、実施例2−1で作製した二酸化マンガンのSEM写真およびX線回折チャートを、それぞれ、図7および図8に示す。
図7および図8より、実施例2−1で得られた二酸化マンガンは、不純物がほとんどなく、単結晶性の高い針状の微粒子を主として含むことがわかる。さらに、実施例2−1の二酸化マンガン単結晶粒子の平均粒子径は0.4μmであった。一方、図5に示されるように、実施例1−2で得られた二酸化マンガン単結晶粒子の平均粒子径は8μmであった。従って、実施例2−1で得られる二酸化マンガンは、さらに平均粒子径の小さな微粒子であるため、リチウム一次電池の正極材料として非常に好適である。
なお、反応温度が374℃以下である場合、作製された二酸化マンガンの平均粒子径は、大きくなる傾向にあった。
【0101】
次に、実施例2−1〜2−4の二酸化マンガンの作製における、H22の添加の有無、反応温度、および二酸化マンガンの収率を、表3に示す。
【0102】
【表3】

【0103】
実施例2−1および実施例2−2の結果により、反応液がH22を含む実施例2−1の方が、二酸化マンガンの収率がより高くなっていることがわかる。このことから、H22が酸化剤として機能していると考えられる。すなわち、超臨界状態で過酸化水素が熱分解して生成した酸素ガスと、マンガンイオンを含む水溶液とが均一相を形成し、マンガンイオンの酸化が良好に進行したためであると考えられる。
【0104】
実施例2−1、実施例2−3および実施例2−4の結果より、250〜400℃の温度範囲では高温であるほど、高い収率となっていることがわかる。よって、マンガンイオンを含む水溶液を亜臨界状態、さらには超臨界状態にすることにより、単結晶粒子の平均粒子径が小さい二酸化マンガンが得られやすくなることがわかる。
【0105】
(一次電池の評価方法)
一次電池である電池2−1〜2−4について、上記と同様にして、放電容量および保存前と保存後の内部抵抗値を求めた。得られた結果を表4に示す。表4には、電池1−2および比較電池1−1の結果も示す。さらに、表4には、H22の添加の有無、反応温度、二酸化マンガン単結晶粒子の平均粒子径についても示している。
【0106】
【表4】

【0107】
電池2−1〜2−4および比較電池1−1の結果より、平均粒子径が0.1μm以上10μm以下である単結晶粒子を主として含む二酸化マンガンを用いる電池は、従来の電解二酸化マンガンを用いる比較電池1−1と比べて、放電容量が約20mAh以上増加していることがわかる。用いた二酸化マンガンは、単結晶または単結晶に近い構造を有するので、二酸化マンガン粒子中に粒界がほとんど無い。さらに、二酸化マンガン粒子の平均粒子径が小さい。リチウムイオンの二酸化マンガン粒子内での移動距離が短くなるとともに、リチウムイオンが二酸化マンガン粒子内をスムーズに拡散することができるため、放電容量が向上したと考えられる。
【0108】
また、電池2−1の放電容量は、電池2−2の放電容量と比較して大きい。反応液がH22を含むことにより、二酸化マンガンの結晶性が高くなり、その利用率が向上するためと考えられる。
【0109】
電池2−1、電池2−3および2−4の結果から、反応温度が高くなるほど、電池の放電容量が大きくなることがわかる。マンガンイオンを含む水溶液を亜臨界状態または超臨界状態にすることにより、二酸化マンガンの結晶性が高くなり、その利用率が向上するためと考えられる。
【0110】
電池2−1〜2−4の放電容量は、電池1−2の放電容量と同程度またはそれ以上となっている。二酸化マンガン単結晶粒子の平均粒子径を0.1〜1μmとすることにより、リチウムイオンの拡散距離が短くなり、利用率が向上するためと考えられる。
【0111】
電池2−1〜2−4は、比較電池1−1と比べて、保存後の内部抵抗値が低いことがわかる。上記と同様に、本発明の二酸化マンガンは単結晶または単結晶に近い構造を有しており、結晶欠陥や低級酸化物を含まず、結晶構造内に硫酸根や結晶水を含まない。このため、マンガンの溶出が抑制されて、内部抵抗値の増加が抑えられると考えられる。
【0112】
電池2−1の保存後の内部抵抗値は、電池2−2の保存後の内部抵抗値と比べて小さいことがわかる。反応液がH22を含むことにより、二酸化マンガンの結晶性が高くなり、マンガンの溶出が抑制されるためと考えられる。
【0113】
電池2−1、電池2−3および2−4の結果から、反応温度が高くなるほど、保存後の内部抵抗値が小さくなることがわかる。マンガンイオンを含む水溶液を亜臨界状態または超臨界状態にすることにより、二酸化マンガンの結晶性が高くなり、マンガンの溶出が抑制されるためと考えられる。
【0114】
(二次電池の評価)
二次電池である電池2−5および2−6についても、上記と同様にして、放電容量が初期放電容量の50%となるサイクル数を求めた。
電池2−5における、放電容量が初期放電容量の50%となるサイクル数は、比較電池1−2と比べて、約20%増加していた。電池2−6における、放電容量が初期放電容量の50%となるサイクル数は、比較電池1−3と比べて、約25%増加していた。
【0115】
以上のように、本発明の二酸化マンガンは、従来の二酸化マンガンを含む電池と比較して、放電容量が向上し、保存後の内部抵抗値が低下することがわかる。さらに、本発明の二酸化マンガンを出発物質とし、加工等して得られる二次電池用正極活物質を用いた場合でも、本発明の二酸化マンガンの特徴が生かされ、その正極活物質を用いる電池の充放電サイクル寿命が向上することがわかる。
なお、本発明の二酸化マンガンを他の活物質と混合して用いても、上記のような効果が得られる。この場合、本発明の二酸化マンガンは、活物質混合物の10重量%以上を占めることが好ましい。
【0116】
《実施例2−7》
内壁がアルミナからなる反応管を用いたこと以外、実施例2−1と同様にして、二酸化マンガンを作製した。本実施例において、合流部MPでの反応液の温度および圧力は実施例2−1と同じにした。本実施例で得られた二酸化マンガン単結晶粒子の平均粒子径は、0.4μmであった。
【0117】
《比較例2−1および比較例2−2》
図2に示される装置を用いた。比較例2−1では、反応管がステンレス鋼のみで構成した。比較例2−2では、反応管を銅のみで構成した。反応管の入口に、第1管および第2管を、図9に示されるように接続した。
上記のような装置を用いたこと以外、実施例2−1と同様にして、二酸化マンガンの合成を開始した。しかしながら、比較例2−1では合成を開始して40分後に、比較例2−2では合成を開始して30分後に、生成された二酸化マンガンによる装置(反応管)の閉塞が生じた。
【0118】
実施例2−1および2−7で用いた装置においては、二酸化マンガンの合成を5時間行った後も、反応管の内壁面において、二酸化マンガンの析出は認められなかった。よって、反応管の内部を構成する材料としては、反応管の内壁面への二酸化マンガンの析出を抑制することができるため、石英ガラス、アルミナなどの絶縁性無機材料を使用することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0119】
以上のように、本発明の二酸化マンガンは、放電時のマンガンの溶出が抑制されているため、電池内部抵抗の増加、放電不良等の不具合の発生が低減されている。このような二酸化マンガンを用いることにより、電池の寿命特性を改善し、電池の信頼性を向上させることができる。
マンガンイオンを含む水溶液を、亜臨界状態または超臨界状態とすることにより、極めて単結晶性の高い二酸化マンガンを合成できる。特に、超臨界状態において、反応場に、酸化剤である硝酸イオンおよび酸素ガスを共存させると、マンガンイオンを含む水溶液と酸素ガスとは、さらに、均一相を形成することができるため、高収率で二酸化マンガンを合成できる。また、生成する粒子は、平均粒子径20μm以下であり、粉砕工程を必要としない。このため、粉砕エネルギーを省くことができる。よって、上記のような方法により、電池特性を向上させることができる二酸化マンガン単結晶粒子を、高速、高効率、かつ低エネルギー消費で合成できる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の二酸化マンガンを作製するための装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の二酸化マンガンを作製するための装置の別の例を示す概略図である。
【図3】図2に示される装置に設けられた第1管と第2管と反応管との合流部を示す概略図である。
【図4】実施例で作製したコイン型電池を概略的に示す縦断面図である。
【図5】実施例1−2で作製した二酸化マンガンの電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例1−2で作製した二酸化マンガンのX線回折チャートである。
【図7】実施例2−1で作製した二酸化マンガンの電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例2−1で作製した二酸化マンガンのX線回折チャートである。
【図9】比較例2−1および比較例2−2で用いた二酸化マンガンの製造装置の第1管と第2管と反応管との合流部を示す概略図である。
【符号の説明】
【0121】
1 反応管
2 管状炉
3 熱電対
4 電熱線
5 栓
6 ホルダー
21 第1供給装置
22 第2供給装置
21a、22a タンク
21b、22b ポンプ
23 第1管
24 第2管
25、27 管型電気炉
26 反応管
28 熱交換器
29 回収手段
30 背圧弁
31 リザーバ
32 絶縁性無機材料
41 正極
42 負極
43 セパレータ
44 ガスケット
45 封口板
46 正極ケース
47 カーボン塗料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β型の結晶構造を有する単結晶粒子を含む二酸化マンガン。
【請求項2】
前記単結晶粒子の平均粒子径が、0.1μm以上1μm以下である請求項1記載の二酸化マンガン。
【請求項3】
前記単結晶粒子が針状の粒子形状を有する請求項1記載の二酸化マンガン。
【請求項4】
二酸化マンガンの製造方法であって、
マンガンイオンを含む水溶液を亜臨界状態または超臨界状態として、二酸化マンガンを析出させる工程を包含する製造方法。
【請求項5】
前記マンガンイオンを含む水溶液を、300℃/sec以上の昇温速度で加熱して、亜臨界状態または超臨界状態とする請求項4記載の二酸化マンガンの製造方法。
【請求項6】
前記マンガンイオンを含む水溶液を、亜臨界状態または超臨界状態の水と直接混合することにより、前記マンガンイオンを含む水溶液を300℃/sec以上の昇温速度で加熱する請求項5記載の二酸化マンガンの製造方法。
【請求項7】
前記マンガンイオンを含む水溶液に酸化剤が溶解されており、前記酸化剤が、酸素ガス、オゾンガス、過酸化水素および硝酸イオンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項4記載の二酸化マンガンの製造方法。
【請求項8】
前記亜臨界状態または超臨界状態の水に酸化剤が溶解されており、前記酸化剤が、酸素ガス、オゾンガス、過酸化水素および硝酸イオンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項6記載の二酸化マンガンの製造方法。
【請求項9】
反応管と、前記反応管の入口側に接続され、前記反応管にマンガンイオンを含む水溶液を供給する第1管と、前記反応管の入口側に接続され、前記反応管に亜臨界状態または超臨界状態の水を供給する第2管と、前記反応管の出口側に設けられた二酸化マンガンの回収手段を備え、
前記反応管の入口側の端部において、前記マンガンイオンを含む水溶液と前記亜臨界状態または超臨界状態の水とが混合され、
前記反応管の内壁部分が絶縁性無機材料からなる、二酸化マンガンの製造装置。
【請求項10】
前記絶縁性無機材料が石英またはアルミナである請求項9記載の二酸化マンガンの製造装置。
【請求項11】
請求項1記載の二酸化マンガンを含む電池用正極活物質。
【請求項12】
請求項1記載の二酸化マンガンとリチウム化合物とを焼成して合成される電池用正極活物質。
【請求項13】
請求項11または12に記載の電池用正極活物質を含む正極、負極、セパレータおよび電解液を含む電池。
【請求項14】
前記β型の結晶構造を有する単結晶粒子を70重量%以上含む請求項1記載の二酸化マンガン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−55887(P2007−55887A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197981(P2006−197981)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【出願人】(598117724)
【Fターム(参考)】