説明

交互吸着膜の製造方法および製造装置

【課題】本発明は、比較的簡略な製造装置により、高品質な交互吸着膜を安定に製造することができる交互吸着膜の製造方法を提供することを主目的とするものである。
【解決手段】上記目的を達成するために、本発明は、正の電荷を有する正電荷物質と、負の電荷を有する負電荷物質とが被成膜材料表面に交互に積層されてなる交互吸着膜の製造方法において、上記正電荷物質を含有する正電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する正電荷物質含有液塗布工程と、上記負電荷物質を含有する負電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する負電荷物質含有液塗布工程とを少なくとも有し、上記正電荷物質含有液塗布工程および上記負電荷物質含有液塗布工程とが、得られる交互吸着膜が必要とする積層数回繰り返されることを特徴とする交互吸着膜の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交互吸着膜の製造方法および製造装置に関するものであり、特に、各種電子機器のディスプレイ用の発光素子、種々のセンサやフィルタなどを量産する際に利用可能な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複合有機薄膜を作成する方法として、交互吸着(Layer-by-Layer Electrostatic Self-Assembly)を利用した方法は、1992年にG.デッカーらによって発表された(非特許文献1参照)。この方法では、正の電解質ポリマー(カチオン)の水溶液と、負の電解質ポリマー(アニオン)の水溶液とを別々の容器に用意し、これらの容器に、初期表面電荷を与えた基板(被成膜材料)を交互に浸すことにより、基板上に多層構造を有する複合有機超薄膜(交互吸着膜)が得られる。たとえば、被成膜材料としてガラス基板を用いた場合、このガラス基板の表面を親水処理して表面にOH基を導入して、初期表面電荷として負の電荷を与える。そして、この表面が負に帯電した基板を、正の電解質ポリマー水溶液に浸せば、クーロン力により、少なくとも表面電荷が中和されるまで正の電解質ポリマーが表面に吸着し、1層の超薄膜が形成される。こうして形成された超薄膜の表面部分は、正に帯電していることになる。そこで、今度はこの基板を負の電解質ポリマー水溶液に浸せば、クーロン力により負の電解質ポリマーが吸着し、1層の超薄膜が形成されることになる。このようにして、基板を2つの容器に交互に浸すことにより、正の電解質ポリマーからなる超薄膜層と負の電解質ポリマーからなる超薄膜層とを交互に成膜することができ、多層構造をもった複合有機薄膜を形成することができる。
【0003】
最近では、M.F.ルブナーらによって、この交互吸着膜の製造を自動化する技術が発表されており(非特許文献2参照)、交互吸着膜の自動製造装置の構成が提案されている。この装置を用いれば、被成膜材料となる基板がロボットアームにより2つの水槽に交互に浸されるので、基板上に交互吸着膜が自動的に成膜される。
【0004】
こうして作成された交互吸着膜は、有機EL(Electro-Luminescence) 素子をはじめとする種々の電子デバイスへの利用が期待されており、更に、表面に交互吸着膜を形成することにより親水性を制御することが可能になるため、コンタクトレンズ表面へのコーティング技術への応用や生体関連材料への応用も注目を集めている。また、交互吸着膜は、煙草の煙など、特定の粒子を選択的に吸着する性質を有している。
【0005】
上述した交互吸着膜の成膜技術は、現段階ではまだ実用化の域に達しておらず、電子デバイス、粒子センサ、フィルタなど、交互吸着膜を利用した製品を商業的に生産するためには、解決すべき課題が残されている。上述したように、交互吸着の方法を利用して複合有機薄膜を作成する手法は、1992年に発表されたばかりの技術であり、交互吸着膜の製造は実験室レベルで行われているにすぎない。商業的利用に向けて解決すべき課題の1つは、正確な膜厚制御を可能にすることである。この課題についての解決方法のひとつが、特許文献1に開示されている。
【0006】
しかしながら、この方法では、例えば1m四方の大きさの交互吸着膜を製造する場合、少なくとも1m四方の水槽と、この水槽内から被成膜材料を高さ2m程度吊りあげることができるロボットアームが必要になり、非常に大掛かりな装置を用いた大掛かりな作業が必要になるといった問題があった。
【0007】
また、このような問題点を解決するために提案された製造方法としては、特許文献2に記載された方法がある。しかしながら、この方法では、被成膜材料をロールで支持する必要があることから、被成膜材料上に形成された交互吸着膜がロールに接触して破壊される可能性があるといった問題があった。また、これを防止するために搬送ロールの両端を盛り上げた構造とすることが提案されているが、被成膜材料にしわを発生させる恐れがあると共に、被成膜材料が蛇行する可能性がある等、高品質な交互吸着膜を安定に製造することが困難であった。
【0008】
【特許文献1】国際公開00/13806号
【特許文献2】特開2001−62286号公報
【非特許文献1】Decher.G, Hong.J.D. and J.Schmit: Thin Solid Films, 210/211, p.831(1992)
【非特許文献2】A.C.Fon, O.Onitsuka, M.Ferreira, B.R. Hsieh and M.F.Rubner: J. Appl. Phys. 79(10) 15 May 1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、比較的簡略な製造装置により、高品質な交互吸着膜を安定に製造することができる交互吸着膜の製造方法および製造装置の提供が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、これらの点に鑑みてなされたものであり、正の電荷を有する正電荷物質と、負の電荷を有する負電荷物質とが被成膜材料表面に交互に積層されてなる交互吸着膜の製造方法において、上記正電荷物質として高分子電解質を含有する水溶液、または上記正電荷物質として微粒子を含有する分散液である正電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する正電荷物質含有液塗布工程と、上記負電荷物質として高分子電解質を含有する水溶液、または上記負電荷物質として微粒子を含有する分散液である負電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する負電荷物質含有液塗布工程とを少なくとも有し、上記正電荷物質含有液塗布工程および上記負電荷物質含有液塗布工程とが、得られる交互吸着膜が必要とする積層数回繰り返されることを特徴とする交互吸着膜の製造方法を提供するものである。
【0011】
本発明においては、このように、正電荷物質含有液もしくは負電荷物質含有液を吐出することにより被成膜材料表面に液膜を形成し、交互吸着膜を形成するものであるので、被成膜材料を浸漬するための大きな槽を必要とすることがなく、また搬送に際しても搬送ロールを用いる必要性がない。したがって、比較的簡略な装置により製造することが可能であり、かつ搬送ロールを用いた場合の問題点、すなわち形成された交互吸着膜が破壊される等の問題点が生じることがない。よって、高品質な交互吸着膜を安定に製造することが可能となる。
【0012】
本発明においては、上記吐出が、上記正電荷物質含有液および負電荷物質含有液をスプレー状に噴射して、上記被成膜材料表面に塗布することが好ましい。このように、被成膜材料表面上にスプレー状に噴射することにより、均一な液膜を形成することが可能となり、液膜が形成されない領域等が生じることを防ぐことができるからである。
【0013】
本発明においては、さらに上記正電荷物質含有液塗布工程および上記負電荷物質含有液塗布工程の後に、付着した液体をそれぞれリンスするためのリンス工程を有し、上記リンス工程が、リンス液を被成膜表面に吐出することにより行うことが好ましい。このようなリンス工程を行うことにより、均一な交互吸着膜を得ることができるからである。
【0014】
この場合、上記リンス液の被成膜表面上への吐出が、上記リンス液をスプレー状に噴射して行うことが好ましい。均一なリンスを行うことが可能となるからである。
【0015】
また、上記リンス工程の後に、乾燥工程を有することが好ましい。乾燥工程の有無により得られる膜の特性が異なる場合があり、膜の種類によっては乾燥工程が必要な場合があるからである。
【0016】
本発明においては、上記正電荷物質含有液塗布工程および負電荷物質含有液塗布工程では、上記被成膜表面が水平面に対し、90°以上180°未満の角度を有し、かつ被成膜表面が上側を向くように配置されていることが好ましい。塗布された正電荷物質含有液および負電荷物質含有液が被成膜表面を流れ落ちるように配置されることが、被成膜表面に液膜を形成するうえで好ましいからである。
【0017】
さらに、本発明においては、上記正電荷物質含有液塗布工程および負電荷物質含有液塗布工程では、被成膜材料表面に塗布されなかった上記正電荷物質含有液および負電荷物質含有液を回収して再利用することが好ましい。成膜コストを低減させることができるからである。
【0018】
さらにまた、本発明においては、上記被成膜材料が、ウェブ状のプラスチックフィルムであることが好ましい。実用面を考慮するとこのような材料が好ましいといえるからである。
【0019】
本発明はまた、正の電荷を有する正電荷物質と、負の電荷を有する負電荷物質とが被成膜材料表面に交互に積層されてなる交互吸着膜の製造装置であって、上記正電荷物質として高分子電解質を含有する水溶液、または上記正電荷物質として微粒子を含有する分散液である正電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する正電荷物質含有液塗布手段と、上記負電荷物質として高分子電解質を含有する水溶液、または上記負電荷物質として微粒子を含有する分散液である負電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する負電荷物質含有液塗布手段とを少なくとも有し、得られる交互吸着膜が必要とする積層数を形成するために、上記正電荷物質含有液塗布手段および上記負電荷物質含有液塗布手段により、上記被成膜材料表面が複数回にわたり処理されるように構成されていることを特徴とする交互吸着膜の製造装置を提供する。
【0020】
このような装置によれば、正電荷物質含有液もしくは負電荷物質含有液を吐出する吐出手段を有し、この吐出手段から正電荷物質含有液および負電荷物質含有液を吐出して被成膜材料表面に液膜を形成し、交互吸着膜を形成するものであるので、装置内に被成膜材料を浸漬するための大きな槽を必要とすることがなく、また搬送手段として搬送ロールを用いる必要性がない。したがって、交互吸着膜の製造装置として、省スペース化が可能であり、かつ高品質な交互吸着膜を安定に製造することができる。
【0021】
上記本発明の交互吸着膜の製造装置においては、上記正電荷物質含有液または上記負電荷物質含有液が塗布された後の被成膜材料表面に付着したこれらの液体を洗浄するためのリンス手段を有し、上記リンス手段が、リンス液を被成膜表面に吐出して洗浄する手段であることが好ましい。このようなリンス手段を有することにより、液中の電荷物質の濃度や種類等を考慮することなく、均一な交互吸着膜を得ることができるからである。
【0022】
この場合、上記リンス手段により洗浄された被成膜材料表面を乾燥させるための乾燥手段を有することが好ましい。乾燥手段を有することにより、乾燥ムラ等による特性のムラの発生を防止することができるからである。
【0023】
本発明においては、上記被成膜材料を移動させる移動手段を有し、上記移動手段により、上記被成膜材料表面に対する上記正電荷物質含有液塗布手段および上記負電荷物質含有液塗布手段による複数回の処理を行うことが好ましい。交互吸着膜の積層数は用途によっては数十から数百となる場合がある。このような場合は、その数に応じた塗布手段を配置することはほとんど不可能である。したがって、このように移動手段を設けて、塗布手段が限られていた場合であっても多くの積層数を有する交互吸着膜が形成できるようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
発明においては、このように、正電荷物質含有液もしくは負電荷物質含有液を吐出することにより被成膜材料表面に液膜を形成し、交互吸着膜を形成するものであるので、被成膜材料を浸漬するための大きな槽を必要とすることがなく、また搬送に際しても搬送ロールを用いる必要性がない。したがって、比較的簡略な装置により製造することが可能であり、かつ搬送ロールを用いた場合の問題点、すなわち形成された交互吸着膜が破壊される等の問題点が生じることがない。よって、高品質な交互吸着膜を安定に製造することが可能となるといった効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に含まれる交互吸着膜の製造方法と交互吸着膜の製造装置について、それぞれ説明する。
【0026】
A.交互吸着膜の製造方法
本発明の交互吸着膜の製造方法は、正の電荷を有する正電荷物質と、負の電荷を有する負電荷物質とが被成膜材料表面に交互に積層されてなる交互吸着膜の製造方法において、上記正電荷物質を含有する正電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する正電荷物質含有液塗布工程と、上記負電荷物質を含有する負電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する負電荷物質含有液塗布工程とを少なくとも有し、上記正電荷物質含有液塗布工程および上記負電荷物質含有液塗布工程とが、得られる交互吸着膜が必要とする積層数回繰り返されることを特徴とするものである。
【0027】
本発明は、このように正電荷物質含有液および負電荷物質含有液を吐出法により被成膜材料表面に塗布し、液膜を形成し、これにより交互吸着膜を形成するものであるので、液膜の形成に際して大掛かりな装置が不要であり、かつ搬送に際してロールを用いる必要がないことから、高品質な交互吸着膜を安定的に製造することができるという利点を有するものである。
【0028】
以下、このような交互吸着膜の製造方法について、具体的に説明する。
【0029】
1.正電荷物質および負電荷物質
本発明の交互吸着膜の製造方法により得られる交互吸着膜は、正電荷物質と負電荷物質とが被成膜材料表面に交互に積層されて形成されるものである。ここで、本発明における正電荷物質とは、正の電荷を有する物質であれば特に限定されるものではないが、一般的な物質としては正の電荷を有する高分子電解質および正の電荷を有する微粒子を挙げることができる。また、同様に本発明における負電荷物質とは、負の電荷を有する物質であれば特に限定されるものではないが、一般的な物質としては負の電荷を有する高分子電解質および負の電荷を有する微粒子を挙げることができる。
【0030】
このような高分子電解質としては、ポリエチレンイミンおよびその4級化物、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリ(N,N’−ジメチル−3,5−ジメチレン−ピペリジニウムクロライド)、ポリアリルアミンおよびその4級化物、ポリジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびその4級化物、ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドおよびその4級化物、ポリジメチル(メタ)アクリルアミドおよびその4級化物、ポリ(メタ)アクリル酸およびそのイオン化物、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)、ポリアミック酸、ポリビニルスルホン酸カリウム、さらには上記ポリマーを構成するモノマーと(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどのノニオン性水溶液モノマーとの共重合体などを上げることができる。
【0031】
本発明においては、中でもポリエチレンイミン4級化物、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリ(N,N’−ジメチル−3,5−ジメチレン−ピペリジニウムクロライド)、ポリアリルアミン4級化物、ポリジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート4級化物、ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド4級化物、ポリジメチル(メタ)アクリルアミド4級化物、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)、ポリビニルスルホン酸カリウム、さらには上記ポリマーを構成するモノマーと(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどのノニオン性水溶液モノマーとの共重合体を用いることが好ましい。
【0032】
一方、本発明に用いられる微粒子としては、表面に正もしくは負の電荷が帯電されることが可能な微粒子であれば特に限定されるものではなく、通常は交互吸着膜が要求される特性に応じて適宜選択されて用いられる。
【0033】
具体的には、無機材料からなる微粒子であっても有機材料からなる微粒子であっても用いることは可能である。
【0034】
例えば屈折率を利用した光学機能材として用いる場合は、屈折率に特徴のある微粒子が好適に用いられ、具体的には、MgF(屈折率1.38)、SiO(屈折率1.46)、AlF(屈折率1.33〜1.39)、CaF(屈折率1.44)、LiF(屈折率1.36〜1.37)、NaF(屈折率1.32〜1.34)、ThF(屈折率1.45〜1.5)などの微粒子を用いることができる。
【0035】
また、有機材料の微粒子としては、ポリマー類の微粒子を挙げることができ、具体的には、架橋アクリル微粒子(例えば、綜研化学(株)製のMXシリーズ、MRシリーズ)、非架橋アクリル微粒子(例えば、綜研化学(株)製のMPシリーズ)、架橋ポリスチレン微粒子(例えば、綜研化学(株)製のSGPシリーズ)、非架橋ポリスチレン微粒子、架橋度の高い単分散ポリメチルメタクリレート微粒子(例えば、綜研化学(株)製のMSシリーズ、Mシリーズ)、これらの複合化微粒子、官能基導入微粒子等の微粒子を挙げることができる。
【0036】
このような微粒子の平均粒子径としては、静電的な相互作用により吸着させることが可能な程度の大きさであれば特に限定されるものではなく、0.001〜50μmの範囲内、好ましくは0.001〜1μmの範囲内の平均粒子径を有する微粒子が用いられる。
【0037】
なお、本発明における平均粒子径の測定方法としては、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡を用いた電子顕微鏡観察により粒子径を最長径とそれに直角な方向の径との合計を2で割った2軸平均径を測定し、これらを総加平均する方法が挙げられる。
【0038】
本発明においては、これらの正電荷物質および負電荷物質が交互に吸着されて積層されるのであるが、高分子電解質のみが積層されたものであってもよいし、微粒子のみが積層されたものであってもよいし、さらには高分子電解質と微粒子とが積層されたものであってもよい。さらに高分子電解質および表面に電荷を有する微粒子の種類に関しても特に限定されるものではなく、複数種類の高分子電解質および表面に電荷を有する微粒子を用いることも可能である。
【0039】
このような材料の選択は、必要とされる交互吸着膜の機能や用途に応じて適宜選択されるものである。
【0040】
2.被成膜材料
上記交互吸着膜が形成される被成膜材料としては、交互吸着膜が要求される機能により適宜選択されるものである。したがって、ガラスや透明樹脂等の透明材料であっても、金属や半導体等の不透明材料であってもよい。
【0041】
また、その形状も後述する吐出により液膜を形成することができる形状であれば特に限定されるものではなく、フィルム、シート、板の他、曲面を有する形状、筒状構造物、複雑な形状等のいかなる形状のものであってもよい。
【0042】
しかしながら、現時点における用途展開等を考慮すると、可撓性を有するガラス繊維または樹脂製の透明フィルムが好適に用いられる。樹脂製の透明フィルムとして具体的には、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース、ポリエーテルサルホン、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン等を挙げることができる。
【0043】
また、工程上の効率面を考慮するとウェブ状のプラスチックフィルムが最も好適に用いられるものである。
【0044】
このような被成膜材料の表面には、交互吸着膜の最初の層を吸着させるために、通常表面処理が施されて正または負の電荷が付与された状態とされる。被成膜材両表面に電荷を付与する方法としては、コロナ放電処理、グロー放電処理、プラズマ処理などの物理的な処理と、加水分解処理、シランカップリング処理、プライマ−処理、例えば被成膜材料としてのガラス繊維に対して水酸化カリウムのエタノール溶液で処理する等の化学的な処理とを挙げることができる。
【0045】
3.正電荷物質含有液および負電荷物質含有液
本発明においては、上述したような正電荷物質および負電荷物質を含有する正電荷物質含有液および負電荷物質含有液を調製し、これを上述した被成膜材料表面に交互に吐出して交互吸着膜が成膜される。
【0046】
このような正電荷物質含有液および負電荷物質含有液としては、例えば上述した高分子電解質の水溶液や、各種微粒子の分散液を挙げることができる。これらは、それぞれの正電荷物質および負電荷物質が精度良く交互に吸着することができるように、濃度や粘度等が調整される。
【0047】
4.正電荷物質含有液塗布工程および負電荷物質含有液塗布工程
本発明における正電荷物質含有液塗布工程とは、上記正電荷物質を含有する正電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する工程であり、負電荷物質含有液塗布工程とは、上記負電荷物質を含有する負電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する工程である。
【0048】
本発明の交互吸着膜の製造方法は、このような正電荷物質含有液塗布工程および負電荷物質含有液塗布工程において、正電荷物質含有液および負電荷物質含有液を吐出することにより被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する点に大きな特徴を有するものである。
【0049】
本発明における吐出とは、スプレー状に噴出する場合、液滴として吐出する場合、さらには棒状の液体として吐出する場合、板状の液体として吐出する場合等の全ての状態を含むものである。
【0050】
本発明においては、このような吐出により正電荷物質含有液および負電荷物質含有液を被成膜材料の表面に塗布するものであるので、例えばディップコート法等のような液槽を必要とするものではないので、大掛かりな装置等が必要ない。また、版やロールを用いた印刷形式の塗布方法のように、直接被成膜表面に固体が接触することがないので、形成された交互吸着膜を破損する恐れがない。
【0051】
本発明においては、中でもスプレー状に噴出することにより、被成膜材料表面に液膜を形成するように塗布することが好ましい。スプレー状に塗布することにより、均一な液膜とすることが可能となり、交互吸着膜の成膜に際してのムラを防止することができるからである。
【0052】
上記正電荷物質含有液塗布工程および負電荷物質含有液塗布工程における被成膜材料の被成膜表面の角度は、特に限定されるものではないが、水平面に対して90°以上180°未満の角度を有し、かつ被成膜表面が上側を向くように配置されることが好ましい。このように傾けることにより、被成膜材料の被成膜表面に塗布した正電荷物質含有液および負電荷物質含有液が下方に向けて流れ落ちることから、被成膜表面に満遍なく塗布することが可能であり、ムラ等の発生を防止することができるからである。
【0053】
なお、被成膜材料がフィルム状もしくは板状であり、その両面に交互吸着膜を形成する場合は、被成膜材料を垂直に配置して、両面から正電荷物質含有液もしくは負電荷物質含有液を塗布するようにすることが好ましい。両面に均一に塗布することが可能となるからである。
【0054】
本工程においては、上記正電荷物質含有液および負電荷物質含有液を吐出して、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する。ここで、「被成膜表面に液膜を形成するように」とは、被成膜表面上に液が均一に濡れ広がっている状態を示すものであり、液滴が形成されている程度の状態では不十分である旨を明らかにしているものである。したがって、上述したスプレー状に液を噴出する方法では、表面に液膜が形成される程度の液量が噴出される必要がある。また、被成膜材料の表面が、上述するように水平方向に対して所定の角度を有し、かつ上側を向いているように配置することにより、被成膜表面の上側の位置に液を吐出して下方に流れるようにして全面に液膜が形成された状態としてもよい。
【0055】
なお、上記「液膜を形成するように」とは、被成膜表面全面に液膜が形成されることのみを意味するものではなく、交互吸着膜を形成する部分において、少なくとも一瞬でも液膜が形成されるものであってもよい。具体的には、被成膜表面の全面にスプレー状に液を吐出する場合には、被成膜表面の全面にわたり液膜が形成されるが、上述したように、被成膜表面の上側から液を流すように吐出する場合には、部分部分において瞬時に液膜は形成されるが、全面にわたり液膜が形成されない可能性がある。本発明においては、このような場合をも含む旨である。
【0056】
本発明における正電荷物質含有液塗布工程および負電荷物質含有液塗布工程は、交互に行われるものであるが、最初に行われるのは、上述した被成膜材料の成膜表面に対する前処理により付与された電荷と反対の電荷を有する電荷物質含有液を塗布する工程からである。
【0057】
そして、上記正電荷物質含有液塗布工程および負電荷物質含有液塗布工程の繰り返し数としては、得られる交互吸着膜が必要とする積層数の回数だけ繰り返される。
【0058】
本発明においては、上記正電荷物質含有液塗布工程および負電荷物質含有液塗布工程に用いられる正電荷物質含有液および負電荷物質含有液の種類は、各1種類に限定されるものではなく、上述したように得られる交互吸着膜の用途・機能に応じて複数種類のものが用いられてもよい。したがって、後述する製造装置の欄で説明するように、このような上記正電荷物質含有液塗布工程および負電荷物質含有液塗布工程を行うための装置の数は、得られる交互吸着膜に必要とされる機能・用途に応じて大幅に異なるものとなる。
【0059】
5.リンス工程
本発明においては、上記正電荷物質含有液塗布工程および負電荷物質含有液塗布工程が行われた後に、リンス工程を行うことが好ましい。
【0060】
図1はこのようなリンス工程が行われた本発明の交互吸着膜の製造方法の一例を示すものである。まず、被成膜材料1の被成膜表面に対して、まず正の電荷を有する正電荷物質含有液2をスプレー装置3から噴射して上記被成膜材料1の表面に塗布する(正電荷物質含有液塗布工程)。次いで、リンス液4を同様にスプレー装置3から噴射して、被成膜材料1の被成膜表面をリンスする(リンス工程)。これにより余分な正電荷物質含有液が除去されて、被成膜材料1の被成膜表面に均一な正電荷物質の膜が形成される。次いで、同様にスプレー装置3により、負電荷物質含有液5を噴射して、上記正電荷物質の膜が形成された被成膜材料1の被成膜表面に負電荷物質含有液5を塗布する(負電荷物質含有液塗布工程)。そして、同様にリンス液4をスプレー装置3から噴射して、被成膜材料1の被成膜表面をリンスし、余分な負電荷物質含有液を除去し、上記正電荷物質の膜が形成された表面に、均一な負電荷物質の膜を形成する(リンス工程)。このような工程を繰り返すことにより、最終的に多数層が積層された交互吸着膜が形成されるのである。
【0061】
本発明においては、このようなリンス工程は必須ではない。すなわち、正電荷物質および負電荷物質の種類、および溶媒中の濃度を適宜選択して塗布することにより均一な膜を形成することも可能であり、このような場合、上記リンス工程は必ずしも必要ではない。しかしながら、リンス工程を行うことにより、一般的には正電荷物質および負電荷物質の均一な膜が形成できることから、このリンス工程が行われることが好ましいといえる。
【0062】
本発明におけるリンス工程は、上述した正電荷物質含有液塗布工程および負電荷物質含有液塗布工程と同様に、かつ同様の理由からリンス液を被成膜材料の表面に吐出することにより行われることが好ましく、中でもリンス液をスプレー状に塗布することにより行われることが好ましい。
【0063】
この際の被成膜材料の表面の角度も上述した正電荷物質含有液塗布工程および負電荷物質含有液塗布工程と同様に、水平面に対して90°以上180°未満の角度を有し、かつ被成膜表面が上側を向くように配置されることが好ましい。被成膜表面を傾けてリンス液を下方に流すようにすることによりリンスの効率が向上するからである。
【0064】
本発明に用いられるリンス液は、用いられる正電荷物質含有液および負電荷物質含有液の種類によって、適宜選択されて用いられる。具体的には、イオン交換水が用いられる。特に電導度が1MΩ・cm以上のイオン交換水が好適に用いられる。ただし、水素イオン濃度やイオン強度を調整する必要がある場合は、この限りでない。
【0065】
5.乾燥工程
本発明においては、さらに乾燥工程を行っても良い。上述した正電荷物質含有液塗布工程の後、または負電荷物質含有液塗布工程の後に乾燥工程を行うことにより、最終的に得られる交互吸着膜の特性が変化する場合があり、得られる交互吸着膜の用途によっては乾燥工程を行うことが好ましい場合があるからである。
【0066】
この乾燥工程は、リンス工程が無い場合は上述した正電荷物質含有液塗布工程もしくは負電荷物質含有液塗布工程の後に行われる。すなわち、正電荷物質含有液塗布工程の後に乾燥工程を行い、次いで負電荷物質含有液塗布工程を行った後に乾燥工程を行い、これを繰り返す場合である。
【0067】
しかしながら、上述したように本発明においてはリンス工程を行うことが好ましいことから、このリンス工程の後に乾燥工程を行うことが好ましい。具体的には、例えば正電荷物質含有液塗布工程、リンス工程、乾燥工程、負電荷物質含有液塗布工程、リンス工程、および乾燥工程を繰り返すものである。
【0068】
このような乾燥工程を行う利点の一つに膜特性の均一性の確保がある。上述したように、被成膜材料表面に形成した正電荷物質もしくは負電荷物質の膜の上に次の膜を吸着させる際に、膜を乾燥させるか否かにより得られる交互吸着膜の特性が異なる場合がある。したがって、次の工程に移る際に被成膜材料表面に成膜された膜が一部乾燥してしまった場合等においては、得られる交互吸着膜の特性が乾燥した場所と乾燥していない場所とで異なる可能性があり、均一な特性が得られない可能性がある。
【0069】
したがって、乾燥工程を設けることにより、このように乾燥部分と未乾燥部分が生じる恐れを減少させることが可能となり、最終的に得られる交互吸着膜の品質を均一なものとすることが可能となる。
【0070】
上述したような乾燥工程における乾燥方法としては、特に限定されるものではないが、被成膜材料表面に形成された膜に対してダメージを与えない方法で乾燥されることが好ましい。また、吸着されている正電荷物質および負電荷物質の種類によっては、熱を嫌うものもあり、この場合は乾燥方法も熱によらない方法で行う必要がある。一般的な方法としては、遠赤外線乾燥、マイクロ波乾燥、減圧乾燥、送風乾燥等を挙げることができる。
【0071】
6.回収工程
本発明における上記正電荷物質含有液塗布工程および上記負電荷物質含有液塗布工程においては、上記工程で塗布される正電荷物質含有液および負電荷物質含有液を回収して再利用する回収工程が行われることが好ましい。上記正電荷物質および負電荷物質は、場合によっては非常に高価な物質が用いられる可能性がある。また、比較的安価であっても、そのまま環境に排出することができず、処理にコストがかかる物質もある。また、交互吸着膜は、被成膜材料表面に極めて薄い膜を交互に吸着させて形成させるものであるので、塗布する液量に比較して吸着する量は極めて少量となる場合が多いため、上述した塗布液のほとんどが吸着されずに流される。このような観点から、一旦上記正電荷物質含有液塗布工程および負電荷物質含有液塗布工程において塗布された正電荷物質含有液および負電荷物質含有液を回収し再利用することが好ましいのである。
【0072】
このような回収・再利用に際しては、前工程および後工程に用いられるリンス液や他の種類の塗布液と混合しないような手段を設けることが好ましく、回収された正電荷物質含有液および負電荷物質含有液は、通常は濾過等の処理が施されて再利用される。
【0073】
B.交互吸着膜の製造装置
次に、本発明の交互吸着膜の製造装置について説明する。本発明の交互吸着膜の製造装置は、正の電荷を有する正電荷物質と、負の電荷を有する負電荷物質とが被成膜材料表面に交互に積層されてなる交互吸着膜の製造装置であって、上記正電荷物質を含有する正電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する正電荷物質含有液塗布手段と、上記負電荷物質を含有する負電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する負電荷物質含有液塗布手段とを少なくとも有し、得られる交互吸着膜が必要とする積層数を形成するために、上記正電荷物質含有液塗布手段および上記負電荷物質含有液塗布手段により、上記被成膜材料表面が複数回にわたり処理されるように構成されていることを特徴とするものである。
【0074】
本発明においては、このように正電荷物質含有液および負電荷物質含有液を被成膜材料表面に吐出することにより塗布する正電荷物質含有液塗布手段および負電荷物質含有液塗布手段を有するものであるので、被成膜材料を浸漬させて正電荷物質含有液もしくは負電荷物質含有液を塗布するための大掛かりな槽を必要としないといった利点を有するものである。
【0075】
本発明の特徴である上記正電荷物質含有液塗布手段および負電荷物質含有液塗布手段としては、正電荷物質含有液および負電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に塗布することができるような手段であれば特に限定されるものではない。具体的には、スプレー状に液を噴出するような装置、ノズルの先端から液滴を噴射するような装置、液体を棒状や板状にして噴出させるような装置等を挙げることができる。
【0076】
本発明においては、中でもスプレー状に正電荷物質含有液および負電荷物質含有液を被成膜材料の表面に塗布する手段であることが好ましい。スプレー状に噴射することにより、均一に液を塗布することが可能となり、一部が乾燥する等の問題が生じる可能性が極めて低いからである。
【0077】
本発明においては、さらにリンス手段を有することが好ましい。このリンス手段は、上記正電荷物質含有液塗布手段および上記負電荷物質含有液塗布手段により塗布された正電荷物質含有液および負電荷物質含有液をリンスするための手段であり、余分に付着した正電荷物質および負電荷物質を除去するための手段である。
【0078】
このリンス手段もリンス液を被成膜材料の表面に吐出してリンスする手段であることが好ましい。このようにリンス液を被成膜材料の表面に吐出してリンスを行うことにより、例えば浸漬によりリンスを行う場合に必要な槽が不要であり、装置の省スペース化を図ることができるからである。
【0079】
本発明においては、中でもスプレー状にリンス液を被成膜材料の表面に吐出することによりリンスを行う手段であることが好ましい。スプレー状にリンス液を吐出することにより、広い範囲に均一にリンス液を吐出することが可能であるので、効率的にリンスを行うことができるからである。
【0080】
また、さらに本発明においては乾燥手段を有していてもよい。この乾燥手段は、特に限定されるものではないが、上記リンス手段によりリンスされた被成膜材料を乾燥するためのもので、例えば遠赤外線等の手段が好適に用いられる。
【0081】
なお、上記乾燥手段は特にリンス手段を有することを前提とするものではなく、例えば正電荷物質含有液塗布手段により被成膜材料の表面に正電荷物質含有液が塗布された後、乾燥手段により乾燥する装置構成であってもよい。
【0082】
本発明においては、このような種々の手段の間を上記被成膜材料が移動可能なように設けられた移動手段により、被成膜材料の表面に交互吸着膜を形成するようにすることが好ましい。
【0083】
具体的には、例えば図2に示すように、被成膜材料1を所定の間隔をおいて搬送グリップ21で挟み、この搬送グリップ21が種々の手段間を連絡するレール上を移動することにより被成膜材料の表面に交互吸着膜を形成する方法等が挙げられる。また、グリップの具体的方法としては、板ばねや磁石などで被成膜材料を挟み込む方法が挙げられる。
【0084】
このように、移動手段を設けることにより、多数の層が積層されてなる交互吸着膜を形成することができるのである。すなわち、例えば正電荷物質含有液塗布手段および負電荷物質含有液塗布手段が各1個ずつしか配置されていない交互吸着膜の製造装置であっても、これらの手段間を移動手段により被成膜材料を移動させることにより、多数の膜が積層された交互吸着膜を製造することができる。
【0085】
具体的には、正電荷物質含有液塗布手段、第1リンス手段、負電荷物質含有液塗布手段、および第2リンス手段を有する装置においては、まず表面が負電荷となるように処理された被成膜材料を準備する。そして、この被成膜材料を移動手段により、まず正電荷物質含有液塗布手段に移動させ正電荷物質含有液を塗布させる。次いで第1リンス手段に移動させてリンスを行い、余分な正電荷物質を除去する。次に、表面に正電荷物質の膜が形成された被成膜材料を移動手段により負電荷物質含有液塗布手段に移動させ、ここで正電荷物質の膜が形成された被成膜材料の表面に負電荷物質含有液を塗布する。次いで第2リンス手段に移動させることにより余分な負電荷物質を除去する。これを必要回数繰り返すことにより、多数の層が積層された交互吸着膜を製造することが可能となる。
【0086】
また、上記例では、正電荷物質含有液塗布手段および負電荷物質含有液塗布手段が各々一つであったが、本発明においてはこれに限定されるものではなく、例えば複数種類の正電荷物質、具体的には高分子電解質と微粒子とを吸着させる場合には、高分子電解質を成膜するための正電荷物質含有液塗布手段と微粒子からなる層を形成するための正電荷物質含有液塗布手段とをそれぞれ配置し、同様の負電荷物質含有液塗布手段を配置し、これらの間に移動手段を用いて被成膜材料を移動させることにより、交互吸着膜を形成してもよいのである。
【0087】
さらに、本発明の交互吸着膜の製造装置においては、正電荷物質含有液塗布手段および負電荷物質含有液塗布手段に、塗布する正電荷物質含有液および負電荷物質含有液を回収し再利用する回収手段を有するものであることが好ましい。正電荷物質およぶ負電荷物質が高価である場合等において、特に有効であるからである。
【0088】
本発明の交互吸着膜の製造装置において、正電荷物質および負電荷物質等の他の事項に関しては、上記「A.交互吸着膜の製造方法」の欄で説明したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0089】
C.その他
本発明においては、以下の発明を提供することができる。
1.正の電荷を有する正電荷物質と、負の電荷を有する負電荷物質とが被成膜材料表面に交互に積層されてなる交互吸着膜の製造方法において、上記正電荷物質を含有する正電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する正電荷物質含有液塗布工程と、上記負電荷物質を含有する負電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する負電荷物質含有液塗布工程とを少なくとも有し、上記正電荷物質含有液塗布工程および上記負電荷物質含有液塗布工程とが、得られる交互吸着膜が必要とする積層数回繰り返されることを特徴とする交互吸着膜の製造方法。
2.正の電荷を有する正電荷物質と、負の電荷を有する負電荷物質とが被成膜材料表面に交互に積層されてなる交互吸着膜の製造装置であって、上記正電荷物質を含有する正電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する正電荷物質含有液塗布手段と、上記負電荷物質を含有する負電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する負電荷物質含有液塗布手段とを少なくとも有し、得られる交互吸着膜が必要とする積層数を形成するために、上記正電荷物質含有液塗布手段および上記負電荷物質含有液塗布手段により、上記被成膜材料表面が複数回にわたり処理されるように構成されていることを特徴とする交互吸着膜の製造装置。
【0090】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0091】
正電荷物質含有液として、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)(Sigma-Aldrich社試薬、分子量:30万)の0.01mol/l水溶液を、負電荷物質含有液として、ポリ(スチレンスルホン酸)(Sigma-Aldrich社試薬、分子量:7万)の0.01mol/l水溶液をそれぞれ用意した。リンス液としては、導電率が10MΩ・cmのイオン交換水を用意した。
【0092】
大きさが1m四方で厚みが0.5mmのガラス繊維の不織布を、水酸化カリウムのエタノール溶液に浸漬させ、ガラス繊維の表面をアニオン化処理した。このガラス繊維を、図2に示すように搬送グリップで挟んで吊り下げた状態にし、搬送グリッップを移動させながら、前記正電荷物質含有液をスプレー状に噴射して、不織布表面に塗布した。搬送グリップの移動速度とスプレー噴射させるノズルの数を調整し、不織布の任意の部分に正電荷物質含有液の液膜が形成される時間を1分とした。
【0093】
次に前記リンス液を同様に噴射して、不織布の任意の部分にリンス液の液膜が形成される時間を1分とした。
【0094】
次に前記負電荷物質含有液を同様に噴射して、不織布の任意の部分に負電荷物質含有液の液膜が形成される時間を1分とした。
【0095】
次に前記リンス液を同様に噴射して、不織布の任意の部分にリンス液の液膜が形成される時間を1分とした。
【0096】
このような正電荷物質含有液、リンス液、負電荷物質含有液、リンス液の順序で、不織布へ塗布する工程を1サイクルとする。1サイクルの工程を経ることにより、不織布表面上に正電荷物質と負電荷物質をこの順序に積層させた。
【0097】
次に、搬送グリップを前記正電荷物質含有液を噴射するノズルの場所へ移動させ、合計で50サイクルの工程を経ることで、正電荷物質と負電荷物質が交互に50層ずつ積層された不織布を得た。
【0098】
これを、100℃のオーブンに5分間投入して乾燥させた。
【0099】
この不織布は、タバコの煙を効果的に吸着することができた。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の交互吸着膜の製造方法の一例を説明するための説明図である。
【図2】本発明の交互吸着膜の製造装置における移動手段の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0101】
1 …… 被成膜材料
2 …… 正電荷物質含有液
3 …… スプレー装置
4 …… リンス液
5 …… 負電荷物質含有液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正の電荷を有する正電荷物質と、負の電荷を有する負電荷物質とが被成膜材料表面に交互に積層されてなる交互吸着膜の製造方法において、
前記正電荷物質として高分子電解質を含有する水溶液、または前記正電荷物質として微粒子を含有する分散液である正電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する正電荷物質含有液塗布工程と、
前記負電荷物質として高分子電解質を含有する水溶液、または前記負電荷物質として微粒子を含有する分散液である負電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する負電荷物質含有液塗布工程とを少なくとも有し、
前記正電荷物質含有液塗布工程および前記負電荷物質含有液塗布工程が、得られる交互吸着膜が必要とする積層数回繰り返されることを特徴とする交互吸着膜の製造方法。
【請求項2】
前記吐出が、前記正電荷物質含有液および負電荷物質含有液をスプレー状に噴射して、前記被成膜材料表面に塗布することを特徴とする請求項1に記載の交互吸着膜の製造方法。
【請求項3】
前記正電荷物質含有液塗布工程および前記負電荷物質含有液塗布工程の後に、付着した液体をそれぞれリンスするためのリンス工程を有し、
前記リンス工程が、リンス液を被成膜材料表面に吐出することにより行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の交互吸着膜の製造方法。
【請求項4】
前記リンス液の被成膜材料表面上への吐出が、前記リンス液をスプレー状に噴射して行うことを特徴とする請求項3に記載の交互吸着膜の製造方法。
【請求項5】
前記リンス工程の後に、乾燥工程を有することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の交互吸着膜の製造方法。
【請求項6】
前記正電荷物質含有液塗布工程および負電荷物質含有液塗布工程では、前記被成膜材料の被成膜表面が水平面に対し、90°以上180°未満の角度を有し、かつ被成膜表面が上側を向くように配置されていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の交互吸着膜の製造方法。
【請求項7】
前記正電荷物質含有液塗布工程および負電荷物質含有液塗布工程では、被成膜材料表面に塗布されなかった前記正電荷物質含有液および負電荷物質含有液を回収して再利用することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の交互吸着膜の製造方法。
【請求項8】
前記被成膜材料が、ウェブ状のプラスチックフィルムであることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかの請求項に記載の交互吸着膜の製造方法。
【請求項9】
正の電荷を有する正電荷物質と、負の電荷を有する負電荷物質とが被成膜材料表面に交互に積層されてなる交互吸着膜の製造装置であって、
前記正電荷物質として高分子電解質を含有する水溶液、または前記正電荷物質として微粒子を含有する分散液である正電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する正電荷物質含有液塗布手段と、
前記負電荷物質として高分子電解質を含有する水溶液、または前記負電荷物質として微粒子を含有する分散液である負電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する負電荷物質含有液塗布手段とを少なくとも有し、
得られる交互吸着膜が必要とする積層数を形成するために、前記正電荷物質含有液塗布手段および前記負電荷物質含有液塗布手段により、前記被成膜材料表面が複数回にわたり処理されるように構成されていることを特徴とする交互吸着膜の製造装置。
【請求項10】
前記正電荷物質含有液または前記負電荷物質含有液が塗布された後の被成膜材料表面に付着したこれらの液体を洗浄するためのリンス手段を有し、
前記リンス手段が、リンス液を被成膜表面に吐出して洗浄する手段であることを特徴とする請求項9に記載の交互吸着膜の製造装置。
【請求項11】
前記リンス手段によりリンスされた被成膜材料表面を乾燥させるための乾燥手段を有することを特徴とする請求項10に記載の交互吸着膜の製造装置。
【請求項12】
前記被成膜材料を移動させる移動手段を有し、前記移動手段により、前記被成膜材料表面に対する前記正電荷物質含有液塗布手段および前記負電荷物質含有液塗布手段による複数回の処理を行うことを特徴とする請求項9から請求項11までのいずれかの請求項に記載の交互吸着膜の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−260015(P2008−260015A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128596(P2008−128596)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【分割の表示】特願2002−107392(P2002−107392)の分割
【原出願日】平成14年4月10日(2002.4.10)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】