説明

交流モーター起動電流制御

【課題】顧客からの要望に迅速に対応することが可能な回転制御装置を提供する。
【解決手段】始動器60は、誘導電動機への出力の運転パターンが8つ格納されたメモリ部63と、8つの運転パターンから選択された一の運転パターンに沿って始動から停止まで、誘導電動機への出力を調整する運転制御部64とを備えている。この始動器60は、運転制御部64が、操作パネル62からの入力により選択された運転パターンに基づいて誘導電動機への出力を調整するので、容易に運転パターンの選択が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
起動電流の制御をする。
【背景技術】
【0002】
回転動力負荷の回転を制御する回転動力装置は、電源と負荷である電動機などの回転動力負荷との間に設置され、始動、運転、停止の回転数、トルクをそれぞれ制御するものである。このような回転制御装置として特許文献1に記載されたものが知られている。
特許文献1に記載の制御盤用コントローラは、操作表示ユニットと、制御入出力部とを備えたものである。ネットワーク接続装置によりネットワークと接続される操作表示ユニットは、EEPROMに書き込まれる設定データの設定やモニタを、スイッチ部や表示手段により行えるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−225416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の制御盤用コントローラは、動力負荷をネットワークにより制御できることで、遠隔地からの操作を可能とするものであるが、例えば、ベルトコンベアの電動機の制御や、揚水する渦巻ポンプの制御などに使用される回転制御装置は、それぞれの用途に合った運転パターンが必要である。従って、回転制御装置を製品として出荷するときには、顧客からの要望に対して、その度に顧客の用途に応じた運転パターンを設定した回転制御装置を準備する必要がある。従って、煩雑な作業がその都度発生する。
【0005】
そこで本発明は、顧客からの要望に、迅速に対応することが可能な回転制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の回転制御装置は、回転動力負荷への出力の運転パターンが複数格納された記憶手段と、前記複数の運転パターンから選択された一の運転パターンに沿って始動から停止まで、前記回転動力負荷への出力を調整する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明の回転制御装置によれば、記憶手段に用途ごとの運転パターンを複数格納しておき、この複数の運転パターンの中から選択された一の運転パターンに沿って制御を行う。前記制御手段は、操作パネルからの入力により選択された運転パターンに基づいて、前記回転動力負荷への出力を調整するのが望ましい。
操作パネルから運転パターンを選択可能とすることで、工場出荷時に選択したり、設置した現場で選択したりすることができる
【0008】
前記制御手段は、操作パネルからの入力された運転パターンの出力制御パラメータの設定に基づいて前記回転動力負荷への出力を調整するのが望ましい。操作パネルから運転パターンの出力制御パラメータの設定を調整可能とすることで、設置した現場で動力負荷を動かしながら微調整を行うことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の回転制御装置は、複数の運転パターンの中から選択された一の運転パターンに沿って制御手段が、始動から停止まで回転動力負荷への出力を調整することで、用途ごとに準備する必要がなくなるので、顧客からの要望に、迅速に対応することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係る電動機制御システムについての接続図である
【図2】図1に示す電動機制御システムの始動器の構成を示すブロック図である。
【図3】始動器の操作パネルを示す図である。
【図4】(A)および(B)は、運転パターンについての一例を示す図である。
【図5】(A)から(G)は、運転パターンの選択および出力制御パラメータの設定の表示例を示す図である。
【図6】(A)から(D)は、運転パターンの選択および出力制御パラメータの設定の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態に係る回転制御装置として始動器を例に、図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る電動機制御システムの接続図である。図1に示される本実施の形態に係る電動機制御システム10は、受変電設備Eからの三相交流で動作する誘導電動機Mの回転を制御するものである。
【実施例1】
【0012】
本発明の実施の形態に係る回転制御装置として始動器を例に図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る電動機制御システムの接続図である。図1に示される本実施の形態に係る電動機制御システム10は、受変電設備Eからの三相交流で動作する誘導電動機Mの回転を制御するものである。
【0013】
電動機制御システム10は、受変電設備Eに接続された漏電遮断器20と、漏電遮断器20に接続されたメイン電磁接触器30とメイン電磁接触器30に接続されたバイパス電磁接触器40およびサーマルプロテクタ50とこのバイパス電磁接触器40およびサーマルプロテクタ5に並列に接続された始動器60と動力負荷である誘導電動機Mに接続された出力端子台70とを備えている。
【0014】
漏電遮断器20は、漏電電流を検知して回路を遮断するもので、誘導電動機Mの直入れ起動が可能な容量、設定電流のものが使用できる。メイン電磁接触器30やバイパス電磁接触器40は、内部に設けられた電磁石により接点を開閉するものである。誘導電動機Mの定常運転時には、バイパス電磁接触器40側から電源が供給される。サーマルプロテクタ50は、誘導電動機Mの過負荷保護用に用いられるもので、バイパス電磁接触器40が作動した後に動作が有効となる。
【0015】
始動器60は、回転動力負荷である誘導電動機Mの始動から停止までの制御を行うものである。ここで始動器60の構成について図2および図3に基づいて詳細に説明する。図2は、図1に示す電動機制御システムの始動器の構成を示すブロック図である。図3は、始動器の操作パネルを示す図である。
【0016】
図2に示すように始動器60は、電圧電流制御回路61と、操作パネル62と、メモリ部63と、運転制御部64とを備えている。電圧電流制御回路61は、運転制御部64の指示により入力端子(図示せず)から入力した三相交流をサイリスタ回路により制御して出力端子(図示せず)へ出力する。
【0017】
図2および図3に示すように、操作パネル62には、表示パネル62aと、ランプ62bと、入力部62cとを備えている。表示パネル62aは、各種の設定や動作の状態(エラー表示など)を表示する表示手段として機能するものである。本実施の形態では、表示パネル62aとして液晶パネルを採用している。ランプ62bは、一次側の通電状態を示すランプ(POWERランプ)と、運転制御部64が動作中であることを示すランプ(RUNランプ)とを備えている。本実施の形態では、ランプ62bとしてLEDを採用している。入力部62cは、「MODE」ボタンや「FUNC」ボタンなどの押しボタンスイッチと「AUTO−MENU」スイッチのシーソースイッチから構成されている。
【0018】
図1に示すメモリ部63は、誘導電動機Mを動作させる運転パターンが複数格納された記憶手段として機能する不揮発性メモリである。メモリ部63には、運転パターンの他に、各種出力制御パラメータの設定が格納されている。本実施の形態では、メモリ部63に、8つの運転パターンが格納されている。
【0019】
ここで、メモリ部63に格納された運転パターンについて、図4に基づいて説明する。図4(A)および同図(B)は、運転パターンの一例を示す図である。図4(A)に示す運転パターン3は、危険速度回避スタートが必要な多段ターボブロアの運転に使用されるパターンである。また、図4(B)に示す運転パターン7は、重慣性負荷用ソフトスタート/ストップが必要な遠心分離器、重負荷の高速回転機、フライホイルのついた機械などの運転に使用されるパターンである。メモリ部63には、図4に示す運転パターン3,7以外に、運転パターン1,2および運転パターン5〜6,8の全部で8つ格納されている。
各運転パターンは、出力電圧や出力電流を示す値がデータとして時系列にメモリ部63に格納されるている。
【0020】
運転制御部64は、複数の運転パターンの中から選択された一の運転パターンをメモリ部63から読み取り、この運転パターンに沿って始動から停止まで、誘導電動機Mへの出力を調整する制御手段として機能するものである。また、運転制御部64は、入力部62cの入力に応じて表示パネル62aの表示を行ったり、設定を行ってメモリ部63へ格納したりする機能を備えている。
運転制御部64は、CPUとして機能するマイクロプロセッサと、プログラムを格納するROMと、ワーク領域として使用されるRAMと、周辺回路とで形成することができる。ROMは、メモリ部63と兼用することも可能である。
【0021】
出力端子台70は、始動器60とサーマルプロテクタ50とからの出力が接続される3つの端子と、アースへ接続される一つの端子の合計4つ以上の端子が設けられたものであり、かつ誘導電動機Mの定格電圧、電流以上の仕様のものであれば使用することができる。出力端子台70と誘導電動機Mとの間は、アース線を含む4芯のケーブルにより接続されている。
【0022】
以上のように構成された本発明の実施の形態に係る始動器60の使用状態および動作を、図1から図4、更に図5および図6に基づいて説明する。図5(A)から同図(H)は、運転パターンの選択および出力制御パラメータの設定の表示例を示す図である。図6(A)から同図(D)は図5から引き続いて表示される表示例を示す図である。
【0023】
まず、使用者は、使用する運転パターンを選択して、運転パターンの出力制御パラメータの設定を入力する。例えば、図4(A)に示す運転パターンAがパターン3であれば、まず表示パネル62aが初期画面(図5(A)参照)の状態のときに、入力部62cの「MODE」ボタンを所定回数押下する。
この「MODE」ボタンは、運転制御部64の動作モードと、表示パネル62aの表示とを切り替えことができるボタンである。本実施の形態では、3回目の押下で運転パターンの選択モードとなる(図5(B)参照)。
【0024】
表示パネル62aが運転パターンの選択モードを示す表示となったところで、「SET」ボタンを押下する。この「SET」ボタンの押下により、まず運転パターン1が選択された表示となる(図5(C)参照)。
そして、「UP」ボタンを2回押下して運転パターン3を選択する(図5(D)参照)。このようにして誘導電動機Mの運転はパターン3を選択することができる。
【0025】
次に、引き続いて運転パターン3の各出力制御パラメータの設定を行う。出力制御パラメータの設定は、図4(A)に示すように、出力始めの電圧値である開始電圧EPr.1、開始電圧EPr.1から徐々に目的の電圧まで増加させるときの増加目標電圧EPr.2、開始電圧EPr.1から増加目標電圧EPr.2まで上昇させるのに要する時間TPr1、出力停止の指示後に降下させるときの降下目標電圧EPr.3、降下目標電圧EPr.3から最終的な電圧まで降下させるときの停止電圧EPr.4、目標電圧EPr.3から停止電圧EPr.4までに要する時間TPr.2の各項目である。
【0026】
表示パネル62aが図5(D)に示す運転パターン3を示しているときに、「MODE」ボタンと「SET」ボタンとを同時に押下する。すると表示パネル62aは、時間TPr1の設定表示となる(図5(E)参照)。
そこで、「SET」ボタンを再度押下することで時間の入力可能な状態となり、「UP」ボタンまたは「DOWN」ボタンを押下して時間を入力する(図5(F)参照)。この例では15秒を設定している。所望とする時間の値となったところで、「SET」ボタンを押下して設定を登録することで、時間TPr.1の設定表示に戻る(図5(G)参照)。
【0027】
次に、「UP」ボタンを押下することで、時間TPr.2の設定表示(図5(H)参照)となるので、上述した時間TPr.1を設定したときと同様の手順で、時間TPr.2を設定すると共に、他の出力制御パラメータの設定である開始電圧EPr.1,増加目標電圧EPr.2,降下目標電圧EPr.3,停止電圧EPr.4を順番に設定する。
なお、各電圧は出力電圧に対する割合で設定を行う。例えば、開始電圧EPr.1は30%,増加目標電圧EPr.2は60%,降下目標電圧EPr.3は50,停止電圧EPr.4は25%などである。
【0028】
停止電圧EPr.4の設定が終わると、図6(A)に示すように運転パターン3の設定が運転制御部64によりメモリ部63に格納されたことが表示パネル62aに表示される。
そして「FUNC」ボタンを押下することで、図6(B)および同図(C)に順に示す元の表示に戻し、最終的に同図(D)に示す初期画面まで戻ることができる。
【0029】
そして運転制御部64が誘導電動機Mを運転するときには、各出力制御パラメータが設定された運転パターン3の出力指示に沿って出力電圧を調整して誘導電動機Mを動作させる。運転パターン3では、運転制御部64が、起動指示を受けた後の2秒後に電圧電流制御回路61のサイリスタ回路に開始電圧EPr.1を出力させるように制御する。次に、運転制御部64は、出力電圧を徐々に増加目標電圧EPr.2まで時間TPr.1で上昇させ、バイパス電磁接触器40を作動させる。そして、運転制御部64はバイパス電磁接触器40を導通させてから2秒後に、電圧電流制御回路61のサイリスタ回路を停止する。これで誘導電動機Mは安定した定常運転状態となる。
【0030】
停止時は、運転制御部64が、停止指示を受けたときに電圧電流制御回路61のサイリスタ回路を作動させ、停止指示を受けた後の2秒後にバイパス電磁接触器40を遮断する。始動器60とバイパス電磁接触器40との間で2秒間ずつ出力をオーバーラップさせることで、バイパス電磁接触器40のマグネット投入時、遮断時に発生するアークを防止している。
【0031】
運転制御部64、バイパス電磁接触器40を遮断させるときに、出力電圧を定常運転時の出力から降下目標電圧EPr.3まで落として出力する。
そして、徐々に時間TPr.2をかけて、停止電圧EPr.4まで出力電圧を降下させる。出力電圧が停止電圧EPr.4となったところで、運転制御部64は電圧電流制御回路61のサイリスタ回路の出力を停止する。このようにして始動器60は、運転パターン3に沿って誘導電動機Mを運転することで、誘導電動機Mの理想的な運転を行うことができる。
【0032】
このようにメモリ部63に、用途ごとに全く異なる運転パターンが複数格納され、この複数の運転パターンの中から選択された一の運転パターンに沿って運転制御部64が、始動から停止まで誘導電動機Mへの出力を調整することで、用途ごとに始動器60を準備する必要がなくなる。従って、始動器60は、顧客からの要望に、迅速に対応することが可能である。
【0033】
また、運転制御部64が、操作パネル62の表示パネル62aを見ながら入力部62cにより選択された運転パターンに基づいて誘導電動機Mへの出力を調整するので、工場出荷時に選択したり、設置した現場で選択したりすることができる。従って、運転パターンの選択が容易である。
【0034】
また、運転制御部64が、入力部62cにより入力された運転パターンの出力制御パラメータの設定に基づいて誘導電動機Mへの出力を調整するので、設置した現場で動力負荷を動かしながら微調整を行うことができる。従って、より細やかな調整を行うことができるので、更に理想的な誘導電動機Mの運転を行うことができる。
【0035】
なお、本実施の形態では、運転パターンの各出力制御パラメータの設定の説明として、出力電圧設定、時間設定を例に行っているが、例えば、電源が非常用発電機やUPSである場合の消火ポンプ、排煙ブロアなどの動力負荷に対する運転パターンでは、出力電流を調整する出力電圧設定を入力することができる。
また、運転パターンの出力制御パラメータの設定としては、出力電圧設定や時間設定とする以外に、出力を上昇または下降させる傾斜度を設定可能としたり、出力の割合ではなく絶対値を設定するようにしてもよい。また、本発明は回転動力負荷は三相交流とする以外に単相交流でも直流で、回転動力負荷に対して、電圧電流制御回路を変更することで対応することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、回転動力負荷の始動から停止までの制御を行う回転制御装置に好適である。特に、本発明は回転動力負荷の始動を安定、安全に制御することができる始動器には最適である。
【符号の説明】
【0037】
10 電動機制御システム
20 漏電遮断器
30 メイン電磁接触器
40 バイパス電磁接触器
60 始動器
61 電圧電流制御回路
62 操作パネル
62 a表示パネル
62 bランプ
62 c入力部
63 メモリ部
64 運転制御部
70 出力端子台
E 受変電設備
M 誘導電動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転動力負荷への出力の運転パターンが複数格納された記憶手段と、前記複数の運転パターンから選択された一の運転パターンに沿って始動から停止まで、前記回転動力負荷への出力を調整する制御手段とを備えたことを特徴とする回転制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、操作パネルからの入力により選択された運転パターンに基づいて前記回転動力負荷への出力を調整する請求項1記載の回転制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、操作パネルからの入力された運転パターンの出力制御パラメータの設定に基づいて前記回転動力負荷への出力を調整する請求項1記載の回転制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−19584(P2012−19584A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154626(P2010−154626)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(710007250)
【Fターム(参考)】