説明

交流電源装置およびその装置におけるアーク抑制方法

【課題】アーク放電を抑制することができ、かつ、アーク放電の検出から復帰までに必要なエネルギーを抑えることができる交流電源装置およびその装置におけるアーク抑制方法を提供する。
【解決手段】AC−DC整流器25及びDC−DC整流器27が、商用交流電力から直流電力に変換し、DC−AC変換器30が、直流電力から高周波交流電力に変換し、高周波トランス31を介して高周波交流電力を負荷へ供給する。発振制御手段35は、電流検出器32が検出した高周波交流電力の電流値を入力し、この電流値に基づいてアーク放電を検出し、前記高周波交流電力の供給を遮断させる。その後、初期パルス巾〔P〕から設定パルス巾〔HA〕に漸増して変化するようなパルスを生成し、このパルスを有するスイッチング信号をDC−AC変換器30に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電源装置に関し、特に、アーク放電が抑制される交流電源装置およびその装置におけるアーク抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、蒸着やスパッタリングなどの成膜プロセスを用いて、成膜用基板(以下、基板という)に種々な材料を成膜させて半導体や液晶基板などを製造する成膜装置がある。この成膜装置は、例えば、スパタリング装置であれば、真空容器の中において、アルゴンなどの不活性ガスを導入しながら、被膜材料を取り付けた電極を陰極としてグロー放電を発生させ、放電中に生成したイオンを放電電圧に相当する数百eVのエネルギで陰極に衝突させ、その際に反動で放出する粒子を基板上に体積させて成膜を行う。この成膜装置に電力を供給する電源装置は、直流電源や高周波の交流電源であって、かつ、電圧、電流および電力を一定に制御して成膜装置に印加する。しかし、これらの成膜プロセスでは電力を供給するための電極に熱的変化が起こり、プロセス状態が一定せず、アーク放電やフラッシュバックなどの現象が発生する。従来、アーク放電を抑制する方法として、アーク放電を検出し、成膜装置への供給電力を瞬時に停止し、アーク放電が消去した後、再スタートする方法が用いられていた。
【0003】
また、アーク放電の発生時の遮断期間および復帰期間が短縮できるプラズマ処理装置として、特許文献1に記載されているものがある。プラズマ処理装置は、図9に示すように、直流制御部1で商用電力から変換され、平滑回路2を介して取り出された直流電圧は、インバータスイッチング部3へ送られて、交流(矩形波)に変換され、昇圧トランス4および整流部5を介して処理装置本体6へ供給される。7はサイリスタ制御部、8はインバータ制御部である。9は昇圧トランス4と整流部5との間に設けられたカレントトランス、10はカレントトランス9で検出された電流を読み取り、その値に応じて前記サイリスタ制御部7およびインバータ制御部8へ制御信号を送る電流検出回路である。
【0004】
図10(a)は、アーク放電が発生した前後の放電電流の変化を表わすカレントトランス9の電流検出出力を示している。期間Aの放電電流は、正規のパルス電流波形を示しており、デューティを調節することにより放電が制御される。図10(b)は、平滑回路2から得られる直流電圧Vdcを示している。期間Aにおいて、直流電圧Vdcは、200V一定に維持されている。期間Bにおいて、グロー放電からアーク放電に移行しており、電流が急激に増加している。図10(c)は、アーク放電が発生したときのアーク検出信号Pを示している。インバータ制御部8は、遮断期間C終了後の復帰期間Dにおいて、インバータの発振を同じ周波数で再開させるが、その際、高周波パルスのデューティを、図10(a)に示すように零からアーク検出される前のデューティまで徐々に増加させる。放電電流値も、図10(b)に示すように直流電圧Vdcの変化に従ってデューティと同様に徐々に上昇し、復帰期間Dの終りの時点でアーク検出される前の状態に戻る。
【0005】
【特許文献1】特開平7−62521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の、電圧、電流および電力を一定に制御して成膜装置に印加する電源装置では、電極が加熱気味の状況において再度同容量の電力を供給する場合には、アーク放電が再発し、電極に熱的な変化が起こり、成膜プロセスが一定しない。このため、成膜の品質が低下し、または製品歩留まりが悪化するという問題が生じる虞がある。
【0007】
また、前述の特許文献1の電源装置では、アーク放電を検出し、負荷への電力を遮断して、再度可変する電力を供給する場合、可変する電力は、高周波パルスのデューティを零から徐々に増加させる。このため、アークの発生から回復までには、アーク放電の検出時点から電力を遮断するまでの期間に加えて、停止期間や復帰期間を要するので、アーク放電への移行が頻繁に発生するような場合には、成膜の品質が低下し、処理時間が増大するなどの問題を生じる虞がある。この場合、アーク放電を検出してから復帰するまでの間に、多大なエネルギーが消費されるため、このエネルギー消費量をできる限り抑えることが望ましい。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題を解決するために、アーク放電を抑制することができ、かつ、アーク放電の検出から復帰までに必要なエネルギーを抑えることができる交流電源装置およびその装置におけるアーク抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の交流電源装置は、商用交流電力から変換した高周波交流電力を負荷へ供給する電源であって、アーク放電を抑制する交流電源装置において、スイッチング信号によりスイッチング素子のゲートを制御し、前記高周波交流電力を生成する電力変換器と、前記負荷へ供給される高周波交流電力の電流値を検出する電流検出器と、前記電流値に基づいてアーク放電を検出し、前記電力変換器に高周波交流電力の供給を遮断させ、遮断の後、予め設定された初期パルス巾から漸増するパルスを生成し、前記パルスを有するスイッチング信号を前記電力変換器に出力する発振制御手段と、を備えることを特徴とする。この交流電源装置は、アーク放電を検出すると、スイッチング信号の出力を停止して負荷への電力供給を遮断する。そして、初期パルス巾から漸増させるようなパルス巾を有するスイッチング信号を出力し、電力供給を再開するようにした。つまり、スイッチング信号の出力は、零のパルス巾から開始するのではなく、初期パルス巾から開始するようにしたので、アーク放電の検出から復帰までの時間を短縮することができる。
【0010】
また、本発明の交流電源装置は、商用交流電力から変換した高周波交流電力を負荷へ供給する電源であって、アーク放電を抑制する交流電源装置において、前記商用交流電力を、第1の直流電力に変換するAC−DC整流器と、前記第1の直流電力を、内在する第1のスイッチング素子のゲートをオン/オフ動作させて、前記負荷に応じて定められる第2の直流電力に変換するDC―DC変換器と、前記DC―DC変換器の出力側の帰還直流電流値を検出する第1の電流検出器と、前記第2の直流電力を入力し、内在する第2のスイッチング素子のゲートをオン/オフ動作させて、前記第2の直流電力を第1の高周波の交流電力に変換するDC−AC変換器と、前記第1の高周波の交流電力を入力し、前記第1の高周波の交流電力を電気的絶縁させて第2の高周波の交流電力に変換する高周波トランスと、前記高周波トランスの2次側の負荷へ入力される出力電流値を検出する第2の電流検出器と、前記帰還直流電流値と前記DC−DC変換器の出力側の帰還直流電圧値とを乗算し、前記第2の直流電力の目標値とする基本電力指令値から、前記乗算結果の帰還電力値を減算し、減算結果の電力偏差値に基づいて、前記第1のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御するゲート制御信号を出力し、前記ゲート制御信号によって、前記第2の直流電力を制御する電力制御手段と、前記出力電流値と、前記第2のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御するスイッチング信号のスイッチング周波数指令値と、前記アーク放電の検出基準であるアーク基準値と、前記スイッチング信号の再起動時における初期パルス巾とに基づいて、前記スイッチング信号を出力し、そのスイッチング信号によって、前記第1の高周波の交流電力を制御する発振制御手段と、を備え、前記発振制御手段は、前記出力電流値とアーク基準値とに基づいてアーク信号を出力し、前記アーク信号に基づいて、電力供給を遮断する遮断信号を出力し、所定時間だけ前記負荷への電力供給を遮断した後、リセット信号を出力し、前記リセット信号が出力してから一定時間後に、電力供給が元の状態に復帰するように、前記第2のスイッチング素子のスイッチング信号のパルス巾が前記初期パルス巾から設定パルス巾に漸増して電力制御することを特徴とする。
【0011】
また、好適には、前記発振制御手段は、前記第2の電流検出器による出力電流値から変換される電圧値の絶対値と、前記アーク基準値とを入力し、前記絶対値と前記アーク基準値との大小を比較し、絶対値がアーク基準値に等しいときまたはより大きいときに前記アーク信号を出力し、前記負荷への電力供給を遮断する遮断信号を出力し、所定時間だけ前記負荷への電力供給を遮断した後、前記リセット信号を出力するアーク検出手段と、前記遮断信号およびリセット信号に基づいて、初期パルス巾を演算する初期パルス巾指令演算手段と、前記初期パルス巾と、前記スイッチング周波数指令値と、デッドバンド期間とを入力し、前記リセット信号によって、所定時間内に、パルス巾が初期パルス巾から設定パルス巾に漸増するスイッチング信号を出力するパルス巾可変演算/GATE制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、好適には、前記アーク検出手段は、前記第2の電流検出器による出力電流値を入力し、出力電流値を電圧値に変換する電流−電圧変換器と、前記電圧値を入力し、入力端子間電圧を増幅した出力電圧値を出力する差動増幅器と、前記出力電圧値を入力し、出力電圧値の絶対値を演算し、絶対値を出力する絶対値変換器と、前記アーク基準値を設定するアーク基準設定器と、前記絶対値とアーク基準値とを入力し、絶対値とアーク基準値との大小を比較し、絶対値がアーク基準値に等しいときまたはより大きいときに、前記アーク信号を出力する比較器と、前記アーク信号を入力し、アーク信号を保持し、遮断信号を出力するラッチ/遮断信号発生器と、前記遮断信号を入力し、遮断信号により前記第2のスイッチング素子のゲートがオフ状態に変わってから所定時間が経過した後、リセット信号を出力し、前記ラッチ/遮断信号発生器による保持した前記アーク信号を解除する再起動信号演算出力器と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、好適には、前記リセット信号によって再起動するP側およびN側からなるスイッチング信号は、アークを検出する前記P側またはN側と反対側の前記N側またはP側のいずれかのスイッチングが開始することを特徴とする。
【0014】
また、好適には、前記初期パルス巾指令演算手段は、設定パルス巾に対する所定パルス巾の比率とするパルス巾減衰比率指令値を設定するパルス巾減衰比率設定器と、前記遮断信号を入力し、遮断信号に基づいてアーク遮断信号を出力するアーク遮断指令器と、前記アーク遮断信号を入力し、アーク遮断信号に基づいて前記パルス巾減衰比率指令値を書き込むレート指令書込み器と、スイッチング信号のパルス巾が、前記所定パルス巾から設定パルス巾まで変化するのに要するレート時間を設定するレート時間設定器と、前記再起動信号演算出力器によるリセット信号が入力すると、前記レート時間とパルス巾減衰比率指令値とを入力し、レート時間とパルス巾減衰比率指令値とから演算される前記所定パルス巾を出力するレート演算器と、前記スイッチング信号の最小パルス巾を設定する最小パルス巾設定器と、前記所定パルス巾と最小パルス巾とを入力し、所定パルス巾と最小パルス巾との大小を比較し、パルス巾が大きい方を初期パルス巾として選択するパルス巾選択器と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、好適には、前記アーク検出手段は、さらに、前記電流−電圧変換器と差動増幅器との間にパルストランスを備えることを特徴とする。
【0016】
また、好適には、前記電力制御手段は、前記基本電力指令値に電力波形が揺動的に変化する揺動電力を付加し、これにより得られる新たな電力指令値と、帰還直流電流値と、帰還直流電圧値とを入力し、帰還直流電流値と帰還直流電圧値とを乗算し、新たな電力指令値から前記乗算結果である帰還直流電力を減算し、減算結果である電力偏差値に基づいて前記第1のスイッチング素子のゲート制御信号を出力して、前記第2の直流電力を制御することを特徴とする。
【0017】
また、好適には、前記揺動電力が、正弦波形、方形波または三角波からなる電力波形、揺動振動数および揺動振幅から設定されることを特徴とする。
【0018】
また、好適には、前記負荷が、スパッタ装置であることを特徴とする。
【0019】
また、好適には、前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子は、IGBTであることを特徴とする。
【0020】
本発明のアーク抑制方法は、商用交流電力から変換した高周波交流電力を負荷へ供給する電源であって、アーク放電を抑制する交流電源装置におけるアーク抑制方法において、前記商用交流電力を、第1の直流電力に変換するAC−DC整流工程と、前記第1の直流電力を、内在する第1のスイッチング素子のゲートをオン/オフ動作させて、前記負荷に応じて定められる第2の直流電力に変換するDC−DC変換工程と、前記第1のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御するゲート制御信号を出力して、前記第2の直流電力を制御する電力制御工程と、前記第2の直流電力を入力し、第2のスイッチング素子のゲートをオン/オフ動作させて、第1の高周波の交流電力に変換するDC−AC変換工程と、前記アーク放電を検出してアーク信号を出力し、アーク信号に基づいて電力供給を遮断する遮断信号を出力し、所定時間だけ前記負荷への電力供給を遮断した後、リセット信号を出力し、リセット信号が出力してから一定時間後に、電力供給が元の状態に復帰するように、前記第2のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御するスイッチング信号のパルス巾が初期パルス巾から設定パルス巾に漸増して、電力制御する発振制御工程と、を備えることを特徴とする。
【0021】
また、好適には、前記電力制御工程が、前記第2の直流電力の目標値とする基本電力指令値を設定する基本電力指令値設定工程と、前記帰還電力値を演算する帰還電力値演算工程と、前記基本電力指令値から帰還電力値を減算し、電力偏差値を演算する電力偏差値演算工程と、前記電力偏差値に基づいて第1のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御するゲート制御信号を出力して、前記第2の直流電力を制御する工程とを備え、前記発振制御工程が、前記高周波トランスを介して第1の高周波の交流電力を電気的絶縁させた第2の高周波の交流電力につき、その第2の高周波の交流電力から得られる出力電流値を検出する出力電流値検出工程と、前記出力電流値を電圧値に変換する電流―電圧変換工程と、前記電圧値を入力し、両入力端子間電圧を増幅し、出力電圧値を出力する差動増幅工程と、前記出力電圧値の絶対値を演算し、絶対値を出力する絶対値演算工程と、前記絶対値とアーク放電の検出基準とするアーク基準値との大小を比較する比較工程と、前記絶対値がアーク基準値に等しいときまたはより大きいとき、アーク信号を出力するアーク信号出力工程と、前記アーク信号を入力し、アーク信号を保持し、アーク信号に基づいて遮断信号を出力するラッチ/遮断信号保持発生工程と、前記遮断信号を入力し、遮断信号により前記第2のスイッチング素子のゲートをオフ状態になってから所定時間が経過した後、リセット信号を出力し、保持されたアーク信号を解除する再起動信号演算出力工程と、前記リセット信号を入力し、レート時間とパルス巾減衰比率とから演算される所定パルス巾を出力するレート演算工程と、前記所定パルス巾と最小パルス巾とを入力し、所定パルス巾と最小パルス巾の大小とを比較し、パルス巾が大きい方を初期パルス巾として選択する初期パルス巾選択工程と、前記第2のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御するスイッチング信号のスイッチング周波数指令値とデッドバンド期間とから設定パルス巾を生成し、設定パルス巾と前記初期パルス巾とに基づいて、前記スイッチング信号のパルス巾を演算し、リセット信号によって再起動するスイッチング信号を出力するパルス巾可変演算/GATE制御工程と、を備えることを特徴とする。
【0022】
また、好適には、前記リセット信号によって再起動するP側およびN側からなるスイッチング信号は、アークを検出する前記P側またはN側と反対側の前記N側またはP側のいずれかのスイッチングが開始することを特徴とする。。
【0023】
また、好適には、前記基本電力指令値に電力波形が揺動的に変化する揺動電力を付加し、これにより得られる新たな電力指令値と、帰還直流電流値と、帰還直流電圧値とを入力し、帰還直流電流値と帰還直流電圧値とを乗算し、新たな電力指令値から前記乗算結果である帰還直流電力を減算し、減算結果である電力偏差値に基づいて第1のスイッチング素子のゲート制御信号を出力して、第2の直流電力を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、前記交流電源装置は、成膜用基板製造装置などに用いる交流電源装置として、アーク放電を抑制することができ、かつ、アーク放電の検出から復帰までに必要なエネルギーを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る交流電源装置を成膜用基板製造装置に適用した場合の制御ブロック図である。図2は、本発明に係る交流電源装置における電力制御手段を示す制御ブロック図である。図3は、本発明に係る交流電源装置における発振制御手段を示す制御ブロック図である。図4は、本発明に係る交流電源装置における発振制御手段の一部分の回路例を示す図である。図5、本発明に係る交流電源装置における他の発振制御手段を示す制御ブロック図である。図6は、本発明に係る交流電源装置における他の電力制御手段を示す制御ブロック図である。図7は、本発明に係る交流電源装置におけるアークの検出に基づくアーク抑制方法の処理手順を示すフローチャート図である。図8は、本発明に係る交流電源装置におけるアーク信号、遮断信号、リセット信号およびスイッチング信号と経過時間との関係を示す図である。
【0026】
〔構成〕
成膜用基板製造装置21は、図1に示すように、商用交流電源22、交流電源装置23および負荷24例えば、スパッタ装置を備える。交流電源装置23は、AC−DC整流器25、第1の直流フィルタ26、DC―DC変換器27、第2の直流フィルタ28、第1の電流検出器29、DC−AC変換器30、高周波トランス31、第2の電流検出器32、直流制御用電源33、電力制御手段34および発振制御手段35を備える。交流電源装置23は、商用交流電源22から供給される3相交流電力を一旦、直流電力に変換し、さらに直流電力から交流電力に変換して、交流電力を負荷24に出力する。すなわち、交流電源装置23は、AC−ACコンバータとして機能する。
【0027】
AC−DC整流器25は、整流素子例えば、ダイオードを用いた3相全波整流回路であり、3相交流電力を入力し、3相交流電力を整流し、直流電力を第1の直流フィルタ26に出力する。AC−DC整流器25の出力正極端子は、第1の直流フィルタ26の一端に、出力負極端子は、第1の直流フィルタ24の他端にそれぞれ接続される。第1の直流フィルタ26は、平滑コンデンサからなるフィルタ回路であり、AC−DC整流器25による直流電力を入力し、直流電力を平滑にし、その結果により得られる第1の直流電力をDC―DC変換器27に出力する。第1の直流フィルタ26は、その一端がDC―DC変換器27の入力正極端子に接続され、他端がDC―DC変換器27の入力負極端子に接続される。
【0028】
DC―DC変換器27は、DC−DCコンバータであり、半導体スイッチング素子例えば、IGBT(Insulated Gate Bipola Transistor)(以下、第1のスイッチング素子という)と直流リアクトルとを備えるスイッチング回路であり、IGBTのゲートに入力される制御信号(以下、ゲート制御信号という)Aにより、コレクターエミッタ間の導通/遮断が制御される。IGBTのコレクタは、第2の直流フィルタ28の負極端子に、エミッタは、第1の直流フィルタ26の負極端子にそれぞれ接続される。直流リアクトルは、その一端が第1の直流フィルタ26の正極端子に接続され、他端が第2の直流フィルタ28の正極端子に接続される。すなわち、DC―DC変換器27は、直流電力のうち第1の直流電力を入力し、内在する第1のスイッチング素子のゲートをオン/オフ動作させて、第2の直流電力を第2の直流フィルタ28に出力する。
【0029】
第2の直流フィルタ28は、平滑コンデンサからなるフィルタ回路であり、第2の直流電力を入力し、第2の直流電力を平滑にして、DC−AC変換器30に出力する。第2の直流フィルタ28は、その一端がDC−AC変換器30の入力正極端子に接続され、他端が第1の電流検出器29を介してDC−AC変換器30の入力負極端子に接続される。第1の電流検出器29は、例えば、磁電変換素子であるホール素子を利用して、被測定電流を非接触で検出するセンサであり、DC―DC変換器27の出力側の帰還直流電流値〔C〕(以下、〔〕は信号レベルをいう。例えば、信号Cの信号レベルは〔C〕を示す。)を検出する。
【0030】
DC−AC変換器30は、インバータ回路であり、相対向する2対の半導体スイッチング素子(以下、第2のスイッチング素子という)例えば、IGBT(Q1およびQ4スイッチ)およびIGBT(Q2およびQ3スイッチ)の対が、IGBTのゲートに入力される制御信号(以下、スイッチング信号という)Dにより、コレクターエミッタ間の導通/遮断が制御される。すなわち、DC−AC変換器30は、IGBTの対が、交互にオン/オフ動作を繰り返して、第2の直流フィルタ28による第2の直流電圧波形が平滑された波形を略矩形波交流波形である第1の高周波の交流電力に変換する回路である。すなわち、DC−AC変換器30は、第2の直流電力を入力し、内在する第2のスイッチング素子のゲートをオン/オフ動作させて、第2の直流電力を第1の高周波の交流電力に変換する。
【0031】
高周波トランス31は、相互に電磁結合された1次巻線31pおよび2次巻線31sからなる変圧器であり、1次巻線31pに交流電圧を入力し、相互電磁誘導作用により、1次巻線31pと2次巻線31sの巻数比に比例した交流電圧が2次巻31sに発生する。高周波トランス31の1次巻線31pは、巻き始めがIGBTのQ1のエミッタおよびQ3のコレクタに接続され、巻き終りがIGBTのQ2のエミッタおよびQ4のコレクタに接続される。高周波トランス31の2次巻線31sは、負荷24に接続される。すなわち、高周波トランス31は、第1の高周波の交流電力を入力し、第1の高周波の交流電力を電気的絶縁させて第2の高周波の交流電力に変換する。第2の電流検出器32は、第1の電流検出器29と同様に、例えば、磁電変換素子であるホール素子を利用して、被測定電流を非接触で検出するセンサである。
【0032】
尚、本実施の形態において、直流制御用電源33は、商用交流電源22から2相商用電源を入力し、直流定電圧を出力するようにしたが、商用交流電源22とは別系統の電源を用いることにより、全く独立した直流制御用電源として直流定電圧を出力するようにしてもよい。
【0033】
電力制御手段34−1は、図1に示した電力制御手段34の一例であり、図2に示すように、基本電力指令値設定器36、帰還電力演算器37、減算器38、PID制御器39およびGATE制御器40を備える。基本電力指令値設定器36は、負荷24に応じて定められる第2の直流電力の目標値とする基本電力指令値〔F〕を設定する設定器である。帰還電力演算器37は、帰還直流電圧値〔B〕と帰還直流電流値〔C〕とを入力し、帰還直流電圧値〔B〕と帰還直流電流値〔C〕とを乗算し、演算の結果により、得られる帰還電力値を減算器38に出力する。減算器38は、基本電力指令値設定器36による基本電力指令値〔F〕と帰還電力値とを入力し、基本電力指令値〔F〕から帰還電力値を減算し、演算の結果により、得られる電力偏差値をPID制御器39に出力する。
【0034】
PID制御器39は、電力偏差値を入力し、電力偏差値をPID制御して操作量を求め、操作量をGATE制御器40に出力する。GATE制御器40は、PID制御器39による操作量に基づいてゲート制御信号Aを第1のスイッチング素子のゲートに出力する。
【0035】
すなわち、電力制御手段34−1は、負荷24に応じて定められる基本電力指令値Fから帰還電力値を減算し、演算の結果により、得られる電力偏差値に基づいて、ゲート制御信号AをDC―DC変換器27に出力し、そのゲート制御信号Aによって、第2の直流電力を制御する。
【0036】
発振制御手段35−1は、図1に示した発振制御手段35の一例であり、図3に示すように、アーク検出手段41−1、初期パルス巾指令演算手段42およびパルス巾可変演算/ゲート制御手段43を備える。アーク検出手段41−1は、電流−電圧変換器44、差動増幅器45、絶対値変換器46、アーク基準値設定器47、比較器48、ラッチ/遮断信号発生器49および再起動信号演算出力器50を備える。
【0037】
電流−電圧変換器44は、図4に示すように、例えば、抵抗体63およびコンデンサ64を備え、第2の電流検出器32の出力端子に直列に抵抗63を配し、抵抗体63に並列にコンデンサ64を配する。電流−電圧変換器44は、出力電流値〔E1〕を入力し、電圧値を差動増幅器45に出力する。差動増幅器45は、減算回路であり、図4に示すように、例えば、抵抗体65a〜65dおよびオペアンプ66を備える。差動増幅器45は、電流−電圧変換器44による前記電圧値を入力し、出力電圧値〔E2〕を出力する。抵抗体65a〜65dは、出力電圧値〔E2〕を出力電流値〔E1〕の数値に等しくするように、それぞれの抵抗値が予め設定されており、差動増幅器45の電力入力線に接続されている。例えば、出力電流値〔E1〕が1アンペアであれば、出力電圧値〔E2〕を1ボルトにする。これにより、差動増幅器45の出力端子から出力電圧値〔E2〕を出力することによって、出力電流値〔E1〕を知ることができる。
【0038】
絶対値変換器46は、図3に示すように、差動増幅器45による出力電圧値〔E2〕を入力し、出力電圧値〔E2〕の絶対値を演算し、演算の結果により、得られる絶対値を比較器48に出力する。アーク基準値設定器47は、DC−AC変換器30が高周波トランス31を介して負荷24に第2の高周波の交流電力を供給して、アーク放電と判定される基準となるアーク基準値〔G〕を設定する設定器である。比較器48は、前記絶対値とアーク基準値設定器47によるアーク基準値〔G〕とを入力し、絶対値とアーク基準値〔G〕との大小を比較し、絶対値がアーク基準値〔G〕に等しいとき、またはより大きいとき、アーク信号をラッチ/遮断信号発生器49に出力する。
【0039】
ラッチ/遮断信号発生器49は、アーク信号を入力し、アーク信号によってラッチされる遮断信号Lを再起動信号演算出力器50、初期パルス巾指令演算手段42およびパルス巾可変演算/GATE制御手段43に出力する。再起動信号演算出力器50は、遮断信号Lを入力し、遮断信号Lが再起動信号演算出力器50に入力して、所定時間だけ経過した後、ラッチ/遮断信号発生器49のラッチを解除するためのリセット信号Mをラッチ/遮断信号発生器49に出力する。
【0040】
初期パルス巾指令演算手段42は、パルス巾減衰比率設定器51、アーク遮断指令器52、レート指令書込み器53、レート時間設定器54、レート演算器55、最小パルス巾設定器56および初期パルス巾選択器57を備える。パルス巾減衰比率設定器51は、定常時における第2のスイッチング素子のスイッチング周波数の逆数に相当するパルス巾(以下、「元のパルス巾」という)〔H〕にデッドバンド期間〔DT〕(または「デッドタイム」という)を含めた設定パルス巾〔HA〕につき、これに対する所定パルス巾〔N〕の比率とするパルス巾減衰比率指令値Kを設定する設定器である。ここで、デッドバンド期間〔DT〕は、P側とN側のスイッチング信号Dの切換えのときに、第2のスイッチング素子が確実にオフするための期間である。さらに、設定パルス巾〔HA〕は、元のパルス巾〔H〕からデッドバンド期間〔DT〕を減算した値である。
【0041】
アーク遮断指令器52は、ラッチ/遮断信号発生器49による遮断信号Lを入力し、アーク遮断信号をレート指令書込み器53に出力する。レート指令書込み器53は、アーク遮断指令器52によるアーク遮断信号を入力し、パルス巾減衰比率設定器51によるパルス巾減衰比率Kを書き込む書込み器である。レート時間設定器54は、スイッチング信号Dのパルス巾が所定パルス巾〔N〕から設定パルス巾〔HA〕まで漸増して変化するのに要する時間とするレート時間〔J〕を設定する設定器である。レート演算器55は、リセット信号Mによる遮断信号Lが解除されて、レート時間〔J〕とパルス巾減衰比率〔K〕とによって、演算される所定パルス巾Nを初期パルス巾選択器57に出力する。
【0042】
最小パルス巾設定器56は、スイッチング信号Dの最小パルス巾〔I〕を設定する設定器である。最小パルス巾〔I〕は、第2のスイッチング素子の特性やアークの発生等の点から定める。最小パルス巾〔I〕が狭すぎると、第2のスイッチング素子を破壊する虞があり、また放電が起こらなくなる虞があり、さらにまた、電源がオン状態から正常な放電状態になるまでの時間がかかり過ぎて、基板の生産効率が低下する虞があるからである。例えば、IGBTでは、最小パルス巾〔I〕は2マイクロ秒とする。
【0043】
初期パルス巾選択器57は、最小パルス巾設定器56による最小パルス巾〔I〕とレート演算器55による所定パルス巾〔N〕とを入力し、最小パルス巾〔I〕と所定パルス巾〔N〕との大小を比較し、大きい方のパルス巾を初期パルス巾〔P〕としてパルス巾可変演算手段43に出力する。すなわち、初期パルス巾〔P〕は、設定パルス巾〔HA〕を制御する比率信号に相当する。初期パルス巾〔P〕は、例えば、設定パルス巾〔HA〕に対して60%相当の出力であれば、60%相当のパルス巾で再起動し、レート時間〔J〕が経過した後に、100%となる信号である。
【0044】
パルス巾可変演算/GATE制御手段43は、スイッチング周波数指令設定器58、デッドバンド設定器59、スイッチングパルス巾生成器60、パルス巾可変演算器61およびGATE制御器62を備える。スイッチング周波数指令値設定器58は、第2のスイッチング素子のゲートをオン/オフ動作させるスイッチング信号Dのスイッチング周波数指令値を設定する設定器である。デッドバンド設定器59は、第2のスイッチング素子のゲートを切り替えるときに、スイッチング信号DのP側とN側とが短絡するのを防止するために設けられたデッドバンド期間〔DT〕を設定する設定器である。
【0045】
スイッチングパルス巾生成器60は、スイッチング周波数指令値設定器58によるスイッチング周波数指令値とデッドバンド設定器59によるデッドバンド期間〔DT〕とを入力し、スイッチング周波数指令値から元のパルス巾〔H〕を演算し、元のパルス巾〔H〕からデッドバンド期間〔DT〕を減算し、演算の結果により、得られる設定パルス巾〔HA〕をパルス巾可変演算器61に出力する。パルス巾可変演算器61は、初期パルス巾選択器57による初期パルス巾〔P〕と、スイッチングパルス巾生成器60による設定パルス巾〔HA〕とを入力する。遮断信号Lにより負荷24への電力供給が遮断されて、一定時間t1が経過した後、再起動信号演算出力器50によるリセット信号Mによって電力供給が復帰するとき、パルス巾可変演算器61は、スイッチング信号Dのパルス巾が、初期パルス巾〔P〕から始まって、レート時間設定器54によるレート時間〔J〕が経過し、設定パルス巾〔HA〕になるまでの間、漸増して変化するパルス巾列をゲート制御器62に出力する。ゲート制御器62は、パルス巾列を入力し、パルス巾列に基づくスイッチング信号Dを第2のスイッチング素子のゲートに出力する。
【0046】
すなわち、発振制御手段35−1は、出力電流値〔E1〕と、第2のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御するスイッチング信号Dのスイッチング周波数指令設定器58によるスイッチング周波数から演算される元のパルス巾〔H〕と、アーク放電の検出基準とするアーク基準値〔G〕と、前記スイッチング信号Dの再起動時における初期パルス巾〔P〕とに基づいて、スイッチング信号DをDC−AC変換器30に出力し、スイッチング信号Dによって、第1の高周波の交流電力を制御する。言い換えると、発振制御手段35−1は、アーク放電によるアーク信号の検出に基づいて、所定時間だけ負荷24への電力供給を遮断した後、一定時間後に、電力供給が復帰するように、前記スイッチング信号Dのパルス巾が初期パルス巾〔P〕から設定パルス巾〔HA〕に漸増するように電力制御する。
【0047】
次に、本発明に係る交流電源装置における他の発振制御手段35−2について説明する。図5は、本発明に係る交流電源装置における他の発振制御手段を示す制御ブロック図である。図5は、図3と同一の機能を示すものについて、同一の符号を付して表す。他の発振制御手段35−2は、図5に示すように、発振制御手段35−1にパルストランス67を追加したものである。すなわち、発振制御手段35−2は、発振制御手段35−1の電流―電圧変換器44と差動増幅器45との間にパルストランス67を配置する。
【0048】
次に、本発明に係る交流電源装置における他の電力制御手段34−2について説明する。図6は、本発明に係る交流電源装置における他の電力制御手段を示す制御ブロック図である。図6は、図2と同一の機能を示すものについて、同一の符号を付して表す。他の電力制御手段34−2は、図6に示すように、電力制御手段34−1に揺動電力制御手段68、加減算器73および電力指令演算器74を追加したものである。
【0049】
揺動電力制御手段68は、揺動レベル設定器69、加算器70、揺動値/揺動周波数設定器71および揺動波形選択器72を備える。揺動レベル設定器69は、後述する揺動電力の指令の直流レベルを設定する設定器である。揺動値/揺動周波数設定器71は、基本電力指令値〔F〕に付加して揺動する電力(以下、揺動電力という)の基本波形を揺動波形(以下、基本揺動波形という)として、揺動値とする基本揺動波形の揺動振幅Zと、揺動周波数の逆数である揺動周期Yとを設定する設定器である。揺動波形選択器72は、揺動振幅Zと揺動周期Yとを入力し、負荷24の電力容量および/またはアーク放電の発生状態等によって、揺動振幅Zおよび揺動周期Yによる揺動電力の波形形状として、正弦波、矩形波または三角波のうちのいずれかの波形を選択する選択器である。
【0050】
加算器70は、揺動電力の直流レベルと揺動振幅Z、揺動周期Yおよび基本揺動波形の具体的形状からなるパルス特性値とを入力し、これらの直流レベルとパルス特性値とを含むパルス特性情報を加減算器73に出力する。加減算器73は、基本電力指令値設定器36による基本電力指令値〔F〕とパルス特性情報とを入力し、基本電力指令値〔F〕とパルス特性情報とを加算または減算し、合成した電力指令値を電力指令演算器74に出力する。電力指令演算器74は、前記電力指令値を入力し、電力指令値に基づいて、新たな電力指令値を減算器38に出力する。その他の構成については、図2に示した電力制御手段34−1の場合の基本電力指令値〔F〕の代わりに、新たな電力指令値を置換したものと同一であるため、説明を省略する。
【0051】
〔アークの抑制方法〕
次に、本発明に係る交流電源装置におけるアーク抑制方法について説明する。交流電源装置23におけるアーク抑制方法は、先ず、商用の交流電源を、第1の直流電力に変換するAC−DC整流工程と、第1の直流電力を、内在する第1のスイッチング素子のゲートをオン/オフ動作させて、負荷24に応じて定められる第2の直流電力に変換するDC―DC変換工程と、第1のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御するゲート制御信号を出力して、第2の直流電力を制御する電力制御工程と、第2の直流電力を入力し、第2のスイッチング素子のゲートをオン/オフ動作させて、第1の高周波の交流電力に変換するDC−AC変換工程と、アーク放電によるアーク信号の検出に基づいて、電力供給を遮断する遮断信号Lを出力し、所定時間だけ負荷24への電力供給を遮断した後、リセット信号Mを出力し、リセット信号Mが出力してから一定時間後に、電力供給が元の状態に復帰するように、第2のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御するスイッチング信号のパルス巾を初期パルス巾〔P〕から設定パルス巾〔HA〕に漸増させて、電力制御する発振制御工程とを備える。
【0052】
さらに、電力制御工程が、第2の直流電力の目標値とする基本電力指令値Fを設定する基本電力指令値設定工程と、前記帰還電力値を演算する帰還電力値演算工程と、基本電力指令値Fから帰還電力値を減算して、演算の結果により、得られる電力偏差値を演算する電力偏差値演算工程と、前記電力偏差値に基づいて第1のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御するゲート制御信号Aを出力して、第2の直流電力を制御する工程とを備える。
【0053】
また、発振制御工程が、高周波トランス31を介して、第1の高周波の交流電力を電気的絶縁させた第2の高周波の交流電力から得られる出力電流値〔E1〕を検出する出力電流値検出工程と、前記出力電流値〔E1〕を電圧値に変換する電流―電圧変換工程と、前記電圧値を入力し、前記電圧値とする両入力端子間電圧を増幅し、得られる出力電圧値〔E2〕を出力する差動増幅工程と、前記出力電圧値〔E2〕の絶対値を演算し、演算の結果により、得られる絶対値を出力する絶対値演算工程と、前記絶対値とアーク放電の検出基準とするアーク基準値〔G〕との大小を比較する比較工程と、前記絶対値がアーク基準値〔G〕に等しいか、または大きいとき、アーク信号を出力するアーク信号出力工程と、前記アーク信号を入力し、アーク信号を保持し、アーク信号に基づいて遮断信号Lを出力するラッチ/遮断信号保持発生工程と、遮断信号Lを入力して、遮断信Lにより第2のスイッチング素子のゲートをオフ状態になってから、所定時間が経過した後、保持されたアーク信号を解除し、かつリセット信号Mを出力する再起動信号演算出力工程と、リセット信号Mを入力し、レート時間〔J〕と、パルス巾減衰比率〔K〕とから演算される所定パルス巾〔n〕を出力するレート演算工程と、所定パルス巾〔N〕と、最小パルス巾〔I〕とを入力し、所定パルス巾〔N〕と最小パルス巾〔I〕との大小を比較し、パルス巾が大きい方を初期パルス巾〔P〕として選択する初期パルス巾選択工程と、第2のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御するスイッチング信号Dのスイッチング周波数指令値と、デッドバンド期間DTとに基づく設定パルス巾〔HA〕と、初期パルス巾〔P〕とに基づいて、スイッチング信号Dのパルス巾を演算し、リセット信号Mによって再起動するスイッチング信号Dを出力するパルス巾可変演算/GATE制御工程とを備える。
【0054】
さらに、前記再起動時のスイッチング信号は、P側およびN側からなるスイッチング信号Dにおいて、アークを検出するP側またはN側と反対側のN側またはP側のいずれかのスイッチングが開始する。
【0055】
さらに、基本電力指令値〔F〕に電力波形が揺動的に変化する揺動電力を付加して、得られる新たな電力指令値と、帰還直流電流値〔C〕と、帰還直流電圧値〔B〕とを入力し、新たな電力指令値から、前記帰還直流電流値〔C〕と帰還直流電圧値〔B〕とを乗算し、得られる帰還電力値を減算し、演算の結果により、得られる電力偏差値に基づいて第1のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御するゲート制御信号Aを出力して、第2の直流電力を制御する。
【0056】
図7は、本発明に係る交流電源装置におけるアークの検出に基づくアーク抑制方法の処理手順を示すフローチャート図である。発振制御工程が、図7に示すように、高周波トランス31を介して、第1の高周波の交流電力を電気的絶縁させて、第2の高周波の交流電力から得られる出力電流値〔E1〕を検出する出力電流値検出工程(S−1)と、出力電流値〔E1〕から電圧値に変換する電流―電圧変換工程と、前記電圧値を入力し、前記電圧値とする両入力端子間電圧を差動増幅し、増幅電圧である出力電圧値〔E2〕を出力する差動増幅工程と、出力電圧値〔E2〕の絶対値を演算し、演算の結果により、得られる絶対値を出力する絶対値演算工程(S−2)と、絶対値とアーク放電の検出基準とするアーク基準値〔G〕との大小を比較する比較工程(S−3)と、絶対値がアーク基準値〔G〕に等しいときまたは大きいとき、アーク信号を出力するアーク信号出力工程(S−4)と、アーク信号を保持するアーク信号保持工程(S−5)と、アーク信号を入力し、アーク信号を保持(ラッチ)するとともに、遮断信号Lを出力するラッチ/遮断信号発生工程(S−5)と、遮断信号Lを入力して、所定時間が経過した後、リセット信号Mを出力する再起動信号演算出力工程(S−7)と、アーク信号でスイッチング信号Dの旧データをリセット(消去)するとともに、所定レート時間〔J〕とパルス巾減衰比率〔K〕とから演算される所定パルス巾〔N〕を初期パルス巾選択器57に出力し、同時にレート演算器55をリセットする工程(S−8)と、最小パルス巾〔I〕を設定し、最小パルス巾〔I〕を初期パルス巾選択器57に出力する工程(S−9)と、所定パルス巾〔N〕と、最小パルス巾〔I〕との大小を比較し(S−10)、パルス巾が大きい方を初期パルス巾〔P〕として選択する初期パルス巾選択工程(S−11AおよびS−11B)と、スイッチング信号Dのスイッチング周波数と、デッドバンド期間DTとを設定し、スイッチング周波数とデッドバンド期間DTとから演算される設定パルス巾〔HA〕をパルス巾可変演算器59に出力する工程(S−12)と、設定パルス巾〔HA〕、初期パルス巾〔P〕およびレート時間〔J〕に基づいて、スイッチング信号Dのパルス巾を演算するパルス巾可変演算工程(S−13)とを備える。これにより、交流電源装置23におけるアーク放電を抑制することができる。
【0057】
また、前記基本電力指令値〔F〕から、前記帰還直流電流値〔C〕と帰還直流電圧値〔B〕とを乗算して得られる帰還電力値を減算し、演算の結果により、得られる電力偏差値に基づいて第1のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御するためのゲート制御信号Aを出力し、第2の直流電力を制御する工程を備える。
【0058】
さらに、前記基本電力指令値〔F〕に電力波形が遥動的に変化する遥動電力を付加した新たな電力指令値から、前記帰還直流電流値〔C〕と帰還直流電圧値〔B〕とを乗算して得られる帰還電力値を減算し、演算の結果により、得られる電力偏差値に基づいて第1のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御するゲート制御信号Aを出力し、第2の直流電力を制御する工程を備える。これにより、交流電源装置23におけるアーク放電をさらに抑制できる。
【0059】
〔動作〕
次に、本発明に係る交流電源装置23の動作について説明する。
先ず、交流電源装置23の全体的な動作について説明する。商用交流電源22をAC−DC整流器25に入力すると、AC−DC整流器25によって、交流電力から直流電力に整流し、第1の直流電力を出力する。第1の直流電力をDC−DC変換器27に入力すると、DC−DC変換器27に内在する第1のスイッチング素子のゲートを電力制御手段34によるゲート制御信号Aによってオン/オフ制御して、DC−DC変換器27の出力電圧を一定に制御しかつ、出力電力を制御して、第2の直流電力を出力する。
【0060】
第2の直流電力をDC−AC変換器30に入力すると、DC−AC変換器30に内在する第2のスイッチング素子のゲートを発振制御手段35によるスイッチング信号Dによって、高速でスイッチングし、高周波交流電力とする第1の高周波の交流電力に逆変換する。第1の高周波の交流電力を高周波トランス31に入力すると、商用交流電源22と電気的に絶縁した第2の高周波の交流電力を負荷24に供給する。
【0061】
次に、電力制御手段34−1の動作について説明する。電力制御手段34−1は、図1および図2に示すように、帰還直流電圧値〔B〕と第1の電流検出器29による帰還直流電流値〔C〕とを入力し、基本電力指令値設定器36による基本電力指令値〔F〕とにより、第1のスイッチング素子を動作させるためのゲート制御信号AをDC−DC変換器27に出力する。ここで、基本電力指令値〔F〕は、負荷24の装置の大きさ、生産効率等のパラメータにより定める。
【0062】
帰還直流電圧値〔B〕と第1の電流検出器29による帰還直流電流値〔C〕とが帰還電力演算器37に入力すると、帰還直流電圧値〔B〕と帰還直流電流値〔C〕とを乗算し、得られる帰還電力値を減算器38に出力する。帰還電力値と基本電力指令値〔F〕とが減算器38に入力すると、基本電力指令値〔F〕から帰還電力値を減算し、演算の結果により、得られる電力偏差値をPID制御器39に出力する。
【0063】
電力偏差値がPID制御器39に入力すると、PID制御器39によって、電力偏差値に比例動作させるとともに、前記電力偏差値の積分に比例して入力値を変化させる積分動作、および前記電力偏差値の微分に比例して入力値を変化させる微分動作を組み合わせた制御を行って、操作量をGATE制御器40に出力する。この場合、PID動作の代わりにPI動作のみの制御を行うようにしてもよい。GATE制御器40によって、PID制御器39による操作量に基づいて、ゲート制御信号Aを第1のスイッチング素子のゲートに出力する。すなわち、電力偏差値が増加すれば、ゲート制御信号Aのオン動作時間が長くなるように制御し、電力偏差値が減少すれば、ゲート制御信号Aのオン動作時間が短くなるように制御する。これにより、電力制御手段34−1は、入力する直流電力を一定の直流電力に制御することができる。
【0064】
次に、発振制御手段35−1の動作について説明する。図8は、本発明に係る交流電源装置におけるアーク信号、遮断信号L、リセット信号Mおよびスイッチング信号Dと経過時間との関係を示す図である。図8(A)は、アーク信号と経過時間との関係を示す図であり、横軸は、経過時間t、縦軸は、アーク信号をそれぞれ示す。点Qは、アーク信号が発生する時点を示す。図8(B)は、遮断信号Lおよびリセット信号Mと経過時間との関係を示す図であり、横軸は、経過時間t、縦軸は、遮断信号およびリセット信号をそれぞれ示す。時間t1は、例えば、数マイクロ秒から1ミリ秒で遮断信号Lが出力してからリセット信号Mが出力するまでの所定時間を示す。点Rは、遮断信号Lが出力する時点、点Sは、リセット信号Mが出力する時点をそれぞれ示す。
【0065】
図8(C)は、スイッチング信号DのうちP側(スイッチQ1、Q4)の電圧波形と経過時間との関係を示す図であり、横軸は、経過時間t、縦軸は、オン/オフ信号をそれぞれ示す。時間t3は、P側の電源遮断時間を示す。点Tは、遮断信号Lが発生する時刻にスイッチング信号Dがオフ状態となる時点を示す。点Uは、点Sの時点からN側のスイッチング信号Dがオン状態になった直後、P側がオン状態となる点を示す。点Vは、P側のスイッチング信号Dがオン状態になった後、一定時間〔J〕が経過した後、設定パルス巾〔HA〕に復帰する点を示す。図8(D)は、スイッチング信号DのうちN側(スイッチQ2、Q3)の電圧波形と経過時間との関係を示す図であり、横軸は、経過時間t、縦軸は、スイッチング信号とするオン/オフ信号をそれぞれ示す。DTは、P側と同様に、N側にも設ける。時間t2は、N側の電源遮断時間を示す。点Wは、リセット信号Mが出力して、N側のスイッチング信号Dがオン状態となる点を示す。点Xは、スイッチング信号Dがオン状態になってから、一定時間〔J〕例えば、1ミリ秒が経過した後、設定パルス巾〔HA〕に復帰する点を示す。
【0066】
第2の電流検出器32による出力電流値〔E1〕がアーク検出手段(A)41−1に入力すると、アーク検出手段41−1の電流−電圧変換器44によって、電圧値を差動増幅器45に出力する。前記電圧値を差動増幅器45に入力すると、差動増幅器45によって、電圧値が増幅された出力電圧値〔E2〕を絶対値変換器46に出力する。これにより、配線経路のグランドに対し高圧側の電圧に電気的ノイズが重畳するときに、コモンモードノイズを軽減することができる。
【0067】
出力電圧値〔E2〕が絶対値変換器46に入力すると、出力電圧値〔E2〕の絶対値を比較器48に出力する。絶対値とアーク基準値設定器47によるアーク基準値〔G〕とが比較器48に入力すると、絶対値とアーク基準値〔G〕との大小を比較し、演算の結果により、得られる絶対値がアーク基準値〔G〕に等しいときまたはより大きいとき、アーク信号をラッチおよび遮断信号発生器49に出力する。すなわち、成膜中にアーク信号が発生すると、アーク信号は、例えば、図8(A)に示すように、点Qにおいて、HIGH信号からLOW信号となる。
【0068】
アーク信号がラッチおよび遮断信号発生器49に入力すると、ラッチおよび遮断信号発生器49によって、ラッチされた遮断信号Lを再起動信号演算出力器50および初期パルス巾演算手段42に出力する。この場合、遮断信号Lは、図8(B)に示すように、点Rにおいて出力する。すなわち、ラッチおよび遮断信号発生器49による信号処理時間の遅延によって、アーク信号が出力する点Qから僅かな時間だけ遅れた点Rにおいて、負荷24への通電状態HIGHから遮断状態LOWに変化するように、遮断信号Lを出力する。遮断信号Lを出力すると、図8(C)に示すように、スイッチング信号Dのうち、例えば、最初、P側のスイッチング信号Dがオフ状態となる。
【0069】
遮断信号Lが再起動信号演算出力器50に入力すると、再起動信号演算出力器50に内蔵するタイマが作動し、所定時間t1だけ経過した後、タイマがオフとなって、リセット信号Mをラッチおよび遮断信号発生器49に出力する。すなわち、遮断信号Lは、リセット信号Mにより、図8(B)に示すように、点Sにおいて、LOWからHIGHに変化し出力する。リセット信号Mが出力すると、図8(D)に示すように、スイッチング信号Dのうち、N側であって、リセット信号Mに直近のパルス信号(点W)から立ち上がるように設定する。その結果として、負荷24への電力が、遮断信号Lによって、P側およびN側のスイッチング信号Dによる時間t2、t3の間、それぞれ停止する。
【0070】
以上の説明では、遮断信号Lが、P側のスイッチング信号Dがオン状態で出力するときに、リセット信号Mによってスタートするスイッチング信号Dは、先ず、N側であり、続いてP側となるように設定するが、逆に、遮断信号Lが出力するとき、N側のスイッチング信号Dがオン状態である場合、リセット信号Mによってスタートするスイッチング信号Dは、先ず、P側であり、続いてN側となるように設定する。すなわち、リセット信号Mによって、再起動するP側およびN側からなるスイッチング信号Dは、アークを検出する前記P側またはN側と反対側の前記N側またはP側のいずれかのスイッチングが開始する。この場合、アークが検出された際の極性と同じP側またはN側にてスイッチングが開始すると、高周波トランス31において、磁気飽和が起きて抵抗値が小さくなる。この結果、電流が増大し、アークが発生する可能性がある。つまり、反対側の極性のP側またはN側にてスイッチングを開始させることにより、高周波トランス31の磁気飽和を防止することができ、結果として、アークの発生を抑制することができる。また、プラズマに起因して、アークを増長させないようにすることもできる。すなわち、高周波トランス31は、DC−AC変換器30により出力される第1の高周波交流電力を第2の高周波交流電力に変換する際に、飽和することなく、発振制御手段35により出力されるスイッチング信号に応じた第2の高周波交流電力を負荷24へ供給することができる。
【0071】
遮断信号Lが初期パルス巾演算手段42に入力すると、遮断信号Lが初期パルス巾演算手段42にあるアーク遮断指令器52に入力して、アーク遮断信号をレート指令書込み器53に出力する。アーク遮断信号がレート指令書込み器53に入力すると、パルス巾減衰比率設定器51によるパルス巾減衰比率〔K〕をレート指令書込み器53に書き込む。パルス巾減衰比率〔K〕は、成膜中にアーク放電が発生したとき、アーク放電を抑制するように、再起動時のスイッチング信号Dのパルス巾を随時可変できるようにするための情報である。アーク信号でスイッチング信号Dの旧データをリセット(消去)するとともに、レート時間設定器54によるレート時間〔J〕と、レート指令書込み器53によるパルス巾減衰比率〔K〕とから所定パルス巾〔N〕を初期パルス巾選択器57に出力し、同時にリセット信号Mによって初期パルス巾演算手段42のレート演算器55をリセットする。
【0072】
最小パルス巾設定器56による最小パルス巾〔I〕と所定パルス巾〔N〕が初期パルス巾選択器57に入力すると、最小パルス巾〔I〕と所定パルス巾〔N〕との大小を比較し、演算の結果により、得られる初期パルス巾〔P〕としてパルス巾の大きい方を選択し、初期パルス巾〔P〕をパルス巾可変演算/GATE制御手段43に出力する。初期パルス巾〔P〕と、スイッチング周波数指令設定器58によるスイッチング周波数指令値とデッドバンド設定器59によるデッドバンド期間DTとから演算される設定パルス巾〔HA〕とが、パルス巾可変演算/GATE制御手段43のパルス巾可変演算器61に入力すると、図8に示すように、パルス巾可変演算器61によって、スイッチング信号Dが、レート時間〔J〕内に再起動時の初期パルス巾〔P〕から設定パルス巾〔HA〕に漸増して変化するように演算されて、パルス巾列をGATE制御器62に出力する。パルス巾列がGATE制御器62に入力すると、パルス巾列に基づいて、第2のスイッチング素子を制御するスイッチング信号Dをドライブ回路(図示せず)を介して、DC−AC変換器30に出力する。
【0073】
次に、電力制御手段34−2の動作について説明する。電力制御手段34−2は、電力指令値を設定する機能について電力制御手段34−1と異なる。電力制御手段34−2は、揺動値/揺動周波数設定器71によって、基本電力指令値〔F〕に付加する基本揺動波形の揺動振幅Zと、揺動周波数の逆数である揺動周期Yとを設定する。次に、揺動波形選択器72によって、負荷24の電力容量および/またはアーク放電の発生状態等によって、揺動振幅Zと、揺動周期Yと、かつ基本揺動波形の形状が正弦波、矩形波または三角波のうちのいずれかの波形とを選択する。遥動レベル設定器による直流の遥動レベルと、揺動振幅Z、揺動周期Yおよび基本揺動波形の具体的形状からなるパルス特性値とを加算したパルス特性情報を出力し、基本電力指令値設定器36による基本電力指令値〔F〕とパルス特性情報とを合成し、得られる電力指令値を新たな電力指令値として減算器38に出力する。電力制御手段34−2は、電力制御手段34−1における基本電力指令値設定器36による基本電力指令値〔F〕の代わりに、新たな電力指令値に置き換えたものであるので、以下の電力制御については説明を省略する。
【0074】
次に、他の発振制御手段35−2の動作について説明する。パルストランス67の2次側67sは、パルストランス67の2次側巻線であり、1次側巻線67pに対し、巻線比が例えば1:1とする。これにより、パルストランス67を有する交流電源装置23は、パルストランス67を有しない交流電源装置に比べて、アーク信号を検出するための信号の入出力の絶縁性を高めることができる。さらに、フォトカプラを採用する絶縁方式に比べて、前記信号の伝達遅れを低減することができる。
【0075】
以上により、アーク放電が発生すると、遮断信号Lにより電力の供給を遮断し、所定時間t1が経過した後、リセット信号Mを出力する。リセット信号Mが出力して、一定時間が経った後、負荷24に供給する高周波の交流電力を制御するスイッチング信号Dのパルス巾を初期パルス巾〔P〕から設定パルス巾〔HA〕に漸増して電力制御する。スイッチング信号Dは、零のパルス巾から開始するのではなく初期パルス巾〔P〕から開始するので、アーク放電を検出してから復帰するまでの時間を短縮することができる。これにより、アーク放電から復帰するまでのエネルギーを抑制することができる。また、リセット信号Mによって再起動するP側およびN側からなるスイッチング信号Dは、アークを検出する前記P側またはN側と反対側の前記N側またはP側のいずれかのスイッチングが開始するようにした。これにより、高周波トランス31の磁気飽和を防止することができる。つまり、高周波トランス31において、抵抗が小さくなるのを防ぐことができるから、電流が増大することはない。したがって、アーク放電の発生を抑制することができる。
【0076】
また、パルストランス65を電流―電圧変換器44と差動増幅器45との間に配することによって、パルストランス67を有しない交流電源装置に比べて、アーク信号を検出するための信号の入出力の絶縁性を高めることができる。さらに、フォトカプラを採用する絶縁方式に比べて、アーク信号を検出するための信号の伝達遅れを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係る交流電源装置を成膜用基板製造装置に適用した場合の制御ブロック図である。
【図2】本発明に係る交流電源装置における電力制御手段を示す制御ブロック図である。
【図3】本発明に係る交流電源装置における発振制御手段を示す制御ブロック図である。
【図4】本発明に係る交流電源装置における発振制御手段の一部分の回路例を示す図である。
【図5】本発明に係る交流電源装置における他の発振制御手段を示す制御ブロック図である。
【図6】本発明に係る交流電源装置における他の電力制御手段を示す制御ブロック図である。
【図7】本発明に係る交流電源装置におけるアークの検出に基づくアーク抑制方法の処理手順を示すフローチャート図である。
【図8】本発明に係る交流電源装置におけるアーク信号、遮断信号、リセット信号およびスイッチング信号と経過時間との関係を示す図である。
【図9】従来技術における装置構成を示す図である。
【図10】従来技術における装置のアーク放電が発生した前後の装置各部の信号波形を示す図である。
【符号の説明】
【0078】
1 直流制御部
2 平滑回路
3 インバータスイッチング部
4 昇圧トランス
5 整流部
6 処理装置本体
7 サイリスタ制御部
8 インバータ制御部
9 カレントトランス
10 電流検出回路
21 成膜用基板製造装置
22 商用交流電源
23 交流電源装置
24 負荷
25 AC−DC整流器
26 第1の直流フィルタ
27 DC−DC変換器
28 第2の直流フィルタ
29 第1の電流検出器
30 DC−AC変換器
31 高周波トランス
32 第2の電流検出器
33 直流制御用電源
34−1,34−2 電力制御手段
35−1,35−2 発振制御手段
36 基本電力指令値設定器
37 帰還電力演算器
38 減算器
39 PID制御器
40 GATE制御器
41−1,41−2 アーク検出手段
42 初期パルス巾指令演算手段
43 パルス巾可変演算/GATE制御手段
44 電流―電圧変換器
45 差動増幅器
46 絶対値変換器
47 アーク基準値設定器
48 比較器
49 ラッチ/遮断信号発生器
50 再起動信号演算出力器
51 パルス巾減衰比率設定器
52 アーク遮断指令器
53 レート指令書込器
54 レート時間設定器
55 レート演算器
56 最小パルス巾設定器
57 初期パルス巾選択器
58 スイッチング周波数指令設定器
59 デッドバンド設定器
60 スイッチングパルス巾生成器
61 パルス巾可変演算器
62 GATE制御器
63 抵抗体
64 平滑用コンデンサ
65 抵抗体
66 オペアンプ
67 パルストランス
68 揺動電力制御手段
69 揺動レベル設定器
70 加算器
71 揺動値/揺動周波数設定器
72 揺動波形選択器
73 加減算器
74 電力指令演算器
A ゲート制御信号
B 帰還直流電流信号
C 帰還直流電圧信号
D スイッチング信号
E1 出力電流信号
E2 出力電圧信号
F 基本電力指令信号
G アーク基準信号
H 元のパルス巾信号
HA 設定パルス巾信号
P 初期パルス巾信号
Y 遥動周期信号
Z 遥動振幅信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用交流電力から変換した高周波交流電力を負荷へ供給する電源であって、アーク放電を抑制する交流電源装置において、
スイッチング信号によりスイッチング素子のゲートを制御し、前記高周波交流電力を生成する電力変換器と、
前記負荷へ供給される高周波交流電力の電流値を検出する電流検出器と、
前記電流値に基づいてアーク放電を検出し、前記電力変換器に高周波交流電力の供給を遮断させ、遮断の後、予め設定された初期パルス巾から漸増するパルスを生成し、前記パルスを有するスイッチング信号を前記電力変換器に出力する発振制御手段と、
を備えることを特徴とする交流電源装置。
【請求項2】
商用交流電力から変換した高周波交流電力を負荷へ供給する電源であって、アーク放電を抑制する交流電源装置において、
前記商用交流電力を、第1の直流電力に変換するAC−DC整流器と、
前記第1の直流電力を、内在する第1のスイッチング素子のゲートをオン/オフ動作させて、前記負荷に応じて定められる第2の直流電力に変換するDC―DC変換器と、
前記DC―DC変換器の出力側の帰還直流電流値を検出する第1の電流検出器と、
前記第2の直流電力を入力し、内在する第2のスイッチング素子のゲートをオン/オフ動作させて、前記第2の直流電力を第1の高周波の交流電力に変換するDC−AC変換器と、
前記第1の高周波の交流電力を入力し、前記第1の高周波の交流電力を電気的絶縁させて第2の高周波の交流電力に変換する高周波トランスと、
前記高周波トランスの2次側の負荷へ入力される出力電流値を検出する第2の電流検出器と、
前記帰還直流電流値と前記DC−DC変換器の出力側の帰還直流電圧値とを乗算し、前記第2の直流電力の目標値とする基本電力指令値から、前記乗算結果の帰還電力値を減算し、減算結果の電力偏差値に基づいて、前記第1のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御するゲート制御信号を出力し、前記ゲート制御信号によって、前記第2の直流電力を制御する電力制御手段と、
前記出力電流値と、前記第2のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御するスイッチング信号のスイッチング周波数指令値と、前記アーク放電の検出基準であるアーク基準値と、前記スイッチング信号の再起動時における初期パルス巾とに基づいて、前記スイッチング信号を出力し、そのスイッチング信号によって、前記第1の高周波の交流電力を制御する発振制御手段と、
を備え、
前記発振制御手段は、前記出力電流値とアーク基準値とに基づいてアーク信号を出力し、前記アーク信号に基づいて、電力供給を遮断する遮断信号を出力し、所定時間だけ前記負荷への電力供給を遮断した後、リセット信号を出力し、前記リセット信号が出力してから一定時間後に、電力供給が元の状態に復帰するように、前記第2のスイッチング素子のスイッチング信号のパルス巾が前記初期パルス巾から設定パルス巾に漸増して電力制御することを特徴とする交流電源装置。
【請求項3】
前記発振制御手段は、
前記第2の電流検出器による出力電流値から変換される電圧値の絶対値と、前記アーク基準値とを入力し、前記絶対値と前記アーク基準値との大小を比較し、絶対値がアーク基準値に等しいときまたはより大きいときに前記アーク信号を出力し、前記負荷への電力供給を遮断する遮断信号を出力し、所定時間だけ前記負荷への電力供給を遮断した後、前記リセット信号を出力するアーク検出手段と、
前記遮断信号およびリセット信号に基づいて、初期パルス巾を演算する初期パルス巾指令演算手段と、
前記初期パルス巾と、前記スイッチング周波数指令値と、デッドバンド期間とを入力し、前記リセット信号によって、所定時間内に、パルス巾が初期パルス巾から設定パルス巾に漸増するスイッチング信号を出力するパルス巾可変演算/GATE制御手段と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の交流電源装置。
【請求項4】
前記アーク検出手段は、
前記第2の電流検出器による出力電流値を入力し、出力電流値を電圧値に変換する電流−電圧変換器と、
前記電圧値を入力し、入力端子間電圧を増幅した出力電圧値を出力する差動増幅器と、
前記出力電圧値を入力し、出力電圧値の絶対値を演算し、絶対値を出力する絶対値変換器と、
前記アーク基準値を設定するアーク基準設定器と、
前記絶対値とアーク基準値とを入力し、絶対値とアーク基準値との大小を比較し、絶対値がアーク基準値に等しいときまたはより大きいときに、前記アーク信号を出力する比較器と、
前記アーク信号を入力し、アーク信号を保持し、遮断信号を出力するラッチ/遮断信号発生器と、
前記遮断信号を入力し、遮断信号により前記第2のスイッチング素子のゲートがオフ状態に変わってから所定時間が経過した後、リセット信号を出力し、前記ラッチ/遮断信号発生器による保持した前記アーク信号を解除する再起動信号演算出力器と、
を備えることを特徴とする請求項3に記載の交流電源装置。
【請求項5】
前記リセット信号によって再起動するP側およびN側からなるスイッチング信号は、アークを検出する前記P側またはN側と反対側の前記N側またはP側のいずれかのスイッチングが開始することを特徴とする請求項2から請求項4までの何れかの請求項に記載の交流電源装置。
【請求項6】
前記初期パルス巾指令演算手段は、
設定パルス巾に対する所定パルス巾の比率とするパルス巾減衰比率指令値を設定するパルス巾減衰比率設定器と、
前記遮断信号を入力し、遮断信号に基づいてアーク遮断信号を出力するアーク遮断指令器と、
前記アーク遮断信号を入力し、アーク遮断信号に基づいて前記パルス巾減衰比率指令値を書き込むレート指令書込み器と、
スイッチング信号のパルス巾が、前記所定パルス巾から設定パルス巾まで変化するのに要するレート時間を設定するレート時間設定器と、
前記再起動信号演算出力器によるリセット信号が入力すると、前記レート時間とパルス巾減衰比率指令値とを入力し、レート時間とパルス巾減衰比率指令値とから演算される前記所定パルス巾を出力するレート演算器と、
前記スイッチング信号の最小パルス巾を設定する最小パルス巾設定器と、
前記所定パルス巾と最小パルス巾とを入力し、所定パルス巾と最小パルス巾との大小を比較し、パルス巾が大きい方を初期パルス巾として選択するパルス巾選択器と、
を備えることを特徴とする請求項3から請求項5までの何れかの請求項に記載の交流電源装置。
【請求項7】
前記アーク検出手段は、
さらに、前記電流−電圧変換器と差動増幅器との間にパルストランス
を備えることを特徴とする請求項3から請求項6までの何れかの請求項に記載の交流電源装置。
【請求項8】
前記電力制御手段は、
前記基本電力指令値に電力波形が揺動的に変化する揺動電力を付加し、これにより得られる新たな電力指令値と、帰還直流電流値と、帰還直流電圧値とを入力し、帰還直流電流値と帰還直流電圧値とを乗算し、新たな電力指令値から前記乗算結果である帰還直流電力を減算し、減算結果である電力偏差値に基づいて前記第1のスイッチング素子のゲート制御信号を出力して、前記第2の直流電力を制御することを特徴とする請求項2から請求項7までの何れかの請求項に記載の交流電源装置。
【請求項9】
前記揺動電力が、正弦波形、方形波または三角波からなる電力波形、揺動振動数および揺動振幅から設定されることを特徴とする請求項8に記載の交流電源装置。
【請求項10】
前記負荷が、スパッタ装置であることを特徴とする請求項2から請求項9までの何れかの請求項に記載の交流電源装置。
【請求項11】
前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子は、IGBTであることを特徴とする請求項2から請求項10までの何れかの請求項に記載の交流電源装置。
【請求項12】
商用交流電力から変換した高周波交流電力を負荷へ供給する電源であって、アーク放電を抑制する交流電源装置におけるアーク抑制方法において、
前記商用交流電力を、第1の直流電力に変換するAC−DC整流工程と、
前記第1の直流電力を、内在する第1のスイッチング素子のゲートをオン/オフ動作させて、前記負荷に応じて定められる第2の直流電力に変換するDC−DC変換工程と、
前記第1のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御するゲート制御信号を出力して、前記第2の直流電力を制御する電力制御工程と、
前記第2の直流電力を入力し、第2のスイッチング素子のゲートをオン/オフ動作させて、第1の高周波の交流電力に変換するDC−AC変換工程と、
前記アーク放電を検出してアーク信号を出力し、アーク信号に基づいて電力供給を遮断する遮断信号を出力し、所定時間だけ前記負荷への電力供給を遮断した後、リセット信号を出力し、リセット信号が出力してから一定時間後に、電力供給が元の状態に復帰するように、前記第2のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御するスイッチング信号のパルス巾が初期パルス巾から設定パルス巾に漸増して、電力制御する発振制御工程と、
を備えることを特徴とする交流電源装置におけるアーク抑制方法。
【請求項13】
前記電力制御工程が、
前記第2の直流電力の目標値とする基本電力指令値を設定する基本電力指令値設定工程と、前記帰還電力値を演算する帰還電力値演算工程と、前記基本電力指令値から帰還電力値を減算し、電力偏差値を演算する電力偏差値演算工程と、前記電力偏差値に基づいて第1のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御するゲート制御信号を出力して、前記第2の直流電力を制御する工程とを備え、
前記発振制御工程が、
前記高周波トランスを介して第1の高周波の交流電力を電気的絶縁させた第2の高周波の交流電力につき、その第2の高周波の交流電力から得られる出力電流値を検出する出力電流値検出工程と、前記出力電流値を電圧値に変換する電流―電圧変換工程と、前記電圧値を入力し、両入力端子間電圧を増幅し、出力電圧値を出力する差動増幅工程と、前記出力電圧値の絶対値を演算し、絶対値を出力する絶対値演算工程と、前記絶対値とアーク放電の検出基準とするアーク基準値との大小を比較する比較工程と、前記絶対値がアーク基準値に等しいときまたはより大きいとき、アーク信号を出力するアーク信号出力工程と、前記アーク信号を入力し、アーク信号を保持し、アーク信号に基づいて遮断信号を出力するラッチ/遮断信号保持発生工程と、前記遮断信号を入力し、遮断信号により前記第2のスイッチング素子のゲートをオフ状態になってから所定時間が経過した後、リセット信号を出力し、保持されたアーク信号を解除する再起動信号演算出力工程と、前記リセット信号を入力し、レート時間とパルス巾減衰比率とから演算される所定パルス巾を出力するレート演算工程と、前記所定パルス巾と最小パルス巾とを入力し、所定パルス巾と最小パルス巾の大小とを比較し、パルス巾が大きい方を初期パルス巾として選択する初期パルス巾選択工程と、
前記第2のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御するスイッチング信号のスイッチング周波数指令値とデッドバンド期間とから設定パルス巾を生成し、設定パルス巾と前記初期パルス巾とに基づいて、前記スイッチング信号のパルス巾を演算し、リセット信号によって再起動するスイッチング信号を出力するパルス巾可変演算/GATE制御工程と、
を備えることを特徴とする請求項12に記載の交流電源装置におけるアーク抑制方法。
【請求項14】
前記リセット信号によって再起動するP側およびN側からなるスイッチング信号は、アークを検出する前記P側またはN側と反対側の前記N側またはP側のいずれかのスイッチングが開始することを特徴とする請求項12または請求項13に記載の交流電源装置におけるアーク抑制方法。
【請求項15】
前記基本電力指令値に電力波形が揺動的に変化する揺動電力を付加し、これにより得られる新たな電力指令値と、帰還直流電流値と、帰還直流電圧値とを入力し、帰還直流電流値と帰還直流電圧値とを乗算し、新たな電力指令値から前記乗算結果である帰還直流電力を減算し、減算結果である電力偏差値に基づいて第1のスイッチング素子のゲート制御信号を出力して、第2の直流電力を制御することを特徴とする請求項13または請求項14に記載の交流電源装置におけるアーク抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−143338(P2007−143338A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−335814(P2005−335814)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(390014384)日本リライアンス株式会社 (58)
【Fターム(参考)】