説明

交通信号制御装置及びコンピュータプログラム

【課題】 経路探索によって発生し得る将来の交通量を考慮して、ナビゲーションシステムの利用者に不利にならない交通信号制御を行う。
【解決手段】 本発明は、交通信号機1の信号灯色の切り替えタイミングを制御するための信号制御指令S1を生成する交通信号制御装置4に関する。この装置4は、経路探索の結果を有する車両5の経路を取得し、その経路に含まれる交差点Ciに流入する当該車両5についての時間帯ごとの部分交通量を算出する。また、この装置4は、その部分交通量を用いて、制御対象となる交差点Ciについての時間帯ごとの予測交通量を算出し、この予測交通量に基づいて信号制御指令S1を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交差点に流入する予測交通量に基づいて交通信号機の信号灯色の切り替えタイミングを制御する信号制御の改良に関する。
より詳しくは、車両感知器等の路側センサによる路側計測情報に加えて、経路探索の結果得られた経路から交差点での交通量の変動状況を動的に予測し、交通信号機の信号灯色を効率的に制御する交通信号制御装置と、この装置による交通信号制御を実現するためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の系統制御や広域制御による交通信号の信号制御方式を、信号制御パラメータ(スプリット、サイクル長及びオフセット等)の設定方式の視点で大別すると、時間帯に応じて信号制御パラメータを設定する定周期制御と、交通状況に応じて信号制御パラメータを設定する交通感応制御の2種類がある。
このうち、後者の交通感応制御は、端末の交通信号制御機ごとに行う端末感応制御と、路線系統制御或いは面制御される複数の交差点を対象に信号制御パラメータを変化させる中央感応制御に分類される。
【0003】
上記中央感応制御は、交通流の変動に対応した高度な系統制御や広域制御(面制御)を行えるため、交通量の時間変動が激しくかつ交通量が多く、高い交通処理効率が要求される道路に適用され、プログラム選択制御又はプログラム形成制御が採用される。
プログラム選択制御とは、予め設定された複数のプログラムの中から、車両感知器情報に基づいてそのときの交通状態に最適な一つのプログラムを選択する方式である。また、プログラム形成制御とは、予め有限個のパラメータ値を設定するのではなく、車両感知器情報に基づいてオンラインで信号制御パラメータや信号表示の切り替えタイミングを決定する方式である。
【0004】
交通管制センターが行う中央感応制御では、一般にプログラム選択制御が採用されているが、これには次のような短所がある。
(1)パラメータの設計に多大な労力を要する。
(2)交通状況の経年変化で状況が大きく変化した時の再設計が必要となる。
(3)評価指標(交通量と占有率の加重和)が経験的かつ曖昧である。
(4)余裕を持たせるためにサイクル長が長くなる傾向にあり、無駄な青時間が発生したり、歩行者待ち時間が大きくなったりし易い。
【0005】
そこで、上記短所を解決するために、交通管制センターの中央装置が交通状況に応じて信号制御パラメータを自動的に更新するプログラム形成制御が行われており、この制御方式はMODERATO(Management by Origin-DEstination Related Adaptation for Traffic Optimization)制御と呼ばれている(非特許文献1参照)。
【0006】
一方、上記MODERATO制御に加えて、一部の交差点に関して、信号制御に未来の予測情報を用いて青時間を最適化することにより、更にリアルタイム性を高めたUTMS(Universal Traffic Management Systems)という制御方式を採用する場合がある。このUTMS制御の特徴は次の通りである(非特許文献2参照)。
(1) 現在から1サイクル未来の交通需要の予測
(2) 車両の時間遅れの直接評価に基づいたリアルタイム制御の実現
(3) 分散型の制御意思決定:中央制御と連携するハイブリッド型または隣接交差点が強調して動作する自律型の制御モードが選択可能
【0007】
かかるUTMS制御では、車両が交差点の停止線に到着する予測交通量の時系列データである到着プロファイルを所定時間ごとに推定しており、この到着プロファイルと他の信号制御情報に基づいてシミュレーション演算を実行する。
上記シミュレーション演算は、具体的には、交差点全体の待ち行列台数の変動状況である遅れ時間(信号停止待ち時間)を算出し、この遅れ時間に基づく評価値が最も小さくなる青終了タイミングを探索し、最適な青終了タイミングを決定するものである(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「改訂 交通信号の手引き」 編集・発行 社団法人 交通工学研究会(16〜18頁、83〜87頁)
【非特許文献2】「次世代信号制御方式の開発と実証実験」 SEIテクニカルレビュー 2004年3月 第166号 51〜55頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記MODERATO制御やUTMS制御を行う場合に必要な交通指標である待ち行列台数は、通常、道路に設置した車両感知器等の路側センサによって検出された、制御対象の交差点への流入交通量に基づいて待ち行列長さを推定し、これを平均車頭距離で割ることによって算出される。
しかし、車両感知器等の路側センサで検出した流入交通量から求めた交通指標は、路側センサが設置されていない道路の交通状況を反映していないので、かかる交通指標を用いて上記各制御を行っても、必ずしも実態に即した交通信号制御にならない場合がある。
【0010】
例えば、制御エリア内の特定の道路区間が渋滞している時に上記UTMS制御を行うと、その渋滞を解消させるために、渋滞区間の進行方向の青時間が長くなり、その渋滞区間の交差区間の青時間が短くなるように信号制御される。
しかし、これと同時に、ナビゲーションシステムによる経路探索の結果、上記渋滞区間を避けるためにその交差区間の経路を案内された車両が多く発生した場合には、今度はその交差区間で新たな渋滞が生じる恐れがあり、UTMS制御の実行が交差区間の渋滞を却って助長させる場合がある。
【0011】
このように、路側計測情報に基づいて実行された交通信号制御が、経路探索の結果に従って走行する車両の動向と矛盾することがあり、この場合、ナビゲーションシステムの利用者にとっては当該交通信号制御が却って迷惑になってしまう。
本発明は、かかる実情に鑑み、経路探索によって発生し得る将来の交通量を考慮して、ナビゲーションシステムの利用者に不利にならない交通信号制御が可能な交通信号制御装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1) 本発明の交通信号制御装置は、交通信号機の信号灯色の切り替えタイミングを制御するための信号制御指令を生成する交通信号制御装置であって、経路探索の結果を有する車両の経路を取得する取得手段と、前記経路に含まれる交差点に流入する当該車両についての時間帯ごとの部分交通量を算出する第1の算出手段と、前記部分交通量を用いて、制御対象となる前記交差点についての時間帯ごとの予測交通量を算出する第2の算出手段と、前記予測交通量に基づいて前記信号制御指令を生成する生成手段と、を備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明の交通信号制御装置によれば、上記第1の算出手段が、経路探索の結果を有する車両の経路に含まれる交差点に流入する、当該車両についての時間帯ごとの部分交通量を算出し、上記第2の算出手段が、その部分交通量を用いて、制御対象となる交差点についての時間帯ごとの予測交通量を算出するので、当該予測交通量について、経路探索の結果に従って走行しようとする車両の交通量が加味される。なお、この場合の「経路」は、経路探索によって得られた経路のことを意味しており、従って車両は当該経路に沿って走行する可能性が高いと考えられる。
そして、上記生成手段が、経路探索によって発生し得る交通量を加味した予測交通量に基づいて信号制御指令を生成するので、ナビゲーションシステムの利用者に不利にならない交通信号制御を行うことができる。
【0014】
(2) 交差点に流入する道路には、車両の通過台数を検出可能な路側センサがない道路(以下、「センサなし道路」という場合がある。)と、その路側センサがある道路(以下、「センサあり道路」という場合がある。)があるが、これらの道路種別に対応して予測交通量を個別に算出することが好ましい。
その理由は、センサなし道路では、路側計測情報に基づく過去の交通量が不明であるから、この過去の交通量を予測交通量に反映させる必要がないが、センサあり道路では、その過去の交通量が判明しているので、当該過去の交通量を予測交通量に反映させるべきだからである。
【0015】
具体的には、前記第2の算出手段は、前記車両の通過台数を含む路側計測情報を検出する路側センサがない道路については、当該道路の前記部分交通量に所定比率を掛けた値に基づく全体交通量を、前記予測交通量として採用すればよい。
【0016】
(3) また、前記第2の算出手段は、前記車両の通過台数を検出可能な路側センサがある道路については、その路側計測情報に基づく過去の交通量と、当該道路の前記部分交通量に所定比率を掛けた値に基づく全体交通量とから求めた交通量を、前記予測交通量として採用すればよい。
【0017】
(4) 一方、部分交通量を全体交通量に換算する方法としては、例えば次の方法が考えられる。すなわち、自装置が管理する制御エリア内の前記道路に、前記車両が送信するアップリンクを受信し、その受信位置で前記車両の通過台数を検出可能な路側通信装置(例えば、光ビーコン)が設置されている場合には、前記第2の算出手段は、前記路側通信装置が検出したアップリンク数と前記通過台数との比率を前記部分交通量に適用して、前記全体交通量を算出することができる。
その理由は、上記アップリンク数と通過台数との比率は、部分交通量と全体交通量との比率と概ね一致するものと考えられるからである。
【0018】
(5) また、前記第2の算出手段において、前記経路又はこの探索に必要な入力情報を外部に送信可能な前記車両の台数と全車両の登録台数との比率を前記部分交通量に適用して、前記全体交通量を算出することにしてもよい。
その理由は、上記車両の台数と全車両の登録台数との比率も、部分交通量と全体交通量との比率と概ね一致すると考えられるからである。
【0019】
(6) 本発明のコンピュータプログラムは、本発明の交通信号制御装置による制御をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、本発明の交通信号制御装置と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0020】
以上の通り、本発明によれば、経路探索によって発生し得る交通量を加味した予測交通量に基づいて信号制御指令を生成するようにしたので、ナビゲーションシステムの利用者に不利にならない交通信号制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】交通信号制御システムの概要を示す全体構成図である。
【図2】交通信号機の構成を示すための道路平面図である。
【図3】中央装置の内部構成を示す機能ブロック図である。
【図4】交通信号制御機の内部構成を示す機能ブロック図である。
【図5】車載装置の内部構成を示す機能ブロック図である。
【図6】予測交通量の算出処理を含む交通信号制御のフローチャートである。
【図7】搭載率の算出方法の一例を示すための道路平面図である。
【図8】交通信号制御の効果を説明するための道路平面図である。
【図9】交通信号制御の効果を説明するための道路平面図である。
【図10】変形例を示すための道路交差点の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔システムの全体構成〕
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明を採用した交通信号制御システムの全体構成を示している。また、図2は、同システムの交通信号機1の構成を示すための道路平面図である。
図1及び図2に示すように、本実施形態の交通信号制御システムは、交通信号機1、車載装置2、車両感知器等よりなる路側センサ3、中央装置4、車載装置2を搭載した車両5、経路探索サーバー9、VICS(Vehicle Information and Communication System:「VICS」は登録商標)センター10、光ビーコン11などを含む。
【0023】
図1及び図2において、符号S1〜S5で示される各種の信号又は情報のうち、S1は中央装置4が生成する、交通信号機1の信号灯色の切り替えタイミングを制御するための信号制御指令である。
また、S2はVICSセンター10が生成するVICS情報である。このVICS情報S2には、渋滞情報、リンク旅行時間、事故・故障車・工事情報、速度規制・車線規制情報、駐車場の位置、駐車場・サービスエリア・パーキングエリアの満車・空車情報などが含まれている。
【0024】
更に、S3は、車載装置4を搭載した車両(プローブ車両)5が生成するプローブ情報であり、このプローブ情報S3は、走行中の車両5の所定時間又は距離ごとの位置、速度及び時刻等が含まれている。S4は路側センサ3が計測した路側計測情報(例えば、車両5の通過台数)である。
また、S5は経路探索サーバー9が生成する経路情報である。この経路情報S5には、サーバー9の利用者(プローブ車両5のドライバ等)からの探索要求を受けて、出発地点から目的地点までの経路コストが最小となるように演算された経路(最小コスト経路)が含まれている。
【0025】
図1に示す交通信号制御システムにおいて、各交通信号機1は、複数の交差点Ci(i=1〜12)のそれぞれに設置され、電話回線等の通信回線6を介してルータ7に接続されている。
このルータ7は交通管制センター内の中央装置4に接続され、中央装置4は自装置が管轄する制御エリアに含まれる、各交差点Ciの交通信号制御機1aとLAN(Local Area Network)を構成している。
【0026】
従って、中央装置4は各交通信号制御機1aと双方向通信が可能であり、各交通信号機1は他の交通信号機1とも双方向通信が可能である。なお、中央装置4は、交通管制センターではなく道路上に設置してもよい。
また、図1では、図示を簡略化するために、各交差点Ciに信号灯器1bが1つだけ描写されているが、実際の交差点Ciには、例えば図2に示すように、互いに交差する道路の上り下り用として4つの信号灯器1bが設置されている。
【0027】
路側センサ3は、例えば、直下を通行する車両5を超音波感知する車両感知器や、インダクタンス変化で車両5を感知するループコイル、或いは、カメラの画像を画像処理して交通量や車両速度を計測する画像感知器よりなり、交差点Ciに流入する車両台数や車両速度を計測する目的で、制御エリア内の一部の道路に設置されている。
この路側センサ3は、対応する交差点Ciの上流側に設置されており、通信回線を介して交通信号制御機1aと繋がっている。路側センサ3が検出した路側計測情報S4は、交通信号制御機1aで中継され、通信回線6を介して中央装置4に送信される。
【0028】
図2に示すように、光ビーコン11は、道路脇の支柱に取り付けられたビーコン制御機11aと、その支柱の上端部から道路側に延びる梁材に取り付けられた1つ又は複数のビーコンヘッド(投受光器:以下、単に「ヘッド」という。)11bとを備えている。
ビーコン制御機11aは、通信回線8を通じて交通信号制御機1aと双方向通信が可能である。ヘッド11bは道路の車線数だけ設けられ、その車線の直上に配置されている。また、各ヘッド11bは発光素子と受光素子を内部に有する。
【0029】
これらの素子が発光又は受光することで通信可能となる道路上の範囲(通信領域)は、ヘッド11bの直下よりもやや上流に設定されている。車載装置2(後述の光通信部204)は、その通信領域を通過する間に、ヘッド11bとの間でアップリンクULとダウンリンクDLの送受信が可能である。
ビーコン制御機11aは、交通信号制御機1aを通じて受信したVICS情報S2と経路情報S5とを、車載装置2に送信するダウンリンクDLに含めることができる。また、車載装置2が送信するアップリンクULには、プローブ情報S3が含まれており、このプローブ情報S3は交通信号制御機1aを介して経路探索サーバー9に転送される。
【0030】
光ビーコン11のヘッド11bの内部には、直下を通行する車両5を超音波感知するセンサも搭載されており、光ビーコン11は、ヘッド11bの直下を通行する車両台数の計測を行うこともできる。
このため、光ビーコン11は、アップリンクULとダウンリンクDLを送受信することで車両5と双方向通信する路側通信装置としての機能だけでなく、車両台数を検出する路側センサ3としての機能を併有しており、この光ビーコン11が計測した路側計測情報S4も、交通信号制御機1aを介して中央装置4に転送される。
【0031】
〔ナビゲーションシステム〕
上記経路探索サーバー9、車両5に搭載された車載装置4及び光ビーコン11は、出発地点から目的地点までの最適な経路を外部のコンピュータで探索し、その経路探索の結果(最小コスト経路)を車両5に通知するナビゲーションシステムを構成している。
このナビゲーションシステムは、予め入会登録された会員(ユーザー)の車両5自体をセンサとして、各車両5から経路探索サーバー9が情報収集し、メンバー間で相互に情報提供し合って運用することにより、サーバー9から各会員に対してより有用な交通情報を提供するようにしたものである。
【0032】
従って、このナビゲーションシステムによれば、通常のVICS情報S2とともに、このVICS情報S2に含まれていないより詳細かつ動的な交通情報を、各会員の車両5に提供することができる。
経路探索サーバー9は、専用の通信回線を介して交通情報センター10に接続され、必要に応じてVICS情報S2を同センター10から入手している。また、経路探索サーバー9は、光ビーコン11へのアップリンクULに含まれる登録会員の車両5のプローブ情報S3を、交通信号制御機1aを介して取得している。
【0033】
経路探索サーバー9は、ある登録会員からの探索要求(出発地点と目的地点を含む。)が光ビーコン11へのアップリンクULに含まれていると、旅行時間等の経路コストが最小となる経路(最小コスト経路)をダイクストラ法等によって演算する。
この場合、VICS情報S2にリンク旅行時間だけでなく渋滞情報も含まれていることから、経路探索サーバー9が行う探索アルゴリズムでは、渋滞区間について非常に大きな経路コストが設定されようになっている。従って、渋滞区間がある場合には、なるべくその区間を避ける経路が探索されることになる。
【0034】
経路探索サーバー9は、経路探索のための演算が完了すると、その探索結果である出発始点から目的地点までの最小コスト経路と、探索要求を行った車両5の車両IDとを含む経路情報S5を、交通信号制御機1aを通じて各光ビーコン11のビーコン制御機11aにブロードキャスト送信する。
なお、上記最小コスト経路には、その経路途中の交差点等を含む経由地点を通過する通過時刻も含まれている。
【0035】
ビーコン制御機11aは、探索要求を行った車両5からのアップリンクULを検出すると、上記経路情報S5をダウンリンクDLに含めて、ヘッド11bに光送信させる。これにより、探索要求を行った車両5のドライバは、経路探索サーバー9による探索結果(最適経路)を取得することができる。
【0036】
〔中央装置〕
図3は、中央装置4の内部構成を示す機能ブロック図である。
図3に示すように、中央装置4は、制御部401、表示部402、通信部403、記憶部404及び操作部405を含んでいる。
中央装置4の制御部401は、ワークステーション(WS)やパーソナルコンピュータ(PC)等よりなり、交通信号制御機1aや路側センサ3等からの各種の計測情報の収集・処理(演算)・記録、信号制御及び情報提供を統括的に行う。制御部401は、内部バスを介して上記ハードウェア各部と繋がっており、これら各部の動作も制御する。
【0037】
中央装置4の制御部401は、自身のネットワークに属する交差点Ciの交通信号機1に対して、同一道路上の交通信号機1群を調整する系統制御や、この系統制御を道路網に拡張した広域制御(面制御)を行うものであり、例えば、前記MODERATO制御とUTMS制御を行うことができる。
MODERATO制御は、ネットワークに属するすべての交通信号機1をマクロ制御するもので、近飽和の交通状態に対応するために、負荷率という交通指標を用いて各交通信号機1に最適な信号制御パラメータをサイクルごとに自動生成する。
【0038】
例えば、スプリット制御の場合には、各交差点Ciについて、現示ごとの各流入路の負荷率の最大値を求め、現示負荷率の比で正規化されたスプリットを配分する負荷率比配分方式が採用される。上記負荷率ρは、車両の流入流量Q(台/時)、待ち行列台数E(台/時)及び飽和交通流率s(台/時)を用いて、ρ=(Q+E)/s で定義される。
一方、UTMS制御は、ネットワークに属する一部の交通信号機1をミクロ制御するものであり、着目する交差点Ciの上流側で観測された情報を基に交通状況の変化を事前に予測し、その予測に基づいて交差点Ciでの信号待ちによる遅れ時間を最小にするように、最適な青の打ち切りタイミングを決定する。
【0039】
かかるUTMS制御では、ある交差点Ciにおける、停止線の到着プロファイルの情報と信号制御情報とに基づいてシミュレーション演算を行い、現時点から1サイクル以上未来までの待ち行列台数Eの変動状況を計算する。
本実施形態では、中央装置4において上記MODERATO制御やUTMS制御を行うことから、制御部401は、これらの制御を実行する場合の入力情報となる、各交差点Ciの予測交通量(交差点Ciに流入する車両台数)を算出する。なお、この予測交通量の算出方法の詳細(図6)については、後述する。
【0040】
中央装置4の通信部403は、通信回線6を介してLAN側と接続された通信インタフェースであり、所定時間ごとに信号灯器1bの灯色切り替えタイミングに関する信号制御指令S1と、VICSセンター10から取得した渋滞情報等を含むVICS情報S2とを各交通信号制御機1aに送信している。
信号制御指令S1は、信号制御パラメータの演算周期(例えば、1.0〜2.5分)ごとに送信され、VICS情報S2は例えば5分ごとに送信される。
【0041】
また、中央装置4の通信部403は、各交通信号制御機1aから、路側センサ3や光ビーコン11が検出した路側計測情報S4をリアルタイム(例えば、0.1〜1.0秒周期)で受信しているとともに、経路探索サーバー9が生成した経路情報S5についても、同サーバー9からほぼリアルタイムで取得している。
【0042】
中央装置4の記憶部404は、ハードディスクや半導体メモリ等から構成されており、前記MODERATO制御やUTMS制御を行う制御プログラムと、この制御に用いる予測交通量や交通指標の演算プログラムを記憶している。
また、記憶部404は、制御部401が生成した信号制御指令S1と、VICSセンター10から取得したVICS情報S2と、LAN側から取得した路側計測情報S4と、経路探索サーバー9から取得した経路情報S5とを一時的に記憶する。
【0043】
中央装置4の表示部402は、自身が管理する制御エリアの道路地図と、この道路地図上のすべての交通信号機1や光ビーコン11等の位置が表示された表示画面により構成され、中央オペレータに渋滞や事故等の交通状況を報知するものである。
中央装置4の操作部405は、キーボードやマウス等の入力インタフェースよりなり、この操作部405によって中央オペレータが上記表示部402に対する表示切り替え操作等を行えるようになっている。
【0044】
〔交通信号機〕
次に、図2及び図4を参照して、交通信号機1の構成を説明する。なお、図2では、交通量の多い主道路RM1,RM2と交通量の少ない従道路RS1,RS2とが合流した交差点Ciを例示している。
図2に示すように、交通信号機1は、主道路RM1,RM2及び従道路RS1,RS2のそれぞれに設置された4つの信号灯器1bと、この信号灯器1bと通信回線8を介して接続された交通信号制御機1aとを備えている。
【0045】
交通信号制御機1aは、中央装置4から信号制御指令S1を受信し、当該信号制御指令S1に基づいて、各信号灯器1bの青、黄、赤及び右折矢等の各信号灯の点灯、消灯及び点滅を制御する。
図4は、上記交通信号制御機1aの内部構成を示す機能ブロック図である。
図4に示すように、交通信号制御機1aは、制御部101、灯器駆動部102、通信部103及び記憶部104を含んでいる。
【0046】
交通信号制御機1aの制御部101は、1又は複数のマイクロコンピュータから構成され、制御部101には、内部バスを介して灯器駆動部102、通信部103及び記憶部104が接続されており、制御部101はこれらのハードウェア各部の動作を制御する。
制御部101は、中央装置4が系統制御や広域制御(MODERATO制御やUTMS制御等)を行った結果の出力である信号制御指令S1に従って各信号灯器1bを駆動し、その指令S1に基づく所定のタイミングで各信号灯器1bの信号灯色を切り替える。
【0047】
灯器駆動部102は、半導体リレー(図示せず)を備え、上記制御部101から入力された信号制御指令S1に基づいて、複数の信号灯器1bの青色灯、黄色灯、赤色灯それぞれに対応して各色の信号灯に供給される交流電圧(AC100V)又は直流電圧をオン/オフする。
【0048】
交通信号制御機1aの通信部103は、中央装置4、路側センサ3及び光ビーコン11との間で有線通信を行う通信インタフェースである。
通信部103は、中央装置4から信号制御指令S1及びVICS情報S2を受信し、信号制御指令S1については自装置の制御部101に送り、VICS情報S2についてはビーコン制御機11aに転送する。また、通信部103は、路側センサ3及び光ビーコン11から路側計測情報S4を受信し、この路側計測情報S4については中央装置4に転送する。
【0049】
更に、通信部103は、ビーコン制御機11aからプローブ情報S3を受信すると、このプローブ情報S3を経路探索サーバー9に転送し、経路探索サーバーS3から経路情報S5を受信した場合には、この経路情報S5をビーコン制御機11aに転送する。
交通信号制御機1aの記憶部104は、ハードディスクや半導体メモリ等から構成されており、信号制御指令S1に基づいて信号灯色の切り替え制御を行うプログラムを記憶しているとともに、通信部103が受信した各種情報(信号制御指令S1やVICS情報S2等)を一時的に記憶する。
【0050】
〔車載装置〕
図5は、車載装置2の内部構成を示す機能ブロック図である。
この車載装置2は、光ビーコン11との間で双方向の光通信を行う路車間通信機能と、搭乗者が設定した目的地に案内するナビゲーション機能を有する。
図5に示すように、車載装置2は、GPS処理部201、方位センサ202、車速取得部203、光通信部204、記憶部205、操作部206、表示部207、音声出力部208及び制御部209等を含む。
【0051】
GPS処理部201は、GPS衛星からのGPS信号を受信し、GPS信号に含まれる時刻情報、GPS衛星の軌道、測位補正情報等に基づいて、プローブ車両5の位置(緯度、経度及び高度)を計測する。
方位センサ202は、光ファイバジャイロなどで構成されており、プローブ車両5の方位及び角速度を計測する。車速取得部203は、車速センサ(図示せず)が車輪の角速度を検出することにより計測したプローブ車両5の速度データを取得する。
【0052】
車載装置2の光通信部204は、道路上の所定位置に設定された光ビーコン11の通信領域において、アップリンクULとダウンリンクDLを送受信する。
すなわち、車載装置2の光通信部204は、ある交差点Ciを流出したプローブ車両5が光ビーコン11の通信領域に入ると、VICS情報S2を含むダウンリンクDLを受信し、自身のプローブ情報S3を含むアップリンクULを光ビーコン11に送信する。なお、光ビーコン11が経路情報S5を受信している場合には、この経路情報S5もダウンリンクDLに含められる。
【0053】
車載装置2の記憶部205は、ハードディスクや半導体メモリ等から構成され、ダウンリンクDLに含まれるVICS情報S2及び経路情報S5や、アップリンクULに含めるプローブ情報S3等の各種情報を記憶するための記憶領域を有する。
記憶部205は、道路地図データも記憶している。この道路地図データには、交差点IDと交差点の位置とを対応付けた交差点データが含まれている。また、道路地図データには、リンクIDと、リンクの始点・終点・補間点(道路が折れ曲がる地点に対応)それぞれの位置と、リンクの始点に接続するリンクのリンクIDと、リンクの終点に接続するリンクのリンクIDと、最適経路の特定に使用するリンクコストとを対応付けたリンクデータも含まれている。
【0054】
上記リンクコストは、例えば、リンクとその終点に接続するリンクの組み合わせの数だけ用意されており、リンクの始点に進入してから当該リンクの終点を退出し、次に接続するリンクの始点に進入するまでに要する時間が設定されている。
すなわち、リンクコストには、リンクの始点から終点までを走行するのに要するコスト(時間)と、リンクの終点から次のリンクの始点までを走行するのに要するコスト(時間)、つまり、交差点を通過するのに要するコストが含まれている。
【0055】
車載装置2の操作部206は、タッチパネルやボタン等から構成されており、ドライバを含む車両5の搭乗者が目的地の設定等を行えるようになっている。
車載装置2の表示部207は、車両5のダッシュボード部分に取り付けられたモニタ装置(図示せず)よりなり、制御部209が後述する感応要求処理において作成した画像データを搭乗者に表示する。また、音声出力部208は、制御部209が作成した音声データをスピーカー(図示せず)から出力する。
【0056】
車載装置2の制御部209は、1又は複数のマイクロコンピュータから構成され、GPS処理部201、方位センサ202、車速取得部203、光通信部204、記憶部205、操作部206、表示部207、音声出力部208での各処理を制御する。
また、車載装置2の制御部209は、GPS処理部201が計測した位置、方位センサ202が計測した方位及び角速度、車速取得部203が取得した速度に対して、道路地図データに基づいてマップマッチング処理を行うことにより、道路地図データのリンク上における車両5の位置、方位及び速度等を算出可能である。
【0057】
更に、車載装置2の制御部209は、車両5の走行中に生じる位置、方位及び速度等よりなる走行データを、所定の時間間隔又は距離間隔で収集したプローブ情報S3を生成し、このプローブ情報S3を記憶部205に記憶させる。
なお、本実施形態では、インフラ側へのプローブ情報S3の送信手段として光ビーコン11を利用しているので、車載装置2の制御部209は、ある光ビーコン11とその次に通過する光ビーコン11との間の経路を走行中に生じた走行データを集めたプローブ情報S3を生成する。
【0058】
〔中央装置による交通信号制御〕
図6は、中央装置4の制御部401が実行する、予測交通量の算出処理を含む交通信号制御のフローチャートである。以下、この図6を参照しつつ、各交差点Ciに対する予測交通量の算出方法を説明する。
図6に示すように、中央装置4の制御部401は、まず、経路探索サーバー9が生成した、当該サーバー9の利用者のための経路計算の結果である経路情報S5を、通信部403を介して取得する(ステップST1)。
【0059】
前述の通り、上記経路情報S5には、経路探索サーバー9を利用したナビゲーションシステムの利用者(例えば、プローブ車両5のドライバ)からの探索要求を受けて、出発地点から目的地点までの経路コストが最小となるように演算された経路(最小コスト経路)が含まれている。
また、この最小コスト経路には、経路途中の交差点等を含む経由地点を通過する通過時刻が含まれている。
【0060】
そこで、中央装置4の制御部401は、経路情報S5の最小コスト経路に含まれる通過時刻に基づいて、交通信号制御の制御対象となる交差点(対象交差点)Ciを車両5が通過する予測通過時刻を求め、この予測通過時刻における対象交差点Ciへの車両5の流入台数を更新する(ステップST2)。
制御部401は、上記流入台数の更新処理(ステップST2)を、すべての対象交差点Ci、及び、経路探索サーバー9から取得したすべての経路計算結果(経路情報S5)に対して実行する(ステップST3及びST4)。
【0061】
上記ステップST4までの更新処理により、車載装置2を搭載している車両5のうち、経路探索サーバー9による経路探索の結果を利用する車両5についての、対象交差点Ciへ流入する時間帯ごとの交通量(以下、「部分交通量」という。)が算出される。
そして、中央装置4の制御部401は、対象交差点Ciへの所定時間先の上記部分交通量と路側計測情報S4とに基づいて、対象交差点Ciに対する全車両についての予測交通量を算出する(ステップST5)。
【0062】
〔予測交通量の推定方法(ステップST5)〕
具体的には、中央装置4の制御部401は、路側センサ3がない道路(センサなし道路)と路側センサ3がある道路(センサあり道路)とに場合分けし、これら各々の道路についての所定時間帯(例えば、1時間)ごとの予測交通量を、次の式(1)及び(2)に従って算出する。
【0063】
(1) センサなし道路の場合
予測交通量
= 部分交通量×(1/搭載率)×a
(2) センサあり道路の場合
予測交通量
= 路側計測情報S4に基づく1日前の同時間帯の交通量×(α/(α+β))
+部分交通量×(1/搭載率)×a×(β/(α+β))
【0064】
なお、上記各式(1)及び(2)において、「搭載率」とは、プローブ情報S3を光ビーコン11にアップリンクした車両台数(アップリンク数)を、同じ光ビーコン11がカウントした車両台数(光ビーコン11の通過台数)で割った値のことである。
また、aは、0<a<1の範囲で適宜定められる調整係数である。更に、αとβは、センサあり道路の場合において、過去の交通量と将来の部分交通量との加重平均を取る場合の重み係数であり、α=1でかつβ=0の場合を含む。
【0065】
上記式(1)及び(2)に示すように、本実施形態の制御部401では、予測交通量を求めるに当たって、経路探索の結果によって生じる部分交通量を搭載率で割ることにより、当該道路で生じ得る実際の交通量(全体交通量)に換算している。
その理由は、アップリンク数と通過台数との比率(搭載率の逆数)は、経路探索の結果を利用可能な車両5の台数とこれを含む全車両の台数との比率であり、この比率は、当該道路の部分交通量と全体交通量との比率と概ね一致すると考えられるからである。
【0066】
また、上記式(1)の場合に路側計測情報S4に基づく過去の交通量を足していない理由は、センサなし道路の場合にはその過去の交通量が不明であるから、当該過去の交通量を予測交通量に反映させる必要がないからである。
逆に、上記式(2)において路側計測情報S4に基づく過去の交通量を足している理由は、センサあり道路ではその過去の交通量が判明しているので、当該過去の交通量を予測交通量に反映させるべきだからである。
【0067】
〔搭載率の算出方法〕
図7は、搭載率の算出方法の一例を示すための道路平面図である。
図7において、実線は光ビーコン11が設置されている道路を示し、破線は光ビーコン11が設置されていない道路を示している。
中央装置4の制御部401は、例えば、県単位や市町村単位といった一部の所定エリア内にある光ビーコン11のそれぞれについて、所定時間毎にアップリンク数と通過台数を収集しており、収集した各データから求めた平均値を、当該所定エリアに含まれる交差点Ciの予測交通量を求める場合の搭載率としている。
【0068】
もっとも、所定エリアにおける搭載率を求めるための平均算出方式は、次の(1)及び(2)のいずれであってもよい。なお、この場合、各道路リンクにおけるアップリンク数をai(i=1〜n)とし、通過台数をbi(i=1〜n)としている。
(1) 所定エリアの搭載率 =(Σai)/(Σbi)
(2) 所定エリアの搭載率 ={Σ(ai/bi)}/n
【0069】
図6に戻り、中央装置4の制御部401は、前記のようにして対象交差点Ciについての時間帯ごとの予測交通量が求まると、その予測交通量を入力情報として前記MODERATO制御とUTMS制御を実行し、これにより、当該対象交差点Ciについての信号制御指令S1を生成する(ステップST6)。
その後、制御部401は、対象交差点Ciの交通信号制御機1aに対し、生成した信号制御指令S1を送信する(ステップST7)。
【0070】
〔交通信号制御の効果〕
図8及び図9は、中央装置4による交通信号制御の効果を説明するための道路平面図である。
図8に示す例において、車両5は、経路探索サーバー9の登録会員の車両であり、経路探索の結果の経路を当該サーバー9から取得しているものとする。
また、この車両5は、交差点C8に向かって図示上方に走行中であり、その先の交差点C5の図示下方の区間において渋滞が発生しているものとする。更に、交差点C6は高架道路上にあるため、交差点C6に矢印A方向に流入する車両5は交差点C5にしか行けないものとし、交差点C1から交差点C5の区間には路側センサ3がないものとする。
【0071】
この場合、仮に、中央装置4の制御部401が、路側計測情報S4のみから求めた予測交通量に基づいてUTMS制御を行ったとすると、渋滞を解消させるために、その渋滞区間の進行方向(交差点C5を上方に抜ける方向)の青時間が長くなり、その渋滞区間の交差区間(交差点C5を左方に抜ける方向)の青時間が短くなるように、交差点C5の交通信号機1が制御されることになる。
一方、これと同時に、経路探索サーバー9は、VICS情報S2に含まれるリンク旅行時間や渋滞情報に基づいて最小コスト経路を探索し、その結果を車両5に伝えている。
【0072】
従って、サーバー9による経路探索の結果が、例えば図8の仮想線で示す経路(C8→C4→C2→C1→C5)のように、渋滞区間を迂回して交差点C5を左方に抜ける経路となる場合があり、かかる経路を取得した車両5が多く発生すると、今度は、交差点C1から交差点C5に向かう交差区間で新たな渋滞が発生する恐れがある。
しかし、交差点C1から交差点C5に向かう区間には路側センサ3が設けられていないので、この区間で新たな渋滞が発生しても、路側計測情報S4のみに基づく信号制御では交差点C5の横方向に優先的に青信号が割り当てられることはない。
【0073】
また、図9に示す例において、車両5は、経路探索サーバー9による経路探索の結果に従い、交差点C9を経由して観光地に向かう経路を走行する予定であるとし、その交差点C9の図示下方の区間では、この区間を通勤目的等で定常的に利用する車両5により、渋滞が発生しているものとする。更に、交差点C9を横方向に通過する交差区間には、路側センサ3がないものとする。
この場合においても、仮に、中央装置4の制御部401が、路側計測情報S4のみから求めた予測交通量に基づいてUTMS制御を行ったとすると、渋滞を解消させるために、その渋滞区間の進行方向(交差点C9を上方に抜ける方向)の青時間が長くなり、その渋滞区間の交差区間(交差点C9を左方に抜ける方向)の青時間が短くなるように、交差点C9の交通信号機1が制御されることになる。
【0074】
そして、図9の仮想線で示すように、観光地に向かう経路を経路探索サーバー9から取得した車両5が多く発生すると、今度は、交差点C9を左方に抜ける交差区間で新たな渋滞が発生する恐れがある。
しかし、交差点C9の交差区間には路側センサ3が設けられていないので、この交差区間で新たな渋滞が発生しても、路側計測情報S4のみに基づく信号制御では交差点C9の横方向に優先的に青信号が割り当てられることはない。
このように、路側計測情報S4に基づいて実行された交通信号制御が、経路探索の結果に従って走行する車両5の動向と矛盾することがあり、この場合、経路探索サーバー9の利用者にとっては、中央装置4による交通信号制御が却って迷惑になってしまう。
【0075】
これに対して、本実施形態の中央装置4によれば、経路探索サーバー9による探索結果として得られた経路に含まれる交差点C5,C9に流入する、当該車両5についての時間帯ごとの部分交通量を算出し、その部分交通量を用いて、制御対象となる交差点C5,C9についての時間帯ごとの予測交通量を算出するので、当該予測交通量について、経路探索の結果に従って走行しようとする車両5の交通量が加味される。
そして、本実施形態の中央装置4では、経路探索によって発生し得る交通量を加味した上記予測交通量に基づいて信号制御指令S1を生成するので、経路探索サーバー9の利用者に不利にならない交通信号制御を行うことができる。
【0076】
〔変形例〕
図10は、本発明の変形例を示すための道路交差点の平面図である。
この変形例が上記実施形態(図1〜図7)と異なる点は、次の(1)及び(2)の通りであり、これ以外の装置構成や、中央装置4が行う予測交通量の算出方法、及び、信号制御指令S1の生成方法については、上記実施形態の場合と同様である。
【0077】
(1) 車載装置2は、通信部204として、携帯電話機、PHS端末及びPDA端末等よりなるモバイル端末装置204Aを備え、この端末装置204Aを利用して、蓄積したプローブ情報S3を携帯電話網等の外部ネットワーク(図示せず)に送信する。経路探索サーバー9は、外部ネットワークに送信されたプローブ情報S3を取得する。
【0078】
(2) 経路探索サーバー9は、外部ネットワークを通じて取得した時系列のプローブ情報S3と、VICSセンター10から取得したVICS情報S2に基づいて、経路情報S5を生成し、そのVICS情報S2と経路情報S5を外部ネットワークに送信する。車載装置2の端末装置204Aは、外部ネットワークに送信されたVICS情報S2と経路情報S5を取得する。
【0079】
図10に示す変形例の場合には、プローブ情報S3のアップリンク手段として、モバイル端末装置204Aによる無線通信が採用されているので、光ビーコン11の検出情報を利用して前記搭載率を算出できない。
そこで、この変形例の制御部401では、経路情報S5の入力情報となる出発地点と目的地点を送信可能な車両5の台数(すなわち、経路探索サーバー9の登録会員数)と、全車両の登録台数との比率を部分交通量に適用することにより、全体交通量を算出するようになっている。
【0080】
その理由は、上記登録会員数と全車両の登録台数との比率も、部分交通量と全体交通量との比率と概ね一致すると考えられるからである。
なお、後述の通り、各車両5自身が経路探索した結果得られた経路を中央装置4が収集して、予測交通量に反映させてもよいが、この場合には、その経路を送信可能な車両5の台数と全車両の登録台数との比率を、部分交通量に適用することになる。
【0081】
〔その他の変形例〕
上記実施形態(変形例を含む。)は例示であって本発明の権利範囲を制限するものではない。本発明の権利範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の構成と均等の範囲内のすべての変更が本発明に含まれる。
例えば、上記実施形態では、交通管制センターとは無関係に運用される経路探索サーバー9が経路探索を行い、このサーバー9が生成した経路情報S5を同センターの中央装置4が取得しているが、経路情報S5の生成を中央装置4が行ってもよい。
【0082】
また、経路探索サーバー9による探索結果だけでなく、各々の車載装置4が行った経路探索の結果を中央装置4が収集することにより、本発明を実施することもできる。
更に、本発明は、中央装置4が広域制御を行う場合に限らず、LANに含まれる複数の交通信号機1が、中央装置4による制御とは別個のグループ単位での系統制御又は広域制御を行う場合にも適用することができる。
【0083】
また、本発明は、MODERATO制御やUTMS制御だけなく、その他の交通信号制御を行うシステムに採用することができる。
特に、本発明は、UTMS制御のように、シミュレーション手法によって信号待ち遅れ時間の予測値算出を行う予測制御全般に有効であり、かかる予測制御に本発明を適用すれば、予測開始時点での実交通量をより正確に把握でき、予測制御を高精度化できる。
【符号の説明】
【0084】
1 交通信号機
1a 交通信号制御機
1b 信号灯器
2 車載装置
3 路側センサ
4 中央装置(交通信号制御装置)
401 制御部(第1及び第2算出手段、生成手段)
402 表示部
403 通信部(取得手段)
404 記憶部
405 操作部
5 車両
9 経路探索サーバー
11 光ビーコン
Ci 交差点
S1 信号制御指令
S2 VICS情報
S3 プローブ情報
S4 路側計測情報
S5 経路情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交通信号機の信号灯色の切り替えタイミングを制御するための信号制御指令を生成する交通信号制御装置であって、
経路探索の結果を有する車両の経路を取得する取得手段と、
前記経路に含まれる交差点に流入する当該車両についての時間帯ごとの部分交通量を算出する第1の算出手段と、
前記部分交通量を用いて、制御対象となる前記交差点についての時間帯ごとの予測交通量を算出する第2の算出手段と、
前記予測交通量に基づいて前記信号制御指令を生成する生成手段と、
を備えていることを特徴とする交通信号制御装置。
【請求項2】
前記第2の算出手段は、前記車両の通過台数を含む路側計測情報を検出する路側センサがない道路については、当該道路の前記部分交通量に所定比率を掛けた値に基づく全体交通量を、前記予測交通量として採用する請求項1に記載の交通信号制御装置。
【請求項3】
前記第2の算出手段は、前記車両の通過台数を含む路側計測情報を検出する路側センサがある道路については、その路側計測情報に基づく過去の交通量と、当該道路の前記部分交通量に所定比率を掛けた値に基づく全体交通量とから求めた交通量を、前記予測交通量として採用する請求項1又は2に記載の交通信号制御装置。
【請求項4】
自装置が管理する制御エリア内の前記道路に、前記車両が送信するアップリンクを受信し、その受信位置で前記車両の通過台数を検出可能な路側通信装置が設置され、
前記第2の算出手段は、前記路側通信装置が検出したアップリンク数と前記通過台数との比率を前記部分交通量に適用して、前記全体交通量を算出する請求項2又は3に記載の交通信号制御装置。
【請求項5】
前記第2の算出手段は、前記経路又はこの探索に必要な入力情報を外部に送信可能な前記車両の台数と全車両の登録台数との比率を前記部分交通量に適用して、前記全体交通量を算出する請求項2又は3に記載の交通信号制御装置。
【請求項6】
交通信号機の信号灯色の切り替えタイミングを制御するための信号制御指令の生成処理を、交通信号制御装置に実行させるためのコンピュータプログラムであって、
経路探索の結果を有する車両の経路を取得するステップと、
前記経路に含まれる交差点に流入する当該車両についての時間帯ごとの部分交通量を算出するステップと、
前記部分交通量を用いて、制御対象となる前記交差点に流入する全車両についての時間帯ごとの予測交通量を算出するステップと、
前記予測交通量に基づいて前記信号制御指令を生成するステップと、
を含むことを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−60019(P2011−60019A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209445(P2009−209445)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】